説明

光の色による自然及び人工構造物の変状原位置表示装置

【課題】地すべり、土砂崩れ、雪崩、土木構造物建設中の事故、建築構造物建設中の事故、建設機械の倒壊、古い建造物の崩壊、アミューズメント施設の異常作動などの災害・事故から市民及び工事関係者を守るために不可欠な動態観測を低コストで実現し、周辺環境で起こりつつある変化をリアルタイムに周辺関係者(住民、作業関係者、観客など)に情報開示するため、任意の観測点間の相対変位を光の色で表示する装置を提供する。
【解決手段】任意の2点間の相対変位を計測する計測部と、複数のLED光源を配列させたLEDチューブと、計測部で得られた変状量からLED光源の色を決定するスイッチ部とを備え、スイッチ部は、非導電体と導電体とを適宜配列したスイッチパネルと、変状量に応じて移動し得る各LEDチップの電源ラインの接触点とから構成され、原位置でリアルタイムにその変状を光の色で告知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変状の発生・進展、あるいは危険度の増大を監視する目的で自然及び人工構造物の任意原位置に設置するための変状表示装置に関し、特に相対変位を光の色で原位置に表示する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
道路の交差点に設置されている信号機は、青、黄、赤という3色の光を用いて、運転者、歩行者などの通行を安全に制御する安全性告知装置であり、ほぼ世界共通の装置として定着している。また、我々一般市民には、青なら安全、赤は危険という概念が浸透している。しかし、自然及び人工構造物と人間社会との一般的関係においては、このような安全性告知装置が見当たらない。ここで、自然構造物とは道路脇や住宅地周辺の自然斜面、自然河川堤防、など土質材料および岩盤などで形成されている自然地形の一部を指す。また、豪雪地帯において雪崩の危険性を検討するときの雪も対象となる。人工構造物とは、大きく分けて土木構造物、建築構造物およびそれらを建設する際に用いる建設機械を指す。土木構造物とは、橋梁、送電や通信用の鉄塔、ダム、トンネル、盛土、埋立地、人工河川堤防、人工斜面などを指す。建築構造物とは、一般住宅、高層ビル、公共建築物(美術館、学校、駅舎、体育館など)、大規模レジャー施設(コンサートホール、スポーツスタジアム、観覧車、ジェットコースターのレールなど)、イベント会場仮設構造物などを指す。また、建設機械とは特に大型クレーン、大型重機のようにオペレータが必要で工事中には周辺に住民もしくは作業員が近づく可能性があるものを指す。これらの自然及び人工構造物において変状が進み、その安全性が低下し続けている現状があったとしても、それを合理的・経済的に検知し、効果的に周辺住民および作業関係者に知らせる安全性告知装置はまだまだ開発途上であるといわざるを得ない。
【0003】
自然構造物の一つである危険斜面の例についての現状と問題点を述べる。日本は国土の4分の3が山地で覆われており、全国には約9万の斜面崩壊危険箇所をはじめ、地すべり危険箇所、土石流危険箇所、落石危険箇所など21万箇所を数える土砂災害危険箇所が存在すると言われており、特に豪雨や震災発生時、斜面工事時などには、斜面災害が集中している。
このような状況下、崩壊危険性の高い箇所から斜面防災対策を効率的に実施し、災害の発生やその予兆を捉える装置を配備すると共に、危険度に応じて道路利用者や周辺住民に情報提供することが必要とされている。そのために、専門家による予備調査、予算化されたモニタリングプラン、IT(Information Technology)技術を適用したデータ転送システム、担当者による安全性判断と警告発信システムなどが開発され、これまで着実に成果を上げてきている。
しかしながら、自然現象に起因する災害発生の危険度は基本的には不変であるのに対し、災害対策のための整備予算が減少していることもあり、例えば処置を要する斜面崩壊危険箇所の場合でも、未だ全体の約2割の整備率であるというのが実状である。
また、このうちデータのリアルタイム分析と住民への告知システムが完備している箇所はごく限定的なものにとどまっている。
【0004】
現在のところ、斜面崩壊危険箇所などでは、さまざまな計測機器を用いてモニタリングが行われている。そのモニタリング体制というのは、斜面や壁面の表層や内部において計測器で変位や歪、温度変化などを測定し、そのデータを現場から離れた管理事務所などにあるモニターに表示・監視しているものが多い。これらの計測技術に関しては、従来からのワイヤーで2点間の距離の変動を検知する伸縮計から、光ファイバーを利用するものや、観測点間は無線とし互いに電波やレーザーを発信・受信するセンサにより観測点間の距離の変動を検知するものがある。また、監視対象の斜面から離れた地点において、一定時間間隔で写真撮影し、対象斜面上のターゲットの移動量を画像処理から算出するものもある。この他、GPSを利用し衛星を使って測量するものなど様々な高度計測データ管理システムが存在する(例えば、特許文献1〜特許文献4を参照)。
【0005】
【特許文献1】特許第3653549号公報
【特許文献2】特開2005−257315号公報
【特許文献3】特開2006−266992号公報
【特許文献4】特開2006−184278号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したモニタリング体制を構築するための高度計測データ管理システムは、コスト高のため危険性がすでに把握されている箇所の全数にそれを設置することができないといった問題がある。
また、既存高度技術においては、現場で起こっている変状を別の場所(本社や中央官庁のデータ管理室など)で集中管理することが多く、危険が迫っていてもその場にいる人に情報が伝わらないという決定的な問題がある。
【0007】
また、例えば、豪雨に伴う突発的なものもあるが、多くの場合においては長い年月をかけて変形が累積し、最後のトリガー(集中豪雨、地震など)で大規模な地滑りが発生することがある。このようなケースにおいては計測される変位は数10cmからから1mを超える場合もまれではなく、大きな計測レンジを持ったセンサが必要になる。また、このとき、現状の変形量そのものよりも、変形速度、あるいは変形加速度が危険度を直接表現する指標になる。
【0008】
また、コンクリート構造をはじめとして、さまざまな社会インフラを維持管理するためには、構造物にどのような変状が起こるかを監視する業務と共に、すでに発見されている損傷(クラックなど)が、さらに進展・悪化するかどうかをモニタリングする業務が必要とされる。コンクリート構造物の表面においては任意の個所に多数のクラックが発生するのが通常であり、これら複数の計測対象個所において合理的で安全なモニタリング手法を確立することが強く現場で望まれている。
