説明

光ディスク媒体とその再生方法、再生装置

【課題】高密度に記録された光ディスク媒体から得られる符号間干渉の極めて大きい再生波形に対しては、再生信号を1サンプルごとに中心レベルと比較する従来手法ではデータの判別が困難である。このため、再生専用光ディスクで従来適用されてきた同期信号検出によるPLLの周波数捕捉が困難になる。
【解決手段】媒体のピット配列をトラッキングサーボの追従可能帯域よりも高く、再生信号の周波数帯域よりも低い周波数で蛇行させるとともに、トラッキング誤差信号から、蛇行量に応じた蛇行検出信号を得て、周波数捕捉のための参照信号とする。もしくは、媒体のピット配列をトラッキングサーボの追従可能帯域内かつ再生信号の周波数帯域よりも低い周波数で蛇行させるとともに、トラッキング駆動信号あるいはトラッキングサーボ用の補償器の出力から蛇行量に応じた蛇行検出信号を得て、周波数捕捉のための参照信号とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再生信号から安定して同期クロックを得ることを可能とする光ディスク媒体と、その再生方法および再生装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
背景技術として、例えば、特許文献1(特開2007-299448号公報)、非特許文献1(「図解ブルーレイディスク読本」, 小川博司,田中伸一 監修、 オーム社)、非特許文献2(「図解コンパクトディスク読本」, 小川博司,中島平太郎 著、 オーム社)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-299448号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「図解ブルーレイディスク読本」, 小川博司,田中伸一 監修、 オーム社(2006)
【非特許文献2】「図解コンパクトディスク読本」, 小川博司,中島平太郎 著、 オーム社(1982)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
光ディスク媒体の高密度化は、波長405nmの青紫レーザ光を開口数0.85の対物レンズで収束して極小の光スポットを得ることで、最短ピット長0.145μm,一面あたり25GBのデータ記録を実現した、ブルーレイディスク(登録商標、以下ではBDと表記する)が市販される段階に至っている。さらには、非特許文献1の247ページで、一面あたりの記録密度を33GBへ向上させる可能性が言及されているように、今後もさらなる高密度化が予想される。
【0006】
ところで、光ディスクの再生処理では、戻り光量を検出した再生信号の大小からディスク上に記録されたピットのなすデータ配列を判別する。このためには、ピット列(トラック)上に正確に光スポットを照射するためのフォーカシングサーボやトラッキングサーボを行った上で、得られた再生信号を正確かつ的確なタイミングでサンプリングする必要がある。これに対して、多くの光ディスク装置は、再生信号を入力として1ビットごとの転送に位相同期したクロックを得るPhase-Locked Loop (PLL)を有し、このクロックを用いることによって1bitごとのデータの判別を正確に行うことを可能としている。
【0007】
しかし、PLLを再生信号に位相同期させるためには、目標とする転送周波数と初期状態での自発振周波数との差を、ある許容範囲(キャプチャレンジ)以下に捕捉しなくてはならない。キャプチャレンジは一般に自発振周波数に対して数%程度であり非常に小さいため、光ディスク再生用のPLLでは予め目標周波数に対して自発振周波数をキャプチャレンジ内に調整しておくことは困難である。そこで、さらに周波数捕捉手段(ワイドキャプチャ回路)を設け、これによって周波数誤差をキャプチャレンジ内に抑圧した上で位相捕捉を行う。
【0008】
従来の光ディスク装置におけるワイドキャプチャ回路が特許文献1に記載されている。これによれば、再生信号を再生クロックに基づいて標本化して判別した同期パターン長から得た周波数誤差に基づく第1の周波数引き込み部と、同期パターンが存在する周期を検出して得た周波数誤差に基づく第二の周波数引き込み部とを有し、これらを組み合わせることによって、キャプチャレンジ以内への周波数捕捉を可能とする。さらに、周期的に蛇行した記録案内溝を有する光ディスクに対しては、蛇行量を検出したウォブル信号を生成し、このウォブル信号に同期して得た逓倍クロックと再生クロックとの周波数誤差に基づく第3の周波数引き込み部によって、周波数捕捉を行う。
【0009】
また、非特許文献2には、光ディスク用のトラッキング誤差検出方法として一般的であるプッシュプル方式とDPD方式 が記載されている。これらによって得られる信号(トラッキング誤差信号)は、いずれもトラック中心近傍で概ねトラッキング誤差量に比例した信号量を得ることができるので、この信号量をフィードバックすることによって、安定して精度よく光スポットをトラック中心に制御することが可能となる。
【0010】
BDで採用されている波長405nmのレーザと開口数0.85の対物レンズの光学系のまま記録線密度のみを向上させて33GB/面の記録密度を実現させると、最短ピット長が光スポットのもつ光学的分解能の限界に迫る。
【0011】
このような条件下で得られる符号間干渉の極めて大きい再生波形に対しては、再生信号を1サンプルごとに中心レベルと比較する従来手法(バイナリスライス)ではデータの判別が困難であり、Partial Response Maximum Likelihood(PRML)と呼ばれる符号判別手法が適用される。しかし、PRMLを適用するためには再生信号が位相同期したタイミングでサンプリングされていることが要求されるため、位相同期していない状態行う周波数捕捉には適用できない。このため、特許文献1に記載の第1の周波数引き込み部と第二の周波数引き込み部で行う同期信号の検出はバイナリスライスで行うこととなり、安定した周波数捕捉を実現できない。
また、周期的に蛇行した記録案内溝は記録型ディスクにのみ設けられているものであり、ROM媒体には設けられていない。したがって、このような構造のROM媒体では、特許文献1に記載の第3の周波数引き込み部による周波数捕捉も行うことができない。
【0012】
以上のように、現行のROM媒体の線密度をより大きくした場合には、従来のワイドキャプチャ回路では周波数捕捉できず、データ再生が困難となる。
【0013】
