説明

光センサー

【課題】信号対雑音比が改善され構造が単純な光センサーを提供する。
【解決手段】光熱変換体と焦電体とが熱結合される。光熱変換体には周期構造が形成される。周期構造においては、単位構造が周期的に配列される。単位構造の一部のみが負の誘電率を持つ物質で占められる。焦電体の電気的性質は、熱より変化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光センサーに関する。
【背景技術】
【0002】
熱型の光センサーにおいては、光が吸収され、吸収された光が熱へ変換される。発生した熱は、熱感応体の電気抵抗、自発分極量等を変化させる。電気抵抗、自発分極量等の変化により、受光した光の有無、受光した光の光量等が測定される。
【0003】
熱型の光センサーの感度を向上するためには、光を効率よく吸収することが望まれる。
【0004】
特許文献1及び2は、光を効率よく吸収する熱型の光センサーに関する。
【0005】
特許文献1の熱型の光センサーにおいては、受光面に凹凸が形成され、赤外線の反射が抑制され、赤外線が効率よく吸収される。凹凸が形成される構造物を構成する物質としてSiCO,SiO,SiN,SiON及びSiNが列挙される。列挙された物質は、正の誘電率を有すると考えられる。
【0006】
特許文献2の熱型の光センサーにおいては、キャビティーが形成される。キャビティーにより、特定の波長の光が吸収される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−210293号公報
【特許文献2】特開2010−19692号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の熱型の光センサーによれば、赤外線が効率よく吸収されるが、特定の波長以外の光が吸収される。このため、信号対雑音比が良好ではない。
【0009】
特許文献2の熱型の光センサーによれば、特定の波長の光が選択的に吸収される。しかし、構造が複雑になる。このため、作製が困難であり、信頼性が良好ではない。
【0010】
本発明は、これらの問題を解決するためになされる。本発明の目的は、信号対雑音比が改善され構造が単純な光センサーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、光センサーに向けられる。
【0012】
本発明の第1の局面においては、光熱変換体と熱感応体とが熱結合される。光熱変換体には周期構造が形成される。周期構造においては、単位構造が周期的に配列される。単位構造の各々の一部のみが負の誘電率を持つ物質で占められる。熱感応体の電気的性質は、熱より変化する。
【0013】
本発明の第2の局面は、本発明の第1の局面にさらなる事項を付加する。本発明の第2の局面においては、光熱変換体が電極を兼ねる。
【0014】
本発明の第3の局面は、本発明の第1又は第2の局面にさらなる事項を付加する。本発明の第3の局面においては、熱感応体が焦電体、サーミスタ又は熱電変換体である。
【0015】
本発明の第4から第6までの局面は、本発明の第1から第3までのいずれかの局面にさらなる事項を付加する。本発明の第4の局面においては、周期構造が1次元周期構造である。本発明の第5の局面においては、周期構造が2次元周期構造である。本発明の第6の局面においては、周期構造が3次元周期構造である。
【0016】
本発明の第7の局面は、本発明の第1から第6までのいずれかの局面にさらなる事項を付加する。本発明の第7の局面においては、光熱変換体の周期構造形成面に周期構造が形成される。目標とする吸収ピーク波長の光の周期構造形成面における実効的な波長より周期構造の構造周期が小さい。単位構造において負の誘電率を持つ物質が占める幅が表皮厚より大きい。
【0017】
本発明の第8の局面は、本発明の第1から第6までのいずれかの局面にさらなる事項を付加する。本発明の第8の局面においては、光熱変換体の周期構造形成面に周期構造が形成される。目標とする吸収ピーク波長の光の周期構造形成面における実効的な波長の自然数倍に周期構造の構造周期が一致する。単位構造において負の誘電率を持つ物質が占める幅が表皮厚より大きい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の第1の局面によれば、特定の波長の光が光熱変換体に吸収され、特定の波長以外の光が光熱変換体に反射される。光センサーの波長選択性が向上し、光センサーの信号対雑音比が改善される。光センサーに蓄積される熱が減少し、光センサーの時間応答性が改善される。光センサーの構造が単純になる。
【0019】
本発明の第2の局面によれば、光センサーの構造がさらに単純になる。
【0020】
本発明の第3の局面によれば、光センサーに好適な熱感応体が得られる。
【0021】
本発明の第4の局面によれば、光熱変換体が特定の偏光方向の光を吸収し、特定の偏光方向の検出する光センサーが得られる。
【0022】
本発明の第5の局面によれば、光熱変換体が吸収する光の偏光方向依存性が抑制され、光センサーが検出する光の偏光方向依存性が抑制される。
【0023】
本発明の第6の局面によれば、多重反射により光の吸収の効率が向上する。また、吸収率の3次元角度依存性が抑制される。
【0024】
本発明の第7の局面によれば、周期構造形成面において回折が生じにくくなり、隣接する負の誘電率を持つ物質が占める部分の間隙への共鳴が利用しやすくなる。
【0025】
本発明の第8の局面によれば、周期構造形成面に沿う方向の共鳴が発生し、吸収ピーク線幅が狭くなる。
【0026】
これらの及びこれら以外の本発明の目的、特徴、局面及び利点は、添付図面とともに考慮されたときに下記の本発明の詳細な説明によってより明白となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】第1実施形態の光センサーの断面図である。
