光ピックアップ
【課題】歯飛びを防止し、低コストで生産性の高い歯飛び防止機能付のねじ送り機構によって小型化を実現したレンズ移動機構を備えた光ピックアップを提供する。
【解決手段】レンズ44と、レンズを保持するレンズホルダ43と、前記レンズホルダを案内するガイド部材41,42と、前記ガイド部材に平行に配置されるリードスクリュー45と、前記リードスクリューを回転させるモータと、前記リードスクリューに嵌合する爪部を有し前記爪部をたわみ可能に前記レンズホルダに保持するラック46と、前記爪部に予圧を付与する予圧部材とから構成されるレンズ移動機構4を有する光ピックアップにおいて、前記ラックのたわみによるラック爪部の変形量を制限する壁を設け、前記壁の当接面または前記当接面に対向するラック爪部側の当接面を、リードスクリューのスラスト方向に対し傾斜して設ける。
【解決手段】レンズ44と、レンズを保持するレンズホルダ43と、前記レンズホルダを案内するガイド部材41,42と、前記ガイド部材に平行に配置されるリードスクリュー45と、前記リードスクリューを回転させるモータと、前記リードスクリューに嵌合する爪部を有し前記爪部をたわみ可能に前記レンズホルダに保持するラック46と、前記爪部に予圧を付与する予圧部材とから構成されるレンズ移動機構4を有する光ピックアップにおいて、前記ラックのたわみによるラック爪部の変形量を制限する壁を設け、前記壁の当接面または前記当接面に対向するラック爪部側の当接面を、リードスクリューのスラスト方向に対し傾斜して設ける。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ディスクの記録面上に情報を記録・再生する光ピックアップに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の光ディスクの高密度化により、光ディスクの記録層上に集光するレーザ光の球面収差を補正することが必要となっている。球面収差を補正するため、光ピックアップを構成するレンズの一部を光軸方向に移動させる補正手段が一般的に用いられている。
【0003】
レンズの移動は、回転運動を並進運動に変換するねじ送り機構によって行なわれる。このレンズ移動機構は、回転軸にねじ溝を形成した小型モータと、ねじ溝に勘合する爪を有するラックと、ラックに連結されるレンズホルダおよびレンズと、レンズホルダを案内しモータ軸に平行なガイド部材とから構成されている。
【0004】
この構成において、モータ回転軸のねじ溝とラックの組み合わせによるねじ送り機構で、モータ回転軸の回転運動がラックの並進運動に変換されることになる。このねじ送り機構では、ラックを移動し続けるとストローク端部でラック爪がねじ溝を乗り越える、いわゆる歯飛びが発生する。この歯飛びによってストロークのリミットがかかる構成ではあるが、歯飛びによって騒音とラック爪の磨耗が生じるので、静音性や信頼性を重視する用途では、歯飛びを防止する手段を設ける場合がある。
【0005】
歯飛びを防止する技術として、特開2006−172661号公報(特許文献1)がある。この公報には、送りナットには、スライド部材に固定するための固定部と、歯部を有するナット部と、そのナット部と固定部との間を撓み変形可能に連結する連結部と、ナット部を送りねじ軸側に付勢する弾性部材と、その弾性部材のばね力によるナット部の撓み変形を制限するストッパ部とを設けることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−172661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記ねじ送り機構において、歯飛び防止の効果を発揮するためには、ストッパによって制限されるラック爪の退避量をねじ溝の深さよりも小さくなるように、ストッパの位置を設計する必要がある。しかし、構成部品の寸法誤差や組立誤差によって、ラック爪の退避量にはばらつきが発生する。
【0008】
特に、送りねじが形成された回転軸とガイド部材の平行度ずれは、ストローク端での歯飛びやラックが詰まって動けなくなるなどの不具合を生じやすい。このため、ラック爪の退避量をねじ溝深さ以下の寸法内に確実に入れるために、部品の寸法公差を厳しく設定するとともに、ストッパや構成部品の位置を調整するなど組立精度の向上を図る必要があり、部品コストの上昇、生産効率の低下を引き起こす問題がある。
【0009】
光ピックアップに内蔵するレンズ移動機構のように、小型化が必須であるシステムにおいて上記の問題はさらに困難を極める。
【0010】
本発明の目的は、低コストで生産性の高い歯飛び防止機能付のねじ送り機構によって小型化を実現したレンズ移動機構を備えた光ピックアップを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的は、レンズを保持するレンズホルダと、このレンズホルダを案内するガイド部材と、このガイド部材に平行に配置されるリードスクリューと、このリードスクリューを回転させるモータと、前記リードスクリューに嵌合するラック爪を設けた爪背面板と、この爪背面板と対向する位置に設けられた制限壁とを備えたレンズ移動機構を有する光ピックアップにおいて、前記制限壁の当接面と前記爪背面板の当接面が前記リードスクリューのスラスト方向に対し傾斜していることにより達成される。
【0012】
また上記目的は、前記制限壁の当接面と前記爪背面板の当接面の組み合わせが2対であることが好ましい。
【0013】
また上記目的は、前記制限壁と前記爪背面壁とはL字状の溝を介して連結されていることが好ましい。
【0014】
また上記目的は、前記2対の当接面の傾斜は前記リードスクリュー軸のラジアル面に対して対称であることが好ましい。
【0015】
また上記目的は、前記ラック爪のモータスラスト方向のスライド量を制限するストッパを設けることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、低コストで生産性の高い歯飛び防止機能付のねじ送り機構によって小型化を実現したレンズ移動機構を備えた光ピックアップを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】一般的な光ピックアップの概略構成図である。
【図2】本発明の実施例1に係るレンズ移動機構の斜視図である。
【図3】本発明の実施例1に係るレンズ移動機構を構成するラックの斜視図である。
【図4】本発明の実施例1に係るレンズ移動機構の動作を説明する上面図である。
【図5】本発明の実施例1に係るレンズ移動機構の動作を説明する上面図である。
【図6】従来の光ピックアップに搭載されるレンズ移動機構を構成するラックの例である。
【図7】従来のラックのストローク内での動作を説明する説明図である。
【図8】従来のラックのストローク端での動作を説明する説明図である。
【図9】本発明に係る光ピックアップに搭載されるレンズ移動機構を構成するラックの例である。
【図10】本発明に係る光ピックアップに搭載されるレンズ移動機構を構成するラックの例である。
【図11】本発明に係る光ピックアップに搭載されるレンズ移動機構を構成するラックの例である。
