説明

光ファイバシート

【課題】 通常の生活環境に近い状態において検査可能であって、比較的簡単な解析方法によりかつ低コストで、体動を正しく検知して無呼吸状態、低呼吸状態と正常呼吸状態とを明確に区別するだけでなく、さらに心拍も測定可能にしたSASの診断に好適に用いられる体動検出装置用光ファイバシートを提供する。
【解決手段】 スポンジシートや網布などのシート状体12に、GI型石英系の光ファイバ11を配設する。このとき、光ファイバ11を交差させて環状部21をマトリックス状に形成するとともにシート状体12の幅方向に隣接する環状部21が重なるように配置して、光ファイバ11同士の交差によってできた両者の接点を作用点として側圧が発生する多数の交差部を伝送信号光路上に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光ファイバシートに関する。具体的には睡眠時無呼吸症候群の診断など、横臥人患者の呼吸、心拍、体動の計測に好適に用いられる光ファイバシートに関する。
【背景技術】
【0002】
人類は石器を使い始めた頃から柔らかい食物をより口にできるようになり、顎の骨が退化した。その結果、現代人のフラットな顔の骨格では、舌を収容するスペースが狭まり、湾曲した舌が睡眠時の筋肉の弛緩により気道を塞ぎ、睡眠時に呼吸が止まる「睡眠時無呼吸症候群」という人類宿命の病を背負った。睡眠時無呼吸症候群(SAS:Sleep Apnea Syndrome)は同時に現代病でもある。メタボリック症候群との相乗効果で、喉の周囲に豊富な脂肪を蓄えたBMI25以上の肥満の人ではさらに喉の気道を舌が睡眠時に塞いでしまう危険性が高く、高血圧、心筋梗塞、脳梗塞といった突然死につながる重篤な病気の発症率が高まる。SASは一晩(約7時間)の睡眠中に10秒以上の無呼吸・低呼吸が30回以上、または睡眠1時間あたりに無呼吸・低呼吸が5回以上起こる病気である。SAS患者では夜中に呼吸が止まり息苦しいので、睡眠は勢い浅くなり、熟睡感が乏しい。その結果、日中に限りなく眠くなる症状(傾眠の症状)が現れる。これが交通事故や産業事故を引き起こす隠れた要因になっているとも言われている。
【0003】
SASの有病率は4%と言われていて、日本には約480万人の患者がいるとされる。このうち病院に通っている人は200万人で、残る280万人が潜在患者であるとのことである。この病気は中高年の肥満の男性や女性のみならず、顎の細い細身の中高生の若者でも発病し、集中力の低下、寝起きの悪さから学業の低下を招く。さらには、乳幼児でも発症し、深い眠りが妨げられると成長ホルモンの分泌を阻害し、小人症を引き起こす要因ともなる。
【0004】
ところで、SASの診断は、現在のところ、一泊の入院で行う終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG検査)と呼ばれる手法が多用されている。この診断手法は多くのセンサを身体に取り付けて行う極めて拘束性の高い手法である。
【0005】
一方、特殊マットを用いて、呼吸によって生じるマットの高低の変化を圧力の変化として捉えるという方法が実用化されている。しかしながら、この方法はS/N比が悪い。すなわち、この方法は脈拍や寝返りによる体動と呼吸による体動を区別するために特殊な数学的信号解析から判断する方法であり、信頼性が低いものとなっていた。また、マット内に圧力の変化を検出する装置を組み込む必要があるので、構成が煩雑となり、その製造も煩雑なものとなっていた。160個以上の電気的圧力センサを配置した製品が既に市場におかれている。しかしながら、この製品は無呼吸低呼吸指数(AHI)が20以上の中度や重度のSASには適するが、AHIが5前後の健常者か軽度SASの境界領域での感度があまり芳しくなく、SAS患者のスクリーニングには適さないという欠点も抱えている。
【0006】
このような状況下、特開2007−61306号公報(特許文献1)には、光ファイバを布などからなるシーツに固定若しくは混入した光ファイバシートが開示されている。この光ファイバシートは、体動によって生じた光ファイバの形状変化を、光ファイバ内を伝播する光の偏波状態の変化として捉えるものである。この光ファイバシートを用いた場合には、S/N比がよく、呼吸によって生じるわずかな体動を検出することができ、寝返りや脈拍と呼吸を明確に区別できる、また、通常の生活環境に近い状態で呼吸の状態を観測することができるという利点がある。
【0007】
特開2007−144070号公報(特許文献2)や特開2010−131340号公報(特許文献3)には、一般家庭の通常の睡眠状態でのSASの完全無拘束なスクリーニングを可能とする、光ファイバを用いた睡眠時無呼吸センサ(F−SASセンサ)が開示されている。このF−SASセンサは光ファイバに加わる側圧により発生する過剰損失に基づく伝送信号光の光量変化を計測することによって、体動を検出する装置である。このセンサは小型かつ静音で、座布団を覆うシーツの下に厚みが3.5mm程度の薄い布製の光ファイバシートを敷いて寝るだけのものであり、身体には一切何も付けずに簡易な操作で測定できることが特徴である。これらに開示されている光ファイバシートは、通常の生活環境に近い状態で呼吸の状態を観測することができるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−61306号公報
【特許文献2】特開2007−144070号公報
【特許文献3】特開2010−131340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に開示された光ファイバシートは、体動を光の偏波状態の変動量として捉えている。この偏波変動量を測定するために、光ファイバから出射された光を解析する特別な解析装置が要求され、コスト高になる。そして、その解析には専門的な能力が要求される。また、この光ファイバシートに用いられる光ファイバは、断面形状が非等方的であり、偏波変動量に曲げ依存性があるので、変動に敏感な方向を揃えるようにしてシートを形成しないと、シート毎に体動に対する感度が変動してしまうという問題がある。
【0010】
この点、特許文献2や特許文献3に開示された光ファイバシートは、光ファイバを平板状に自由に配することができることができ、配設の自由度は比較的高い。また、光ファイバの終端から出射した光量の変化を検出することにより体動を検出することができるので、比較的簡単に解析を行うことができる。
【0011】
しかしながら、その感度は比較的低く、交差させることなく一筆書き状に光ファイバを網布に編み込み、光ファイバに縦糸と横糸を重ねる構造とするによって感度を向上させることができるが、心拍を正確に捉えるほどの鋭い感度はなく、耐久性や量産性、生産コストと言った点でも改善の余地は大いにあった。
【0012】
