説明

光ディスク装置

【課題】
再生時のSPP信号の増幅率krに対し、記録時の増幅率kwが異なる場合、増幅率krを設定した状態で記録動作を行うとトラッキングサーボの安定性が低下する。
【解決手段】
上記課題を解決するために、記録中のメインプッシュプル信号振幅とサブプッシュプル信号振幅を信号振幅取得手段により取得し、メインプッシュプル信号振幅とサブプッシュプル信号を増幅回路で増幅した信号振幅が等しくなるように増幅回路の増幅率を決める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光ディスク装置のトラッキング制御技術にあたり、記録時のトラッキングサーボの安定化に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光ディスク装置のトラッキング制御に使用されるトラッキングエラー信号の生成法にはいろいろな生成方式が提案されており、その一つとして差動プッシュプル方式がある。差動プッシュプル方式に関しては例えば、特許文献1により生成方式や調整方法が述べられている。
【0003】
【特許文献1】特開2002−183992号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
差動プッシュプル方式(以下DPP方式とする)は、メインビームの光スポットから得られるメインプッシュプル信号(以下MPP信号とする)とサブビームの光スポットから得られるサブプッシュプル信号(以下SPP信号とする)から生成され、MPP信号とSPP信号をk倍した信号との差分を取ることでDPP信号とする。DPP信号は対物レンズのレンズシフトによる光軸ずれによって発生するプッシュプル信号のオフセットをキャンセルすることが出来るため、DPP信号をトラッキングエラー信号として使用することが出来る。
【0005】
ところでSPP信号の増幅率kは特許文献1でも示されているように、再生パワー発光状態でかつフォーカスサーボのみ動作させた状態で行う。そして対物レンズをレンズシフトさせてもDPP信号の中心値がほぼ一定となる増幅率を求めることで得ることが出来る。
【0006】
しかし上記増幅率kの取得方法は、フォーカスサーボのみ動作させた状態でありトラッキングサーボを動作させていないので、ディスク半径方向には光スポットは移動していない。一方、ディスクには少なからず偏心があるため、ディスクを回転させると、光スポットから見てトラックはディスク回転周期で内外周に移動する。このため、光スポットは複数のトラックを横断することになり、この状態で記録パワー発光を行うとトラック以外の部分に記録を行うことになる。このため、上記方法では再生パワー発光での増幅率krは取得できるが、記録パワー発光状態の増幅率kwを得ることは出来ない。しかし、記録時の増幅率kwと再生時の増幅率krが異なる場合、記録時に増幅率krを使用するとトラッキングサーボの不安定要因となる。
【0007】
SPP信号増幅率が記録時と再生時で異なる原因について図4を用いて説明する。
【0008】
図4(a)は再生状態のディスク上の光スポットを示す。この光ディスク装置はトラックのグルーブに対して記録再生を行うものとする。グルーブ13にメインスポット10aが位置するとき、ランド14上にサブスポット11a、12aが位置するように光学系が構成されている。ここでメインスポット10aに対し、サブスポット11a、12aは光パワーが小さく設定されている。このメインスポット10a、サブスポット11a、12aからMPP信号、SPP信号が生成されている。
【0009】
次に図4(b)に記録状態の光スポットを示す。図4(b)に示すようにトラックに対する、光スポットの位置関係は再生時と変わらない。しかし、メインスポット10bはディスクに対して記録状態にあり、ディスクの記録膜変化が起きている。一方、サブスポット11b、12bはメインスポット11bより光パワーが小さいため再生状態にあり、記録膜面の変化は起きていない。ここで、サブスポット11b、12bの反射光は、記録時も再生時も記録膜面変化が起きておらず反射率が変わらないため、光パワーに比例した値が得られる。一方、記録時のメインスポット10b部分は、記録膜面変化が発生し反射率も変化するため、反射光が光パワーの増加率と比例しなくなる。このため、MPP信号とSPP信号のバランスが崩れ、再生用SPP信号増幅率krに対し、記録用SPP信号増幅率kwが異なった値となる。
【0010】