【図12】本発明に係る光ピックアップに搭載されるレンズ移動機構を構成するラックの例である。
【図13】本発明に係る光ピックアップに搭載されるレンズ移動機構を構成するラックの例である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
さて、上述したように光ディスクの高密度化は特に情報量が多いBD(Blu-ray Disc)が顕著であり、レンズ移動機構による球面収差補正は必須となっている。このレンズ移動機構による正確な球面収差補正を行うにはレンズ位置を正確に検出することが重要であることから、従来はレンズの位置検出のためにセンサを使用していた。
【0019】
しかしながらセンサは高額であることから、センサレス化の検討を余儀なくされた。その結果、レンズを片側に突き当てることで原点位置(レンズのスタート位置)を検出することによってレンズの位置検出を行うことを検討した。
【0020】
ところが、回転しているレンズ駆動モータを強制的の片側に突き当てることはレンズ移動機構のモータが脱調したり、ラックギアとリードスクリューの歯どうしの衝突による歯飛びが発生したりすることが分かった。歯飛びは歯を削ってしまうことになり、レンズ移動機構そのものにダメージを与えてしまうことになる。また歯飛びする度に騒音が発生するという問題があることが分かった。
【0021】
そこで本発明の発明者らはラックギアとリードスクリューの歯どうしの衝突による歯飛び防止を種々検討した結果、以下のごとき実施例を得た。
【0022】
以下、本発明の実施例を図にしたがって説明するが、先に一般的な光ピックアップの概略を図1で説明する。
【0023】
図1は、一般的な光ピックアップの概略構成図である。
図1において、1はレーザ光源、2は回折格子、3はプリズム、4はレンズ移動機構、44はコリメータレンズ、5はミラー、6は対物レンズ、7は検出レンズ、8は光検出器である。
【0024】
光ピックアップは、レーザ光源1と、回折格子2と、プリズム3と、コリメータレンズ44を有するレンズ移動機構4と、ミラー5と、対物レンズ6と、検出レンズ7と、光検出器8とが1つの筐体内に搭載され、光ディスクの記録再生を行なう光学系を構成したものである。図1には、1つの筐体に1つの光学系が搭載されている光ピックアップを示しているが、複数の光ディスク規格に対応するために、複数の光学系を搭載するように構成しても良い。この場合、異なる光学系でレンズやミラーなどの光学部品を共有するように構成することもできる。
【0025】
レーザ光源1は、CD、DVD、BDに対応した特定波長のレーザ光を発振して出射する半導体レーザ素子である。回折格子2、プリズム3、コリメータレンズ44、ミラー5、対物レンズ6、検出レンズ7は、ガラスまたは透明プラスチックで形成された光学部品である。これらの表面には必要に応じて機能性コーティングが施され、レーザ光の反射、透過、偏向などの機能が付与されている。光検出器8は、光検出面に照射するレーザの光量に応じて電圧を発生する半導体素子である。
【0026】
レーザ光源1を発したレーザ光は、回折格子2を通り、プリズム3で反射してレンズ移動機構4に設けられているコリメータレンズ44に到達する。レンズ移動機構4は、コリメータレンズ44を光軸方向に移動させることによってレンズを通過するレーザ光を弱発散、弱収束光に調節する機能を備えている。さらに、レーザ光は、ミラー5を経て対物レンズ6に入射し、対物レンズ6によって光ディスクの記録面上に集光されてビームスポットを形成する。光ピックアップでは、このビームスポットによって情報の記録再生を行なう。記録時には、記録情報に基づいてレーザ光源1のオンオフを行ない、ビームスポットで光ディスク上に記録ピットを形成して、情報の書き込みが行なわれる。再生においては、光ディスクの記録ピットに当たって反射したレーザ光を対物レンズ6で受け、往路とは逆にミラー5、レンズ移動機構4、プリズム3の順で通過し、検出レンズ7を経て光検出器8の検出面上にレーザ光が誘導される。光検出器8は、内部の検出面で光ディスクからの戻り光を検出し、情報の読込みを行なう。また、検出信号を処理することによって、対物レンズ6のフォーカス制御、トラッキング制御や、レンズ移動機構4のコリメータレンズ44の位置制御を行なう構成となっている。
【実施例1】
【0027】
図2は本発明の実施例1に係るレンズ移動機構の斜視図である。
図2において、41、42はガイド部材、43はレンズホルダ、44はコリメータレンズ、45はリードスクリュー、46はラック、47はスプリングを表す。レンズ移動機構4は、図1における光ピックアップに組み込まれている。
【0028】
上記レンズ移動機構4は、ガイド部材41、42と、レンズホルダ43と、コリメータレンズ44と、リードスクリュー45と、ラック46と、スプリング47から構成されている。ガイド部材41、42は、寸法安定性に優れた鉄鋼材料を主材とし、耐摩耗性を向上するために表面にニッケルやクロムなどのめっき処理を施したものを使用する。また、ガイド部材41、42には潤滑剤を塗布し、摺動抵抗および耐摩耗性を向上させている。
【0029】
ガイド部材41は、レンズホルダ43の移動方向の案内用として主に機能し、ガイド部材42はガイド部材41回りに回転可能なレンズホルダ43の回転止め用として機能する。レンズホルダ43は開口部を有し、この開口部にコリメータレンズ44を嵌合し接着することによって固定、支持している。また、レンズホルダ43はガイド部材41と摺動する軸受と、ガイド部材42と摺動する軸受を有し、2つのガイド部材によってコリメータレンズ44を光軸方向に移動するように懸架されている。
【0030】
コリメータレンズ44は、透過率の高いポリオレフィンなどの透明樹脂やガラスによって形成した光学レンズである。コリメータレンズ44は、光軸方向の位置により、コリメータレンズ44に入射するレーザ光を弱拡散、弱収束させることができる球面収差補正を行なうレンズである。リードスクリュー45は、小型の直流モータやステッピングモータの回転軸外周に一定のピッチでねじ溝を形成したものである。
【0031】
リードスクリュー45は、切削加工や転造などによって製造することができ、モータの回転軸に直接加工を施して形成するか、別部品として形成した部品をモータ回転軸に圧入固定するなどにより形成することができる。ラック46は、耐磨耗性に優れたポリアセタール樹脂などの樹脂材料によって作られている。ラック46のリードスクリュー45側には、リードスクリュー45と係合する爪が形成されている。ラック爪とリードスクリュー45の間には潤滑性向上のために潤滑剤が塗布される。スプリング47は、ばね鋼材をらせん状に加工した圧縮ばねである。スプリング47は、ラック46に形成されているラック46の爪とレンズホルダ締結部との間のU字溝に装着され、ラック爪をリードスクリュー45に押し付ける機能を担っている。
【0032】
上記のレンズ移動機構4において、歯飛びを防止するためにラック46にラック爪の退避量を制限する制限壁464を設けている。
【0033】
図3は本発明の実施例1に係るレンズ移動機構に搭載されるラックの斜視図である。
図3において、461はラック爪、462は爪背面板、463はアーム、464は制限壁、465はレンズホルダ締結部、a,bは当接面、tはラック爪退避量、αは傾斜角を表す。
