説明

光ケーブルの製造方法および製造装置

【課題】上巻テープ切断のための切裂き始端となる切れ目を、予めテープパッドの状態で入れておく必要がなく、上巻テープの巻付け段階で入れることが可能な光ケーブルの製造方法と製造装置を提供する。
【解決手段】複数本の光ファイバ心線を、所定の巻付け角度で巻付けられる上巻テープで覆い、その外側をシースで被覆する光ケーブルの製造で、上巻テープ用のテープ材22のパスライン途中(ガイドローラ30aと30b間)に設けた切込み手段で、上巻テープの側縁にテープ切裂きの始端となる一定長の切込みを、一定間隔で入れて巻付けることを特徴とする。前記の切込み手段としては、回転する円盤カッター刃32a、一部に突出刃を有する回転円板またはレーザ光を用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数本の光ファイバ心線を上巻テープで覆い、その外側をシースで被覆する光ケーブルの製造方法とそのための製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の映像配信、IP電話、データ通信等のブロードバンドサービスの拡大により、光ファイバによる家庭向けのデータ通信サービス(FTTH:Fiber To The Home)の加入者が増加している。このFTTHでは、架空の幹線光ケーブルからドロップ光ケーブルを用いて加入者宅等に引き落されている。加入者宅への光ファイバの引き落しは、例えば、市街の電柱等に布設されている幹線光ケーブルから、通常、クロージャと称されている接続函で光ファイバ心線を分岐し、分岐された光ファイバ心線にドロップ光ケーブルを融着接続又は光コネクタを用いて接続している。
【0003】
幹線光ケーブルは、図6(A)に示すように、例えば、テンションメンバ3(抗張力体とも言う)が中心部に埋設され、外面側にSZ状に形成された複数条の溝2aを有する樹脂製のロッドからなるスペーサ2(スロットロッドとも言う)が用いられる。溝2aには、複数本の単心光ファイバ心線あるいは多心の光ファイバテープ心線4を収納し、スペーサ2の外周に上巻テープ6(押え巻とも言う)を巻き付けて光ファイバテープ心線4を覆っている。そして、上巻テープ6の外側を、押出し成形で形成されるシース7(外被とも言う)で被覆した形状のものが一般的である。
【0004】
上述のような幹線光ケーブル1の途中部分から、光ファイバを加入者宅等に引き落すには、ケーブルに収納されている複数本の光ファイバ心線の内から、1本〜数本の光ファイバ心線を引出す分岐作業が行われる。この分岐(中間後分岐とも言われている)作業は、例えば、特許文献1に開示のように、光ケーブルの分岐部分のシース7を一定の長さ(50cm程度)除去する。このシース7が除去された部分では、上巻テープ6が露出されるが、例えば、図6(B)に示すように、上巻テープ6をカッターやニッパー10等より切裂き開始端を形成してから切断する。次いで、上巻テープ6を巻ほぐして剥ぎ取り、内部の光ファイバ心線4を取り出している。
【特許文献1】特開平8−220393号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
スペーサ2上に巻き付けられた上巻テープ6は、光ファイバテープ心線4が溝2aから飛び出さないように保持し、また、シース7を成形する際の熱が光ファイバテープ心線4に影響するのを抑制する熱絶縁用として、さらには、光ケーブル内への止水のための吸水用として機能させることができる。この上巻テープ6と光ファイバテープ心線4との間には、特に保護層のようなものが存在しないため、この上巻テープ6に、ニッパー等の切裂き工具10を差し込んでテープ切断の切裂き始端を得ようとすると、光ファイバテープ心線4を傷つける恐れがある。また、光ファイバ心線の分岐作業は、電柱上やバケット車上というような作業環境の悪い状況で行うことが多く、できるだけ簡単で短時間に行えることが要望されている。
【0006】
上記の点を改善する方法として、図1(A)に示すように、上巻テープ6の側縁に間隔的に切れ目8を入れ、この切れ目8の部分を手の爪等で引っ掻いて三角形状の突出片10を起立させる。そして、切れ目8をテープ切裂きの始端とし、突出片10を手あるいはペンチ等の把持工具でテープ幅方向に引裂くことにより切断する方法が提案されている。なお、図1(A)では、上巻テープ6は隙間6aを有する開き巻きで形成され、この隙間6aの部分から粗巻き紐5の一部5aを露出させた例で示してある。
