説明

光ファイバケーブル

【課題】防護体等を用いることなく外被自体で蝉の突刺しを抑制すると共に、外被の引裂きも容易に行える光ファイバケーブルを提供する。
【解決手段】光ファイバケーブル1は、本体部2と支持線部3とが切断容易な首部4を介して連結され、本体部2は、光ファイバ心線5の両側にテンションメンバ6が配されて外被7で一括被覆され、両側面に外被切裂き用のノッチ8が設けられてなり、支持線部3は、テンションメンバ6と光ファイバ心線5の中心を結ぶ延長線上に配される。光ファイバケーブルの本体部2の両側面7aは、ノッチ8からテンションメンバ6が配された側に向けて本体部2の横幅が漸増する傾斜面で形成する。外被7は、ポリオレフィン系樹脂をベース樹脂とし、ショアD硬度が50以上、且つ破断強度が14MPa以上の硬質の樹脂で形成するとセミ対策の点で好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本体部と支持線部とからなり、本体部は光ファイバ心線とテンションメンバとが平行に配されて外被により一体に被覆されてなる光ファイバケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
インターネット等の情報通信等の普及により通信の高速化、情報量の増大に加え、双方向通信と大容量通信に対応するために光ネットワークの構築が進展している。この光ネットワークでは、通信事業者と各家庭を直接光ファイバで結び、高速通信サービスを提供するFTTH(Fiber To The Home)サービスが開始されている。これにより、光ケーブルの宅内への引き込みに用いられるドロップ光ケーブルや、これを複数本集合した集合光ケーブルの需要が増えている。
【0003】
これらの光ファイバケーブルは、一般的には、光ファイバ心線と平行にテンションメンバをケーブル外被内に埋設してケーブルの引張り強度を高め、外被の両側面にV字状のノッチを設けて、外被を2つに切裂いて内部の光ファイバ心線を取出して端末形成等がしやすい構造とされている。
【0004】
近年、この種の光ファイバケーブルに対して、蝉がケーブルの外被に産卵管を突き刺し、内部の光ファイバ心線を損傷、あるいは外被内に卵を産み付けるという問題が多発している。これは、ドロップ光ケーブルを蝉が産卵しやすい対象物と認識したものと推定されているが、この蝉への対策としては、光ファイバ心線とノッチの間に産卵管が突刺せない硬さの防護体を配したり、ノッチの位置や方向を変えて蝉の産卵管が光ファイバ心線を突刺さない構造の光ケーブルが種々提案された。
【0005】
しかし、蝉の産卵管はノッチ以外の部分からも刺し込まれるなどの事例もあって、構造的な対応では不十分ということから、例えば、特許文献1に開示のように、外被を硬い樹脂(引張強度15〜40MPa、ショアD硬度50〜80)を用いて、クマ蝉の産卵管で外被が0.6mm以上は突刺させないようにしている。
また、特許文献2には、シース(外被)内に配される光ファイバ素線の外方を、ショアD硬度が50以上で厚さが0.3mm以上の樹脂からなる補強層で被覆することにより、蝉の産卵管の侵入を遮るようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−129062号公報
【特許文献2】特開2009−25425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1のように、光ファイバ心線を覆っている外被の全体を硬質にすることにより、蝉対策の効果を期待することができる。しかしながら、外被を硬質なものとすることにより、ケーブル端末の形成等で外被の引裂き除去が難しくなるという問題がある。通常、外被の両側面にあるノッチに、ニッパ等の工具でケーブル端から10mm程度の切り込みを入れて切裂き始端を作り、この後、外被を手で100mmほど引裂いているが、外被が硬質であるため引裂きに労力を要する。また、引裂きに大きな力を要するため、この結果、所定の引裂き量、例えば、100mmを超えて大きく引裂いてしまう(NGとなる)こともあり、スキルを要する作業となっている。
【0008】