【0009】
さらに、橋梁などの鋼構造物において要求される変位計測の場合、対象が地盤材料の場合に比較し、変位計測を行う2点間の距離Dが極端に小さい場合が存在する。かかる場合にも光の色による変形のモニタリングが有効な場合が多い。変位計測を行う2点間の距離Dが極端に小さい場合にも、変位計測が可能なものが要求されている。
【0010】
ここで述べた現状と問題点は、自然構造物の一つとしての危険斜面の例だけに限らず、他の自然構造物、土木構造物、建築構造物、および関係する建設機械を対象とした建設中および供用時の変状監視、安全管理システムにおいても同様に存在している。
【0011】
本発明は、データ記憶や転送機能をできるだけ省略もしくは簡素化して低コスト化を計るとともに、現場位置において変状を光で表示し、危険に最も近い人々に早期警告を自動発信し得る装置を提供することを目的とする。
【0012】
また、本発明は、自然構造物および人工構造物(土木構造物、建築構造物およびそれらの建設に用いる建設機械)にかかる災害もしくは事故から市民および作業関係者を守るために不可欠な動態観測を低コストで実現し、周辺環境で起こりつつある変化をリアルタイムに周辺関係者に情報開示するため、任意の観測点間の相対変位を光の色で表示する装置を提供することを目的とする。
【0013】
また、本発明は、自然構造物および人工構造物における過去の変形履歴を記憶し、指定された時間インターバルにおける変位速度、もしくは変位加速度を把握して、現場位置における危険度を光の色で表示する装置を提供することを目的とする。
【0014】
また、本発明は、コンクリート等のクラック変位量の大きさを勘案し、十分に高精度(通常0.1mmの精度を実現できればクラックの変形監視ができるので、そのような精度のもの)で変位を計測でき、現場位置におけるコンクリート等のクラックの危険度を光の色で表示する装置を提供することを目的とする。
【0015】
さらに、本発明は、変位計測を行う2点間の距離Dが極端に小さい場合であっても、変位を計測でき、装置の大きさが数cm程度のもので、鋼構造物などの各所にそれを取り付けることによって変形の状態を効果的に把握でき、現場位置における危険度を光の色で表示する装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成すべく、本発明の自然及び人工構造物変状原位置表示装置は、構造物に設置する計測点の変状を計測する計測部と、1乃至複数のLED光源を配設させたLED光源部と、前記計測部で得られた変状量から前記LED光源の色を決定するスイッチ部と、を少なくとも備え、原位置でリアルタイムに当該構造物の変状を光の色で告知し得ることを特徴とする。
【0017】
かかる構成により、構造物の変状のレベルに応じて安全性、危険度を設定し、その安全性・危険度を、発光ダイオード(LED)を用いた光の色によって周辺関係者等に示すことができる。基本的に24時間365日の光による情報開示装置を構築するのである。
また、周辺関係者等とは、本発明の自然及び人工構造物変状原位置表示装置が設置される現地付近の住民のみならず、その現場近くの通行者(車の運転者、歩行者)、また建設工事中の場合は工事関係者を含む意味で用いている。
また、変状量からLED光源の色を決定するとは、例えば、状態を分かりやすく示すために、交通信号などの青、黄、赤の3色表示のような表示方法から、より多くの色を用いた様々な表示方法が考えられる。
【0018】
現場の変状を光の色で告知することで、変状が生じてからそれが周辺関係者等に開示される時間は基本的にはゼロとなり、周辺関係者への安全性に関する情報の伝達効率が格段に向上する。また、現場の変状を光の色で告知することで、専門的なチームだけで安全性を議論するのでなく、周辺関係者等もいわゆる監視人にできるといった狙いがある。
このことは、種々の自治体などで、住民参加による住環境のモニタリングのような概念が積極的に導入されつつある傾向に合致する。
【0019】
本発明の自然及び人工構造物変状原位置表示装置は、低コストで変状を検知し、その変化を光で分かりやすく周辺関係者に開示し続けるというものである。従来の高度計測データ管理システムの如く、斜面の安全率を計算し、崩落の規模、時期などを予測するのは重要であるが、上述したようにそれらのシステムを設置できる現場数や必要とされる公的予算はごく限られている。したがって、ほとんどの小・中規模の斜面(例えば自宅の裏山など)においては公的機関による防災対策が執られるのを待っていることはもはやできないのである。本発明により、最終的には住民自らが装置を自宅周辺に設置し、自らの身を守ることができる状態を構築することを考えている。このような住民参加型の安全管理システムへの道を開こうとする点において、本発明の自然及び人工構造物変状原位置表示装置の意義が存在するのである。
【0020】
次に、本発明の自然及び人工構造物変状原位置表示装置は、少なくとも任意の2点間の相対変位を計測する計測部と、複数のLED光源を配列させたLEDチューブと、計測部で得られた変状量からLED光源の色を決定するスイッチ部と、を少なくとも備え、原位置でリアルタイムに構造物の変状を光の色で告知し得ることを特徴とする。
上記構成によれば、1次元情報である2点間(或いはそれ以上)の相対変位から、LEDチューブの光の色を決定し、その変状を光の色で表示することができる。
ここで、複数のLED光源を配列させたLEDチューブは、例えば、観測する2点間を結ぶように配置してもよい。LEDチューブの配置形状は、直線状でも螺旋状でも構わない。また、LEDチューブの各LED光源は、単一LED光源のトラブルによりLEDチューブ全体が機能損失しないように、並列に接続する回路配置としている。
【0021】
ここで上記本発明の自然及び人工構造物変状原位置表示装置において、LED光源は、青色、赤色、緑色の3原色の各LEDチップから構成されるフルカラーLED光源であり、スイッチ部は変状量からフルカラーLED光源の各LEDチップの回路への電流供給のON/OFFスイッチ回路であることを特徴とする。
フルカラーLED光源を用いることで、様々な光の色で安全性を告知することが可能となる。フルカラーLED光源を構成する3つの異なる回路(赤色LEDチップの回路、緑色LEDチップの回路、青色LEDチップの回路)への電流供給を制御するON/OFF選択機能を有するON/OFFスイッチ回路により、フルカラーLED光源に複数の色を表示させる。
【0022】
また、上記本発明の自然及び人工構造物変状原位置表示装置において、LED光源が異なる2色のカラーLED光源であり、スイッチ部は変状量から各カラーLED光源への電流供給のON/OFFスイッチ回路であることを特徴とする。
