説明

光ファイバの保持装置及び保持方法

【課題】光ファイバを常に安定的に保持することが可能な光ファイバの保持装置及び保持方法を提供する。
【解決手段】一端側が連結されかつ互いに隙間Gをあけて配置された一対の挟持部25が形成された保持部21を有するチャック12と、周方向の一部に長手方向へわたってスリット31が形成された弾性材料からなる弾性スリーブ13と、弾性スリーブ13をチャック12の保持部21へ向かって押し込む圧入パイプ4とを備え、挟持部25間に光ファイバ素線を配置した状態で圧入パイプによってチャック12の保持部21へ向かって弾性スリーブ13が押し込まれ、弾性スリーブ13が保持部21に外嵌されることにより、弾性スリーブ13の弾性力によって光ファイバ素線を挟持部25で挟持して保持する保持装置10であって、挟持部25同士の隙間Gと弾性スリーブ13のスリット31とが、連続しないように予め周方向へずらされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバを保持する光ファイバの保持装置及び保持方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバを保持する装置として、中心部に光ファイバが挿通する中空部を有し、外周部に複数に分割されて周方向に配置された拡張−挟持部と、その各拡張−挟持部を連結する連結部と、拡張−挟持部と連結部の間に形成された傾斜部とを設けた管状のチャックと、そのチャックの連結部に外嵌され、拡張−挟持部に嵌合することにより、径方向外側に弾性的に拡張する弾性管状体を備えたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。この保持装置では、チャックの中空部に光ファイバを通し、そのチャックの傾斜部を乗り越えて拡張−挟持部に弾性管状体を嵌合して弾性管状体を径方向外側に拡張することより、弾性管状体の復元力で各拡張−挟持部を径方向内側に押圧して光ファイバを弾性的に挟持する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3323742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記の保持装置では、チャックに形成されたスリットの方向軸と、弾性管状体に形成されたスリットが周方向で重なった状態になると、弾性管状体のスリット側の光ファイバに対する挟持力が弱くなる。このため、光ファイバの保持力が不安定となり、保持されている光ファイバに引張力が加わった場合には、光ファイバが弾性管状体のスリット側へ変位してしまい、さらに、保持力が不安定となる。
【0005】
本発明の目的は、光ファイバを常に安定的に保持することが可能な光ファイバの保持装置及び保持方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決することのできる本発明の光ファイバの保持装置は、一端側が連結されかつ互いに隙間をあけて配置された一対の挟持部が形成された保持部を有するチャックと、周方向の一部に長手方向へわたってスリットが形成された弾性材料からなる弾性スリーブと、前記弾性スリーブを前記チャックの前記保持部へ向かって押し込む圧入部材とを備え、前記挟持部間に光ファイバを配置した状態で前記圧入部材によって前記チャックの前記保持部へ向かって前記弾性スリーブが押し込まれて前記弾性スリーブが前記保持部に外嵌されることにより、前記弾性スリーブの弾性力によって前記光ファイバを前記挟持部で挟持して保持する光ファイバの保持装置であって、
前記挟持部同士の隙間と前記弾性スリーブのスリットとが、連続しないように予め周方向へずらされていることを特徴とする。
【0007】
本発明の光ファイバの保持装置において、前記挟持部同士の隙間と前記弾性スリーブのスリットとの周方向へのずれの角度が90°であることが好ましい。
【0008】
本発明の光ファイバの保持装置において、前記弾性スリーブは、前記チャックに予め保持されていることが好ましい。
または、前記弾性スリーブは、前記圧入部材に予め保持されていることが好ましい。
【0009】