再生時増幅率krと記録時増幅率kwの差は大きくかけ離れていないため、記録時に再生時の増幅率krを設定してトラッキングサーボを動作させても、光スポットをトラックに追従させることは可能であるが、対物レンズのレンズシフトにより、トラック内で光スポットが振られながら記録することになる。この場合、ディスクの偏心が大きい場合、信号処理回路にオフセットがある場合、光ディスク装置に外部から振動が入った場合などの悪影響下でトラッキングサーボ外れが発生する確率が高くなる。
【0011】
よって、記録時のSPP信号の増幅率Kwを適切に設定する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
記録中のメインプッシュプル信号振幅とサブプッシュプル信号振幅を信号振幅取得手段により取得し、メインプッシュプル信号振幅とサブプッシュプル信号を増幅手段で増幅した信号振幅が等しくなるように増幅手段の増幅率を決める。
【0013】
また、最初に増幅手段の増幅率を再生時の増幅率を使用して記録動作を開始し、記録中のメインプッシュプル信号振幅とサブプッシュプル信号の振幅を取得して記録時の増幅率を求め、現在の記録が終了し次回記録を開始するときには記録時用増幅率を適用する。
【0014】
また、求められた記録時の増幅率と再生時の増幅率の差が予め設定された閾値より大きい場合、現在の記録を一旦中断したのち次の記録するアドレスに再位置づけして記録処理を再開し、記録処理を再開した際には記録時用増幅率を適用する。
【0015】
また、光パワー調整する領域で記録処理を行い、記録時用増幅率を求める。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、差動プッシュプル信号を利用した記録再生用光ディスク装置において、記録時のSPP信号増幅率kwを適切に設定することが出来、記録中のトラッキングサーボの安定化を図ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明の実施の形態を説明する。
【実施例1】
【0018】
本発明の実施例について図を用いて説明する。
図1は本発明の1実施例を示す光ディスク装置の構成を示した図である。
光ディスク101はディスクモータ102、ドライバ回路103により、回転した状態にある。光ピックアップユニット107に搭載されたレーザダイオード105から出射された光は対物レンズ104により、光ディスク101上のトラックに集光される。そして光ディスク101に集光された光はディスク面で反射され、その反射光は再度対物レンズ104を通過した後、受光素子106に入り電気信号に変換される。受光素子106から出力される電気信号は、信号処理回路110に入力される。信号処理回路110は入力された信号を処理し、インターフェース111を通じて外部接続機器との通信を行ったり、ドライバ回路103にフィードバックし、ディスクモータ102や光ピックアップユニット107などの制御を行っている。信号処理回路110内には、受光素子106から出力されたMPP信号とSPP信号からDPP信号を生成するDPP生成回路109と、MPP信号、SPP信号の振幅レベルを取得する信号振幅取得回路108を有している。
【0019】
図2により、光ピックアップユニット107内の受光素子106と信号処理回路110内のDPP生成回路109について説明する。
【0020】
MPP信号およびSPP信号を生成する受光素子は、3個の二分割受光素子1、2、3によって構成されている。二分割受光素子1がメインスポットからの反射光を受光し、二分割された受光素子から出力された信号を差分演算回路4で差分をとりMPP信号が生成される。また、二分割受光素子2、3はサブスポットからの反射光を受光し、二分割された受光素子から出力された信号を差分演算回路5、6で差分をとり、かつそれぞれの差分信号を和演算回路7で加算することでSPP信号が生成される。そして光ピックアップユニット107から出力されたMPP信号、SPP信号は信号処理回路110内のDPP生成回路109に入力される。DPP生成回路109にはSPP信号を増幅する可変の増幅回路9があり、MPP信号と増幅回路9によってK倍増幅されたK・SPP信号との差分を差分演算回路8でとることで、DPP信号を生成する。
【0021】
図3により再生時の増幅回路の増幅率krの取得方法について説明する。