【図2】第1実施形態の光熱変換体の斜視図である。
【図3】第1実施形態の光熱変換体の断面図である。
【図4】上部電極に1次元周期構造が形成された状態を示す断面図である。
【図5】第1実施形態の光熱変換体の変形例の断面図である。
【図6】第1実施形態の光熱変換体の変形例の断面図である。
【図7】第1実施形態の光熱変換体の変形例の断面図である。
【図8】第1実施形態の光熱変換体の変形例の断面図である。
【図9】周期構造形成面が被覆物で被覆された状態を示す断面図である。
【図10】光熱変換体と光の偏光方向との関係を示す断面図である。
【図11】設計例1の吸収スペクトルを示すグラフである。
【図12】第2実施形態の光熱変換体の斜視図である。
【図13】第2実施形態の単位構造の斜視図である。
【図14】第2実施形態の構造パラメーターを示す斜視図である。
【図15】第2実施形態の負誘電率部の配列の変形例を示す平面図である。
【図16】第2実施形態の負誘電率部の配列の変形例を示す平面図である。
【図17】第2実施形態の負誘電率部の配列の変形例を示す平面図である。
【図18】設計例2の吸収スペクトルを示すグラフである。
【図19】第3実施形態の光熱変換体の斜視図である。
【図20】第3実施形態の単位構造の斜視図である。
【図21】第3実施形態の構造パラメーターを示す斜視図である。
【図22】設計例3の吸収スペクトルを示すグラフである。
【図23】第3実施形態の光熱変換体の変形例の斜視図である。
【図24】第3実施形態の負誘電率部の配列の変形例を示す斜視図である。
【図25】第3実施形態の負誘電率部の配列の変形例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
{第1実施形態}
(概略)
第1実施形態は、光センサーに関する。第1実施形態の光センサーは、特定の波長の光を選択的に検出する。
【0029】
図1の模式図は、第1実施形態の光センサーの断面図である。図2の模式図は、第1実施形態の光熱変換体の斜視図である。図3の模式図は、第1実施形態の光熱変換体の断面図である。
【0030】
図1に示すように、光センサー1000は、光電変換部1002、保持基板1004、配線1006、梁1008、貫通電極1010、パッケージ1012及び窓板1014を備える。光電変換部1002は、光熱変換体1020、上部電極1022、焦電体1024及び下部電極1026を備える。光電変換部1002が自重に耐える場合は、光電変換部1002のみによって光センサーが構成されてもよい。
【0031】
図2及び図3に示すように、光熱変換体1020の周期構造形成面1030には、1次元周期構造1040が形成される。1次元周期構造1040は、光熱変換体1020の光吸収能に波長選択性を付与する。1次元周期構造1040の構造パラメーターによっては、1次元周期構造1040が光熱変換体1020の光吸収能に偏光方向選択性を付与する場合もある。
【0032】
光熱変換体1020に光が照射された場合は、特定の波長の光が光熱変換体1020に吸収され、特定の波長以外の光は光熱変換体1020に反射される。吸収された光は熱に変換される。発生した熱は焦電体1024に伝えられる。焦電体1024に熱が伝えられた場合は、焦電体1024の自発分極量が変化し、自発分極量の変化に応じた電荷が上部電極1022及び下部電極1026に誘起される。上部電極1022と下部電極1026との間には、電圧が発生する。発生した電圧は、貫通電極1010及び配線1006を経由して外部の回路に伝えられ、受光した光の有無、受光した光の光量等の測定に利用される。
【0033】
光センサー1000においては、波長選択性が向上し、信号対雑音比が改善される。また、蓄積される熱が少なくなり、時間応答性が改善される。さらに、構造が単純になる。
【0034】
(光熱変換体と焦電体との熱結合)
光熱変換体1020と上部電極1022とは直接的に接触し、上部電極1022と焦電体1024とは直接的に接触する。光熱変換体1020と上部電極1022とは熱結合され、上部電極1022と焦電体1024とは熱結合される。光熱変換体1020と焦電体1024とは上部電極1022を介して熱結合される。これにより、光熱変換体1020において発生した熱が焦電体1024へ伝えられる。
【0035】
図4の模式図(断面図)に示すように、光熱変換体1020及び上部電極1022に代えて、1次元周期構造1040aが形成された上部電極1020aが採用され、上部電極1020aが光熱変換体を兼ねてもよい。上部電極1020aは焦電体1024に直接的に接触し、上部電極1020aと焦電体1024とは直接的に熱結合される。上部電極1020aに1次元周期構造1040aが形成される場合は、構造がさらに単純になる。また、上部電極1020aの放熱性能が向上する。
【0036】
光熱変換体1020と焦電体1024とが上部電極1022を介さずに直接的に接触し、光熱変換体1020と焦電体1024とが直接的に熱結合されてもよい。光熱変換体1020と上部電極1022との間に放熱グリス、放熱シート等の熱伝達媒体が挟まれ、光熱変換体1020と焦電体1024とが熱伝達媒体及び上部電極1022を介して熱結合されてもよい。
【0037】
(熱感応体)
焦電体1024は、Pb(Zr1-xTix)O3(PZT)系圧電セラミックス、Sr0.5Ba0.5Nb26等からなる。
【0038】
焦電体1024が他の種類の熱感応体に置き換えられてもよい。熱感応体は、熱により電気的性質が変化する物体である。
【0039】
熱感応体は、例えば、サーミスタである。サーミスタは、温度によって電気抵抗が変化する抵抗体である。熱感応体がサーミスタである場合は、サーミスタに熱が伝えられたときにサーミスタの電気抵抗が変化する。電気抵抗の変化は、外部の回路へ伝えられ、受光した光の有無、受光した光の光量等の測定に利用される。
【0040】
