説明

光ファイバの製造方法

【課題】製造コストの低減を実現できる光ファイバの製造方法を提供する。
【解決手段】長手方向の軸に沿って延びる複数の空孔を有するガラス母材2であって、前記空孔の直径と当該ガラス母材2の外径との比が第1の比であるガラス母材2を準備する準備工程と、前記ガラス母材2の前記複数の空孔内を加圧しつつ当該ガラス母材2の一端を加熱溶融して、長手方向の軸に沿って延びる複数の空孔を有する光ファイバ1を線引きする線引き工程と、を含み、前記光ファイバ1の前記空孔の少なくとも一つの直径と当該光ファイバ1の外径との比を第2の比とすると、前記第2の比と前記第1の比との比が1.0よりも小さくなるように前記ガラス母材2の前記少なくとも一つの空孔内の圧力を調整して前記線引きを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長手方向の軸に沿って延びる複数の空孔を有する光ファイバの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
長手方向の軸に沿って延びる複数の空孔を有する空孔構造光ファイバとして、ホーリーファイバ(Holey Fiber:HF)あるいはフォトニッククリスタルファイバ(Photonic Crystal Fiber:PCF)と呼ばれるものや、フォトニックバンドギャップファイバ(Photonic BandGap Fiber:PBGF)や、ホールアシストファイバ(Hole Assisted Fiber:HAF)等がある。
【0003】
HFとは、コア部の周囲のクラッド部に空孔を規則的に配列してクラッド部の平均屈折率を下げ、全反射の原理を用いて光の閉じ込めを実現するタイプの光ファイバである。また、PBGFは、クラッド部に空孔をフォトニック結晶を形成するように配列してフォトニックバンドギャップを形成し、そこに結晶欠陥としてのコア部を導入して、光の閉じ込めを実現するというタイプの光ファイバである。なお、PBGFは、コア部も空孔により形成される場合がある。また、HAFは、通常のソリッド型光ファイバと同じく、ゲルマニウム(Ge)などがドープされた中実のコア部とクラッド部とから形成され、光の閉じ込めは主に全反射の原理で実現するが、クラッド部にさらに空孔を設けてクラッド部の平均屈折率を下げ、コア部への光の閉じ込め特性を向上させたタイプの光ファイバである。
【0004】
HAFは、空孔をコア近傍に設けることで、光の閉じ込め特性を向上できるため、曲げ損失を著しく低減できる。しかし、HAFでは、基底モードだけでなく、高次モードの光も閉じ込めやすくなるため、マルチモード化しやすい。HAFにおいて、基底モードの光のみを閉じ込めてシングルモード伝搬を実現し、かつシングルモード伝搬の曲げ損失を低減するためには、空孔径や、空孔数、コア−空孔間距離などの最適化が必要となってくる。最近では、これらの観点から、空孔直径を小さくし、空孔径を10個程度に増やした設計も提案されている(非特許文献1参照)。
【0005】
これらの空孔構造光ファイバを製造する方法として以下のようなものがある。まず、ガラス母材にドリル装置などで空孔を形成する(特許文献1参照)か、空孔となる石英ガラス管の周囲をガラス材料で充填して(特許文献2参照)、空孔を有するガラス母材を準備する。そして、この空孔を有するガラス母材の空孔もしくは空孔となる石英ガラス管の内圧を制御しつつ線引きを行い、空孔構造光ファイバを製造する(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−145634号公報
【特許文献2】特開2003−342032号公報
【特許文献3】特開2004−307250号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】松井ほか、電子情報通信学会総合大会 B−13−26、 p.521、 2010.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1のようにドリルでガラス母材に空孔を開ける場合、直径に比して長いドリルを使用すると、空孔の穿孔中にドリルの曲がりなどが発生するおそれがある。したがって、ガラス母材に形成すべき空孔の直径が設定されると、使用できるドリルの長さが制限され、これによって空孔を有するガラス母材の長さも制限される場合がある。したがって、1つのガラス母材から製造できる空孔構造光ファイバの長さも制限される場合がある。その結果、空孔構造光ファイバの製造コストの低減が困難な場合があるという問題があった。
