説明

光ダイオード

【課題】光ダイオードの化合物半導体の積層構造において、基板裏面からの入射光の透過を防ぎ、従来よりも出力信号が大きい光ダイオード構造を提供する。
【解決手段】基板401と、該基板401上に設けられた化合物半導体からなる受光部を備えたメサ型の光ダイオードにおいて、メサ(PN段差)領域の上面および側面を全て電極407で覆う。これにより、受光部を含むPNメサの上部および側面の全てを電極407で被覆することができ、製造工程を変更することなく、基板裏面からの入射光の透過を防ぎ、かつ、PNメサと電極の界面で入射光を反射させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ダイオードに関し、より詳細には、赤外線検知の分野、特に長波長帯の放射エネルギーを検知するようなセンサ、例えば人感センサ等の赤外線センサに使用する光ダイオードに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に赤外線センサには、赤外線エネルギーを吸収することによって発生する温度変化を利用する熱型(焦電センサやサーモパイルなど)と、入射した光エネルギーで励起された電子によって生じる導電率の変化や起電力を利用する量子型とがある。熱型は室温動作が可能だが、波長依存性がなく、低感度で応答性が遅いという欠点がある。一方、量子型は、低温に冷却する必要があるが、波長依存性があり、高感度で応答速度も速いという特徴を有している。
【0003】
赤外線センサの応用としては、人を検知することによって、照明やエアコン、TV等の家電機器の自動オン/オフを行う人感センサや、防犯用の監視センサなどが代表的な例である。これらの例は、最近、省エネルギーや、ホームオートメーション、セキュリティシステム等への応用で非常に注目されてきた。
【0004】
人感センサとして現在使用されている赤外線センサは、焦電効果を利用した焦電型赤外線センサである。焦電型赤外線センサは非特許文献1に示されているように、その焦電素子のインピーダンスが極めて高いために、電磁ノイズや熱揺らぎの影響を受けやすい。そのため、金属Canパッケージなどのシールドが必須になる。また、I−V変換回路に大きなRやCが必要であり、小型化が困難となっている。
【0005】
一方、量子型の赤外線センサとしては、HgCdTe(MCT)やInSb系がその代表的な材料として利用されてきた。MCTやInSb系を使用する場合、センサ部を液体窒素や液体ヘリウム、あるいはペルチェ効果を利用した電子冷却等で冷却する必要がある。一般に、冷却された量子型赤外線センサでは、焦電センサの100倍以上の高感度化を達成できる。また、素子抵抗は、数10〜数100Ωと小さく、電磁ノイズや熱揺らぎの影響は受けにくい。ただし、パッケージについては、低温に冷却する必要があるため、頑丈な金属パッケージが使用されている。
【0006】
さらに、量子型赤外線センサの中でも、MCTは、最も高感度であるが、それに使用されるHgの蒸気圧は高い。そのため、結晶成長時の組成制御性や再現性が難しく、均一な膜が得られにくい。また、素子化プロセスにおいても機械的強度が弱く、Hgの拡散や抜け出しという問題をかかえている。
【0007】
InSb系については、検出すべき波長にあわせてInAsxSb1-xの混晶が検討されている。例えば、InSb基板を使用してその上にInSbの一部をAsに置換してエピタキシャル成長する方法(特許文献1参照)などが試みられている。
【0008】
さらに、読み出しおよび信号処理回路が集積化された基板の上に、赤外線センサ部を成長させたモノリシック構造が提案されている(特許文献2参照)。しかし、信号処理回路上に赤外線センサ部である化合物半導体薄膜を成長させる技術は、極めて難しく、実用的なデバイスとして応用可能な膜質は、容易には得られない。また、信号処理回路を動作させたときに発生する熱が、その上にモノリシック形成された赤外線センサ部に熱ゆらぎのノイズとなって誤信号を与えてしまうことが問題となる。従って、この熱ゆらぎの影響を抑制するため、センサ全体を液体窒素等で冷却させることが必須となる。この様な冷却は、一般の家電や照明用の人感センシングの用途には適さない。
【0009】
上記のような問題を解決した赤外線センサとして、特許文献4に記載の量子型の赤外線センサがある。この赤外線センサは、センサ部分の化合物半導体のバリア層を含む積層構造および素子構造により、室温でも動作可能な量子型の赤外線センサであり、なおかつ従来にない超小型の赤外線センサを実現している。
【0010】
また、光ダイオードでは、特許文献5、6に示すように、受光部の構造以外にも電極形状や反射防止膜により光学的クロストークを排除し、取り込んだ光を効果的に活用する機能を持たせている例もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭53−58791号公報