また、特許文献2においては、全体を覆うシースの引裂き除去と補強層の除去という2つの除去作業が必要となる。シースと補強層を同時に除去することも可能とされているが、シースと補強層の樹脂材質が異なることから一体化が難しい。また、シースと補強層を接着一体化するとしても、光ファイバ素線の被覆とは非接着とする必要から、光ファイバ素線被覆や補強層の材料選択の範囲が狭められ、コスト的に高価なものとなるという問題がある。
【0009】
本発明は、上述した実情に鑑みてなされたもので、内部の光ファイバ心線を取出しやすい光ファイバケーブルの提供を目的とする。特に、防護体等を用いることなく外被自体で蝉の突刺しを抑制すると共に、外被の引裂きも容易に行える光ファイバケーブルの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による光ファイバケーブルは、本体部と支持線部とが切断容易な首部を介して連結され、本体部は、光ファイバ心線の両側にテンションメンバが配されて外被で一括被覆され、両側面に外被切裂き用のノッチが設けられてなり、支持線部は、テンションメンバと光ファイバ心線の中心を結ぶ延長線上に配されてなる光ファイバケーブルである。
光ファイバケーブルの本体部の両側面は、ノッチからテンションメンバが配された側に向けて本体部の横幅が漸増する傾斜面で形成する。外被は、ポリオレフィン系樹脂をベース樹脂とし、ショアD硬度が50以上、且つ破断強度が14MPa以上の硬質の樹脂で形成するとセミ対策の点で好ましい。なお、ショアD硬度が63以上、且つ破断強度が22MPa以上の硬質の樹脂で形成するとさらに好ましい。また、前記の傾斜面の角度は、10°〜20°とするのが好ましい。

【発明の効果】
【0011】
上記の本発明によれば、外被引裂き用のノッチの部分に手で引裂のための力をかけ易い形状とされているので、スキルを要することなく容易に外被を引裂くことが可能となる。さらに、外被を硬質の樹脂で形成して蝉の産卵管の突刺しによる光ファイバの損傷を抑制し、且つ外被を引裂くことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明による光ファイバケーブルの概略を説明する図である。
【図2】本発明による光ファイバケーブルの外被材料を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1により本発明の光ファイバケーブルの概略を説明する。図中、1は光ファイバケーブル、2は本体部、3は支持線部、4は首部、5は光ファイバ心線、6はテンションメンバ、7は外被、7aは外被の側面、8はノッチ、9は鋼線を示す。
本発明による光ファイバケーブル1は、本体部2と支持線部3を切断容易な細幅の首部4で連結した自己支持型の構造で形成される。
【0014】
本体部2は、中心に光ファイバ心線5を配し、その両側にテンションメンバ(抗張力体ともいう)6を配し、外被7(シースともいう)で一体に被覆してなる。支持線部3は、単心線又は撚り線からなる鋼線9(外径1.2mm程度)が用いられ、光ファイバ心線5とテンションメンバ6の中心を結ぶラインYの延長線上に設けられる。支持線部3の鋼線9は、切断容易な首部4を介して本体部2と連結され、本体部2の外被7の成形時に同じ樹脂材で押出し成形により一括して被覆される。
【0015】
本発明における光ファイバ心線2とは、標準外径が125μmのガラスファイバで、被覆外径が250μm前後で1層又は2層で被覆されたもので、光ファイバ素線と称されるものや被覆表面に着色が施されたものを含むものとする。この光ファイバ心線5は、1本〜数本程度を外被7で直接被覆して収納されるか、又は複数本の光ファイバ心線を共通被覆でテープ状に一体化したテープ心線の形態で収納される。
【0016】
光ファイバ心線5に平行に配されるテンションメンバ6は、外径0.4mm程度の鋼線あるいはガラス繊維強化プラスチック(FRP)、アラミド繊維強化プラスチック(K−FRP)などを用いることができる。光ファイバケーブルの本体部2および支持線部3の被覆を構成する外被7は、後述するように、耐蝉用の硬質の樹脂で形成される。
【0017】
