説明

光ディスク装置

【課題】超解像光ディスクの再生信号に含まれる常解像成分を除去し,再生信号の品質を向上する。
【解決手段】超解像光ディスクの再生信号からローパスフィルターやマーク長判定回路等の常解像信号選択フィルター30を用いて常解像成分を分離し,利得と位相を適切に制御しながら元の再生信号より減算することによって常解像成分によるクロストークの影響を低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,記録媒体上に物理的性質が他の部分とは異なる記録マークを形成し,情報を記録する光ディスクから情報を再生する光ディスク装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光ディスク媒体としてはCD-R/RW,DVD-RAM,DVD±R/RW,Blu-ray Disc(以下BD),HD DVD等多くのものが存在し,データ層を2層持つ媒体も含めて広く一般に普及している。対応する光ディスク装置としては,CD-R/RW,DVD-RAM,DVD±R/RWの記録/再生に対応した,いわゆるDVDスーパーマルチドライブが普及している。今後はBDやHD DVDに対応する高機能ドライブが普及してゆくものと考えられる。
【0003】
次世代の大容量光ディスクとして超解像技術やSIL(Solid Immersion Lens)などが提案されているが,超解像技術の中の1つとして特開特開2006-107588号公報に記載されたものがある。これは溶融時に光学特性が変化する相変化記録膜をピットに埋め込むことによって超解像再生を行い,かつ記録マーク同士を空間的に分離することによって記録マーク間の熱的な干渉や超解像領域の揺らぎを低減するものである。こうした構成によって線密度とトラック密度が同時に向上でき,光ディスクの記録容量を大幅に増加させることが可能である。また,データピットの間の領域の透過率を大きくすることによってデータ面の平均透過率を大きくできるので,光利用効率が高く,多層化にも有利である。以下,この方式を3次元ピット選択方式と呼ぶことにする。ピット内に記録膜を埋め込む手段としては,特開2005-100526号公報に記載の相変化エッチング法(結晶とアモルファスのエッチング速度の違いを利用する方法)やCMP(Chemical Mechanical Polishing)法等の物理的研磨加工法を利用することができる。
【0004】
超解像光ディスクを再生すると,光学分解能よりも小さなマークから超解像信号が得られる。一方,光学分解能よりも大きなマークがあると,通常の光ディスクと同様の信号が得られる。これを常解像信号と呼ぶことにする。超解像光ディスクの再生信号は,このように超解像信号と常解像信号が加算された非線形なものとなる。従って,良好なビットエラー率を得るには,一般的な再生信号処理方法ではなく,非線形処理を実施する必要がある。
【0005】
非線形な信号処理方法としては,再生信号のレベルに応じて等化係数を変化させるものとして特許第3781911号公報に記載の方法がある。また,3つの光スポットからの再生信号を利用して,隣接トラックからのクロストークを抑圧する信号処理方法としては,特開2005-332453号公報に記載されているものがある。
【0006】
【特許文献1】特開2006-107588号公報
【特許文献2】特開2005-100526号公報
【特許文献3】特許第3781911号公報
【特許文献4】特開2005-332453号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図2は,3次元ピット選択方式ディスクの構成例を示す断面模式図である。ディスク基板は,最短ピット長約150nm,ピット深さ68nmでRLL(1,7)変調パターンが形成されたPC基板である。反射膜としてAgPdCu合金膜(膜厚35nm),相変化記録膜としてBiGeSbTe合金膜(膜厚15nm),保護膜としてAl2O3誘電体膜(各膜厚は図に示す通り)が用いられている。ピット部への相変化記録膜の埋め込み処理にはCMP加工法が用いられている。波長λ=405nm,対物レンズの開口数NA=0.85の光ヘッドを搭載する評価装置で,この再生信号を測定した。このとき光スポットの1/e2径(λ/NA)は約476nmである。
