説明

光ファイバコード

【課題】耐加熱変形性、難燃性に優れた光ファイバコードを提供する。
【解決手段】光ファイバ1を紫外線硬化樹脂4で被覆した光ファイバ素線5の外周にさらに樹脂6を被覆して光ファイバ心線7とし、その光ファイバ心線7の外周にテンションメンバ8と最外樹脂層9を順次形成した光ファイバコード10において、最外樹脂層9が、ポリウレタンエラストマ100質量部に対し、トリアジン誘導体20質量部以上100質量部以下、およびリン化合物0質量部以上30質量部以下を混合してなる樹脂組成物からなるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機器間の配線や車載用途等に使用され、耐加熱変形性、難燃性に優れた光ファイバコードに関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバは石英系のガラスコアとクラッドからできているものが主流であるが、ガラスのみでは傷つきやすく折れやすいため線引き時に紫外線硬化樹脂などで表面を保護する。この形態のものを光ファイバ素線と呼ぶ。また、さらに強度を上げるためナイロンやシリコーンなどの樹脂を光ファイバ素線の外層に設けたり、あるいはさらに厚く紫外線硬化樹脂層を設けることが一般的であり、この形態のものを光ファイバ心線と呼ぶ。
【0003】
最近、光ファイバは機器間の配線や宅内配線、車載用途などにも使用されるようになってきており、配線作業などの取り回しやコネクタとの接続などで、光ファイバには折り曲げや荷重などより高い負荷がかかるようになってきた。このような用途には、光ファイバ心線の外周にケブラー繊維などの抗張力繊維(テンションメンバ)を添えて、その上に樹脂層(最外樹脂層)を設けた光ファイバコードと呼ばれるものが使用される。
【0004】
光ファイバコードの最外層の樹脂層には、従来、塩化ビニル樹脂が広く使われてきたが、塩化ビニル樹脂は廃却の際、燃焼時にダイオキシンや腐食性ガスの発生が問題視されたり、埋め立て時に樹脂中に含まれる鉛などの重金属の流出が問題視されてきた。このため最近ではこのような問題のない、ポリエチレンやポリエチレン−酢酸ビニル共重合体などのベースポリマに水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウムなどの難燃剤を混合したノンハロゲン材料が広く使用されている。
【0005】
一方、ポリウレタンエラストマは、優れた機械特性や耐熱性、低温での柔軟性を有することが知られており、電線、ケーブルの被覆材料や光ファイバコードの被覆材料として使用されてきている。機器間の配線や車載用途等に使用されるケーブルには難燃性、耐熱性、耐摩耗性など種々の特性が要求される。特に難燃性を得るために、ポリウレタンエラストマに臭素原子や塩素原子を含有するハロゲン系難燃剤やアンチモン化合物を配合した樹脂組成物が主流であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2004/107004号
【特許文献2】国際公開第2004/107005号
【特許文献3】特表2008−527451号公報
【特許文献4】特開2000−249878号公報
【特許文献5】特開2003−315639号公報
【特許文献6】特開2004−51903号公報
【特許文献7】特開2004−62117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来のノンハロゲン材料では、耐熱性、特に加熱変形性に問題があり、80℃を超える使用環境には対応できない。加熱変形性を上げる目的などでノンハロゲン材料に電子線を照射して架橋させることをするが、この場合はガラスファイバ素線が劣化してしまい、伝送損失が悪化する問題がある。
【0008】
一方、ハロゲン系難燃剤を施したポリウレタンエラストマは、燃焼時に難燃剤に含まれるハロゲン化合物から有害なガスが発生することや、材料に配合された重金属が埋め立て時に溶出するといった問題があった。
【0009】
本発明は懸かる問題を解決し、耐加熱変形性、難燃性に優れた光ファイバコードを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために創案された本発明は、光ファイバを紫外線硬化樹脂で被覆した光ファイバ素線の外周にさらに樹脂を被覆して光ファイバ心線とし、その光ファイバ心線の外周にテンションメンバと最外樹脂層を順次形成した光ファイバコードにおいて、前記最外樹脂層が、ポリウレタンエラストマ100質量部に対し、トリアジン誘導体20質量部以上100質量部以下、およびリン化合物0質量部以上30質量部以下を混合してなる樹脂組成物からなる光ファイバコードである。