本発明は、通常の生活環境に近い状態において検査可能であって、比較的簡単な解析方法によりかつ低コストで、体動を正しく検知して無呼吸状態、低呼吸状態と正常呼吸状態とを明確に区別するだけでなく、さらに心拍も測定可能にすると共に、繰り返し使用に耐えうるSASの診断や、呼吸、心拍、及びその他の体動の計測に好適に用いられる体動検出装置用の光ファイバシートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、光ファイバとそれを支持するシート状体を備え、当該シート状体上に直接又は間接に配設された前記光ファイバに加わる側圧により発生する過剰損失に基づく伝送信号光の光量変化を計測するための光ファイバシートであって、線状部材との交差によりできた接点を作用点として側圧を発生させる1つ以上の交差部が伝送信号光路上に形成されたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、感度が向上し、心拍(脈拍)などの弱い体動も検出することができる光ファイバシートが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は本発明の光ファイバシートを含む体動検出装置(F−SASセンサ)の構成図である。
【図2】図2は図1のF−SASセンサに用いられる光ファイバシートの一例を示す分解構成図である。
【図3】図3は図2に示す光ファイバシートの断面構造図である。
【図4】図4は実施例1の光ファイバの配設例を示す平面図である。
【図5】図5は光ファイバの他の配設例を示す平面図である。
【図6】図6は光ファイバの他の配設例を示す平面図である。
【図7】図7は光ファイバの他の配設例を示す平面図である。
【図8】図8は光ファイバの他の配設例を示す平面図である。
【図9】図9はF−SASセンサによる測定波形の一例を示す図である。
【図10】図10は呼吸運動をする軽量の赤ちゃん人形を用いて呼吸運動を計測する実験状況を示す画像である。
【図11】図11は図4に示す配設を有する光ファイバシートと呼吸運動をする軽量の赤ちゃん人形を用いて呼吸運動を計測した結果を示す画像である。
【図12】図12は呼吸運動をする軽量の赤ちゃん人形を用いて呼吸運動を計測した場合における測定限界を示す測定例である。
【図13】図13は呼吸運動をする軽量の赤ちゃん人形を用いて呼吸運動(呼吸状態及び模擬無呼吸状態)を計測した場合における測定限界を示す測定例である。
【図14】図14は実施例2における光ファイバの配設を示す平面図である。
【図15】図15は図14に示す配設を有する光ファイバシートと呼吸運動をする軽量の赤ちゃん人形を用いて呼吸運動を計測した結果を示す画像である。
【図16】図16は実施例3における光ファイバの配設を示す平面図である。
【図17】図17は図16に示す配設を有する光ファイバシートと呼吸運動をする軽量の赤ちゃん人形を用いて呼吸運動を計測した結果を示す画像である。
【図18】図18は実施例4における光ファイバの配設を示す平面図である。
【図19】図19は図18に示す配設を有する光ファイバシートと呼吸運動をする軽量の赤ちゃん人形を用いて呼吸運動を計測した結果を示す画像である。
【図20】図20は実施例5における光ファイバの配設を示す平面図である。
【図21】図21は実施例6における光ファイバの配設を示す平面図である。
【図22】図22は図21に示す配設を有する光ファイバシートで年齢58歳男性被験者(BMI:26)の睡眠時の呼吸運動を計測した結果の一部を示す画像である。
【図23】図23は実施例7における光ファイバの配設を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は本発明の体動検出装置の構成図、図2は当該体動検出装置に使用される光ファイバシート1の一例を示す分解構成図、図3は当該光ファイバシート1の断面構成図である。体動検出装置は、光ファイバシート1から出力された光量の変化を測定し、体動を検出するセンサ制御部2と、センサ制御部2を駆動する電源を取得する電気プラグ3と、センサ制御部2から光ファイバシート1へ光の入出力を行う光ファイバコード4を備える。
【0017】
この体動検出装置は、例えば睡眠時無呼吸症候群診断装置(以下「F−SASセンサ」と称する。)として利用され、光ファイバシート1を通過することにより生じた光の光量変化の変動から体動、つまり、無呼吸状態であるか、低呼吸状態であるか、それとも呼吸に無関係である体動、例えば、心拍によるものであるか寝返りによるものであるのかなどを判定する。
【0018】
センサ制御部2は、LEDなどの光源と、フォトダイオート(PD)などの受光素子と、受光素子で受光された光量を測定する光量計を備える。光源は光ファイバシート1に一定の光量の光を連続して供給する。出射光を安定に出力できることや軽量、小型であること、発熱量や消費電力が少ないことに鑑みると、光源にはLEDが好適に用いられる。受光素子は光ファイバコード4から伝送された出力光を連続的に受光する。受光した光量は光量計により計測される。計測された受光量(減衰量)の変化は体動、すなわち身体の動きや呼吸、心拍に応じて光ファイバシート1に加わる側圧とほぼ比例関係にある。したがって、受光量の変化が小さいと体動が小さく、受光量の変化が大きいと体動が大きいと判断できる。センサ制御部2は解析ソフトを内蔵したパーソナルコンピューターなどの演算装置(図示せず)と共に解析部を構成する。
【0019】
光ファイバシート1は光ファイバ11とそれを支持するシート状体12とを有する。図2及び図3に示す光ファイバシート1は光ファイバ11とシート状体12からなる光ファイバ構造体10が2枚の外カバー6と外カバー7で覆われた構造を有している。そして、外カバー6と外カバー7の周縁が縫い合わされ、光ファイバ構造体10と一体化されている。光ファイバシート1は、マットレスのような寝具5上に置かれて使用される。
【0020】
光ファイバシート1の表面となる外カバー6は例えば遮光性を備える黒色の布からなる。表面に外カバー6を設けることにより、外部からの光による影響、つまり遮光による影響を避けることができる。外カバー7も布などからなる。この外カバー7は光ファイバシート1の裏面となるものである。遮光を考慮する必要性は少ないが、外カバー6と同様に遮光性を備える素材からなるものが好ましい。遮光の影響をより少なくできるからである。外カバー6や外カバー7は自由な絵柄や配色のものを選ぶことが可能である。外カバー6や外カバー7はいずれも任意的なものである。また、外カバー6や外カバー7は光ファイバ構造体10から取り外し可能にしてもよい。取り外した外カバー6や外カバー7を洗濯すれば、光ファイバシート1を衛生的に保持できるからである。外カバー6や外カバー7は布以外の素材、例えばプラスチック製のフィルムなどを用いてもよい。
【0021】
図2及び図3に示す光ファイバ構造体10は、例えば多数の空孔を有する通気性のあるスポンジシートからなるシート状体12と、当該シート状体12上に配設され、支持体13の両面に粘着剤層14を有する粘着テープ(いわゆる両面粘着テープ)15でもって部分的にシート状体12に固定された光ファイバ11とを有する。そして、光ファイバ11のずれ動きを抑えるために、光ファイバ11上にメッシュ体(網)16が載置されている。
【0022】
