説明

光ドロップケーブル

【課題】産卵管による光ファイバ心線に対する事故防止を、外被全体の硬度を高めながら引き裂き作業に支障のない範囲とし、かつ外被に抗張力体配置方向でない左右両側にノッチ部を設けてノッチ部の頂点と光ファイバ心線までに距離を外被自体の硬度との兼ね合いで実験結果に基づいて適切に設定され、引き裂き作業をしやすい範囲に設定することによって対策する。
【解決手段】外被が、デュロメータ硬さ(ショアD)が55〜70の熱可塑性樹脂で形成され、前記ノッチ部の先端部の角度をα、ノッチ部のノッチ深さをmとすると、α<55°、m>0.3mmのノッチ構造を有し、ノッチ部の位置がノッチ先端頂点と前記光ファイバ心線との最短距離をhとすると、0.2<h<0.5(mm)の関係にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、引き込み線として用いられる光ドロップケーブル関する。
【背景技術】
【0002】
光ドロップケーブルは、一般的に1本もしくは近接配置の2本の光ファイバ心線と、該光ファイバ心線の両側に間隔を置いて配設される一対の抗張力体(テンションメンバ)と、前記光ファイバ心線および一対の抗張力体を被覆し、断面がほぼ矩形をなし、前記両側に直角方向の両側の外被面に一対のノッチ(切り欠き部)が形成された外被(外皮)を備えて構成される。
【0003】
このような光ドロップケーブルの外皮には引き込み作業の時に、ニッパ等による引き裂き性をよくするために左右両側に前述したノッチが形成される。
【0004】
近年、このノッチを形成した部分にセミが産卵管を突き刺し、産卵管が光ファイバ心線に達して断線などの被害が発生する事例が報告されている。この対策としてノッチ最底部(ノッチの頂点)から光ファイバ心線への距離を確保することが提案されている。
【0005】
特許文献1には、光ファイバ心線の中心とテンションメンバ中心を結ぶ直線にノッチの頂点から下ろした垂線の足と、光ファイバ心線の中心との間の距離aが、0.325mm≦a≦0.75mmである光ファイバケーブルが記載されている。
【0006】
特許文献2には、光ファイバ心線と抗張力線とを結ぶ直線と垂直に交わる直線との間隔が0.4mm以上、切り欠き部の角度が60°かつ切り欠き深さが0.4mmであるドロップ光ファイバケーブルが記載されている。
【0007】
特許文献3には、光ファイバ心線又は光ファイバテープ心線の外周に、硬度(ショアD)が65以上、厚さが0.15mm以上の熱可塑性樹脂からなる保護材を配置し、保護材に光ファイバ心線又は光ファイバテープ心線を取り出すためのノッチ部を設けた光ファイバケーブルが記載されている。
【0008】
特許文献4には、保護被覆の最外層がデュロ硬度65°〜73°の材料で構成され、最外層の厚さが1.5mm以上であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3662824号公報
【特許文献2】特許第3717799号公報
【特許文献3】特開2007−127848号公報
【特許文献4】特開2007−233108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述した特許文献1や2では、セミ産卵による光ファイバ断線被害をなくすためにノッチ部の位置を規定することを提案しているが、材料の硬さが考慮されていない。例えば材料の硬さを示すデュロメータ硬さ(ショアD)が50程度の材料で上述した特許文献1や2の構造でセミ産卵実験を行うと、ノッチの位置に関係なく光ファイバ心線に産卵管が到達し、光ファイバ心線がダメージを受ける事例が確認された。
【0011】
特許文献3には、セミが産卵管を貫通させることができないような硬度、すなわち硬度(ショアD)が65以上の熱可塑性樹脂を使用することが提案されている。光ファイバ心線又は光ファイバ心線の外周に保護材を配置して、この保護材の硬度が65以上としているが、保護材に設けたノッチは抗張力体設置方向にあり、産卵管の影響を受けない構成とされている。すなわち、産卵管による事故防止は保護材の硬度が高いことのみで対策されている。そして、引用文献1あるいは2に示す技術にあっては産卵管による事故防止をノッチ頂点から光ファイバ心線までの距離を確保することで対策させている。
【0012】
本発明では、かかる点に鑑みて外被の硬度を高くしてセミ産卵管による光ファイバ心線ダメージをより完全に無くすことができ、かつ外被の硬度が高くなっても光ファイバ心線の取出し性に優れる光ドロップケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記課題を、
1本もしくは近接配置の2本の光ファイバ心線と、該光ファイバ心線の側方に配設される抗張力体と、前記光ファイバ心線および抗張力体を被覆し、断面がほぼ矩形をなし、前記両側に直角方向の両側の外被面に一対のノッチ部が形成された外被とを備えた光ドロップケーブルにおいて、
前記外被は、デュロメータ硬さ(ショアD)が55〜70の熱可塑性樹脂で形成され、前記ノッチ部の先端部の角度をα、ノッチ部のノッチ深さをmとすると、α<55°、m>0.3mmのノッチ部構造を有し、かつ前記ノッチ先端頂点と前記光ファイバ心線との最短距離をhとすると、0.2<h<0.5(mm)の関係にあること