【0011】
前記トリアジン誘導体がメラミンシアヌレートであると良い。
【0012】
前記メラミンシアヌレートの一次粒子径が1μm以上5μm以下であると良い。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、耐加熱変形性、難燃性に優れた光ファイバコードを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の光ファイバコードの構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の好適な実施の形態について図面に基づき説明する。
【0016】
図1は、本実施の形態に係る光ファイバコードの構造を示す断面図である。
【0017】
図1に示すように、本実施の形態に係る光ファイバコード10は、光ファイバ1を紫外線硬化樹脂4(第一紫外線硬化樹脂層2および第二紫外線硬化樹脂層3)で被覆した光ファイバ素線5の外周に、第三紫外線硬化樹脂層(樹脂)6を被覆して光ファイバ心線7とし、その光ファイバ心線7の外周にテンションメンバ8と最外樹脂層9を順次形成してなる。
【0018】
本実施の形態では、紫外線硬化樹脂4は第一紫外線硬化樹脂層2および第二紫外線硬化樹脂層3の二層からなるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0019】
また本発明は光ファイバ1、紫外線硬化樹脂4、テンションメンバ8の材質を特に限定するものではなく、公知のものを使用することができ、例えばテンションメンバ8としてケブラー繊維を使用することができる。
【0020】
さて、本発明の光ファイバコード10は、最外樹脂層9が、ポリウレタンエラストマ100質量部に対し、トリアジン誘導体20質量部以上100質量部以下、およびリン化合物0質量部以上30質量部以下を混合してなる樹脂組成物からなることを特徴とする。
【0021】
以下に、本発明に係る最外樹脂層9を構成する各成分について詳述する。
【0022】
ポリウレタンエラストマには、ポリエーテル型、ポリエステル型の構造を持つのが一般的であるが、本発明の最外樹脂層9に使用するポリウレタンエラストマにおいては特に規定しない。使用可能なポリウレタンエラストマとしては、例えばBASFジャパン製のエラストランシリーズ、日本ミラクトラン製のミラクトランシリーズなどがある。
【0023】
トリアジン誘導体化合物としては、メラミンやメラミンとシアヌル酸、ポリリン酸、スルホン酸などとの付加物、反応物、あるいはメラム、メレム、メロンなどのメラミン縮合物やそれらと酸の反応物などがあるが、メラミンとシアヌル酸の付加物であるメラミンシアヌレートが代表的なものであり、特性、入手性、コストの面で優れている。
【0024】
また、メラミンシアヌレートの一次粒子径は、ポリウレタンエラストマへの分散性の面から1μm以上5μm以下であることが好ましい。一次粒子径が1μm以上であると樹脂に分散させる際に、粒子同士が凝集することなく分散させることができる。また、5μm以下の粒子であることで、光ファイバコードの外観への影響もなく、良好なものとなる。
【0025】
リン化合物は、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルフェニルホスフェート、クレジルジ2,6−キシレニルホスフェートなどの芳香族リン酸エステル、レゾルシノールビス−ジフェニルホスフェート、レゾルシノールビス−ジキシレニルホスフェート、ビスフェノールAビス−ジフェニルホスフェートなどの芳香族縮合リン酸エステル、ホスファゼン化合物などがあげられる。
【0026】
本発明においてトリアジン誘導体の混合量をポリウレタンエラストマ100質量部に対して20質量部以上100質量部以下としたのは、20質量部以上であることで、良好な難燃性を得ることができ、また100質量部以下であることで、光ファイバコードの破断伸びなどの機械的特性も優れたものとできるためである。
【0027】