光ファイバ構造体10を構成する光ファイバ11は、コアと呼ばれる芯とその外側のクラッドと呼ばれる外層とそれを被覆する被覆層を有する光伝送媒体である。このような構造を有する光ファイバ11であればコアの素材やクラッドの素材、被覆層の素材に関係なく使用できるが、本発明においては、グレーデットインデックス型石英系光ファイバ(石英型GI光ファイバ)が好ましく用いられる。極めて微小な動きである体動を検出できるようになるからである。石英型GI光ファイバとは、屈折率がコアの中心からクラッド方向へ中心軸対称の分布形状を有する屈折率分布(Grated Index)を有する光ファイバであって、コア及びクラッド共に石英ガラスから作製されたものである。
【0023】
光ファイバ11は側圧による応力付加によりマイクロベンディング損失が発生し、光ファイバ11の伝送損失に過剰損失が発生する。本発明の体動検出装置は、この特性を利用するものであって、体動に起因する光ファイバ11への応力負荷変化による過剰損失の変化を計測することにより、体動を測定可能にしている。特に石英型GI光ファイバは側圧に極めて敏感であり、側圧による応力負荷が発生した場合の過剰損失が大きい。またGI型光ファイバは、マイクロベンディング損失の起こりやすい高次モード(コア中心からより離れたクラッド側に近いところも伝播する光)を多く含んで伝送させることができるので、わずかの体動でも大きな光量変化を生じさせることができる。しかしながら、この高次モードは低次モード(コア中心部をより伝播する直線性の高い光)よりもコアの吸収の影響を大きく受けるため、コア自体の材料の吸収が大きいと、高次モードは途中で減衰してしまって利用することができなくなる。従って、高次モードを効率的に利用するためには、コアの材料にできるだけ吸収の少ない材料を用いる方が有利である。石英ガラスは一般的に光ファイバに使用される材料の中で最も吸収損失の少ない材料であるため、本用途に最も適していると言える。
【0024】
体動への感度を最大に高めるためには、GI型石英系の光ファイバ11に、高次モードの光が最も多く伝播されるように信号光の入力状態を調節することが望ましい。このような条件は全モード励振条件と呼ばれる。この条件は、光ファイバ11に光を入力する光源の直径若しくは開口数との相対関係で、光源の直径(若しくは開口数)の方が光ファイバ11の直径(若しくは開口数)よりも大きい場合に達成される。LED光源を用いると、LEDの開口数はGI型石英系の光ファイバ11、特に全モード励振条件で光を入力して高次モードで利用すれば、わずかの体動でも大きな光量変化が生じる。その結果、きわめて感度のよい測定が可能になる。また、摩擦による静電気等の電気的雑音の影響を受けにくく、誤認の少ない測定結果が得られる。
【0025】
GI型石英系の光ファイバ11は、ファイバの断面形状が完全に等方的であり、曲げ損失に曲げ方向依存性が存在しないので、光ファイバシート1の形成時に光ファイバ11の方向を揃える必要がなく、この点においても特許文献1に開示された光ファイバシートに比べて有利であると言える。さらに、石英系の光ファイバ11は、プラスチック製ファイバと比較して剛性が非常に高いため、光ファイバシート1に固定する際にキンク等の発生による特性の悪化が生じにくく、光ファイバシート1の生産性に優れている。また、荷重がかかった状態で長期間使用してもファイバが変形したり潰れてしまうことがないので、長期的な安定性(耐久性)に優れている。その一方で剛性に優れた光ファイバとして他に多成分ガラスを用いたファイバもあるが、石英系ファイバは通信用途に広く利用されているので入手しやすく性能も安定しており、耐候性にも高い点で優れている。このような観点から、GI型石英系光ファイバは光ファイバシートの製造面においても非常に有利である。
【0026】
GI型石英系の光ファイバ11は強度保持のために通例被覆を有している。このために外部からの光による影響、つまり迷光による影響を受けるおそれがない。そして、本発明においては二次被覆が施された光ファイバ(光ファイバ心線)11が好ましく用いられる。二次被覆は光ファイバを保護する役目を果たすので、さらに光ファイバシート1の作製は容易となる。この場合、二次被覆としては、好ましくは塩化ビニル系樹脂などの柔らかな素材の被覆よりも、ポリエステルエラストマーなどの硬い素材の被覆が好ましい。側圧による圧力が二次被覆に吸収されずに直接光ファイバに加わりやすいからである。
【0027】
シート状体12は光ファイバ11を支持する機能を果たす。シート状体12は、布帛、すなわち、織布や編み布、不織布を問わず、いわゆる布として称されるもののみならず、プラスチックシートや紙、メッシュ構造を有する網布、スポンジシートなどの各種シート状物が利用できる。さらに、シート状体12には、上記布帛やプラスチックシートなどのシート状のものだけでなく、スプリング構造体やスポンジ構造体を芯材とするマットレス、敷布団、毛布などの寝具そのものはもちろんのこと、マットレスや敷布団に用いられるスポンジ体など、直接寝具類として利用可能なシート状体12やそれらを素材として寝具に加工されうるシート状体12なども利用できる。
【0028】
シート状体12の素材は特に制限されるものではない。布帛の素材として、例えば絹や綿、麻、ウールなどの天然素材、アセテートやレーヨンなどの再生繊維、ナイロン、ポリウレタン、ポリエステルなどの合成繊維が例示される。また、プラスチックシートの素材としては、ポリエチレン、ポリウレタン、ポリアミド、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、エチレンプロピレンゴム、塩化ビニル、スチレンブタジエン系、オレフィン系(TPO)、ポリエステル系(TPEE)、ポリウレタン系(TPU)などの各種熱可塑性エラストマー、発泡スチロールなどが例示される。
【0029】
これらの中で、柔軟性のある素材が好適に用いられる。さらに多孔性のスポンジシートや、綿やウールなどからなる編み布など通気性を有するシート状体12がより望ましく用いられる。本発明の光ファイバシート1は、マットレスやベッド、敷布団などの寝具として、あるいは、これらの寝具上に敷かれるシーツ、敷毛布などの類として用いられるからであり、睡眠時の発汗等の影響を避けることができるからである。さらに、場合によっては木材板なども利用される。
【0030】
光ファイバ11はシート状体12上に直接又は間接に配設される。また、シート状体12を支持基材としてその上に配設される場合のみならず、シート状体12の内部に編み込んだり、シート状体12の内部に埋設する、積層体からなるシート状体12上に配設することもできる。さらに、2枚のシート状体12の間に挟む、積層体からなるシート状体12同士の間に挟むようにして配設することもできる。
【0031】
シート状体12上に光ファイバ11を配設、固定する方法として、接着剤等を用いてシート状体12に直接光ファイバ11を配設、固定する方法もある。また、光ファイバ11の上下をシート状体12で挟み、シート状体12同士を圧接する、シート状体12の周縁を蒸着や接着することでシート状体12の間に配設、固定する方法もある。さらに、敷布団の綿中に光ファイバ11を埋設し、シート状体12(敷布団の布)に間接的に配設、固定する方法もある。