また、本発明の光ファイバの保持装置は、一端側が連結されかつ互いに隙間をあけて配置された一対の挟持部が形成された保持部を有するチャックと、周方向の一部に長手方向へわたってスリットが形成された弾性材料からなる弾性スリーブと、前記弾性スリーブを前記チャックの前記保持部へ向かって押し込む圧入部材とを備え、前記挟持部間に光ファイバを配置した状態で前記圧入部材によって前記チャックの前記保持部へ向かって前記弾性スリーブが押し込まれ、前記弾性スリーブが前記保持部に外嵌されて、前記弾性スリーブの弾性力によって前記光ファイバが前記挟持部で挟持されて保持されている光ファイバの保持装置であって、
前記弾性スリーブは、前記挟持部同士の隙間と前記弾性スリーブのスリットとが連続しないように周方向へずらされていることを特徴とする。
【0010】
上記課題を解決することのできる本発明の光ファイバの保持方法は、一端側が連結されかつ互いに隙間をあけて配置された一対の挟持部が形成された保持部を有するチャックの前記挟持部間に光ファイバを配置させ、周方向の一部に長手方向へわたってスリットが形成された弾性材料からなる弾性スリーブを、圧入部材によって前記チャックの前記保持部へ向かって押し込んで前記保持部に外嵌させることにより、前記弾性スリーブの弾性力によって前記光ファイバを前記挟持部で挟持して保持する光ファイバの保持方法であって、
前記挟持部同士の隙間と前記弾性スリーブのスリットとを、連続しないように予め周方向へずらしておくことを特徴とする。
【0011】
本発明の光ファイバの保持方法において、前記挟持部同士の隙間と前記弾性スリーブのスリットとの周方向へのずれの角度を90°にしておくことが好ましい。
【0012】
本発明の光ファイバの保持方法において、前記弾性スリーブを、前記チャックに予め保持させておくことが好ましい。
または、前記弾性スリーブを、前記圧入部材に予め保持させておくことが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、挟持部間に光ファイバを配置した状態で圧入部材によってチャックの保持部へ向かって弾性スリーブを押し込むと、弾性スリーブが保持部に外嵌されて径方向外側に弾性的に拡張される。これにより、弾性スリーブの弾性力によって光ファイバが挟持部で挟持されて保持される。このとき、挟持部同士の隙間と弾性スリーブのスリットとが、予め周方向へずらされているので、挟持部同士は、幅方向へわたって偏りのない押圧力で互いに近接する。これにより、光ファイバを、それぞれの挟持部によって偏りなく挟持して安定的に保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1実施形態に係る光ファイバの保持装置における光ファイバの保持前の断面図である。
【図2】第1実施形態に係る光ファイバの保持装置における光ファイバの保持状態の断面図である。
【図3】第1実施形態に係る光ファイバの保持装置を構成する弾性スリーブが装着されたチャックを示す図であって、(a)は径方向の断面図、(b)は軸方向の断面図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係る光ファイバの保持装置における光ファイバの保持前の断面図である。
【図5】第2実施形態に係る光ファイバの保持装置における光ファイバの保持状態の断面図である。
【図6】図4におけるA−A断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る光ファイバの保持装置及び保持方法の実施の形態の例を、図面を参照して説明する。
(第1実施形態)
まず、第1実施形態について説明する。
図1及び図2に示すように、光ファイバの保持装置10は、フェルール11と、チャック12と、弾性スリーブ13と、圧入パイプ(圧入部材)14とを備え、これらは金属または硬質合成樹脂などによって形成されている。
【0016】
フェルール11は筒状に形成されており、その先端中央部には、コアとクラッドからなる光ファイバ素線(光ファイバ)1の外径とほぼ同寸法の内径の孔16が形成されている。このフェルール11には、内側に段状のストッパ部17が形成され、そのストッパ部17の後方(図1及び図2における右方)にチャック12や弾性スリーブ13などを収納する収納部18が形成されている。また、このフェルール11には、その後端に、径方向外方へ突出するフランジ部19が形成されており、このフランジ部19において、接続装置等へ装着する際の位置決め等が行われる。
【0017】