本体部2の両側面7aには、光ファイバ心線5にV字状の底部が接近するようにノッチ8が設けられる。このノッチ8に、ニッパ等の工具で切裂きの始端となる切込みを入れた後、手でノッチ8に沿って本体部2の外被7を2分するように切裂く。本発明においては、本体部2の両側面7aは、ノッチ8からテンションメンバ6の方向に向かって、本体部の短辺側の横幅Wが漸増するように傾斜角θを有する傾斜面で形成している。θは、光ファイバ心線とテンションメンバが並んでいる方向と傾斜面とがなす角の角度とする。
【0018】
上述した構成の光ファイバケーブル1は、例えば、光ファイバ心線5が1心である場合、本体部2の長辺側の縦幅Lは3.1mm、短辺側の横幅Wは2.0mm、支持線部3の直径Dは2.0mm、首部4の長さKを0.2mmの標準的な外形寸法で形成することができる。なお、本発明による傾斜面の傾斜角θは、10°〜20°とすることが好ましい。ノッチ8は、深さが0.2mm程度、幅が0.3mm程度で形成される。なお、ノッチ8の底部先端と光ファイバ心線5との離間距離Sは、後述する外被材料を用いた蝉の産卵管の突刺し量を考慮して、0.4mm程度とされる。
【0019】
本発明の光ファイバケーブルは、図1に示したように、その断面において光ファイバ心線5、テンションメンバ6、支持線9がほぼ直線上に配置される。支持線部3と本体部2とを繋ぐ首部4もその直線上に配置される。ノッチ8はできるだけ光ファイバ心線5の近くに入れられるので首部4のある面にはノッチが入れられず、光ファイバケーブルの側面(図1では光ファイバ心線の左右にある面7a)に入れられる。
【0020】
上述した光ファイバケーブルに光コネクタ等を取付けて端末を形成する場合、外被7内の光ファイバ心線5を取出すために、ケーブル端のノッチ8をニッパ等で10mm程の切り込みを入れる。次いで、この切り込みを始端として、手でノッチ8の部分を100mm程引裂いて外被7を2分する。例えば、図1においてノッチ8より上側を右手で持ち、ノッチ8よりも下側を手左で持って、ノッチ8より上側は上方へ、ノッチ8より下側は下方へ動かして外被を引裂く。光ファイバケーブルの側面は、それぞれの手が動く方向に向かって横幅Wが増大しているため、光ファイバケーブルを摘んだ指が滑りにくく、ノッチを引裂きくのに力が入りやすい。このため、傾斜面を有しない平行な側面で形成した本体部を有する光ファイバケーブルと比べて、外被の引裂きが容易となる。
【0021】
図2は、本発明における光ファイバケーブルの外被材料について説明する図で、図2(A)は、各種の外被材料の試験結果を示し、図2(B)は試験に用いた光ファイバケーブルの形状寸法を示したものである。
試験に用いた試料は、No.1〜No.11の11種類について、外被のベース樹脂、外被の硬度、破断強度を異ならせて、蝉の突刺し痕の数を調べることによって判定した。
【0022】
試験に用いた光ファイバケーブルの断面形状と寸法は、図2(B)に示すように、ドロップ光ケーブルとして標準的なもので、本体部は断面が長方形状で、その横幅が2.0mm、縦幅が3.1mm、支持線部の径が2.8mmで形成した。試験に用いたケーブルは、1束の長さを22mとし、各試料ケーブルを5〜10束を、8月の1ヶ月間、蝉の生息エリアに分散配置して産卵管による突刺し痕の状態を調べた。
【0023】
外被には、環境の問題からノンハロゲンを前提として、ポリオレフィン系の樹脂をベース樹脂とした。使用した樹脂の種類は、LDPE(低密度ポリエチレン)、LLDPE(直鎖型低密度ポリエチレン)、HDPE(高密度ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)、EEA(エチレン・アクリル酸エチル共重合物)を混合して、樹脂の硬度(HDD)、および破断強度(MPa)を調整変更して、外被材とした。
【0024】
外被の硬さは、日本工業規格のJIS K 7215(プラスチックのデュロメータ硬さ試験方法)で規定されるデュロメータ(タイプD)により計測した(以下、ショアD硬度という)。また、蝉の産卵管による刺し痕の判定は、その突刺し深さが浅いか深いかを加味する必要があるが、ノッチ先端から光ファイバ間の設定距離を0.4mmと想定し、この値未満の突刺し深さである場合は、耐蝉性を有するものとしてカウントせず、それ以外は耐蝉性を有しないとして全てカウントした。