【0032】
また、粘着シートや粘着テープ15を用いて、布帛やプラスチックシートなどのシート状体12上に間接的に配設、固定する方法やシート状体12に光ファイバ11を配置して、その上から粘着シートや粘着テープ15で固定する方法も例示される。粘着シートや粘着テープ15は、布帛や紙、プラスチックシートなどの各種シート状物を支持体13とし、当該支持体13の片面又はその両面に粘着剤層を備えたものである。粘着シートは、支持体13の全面に粘着剤層14を有するものであっても、ストライプ状や水玉状などに支持体13の一部分に粘着剤層14を有するものであってもよい。このような粘着シートや粘着テープ15を利用する方法は、光ファイバ11の固定が容易であり、光ファイバシート1の製造工程を簡略化できる。この場合、粘着シートや粘着テープ15に用いられる支持体13も本発明のシート状体12として利用できる。さらに、配設した光ファイバ11上に網布などのメッシュ体を載置し、光ファイバ11のずれ動きを抑えてもよい。
【0033】
光ファイバ11はシート状体12上に一筆書き状に配設される。一筆書き状であればその配設態様はいかなるものであってもよいが、シート状体12上に配置された線状部材17との交差によりできた接点を作用点として側圧を発生させる1つ以上の交差部が伝送信号光路上に形成されるように光ファイバ11は配設される。
【0034】
図4は光ファイバ11の一配設例を示す平面図である。この光ファイバシート1では、光ファイバ11の交差により形成された環状部21(ループ)がシート状体12上にその幅方向(短辺方向)及び長さ方向(長辺方向)に多数形成されるように、多数の環状部(ループ)21を描きながら1本の光ファイバ11が配設されている。また、シート状体12の幅方向に隣接する環状部(ループ)21の一部が互いに重なるように、光ファイバ11が配設されている(この配設を「とぐろ配置」と言う。)。この光ファイバシート1では、光ファイバ11が交差する箇所がそれぞれ交差部となり、伝送信号光路となる光ファイバ11が線状部材17の機能を果たしている。
【0035】
光ファイバ11は側圧による伝送損失を測定するための伝送信号光路を構成する媒体である。本発明の光ファイバシート1においては伝送信号光路上に形成された交差部が作用点(又は支点)となって、体動による側圧がより大きく光ファイバ11に発生する。従って、わずかの体動でもより大きな光量変化を生じさせ、その結果F−SASセンサとしての感度が上昇するものと考えられる。
【0036】
線状部材17は光ファイバ11と交差することによって上記機能を果たす交差点を伝送信号光路上に形成する。例えば図4に示すように、当該伝送信号光路を構成する光ファイバ11が線状部材17として利用され、光ファイバ11同士の交差により交差部が形成される。
【0037】
線状部材17はその上を光ファイバ11が横切るようにシート状体12上に配置される。線状部材17は光ファイバ11との交差によって形成された交差部が上記機能を発揮する程度の硬さが必要であって、ピアノ線などの金属線や光ファイバ、アクリル線、ポリメチルメタクリレート線などが例示される。網布に用いられる繊維では柔らかすぎて、感度を高めることが困難である。また、光ファイバシート1を曲げて持ち運びできる、光ファイバシート1を軽量に作製できるなどの観点から、光ファイバが好ましく用いられる。この際、線状部材17となる光ファイバと伝送信号光路を構成する光ファイバ11の構造や材質の異同は問われない。特に、線状部材17として光ファイバを用いると、例えば図4に示すとぐろ配置のように、伝送信号光路となる1本の光ファイバ11を交差させて交差部を形成できるので、製造コストや量産性の点でも有利である。線状部材17の断面形状は略円形のみならず、矩形状や多角形状であってもよい。
【0038】
少なくとも1つ以上の交差部が伝送信号光路上にあればよく、交差部の数が多いほど好ましいと考えられるが、必ずしも交差部の数と感度は比例せず、光ファイバ11や線状部材17の素材、光ファイバ11や線状部材17の外径、光ファイバ11や線状部材17の配設模様などによっても感度は影響される。従って、光ファイバ11や線状部材17の素材、これらの外径等を考慮しながら、光ファイバシート1の感度が上昇するように交差部の数や位置が決められる。また、環状部(ループ)21は真円である必要はなく、楕円のように偏平したものであっても差し支えない。環状部(ループ)21の径は光ファイバ11の種類によって制約を受ける場合があるが、その一例を挙げると最も大きくなる箇所において30〜50mmである。
【0039】
交差部においては、伝送信号光路となる光ファイバ11(交差部上側の光ファイバ11)は、線状部材17(交差部下側の光ファイバ11)に固定されず、交差部を作用点(支点)として自由に屈曲する。線状部材17をシート状体12に固定してもよいが、交差部近傍においては線状部材17をシート状体12に固定しないことが好まれる。交差部を設けることにより感度の向上が期待されるが、交差する光ファイバ11と線状部材17の両者が自由に変位する方が側圧による応力負荷が発生しやすく、さらなる感度の向上に寄与するものと考えられるからである。なお、複数の線状部材17を近接して配設すると、線状部材17と交差する光ファイバ11(伝送信号光路となる光ファイバ11)が自由に屈曲できずに、十分な感度向上を望めないおそれがある。従って、適度な間隔を設けて線状部材17を配設し、光ファイバ11が自由に屈曲できるように交差部を形成することが望まれる。また、交差部では、配設時において光ファイバ11と線状部材17が必ずしも接している必要はなく、測定時において両者が接すればよい。
【0040】
さらに具体的に説明すると、例えば図4に示すとぐろ配置では、とぐろ配置を維持するために、環状部(ループ)21を形成する交差部(交差箇所)はシート状体12の長さ方向にストライプ状に配置された両面粘着テープ15によってシート状体12に固定されている。一方、環状部(ループ)21の重なり合いにより形成された交差部の近傍では、交差する光ファイバ11はそれぞれシート状体12に固定されておらず、当該近傍において交差する光ファイバ11は体動によって自由に変位する。
【0041】
図5及び図6はそれぞれ光ファイバ11の他の配設例を示す平面図である。これらの光ファイバシート1では、シート状体12の幅方向に折り返すU字状部22を多数形成しつつ配設された光ファイバ11の蛇行部11aと、光ファイバ11の光入射端若しくは光出射端の近くにてほぼ直線状に配設された光ファイバ11の光路端部11bとの交差により、交差部が形成されている。
【0042】