サーミスタは、望ましくは、温度抵抗係数が大きい材料からなる。サーミスタは、例えば、酸化バナジウム、NiMoCo酸化物、Ti金属薄膜、多結晶シリコン薄膜、非晶質シリコン薄膜、非晶質シリコンゲルマニウム薄膜、MnO3薄膜、YBaCuO薄膜等からなる。
【0041】
熱感応体が熱電変換体であってもよい。熱電変換体は、ゼーベック効果により熱エネルギーを電気エネルギーへ変換する。熱電変換体は、例えば、熱電対である。熱電対においては、熱電能を有する2種類の材料が用いられる。熱電能を有する2種類の材料の対には、ビスマスとアンチモンとの対、P型ポリシリコンとN型ポリシリコンとの対等が知られている。熱電変換体がサーモパイルであってもよい。サーモパイルにおいては、2個以上の熱電対が直列に接続される。熱感応体が熱電変換体である場合は、熱電変換体に熱が伝えられたときに熱電変換体に熱起電力が発生する。熱起電力は、外部の回路へ伝えられ、受光した光の有無、受光した光の光量等の測定に利用される。
【0042】
熱感応体がダイオードであってもよい。熱感応体がダイオードである場合は、ダイオードに熱が伝えられたときにダイオードのシリコンのPN接合の特性が変化する。シリコンのPN接合の特性の変化は、外部の回路に伝えられ、受光した光の有無、受光した光の光量等の測定に利用される。
【0043】
熱感応体が導電体からなる場合は、熱感応体の材質と光熱変換体の材質とが一致させられ、熱感応体と光熱変換体とが一体化され、熱感応体と光熱変換体とが明確な境界を持たない連続物であってもよい。
【0044】
(光センサーの構造)
図1に示すように、保持基板1004の保持面1050には配線1006が形成される。配線1006は、膜体であり、導電体からなる。
【0045】
梁1008には貫通電極1010が埋設される。貫通電極1010は、導電体からなる。貫通電極1010は、梁1008の上面1060と下面1062とを貫通する。
【0046】
上部電極1022及び下部電極1026は、焦電体1024を挟んで対向する。
【0047】
パッケージ1012には開口1070が形成される。開口1070には窓板1014がはめられる。
【0048】
配線1006が形成された保持基板1004の保持面1050には、貫通電極1010が埋設された梁1008が保持される。配線1006と梁1008の下面1062に露出する貫通電極1010とは接触し、配線1006と貫通電極1010とは導通する。
【0049】
梁1008の上面1060には光電変換部1002が固定される。光電変換部1002の主要部は、梁1008の薄肉部1072に固定される。これにより、光電変換部1002が保持基板1004から熱的に分離される。
【0050】
梁1008の上面1060には窓板1014がはめられたパッケージ1012がさらに固定される。パッケージ1012の内部には、光電変換部1002が収容される。これにより、光電変換部1002が保護される。
【0051】
周期構造形成面1030は、窓板1014を透過した光が照射される受光面になる。
【0052】
(光熱変換体)
図2及び図3に示すように、1次元周期構造1040においては、単位構造1070が周期方向xの1方向に周期的に配列され、1次元格子が形成される。
【0053】
周期構造形成面1030に光が照射された場合は、周期構造形成面1030に沿う方向に当該光が回折又は散乱され、当該光の多重吸収が生じる。その結果、特定の波長の光に対しては強い吸収が生じるが、特定の波長以外の光に対しては吸収が生じず、特定の波長以外の光は反射される。
【0054】
単位構造1070の各々は、負誘電率部1080及び正誘電率部1082を備える。負誘電率部1080は負の誘電率を持つ。正誘電率部1082は正の誘電率を持つ。負誘電率部1080の各々の内部における誘電率は、典型的には均一であるが、不均一であってもよい。正誘電率部1082の各々の内部における誘電率は、典型的には均一であるが、不均一であってもよい。
【0055】
負誘電率部1080は、基体部1090から突出し周期方向xに垂直な方向yに延在する線状突起である。正誘電率部1082は、方向yに延在する線状溝である。基体部1090は、負の誘電率を持つ。負誘電率部1080の材質及び基体部1090の材質は、典型的には同じであるが、異なってもよい。基体部1090は、周期方向x及び方向yに平行に面状に広がる。
【0056】
負誘電率部1080及び正誘電率部1082は、周期方向xに交互に配列される。正誘電率部1082は、隣接する2個の負誘電率部1080の間隙1100である。間隙1100は、真空であってもよい。間隙1100が誘電体で満たされ、誘電体で満たされた間隙1100が正誘電率部1082とされてもよい。誘電体は、気体、液体及び固体のいずれでもよい。間隙1100が開放され、空気又は空気以外の気体で満たされた間隙1100が正誘電率部1082とされてもよい。共通して言えることは、単位構造1070の一部のみが負の誘電率を持つ物質で占められ、単位構造1070の少なくとも一部は負の誘電率を持つ物質で占められないことである。2個以上の負誘電率部1080が単位構造1070の各々に設けられてもよい。2個以上の正誘電率部1082が単位構造1070の各々に設けられてもよい。周期構造形成面1030が露出する場合は、光熱変換体1020の表面の凹凸が増え、光熱変換体1020の放熱性能が向上する。
【0057】
負誘電率部1080の断面形状は矩形である。ただし、断面形状が矩形である負誘電率部1080に代えて、図5の模式図(断面図)に示す断面形状が先細り形である負誘電率部1080a、図6の模式図(断面図)に示す断面形状が円形である負誘電率部1080b、図7の模式図(断面図)に示す断面形状が三角形である負誘電率部1080c、図8の模式図(断面図)に示す断面形状が台形である負誘電率部1080d等が用いられてもよい。
【0058】
(負の誘電率及び正の誘電率)
複素比誘電率εcは、屈折率n及び消衰定数κを用いて、式(1)であらわされる。
【0059】
【数1】