図3に示すように、チャック12は、フェルール11の収納部18への収納側が保持部21として設けられ、この保持部21の後方側が、円筒状に形成された円筒部22として設けられている。円筒部22は、光ファイバ素線1を樹脂で被覆してなる光ファイバ心線2よりも僅かに大きい内径の挿通孔23を有している。保持部21及び円筒部22における保持部21側には、軸心を通る面に沿って切り込み溝24が形成されている。これにより、保持部21には、切り込み溝24からなる隙間Gを介して互いに対向し、円筒部22側で連結された一対の挟持部25が形成されている。切り込み溝24は、その溝幅が、光ファイバ心線2から露出された光ファイバ素線1の外径よりも僅かに大きな寸法とされている。
【0018】
保持部21は円筒部22よりも外径が大きく形成されており、これらの保持部21と円筒部22との間には、保持部21側から円筒部22側に向かって次第に窄まる傾斜部26が形成されている。
【0019】
弾性スリーブ13は、弾性を有する金属材料等を円筒状に形成したものであり、長手方向にわたるスリット31が、周方向の一箇所に形成されている。これにより、この弾性スリーブ13は、断面形状がほぼC字形とされている。この弾性スリーブ13は、チャック12の保持部21の外径とほぼ同径の内径を有する大径部32と、チャック22の保持部21の外径よりも小さく、かつチャック12の円筒部22の外径よりも大きい内径を有する小径部33とを有している。これにより、この弾性スリーブ13には、大径部32と小径部33との間に、段部34が形成されている。
【0020】
この弾性スリーブ13は、大径部32側をチャック12の保持部21へ向けた状態で、チャック12の円筒部22側から嵌め込まれる。これにより、この弾性スリーブ13は、その大径部32にチャック12の保持部21が入り込んだ状態でチャック12に保持される。また、チャック12に保持された弾性スリーブ13は、そのスリット31が、チャック12の挟持部25同士の隙間Gに対して、連続しないように予め周方向の異なる位置にずらされている。挟持部25同士の隙間Gに対するスリット31のずれ角は90°とするのが好ましい。
【0021】
圧入パイプ14は、円筒状に形成されており、フェルール11に挿入される押し込み部41を有している。この押し込み部41は、その外径がフェルール11の収納部18の内径よりも僅かに小さくされており、これにより、この押し込み部41がフェルール11の後方側から挿入されている。また、圧入パイプ14のフェルール11への挿入側には、チャック12の円筒部22の外径より僅かに大径に形成されたチャック挿入孔42を有しており、これにより、チャック12の円筒部22が圧入パイプ14のチャック挿入孔42に挿入されている。また、この圧入パイプ14のチャック挿入孔42よりも後方側には、光ファイバ心線2を抗張力繊維及び外被で覆った光ファイバコード3が挿通可能なコード挿通孔43が形成されている。
【0022】
上記の保持装置10に保持される光ファイバ素線1は、樹脂で被覆されて外径0.5mmの光ファイバ心線2とされた部分の先端に露出されている。この光ファイバ素線1は、コアがガラスから形成されクラッドが高硬度プラスチックから形成されて折れ曲がり(キンク)や側圧に強く破断しにくいハードプラスチッククラッドファイバ(H−PCF)である。この光ファイバ素線1は、コア径が200μm、クラッド径が230μmまたは250μmとされている。そして、この光ファイバ素線1を樹脂で被覆した光ファイバ心線2は、保持装置10から導出される部分が、抗張力繊維及び外被で覆われ、外径2.2mmの光ファイバコード3とされている。
【0023】
次に、上記の保持装置10に光ファイバ心線2の先端に露出された光ファイバ素線1を保持させる方法について、工程毎に説明する。
(保持装置の組立工程)
まず、図3に示すように、チャック12の円筒部22に、大径部32側をチャック12の保持部21へ向けた状態で弾性スリーブ13を外嵌して保持させる。このとき、弾性スリーブ13はチャック12の円筒部22にスムースに挿入され、弾性スリーブ13の軸方向に伸びたスリット31を構成する2つの側端縁31aは、互いに接触しているか、または接近している。この状態では、チャック12の保持部21の挟持部25同士は、互いに接触せず離れている。
