光ファイバテープ心線
【課題】偏波モード分散を低減させた光ファイパテープ心線を提供すること。
【解決手段】本発明にかかる光ファイバテープ心線10は、複数の光ファイバ20を並列させ、光ファイバ20の周囲を被覆により一体化した光ファイバテープ心線において、光ファイバテープ心線10の長手方向と垂直な断面において、被覆14は、隣り合う光ファイバ20間に対応する外表面にスリットSを備える。これにより、水平方向の応力を分断して水平方向と垂直方向との応力差を低減し、偏波モード分散を低減する。
【解決手段】本発明にかかる光ファイバテープ心線10は、複数の光ファイバ20を並列させ、光ファイバ20の周囲を被覆により一体化した光ファイバテープ心線において、光ファイバテープ心線10の長手方向と垂直な断面において、被覆14は、隣り合う光ファイバ20間に対応する外表面にスリットSを備える。これにより、水平方向の応力を分断して水平方向と垂直方向との応力差を低減し、偏波モード分散を低減する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の光ファイバを並列させ、光ファイバの周囲を被覆により一体化した光ファイバテープ心線に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のインターネット利用者の増加を一因とする通信量の急増にともない、光ファイバ通信における速度の高速化が求められている。このような40Gbps以上の高速通信を行なう長距離伝送では、伝送路である光ファイバ中に生じる偏波モード分散(PMD:Polarization Mode Dispersion)による信号劣化が大きな問題となる。このPMDの発生する原因のひとつは、光ファイバに加えられる不均一な応力であることが知られている。
【0003】
ここで、従来の光ファイバテープ心線について説明する。図29および図30は、従来の光ファイバテープ心線の長手方向と垂直な断面を示す断面図である。以降の図では、横方向を光ファイバの並列方向(水平方向)とし、縦方向を光ファイバの並列方向と垂直な方向(垂直方向)として説明する。図29に示すように、従来の光ファイバテープ心線100は、複数の光ファイバ104を互いの側面が接する(k=0)ように配置して、その上に一括して被覆105を形成したものがある(例えば、特許文献1〜3参照)。また、図30に示す光ファイバテープ心線101のように、複数の光ファイバ104の側面を所定間kだけ隔離させて配置し、それらの上に被覆105を形成したものも提案されている(例えば、特許文献4〜7参照)。
【0004】
このような光ファイバテープ心線100,101においては、複数の光ファイバを一括被覆してテープ状に形成することから被覆105が、垂直方向よりも水平方向に多く存在することになるため、1本の光ファイバに対して垂直方向よりも水平方向に大きな応力が生じる。この結果、水平方向の応力と垂直方向の応力との応力差が生じ、PMDが大きくなるという問題があった。なお、被覆105により生じる応力は、たとえば、被覆105を押出被覆した後に該被覆105が硬化する際の硬化収縮等により生じるものである。また、光ファイバテープ心線100、101のうち、被覆105が光ファイバ104の側面にのみに存在する光ファイバ(両端以外の光ファイバ)は、特に水平方向と垂直方向の応力差が生じやすくPMDが大きくなりやすい。
【0005】
光ファイバテープ心線101のように、光ファイバ104間に間隔を離して被覆材を入れて緩衝材の役目をさせ、水平方向と垂直方向の応力差を小さくすることでPMDの悪化を抑制することができるが、細いケーブルに多くの光ファイバを実装するためには、光ファイバテープ心線の大きさは小さい方が好ましく、この方法でPMDを減少するのには限界があった。
【0006】
そこで、図31に示す光ファイバテープ心線110のように、隣り合う光ファイバ111の間のくぼみに応じて被覆112に凹部116を形成することによって、PMDを低減した光ファイバテープ心線が提案されている(例えば、特許文献8参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−311726号公報
【特許文献2】特開2000−241685号公報
【特許文献3】特開2002−341201号公報
【特許文献4】特開平5−80238号公報
【特許文献5】特開2001−208944号公報
【特許文献6】特開2002−250850号公報
【特許文献7】特開平4−268522号公報
【特許文献8】特許第3664254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
光ファイバ通信におけるさらなる高速化、高密度化に伴い、さらなるPMDの低減が望まれてきている。図31に示す光ファイバテープ心線110においても、なお水平方向と垂直方向に存在する被覆の量に差があり、PMDの低減は不十分であった。
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、偏波モード分散を低減させた光ファイパテープ心線を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる光ファイバテープ心線は、 複数の光ファイバを並列させ、前記光ファイバの周囲を被覆により一体化した光ファイバテープ心線であって、前記光ファイバテープ心線の長手方向と垂直な断面において、前記被覆は、隣り合う前記光ファイバ間に対応する外表面に溝を備えることを特徴とする。
【0011】
また、この発明にかかる光ファイバテープ心線は、前記光ファイバテープ心線の前記断面において、前記光ファイバの中心を通り、かつ、光ファイバの並列方向と垂直な線上において前記被覆の厚さtが2〔μm〕≦t≦20〔μm〕であって、前記溝の前記線上における前記光ファイバの外表面位置と同じ高さから最深部までの深さL〔μm〕および前記光ファイバの表面位置と同じ高さから前記深さLの0.7倍の深さにおける前記溝の幅w〔μm〕は、0.0021w2−0.525w+53.73≦L≦0.0057w2−1.256w+99.25の関係を満たすとともに、25〔μm〕≦L≦95〔μm〕、5〔μm〕≦w≦80〔μm〕であることを特徴とする。
【0012】
また、この発明にかかる光ファイバテープ心線は、前記深さL〔μm〕は、40〔μm〕≦L≦95〔μm〕の範囲内にあり、前記幅w〔μm〕は、5〔μm〕≦w≦60〔μm〕の範囲内にあることを特徴とする。
【0013】
また、この発明にかかる光ファイバテープ心線は、前記深さL〔μm〕は、45〔μm〕≦L≦95〔μm〕の範囲内にあり、前記幅w〔μm〕は、5〔μm〕≦w≦20〔μm〕の範囲内にあることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、複数の光ファイバの周囲を被覆により一体化した光ファイバテープ心線において、被覆は、表面が水平となるように形成されるとともに隣り合う光ファイバ間に対応する表面領域に溝を有するため、水平方向の応力を分断して水平方向と垂直方向との応力差を低減することができ、偏波モード分散を低減することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、実施の形態1にかかる光ファイバテープ心線の断面図である。
【図2】図2は、図1に示す領域Aの拡大図である。
【図3】図3は、内側ファイバにおける水平方向の応力、垂直方向の応力とスリット深さとの関係を示す図である。
【図4】図4は、外側ファイバにおける水平方向の応力、垂直方向の応力とスリット深さとの関係を示す図である。
【図5】図5は、図3および図4に示す内側ファイバおよび外側ファイバにおける水平方向と垂直方向の応力差と、スリット深さとの関係を示す図である。
【図6】図6は、図5の光ファイバの位置と、水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図7】図7は、被覆の厚さを20〔μm〕、各スリットのスリット幅を20〔μm〕とした場合の光ファイバの位置と水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図8−1】図8−1は、被覆の厚さを20〔μm〕、各スリットのスリット幅を5〔μm〕とした場合の光ファイバの位置と、水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図8−2】図8−2は、被覆の厚さを20〔μm〕、各スリットのスリット幅を10〔μm〕とした場合の光ファイバの位置と、水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図8−3】図8−3は、被覆の厚さを20〔μm〕、各スリットのスリット幅を40〔μm〕とした場合の光ファイバの位置と、水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図8−4】図8−4は、被覆の厚さを20〔μm〕、各スリットのスリット幅を60〔μm〕とした場合の光ファイバの位置と、水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図8−5】図8−5は、被覆の厚さを20〔μm〕、各スリットのスリット幅を80〔μm〕とした場合の光ファイバの位置と、水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図9−1】図9−1は、被覆の厚さを15〔μm〕