【0060】
物質が負の誘電率を持つとは、その物質の複素比誘電率εcの実部n2−κ2が負であることを意味する。消衰係数κが屈折率nより大きい場合に複素比誘電率εcの実部は負になる。
【0061】
負の誘電率を持つ物質は、金属、合金等の導電体である。望ましくは、負の誘電率を持つ金属として金(Au)が用いられる。金には、酸化されにくいという利点がある。
【0062】
金に代えて、アルミニウム(Al)、銅(Cu)又は銀(Ag)が用いられてもよい。これらの金属には、導電性が良好であり、理想金属に近いという利点がある。
【0063】
金に代えて、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)又はオスミウム(Os)が用いられてもよい。これらの金属には、熱的性質及び化学的性質が良好であり、高温でも酸化されにくく、接触する物と反応しにくいという利点がある。
【0064】
不純物がドープされn型半導体となったGaAs等は、可視光領域においては半導体であるが、遠赤外光領域からテラヘルツ光領域までにおいては導電体である。したがって、遠赤外光領域からテラヘルツ光領域までの光を検出する光センサー1000においては、当該GaAs等も負の誘電率を持つ物質である。
【0065】
負の誘電率を持つ物質からなる物体に光を吸収するための構造が形成されない場合は、当該物体は光を吸収せずに反射する。光熱変換体1020を構成する負の誘電率を持つ物質の望ましい特性は、光を吸収するための構造が形成されない場合に目標とする吸収波長における反射率が高いことである。
【0066】
物質が正の誘電率を持つとは、その物質の複素比誘電率εcの実部n2−κ2が正であることを意味する。消衰係数κが屈折率nより小さい場合に複素比誘電率εcの実部は正になる。
【0067】
正の誘電率を持つ物質は、空気等の透明な誘電体である。真空の誘電率は1であり、真空は正の誘電率を持つ。空気の誘電率は1とみなしてよい。空気及び真空は、すべての波長領域において、正の誘電率を持つ望ましい物質である。望ましくは、正の誘電率を持つ物質として、赤外光領域においてはSi(屈折率3.48)、SiOx(屈折率1.4〜3.48)又はAl23(屈折率1.8)が用いられ、波長400〜800nmの可視光領域においてはGaAs(屈折率3.3)、Si(屈折率3.7)、Ta25(屈折率2.5)又はSiOx(屈折率1.4〜3.7)が用いられる。これらに代えて、ダイヤモンド(C)、III−V族半導体、II−VI族半導体、炭化シリコン(SiC)、フッ化カルシウム(CaF)、窒化シリコン(Si34)又は酸化チタン(TiO2)が用いられてもよい。ダイヤモンドは、可視光領域の全体において用いられる。III−V族半導体には、AlGaAs、GaN、GaAsP、GaP、InGaN、AlGaInP等がある。AlGaAsは、近赤外光領域及び赤色光領域において用いられる。GaNは、緑色光領域及び青色光領域において用いられる。GaAsPは、赤色光領域、橙色光領域及び青色光領域において用いられる。GaPは、赤色光領域、黄色光領域及び緑色光領域において用いられる。InGaNは、青緑色光領域及び青色光領域において用いられる。AlGaInPは、橙色光領域、黄緑色光領域、黄色光領域及び緑色光領域において用いられる。II−VI族半導体には、ZnSe等がある。ZnSeは、青色光領域において用いられる。屈折率の選択の範囲を広げるために、TiO2、SiN、ZnS等の複数の物質が組み合わされて用いられてもよく、フォトニック結晶構造を持つ材料が用いられてもよい。
【0068】
(実効的な波長)
光の実効的な波長λeは、光が存在する場所の屈折率により決まる。また、光が間隙1100又は1次元周期構造1040に共鳴する場合は、共鳴する電磁波の大部分が正誘電率部1082及び周期構造形成面1030の近傍に存在する。このため、実効的な波長λeは、正誘電率部1082の屈折率、周期構造形成面1030の近傍の屈折率及び正誘電率部1082が1次元周期構造1040に占める割合に依存する。
【0069】
例えば、光熱変換体1020が真空中に設置され、正誘電率部1082が真空の間隙1100であり、周期構造形成面1030の近傍が真空である場合は、実効的な波長λeは、真空中の波長λ0に一致する。
【0070】
光熱変換体1020が空気中に設置され、正誘電率部1082が空気で満たされた間隙1100であり、周期構造形成面1030の近傍が空気で満たされる場合は、実効的な波長λeは、真空中の波長λ0に一致するとみなしてよい。
【0071】
図9の模式図(断面図)に示すように周期構造形成面1030が屈折率nの被覆物1150で被覆され、正誘電率部1082が屈折率nの被覆物1150で満たされた間隙1100であり、周期構造形成面1030の近傍が屈折率nの被覆物1150で満たされる場合は、実効的な波長λeは、真空中の波長λ0を屈折率nで除する(λ0/n)ことにより得られる。
【0072】
フォトニック結晶構造等の微細構造が周期構造形成面1030に設けられ、実効的な波長λeが真空中の波長λ0からずれる場合もある。この場合は、周期構造形成面1030における実効的な屈折率nが数値計算等により求められる。実効的な波長λeは、真空中の波長λ0を実効的な屈折率nで除する(λ0/n)ことにより得られる。
【0073】
(構造パラメーター)
図3に示すように、第1実施形態においては、周期方向xの単位構造1070の寸法である構造周期Λ、周期方向xの負誘電率部1080の寸法である負誘電率部1080の幅T及び基体部1090から負誘電率部1080が突出する寸法である負誘電率部1080の高さDが構造パラメーターとして採用される。ただし、他の構造パラメーターが採用されてもよい。
【0074】
(間隙への共鳴の利用)
間隙1100への共鳴が利用される場合は、目標とする吸収ピーク波長の光を光熱変換体1020に選択的に吸収させるために、間隙1100が導波路として用いられる。また、目標とする吸収ピーク波長の光が間隙1100を伝播するように1次元周期構造1040の構造パラメーターが選択される。
【0075】
(間隙への共鳴が利用される場合の構造パラメーター)
間隙1100への共鳴が利用される場合は、構造周期Λ及び負誘電率部1080の幅Tは、光熱変換体1020に吸収させる光の偏光方向によって変化する。
【0076】
図10の模式図は、光熱変換体と光の偏光方向との関係を示す断面図である。
【0077】
間隙1100を伝播する光の導波モードには、伝播方向に電界成分が存在しないTEモード及び伝播方向に磁界成分が存在しないTMモードがある。TEモード及びTMモードは、それぞれ、図10に示す空間中のTE波及びTM波に結合する。
【0078】
目標とする吸収ピーク波長のTE波が効率よく吸収されるためには、目標とする吸収ピーク波長のTE波の周期構造形成面1030における実効的な波長λeにおいて間隙1100を伝播するTEモードの光が存在するように構造パラメーターが決定される。この場合は、間隙1100の幅(Λ−T)は、式(2)を満たさなければならない。
【0079】
【数2】