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、製造コストの低減を実現できる光ファイバの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る光ファイバの製造方法は、長手方向の軸に沿って延びる複数の空孔を有するガラス母材であって、前記空孔の直径と当該ガラス母材の外径との比が第1の比であるガラス母材を準備する準備工程と、前記ガラス母材の前記複数の空孔内を加圧しつつ当該ガラス母材の一端を加熱溶融して、長手方向の軸に沿って延びる複数の空孔を有する光ファイバを線引きする線引き工程と、を含み、前記光ファイバの前記空孔の少なくとも一つの直径と当該光ファイバの外径との比を第2の比とすると、前記第2の比と前記第1の比との比が1.0よりも小さくなるように前記ガラス母材の前記少なくとも一つの空孔内の圧力を調整して前記線引きを行うことを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る光ファイバの製造方法は、上記の発明において、前記第2の比と前記第1の比との比が0.5以上であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る光ファイバの製造方法は、上記の発明において、前記ガラス母材の前記複数の空孔を互いに異なる圧力で加圧することを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る光ファイバの製造方法は、上記の発明において、前記ガラス母材の前記複数の空孔の直径を3mm以上にすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、光ファイバの製造コストを低減できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、実施の形態1に係る製造方法によって製造する光ファイバの模式的な断面図である。
【図2】図2は、図1に示す光ファイバを製造するためのガラス母材の模式的な斜視図である。
【図3】図3は、線引き工程を説明する図である。
【図4】図4は、無次元空孔内加圧量と比(X/Y)との関係を示す図である。
【図5】図5は、比(X/Y)と無次元空孔径変動との関係を示す図である。
【図6】図6は、実施の形態2に係る製造方法によって製造する光ファイバの模式的な断面図である。
【図7】図7は、図6に示す光ファイバを製造するためのガラス母材の模式的な斜視図である。
【図8】図8は、実施の形態2に係る製造方法において用いる加圧機構の模式図である。
【図9】図9は、実施の形態2に係る製造方法によって製造できる他の光ファイバの模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、図面を参照して本発明に係る光ファイバの製造方法の実施の形態を詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、本明細書においては、カットオフ波長とは、ITU−T(国際電気通信連合)G.650.1で定義するファイバカットオフ波長をいう。その他、本明細書で特に定義しない用語についてはITU−T G.650.1およびG.650.2における定義、測定方法に従うものとする。
【0017】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る製造方法によって製造する光ファイバの模式的な断面図である。図1に示すように、光ファイバ1は、HAFであって、コア部1aと、コア部1aの外周に形成されたクラッド部1bとを備える。
【0018】
コア部1aは、ゲルマニウム(Ge)などの屈折率を高めるためのドーパントが添加された石英系ガラスからなる。クラッド部1bは、コア部1aよりも屈折率が低い石英系ガラス、たとえば屈折率調整用のドーパントを含まない純石英ガラスからなる。コア部1a周辺の断面屈折率分布形状は、矩形(ステップインデックス)、クラッド部1bとの境界にすそが有る疑似矩形(疑似ステップインデックス)、ガウス分布形状(屈折率分布係数αが略2であるグレーデッドインデックス)などでも良い。
【0019】
また、クラッド部1bは、コア部1aを囲むように形成された、長手方向の軸に沿って延びている10個の空孔1cを有している。空孔1cは、光ファイバ1の長手方向に垂直な断面において、コア部1aの中心点と、隣接する任意の2つの空孔1cの中心点のそれぞれとを結んだときに形成される2本の線分の成す角度(中心角)が、いずれも等しくなるような位置に形成されている。
【0020】
空孔1cは同一の直径(以下、空孔径と呼ぶ)を有している。空孔1cの空孔径はd1である。また、光ファイバ1の外径はD1である。空孔1cの直径d1と光ファイバ1の外径D1との比を第2の比X1とすると、X1=d1/D1である。
【0021】