【0007】
上述の上巻テープに切れ目8を形成する方法としては、図1(B)に示すように、巻取り芯11に上巻テープ6用のテープ材をロール巻きしたテープパット12の状態で、一方のパッド面13に放射状に複数の切込み14を入れる方法が提案されている。そして、テープパット12から繰出したテープ材を光ケーブルのシース2上に巻付けたときに、放射状に入れた切込み14が、間隔的に形成された切れ目8とされる。
【0008】
しかしながら、テープパッド12に切込み14を入れる作業は、比較的に労力を要し作業時間がかかる。また、切込み14の切込み深さが一定とならず、切込みが深過ぎると、スペーサへの巻付け時に切断が生じやすく、一定の品質確保が難しくなる。さらに、テープパッド12の外径側と内径側で切込み14の間隔が異なり、切れ目8が入れられる間隔が一定でないという問題がある。
【0009】
本発明は、上述した実情に鑑みてなされたもので、上巻テープ切断のための切裂き始端となる切れ目を、予めテープパッドの状態で入れておく必要がなく、上巻テープの巻付け段階で入れることが可能な光ケーブルの製造方法と製造装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による光ケーブルの製造は、複数本の光ファイバ心線を、所定の巻付け角度で巻付けられる上巻テープで覆い、その外側をシースで被覆する光ケーブルの製造で、上巻テープ用のテープ材のパスライン途中に設けた切込み手段で、上巻テープの側縁にテープ切裂きの始端となる一定長の切込みを、一定間隔で入れて巻付けることを特徴とする。
前記の切込み手段としては、回転する円盤カッター刃、一部に突出刃を有する回転円板またはレーザ光を用いることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、上巻テープにテープ切断のための切裂き始端となる切れ目を入れるに際して、予めテープパッドの状態で切れ目を入れておく必要がなく、上巻テープを光ケーブルのスペーサに巻付ける段階の直前で、切れ目を自動的に入れることができ、作業性を大幅に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図により本発明の実施の形態を説明する。本発明の対象とする光ケーブルは、例えば、図1(A)で説明したのと同様な光ケーブル1で、中心にテンションメンバ3を埋設一体化し、外面側にSZ状又は螺旋状の複数の溝2aを設けたプラスチック材からなるスペーサ2(スロットとも言う)を用いて構成される。スペーサ2の溝2aには、複数本の単心光ファイバ心線あるいは多心の光ファイバテープ心線4が収納され、粗巻き紐5の巻き付けにより光ファイバテープ心線4が溝2aから脱落するのを防ぎ、その上に、間隔的に切れ目8を入れた上巻テープ6を、隙間6aを有する開き巻きで巻き付けている。
【0013】
なお、光ケーブルの上巻テープ6を開き巻きで形成し、隙間6aに粗巻き紐5の一部5aを露出させた構成とすることにより、シース7の成形時の熱により切断あるいはシース7と融着し、シース7の剥ぎ取り時に粗巻き紐8が短く切断され除去しやすくなる。しかし、本発明においては、特に開き巻きである必要はなく、隙間6aが形成されない重ね巻きで形成されていてもよい。また、スペーサを用いた光ケーブルの他に、スペーサを用いない形態の光ケーブルであってもよい。
【0014】
図2は、上述した上巻テープ6を巻付ける巻付装置の一例を示す図である。図中、21a,21bは光ケーブル、22はテープ材、22a,22bはテープパッド、23は巻付装置、24はベース台、25はテープ駆動部、26はテープ供給部、27aは光ケーブル入口、27bは光ケーブル出口、27cはガイド通路、28は回転フレーム、29は安全カバー、30a,30bはテープガイドローラを示す。
【0015】
