説明

光パルス発生装置及び光パルス発生方法

【課題】変調時の動作条件が変動した場合における光パルスの波形劣化を抑制すること、また、ノイズ成分の小さい光パルスを発生させること。
【解決手段】光パルス発生装置1は、光周波数が増加方向に変化する第1の時間領域と減少方向に変化する第2の時間領域が交互に繰り返され、前記第1及び第2の時間領域の一方の時間領域で大きい光パワーを有し他方の時間領域で小さい光パワーを有する連続した光パルス列を発生させる光パルス発生部20と、前記光パルス発生部20からの光が入射され、前記一方の時間領域で前記入射光を透過させ前記他方の時間領域で前記入射光を遮断又は減衰させる光制御部30と、前記光制御部30からの光が入射され、前記一方の時間領域の光をパルス圧縮する光パルス圧縮部40と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光パルス発生装置及び光パルス発生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光パルスを発生させる技術として、光を変調して多数の高次周波数成分からなる光周波数コムを作り出すことにより、光をパルス化させる方法が知られている。特許文献1には、この光周波数コムの平坦度を向上させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−248660号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の方法によれば、変調の振幅と位相をある最適条件に設定することで、光周波数コムの平坦度及び変換効率を向上させることが可能である。しかしながら、光変調器において変調の振幅や位相が変動してその動作条件が上記最適条件から外れてしまうと、光周波数コムの平坦度及び変換効率が低下してしまう結果、光パルスがなまってしまうという問題がある。また、上記の最適条件で駆動している場合であっても、パルスの裾野にペデスタルと呼ばれるノイズ成分が生じるという問題がある。
【0005】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、その目的は、変調時の動作条件が変動した場合における光パルスの波形劣化を抑制すること、また、ノイズ成分の小さい光パルスを発生させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、本発明の光パルス発生装置は、光周波数が増加方向に変化する第1の時間領域と減少方向に変化する第2の時間領域が交互に繰り返され、前記第1及び第2の時間領域の一方の時間領域で大きい光パワーを有し他方の時間領域で小さい光パワーを有する連続した光パルス列を発生させる光パルス発生部と、前記光パルス発生部からの光が入射され、前記一方の時間領域で前記入射光を透過させ前記他方の時間領域で前記入射光を遮断又は減衰させる光制御部と、前記光制御部からの光が入射され、前記一方の時間領域の光をパルス圧縮する光パルス圧縮部と、を備える。
【0007】
また、本発明の光パルス発生装置は、上記の光パルス発生装置において、前記光制御部はマッハツェンダー型光変調器である。
【0008】
また、本発明の光パルス発生装置は、上記の光パルス発生装置において、前記光制御部はプッシュプル駆動されるマッハツェンダー型光変調器である。
【0009】
また、本発明の光パルス発生装置は、上記の光パルス発生装置において、前記マッハツェンダー型光変調器によって変調された光のパワーをモニタするモニタ部と、前記モニタされた光パワーが最大となるように前記マッハツェンダー型光変調器における変調信号の位相を調整する位相調整部と、を備える。
【0010】
また、本発明の光パルス発生装置は、上記の光パルス発生装置において、前記マッハツェンダー型光変調器はLN基板上に光導波路と変調電極が形成されてなるLN変調器である。
【0011】
また、本発明の光パルス発生方法は、光周波数が増加方向に変化する第1の時間領域と減少方向に変化する第2の時間領域が交互に繰り返され、前記第1及び第2の時間領域の一方の時間領域で大きい光パワーを有し他方の時間領域で小さい光パワーを有する連続した光パルス列を発生させる光パルス発生過程と、前記光パルス列に対して、前記一方の時間領域で前記入射光を透過させ前記他方の時間領域で前記入射光を遮断又は減衰させる光制御過程と、前記光制御過程を経た後の光に対して、前記一方の時間領域の光をパルス圧縮する光パルス圧縮過程と、を含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、変調時の動作条件が変動した場合における光パルスの波形劣化を抑制することができ、また、ノイズ成分の小さい光パルスを発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態による光パルス発生装置の構成を示す図である。