【0080】
目標とする吸収ピーク波長のTM波が効率よく吸収されるためには、目標とする吸収ピーク波長のTM波の実効的な波長λeにおいて間隙1100を伝播するTMモードの光が存在するように構造パラメーターが決定される。この場合は、間隙1100の幅(Λ−T)は、式(3)を満たさなければならない。
【0081】
【数3】

【0082】
TMモードにはプラズモンモードと呼ばれる導波モードが存在するため、式(3)に示すように間隙1100の幅(Λ−T)が狭くなることも許される。すなわち、間隙1100の幅(Λ−T)が式(4)を満たすことも許される。
【0083】
【数4】

【0084】
これらのことから、目標とする吸収ピーク波長のTE波及びTM波の両方を吸収させるためには、構造周期Λ及び負誘電率部1080の幅Tは、式(5)を満たさなければならない。
【0085】
【数5】

【0086】
また、目標とする吸収ピーク波長のTM波を吸収させ目標とする吸収ピーク波長のTE波を反射させるためには、構造周期Λ及び負誘電率部1080の幅Tは、式(6)を満たさなければならない。
【0087】
【数6】

【0088】
構造周期Λは、望ましくは、目標とする吸収ピーク波長の光の実効的な波長λeより短く、式(7)を満たす。これにより、周期構造形成面1030において回折が生じにくくなり、間隙1100への共鳴を利用しやすくなる。
【0089】
【数7】

【0090】
単位構造1070の一部のみが負の誘電率を持つ物質に占められることから、構造周期Λ及び負誘電率部1080の幅Tは、式(8)を満たさなければならない。
【0091】
【数8】

【0092】
多重吸収を十分に生じさせるためには、負誘電率部1080の内部において電子が十分に振動しなければならない。このため、負誘電率部1080の幅Tは、式(9)を満たさなければならない。
【0093】
【数9】

【0094】
表皮厚Δは、光学分野において慣用されているように、光の電界成分の法線方向振動成分の強度が負誘電率部1080の表面の1/10に低下するまでの厚さと定義される。表皮厚Δは、負誘電率部1080の消衰係数κを用いて、式(10)であらわされる。
【0095】
【数10】

【0096】
式(8)及び式(9)から、構造周期Λは、式(11)を満たさなければならない。
【0097】
【数11】

【0098】
負誘電率部1080の高さDは、望ましくは、間隙1100の開口1160が開放端となり間隙1100の底1162が閉鎖端となる共鳴が生じるように選択される。負誘電率部1080の高さDは、望ましくは、式(12)を満たす。
【0099】
【数12】