、各スリットのスリット幅を5〔μm〕とした場合の光ファイバの位置と、水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図9−2】図9−2は、被覆の厚さを15〔μm〕、各スリットのスリット幅を20〔μm〕とした場合の光ファイバの位置と、水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図9−3】図9−3は、被覆の厚さを15〔μm〕、各スリットのスリット幅を40〔μm〕とした場合の光ファイバの位置と、水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図9−4】図9−4は、被覆の厚さを15〔μm〕、各スリットのスリット幅を60〔μm〕とした場合の光ファイバの位置と、水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図9−5】図9−5は、被覆の厚さを15〔μm〕、各スリットのスリット幅を80〔μm〕とした場合の光ファイバの位置と、水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図10−1】図10−1は、被覆の厚さを10〔μm〕、各スリットのスリット幅を5〔μm〕とした場合の光ファイバの位置と、水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図10−2】図10−2は、被覆の厚さを10〔μm〕、各スリットのスリット幅を10〔μm〕とした場合の光ファイバの位置と、水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図10−3】図10−3は、被覆の厚さを10〔μm〕、各スリットのスリット幅を20〔μm〕とした場合の光ファイバの位置と、水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図10−4】図10−4は、被覆の厚さを10〔μm〕、各スリットのスリット幅を40〔μm〕とした場合の光ファイバの位置と、水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図10−5】図10−5は、被覆の厚さを10〔μm〕、各スリットのスリット幅を60〔μm〕とした場合の光ファイバの位置と、水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図10−6】図10−6は、被覆の厚さを10〔μm〕、各スリットのスリット幅を80〔μm〕とした場合の光ファイバの位置と、水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図11−1】図11−1は、被覆の厚さを5〔μm〕、各スリットのスリット幅を5〔μm〕とした場合の光ファイバの位置と、水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図11−2】図11−2は、被覆の厚さを5〔μm〕、各スリットのスリット幅を10〔μm〕とした場合の光ファイバの位置と、水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図11−3】図11−3は、被覆の厚さを5〔μm〕、各スリットのスリット幅を20〔μm〕とした場合の光ファイバの位置と、水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図11−4】図11−4は、被覆の厚さを5〔μm〕、各スリットのスリット幅を40〔μm〕とした場合の光ファイバの位置と、水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図11−5】図11−5は、被覆の厚さを5〔μm〕、各スリットのスリット幅を60〔μm〕とした場合の光ファイバの位置と、水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図11−6】図11−6は、被覆の厚さを5〔μm〕、各スリットのスリット幅を80〔μm〕とした場合の光ファイバの位置と、水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図12−1】図12−1は、被覆の厚さを2〔μm〕、各スリットのスリット幅を5〔μm〕とした場合の光ファイバの位置と、水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図12−2】図12−2は、被覆の厚さを2〔μm〕、各スリットのスリット幅を10〔μm〕とした場合の光ファイバの位置と、水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図12−3】図12−3は、被覆の厚さを2〔μm〕、各スリットのスリット幅を20〔μm〕とした場合の光ファイバの位置と、水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図12−4】図12−4は、被覆の厚さを2〔μm〕、各スリットのスリット幅を40〔μm〕とした場合の光ファイバの位置と、水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図12−5】図12−5は、被覆の厚さを2〔μm〕、各スリットのスリット幅を60〔μm〕とした場合の光ファイバの位置と、水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図12−6】図12−6は、被覆の厚さを2〔μm〕、各スリットのスリット幅を80〔μm〕とした場合の光ファイバの位置と、水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図13】図13は、応力差が最も0に近い値となるスリット幅とスリット深さとの組み合わせをそれぞれ対応づけて示す図である。
【図14】図14は、実施の形態1におけるスリット幅とスリット深さとの組み合わせの範囲を示す図である。
【図15】図15は、実施の形態1におけるスリット幅とスリット深さとの組み合わせの他の範囲を示す図である。
【図16】図16は、実施の形態1におけるスリット幅とスリット深さとの組み合わせの他の範囲を示す図である。
【図17】図17は、実施の形態2にかかる光ファイバテープ心線の断面図である。
【図18】図18は、図17における領域Bの拡大図である。
【図19】図19は、被覆の水平方向の厚さが20〔μm〕であって垂直方向の厚さが12.5〔μm〕であって、各スリットのスリット幅を20〔μm〕とした場合の光ファイバの位置と、水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図20−1】図20−1は、被覆の水平方向の厚さが20〔μm〕であって垂直方向の厚さが12.5〔μm〕であって各スリットのスリット幅を5〔μm〕とした場合の光ファイバの位置と、水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図20−2】図20−2は、被覆の水平方向の厚さが20〔μm〕であって垂直方向の厚さが12.5〔μm〕であって各スリットのスリット幅を10〔μm〕とした場合の光ファイバの位置と、水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図20−3】図20−3は、被覆の水平方向の厚さx20〔μm〕であって垂直方向の厚さが12.5〔μm〕であって各スリットのスリット幅を40〔μm〕とした場合の光ファイバの位置と、水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図20−4】図20−4は、被覆の水平方向の厚さx20〔μm〕であって垂直方向の厚さが12.5〔μm〕であって各スリットのスリット幅を60〔μm〕とした場合の光ファイバの位置と、水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図20−5】図20−5は、被覆の水平方向の厚さx20〔μm〕であって垂直方向の厚さが12.5〔μm〕であって各スリットのスリット幅を80〔μm〕とした場合の光ファイバの位置と、水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図21】図21は、被覆の水平方向の厚さxが20〔μm〕であって垂直方向の厚さyが12.5〔μm〕であって各スリットのスリット幅を20〔μm〕としスリットS2のスリット深さL2を47.5〔μm〕とした場合の光ファイバの位置と、水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図22】図22は、実施の形態1,2にかかる光ファイバテープ心線の他の例の断面図である。
【図23】図23は、実施の形態1,2にかかる光ファイバテープ心線の他の例の断面図である。
【図24】図24は、実施の形態1,2にかかる光ファイバテープ心線の他の例の断面図である。
【図25】図25は、実施の形態1,2にかかる光ファイバテープ心線の他の例の断面図である。
【図26】図26は、実施の形態1,2にかかる光ファイバテープ心線の他の例の断面図である。
【図27】図27は、実施の形態1,2にかかる光ファイバテープ心線の他の例の断面図である。
【図28】図28は、実施の形態1,2にかかる光ファイバテープ心線の他の例の断面図である。