図3は再生パワー発光させた状態で、フォーカスサーボのみを動作させたときのMPP信号およびSPP信号を示している。トラッキングサーボを動作させていないので、ディスク半径方向には光スポットは移動しない。一方、ディスクには少なからず偏心があるため、ディスクを回転させると、光スポットから見てトラックはディスク回転周期で内外周に移動する。このため、光スポットはトラックを横断し、MPP信号およびSPP信号は、横断したトラック毎に信号変動が観測できる。この時観測されるMPP信号とSPP信号は、位相が180度反転した信号となる。ここで対物レンズをレンズシフトし、光軸ずれを発生させると、MPP信号およびSPP信号とも図3左図に示すように基準レベルに対しオフセットが発生する。このオフセットはMPP信号、SPP信号とも同方向に発生するのでMPP信号の中心値が基準レベルからオフセットした量OFmppと、SPP信号の中心値が基準値からオフセットした量OFsppを使用し、数式1となるkrを求めることで再生時のSPP信号増幅率を求めることが出来る。
【0022】
〔数式1〕 OFmpp=kr・OFspp
記録時の増幅率kwを求める方法について、図5を用いて説明する。
図5(a)は再生時のMPP信号およびSPP信号を示した図である。再生中であるため、フォーカスサーボ、トラッキングサーボが動作し、光スポットはトラックに追従している。このとき光ディスクの偏心によってトラックはディスク半径方向に変動しているため、対物レンズは光スポットを追従させるためにこれに同期してレンズシフト動作する。このため、MPP信号だけを観測すると、対物レンズのレンズシフトによってオフセットが発生しているため、回転周期に同期した出力変動が見られる。またSPP信号についても同様である。ここで、SPP信号の増幅率krはレンズシフトによるオフセットをキャンセルするように設定しているため、MPP信号の信号振幅とSPP信号に増幅率Krを乗じた信号振幅は数式2が成立する。
【0023】
〔数式2〕 (MPP振幅)=(kr×(SPP振幅))
この増幅率krを用いて記録を行ったときの図を図5(b)に示す。メインスポットは記録状態になるため、再生状態にあるSPP信号とのバランスが崩れ数式3の状態にある。
【0024】
〔数式3〕 (MPP振幅)≠(kr×(SPP振幅))
ここで記録時のSPP信号増幅率kwの補正方法について図5(b)(c)で説明する。まず図5(b)に示すように再生時の増幅率krを用いて記録動作を行う。ここで、記録中のMPP信号振幅と、SPP信号振幅に増幅率krを乗じた振幅を取得する。そして、数式4を求めることで、記録時の増幅率kwを求めることが出来る。
【0025】
〔数式4〕 kw=(MPP振幅)/(kr×(SPP振幅))×kr
この増幅率kwを用いて記録時のプッシュプル信号を観測すると、図5(c)に示すように数式5が成立する。
【0026】
〔数式5〕 (MPP振幅)=(kw×(SPP振幅))
数式5は、偏心によって発生する対物レンズのレンズシフトによるオフセット量が、MPP信号のオフセットと、SPP信号を増幅した信号のオフセットで同じことを示している。この増幅率kwを記録時に用いることにより適正な増幅率が設定されたDPP信号が得られる。
【0027】
次に具体的な増幅率kwの調整方法について図6により説明する。
図6は、記録時の増幅率kwを取得する際の処理フローを示した図である。このときすでに再生時の増幅率krは従来の方法により取得されているものとする。まずSPP信号の増幅率を再生時の増幅率krに設定した状態で、記録処理を開始する。次に記録中のMPP信号とSPP信号に増幅率krを乗じた信号の信号振幅を取得する。このときディスク1回転に要する時間以上の間信号振幅を取得することで、ディスク偏心により発生するMPP信号、SPP信号のレンズシフトによるオフセット量が取得できる。つぎに取得したMPP信号振幅と、SPP信号振幅に増幅率krを乗じた信号振幅から数式4により記録時の増幅率kwを算出する。算出された増幅率kwと再生時の増幅率krとの差が予め設定した閾値より小さい場合は、記録時の増幅率設定値が適正な状態にありこのまま記録を続行する。一方閾値より大きい場合は、現在設定しているSPP信号の増幅率が適正値からずれた状態にある。このため、まず記録処理を中断した後、増幅率kwを設定する。そして、記録中断した位置にシーク処理して再位置づけし記録開始する。以上の処理を行うことで記録時のSPP信号の増幅率を適正化した状態で記録することが出来る。
【0028】
なお、記録時に増幅率krを使用した状態でもすぐにサーボ外れが発生することはないため、記録時の増幅率の適正化要求がある場合でも即座に記録処理を中断せずに現在の記録処理は行い、現在の記録処理が終わった段階で増幅率kwを設定し、次回の記録処理から適用してもよい。この場合の利点としては、記録中断処理を省くことが出来、記録処理時間の短縮が出来る。
【0029】