【0008】
図3は,再生信号の測定結果を示す図である。ここでは線速度4.92m/sの条件にて,再生パワーを0.3mW(低パワー)と3.5mW(高パワー)の2つの条件で再生信号を測定した。図中の信号は,再生パワーに応じた利得補正をしたものである。図に見られるように,相変化記録膜の溶融によって超解像効果が発生し,マーク部の信号振幅が増加していることが判る。この実験において,低パワー再生時の振幅と高パワー再生時の振幅の比率は概ね1:1.3であった。従って,常解像信号振幅に対する超解像信号の振幅は約0.3である。
【0009】
図4は,高パワー再生時に得られる信号を模式的に表した図である。図に示すように,常解像信号では光学分解能よりも小さなマークの振幅はゼロであり,超解像信号は光学分解能よりも小さなマークからも大きな信号振幅が得られる。超解像ディスクの再生時に得られる信号は,両者を加算したものになる。一方,3次元ピット選択方式ディスクのように熱エネルギーを利用して超解像効果を得る媒体では,熱応答遅れの分だけ超解像信号に遅れ(図中のΔ)が生ずる。このように,振幅と位相の異なる2つの信号が加算された再生信号では良好なデータ再生は望めない。超解像信号に着目すると,常解像信号はクロストークであると考えることができる。
【0010】
本発明の目的は,常解像信号のクロストークを低減することによって超解像ディスクから良好な品質のデータを再生することである。以下,常解像信号の影響を低減する技術を常解像クロストークキャンセル技術と呼ぶことにする。以下,従来の技術を常解像クロストークキャンセルの目的で応用した場合の課題について述べる。
【0011】
特許第3781911号公報には,再生信号のレベルが小さい場合に利得を大きくし,再生信号のレベルが大きい場合に利得を小さくするという非線形等化方式によって,符号間干渉を増加させずに短い信号の振幅を大きくすることによって高いS/Nを得ることが記載されている。公報には,非線形等化によってアイの開口率が改善することが示されている。しかしながら,同公報にも記載されているように,この方法では再生信号のレベルが小さいエッジ部で利得が小さくなるため,エッジシフト量の改善効果が少ない。従って,超解像信号と常解像信号の間に位相差があるような超解像ディスクの再生信号に対しては,信号品質の改善効果は少ないと言える。
【0012】
特開2005-332453号公報には,メインスポットで再生するトラックの内側のトラックと外側のトラックの上にそれぞれサブスポットを形成し,これら3つの光スポットから得られる再生信号を利用して隣接トラックからのクロストークを低減する方法が記載されている。この方法は,そのままの構成では超解像ディスクの信号処理に適用できないが,図5に示すように,同一トラックにメインスポットとサブスポットを配置することによって,メインスポットのパワーが超解像再生の閾値パワーよりも高く,サブスポットのパワーが超解像再生の閾値パワーよりも低い場合に,サブスポットから常解像信号が得られるため,常解像クロストークキャンセルが原理的に実現可能である。しかしながら,同一トラック上に3つの光スポットを配置する光ヘッドは特殊であり,超解像ディスクだけでなく従来の光ディスクにも対応する光ディスク装置を実現するには光ヘッドのコストが増大することが避けられない。超解像光ディスクは,基本的に再生パワーの制御だけで大容量化が可能なことが他の技術に比較して優位な点であるので,特殊な光ヘッドを用いずに再生回路技術だけで常解像キャンセルを実現することが好ましい。
【0013】