【特許文献2】特開平2−502326号公報
【特許文献3】国際公開第05/027228号パンフレット
【特許文献4】特開2007−299944号公報
【特許文献5】特開2001−28454号公報
【特許文献6】特許3386011号
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】松井邦彦著「センサ活用141の実践ノウハウ」CQ出版、2001年5月20日、p56
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、特許文献4に記載の光ダイオードの化合物半導体の積層構造において、基板裏面からの入射光の透過を防ぎ、従来よりも出力信号が大きい光ダイオード構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1に記載の光ダイオードは、基板と、該基板上に設けられた化合物半導体からなる受光部を備えたメサ(PN段差)型の光ダイオードにおいて、上記メサ(PN段差)領域の上面および側面をすべて電極で覆うことを特徴とする。
【0015】
また、本発明の請求項2に記載の光ダイオードは、上記請求項1において、上記光ダイオードは、基板と、該基板上に形成された複数の化合物半導体層が形成された化合物半導体の積層体とを備え、上記化合物半導体の積層体は、該基板上に形成された、インジウム及びアンチモンを含み、n型ドーピングされた材料である第1化合物半導体層と、該第1化合物半導体層上に形成された、インジウム及びアンチモンを含み、ノンドープあるいはp型ドーピングされた材料である第2化合物半導体層と、該第2化合物半導体層上に形成された、上記第2化合物半導体層よりも高濃度にp型ドーピングされ、かつ上記第1化合物半導体層、及び上記第2化合物半導体層よりも大きなバンドギャップを有する材料である第3化合物半導体層とを備えることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の請求項3に記載の光ダイオードは、上記請求項2において、上記化合物半導体の積層体は、該第3化合物半導体層上に形成された、インジウム及びアンチモンを含み、上記第2化合物半導体層よりも高濃度にp型ドーピングされた第4化合物半導体層を更に備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、受光部を含むPNメサの上部および側面のすべてを電極で被覆することにより、製造工程を変更することなく、基板裏面からの入射光の透過を防ぎ、かつ、PNメサと電極の界面で入射光を反射させて、従来よりも同じ入射光に対する出力信号が大きい光ダイオード構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態にかかる赤外線センサの化合物半導体の積層構造を示す断面図である。
【図2】本発明の別の実施形態にかかる赤外線センサの化合物半導体の積層構造を示す断面図である。
【図3】図2に示す化合物半導体の積層構造のエネルギーバンド図の例である。
【図4】従来技術にかかる赤外線センサの一部の構造を示す断面図である。
【図5】図4に示す従来技術にかかる赤外線センサの一部の構造に入射光を入射した場合を示す模式図である。
【図6】本発明の実施形態にかかる赤外線センサの一部の構造に入射光を入射した場合を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下で説明する図面で、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
【0020】
従来、人体から放射される赤外線を検出するいくつかの手法において、InSbの様な化合物半導体による量子型の赤外線センサは、高速、高感度という優れた性質を有していることが知られている。しかしながら、量子型の赤外線センサを使用して、人体から放射される赤外線を室温において検知する場合、検出素子の漏れ電流が非常に大きく、使用は極めて困難であることも知られている。
【0021】
この問題を解決する為に、特許文献3に記載の量子型の赤外線センサにおいては、図1に示すような化合物半導体の積層構造を使用した。ここで、特許文献3に記載の化合物半導体の積層構造については、その各層の材料に関して該特許文献中で実施例として示されている材料を使用して具体的に説明する。すなわち、半絶縁性のGaAs基板101上にn型ドーピングされたInSb層102(第1化合物半導体層)を積層し、上記n型ドーピングされたInSb層102上に、p型ドーピングされたInSb層(またはInAsSb層)103(第2化合物半導体層、以後この層をπ層とも呼ぶ)を積層し、上記π層上に、π層よりも高濃度にp型ドーピングされたAlxIn1-xSb層104(第3化合物半導体層)(0<x<1)を積層した図1に示す構造である。もしくは、上記高濃度にp型ドーピングされたAlxIn1-xSb層104上に、さらに上記π層よりも高濃度にp型ドーピングされたInSb層105(第4化合物半導体層)を積層した図2に示す構造である。