を特徴とする光ドロップケーブルで解決する。
【0014】
本発明はまた、上記課題を30°<α<55°、0.7mm>m>0.3mmとすることを特徴とする光ドロップケーブルで解決する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、上述のように外被は、デュロメータ硬さ(ショアD)が55〜70の熱可塑性樹脂で形成され、ノッチ部の先端部の角度を55°以内の小角度で、この角度に対応してノッチの深さを0.3mm以上とし、ノッチの位置がノッチ先端頂点と光ファイバ心線との最短距離をhとすると、0.2<h<0.5(mm)の関係にあるように構成しているので、強度を強め、産卵管による光ファイバ心線に対する事故防止を、外被全体の硬度を高めながら引き裂き作業に支障のない範囲で実験結果に基づいて適切に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施例である光ドロップケーブルの構成を示す図。
【図2】図1に示す1つの実施例の一部を拡大して示して実施例の内容を説明する図。
【図3】図1に示す他の実施例の一部を拡大して示して実施例の内容を説明する図。
【図4】本実施例で採用される光ファイバケーブルの寸法関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
【実施例】
【0018】
図1は、本発明の実施例である光ドロップケーブルの構成を示し、図1(a)は1本の光ファイバ心線が用いられた場合の例を示し、図1(b)は間隔を置いた2本の光ファイバ心線が用いられた場合の例を示す。尚、本実施例では支持線が無い光ドロップケーブルの一例を示しているが、支持線有りの場合も本実施例と同様な効果が得られる。
【0019】
図1(a)において、光ドロップケーブル1は、1本の光ファイバ心線2と、光ファイバ心線2の側方で本例の場合、両側(図で上下両側)に間隔を置いて配設される一対の抗張力体3と、光ファイバ心線および一対の抗張力体3を被覆し、断面がほぼ矩形をなし、矩形形状の外被面5、本例の場合、上述の両側に直角方向の両側(図で左右両側)の外被面5に一対のノッチ部6が形成された外被(外皮)4を備えて構成される。‘ほぼ’としたのは四隅において曲線形状をなすことによる。図1(b)に示す例にあっても図1(a)に示す例と基本的に同一の構成であるが、近接配置の2本の光ファイバ2(2a、2b)が用いられており、2本の光ファイバ2の中心を通る水平線からノッチ部6が上下方向にずれている例を示している。
【0020】
図2は図1に示す光ドロップケーブル1における光ファイバ心線2とノッチ部6との関係、すなわちノッチ先端頂点11とノッチ先端頂点11から光ファイバ心線におろした足12との関係を示す。図2(a)は、図1(a)に示すように、一対のノッチ部6と光ファイバ心線2とは水平方向において同一面上にあり、すなわち水平面上で光ファイバ心線2を中心として一対のノッチ部6は対称配置されている。このような配置において、ノッチ先端頂点11と光ファイバ心線外面上に設定された足12との距離はhで表わされ、このhはノッチ先端頂点と光ファイバ心線との最短距離を示し、セミの産卵管が光ファイバ心線に到達しうる最短距離でもある。
【0021】
図2(b)に示す例は、水平面上に対称配置されていないが、左側面から右側面にかけてある角度(例えば45°)の線上に光ファイバ心線2を中心として一対のノッチ部6が形成されている。すなわち、45°角度の線上において、一対のノッチ部6は光ファイバ心線2を中心として対称配置とされ、ニッパ等の道具による外被4の引き裂きを行い易いように配置されている。この例にあっても、hはノッチ先端頂点と光ファイバ心線との最短距離を示し、セミの産卵管が光ファイバ心線に到達しうる最短距離となる。
【0022】
図3に示す例は図1(b)の光ドロップケーブルに対応し、上述のように図3(a)は水平面上下で2つの光ファイバ心線2(2a、2b)が対称配置され、一対のノッチ6は水平面上で2つの光ファイバ心線の中間点を中心として左右対称に配置されている。図3(b)に示す例は、所定の角度線上下で2つの光ファイバ心線2(2a、2b)が配置(両者の中間点を通る水平線上で上下対称配置)され、一対のノッチ6は所定の角度の線上で2つの光ファイバ心線の中間点を中心として左右対称に配置されている。
【0023】
このような例において、外被4は、デュロメータ硬さ(ショアD)が55〜70の熱可塑性樹脂で形成される。そして、デュロメータ硬さ(ショアD)が55〜70を持つ外被が用いられる時に、ノッチ部6の先端部の角度をα、ノッチ部6のノッチ深さをmとすると、α<55°,m>0.3mmのノッチ部構造を有し、ノッチ部6の位置がノッチ先端頂点と光ファイバ心線2との最短距離hは、0.2<h<0.5(mm)の関係にあるように設定される。ここで、関係とは上述した外被の硬さと最短距離hとの関係を表わす。デュロメータ硬さを測定するものとしてデュロメータが知られている。このデュロメータは市販されており、スポンジのようなふわふわしているものから硬いプラスチックのようなものまで測定可能である。一般的に硬いプラスチックを測定する場合は、JIS K7215(プラスチックのデュロメータ硬さ試験方法)に準じて測定され、その硬度はショアD硬度の数値で表される。