つぎに、本実施の形態1に係る製造方法について具体的に説明する。はじめに、光ファイバ1を製造するためのガラス母材を準備する。図2は、光ファイバ1を製造するためのガラス母材の模式的な斜視図である。図2に示すように、ガラス母材2は、石英系ガラスからなる円柱状であり、光ファイバ1のコア部1a、クラッド部1b、および空孔1cのそれぞれを形成するためのコア部2a、クラッド部2b、および空孔2cを有している。空孔2cはガラス母材2の長手方向の軸に沿って延びている。
【0022】
空孔2cは同一の空孔径を有している。空孔2cの空孔径はd2である。また、ガラス母材2の外径はD2である。空孔2cの直径d2とガラス母材2の外径D2との比を第1の比Y1とすると、Y1=d2/D2である。本実施の形態1では、所望のX1に対して、X1がY1より小さくなるようにd2、D2を設定する。すなわち、(X1/Y1)=(d1/D1)/(d2/D2)<1.0である。なお、ガラス母材2の長さはL1である。
【0023】
このガラス母材2は、たとえば以下のようにして準備できる。まず、VAD(Vapor phase Axial Deposition)法、OVD(Outside Vapor Deposition)法、MCVD(Modified Chemical Vapor Deposition)法などの周知の方法を用いて、コア部2aとクラッド部2bとを備えるガラス母材を形成する。その後、ドリルを用いてガラス母材の長手方向の軸に沿って空孔2cを形成する。これによって、図2に示すガラス母材2を準備できる。
【0024】
つぎに、このガラス母材2から光ファイバ1を線引きする。図3は、線引き工程を説明する図である。図3に示す線引装置100は、ヒータ101aを有する線引加熱炉101と、加圧機構102と、外径測定器103と、被覆樹脂塗布装置104と、樹脂硬化装置105と、キャプスタンローラ106と、ガイドロール107と、制御器Cを備える。加圧機構102は、加圧用コネクタ102aと、加圧用コネクタ102aに接続したガス供給路102bと、ガス供給路102bに接続した圧力調整部102cとを備える。圧力調整部102cはたとえばマスフローコントローラ(MFC)で構成される。
【0025】
つぎに、各構成の作用とともに光ファイバ1の線引き工程を説明する。
はじめに、図2に示すガラス母材2を線引加熱炉101にセットし、ガラス母材2の上端に加圧用コネクタ102aを接続する。つぎに、ガラス母材2の下端をヒータ101aにて加熱溶融して、下端を線引きする。これによって、ガラス母材2から図1に示す光ファイバ1が線引きされる。
【0026】
線引きの際には、ガラス母材2の空孔2c内にはガスGが供給されて加圧される。ガスGは、加圧用コネクタ102aから、ガス供給路102bを介して空孔2c内に供給される。ガスGの空孔2c内での圧力は、制御器Cによって制御された圧力調整部102cによって、光ファイバ1の空孔1cの空孔径がd1になるように制御される。ガスGは、たとえばアルゴンガスであるが、ヘリウムガスや窒素ガスなどの他の不活性ガスでもよい。
【0027】
線引きされた光ファイバ1は、公知の被覆樹脂塗布装置104と樹脂硬化装置105とによって被覆を形成され、キャプスタンローラ106とガイドロール107とによって送られ、不図示の巻取り器に巻取られる。制御器Cは、外径測定器103によって測定される光ファイバ1の外径がD1になるようにキャプスタンローラ106の回転速度(すなわち光ファイバ1の線引き速度)を制御する。
【0028】
本実施の形態1では、(X1/Y1)=(d1/D1)/(d2/D2)<1.0になるようにしている。たとえば光ファイバ1について、所望の空孔径d1が3.5μm、外径D1が125μmであるとすると、その比X1は0.028である。これに対して、ガラス母材2の空孔径d2を3mm、外径D2を70mmとすれば、その比Y1は0.043となるので、X1/Y1は0.65となり、(X1/Y1)<1.0が成立する。
【0029】
ここで、ガラス母材の空孔径と外径との比と、製造する光ファイバの空孔径と外径との比とが同じなるように光ファイバを製造する場合を考える。この場合、当該比が0.028の光ファイバを製造する場合に、外径が70mmのガラス母材を使用する場合は、ガラス母材に形成する空孔の空孔径を約2mmと小さくしなければならない。これに対して、本実施の形態1では、上述したように、(X1/Y1)<1.0が成り立つようにしているので、ガラス母材2の空孔径d2は2mmより大きいたとえば3mmであり、空孔径d2を比較的大きくすることができる。この場合、ガラス母材2に空孔2cを形成するためのドリルとして太いものを使用できるので、長さを長くできる。したがって、ガラス母材2の長さL1も長くできる。
【0030】