【0022】
ここで、図2の積層構造を例として、その技術的特長を更に詳しく述べる。図2に示す積層構造のエネルギーバンド図の例を、図3に示す。
図2の赤外線検出素子に赤外線が入射した場合、赤外線は光吸収層であるπ層(p型ドーピングされたInSb層)において吸収され、電子正孔対を生成する。生成した電子正孔対は、n+層であるn型ドーピングされたInSb層102と、p+層である高濃度にp型ドーピングされたInSb層105、および光吸収層であるp型ドーピングされたInSb層(またはInAsSb層)103のポテンシャル差、すなわちビルトインポテンシャルによって分離され、電子はn+層側へ、正孔はp+層側へと移動し光電流となる。
【0023】
この時、発生した電子がPINダイオードの順方向、すなわちp+層側に拡散すると光電流として取り出すことは出来ない。この順方向へのキャリアの拡散が拡散電流である。ここで、光吸収層であるπ層と、p+層である高濃度にp型ドーピングされたInSb層105との間に、第2化合物半導体層103として使用することができるInSbやInAsSbよりもバンドギャップのより大きな層、例えばAlInSb層を設けると、図3に示すように光吸収層としてのp型ドーピングされたInSb層(またはInAsSb層)103と、p+層としてのInSb層105との間にエネルギーの壁を設けることが出来る。このエネルギーの壁(すなわちバリア層)により、光吸収層からp+層への電子の拡散、すなわち拡散電流を防ぐこと、ないしは上記拡散電流を低減することが可能となる。この結果素子の感度を飛躍的に上げることができる。
【0024】
上述のようなエネルギーの壁として機能させるために、バリア層(第3化合物半導体層)104は、光吸収層であるπ層(第2化合物半導体層)103よりも高濃度にp型ドーピングされ、かつn+層(第1化合物半導体層)、およびπ層よりも大きなバンドギャップを有する材料とすることが望ましい。
【0025】
上述のように、この構造においてバリア層であるAlInSb層は拡散電流を防ぐ、または軽減する為の非常に重要な層であり、その膜厚、および組成は素子の特性に大きく影響する。
【0026】
図4は、従来技術の光ダイオードの一部を示す断面図である。MBE法により、半絶縁性の、GaAs単結晶基板401上にSnを7×1018原子/cm3ドーピングしたInSb層402(n+層、第1化合物半導体層)を1.0μm成長し、この上にZnを6×1016原子/cm3ドーピングしたInSb層403(π層、第2化合物半導体層)を1.0μm成長し、この上にAlの組成がX=0.2(20%)であり、Znを2×1018原子/cm3ドーピングしたAl0.2In0.8Sb層404(バリア層、第3化合物半導体層)を成長し、この上にZnを2×1018原子/cm3ドーピングしたInSb層405(p+層、第4化合物半導体層)を0.5μm成長した。ここで、Al0.2In0.8Sb層404の膜厚は、15nm、20nm、25nm、40nmとした。また、Snはn型ドーパント、Znはp型ドーパントである。これらの材料はInSbにおいて活性化率が高く、好ましいドーピング材料である。
【0027】
上記化合物半導体薄膜の積層体を使用して、光ダイオードを作製した。まず、n型ドーピングを行っているInSb層402とのコンタクトを取るためのメサ(PN段差)形成を行い、次に素子分離のためのエッチングを行った。その後、全面をSiN保護膜406で覆った。次にSiN保護膜406の所定の部分を取り除くことによって電極部分のみ窓開けを行い、Ti/Pt/Auを蒸着し、リフトオフ法により電極407を形成した。このとき、隣り合った素子同士を電気的に直列接続するように電極407を形成した。すなわち、ある素子のInSb層402と、その隣の素子のInSb層405とを電気的に接続するように電極407が形成される。作製した単一素子の受光面積は10μm×10μmであり、GaAs基板401上で910個直列接続している。
【0028】
赤外線を照射したときの直列接続した素子の開放電圧をセンサの出力電圧として測定した。なお、測定中のセンサ温度は室温(27℃)である。入射する赤外線は500Kの黒体炉を使用して発生させ、センサから10cmの距離に黒体炉を設置した。この様な配置で、センサの基板401側から赤外線を入射した。入射した赤外線のエネルギーは1.2mW/cm2である。センサと黒体炉との間にはチョッピングをするためのチョッパーを設けた。光チョッピングの周波数は10Hzであり、フィルタとしてSiを使用した。
【0029】