図5に示す配設例においては、比較的大きな径を有する複数のU字状部22が互い違いに対向してシート状体12の幅方向端部に形成され、8の字を描くように光ファイバ11が配設された蛇行部11aが配置されている。そして、光ファイバ11の光入射端又は光出射端の近い光路端部11bが、いずれか一方の幅方向端部に形成されたU字状部22の近傍を横断するようにほぼ直線状に配設されている(この配設を「8の字状配置」と言う。)。この8の字状配置では、光路端部11bが線状部材17として利用され、光路端部11bと蛇行部11aとの交差によって交差部が形成されている。蛇行部11aは、8の字状配置が維持されるようにシート状体12の長辺方向にストライプ状に配置された両面粘着テープ15でシート状体12に部分的に固定されている。また、光ファイバ11の光入射端及び光出射端近傍は、シート状体12の幅方向に配置された両面粘着テープ15で固定されている。一方、交差部の近傍では光ファイバ11(蛇行部11a)と線状部材17(光路端部11b)はシート状体12に固定されておらず、交差部近傍において光ファイバ11と線状部材17の両者は体動によって自由に変位する。
【0043】
また、図6に示す配置では、図5のU字状部22に比べて小さな径を有する複数のU字状部22が互い違いに対向してシート状体12の幅方向に多数形成され、梯子を描くように光ファイバ11が配設された蛇行部11aが配置されている。そして、光ファイバ11の光入射端又は光出射端の近い光路端部11bが、いずれか一方の幅方向端部に形成されたU字状部22の近傍を横断するようにほぼ直線状に配設されている(この配設を「梯子状配置」と言う。)。この梯子状配置によっても交差部を形成できる。
【0044】
図7は光ファイバ11のさらに別な配設例を示す平面図である。図7の光ファイバシート1では、8の字状配置された光ファイバ11とは異なる複数の線状部材17が用いられ、これらの線状部材17も光ファイバ11との交差により交差部を形成している。線状材料17には光ファイバが用いられている。各線状部材17はシート状体12の長さ方向に配設され、その両端がシート状体12の幅方向に配置された両面粘着テープ15によってシート状体12に固定されている。一部の線状部材17はその全部が両面粘着テープ15によってシート状体12に固定されているが、残る線状部材17はその両端のみがシート状体12に固定されている。両端のみが固定された線状部材17と光ファイバ11の交差部近傍で両者が体動によって自由に変位する。
【0045】
この配設例では、伝送信号光路となる光ファイバ11の交差による交差部に加えて、線状部材17と光ファイバ11の交差による交差部の形成により、より一層の感度向上が図られている。また、この配設例は、図5に示す配設例に比べてU字状部22が多く形成され、光路長が長くなっている。本発明の光ファイバシート1は、側圧による過剰損失の変化を利用しているので、感度向上には光路長が長いほど有利であり、光路長の観点からも感度の向上が計られている。
【0046】
図8は光ファイバ11のさらに別な配設例を示す平面図である。図8の光ファイバシート1では、光ファイバ11とは異なる線状部材17との交差のみから交差部が形成されている。図示するように、比較的小さな径を有する多数のU字状部22が互い違いに対向してシート状体12の幅方向端部に形成され、梯子を描くように光ファイバ11が配設された蛇行部11aが配置されている。そして、梯子状に配設された蛇行部11aが幅方向に2段に形成されている。つまり、光ファイバ11は2段の蛇行部11aを有する梯子状配置となっており、複数の線状部材17が2段に配設された蛇行部11aを直交してシート状体12上に配置されている。
【0047】
蛇行部11aは梯子状配置が維持されるようにシート状体12の長さ方向にストライプ状に配置された両面粘着テープ15で部分的に固定されている。線状部材17はその両端がシート状体12の幅方向に配置された両面粘着テープ15によってシート状体12に固定されている。一部の線状部材17はその全部が両面粘着テープ15によってシート状体12に固定されているが、残る線状部材17はその両端のみがシート状体12に固定されている。両端のみが固定された線状部材17と光ファイバ11の交差部近傍で両者が体動によって自由に変位する。このように、光ファイバ11同士の交差によらず線状部材17と光ファイバ11の交差のみによって交差部を形成して、感度を向上させることもできる。また、この配置によると光路長が長くなり、光路長の観点からも感度の向上が計られている。
【0048】
以上述べたように、伝送信号光路となる光ファイバ11を交差させるだけでなく、他の線状部材17(例えば光ファイバのような線状部材)と光ファイバ11とを交差させることによって感度の向上を図ることができる。また、本発明の光ファイバシート1は、側圧による過剰損失の変化を利用しているので、感度向上には光路長が長いほど有利であり、配設態様の工夫によって測定目的に応じて感度調整することもできる。
【0049】
なお、図7、図8に示す光ファイバシート1では、一部の交差部において、その近傍にある線状部材17が両面粘着テープ15によってシート状体12に固定されているが、このように本発明においては一部若しくは全ての交差部近傍の線状部材17がシート状体12に固定されても差し支えない。シート状体12に固定された線状部材17との交差によってできた接点もそれを作用点としてより大きな側圧を発生させることになるからである。また、粘着シートや両面粘着テープ17の使用のみならず、メッシュ構造を有する網布に編み込む、シート状体12に挟み込むなどの方法によって線状部材17をシート状体12に固定させることもできる。
【0050】
上記光ファイバシート1を用いて測定された結果は、解析ソフトを内蔵したパーソナルコンピューターなどの演算装置によって解析され、CRTやプリンタなどの表示装置に表示される(いずれの装置も図示しない)。図9はF−SASセンサによる測定波形の一例を示す図である。各図の縦軸は光ファイバシートから出力された光の受光量(絶対値)、横軸は経過時間を示している。例えば図9のAに示されるように、受光量が規則正しく変化して一定量以上の振幅の大きさで観測されれば通常の呼吸状態(正常呼吸領域)であると判断できる。また、図9のBで示されるように、受光量の変化がほとんど観察されず変動振幅が小さければ無呼吸状態であると判断できる。この領域において小さなノイズのように見える波形は心拍の波形を示している。そして、受光量の変化が通常の呼吸状態と無呼吸状態との間であれば、低呼吸状態であると判断できる。また、図9のCに示されるように変動振幅が大きければ、寝返りなど大きく身体を動かしたことに起因したものであると判断できる。
【0051】
このように本発明によると、一般家庭においても無拘束で無侵襲性な成人のSAS患者のスクリーニング機器として有効であるばかりでなく、光ファイバシート1から出力された光量の変化を測定するという簡単な解析だけで、寝返り、脈拍、呼吸を検出できる体動検出装置用の光ファイバシート1が提供される。この光ファイバシート1の使用により、測定時に身体に何も着ける必要がなくなるので、電極装着によって生じていた患者皮膚への負担が大幅に軽減される。そして、寝返り、脈拍、呼吸情報など、未熟児を含む新生児のNICU(新生児集中治療室)、GCU(継続保育室)等での成長モニターに必要な情報を正確に捉えることが可能となる。
【実施例1】
【0052】