本発明は、かかる実情に鑑みてなされたものであり、より線密度を向上させつつ周波数捕捉を行うことを可能とする再生専用型光ディスク媒体(ROM媒体)と、その再生方法および再生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題は、その一例として、特許請求の範囲に記載の発明により解決することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、より線密度を向上させつつ周波数捕捉を行うことを可能とする再生専用型光ディスク媒体と、その再生方法および再生装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】(a)は光ディスク媒体の形状の概要を表しており、(b)は再生専用型光ディスク媒体の断面形状の模式図であり、(c)は、再生専用型光ディスク媒体のピット配置を表している
【図2】ドライブ装置構成の一例である
【図3】ピットとプッシュプル信号振幅の関係を表している
【図4】(a)は、媒体のピット配置と光スポット軌跡であり、(b)は、トラッキングエラー信号である
【図5】(a)は、蛇行の1/2周期が1データ単位となるトラックであり、(b)は、蛇行の1周期が1データ単位となるトラックであり、(c)は、蛇行の3周期が1データ単位となるトラックである
【図6】過度にトラックを蛇行させた場合におけるピットの一体化を図示している
【図7】(a)は、周波数参照信号生成手段の一例であり、(b)は、周波数参照信号生成手段の動作の概要である
【図8】周波数誤差検出手段とその動作を表している
【図9】媒体のピット配置の概形,トラッキングエラー信号,補償器出力,トラッキング駆動信号の関係を表している
【図10】ドライブ装置構成の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第一の実施形態)
第一の実施形態は、媒体のピット配列をトラッキングサーボの追従可能帯域よりも高く、再生信号の周波数帯域よりも低い周波数で蛇行させるとともに、トラッキング誤差信号から、蛇行量に応じた蛇行検出信号を得て、周波数捕捉のための参照信号とすることである。
【0018】
図1を用いて、第一の実施形態における光ディスク媒体でのピット配置の概略を説明する。
【0019】
図1(a)は光ディスク媒体の盤面方向の外形を表している。光ディスク(101)は中心に穴が開いた円盤状の形状をしており、再生時はドライブ装置のスピンドルにチャッキングして回転させる。また、概ね一定間隔のスパイラル状をなすようにピット(104)が配置されており、トラック(102)をなしている。
【0020】
図1(b)は 光ディスク(101)の断面の構造を表している。基板(103)は一方の面にピット(104)が一定の高さを持つ凹凸として成型されており、この面に対して反射膜(105)が積層され、さらに保護膜(106)が設けられた構造となっている。ピット(104)の位置にレーザ光を照射すると戻り光に回折が起こるので、光ディスク装置では、戻り光の非回折光(0次光)とこの回折光(主として+1次光と-1次光)との干渉による強度やその変化量を検出することによって、トラッキング誤差信号やピットに対応した再生信号を得る。
【0021】
図1 (c)はピット配置を表しており、トラック(102)を拡大して示した図である。上側の図では、ピット(104)と、その中心ならびに外縁をそれぞれ一点鎖線と点線で示しており、下側の図は円周方向を圧縮して中心ならびに外縁のみを示している。トラック(102)には、上側の図のように、長さが異なるピットが並んでいる。図中には明示しないが、トラック方向のピットの長さは、予め定めた1bitの情報を表す長さを単位として、その整数倍となるように与える。ここで、下側の図に示すように、ピット配置を一定周期で蛇行させるのが、本願第一の発明の媒体での特徴である。
【0022】
次に、本願第一の発明の媒体に対する再生装置および再生方法の概略を説明する。ここでは、サーボ系のトラッキング制御とPLLの処理に分けて説明する。
【0023】
(トラッキング制御)
図2を用いて、トラッキング制御およびトラッキング誤差信号に関して説明する。まず、図示しないスピンドルモータによって盤面に水平な方向に規定の速度で回転している光ディスク(101)に対して、反射膜(105)の近傍に焦点が合うように図示しない対物レンズによってレーザ(201)の出射光を集束し、戻り光を光検出器(202)で光電変換する。
【0024】
ここで、光検出器(202)の検出部はいくつかの検出エレメントに細分化されており、戻り光のなす光スポットに対して、あらかじめ定めた部位別に分割して戻り光強度の検出信号を得るようになっている。トラッキング誤差信号生成手段(204)では、光検出器(202)で得られた各検出エレメント別の光電変換信号を元に演算を行い、トラッキング誤差信号を得る。たとえば、プッシュプル法とよばれるトラッキング誤差信号生成法では、ディスク(101)の半径方向に発生する2つの回折光(+1次光と-1次光)の受光位置に対応した2領域の受光強度の差分をとることによって、トラッキング誤差信号を得る。
【0025】
このようにして得られたトラッキング誤差信号は補償器(205)によって適正な位相や振幅の補償が行われたのち、トラッキング駆動信号生成手段(206)の生成する信号によって、トラッキングアクチュエータ(207)を駆動し、レーザ(201)の出射光による光ディスク(101)上の光スポットの位置を補正する。以上に説明したレーザ(201)、光ディスク(101)、光検出器(202)、トラッキング誤差信号生成手段(204)補償器(205) トラッキング駆動信号生成手段(206) トラッキングアクチュエータ(207)の各要素から構成された制御ループは、トラック中心近傍で負帰還を成しており、光スポットを安定してトラック(102)上に導くことを可能としている。
【0026】
プッシュプル法で得られる信号を、図3に示す。上方の図はピット配置を表しており、Tpはピット列中心の間隔(トラックピッチ)である。上方の図中の点線で示した中央部での断面と、半径位置に対するプッシュプル信号の振幅の変化を表したものが下方の図である。ピット部の中央に制御上の安定平衡点となるゼロクロス点が存在し半径方向の光スポット中心位置に対して周期Tpを有する、正弦波状の振幅変化となる。
【0027】
なお、トラッキングサーボ系ではトラッキングアクチュエータ(207)などの応答特性や演算上の処理遅延によって追従可能な帯域が制限されるので、一定以上の周波数成分を持つ誤差には応答できない。このトラッキングサーボ系の閉ループ伝達特性の遮断周波数をFcとおくと、本願第一の発明においてはトラックの揺動周期Twob,ディスクの回転数Frot,半径位置Rと遮断周波数Fcが次の数式1を満たすような関係とする。