ここで、従来の電極形状では、402、403、404、405で構成されたPNメサの一部は電極407に覆われていないため、基板401側から入射した光の一部は基板表面方向に透過する。また、PNメサの斜面上とメサ底部の最大3μm程度の高低差にパターン端が存在するようなレジストパターンを形成する必要がある。この高低差に対して、フォーカスを高低差の中間にして露光する、あるいは、2つの高さにフォーカスを合わせて露光することが必要であった。前者では、パターニング精度が悪化し、後者では製造工程が増えるという問題点がある。
【0030】
図5は、図4に対応する従来技術による光ダイオードの一部を示す断面図であり、図6は、本発明の一実施形態に係る光ダイオードの一部を示す断面図である。図6に示す電極407の形状は、図5に示す従来の電極の形状と比較して、PNメサの全てを覆うようにしている。このように本発明を適用すれば、基板401側から入射した光はすべて電極により反射され、受光部に吸収させることができる。また、レジストパターンニングについても、露光のフォーカスを同一平面状にあわせればよく、パターニング精度の向上も期待できる。
【0031】
本発明の効果を詳細に説明する。基板401側から入射した光は、量子効率が1ではないため、受光部で吸収されてキャリアを生じさせる光と、受光部を透過する光が存在する。後者の透過光をメサと電極界面で反射させることにより、再び受光部に達するためキャリアを生じさせることができる。本発明では、受光部を含むPNメサをすべて電極で覆っているため、あらゆる方向からの透過光が全て反射されて実効的な量子効率が増加し、光ダイオードの出力信号を増大させることができる。
【0032】
なお、上述では、n+層である第1化合物半導体層402としてn型ドーピングされたInSbを使用しているがこれに限定されず、In(インジウム)およびSb(アンチモン)を含み、n型ドーピングされた材料であれば、いずれの材料であっても良い。また、π層である第2化合物半導体層403としてp型ドーピングされたInSbを使用しているがこれに限定されず、他にInAsSb、InSbNなどInおよびSbを含み、p型ドーピングされた材料であれば、いずれの材料であっても良い。なお、第2化合物半導体層403は、ノンドープであっても良い。
【0033】
また、バリア層である第3化合物半導体層404としてπ層よりも高濃度にp型ドーピングされたAlxIn1-xSb層を使用しているがこれに限定されず、AlInSb、GaInSb、またはAlAs、InAs、GaAs、AlSb、GaSb及びそれらの混晶のいずれか等、第2化合物半導体層403よりも高濃度にp型ドーピングされ、かつ第1化合物半導体層402および上記第2化合物半導体層403よりも大きなバンドギャップを有する材料であれば、いずれの材料であっても良い。さらに、p+層である第4化合物半導体層405として、第3化合物半導体層404と同等の濃度にp型ドーピングされたInSbを使用しているが、これに限定されず、InおよびSbを含み、第3化合物半導体層404と同等、あるいはそれ以上の濃度にp型ドーピングされた材料であれば、いずれの材料であっても良い。
【符号の説明】
【0034】
100,200,400 赤外線積層サンサ
101,401 GaAs単結晶基板
102,402 n型ドーピングされたInSb層
103,403 p型ドーピングされたInSb層(π層)
104,404 π層よりも高濃度にp型ドーピングされたAlxIn1-xSb層
105,405 π層よりも高濃度にp型ドーピングされたInSb層
406 SiN保護膜
407 電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、該基板上に設けられた化合物半導体からなる受光部を備えたメサ型の光ダイオードにおいて、
前記メサ領域の上面および側面をすべて電極で覆うことを特徴とする光ダイオード。
【請求項2】
前記光ダイオードは、
基板と、
該基板上に形成された複数の化合物半導体層が形成された化合物半導体の積層体と
を備え、
前記化合物半導体の積層体は、
該基板上に形成された、インジウム及びアンチモンを含み、n型ドーピングされた材料である第1化合物半導体層と、
該第1化合物半導体層上に形成された、インジウム及びアンチモンを含み、ノンドープあるいはp型ドーピングされた材料である第2化合物半導体層と、
該第2化合物半導体層上に形成された、前記第2化合物半導体層よりも高濃度にp型ドーピングされ、かつ前記第1化合物半導体層、及び前記第2化合物半導体層よりも大きなバンドギャップを有する材料である第3化合物半導体層と
を備えることを特徴とする請求項1に記載の光ダイオード。
【請求項3】
前記化合物半導体の積層体は、
該第3化合物半導体層上に形成された、インジウム及びアンチモンを含み、前記第2化合物半導体層よりも高濃度にp型ドーピングされた第4化合物半導体層を更に備えることを特徴とする請求項2に記載の光ダイオード。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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