【図29】図29は、従来の光ファイバテープ心線断面図である。
【図30】図30は、従来の光ファイバテープ心線断面図である。
【図31】図31は、従来の光ファイバテープ心線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明にかかる実施の形態である光ファイバテープ心線について説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、図面の記載において、同一部分には同一の符号を付している。また、図面は模式的なものであり、各層の厚みと幅との関係、各層の比率などは、現実と異なることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。
【0017】
(実施の形態1)
まず、実施の形態にかかる光ファイバテープ心線について説明する。図1は、本実施の形態1にかかる光ファイバテープ心線の長手方向と垂直な断面の断面図である。なお、図1、図2、および図17、図18においては、4本の光ファイバ20の並列方向をx方向、すなわち、水平方向とし、光ファイバ20の並列方向と垂直な方向をy方向、すなわち垂直方向として説明する。
【0018】
図1に示すように、本実施の形態1にかかる光ファイバテープ心線10は、二以上の光ファイバ20を並列し、これら並列した光ファイバ20の外周の全体を被覆14で覆い一体化したものである。なお、図1では、一例として4本の光ファイバ20を用いた光ファイバテープ心線10を例示している。
【0019】
光ファイバ20は、石英製のガラス光ファイバと、該ガラス光ファイバの外周を覆う被覆層からなる。被覆層は軟質のプライマリ12と、該プライマリ12の上に被覆された硬質のセカンダリ13によって形成される。プライマリ12、セカンダリ13としては、紫外線硬化型樹脂が一般的に用いられる。各光ファイバ20は、所定間隔で一列に配置される。
【0020】
被覆14は、紫外線硬化型樹脂からなる。また、被覆14は、紫外線硬化型樹脂のほか、熱可塑性樹脂膜または熱硬化性樹脂を用いて形成してもよい。
【0021】
被覆14は、光ファイバ20の長手方向と垂直な断面において、隣り合う前記光ファイバ間に対応する外表面にスリットSを備える。図1に示す例においては、4本の光ファイバ20が並列配置されていることから、各光ファイバ20間の上部表面および下部表面のそれぞれに3箇所にスリットSが設けられている。
【0022】
このようにすることで、被覆14の水平方向の連続性を断ち切ることができ、一括被覆時に被覆14の硬化収縮があっても、水平方向の応力Sxを従来における水平方向の応力Sx0よりも格段に低くできる。これにより、水平方向と垂直方向の応力差を小さくすることができ、PMDを低減することができる。
【0023】
次に、光ファイバテープ心線10のスリットSの形状によって光ファイバテープ心線10の水平方向の応力および垂直方向の応力がどのように変化するかを解析した。なお、本明細書において、図1の領域Aの拡大図である図2に示すように、被覆14の厚さをt〔μm〕とは、光ファイバの中心を通る垂直方向の直線上における被覆14の厚さ(垂直方向の厚さ)とする。また、スリット深さL〔μm〕とは、スリットの光ファイバの中心を通る垂直方向の直線上における前記光ファイバの外表面位置と同じ高さから最深部までの深さとする。さらに、スリット幅w〔μm〕とは、スリット深さLの0.7倍の深さにおける幅とする。
【0024】
なお、実施の形態1においては、両端に位置する光ファイバ20の光ファイバ20の中心を通る水平方向の直線上における被覆14の厚さ(水平方向の厚さ)も、上記被覆14の垂直方向の厚さt〔μm〕と同じ厚さtで被覆14が形成されている。
【0025】
実際に、光ファイバテープ心線10の被覆14表面にスリットSを形成する場合、切り込み部分の角が丸くなったり変形したりすることが多いため、スリット幅が深さ方向に対してほぼ安定して同じ幅になるスリットS深さLの0.7倍の深さにおける幅をスリット幅w〔μm〕としている。また、光ファイバテープ心線10の内側2本の光ファイバ20を内側ファイバとし、その両端の光ファイバ20を外側ファイバと称する。
【0026】
また、解析においては、ガラス光ファイバ11、プライマリ12、セカンダリ13および被覆14のヤング率、ポアソン比、収縮率および外径として、表1に示す各数値を用いている。各応力の単位は、MPaである。なお、光ファイバの種類としては、ITU−T(国際電気通信連合)G.652準拠のSMFファイバを用いた。
【0027】
【表1】
【0028】
まず、被覆14の厚さtを15〔μm〕、各スリットSのスリット幅wを10〔μm〕とし、スリット深さLを35〜75〔μm〕に変化させた場合の水平方向応力Sxおよび垂直方向応力Syを解析した。結果を図3、図4に示す。図3は、内側ファイバにおける水平方向応力Sx、垂直方向応力Syとスリット深さLとの関係を示す図であり、図4は、外側ファイバにおける水平方向応力Sx、垂直方向応力Syとスリット深さLとの関係を示す図である。なお、縦軸の応力においては、負の方向は圧縮方向に対応し、正の方向は引っ張り方向に対応する。
【0029】
図3、図4に示すように、内側ファイバおよび外側ファイバのいずれにも圧縮応力がかかっている。また、内側ファイバおよび外側ファイバのいずれにおいても、スリット深さLが深くなるにしたがって、水平方向応力Sxが引っ張り方向に進み、相対的に垂直方向応力Syが圧縮方向に進む。さらにスリット深さLを深くすると、水平方向応力Sxと垂直方向応力Syとが交差した後も、そのまま、水平方向応力Sxは引っ張り方向に進み、垂直方向応力Syは圧縮方向に進む。そして、内側ファイバおよび外側ファイバのそれぞれの水平方向応力Sxと垂直方向応力Syが交差するスリット深さLでは、各々の光ファイバ20の水平方向応力Sxと垂直方向応力Syとの応力差(Sx−Sy)が理論上0になる。
【0030】
図5に、図3および図4に示す内側ファイバおよび外側ファイバにおける各応力差(Sx−Sy)と、スリット深さLとの関係を示す。なお、図6および以降の図7〜図12−6、図19〜図20−5、図21におけるファイバ位置は、図1の左から数えた場合の位置番号に対応し、内側ファイバはファイバ位置「2」,「3」となり、外側ファイバはファイバ位置「1」,「4」となる。
【0031】
ここで、理想的にPMDが0になるスリット深さLは、内側ファイバにおける応力差(Sx−Sy)と、外側ファイバにおける応力差(Sx−Sy)との交点が0になる場合である。しかしながら、実際には、内側ファイバにおける応力差(Sx−Sy)と、外側ファイバにおける応力差(Sx−Sy)との交点が完全に0になることはほとんどない。このため、内側ファイバにおける応力差(Sx−Sy)と、外側ファイバにおける応力差(Sx−Sy)との絶対値が最も0に近い値で等しくなるときに、応力差(Sx−Sy)を最小にでき、被覆14の硬化収縮に起因するPMDを最小とすることができる。
【0032】
図5に示す場合においては、スリット深さがL=55.8〔μm〕である場合に、内側ファイバにおける応力差(Sx−Sy)と、外側ファイバにおける応力差(Sx−Sy)との絶対値が最も0に近い値で等しくなる。
【0033】
実際に、図5に示す各スリット深さごとに各光ファイバ位置の応力差(Sx−Sy)を解析した。図6は、各ファイバ位置における応力差(Sx−Sy)を示し、図6(1)は、スリット深さL=35〔μm〕である場合であり、図6(2)は、スリット深さL=45〔μm〕である場合であり、図6(3)は、スリット深さL=50〔μm〕である場合であり、図6(4)は、スリット深さL=55〔μm〕である場合であり、図6(5)は、スリット深さL=60〔μm〕である場合であり、図6(6)は、スリット深さL=65〔μm〕である場合である。
【0034】
図6(1)〜(6)に示すように、内側ファイバと外側ファイバの応力差(Sx−Sy)は、スリット深さLが深くなるにしたがって、符号がマイナスからプラスに変化することから、内側ファイバと外側ファイバにおける応力差(Sx−Sy)の絶対値が最も0に近い値で等しくなるスリット深さがある。そして、図5で説明したように、内側ファイバにおける応力差(Sx−Sy)と、外側ファイバにおける応力差(Sx−Sy)との絶対値が最も0に近い値で等しくなる付近のスリット深さがL=55〔μm〕の場合には、いずれの位置の光ファイバ20においても、応力差(Sx−Sy)がほぼ0に近い値となり、被覆14の硬化収縮に起因するPMDを確実に最小化することができる。したがって、被覆14の厚さtが15〔μm〕であって、各スリットSのスリット幅wを10〔μm〕とした場合においては、スリット深さをL=55〔μm〕に設定することが好ましい。
【0035】
図3〜図6においては、被覆14の厚さtが15〔μm〕であって、各スリットSのスリット幅wを10〔μm〕とした場合におけるスリット深さLを検討したが、もちろんこれに限らず、被覆14の厚さtが15〔μm〕と異なる厚さである場合も同様に、スリットSのスリット深さLおよびスリット幅wを設定すればよい。
【0036】