また、このとき、チャック12に装着させた弾性スリーブ13のスリット31を、予め切り込み溝24からなる挟持部25同士の隙間Gに対して、連続しないように周方向へずれた位置に配置させておく。好ましくは、周方向へ90°ずれた位置に配置させておく。
【0024】
次に、弾性スリーブ13を装着させたチャック12を、保持部21側からフェルール11の収納部18に挿入し、チャック12の先端部をフェルール11のストッパ部17に当接させる。
さらに、フェルール11に対して、その後方側から圧入パイプ14の押し込み部41を挿入する。これにより、保持装置10の組み立て(光ファイバ保持前の準備)が完了する(図2参照)。
【0025】
(光ファイバの挿入工程)
上記のようにして保持装置10を組み立てたら、端末処理を行った光ファイバコード3を保持装置10に対して、その後方側から挿し込む。
光ファイバコード3の端末処理では、光ファイバコード3から光ファイバ心線2を露出させ、さらに、光ファイバ心線2から光ファイバ素線1を露出させる。
【0026】
上記のように端末処理を行った光ファイバコード3を保持装置10に挿し込むことにより、光ファイバ素線1の部分をフェルール11の先端の孔16及びチャック12の保持部21の挟持部25同士の間へ通す。また、光ファイバ心線2の部分を、チャック12の円筒部22の挿通孔23へ挿入させる。さらに、光ファイバコード3の部分を、圧入パイプ14のコード挿通孔43へ挿入させる。
【0027】
(圧入パイプの圧入工程)
上記のように、保持装置10へ光ファイバコード3を挿入したら、フェルール11に対して圧入パイプ14を押し込む。
このようにすると、圧入パイプ14の押し込み部41が弾性スリーブ13の後端に当接し、弾性スリーブ13がチャック12の保持部21側へ押し込められる。
【0028】
すると、弾性スリーブ13は、その段部34がチャック12の傾斜部26に沿って摺接しながら、チャック12の保持部21側へ移動する。そして、この弾性スリーブ13は、その小径部33が傾斜部26を超える過程で強制的に押し拡げられて弾性変形し、小径部33がチャック12の保持部21に達したときには、側縁部31a同士の間が開いた状態となる。なお、圧入パイプ14で弾性スリーブ13を移動させる際、チャック12はフェルール11のストッパ部17に当接しているので、チャック12が移動することはなく、そのために弾性スリーブ13の移動が確実に行われる。
【0029】
この弾性スリーブ13の弾性変形に伴って発生した弾性力で、チャック12の保持部21を構成する挟持部25が内側に押し窄められて互いに近接する方向へ押圧され、このときの押圧力により光ファイバ素線1が挟持部25の間で弾性的に挟持されて保持される。
【0030】
このとき、弾性スリーブ13は、そのスリット31が、チャック12の挟持部25同士の隙間Gに対して、周方向へずれた位置に配置されているので、挟持部25は、幅方向へわたってほぼ均一な押圧力で互いに近接する。周方向へ90°ずれていると、より一層均一な押圧力が得られる。
このようにして光ファイバ素線1を保持した後、フェルール11の前面から突出している光ファイバ素線1をフェルール11の前面に合わせて切断または研磨することにより、保持作業を完了する。
【0031】
以上説明したように、上記第1実施形態によれば、挟持部25同士の隙間Gと弾性スリーブ13のスリット31とが、連続しないように予め周方向へずらされているので、挟持部25同士は、幅方向へわたって偏りのない押圧力で互いに近接する。これにより、光ファイバ素線1を、それぞれの挟持部25によって偏りなく挟持して安定的に保持することができる。
したがって、保持されている光ファイバ素線1に引張力が加わっても、光ファイバ素線1が挟持部25の間で径方向へ変位してさらに保持状態が不安定となるような不具合をなくすことができる。そして、光ファイバ素線1が挟持部25の間で径方向へ変位することによって過度な側圧を受け、伝送効率が低下するような不具合を防止することができる。
【0032】
また、上記第1実施形態の保持装置10では、弾性スリーブ13をチャック12に保持させる構造であるので、弾性スリーブ13を保持する別個の部品を不要とすることができる。これにより、部品点数の削減によるコスト低減を図ることができる。
【0033】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について説明する。