【数1】


【0028】
これは、線速度(2πxRxFrot)でトラック上に光スポットを走査させるときに、トラッキングサーボで追従しない周波数帯域となる揺動周期の条件を表している。
【0029】
この条件下での振舞いを図4に示す。上方の図4(a)はピット配置と光スポットの軌跡を示しており、一点鎖線がトラック中心(105)、点線がトラック外縁(106)、実線の矢印が光スポットが走査する軌跡である光スポット軌跡(401)を現している。一方で、図4(b)は図4(a)で示したトラックと光スポット軌跡(401)の関係に対応したトラッキング誤差信号の振幅変化を表している。トラックが蛇行しているのに対して、光スポットはトラックの蛇行に追従せずに直進するため、この直線をなす軌跡とトラック中心(105)とのずれ量に従い、トラッキング誤差信号にはトラックの蛇行に同期した揺動が現れる。本形態では、このトラッキング誤差信号の揺動周期を基準としてPLLの周波数捕捉を行う。
【0030】
ところで、光スポット軌跡とトラック中心(106)がずれると、ずれ量が大きいほど再生信号の品質が低下する。そこで、同期パターンやアドレス情報や管理情報などが記録されているデータセクタ先頭領域など、正確な検出が必要な位置で揺動量が0になるように位相を合わせて記録すると、揺動によるトラックずれの影響がなくこれらの重要なパターンを検出できる。図5で一例を示す。蛇行中心(501)は、トラックの平均的な中心位置を表しており、蛇行量が0である場合のトラック中心位置である。図5(a)はトラック揺動の1/2周期が1データ単位となるケース、図5(b) は、トラック揺動の1周期が1データ単位となるケース 、図5(c)はトラック揺動のn/2周期が1データ単位となるケース(nは自然数, 図ではn=6)である。これらのように、トラック蛇行の周期Twobに対して、1データ単位の周期Tdatが次の数式2を満たし、かつ同期コード位置またはデータセクタ先頭位置がトラック中心(105)と蛇行中心(501)の交点となるような位相で、トラックを蛇行させるとよい。なお、1データ単位とは、同期コード位置を蛇行の基準とする場合であれば、同期フレームを指し、データセクタ先頭位置を基準とするのであればデータセクタを指す。逆に、ヘッダ情報に関して他の領域と比して強力な特別の誤り訂正符号を付したデータ形式が適用されている場合など、蛇行量が0以外の場合においても十分に正確な検出が可能であると見込まれる場合は、ヘッダ領域以外の再生信号品質を優先し、あえてヘッダ領域が蛇行量0の位置にならないように蛇行の位相をずらしても良い。