【0100】
開放端の補正項φ0は、光熱変換体1020の構造に依存する。開放端の補正項φ0は、開口1160からの電界の腹の実効的なずれを反映する。伝播定数β及び開放端の補正項φ0は、有限差分時間領域法(FDTD)法、厳密結合波解析法(RCWA)法等の数値計算法により求められる。
【0101】
(1次元周期構造への共鳴)
間隙1100への共鳴に代えて、又は、間隙1100への共鳴に加えて、1次元周期構造1030への共鳴が利用されてもよい。
【0102】
(1次元周期構造への共鳴が利用される場合の構造パラメーター)
1次元周期構造1030への共鳴が利用される場合は、構造周期Λが、目標とする吸収ピーク波長の光の周期構造形成面1030における実効的な波長λeの自然数倍に一致しなければならず、式(13)を満たさなければならない。
【0103】
【数13】

【0104】
これにより、周期構造形成面1030において回折が生じ、周期構造形成面1030に沿う方向の共鳴が発生し、吸収ピーク線幅が狭くなる。
【0105】
負誘電率部1080の幅Tは、隣接する間隙1100の間の相互作用を生じさせる必要があるため、目標とする吸収ピーク波長の光の実効的な波長λeより短くなければならず、式(14)を満たさなければならない。
【0106】
【数14】