たとえば、被覆14の厚さtが20〔μm〕であって、各スリットSのスリット幅wを20〔μm〕とした場合について検討する。図7は、被覆14の厚さtが20〔μm〕であって、各スリットSのスリット幅wを20〔μm〕とした場合の応力差(Sx−Sy)を示す図であり、図7(a)は、スリット深さLを25〜60〔μm〕に変化させた場合における各ファイバ位置の応力差(Sx−Sy)を示し、図7(b)は、内側ファイバおよび外側ファイバにおける各応力差(Sx−Sy)とスリット深さLとの関係を示す。この場合には、図7(b)に示すように、スリット深さLが44〔μm〕の場合に、内側ファイバにおける応力差(Sx−Sy)と外側ファイバにおける応力差(Sx−Sy)の絶対値がほぼ0に近い値で等しくなり、図7(a)に示すように、このスリット深さLに最も近い深さであるL=45〔μm〕で、いずれの位置の光ファイバ20においても、応力差(Sx−Sy)がほぼ0に近い値となった。
【0037】
また、被覆14の厚さtが20〔μm〕であって、スリット幅を別の値とした場合についても、同様に解析することができる。図8−1は、各スリットSのスリット幅wを5〔μm〕、図8−2は、スリット幅wを10〔μm〕、図8−3は、スリット幅wを40〔μm〕、図8−4は、スリット幅wを60〔μm〕、図8−5は、スリット幅wを80〔μm〕とした場合を示す。そして、図8−1〜図8−5の各(a)図は、各スリット深さLにおける各ファイバ位置における応力差(Sx−Sy)を示し、各(b)図は、内側ファイバおよび外側ファイバにおける各応力差(Sx−Sy)とスリット深さLとの関係を示す。
【0038】
図8−1〜図8−5に示すように、各スリットSのスリット幅wを5〔μm〕とした場合には、スリット深さLが51.5〔μm〕、スリット幅wを10〔μm〕とした場合には、スリット深さLが48.3〔μm〕、スリット幅wを40〔μm〕とした場合には、スリット深さLが36.2〔μm〕、スリット幅wを60〔μm〕とした場合には、スリット深さLが29.8〔μm〕、スリット幅wを80〔μm〕とした場合には、スリット深さLが25.1〔μm〕の場合に内側ファイバにおける応力差(Sx−Sy)と外側ファイバにおける応力差(Sx−Sy)の絶対値がほぼ0に近い値で等しくなった。このように、各スリット幅wごとに、それぞれ応力差(Sx−Sy)がほぼ0に近い値となるスリット深さLを求めることができる。
【0039】
また、図9−1〜図9−5に示すように、被覆14の厚さtを15〔μm〕とした場合についても、各スリット幅wについて、それぞれ応力差(Sx−Sy)がほぼ0に近い値となるスリット深さLを求めた。なお、前述した図3〜図6において、スリット幅wが10〔μm〕である場合には、応力差(Sx−Sy)がほぼ0に近い値となるスリット深さLとして55.8〔μm〕が得られているため、それ以外のスリット幅wとした場合について検討する。図9−1は、各スリットSのスリット幅wを5〔μm〕とした場合に対応し、図9−2は、各スリットSのスリット幅wを20〔μm〕とした場合に対応し、図9−3は、各スリットSのスリット幅wを40〔μm〕とした場合に対応し、図9−4は、各スリットSのスリット幅wを60〔μm〕とした場合に対応し、図9−5は、各スリットSのスリット幅wを80〔μm〕とした場合に対応する。そして、図9−1〜図9−5の各(a)図は、各スリット深さLにおける各ファイバ位置における応力差(Sx−Sy)を示し、各(b)図は、内側ファイバおよび外側ファイバにおける各応力差(Sx−Sy)とスリット深さLとの関係を示す。
【0040】
その結果、図9−1〜図9−5に示すように、各スリットSのスリット幅wを5〔μm〕とした場合には、スリット深さLが58.4〔μm〕、スリットSのスリット幅wを20〔μm〕とした場合には、スリット深さLが49.8〔μm〕、スリットSのスリット幅wを40〔μm〕とした場合には、スリット深さLが41.5〔μm〕、スリット幅wを60〔μm〕とした場合には、スリット深さLが33.9〔μm〕、スリット幅wを80〔μm〕とした場合には、スリット深さLが28.4〔μm〕で、内側ファイバにおける応力差(Sx−Sy)と外側ファイバにおける応力差(Sx−Sy)の絶対値が最も0に近い値で等しくなり、いずれの位置の光ファイバ20においても、応力差(Sx−Sy)が最も0に近い値となった。
【0041】
また、図10−1〜図10−6に示すように、被覆14の厚さtを10〔μm〕とした場合についても、各スリット幅wについて、それぞれ応力差(Sx−Sy)が最も0に近い値となるスリット深さLを求めた。図10−1は、各スリットSのスリット幅wを5〔μm〕とした場合に対応し、図10−2は、各スリットSのスリット幅wを10〔μm〕とした場合に対応し、図10−3は、各スリットSのスリット幅wを20〔μm〕とした場合に対応し、図10−4は、各スリットSのスリット幅wを40〔μm〕とした場合に対応し、図10−5は、各スリットSのスリット幅wを60〔μm〕とした場合に対応し、図10−6は、各スリットSのスリット幅wを80〔μm〕とした場合に対応する。そして、図10−1〜図10−6の各(a)図は、各スリット深さLにおける各ファイバ位置における応力差(Sx−Sy)を示し、各(b)図は、内側ファイバおよび外側ファイバにおける各応力差(Sx−Sy)とスリット深さLとの関係を示す。
【0042】
図10−1〜図10−6に示すように、各スリットSのスリット幅wを5〔μm〕とした場合は、スリット深さLが68.2〔μm〕、スリット幅wを10〔μm〕とした場合は、スリット深さLが65.1〔μm〕、スリット幅wを20〔μm〕とした場合には、スリット深さLが58.9〔μm〕、スリット幅wを40〔μm〕とした場合には、スリット深さLが48.1〔μm〕、スリット幅wを60〔μm〕とした場合には、スリット深さLが39.2〔μm〕、スリット幅wを80〔μm〕とした場合には、スリット深さLが33.2〔μm〕で、内側ファイバにおける応力差(Sx−Sy)と外側ファイバにおける応力差(Sx−Sy)の絶対値が最も0に近い値で等しくなり、いずれの位置の光ファイバ20においても、応力差(Sx−Sy)が最も0に近い値となった。
【0043】
また、図11−1〜図11−6に示すように、被覆14の厚さtを5〔μm〕とした場合についても、各スリット幅wについて、それぞれ応力差(Sx−Sy)がほぼ0に近い値となるスリット深さLを求めた。図11−1は、各スリットSのスリット幅wを5〔μm〕とした場合に対応し、図11−2は、各スリットSのスリット幅wを10〔μm〕とした場合に対応し、図11−3は、各スリットSのスリット幅wを20〔μm〕とした場合に対応し、図11−4は、各スリットSのスリット幅wを40〔μm〕とした場合に対応し、図11−5は、各スリットSのスリット幅wを60〔μm〕とした場合に対応し、図11−6は、各スリットSのスリット幅wを80〔μm〕とした場合に対応する。そして、図11−1〜図11−6の各(a)図は、各スリット深さLにおける各ファイバ位置における応力差(Sx−Sy)を示し、各(b)図は、内側ファイバおよび外側ファイバにおける各応力差(Sx−Sy)とスリット深さLとの関係を示す。なお、被覆14の厚さtを5〔μm〕とした場合には、光ファイバテープ心線10の構造上、スリット幅wが広くなり、さらにスリット深さLが深くなると光ファイバのセカンダリ13にスリットSが食い込んでしまう。このため、セカンダリ13にスリットSが食い込まないようなスリット深さLにおいて、応力差が最小となるスリット幅wとスリット深さLを求めた。
【0044】
図11−1〜図11−6に示すように、各スリットSのスリット幅wを5〔μm〕とした場合には、スリット深さLが81.5〔μm〕、スリット幅wを10〔μm〕とした場合には、スリット深さLが77.2〔μm〕、スリット幅wを20〔μm〕とした場合には、スリット深さLが69.1〔μm〕、スリット幅wを40〔μm〕とした場合には、スリット深さLが55.9〔μm〕、スリット幅wを60〔μm〕とした場合には、スリット深さLが44.8〔μm〕で、内側ファイバにおける応力差(Sx−Sy)と外側ファイバにおける応力差(Sx−Sy)の絶対値が最も0に近い値で等しくなり、いずれの位置の光ファイバ20においても、応力差(Sx−Sy)が最も0に近い値となった。なお、スリット幅wを80〔μm〕の場合には、スリット深さLが35.5〔μm〕以上で、セカンダリ13にスリットが食い込んでしまうため、それまでの範囲で、内側ファイバまたは外側ファイバの応力差の絶対値が最もゼロに近い値(絶対値の最小値)をとるときの、スリット深さLが応力差の最小値となる。したがってこの場合にはスリット深さL35.3〔μm〕である。
【0045】
また、図12−1〜図12−6に示すように、被覆14の厚さtを2〔μm〕とした場合についても、各スリット幅wについて、それぞれ応力差(Sx−Sy)がほぼ0に近い値となるスリット深さLを求めた。図12−1は、各スリットSのスリット幅wを5〔μm〕とした場合に対応し、図12−2は、各スリットSのスリット幅wを10〔μm〕とした場合に対応し、図12−3は、各スリットSのスリット幅wを20〔μm〕とした場合に対応し、図12−4は、各スリットSのスリット幅wを40〔μm〕とした場合に対応し、図12−5は、各スリットSのスリット幅wを60〔μm〕とした場合に対応し、図12−6は、各スリットSのスリット幅wを80〔μm〕とした場合に対応する。そして、図12−1〜図12−6の各(a)図は、各スリット深さLにおける各ファイバ位置における応力差(Sx−Sy)を示し、各(b)図は、内側ファイバおよび外側ファイバにおける各応力差(Sx−Sy)とスリット深さLとの関係を示す。なお、スリット幅wを40〔μm〕以上において、被覆14の厚さtを2〔μm〕とした場合も同様に、セカンダリ13にスリットSが食い込まないようなスリット深さLにおいて、応力差が最小となるスリット幅wとスリット深さLを求めた。また、被覆14の厚さは、薄くなる傾向にあるが、その機能を保つためには2〔μm〕程度の厚さが最小値であると考えられる。