【図2】Δθが変化した場合における、光周波数コム発生器20の出力光のパワーP(t)と周波数ω(t)の振る舞いを示す図である。
【図3】ΔAが変化した場合における、光周波数コム発生器20の出力光のパワーP(t)と周波数ω(t)の振る舞いを示す図である。
【図4】マッハツェンダー型光変調器31の透過特性(変調信号が位相調整された場合)を示す図である。
【図5】マッハツェンダー型光変調器31の透過特性(バイアス条件がずれた場合)を示す図である。
【図6】Δθが変化した場合における、光ゲートスイッチ30の出力光のパワーP(t)の振る舞いを示す図である。
【図7】ΔAが変化した場合における、光ゲートスイッチ30の出力光のパワーP(t)の振る舞いを示す図である。
【図8】分散補償器40を通過した後の光パルスの波形を示す図である。
【図9】Δθが変化した場合における、分散補償器40を通過した後の光パルスの波形(光ゲートスイッチ30あり)を示す図である。
【図10】ΔAが変化した場合における、分散補償器40を通過した後の光パルスの波形(光ゲートスイッチ30あり)を示す図である。
【図11】Δθが変化した場合における、分散補償器40を通過した後の光パルスの波形(光ゲートスイッチ30なし)を示す図である。
【図12】ΔAが変化した場合における、分散補償器40を通過した後の光パルスの波形(光ゲートスイッチ30なし)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳しく説明する。
図1は、本発明の実施形態による光パルス発生装置1の構成を示す図である。
【0015】
光パルス発生装置1は、光源10、光周波数コム発生器(光パルス発生部)20、光ゲートスイッチ(光制御部)30、分散補償器(光パルス圧縮部)40、光パワーモニタ(モニタ部)50、及び光ゲートスイッチ制御部60を備える。
また、光周波数コム発生器20は、マッハツェンダー型光変調器21、変調信号発生部22A,22B、増幅器23、可変増幅器24、及びバイアス電圧供給部25を備える。
また、光ゲートスイッチ30は、マッハツェンダー型光変調器31、変調信号発生部32、位相シフタ(位相調整部)33、可変増幅器34、及びバイアス電圧供給部35を備える。
【0016】
光源10は、例えばレーザ光源であり、所定波長の連続光を発生させる。光源10の出射端は、例えば光ファイバによって、マッハツェンダー型光変調器21の入力導波路211と接続されている。
【0017】
マッハツェンダー型光変調器21は、入力導波路211、2つの分岐導波路212A,212B、出力導波路213、変調電極214A,214B、及びバイアス電極215を有する。分岐導波路212A及び212Bは、それぞれ入力導波路211と出力導波路213に接続されている。入力導波路211、分岐導波路212A,212B、及び出力導波路213により、マッハツェンダー干渉計が構成される。変調電極214Aは、分岐導波路212A上に、また変調電極214Bは、分岐導波路212A上若しくは212B上のいずれか、又はその両方に、それぞれ形成されている。バイアス電極215は、分岐導波路212B上に形成されている。このマッハツェンダー型光変調器21は、例えば、ZカットLN基板上に各導波路と各電極を形成したLN変調器を用いることができる。この構成により、マッハツェンダー型光変調器21は、2つの分岐導波路212A,212Bを伝搬する光が受ける位相を独立に制御可能である。
【0018】
変調信号発生部22A,22Bは、所定の周波数の変調信号(例えば正弦波)を発生させる。2つの変調信号発生部22A,22Bが発生させる変調信号の位相は、互いに同期がとられているものとする。変調信号発生部22Aの出力部は、増幅器23に、また変調信号発生部22Bの出力部は、可変増幅器24に、それぞれ接続されている。なお、変調信号発生部を1つだけ用い、この変調信号発生部からの変調信号を分岐して増幅器23と可変増幅器24に入力する構成としてもよい。
【0019】