【0024】
デュロメータ硬さ(ショアD)55以上の材料としては、高密度ポリエチレンと難燃材料(例えば、水酸化マグネシウム)とを組み合せた材料があげられる。
【0025】
更に例示してみると、デュロメータ硬度(ショアD)が55以上の樹脂としては、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド12、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド46などを主材料とした熱可塑性樹脂が、その他の樹脂としては、例えば、ABS樹脂、ACS樹脂、AES樹脂、ABS/PVCアロイ、ASA樹脂、エチレン−塩化ビニル共重合体、フッ素樹脂、ポリアミドイミド、ポリアリレート、オレフィンビニルアルコール共重合体、フェノール樹脂、ポリアミド系樹脂(アモルファスポリアミド、変性ポリアミドなど)、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリチオエーテルスルホン、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ノルボルネン樹脂、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリ塩化ビニルなどや、これらの樹脂を主材として、変性又は合成、混合したもの、炭酸カルシウムやチタン酸カリウムウィスカー、カオリン粘土、タルクや雲母などの充填材を添加して硬度を向上させたもの、或いは架橋材を添加した後に架橋させて硬度を向上させたもの、などが挙げられる。
【0026】
従来の一般難燃材料(低密度ポリエチレン)のデュロメータ硬さ(ショアD)の一例として50程度。本材料ではノッチ先端とファイバ心線の距離が0.5mm以上あっても材料が柔らかいため、引き裂き性(光ファイバ心線取り出し性)は問題無い。しかしながら、本材料では、セミ産卵防御性に対しては、全く機能を果たさない(光ファイバ心線にダメージを受ける)。通常の光ドロップケーブルの幅サイズは2mm程度であるが、デュロメータ硬さ(ショアD)50程度の材料では、セミ産卵管は容易に貫通するレベルとなる。そこで、セミ産卵管に対しては材料の硬さがデュロメータ硬さ(ショアD)で55以上の確保とノッチ先端とファイバ心線の距離0.2mm以上の組み合わせで、ファイバ心線にダメージを与えないことを実験的に検証した。
【0027】
表1は、実験結果を示す。
【0028】
【表1】




【0029】
表1に示すように、ノッチ先端頂点とファイバ心線の最短距離hが0.5mm以上(0.5mm含まず)、あるいはデュロメータ硬さ(ショアD)が70以上(70含まず)である材料では引き裂き性が悪くなり、光ファイバ心線の取り出しが困難になる。また、デュロメータ硬さ(ショアD)55以下(55含まず)や、最短距離hを0.2mm以下(0.2mm含まず)にすると、光ファイバ心線に産卵管による損傷が認められ、あるいは損傷のおそれがある。
【0030】
上記の実施例でα<55°とすれば、デュロメータ硬さ(ショアD)55〜70の範囲にある硬い材料でも光ファイバ心線を取り出すための引裂き作業性に優れた構造を提供でき、またこのように角度を狭角度とした場合にあっても、mを0.3mm以上にすれば、容易にノッチ部6にニッパ−の刃先を入れることができ、確実に光ファイバ心線取り出し作業が行うことができる。
【0031】
図4は、上記の実施例における寸法関係を表示するものである。
【0032】
aは光ファイバ心線2の半径を示す。これらの例によれば、
30°<α<55°
0.3mm<m<0.7mm
0.5mm<h<0.2mm
の範囲に設定された時に、硬さ(ショアD)を55−70の範囲にある外被についてノッチ部からのニッパーによる外被の切り裂き作業を容易に行って、かつセミの産卵管の光ファイバ心線への到達を防止する有効な構造を提供することができる。
【符号の説明】
【0033】
1…光ドロップケーブル、2、2a、2b…光ファイバ心線、3…抗張力体、4…外被(外皮)、5…外被面(左右側面)、6…ノッチ部、11…ノッチ先端頂点、12…垂線の足。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1本もしくは近接配置の2本の光ファイバ心線と、該光ファイバ心線の側方に配設される抗張力体と、前記光ファイバ心線および抗張力体を被覆し、断面がほぼ矩形をなし、矩形形状の外被面に一対のノッチ部が形成された外被とを備えた光ドロップケーブルにおいて、
前記外被は、デュロメータ硬さ(ショアD)が55〜70の熱可塑性樹脂で形成され、前記ノッチ部の先端部の角度をα、ノッチ部のノッチ深さをmとすると、α<55°、m>0.3mmのノッチ部構造を有し、かつ前記ノッチ先端頂点と前記光ファイバ心線との最短距離をhとすると、0.2<h<0.5(mm)の関係にあること
を特徴とする光ドロップケーブル。
【請求項2】
請求項1において、30°<α<55°、0.7mm>m>0.3mmとすることを特徴とする光ドロップケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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