説明

光クロック信号抽出装置

【課題】 波形劣化した光データ信号から光クロック信号を直接抽出できる光クロック信号抽出装置を提供することを目的とする。
【解決手段】 光クロック信号抽出装置は、波形劣化した光データ信号を入力とし、前記光データ信号と位相同期し、かつ振幅一定の光クロック信号を生成する光クロック抽出装置であって、光・光変調回路の出力信号を高周波電気信号に変換し、前記高周波電気信号で駆動して前記光クロック信号を発生する光クロック信号源と、前記光クロック信号源から出力される前記光クロック信号を前記光データ信号で変調する前記光・光変調回路とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振幅雑音、タイミング雑音、パルス広がりなどの波形劣化を引き起こした光データ信号から、光データ信号に位相同期し、かつ振幅一定の光クロック信号を生成することのできる光クロック抽出装置に関し、特に、ビットレートが40−160Gbit/sの光ファイバ通信システムの中継器や受信器に用い、信号再生に必要とされる光クロック信号抽出機能を有する光クロック信号抽出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ビットレートが40−160Gbit/sの光ファイバ通信システムにおいては、受信器や中継器で劣化した光データ信号を再生するために、高速の光クロック信号を抽出する技術が必要となる。その為、従来の光クロック信号抽出技術では、光・電気ハイブリッド構成の位相同期ループ回路が用いられる。位相同期ループ回路は、位相比較器と高周波の電圧制御発振器(VCO: Voltage−Controlled Oscillator)により構成されるが、位相比較器は光学的な手法により構成され、電圧制御発振器VCOは電子回路で構成される。例えば、特許文献1の「超高速クロック抽出回路」では、光変調器を用いた位相比較器により誤差信号を検出して電圧制御発振器VCOを制御し、電圧制御発振器VCOの電気出力で局発パルスレーザー光源を駆動している。特許文献2の「超高速クロック抽出回路」では、電圧制御発振器VCOの電気出力で光変調器を駆動して光クロック信号を得ている。また、特許文献3の「光クロック信号抽出回路」では、電圧制御発振器VCOの電気出力で電界吸収型光変調器を駆動して光クロック信号を得ている。
【特許文献1】特開2003−143073号公報
【特許文献2】特開平09−230291号公報
【特許文献3】特開平09−102776号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の光・電気ハイブリッド構成の位相同期ループ回路は、電子回路により構成した電圧制御発振器VCOを用いているために、電圧制御発振器VCOの出力として抽出されるクロック信号は高周波電気信号となる。中継器や受信器における信号再生では、光クロック信号を必要とするため、電圧制御発振器VCOから出力される電気クロック信号により、パルスレーザー光源、または光変調器を駆動して光クロック信号を生成する必要がある。このため、装置が大型、複雑になり、消費電力の増大を引き起こすことになる。
【0004】
本発明は、上記の問題を解決するために、波形劣化した光データ信号から光クロック信号を直接抽出できる光クロック信号抽出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するため、本発明による光クロック抽出装置では、電子回路により構成される従来の電圧制御発振器VCOに代わって、光クロックを直接発生できる光電子発振器(Optoelectronic Oscillator)を用いる。具体的には、
(1) 光クロック信号抽出装置は、波形劣化した光データ信号を入力とし、前記光データ信号と位相同期し、かつ振幅一定の光クロック信号を生成する光クロック抽出装置であって、光・光変調回路の出力信号を高周波電気信号に変換し、前記高周波電気信号で駆動して前記光クロック信号を発生する光クロック信号源と、前記光クロック信号源から出力される前記光クロック信号を前記光データ信号で変調する前記光・光変調回路とを備えることを特徴とする。
【0006】
(2) 上記(1)記載の光クロック信号抽出装置は、前記光クロック信号源からの出力の一部を、光遅延線と、前記光データ信号が入力された前記光・光変調回路とを通過させた後光検出器で受光し、前記光検出器から出力される高周波電気信号を増幅器およびバンドパスフィルタを介して、光クロック信号源の駆動電気信号として帰還して前記光データ信号と位相同期し、かつ振幅一定の前記光クロック信号を生成することを特徴とする。
(3) 上記(1)又は(2)記載の光クロック信号抽出装置は、前記光クロック信号源は、単一周波数レーザー光源とその出力光を電気信号により変調する光強度変調器で構成したことを特徴とする。