増幅器23は、所定の増幅率で変調信号発生部22Aからの変調信号を増幅する。増幅器23の出力部は、マッハツェンダー型光変調器21の変調電極214Aに接続されている。可変増幅器24は、所定の増幅率で変調信号発生部22Bからの変調信号を増幅する。可変増幅器24の出力部は、マッハツェンダー型光変調器21の変調電極214Bに接続されている。増幅器23と可変増幅器24の増幅率は、それぞれ、変調電極214A,214Bに印加される変調信号の振幅が後述する式(10)の条件を満たすように、設定がなされている。
【0020】
バイアス電圧供給部25は、マッハツェンダー型光変調器21にバイアス電圧を供給する。このバイアス電圧は、後述する式(11)の条件が満たされるように、設定がなされている。バイアス電圧供給部25の出力部は、マッハツェンダー型光変調器21のバイアス電極215に接続されている。
【0021】
マッハツェンダー型光変調器31は、入力導波路311、2つの分岐導波路312A,312B、出力導波路313、変調電極314、及びバイアス電極315を有する。入力導波路311は、マッハツェンダー型光変調器21の出力導波路213に接続されている。分岐導波路312A及び312Bは、それぞれ入力導波路311と出力導波路313に接続されている。入力導波路311、分岐導波路312A,312B、及び出力導波路313により、マッハツェンダー干渉計が構成される。変調電極314は、分岐導波路312Aと312Bの中間に形成されている。バイアス電極315は、分岐導波路312B上に形成されている。このマッハツェンダー型光変調器31は、例えば、XカットLN基板上に各導波路と各電極を形成したLN変調器を用いることができる。この構成により、マッハツェンダー型光変調器31は、プッシュプル駆動が可能である。なお、プッシュプル駆動が可能な他の電極構成を用いてもよい。
【0022】
変調信号発生部32は、マッハツェンダー型光変調器21の変調信号発生部22A,22Bが発生させる変調信号の2分の1の周波数を持ち、位相がこの変調信号と同期した変調信号(例えば正弦波)を発生させる。変調信号発生部32の出力部は、位相シフタ33に接続されている。なお、変調信号発生部22A(または22B)からの変調信号を分岐し、分岐後の変調信号を2分の1に分周して位相シフタ33に入力する構成としてもよい。
【0023】
位相シフタ33は、光ゲートスイッチ制御部60からの制御を受けて、変調信号発生部32から出力された変調信号の位相をシフトさせる。位相シフタ33の出力部は、可変増幅器34に接続されている。
【0024】
可変増幅器34は、所定の増幅率で位相シフタ33からの変調信号を増幅する。可変増幅器34の出力部は、マッハツェンダー型光変調器31の変調電極314に接続されている。
【0025】
バイアス電圧供給部35は、光ゲートスイッチ制御部60からの制御を受けて、マッハツェンダー型光変調器31にバイアス電圧を供給する。バイアス電圧供給部35の出力部は、マッハツェンダー型光変調器31のバイアス電極315に接続されている。
【0026】
分散補償器40は、所定(後述)の分散特性を有しており、入力された光パルスを圧縮して出力する。分散補償器40の入力部は、マッハツェンダー型光変調器31の出力導波路313に接続されている。この分散補償器40として、例えば、分散が上記所定の特性を持った光ファイバを用いることができるが、光ファイバ以外の光学素子を用いてもよい。
【0027】
光パワーモニタ50は、マッハツェンダー型光変調器31の後段(出力側)に設けられた分岐部70(光カプラ等)によって取り出された、マッハツェンダー型光変調器31からの出力光を受光して、そのパワーをモニタする。光パワーモニタ50は、そのモニタ値を光ゲートスイッチ制御部60へ出力する。
【0028】
光ゲートスイッチ制御部60は、光パワーモニタ50からのモニタ値に基づいて、位相シフタ33の位相シフト量とバイアス電圧供給部35のバイアス電圧を制御する。モニタ値と位相シフト量およびバイアス電圧の関係は後述する。
【0029】
次に、上記のように構成された光パルス発生装置1の動作を説明する。
光源10により発生された光は、光周波数コム発生器20のマッハツェンダー型光変調器21へ入力される。マッハツェンダー型光変調器21において、この光は、入力導波路211から分岐導波路212A,212Bへ分岐されて、各分岐導波路中を伝搬する。このとき、分岐導波路212A,212Bを伝搬している間に、伝搬光は、変調電極214A,214B及びバイアス電極215からの電界に応じて位相変化を受ける。そして、この位相変化を受けた光は、出力導波路213で再び合波される。