【0107】
周期構造1030への共鳴が利用される場合と同じく、負誘電率部1080の幅Tは、式(15)を満たさなければならない。
【0108】
【数15】

【0109】
(設計の手順)
上述したように、構造周期Λ、負誘電率部1080の幅T及び負誘電率部1080の高さDの間には、目標とする吸収ピーク波長の光を効率よく吸収するのに適した望ましい関係が存在する。したがって、光熱変換体1020の材質及び基本構造が決定された後は、当該望ましい関係が満たされるように構造周期Λ、負誘電率部1080の幅T及び負誘電率部1080の高さDが概算され、目標とする吸収ピーク波長の光が効率よく吸収されるように構造周期Λ、負誘電率部1080の幅T及び負誘電率部1080の高さDが数値計算により最適化される。
【0110】
(設計例1)
設計例1は、第1実施形態の光熱変換体1020の設計に関する。
【0111】
設計例1においては、目標とする吸収ピーク波長が4μmに設定される。目標とする吸収ピーク波長は真空中の波長であらわされる。設計例1においては、負誘電率部1080及び基体部1090がイリジウムからなり、光熱変換体1020が空気中に設置され、間隙1100が空気で満たされ、周期構造形成面1030の近傍が空気で満たされる場合が検討される。
【0112】
イリジウムは、可視光領域から赤外光領域を経てテラヘルツ光領域までの波長にわたって負の誘電率を持つ。真空中の波長が4μmである光に対して、イリジウムの複素比誘電率は−529.397+i231.1057であり、イリジウムは負の誘電率を持つ。間隙1100及び周期構造形成面1030の近傍は空気で満たされるので、周期構造形成面1030における実効的な波長λeは、真空中の波長の4μmに一致するとみなしてよい。
【0113】
設計例1においては、構造周期Λが1.6μmに決定され、負誘電率部1080の幅Tが1.5μmに決定され、負誘電率部1080の高さDが0.7μmに決定される。これらは、式(6)から(8)までの関係を満たす。
【0114】
周期構造形成面1030に垂直に入射する光について、TE波及びTM波の吸収スペクトルをRCWA法により計算した結果が図11に示される。図11に示すように、TM波の吸収スペクトルには4μmにピークがあらわれるが、TE波の吸収スペクトルにはピークがあらわれない。したがって、設計例1の光熱変換体1020は、真空中の波長が4μmのTM波を選択的に吸収する。また、1から吸収率を減ずることにより反射率が得られるので、設計例1の光熱変換体1020は、真空中の波長が4μmのTM波以外を反射する。より一般的には、第1実施形態の光熱変換体1020は、特定の波長の光を吸収し、それ以外の光を反射する。構造パラメーターによっては、第1実施形態の光熱変換体1020は、特定の波長及び偏光方向の光を吸収し、それ以外の光を反射する。これにより、特定の波長の光の吸収を維持したまま光熱変換体1020に発生する熱を減少させることができ、光センサー1000の熱特性が向上する。また、構造パラメーターによっては、特定の偏光方向の光を検出する光センサーが得られる。
【0115】
{第2実施形態}
第2実施形態は、第1実施形態の光熱変換体を置き換える光熱変換体に関する。以下では、第1実施形態の光熱変換体と第2実施形態の光熱変換体との重要な共通点及び相違点が説明される。説明されない事項については、第1実施形態の光熱変換体の構成が、そのまま又は変形されてから、第2実施形態の光熱変換体において採用される。第2実施形態の光熱変換体の構成物には、第1実施形態の光熱変換体の対応する構成物と同じ名称が付与される。
【0116】
図12の模式図は、第2実施形態の光熱変換体の斜視図である。図13の模式図は、第2実施形態の単位構造の斜視図である。
【0117】
図12に示すように、光熱変換体2020の周期構造形成面2030には、2次元周期構造2040が形成される。2次元周期構造2040においては、周期方向x及びyの2方向に単位構造2070が周期的に配列され、2次元格子が形成される。側方から見た場合は2次元周期構造2040は1次元周期構造でもあり、その構造パラメーターも第1実施形態と同様に求められる。
【0118】
単位構造2070の各々は、負誘電率部2080及び正誘電率部2082を備える。負誘電率部2080は負の誘電率を持つ。正誘電率部2082は正の誘電率を持つ。
【0119】
負誘電率部2080は、基体部2090から突出する四角柱突起である。四角柱突起に代えて円柱突起、円錐突起等が採用されてもよい。負誘電率部2080となる場所に凸構造を形成することに代えて正誘電率部2082となる場所に凹構造を形成することにより2次元周期構造2040が形成されてもよい。正誘電率部2082の集合は、格子形状を有する。
【0120】
(構造パラメーター)
図14の模式図(斜視図)に示すように、第2実施形態においては、周期方向xの単位構造2070の寸法である構造周期Λx、周期方向yの単位構造2070の寸法である構造周期Λy、周期方向xの負誘電率部2080の寸法である負誘電率部2080の幅Lx、周期方向yの負誘電率部2080の寸法である負誘電率部2080の幅Ly、基体部2090から負誘電率部2080が突出する寸法である負誘電率部2080の高さLzが構造パラメーターとして採用される。ただし、他の構造パラメーターが採用されてもよい。
【0121】
周期方向x及びyは垂直をなし、周期方向xの構造周期Λxと周期方向yの構造周期Λyとは一致する。したがって、負誘電率部2080の配列は、図15の模式図(平面図)に示すように、正方格子配列となっている。ただし、周期方向x及びyが垂直をなしていなくてもよく、周期方向xの構造周期Λxと周期方向yの構造周期Λyとが異なってもよい。したがって、図16の模式図(平面図)に示すように負誘電率部2080の配列が三角格子配列であってもよいし、図17の模式図(平面図)に示すように負誘電率部2080の配列が六角格子配列であってもよい。正誘電率部2082となる場所に凹構造を形成することにより2次元周期構造2040が形成される場合は、当該凹部の配列も、正方格子配列、三角格子配列及び六角格子配列のいずれであってもよい。
【0122】
(設計例2)
設計例2は、第2実施形態の光熱変換体2020の設計に関する。
【0123】
設計例2においては、目標とする吸収ピーク波長が4μmに設定される。目標とする吸収ピーク波長は真空中の波長であらわされる。設計例2においては、負誘電率部2080及び基体部2090がイリジウムからなり、光熱変換体2020が空気中に設置され、間隙2100が空気で満たされ、周期構造形成面2030の近傍が空気で満たされる場合が検討される。
【0124】
設計例2においては、周期方向xの構造周期Λx及び周期方向yの構造周期Λyが1.6μmに決定され、周期方向xの負誘電率部2080の幅Lx及び周期方向yの負誘電率部2080の幅Lyが1.5μmに決定され、負誘電率部2080の高さLzが0.7μmに決定される。
【0125】
周期構造形成面2030に垂直に入射する光について、TE波及びTM波の吸収スペクトルをRCWA法により計算した結果が図18に示される。図18に示すように、TM波及びTE波の吸収スペクトルには4μmにピークがあらわれる。したがって、設計例2の光熱変換体2020は、真空中の波長が4μmのTM波及びTE波を選択的に吸収する。より一般的には、第2実施形態の光熱変換体2020は、特定の波長の光を吸収し、それ以外の光を反射する。これにより、特定の波長の光の吸収を維持したまま光熱変換体2020に発生する熱を減少させることができ、光センサーの熱特性が向上する。また、光熱変換体が吸収する光の偏光方向依存性が抑制され、光センサーが検出する光の偏光方向依存性が抑制される。