【0046】
図12−1〜図12−6に示すように、各スリットSのスリット幅wを2〔μm〕とした場合には、スリット深さLが93.5〔μm〕、スリット幅wを10〔μm〕とした場合には、スリット深さLが87〔μm〕、スリット幅wを20〔μm〕とした場合には、スリット深さLが76.2〔μm〕で、内側ファイバにおける応力差(Sx−Sy)と外側ファイバにおける応力差(Sx−Sy)の絶対値が最も0に近い値で等しくなり、応力差(Sx−Sy)が最も0に近い値となった。一方、スリット幅w40〔μm〕以上では、上述したようにスリット深さによってはセカンダリ13にスリットが食い込んでしまうため、その深さ以上にはスリットを入れられない。したがってスリットがセカンダリ13に食い込まない範囲で、内側ファイバまたは外側ファイバの応力差の絶対値が最もゼロに近い値(絶対値の最小値)をとるときの、スリット深さLが応力差の最小値となる。したがって、スリット幅wを40〔μm〕とした場合には、スリット深さLが58〔μm〕、スリット幅wを60〔μm〕とした場合には、スリット深さLが43〔μm〕、スリット幅wを80〔μm〕とした場合には、スリット深さLが28〔μm〕となる。
【0047】
スリットSは、被覆14の水平方向の圧縮応力を確実に分断できる程度の大きさで切り込まれた形状を有する必要がある。上記のように、被覆14の厚さtに応じて、各スリット幅wに対し、応力差(Sx−Sy)が最も0に近い値となるスリット深さLを求め、求めたスリット幅wおよびスリット深さLでスリットSを形成すればよい。そして、内側ファイバにおける応力差(Sx−Sy)と外側ファイバにおける応力差(Sx−Sy)の絶対値が最も0に近い値で等しくなるスリット幅wおよびスリット深さLでスリットSを形成することによって、水平方向応力と垂直方向応力の差を、0.05MPa以下の比較的小さな値とすることができる。また、被覆の厚さによっては、セカンダリ13にスリットが食い込んでしまう場合があるため、スリットが食い込まない範囲で、内側ファイバまたは外側ファイバの応力差の絶対値が最もゼロに近い値(絶対値の最小値)をとるときのスリット深さLが、応力差の最小値となる。これは、図11−6および図12−4〜6の場合に相当し、最小となる応力差は0.03〜0.2MPaと範囲は広いが、これらのスリット形状では最小となる。
【0048】
さらに、上記の結果をもとに、各被覆14の厚さtごとに、応力差(Sx−Sy)が最も0に近い値となる各スリット幅wおよび各スリット深さLの関係を求めた。図13は、各被覆14の厚さtごとに、図3〜図12−6において求めた応力差(Sx−Sy)が最も0に近い値となるスリット幅wとスリット深さLとの組み合わせをそれぞれ対応づけて示したものであり、横軸に応力差(Sx−Sy)が最も0に近い値となるスリット幅wを示し、縦軸に応力差(Sx−Sy)が最も0に近い値となるスリット深さLを示す。
【0049】
図13に示すように、被覆14の厚さtが2〜20〔μm〕のいずれの厚さであっても、スリット幅wが広くなるにしたがって、応力差(Sx−Sy)が最も0に近い値となるスリット深さLは浅くなっていき、スリット幅wが狭くなるにしたがって、応力差(Sx−Sy)が最も0に近い値となるスリット深さLは深くなる。なお、応力差(Sx−Sy)が最も0に近い値となるスリット幅wとスリット深さLとの関係を示す図13では、曲線L2は被覆14の厚さtが2〔μm〕、曲線L5は被覆14の厚さtが5〔μm〕、曲線L10は被覆14の厚さtが10〔μm〕、曲線L15は被覆14の厚さtが15〔μm〕、曲線L20は被覆14の厚さtが20〔μm〕である場合に対応する。
【0050】
図13に示すように、同じスリット幅wである場合には、被覆14の厚さtが厚くなるにしたがって、応力差(Sx−Sy)が最も0に近い値となるスリット深さLは、浅くなる。したがって、被覆14の厚さtが薄い場合には、被覆14の厚さtが厚い場合よりも、深さの深いスリットSを形成する必要がある。
【0051】
また、被覆14の厚さtが5〔μm〕であってスリット幅wが80〔μm〕の場合と被覆厚さtが2〔μm〕であってスリット幅wが40〔μm〕以上である場合は、上述したようにセカンダリ13への食い込みが生じるため、スリットが食い込まない範囲で、内側ファイバまたは外側ファイバの応力差の絶対値が最もゼロに近い値をとるときのスリット深さLが、応力差の最小値となる。図13では、被覆14の厚さtが2〔μm〕では被覆厚さが薄く、スリット幅が大きくなるとセカンダリ13に食い込むスリット深さが浅くなってくるため、被覆14の厚さtが5〔μm〕である場合よりもスリット深さが浅く制限される。このため、図13に示すスリット幅wとスリット深さLとの各関係のうち、スリット幅wとスリット深さLとの組み合わせの上限は、被覆14の厚さtが2〔μm〕である場合と厚さtが5〔μm〕である場合の上限値を組み合わせたものになる。したがって、図14に示すように、応力差(Sx−Sy)が最も0に近い値となるスリット幅wとスリット深さLとの組み合わせの上限は、曲線L2と曲線L5のそれぞれ上限値を組み合わせた曲線L1となる。
【0052】
また、被覆14は、薄くなる傾向にあり、20〔μm〕の厚さを最大値とした。この場合、図14に示すように、応力差(Sx−Sy)が最も0に近い値となるスリット幅wとスリット深さLとの組み合わせの下限は、被覆14の厚さtが20〔μm〕である場合に対応する曲線L20となる。
【0053】
これより、応力差(Sx−Sy)が最も0に近い値となるスリット幅wとスリット深さLとの組み合わせは、曲線L1と曲線L20とを境界とした領域A1となる。つぎに、この領域A1について詳細に説明する。
【0054】
まず、領域A1の上限を示す曲線L1について、近似式を求めた。この曲線L1に対応する近似式は、以下の(1)式となる。
L=0.0057w2−1.256w+99.25 ・・・(1)
【0055】
そして、領域A1の下限を示す曲線L20についても、同様に近似式を求めた。この曲線L20に対応する近似式は、以下の(2)式となる。
L=0.0021w2−0.525w+53.73 ・・・(2)
【0056】
すなわち、領域A1は、曲線L1を上限とし、曲線L20を下限とする以下の(3)式で表される。
0.0021w2−0.525w+53.73≦L≦0.0057w2−1.256w+99.25 ・・・(3)
【0057】
上記(3)式においては、上述したように、被覆14の厚さtが2〔μm〕≦t≦20〔μm〕である場合に適用可能である。
【0058】
そして、図3〜図12における結果より、スリット深さLの範囲は、25〔μm〕≦L≦95〔μm〕となり、スリット幅wの範囲は、5〔μm〕≦w≦80〔μm〕となる。したがって、被覆14の厚さt、スリット深さLおよびスリット幅wが、2〔μm〕≦t≦20〔μm〕、25〔μm〕≦L≦95〔μm〕および5〔μm〕≦w≦80〔μm〕であって、上述した(3)式を満たすようにスリット幅wとスリット幅Lを設定することによって、コア部における水平方向応力Sxと垂直方向応力Syとの応力差(Sx−Sy)が最も0に近い値となり、PMDも低減することができる。
【0059】
実際に、2〔μm〕≦t≦20〔μm〕、25〔μm〕≦L≦95〔μm〕および5〔μm〕≦w≦80〔μm〕および(3)式を満たすスリット深さLおよびスリット幅wを選択した光ファイバテープ心線10を作成し、PMDを評価した。表2に、実際に作成した各光ファイバテープ心線の各寸法と、PMDを示す。
【0060】
【表2】
【0061】
表2に示す番号1〜20に示す光ファイバテープ心線のうち、番号1〜18は領域A1内に位置している。すなわち、番号1〜18の光ファイバテープ心線は、上述した(3)式を満たすスリット深さLおよびスリット幅wの組み合わせでスリットSを形成している。また、番号19,20は、領域A1の下限よりも下方に位置している。すなわち、番号19,20の条件で作成された光ファイバテープ心線は、上述した(3)式を満たさないスリット深さLおよびスリット幅wの組み合わせでスリットを形成している。
【0062】
PMDの測定には光偏波アナライザ(Agilent社製8509B)を使用し、ジョーンズマトリックス法で測定した。表2中における各記号のうち、◎印は、PMDが0.05〔ps/km1/2〕以下であり、○印は、0.05〔ps/km1/2〕<PMD≦0.1〔ps/km1/2〕であり、△は、0.1〔ps/km1/2〕<PMD≦0.2〔ps/km1/2〕である場合を示す。
【0063】
表2に示すように、上述した(3)式を満たすように図14の領域A1内のスリット深さLおよびスリット幅wの組み合わせでスリットSが形成された番号1〜18の光ファイバテープ心線は、いずれにおいてもPMDが0.05〔ps/km1/2〕以下を示し、非常に良好なPMD特性を示した。これは、上述したように、(3)式を満たすように図14の領域A1内のスリット深さLおよびスリット幅wの組み合わせでスリットSを形成することによって、解析上、水平方向応力と垂直方向応力の差を0.05MPa以下にまで低減できるため、PMDも低減することができたものと考えられる。
【0064】
また、比較のために番号19,20に示す条件で作成した光ファイバテープ心線は、表2に示すように、いずれもPMDが0.1〔ps/km1/2〕よりも大きな値を示していた。これは、(3)式を満たさないスリット深さLおよびスリット幅wの組み合わせでスリットSが形成されているため、水平方向応力と垂直方向応力の差が大きくなってしまい、この結果、PMDも大きくなってしまったものと考えられる。
