説明

優先制御対応ネットワークにおけるリソース情報の復旧方法

【課題】装置の異常終了によりリソース情報を喪失しても、これらを簡単に復旧できる優先制御対応ネットワークにおけるリソース情報の復旧方法を提供する。
【解決手段】ステップS4では、ネットワークアドレスが特定されたアプリケーション端末に対して、そのAprof情報を要求するメッセージが送信される。ステップS5では、各アプリケーション端末から返信されるAprof情報が取得される。ステップS7では、APGW装置に対して予約情報を要求するメッセージが送信される。ステップS8では、前記メッセージに応答してAPGW端末から返信される予約情報が取得される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラベルスイッチをサポートするオンデマンド型ネットワークの復旧方法に係り、特に、医療等の公共分野において有限の伝送帯域をリソース情報に基づいて効率よく分配する優先制御対応ネットワークにおけるリソース情報の復旧方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療・行政等の公共性の高い分野の通信役務におけるIP伝送のQoS(Quality of Service)保証手段として、オンデマンド型ネットワーク制御技術が、例えば非特許文献1において提案されている。
【0003】
この技術は、図5に示したように、(1)コア回線がMPLS(Multi Protocol Label Switching)技術に対応しているMPLSネットワーク1と、(2)MPLSネットワーク1と各アプリケーション端末AP1,AP2…とを接続し、レイヤ2(OSI参照モデル第2層)レベルで帯域保証されたアクセス回線AL1,AL2と、(3)実装されている通信アプリケーションによる情報伝送の必要性、緊急性および当該伝送における送信側・受信側IPアドレス、要求帯域など、当該アプリケーションの特性を記述したアプリケーションプロファイル情報(以下、Aprof情報と表現する)を、後述するAPGW装置と送受信する機能を備えたアプリケーション端末AP1,AP2,AP3と、(4)これらアプリケーション端末AP1,AP2,AP3の通信相手となる同様のアプリケーション端末AP4,AP5,AP6と、(5)各通信アプリケーションの優先度を前記Aprof情報に基づいて公共性の観点から求めると共に、優先度の高い通信アプリケーションに対しては、他の通信アプリケーションによるデータ伝送を停止させてでも優先的にネットワークリソースを割当するAPGW(アプリケーションゲートウェイ)装置と、(6)アクセス回線AL1,AL2に関して、前記APGW装置による優先制御と同様の観点から、優先度の高いアプリケーションにネットワークリソースを優先的に割り当てるLA(Local Administrator)装置とにより構成される。
【0004】
前記アクセス回線AL1,AL2は、アクセス回線ルータR1_acc,R2_accを介して各アプリケーション端末APと接続され、MPLSルータR1_mpls ,R2_mplsにおいてMPLSネットワーク1と接続される。通信アプリケーションは、ネットワーク上に複数存在することを前提とし、APGW装置は、各通信アプリケーションのAprof情報に基づいて通信アプリケーション間の相対的な優先度を決定し、優先度の高い順に伝送帯域の保証された通信路(パス)を設定する。
【0005】
なお、「通信アプリケーション」とは、映像、音声、文字、図形などを符号化した情報(デジタルデータ)を通信路を介して送信、受信または中継するソフトウェアまたは/およびハードウェア(装置)を意味する。具体例としては、コンピュータのファイル伝送、映像・音声伝送、WWW(World Wide Web)などが挙げられる。
【0006】
また、従来技術では、既にネットワークの帯域が他のアプリケーションに対して設定されており、新規に通信路を設定できない場合であっても、要求元が高い優先度を持つ通信アプリケーションである場合には、既存の低優先度の通信路を取り上げてでも通信路設定が行われる。
【0007】
これは、たとえば医療分野において、患者の生命にかかわるような危急のアプリケーション(例:遠隔手術支援のための手術映像伝送)について通信路設定が要求されたにもかかわらず、その通信が成立しない、あるいは通信に対してQoSが保証されないといった場合に、通信を停止させても人命に影響しないようなアプリケーション(例:研究・教育用の教材ビデオ伝送)の伝送を一時停止させることで、前記危急の通信を優先させることを意図した制御である。
【0008】