本発明においてリン化合物の混合量をポリウレタンエラストマ100質量部に対して0質量部以上30質量部以下としたのは、混合量が30質量部以下であることで、最外樹脂層9表面のリン化合物によるブルームの発生を抑制することができるためである。
【0028】
本発明の樹脂組成物には定法に従い、酸化防止剤、分散安定剤、銅害防止剤、滑剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定剤などを添加することができる。
【0029】
このようにされる本発明の光ファイバコードは、廃却の際にダイオキシンや腐食性ガスの発生、重金属流出の虞がなく、優れた耐加熱変形性、難燃性を有する。
【実施例】
【0030】
次に、本発明の実施例と比較例について説明する。
【0031】
実施例と比較例に用いた光ファイバコードは以下のように製造した。光ファイバコードの構造は図1に示した通りである。
【0032】
石英ガラスのプリフォームを加熱炉で溶融して外径0.125mmの光ファイバに線引きし、その外周に硬化後のヤング率が1.2MPaのウレタンアクリレート樹脂塗料を塗布後、ダイスでしごき、紫外線照射炉を通して硬化させ、外径0.195mmとなるように第一紫外線硬化樹脂層として設け、さらにその外周に硬化後のヤング率が700MPaのウレタンアクリレート樹脂塗料を塗布後、ダイスでしごき、紫外線照射炉を通して硬化させ、外径0.245mmとなるように第二紫外線樹脂層として設けて光ファイバ素線を得た。さらに、この光ファイバ素線の外周に硬化後のヤング率が800MPaのウレタンアクリレート樹脂塗料を塗布後、ダイスでしごき、紫外線照射炉を通して硬化させ、外径0.5mmとなるように第三紫外線硬化樹脂層として設けて光ファイバ心線を得た。この光ファイバ心線の外周にテンションメンバとして、ケブラー繊維を添えながら、後述する実施例、比較例に示す樹脂組成物を、最外樹脂層として厚さ0.75mmとなるように40mm押出し機(L/D=25)を用いて押出し成形し光ファイバコードを得た。
【0033】
なお、最外樹脂層に用いる樹脂組成物は、二軸押出機を用いて混練りし、ストランド状に押出しそれを切断してペレット状に成形して用いた。
【0034】
以上のように製造した実施例と比較例の光ファイバコードは、以下に示す項目の評価を行った。
【0035】
引張特性はJIS C 3005に準拠し、光ファイバコードから最外被覆層(最外樹脂層)をチューブ状に採取して試験に用い、引張強さ10MPa以上、破断伸び200%以上を合格とした。
【0036】
加熱変形はJIS C 3005に準拠した。先ず光ファイバコードから最外被覆層をチューブ状に採取し、そのチューブの内径と同じ外径を持つ銅線をチューブ内に挿入して供試線とし、加熱変形率を測定した。加熱変形率の式を下式に示す。なお荷重は1kgとし、温度は105℃で行い、加熱変形率10%以下を合格とした。
【0037】
【数1】

【0038】
難燃性はJIS C 3005に準拠し、光ファイバコードを水平に保持する水平試験、及び60°に傾斜させて保持する60°傾斜試験を行った。判定は試験片を5本供試し、炎を10秒あてた後、5本全てが30秒以内に消火したものを合格とした。
【0039】
外観やブルームは手触りや目視で3段階に評価し、良好なものを○、外観にわずかにざらつきがある、あるいは極わずかにブルームがあるが合格と判断するものを△、外観が明らかにざらついている、あるいはブルームが顕著なものを×とした。
【0040】
総合評価は、以上の評価項目で全て合格するものを◎とした。他の評価は基準値内に入るものの、難燃性で水平試験のみ合格するもの、または他の評価は基準値内に入るものの、光ファイバコードの外観試験のみややざらつきがあり判定が△としたものについては、総合評価を○とした。難燃性の60°傾斜試験以外にも不合格の項目があるものを×とした。
【0041】
ここで、実施例、比較例に用いた最外樹脂層の樹脂組成物について説明する。
【0042】
(実施例1〜3)
ポリウレタンエラストマとしてBASFジャパン製のET890、トリアジン誘導体化合物として堺化学工業製のメラミンシアヌレートMC−20SJ(平均一次粒子径2μm)をそれぞれ表1に示す質量割合で2軸押出機を用いて混練りし、実施例1〜3に用いる樹脂組成物を得た。
【0043】
(実施例4)
