説明

光カチオン重合増感剤組成物、光感応性酸発生剤組成物、光カチオン重合性組成物及び該光カチオン重合組成物を重合してなる重合物

【課題】光カチオン重合において、重合速度を高めるだけでなく、生成した重合物が耐光性にも優れたものとなる、光カチオン重合増感剤組成物を提供する。
【解決手段】式(1)で表わされるチオキサントン化合物及び2,6−ジオキシナフタレン化合物からなる光カチオン重合増感剤組成物。


((1)式中、R、R、R及びRの各々は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基又はハロゲン原子のいずれかを示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光カチオン重合増感剤として有用なチオキサントン化合物と、2,6−ジオキシナフタレン化合物を組み合わせた光カチオン重合増感剤組成物、当該光カチオン重合増感剤組成物を含有する光感応性酸発生剤組成物、当該光感応性酸発生剤組成物を含有する光カチオン重合性組成物及び当該光カチオン重合性組成物を重合してなる重合物に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外線等の光線により重合する光重合性組成物が広くさまざまな用途で使用されている。この光重合性組成物としては、ラジカル重合型とカチオン重合型とがある。ラジカル重合型としては、(メタ)アクリルロイル基を有する化合物、不飽和ポリエステル系化合物等の不飽和二重結合を有する化合物が知られており、カチオン重合型としては、エポキシ基を有する化合物、ビニルエーテル基を有する化合物等が知られている。そして、これらの化合物は、適当な光重合開始剤及び必要に応じ光重合増感剤と共に使用される。一般に、ラジカル重合型は、重合速度が速く、生成する塗膜硬度が高いという特徴を持つが、基材との密着性が弱いという欠点がある。また、酸素の影響を受けやすく、特に薄膜の生成においては窒素封入などの設備が必要となる。一方、カチオン重合型は、基材との密着性が高く、酸素による影響を受けにくいという特徴を有する。そのため、カチオン重合型の光カチオン重合性組成物を用いた飲料缶用の下地塗料やインクジェット用インキが市場に出るようになってきている。
【0003】
この光カチオン重合には、通常光カチオン重合開始剤が使用される。当該光カチオン重合開始剤としてはオニウム塩が知られており、特に芳香族ヨードニウム塩や芳香族スルホニウム塩が用いられている。この光カチオン重合開始剤は、紫外線等の光を吸収して励起し、その励起種が分解して、酸を発生する化合物である。
【0004】
芳香族ヨードニウム塩はその吸収波長が250nm近辺と低く高圧水銀ランプ等の紫外線により十分励起することができないために高圧水銀ランプの照射波長である380nm近辺に吸収のあるチオキサントン化合物を光カチオン重合増感剤として用いている(特許文献1、2)。一方、芳香族スルホニウム塩は、高圧水銀ランプ等の光の波長である366nm付近に吸収を持つため、特に光カチオン重合増感剤の必要性は感じられてこなかった。
【0005】
しかし、近年になり、366nmよりも更に長波長の紫外線LEDが開発され、このLEDは発熱が少なく長寿命であることから徐々に紫外線LEDを光源として使用する傾向にある。この場合にはヨードニウム塩及びスルホニウム塩のいずれも単独では励起できないため光カチオン重合増感剤を使用しなければならない。
【0006】
本願発明者らは、すでに、このような長波長の光に対して用いることができる光カチオン重合増感剤組成物としてチオキサントン化合物と1,4−ジエトキシナフタレン等のナフタレン誘導体からなる組成物を報告している(特許文献3)。
【0007】
一方、このような光重合では、光重合開始剤や光重合増感剤が重合反応過程で完全には消費されず、その多くが重合物中に残存することになる。これらの物質が紫外線などを吸収し、ラジカルや酸などを発生するなどして生成した重合物を経時的に劣化させるなどの保存安定性の問題が発生している。前述したチオキサントン化合物と1,4−ジエトキシナフタレン等のナフタレン誘導体からなる光カチオン重合増感剤組成物も、光カチオン重合速度が高く、光の透過率の高い重合物が得られるが、得られた重合物は日光等の可視光の下においた場合、時間の経過とともに光の透過率が低下するといった保存安定性(耐光性)が悪いという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−106648号公報
【特許文献2】特開平11−140110号公報
【特許文献3】特開2007−126612号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、光カチオン重合において、重合速度を高めるだけでなく、生成した重合物が耐光性にも優れたものとなる、光カチオン重合増感剤組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、チオキサントン化合物を光カチオン重合増感剤としての機能を発揮させるための種々の光カチオン重合増感助剤との組み合わせに関して鋭意検討した結果、ナフタレン誘導体の中で2,6−ジオキシナフタレン化合物をチオキサントン化合物と組み合わせた光カチオン重合増感剤組成物を用いた時、特異的に、当該生成した重合物の耐光性に優れていることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、以下を特徴とする要旨を有するものである。