【数2】


【0031】
また半径方向の蛇行量に関しては、図3の関係のようにトラックピッチの約1/4 (Tp/4)の揺動量のときにトラッキング誤差信号の変動が概ね最大となるが、揺動量を大きくするほど隣接トラックと接近する。非特許文献1の図3.3には各種再生専用ディスクのピットの電子顕微鏡写真が掲載されており、BDではピットのディスク半径方向の幅がトラックピッチの1/2近くを占めていることがわかる。これに対し、トラックピッチの1/2の幅をもつピット列にTp/4の揺動量を与えると、図6のように隣接層との蛇行が逆相になる位置において、隣接トラックのピットが近接し一体化してしまう危険性がある。一体化すると、ピットの端面が失われることによって回折光が所望のものとはならないため、トラッキング誤差信号が正常には得られない。このため、揺動量はTp/4より小さくすべきである。
【0032】
他方で、非特許文献1の237ページには、BDでのトラッキング制御の残差目標が±0.009μmであるとの記述がある。BDのトラックピッチは非特許文献1の58ページに記載されているように0.32μmであるから、トラッキング制御の残差目標はトラックピッチの約1/36倍(Tp/36)に相当する。これらから、トラッキング誤差信号にはTp/36のトラッキング誤差量に相当する雑音が重畳されると見積もられるので、揺動成分を検出するためにはトラックの揺動量はこの残差目標よりも十分に大きくすべきである。
以上のことから、トラックの揺動量はTp/36から Tp/4までの範囲で設定すべきである。たとえば、Tp/8程度にすると、ピット幅がTp/2であっても隣接ピットとの間に最小でもTp/4(トラックピッチに対して、揺動量の2倍であるTp/4と,ピット幅であるTp/2を減じて得た)の間隙が確保されるとともに、揺動検出信号の振幅もトラッキング制御の残差成分の4.5倍程度の振幅 (トラッキング誤差信号が線形であるとみなし、Tp/8とTp/36の比から概算した) を得られるので,ほどよく双方の両立を図ることができる。
【0033】
(PLL(217)の説明)
以下に、図2の本願の発明の第一の形態におけるPLL(217)について説明する。
前記したトラッキング捕捉が完了すると、トラッキング誤差信号にはトラック(102)の揺動に同期した周波数成分の信号が現れる。ただし、ノイズや歪のため、信号品質が安定しない。周波数参照信号生成手段(208)は、トラッキング誤差信号の揺動成分から、PLLの周波数捕捉を行えるようにするべく安定化した周波数参照信号を生成し、PLL(217)へ出力する。
【0034】
PLL(217)は再生信号サンプリング手段(213)、位相誤差検出手段(214)、ループフィルタ(215)、VCO入力切り替え手段(211)、VCO(212)、周波数誤差検出手段(209)、周波数捕捉手段(210)からなる。なお、VCO(212)は一般には電圧制御発振器(Voltage-Controlled Oscillator)を指すが、ここでは制御信号は電圧信号に限らず、電流であってもよいし、デジタルデータであってもよい。
【0035】
周波数誤差検出手段(209)は周波数参照信号生成手段(208)からの周波数参照信号と、VCO(212)からのチャネルクロックに基づいて、チャネルクロックの周波数と目標周波数との差に比例した周波数誤差信号を生成するとともに、周波数誤差の絶対値が、PLLのキャプチャレンジを勘案して定めた閾値よりも大きい場合と小さい場合で極性が変わるVCO入力選択信号を生成する。周波数捕捉手段(210)は周波数誤差検出手段(209)からの周波数誤差信号を積算し、周波数捕捉用VCO制御信号を生成する。VCO入力切り替え手段(211)はVCO入力選択信号に従って、周波数誤差が一定以上と判定されているときは後段のVCO(212)へ周波数捕捉手段(210)からの周波数捕捉用VCO制御信号を出力する。VCO(212)はVCO制御信号に従った周波数で発振する。VCO(212).周波数誤差検出手段(209), 周波数参照信号生成手段(208), VCO入力切り替え手段(211)は負帰還ループを成すので、VCO(212)の発振周波数はやがて目標周波数近傍に収束しVCO入力選択信号の極性が反転することによって、周波数捕捉が完了する。
【0036】