【0030】
ここで、マッハツェンダー型光変調器21への入力光の振幅と周波数をそれぞれE,ωとし、分岐導波路212Aと212Bにおいて伝搬光が受ける位相変化をそれぞれθ,θとすると、出力導波路213で合波後の光、すなわち光周波数コム発生器20の出力光(マッハツェンダー型光変調器21の出力光)の振幅の時間変化E(t)は、次式(1)のように表される。
E(t)=E[sin(ωt+θ)+sin(ωt+θ)]/2 …(1)
【0031】
但し、
θ=Asin(ωt)+B …(2)
θ=Asin(ωt)+B …(3)
ω=2πf …(4)
:変調電極214Aにより分岐導波路212Aの伝搬光へ与えられる変調の振幅
:変調電極214Bにより分岐導波路212Bの伝搬光へ与えられる変調の振幅
:バイアス電極215により分岐導波路212Aの伝搬光へ与えられる位相
:バイアス電極215により分岐導波路212Bの伝搬光へ与えられる位相
:変調信号発生部22A,22Bが発生する変調信号の変調周波数
である。
【0032】
上式(1)から、光周波数コム発生器20の出力光のパワーP(t)と周波数ω(t)は、それぞれ次式(5),(6)のように表すことができる。
P(t)=P[1+cos{ΔAsin(ωt)+Δθ}]/2 …(5)
ω(t)=ω+ωAsin(ωt) …(6)
但し、
ΔA=A−A …(7)
Δθ=B−B …(8)
A=(A+A)/2 …(9)
である。また、Pはマッハツェンダー型光変調器21への入力光のパワーである。
【0033】
図2に、Δθが変化した場合における、光周波数コム発生器20の出力光のパワーP(t)と周波数ω(t)の振る舞いを示す。但し、図2は、f=10GHz、A=2.75π、ΔA=0.5π(A=3.5π,A=3π)とした計算例である。この図から分かるように、Δθ=0.5πのときは歪みのない連続した光パルスが得られるが、Δθが0.5πからずれると、光パルスのピークが下がるとともに光パルスのボトムが持ち上がり、光パルスの波形に歪みが生じる。また、各光パルスは、光パルスの先端から末端に向かって周波数が増加しており、正のチャープがかかっている。
【0034】
また、図3に、ΔAが変化した場合における、光周波数コム発生器20の出力光のパワーP(t)と周波数ω(t)の振る舞いを示す。但し、図3は、f=10GHz、A=3π、Δθ=0.5πとした計算例である。この図から分かるように、ΔA=0.5πのときは歪みのない連続した光パルスが得られるが、ΔAが0.5πからずれると、図2と同様に、光パルスのピークが下がるとともに光パルスのボトムが持ち上がり、光パルスの波形に歪みが生じる。
【0035】
図2及び図3から、次式(10),(11)が、歪みのない理想的な正チャープの光パルスが得られる(周波数軸上で見ると平坦な光周波数コムが実現される)条件であることが分かる(特許文献1参照)。
ΔA=0.5π …(10)
Δθ=0.5π …(11)
【0036】
以上のように、光周波数コム発生器20の出力光は、式(10)及び式(11)の最適条件が満たされている場合には、歪みのない光パルスとなるが、最適条件からずれた場合には、著しく歪みの大きい光パルスとなってしまう。このような歪みの大きい光パルスを直接、分散補償器40によりパルス圧縮しても、きれいな(歪みのない)光パルスは得られない。そこで、本光パルス発生装置1は、光ゲートスイッチ30を用いて、式(10)及び式(11)の最適条件からずれた場合においても歪みが小さくなるように光パルスを整形してから、整形後の光パルスを分散補償器40へ入力する構成としている。
【0037】
すなわち、本光パルス発生装置1の光ゲートスイッチ30では、変調信号発生部32により発生させた周波数f/2の変調信号の位相を位相シフタ33によって調整し、この位相調整された変調信号でマッハツェンダー型光変調器31を変調駆動する。位相シフタ33は、光周波数コム発生器20からの光パルスが正のチャープを有する(周波数ω(t)が時間とともに増加する)時間領域においてマッハツェンダー型光変調器31が入力光を透過させる状態となり、光周波数コム発生器20からの光パルスが負のチャープを有する(周波数ω(t)が時間とともに減少する)時間領域においてマッハツェンダー型光変調器31が入力光を遮断又は減衰させる状態となるように、変調信号の位相を調整する。
【0038】