ラック46は、ラック爪461と、爪背面板462と、アーム463と、制限壁464と、レンズホルダ締結部465とを形成した構造となっている。
【0034】
ラック爪461は、リードスクリュー45(図2に示す)のリード角に合わせて傾斜した爪状の突起が爪背面板462上に形成されている。ラック爪461を複数歯で形成する場合、ラック爪461の間隔をリードスクリュー45のリードピッチの整数倍とする。ラック爪461の高さは、リードスクリュー溝深さよりも十分に大きな寸法で形成する。ラック爪461および爪背面板462は、アーム463によってたわみ可能に保持されている。アーム463は、たわみ剛性が小さくなるように断面の厚みを薄く、断面の幅を狭くするように設計されている。
【0035】
制限壁464は、アーム463のたわみによって爪背面板462がY方向に退避してきたときに、退避量を制限するためのストッパとなる。レンズホルダ締結部465は、レンズホルダ43に締結しラック4を固定するための部位である。丸穴と、X方向に長い長穴で締結することにより、ラック爪461の退避方向であるY方向に対して組立精度を確保できるようになっている。この制限壁464側の当接面aと、爪背面板462側の当接面bはラック爪退避量tをあけて平行に向き合っている。このラック爪退避量tによって、ラック爪461のY方向変位を制限し、歯飛びを防止する。また、当接面aとbは、XZ平面に対してZ軸まわりに傾斜角αで傾斜している。
【0036】
従来のレンズ移動機構4に搭載されているラック46の形状を図6に示す。
図6は従来型ラックの斜視図である。
図6において、退避壁464側の当接面aと、爪背面板462側の当接面bはXZ平面に対して平行であり、傾斜を持たない構造である。
【0037】
本発明の実施例1に係るレンズ移動機構4に搭載されているラック46は、退避壁464側の当接面aと、爪背面板462側の当接面bがXZ平面に対してZ軸まわりに傾斜していることを特徴としている。
【0038】
本発明の実施例1に係るラック46の特徴である当接面の傾斜の効果について、図4、図5、図7、図8を用いて説明する。
図4、図5が本発明の実施例1を示し、図7、図8が従来例を示す。また、図4、図7はストローク内を示し、図5、図8はストローク端を示す。
【0039】
図4、図5、図7、図8において、48はストッパ、dはリードスクリューねじ溝高さ、eは組立誤差、sはスライド量を示す。その他の構成は図2、図3と同じである。
ストローク内のラック46の動作を図4、図7を用いて説明する。
図4,図7において、ラック爪461は、スプリング47によってリードスクリュー45に押し付けられ、ラック爪461がリードスクリュー45の溝に嵌合状態となっている。この状態においては歯飛びは発生しない。しかしながら、リードスクリュー45とガイド部材41の平行度ずれなどの組立誤差によって退避量tが消費されると、ラック爪461がラック46とリードスクリュー45とに挟まれて詰まって動けないという、動作不良が起きる。ラック爪461の退避量tは、設計値t0、組立誤差eを用いて図中の式で表すことができる。仮に組立誤差eが生じても、退避量tが常に正の値をとるように設計値t0を設定することが必要である。具体的には、t0±e>0の条件とする必要がある。
【0040】
ストローク端部のラック46の動作を図5、図8を用いて説明する。
図5,図8において、ストローク端では、メカストッパ48によりレンズホルダ43のX方向への移動が制限される。レンズホルダ45がメカストッパ48に突き当たった状態で、さらにリードスクリュー45が回転し続けると、ラック爪461にX方向の推進力がかかりアーム463がねじれ変形する。このねじれ変形によって、ラック爪461およびラック爪の背面板462はX方向にスライドする。また、同時にねじれ変形の復元力によって、ラック爪461は、リードスクリュー45のねじ山を登り始める。
【0041】
ラック爪461がねじ山を完全に乗り越え、隣接するねじ溝に再び嵌る現象が生じたとき、これを歯飛びと呼んでいる。
上述したように歯飛びが生じると、ねじ山によってラック爪461の先端の磨耗が問題となる。また、ねじ溝への再勘合時に衝突音が発生し、騒音問題を起こす。ラック爪461の退避量tは、設計値t0、組立誤差e、リードスクリューねじ溝高さdを用いて図8中の式で表すことができる。爪退避量tが正の値であるとラック爪461の退避量が余っていることになり、歯飛びが発生する。したがって、ラック爪461の退避量が負の値になるようにすることが重要で、具体的には、t0±e<dの条件とする必要がある。組み立て後の爪退避量t0±eがリードスクリューねじ溝高さdより必ず狭くなるようにしなければならない。
【0042】
ストローク内の動作条件、およびストローク端の歯飛び防止条件を両立させるためには、
0<t0±e<dの条件を成立させることが必要である。これは、リードスクリューねじ溝高さdの寸法内に組み立て後の爪退避量t0±eが作りこまれていなければならないことを意味している。しかし、光ピックアップに搭載できるモータのサイズはΦ6以下となるので、リードスクリュー45が細くなり、ねじ溝高さは0.2mm程度しか確保できない。従来のレンズ移動機構4では、部品精度の向上、組立精度の向上によって、組立誤差eを小さくして、設計値t0の尤度を確保することが行なわれている。
【0043】
図5に示す本発明の実施例1に係るラック46形状では、ラック46のねじれ変形によるラック爪461およびラック爪の背面板462のX方向スライドを利用する。退避壁464側の当接面aおよび爪背面板462側の当接面bとXZ平面との傾斜角αはZ軸まわりに30〜45度傾斜している。ラック爪背面板462がスライドすると、スライド量sに応じて当接面aとbの距離は、stanαで狭くなる。ラック爪461の退避量tは、設計値t0、組立誤差e、リードスクリューねじ溝高さd、スライド量sを用いて図5中の式で表すことができる。スライドの効果により、問題となっていた歯飛び防止条件は、t0±e<d+stanαとなり、stanα分の尤度が確保できるようになる。これにより、リードスクリュー45のねじ溝高さdよりも大きな設計値t0を設定できるので、部品精度、組立精度への要求は緩和され、低コスト化、生産性の向上に効果がある。
【0044】
ところで、従来構造のラックを示した図6,図8と本発明構造のラックを示した図3,図5とを比較しながら本発明と従来の構造と作用の違いを説明する。
従来のラックは図6に示すように、退避壁464と爪背面板462との間にU字状溝が形成されている。このU状状溝によって制限壁464には当接面aが形成され、爪背面板462には当接面bが形成されている。この両吐右折当接面a,bはお互いX軸方向に対して平行で、お互い2列1対となった2対の面となっている。
【0045】
このようなレンズ移動機構において、仮にラック46がストッパ48に衝突すると、図8に示すようにラック爪461を有する爪背面板462はリードスクリュー45のねじ溝を乗越える方向(X軸方向)に移動する。この時、お互いX軸方向に平行な当接面a,bとなっているため爪背面板462の動きを止める部分がなく、ラック爪461は簡単にリードスクリュー45のねじ溝を乗越えてしまい、上述したような問題が発生する。