周波数捕捉が完了すると、VCO入力切り替え手段(211)はVCO入力選択信号の極性反転に従ってVCO(212)に出力する信号をループフィルタ(215)からの位相捕捉用VCO制御信号に切り替えて、位相捕捉処理に移行する。再生信号サンプリング手段(213)はVCO(212)の発振するクロックに同期して、再生信号生成手段(203)で生成された再生信号をサンプリングする。位相誤差検出手段(214)はサンプリングされた再生信号から、目標とするサンプルタイミングとVCO(212)の発振するクロックとのずれ量(位相誤差)を判別して、ずれ量に対応した位相誤差信号を出力する。ループフィルタ(215)は位相誤差信号に対して適度な振幅ゲインや位相補償を与えるための補償器であって、位相捕捉用VCO入力信号を生成する。位相捕捉用VCO入力信号はVCO入力切り替え手段(211)を経てVCO(212)へ入力され、発振周波数が制御される。再生信号サンプリング手段(213)、位相誤差検出手段(214), ループフィルタ(215), VCO入力切り替え手段(211), VCO(212)によるループは負帰還をなしており、やがてVCO(212)の発振信号の位相は目標とする位相に漸近して位相捕捉が達成される。
【0037】
位相捕捉により、所望のタイミングで再生信号をサンプリングできるようになると、サンプリングされた信号から符号判別手段(216)を用いて記録されたデータが判別できるようになる。符号判別手段(216)で判別されたデータは、図示しない復調手段や誤り訂正手段などを経て、ホスト機器へ送信される。なお、PRML処理を用いて再生を行う場合においては、再生信号サンプリング手段(213)はA/D変換器が用いられ、サンプリングとともに再生信号のディジタル化を行い、符号判別手段(216)はディジタルフィルタによる波形等化回路とビタビ復号回路によって構成される。
【0038】
以下において、本発明を可能とする周波数参照信号生成手段の構成と周波数誤差検出手段(209)の構成のより詳細な構成例を説明する。
【0039】
(周波数参照信号生成手段(208)の構成)
次に、周波数参照信号生成手段(208)の構成例を説明する。
図7は周波数参照信号生成手段(208)の一例である。図7(a)は構成を表しており、図7(b)は動作の概要を表している。
【0040】
揺動信号(701)は、トラックの蛇行に基づいて振幅が揺動する信号であり、本実施例においては、トラッキング誤差信号のことである。
【0041】
バンドパスフィルタ(702)は揺動信号(701)の揺動成分以外の周波数成分を抑圧するためのフィルタ回路であり、少なくとも揺動成分の振幅は通過させる周波数特性が要求される。また、直流を含む低周波数成分が抑圧されるため、出力信号の中心レベルは概ね揺動成分の振幅中心になる。
【0042】
コンパレータ(703)は、バンドパスフィルタ(702)の出力に対して、中心レベルとの比較を行い、中心レベルよりも大きいときにHighレベル, 中心レベルよりLowレベルとなるように2値化された矩形波信号を出力する。
【0043】
上昇エッジ検出手段(704)はこの矩形波信号がLowレベルからHighレベルになるタイミングを検出して上昇エッジパルス信号を出力する。
【0044】
上昇エッジ周期測定カウンタ(705)はVCO(710)のクロックおきに値をインクリメントするカウンタであり、上昇エッジパルス信号のタイミングでカウント値を平均周期検出手段(708)に転送するとともに、カウント値をクリアする。なお、VCO(710)は、継続して周波数参照信号を安定に生成するためには、前記VCO(212)とは異なる第二のVCOとしたほうがよい。
【0045】
下降エッジ検出手段(706)はこの矩形波信号がHighレベルからLowレベルになるタイミングを検出して下降エッジパルス信号を出力する。
【0046】
下降エッジ周期測定カウンタ(707) はVCO(710)のクロックおきに値をインクリメントするカウンタであり、下降エッジパルス信号のタイミングでカウント値を平均周期検出手段(708)に転送するとともに、カウント値をクリアする。
【0047】
カウンタ値保持手段(708)は、上昇エッジパルス信号、下降エッジパルス信号のタイミングでそれぞれ上昇エッジ周期測定カウンタ(705)と下降エッジ周期測定カウンタ(707)から送信されたカウント値を受信するとともに値を保持する。カウンタ値保持手段(708)の値は、あらかじめ定めた値Nrefとの差分が計算され、積算手段(709)で積算される。VCO(710)は積算手段(709)で積算された値が入力され、発振周波数が制御され、やがてカウンタ値保持手段(708)の値がNrefになるように発振周波数が収束する。なお、この収束する発振周波数は具体的には数式3のとおりである。