(1)チオキサントン化合物および2,6−ジオキシナフタレン化合物からなる光カチオン重合増感剤組成物。
【0012】
(2)上記(1)に記載の光カチオン重合増感剤組成物及び光カチオン重合開始剤からなる光感応性酸発生剤組成物。
【0013】
(3)上記(2)に記載の光感応性酸発生剤組成物及び光カチオン重合性化合物を含有する光カチオン重合性組成物。
【0014】
(4)上記(3)に記載の光カチオン重合性組成物を350nmから450nmの波長の光を含む光源により光照射し、光カチオン重合してなる重合物。
【0015】
(5)上記(4)に記載の重合物であって、可視光線に暴露する前の当該重合物の波長範囲350〜450nmにおける透過率τと、可視光線に14時間暴露した後の当該重合物の波長範囲350〜450nmにおける透過率τ’との比(τ’/τ)の百分率(%)の平均値が98%以上である上記(4)に記載の重合物。
【0016】
(6)上記(3)に記載の光カチオン重合性組成物を有効成分とする光硬化性接着剤。
【発明の効果】
【0017】
本発明のチオキサントン化合物と2,6−ジオキシナフタレン化合物とを含有する光カチオン重合増感剤組成物は、光カチオン重合反応時にそれぞれ単独で使用した場合と比べて高い増感効果を示すのみならず、当該光カチオン重合増感剤組成物を用いた光カチオン重合性組成物を光カチオン重合して得られた重合物は優れた耐光性を示す。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例3における、本発明の重合物を太陽光に14時間暴露した場合の光透過率を測定し、暴露前との変化をあらわしたグラフ。光カチオン重合開始剤として芳香族スルホニウム塩、光カチオン重合増感剤組成物としてイソプロピルチオキサントンと2,6−ジメトキシナフタレンを用いた場合の結果。
【図2】実施例3との比較例で、光カチオン重合増感剤組成物としてイソプロピルチオキサントンと1,4−ジエトキシナフタレンを用いた場合の重合物の光透過率の変化を表すグラフ。
【図3】実施例4における、本発明の重合物を太陽光に14時間暴露した場合の光透過率を測定し、暴露前との変化をあらわしたグラフ。光カチオン重合開始剤として芳香族ヨードニウム塩、光カチオン重合増感剤組成物としてイソプロピルチオキサントンと2,6−ジメトキシナフタレンを用いた場合の結果。
【図4】実施例4との比較例で、光カチオン重合増感剤組成物としてイソプロピルチオキサントンと1,4−ジエトキシナフタレンを用いた場合の重合物の光透過率の変化を表すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(光カチオン重合増感剤組成物)
本発明の光カチオン重合増感剤組成物は、チオキサントン化合物と2,6−ジオキシナフタレン化合物からなる組成物である。
【0020】
本発明のチオキサントン化合物は、一般式(1)で表される化合物である。
【0021】
【化1】

【0022】
一般式(1)式中R1 、R2 、R3 及びR4 の各々は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、又はハロゲン原子のいずれかを表わす。一般式(1)中のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、シクロヘキシル基、ベンジル基等が挙げられる。アルコキシ基としてはメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、フェノキシ基等が挙げられ、アルコキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等が挙げられる。ハロゲン原子としては塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。これらの置換基はさらにモルホリノ基などの置換基を有していてもよい。
【0023】
代表的なチオキサントン化合物としては、次のような化合物が挙げられる。例えば、チオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−ドデシルチオキサントン、2−シクロヘキシルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、1−フェノキシチオキサントン、1−メトキシカルボニルチオキサントン、2−エトキシカルボニルチオキサントン、3−(2−メトキシエトキシカルボニル)−チオキサントン、4−ブトキシカルボニルチオキサントン、3−ブトキシカルボニル−7−メチルチオキサントン、3,4−ジ−[2−(2−メトキシエトキシ)−エトキシカルボニル]−チオキサントン、2−クロロチオキサントン、1−エトキシカルボニル−3−エトキシチオキサントン、1−エトキシカルボニル−3−クロロチオキサントン、1−クロロ−4−n−プロポキシチオキサントン、2−メチル−6−ジメトキシメチル−チオキサントン、2−メチル−6−(1,1−ジメトキシベンジル)−チオキサントン、6−エトキシカルボニル−2−メトキシ−チオキサントン、6−エトキシカルボニル−2−メチルチオキサントン、1−エトキシカルボニル−3−(1−メチル−1−モルホリノエチル)−チオキサントン、2−モルホリノメチルチオキサントン、2−メチル−6−モルホリノメチルチオキサントン、チオキサントン−2−カルボン酸ポリエチレングリコールエステル等である。
