説明

光ファイバの製造方法

【課題】線引きされた光ファイバに対して被覆層を形成する際に、該被覆層への泡の混入や該被覆層の不均一化といったトラブルの発生を未然に防ぐ、または該発生を低減することが可能な光ファイバの製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の一実施形態の製造方法は、貯蔵タンク23に接続された樹脂供給ホース24から被覆装置4、6へと樹脂液を吐出することにより、被覆装置4,6にて該樹脂液を光ファイバに塗布して被覆層を形成する工程を有する。該製造方法は、被覆層を形成する工程の前に、樹脂供給ホース24から、被覆装置とは別個のカップ22へと樹脂液を吐出させ、該樹脂液の吐出量を測定する工程(ステップS31、S32)と、測定された樹脂液の吐出量が許容範囲内にあるか否かを判定する工程(ステップS33)とを有し、判定結果、測定された樹脂液の吐出量が許容範囲内に無いと判定された場合は、被覆層を形成する工程を行わない(ステップS35)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバの製造方法において、線引きされた光ファイバにすぐさま樹脂液を塗布し被覆層を形成する方法が用いられている。被覆層の形成では、樹脂タンクから光ファイバを被覆するための被覆装置に樹脂を供給し、この被覆装置内を光ファイバを通過させることによって樹脂液を光ファイバに塗布する方法が一般的に用いられている。このような被覆層を形成する工程において、被覆装置内の樹脂圧力の変動が大きくなると、被覆層が不均一になる、被覆層内および被覆/ガラス界面、被覆層間界面に泡が入るなどの問題を生じる恐れがある。
この問題を解決し、光ファイバを線引きする際、均一で泡混入などのない被覆を実現するために、さまざまな検討がなされている。
【0003】
例えば、オリゴマー重量平均分子量と樹脂粘度(特許文献1参照)、一次/二次被覆層の粘度比(特許文献2参照)、塗布した樹脂の高温層と低温層の粘度差(特許文献3参照)など樹脂の特性を限定したもの、あるいは、樹脂温度、ガラス/樹脂温度差(特許文献4、5参照)、樹脂圧力、粘度、線速、およびファイバ外径の関係式(特許文献6参照)など製造条件を工夫したものなどが知られている。
その他に、樹脂塗布装置(特許文献7参照)、被覆冷却ガス塔(特許文献8参照)など製造設備や装置を工夫したものなども知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平09−241341号公報
【特許文献2】特開平08−325041号公報
【特許文献3】特開平08−082725号公報
【特許文献4】特開平02−212338号公報
【特許文献5】特開平03−285846号公報
【特許文献6】特開平09−236732号公報
【特許文献7】特開2001−048597号公報
【特許文献8】特開平11−035344号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
さて、上述の特許文献1〜6に記載された、樹脂の特性を限定したり製造条件を工夫した技術においては、最初にどのような樹脂を用いるか、どのような製造条件で行うかを決定すると、その後の管理は決定した製造条件を保持するだけである。従って、何らかの状態変化により樹脂が被覆装置から溢れ出す等のトラブルが発生することがあり、トラブルがあった場合は、一度線引きを中断する必要があった。また、決定した製造条件を保持するだけでは、前述のようなトラブルが起こるまで被覆層への泡の混入や被覆層の不均一化等の外観異常を検出できないため、大量の不良を発生させてしまう恐れがあった。
【0006】