【0065】
このように、本実施の形態1においては、被覆14の光ファイバ20間に対応する表面領域にスリットSを設けることによって、水平方向の圧縮応力を分断して水平方向と垂直方向との応力差を低減することができることから、偏波モード分散を低減することが可能になる。
【0066】
さらに、被覆14の厚さt、スリット深さLおよびスリット幅wが、2〔μm〕≦t≦20〔μm〕、25〔μm〕≦L≦95〔μm〕および5〔μm〕≦w≦80〔μm〕であって、上述した(3)式を満たすようにスリット幅wとスリット幅Lを設定することによって、コア部における水平方向応力Sxと垂直方向応力Syとの応力差(Sx−Sy)を最も0に近い値にすることができ、PMDも格段に低減することができる。
【0067】
さらに、本実施の形態1にかかる光ファイバテープ心線10に対し、光ファイバテープ心線10から光ファイバ20を1本分離し、取出す際の難易性(単心分離性)を評価した。この単心分離性は、分離工具(たとえば本願出願人による特開2006−30684号公報参照。)を用い、光ファイバテープ心線から光ファイバ素線を分離する場合に要した時間の長さにより判定した。使用する分離工具には、光ファイバテープ心線10を押圧するヤスリ部と、このヤスリ部に隣接して設けられ光ファイバテープ心線10を押圧する複数の小突起が立設された凹凸部とを有する一対のアームを、アームの根元部に設けられている支点で回動自在に軸支し、かつ両アームを板バネあるいはコイルバネで両アームが互いに開く方向に付勢してある。そして、分離工具は、バネの付勢力に逆らって一対のアームを閉じることで光ファイバテープ心線をヤスリ部や凹凸部で押圧するようになっている。
【0068】
このような構成の分離工具のヤスリ部で光ファイバテープ心線を擦り、さらに凹凸部で擦ることでそれぞれの光ファイバ素線に単心分離した場合に要した時間により単心分離性を判定した。なお、光ファイバテープ心線10としては、テープ被覆の厚さtが10μmのものを用いた。
【0069】
ここで、単心分離にかかる処理時間が30秒以内である場合は、作業性よく光ファイバテープ心線10を単心分離できる。上述した(3)式を満たすスリット幅wとスリット深さLの組み合わせのうち、30秒以内で単心分離できたのは、スリット深さLが40〔μm〕≦L≦95〔μm〕の範囲内にあり、スリット幅w〔μm〕が、5〔μm〕≦w≦60〔μm〕の図15の領域A2に示す範囲内にあるものであった。したがって、被覆14の厚さtが2〔μm〕≦t≦20〔μm〕である場合には、各スリットの条件を、上記(3)式を満たすスリット幅wとスリット深さLの組み合わせとするとともに、スリット深さLを40〔μm〕≦L≦95〔μm〕の範囲内とし、スリット幅w〔μm〕を5〔μm〕≦w≦60〔μm〕の範囲内とすることによって、作業性よく光ファイバテープ心線10を単心分離できる。
【0070】
さらに、単心分離にかかる処理時間が10秒以内である場合は、さらに作業性よく光ファイバテープ心線10を単心分離できる。上述した(3)式を満たすスリット幅wとスリット深さLの組み合わせのうち、実際に10秒以内で単心分離できたのは、スリット深さLが45〔μm〕≦L≦95〔μm〕の範囲内にあり、スリット幅w〔μm〕が、5〔μm〕≦w≦20〔μm〕の図16の領域A3の範囲内にある場合であった。したがって、被覆14の厚さtが2〔μm〕≦t≦20〔μm〕である場合には、各スリットの条件を、上記(3)式を満たすスリット幅wとスリット深さLの組み合わせとするとともに、スリット深さLを45〔μm〕≦L≦95〔μm〕の範囲内とし、スリット幅w〔μm〕を5〔μm〕≦w≦20〔μm〕の範囲内とすることによって、さらに作業性よく光ファイバテープ心線10を単心分離できる。
【0071】
なお、図14の領域A1の範囲内に位置するスリット幅wとスリット深さLの組み合わせでスリットSを形成した場合、実際にスロット型の光ファイバケーブルを製造する際に、光ファイバテープ心線をスロットに実装しても光ファイバテープ心線が破壊することはなかった。
【0072】
(実施の形態2)
つぎに、実施の形態2について説明する。実施の形態2においては、水平方向および垂直方向においてそれぞれ異なる厚さで被覆14が形成される場合について説明する。図17は、実施の形態2にかかる光ファイバテープ心線の断面図である。図17は、図1と同様に、光ファイバテープ心線における光ファイバの延伸方向に垂直な面で切断した断面図である。また、図18は、図17における領域Bを拡大した図である。
【0073】
また、図17および図18に示すように、本実施の形態2にかかる光ファイバテープ心線210では、両端のスリットをスリットS1とし、両端以外の内側のスリットをスリットS2として説明する。そして、スリットS1のスリット深さをL1としスリット幅をw1とする。また、スリットS2のスリット深さをL2としスリット幅をw2とする。
【0074】
本実施の形態2においても、実施の形態1と同様に、光ファイバテープ心線210のスリットS1,S2の形状によって光ファイバテープ心線210の水平方向応力Sx、垂直方向応力Syがどのように変化するかを解析した。本実施の形態2においては、実施の形態1と同様に、ガラス光ファイバ11、プライマリ12、セカンダリ13および被覆14のヤング率、ポアソン比、収縮率および外径として、表1に示す各数値を用いている。なお、光ファイバの種類としては、実施の形態1と同様に、ITU−T G.652準拠のSMFファイバを用いた。
【0075】
図19は、本実施の形態2における解析結果を示す図であり、被覆14の厚さのうち水平方向の厚さtxが20〔μm〕であって垂直方向の厚さtyが12.5〔μm〕である場合の内側ファイバおよび外側ファイバにおける各応力差(Sx−Sy)と、スリット深さL1,L2との関係を示す図であり、各スリットS1,S2のスリット幅wを20〔μm〕とした場合に対応する。図19においては、スリットS1,S2のスリット深さL1,L2は同じ深さとして解析を行なっている。そして、図19(a)は、スリット深さL1,L2を37.5〜67.5〔μm〕に変化させた場合における各ファイバ位置における応力差(Sx−Sy)を示し、図19(b)は、内側ファイバおよび外側ファイバにおける各応力差(Sx−Sy)とスリット深さLとの関係を示す。
【0076】
図19(a)に示すように、被覆14の厚さが水平方向と垂直方向とで異なる場合についても応力差(Sx−Sy)がスリット深さLの変化で符号の正負が反転することから、内側ファイバと外側ファイバの応力差(Sx−Sy)の絶対値が最も0に近い値で等しくなるスリット深さがあることがわかる。
【0077】
そして、図19(b)に示すように、内側ファイバにおける応力差(Sx−Sy)と外側ファイバにおける応力差(Sx−Sy)の絶対値が最も0に近い値で等しくなるスリット深さLは、L=57.5μmであった。そして、図19(a)に示すように、このスリット深さL=57.5〔μm〕でスリットS1,S2を形成した場合、いずれの位置の光ファイバ20においても、応力差(Sx−Sy)が0.04MPaと最も0に近い値となった。
【0078】
また、被覆14の厚さのうち水平方向の厚さtxが20〔μm〕であって垂直方向の厚さtyが12.5〔μm〕である場合については、スリット幅を変化させた場合についても解析を行った。結果を図20−1〜図20−5に示す。図20−1は、各スリットSのスリット幅wを5〔μm〕とした場合に対応し、図20−2は、各スリットSのスリット幅wを10〔μm〕とした場合に対応し、図20−3は、各スリットSのスリット幅wを40〔μm〕とした場合に対応し、図20−4は、各スリットSのスリット幅wを60〔μm〕とした場合に対応し、図20−5は、各スリットSのスリット幅wを80〔μm〕とした場合に対応する。そして、図20−1〜図20−5の各(a)図は、各スリット深さL1,L2における各ファイバ位置における応力差(Sx−Sy)を示し、各(b)図は、内側ファイバおよび外側ファイバにおける各応力差(Sx−Sy)とスリット深さLとの関係を示す。なお、図20−1〜図20−5においては、スリットS1,S2のスリット深さL1,L2は同じ深さとして解析を行なっている。
【0079】
図20−1〜図20−5に示すように、各スリットSのスリット幅wを5〔μm〕とした場合には、スリット深さLが66〔μm〕、スリット幅wを10〔μm〕とした場合には、スリット深さLが63〔μm〕、スリット幅wを40〔μm〕とした場合には、スリット深さLが46.8〔μm〕、スリット幅wを60〔μm〕とした場合には、スリット深さLが38.6〔μm〕、スリット幅wを80〔μm〕とした場合には、スリット深さLが34.5〔μm〕の場合に内側ファイバにおける応力差(Sx−Sy)と外側ファイバにおける応力差(Sx−Sy)の絶対値が最も0に近い値で等しくなり、いずれの位置の光ファイバ20においても、応力差(Sx−Sy)が最も0に近い値となった。このように、各スリット幅wについて、それぞれ応力差(Sx−Sy)が最も0に近い値となるスリット深さLを求めることができる。
【0080】