また、光ディスク装置において記録処理を始める前に、記録パワーを調整する処理が行われる。これはディスク上の専用領域に光パワーレベルを変化させて記録し、記録された部分を再生した信号から最適な光パワーを取得する処理である。この領域への記録時に、増幅率kwを求める処理を行ってもよい。記録パワー調整時に増幅率調整を行うことで、実際のデータを記録する際に、最初から最適な増幅率kwを設定することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施例を示した図で、光ディスク装置の構成図である。
【図2】本発明の実施例を示した図で、二分割受光素子によってプッシュプル信号を生成する構成および、プッシュプル信号からDPP信号を生成する構成を説明した図である。
【図3】MPP信号とSPP信号から生成されるDPP信号を説明した図である。
【図4】光ディスク上の光スポットの状態を説明した図である。
【図5】トラッキングサーボを動作させた状態での再生パワー発光時および記録パワー発光時のMPP信号、SPP信号波形を説明した図である。
【図6】記録時のSPP信号増幅率kwを求める処理フロー図である。
【符号の説明】
【0031】
1〜3…二分割受光素子、4〜6、8…差分演算回路、
7…和演算回路、9…増幅回路、
10a、10b…メインスポット、
11a、11b、12a、12b…サブスポット、
13グルーブ、14…ランド、
101…光ディスク、102…ディスクモータ、103…ドライバ回路、
104…対物レンズ、105…レーザダイオード、106…受光素子、
107…光ピックアップユニット、108…信号振幅取得回路、
109…DPP生成回路、110…信号処理回路、
111…インターフェース、112…光ディスク装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トラッキングサーボを行うためのサーボ信号にメインビームの光スポットから得られるメインプッシュプル信号と、サブビームの光スポットから得られるサブプッシュプル信号の差分信号である差動プッシュプル信号を利用し、光ディスクに記録、再生を行う光ディスク装置であって、
前記サブプッシュプル信号はメインプッシュプル信号との差分をとる前段に、前記サブプッシュプル信号を増幅する増幅手段を有しており、
前記増幅手段は光ディスクに記録を行うときの増幅率と、再生を行うときの増幅率をそれぞれ異なるように設定したことを特徴とする光ディスク装置。
【請求項2】
請求項1記載の光ディスク装置において、記録中のメインプッシュプル信号の振幅とサブプッシュプル信号の振幅を取得する信号振幅取得手段を有したことを特徴とする光ディスク装置。
【請求項3】
請求項2記載の光ディスク装置において、記録中のメインプッシュプル信号振幅とサブプッシュプル信号振幅を前記信号振幅取得手段により取得し、メインプッシュプル信号振幅とサブプッシュプル信号を前記増幅手段で増幅した信号振幅を使用して前記増幅手段の増幅率を決めることを特徴とする光ディスク装置。
【請求項4】
請求項2、3記載の光ディスク装置において、記録中のメインプッシュプル信号振幅とサブプッシュプル信号振幅を前記信号振幅取得手段により取得し、メインプッシュプル信号振幅とサブプッシュプル信号を前記増幅手段で増幅した信号振幅が等しくなるように前記増幅手段の増幅率を決めることを特徴とする光ディスク装置。
【請求項5】
請求項3、4記載の光ディスク装置において、最初に前記増幅手段の増幅率を再生時の増幅率に設定して記録動作を開始し、記録中のメインプッシュプル信号振幅とサブプッシュプル信号の振幅を取得して記録時の増幅率を求め、現在の記録が終了し次回記録を開始するときには記録時用増幅率を適用することを特徴とする光ディスク装置。
【請求項6】
請求項3、4記載の光ディスク装置において、求められた記録時の増幅率と再生時の増幅率の差が予め設定された閾値より大きい場合、現在の記録を一旦中断したのち次の記録するアドレスに再位置づけして記録処理を再開し、記録処理を再開した際には記録時用増幅率を適用することを特徴とする光ディスク装置。
【請求項7】
請求項3、4記載の光ディスク装置において、光パワー調整する領域で記録処理を行い、記録時用増幅率を求めることを特徴とする光ディスク装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2009−37714(P2009−37714A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−203765(P2007−203765)
【出願日】平成19年8月6日(2007.8.6)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】