また、上述の特許文献7〜8に記載された設備や装置を工夫した技術においても、状態変化によるトラブルがあった場合は一度線引きを中断する必要がある。また、トラブルが起こるまで外観異常を検出できないため、不良を発生させてしまう恐れがあった。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、光ファイバに被覆層を形成する際に、該被覆層への泡の混入や該被覆層の不均一化等の外観異常や断線、偏心、寸法の変動、樹脂溢れなどのトラブルの発生を未然に防ぐ、または該発生を低減することが可能な光ファイバの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的を達成するために、本発明は、樹脂液を貯蔵する貯蔵部に接続された供給経路から被覆装置へと樹脂液を吐出することにより、前記貯蔵部から前記被覆装置へと前記樹脂液を供給し、該被覆装置にて該樹脂液を光ファイバに塗布して該光ファイバに被覆層を形成する工程を有する光ファイバの製造方法であって、前記被覆層を形成する工程の前に、前記供給経路から前記被覆装置とは別個の容器へと前記樹脂液を吐出させ、該樹脂液の吐出量を測定する工程と、前記測定された樹脂液の吐出量が許容範囲内にあるか否かを判定する工程とを有し、前記判定結果、前記測定された樹脂液の吐出量が許容範囲内に無いと判定された場合は、前記被覆層を形成する工程を行わないことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、線引きされた光ファイバに対して被覆層を形成する際に、該被覆層への泡の混入や該被覆層の不均一化等の外観異常や断線、偏心、寸法の変動、樹脂溢れなどのトラブルを未然に防ぐ、または該発生を低減することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態に係る光ファイバの製造方法に用いる光ファイバ製造装置の概略構成図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る、光ファイバの製造工程の前に行う、吐出量の測定を説明するための模式図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る光ファイバの製造方法の処理手順を示す図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る光ファイバの製造方法に用いる樹脂圧と吐出量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下で説明する図面で、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
図1は、本発明の一実施形態に係る光ファイバ製造装置の概略構成図である。図1において、光ファイバ母材1の周りに、ヒーター2が設けられており、該ヒーター2により、光ファイバ母材1を加熱溶融して延伸し、所定の径を有する光ファイバ3が得られる。ヒーター2の後段(光ファイバ3の移動方向の下流側)には、被覆装置4、および硬化装置5が設けられている。該被覆装置4には、不図示の樹脂タンクから樹脂液を被覆装置4に供給するための樹脂供給ホース4aが設けられている。該樹脂供給ホース4aの先端には脱着式カプラーが設けられており、該脱着式カプラーにより、ダイスといった被覆装置4に樹脂液を供給できるように樹脂供給ホース4aを被覆装置4に脱着可能である。樹脂供給ホース4aを介して樹脂液が供給された被覆装置4中に光ファイバ3を通過させることにより、その外周に液状の一次被覆用硬化樹脂(樹脂液)を塗布し、さらに硬化装置5内を通過させることにより、この樹脂液を硬化させて、光ファイバに一次被覆層を形成させる。
該硬化装置5の後段には、被覆装置6、および硬化装置7が設けられている。該被覆装置6にも、不図示の樹脂タンクから樹脂液を被覆装置6に供給するための樹脂供給ホース6aが設けられている。該樹脂供給ホース6aの先端にも脱着式カプラーが設けられており、該脱着式カプラーにより、ダイスといった被覆装置6に樹脂液を供給できるように樹脂供給ホース6aを被覆装置6に脱着可能である。上記一次被覆された光ファイバを被覆装置6、硬化装置7を通過させることにより、一次被覆層の上に二次被覆用硬化樹脂(樹脂液)による二次被覆層を形成させる。このようにして一次および二次の被覆層を形成した光ファイバ8をキャプスタン9を介して巻取機10で巻取る。