すなわち、本実施の形態1では、製造すべき光ファイバ1の空孔径d1と外径D1との比X1に対して、ガラス母材2に、あらかじめ空孔径d2の大きな空孔2cを形成するようにしている。そして、その後の線引きの際の空孔2c内のガスGの圧力の調整によって、空孔径d1と外径D1との比が所望の比X1になるように調整している。その結果、空孔2cの形成に使用することができるドリルの長さを、機械的強度を維持しつつ長くすることができるため、ガラス母材2の長さも長くすることができる。これによって、1つのガラス母材2から製造できる光ファイバ1の長さが長くなるので、製造コストが低減される。
【0031】
つぎに、光ファイバの空孔径と外径との比{(光ファイバ空孔径)/(光ファイバ外径)}をXとし、ガラス母材の空孔径と外径との比{(ガラス母材空孔径)/(ガラス母材外径)}をYとし、ガラス母材の空孔内の圧力と、比(X/Y)との関係について説明する。以下では、図2に示すガラス母材2と同様の構造を有し、空孔径が3.5mmの空孔を10個形成した外径60mmのガラス母材を準備した。そして、ガラス母材の空孔内の圧力の設定を様々な値にして、準備したガラス母材から外径(クラッド径)125μmの光ファイバを線引きする実験を行った。
【0032】
また、以下では、無次元空孔内加圧量によって空孔内の圧力を規定する。無次元空孔内加圧量は、空孔内の圧力と大気圧との圧力差(以下、この圧力差を空孔内加圧量という)を、比(X/Y)が1となる空孔内加圧量で除した値として定義する。
【0033】
図4は、無次元空孔内加圧量と比(X/Y)との関係を示す図である。図4に示すように、無次元空孔内加圧量を大きくするとそれに従って比(X/Y)も大きくなる。したがって、図4に示すような無次元空孔内加圧量と比(X/Y)との関係に従って空孔内の圧力を制御すれば、所望の比(X/Y)を実現することができる。
【0034】
つぎに、比(X/Y)と、製造した光ファイバの空孔径の変動との関係について説明する。以下では、無次元空孔径変動によって空孔径の変動を規定する。無次元空孔径変動は、比(X/Y)が或る値のときの10個の空孔の平均空孔径(単位はμm)の、光ファイバ1km当たりの変動量(最大値と最小値との差。以下、空孔径変動という)を、比(X/Y)が1となる空孔径変動で除した値である。
【0035】
図5は、比(X/Y)と無次元空孔径変動との関係を示す図である。図5に示すように、X/Yが0.5以上であれば、無次元空孔径変動が1.5よりも小さくなり、空孔径の長手方向での変動が少なくなるので好ましい。
【0036】
なお、比(X/Y)が1.0よりも小さければ、ガラス母材の長さを長くできる効果があるが、比(X/Y)を0.7以下にすればその効果が顕著になるのでより好ましい。
【0037】
(実施例1、比較例1)
本発明の実施例1、比較例1として、図1に示す構造の光ファイバを以下の工程にて製造した。
周知のVAD法およびOVD法によって、Geを含むコア部を中心部に有し、コア部の周囲にクラッド部を有するガラス母材を得た。さらにこのガラス母材を酸水素バーナにて延伸して、外径70mmのガラス母材を2本作製した。なお、当該ガラス母材の延伸は酸水素火炎バーナで実施したが、電気炉での加熱による方法でも良い。このガラス母材の断面屈折率分布形状は、比屈折率差0.35%の略矩形(ステップインデックス)とした。
【0038】
作製したガラス母材のうちの1本に、ドリルを用いた穿孔加工を行い、長手方向の軸に沿って直径1.9mmの空孔を10個形成した。このとき用いたドリルの機械的強度の制約上、ガラス母材の長さを350mmとした。このようにして、比較例1のガラス母材を準備した。
【0039】
一方、作製したガラス母材の別の1本に、ドリルを用いた穿孔加工を行い、長手方向の軸に沿って直径3.5mmの空孔を10個形成した。このとき用いたドリルは、上記の比較例1の場合よりも直径が太く、ドリルの剛性が高いため、ガラス母材の長さを900mmにできた。このようにして、実施例1のガラス母材を準備した。なお、実施例1のガラス母材におけるコア部の中心と空孔の中心との距離と、比較例1のガラス母材における当該距離とは同一とした。
【0040】
つぎに、図3に示す構成の線引装置を用いて、上記実施例1、比較例1のガラス母材の空孔内を加圧しながら光ファイバを線引きし、実施例1、比較例1の光ファイバを製造した。なお、加圧するガスとしてアルゴンガスを使用した。この際、実施例1、比較例1のどちらの光ファイバについても、10個の空孔の平均空孔径が3.5μmになるよう空孔内加圧量の調整をおこなった。製造した光ファイバの平均空孔径は、実施例1では3.55μmであり、比較例1では3.51μmであった。また、実施例1、比較例1のどちらの光ファイバについても、外径が125μmになるようにした。