【0024】
又、他に1−シアノ−3―クロロチオキサントン、1−エトキシカルボニル−3−アミノチオキサントン、1−エトキシカルボニル−3−フェニルスルフリルチオキサントン、N−アリルチオキサントン−3,4−ジカルボキシミド、N−オクチルチオキサントン−3,4−ジカルボキシミド、N−(1,1,3,3−テトラメチル−ブチル)−チオキサントン−3,4−ジカルボキシミド等のチオキサントン化合物も用いることができる。
【0025】
これらの中でも特に2−イソプロピルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、1−クロロ−4−n−プロポキシチオキサントン、2−シクロヘキシルチオキサントンが性能とコストの面から好ましい。
【0026】
本発明の2,6−ジオキシナフタレン化合物は一般式(2)で表される化合物である。
【0027】
【化2】

【0028】
一般式(2)中、R及びRは同一であっても異なっていても良く、水素原子、アルキル基、アラルキル基、アルコキシアルキル基、アリールオキシアルキル基又はグリシジル基のいずれかを示す。また、X及びYは同一であっても異なっていても良く、水素原子、アルキル基、アルコキシ基又はアリールオキシ基のいずれかを示す。
【0029】
一般式(2)中のR及びRで表わされるアルキル基としてはメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、2−エチルヘキシル基、n−デシル基、n−ドデシル基等が挙げられる。アラルキル基としてはベンジル基、フェネチル基等が挙げられる。アルコキシアルキル基としては2−メトキシエチル基、2−エトキシエチル基等が挙げられる。アリールオキシアルキル基としては2−フェノキシエチル基、2−ナフチルオキシエチル基等が挙げられる。グリシジル基としては、グリシジル基、2−メチルグリシジル基等が挙げられる。また、一般式(2)中のX及びYで表わされるアルキル基としてはメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、2−エチルヘキシル基、n−デシル基等が挙げられ、アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基が挙げられ、アリールオキシ基としては、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等が挙げられる。
【0030】
代表的な2,6−ジオキシナフタレン化合物としては、2,6−ジメトキシナフタレン、2,6−ジエトキシナフタレン、2,6−ジ(n−プロポキシ)ナフタレン、2,6−ジ(n−ブトキシ)ナフタレン、2,6−ジ(n−ペンチルオキシ)ナフタレン、2,6−ジ(n−ヘキシルオキシ)ナフタレン、2,6−ジ(シクロヘキシルオキシ)ナフタレン、2,6−ジ(n−ヘプチルオキシ)ナフタレン、2,6−ビス(2−エチルヘキシルオキシ)ナフタレン、2,6−ジ(n−デシルオキシ)ナフタレン、2,6−ビス(n−ドデシルキシ)ナフタレン、2,6−ジベンジルオキシナフタレン、2,6−ジフェネチルオキシナフタレン、2,6−ビス(2−メトキシエトキシ)ナフタレン、2,6−ビス(2−エトキシエトキシ)ナフタレン、2,6−ビス(2−フェノキシエトキシ)ナフタレン、2,6−ジグリシジルオキシナフタレン、2−メトキシ−6−エトキシナフタレン、2−メトキシ−6−プロポキシナフタレン、2−メトキシ−6−ブトキシナフタレン、2−メトキシ−6−グリシジルオキシナフタレン、2,6−ジメトキシ−1−メチルナフタレン、2,6−ジメトキシ−1−エチルナフタレン、2,6−ジメトキシ−1−メトキシナフタレン、2,6−ジメトキシ−1−フェノキシナフタレン等が挙げられる。
【0031】
チオキサントン化合物と2,6−ジオキシナフタレン化合物の特に好ましい組合せは、チオキサントン化合物が、2−イソプロピルチオキサントン、2,4−ジエトキシチオキサントン、2−シクロヘキシルチオキサントン、1−クロル−4−n−プロポキシチオキサントンのいずれかであり、2,6−ジオキシナフタレン化合物が、2,6−ジメトキシナフタレン、2,6−ジエトキシナフタレン、2,6−ジプロポキシナフタレン、2,6−ジブトキシナフタレン又は2−メトキシ−6−エトキシナフタレンである。これらの組み合わせで用いることにより、光カチオン重合開始剤に対する相溶性が向上し、光カチオン重合増感剤組成物としての機能を十分発揮することができる。
【0032】
また、二種類以上のチオキサントン化合物と2,6−ジオキシナフタレン化合物を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
本発明の光カチオン重合増感剤組成物において、チオキサントン化合物と、2,6−ジオキシナフタレン化合物の含有割合はチオキサントン化合物が1重量部に対し、2,6−ジオキシナフタレン化合物は0.1〜99重量部、好ましくは0.2〜30重量部の範囲で使用することが好ましい。2,6−ジオキシナフタレン化合物が少なすぎても、多すぎても、増感効果が十分得られず好ましくない。