図2に示す巻付装置23は、ベース台24上にテープ駆動部25とテープ供給部26とを備え、図1(A)で説明したように、スペーサ2に光ファイバ心線4を収納し、粗巻き紐5で脱落を防止した状態の光ケーブルの外周に上巻テープ6を巻付ける。上巻テープ6が施される前の光ケーブル21aは、巻付装置23の左側の光ケーブル入口27aから導入され、装置内でテープ材22が巻付けられる。上巻テープ6が施された後の光ケーブル21bは、テープ供給装置26の中心を貫通するように設けられたガイド通路27cを経て、右側の光ケーブル出口27bから送り出され、巻取り装置(図示せず)で巻き取られる。
【0016】
上巻テープのテープ材22は、図1(B)で説明したようなテープパッドの形態で装置内にセットされる。テープパッドは、装置右側のテープ供給装置26に、予備テープパッド22aとして複数個が保持され、順次、テープ駆動装置25の回転フレーム28内の所定位置に送り出すようにされている。回転フレーム28の所定位置に送り出されたテープパッド22bは、回転フレーム28とともに回転され、テープパッド22bから繰出されるテープ材22は、光ケーブル21aの外周に供給され螺旋状に巻付けられる。
【0017】
回転フレーム28は、安全のため安全カバー29で囲われており、また、回転フレーム28には、テープパッド22bからテープ材22を所定の巻付け位置Wに案内するガイドローラ30a,30bが設けられている。ガイドローラ30aと30bは、テープ材22のパスラインを形成し、回転フレーム28と一体に回転される。ガイドローラ30aは、テープパッド22bから繰出されるテープ材22を所定の方向に引き出し、また、ガイドローラ30bは、ガイドローラ30aから送られるテープ材22を巻付け位置Wで所定の巻付け角度となるように案内する。
【0018】
図3〜図5は本発明による光ケーブルの製造に係る特徴部分を説明する図で、図2の回転フレームによるテープ巻付け部分を示す図である。
図3は、図1で説明した上巻テープに切れ目8を入れる切込み手段として、回転円盤カッター装置32を用いる例である。図2で説明したガイドローラ30aと30bで形成されるパスラインの間に、パスラインカバー31を設け、このパスラインカバー31内に上巻テープ用のテープ材22を移動可能に挿通させる。パスラインカバー31には、切込み位置と切込み量を設定する溝31aが形成されている。
【0019】
回転円盤カッター装置32は、回転可能な薄い円盤カッター刃32aを有し、円盤カッター刃32aは、駆動装置のモータにより回転されると共に、一定のタイミングで矢印方向に往復移動される。円盤カッター刃32aは、パスラインカバー31の溝31aの部分から、カバー内に挿通されているテープ材22の側縁に所定の間隔で切込みを入れ、所定の切込み量を有する切れ目8を形成することができる。切込み量は、溝31aの深さを変えることにより変更することができる。また、この切れ目8の間隔は、円盤カッター刃32aの往復移動のタイミングを調整することにより、任意に設定することができる。
【0020】
図4は、図1で説明した上巻テープに切れ目8を入れる切込み手段として、一部に突出刃を有する回転円板装置33を用いる例である。図3の例と同様に、ガイドローラ30aと30bで形成されるパスラインの間に、パスラインカバー31を設け、このパスラインカバー31内に上巻テープ用のテープ材22を移動可能に挿通させる。また、パスラインカバー31には、切込み位置と切込み量を設定する溝31aが同様に形成される。
【0021】
回転円板装置33は、外周縁の一部に外方に突き出る突出刃33bを有する回転可能な円板33aで形成され、駆動装置のモータにより回転を与えられると共に、所定のタイミングで間欠的に回転されるか、又は一定の回転速度が与えられる。円板33aが回転されると、突出刃33bが、パスラインカバー31の溝31aを通してカバー内に挿通されているテープ材22の側縁に所定の間隔で切込みを入れ、所定の切込み量を有する切れ目8を形成することができる。切込み量は、溝31aの深さを変えることにより変更することができる。また、この切れ目を形成する間隔は、円板33aの回転のタイミング又は、回転速度を変えることにより、任意に設定することが可能である。
【0022】
図5は、図1で説明した上巻テープに切れ目8を入れる切込み手段として、レーザ光装置を用いる例である。図3の例と同様に、ガイドローラ30aと30bで形成されるパスラインの間に、パスラインカバー31を設け、このパスラインカバー31内に上巻テープ用のテープ材22を移動可能に挿通させる。また、パスラインカバー31には、切込み位置と切込み量を設定する溝31aが同様に形成される。