図4に、上記のように位相調整された変調信号で駆動されるマッハツェンダー型光変調器31の透過特性を、曲線Cで示す。なお、図4において曲線C以外の曲線は図2に表された曲線と同じものである。同図から理解されるように、マッハツェンダー型光変調器31(光ゲートスイッチ30)は、光周波数コム発生器20からの光パルスのピーク近傍の時間領域で開(高透過率)となり光パルス間の谷となる部分の時間領域で閉(低透過率)となるゲートとして機能する。そのため、光周波数コム発生器20からの光パルスは、マッハツェンダー型光変調器31(光ゲートスイッチ30)を通過することによって、光パルス間の谷の真ん中に近い部分ほど光パワーが相対的に大きく減衰し、その結果、光パルスの波形が整形されることになる。
【0039】
図6に、Δθが変化した場合における、光ゲートスイッチ30の出力光のパワーP(t)の振る舞いを示す。図2と比較すると、Δθが式(11)の最適条件からずれたとしても、光パルスの波形は、Δθが最適条件を満たしている時の波形から大きくは変動していないことが分かる。
【0040】
また、図7に、ΔAが変化した場合における、光ゲートスイッチ30の出力光のパワーP(t)の振る舞いを示す。図3と比較すると、ΔAが式(10)の最適条件からずれたとしても、光パルスの波形は、ΔAが最適条件を満たしている時の波形から大きくは変動していないことが分かる。
【0041】
このように、本光パルス発生装置1では、光ゲートスイッチ30の作用により、式(10)及び式(11)の最適条件が満たされていない場合においても、光パルスの歪みが極めて小さく低減されている。
【0042】
ここで、位相シフタ33による変調信号の位相調整量は、次のようにして制御を行う。図4において、マッハツェンダー型光変調器31の透過特性を表す曲線Cが、図の状態よりも図中右側又は左側にずれていたとする。このとき、曲線Cが右又は左にずれて光パルスのピークのタイミングとマッハツェンダー型光変調器31の透過率が最大になるタイミングが一致しなくなることによって、光ゲートスイッチ30から出力される光パルスは、そのパワーが全体的に低下する。光ゲートスイッチ30から出力される光パルスのパワーが最大となるのは、光パルスのピークのタイミングとマッハツェンダー型光変調器31の透過率が最大になるタイミングが一致している図4の状態である。したがって、光パワーモニタ50によるモニタ値を光ゲートスイッチ制御部60により監視して、そのモニタ値が最大値となるように位相シフタ33の位相調整量を制御することで、図4の状態を実現することができる。
【0043】
また、マッハツェンダー型光変調器31のバイアス条件がずれると、マッハツェンダー型光変調器31の透過特性は、例えば図5の曲線C’のように変化し、上記と同様に、光ゲートスイッチ30から出力される光パルスのパワーが全体的に低下してしまう。この場合にも、光パワーモニタ50のモニタ値が最大値となるようにバイアス電圧供給部35のバイアス電圧を制御することで、図4の状態を実現することができる。なお、図5において曲線C’以外の曲線は図2に表された曲線と同じものである。
【0044】
以上のように歪みが小さくなるように波形整形された光ゲートスイッチ30からの光パルスは、分散補償器40へ入力されてパルス圧縮される。光ゲートスイッチ30からの光パルスは上述のとおり正のチャープを持っている。この光パルスをパルス圧縮するために、分散補償器40として、長波長(低周波数)の光成分(光パルスの前半部分)に対する群速度が大きく、短波長(高周波数)の光成分(光パルスの後半部分)に対する群速度が小さい分散特性を有した光ファイバを採用する。これにより、図6,図7に示された光パルスはさらに先鋭化されて、図8に示すような波形となる。
【0045】
なお、光パルス間の谷の部分における光は負のチャープを持っているので、上記の分散補償器40を通過すると光パルスを広げる方向に寄与することになる。図2を見ると、Δθ=0.5πの最適条件が満たされている光パルスにおいても、この負チャープの時間領域で光パワーが十分に小さくなっていないために、分散補償器40を通過後に、光パルスは、図8に示されるように光パルスの裾野部分にペデスタルを含んだものとなってしまう。一方、光ゲートスイッチ30を用いて波形整形した光パルスは、図6に示されるように、Δθ=0.5πの最適条件において負チャープの時間領域での光パワーが図2よりもさらに小さく抑圧されているために、分散補償器40を通過後に、光パルスの裾野部分のペデスタルは図8に示されるとおり顕在化することがない。このように、本光パルス発生装置1を用いることで、式(10),(11)の最適条件が満たされている場合において、光パルスのノイズ(ペデスタル)がより一層低減される効果も得られる。