したがって、実施例1の場合は比(X/Y)が0.57、比較例1の場合は比(X/Y)が1であった。
【0041】
つぎに、製造した実施例1、比較例1の光ファイバの特性を測定した。波長1550nmにおいて、実施例1の光ファイバの伝送損失は0.197dB/kmであり、比較例1の光ファイバの伝送損失は0.198dB/kmであり、略同一であった。また、その他のカットオフ波長や、波長分散等の特性についても、実施例1、比較例1の光ファイバの値の差は10%以内であった。したがって、実施例1、比較例1の光ファイバは、略同等の特性を有するものであった。
【0042】
ただし、実施例1のガラス母材の方が比較例1のガラス母材よりも2倍以上長いので、各ガラス母材からは、実施例1の光ファイバの方が比較例1の光ファイバよりも長い光ファイバを得られた。したがって、実施例1の光ファイバはより製造コストが低いものとなった。
【0043】
(実施例2)
実施例1、比較例1と同様の構造を有する外径70mmのガラス母材を1本作製し、ドリルを用いた穿孔加工を行い、長手方向の軸に沿って直径3.0mmの空孔を10個形成した。このとき用いたドリルは、比較例1の場合よりも直径が太く、ドリルの剛性が高いため、ガラス母材の長さを850mmにできた。これによって、実施例2のガラス母材を準備した。
【0044】
つぎに、実施例1、比較例1と同様に、上記実施例2のガラス母材の空孔内を加圧しながら光ファイバを線引きし、実施例2の光ファイバを製造した。この際、光ファイバの10個の空孔の平均空孔径が3.5μmになるよう空孔内加圧量の調整をおこなった。製造した光ファイバの平均空孔径は3.53μmであった。また、光ファイバの外径が125μmになるようにした。したがって、実施例2の場合は比(X/Y)が0.65であった。
【0045】
つぎに、製造した実施例2の光ファイバの特性を測定した。波長1550nmにおいて、実施例2の光ファイバの伝送損失は0.196dB/kmであり、実施例1、比較例1と略同一であった。また、その他のカットオフ波長や、波長分散等の特性についても、実施例2の光ファイバと、実施例1、比較例1の光ファイバとでの値の差は10%以内であった。したがって、実施例2の光ファイバは、実施例1、比較例1の光ファイバと略同等の特性を有するものであった。
【0046】
実施例2のガラス母材も、比較例1のガラス母材よりも2倍以上長いので、1本のガラス母材から、より長い光ファイバを得られた。したがって、実施例2の光ファイバはより製造コストが低いものとなった。また、実施例2の光ファイバの場合は、比(X/Y)を実施例1の光ファイバよりも大きくしたため、光ファイバの長手方向での空孔径変動が実施例1の場合よりも小さく抑えられていた。
【0047】
(実施例3)
実施例1、比較例1と同様の構造を有する外径70mmのガラス母材を1本作製し、ドリルを用いた穿孔加工を行い、長手方向の軸に沿って直径5.0mmの空孔を10個形成した。このとき用いたドリルは、実施例1、2の場合よりもさらに直径が太く、ドリルの剛性がさらに高くなったため、ガラス母材の長さを920mmにできた。これによって、実施例3のガラス母材を準備した。
【0048】
つぎに、実施例1、比較例1と同様に、上記実施例3のガラス母材の空孔内を加圧しながら光ファイバを線引きし、実施例3の光ファイバを製造した。この際、光ファイバの10個の空孔の平均空孔径が3.5μmになるよう空孔内加圧量の調整をおこなった。製造した光ファイバの平均空孔径は3.54μmであった。また、光ファイバの外径が125μmになるようにした。したがって、実施例3の場合は比(X/Y)が0.39であった。
【0049】
つぎに、製造した実施例3の光ファイバの特性を測定した。波長1550nmにおいて、実施例3の光ファイバの伝送損失は0.205dB/kmであり、実施例1、比較例1と同等の問題ない値であった。また、その他のカットオフ波長や、波長分散等の特性についても、実施例3の光ファイバと、実施例1、比較例1の光ファイバとでの値の差は10%以内であった。したがって、実施例3の光ファイバは、実施例1、2、比較例1の光ファイバと略同等の特性を有するものであった。
【0050】
実施例3のガラス母材は、実施例1、2のガラス母材よりもさらに長いので、1本のガラス母材から、実施例1、2よりもより長い光ファイバを得られた。したがって、実施例3の光ファイバはさらに製造コストが低いものとなった。なお、実施例3の光ファイバの場合は、比(X/Y)を実施例1、2の光ファイバよりも小さくしており、光ファイバの長手方向での空孔径変動は、比較例1の場合の2倍程度であったが、使用上は問題ない値であった。
【0051】
なお、上記実施例1〜3のように、ガラス母材に形成する空孔径を3mm以上とすると、ガラス母材の長さを十分に長くでき、製造コストを十分に低減できるので好ましい。