【0012】
なお、本発明の一実施形態では、上記一次被覆用硬化樹脂および二次被覆用硬化樹脂は、紫外線により硬化する樹脂(紫外線硬化樹脂)であっても良いし、熱により硬化する樹脂(熱硬化樹脂)であっても良い。例えば、一次被覆用硬化樹脂が紫外線硬化樹脂である場合は、被覆装置4では、液状の紫外線硬化樹脂が塗布され、硬化装置(例えば、UVランプ)5は、該硬化装置5中を通過する一次被覆用硬化樹脂が塗布された光ファイバ3に対して紫外線を照射して樹脂を硬化させる。また、一次被覆用硬化樹脂が熱硬化樹脂である場合は、被覆装置4では、液状の熱硬化樹脂が塗布され、硬化装置(例えば、ヒータ)5は、該硬化装置5中を通過する一次被覆用硬化樹脂が塗布された光ファイバ3を加熱して樹脂を硬化させる。
【0013】
本発明では、後述するように、一例として図1に示したような光ファイバ製造装置にて光ファイバを製造する前に、または所定のタイミングで、光ファイバの製造とは別個に、上記光ファイバ製造装置に適用される、被覆装置に樹脂を供給する構成(例えば、樹脂タンクや樹脂供給ホース)により、樹脂液の吐出量が許容範囲内にあるか否かを判断することを特徴の1つとしている。
図2は、本発明の一実施形態に係る、光ファイバの製造工程の前に行う、吐出量の測定を説明するための模式図である。
図2において、符号21は、光ファイバ製造装置とは別個に設けられた支持台であり、該支持台21上にカップ22が載置されている。また、符号20は、光ファイバ製造装置の被覆装置に樹脂を供給するための樹脂供給機構である。該樹脂供給機構20は、樹脂タンク23、樹脂供給ホース24、およびフィルタ25を備えている。樹脂タンク23は、液状の硬化樹脂(例えば、一次被覆用硬化樹脂や二次被覆用硬化樹脂)といった樹脂液を貯蔵する。該樹脂タンク23には、樹脂タンク23に貯蔵された樹脂液を被覆装置およびカップ22へと供給する流路として機能する樹脂供給ホース24が接続されており、該樹脂供給ホース24を介して樹脂タンク23から被覆装置やカップ22へと樹脂液が供給される。本発明の一実施形態では、樹脂供給ホース24の一部にフィルタ25が設けられているが、該フィルタ25の位置は該樹脂供給ホース24の一部に限定されず、また該フィルタ25を設けなくても良い。
【0014】
本発明の一実施形態では、光ファイバ製造時には、樹脂供給ホース24は上記被覆装置に接続され、光ファイバ製造開始の前に行う樹脂液の吐出量測定時にはカップ22に接続される。
なお、樹脂供給機構20をカップ22に接続する際の、該樹脂供給機構20に対する支持台21に載置されたカップ22の高さや樹脂供給ホース24の長さ等の位置関係が、樹脂供給機構20の接続対象となる被覆装置に該樹脂供給機構20を接続する際の、該樹脂供給機構20と被覆装置(例えば、ダイス)との位置関係と同一となるように、支持台21は設けられている。
【0015】
本発明の一実施形態では、樹脂タンク23から被覆装置やカップ22へと樹脂液を供給する構成は、特に限定されないが、例えば、樹脂タンク23内(樹脂液)を加圧して、該樹脂タンク23からカップ22へと樹脂液を圧送する形態(以降、“加圧方式”と呼ぶこともある)、あるいは樹脂供給ホース24の経路の一部にポンプを設け、該ポンプを駆動させることにより、樹脂タンク23からカップ22へと樹脂を供給する形態など、樹脂タンク23から被覆装置やカップ22への樹脂液の吐出を行える形態であればいずれを用いても良いが、樹脂タンク23から被覆装置およびカップ22へと樹脂液を供給する構成は共通の形態を用いる必要がある。
【0016】