【0046】
図9〜図12に、光ゲートスイッチ30を用いた本光パルス発生装置1および光ゲートスイッチ30を用いない従来の光パルス発生装置のそれぞれについて、ΔAとΔθが変動した場合の出力パルス波形を示す。
【0047】
以上、図面を参照してこの発明の一実施形態について詳しく説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々な設計変更等をすることが可能である。
例えば、光周波数コム発生器20の駆動条件として、式(10),式(11)に代えて、次式(12)を用いてもよい(特許文献1参照)。
ΔA+Δθ=π …(12)
また、例えばΔA=0.5π,Δθ=1.5πの駆動条件を用いると、光周波数コム発生器20からは、光パルスの先端から末端に向かって周波数が減少する負チャープのかかった光パルスが出力される。この場合には、分散補償器40として、上述したものとは逆の分散特性を持ったものを採用すればよい。
【0048】
また、光ゲートスイッチ30のマッハツェンダー型光変調器31には、プッシュプル駆動方式を適用することが好ましい。プッシュプル駆動方式を用いた場合、2つの分岐導波路における位相変化量は、絶対値が等しく符号が反対となるため、マッハツェンダー型光変調器31によって光パルスに付加されるチャープはゼロになる。よって、マッハツェンダー型光変調器31での変調が分散補償器40でのパルス圧縮に影響を及ぼさず、光パルスの波形劣化を低減できる。
【符号の説明】
【0049】
1…光パルス発生装置 10…光源 20…光周波数コム発生器 30…光ゲートスイッチ 40…分散補償器 50…光パワーモニタ 60…光ゲートスイッチ制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光周波数が増加方向に変化する第1の時間領域と減少方向に変化する第2の時間領域が交互に繰り返され、前記第1及び第2の時間領域の一方の時間領域で大きい光パワーを有し他方の時間領域で小さい光パワーを有する連続した光パルス列を発生させる光パルス発生部と、
前記光パルス発生部からの光が入射され、前記一方の時間領域で前記入射光を透過させ前記他方の時間領域で前記入射光を遮断又は減衰させる光制御部と、
前記光制御部からの光が入射され、前記一方の時間領域の光をパルス圧縮する光パルス圧縮部と、
を備える光パルス発生装置。
【請求項2】
前記光制御部はマッハツェンダー型光変調器である請求項1に記載の光パルス発生装置。
【請求項3】
前記光制御部はプッシュプル駆動されるマッハツェンダー型光変調器である請求項1に記載の光パルス発生装置。
【請求項4】
前記マッハツェンダー型光変調器によって変調された光のパワーをモニタするモニタ部と、
前記モニタされた光パワーが最大となるように前記マッハツェンダー型光変調器における変調信号の位相を調整する位相調整部と、
を備える請求項2又は請求項3に記載の光パルス発生装置。
【請求項5】
前記マッハツェンダー型光変調器はLN基板上に光導波路と変調電極が形成されてなるLN変調器である請求項2から請求項4のいずれか1の項に記載の光パルス発生装置。
【請求項6】
光周波数が増加方向に変化する第1の時間領域と減少方向に変化する第2の時間領域が交互に繰り返され、前記第1及び第2の時間領域の一方の時間領域で大きい光パワーを有し他方の時間領域で小さい光パワーを有する連続した光パルス列を発生させる光パルス発生過程と、
前記光パルス列に対して、前記一方の時間領域で前記入射光を透過させ前記他方の時間領域で前記入射光を遮断又は減衰させる光制御過程と、
前記光制御過程を経た後の光に対して、前記一方の時間領域の光をパルス圧縮する光パルス圧縮過程と、
を含む光パルス発生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−32438(P2012−32438A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−169326(P2010−169326)
【出願日】平成22年7月28日(2010.7.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、独立行政法人情報通信研究機構「高度通信・放送研究開発委託研究/近接テラヘルツセンサシステムのための超短パルス光源の研究開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】