説明

光ファイバケーブル

【課題】スロットコアのスロット溝の底面に亀裂が入ることに起因する種々の不具合を防止できる光ファイバケーブルを提供する。
【解決手段】長さ方向に沿ってスロット溝2を有するスロットコア3と、スロット溝2に収容された複数の光ファイバ10と、スロットコア3の外周を覆い、スロット溝2の開口部2a側の厚みがスロット溝2の開口部2aの反対側の厚みより厚く形成されたシース6と、スロットコア3にその長さ方向に沿って配置された抗張力体4とを備えた光ファイバケーブル1であって、スロットコア3には、スロット溝2の両方の側面側に配置されるリブ部3bの弾性変形を容易とする衝撃吸収溝7が設けられた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の光ファイバが収容されたスロット溝を有するスロットコアと、このスロットコアの外周を覆う被覆層とを備えた光ファイバケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1及び特許文献2に示すように、複数の光ファイバが収容されたスロット溝を有するスロットコアと、このスロットコアの外周を覆う被覆層とを備えた光ファイバケーブルが従来より提案されている。この種の光ファイバケーブルは、内部の光ファイバをスロットコア及び被覆層によって十分に保護できると共に、ケーブル途中からの内部の光ファイバの取出し性に優れている。この種の光ファイバケーブルの一従来例が図4に示されている。
【0003】
図4において、光ファイバケーブル50は、長さ方向に沿ってスロット溝51を有するスロットコア52と、スロットコア52の内部に埋設された1本の抗張力体53と、スロット溝51に収容された複数の光ファイバ60と、スロットコア52の外周を覆う被覆層であるシース55とを備えている。
【0004】
シース55は、スロット溝51の開口部51a側の厚みがスロット溝51の開口部51aの反対側の厚みより厚く形成されている。従って、開口部51a側のシース55の外面より外力F1が作用してもその箇所のシース55の厚みが厚いため、内部の光ファイバ60の損傷を極力防止できる。シース55は、スロット溝51の開口部51aの反対側が薄いため、光ファイバケーブル50の長さ方向の任意の位置で任意の光ファイバ60を引き落とす(以下、中間後分岐という)作業時には、その薄い箇所を切り裂き工具の刃先で切り裂くことによってシース55を取り除き、内部の光ファイバ60を取り出すようにすれば、光ファイバ60を傷つけることなく容易に取り出すことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−76897号公報
【特許文献2】特開2008−76898号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記従来の光ファイバケーブル50では、スロット溝51の開口部51a側又は開口部51aの反対側より衝撃力F1,F2が作用すると、図5に示すように光ファイバケーブル50が上下方向に潰れるよう圧縮変形する。すると、スロットコア52のスロット溝51の両側に配置される一対のリブ部に矢印a方向の力が作用して変形し、この撓み変形によってスロットコア52のスロット溝51の底面側に引き裂き力が発生する。この引き裂き力によってスロットコア52のスロット溝51の底面に亀裂61が発生する。この亀裂61に光ファイバ60が挟まると、光ファイバ60の断線や伝送損失増を引き起こす恐れがある。
【0007】
尚、図5の仮想線で示す錘70を光ファイバケーブル50に落下させ、衝撃を与える試験を数回行った結果、光ファイバケーブル50が潰れてスロットコア52のスロット溝51の底面に亀裂61が入ることが確認された。
【0008】
そこで、本発明は、前記した課題を解決すべくなされたものであり、スロットコアのスロット溝の底面に亀裂が入ることに起因する種々の不具合を防止できる光ファイバケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ケーブル長さ方向に沿ってスロット溝を有するスロットコアと、前記スロット溝に収容された複数の光ファイバと、前記スロットコアの外周を覆い、前記スロット溝の開口部側の厚みが前記スロット溝の前記開口部の反対側の厚みより厚く形成された被覆層と、前記スロットコアと前記被覆層の少なくともいずれか一方に長さ方向に沿って配置された抗張力体とを備えた光ファイバケーブルであって、前記スロットコアには、前記スロット溝の両側に配置されるリブ部の弾性変形を容易とする衝撃吸収溝が設けられたことを特徴とする。