以上述べたように,従来の技術では性能とコストの両面で常解像キャンセルを実現することが困難である。本発明の目的は,再生回路技術だけで常解像キャンセルを実現し,超解像ディスクから良好な品質のデータを再生できる光ディスク装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明では,超解像光ディスクの再生信号から常解像信号選択フィルターを用いて常解像成分を分離し,利得と位相を適切に制御しながら元の再生信号より減算することによって常解像成分によるクロストークの影響を低減する。常解像成分は,長いマーク長に起因する信号成分であり,常解像信号選択フィルターとしては,ローパスフィルターや,マーク長判定回路とスイッチを組み合わせた回路を用いることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると,超解像ディスクの再生信号から常解像成分を取り除くことによって,回路技術だけで再生信号の品質を改善し,良好なビットエラー率を得ることができ,超解像効果を活用した大容量光ディスクシステムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図6は,本発明による常解像キャンセル方式の概念を示すブロック図である。前述のように常解像信号と超解像信号ではマーク長に対する応答が異なることを利用して,ローパスフィルターによって再生信号の中から常解像信号成分を分離し,利得と位相を適切に調整した後に,元の再生信号から減算することによって,再生信号中の超解像信号成分を取り出すことができる。以下,本発明の常解像キャンセル方式によって信号品質を改善可能なことを示す。
【0017】
先ず,超解像信号と常解像信号の信号振幅のマーク長依存性を調べるためにFDTD(Finite Differential Time Domain)法によって電磁界計算を実施した。ディスク構造としては図2に示したものを用い,光スポットの中心に最近接の記録マーク内の相変化記録膜が一様に溶融するというモデルを用いて,高パワー時(超解像+常解像)の再生信号振幅を求め,記録マークが全て結晶相であるとして低パワー時(常解像)の再生信号振幅を求めた。繰り返し信号のマーク長と信号振幅の関係を計算した結果を図7に示す。Tw=75nmとした。図中の超解像信号の振幅は,高パワー再生時の再生信号から低パワー時の再生信号を減算して求めたものである。RLL(1,7)変調符号を用いた場合,最短マーク長(2Tw)が150nmの場合に,直径120mmのディスクにて記録容量が約25GBになる。3次元ピット選択方式ディスクを用いれば4倍の容量100GB,すなわち最短マーク長が37.5nmの場合でも2Tw信号の振幅が得られていることが判る。このとき最長マーク8Twのマーク長は150nmとなる。マーク長が150nmでは,常解像信号の振幅の方が,超解像信号の振幅よりも約6dB大きいことが判る。
【0018】
100万Tw以上の長さの再生信号,所謂ランダムパターン信号を計算してビットエラー率を求めるにはFDTD法は計算時間とメモリの問題で適用できない。そこで,常解像信号については良く知られた線形回折計算によりインパルスレスポンスを求め,これをRLL(1,7)符号の2値データ列と畳み込み演算をしてランダムパターンの再生信号を計算した。超解像信号については,図8に示す計算モデルによって再生信号を計算した。ここでは,光ビームの中心近傍の強度が強い領域(半径Rm)と記録マークが重なった領域が溶融し,他の場所と異なる反射率になると仮定した。ガウス分布で近似した光スポットの強度分布と溶融領域の反射率応答を積算することによって,超解像信号を計算することにした。
【0019】
図9は,超解像信号と常解像信号のランダムパターン再生信号の計算結果を示す図である。ここで,光源の波長を405nm,対物レンズの開口数を0.85,検出窓幅Twを18.75nm,マーク幅を150nm,溶融半径Rmを37.5nm,8Tw繰り返し信号における超解像信号と常解像信号の振幅比率を1:2,超解像信号と常解像信号の位相ずれを1Twとした。図に見られるように,超解像信号に比較して,常解像信号を加算した再生信号では信号品質が大きく劣化し,アイパターンが歪んでいることが判る。これが常解像信号の影響による再生信号の劣化を示すものであり,本発明の解決すべき課題である。
【0020】
図10は,それぞれのランダムパターン信号の周波数特性を計算した結果を示す図である。ここで,検出窓幅Twは15.15nsとしており,2Tw繰り返し信号の周波数は16.5MHzである。図に見られるように,超解像信号のスペクトルが高周波まで伸びているのに対して,常解像信号は光学分解能を反映して4MHz以上で急激に減衰している。超解像信号に常解像信号を加算した再生信号では,両者の重ね合わせのスペクトルを持つ。超解像信号と常解像信号の周波数特性の違いを利用すれば,再生信号の中から常解像信号の成分を分離して処理することが可能である。