【0046】
一方、本発明のラックは図3に示すようにU字状溝がY軸方向に溝が追加されてL字状溝となって形成されている。このL字状溝によって制限壁464には当接面aが形成され、爪背面板462には当接面bが形成されている。この両当接面a,bはX軸方向に対して傾斜する方向で平行で、お互い2列が一対の面となっている。
【0047】
このようなレンズ移動機構において、仮に図5に示すようにラック爪461を有する爪背面板462がリードスクリュー45のねじ溝を乗越える方向(X軸方向)に移動すると、爪背面板462の当接面bは当接面aに衝突するので、当接面aが爪背面板462の動きを止めることになる。
【0048】
つまり、本発明は当接面aが爪背面板462のストッパとなって動きを拘束するので、ラック爪461はリードスクリュー45のねじ溝を乗越える前に停止する。したがって、ラック爪461の破損や騒音の発生を防止できるものである。
【0049】
さらに爪背面板462と制限壁464はL字状の溝を介して連結しているので制限壁464は柔軟に動きやすく、爪背面板462が衝突したときの衝撃吸収としての作用を奏することになる。
【0050】
本発明の実施例1に係るラック46の形状は、図9、図10、図11に示す形状としても同じ効果が得られる。
【0051】
図9は他の形状であるラックの斜視図である。
図9において、ラック形状は、当接面aとbの傾斜が図3の構成に対して逆の方向を向いている。このように傾斜させた場合においても、当接面aとbがXZ平面に対してZ軸まわりに傾斜していれば、ラック爪背面板462のスライドによって退避量tが消費されるので、歯飛び防止および詰まり不良防止の効果が得られる。
【0052】
図10は他の形状であるラックの斜視図である。
図10において、ラック形状は、当接面a、bをある曲率のカーブで形成したものである。このような形状でも、当接面aとbの接触部位において、XZ平面に対してZ軸まわりの傾斜が得られていれば、ラック爪背面板462のスライドによって退避量sが消費されるので、歯飛び防止および詰まり不良防止に同様の効果が得られる。
【0053】
図11は他の形状であるラックの斜視図である。
図11において、ラック形状は、ラック背面板462の当接面b側に凸状の段差466を有している。ストローク内では凸状の段差に関係なく爪退避量tが確保されているが、ストローク端に至ってラック爪背面板462がスライドすると、凸状の段差が当接面bに対向し爪退避量tが減少するので、このような形状でも歯飛び防止および詰まり不良防止に効果が得られる。
【0054】
上記したラック46の形状は、X軸のプラス側とマイナス側の当接面a、bがYZ平面に線対称で傾斜している形状である。X軸プラス側にある当接面a、bは、XZ平面に対してZ軸まわりに傾斜角α(+)で傾斜している。一方、X軸マイナス側にある当接面a、bは、XZ平面に対してZ軸まわりに傾斜角α(−)で傾斜している。傾斜角α(+)と傾斜角α(−)の和が180度のとき、図12のようにX軸のプラス側とマイナス側の当接面a、bはYZ平面に対して対象形となる。
【0055】
このように対称形状とすることによって、X軸のプラス方向ストローク端では、X軸プラス側にある当接面a、bによるラック背面板462の退避量tが制限される。また、X軸のマイナス方向ストローク端では、X軸マイナス側にある当接面a、bによるラック背面板462の退避量tが制限される。
【0056】
図11に示す構造では、傾斜の方向が反転しており、X軸のプラス方向ストローク端では、X軸マイナス側にある当接面a、bによるラック背面板462の退避量tが制限され、また、X軸のマイナス方向ストローク端では、X軸プラス側にある当接面a、bによるラック背面板462の退避量tが制限される。
【0057】
上記のように、X軸のプラス側とマイナス側の当接面a、bをYZ平面に線対称に傾斜させることにより、ストロークの両端で歯飛び防止と詰まり防止を実現することができる。
【実施例2】
【0058】
本発明の実施例2に係る光ピックアップに内蔵されるレンズ移動機構のラック形状について、図13を参照しながら説明する。
【0059】
図13において、467はスライド制限部、sはスライド量を示す。その他は、図3の実施例1のラックと同じである。
【0060】
図13に示すラック形状は、制限壁464の当接面aと爪背面板462の当接面bが傾斜しているとともに、スライド量sを制限するスライド制限部467が設けられている。スライド制限部467は制限壁464の側面に当接することによって、爪背面板466のスライド量sを制限する壁である。このスライド制限部467により、爪背面板466が制限壁464に乗り上げて、復帰できなくなる不具合を防止する。
【0061】
本発明の実施例2は、実施例1と同様に当接面aとbの傾斜により、歯飛び防止および詰まり不良防止に効果が得られる。
【0062】
以上のごとく本発明によれば、ストローク端部におけるラック爪部のスライドを利用し、ストローク内とストローク端部でラック爪の退避量を変更することにより、送りねじとガイド部材との間隔が組立によりばらついても、ストローク内ではラック爪部の退避量を大きく確保して確実な動作を得るとともに、ストローク端ではラック爪部の退避量を壁により狭めて歯飛びを抑制できる。
【符号の説明】
【0063】
1…レーザ光源、2…回折格子、3…プリズム、4…レンズ移動機構、41、42…ガイド部材、43…レンズホルダ、44…コリメータレンズ、45…リードスクリュー、46…ラック、461…ラック爪、462…爪背面板、463…アーム、464…制限壁、465…レンズホルダ締結部、466…凸状の段差、467…スライド制限部、47…スプリング、48…ストッパ、5…ミラー、6…対物レンズ、7…検出レンズ、8…光検出器、a,b…当接面、d…リードスクリューねじ溝高さ、e…組立誤差、s…スライド量、t…ラック爪退避量、X…リードスクリューのスラスト方向、Y…リードスクリューのラジアル方向、Z…リードスクリューのラジアル方向、α…傾斜角。
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ディスクの記録面上に情報を記録・再生する光ピックアップに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の光ディスクの高密度化により、光ディスクの記録層上に集光するレーザ光の球面収差を補正することが必要となっている。球面収差を補正するため、光ピックアップを構成するレンズの一部を光軸方向に移動させる補正手段が一般的に用いられている。
【0003】
レンズの移動は、回転運動を並進運動に変換するねじ送り機構によって行なわれる。このレンズ移動機構は、回転軸にねじ溝を形成した小型モータと、ねじ溝に勘合する爪を有するラックと、ラックに連結されるレンズホルダおよびレンズと、レンズホルダを案内しモータ軸に平行なガイド部材とから構成されている。
【0004】