そして、実際に、被覆14の厚さのうち水平方向の厚さtxが20〔μm〕であって垂直方向の厚さtyが12.5〔μm〕である場合であって、上記結果で求めた応力差(Sx−Sy)が最も0に近い値となる各スリット幅wおよび各スリット深さLの組み合わせでスリットS1,S2を形成した光ファイバテープ心線210を作製し、PMDを評価した。表3の番号A〜Eに、実際に作成した各光ファイバテープ心線の各寸法と、PMDの評価結果とを示す。また、表3中におけるPMD欄の各記号は、表2と同様に、◎印は、PMDが0.05〔ps/km1/2〕以下であり、○印は、0.05〔ps/km1/2〕<PMD≦0.1〔ps/km1/2〕である場合を示す。また、表3に示すように、スリットS1,S2は、スリット位置によらず同一のスリット深さLで形成した。
【0081】
【表3】
【0082】
表3に示すように、上述した図19および図20−1〜図20−5において求めた各スリット幅wおよび各スリット深さLの組み合わせでスリットS1,S2を形成した光ファイバテープ心線210は、いずれにおいても、PMDが0.1〔ps/km1/2〕以下を示し、良好な特性を示した。水平方向応力と垂直方向応力の差を0.05MPa以下にまで低減したため、PMDも低減することができたものと考えられる。
【0083】
なお、表3の番号A〜Eの各スリット幅wおよび各スリット深さLの組み合わせは、本実施の形態1において求められた(3)式を満たすスリット深さLおよびスリット幅wの組み合わせである。
【0084】
このように、被覆14の厚さが水平方向と垂直方向とで異なる本実施の形態2にかかる光ファイバテープ心線210においても、実施の形態1と同様に、被覆14の厚さt、スリット深さLおよびスリット幅wが、2〔μm〕≦t≦20〔μm〕、25〔μm〕≦L≦95〔μm〕および5〔μm〕≦w≦80〔μm〕であって、上述した(3)式を満たすようにスリット幅wとスリット幅Lを設定することによって、水平方向の応力Sxと垂直方向の応力Syとの応力差(Sx−Sy)を最も0に近い値にすることができる。このため、実施の形態2においても、PMDを低減することができる。
【0085】
また、上記では、スリットS1,S2のスリット深さL1,L2を同じ深さとした場合について説明したが、以降の説明では、スリット深さL1,L2をそれぞれ異なる深さに変えて各スリットS1,S2を形成する場合のスリット深さLとスリット幅wの組み合わせについて検討する。
【0086】
実際に、被覆14の厚さのうち水平方向の厚さtxが20〔μm〕であって垂直方向の厚さtyが12.5〔μm〕である場合であって、スリットS1,S2のスリット幅w1,w2をそれぞれ20〔μm〕とし、内側に位置するスリットS2のスリット深さL2を47.5〔μm〕とした場合における応力差(Sx−Sy)と、外側に位置するスリットS1のスリット深さL1との関係を示す。図21(a)は、スリット深さL1を48.5〜67.5〔μm〕に変化させた場合における各ファイバ位置における応力差(Sx−Sy)を示し、図21(b)は、内側ファイバおよび外側ファイバにおける各応力差(Sx−Sy)とスリット深さL1との関係を示す。応力差(Sx−Sy)がスリット深さLの変化で符号の正負が反転することから、内側ファイバと外側ファイバの応力差(Sx−Sy)の絶対値が最も0に近い値で等しくなるスリット深さがある。
【0087】
図21(b)に示すように、スリットS1,S2のスリット深さL1,L2を異なる深さとすることによって、内側ファイバにおける各応力差(Sx−Sy)と外側ファイバにおける各応力差(Sx−Sy)との差は小さくなっている。そして、図21(b)に示すように、内側ファイバにおける応力差(Sx−Sy)と外側ファイバにおける応力差(Sx−Sy)の絶対値が最も0に近い値で等しくなるのは、スリット深さL1が61〔μm〕の場合である。そして、この場合の応力差(Sx−Sy)の絶対値は、0.01MPaと非常に小さな値となる。したがって、最も0に近い値で等しくなる内側ファイバにおける応力差(Sx−Sy)と外側ファイバにおける応力差(Sx−Sy)の絶対値は、スリット深さL1,L2がいずれも同じ深さである場合には図19(b)に示すように0.04MPaが限界であったのに対し、スリットS1,S2のスリット深さL1,L2を異なる深さとすることによって、0.01MPaにまで低くすることができる。そして、図21(a)に示すように、図21(b)で求めたL1=61〔μm〕でスリットS1を形成した場合、いずれの位置の光ファイバ20においても、応力差(Sx−Sy)が最も0に近い値となった。
【0088】
さらに、上記図21(a),(b)で求めた応力差(Sx−Sy)が最も0に近い値となる条件とほぼ同じ条件でスリットS1,S2を形成した光ファイバテープ心線210を作成し、PMDの評価を行なった。すなわち、表3の番号Zに示すように、外側のスリットS1のスリット深さL1を60〔μm〕とし、内側のスリットS2のスリット深さL2を48〔μm〕とし、スリットS1,S2のスリット幅w1,w2をともに20〔μm〕としたスリットS1,S2を形成した。そして、この条件でスリットS1,S2を形成した光ファイバテープ心線210のPMDを測定した結果を、表3の番号Zに対応する欄に示す。
【0089】
この場合、表3の番号Zに対応するPMD結果に示すように、PMDが0.05〔ps/km1/2〕以下を示し、非常に良好であった。また、表3の番号Zに示すスリットS1のスリット幅w1およびスリット深さL1の組み合わせは、前述した領域A1の範囲内に位置する。
【0090】
このように、被覆14の厚さが水平方向と垂直方向とで異なる場合においては、被覆14の厚さt、スリット深さLおよびスリット幅wが、2〔μm〕≦t≦20〔μm〕、25〔μm〕≦L≦95〔μm〕および5〔μm〕≦w≦80〔μm〕であって、上述した(3)式を満たすようにスリット幅wとスリット深さLを設定し、さらに、各スリットS1,S2に応じてスリット幅およびスリット深さをそれぞれ設定することによって、水平方向応力Sxと垂直方向応力Syとの応力差(Sx−Sy)をほぼ0に近い値にすることができ、PMDをさらに低減することができる。
【0091】
また、本実施の形態1,2においては、4本の光ファイバ20を用いた光ファイバテープ心線10,210について説明したが、もちろん、図22に示すように、2本の光ファイバ20を用いた光ファイバテープ心線10aにも適用可能である。この場合、図22に示すように、各光ファイバ20間に、上述した(3)式を満たすスリット幅wおよびスリット深さLの組み合わせでスリットSを形成すればよい。
【0092】
また、本実施の形態1,2については、図23に示すように、図22に示す2本の光ファイバテープ心線10aを一括被覆した光ファイバテープ心線10bに対しても適用可能である。この場合も同様に、上述した(3)式を満たすスリット幅wおよびスリット深さLの組み合わせで、光ファイバテープ心線10a間にスリットSbを形成すればよい。また、本実施の形態1,2については、図24に示すように、図1に示す2本の光ファイバテープ心線10を一括被覆した光ファイバテープ心線10cに対しても適用可能である。この場合も同様に、上述した(3)式を満たすスリット幅wおよびスリット深さLの組み合わせで、光ファイバテープ心線10間にスリットScを形成すればよい。また、本実施の形態1,2については、図25に示すように、図23に示す2本の光ファイバテープ心線10bを一括被覆した光ファイバテープ心線10dに対しても適用可能である。この場合も同様に、上述した(3)式を満たすスリット幅wおよびスリット深さLの組み合わせで、光ファイバテープ心線10b間にスリットSdを形成すればよい。
【0093】
また、図26の光ファイバテープ心線10eに示すように、2本の光ファイバテープ心線を一括被覆した後に、光ファイバテープ心線を形成する内部の被覆、および、2本の光ファイバテープ心線を被覆する外部の被覆の双方に一括してスリットSeを形成してもよい。また、図27の光ファイバテープ心線10fに示すように、複数回にわたって光ファイバテープ心線を一括被覆することによって形成した光ファイバテープ心線に対し、各スリットの位置に応じて、応力差(Sx−Sy)がいずれのファイバ位置においてもほぼ0となるようにそれぞれ異なる組み合わせのスリット幅やスリット深さで各スリットSf1〜Sf3を形成してもよい。
【0094】
もちろん、図28の光ファイバテープ心線10gに示すように、各光ファイバ間に形成するスリットは、スリットSのように光ファイバ間に単数のみ形成する場合に限らず、スリットSg1,Sg2のように光ファイバ間に二以上形成してもよい。
【符号の説明】
【0095】
10,210 光ファイバテープ心線
11 クラッド
12 プライマリ
13 セカンダリ
14 被覆
20 光ファイバ
S,S1,S2 スリット
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の光ファイバを並列させ、光ファイバの周囲を被覆により一体化した光ファイバテープ心線に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のインターネット利用者の増加を一因とする通信量の急増にともない、光ファイバ通信における速度の高速化が求められている。このような40Gbps以上の高速通信を行なう長距離伝送では、伝送路である光ファイバ中に生じる偏波モード分散(PMD:Polarization Mode Dispersion)による信号劣化が大きな問題となる。このPMDの発生する原因のひとつは、光ファイバに加えられる不均一な応力であることが知られている。
【0003】