【0126】
{第3実施形態}
第3実施形態は、第1実施形態の光熱変換体を置き換える光熱変換体に関する。以下では、第1実施形態の光熱変換体と第3実施形態の光熱変換体との重要な共通点及び相違点が説明される。説明されない事項については、第1実施形態の光熱変換体の構成が、そのまま又は変形されてから、第3実施形態の光熱変換体において採用される。第3実施形態の光熱変換体の構成物には、第1実施形態の光熱変換体の対応する構成物と同じ名称が付与される。
【0127】
図19の模式図は、第3実施形態の光熱変換体の斜視図である。図20の模式図は、第3実施形態の単位構造の斜視図である。
【0128】
図19に示すように、光熱変換体3020には、3次元周期構造3040が形成される。3次元周期構造3040においては、周期方向x、y及びzの3方向に単位構造3070が周期的に配列され、3次元格子が形成される。3次元周期構造3040は、第1の層3300と第2の層3302とを交互に積み重ねた構造を有する。第1の層3300においては、四角柱が間隔を置いて周期方向yに平面配列される。第2の層3302においては、四角柱が間隔を置いて周期方向xに平面配列される。受光面においては、周期方向yに四角柱が延在する。
【0129】
単位構造3070の各々は、負誘電率部3080及び正誘電率部3082を備える。負誘電率部3080の集合は、光熱変換体3020を貫通する。これにより、光熱変換体3020の表面のみでなく光熱変換体3020の内部も含めた光熱変換体3020の全体への共鳴が生じ、吸収ピーク線幅がさらに狭くなる。また、多重反射により光の吸収の効率が向上する。
【0130】
図24は、第3実施形態の光熱変換体の変形例の斜視図である。
【0131】
図24に示すように、光熱変換体3020aには、3次元周期構造3040aが形成される。3次元周期構造3040aにおいては、金属からなる球体の負誘電率部3080aが周期方向x、y及びzの3方向に重ねられる。図25に示すように負誘電率部3080aの配列は立方格子であるが、図26に示すように負誘電率部3080aの配列がダイヤモンド型の正四面体格子であってもよい。正四面体格子には、球体の負誘電率部3080aを配列させやすいという利点がある。
【0132】
3次元周期構造は、2次元周期構造と比較して3次元角度方向に対称性を持つ。このため、3次元周期構造によれば、吸収率の角度依存性が抑制される。また、立方格子の角度周期が90°であるのに対して、正四面体格子の面内角度周期は60°であるので、正四面体格子によれば、吸収率の角度依存性がさらに抑制される。
【0133】
(構造パラメーター)
図21に示すように、第3実施形態においては、周期方向xの単位構造3070の寸法である構造周期Λx、周期方向yの単位構造3070の寸法である構造周期Λy、周期方向zの単位構造3070の寸法である構造周期Λz、周期方向xの負誘電率部3080の寸法である負誘電率部3080の幅Lx、周期方向yの負誘電率部3080の寸法である負誘電率部3080の幅Ly及び周期方向zの負誘電率部3080の寸法である負誘電率部3080の幅Lzが構造パラメーターとして採用される。ただし、他の構造パラメーターが採用されてもよい。
【0134】
(設計例3)
設計例3は、第3実施形態の光熱変換体3020の設計に関する。
【0135】
設計例3においては、目標とする吸収ピーク波長が4μmに設定される。目標とする吸収ピーク波長は真空中の波長であらわされる。設計例3においては、負誘電率部3080がイリジウムからなり、光熱変換体3020が空気中に設置され、間隙3100が空気で満たされ、受光面の近傍が空気で満たされる場合が検討される。
【0136】
設計例3においては、周期方向xの構造周期Λx、周期方向yの構造周期Λy及び周期方向zの構造周期Λzが4μmに決定され、周期方向xの負誘電率部3080の幅Lx、周期方向yの負誘電率部3080の幅Ly及び周期方向zの負誘電率部3080の幅Lzが2μmに決定される。
【0137】
受光面に垂直に入射するTE波及びTM波の吸収スペクトルをRCWA法により計算した結果が図22に示される。図22に示すように、TM波の吸収スペクトルには4μmにピークがあらわれ、TE波の吸収スペクトルにはTM波のよりも短波長側にピークがあらわれる。TM波の吸収ピークが鋭いのは、構造周期Λx、Λy及びΛzが目標ピーク波長の光の実効的な波長λeに一致するからである。TE波の吸収ピークがずれるのは、TM波とTE波とでは、光熱変換体3020に反射されるときの位相特性がずれていることの影響である。より一般的には、第3実施形態の光熱変換体3020は、特定の波長を持つ光を吸収し、それ以外の光を反射するが、偏光方向によって吸収する光の波長が異なり、偏光分離型の2波長センサーに好適である。これにより、光熱変換体3020に発生する熱が減少し、光センサーの熱特性が向上する。
【0138】
この発明は詳細に説明されたが、上記の説明は、すべての局面において例示であり、この発明は上記の説明に限定されない。例示されない無数の変形例が、この発明の範囲から外れることなく想定されうる。
【符号の説明】
【0139】
1000 光センサー
1020,2020,3020 光熱変換体
1024 焦電体
1070,2070,3070 単位構造
1080,2080,3080 負誘電率部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光センサーであって、
周期構造が形成され、前記周期構造において単位構造が周期的に配列され、前記単位構造の各々の一部のみが負の誘電率を持つ物質で占められる光熱変換体と、
前記光熱変換体に熱結合され、熱により電気的性質が変化する熱感応体と、
を備える光センサー。
【請求項2】
請求項1の光センサーにおいて、
前記光熱変換体が電極を兼ねる
光センサー。
【請求項3】
請求項1又は請求項2の光センサーにおいて、
前記熱感応体が焦電体、サーミスタ又は熱電変換体である
光センサー。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれかの光センサーにおいて、
前記周期構造が1次元周期構造である
光センサー。
【請求項5】
請求項1から請求項3までのいずれかの光センサーにおいて、
前記周期構造が2次元周期構造である
光センサー。
【請求項6】
請求項1から請求項3までのいずれかの光センサーにおいて、
前記周期構造が3次元周期構造である
光センサー。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれかの光センサーにおいて、
前記光熱変換体は、前記周期構造が形成される周期構造形成面を備え、
目標とする吸収ピーク波長の光の前記周期構造形成面における実効的な波長より前記周期構造の構造周期が小さく、前記単位構造において前記負の誘電率を持つ物質が占める幅が表皮厚より大きい
光センサー。
【請求項8】
請求項1から請求項6までのいずれかの光センサーにおいて、
前記光熱変換体は、前記周期構造が形成される周期構造形成面を備え、
目標とする吸収ピーク波長の光の前記周期構造形成面における実効的な波長の自然数倍に前記周期構造の構造周期が一致し、前記単位構造において前記負の誘電率を持つ物質が占める幅が表皮厚より大きい
光センサー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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