この構成において、モータ回転軸のねじ溝とラックの組み合わせによるねじ送り機構で、モータ回転軸の回転運動がラックの並進運動に変換されることになる。このねじ送り機構では、ラックを移動し続けるとストローク端部でラック爪がねじ溝を乗り越える、いわゆる歯飛びが発生する。この歯飛びによってストロークのリミットがかかる構成ではあるが、歯飛びによって騒音とラック爪の磨耗が生じるので、静音性や信頼性を重視する用途では、歯飛びを防止する手段を設ける場合がある。
【0005】
歯飛びを防止する技術として、特開2006−172661号公報(特許文献1)がある。この公報には、送りナットには、スライド部材に固定するための固定部と、歯部を有するナット部と、そのナット部と固定部との間を撓み変形可能に連結する連結部と、ナット部を送りねじ軸側に付勢する弾性部材と、その弾性部材のばね力によるナット部の撓み変形を制限するストッパ部とを設けることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−172661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記ねじ送り機構において、歯飛び防止の効果を発揮するためには、ストッパによって制限されるラック爪の退避量をねじ溝の深さよりも小さくなるように、ストッパの位置を設計する必要がある。しかし、構成部品の寸法誤差や組立誤差によって、ラック爪の退避量にはばらつきが発生する。
【0008】
特に、送りねじが形成された回転軸とガイド部材の平行度ずれは、ストローク端での歯飛びやラックが詰まって動けなくなるなどの不具合を生じやすい。このため、ラック爪の退避量をねじ溝深さ以下の寸法内に確実に入れるために、部品の寸法公差を厳しく設定するとともに、ストッパや構成部品の位置を調整するなど組立精度の向上を図る必要があり、部品コストの上昇、生産効率の低下を引き起こす問題がある。
【0009】
光ピックアップに内蔵するレンズ移動機構のように、小型化が必須であるシステムにおいて上記の問題はさらに困難を極める。
【0010】
本発明の目的は、低コストで生産性の高い歯飛び防止機能付のねじ送り機構によって小型化を実現したレンズ移動機構を備えた光ピックアップを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的は、レンズを保持するレンズホルダと、このレンズホルダを案内するガイド部材と、このガイド部材に平行に配置されるリードスクリューと、このリードスクリューを回転させるモータと、前記リードスクリューに嵌合するラック爪を設けた爪背面板と、この爪背面板と対向する位置に設けられた制限壁とを備えたレンズ移動機構を有する光ピックアップにおいて、前記制限壁の当接面と前記爪背面板の当接面が前記リードスクリューのスラスト方向に対し傾斜していることにより達成される。
【0012】
また上記目的は、前記制限壁の当接面と前記爪背面板の当接面の組み合わせが2対であることが好ましい。
【0013】
また上記目的は、前記制限壁と前記爪背面壁とはL字状の溝を介して連結されていることが好ましい。
【0014】
また上記目的は、前記2対の当接面の傾斜は前記リードスクリュー軸のラジアル面に対して対称であることが好ましい。
【0015】
また上記目的は、前記ラック爪のモータスラスト方向のスライド量を制限するストッパを設けることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、低コストで生産性の高い歯飛び防止機能付のねじ送り機構によって小型化を実現したレンズ移動機構を備えた光ピックアップを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】一般的な光ピックアップの概略構成図である。
【図2】本発明の実施例1に係るレンズ移動機構の斜視図である。
【図3】本発明の実施例1に係るレンズ移動機構を構成するラックの斜視図である。
【図4】本発明の実施例1に係るレンズ移動機構の動作を説明する上面図である。
【図5】本発明の実施例1に係るレンズ移動機構の動作を説明する上面図である。
【図6】従来の光ピックアップに搭載されるレンズ移動機構を構成するラックの例である。
【図7】従来のラックのストローク内での動作を説明する説明図である。
【図8】従来のラックのストローク端での動作を説明する説明図である。
【図9】本発明に係る光ピックアップに搭載されるレンズ移動機構を構成するラックの例である。
【図10】本発明に係る光ピックアップに搭載されるレンズ移動機構を構成するラックの例である。
【図11】本発明に係る光ピックアップに搭載されるレンズ移動機構を構成するラックの例である。
【図12】本発明に係る光ピックアップに搭載されるレンズ移動機構を構成するラックの例である。
【図13】本発明に係る光ピックアップに搭載されるレンズ移動機構を構成するラックの例である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
さて、上述したように光ディスクの高密度化は特に情報量が多いBD(Blu-ray Disc)が顕著であり、レンズ移動機構による球面収差補正は必須となっている。このレンズ移動機構による正確な球面収差補正を行うにはレンズ位置を正確に検出することが重要であることから、従来はレンズの位置検出のためにセンサを使用していた。
【0019】
しかしながらセンサは高額であることから、センサレス化の検討を余儀なくされた。その結果、レンズを片側に突き当てることで原点位置(レンズのスタート位置)を検出することによってレンズの位置検出を行うことを検討した。
【0020】
ところが、回転しているレンズ駆動モータを強制的の片側に突き当てることはレンズ移動機構のモータが脱調したり、ラックギアとリードスクリューの歯どうしの衝突による歯飛びが発生したりすることが分かった。歯飛びは歯を削ってしまうことになり、レンズ移動機構そのものにダメージを与えてしまうことになる。また歯飛びする度に騒音が発生するという問題があることが分かった。
【0021】
そこで本発明の発明者らはラックギアとリードスクリューの歯どうしの衝突による歯飛び防止を種々検討した結果、以下のごとき実施例を得た。
【0022】
以下、本発明の実施例を図にしたがって説明するが、先に一般的な光ピックアップの概略を図1で説明する。
【0023】
図1は、一般的な光ピックアップの概略構成図である。
図1において、1はレーザ光源、2は回折格子、3はプリズム、4はレンズ移動機構、44はコリメータレンズ、5はミラー、6は対物レンズ、7は検出レンズ、8は光検出器である。
【0024】
光ピックアップは、レーザ光源1と、回折格子2と、プリズム3と、コリメータレンズ44を有するレンズ移動機構4と、ミラー5と、対物レンズ6と、検出レンズ7と、光検出器8とが1つの筐体内に搭載され、光ディスクの記録再生を行なう光学系を構成したものである。図1には、1つの筐体に1つの光学系が搭載されている光ピックアップを示しているが、複数の光ディスク規格に対応するために、複数の光学系を搭載するように構成しても良い。この場合、異なる光学系でレンズやミラーなどの光学部品を共有するように構成することもできる。
【0025】