図3は、本発明の一実施形態に係る光ファイバの製造方法の一例を示すフローチャートである。図3においては、樹脂タンク内に一定の圧力(“樹脂圧”とも呼ぶ)を印加する加圧方式により樹脂液を供給する形態において、光ファイバ製造工程前の吐出量測定を一次被覆用硬化樹脂に適用する場合について説明する。従って、図1中の樹脂供給ホース4aが図2の樹脂供給ホース24となり、樹脂タンク23に貯蔵される樹脂液が一次被覆用硬化樹脂となる。従って、光ファイバ製造時には樹脂供給機構20は被覆装置4に接続されることになり、樹脂供給機構20を被覆装置4に接続した際の該樹脂供給機構20と被覆装置4の位置関係と、樹脂供給機構20をカップ22に接続した際の該樹脂供給機構20とカップ22との位置関係とが同一となるように、支持台21は設けられている。
なお、図3に示す方法を二次被覆用硬化樹脂に適用しても良く、1個の被覆装置を用いて一次被覆層となる一次被覆層用硬化樹脂および二次被覆層となる二次被覆用硬化樹脂を、同時に塗布し、硬化させる2層一括塗布方式に適用しても良いことは言うまでも無い。
図3において、ステップS31の実行の前に、樹脂液の吐出量を評価し、製造装置の構成、樹脂組成に合わせた適切な吐出量を実現するための条件(樹脂の粘度や温度など)を予め決定しておく。このような条件決定は、たとえば新規に開発した製造装置の使用や樹脂供給機構の変更といった装置構成の変更時や、新たな樹脂組成の導入時などに行う必要がある。このように決定された条件により、ステップS31からステップS33で製造装置に状態変化があるか否かの判定を行う。吐出量が適切な範囲内にある場合は光ファイバの製造(ステップS34)に進行し、適切な範囲内にない場合は製造を中止し(ステップS35)、装置の確認作業を行う。
【0017】
上記樹脂液の吐出量が少なすぎると被覆装置4に供給される樹脂液が足りなくなることがあり、光ファイバに形成される被覆層への泡混入に繋がる恐れがある。一方、吐出量が多すぎると被覆装置4の上部から樹脂液が溢れ出す事態が生じ、被覆層の不均一化に繋がる恐れがある。従って、本発明の一実施形態では、多すぎず、かつ少なすぎずの適切な範囲の吐出量、および該吐出量による樹脂液の吐出を実現するための各種条件を決定する。そして、後述するように実際の光ファイバの製造プロセスの前段階において、該決定された各種条件での樹脂液の吐出量が上記適切な範囲内にあるか否かを判断する。
【0018】
前述した図3に示す方法の前工程として行う、適切な吐出量、および該適切な吐出量での吐出を実現するための各条件の決定は、一例として以下のように行う。まず、樹脂タンク23からカップ22への樹脂液の供給条件(例えば、加圧方式を用いる場合はその圧力値)、樹脂タンク23の材質、樹脂供給ホース24の材質、長さ、口径、および樹脂供給ホース24の経路の一部に設けられたフィルタの材質、口径等(以降、これらを総じて“樹脂タンク23および樹脂供給ホース24の構成”と呼ぶこともある)を一意に決定し、樹脂供給ホース24をカップ22に接続して、所定値の粘度および温度を有する樹脂液を樹脂供給ホース24から吐出し、該吐出される樹脂液の吐出量を測定する。該吐出量の測定は、例えば、上記一意に決定された樹脂タンク23および樹脂供給ホース24の構成により樹脂液を吐出した際に、カップ22に所定量溜まるのにかかった時間を測定し、該時間および該時間中にカップ22に溜まった樹脂液の量から単位時間当たりの吐出量(例えば、mL/sec)を算出すれば良い。
【0019】
次いで、樹脂供給ホース24を被覆装置4に接続し、上記一意に決定された樹脂タンク23および樹脂供給ホース24の構成において、上記所定値の粘度および温度を有する樹脂液を用いて、光ファイバに被覆層を形成し、該被覆層を観察する。例えば、該被覆層を顕微鏡で観察して泡混入が認められる場合は、適切な吐出量よりも少ないことになり、被覆後の光ファイバが断線したり、被覆層にコブが発生している場合は、適切な吐出量よりも多いことになる。
【0020】
上記観察の結果、泡混入、および断線、コブの発生が認められない場合は、その条件が樹脂液の適切な吐出量を実現するための要件を満たしていると判断し、このときの吐出量をある樹脂圧における適切な吐出量とし、さらにこのときの樹脂液の粘度および温度を、適切な吐出量での吐出を実現するための条件とする。