【0010】
前記衝撃吸収溝は、前記開口部を真上位置若しくは真下位置とし、前記スロットコアの左右位置にそれぞれ設けることが好ましい。衝撃吸収溝は、その左右位置の各複数箇所に設けても良い。
【0011】
一対の前記衝撃吸収溝は、前記開口部を真上位置若しくは真下位置とし、前記スロット溝の両側の外接位置に沿って垂直に引いた左右の第1補助線と、前記スロットコアの両側の外接位置に沿って垂直に引いた左右の第2補助線との間の左右の領域内にそれぞれ設けることが好ましい。又、各衝撃吸収溝は、溝入口側が幅広の溝であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、光ファイバケーブルに、スロット溝の開口部側又は開口部の反対側より衝撃力が作用すると、光ファイバケーブルが潰れるような圧縮変形をする。この圧縮変形に際して、スロットコアのスロット溝の両側に配置されるリブ部が衝撃吸収溝によって柔軟に弾性変形し、このスロットコアの柔軟な変形によって衝撃力が分散されるため、スロット溝の底面に引き裂き力が集中作用することがない。従って、スロットコアのスロット溝の底面に亀裂が入ることに起因する種々の不具合を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態を示し、光ファイバケーブルの断面図である。
【図2】本発明の一実施形態を示し、スロットコアの断面図である。
【図3】本発明の一実施形態の変形例に係るスロットコアの断面図である。
【図4】従来例の光ファイバケーブルの断面図である。
【図5】従来例の光ファイバケーブルが衝撃力で圧縮変形した時の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0015】
(実施形態)
図1及び図2は本発明の一実施形態を示し、図1は光ファイバケーブル1の断面図、図2はスロットコアの断面図である。
【0016】
図1に示すように、光ファイバケーブル1は、ケーブル長さ方向に沿って単一のスロット溝2を有するスロットコア3と、スロットコア3の内部に埋設された1本の抗張力体4と、スロット溝2に収容された複数の光ファイバ10と、スロットコア3の外周を覆う被覆層であるシース6とを備えている。
【0017】
スロット溝2は、スロットコア3の外周面に開口部2aを有し、スロットコア3に対して偏心位置に位置する円弧状の溝である。スロットコア3は、断面形状が略C字状であり、スロット溝2の底面側に位置する肉厚部3aと、スロット溝2の両側を包むように配置され、開口部2aに向かうに従って徐々に薄肉となる一対のリブ部3bとから構成されている。
【0018】
スロットコア3には、その長さ方向に沿って延びる衝撃吸収溝7が形成されているが、この詳細については下記する。
【0019】
抗張力体4は、スロットコア2の肉厚部3aの位置で、ケーブル長さ方向に沿って配置されている。抗張力体4は、鋼線やFRPなどによって形成されている。抗張力体4によって、スロットコア3の端末からの温度変化による光ファイバ10の突き出しが防止される。
【0020】
各光ファイバ10は、この実施形態では、4心の光ファイバテープ心線にて構成されている。
【0021】
シース6は、その断面外周面が円周面であり、スロット溝2の開口部2a側の厚みがスロット溝2の開口部2aの反対側の厚みより厚く形成されている。つまり、シース6は、スロットコア3に対して偏心している。開口部2a側のシース6の外面より外力が作用してもその箇所のシース6の厚みが厚いため、内部の光ファイバ10の損傷を極力防止できる。又、シース6は、スロット溝2の開口部2aの反対側が薄いため、中間後分岐作業時にはその薄い箇所を切り裂き工具の刃先で切り裂くことによってシース6を取り除き、内部の光ファイバ10を取り出すようにすれば、光ファイバ10を傷つけることなく容易に取り出すことができる。
【0022】
また、スロットコア3は、高密度ポリエチレン樹脂にて形成されている。これに対し、シース6は、ポリエチレン樹脂より形成されている。従って、シース6は、スロットコア3より柔らかく、弾性変形が容易である。又、スロットコア3の外周面とシース6の内面は、固着されていない。
【0023】