レーザ光源1は、CD、DVD、BDに対応した特定波長のレーザ光を発振して出射する半導体レーザ素子である。回折格子2、プリズム3、コリメータレンズ44、ミラー5、対物レンズ6、検出レンズ7は、ガラスまたは透明プラスチックで形成された光学部品である。これらの表面には必要に応じて機能性コーティングが施され、レーザ光の反射、透過、偏向などの機能が付与されている。光検出器8は、光検出面に照射するレーザの光量に応じて電圧を発生する半導体素子である。
【0026】
レーザ光源1を発したレーザ光は、回折格子2を通り、プリズム3で反射してレンズ移動機構4に設けられているコリメータレンズ44に到達する。レンズ移動機構4は、コリメータレンズ44を光軸方向に移動させることによってレンズを通過するレーザ光を弱発散、弱収束光に調節する機能を備えている。さらに、レーザ光は、ミラー5を経て対物レンズ6に入射し、対物レンズ6によって光ディスクの記録面上に集光されてビームスポットを形成する。光ピックアップでは、このビームスポットによって情報の記録再生を行なう。記録時には、記録情報に基づいてレーザ光源1のオンオフを行ない、ビームスポットで光ディスク上に記録ピットを形成して、情報の書き込みが行なわれる。再生においては、光ディスクの記録ピットに当たって反射したレーザ光を対物レンズ6で受け、往路とは逆にミラー5、レンズ移動機構4、プリズム3の順で通過し、検出レンズ7を経て光検出器8の検出面上にレーザ光が誘導される。光検出器8は、内部の検出面で光ディスクからの戻り光を検出し、情報の読込みを行なう。また、検出信号を処理することによって、対物レンズ6のフォーカス制御、トラッキング制御や、レンズ移動機構4のコリメータレンズ44の位置制御を行なう構成となっている。
【実施例1】
【0027】
図2は本発明の実施例1に係るレンズ移動機構の斜視図である。
図2において、41、42はガイド部材、43はレンズホルダ、44はコリメータレンズ、45はリードスクリュー、46はラック、47はスプリングを表す。レンズ移動機構4は、図1における光ピックアップに組み込まれている。
【0028】
上記レンズ移動機構4は、ガイド部材41、42と、レンズホルダ43と、コリメータレンズ44と、リードスクリュー45と、ラック46と、スプリング47から構成されている。ガイド部材41、42は、寸法安定性に優れた鉄鋼材料を主材とし、耐摩耗性を向上するために表面にニッケルやクロムなどのめっき処理を施したものを使用する。また、ガイド部材41、42には潤滑剤を塗布し、摺動抵抗および耐摩耗性を向上させている。
【0029】
ガイド部材41は、レンズホルダ43の移動方向の案内用として主に機能し、ガイド部材42はガイド部材41回りに回転可能なレンズホルダ43の回転止め用として機能する。レンズホルダ43は開口部を有し、この開口部にコリメータレンズ44を嵌合し接着することによって固定、支持している。また、レンズホルダ43はガイド部材41と摺動する軸受と、ガイド部材42と摺動する軸受を有し、2つのガイド部材によってコリメータレンズ44を光軸方向に移動するように懸架されている。
【0030】
コリメータレンズ44は、透過率の高いポリオレフィンなどの透明樹脂やガラスによって形成した光学レンズである。コリメータレンズ44は、光軸方向の位置により、コリメータレンズ44に入射するレーザ光を弱拡散、弱収束させることができる球面収差補正を行なうレンズである。リードスクリュー45は、小型の直流モータやステッピングモータの回転軸外周に一定のピッチでねじ溝を形成したものである。
【0031】
リードスクリュー45は、切削加工や転造などによって製造することができ、モータの回転軸に直接加工を施して形成するか、別部品として形成した部品をモータ回転軸に圧入固定するなどにより形成することができる。ラック46は、耐磨耗性に優れたポリアセタール樹脂などの樹脂材料によって作られている。ラック46のリードスクリュー45側には、リードスクリュー45と係合する爪が形成されている。ラック爪とリードスクリュー45の間には潤滑性向上のために潤滑剤が塗布される。スプリング47は、ばね鋼材をらせん状に加工した圧縮ばねである。スプリング47は、ラック46に形成されているラック46の爪とレンズホルダ締結部との間のU字溝に装着され、ラック爪をリードスクリュー45に押し付ける機能を担っている。
【0032】
上記のレンズ移動機構4において、歯飛びを防止するためにラック46にラック爪の退避量を制限する制限壁464を設けている。
【0033】
図3は本発明の実施例1に係るレンズ移動機構に搭載されるラックの斜視図である。
図3において、461はラック爪、462は爪背面板、463はアーム、464は制限壁、465はレンズホルダ締結部、a,bは当接面、tはラック爪退避量、αは傾斜角を表す。
ラック46は、ラック爪461と、爪背面板462と、アーム463と、制限壁464と、レンズホルダ締結部465とを形成した構造となっている。
【0034】
ラック爪461は、リードスクリュー45(図2に示す)のリード角に合わせて傾斜した爪状の突起が爪背面板462上に形成されている。ラック爪461を複数歯で形成する場合、ラック爪461の間隔をリードスクリュー45のリードピッチの整数倍とする。ラック爪461の高さは、リードスクリュー溝深さよりも十分に大きな寸法で形成する。ラック爪461および爪背面板462は、アーム463によってたわみ可能に保持されている。アーム463は、たわみ剛性が小さくなるように断面の厚みを薄く、断面の幅を狭くするように設計されている。
【0035】
制限壁464は、アーム463のたわみによって爪背面板462がY方向に退避してきたときに、退避量を制限するためのストッパとなる。レンズホルダ締結部465は、レンズホルダ43に締結しラック4を固定するための部位である。丸穴と、X方向に長い長穴で締結することにより、ラック爪461の退避方向であるY方向に対して組立精度を確保できるようになっている。この制限壁464側の当接面aと、爪背面板462側の当接面bはラック爪退避量tをあけて平行に向き合っている。このラック爪退避量tによって、ラック爪461のY方向変位を制限し、歯飛びを防止する。また、当接面aとbは、XZ平面に対してZ軸まわりに傾斜角αで傾斜している。
【0036】
従来のレンズ移動機構4に搭載されているラック46の形状を図6に示す。
図6は従来型ラックの斜視図である。
図6において、退避壁464側の当接面aと、爪背面板462側の当接面bはXZ平面に対して平行であり、傾斜を持たない構造である。
【0037】
本発明の実施例1に係るレンズ移動機構4に搭載されているラック46は、退避壁464側の当接面aと、爪背面板462側の当接面bがXZ平面に対してZ軸まわりに傾斜していることを特徴としている。
【0038】
本発明の実施例1に係るラック46の特徴である当接面の傾斜の効果について、図4、図5、図7、図8を用いて説明する。
図4、図5が本発明の実施例1を示し、図7、図8が従来例を示す。また、図4、図7はストローク内を示し、図5、図8はストローク端を示す。
【0039】
図4、図5、図7、図8において、48はストッパ、dはリードスクリューねじ溝高さ、eは組立誤差、sはスライド量を示す。その他の構成は図2、図3と同じである。
ストローク内のラック46の動作を図4、図7を用いて説明する。