トリアジン誘導体化合物として堺化学工業製のメラミンシアヌレートMC−20SJ(平均一次粒子径2μm)のかわりに、堺化学工業製のメラミンシアヌレートMC−5S(平均一次粒子径0.5μm)を用いた以外は実施例1〜3と同様の配合により実施例4に用いる樹脂組成物を得た。
【0044】
(実施例5,6)
ポリウレタンエラストマとしてBASFジャパン製のET890、トリアジン誘導体化合物として堺化学工業製のメラミンシアヌレートMC−20SJ(平均一次粒子径2μm)、リン化合物として大八化学工業製の芳香族縮合リン酸エステルPX−200をそれぞれ表1に示す質量割合で2軸押出機を用いて混練りし、実施例5,6に用いる樹脂組成物を得た。
【0045】
(比較例1)
ポリウレタンエラストマのみを最外樹脂層の材料として使用した。
【0046】
(比較例2,3)
トリアジン誘導体化合物の堺化学工業製メラミンシアヌレートMC−20SJ(平均一次粒子径2μm)の配合量を本発明の規定から外れる10質量部、及び110質量部とした以外は実施例1〜3と同様の配合により樹脂組成物を得た。
【0047】
(比較例4)
リン化合物の大八化学工業製の芳香族縮合リン酸エステルPX−200の配合量を本発明の規定から外れる35質量部とした以外は実施例5,6と同様の配合を行い樹脂組成物を得た。
【0048】
これらの樹脂組成物を最外樹脂層に用いて、光ファイバコードを作製し、特性評価を行った。
【0049】
実施例、比較例の光ファイバコードの最外樹脂組成、および光ファイバコードの特性評価の結果を表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
最外樹脂層の樹脂組成でメラミンシアヌレートMC−20SJの配合量が20質量部で、リン酸エステルPX−200の配合量が0、あるいは15質量部である実施例1,5の光ファイバコードは、60°傾斜の難燃試験のみ不合格となるものの、水平難燃試験、及び他の項目は合格している。また、実施例2〜4及び6は全ての評価項目が合格しており、実施例1〜6は総合評価が◎ないし○となる。
【0052】
これに対し、ポリウレタンエラストマのみを最外樹脂層とした比較例1、及びメラミンシアヌレートの配合量が規定の量より少ない比較例2は難燃試験や加熱変形が不合格となり、メラミンシアヌレートの配合量が規定の量より多い比較例3は引張強さ、破断伸びが不合格となる。また、リン化合物の配合量が規定の量より多い比較例4はブルームが発生して不合格となる。
【0053】
光ファイバコードの最外樹脂層に用いる樹脂組成物のポリウレタンエラストマに混合する難燃剤の添加量が少ないと十分な難燃性を得ることが出来ず、多すぎると機械的特性の低下や、ブルームが発生する。これに対し、本発明で規定した樹脂組成物を最外樹脂層に用いた光ファイバケーブルはいずれの特性も良好となる。
【符号の説明】
【0054】
1 光ファイバ
2 第一紫外線硬化樹脂層
3 第二紫外線硬化樹脂層
4 紫外線硬化樹脂
5 光ファイバ素線
6 第三紫外線硬化樹脂層(樹脂)
7 光ファイバ心線
8 テンションメンバ
9 最外樹脂層
10 光ファイバコード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバを紫外線硬化樹脂で被覆した光ファイバ素線の外周に、さらに樹脂を被覆して光ファイバ心線とし、その光ファイバ心線の外周にテンションメンバと最外樹脂層を順次形成した光ファイバコードにおいて、
前記最外樹脂層が、ポリウレタンエラストマ100質量部に対し、トリアジン誘導体20質量部以上100質量部以下、およびリン化合物0質量部以上30質量部以下を混合してなる樹脂組成物からなることを特徴とする光ファイバコード。
【請求項2】
前記トリアジン誘導体がメラミンシアヌレートである請求項1記載の光ファイバコード。
【請求項3】
前記メラミンシアヌレートの一次粒子径が1μm以上5μm以下である請求項2記載の光ファイバコード。

【図1】
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【公開番号】特開2012−168452(P2012−168452A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−30963(P2011−30963)
【出願日】平成23年2月16日(2011.2.16)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】