(4) 上記(3)記載の光クロック信号抽出装置は、前記単一周波数レーザー光源と前記光強度変調器の代わりに、能動モード同期半導体レーザーを用いることを特徴とする。
【0007】
(5) 上記(1)乃至(4)のいずれか1項記載の光クロック信号抽出装置は、前記光・光変調回路は、光データ信号と光クロック信号光源の出力とが互いに逆方向から伝搬する半導体光増幅器であり、光データ信号に含まれるクロック成分により光クロック信号の強度が相互利得変調により変調されることを特徴とする。
(6) 上記(5)記載の光クロック信号抽出装置は、前記半導体光増幅器の光クロック信号出力側に光バンドパスフィルタを付加して、光データ信号に含まれるクロック成分により前記光クロック信号の強度が相互位相変調により変調されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明による光クロック抽出装置では、従来の電子回路による電圧制御発振器VCOに代わり、光クロック信号を直接発生できる光電子発振器OEOを用いるため、電気から光へのクロック信号の変換装置が不要になるため、構成が簡略化され、消費電力も低減できる。また、高速動作が可能な光クロック信号源と光検出器を用いることにより、電子回路による電圧制御発振器VCOに比べてより高速な動作が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を実施する場合の一形態について図面を参照して説明する。
【実施例】
【0010】
図1は本発明にかかる光クロック抽出装置の概略を説明する図である。光クロック抽出装置は、入力する光データ信号に位相同期し、かつ振幅一定の光クロック信号を直接発生する光クロック抽出装置であり、バンドパスフィルタ1出力の高周波電気信号駆動により光クロック信号を発生する光クロック信号源2と、光方向性結合器3と、可変光遅延線4と、光クロック信号源から出力される光クロック信号を前記光データ信号で強度変調する光・光変調回路5と、光サーキュレータ6と、光検出器7と、増幅器8とを備える。
入力信号である光データ信号は、例えば、光パルスの振幅やパルス幅が不揃いの信号も含む。
【0011】
光クロック抽出装置は、光クロック信号源2からの出力の一部を可変光遅延線4と、劣化した光データ信号が入力された光・光変調回路5を通過させた後、光サーキュレータ6を介して光検出器7で受光し、光検出器7から出力される高周波電気信号を増幅器8、バンドパスフィルタ1を介して、光クロック信号源2の駆動電気信号として正帰還することにより光電子発振器を構成し、光サーキュレータ6で入力の光データ信号と位相同期し、かつ振幅一定の光クロック信号を生成する。光サーキュレータ6は信号処理の便宜上記載されているが、光サーキュレータ6および光・光変調回路5は、具体的には、例えば図4および図5に示すような半導体光増幅器で構成される。
【0012】
光・光変調回路5に光データ信号が入力されない状態でも、光クロック信号源2は自励発振動作し、発振周波数はバンドパスフィルタ1の中心周波数と、正帰還ループの遅延時間により決まる。劣化した光データ信号から光クロック信号を抽出するためには、予め光クロック信号源2の自励発振周波数を、光データ信号のビットレートに近い値に設定しておく必要がある。光クロック信号源2の自励発振周波数の調整は、可変光遅延線4により正帰還ループの遅延時間を変化させることにより行う。
前記光クロック信号源2は、単一周波数レーザー光源9とその出力光を電気信号により変調する光強度変調器10とする。
【0013】
図2は単一周波数レーザー光源と光強度変調器を用いた光クロック信号源を説明する図である。
光強度変調器10としては、Mach−Zehnder型の光強度変調器、または電界吸収型光変調器を用い、パルスタイミングおよびパルス幅を一定に制御し、光クロック信号として出力する。
また、前記光クロック信号源2は単一周波数レーザー光源9と光強度変調器10の代わりに、能動モード同期半導体レーザー11を用いる。
【0014】
図3は前記能動モード同期半導体レーザーを用いた光クロック信号源を説明する図である。
能動モード同期半導体レーザー11は、直接変調し、光データ信号のビットレートと同じ周波数で動作できることが必要である。能動モード同期半導体レーザー11を用いる方式は、機能的には単一周波数レーザー光源9と光強度変調器10を用いる方式と同一であるが、パルス幅のより小さい光クロック信号源を発生することが可能である。
前記光・光変調回路5は、光データ信号と光クロック信号源2の出力とが互いに逆方向から伝搬する半導体光増幅器12であり、光データ信号に含まれるクロック成分により光クロック信号の強度が相互利得変調により変調される。即ち、振幅の大きい光パルスは増幅度が小さく、振幅の小さい光パルスは増幅度が大きくなるように制御される。
【0015】
図4は半導体光増幅器の相互利得変調を用いた光・光変調回路を説明する図である。