以下、本発明についてさらに下記の実施例に基づいて詳細に説明する。
シート状体である通気性を有する網布(250mm×350mm)に光ファイバ(コア径φ50μm、クラッド径φ125μm、配設延長10m:住友電工製EG5)を編み込み、図4に示すように、網布の短辺方向に7列、長辺方向に6列の計42個の環状部(最大径で約30mm)を形成した光ファイバ構造体(とぐろ配置)を作製した。この際、網布の短辺方向に隣接する環状部が一部重なり合うように光ファイバを配置した(重なり合いの幅:10mm)。そして、図示するように、網布の長辺方向にストライプ状に配置した両面粘着テープ(幅15mm)で、環状部を形成させるために交差させた光ファイバの交差点を含ませて、長辺方向に配置された6つの環状部を、厚さ3mmの多数の空孔のあるスポンジシート(250mm×350mm)上に固定した。このとき、隣接する環状部が重なり合う部分を粘着テープでスポンジシートに固定せず、当該重なり合う部分近傍の2本の光ファイバが自由に変位するようにした。さらにこの構造体の上下に黒い布製のカバーを覆い、実施例1の光ファイバシートとした。
【0053】
この光ファイバシートをマットレス上に載置し、図10に示すように呼吸運動を行う赤ちゃん人形(質量306g)を用いて体動を測定した。光源には赤色LEDを用い、光ファイバシートの入射端及び光ファイバの出射端と光パワーメータを光ファイバコードで接続して光量変化を測定し、赤ちゃん人形の呼吸運動について計測を行った。その結果を図11に示す。
【0054】
図11の縦軸は光ファイバシートから出力された光の受光量(絶対値)、横軸は経過時間を示している。呼吸時(Normal)における呼吸信号のPeak to Peak振幅(呼吸P−P)は0.017dBであり、306gという軽量の赤ちゃん人形の呼吸運動が明確に捕らえることができた。このことは、NICUなどの未熟児の呼吸状態をモニターするのに適した光ファイバシートであることを示している。さらに、250mm×450mmの大きさの網布及びスポンジシートを用いて同様に光ファイバシートを作製したところ、呼吸信号のPeak to Peak振幅(呼吸P−P)は0.014dBであった。
【0055】
また、同じ構成を有する別な光ファイバシートを用いてその測定限界を測定した。図12は呼吸状態(赤ちゃん人形の動作時)における測定結果を示す図、図13は呼吸状態(同動作時)と模擬無呼吸状態(同停止時)における測定結果を示す図である。これによると、呼吸状態では呼吸信号のPeak to Peak振幅(呼吸P−P)は0.012〜0.016dBであるのに対し、模擬無呼吸状態では0.001dBであった。このことは、光ファイバシートにおけるノイズ(Peak to Peak振幅)は0.001dB程度であり、0.001dBを超える振幅であれば体動として検出できることを示している。このことからも、本発明の光ファイバシートはNICUなどの未熟児の呼吸状態をモニターするのに適した光ファイバシートであり、心拍のような小さなPeak to Peak振幅でも検出できることが確認された。
【実施例2】
【0056】
次に実施例1と同様にして、図14に示すとぐろ配置を有する光ファイバシートを作製した。網布(250mm×450mm)に光ファイバを編み込み、網布の短辺方向に5列、長辺方向に7列に計35個の環状部(最大径約40mm)を形成した光ファイバ構造体(とぐろ状配置)を作製した。そして、スポンジシート(250mm×450mm)上に両面粘着テープで固定して、実施例2の光ファイバシートを作製した。この光ファイバシートを用いて、実施例1と同様な条件で、赤ちゃん人形の呼吸運動について計測を行った。その結果を図15に示す。呼吸信号のPeak to Peak振幅(呼吸P−P)は0.029dB、模擬無呼吸状態ではわずかなノイズ波形(Peak to Peak振幅は0.001dB以下)が見られたに過ぎず、実施例1の光ファイバシート1よりも大きなPeak to Peak振幅が観察された。さらに、250mm×350mmの大きさの網布及びスポンジシートを用いて同様に光ファイバシート1を作製したところ、呼吸信号のPeak to Peak振幅(呼吸P−P)は0.021dBであり、模擬無呼吸状態ではPeak to Peak振幅は0.001dB以下であった。
【実施例3】
【0057】
次に実施例1と同様にして、図16に示すとぐろ配置を有する光ファイバシートを作製した。網布(250mm×350mm)に光ファイバを編み込み、網布の短辺方向に4列、長辺方向に4列に計16個の環状部(最大径約50mm)を形成した光ファイバ構造体(とぐろ状配置)を作製した。そして、スポンジシート(250mm×350mm)上に粘着テープで固定して、実施例3の光ファイバシートを作製した。この光ファイバシートを用いて、実施例1と同様な条件で、赤ちゃん人形の呼吸状態について計測を行った。その結果を図17に示す。呼吸信号のPeak to Peak振幅(呼吸P−P)は0.012dB、模擬無呼吸状態では、わずかなノイズ波形(Peak to Peak振幅は0.001dB以下)が見られたに過ぎなかった。この光ファイバシートでは、呼吸信号のPeak to Peak振幅は、実施例1の光ファイバシートに比べて小さくなり、感度は悪くなったが、306gという軽量の赤ちゃん人形の呼吸運動を明確に捕らえることができた。さらに、250mm×450mmの大きさの網布及びスポンジシートを用いて同様に光ファイバシート1を作製したところ、呼吸信号のPeak to Peak振幅(呼吸P−P)は0.009dBであったが、測定器のS/Nからくる呼吸モニターの最低検出レベル(ノイズレベル)である0.001dBを超えており、良好に呼吸を検出することができた。
【実施例4】
【0058】
シート状体である通気性を有する網布(250mm×350mm)に光ファイバ(コア径φ50μm、クラッド径φ125μm、配設延長10m:住友電工製EG5)を編み込み、図18に示すように、網布の端部近傍にて網布の短辺方向(幅方向)に折り返す4つのU字状部(最大径約70mm)を、U字状部が互い違いに向き合う配置で網布の両端にそれぞれ形成した。また、光ファイバの入射端側(若しくは出射端側)のU字状部は半U字状に形成するとともに、網布の端部(長辺)に沿って配設された出射側端の光ファイバと4つのU字状部(一つは半U字状部)が交差するように光ファイバを配設した構造体(8の字状配置)を作製した。そして、図示するように、網布の長辺方向にストライプ状に配置した両面粘着テープ(幅15mm)で、厚さ3mmの多数の空孔のあるスポンジシート(250mm×350mm)上に固定した。このとき、光ファイバが交差する近傍は粘着テープでスポンジシートに固定せず、当該交差点近傍の光ファイバが自由に変位するようにした。さらにこの構造体の上下に黒い布製のカバーを覆い、実施例4の光ファイバシートとした。
【0059】
この光ファイバシートをマットレス上に載置し、図10に示すように呼吸運動を行う赤ちゃん人形(質量306g)を用いて体動を測定した。光源には赤色LEDを用い、光ファイバシートの入射端及び光ファイバの出射端と光パワーメータを光ファイバコードで接続して光量変化を測定し、呼吸運動について計測を行った。その結果を図19に示す。