かかる構成は、LED光源が単色LED光源である場合のものである。例えば、赤色LED光源と青色LED光源を利用して、赤色と青色の光を表示する自然及び人工構造物変状原位置表示装置を構築することができる。
【0023】
また、上記電流供給のON/OFFスイッチ回路は、好ましくは、LEDチップ毎、或いはカラーLED光源毎に、非導電体と導電体とを適宜配列したスイッチパネルと、変状量に応じて移動し得る各LEDチップ或いは各カラーLED光源の電源ラインの接触点とから構成される。
電流供給のON/OFFスイッチ回路を上記構成にすることで、機械的にON/OFFスイッチ回路が簡単に構築でき、装置の低コスト化を図ることができる。ここで、非導電体と導電体とを適宜配列したスイッチパネルは、例えば、導電性の板状のものに、一部表面加工を施し非導電体にすることで作製する。非導電体と導電体とを適宜配列するとは、例えば、導電体と非導電体を交互に設けたり、導電体と非導電体の部分を分けたりすることである。例えば、スイッチパネルにおいて、導電体と非導電体を交互に設けることで、2点間の相対変位の変状の進行に応じて電流供給のONとOFFを交互に行うことができ、このスイッチパネルを色の異なるLEDチップと組み合わせることで、フルカラーLEDの光の色を種々制御することができる。詳細については以下の実施例で説明する。
【0024】
ここで、上記スイッチパネルは、中央部がニュートラルポジションであり、引張り変位量に応じて移動する接触点の移動部分に第1の色のLED用の導電体を配設し、圧縮変位量に応じて移動する接触点の移動部分に第2の色のLED用の導電体を配設することが好ましい。
例えば、第1の色のLEDを青色に、第2の色のLEDを赤色に設定することで、変状を光の色で告知する。また、中央部のニュートラルポジションでのLED表示色を青色とし、変状が生じた第1の色のLEDと第2の色のLEDと同じ赤色にすることで、安全性を告知する。
【0025】
また、上記本発明の自然及び人工構造物変状原位置表示装置において、警告音発生部が更に設けられ、該警告音発生部への電流供給のON/OFFスイッチ回路として、非導電体と導電体とを適宜配列したスイッチパネルが設けられることが好ましい。この様な措置はオプション機能として付加することのできる任意のもののひとつであるが、ある閾値を超えた場合(非常時など)に、光の色で告知するのに加えて、警報ブザー音を発生させることで、より安全性を高めることも可能となる。また、閾値を超えた場合、警告音を発生させる以外に、LEDの光らせ方を変える(例えば通常光っているのとは別のLEDを装置の端部のほうにつけておいてそれを光らせるなど)など種々の対処が可能である。
【0026】
また、非導電体と導電体とを適宜配列したスイッチパネルと、変状量に応じて移動し得る各LEDチップ或いは各カラーLED光源の電源ラインの接触点とから構成される電流供給のON/OFFスイッチ回路を有する上記本発明の自然及び人工構造物変状原位置表示装置において、計測部は、任意の2点に設置された固定点と、該固定点間に直列に接続された剛体と弾性体と、固定点の一方に連結されている上記接触点とからなり、上記スイッチパネルが剛体に固定されていることが好ましい。
【0027】
かかる構成により、任意の2点間の相対変位を機械的に検知することが可能で、かかる検知された相対変位の変状量がそのまま固定点の一方に連結されている接触点の移動量となるため、タイムレスにスイッチパネルに変状が伝達され、LED光源への電流供給のON/OFFスイッチ機能を発揮することが可能となる。
ここで、剛体は例えば剛性の高い伸びない弦であり、また弾性体とは剛性の低いバネである。従って、固定点間に直列に接続された弦(剛体)とバネ(弾性体)において、バネの変形量は固定点間の相対変位にほぼ等しくなるのである。
任意の2点間の相対変位の検知からLED光源の色のスイッチまで機械的な構造であり、装置コストを低くでき、また、一般住民も簡単に設置することができる。
【0028】
また、非導電体と導電体とを適宜配列したスイッチパネルと、変状量に応じて移動し得る各LEDチップ或いは各カラーLED光源の電源ラインの接触点とから構成される電流供給のON/OFFスイッチ回路を有する上記本発明の自然及び人工構造物変状原位置表示装置において、計測部は、任意の2点に設置された固定点と、該固定点間に直列に接続された剛体と弾性体と、剛体に連結されている接触点とからなり、スイッチパネルが固定点の一方に固定されていることが好ましい。
【0029】
かかる構成により、同様に任意の2点間の相対変位を機械的に検知することが可能で、かかる検知された相対変位の変状量がそのまま固定点の一方に連結されている接触点の移動量となるため、タイムレスにスイッチパネルに変状が伝達され、LED光源への電流供給のON/OFFスイッチ機能を発揮することが可能となる。
任意の2点間の相対変位の検知からLED光源の色のスイッチまで機械的な構造であり、装置コストを低くでき、また、一般住民も簡単に設置することができる。
【0030】
また、上記スイッチパネルは、時計部と記憶部と判断処理部を備えた変位速度検出手段を有し、変位速度(もしくは加速度)検出手段は、変状量に応じて移動し得る各LEDチップ或いは各カラーLED光源のそれぞれの電源ラインの接触点の通電状態とその時刻を周期的に記憶部で記憶し、接触点の変位速度(もしくは加速度)を判断処理部で判断することが好ましい態様である。
かかる態様によれば、スイッチパネルの長さ、接触点の変位とLEDチップやLED光源の光の色のパターンは任意に設定できるため、変位精度1mm程度以上を対象として様々な大きさの変位まで対応可能となる。
変位速度(もしくは加速度)を計測することは、自然災害などが実際に発生する際において、現状の変位の大きさに加えて、それが加速的に増大しているかどうかを見極めることができる点で極めて重要である。
【0031】
また、上記スイッチパネルは、電気抵抗部と時計部と記憶部と判断処理部を備えた変位速度(もしくは加速度)検出手段を有し、電気抵抗部と接触点が接することにより、接触点の相対変位を電気抵抗部の電気抵抗の変化として捉え、電気抵抗の変化とその時刻を周期的に記憶部で記憶し、接触点の変位速度(もしくは加速度)を判断処理部で判断することが好ましい態様である。
かかる態様によれば、スイッチパネルにおいて相対変位を電気抵抗部であるポテンショメータに伝えて電気抵抗の変化を数値化し、それを判断処理部によって変位、変位速度(もしくは加速度)と光の色の表示を制御することが可能である。これにより、コンクリート等のクラック幅モニタリングなどにおいて要求される0.1mm程度の精度を有することが可能となる。
変位速度(もしくは加速度)を計測することは、自然災害などが実際に発生する際において、現状の変位の大きさに加えて、それが加速的に増大しているかどうかを見極めることができる点で極めて重要である。