【数3】


【0048】
ここで、Nwob は、1ビット辺りのトラック長さ(Tbitとおく)とトラック蛇行周期のトラック長さ Twobとの比(Twob/Tbit)である。また、Fbitはチャネル周波数であり、Fbit = 1/Tbitと表される。即ち、VCO(710)の周波数は、チャネル周波数FbitのNref/Nwob逓倍に収束する。通例、Nrefは、Nref/Nwobが簡単な分数となるように選択すると、回路化しやすい。
【0049】
さらに、収束判定手段(711)は周波数参照信号生成手段(208)の動作が整定しているかどうかを判定するものであり、カウンタ値保持手段(708)の値とNrefとの差分が、予め定めた数だけの蛇行周期にわたって継続して一定量よりも小さい場合に収束していると判定し、それ以外の場合は収束していない判定して、これらの結果に基づく収束判定信号を出力する。
【0050】
(周波数誤差検出手段(209)の構成)
次に、周波数誤差検出手段(209)の構成例を、図8を用いて説明する。
周波数誤差検出手段(209)は、PLL(217)のクロック周期ごとに値をインクリメントする第一のカウンタ(801)と、周波数参照信号の周期ごとに値をインクリメントする第二のカウンタ(802)とリセットタイミング生成手段(803)と、カウンタ値保持手段(804)と、周波数誤差信号生成手段(805)と、VCO制御選択信号生成手段(806)とを有する。
【0051】
リセットタイミング生成手段(803)は、第一のカウンタ(801)のカウント値を参照し、カウント値が一定の値(Crstとおく)となるタイミングで、カウンタ(802)をリセットするためのカウントリセット信号を生成する。これを受けて、第一のカウンタ(801) と第二のカウンタ(802)の値がリセットされるとともに、カウンタ値保持手段(804)は第二のカウンタ(802)のリセット直前の値を保持する。
【0052】
このようにして得られたカウンタ値保持手段(804)の値(C[m]とおく。[]内はサンプリングに用いたカウントリセット信号の順を表す)に基づき、周波数誤差信号生成手段(805)は数式4に従って周波数誤差信号を生成する。

【数4】


【0053】
なお、Nref*Crst/Nwobの値は周波数誤差検出量の階調数を表し、たとえば100としたとき、周波数誤差検出量の分解能は逆数である0.01(1%)となる。この値がPLLのキャプチャレンジよりも小さくなり、かつNref*Crst/Nwobの値が整数になるようにNref, Nwob, Crstの値を設計すべきである。
【0054】
さらに、VCO制御選択信号生成手段(806)は、カウントリセット信号のタイミングごとに周波数誤差信号を監視し、あらかじめ定めたカウントリセット信号数の期間にわたって周波数誤差信号の表す周波数誤差量がキャプチャレンジ以内を保持した場合に、VCO入力切替手段(211)がループフィルタ(215)からの信号を選択し、それ以外の場合に周波数捕捉手段(210)からの信号を選択するようにするVCO入力選択信号を出力する。
【0055】
以上に述べた、媒体と再生処理ならびに装置構成によって、高密度に記録された再生専用媒体に対してもPLLの周波数捕捉が可能となる。
【0056】
(第二の実施形態)
第二の実施形態は、媒体のピット配列をトラッキングサーボの追従可能帯域よりも低い周波数で蛇行させるとともに、トラッキングサーボ系の補償器の出力信号もしくはトラッキング駆動信号から、蛇行量に応じた蛇行検出信号を得て、周波数捕捉のための参照信号とすることである。
【0057】
第二の実施形態における光ディスク媒体でのピット配置と、前述の第1の実施形態における光ディスク媒体でのピット配置との違いは、蛇行させる周期とトラッキングサーボ系の周波数特性との関係である。すなわち、数式5のような関係とする。
【0058】
【数5】