【0052】
(実施例4)
実施例1、比較例1と同様の構造を有する外径70mmのガラス母材を1本作製し、ドリルを用いた穿孔加工を行い、長手方向の軸に沿って直径2.5mmの空孔を10個形成した。このとき用いたドリルは、比較例1の場合よりも直径が太く、ドリルの剛性が高いため、ガラス母材の長さを480mmにできた。これによって、実施例4のガラス母材を準備した。
【0053】
つぎに、実施例1、比較例1と同様に、上記実施例4のガラス母材の空孔内を加圧しながら光ファイバを線引きし、実施例4の光ファイバを製造した。この際、光ファイバの10個の空孔の平均空孔径が3.5μmになるよう空孔内加圧量の調整をおこなった。製造した光ファイバの平均空孔径は3.54μmであった。また、光ファイバの外径が125μmになるようにした。したがって、実施例4の場合は比(X/Y)が0.79であった。
【0054】
つぎに、製造した実施例4の光ファイバの特性を測定した。波長1550nmにおいて、実施例4の光ファイバの伝送損失は0.195dB/kmであり、実施例1、比較例1と略同一であった。また、その他のカットオフ波長や、波長分散等の特性についても、実施例4の光ファイバと、実施例1、比較例1の光ファイバとでの値の差は10%以内であった。したがって、実施例4の光ファイバは、実施例1、比較例1の光ファイバと略同等の特性を有するものであった。
【0055】
実施例4のガラス母材も、比較例1のガラス母材よりも長いので、1本のガラス母材から、より長い光ファイバを得られた。したがって、実施例4の光ファイバはより製造コストが低いものとなった。また、実施例4の光ファイバの場合は、比(X/Y)を実施例2の光ファイバよりも大きくしたため、光ファイバの長手方向での空孔径変動が実施例2の場合よりもさらに小さく抑えられていた。
【0056】
(実施の形態2)
つぎに、本発明の実施の形態2について説明する。本実施の形態2に係る製造方法は、光ファイバを線引きする際に、ガラス母材の空孔内の圧力を空孔によって異なる値とし、互いに異なる空孔径を有する空孔を備えた光ファイバを製造するものである。
【0057】
図6は、本実施の形態2に係る製造方法によって製造する光ファイバの模式的な断面図である。図6に示すように、光ファイバ3は、長手方向の軸に沿って延びる空孔3a、3bを有している。
【0058】
光ファイバ3はたとえば純石英ガラスなどの材料からなる。空孔3a、3bは光ファイバ3の長手方向の軸に垂直な断面において三角格子状に規則正しく配列している。ただし、空孔3a、3bが配列された領域内に空孔が無い領域がある。この空孔が無い領域がコア部3cとして機能し、コア部3cの周囲がクラッド部として機能する。すなわち、この光ファイバ3はHFである。なお、2個の空孔3bはコア部3cを挟んだ両側に位置している。
【0059】
16個の空孔3aは同一の空孔径を有している。空孔3aの空孔径はd31である。2個の空孔3bは同一の空孔径を有している。空孔3bの空孔径はd32である。空孔径d32は空孔径d31よりも大きく設定されている。また、光ファイバ3の外径はD3である。空孔3aの直径d31と光ファイバ3の外径D3との比を第2の比X2とすると、X2=d31/D3である。また、空孔3bの直径d32と光ファイバ3の外径D3との比を第2の比X3とすると、X3=d32/D3である。
【0060】
この光ファイバ3は、空孔3bによってコア部3cの屈折率分布に異方性が発生するために、偏波保持光ファイバとして使用できる。
【0061】
つぎに、本実施の形態2に係る製造方法について具体的に説明する。はじめに、光ファイバ3を製造するためのガラス母材を準備する。図7は、光ファイバ3を製造するためのガラス母材の模式的な斜視図である。図7に示すように、ガラス母材4は、石英系ガラスからなる円柱状であり、光ファイバ3の空孔3a、3bを形成するための空孔4aを有している。空孔4aはガラス母材4の長手方向の軸に沿って延びている。
【0062】
ここで、空孔4aはいずれも同一の空孔径を有している。空孔4aの空孔径はd4である。また、ガラス母材4の外径はD4である。空孔4aの直径d4とガラス母材4の外径D4との比を第1の比Y2とすると、Y2=d4/D4である。本実施の形態2では、X2がY2より小さくなり、かつX3がY2と等しくなるようにd4、D4を設定する。すなわち、(X2/Y2)=(d31/D3)/(d4/D4)<1.0、かつ(X3/Y2)=(d32/D3)/(d4/D4)=1.0である。なお、ガラス母材4の長さはL2である。
【0063】