【0032】
また、上記スイッチ部は、歪ゲージ部と時計部と記憶部と判断処理部を備えた変位速度(もしくは加速度)検出手段を有し、歪ゲージ部が検知する抵抗値の変化とその時刻を周期的に記憶部で記憶し、抵抗値の変化速度(もしくは加速度)を判断処理部で判断することが好ましい態様である。
かかる態様によれば、相対変位を計測する2点間の距離は数mm程度とでき、ほぼ「点における計測」の状態になる。なお、歪ゲージ部が検知する抵抗値の変化は微小であり、ブリッジ増幅回路等を用いて必要かつ十分な電圧に変換する事が不可欠である。例えば、小型アンプを介する。スイッチ部における変位速度(もしくは加速度)検出手段では、歪ゲージ部が検知する抵抗値が判断処理部に送られ、判断処理部においてLED光源部またはLEDチューブの光の色が決定される。装置自体は、小型(数cm程度の大きさ)となり、構造物の各所に簡易に取り付けることができることとなる。
変位速度(もしくは加速度)を計測することは、自然災害などが実際に発生する際において、現状の変位の大きさに加えて、それが加速的に増大しているかどうかを見極めることができる点で極めて重要である。
【0033】
なお、上記の判断処理部は、接触点の変位速度(もしくは加速度)もしくは抵抗値の変化速度(もしくは加速度)が所定の閾値を超える場合に、LED光源部もしくはLEDチューブのLEDの点灯パターンを変化させることが好ましい。
相対変位を計測する2点間に相対変位が発生した場合、判断処理部により変位レベルに応じた光の色を決定し、それをLED光源部もしくはLEDチューブで表示する。計測サンプリングは指定されたインターバルで行われ、変位の値は記憶部に記憶される。
また、データ処理時には変位速度(もしくは加速度)(もしくは歪ゲージ部の抵抗値の変化速度(もしくは加速度))を計算し、それが指定された閾値を超える場合にはLED光源部もしくはLEDチューブの点灯パターンを変化させる(例えばフラッシングさせるなど)などして、周辺に危険度の増大を周知することができる。さらに、必要に応じてその場合に警告音を発することも効果的に作用する。
【0034】
上述した自然及び人工構造物変状原位置表示装置を利用して、以下に述べるような様々な応用システムが考えられる。まず、本発明を利用した斜面防災システムは、自然及び人工構造物変状原位置表示装置を斜面に適宜配置し、危険斜面もしくは落石監視をモニタリングし得る機能を有する。この防災システムは、上述した斜面以外の自然構造物に対しても構築することができる。
【0035】
また、本発明を利用したトンネル変状モニタリングシステムは、上記の自然及び人工構造物変状原位置表示装置をトンネル内に適宜配置して、切羽の崩壊予測モニタリングもしくはトンネル内任意箇所の変状検知を行う機能を有する。このモニタリングシステムは、上述したすべての土木構造物に対して構築することができる。
【0036】
さらに、本発明を利用した建築物モニタリングシステムは、上記の自然及び人工構造物変状原位置表示装置を建築物の天井及び/又は壁面に適宜配置して、建築物の崩壊予測モニタリングもしくは建築物内任意箇所の変状検知を行う機能を有する。このモニタリングシステムは、上述したすべての建築構造物に対して構築することができる。
【0037】
さらに、本発明を利用した建設機械モニタリングシステムは、上記の自然及び人工構造物変状原位置表示装置を建設機械の任意箇所に適宜配置して、その変状モニタリングを行う機能を有する。このモニタリングシステムは、上述したすべての建設機械に対して構築することができる。
【発明の効果】
【0038】
本発明に係る自然及び人工構造物変状原位置表示装置は、自然及び人工構造物の変状を、現場でタイムラグなく、周辺関係者等に光の色で情報伝達できるといった効果を有する。従って、住民もしくは作業関係者参加による住環境もしくは工事作業環境の24時間モニタリングシステムが構築でき、周辺関係者等のための総合的安全性向上を図ることができる。
【0039】
また、本発明に係る自然及び人工構造物変状原位置表示装置は、自然構造物および人工構造物における過去の変形履歴を記憶し、指定された時間インターバルにおける変位速度(もしくは加速度)を把握して、現場位置における危険度を光の色で表示することができる。
【0040】
また、本発明に係る自然及び人工構造物変状原位置表示装置は、コンクリート等のクラック変位量の大きさを勘案し、十分に高精度(通常0.1mmの精度を実現できればクラックの変形監視ができるので、そのような精度のもの)で変位を計測でき、現場位置におけるコンクリート等のクラックの危険度を光の色で表示することができる。
【0041】
さらに、本発明に係る自然及び人工構造物変状原位置表示装置は、変位計測を行う2点間の距離Dが極端に小さい場合であっても、変位を計測でき、装置の大きさが数cm程度のもので、鋼構造物などの各所にそれを取り付けることによって変形の状態を効果的に把握でき、現場位置における危険度を光の色で表示することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明していく。
【実施例1】
【0043】
図1は、実施例1の自然及び人工構造物変状原位置表示装置の概略構成図を示している。図1に示すように、実施例1の装置の概略構成図は、固定された任意の2点間(図1で2本の杭11a、11bの間)の変状(相対変位)を計測する計測部12と、複数のLED光源13を配列させたLEDチューブ14と、計測部12で得られた変状量からLED光源であるフルカラーLEDランプ13の色を決定するスイッチ部15とを備えたものである。なお、LEDチューブ14へ電力供給する電源装置は省略している。
【0044】
計測部12は、既存の各種計測器が利用可能であるが、ここでは2点間の距離の伸縮状況を検知するため、伸縮性がほとんどない剛体と伸縮性を有する弾性体の組合せで構成する。
また、LEDチューブ14は、フルカラーLEDランプ13(赤色LEDチップと緑色LEDチップと青色LEDチップが一体化されたもの)が複数並列に配列されたもので、保護パイプ16で覆い、チューブ形状にしたものである。このLEDチューブ14を2本の杭(11a、11b)の間に相対変位の検知装置に関与しないように配置している。2本の杭の間に配置しているのは、2本の杭の間の変状とLEDチューブの光の変色との関連付けを理解しやすくするという狙いがある。
そして、スイッチ部15は、非導電体と導電体とを適宜配列したスイッチパネルと、2点間の距離の変状量(伸縮量)に応じて移動し得る各LEDチップの電源ラインの接触点とから構成する。
【0045】