次に、第二の実施形態におけるトラッキングサーボ系の信号の振る舞いを、図9を用いて説明する。
【0059】
ピット配置が蛇行している点は第一の形態と同様であるが、数式5の関係により蛇行周期が大きくなっているため、トラッキングサーボが蛇行に追従可能であり、光スポット軌跡(901)はトラック中心近傍を走査する。このため、トラッキング誤差量は抑圧されることからトラッキング誤差信号の変動は小さくなり、一方で、トラッキングアクチュエータをトラックの蛇行に追従させて駆動するために、補償器出力とトラッキング駆動信号に揺動成分が現れる。そこで、第二の形態では、これらを用いて、周波数参照信号を生成する。
第二の実施形態でのデータ再生を可能とする装置構成の一例を図10に示す。図2に示した本発明の第1の形態での装置構成との相違点は、周波数参照信号生成手段(208)の入力信号である揺動信号が、トラッキング誤差信号ではなく、補償器(205)から供給されている点である。これは前記のとおり、トラッキング誤差信号にも揺動成分が現れるためであり、補償器(205)の出力信号ではなくトラッキング駆動信号であってもよい。この点以外は、前述の第一の実施形態と同様の装置構成である。
【0060】
本実施形態においては、光スポット軌跡(901)はトラック中心近傍を走査し、第一の形態のようにトラック中心と光スポット中心のずれが小さくなるため、より良好な再生信号の品質を得ることが可能となる。
【0061】
以上に述べた媒体と再生処理ならびに装置構成によって、高密度に記録された再生専用媒体に対してもPLLの周波数捕捉が可能となる。
【0062】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0063】
また、上記の各構成は、それらの一部又は全部が、ハードウェアで構成されても、プロセッサでプログラムが実行されることにより実現されるように構成されてもよい。また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【0064】
また、上記実施の形態では、光ディスク再生装置を例に説明したが、光ディスク記録再生装置であっても良く、光ディスクドライブ装置をはじめとしたデータ記録再生装置の再生処理に本発明を適用することができる。
【0065】
また、記録媒体も光ディスクに限定されず、種々の記録媒体に本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0066】
101:光ディスク、 104:ピット、105:トラック中心、106:トラック外縁、204:トラッキング誤差信号生成手段、205:補償器、 208:周波数参照信号生成手段、209:周波数誤差検出手段、210:周波数捕捉手段、217:PLL、401:光スポット軌跡、501:蛇行中心、701:揺動信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
螺旋状にピットが配置されたトラック構造を有し、
記録されたピット配列には一定間隔で同期コードが配置されており、
前記トラックは、半径方向に蛇行させてあり、
該蛇行の周期の半分の整数倍が、該同期コードの配置間隔と一致し、
前記トラックの蛇行量が略ゼロとなる位置に前記同期コードが存在する、光ディスク媒体。
【請求項2】
螺旋状にピットが配置されたトラック構造を有し、
記録された情報は一定量のデータ量を単位としたセクタ構造を有し、
該セクタ内にはヘッダ情報が存在し、
記録されたピット配列には一定間隔でヘッダ情報が記録された領域が存在し、
該トラックは、半径方向にピット配置を蛇行させてあり、
該蛇行の周期の半分の整数倍が、前記ヘッダ情報の配置された間隔に一致し、
前記トラックの蛇行量が略ゼロとなる位置に、前記ヘッダ情報が記録された領域が存在する光ディスク媒体。
【請求項3】
前記トラックの蛇行量は、半径方向に隣接するトラックとの間隔の1/4よりも小さいことを特徴とする、
請求項1または2記載の光ディスク媒体。
【請求項4】
前記トラックの蛇行量は、半径方向に隣接するトラックとの間隔の1/8程度であることを特徴とする、
請求項1または2記載の光ディスク媒体。
【請求項5】
螺旋状にピットが配置されたトラック構造を有し、
該トラックは、半径方向に蛇行させてあり、
該蛇行の周期は円周方向に対してTwobである光ディスク媒体に対し、
該光ディスク媒体を回転数Frotで回転させ、
半径位置Rの位置に存在する前記トラックに対して、
数式1の関係の周波数帯域幅Fcを有する特性の制御系を用いてトラッキングサーボを行い、
トラッキング誤差信号から当該半径位置におけるチャネル周波数に比例した周波数を有する周波数参照信号を生成し、
該周波数参照信号に基づいて、PLLの周波数捕捉を行うことを特徴とする、
光ディスク再生方法。
【数1】