図4及び図5に示すように、光ファイバの保持装置50は、フェルール51と、チャック52と、弾性スリーブ53と、圧入パイプ(圧入部材)54とを備え、これらは金属もしくは硬質合成樹脂などによって形成されている。
【0034】
フェルール51は筒状に形成されており、その先端中央部には、光ファイバ素線1の外径とほぼ同寸法の内径の孔56が形成されている。このフェルール51には、内側に段状のストッパ部57が形成され、そのストッパ部57の後方(図4及び図5における右方)にチャック52を収納する収納部58が形成されている。また、このフェルール51には、その後端側における外周側に、小径部51aが形成されており、この小径部51aには、環状に形成されたフランジ59が後端側から装着されている。
【0035】
チャック52は、フェルール51の収納部58への収納側と反対側が保持部61として設けられ、この保持部61の前方側が、円筒状に形成された円筒部62として設けられている。円筒部62は、光ファイバ素線1よりも大きい内径の挿通孔63を有している。保持部61及び円筒部62における保持部61側には、軸心を通る面に沿って切り込み溝64が形成されている。これにより、保持部61には、切り込み溝64からなる隙間Gを介して互いに対向し、円筒部62側で連結された一対の挟持部65が形成されている。切り込み溝64は、その溝幅が、光ファイバ心線2から露出された光ファイバ素線1の外径よりも僅かに大きな寸法とされている。
【0036】
また、チャック52は、軸方向における切り込み溝64の形成箇所が径方向外方へ向かって次第に広げられている。これにより、切り込み溝64は、その幅寸法がチャック52の後端へ向かって次第に大きく形成されている。これに伴い、挟持部65は、チャック52の後端へ向かって次第に離間するように傾斜している。保持部61には、円筒部62と反対側に、チャック52の後端へ向かって次第に窄まる傾斜部66が形成されている。
【0037】
このチャック52は、フェルール51の収納部58へ、ストッパ部57に当接するまで円筒部62側から挿入すると、フェルール51の後端から保持部61が突出する寸法とされている。
【0038】
弾性スリーブ53は、弾性を有する金属材料等を円筒状に形成したものであり、長手方向にわたるスリット71が、周方向の一箇所に形成されている。これにより、この弾性スリーブ53は、断面形状がほぼC字形とされている。この弾性スリーブ53は、チャック52の保持部61の外径よりも小さい内径を有している。
【0039】
弾性スリーブ53は、圧入パイプ54の内側に保持されており、図6に示すように、スリット71が、切り込み溝64からなる挟持部65同士の隙間Gに対して、連続しないように予め周方向の異なる位置にずらされている。挟持部65同士の隙間Gに対するスリット71のずれ角は90°とするのが好ましい。
【0040】
圧入パイプ54は、円筒状に形成された外筒部81と、この外筒部81の後端側から圧入されて固定された押し込み部82とを有している。外筒部81は、フェルール51の小径部51aが挿入可能な内径を有している。そして、この圧入パイプ54の外筒部81に、フェルール51の小径部51aが挿入されている。
【0041】
押し込み部82は、光ファイバ心線2の部分が挿入可能な心線挿通孔83を有し、また、この心線挿通孔83よりも先端側に、光ファイバ素線1の部分が挿入可能なファイバ挿通孔84を有している。また、押し込み部82の先端側には、弾性スリーブ53に挿入可能な保持突起85が形成されており、弾性スリーブ53は、この保持突起85に保持されている。そして、この保持突起85に弾性スリーブ53を保持させると、この弾性スリーブ53の一端が、保持突起85の基端に形成された段部86に当接された状態となる。
【0042】
また、圧入パイプ54の外筒部81には、先端側における外周側に、小径部81aが形成されており、この小径部81aには、環状に形成された円板87が先端側から装着されている。そして、フェルール51のフランジ59と圧入パイプ54の円板87との間には、コイルバネ90が設けられている。
【0043】
次に、上記の保持装置50に光ファイバ心線2に露出された光ファイバ素線1を保持させる方法について、工程毎に説明する。
(保持装置の組立工程)
まず、チャック52を、円筒部62側からフェルール51の収容部58に挿入し、チャック52の先端部をフェルール51のストッパ部57に当接させる。このとき、円筒部62が収容部58内に圧入されることで、チャック52が回転しないように保持される。