この通信路設定(経路設定および帯域割当)にはMPLS技術が利用されており、APGW装置内の帯域割当・経路設定機構により通信路の設定内容が決定すると、ネットワーク上の各MPLSルータに対し設定コマンドが送信される。このように、MPLS技術に基づき設定される通信路はLSP(Label Switched Path)と呼ばれる。
【非特許文献1】NiCT北海道リサーチセンター 平成17年度 研究開発成果報告書、「オンデマンド型ネットワーク制御技術の研究開発プロジェクト」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記したネットワーク構成において、APGW装置および端末LA1,LA2は、自身の管理下のネットワークリソースの割当状態を常に把握しておく必要がある。これらの情報は、(1)ネットワークの輻輳などにより既存のアプリケーション伝送を中断させる必要がある場合に、どのパスを中断候補とするか等を判断する際の判断材料、(2)中断させたアプリケーション伝送を将来再開させるためのキュー管理、などの目的で各装置で保持されている情報である。
【0010】
また、これらの情報の実態はAprof情報を格納するリストである。万が一、これらの情報がAPGW装置や端末LA1,LA2の故障など、何らかの不具合により失われた場合、当該システムの正常動作は保証されない。しかしながら、上記した従来技術では、APGW装置や端末LA1,LA2が何らかの理由により管理情報を喪失してしまった場合の復旧方法が提案されていない。
【0011】
本発明の目的は、上記した従来技術の課題を解決し、APGW装置や端末LA1,LA2がAprof情報などのリソース情報を喪失しても、これらを簡単に復旧できる優先制御対応ネットワークにおけるリソース情報の復旧方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記した目的を達成するために、本発明は、通信アプリケーションを備えた複数の端末が、それぞれのアクセス回線およびMPLSネットワークを介して相互に接続され、各端末から通信アプリケーションのプロファイル情報を取得し、MPLSネットワーク上で各通信アプリケーションに優先度を設定するAPGW装置と、各端末から通信アプリケーションのプロファイル情報を取得し、アクセス回線上で各通信アプリケーションに優先度を設定するLA装置とを含み、各通信アプリケーションに設定された優先度に基づいて帯域が割り当てられる優先制御対応ネットワークにおけるリソース情報の復旧方法において、LA装置は、起動時に異常終了後の起動であるか否かを判定し、異常終了後の起動であると復旧モードへ移行する。
【0013】
LA装置では、この普及モードにおいて、異常発生の直前まで配下にあった端末を検知する手順と、検知された配下の端末にプロファイル情報を要求する手順と、要求に応答して各端末から送信されたプロファイル情報を取得する手順と、APGW装置へ予約情報を要求する手順と、要求に応答してAPGW装置から送信された予約情報を取得する手順とが実行される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ラベルスイッチをサポートし、通信アプリケーションに設定された優先度に基づいて帯域が割り当てられる優先制御対応のオンデマンド型ネットワークの障害耐性および信頼性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の最良の実施の形態について詳細に説明する。図1は、本発明が適用されるオンデマンド型ネットワークのブロック図であり、前記と同一の符号は同一または同等部分を表している。ここでは、医療機関1と医療機関2との間で行われるデータ伝送を例にして、本発明を説明する。
【0016】
医療機関1には3つのアプリケーション端末AP1,AP2,AP3が設置され、各アプリケーション端末AP1,AP2,AP3は、アクセス回線ルータR1_accおよびアクセス回線AL1を介してMPLSネットワーク(コア回線)のMPLSルータR1_mplsに接続されている。各アプリケーション端末AP1,AP2,AP3には、通信アプリケーションの名称および種別、伝送データの緊急度および必要度、要求帯域、帯域を確保しておく時間長ならびに伝送先のIPアドレスなどがプロファイル情報(Aprof情報)としてそれぞれ登録されている。LA装置(端末LA1)には、各アプリケーション端末AP1,AP2,AP3から取得したそれぞれのAprof情報と、各Aprof情報に基づいて予約したアクセス回線AL1の帯域に関する予約情報とがリソース情報として記憶されている。
【0017】