【0021】
図11は,超解像信号と常解像信号が加算された再生信号をカットオフ周波数2,4,6MHzのローパスフィルターを通して得られる信号の周波数特性を計算した結果を示す図である。ここで,ローパスフィルターとしては6次ベッセルフィルターを用いた。図に見られるように,カットオフ周波数4MHzのローパスフィルターを用いることによって,常解像信号に近い周波数特性を得られることが判る。RLL(1,7)符号の場合,最短マークは2Tw,最長マークは8Twであるので,これらの繰り返し信号の周波数は16.5MHzから4.125MHzに分布する。一方,8Twマークの長さは150nmであり,光学分解能のマーク長119nm(λ/NA/4)に近い。従って,4MHzのローパスフィルターは光学分解能のフィルター効果に近いものであり,データ信号の主成分は4.125MHzより高い周波数に分布するので,ローパスフィルターによって超解像効果によって得られた変調信号の主成分を遮断して,常解像信号を分離することができる。
【0022】
ローパスフィルターを用いて図6の基本概念を実現する再生信号処理回路の具体的な構成を図12に示す。ここでは,2値化方式としてビタビデコーダを用い,分離した2つの信号それぞれに自動等化器であるタップ係数が可変の主及び副FIR(Finite Impulse Response)フィルターを用いた。これらのタップ数は15である。タップ係数の更新処理はLMS(Least Mean Square)法を応用する。ビタビデコーダのPRクラスとしては再生信号の周波数特性に近いPR(1,5,5,1)を選択し,その出力である2値化信号とPRクラス(1,5,5,1)で表されるインパルスレスポンスの畳み込み処理によって目標信号を生成し,これと再生信号の誤差が最小になるように,2つのFIRフィルターのタップ係数を逐次更新する。
【0023】
図13は,常解像信号キャンセル処理の前後の信号のアイパターンとビットエラー率の計測結果を示す図である。図13(a)は常解像信号キャンセル処理前の信号を表し,図13(b)は常解像信号キャンセル処理後の信号を表す。ここで,常解像キャンセル処理を行わない場合のビットエラー率の計測は,PR(1,5,5,1)クラスの通常のビタビデコーダのビットエラー率として求めたものである。常解像キャンセル処理によって,再生信号の品質が大幅に改善すると共に,ビットエラー率も1.4×10-2から1×10-6以下に改善していることが判る。
【0024】
図14は,主及び副FIRフィルターのタップ係数を示している。図14(a)は主FIRフィルターのタップ係数であり,通常の自動等化がなされた結果である。図14(b)は副FIRフィルターのタップ係数であり,常解像信号と超解像信号の位相差を1Twとしたことに対応して-1Twのタップ係数がピークとなっており,分離された常解像成分が減算されている様子を定性的に示している。
【0025】
図15は,ローパスフィルターとして使用したタップ数15のFIRフィルターのタップ係数を示す図である。タップ係数を変化させることによって,カットオフ周波数が2,4,6MHzの6次ベッセルフィルターの周波数特性を近似することができる。ここで,タップ数N(Nは奇数)のFIRフィルターを用い,センタータップに対して対称となるように各々のタップ係数を定めた場合,フィルター通過時の遅延量は(N-1)/2となる。ローパスフィルターとしてFIRフィルターを用いることによって遅延量を一意に定めることができる。図12の構成において,ローパスフィルターはタップ数15のFIRフィルターであり,対応する遅延回路のディレイ量は7Twである。
【0026】