【0021】
一方、上記観察の結果、泡混入や断線、コブの発生が認められる場合は、現在の条件が樹脂液の適切な吐出量を実現するための条件では無いと判断し、上記一意に決定された樹脂タンク23および樹脂供給ホース24の構成において、樹脂液の粘度および温度の少なくとも一方を変えて上述と同様に測定を行う。なお、吐出量が少ない場合は樹脂液の温度を上げる、または粘度の低い樹脂に変更することで吐出量を増やすことができ、吐出量が多い場合は樹脂液の温度を下げる、または粘度の高い樹脂に変更することで吐出量を減らすことができる。また、樹脂液の温度制御は、樹脂タンク23にヒーターを設ける等して行えば良い。上記再測定後の観察の結果、泡混入や断線、コブの発生が認められない場合は、現在の条件が樹脂液の適切な吐出量を実現するための条件であると判断し、このときの吐出量を適切な吐出量とし、さらにこのときの樹脂液の粘度および温度を、適切な吐出量での吐出を実現するための条件とする。
【0022】
なお、上述のように、適切な吐出量および該適切な吐出量を実現するための条件を記録しても良い。このように記録することで、一意に決定された樹脂タンク23および樹脂供給ホース24の構成を用いる限り、上記記録された条件で樹脂液を吐出すれば、上記適切な吐出量による樹脂液の吐出を行うことができる。また、記録された条件を参照することで、類似の装置構成や、類似の樹脂組成を採用する場合に、適切な吐出量や該適切な吐出量での吐出を実現するための条件の決定を容易に行えるようになる。
【0023】
また、適切な吐出量は、所定値のみならずある範囲を持つこともある。従って、上記測定により、泡混入や断線、コブの発生が認められない吐出量の1つの値が得られた後に、さらに、樹脂圧を変えながら樹脂液の粘度および温度の少なくとも一方を変えて吐出量を変化させ、該変化された吐出量毎にその吐出量での被覆を行い、上記観察を行って、泡混入や断線、コブの発生が認められない吐出量を複数求め、適切な吐出が実現できる吐出量の範囲を求めても良い。
【0024】
なお、上記実施形態では、泡混入や断線、コブの発生が認められる場合に、樹脂液の粘度および温度の少なくとも一方を変化させて吐出量を変化させているが、樹脂液の粘度および温度を変化させず、樹脂タンク23および樹脂供給ホース24の構成の要素の少なくとも1つを変化させる(例えば、樹脂供給ホース24の材質を変化させるなど)ことにより、樹脂液の吐出量の制御を行っても良い。
【0025】
樹脂タンク23に貯蔵された樹脂液に所定の樹脂圧を印加することにより、樹脂タンク23からカップ22への樹脂液の吐出を行う。加圧方式を用いる場合、上記条件は、樹脂液に印加する圧力である樹脂圧x(kg/cm)と樹脂液の吐出量y(mL/sec)との関係が、
【数1】

を満たしていることが好ましい。
式(1)を満たすことにより、泡の混入や断線、コブの発生が起こりにくくなるという利点がある。
【0026】
任意のフィルタおよびホースを用いて、ある粘度の樹脂をある温度に設定すると、液体の圧力と流量の理論関係式から、吐出量は樹脂圧の平方根に比例する。この関係に則り、式(1)の上下限の式については、前述したステップS31の前に行う適切な吐出量を実現するための条件を種々検討した結果得られた補正係数であり、式(1)は、設備構成等には影響を受けない。
また、このとき、該樹脂液を加圧する際の圧力(樹脂圧)は、樹脂タンク、樹脂供給ホースなど設備の耐圧性能の観点から 1〜5kg/cmであることが好ましい。また、樹脂液としてウレタンアクリレート系の紫外線硬化樹脂を用いた場合は、製造中の樹脂液の温度(樹脂温度)は40℃〜50℃であることが好ましい。これは、樹脂温度が室温に近くなると制御が難しい一方で、60℃以上の高温になると樹脂液の揮発、重合などが懸念されるためである。また、樹脂液の粘度(樹脂粘度)としては、樹脂温度40℃で1000〜5000mPa・s、樹脂温度50℃で500〜3000mPa・sであるものを用いることが好ましい。これは、上記樹脂温度で適正な吐出時間(吐出量)も含めた良好な製造性(塗布性)を実現するためである。