【0034】
本発明の光カチオン重合性組成物を調整するに当たり、光カチオン重合増感剤であるチオキサントン化合物と2,6−ジオキシナフタレン化合物とを別々に加えても良いが、予め混合した光カチオン重合増感剤組成物として添加するのが好ましい。
【0035】
(光感応性酸発生剤組成物)
本発明の光カチオン重合増感剤組成物と光カチオン重合開始剤からなる組成物は、紫外線等の光により励起され、分解し酸を発生することから、光感応性酸発生剤組成物として用いることができる。当該光感応性酸発生剤組成物は、光カチオン重合性組成物のカチオン重合を開始させる光カチオン重合開始剤組成物として使用することができる。
【0036】
当該光感応性酸発生剤組成物に用いられる光カチオン重合開始剤としては、オニウム塩である芳香族ヨードニウム塩または芳香族スルホニウム塩を使用することができる。
【0037】
芳香族ヨードニウム塩としては4−イソブチルフェニル−4’−メチルフェニルヨードニウムヘキサフルオロフォスフェート、ビス(ドデシルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、4−イソプロピルフェニル−4’−メチルフェニルヨードニウムテトラキスペンタフルオロフェニルボレート等が挙げられ、例えばチバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製イルガキュア250(4−イソブチルフェニル−4’−メチルフェニルヨードニウムヘキサフルオロフォスフェートと溶剤の混合物、イルガキュアはチバ・スペシャリティ・ケミカルズ社の登録商標)、ローディア製2074(4−イソプロピルフェニル−4’−メチルフェニルヨードニウムテトラキスペンタフルオロフェニルボレート)を用いることができる。
【0038】
一方、芳香族スルホニウム塩としてはS,S,S’,S’−テトラフェニル−S,S’−(4、4’−チオジフェニル)ジスルホニウムビスヘキサフルオロフォスフェート、ジフェニル−4−フェニルチオフェニルスルホニウムヘキサフルオロフォスフェート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロフォスフェート等が挙げられ、例えばダウ・ケミカル社製UVI6992(S,S,S’,S’−テトラフェニル−S,S’−(4、4’−チオジフェニル)ジスルホニウムビスヘキサフルオロフォスフェート)を用いることができる。
【0039】
本発明の光感応性酸発生剤組成物の組成としては、光カチオン重合開始剤の1重量部に対し、上記光カチオン重合増感剤組成物を0.2〜5重量部、好ましくは0.5〜1重量部の範囲で使用することが好ましい。光カチオン重合増感剤組成物が0.2重量部より少なすぎると光増感効果が発現し難くなる場合があり、一方、5重量部より多すぎると重合物の物性に悪影響が生じる場合があるので好ましくない。
【0040】
なお、本発明の光感応性酸発生剤組成物において、本発明の効果を損なわない範囲で溶剤、消泡剤、レベリング剤、増粘剤、難燃剤、光安定剤、充填剤、静電防止剤、流動調整剤、カップリング剤等の各種添加剤をさらに含有しても構わない。本発明の光感応性酸発生剤組成物を取り扱いやすくするために希釈剤として光カチオン重合性化合物を添加してもよい。希釈のための光カチオン重合性化合物としては、エポキシ化合物、ビニル化合物、ジシクロオルソエステル化合物、スピロオルソカーボネート化合物、オキセタン化合物等が挙げられる。
【0041】
(光カチオン重合性組成物)
本発明の光感応性酸発生剤組成物と、光カチオン重合性化合物と組み合わせることにより、光カチオン重合性組成物を得ることができる。使用することができる光カチオン重合性化合物としてはエポキシ化合物、ビニルエーテル化合物等が挙げられる。エポキシ化合物として一般的なものは脂環式エポキシ化合物、エポキシ変性シリコーン、芳香族のグリシジルエーテル化合物等である。脂環式エポキシ化合物としては3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシル)アジペート等が挙げられ、例えばダウ・ケミカル社製UVR6105及びUVR6110等を用いることができる。芳香族グリシジル化合物としては2,2’−ビス(4−グリシジルオキシフェニル)プロパン等が挙げられる。ビニルエーテルとしてはメチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル等が挙げられる。
【0042】
光カチオン重合性組成物の組成としては、光カチオン重合性化合物の100重量部に対し、上記光感応性酸発生剤組成物を0.05〜20重量部、好ましくは1〜5重量部の範囲で使用することが好ましい。光カチオン重合性化合物に対する光感応性酸発生剤組成物の使用量が少なすぎると十分な重合速度が得られない。一方、光感応性酸発生剤組成物の使用量が多すぎると重合物の物性が低下するおそれがあるので好ましくない。
【0043】