以下,本発明の詳細について,更に説明する。図1は,本発明の光ディスク装置に好適なデータ再生回路の構成例を示す図である。図示していない光ヘッドで検出したRF信号50は遅延回路23を通過した後に位相・利得調整器24により適切に等化処理される。同時にRF信号50の一部は常解像信号選択フィルター30により分離され,位相・利得調整器25により位相と利得が適切に調整される。こられの信号を減算処理することによって,出力RF信号51を得ることができる。本構成は,図12に示した再生信号処理回路を一般化したものである。前述の説明では,常解像信号選択フィルター30としてカットオフ周波数4MHzのローパスフィルターを用い,位相・利得調整器24及び25としてそれぞれタップ数15の適応等化機能を有するFIRフィルターを用いた。超解像ディスクの応答に応じて,常解像信号選択フィルター30の構成や,位相・利得調整器24,25のタップ数を選択する等の構成選択を実施すればよい。
【0027】
図16は,常解像信号選択フィルターと超解像信号選択フィルターを併用した場合の本発明の再生信号処理回路の構成例を示す図である。前述のように,再生信号に含まれる超解像信号成分と常解像信号成分とでは周波数特性が異なるので,超解像信号成分を抽出する超解像信号選択フィルター40を用いた構成になっている。前述の例と同様に,常解像信号選択フィルターとしては例えばカットオフ周波数4MHzのローパスフィルターを用い,超解像信号選択フィルターとしては例えばカットオフ周波数1MHzのハイパスフィルターを用いればよい。両者のフィルターのカットオフ周波数のオーバラップ(1MHz〜4MHz)は,常解像信号成分と超解像信号成分の減算処理をする場合に信号成分の欠落を防止するために必須である。位相・利得調整器24及び25はタップ係数が適応的に変化するFIRフィルターである。このように,常解像信号選択フィルターと超解像信号選択フィルターを併用することによって,位相・利得調整器24及び25の負荷を低減し,回路構成を簡略化することができるという利点がある。図において,常解像信号選択フィルターと超解像信号選択フィルターのタップ数が異なる場合には,両者の遅延調整のために図1に示した遅延回路23を設ければよい。
【0028】
図17は,本発明に好適な再生信号処理回路の構成例を示す図である。図示していない光ヘッドで検出したRF信号50は,アナログ等化器10で等化処理とAGC処理が施された後,デジタル信号処理部20に入力する。デジタル信号処理部20内では,入力したRF信号をADコンバータ21でクロックごとにデジタル信号化した後,DC補正器22でDC補正を施し,遅延調整器23を通した後にFIRフィルター24でデジタル等化する。同時に,デジタル化されたRF信号の一部は,常解像信号選択フィルター30にて処理され,FIRフィルター25にて等化処理された後,FIRフィルター24の出力から減算されてビタビ複号器26によって2値化され,2値化信号52として取り出される。ビタビ復号器26の内部構成については本発明の範囲を超えるので詳細には記述しないが,2値化ビット列とPRクラスの畳み込み処理から生成される目標信号と再生信号とを比較して,誤差が最小になる2値化ビット列を逐次選択してゆくものである。FIRフィルターのタップ係数の学習処理は,LMS制御部27により実施される。PLL(Phase Locked Loop)回路28は,DC補正器22の出力信号から位相情報を抽出して,図示していないVCO(Voltage Controlled Oscillator)を制御することによってクロック信号を生成するものである。このような構成によってRF信号50から2値化データ52を得ることができる。これを図示していない論理フォーマットデコーダに入力することによって,復調処理が施され光ディスク媒体に記録されたデータを再生することが可能である。
【0029】
図の構成において,常解像信号選択フィルター30は,スイッチ31,疑似2値化器32,マーク長判定器33から構成される。疑似2値化器32はデジタル化されたRF信号の符号ビットのみを抽出することによって,所謂ダイレクトスライス方式と等価な2値化信号を得ることができる。この結果を利用してマーク長判定器でマーク長を判定し,例えば前述の例に沿った場合,マークもしくはスペースが8T以上の場合にスイッチ31をONにして再生信号を通過させ,マークもしくはスペースが8T未満の場合にスイッチ31をオフして通過する再生信号のレベルをゼロにする。こうした構成によって,ローパスフィルターよりも急峻な選択性を有する常解像信号選択フィルター30を構成できる。従って,ローパスフィルターによる線形演算だけでは常解像信号の選択性が十分でない場合,例えば検出窓幅Twが前述の例18.75nmよりも長く,再生信号に含まれる常解像信号成分が大きい場合に対応可能である。なお,図示していないがスイッチ31には,その機能を実現するために疑似2値化器32とマーク長判定器33の処理時間分だけの遅延調整器がスイッチ機構の前段に配置されている。