図4,図7において、ラック爪461は、スプリング47によってリードスクリュー45に押し付けられ、ラック爪461がリードスクリュー45の溝に嵌合状態となっている。この状態においては歯飛びは発生しない。しかしながら、リードスクリュー45とガイド部材41の平行度ずれなどの組立誤差によって退避量tが消費されると、ラック爪461がラック46とリードスクリュー45とに挟まれて詰まって動けないという、動作不良が起きる。ラック爪461の退避量tは、設計値t0、組立誤差eを用いて図中の式で表すことができる。仮に組立誤差eが生じても、退避量tが常に正の値をとるように設計値t0を設定することが必要である。具体的には、t0±e>0の条件とする必要がある。
【0040】
ストローク端部のラック46の動作を図5、図8を用いて説明する。
図5,図8において、ストローク端では、メカストッパ48によりレンズホルダ43のX方向への移動が制限される。レンズホルダ45がメカストッパ48に突き当たった状態で、さらにリードスクリュー45が回転し続けると、ラック爪461にX方向の推進力がかかりアーム463がねじれ変形する。このねじれ変形によって、ラック爪461およびラック爪の背面板462はX方向にスライドする。また、同時にねじれ変形の復元力によって、ラック爪461は、リードスクリュー45のねじ山を登り始める。
【0041】
ラック爪461がねじ山を完全に乗り越え、隣接するねじ溝に再び嵌る現象が生じたとき、これを歯飛びと呼んでいる。
上述したように歯飛びが生じると、ねじ山によってラック爪461の先端の磨耗が問題となる。また、ねじ溝への再勘合時に衝突音が発生し、騒音問題を起こす。ラック爪461の退避量tは、設計値t0、組立誤差e、リードスクリューねじ溝高さdを用いて図8中の式で表すことができる。爪退避量tが正の値であるとラック爪461の退避量が余っていることになり、歯飛びが発生する。したがって、ラック爪461の退避量が負の値になるようにすることが重要で、具体的には、t0±e<dの条件とする必要がある。組み立て後の爪退避量t0±eがリードスクリューねじ溝高さdより必ず狭くなるようにしなければならない。
【0042】
ストローク内の動作条件、およびストローク端の歯飛び防止条件を両立させるためには、
0<t0±e<dの条件を成立させることが必要である。これは、リードスクリューねじ溝高さdの寸法内に組み立て後の爪退避量t0±eが作りこまれていなければならないことを意味している。しかし、光ピックアップに搭載できるモータのサイズはΦ6以下となるので、リードスクリュー45が細くなり、ねじ溝高さは0.2mm程度しか確保できない。従来のレンズ移動機構4では、部品精度の向上、組立精度の向上によって、組立誤差eを小さくして、設計値t0の尤度を確保することが行なわれている。
【0043】
図5に示す本発明の実施例1に係るラック46形状では、ラック46のねじれ変形によるラック爪461およびラック爪の背面板462のX方向スライドを利用する。退避壁464側の当接面aおよび爪背面板462側の当接面bとXZ平面との傾斜角αはZ軸まわりに30〜45度傾斜している。ラック爪背面板462がスライドすると、スライド量sに応じて当接面aとbの距離は、stanαで狭くなる。ラック爪461の退避量tは、設計値t0、組立誤差e、リードスクリューねじ溝高さd、スライド量sを用いて図5中の式で表すことができる。スライドの効果により、問題となっていた歯飛び防止条件は、t0±e<d+stanαとなり、stanα分の尤度が確保できるようになる。これにより、リードスクリュー45のねじ溝高さdよりも大きな設計値t0を設定できるので、部品精度、組立精度への要求は緩和され、低コスト化、生産性の向上に効果がある。
【0044】
ところで、従来構造のラックを示した図6,図8と本発明構造のラックを示した図3,図5とを比較しながら本発明と従来の構造と作用の違いを説明する。
従来のラックは図6に示すように、退避壁464と爪背面板462との間にU字状溝が形成されている。このU状状溝によって制限壁464には当接面aが形成され、爪背面板462には当接面bが形成されている。この両吐右折当接面a,bはお互いX軸方向に対して平行で、お互い2列1対となった2対の面となっている。
【0045】
このようなレンズ移動機構において、仮にラック46がストッパ48に衝突すると、図8に示すようにラック爪461を有する爪背面板462はリードスクリュー45のねじ溝を乗越える方向(X軸方向)に移動する。この時、お互いX軸方向に平行な当接面a,bとなっているため爪背面板462の動きを止める部分がなく、ラック爪461は簡単にリードスクリュー45のねじ溝を乗越えてしまい、上述したような問題が発生する。
【0046】
一方、本発明のラックは図3に示すようにU字状溝がY軸方向に溝が追加されてL字状溝となって形成されている。このL字状溝によって制限壁464には当接面aが形成され、爪背面板462には当接面bが形成されている。この両当接面a,bはX軸方向に対して傾斜する方向で平行で、お互い2列が一対の面となっている。
【0047】
このようなレンズ移動機構において、仮に図5に示すようにラック爪461を有する爪背面板462がリードスクリュー45のねじ溝を乗越える方向(X軸方向)に移動すると、爪背面板462の当接面bは当接面aに衝突するので、当接面aが爪背面板462の動きを止めることになる。
【0048】
つまり、本発明は当接面aが爪背面板462のストッパとなって動きを拘束するので、ラック爪461はリードスクリュー45のねじ溝を乗越える前に停止する。したがって、ラック爪461の破損や騒音の発生を防止できるものである。
【0049】
さらに爪背面板462と制限壁464はL字状の溝を介して連結しているので制限壁464は柔軟に動きやすく、爪背面板462が衝突したときの衝撃吸収としての作用を奏することになる。
【0050】
本発明の実施例1に係るラック46の形状は、図9、図10、図11に示す形状としても同じ効果が得られる。
【0051】
図9は他の形状であるラックの斜視図である。
図9において、ラック形状は、当接面aとbの傾斜が図3の構成に対して逆の方向を向いている。このように傾斜させた場合においても、当接面aとbがXZ平面に対してZ軸まわりに傾斜していれば、ラック爪背面板462のスライドによって退避量tが消費されるので、歯飛び防止および詰まり不良防止の効果が得られる。
【0052】
図10は他の形状であるラックの斜視図である。
図10において、ラック形状は、当接面a、bをある曲率のカーブで形成したものである。このような形状でも、当接面aとbの接触部位において、XZ平面に対してZ軸まわりの傾斜が得られていれば、ラック爪背面板462のスライドによって退避量sが消費されるので、歯飛び防止および詰まり不良防止に同様の効果が得られる。
【0053】
図11は他の形状であるラックの斜視図である。
図11において、ラック形状は、ラック背面板462の当接面b側に凸状の段差466を有している。ストローク内では凸状の段差に関係なく爪退避量tが確保されているが、ストローク端に至ってラック爪背面板462がスライドすると、凸状の段差が当接面bに対向し爪退避量tが減少するので、このような形状でも歯飛び防止および詰まり不良防止に効果が得られる。