なお、本発明の光カチオン重合増感剤組成物及び光カチオン重合開始剤を別々に光カチオン重合性化合物に添加してもよい。その場合の組成としては、以下の範囲が好ましい。すなわち、チオキサントン化合物及び2,6−ジオキシナフタレン化合物からなる光カチオン重合増感剤組成物の添加比率は光カチオン重合性化合物100重量部に対して0.01〜5重量部、好ましくは0.1〜2重量部である。増感剤組成物の添加量が少なすぎると、光カチオン重合性組成物としたときに十分な重合速度が得られず、一方、多すぎると重合物の物性が低下するおそれがあるので好ましくない。
【0044】
光カチオン重合開始剤の添加比率はカチオン重合性化合物100重量部に対して0.01〜5重量部、好ましくは0.1〜1重量部である。添加量が少なすぎると同様に光カチオン重合性組成物としたときに、十分な重合速度が得られず、一方、多すぎると重合物の物性が低下するおそれがあるので好ましくない。
【0045】
本発明の光カチオン重合性組成物の組成成分であるチオキサントン化合物を光カチオン重合増感剤として単独で使用する場合は、重合不十分となる。しかし、光カチオン重合増感助剤として2,6−ジオキシナフタレン化合物を共存させることにより、チオキサントン化合物の光増感効果は十分に発揮することができる。その理由については明らかでないが、チオキサントン化合物と2,6−ジオキシナフタレン化合物の間になんらかの相互作用が働き、光カチオン重合光カチオン重合開始剤への電子移動が促進されるからではないかと考えられる。
【0046】
また、2,6−ジオキシナフタレン化合物が、1,4−ジオキシナフタレン化合物等の他のジオキシナフタレン化合物に比べ、当該光カチオン重合増感剤を含む光カチオン重合性組成物を重合して得られる重合物の耐光性が向上する理由については明らかではないが、1,4−ジオキシナフタレン化合物等に比べ2,6−ジオキシナフタレン化合物が励起状態での安定性が高いためではないかと思われる。
【0047】
本発明の光カチオン重合性組成物には、必要に応じて、顔料やエポキシ系希釈剤、オキセタン系希釈剤,ビニルエーテル系希釈剤を含有しても良い。
【0048】
顔料としては、青色顔料、黄色顔料、赤色顔料、白色顔料、黒色顔料等が挙げられる。黒色顔料としては、例えばカーボンブラック、アセチレンブラック、ランプブラック、アニリンブラック等が挙げられる。黄色顔料としては、例えば黄鉛、亜鉛黄、カドニウムイエロー、黄色酸化鉄、ミネラルファストイエロー、ニッケルチタンイエロー、ネーブルスイエロー、ナフトールイエローS、ハンザイエローG、ハンザイエロー10G、ベンジジンイエローG、ベンジジンイエローGR、キノリンイエローレーキ、パーマネントイエローNCG、タートラジンレーキ等が挙げられる。赤色顔料としては、例えばベンガラ、カドニウムレッド、鉛丹、硫化水銀カドニウム、パーマネントレッド4R、リソールレッド、レーキレッドD、ブリリアントカーミン6B、エオシンレーキ、ローダミンレーキB、アリザリンレーキ、ブリリアントカーミン3B等が挙げられる。青色顔料としては、例えば紺青、コバルトブルー、アルカリブルーレーキ、ビクトリアブルーレーキ、フタロシアニンブルー、無金属フタロシアニンブルー、フタロシアニンブルー部分塩素化物、ファーストスカイブルー、インダスレンブルーBC等が挙げられる。白色顔料としては、例えば亜鉛華、酸化チタン、アンチモン白、硫化亜鉛等が挙げられる。その他の顔料としては、例えばバライト粉、炭酸バリウム、クレー、シリカ、ホワイトカーボン、タルク、アルミナホワイト等が挙げられる。
【0049】
本発明で用いられるエポキシ系希釈剤の例としては、例えば、フェニルグリシジルエーテル、p−tert−ブチルフェニルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、1,2−ブチレンオキサイド、1,3−ブタジエンモノオキサイド、1,2−エポキシドデカン、エピクロロヒドリン、1,2−エポキシデカン、スチレンオキサイド、シクロヘキセンオキサイド、3−メタクリロイルオキシメチルシクロヘキセンオキサイド、3−アクリロイルオキシメチルシクロヘキセンオキサイド、3−ビニルシクロヘキセンオキサイド等が挙げられる。オキセタン系希釈剤の例としては、例えば、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、3−(メタ)アリルオキシメチル−3−エチルオキセタン、(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチルベンゼン等が挙げられる。ビニルエーテル系希釈剤の例としては、例えば、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル等が挙げられる。
【0050】
(重合物)
本発明の光カチオン重合性組成物を光照射することにより、重合物とすることができる。当該光カチオン重合性組成物の重合はフィルム状で行うことも出来るし、塊状に硬化させることも可能である。
【0051】
(基材)
当該重合物をフィルム状に成型するには、例えば、次のようにして行う。すなわち光カチオン重合性組成物を基材上、バーコーターを用いて塗布する。基材としてはフィルム、紙、アルミ箔、金属等特に限定されない。フィルムとしては通常ポリエステルフィルム、アセテートフィルム等を用いることができる。フィルムの膜厚は通常100μm程度のものを用いる。この基材上に、たとえばバーコーターなどを用いて光カチオン重合性組成物を塗布する。使用するバーコーターのロッドナンバーは特に指定されないが、膜厚が数μmから数十μmになるようなロッドナンバーのバーコーターを用いることができる。