次に、スロットコア3に形成された衝撃吸収溝7について詳説する。図2に詳しく示すように、スロットコア3の衝撃吸収溝7は、一対のリブ部3bの弾性変形を容易とするものであり、この実施形態では、開口部2aを真上位置若しくは真下位置とした場合に、スロットコア3の外周面の左右位置、詳細には、開口部2aの中心を通る中心線Cの左右対称位置にそれぞれ設けられている。より詳細には、一対の衝撃吸収溝7は、開口部2aを真上位置若しくは真下位置とし、スロット溝2の両側の内接位置に沿って垂直に引いた左右の第1補助線L1と、スロットコア3の両側の外接位置に沿って垂直に引いた左右の第2補助線L2との間の左右の領域E内にそれぞれ設けられている。
【0024】
各衝撃吸収溝7は、円弧状の溝であり、溝入口側が幅広の溝として形成されている。
【0025】
上記構成によれば、スロットコア3には、一対のリブ部3bの弾性変形を容易とする衝撃吸収溝7が設けられているので、光ファイバケーブル1に、スロット溝2の開口部2a側又は開口部2aの反対側より衝撃力F1,F2が作用すると、光ファイバケーブル1が潰れるような圧縮変形をする。この圧縮変形に際して、スロットコア3が衝撃吸収溝7によって細く弱くなっていることからの一対のリブ部3bが柔軟に弾性変形し、このスロットコア3の柔軟な変形によって衝撃力が分散されるため、スロット溝2の底面に引き裂き力が集中作用することがない。従って、スロットコア3のスロット溝2の底面に亀裂が入ることに起因する種々の不具合を防止できる。つまり、スロットコア3のスロット溝2の底面に発生した亀裂に光ファイバ10が挟まって光ファイバ10が断線したり、伝送損失増を引き起こす不具合を防止できる。
【0026】
一対の衝撃吸収溝7は、開口部2aを真上位置若しくは真下位置とした場合に、スロットコア3の外周面の左右位置それぞれ設けられているので、左右のリブ部3bが衝撃力をほぼ均等に分散して吸収するため、スロット溝2の内面に引き裂き力が集中作用することを有効に防止できる。
【0027】
一対の衝撃吸収溝7は、開口部2aを真上位置若しくは真下位置とし、スロット溝2の両側の外接位置に沿って垂直に引いた左右の第1補助線L1と、スロットコア3の両側の外接位置に沿って垂直に引いた左右の第2補助線L2との間の左右の領域E内にそれぞれ設けられているので、スロット溝2の開口部2a側又は開口部2aの反対側より作用する衝撃力F1,F2によって各リブ部3bに発生する応力を各リブ部3bの弾性変形によって直線的に逃がすことができる。従って、スロット溝2の底面に発生する引き裂き力自体を極力小さくできる。
【0028】
各衝撃吸収溝7は、円弧状の溝であり、溝入口側が幅広の溝として形成されているので、スロットコア3の外周に溶融樹脂を押出し成形してシース6を作製する際に、溶融樹脂が各衝撃吸収溝7内に容易に入り込むことができる。従って、各衝撃吸収溝7内には確実にシース6の樹脂が充填されるため、水が溜まるような隙間の形成を防止でき、防水性の維持を図ることができる。又、各衝撃吸収溝7は、円弧状の溝であるため、スロットコア3よりシース6が剥がれ易く、口出し性が低下することがない。
【0029】
(スロットコアの変形例)
図3は変形例に係るスロットコア3Aの断面図である。図3に示すように、この変形例のスロットコア3Aは、前記実施形態と衝撃吸収溝7A,7Bの構成が相違する。
【0030】
つまり、スロットコア3Aの衝撃吸収溝7A,7Bは、一対のリブ部3bの弾性変形を容易とするものであり、スロット溝2の開口部2aの中心を通る中心線Cを境界として左右対称位置の外周面の各2箇所にそれぞれ設けられている。より詳細には、左右の衝撃吸収溝7Aは、前記実施形態と同様に、開口部2aを真上位置(若しくは真下位置)とし、スロット溝2の両側の外接位置に沿って垂直に引いた左右の第1補助線L1と、スロットコア3の両側の外接位置に沿って垂直に引いた左右の第2補助線L2との間の左右の領域E内にそれぞれ設けられている。又、各衝撃吸収溝7A,7Bは、共に溝入口側が幅広である円弧溝として形成されている。
【0031】
このスロットコア3Aを適用した光ファイバケーブルにおいても、前記実施形態と同様に、スロットコア3Aのリブ部3bの柔軟な変形によって衝撃力が分散されるため、スロット溝2の底面側に引き裂き力が集中作用することがない。従って、スロットコア3のスロット溝2の底面に亀裂が入ることに起因する種々の不具合を防止できる。
【0032】
この変形例のスロットコアでは、衝撃吸収溝7Aは、スロット溝2の開口部2aの中心を通る中心線Cを境界として左右位置の各2箇所にそれぞれ設けられているが、各3箇所以上にそれぞれ設けても良い。
【0033】
(衝撃実験について)