【0025】
試験結果を図2(A)に示す。1束中の刺し痕が4個未満であるものを合格(図では○と表示)、1束中の刺し痕が1個未満であるものを優良(図では◎と表示)、1束中の刺し痕が0.5個未満であるものを特に優良(図では三重丸で表示)と判定した。試料No.4(ショアD硬度49)のように硬度が小さなものは耐蝉性を満たさない。試料No.4(ショアD硬度が59)のように単に硬度だけを大きくしても破断強度が小さなものは耐蝉性を満たすには不十分であり、破断強度も必要である。
【0026】
結果としては、ショアD硬度が50以上且つ破断強度が14MPa以上の外被を使用した試料No.1〜3,5〜8,10が合格となった。ショアD硬度が60以上且つ破断強度が16.5MPa以上の外被を使用した試料が優良となった。ショアD硬度が63以上且つ破断強度が22MPa以上の外被を使用した試料が特に優良となった。
【0027】
上記の試験結果から総合的に判断すると、耐蝉用の外被材料としては、ショアD硬度が50以上、且つ、破断強度14MPa以上あることが好ましい。しかし、このような硬質の外被からなる光ファイバケーブルは、外被を引裂くことが難しくなり、光ファイバ心線の取出し作業が容易でなくなる。そこで、図1で説明したように、外被の両側面をノッチからテンションメンバが配された側に向けて外被の横幅が漸増する傾斜面で形成すると、上記のような硬質の外被からなる光ファイバケーブルでも外被を引裂いて光ファイバ心線を取り出すことが容易にできる。
【0028】
本発明による光ファイバケーブルにおいては、外被の傾斜面により引裂力をかけ易くなっているため、容易に外被を引裂いて光ファイバ心線を取り出すことが可能となる。特に、上述した耐蝉用に適した硬度と破断強度を備えた樹脂材料で外被を形成することにより、蝉の産卵管による突刺しによる光ファイバの損傷を抑制すると同時に外被を手で引裂いてケーブル端末を形成することが可能となる。
【符号の説明】
【0029】
1…光ファイバケーブル、2…本体部、3…支持線部、4…首部、5…光ファイバ心線、6…テンションメンバ、7…外被、7a…本体部の側面、8…ノッチ、9…鋼線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体部と支持線部とが切断容易な首部を介して連結され、前記本体部は、光ファイバ心線の両側にテンションメンバが配されて外被で一括被覆され、両側面に外被切裂き用のノッチが設けられてなり、前記支持線部は、前記テンションメンバと前記光ファイバ心線の中心を結ぶ延長線上に配されてなる光ファイバケーブルであって、
前記外被は、ポリオレフィン系樹脂をベース樹脂とし、ショアD硬度が63以上、且つ破断強度が22MPa以上の硬質の樹脂で形成され、
前記本体部の両側面は、前記ノッチから前記テンションメンバが配された側に向けて、前記本体部の横幅が漸増する傾斜面で形成されていることを特徴とする光ファイバケーブル。
【請求項2】
前記外被は、ポリオレフィン系樹脂をベース樹脂とし、ショアD硬度が50以上、且つ破断強度が14MPa以上の硬質の樹脂で形成されることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバケーブル。
【請求項3】
前記外被は、前記ショアD硬度が63以上、且つ前記破断強度が22MPa以上の硬質の樹脂で形成されることを特徴とする請求項2に記載の光ファイバケーブル。
【請求項4】
前記傾斜面の角度は、10°〜20°であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の光ファイバケーブル。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−237529(P2010−237529A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−86577(P2009−86577)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】