【0027】
ステップS31では、光ファイバ製造工程(ステップS34)の前に、予め取得された適切な吐出量による、樹脂タンク23からカップ22への樹脂液の吐出を行う。すなわち、樹脂供給ホース24をカップ22に接続し、上記一意に決定された樹脂タンク23および樹脂供給ホース24の構成において、上記ある樹脂圧における適切な吐出量での吐出を実現するための条件(例えば、樹脂液の温度および粘度)にて樹脂液をカップ22内に吐出する。
【0028】
ステップS32では、ステップS31にて吐出された樹脂液の吐出量を測定する。該吐出量の測定は、上述のように例えば、樹脂供給ホース24から吐出された樹脂液がカップ22に所定量溜まるのにかかった時間を測定し、該時間および該時間中にカップ22に溜まった樹脂液の量から吐出量(例えば、mL/sec)を算出すれば良い。
【0029】
ステップS33では、ステップS32で測定された吐出量が許容範囲内にあるか否かを判定する。許容範囲内にあればステップS34に進み、許容範囲内に無ければステップS35に進む。本ステップでは、樹脂タンク23に貯蔵された樹脂液に所定の樹脂圧を印加することにより、樹脂タンク23からカップ22への樹脂液の吐出を行う。このとき、樹脂液に印加する圧力である樹脂圧x(kg/cm)と樹脂液の吐出量y(mL/sec)との関係が、上記式(1)を満たしているときに、ステップS32にて測定された吐出量が許容範囲内にあると判断し、式(1)から外れているときに、許容範囲内に無いと判断する。
【0030】
ステップS34では、ステップS33にて樹脂タンク23および樹脂供給ホース24の構成の現在の状況においては、泡混入や断線、コブの発生を防止ないしは低減できる適切な吐出量による樹脂液の吐出が行えると判断されたので、ステップS31にて実行された適切な吐出量での吐出を実現するための条件(樹脂液の粘度および温度)にて、実際の光ファイバの被覆工程を行う。このとき、樹脂供給ホース24を被覆装置4に接続する。
【0031】
一方、ステップS35では、ステップS33にて樹脂タンク23および樹脂供給ホース24の構成の現在の状況においては、適切な吐出量による樹脂液の吐出が実現できないと判断されたので、現在の樹脂タンク23および樹脂供給ホース24の構成による光ファイバの製造工程を行わないようにし、該製造工程を中止する。
【0032】
一般に、樹脂タンク23および樹脂供給ホース24の構成を一意に定め、樹脂液の温度および粘度、ならびに樹脂圧を所定値に定めれば、一意の吐出量にて樹脂液は吐出されるはずである。しかしながら、例えばフィルタ25や樹脂供給ホース24の目詰まり、樹脂タンク23を加熱するためのヒータの劣化など、樹脂タンク23および樹脂供給ホース24の構成に含まれる要素に状態変化が生じると、樹脂液の吐出量が設計値からずれることがある。フィルタ25や樹脂供給ホース24の目詰まりの原因としては、樹脂液の組成配合量や物性のわずかな違いから、製造中の樹脂温度で保温することによって樹脂液がわずかに反応して異物が生成することなどが挙げられる。該ずれた後の吐出量が許容範囲内にあれば、泡混入や断線、コブの発生を抑えた被覆を行うことができるが、上記ずれた後の吐出量が許容範囲外、すなわち適切な吐出量の範囲外にある場合は、樹脂液の吐出量が少なすぎる、または多すぎる、のいずれかに該当することになり、泡の混入や被覆の不均一化といった外観異常の発生に繋がる恐れがある。すなわち、従来のように、泡混入や被覆の不均一化の解消のために樹脂の特性を限定したり、製造条件や設備や装置の構造を工夫しても、樹脂タンク23および樹脂供給ホース24の構成の要素に状態変化が生じると、泡混入や被覆の不均一化が生じてしまうことがある。
【0033】