次に、本発明の光ファイバケーブルと従来例の光ファイバケーブルについて衝撃実験を行ったので説明する。つまり、本発明の光ファイバケーブルは、そのスロットコア3の外周面に衝撃吸収溝7(又は7A,7B)が形成されたものである。従来例の光ファイバケーブルは、そのスロットコアの外周面に衝撃吸収溝が形成されていないものである。スロット溝2の開口部2a側、開口部2aの反対側(肉厚部3a側)、開口部2aの側面側(リブ部3b側)をそれぞれ上面とし、その上方から錘を落下させて衝撃を作用させた。錘の落下は各100回行い、断線や伝送損失増が発生しなかった場合を○、断線や伝送損失増が発生した場合を×と評価した。すると、下記の表1に示す結果が得られた。
【表1】

【0034】
上記表1より、従来例の光ファイバケーブルについては、スロット溝2の開口部2a側からの衝撃に対して、スロット溝2の底面に亀裂が発生し、その亀裂に光ファイバが挟まれて断線が発生した。スロット溝2の開口部2aの反対側からの衝撃に対して、スロット溝2の底面に亀裂が発生し、その亀裂に光ファイバが挟まれて伝送損失増が発生した。スロット溝2の開口部2aの側面側からの衝撃に対しては、断線も伝送損失増も発生しなかった。
【0035】
これに対し、本発明に係る光ファイバケーブルについては、どの方向からの衝撃に対しても断線の発生や伝送損失増の発生がなかった。スロット溝2の開口部2a側と開口部2aの反対側からの衝撃に関しては、スロットコア3の一対のリブ部3bが衝撃吸収溝7によって柔軟に弾性変形し、このスロットコア3の柔軟な変形によって衝撃力が分散され、スロット溝2の内面に引き裂き力が集中作用しなかったためと考えられる。この実験結果より、本発明の効果が実証された。
【0036】
(その他)
前記実施形態及びスロットコア3の変形例では、衝撃吸収溝7,7A,7Bは、スロットコア3の外周面に設けられているが、スロット溝3の内周面に設けても良く、又、スロットコア3の外周面とスロット溝3の内周面に双方に設けても良い。
【0037】
前記実施形態及では、光ファイバ10は、光ファイバテープ心線にて構成されているが、光ファイバ素線又は光ファイバ心線であっても良いことはもちろんである。
【0038】
前記実施形態では、抗張力体4は、スロットコア3内に配置されているが、スロットコア3とシース6内の双方に、又は、シース6内にのみ配置しても良い。又、前記実施形態では、抗張力体4は2本であるが、1本でも3本以上でも良く、又、その配置位置も適宜決定される。
【符号の説明】
【0039】
1 光ファイバケーブル
2 スロット溝
2a 開口部
3,3A スロットコア
3b リブ部
4 抗張力体
6 シース(被覆層)
7,7A,7B 衝撃吸収溝
10 光ファイバ
L1 第1補助線
L2 第2補助線
E 領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーブル長さ方向に沿ってスロット溝を有するスロットコアと、前記スロット溝に収容された複数の光ファイバと、前記スロットコアの外周を覆い、前記スロット溝の開口部側の厚みが前記スロット溝の開口部の反対側の厚みより厚く形成された被覆層と、前記スロットコアと前記被覆層の少なくともいずれか一方に長さ方向に沿って配置された抗張力体とを備えた光ファイバケーブルであって、
前記スロットコアには、前記スロット溝の両側に配置されるリブ部の弾性変形を容易とする衝撃吸収溝が設けられたことを特徴とする光ファイバケーブル。
【請求項2】
請求項1記載の光ファイバケーブルであって、
前記衝撃吸収溝は、前記開口部を真上位置若しくは真下位置とした場合に、前記スロットコアの左右位置にそれぞれ設けられたことを特徴とする光ファイバケーブル。
【請求項3】
請求項2記載の光ファイバケーブルであって、
前記衝撃吸収溝は、左右位置の複数箇所に設けられたことを特徴とする光ファイバケーブル。
【請求項4】
請求項2又は請求項3記載の光ファイバケーブルであって、
左右の前記衝撃吸収溝は、前記開口部を真上位置若しくは真下位置とし、前記スロット溝の両側の外接位置に沿って垂直に引いた左右の第1補助線と、前記スロットコアの両側の外接位置に沿って垂直に引いた左右の第2補助線との間の左右の領域内にそれぞれ設けられたことを特徴とする光ファイバケーブル。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載の光ファイバケーブルであって、
前記衝撃吸収溝は、前記スロットコアの外周面に設けられ、且つ、溝入口側が幅広であることを特徴とする光ファイバケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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