【0030】
図18は,本発明の再生信号処理回路を用いた場合の再生信号のS/Nとビットエラー率の関係を計算した結果を示す図である。ここでは常解像選択フィルターの構成として図17に示したものを用い,光源の波長を405nm,対物レンズの開口数を0.85,検出窓幅Twを18.75nm,マーク幅を150nm,溶融半径Rmを37.5nm,8Tw繰り返し信号における超解像信号と常解像信号の振幅比率を1:2,超解像信号と常解像信号の位相ずれを1Twとした。再生信号のS/Nの定義は超解像信号成分の半値振幅Aとガウス分布ランダム雑音の標準偏差σから,S/N=σ/Aとして定義したものである。図に示されるように,常解像信号キャンセル(NRCTC:Normal Resolution Crosstalk Cancel)処理を施すことによって,ビットエラー率が大きく改善し,超解像信号のみの場合の結果に近い性能が得られることが判る。
【0031】
図19は,本発明の光ディスク装置の構成例を示す模式図である。光ディスク媒体100は,スピンドルモータ160により回転される。再生時には,CPU140によって指令された光強度になるように,レーザパワー/パルス制御器120が光ヘッド110内のレーザドライバ116を介して半導体レーザ112に流す電流を制御し,レーザ光114を発生させる。レーザ光114は対物レンズ111によって集光され,光スポット101を光ディスク媒体100上に形成する。この光スポット101からの反射光115は,対物レンズ111を介して光検出器113で検出される。光検出器は複数に分割された光検出素子から構成されている。再生信号総合処理回路130は,光ヘッド110で検出された再生信号を用いて,光ディスク媒体100上に記録された情報を再生する。本発明の再生信号処理回路は,再生信号総合処理回路130に内蔵される。再生信号総合処理回路130は,光ヘッド110で検出された信号を用いて,光ディスク媒体に記録されたデジタル情報を再生する機能の他に,フォーカス制御,トラッキング制御のための誤差信号の生成やウォブル信号を処理してアドレス情報を抽出する等の処理を行う。光ディスク装置全体の制御は,CPU140の指示に基づいてシステム制御回路200によって実現される。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は,超解像効果を使った大容量光ディスク媒体から情報を再生する光ディスク装置に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の光ディスク装置に好適なデータ再生回路の構成例を示す図。
【図2】3次元ピット選択方式ディスクの構成例を示す断面模式図。
【図3】再生信号の測定結果を示す図。
【図4】高パワー再生時に得られる信号を模式的に表した図。
【図5】超解像ディスクに従来法を適用すると仮定したときのスポット配置を示す図。
【図6】本発明による常解像キャンセル方式の概念を示すブロック図。
【図7】繰り返し信号のマーク長と信号振幅の関係を計算した結果を示す図。
【図8】超解像信号を計算するためのモデル図。
【図9】超解像信号と常解像信号のランダムパターン再生信号の計算結果を示す図。
【図10】ランダムパターン信号の周波数特性の計算結果を示す図。
【図11】再生信号をローパスフィルターを通して得られる信号の周波数特性を示す図。
【図12】再生信号処理回路の具体的な構成例を示す図。
【図13】常解像信号キャンセル処理の前後の信号のアイパターンとビットエラー率の計測結果を示す図。
【図14】主及び副FIRフィルターのタップ係数を示す図。
【図15】ローパスフィルターとして使用したFIRフィルターのタップ係数を示す図。
【図16】本発明の再生信号処理回路の構成例を示す図。
【図17】本発明に好適な再生信号処理回路の構成例を示す図。