【0052】
(光源)
このようにして調製した塗布膜に紫外線などの光線を照射することにより重合させることができる。本発明の光カチオン重合性組成物は、350nm以上の長波長域の光においても光カチオン重合させることが可能であることが特徴の一つであるので、光源としては、特に波長範囲350〜450nmの光を照射することのできる光源が望ましい。例えば太陽光の他、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、キセノンランプ、メタルハライドランプ、フュージョン(株)製のHバルブ、Dバルブ、Vバルブ等の水銀系ランプ、紫外線LED(中心波長395nm)、紫外線LED(中心波長375nm)、紫外線LED(中心波長365nm)等の発光ダイオード(LED)が挙げられる。
【0053】
(用途)
本発明の光カチオン重合性組成物を基材に塗布し、その表面を空気雰囲気に開放した状態で光カチオン重合させる用途としては、塗膜として使用に供する用途、例えば塗料、コーティング、インキ等が挙げられる。具体的には自動車用塗料、木工コーティング、PVC床コーティング、窯業壁コーティング、建材用コーティング、樹脂ハードコート、メタライズベースコート、フィルムコーティング、液晶ディスプレイ(LCD)用コーティング、プラズマディスプレイ(PDP)用コーティング、光ディスク用コーティング、金属コーティング、光ファィバーコーティング、印刷インキ、平版インキ、金属缶インキ、スクリーン印刷インキ、インクジェットインキ、グラビアニス等が挙げられる。また、レジスト、ディスプレー、封止剤、歯科材料、光造型材料等分野でもこのような使用方法が用いられる。
【0054】
本発明の光カチオン重合性組成物を基材に塗布し、その表面に他の基材と貼合して光カチオン重合させる使用方法としては接着剤、粘着剤、粘接着剤、シーリング剤を挙げられる。さらに、「電子部品用感光性材料の最新動向III−半導体・電子基板・ディスプレー分野の開発状況―」(住ベリサーチ社、2006年7月)、「UV・EB硬化技術の最新動向」(ラドテック研究所、2006年3月)、「光応用技術・材料事典」(山岡亜夫編、2006年4月)、「光硬化技術」(技術情報協会、2000年3月)、「光硬化性材料−製造技術と応用展開−」(東レリサーチセンター、2007年9月)等に例示されている用途に適宜用いることができる。特に、本発明の光カチオン重合性組成物をフィルム等の基材に塗布した場合、フィルムの透過率が高く、またフィルムへの密着性が高いことから光硬化性接着剤として使用することが有用である。
【0055】
(耐光性)
本発明の光カチオン重合性組成物を重合して得られる重合物は、耐光性が優れていることが特徴である。一般に、光重合で得られた重合物は長時間日光等により暴露されると白く濁る等透明性が低下する傾向にある。これは、重合物そのものが光により切断されて劣化する場合もあるが、重合物中に残存している光重合開始剤や光重合増感剤などが光により励起し、ラジカル種や酸を発生して重合物を分解あるいは着色させる場合が考えられる。本発明に用いられる光カチオン重合増感剤は光照射に対して安定であるため、本発明の光カチオン重合性組成物を重合して得られる重合物は、耐光性が優れていると思われる。
【0056】
(耐光性試験方法)
本発明において、耐光性は以下に示す方法で評価した。すなわち、日光に本発明の重合物を暴露した後の特定波長における光の透過率を測定し、日光に本発明の重合物を暴露する前の光の透過率と比較し、比率(τ’/τ、以下「透明度保持率」という)を算出することにより耐光性を評価した。具体的には、本発明の重合物をフィルム上に重合物の膜厚が12μmとなるようにバーコーターを用いて塗布する。次いで、日光に暴露させる方法としては、8月の晴天時の日光に一日あたり7時間暴露するという操作を連続2日間行い、合計14時間日光に暴露した。日光に暴露した後の重合物の透過率τ’と、日光に暴露する前の重合物の透過率τを測定し、透明度保持率を算出する。透過率の測定には、特に耐光性の低下が顕著に現れる350nm〜450nmの波長範囲の光を用いた。具体的には、350nm、364nm、380nm、387nm、395nm及び414nmの計6点の波長の光の透過率を測定した。この6点での光の透過率から算出した透明度保持率の値を単純平均し、透明度保持率の平均値により耐光性を評価した。
【実施例】
【0057】
以下に、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるもの
ではない。実施例中の「部」は全て重量部を示す。
【0058】
また、表中の下記の略号はそれぞれ、記載のとおりのものを意味する。
UVR6105 :ダウ・ケミカル社製脂環式エポキシ化合物
UVI6992 :ダウ・ケミカル社製芳香族スルホニウム塩
イルガキュア250 :チバスペシャルティケミカルズ社製芳香族ヨードニウム塩(イルガキュアは、チバスペシャルティケミカルズ社の登録商標)
ITX :2−イソプロピルチオキサントン
26DMN :2,6−ジメトキシナフタレン
DEN :1,4−ジエトキシナフタレン
【0059】
(実施例1)<光カチオン重合性組成物の重合>