【0054】
上記したラック46の形状は、X軸のプラス側とマイナス側の当接面a、bがYZ平面に線対称で傾斜している形状である。X軸プラス側にある当接面a、bは、XZ平面に対してZ軸まわりに傾斜角α(+)で傾斜している。一方、X軸マイナス側にある当接面a、bは、XZ平面に対してZ軸まわりに傾斜角α(−)で傾斜している。傾斜角α(+)と傾斜角α(−)の和が180度のとき、図12のようにX軸のプラス側とマイナス側の当接面a、bはYZ平面に対して対象形となる。
【0055】
このように対称形状とすることによって、X軸のプラス方向ストローク端では、X軸プラス側にある当接面a、bによるラック背面板462の退避量tが制限される。また、X軸のマイナス方向ストローク端では、X軸マイナス側にある当接面a、bによるラック背面板462の退避量tが制限される。
【0056】
図11に示す構造では、傾斜の方向が反転しており、X軸のプラス方向ストローク端では、X軸マイナス側にある当接面a、bによるラック背面板462の退避量tが制限され、また、X軸のマイナス方向ストローク端では、X軸プラス側にある当接面a、bによるラック背面板462の退避量tが制限される。
【0057】
上記のように、X軸のプラス側とマイナス側の当接面a、bをYZ平面に線対称に傾斜させることにより、ストロークの両端で歯飛び防止と詰まり防止を実現することができる。
【実施例2】
【0058】
本発明の実施例2に係る光ピックアップに内蔵されるレンズ移動機構のラック形状について、図13を参照しながら説明する。
【0059】
図13において、467はスライド制限部、sはスライド量を示す。その他は、図3の実施例1のラックと同じである。
【0060】
図13に示すラック形状は、制限壁464の当接面aと爪背面板462の当接面bが傾斜しているとともに、スライド量sを制限するスライド制限部467が設けられている。スライド制限部467は制限壁464の側面に当接することによって、爪背面板466のスライド量sを制限する壁である。このスライド制限部467により、爪背面板466が制限壁464に乗り上げて、復帰できなくなる不具合を防止する。
【0061】
本発明の実施例2は、実施例1と同様に当接面aとbの傾斜により、歯飛び防止および詰まり不良防止に効果が得られる。
【0062】
以上のごとく本発明によれば、ストローク端部におけるラック爪部のスライドを利用し、ストローク内とストローク端部でラック爪の退避量を変更することにより、送りねじとガイド部材との間隔が組立によりばらついても、ストローク内ではラック爪部の退避量を大きく確保して確実な動作を得るとともに、ストローク端ではラック爪部の退避量を壁により狭めて歯飛びを抑制できる。
【符号の説明】
【0063】
1…レーザ光源、2…回折格子、3…プリズム、4…レンズ移動機構、41、42…ガイド部材、43…レンズホルダ、44…コリメータレンズ、45…リードスクリュー、46…ラック、461…ラック爪、462…爪背面板、463…アーム、464…制限壁、465…レンズホルダ締結部、466…凸状の段差、467…スライド制限部、47…スプリング、48…ストッパ、5…ミラー、6…対物レンズ、7…検出レンズ、8…光検出器、a,b…当接面、d…リードスクリューねじ溝高さ、e…組立誤差、s…スライド量、t…ラック爪退避量、X…リードスクリューのスラスト方向、Y…リードスクリューのラジアル方向、Z…リードスクリューのラジアル方向、α…傾斜角。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズを保持するレンズホルダと、このレンズホルダを案内するガイド部材と、このガイド部材に平行に配置されるリードスクリューと、このリードスクリューを回転させるモータと、前記リードスクリューに嵌合するラック爪を設けた爪背面板と、この爪背面板と対向する位置に設けられた制限壁とを備えたレンズ移動機構を有する光ピックアップにおいて、
前記制限壁の当接面と前記爪背面板の当接面が前記リードスクリューのスラスト方向に対し傾斜していることを特徴とする光ピックアップ。
【請求項2】
請求項1に記載の光ピックアップにおいて、
前記制限壁の当接面と前記爪背面板の当接面の組み合わせが2対であることを特徴とする光ピックアップ。
【請求項3】
請求項1に記載の光ピックアップにおいて、
前記制限壁と前記爪背面壁とはL字状の溝を介して連結されていることを特徴とする光ピックアップ。
【請求項4】
請求項2に記載の光ピックアップにおいて、
前記2対の当接面の傾斜は前記リードスクリュー軸のラジアル面に対して対称であることを特徴とする光ピックアップ。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の光ピックアップにおいて、
前記ラック爪のモータスラスト方向のスライド量を制限するストッパを設けたことを特徴とする光ピックアップ。
【請求項1】
レンズを保持するレンズホルダと、このレンズホルダを案内するガイド部材と、このガイド部材に平行に配置されるリードスクリューと、このリードスクリューを回転させるモータと、前記リードスクリューに嵌合するラック爪を設けた爪背面板と、この爪背面板と対向する位置に設けられた制限壁とを備えたレンズ移動機構を有する光ピックアップにおいて、
前記制限壁の当接面と前記爪背面板の当接面が前記リードスクリューのスラスト方向に対し傾斜していることを特徴とする光ピックアップ。
【請求項2】
請求項1に記載の光ピックアップにおいて、
前記制限壁の当接面と前記爪背面板の当接面の組み合わせが2対であることを特徴とする光ピックアップ。
【請求項3】
請求項1に記載の光ピックアップにおいて、
前記制限壁と前記爪背面壁とはL字状の溝を介して連結されていることを特徴とする光ピックアップ。
【請求項4】
請求項2に記載の光ピックアップにおいて、
前記2対の当接面の傾斜は前記リードスクリュー軸のラジアル面に対して対称であることを特徴とする光ピックアップ。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の光ピックアップにおいて、
前記ラック爪のモータスラスト方向のスライド量を制限するストッパを設けたことを特徴とする光ピックアップ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−108992(P2012−108992A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−258808(P2010−258808)
【出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【出願人】(000153535)株式会社日立メディアエレクトロニクス (452)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【出願人】(000153535)株式会社日立メディアエレクトロニクス (452)
【Fターム(参考)】
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