【図18】本発明の再生信号処理回路を用いた場合の再生信号のS/Nとビットエラー率の関係を計算した結果を示す図。
【図19】本発明の光ディスク装置の構成例を示す模式図。
【符号の説明】
【0034】
20 デジタル信号処理部
30 常解像信号選択フィルター
40 超解像信号選択フィルター
50 RF信号
51 出力RF信号
52 2値化データ
100 光ディスク
101 光スポット
110 光ヘッド
111 対物レンズ
112 半導体レーザ
113 光検出器
114 レーザ光
115 反射光
116 レーザドライバ
120 レーザパワー/パルス制御器
130 再生信号処理器
140 CPU
160 スピンドルモータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ディスク媒体からの反射光を電気信号に変換して第1の再生信号を生成する光電変換手段と,
前記第1の再生信号から第2の再生信号として常解像信号成分を取り出す常解像信号選択フィルターと,
前記第2の再生信号に対して第1の再生信号の位相を所定量遅延させる遅延回路と,
前記遅延回路を通った前記第1の再生信号から前記第2の再生信号を減算する減算手段と,
前記減算手段の出力信号を2値化して前記光ディスク媒体に記録されたデジタル情報を読み出す2値化手段と
を有することを特徴とする光ディスク装置。
【請求項2】
請求項1記載の光ディスク装置において,前記常解像選択フィルターはローパスフィルターであることを特徴とする光ディスク装置。
【請求項3】
請求項1記載の光ディスク装置において,前記遅延回路を通った信号の位相と利得を調整する第1の位相・利得調整器と,前記常解像信号選択フィルターを通った信号の位相と利得を調整する第2の位相・利得調整器とを有し,前記減算回路は,前記第1の位相・利得調整器の出力から前記第2の位相・利得調整器の出力を減算することを特徴とする光ディスク装置。
【請求項4】
請求項3記載の光ディスク装置において,前記2値化手段はビタビ復号器であり,前記第1の位相・利得調整器及び第2の位相・利得調整器は前記第1の再生信号及び第2の再生信号をそれぞれ前記ビタビ復号器の出力に応じてタップ係数を適応的に変化させながら等化処理する適応等化手段であることを特徴とする光ディスク装置。
【請求項5】
請求項3記載の光ディスク装置において,前記常解像信号選択フィルターはマーク長判定器と信号をオン・オフするスイッチとを有し,前記マーク長判定器によって前記第1の再生信号が予め定められたマーク長より長いマークに起因すると判定されたとき前記スイッチをオンして前記第1の再生信号を前記第2の位相・利得調整器に通すことを特徴とする光ディスク装置。
【請求項6】
光ディスク媒体からの反射光を電気信号に変換して再生信号を生成する光電変換手段と,
前記第1の再生信号のうち超解像信号成分を通過させる超解像信号選択フィルターと,
前記第1の再生信号のうち常解像信号成分を通過させる常解像信号選択フィルターと,
前記超解像信号選択フィルターを通った信号をタップ係数を適応的に変化させながら等化処理する第1の適応等化手段と,
前記常解像信号選択フィルターを通った信号をタップ係数を適応的に変化させながら等化処理する第2の適応等化手段と,
前記第1の適応等化手段の出力信号から前記第2の適応等化手段の出力信号を減算する減算手段と,
前記減算手段の出力信号を2値化して前記光ディスク媒体に記録されたデジタル情報を読み出す2値化手段と
を有することを特徴とする光ディスク装置。
【請求項7】
請求項6記載の光ディスク装置において,前記常解像信号選択フィルターはハイパスフィルターであり,前記常解像信号選択フィルターはカットオフ周波数が前記ハイパスフィルターのカットオフ周波数より高いローパスフィルターであることを特徴とする光ディスク装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2008−165925(P2008−165925A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−355931(P2006−355931)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】