図2に、本発明の自然及び人工構造物変状原位置表示装置の計測部のスイッチ部の模式図を示す。図2に示すように、計測部12は、構造物の任意の2点に設置された計測点(11a、11b)と、計測点(11a、11b)間に直列に接続された剛体21と弾性体22(図2では弾性体をバネの模式図で表している)と、一方の計測点11aに継手27を介して連結されている接触点23(各LEDチップの電源ラインの接触点)とから構成されている。
【0046】
接触点23は、剛体21に固定されているスイッチパネル24と接点25を持つ。接触点23は、LEDチューブ14を構成するフルカラーLEDランプ13の各LEDチップ(13a、13b、13c)の各端子と接続されている。また各LEDチップ(13a、13b、13c)の共通端子は、電源装置26のマイナス極に接続される。そして電源装置26のプラス極はスイッチパネル24の導電体部分に接続される。図2では簡単のためLED光源ひとつだけを示しているが、実際にはこれを複数並列に配置する。
【0047】
図3に、接触点と各LEDチップの接続イメージ図を示す。接触点23は、フルカラーLEDランプ13の各LEDチップ(13a、13b、13c)の端子毎に設けられており、それらが共通の基盤に固定されている。ここでは説明のために、赤色(R)LEDチップ13aの接触点を23a、緑色(G)LEDチップ13bの接触点を23b、青色(B)LEDチップ13cの接触点を23cとする。この3つの接触点(23a、23b、23c)が、スイッチパネル24と接触する位置が移動することで、各LEDチップ(13a、13b、13c)に供給される電流がON/OFFされ、フルカラーLEDランプ13の光の色が変化することになる。
【0048】
図4(a)に、スイッチパネル24の一実施形態を示す。スイッチパネル24は、中央部30がニュートラルポジションであり、引張り変位量に応じて移動する接触点(23a、23b、23c)の移動部分31と、圧縮変位量に応じて移動する接触点の移動部分32がある。
図4(b)に示すように、計測点11bに繋がっている弦21に固定されたスイッチパネル24と、計測点11aに接続された接触点(23a、23b、23c)の位置関係を示す。計測点(11a、11b)の相対距離が大きくなると、接触点(23a、23b、23c)は、同時に引張り側33に移動する。一方、計測点(11a、11b)の相対距離が小さくなると、接触点(23a、23b、23c)は、同時に圧縮側34に移動する。
【0049】
次に図4(a)を参照して、スイッチパネル24の構成について詳細に説明する。スイッチパネル24は、赤色LEDチップ用(R)と緑色LEDチップ用(G)と青色LEDチップ用(B)に分けられている。各LEDチップ用のスイッチパネルは、導電体と非導電体が適宜配列された状態になっている。
それぞれのLEDチップ用スイッチパネルについて説明する。説明のため、スイッチパネル24をA〜Gの7つの領域に分ける。ハッチング部分が導電体部分を示している。
赤色LEDチップ用(R)スイッチパネル24aでは、導電体部分が領域A〜B、D、Fである。緑色LEDチップ用(G)スイッチパネル24bでは、導電体部分が領域B〜Eである。青色LEDチップ用(B)スイッチパネル24cでは、導電体部分が領域D〜Gである。
【0050】
このスイッチパネル24の場合、接触点(23a、23b、23c)が領域Aの位置で接触する場合、赤色LEDチップ用(R)スイッチパネル24aのみが導電体部分で、他のLEDチップ用スイッチパネル(24b、24c)は非導電体部分となっている。このため、赤色LEDチップのみに電流が供給されることとなり、フルカラーLEDランプ13は、赤色の光を表示する。
【0051】
また、接触点(23a、23b、23c)が領域Bの位置で接触する場合、赤色LEDチップ用(R)スイッチパネル24aと緑色LEDチップ用(G)スイッチパネル24bが導電体部分で、青色LEDチップ用(B)スイッチパネル24cは非導電体部分となっている。このため、赤色LEDチップと緑色LEDチップに電流が供給されることとなり、フルカラーLEDランプ13は、黄色の光を表示する。
【0052】
このスイッチパネル24の場合、接触点(23a、23b、23c)が領域Cの位置で接触する場合、緑色LEDチップ用(G)スイッチパネル24bのみが導電体部分で、他のLEDチップ用スイッチパネル(24a、24c)は非導電体部分となっている。このため、緑色LEDチップのみに電流が供給されることとなり、フルカラーLEDランプ13は、緑色の光を表示する。
【0053】
また、接触点(23a、23b、23c)が領域Dの位置で接触する場合、赤色LEDチップ用(R)スイッチパネル24aと緑色LEDチップ用(G)スイッチパネル24bと青色LEDチップ用(B)スイッチパネル24cの全てが導電体部分となっている。このため、赤色LEDチップと緑色LEDチップと青色LEDチップの全てに電流が供給されることとなり、フルカラーLEDランプ13は、白色の光を表示する。
【0054】
また、接触点(23a、23b、23c)が領域Eの位置で接触する場合、緑色LEDチップ用(G)スイッチパネル24bと青色LEDチップ用(B)スイッチパネル24cが導電体部分で、赤色LEDチップ用(R)スイッチパネル24aは非導電体部分となっている。このため、緑色LEDチップと青色LEDチップに電流が供給されることとなり、フルカラーLEDランプ13は、シアン色の光を表示する。
【0055】
また、接触点(23a、23b、23c)が領域Fの位置で接触する場合、赤色LEDチップ用(R)スイッチパネル24aと青色LEDチップ用(B)スイッチパネル24cが導電体部分で、緑色LEDチップ用(G)スイッチパネル24bは非導電体部分となっている。このため、赤色LEDチップと青色LEDチップに電流が供給されることとなり、フルカラーLEDランプ13は、マゼンダ色の光を表示する。
【0056】
最後に、接触点(23a、23b、23c)が領域Gの位置で接触する場合、青色LEDチップ用(B)スイッチパネル24cのみが導電体部分で、他のLEDチップ用スイッチパネル(24a、24b)は非導電体部分となっている。このため、青色LEDチップのみに電流が供給されることとなり、フルカラーLEDランプ13は、青色の光を表示する。
【0057】
以上のことをグラフ化すると、図5のグラフとなる。図5は、相対変位とフルカラーLEDランプの光の色の設定関係を示したものである。領域Dは変状量が一定の閾値の範囲内に収まっている状態に対応するニュートラルポジションであり、領域E〜Gは圧縮変状量がかかった状態を示すポジションであり、領域A〜Cは引張り変状量がかかった状態を示すポジションである。
【0058】