光データ信号が半導体光増幅器12に入力されることにより、飽和効果により半導体光増幅器12の利得が減少し、光データ信号とは逆方向に伝搬する光クロック信号が強度変調を受ける。光クロック信号が受けた強度変調成分は、図1の光検出器7により高周波電気信号に変換され、図1のバンドパスフィルタ1によりクロック周波数成分が取り出されて、光クロック信号源に正帰還される。
また、前記光・光変調回路5において半導体光増幅器12の光クロック信号出力側に光バンドパスフィルタ13を付加して、光データ信号に含まれるクロック成分により光クロック信号の強度が相互位相変調により変調される。
【0016】
図5は半導体光増幅器の相互位相変調を用いた光・光変調回路を説明する図である。
光データ信号が半導体光増幅器12に入力されることにより、半導体光増幅器12の屈折率変化を引き起こし、この屈折率変化により光クロック信号が位相変調を受ける。光バンドパスフィルタ13により光クロック信号の位相変調を強度変調に変換することにより、光データ信号からクロック周波数成分を取り出すことができる。光バンドパスフィルタ13によれば、屈折率で位相が変り波長がシフトする。半導体光増幅器12の屈折率変化は、前記利得飽和効果に比べて応答時間が短いため、高速動作が可能である。
なお、本装置では通常の構造を持つ半導体光増幅器が一般的に使用できるが、その応答速度を上げたり、相互利得変調や相互位相変調といった非線形光学効果を高めて、効率良い動作を実現するために、量子井戸構造、特に量子細線や量子ドットで構成された増幅器を用いるのが有効である。
【0017】
図6は、本発明にかかる光クロック抽出装置の概略を説明する図である。
光クロック抽出装置は、主に、図2に示す光クロック信号源と、図4に示す光・光変調回路から構成される。図6に示すように、本発明にかかる光クロック抽出装置は、ビットレートが40Gbit/sの光データ信号を発生する光データ信号生成部と、光クロック信号を抽出する光電子発振器から構成される。
光データ信号生成部は、所定の周波数、例えば9.95328GHzの信号を発生するシンセサイザー14と、シンセサイザー14からの信号に基き光クロック信号を発生する能動モード同期光ファイバリングレーザー15と、シンセサイザー14の信号を基に1、0のパルスパターンを発生する符号誤り測定器である符号発生器16と、前記光クロック信号を1、0のパルスパターン信号で変調する光強度変調器10と、光変調器の光データ信号を所定の周波数、例えば少しずつ信号発生のタイミングをずらした40GHzの光データ信号に変換するマルチプレクサ17とからなる。
【0018】
光データ信号生成部では、繰り返し周波数が9.95328GHzの能動モード同期光ファイバリングレーザー15から発生するパルス幅が約3psの光パルスを、光強度変調器10に入力し、符号発生器16から出力される231−1疑似ランダムビット列でデータ変調を行った後、4倍の光時分割多重化(OTDM: Optical Time Division Multiplexing)により、39.81312Gbit/sのデータ信号を生成する。データ信号の中心波長は1552nmである。符号発生器16は、1、0のパルスパターンを発生する。
【0019】
一方、光電子発振器は、単一周波数レーザー光源9、光強度変調器10、光方向性結合器3、半導体光増幅器12、光サーキュレータ6、可変光遅延線4、光検出器7、増幅器8、バンドパスフィルタ1により構成される。単一周波数レーザー光源9から出力された波長1540nmの光は、光強度変調器10を通過することにより光クロック信号に変換され、光方向性結合器3によりその一部が外部に取り出される。残りの光クロック信号は半導体光増幅器12、光サーキュレータ6、可変光遅延線4を通過した後、光検出器7により電気信号に変換され、増幅器8と、中心周波数が39.813GHz、3dB通過帯域幅が41MHzのバンドパスフィルタ1を介して、光強度変調器10に正帰還される。
【0020】
半導体光増幅器12に光データ信号が入力されない場合、光電子発振器は自励発振し、繰り返し周波数が39.813GHz付近の光クロック信号を生成する。自励発振の繰り返し周波数はループの遅延時間や変調器の直流バイアス電圧に依存し、可変光遅延線4を調整して39.81312GHz付近に設定する。
図7は、抽出された光クロック信号の光サンプリング波形を表す図である。サンプリング間隔は1.25fs、時間分解能はおよそ800fsである。データ成分が除去されて、繰り返し周波数39.81312GHzの光クロック信号が抽出されている。
【0021】
図8は、光クロック信号と光データ信号の光スペクトラムを表す図である。
光データ信号と光クロック信号の中心波長を、それぞれ1552nmと1540nmに設定することにより、光クロック信号に効率的に強度変調を与えることができる。光クロック信号に現れているサイドバンドから、光データ信号の有するクロック周波数成分が抽出されていることがわかる。光データ信号は半導体光増幅器12に入ってそこで反射又は散乱した出力なので小さくなる。