また、圧入パイプ54の保持突起85に弾性スリーブ53を装着する。このとき、弾性スリーブ53は圧入パイプ54の保持突起85にスムースに挿入され、弾性スリーブ53の軸方向に伸びたスリット71を構成する2つの側端縁71aは、互いに接触しているか、または接近している。
【0044】
次に、フェルール51に対して、その後方側から圧入パイプ54を装着させる。このとき、フェルール51のフランジ59と圧入パイプ54の円板87との間に、コイルバネ90を装着する。
この状態では、チャック52の保持部61の挟持部65同士は、互いに接触せず離れている。また、このとき、圧入パイプ54に装着させた弾性スリーブ53のスリット71を、予め切り込み溝64からなる挟持部65同士の隙間Gに対して、連続しないように周方向へずれた位置に配置させておく。好ましくは、周方向へ90°ずれた位置に配置させておく。これにより、保持装置50の組み立て(光ファイバ保持前の準備)が完了する(図4参照)。
【0045】
(光ファイバの挿入工程)
上記のようにして保持装置50を組み立てたら、端末処理を行った光ファイバコード3の光ファイバ心線2を保持装置50に対して、その後方側から挿し込む。
具体的には、光ファイバ素線1の部分をフェルール51の先端の孔56、チャック52の円筒部62の挿通孔63、チャック52の保持部61の挟持部65同士の間及び圧入パイプ54の押し込み部82のファイバ挿通孔84へ通す。また、光ファイバ心線2の部分を、圧入パイプ54の押し込み部82の心線挿通孔83へ挿入させる。
【0046】
(圧入パイプの圧入工程)
上記のように、保持装置50へ光ファイバ心線2を挿入したら、フェルール51に対して圧入パイプ54を押し込む。
このようにすると、圧入パイプ54の押し込み部82に保持されている弾性スリーブ53が圧入パイプ54とともにチャック52の保持部61側へ押し込められる。
【0047】
すると、弾性スリーブ53は、その先端がチャック52の傾斜部66に沿って摺接しながら、チャック52の円筒部62側へ移動する。そして、この弾性スリーブ53は、傾斜部66を超える過程で強制的に押し拡げられて弾性変形し、側縁部71a同士の間が開いた状態となる。このとき、弾性スリーブ53が径方向に広がって、圧入パイプ54の保持突起85の外周から僅かに離れる。なお、圧入パイプ54で弾性スリーブ53を移動させる際、チャック52はフェルール51のストッパ部57に当接しているから、チャック52が移動することはなく、そのために弾性スリーブ53の移動が確実に行われる。
【0048】
この弾性スリーブ53の弾性変形に伴って発生した弾性力で、チャック52の保持部61を構成する挟持部65が内側に押し窄められて互いに近接する方向へ押圧され、このときの押圧力により光ファイバ素線1が挟持部65の間で弾性的に挟持されて保持される。
【0049】
このとき、弾性スリーブ53は、そのスリット71が、隙間Gに対して、周方向へずれた位置に配置されているので、挟持部65は、幅方向へわたってほぼ均一な押圧力で互いに近接する。周方向へ90°ずれていると、より一層均一な押圧力が得られる。
このようにして光ファイバ素線1を保持した後、フェルール51の前面から突出している光ファイバ素線1をフェルール51の前面に合わせて切断または研磨することにより、保持作業を完了する。
【0050】
以上説明したように、上記第2実施形態の場合も、挟持部65同士の隙間Gと弾性スリーブ53のスリット71とが、連続しないように予め周方向へずらされているので、挟持部65同士は、幅方向へわたって偏りのない押圧力で互いに近接する。これにより、光ファイバ素線1を、それぞれの挟持部65によって偏りなく挟持して安定的に保持することができる。
したがって、保持されている光ファイバ素線1に引張力が加わっても、光ファイバ素線1が挟持部65の間で径方向へ変位してさらに保持状態が不安定となるような不具合をなくすことができる。そして、光ファイバ素線1が挟持部65の間で径方向へ変位することによって過度な側圧を受け、伝送効率が低下するような不具合を防止することができる。
【0051】