これに対して、本発明の一実施形態では、カップ22に吐出される樹脂液の吐出量に着目し、実際の光ファイバの製造工程の前工程として、実際の光ファイバの製造工程に用いる樹脂供給機構を用いて樹脂液の吐出量が適切な値であるか否かを測定している。上記吐出量は、上述のように、樹脂タンク23および樹脂供給ホース24の構成の要素の状態を反映するものである。従って、ある構成において吐出量が適切か否かを判断することによって、該構成に許容範囲を超えた状態変化が発生しているか否かを間接的に判断することができる。すなわち、本発明の一実施形態では、従来の技術と異なり実際の光ファイバの製造前に樹脂液の吐出条件を管理することで、被覆の不均一化や泡混入などの外観異常を未然に防ぐことができる。
【0034】
さらに、本発明の一実施形態では、実際の光ファイバの製造において樹脂液を適切な吐出量で被覆装置に供給することができるので光ファイバの長手に渡って被覆樹脂を安定に塗布でき、被覆欠損(ランプ、コブ)の発生を低減し、被覆層間の乱れ(しわ、キズ、泡等)を低減することができる。さらに、偏心が少なく、寸法の変動、および樹脂溢れを低減することができる。
【0035】
なお、ステップS35にて光ファイバの製造工程を中止する場合は、上述のように、樹脂タンク23および樹脂供給ホース24の構成の要素のいずれかに許容範囲を超えた状態変化が生じていると考えられる。よって、ステップS35の後に、樹脂タンク23および樹脂供給ホース24の構成の各要素について、どの要素に状態変化が生じているかをチェックしても良い。該チェックの結果、樹脂供給ホース24やフィルタ25に目詰まりが発生している場合は樹脂供給ホース24やフィルタ25を掃除すれば良いし、樹脂タンク23を加熱するためのヒーターが動作不良を起こしている場合は、該ヒーターを交換すれば良い。このように状態変化を解消するように対処した後に、再びステップS31〜33を繰り返すことにより、実際の光ファイバの製造工程の前において、泡混入や被覆の不均一化の要因を排除することができる。
【0036】
(実施例、比較例)
本実施例、比較例では、樹脂タンク23からカップ22へと樹脂液を供給する形態として加圧方式を用いた。
【0037】
また、本実施例、比較例では、樹脂供給ホース24の材質としては、ナイロンとし、樹脂フィルタ25の材質をプリポロピレンとしたが、これらに限定されない。
【0038】
本実施例および比較例における樹脂圧、樹脂粘度、樹脂温度、および樹脂液の吐出量(mL/sec)を表1に示す。表1に示す条件により、本実施例、および比較例では、光ファイバに樹脂液を塗布し、該塗布された樹脂液を紫外線照射により硬化することで、光ファイバに一次被覆層を形成した。
なお、本実施例では、光ファイバに一次被覆層を形成する例について説明しているが、二次被覆層を形成する例について適用しても良く、このときは、被覆装置6に対応した支持台21およびカップ22を用意し、光ファイバの製造工程の前に被覆装置6に接続される樹脂供給機構を用いて図3のステップS31〜S33を行えば良い。また、一次被覆層および二次被覆層を一括して形成する例にも適用できることは言うまでもない。このときは、被覆装置は被覆装置4または6のいずれか一方となり、被覆装置4または6に対応した支持台21およびカップ22を用意し、光ファイバの製造工程の前に被覆装置4または6に接続される樹脂供給機構を用いて図3のステップS31〜S33を行えば良い。
【0039】
【表1】

【0040】
<本実施例の不良の判断基準について>
泡混入の判断については、顕微鏡で被覆層内、ガラス(光ファイバ)/被覆層界面または被覆層間界面の観察を行って判定する。樹脂溢れについては、被覆後の光ファイバが断線したり製品の外観観察でコブが見られることによって発見される。いずれも決まった線引き長(約100,000km)で発生しないかどうかを判断基準にする。
【0041】
図4は、表1に示した本実施例および比較例における樹脂圧と吐出量との関係を示す図である。なお、図4において、上限式、および下限式は、式(1)の上限式、下限式であり、以下の通りである。
【0042】
【数2】

【0043】