本実施の形態2に係る製造方法では、ガラス母材4において、空孔径が互いに異なる光ファイバ3の空孔3aと空孔3bとを形成するために、同一の空孔径の空孔4aを形成している。その結果、穿孔加工において空孔4aの形成に必要なドリルが一種類でよく、またドリル装置に太さの異なるドリルを付け替える作業も不要である。したがって、穿孔加工の作業が簡略化されるので、製造コストを低減できる。
【0064】
また、ガラス母材に形成する空孔の空孔径が異なる場合は、空孔径が最も小さい空孔を形成するためのドリルの長さが最も短くなる。この場合、ガラス母材の長さも最も短いドリルの長さによって制限される。これに対して、本実施の形態2では、形成する空孔4aの空孔径は同一であるので、上記のような制限を受けることなくガラス母材4の長さL2を長くできる。
【0065】
本実施の形態2に係る製造方法では、はじめに実施の形態1のガラス母材2と同様に、VAD法などの周知の方法を用いてガラス母材を形成し、その後ドリルを用いてガラス母材の長手方向の軸に沿って空孔4aを形成する。これによって、図7に示すガラス母材4を準備できる。
【0066】
つぎに、このガラス母材4から、図3に示すような線引装置100を用いて光ファイバ3を線引きする。ここで、本実施の形態2では、ガラス母材4の同一の空孔径を有する空孔4aから、光ファイバ3の異なる空孔径を有する空孔3a、3bを形成する必要がある。そのため、空孔3aを形成するための空孔4aと、空孔3bを形成するための空孔4aとで、内部の圧力を別々に制御することが好ましい。
【0067】
図8は、本実施の形態2に係る製造方法において用いる加圧機構の模式図である。本実施の形態2では、図3に示した加圧機構102に代えて図8に示す加圧機構110を用いる。図8に示すように、加圧機構110は、加圧用コネクタ111と、加圧用コネクタ111に接続したガス供給路112、113と、ガス供給路112、113のそれぞれに接続した圧力調整部114、115とを備える。圧力調整部114、115は制御器Cに接続している。圧力調整部114、115にはガスGが供給される。
【0068】
加圧用コネクタ111は、第1加圧部111aと第2加圧部111bとを有している。第1加圧部111aは、ガラス母材4の空孔4aのうち、光ファイバ3の空孔3aを形成するための空孔4aにのみガスGを供給するように構成されている。第2加圧部111bは、空孔3bを形成するための空孔4aにのみガスGを供給するように構成されている。空孔3aを形成するための空孔4aに供給されるガスGは、ガス供給路112を介して第1加圧部111aに供給され、かつ制御部Cによって制御された圧力調整部114によって圧力が調整される。空孔3bを形成するための空孔4aに供給されるガスGは、ガス供給路113を介して第2加圧部111bに供給され、かつ制御部Cによって制御された圧力調整部115によって圧力が調整される。したがって、この加圧機構110を使用することによって、各空孔4a内の圧力を別々に制御することができる。具体的には、空孔3bを形成するための空孔4a内の圧力が、空孔3aを形成するための空孔4a内の圧力よりも高くなるように、各空孔4a内の圧力が制御される。
【0069】
なお、本実施の形態2では、比(X2/Y2)を1.0より小さくし、比(X3/Y2)は1.0となるようにしている。しかしながら、比(X2/Y2)および比(X3/Y2)の両方を1.0より小さくなるようにしてもよい。両方を1.0よりも小さくすることによって、ガラス母材をより長くすることができる。
【0070】
図9は、本実施の形態2に係る製造方法によって製造できる他の光ファイバの模式的な断面図である。図9に示すように、光ファイバ5は、長手方向の軸に沿って延びる空孔5a、5bを有している。
【0071】
光ファイバ5はたとえば純石英ガラスなどの材料からなる。空孔5a、5bは光ファイバ5の長手方向の軸に垂直な断面において三角格子状に規則正しく配列している。空孔5a、5bが配列された領域内の空孔が無い領域がコア部5cとして機能し、コア部5cの周囲がクラッド部として機能する。すなわち、この光ファイバ5はHFである。なお、6個の空孔5bはコア部5cを囲むように位置している。
【0072】
12個の空孔5aは同一の空孔径を有している。空孔5aの空孔径はd51である。6個の空孔5bは同一の空孔径を有している。空孔5bの空孔径はd52である。なお、空孔径d52は空孔径d51よりも大きく設定されている。また、光ファイバ5の外径はD5である。空孔5aの直径d51と光ファイバ5の外径D5との比を第2の比X4とすると、X4=d51/D5である。また、空孔5bの直径d52と光ファイバ5の外径D5との比を第2の比X5とすると、X5=d52/D5である。
【0073】
この光ファイバ5は、空孔径が大きい空孔5bによってコア部5cの周囲に屈折率が低い領域が形成され、いわゆるW型の断面屈折率分布形状となるため、有効コア断面積が大きい光ファイバとして使用できる。