医療機関2にも同様に3つのアプリケーション端末AP4,AP5,AP6が設置され、各アプリケーション端末AP4,AP5,AP6はアクセス回線ルータR2_accおよびアクセス回線AL2を介して介してMPLSネットワークのMPLSルータR2_mplsに接続されている。各アプリケーション端末AP4,AP5,AP6にはAprof情報が登録されている。LA装置(端末LA2)には、各アプリケーション端末AP4,AP5,AP6から取得したそれぞれのAprof情報と、各Aprof情報に基づいて予約したアクセス回線AL2の帯域に関する予約情報とがリソース情報として記憶されている。
【0018】
このような構成において、図1では、アプリケーション端末AP1-AP4間でデータ伝送が既に開始されている。同AP2-AP5間ではデータ伝送が予約されているものの未だ帯域が確保されておらず、指定された時刻を待って帯域が確保され、その後にデータ伝送が開始されることになる。同AP3-AP6間では、伝送が終了してMPLSネットワークおよびアクセス回線AL1,AL2に割り当てられていた帯域を開放するための手続中であり、端末AP3から端末LA1,LA2およびAPGW装置に向けて帯域開放の要求を送出されようとしている。
【0019】
このとき、医療機関1の端末LA1には、各アプリケーション端末AP1,AP2,AP3のAprof情報と共に、アプリケーション端末AP2によるアクセス回線AL1の予約情報が登録されている。同様に、医療機関2の端末LA2でも、各アプリケーション端末AP4,AP5,AP6のAprof情報と共に、アプリケーション端末AP5によるアクセス回線AL2の予約情報が登録されている。APGW装置には、アプリケーション端末AP1-AP4間のAprof情報、同AP2-AP5間のAprof情報および同AP3-AP6間のAprof情報と共に、同AP2-AP5間の予約情報が登録されている。
【0020】
上記したLA装置(端末LA1、LA2)およびAPGW装置により取得・管理されているAprof情報および予約情報は、アプリケーション端末がデータ伝送の終了に伴う帯域開放を要求してきた時点、あるいは他のアプリケーションによる割り込みによる中断が発生する時点まで保持される。また、指定された将来の時刻における帯域の予約情報は、Aprof情報と関連付けられた上で記録されている。
【0021】
これらの情報は、新規に帯域設定の要求が発生し、ネットワークリソースの競合(先行するアプリケーション端末が帯域を使いきっている)が発生した場合に、競合する通信アプリケーションのいずれに優先的に帯域を割り当てるかを判断する場合などに用いられる。
[LA装置の異常終了]
【0022】
ここで、端末LA1が何らかの障害によって異常終了してしまうと、次に端末LA1が再起動されたときにはAprof情報および予約情報が喪失している。図2は、異常終了後の再起動時における各情報の蓄積状態を示した図であり、端末LA1ではAprof情報および予約情報が全て失われている。したがって、障害発生前にどの通信アプリケーションがデータ伝送を行っていたのか、どのアプリケーション端末からの帯域設定予約を預かっていたのか、などのリソース情報が全て失われることになる。
【0023】
しかしながら、端末LA1に蓄積されていたAprof情報は、そもそも各アプリケーション端末APから取得したものなので、同一の情報が各アプリケーション情報に分散して存在する。また、予約情報に関してもAPGW装置に蓄積されていることが判る。
【0024】
そこで、本発明ではLA装置の異常終了が検知されると、その再起動時に各アプリケーション端末およびAPGW装置からAprof情報や予約情報を収集して異常終了直前のリソース情報を復元する。
[APGW装置の異常終了]
【0025】
上記したLA装置と同様に、APGW装置が何らかの障害によって異常終了してしまうと、次にAPGW装置が再起動されたときにはAprof情報や予約情報が喪失している。図3は、異常終了後の再起動時における各情報の蓄積状態を示した図であり、APGW装置ではAprof情報および予約情報が全て失われている。
【0026】
ここで、上記したLA装置が自身のローカルネットワークの情報のみを管理するのに対して、APGW装置はネットワーク上の全ての伝送に関する情報をアプリケーションプロファイルと予約情報という形式で保持している点で両者は相違する。そのため、APGW装置が障害から復旧しようとする場合には、ネットワーク上の全てのLA装置からリソース情報を取得する。
【0027】
次いで、フローチャートを参照して本実施形態の動作を詳細に説明する。図4は、LA装置の復旧手順を示したフローチャートであり、ここでは、図2に示したように、異常終了した端末LA1がAprof情報および予約情報を復元する場合を例にして説明する。
【0028】