また、上記第2実施形態の保持装置50では、弾性スリーブ53を圧入パイプ54に保持させる構造であるので、チャック52に弾性スリーブ53を保持させる場合と比較して、チャック52を、弾性スリーブ53を保持させる太さに形成する必要がなく、チャック52とともにフェルール51を細くすることができる。
【符号の説明】
【0052】
1:光ファイバ素線(光ファイバ)、10,50:保持装置、12,52:チャック、13,53:弾性スリーブ、14,54:圧入パイプ(圧入部材)、21,61:保持部、25,65:挟持部、31,71:スリット、G:隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端側が連結されかつ互いに隙間をあけて配置された一対の挟持部が形成された保持部を有するチャックと、周方向の一部に長手方向へわたってスリットが形成された弾性材料からなる弾性スリーブと、前記弾性スリーブを前記チャックの前記保持部へ向かって押し込む圧入部材とを備え、前記挟持部間に光ファイバを配置した状態で前記圧入部材によって前記チャックの前記保持部へ向かって前記弾性スリーブが押し込まれて前記弾性スリーブが前記保持部に外嵌されることにより、前記弾性スリーブの弾性力によって前記光ファイバを前記挟持部で挟持して保持する光ファイバの保持装置であって、
前記挟持部同士の隙間と前記弾性スリーブのスリットとが、連続しないように予め周方向へずらされていることを特徴とする光ファイバの保持装置。
【請求項2】
請求項1に記載の光ファイバの保持装置であって、
前記挟持部同士の隙間と前記弾性スリーブのスリットとの周方向へのずれの角度が90°であることを特徴とする光ファイバの保持装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の光ファイバの保持装置であって、
前記弾性スリーブは、前記チャックに予め保持されていることを特徴とする光ファイバの保持装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載の光ファイバの保持装置であって、
前記弾性スリーブは、前記圧入部材に予め保持されていることを特徴とする光ファイバの保持装置。
【請求項5】
一端側が連結されかつ互いに隙間をあけて配置された一対の挟持部が形成された保持部を有するチャックと、周方向の一部に長手方向へわたってスリットが形成された弾性材料からなる弾性スリーブと、前記弾性スリーブを前記チャックの前記保持部へ向かって押し込む圧入部材とを備え、前記挟持部間に光ファイバを配置した状態で前記圧入部材によって前記チャックの前記保持部へ向かって前記弾性スリーブが押し込まれ、前記弾性スリーブが前記保持部に外嵌されて、前記弾性スリーブの弾性力によって前記光ファイバが前記挟持部で挟持されて保持されている光ファイバの保持装置であって、
前記弾性スリーブは、前記挟持部同士の隙間と前記弾性スリーブのスリットとが連続しないように周方向へずらされていることを特徴とする光ファイバの保持装置。
【請求項6】
一端側が連結されかつ互いに隙間をあけて配置された一対の挟持部が形成された保持部を有するチャックの前記挟持部間に光ファイバを配置させ、周方向の一部に長手方向へわたってスリットが形成された弾性材料からなる弾性スリーブを、圧入部材によって前記チャックの前記保持部へ向かって押し込んで前記保持部に外嵌させることにより、前記弾性スリーブの弾性力によって前記光ファイバを前記挟持部で挟持して保持する光ファイバの保持方法であって、
前記挟持部同士の隙間と前記弾性スリーブのスリットとを、連続しないように予め周方向へずらしておくことを特徴とする光ファイバの保持方法。
【請求項7】
請求項6に記載の光ファイバの保持方法であって、
前記挟持部同士の隙間と前記弾性スリーブのスリットとの周方向へのずれの角度を90°にしておくことを特徴とする光ファイバの保持方法。
【請求項8】
請求項6または7に記載の光ファイバの保持方法であって、
前記弾性スリーブを、前記チャックに予め保持させておくことを特徴とする光ファイバの保持方法。
【請求項9】
請求項6または7に記載の光ファイバの保持方法であって、
前記弾性スリーブを、前記圧入部材に予め保持させておくことを特徴とする光ファイバの保持方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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