【0074】
この光ファイバ5も、本実施の形態2に係る製造方法を用いて、図7に示した同一の空孔径の空孔4aを有するガラス母材4から、各空孔4aによって異なる内部圧力に制御しながら線引きを行うことによって製造できる。具体的には、光ファイバ5の空孔5bを形成するためのガラス母材4の空孔4a内の圧力が、空孔5aを形成するための空孔4a内の圧力よりも高くなるように、各空孔4a内の圧力を制御すればよい。
【0075】
なお、上記実施の形態では、ガラス母材はドリルにより空孔を形成したものである。しかしながら、本発明は、空孔となるガラス管を用いて母材を準備する場合にも適用できる。本発明によれば、より外径および内径が大きいガラス管を使用できるので、ガラス管を長くすることができる。したがって、より長いガラス管を用いて、より長い大型のガラス母材を準備することができる。また、空孔径が互いに異なる空孔を有する光ファイバを製造する場合でも、内径が異なるガラス管を準備する必要が無いので、部品コストを低減することができる。
【0076】
また、上記実施の形態では、ガラス母材の複数の空孔の一部または全部に対して、比(X/Y)<1.0が成り立つような圧力制御を行っている。しかしながら、本発明では、少なくとも1つの空孔に対して比(X/Y)<1.0が成り立つような圧力制御を行えばよい。
【0077】
また、上記実施の形態のガラス母材に公知のジャケット法を適用してガラス母材の外径を調整してもよい。ジャケット法とは、ガラス母材を、内径がガラス母材の外径と略同一である石英ガラス管に挿入し、より外径が大きいガラス母材を形成する方法である。
【0078】
また、本発明は、PBGF等の長手方向の軸に沿って延びる複数の空孔を有する種々の光ファイバの製造に適用できる。
【0079】
また、上記実施の形態により本発明が限定されるものではなく、上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。その他、上記実施の形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例及び運用技術等は全て本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0080】
1、3、5 光ファイバ
1a、2a、3c、5c コア部
1b、2b クラッド部
1c、2c、3a、3b、4a、5a、5b 空孔
2、4 ガラス母材
100 線引装置
101 線引加熱炉
101a ヒータ
102、110 加圧機構
102a、111 加圧用コネクタ
102b、112、113 ガス供給路
102c、114、115 圧力調整部
103 外径測定器
104 被覆樹脂塗布装置
105 樹脂硬化装置
106 キャプスタンローラ
107 ガイドロール
111a 加圧部
111b 加圧部
G ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向の軸に沿って延びる複数の空孔を有するガラス母材であって、前記空孔の直径と当該ガラス母材の外径との比が第1の比であるガラス母材を準備する準備工程と、
前記ガラス母材の前記複数の空孔内を加圧しつつ当該ガラス母材の一端を加熱溶融して、長手方向の軸に沿って延びる複数の空孔を有する光ファイバを線引きする線引き工程と、
を含み、前記光ファイバの前記空孔の少なくとも一つの直径と当該光ファイバの外径との比を第2の比とすると、前記第2の比と前記第1の比との比が1.0よりも小さくなるように前記ガラス母材の前記少なくとも一つの空孔内の圧力を調整して前記線引きを行うことを特徴とする光ファイバの製造方法。
【請求項2】
前記第2の比と前記第1の比との比が0.5以上であることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバの製造方法。
【請求項3】
前記ガラス母材の前記複数の空孔を互いに異なる圧力で加圧することを特徴とする請求項1または2に記載の光ファイバの製造方法。
【請求項4】
前記ガラス母材の前記複数の空孔の直径を3mm以上にすることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の光ファイバの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−166975(P2012−166975A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−28748(P2011−28748)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】