スイッチパネルの全長は80mmであり、中央部がニュートラルポジションで幅が2mmであり、領域A〜CおよびE〜Gが、それぞれ各10mmとなっている。観測対象によって変位レベルが異なるため、例えば最大ストローク7mmで1mm毎に色が変わるように設計することも可能である。最大ストローク7mmよりも細かい変形が対象となる現場(例えば、岩盤斜面など)を観測対象とした場合は、さらに小さな変位を感知できるように機械式なものから電子式なものを利用してもよい。
このように、スイッチパネル24の導電体と非導電体の配列は自在に設計変更が可能であり、かかる配列変更により、フルカラーLEDランプの光の色の様々な制御が可能となる。すなわち、フルカラーLEDランプの光の色の制御要求に応じて、様々なパターンのスイッチパネルを作製するのである。
【0059】
(スイッチパネル作製における可能オプション:形状に関するオプション)
上述したスイッチパネル24は、赤色LEDチップ用(R)スイッチパネル24aと緑色LEDチップ用(G)スイッチパネル24bと青色LEDチップ用(B)スイッチパネル24cとが変位方向に並列に繋がれていた。
スイッチ部の形状に関する可能オプションとして、図6に示すように、赤色LEDチップ用(R)スイッチパネル24aと緑色LEDチップ用(G)スイッチパネル24bと青色LEDチップ用(B)スイッチパネル24cとが変位方向に直列に繋がれたものを考えることができる。このとき、接触点(23a、23b、23c)も継手27の長手方向に一定間隔をおいて配置されている。このような形状に関するオプションはスイッチ全体の長さ、大きさなどの制約を現場ごとに最適判断して決定することができる。
【0060】
(スイッチパネル作製における可能オプション:機能に関するオプション)
次に、変状が生じた際に付加可能な機能オプションとして、光の色と警報発生音を発生する装置について説明する。
かかる装置は、上述の自然及び人工構造物変状原位置表示装置に、警告音発生部が更に設けられ、警告音発生部への電流供給のON/OFFスイッチ回路として、非導電体と導電体とを適宜配列したスイッチパネルが設けられたものである。
図7に、警報音発生部(警報ブザー)の接触点が追加された概念図を示す。また、図8に、かかる警報ブザーの機能を付加したスイッチパネルを示す。図8に示したスイッチパネルは、上述したスイッチパネル(図4)とパターンが異なっている。
【0061】
図8のスイッチパネルの動作について説明する。図8のスイッチパネルの領域Dのニュートラルポジションでは、全てのLEDチップ用スイッチパネルが導電体となっており、ニュートラルの状態でフルカラーLEDランプは白色を表示する。また、領域A〜Cの引張り変位状態では、赤色LEDチップ用スイッチパネルのみが導電体であり、フルカラーLEDランプは赤色を表示する。また、領域E〜Gの圧縮変位状態では、青色LEDチップ用スイッチパネルのみが導電体であり、フルカラーLEDランプは青色を表示する。
警報ブザー用スイッチパネルは、各LEDチップ用スイッチパネルのストローク範囲の外が導電体となるように設計されている。すなわち、引張り或いは圧縮変位量がある閾値を超える変位を示した場合、警報ブザーがなるようになっている。
本装置のスイッチパネルは、上述したように光を制御する以外に、例えば警報音を発生させるなどの機能を付加することが容易に行えることが理解できるであろう。
【0062】
(自然及び人工構造物変状原位置表示装置の応用システム)
図9は、自然及び人工構造物変状原位置表示装置を自然構造物に適用した例である。それを利用して、危険斜面もしくは落石監視をモニタリングする斜面防災システムを構築したイメージ図である。
また、図10は、自然及び人工構造物変状原位置表示装置を土木構造物に適用した例である。それをトンネル内に適宜配置して、切羽の崩壊予測モニタリングもしくはトンネル内の変状検知を行うトンネル変状モニタリングシステムを構築したイメージ図である。
また、図11は、自然及び人工構造物変状原位置表示装置を建築構造物に適用した例である。それをスポーツスタジアム内に適宜配置して、大観衆の真上に位置する屋根構造の変状検知を行うモニタリングシステムを構築したイメージ図である。
また、図12は、自然及び人工構造物変状原位置表示装置を建設機械に適用した例である。それを大型クレーンに適宜配置して、周辺住民および作業関係者が存在する環境下での変状検知を行うモニタリングシステムを構築したイメージ図である。
【実施例2】
【0063】
図13は、実施例2の自然及び人工構造物変状原位置表示装置の概略構成図を示している。図13に示すように、実施例2の装置の概略構成図は、実施例1と同様に固定された任意の2点間(2本の杭111a、111bの間)の変状(相対変位)を計測する計測部212と、複数のLED光源213を配列させたLEDチューブ214と、計測部212で得られた変状量からLED光源213の色を決定するスイッチ部216とを備えている。なお、LEDチューブ214へ電力供給する電源装置は省略している。
ここで、スイッチ部216は、時計部221と記憶部222と判断処理部223を備えた変位速度検出部からなり、変位速度検出部は、変状量に応じて移動し得るLEDチューブ214のLED光源のそれぞれの電源ラインの接触点217とスライドスイッチ218との通電状態と、その時刻を周期的に記憶部222で記憶し、接触点217の変位速度を判断処理部223で判断している。スライドスイッチ218の長さ、接触点217の変位とLEDチューブ214の光の色のパターンは任意に設定できる。このため、変位精度1mm程度以上を対象として様々な大きさの変位まで対応可能となる。
【0064】
例えば、岩盤斜面の安定性モニタリング(1mm程度の変位を計測することが必要)、小から中規模の土砂斜面の安定性モニタリング(数mmから数cm程度の変位を計測することが必要)、あるいは大規模な地滑り地帯のモニタリング(例えば、年間で数10cm程度、あるいはそれ以上の変位を安定して計測することが必要)が可能となる。また、これらの実施例のすべてにおいて、崩壊の予知を可能にするためには変位速度(もしくは加速度)の計測機能が極めて重要となる。
【0065】
ここで、変位速度(もしくは加速度)検出部の機能ブロック図を図15に示す。変位速度検出部は、判断処理部223が変状量に応じて移動し得るLEDチューブ214のLED光源のそれぞれの電源ラインの接触点217とスライドスイッチ218との通電状態信号を取り込み、時計部221から送られてくるクロック信号から時刻を把握し、周期的に記憶部222で記憶する。具体的には、判断処理部223はCPUで構成され、時計部221はクロックで構成され、記憶部222は電源が切れても内容を保持させることができる不揮発性メモリを用いる。変位速度は、CPU上で変位データを微分することにより算出する。また、変位加速度は、CPU上で変位速度データを微分することにより算出する。なお、CPU上で変位データを2回微分することにより、加速度で判断することも可能である。