図4に示される通り、式(1)の関係を満たしていると、泡混入および樹脂溢れの双方を防止ないしは低減できることが分かる。すなわち、加圧方式の場合、樹脂圧xを一定とすると、該一定の樹脂圧xに対して式(1)を満たす吐出量yが適切な吐出量の範囲となる。
【0044】
さて、表1では、一意の樹脂タンク23および樹脂供給ホース24の構成では、同一の樹脂圧において、樹脂液の温度および粘度の少なくとも一方を変化させて吐出量を変化させているが、上述のように、樹脂液の温度および粘度を変化させなくても、樹脂タンク23および樹脂供給ホース24の構成の要素の不具合によっても吐出量は変化する。従って、図4の関係は、吐出量の変化が樹脂液の温度および粘度の変化に因るものか、あるいは上記要素の不具合に因るものかに関わらず、樹脂供給ホース24の出口からカップ22へと吐出された量と、樹脂圧との関係を示していると言える。従って、所定の、樹脂圧、樹脂液の温度および粘度において、上記要素の不具合によって吐出量が変化したとしても、該変化後の吐出量が、上記所定の樹脂圧xに対して式(1)を満たしていれば、吐出量は、許容範囲内にあると言える。
【0045】
従って、樹脂タンク23内の樹脂液に印加する圧力(樹脂圧)を一定として樹脂液を吐出する場合、樹脂液の吐出量が式(1)の範囲に入ってさえいれば、樹脂タンク23、フィルタ25の種類や樹脂供給ホース24の長さ、構造、レイアウトなどによらず、上記に示す効果を得ることができる。よって、図3のステップS33において、ステップS32にて測定された樹脂液の吐出量が、ステップS31にて印加されている一定の圧力xに対して、式(1)を満たしているか否かを判定し、式(1)を満たしている場合はステップS34にて実際の光ファイバの製造工程に進む。一方、式(1)を満たしていない場合は、ステップS35に進んで光ファイバの製造工程を一旦中止する。従って、被覆への泡混入や被覆の不均一化を未然に防ぐことができる。
【符号の説明】
【0046】
20 樹脂供給機構
21 支持台
22 カップ
23 樹脂タンク
24 樹脂供給ホース
25 フィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂液を貯蔵する貯蔵部に接続された供給経路から被覆装置へと樹脂液を吐出することにより、前記貯蔵部から前記被覆装置へと前記樹脂液を供給し、該被覆装置にて該樹脂液を光ファイバに塗布して該光ファイバに被覆層を形成する工程を有する光ファイバの製造方法であって、
前記被覆層を形成する工程の前に、前記供給経路から前記被覆装置とは別個の容器へと前記樹脂液を吐出させ、該樹脂液の吐出量を測定する工程と、
前記測定された樹脂液の吐出量が許容範囲内にあるか否かを判定する工程とを有し、
前記測定された樹脂液の吐出量が許容範囲内に無いと判定された場合は、前記被覆層を形成する工程を行わないことを特徴とする光ファイバの製造方法。
【請求項2】
前記樹脂液の吐出は、前記貯蔵部内に一定の圧力を印加することにより行われ、
前記一定の圧力をx(kg/cm)とし、前記樹脂液の吐出量をy(mL/sec)とすると、
前記判定する工程では、前記測定された樹脂液の吐出量が、
【数1】

を満たす場合に、前記測定された樹脂液の吐出量が許容範囲内にあると判定することを特徴とする請求項1に記載の光ファイバの製造方法。
【請求項3】
前記測定された樹脂液の吐出量が許容範囲内にある場合は、前記被覆層を形成する工程を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の光ファイバの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−136394(P2012−136394A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−290272(P2010−290272)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】