【0060】
図19に示すように、呼吸信号のPeak to Peak振幅(呼吸P−P)は0.022dBであり、306gという軽量の赤ちゃん人形の呼吸運動が明確に捕らえることができた。また、図示はしないが模擬無呼吸状態では、わずかなノイズ波形(Peak to Peak振幅は0.001dB以下)が見られたに過ぎなかった。このことは、NICUなどの未熟児の呼吸状態をモニターするのに適した光ファイバであることを示している。さらに同じ構成を有する光ファイバシートを別途作製して、同様に赤ちゃん人形の呼吸状態について計測したところ、呼吸信号のPeak to Peak振幅(呼吸P−P)は0.023dBであり、良好な再現性が得られた。この光ファイバシートも、実施例1よりもPeak to Peak振幅(呼吸P−P)が増大し、良好に体動を検出することができた。
【実施例5】
【0061】
次に、図20に示す配置を有する光ファイバシートを作製した。網布(250mm×450mm)に前記光ファイバを編み込み、図20に示すように、網布の端部近傍にて網布の短辺方向(幅方向)に折り返す5つのU字状部(径約70mm)を、U字状部が互い違いに向き合う配置で網布の両端にそれぞれ形成した。また、光ファイバの入射端側(若しくは出射端側)のU字状部は半U字状に形成するとともに、網布の端部(長辺)に沿って配設された出射側端の光ファイバと5つのU字状部(一つは半U字状部)が交差するように光ファイバを配設した構造体(8の字状配置)を作製した。構造体(8の字状配置)を作製した。そして、スポンジシート(250mm×450mm)上に両面粘着テープで固定して、実施例5の光ファイバシートを作製した。この光ファイバシートを用いて、実施例1と同様な条件で、赤ちゃん人形の呼吸状態について計測を行った。その結果、呼吸信号のPeak to Peak振幅(呼吸P−P)は0.014dB、模擬無呼吸状態では、わずかなノイズ波形(Peak to Peak振幅は0.001dB以下)が見られたに過ぎなかった。この光ファイバシートでは、呼吸信号のPeak to Peak振幅は実施例1の光ファイバシートに比べて小さくなり、感度が悪くなったが、306gという軽量の赤ちゃん人形の呼吸運動が明確に捕らえることができた。さらに同じ構成を有する光ファイバシートを別途作製して、同様に赤ちゃん人形の呼吸状態について計測したところ、呼吸信号のPeak to Peak振幅(呼吸P−P)は0.017dBであり、良好な再現性が得られた。
【0062】
実施例1〜5で得られた測定結果を表1にまとめた。いずれの光ファイバシートも、無呼吸状態では、Peak to Peak振幅は0.001dB以下という小さなノイズ波形しか観察されず、呼吸状態では測定器のS/Nからくる呼吸モニターの最低検出レベルである0.001dBを超えており、良好に呼吸を検出することができた。
【0063】
【表1】

【実施例6】
【0064】
シート状体である通気性を有する網布(400mm×600mm)に被覆が施された光ファイバを編み込み、図21に示すように、網布の短辺方向(幅方向)に折り返すU字状部(最大径約20mm)を、U字状部が互い違いに向き合う配置で網布の短辺方向に2段にそれぞれ形成した。さらに、横糸(線状部材)として光ファイバを網布の長辺方向に横切る方向に、伝送信号光路を構成しない18本の光ファイバを編み込んで光ファイバ構造体を作製した。そして、図示するように、両面粘着テープ(幅15mm)で、厚さ3mmの多数の空孔のあるスポンジシート(400mm×600mm)上に固定した。このとき、光ファイバ同士が交差する近傍は粘着テープでスポンジシートに固定せず、当該交差点近傍の光ファイバが自由に変位するようにした。また、4本の横糸を両面粘着テープでスポンジシートに固定した。さらにこの構造体の上下に黒い布製のカバーを覆い、実施例6の光ファイバシートとした。なお、実施例6においては表2に示す4種類の二次被覆された光ファイバを用い、横糸には光ファイバCK−20(三菱レイヨン社製、商品名エスカ、ファイバ径0.5mm)と光ファイバCK−30(同、ファイバ径0.75mm)を用いた。
【0065】
【表2】

【0066】
上記4種類の光ファイバシートを用いて、58歳の男性被験者(BMI:26)の協力のもとに就寝時の体動測定を行った。一般家庭において普段の就寝時に使うシーツの下に実施例6の光ファイバシートを敷き、普段どおりに就寝してもらった。図22にその結果の一例を示す。この結果は試験No.4による結果である。呼吸信号のPeak to Peak振幅(呼吸P−P)は0.009dBであり、測定器のS/Nからくる呼吸モニターの最低検出レベルである0.001dBを超えており、良好に呼吸を検出することができた。
【0067】
さらに、横糸に光ファイバCK−40(三菱レイヨン社製、商品名エスカ、ファイバ径1.0mm)を用いて同様の実験を行ったところ、いずれの心線を用いた場合にも、呼吸P−Pが約2倍程度の振幅が得られ、さらなる感度の向上が計られた(結果は図示せず)。これらの結果から、横糸の径が太いほど側圧効果が増大し、同じ構成を有する限り径の太い光ファイバを線状部材として用いるのが好ましいと言える。
【0068】
通常のGI型石英系光ファイバ(二次被覆のないタイプ)を用いた場合、呼吸P−Pは通常成人では0.03〜0.05dBになるが、上記二次被覆を有する心線タイプのGI型石英系光ファイバを用いた場合、306gという軽量の赤ちゃん人形では1つを除いて呼吸P−Pは0.003dB程度となった。このように軽量の被験者でも測定できる十分な感度が得られた。No.1や2の光ファイバシートでは横糸の種類に影響を受けず呼吸P−Pは小さいが、No.3や4の光ファイバシートでは横糸にファイバ径の太いCK−30を使用した場合に呼吸P−Pが大きく向上した。この要因として、No.1や2の光ファイバシートに用いられた心線は二次被覆がポリ塩化ビニル系の樹脂から作製されており比較的柔らかであるのに対し、No.3や4の光ファイバシート1に用いられた心線は二次被覆が硬質難燃性樹脂から作製されており比較的堅く、光ファイバ(コア)に圧力が直接的に加わったことが考えられる。また、No.3や4の光ファイバシート1に用いられた心線のコア径が50μmであるのに対し、No.1や2の光ファイバシート1に用いられた心線のコア径が62.5μmとそれに比べて大きく、No.3や4の光ファイバシート1用いられた心線のV値が低くなり、光の閉じ込め効果も下がり、センサとしての感度が向上したものと考えられる。このように二次被覆が施された光ファイバを用いても、実用に耐えられるうる光ファイバシートを作製できる。
【実施例7】
【0069】