【実施例3】
【0066】
図14は、実施例3の自然及び人工構造物変状原位置表示装置の概略構成図を示している。図14に示すように、実施例3の装置の概略構成図は、実施例2のスライドスイッチ218の代わりに、電気抵抗部(ポテンショメータ)318が備えられたもので、固定された任意の2点間(2本の杭111a、111bの間)の変状(相対変位)を計測する計測部312と、複数のLED光源313を配列させたLEDチューブ314と、計測部312で得られた変状量からLED光源313の色を決定するスイッチ部316とを備えている。なお、LEDチューブ314へ電力供給する電源装置は省略している。
ここで、スイッチ部316は、実施例2と同様であり説明を省略する。
かかる実施例3の構成によれば、コンクリート等のクラック幅モニタリングなどにおいて要求される0.1mm程度の精度まで対応できる。
【実施例4】
【0067】
図16は、実施例4の自然及び人工構造物変状原位置表示装置の概略構成図を示している。図16に示すように、実施例4の装置の概略構成図は、上述の実施例1〜3と異なり、スイッチ部に計測部が含まれている。スイッチ部は、実施例2のスイッチ部に歪ゲージ部420が加わったものである。スイッチ部は、歪ゲージ部420とADコンバーター417と変位速度(もしくは加速度)検出部416で構成される。歪ゲージ部420が検知する抵抗値の信号をADコンバーター417が変換し、CPU、クロック、メモリで構成される変位速度(もしくは加速度)検出部416で抵抗値の変化速度(もしくは加速度)を判断する。ぞしてLED光源部413を制御している。装置自体は、小型(数cm程度の大きさ)となり、構造物の各所に簡易に取り付けることができる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の自然及び人工構造物変状原位置表示装置は、上述したような自然構造物、土木構造物、建築構造物、およびそれに関係する建設機械を対象として構造物の建設中および供用後のすべての期間において変状を監視し、安全性を確認するために用いることができる。当然であるが適用範囲は建設に関与するものにとどまる必要はなく、人間の生活および作業空間に存在するあらゆる物体の原位置における状態監視に用いることができる。本発明の装置を小型化することによってその適用範囲はさらに拡大可能である。
【0069】
図17は、道路斜面などの地滑り地帯において設置する例を示している。また、図18は、コンクリート構造体のクラック変位のモニタリングの例を示している。また、図19は、橋梁などの微小変位のモニタリングの例を示している。図20は、鋼構造物の維持管理において重要であるガセットプレートの微小変位のモニタリングの例を示している。図19や図20に示されるように、実施例4の歪ゲージを用いた装置を、鋼構造物などの各所にそれを取り付けることによって変形の状態を効果的に把握し、光によりそれを表示することが可能となるのである。図22は、工事現場における仮設構造などのモニタリングの例を示している。工事現場においてはさまざまな作業が行われているが、特に仮設構造を取り扱うことが多い。その安全性を監視するために、構造躯体本体、および仮設構造などの変状を本発明の装置で効果的に把握するのである。
【0070】
また、本発明の「変化を光の色で見る」装置は、学校教育における理科の教材としても利用可能である。特に物理の力学の教育において本装置を用いることによって、「物体に作用する力を光の色で見る」というこれまでに例のない可視化体験が可能となる。変形により光の色が変わるパイプ状部材を用いてジャングルジムを作れば、子供達が遊びながら力学の感性を養うことも可能となる。
【0071】
図23は、風速を光の色で可視化する装置例を示している。図23におけるAB間の変位はさほどなくても、風速によって本発明装置そのものが矢印で示すような風になびかれ、変形が生じる。すなわち、本発明の「変化を光の色で見る」は、簡易風速計として機能するのである。図24は、流速計として使用する例を示している。図25は、主ひずみの可視化を行う装置例を示している。本発明の「変化を光の色で見る」装置を複数使用して、図25に示すようなフレーム構造に装着し、そのフレームに様々な変形を与えた場合、フレームの任意2点間の変位が即時に可視化できる。このフレームを微小構造要素と考えた場合、光で表示しているのはその微小要素内の各種方向の変位となり、主ひずみ(最大圧縮方向や最大引っ張り方向)を可視化できることになる。これは、大学などにおける構造力学、連続体力学の教育現場などで使用できる技術である。
【0072】
さらに、遊園地の観覧車施設、ジェットコースター関連施設など不特定多数の来場客を対象とした機械施設においても、各部位に生じる変形量が正常であるかどうかを光の色によって表示することによって、その安全性を日常的に専門の技術者及びそれを利用する観客が目視確認できることになる。
【0073】
図21は、本発明の「変化を光の色で見る」装置を、子供たちが日常生活で使用する遊具(滑り台)などに使用して、遊具(滑り台)のモニタリングの例を示している。図26に示すように、本発明の「変化を光の色で見る」装置をクリスマスツリーに取り付けることで、風、雪荷重などによってその色が変化することを楽しむこともできる。このように、構造物の安全監視だけでなく、生活のあらゆる場面に登場する「変位」を光の色によって可視化することで、安全、安心な生活環境、楽しく分かりやすい教育環境、さらには新しいエンタテイメントの創出にもつながる流れを生み出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】実施例1の自然及び人工構造物変状原位置表示装置の概略構成図
【図2】実施例1の自然及び人工構造物変状原位置表示装置の計測部のスイッチ部の模式図
【図3】接触点と各LEDチップの接続イメージ図
【図4】スイッチパネルの一実施形態を示す図
【図5】相対変位とフルカラーLEDランプの光の色の設定関係を示したグラフ
【図6】他の実施形態のスイッチパネルを示す図
【図7】警報音発生部(警報ブザー)の接触点が追加された概念図
【図8】警報ブザーの機能を付加したスイッチパネルの実施形態を示す図
【図9】危険斜面もしくは落石監視をモニタリングする斜面防災システムを構築したイメージ図
【図10】トンネル内モニタリングシステムを構築したイメージ図
【図11】スポーツスタジアムモニタリングシステムを構築したイメージ図
【図12】大型クレーンモニタリングシステムを構築したイメージ図
【図13】実施例2の自然及び人工構造物変状原位置表示装置の概略構成図
【図14】実施例3の自然及び人工構造物変状原位置表示装置の概略構成図