図9は、光クロック信号と同時得られる電気クロック信号のスペクトラムを表す図である。周波数オフセットが±19MHz付近に生じているピークは光電子発振器の隣接する縦モードである。キャリアの付近に鋭い線スペクトルが生じているが、主モードより約30dB小さい。
本発明は以上述べたように構成したことにより所期の効果を奏する。本発明の光クロック抽出装置を構成する構成要素は所期の機能を奏する限りにおいて変更可能である。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明の光クロック抽出装置により、従来の電子回路により構成した電圧制御発振器VCOでは不可能であった光クロック信号の直接発生が可能になる。電気クロック信号から光クロック信号への変換装置が不要になるため、システムを簡素化でき、消費電力も大幅に低減できる。これにより、ビットレートが40Gbit/s以上の光ファイバ通信システムにおける中継器や受信器への適用が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明にかかる光クロック抽出装置の概略を説明する図である。
【図2】単一周波数レーザー光源と光強度変調器を用いた光クロック信号源を説明する図である。
【図3】能動モード同期半導体レーザーを用いた光クロック信号源を説明する図である。
【図4】半導体光増幅器の相互利得変調を用いた光・光変調回路を説明する図である。
【図5】半導体光増幅器の相互位相変調を用いた光・光変調回路を説明する図である。
【図6】39.81312Gbit/s光クロック抽出実験を説明する図である。
【図7】抽出された光クロック信号の波形を表す図である。
【図8】光データ信号、および光クロック信号のスペクトラムを表す図である。
【図9】電気クロック信号のスペクトラムを表す図である。
【符号の説明】
【0024】
1 バンドパスフィルタ
2 光クロック信号源
3 光方向性結合器
4 可変光遅延線
5 光・光変調回路
6 光サーキュレータ
7 光検出器
8 増幅器
9 単一周波数レーザー光源
10 光強度変調器
11 能動モード同期半導体レーザー
12 半導体光増幅器
13 光バンドパスフィルタ
14 シンセサイザー
15 能動モード同期光ファイバリングレーザー
16 符号発生器
17 マルチプレクサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
波形劣化した光データ信号を入力とし、前記光データ信号と位相同期し、かつ振幅一定の光クロック信号を生成する光クロック抽出装置であって、光・光変調回路の出力信号を高周波電気信号に変換し、前記高周波電気信号で駆動して前記光クロック信号を発生する光クロック信号源と、前記光クロック信号源から出力される前記光クロック信号を前記光データ信号で変調する前記光・光変調回路とを備えることを特徴とする光クロック信号抽出装置。
【請求項2】
前記光クロック信号源からの出力の一部を、光遅延線と、前記光データ信号が入力された前記光・光変調回路とを通過させた後光検出器で受光し、前記光検出器から出力される高周波電気信号を増幅器およびバンドパスフィルタを介して、光クロック信号源の駆動電気信号として帰還して前記光データ信号と位相同期し、かつ振幅一定の前記光クロック信号を生成することを特徴とする請求項1記載の光クロック信号抽出装置。
【請求項3】
前記光クロック信号源は、単一周波数レーザー光源とその出力光を電気信号により変調する光強度変調器で構成したことを特徴とする請求項1又は2記載の光クロック信号抽出装置。
【請求項4】
前記単一周波数レーザー光源と前記光強度変調器の代わりに、能動モード同期半導体レーザーを用いることを特徴とする請求項3記載の光クロック信号抽出装置。
【請求項5】
前記光・光変調回路は、光データ信号と光クロック信号光源の出力とが互いに逆方向から伝搬する半導体光増幅器であり、光データ信号に含まれるクロック成分により光クロック信号の強度が相互利得変調により変調されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の光クロック信号抽出装置。
【請求項6】
前記半導体光増幅器の光クロック信号出力側に光バンドパスフィルタを付加して、光データ信号に含まれるクロック成分により前記光クロック信号の強度が相互位相変調により変調されることを特徴とする請求項5記載のクロック信号抽出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−60794(P2006−60794A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−210692(P2005−210692)
【出願日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】