端末LA1が起動されると、ステップS1では、今回の起動が異常終了後の起動であるか否かが判定される。本実施形態では、予めファイルシステムの特定の位置(ディレクトリ)にロックファイルを書き出しておき、正常な終了処理の過程で当該ロックファイルが削除されるようにしておく。このようにすれば、異常終了時にはロックファイルが削除されないので、次回起動時にもロックファイルが存在することになる。そこで、本実施形態では起動時にロックファイルの有無を検知し、このロックファイルが存在すれば、今回の起動が異常終了後の起動であると判定される。
【0029】
ステップS2では、各アプリケーション端末からの再接続要求の有無が検知される。すなわち、優先度制御プロトコルでは、データ伝送中のアプリケーション端末や将来の所定時刻からのデータ伝送開始を予約しているアプリケーション端末と端末LA1との間に、生存確認のための通信路(TCPによるコネクション)が確保され、この通信路を利用して各アプリケーション端末は端末LA1を定期的にポーリングする。
【0030】
端末LA1に何らかの異常が発生すると、各アプリケーション端末はポーリングに失敗するので端末LA1の異常を検知できる。異常を検知したアプリケーション端末は、端末LA1へ定期的に再接続要求を送信する。そこで、本実施形態では各アプリケーション端末からの再接続要求を検知することで、異常終了以前にネットワークリソースを確保していたアプリケーション端末を特定する。ステップS3では、前記再接続要求元のアプリケーション端末のネットワークアドレスが特定される。
【0031】
ステップS4では、前記ネットワークアドレスが特定されたアプリケーション端末に対して、そのAprof情報を要求するメッセージが送信される。ステップS5では、前記メッセージに応答して各アプリケーション端末から返信されるAprof情報が取得される。ステップS6では起動後の経過時間が所定の復旧期間を超えてタイムアウトしたか否かが判定され、タイムアウトするまでは、前記ステップS2へ戻って他のアプリケーション端末からの再接続要求に備える。そして、再接続要求が検知されると、その要求元のアプリケーション端末に対して上記と同様の処理が繰り返され、そのAprof情報が取得される。
【0032】
ステップS7では、APGW装置に対して予約情報を要求するメッセージが送信される。ステップS8では、前記メッセージに応答してAPGW端末から返信される予約情報が取得される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明が適用されるオンデマンド型ネットワークのブロック図である。
【図2】異常終了したLA装置が再起動された際のリソース情報の蓄積状態を示した図である。
【図3】異常終了したAPGW装置が再起動された際のリソース情報の蓄積状態を示した図である。
【図4】LA装置(端末LA1)の復旧手順を示したフローチャートである。
【図5】従来技術のネットワーク構成を示したブロック図である。
【符号の説明】
【0034】
APn…アプリケーション端末
Aprof情報…アプリケーションプロファイル情報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つの通信アプリケーションを備えた複数の端末が、それぞれのアクセス回線およびMPLSネットワークを介して相互に接続され、
各端末から通信アプリケーションのプロファイル情報を取得し、MPLSネットワーク上で各通信アプリケーションに優先度を設定するAPGW装置と、
各端末から通信アプリケーションのプロファイル情報を取得し、アクセス回線上で各通信アプリケーションに優先度を設定するLA装置とを含み、
各通信アプリケーションに設定された優先度に基づいて帯域が割り当てられる優先制御対応ネットワークにおけるリソース情報の復旧方法において、
前記LA装置が、起動時に異常終了後の起動であるか否かを判定し、異常終了後の起動であると復旧モードへ移行し、
前記普及モードが、
異常発生の直前まで配下にあった端末を検知する手順と、
前記検知された配下の端末にプロファイル情報を要求する手順と、
前記要求に応答して各端末から送信されたプロファイル情報を取得する手順と、
前記APGW装置へ予約情報を要求する手順と、
前記要求に応答してAPGW装置から送信された予約情報を取得する手順とを含むことを特徴とする優先制御対応ネットワークにおけるリソース情報の復旧方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−219676(P2010−219676A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−61727(P2009−61727)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000208891)KDDI株式会社 (2,700)
【出願人】(301022471)独立行政法人情報通信研究機構 (1,071)
【Fターム(参考)】