【図15】変位速度検出手段の機能ブロック図
【図16】実施例4の自然及び人工構造物変状原位置表示装置の概略構成図
【図17】道路斜面などの地滑り地帯において設置する例
【図18】コンクリート構造体のクラック変位のモニタリングの例
【図19】橋梁などの微小変位のモニタリングの例
【図20】鋼構造物の維持管理において重要であるガセットプレートの微小変位のモニタリングの例
【図21】遊具(滑り台)のモニタリングの例
【図22】工事現場における仮設構造などのモニタリングの例
【図23】風速を光の色で可視化する装置例
【図24】流速計として使用する例
【図25】主ひずみの可視化を行う装置例
【図26】光るクリスマスツリーの例
【符号の説明】
【0075】
1 自然及び人工構造物変状原位置表示装置
11、11a、11b 計測点
12 計測部
13 フルカラーLEDランプ
13a、13b、13c LEDチップ
14 LEDチューブ
15 スイッチ部
16 保護パイプ
21 剛性の高い弦
22 剛性の低い弦
23、23a、23b、23c、24d 接触点
24 スイッチパネル
26 供給電源
25 接点
27 継手
28 警報ブザー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自然及び人工構造物の変状を計測する計測部と、1乃至複数のLED光源を配設させたLED光源部と、前記計測部で得られた変状量から前記LED光源の色を決定するスイッチ部と、を少なくとも備え、原位置でリアルタイムにその変状を光の色で告知し得ることを特徴とする自然及び人工構造物変状原位置表示装置。
【請求項2】
自然及び人工構造物の少なくとも2つの任意計測点間の相対変位を計測する計測部と、複数のLED光源を配列させたLEDチューブと、前記計測部で得られた変状量から前記LED光源の色を決定するスイッチ部と、を少なくとも備え、原位置でリアルタイムにその変状を光の色で告知し得ることを特徴とする自然及び人工構造物変状原位置表示装置。
【請求項3】
前記LED光源が青色、赤色、緑色の3原色の各LEDチップから構成されるフルカラーLED光源であり、前記スイッチ部は前記変状量からフルカラーLED光源の前記各LEDチップの回路への電流供給のON/OFFスイッチ回路であることを特徴とする請求項1又は2に記載の自然及び人工構造物変状原位置表示装置。
【請求項4】
前記LED光源が異なる2色のカラーLED光源であり、前記スイッチ部は前記変状量から各カラーLED光源への電流供給のON/OFFスイッチ回路であることを特徴とする請求項1又は2に記載の自然及び人工構造物変状原位置表示装置。
【請求項5】
前記電流供給のON/OFFスイッチ回路は、前記LEDチップ毎、或いはカラーLED光源毎に、非導電体と導電体とを適宜配列したスイッチパネルと、前記変状量に応じて移動し得る各LEDチップ或いは各カラーLED光源の電源ラインの接触点とから構成されることを特徴とする請求項3又は4に記載の自然及び人工構造物変状原位置表示装置。
【請求項6】
前記スイッチパネルは、中央部がニュートラルポジションであり、引張り変位量に応じて移動する前記接触点の移動部分に第1の色のLED用の導電体を配設し、圧縮変位量に応じて移動する前記接触点の移動部分に第2の色のLED用の導電体を配設したことを特徴とする請求項5に記載の自然及び人工構造物変状原位置表示装置。
【請求項7】
警告音発生部が更に設けられ、該警告音発生部への電流供給のON/OFFスイッチ回路として、非導電体と導電体とを適宜配列したスイッチパネルが設けられたことを特徴とする請求項5又は6に記載の自然及び人工構造物変状原位置表示装置。
【請求項8】
前記計測部は、任意の2点に設置された固定点と、該固定点間に直列に接続された剛体と弾性体と、前記固定点の一方に連結されている前記接触点とからなり、前記スイッチパネルが前記剛体に固定されていることを特徴とする請求項5乃至7のいずれか1項に記載の自然及び人工構造物変状原位置表示装置。
【請求項9】
前記計測部は、任意の2点に設置された固定点と、該固定点間に直列に接続された剛体と弾性体と、前記剛体に連結されている前記接触点とからなり、前記スイッチパネルが前記固定点の一方に固定されていることを特徴とする請求項5乃至7のいずれか1項に記載の自然及び人工構造物変状原位置表示装置。
【請求項10】
前記スイッチパネルは、時計部と記憶部と判断処理部を備えた変位速度検出手段を有し、前記変位速度検出手段は、変状量に応じて移動し得る各LEDチップ或いは各カラーLED光源のそれぞれの電源ラインの前記接触点の通電状態とその時刻を周期的に前記記憶部で記憶し、前記接触点の変位速度を前記判断処理部で判断することを特徴とする請求項9に記載の自然及び人工構造物変状原位置表示装置。
【請求項11】
前記スイッチパネルは、電気抵抗部と時計部と記憶部と判断処理部を備えた変位速度検出手段を有し、前記電気抵抗部と前記接触点が接することにより、前記接触点の相対変位を前記電気抵抗部の電気抵抗の変化として捉え、前記電気抵抗の変化とその時刻を周期的に前記記憶部で記憶し、前記接触点の変位速度を前記判断処理部で判断することを特徴とする請求項9に記載の自然及び人工構造物変状原位置表示装置。
【請求項12】
前記スイッチ部は、歪ゲージ部と時計部と記憶部と判断処理部を備えた変位速度検出手段を有し、前記歪ゲージ部が検知する抵抗値の変化とその時刻を周期的に前記記憶部で記憶し、前記抵抗値の変化速度を前記判断処理部で判断することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の自然及び人工構造物変状原位置表示装置。
【請求項13】
前記判断処理部は、前記接触点の変位速度もしくは前記抵抗値の変化速度が所定の閾値を超える場合に、前記LED光源部もしくは前記LEDチューブのLEDの点灯パターンを変化させることを特徴とする請求項10乃至12のいずれかに記載の自然及び人工構造物変状原位置表示装置。
【請求項14】
請求項1乃至13のいずれかの自然及び人工構造物変状原位置表示装置を自然構造物,土木構造物,建築構造物,若しくは土木建築構造物の建設に用いる建設機械に適宜配置して、変状の発生・進展、あるいは危険度の増大をモニタリングする状態監視兼防災システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2008−309784(P2008−309784A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−129218(P2008−129218)
【出願日】平成20年5月16日(2008.5.16)
【出願人】(504150450)国立大学法人神戸大学 (421)
【Fターム(参考)】