【請求項6】
螺旋状にピットが配置されたトラック構造を有し、
該トラックは、半径方向に蛇行させてあり、
該蛇行の周期は円周方向に対してTwobである光ディスク媒体に対し、
該光ディスク媒体を回転数Frotで回転させ、
半径位置Rの位置に存在する前記トラックに対して、
数式5の関係の周波数帯域幅Fcを有する特性の制御系を用いてトラッキングサーボを行い、
該トラッキングサーボに用いる補償器の出力信号またはトラッキング駆動信号のいずれかから当該半径位置におけるチャネル周波数に比例した周波数を有する周波数参照信号を生成し、
該周波数参照信号に基づいて、PLLの周波数捕捉を行うことを特徴とする、
光ディスク再生方法。
【数5】


【請求項7】
螺旋状にピットが配置されたトラック構造を有し、
該トラックは、半径方向に蛇行させてあり、
該蛇行の周期は円周方向に対してTwobである光ディスク媒体を
回転数Frotで回転させてデータを再生する装置であって、
前記光ディスク媒体にレーザ光を照射するレーザと、
前記光ディスク媒体からの戻り光を検出する光検出器と、
該光検出器からの出力に基づいてトラッキング誤差信号を生成するトラッキング誤差信号生成手段と、
前記トラッキング誤差信号に対して適正な振幅や位相の補償を行う補償器と、
該補償器の出力に基づいてトラッキング駆動信号を生成するトラッキング駆動信号生成手段と、
該トラッキング駆動信号に基づきレーザ光の照射位置を調整するトラッキングアクチュエータとからなるトラッキングサーボ装置と、
前記光検出器からの出力に基づいて再生信号を生成する再生信号生成手段と、
該再生信号に位相同期したクロックを生成するPLLと、
前記トラッキング誤差信号に基づいて前記蛇行に同期した周波数参照信号を生成する周波数参照信号生成手段とを有し、
前記トラッキングサーボ装置の周波数帯域幅Fcを、前記光ディスク媒体の半径位置Rを再生するときに、数式1を満たすようにし、
前記PLLは前記周波数参照信号に基づいて周波数捕捉を行うことを特徴とする、
光ディスク再生装置。
【数1】


【請求項8】
螺旋状にピットが配置されたトラック構造を有し、
該トラックは、半径方向に蛇行させてあり、
該蛇行の周期は円周方向に対してTwobである光ディスク媒体を
回転数Frotで回転させてデータを再生する装置であって、
前記光ディスク媒体にレーザ光を照射するレーザと、
前記光ディスク媒体からの戻り光を検出する光検出器と、
該光検出器からの出力に基づいてトラッキング誤差信号を生成するトラッキング誤差信号生成手段と、
前記トラッキング誤差信号に対して適正な振幅や位相の補償を行う補償器と、
該補償器の出力に基づいてトラッキング駆動信号を生成するトラッキング駆動信号生成手段と、
該トラッキング駆動信号に基づきレーザ光の照射位置を調整するトラッキングアクチュエータとからなるトラッキングサーボ装置と、
前記光検出器からの出力に基づいて再生信号を生成する再生信号生成手段と、
該再生信号に位相同期したクロックを生成するPLLと、
前記トラッキング誤差信号に基づいて前記蛇行に同期した周波数参照信号を生成する周波数参照信号生成手段とを有し、
前記トラッキングサーボ装置の周波数帯域幅Fcを、前記光ディスク媒体の半径位置Rを再生するときに、数式5を満たすようにし、
前記PLLは前記周波数参照信号に基づいて周波数捕捉を行うことを特徴とする、
光ディスク再生装置。
【数5】


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2012−69206(P2012−69206A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−213015(P2010−213015)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【出願人】(501009849)株式会社日立エルジーデータストレージ (646)
【出願人】(509189444)日立コンシューマエレクトロニクス株式会社 (998)
【Fターム(参考)】