カチオン重合性化合物として脂環式エポキシ化合物(ダウ・ケミカル社製UVR6105)100部に対し、光カチオン重合開始剤として芳香族スルホニウム塩(ダウ・ケミカル社製UVI6992)4部、光カチオン重合増感剤組成物として2−イソプロピルチオキサントン(以下、ITXともいう)を0.25部、2,6−ジメトキシナフタレン(以下、26DMNともいう)0.8部を混合し、光カチオン重合性組成物を調製した。該組成物をアセテートフィルム(サンプラテック社製、膜厚100μm)の上にバーコーター(ロッドナンバーNo.5)を用いて膜厚が12μmになるように塗布した。ついで、中心波長は395nm、照射強度が6mW/cmの紫外線LED(サンダー社製紫外線LED)を照射した。紫外線LEDを照射してからアセテートフィルムに塗布した光カチオン重合性組成物のべたつき(タック)がなくなるまでの光照射時間「タック・フリー・タイム」を測定したところ、2.2分であった。
【0060】
(比較例1)
2,6−ジメトキシナフタレン(以下、26DMNともいう)を1,4−ジエトキシナフタレン(以下DENともいう)としたこと実施例1と同様に操作を行ない、光カチオン重合性組成物を調製し、アセテートフィルムに塗布して紫外線LEDを照射した。紫外線LEDを照射してからアセテートフィルムに塗布した光カチオン重合性組成物のべたつき(タック)がなくなるまでの光照射時間「タック・フリー・タイム」を測定したところ、2.0分であった。
【0061】
(比較例2)
26DMNを使用しない以外は実施例1と同様に操作を行ない、光カチオン重合性組成物を調製し、アセテートフィルムに塗布して紫外線LEDを照射した。紫外線LEDを照射してからアセテートフィルムに塗布した光カチオン重合性組成物のべたつき(タック)がなくなるまでの光照射時間「タック・フリー・タイム」を測定したところ、4.3分であった。
【0062】
(比較例3)
ITXを使用しない以外は実施例1と同様に操作を行ない、光カチオン重合性組成物を調製し、アセテートフィルムに塗布して紫外線LEDを照射した。5分照射してもアセテートフィルムに塗布した光カチオン重合性組成物のべたつき(タック)はなくならなかった。
【0063】
実施例1及び比較例1、2、3の結果を表1に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
実施例1及び比較例1、2、3の結果より、395nm(紫外線LED)という長波長の光照射による光カチオン重合において、芳香族スルホニウム塩(UVI6992)を光カチオン重合開始剤として用いた場合、光カチオン重合増感剤として一般的に用いられるITXおよび26DMNは、いずれも単独使用ではその増感効果は十分でないことが分かった。一方、ITXと26DMNまたはITXとDENという二種類の光カチオン重合増感剤を組み合わせることにより、いずれの場合も顕著な増感効果を示すことが分かった。
【0066】
(実施例2)
カチオン重合性化合物として脂環式エポキシ化合物(ダウ・ケミカル社製UVR6105)100部に対し、光カチオン重合開始剤として芳香族ヨードニウム塩(チバスペシャルティケミカルズ社製イルガキュア250)2部、光カチオン重合増感剤組成物としてITXを0.25部、26DMN0.25部を混合し、光カチオン重合性組成物を調製した。該組成物をアセテートフィルムの上にバーコーターを用いて膜厚が12μmになるように塗布し、中心波長は395nm、照射強度は6mW/cmの光(サンダー社製紫外線LED)を照射し、重合させた。紫外線LEDを照射してからアセテートフィルムに塗布した光カチオン重合性組成物のべたつき(タック)がなくなるまでの光照射時間「タック・フリー・タイム」を測定したところ、0.7分であった。
【0067】
(比較例4)
26DMNをDENとした以外は実施例2と同様に操作を行ない、光カチオン重合性組成物を調製し、アセテートフィルムに塗布して紫外線LEDを照射した。紫外線LEDを照射してからアセテートフィルムに塗布した光カチオン重合性組成物のべたつき(タック)がなくなるまでの光照射時間「タック・フリー・タイム」を測定したところ、0.5分であった。
【0068】
(比較例5)
26DMNを使用しない以外は実施例2と同様の操作を行ない、光カチオン重合性組成物を調製し、アセテートフィルムに塗布して紫外線LEDを照射した。紫外線LEDを照射してからアセテートフィルムに塗布した光カチオン重合性組成物のべたつき(タック)がなくなるまでの光照射時間「タック・フリー・タイム」を測定したところ、1.8分であった。
【0069】
実施例2及び比較例4、5の結果を表2に示す。
【0070】
【表2】

【0071】
実施例2及び比較例4、5の結果より、395nm(紫外線LED)という長波長の光照射による光カチオン重合において、芳香族ヨードニウム塩(イルガキュア250)を光カチオン重合開始剤として用いた場合、光カチオン重合増感剤として一般的に用いられるITXの単独使用でも増感効果を示すが、ITXと26DMNまたはITXとDENという二種類の光カチオン重合増感剤を組み合わせることにより、更に顕著な増感効果を示すことが分かった。
【0072】
(実施例3)(耐光性試験)