シート状体である通気性を有するメッシュ構造の網布(250mm×450mm)に光ファイバ(コア径φ50μm、クラッド径φ125μm、配設延長10m:住友電工製EG5)を編み込み、図23に示すように、網布の端部近傍にて網布の短辺方向(幅方向)に折り返す5つのU字状部(径約70mm)を、U字状部が互い違いに向き合う配置で網布の両端にそれぞれ形成した。さらに、横糸(線状部材)として光ファイバCK−30(三菱レイヨン社製、商品名エスカ、ファイバ径0.75mm)を網布の長辺方向に編み込み光ファイバ構造体を作製した。そして、図示するように、網布の長辺方向及び幅方向にストライプ状に配置した両面粘着テープ(幅15mm)で、厚さ3mmの多数の空孔のあるスポンジシート(250mm×450mm)上に固定した。さらにこの構造体の上下に黒い布製のカバーを覆い、実施例7の光ファイバシートとした。この光ファイバシートを用いて、実施例1と同様な条件で、赤ちゃん人形の呼吸状態について計測を行った。その結果、呼吸信号のPeak to Peak振幅(呼吸P−P)は0.029dBとなり、横糸を用いない場合に比べて約2倍の感度(Peak to Peak振幅)が得られた。また、図示はしないが、実施例4に示された8の字状配置の光ファイバに5本の横糸を実施例7と同様に交差させた光ファイバシート(大きさ:250mm×350mm)を用いて測定したところ、同様に横糸を加えない場合に比べて約2倍の感度(Peak to Peak振幅)が得られた。
【0070】
以上説明したように、本発明の光ファイバシートを用いれば、測定器のS/Nからくる呼吸モニターの最低検出レベル(0.001dB)を超える信号を検出することができる。この結果、呼吸や寝返りのような体動はもちろんのこと、心拍のような小さな体動でも検出できることになる。また、繰り返し使用が可能であり、製造時における光ファイバの取りまわしが容易であるなどの点でも本発明の光ファイバシートは画期的なものであると言える。
【0071】
もっとも、本発明の光ファイバシートは、仰臥位や腹臥位になった人の呼吸や心拍、体動を感度よく検出できるのでSASの診断に対して非常に好適ではあるが、必ずしもSAS診断装置に限って用いられるものではなく、SAS診断装置の他にも体動を検出して姿勢の移動を捉えるための装置に広く用いることができるのは言うまでもない。
【0072】
なお、上記に示された実施形態や実施例は例示であって、本発明は上記の実施形態や実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲の範囲及びこれと均等に含まれるすべての変更が本発明に含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明によると、睡眠時無呼吸症候群の診断を含む横臥人患者の呼吸、心拍、体動の計測に好適に用いられる光ファイバシートが提供される。
【符号の説明】
【0074】
1 光ファイバシート
2 センサ制御部
5 寝具
6 光ファイバシートの表面となる遮光性のある外カバー
7 光ファイバシートの裏面となる外カバー
10 光ファイバが配線された光ファイバ構造体
11 光ファイバ
12 スポンジシートのようなシート状体
15 両面粘着テープ
17 線状部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバとそれを支持するシート状体を備え、当該シート状体上に直接又は間接に配設された前記光ファイバに加わる側圧により発生する過剰損失に基づく伝送信号光の光量変化を計測するための光ファイバシートであって、
前記シート状体上に配置された線状部材との交差によりできた接点を作用点として側圧を発生させる1つ以上の交差部が伝送信号光路上に形成されたことを特徴とする光ファイバシート。
【請求項2】
前記線状部材は伝送信号光路を構成する光ファイバであることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバシート。
【請求項3】
前記光ファイバを交差させて環状に配設した環状部が1つ以上形成されたことを特徴とする請求項2に記載の光ファイバシート。
【請求項4】
前記環状部が複数形成され、隣接した環状部が一部重なったことを特徴とする請求項3に記載の光ファイバシート。
【請求項5】
前記環状部の重なりにより形成された交差部近傍にある光ファイバと線状部材が前記シート状体に固定されていないことを特徴とする請求項4に記載の光ファイバシート。
【請求項6】
前記環状部の径が30mm〜50mmである請求項3〜5の何れか1項に記載の光ファイバシート。
【請求項7】
前記交差部が前記シート状体の幅方向に折り返すU字状部を多数形成しつつ配設された光ファイバの蛇行部と、前記光ファイバの光入射端若しくは光出射端の近くにてほぼ直線状に配設された前記光ファイバの光路端部との交差により形成されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の光ファイバシート。
【請求項8】
前記交差部近傍にある光ファイバと線状部材が前記シート状体に固定されていないことを特徴とする請求項7に記載の光ファイバシート。
【請求項9】
前記線状部材は伝送信号光路を構成しない光ファイバであることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバシート。
【請求項10】
前記線状部材が前記シート状体の幅方向に折り返すU字状部を多数形成しつつ配設された光ファイバの蛇行部に交差して配設されたことを特徴とする請求項9に記載の光ファイバシート。
【請求項11】
前記交差部近傍にある線状部材及び光ファイバが前記シート状体に固定されていないことを特徴とする請求項9又は10に記載の光ファイバシート。
【請求項12】
前記伝送信号光路を構成する光ファイバ及び/又は前記線状部材が粘着テープによって部分的に前記シート状体に固定されたことを特徴とする請求項1〜11の何れか1項に記載の光ファイバシート。
【請求項13】
前記伝送信号光路を構成する光ファイバがグレーデットインデックス石英系光ファイバであることを特徴とする請求項1〜12の何れか1項に記載の光ファイバシート。
【請求項14】
前記伝送信号光路を構成する光ファイバが二次被覆を有することを特徴とする請求項1〜13の何れか1項に記載の光ファイバシート。
【請求項15】
光源と、
請求項1〜14の何れか1項に記載の光ファイバシートと、
光ファイバシートから出力された光量変化を測定し、体動を検出する解析部を備えた体動検出装置。
【請求項16】
光ファイバへの入力信号光が全モード励振条件で入力されることを特徴とする請求項15に記載の体動検出装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2012−65911(P2012−65911A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−214227(P2010−214227)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【出願人】(504303159)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(000243342)本多通信工業株式会社 (92)
【Fターム(参考)】