【0023】
レーザ光装置34は、回転フレーム28内に設置され、所定のタイミングで間欠的に照射される。照射されたレーザ光は、パスラインカバー31の溝31aを通してカバー内に挿通されているテープ材22の側縁に所定の間隔でテープ幅方向に切込みを入れ、所定の切込み量を有する切れ目8を入れることができる。切込み量は、溝31aの深さを変えることにより変更することができる。また、この切れ目を形成する間隔は、レーザ光の照射のタイミングを変えることにより、任意に設定することが可能である。
【0024】
上述したように、上巻テープ用のテープ材をテープパッドから繰出し、光ケーブルに巻き付けられる間のテープ材のパスライン途中で、テープ材の側縁にカッターやレーザ光で切込みを入れることにより、テープパッドの状態で予め切込みを入れることなく、上巻テープに切れ目を形成することができる。このため、光ケーブルへの巻付け時の張力でテープが切断されるのを軽減することができる。また、切込みを入れる間隔は、任意に設定でき、均一な間隔とすることが容易で、品質を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明で対象とする光ケーブルの一例と、上巻テープ用のテープパッドの一例を説明する図である。
【図2】光ケーブルに上巻テープを巻付ける巻付装置の一例を説明する図である。
【図3】本発明によるテープ材の側縁に円盤カッター刃で切込みを入れる例を説明する図である。
【図4】本発明によるテープ材の側縁に一部に突出刃を有する回転円板で切込みを入れる例を説明する図である。
【図5】本発明によるテープ材の側縁にレーザ光で切込みを入れる例を説明する図である。
【図6】従来の技術を説明する図である。
【符号の説明】
【0026】
1…光ケーブル、2…スペーサ、2a…溝、3…テンションメンバ、4…光ファイバテープ心線、5…粗巻き紐、6…上巻テープ、7…シース、8…切れ目、9…突出片、21a,21b…光ケーブル、22…テープ材、22a,22b…テープパッド、23…巻付装置、24…ベース台、25…テープ駆動部、26…テープ供給部、27a…光ケーブル入口、27b…光ケーブル出口、27c…ガイド通路、28…回転フレーム、29…安全カバー、30a,30b…テープガイドローラ、31…パスラインカバー、32…回転円盤カッター装置、33…回転円板装置、34…レーザ装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の光ファイバ心線を、所定の巻付け角度で巻付けられる上巻テープで覆い、その外側をシースで被覆する光ケーブルの製造方法であって、
前記上巻テープ用のテープ材のパスライン途中に設けた切込み手段で、前記上巻テープの側縁にテープ切裂きの始端となる一定長の切込みを、一定間隔で入れて巻付けることを特徴とする光ケーブルの製造方法。
【請求項2】
前記切込み手段に、回転する円盤カッター刃を用いることを特徴とする請求項1に記載の光ケーブルの製造方法。
【請求項3】
前記切込み手段に、一部に突出刃を有する回転円板を用いることを特徴とする請求項1に記載の光ケーブルの製造方法。
【請求項4】
前記切込み手段に、レーザ光を用いることを特徴とする請求項1に記載の光ケーブルの製造方法。
【請求項5】
複数本の光ファイバ心線を、所定の巻付け角度で巻付けられる上巻テープで覆い、その外側をシースで被覆する光ケーブルの製造装置であって、
前記上巻テープ用のテープ材のパスライン途中に、前記上巻テープの側縁にテープ切裂きの始端となる一定長の切込みを、一定間隔で入れる切込み手段を備えていることを特徴とする光ケーブルの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−103994(P2009−103994A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−276748(P2007−276748)
【出願日】平成19年10月24日(2007.10.24)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】