光カチオン重合性化合物として脂環式エポキシ化合物(ダウ・ケミカル社製UVR6105)100部に対し、光カチオン重合開始剤としてスルホニウム塩(ダウ・ケミカル社製UVI6992)4部、光カチオン重合増感剤組成物としてITXを0.25部、26DMN0.8部を混合し、光カチオン重合性組成物を調製した。該組成物をポリエステルフィルム(東レ製ルミラー)の上にバーコーターを用いて膜厚が12μmになるように塗布し、中心波長は395nm、照射強度は6mW/cmの光(サンダー社製紫外線LED)を6分間照射し、重合させた。そして、当該フィルム状重合物に8月の晴天時の日光に一日7時間さらすという操作を連続2日間続け、合計14時間日光にさらした。このようにして得られた日光に暴露したフィルム(可視光線照射後のフィルム)と当該フィルムを光カチオン重合により調製した直後のフィルムの光透過率を紫外線(UV)分光光度計(島津製作所製、形式UV−2200)で測定し、その測定結果を図1及び表3に示す。
【0073】
【表3】

【0074】
(比較例5)
26DMNをDENに代えた以外は実施例3と同様の操作を行なった。その結果を図2及び表4に示す。
【0075】
【表4】

【0076】
(実施例4)
光カチオン重合開始剤として芳香族スルホニウム塩(ダウ・ケミカル社製UVI6992)を4部使用する代わりに芳香族ヨードニウム塩(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製イルガキュア250)2部を使用する以外は実施例3と同様の操作を行ない、光カチオン重合性組成物を調製し、アセテートフィルムに塗布して紫外線LEDを6分間照射し、重合させた。そして、重合物に日光を14時間当て、重合物の透過率を紫外線(UV)分光光度計(島津製作所製、形式UV−2200)で測定し、その結果を図3及び表5に示す。
【0077】
【表5】

【0078】
(比較例6)
26DMNをDENに代えた以外は実施例4と同様の操作を行なった。その結果を図4及び表6に示す。
【0079】
【表6】

【0080】
(重合物の耐光性試験結果の考察)
実施例3と比較例5及び実施例4と比較例6から次のことが明らかである。すなわち、本発明の光カチオン重合増感剤組成物であるイソプロピルチオキサントンと2,6−ジメトキシナフタレンを用いた光カチオン重合性組成物から得られる重合物は、光カチオン重合増感剤組成物としてイソプロピルチオキサントンと1,4−ジエトキシナフタレンを用いた光カチオン重合性組成物から得られる重合物に比べ、14時間の光暴露後における光透過率の低下が、350nmから414nmにおける測定波長のいずれにおいても少なく、すなわち透過率の経時変化が少なく、透明度が平均として98%以上維持されていることが分かる。したがって、本発明の光カチオン重合増感剤組成物と光カチオン重合開始剤及びカチオン重合性化合物からなる光カチオン重合性組成物は優れた透明性(高い透過率)を有するとともに、日光の照射による透過率の低下が少ない(透明度の保持率が高い)、すなわち高い耐光性を有する極めて有用な組成物である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるチオキサントン化合物、
【化1】


(一般式(1)式中、R 、R 、R 及びRの各々は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基又はハロゲン原子のいずれかを示す。)
及び下記一般式(2)で表される2,6−ジオキシナフタレン化合物からなる光カチオン重合増感剤組成物。
【化2】


(一般式(2)中、R及びRは同一であっても異なっていても良く、水素原子、アルキル基、アラルキル基、アルコキシアルキル基、アリールオキシアルキル基又はグリシジル基のいずれかを示す。また、X及びYは同一でも異なっていても良く、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基のいずれかを示す。)
【請求項2】
請求項1に記載の光カチオン重合増感剤組成物及びオニウム塩系光カチオン重合開始剤からなる光感応性酸発生剤組成物。
【請求項3】
請求項2に記載の光感応性酸発生剤組成物及び光カチオン重合性化合物を含有する光カチオン重合性組成物。
【請求項4】
請求項3に記載の光カチオン重合性組成物を350nmから450nmの波長の光を含む光源により光照射し、光カチオン重合してなる重合物。
【請求項5】
請求項4に記載の重合物であって、可視光線に暴露する前の重合物の波長範囲350〜450nmにおける透過率τと、可視光線に14時間暴露した後の重合物の波長範囲350〜450nmにおける透過率τ’との比(τ’/τ)の百分率(%)の平均値が98%以上である重合物。
【請求項6】
請求項3に記載の光カチオン重合性組成物を有効成分とする光硬化性接着剤。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−157532(P2011−157532A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−22729(P2010−22729)
【出願日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【出願人】(000199795)川崎化成工業株式会社 (133)
【Fターム(参考)】