ここで、従来の光ファイバテープ心線について説明する。図29および図30は、従来の光ファイバテープ心線の長手方向と垂直な断面を示す断面図である。以降の図では、横方向を光ファイバの並列方向(水平方向)とし、縦方向を光ファイバの並列方向と垂直な方向(垂直方向)として説明する。図29に示すように、従来の光ファイバテープ心線100は、複数の光ファイバ104を互いの側面が接する(k=0)ように配置して、その上に一括して被覆105を形成したものがある(例えば、特許文献1〜3参照)。また、図30に示す光ファイバテープ心線101のように、複数の光ファイバ104の側面を所定間kだけ隔離させて配置し、それらの上に被覆105を形成したものも提案されている(例えば、特許文献4〜7参照)。
【0004】
このような光ファイバテープ心線100,101においては、複数の光ファイバを一括被覆してテープ状に形成することから被覆105が、垂直方向よりも水平方向に多く存在することになるため、1本の光ファイバに対して垂直方向よりも水平方向に大きな応力が生じる。この結果、水平方向の応力と垂直方向の応力との応力差が生じ、PMDが大きくなるという問題があった。なお、被覆105により生じる応力は、たとえば、被覆105を押出被覆した後に該被覆105が硬化する際の硬化収縮等により生じるものである。また、光ファイバテープ心線100、101のうち、被覆105が光ファイバ104の側面にのみに存在する光ファイバ(両端以外の光ファイバ)は、特に水平方向と垂直方向の応力差が生じやすくPMDが大きくなりやすい。
【0005】
光ファイバテープ心線101のように、光ファイバ104間に間隔を離して被覆材を入れて緩衝材の役目をさせ、水平方向と垂直方向の応力差を小さくすることでPMDの悪化を抑制することができるが、細いケーブルに多くの光ファイバを実装するためには、光ファイバテープ心線の大きさは小さい方が好ましく、この方法でPMDを減少するのには限界があった。
【0006】
そこで、図31に示す光ファイバテープ心線110のように、隣り合う光ファイバ111の間のくぼみに応じて被覆112に凹部116を形成することによって、PMDを低減した光ファイバテープ心線が提案されている(例えば、特許文献8参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−311726号公報
【特許文献2】特開2000−241685号公報
【特許文献3】特開2002−341201号公報
【特許文献4】特開平5−80238号公報
【特許文献5】特開2001−208944号公報
【特許文献6】特開2002−250850号公報
【特許文献7】特開平4−268522号公報
【特許文献8】特許第3664254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
光ファイバ通信におけるさらなる高速化、高密度化に伴い、さらなるPMDの低減が望まれてきている。図31に示す光ファイバテープ心線110においても、なお水平方向と垂直方向に存在する被覆の量に差があり、PMDの低減は不十分であった。
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、偏波モード分散を低減させた光ファイパテープ心線を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる光ファイバテープ心線は、 複数の光ファイバを並列させ、前記光ファイバの周囲を被覆により一体化した光ファイバテープ心線であって、前記光ファイバテープ心線の長手方向と垂直な断面において、前記被覆は、隣り合う前記光ファイバ間に対応する外表面に溝を備えることを特徴とする。
【0011】
また、この発明にかかる光ファイバテープ心線は、前記光ファイバテープ心線の前記断面において、前記光ファイバの中心を通り、かつ、光ファイバの並列方向と垂直な線上において前記被覆の厚さtが2〔μm〕≦t≦20〔μm〕であって、前記溝の前記線上における前記光ファイバの外表面位置と同じ高さから最深部までの深さL〔μm〕および前記光ファイバの表面位置と同じ高さから前記深さLの0.7倍の深さにおける前記溝の幅w〔μm〕は、0.0021w2−0.525w+53.73≦L≦0.0057w2−1.256w+99.25の関係を満たすとともに、25〔μm〕≦L≦95〔μm〕、5〔μm〕≦w≦80〔μm〕であることを特徴とする。
【0012】
また、この発明にかかる光ファイバテープ心線は、前記深さL〔μm〕は、40〔μm〕≦L≦95〔μm〕の範囲内にあり、前記幅w〔μm〕は、5〔μm〕≦w≦60〔μm〕の範囲内にあることを特徴とする。
【0013】
また、この発明にかかる光ファイバテープ心線は、前記深さL〔μm〕は、45〔μm〕≦L≦95〔μm〕の範囲内にあり、前記幅w〔μm〕は、5〔μm〕≦w≦20〔μm〕の範囲内にあることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、複数の光ファイバの周囲を被覆により一体化した光ファイバテープ心線において、被覆は、表面が水平となるように形成されるとともに隣り合う光ファイバ間に対応する表面領域に溝を有するため、水平方向の応力を分断して水平方向と垂直方向との応力差を低減することができ、偏波モード分散を低減することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、実施の形態1にかかる光ファイバテープ心線の断面図である。
【図2】図2は、図1に示す領域Aの拡大図である。
【図3】図3は、内側ファイバにおける水平方向の応力、垂直方向の応力とスリット深さとの関係を示す図である。
【図4】図4は、外側ファイバにおける水平方向の応力、垂直方向の応力とスリット深さとの関係を示す図である。
【図5】図5は、図3および図4に示す内側ファイバおよび外側ファイバにおける水平方向と垂直方向の応力差と、スリット深さとの関係を示す図である。
【図6】図6は、図5の光ファイバの位置と、水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図7】図7は、被覆の厚さを20〔μm〕、各スリットのスリット幅を20〔μm〕とした場合の光ファイバの位置と水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図8−1】図8−1は、被覆の厚さを20〔μm〕、各スリットのスリット幅を5〔μm〕とした場合の光ファイバの位置と、水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図8−2】図8−2は、被覆の厚さを20〔μm〕、各スリットのスリット幅を10〔μm〕とした場合の光ファイバの位置と、水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図8−3】図8−3は、被覆の厚さを20〔μm〕、各スリットのスリット幅を40〔μm〕とした場合の光ファイバの位置と、水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図8−4】図8−4は、被覆の厚さを20〔μm〕、各スリットのスリット幅を60〔μm〕とした場合の光ファイバの位置と、水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図8−5】図8−5は、被覆の厚さを20〔μm〕、各スリットのスリット幅を80〔μm〕とした場合の光ファイバの位置と、水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図9−1】図9−1は、被覆の厚さを15〔μm〕、各スリットのスリット幅を5〔μm〕とした場合の光ファイバの位置と、水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図9−2】図9−2は、被覆の厚さを15〔μm〕、各スリットのスリット幅を20〔μm〕とした場合の光ファイバの位置と、水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図9−3】図9−3は、被覆の厚さを15〔μm〕、各スリットのスリット幅を40〔μm〕とした場合の光ファイバの位置と、水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図9−4】図9−4は、被覆の厚さを15〔μm〕、各スリットのスリット幅を60〔μm〕とした場合の光ファイバの位置と、水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図9−5】図9−5は、被覆の厚さを15〔μm〕、各スリットのスリット幅を80〔μm〕とした場合の光ファイバの位置と、水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図10−1】図10−1は、被覆の厚さを10〔μm〕、各スリットのスリット幅を5〔μm〕とした場合の光ファイバの位置と、水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図10−2】図10−2は、被覆の厚さを10〔μm〕、各スリットのスリット幅を10〔μm〕とした場合の光ファイバの位置と、水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図10−3】図10−3は、被覆の厚さを10〔μm〕、各スリットのスリット幅を20〔μm〕とした場合の光ファイバの位置と、水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図10−4】図10−4は、被覆の厚さを10〔μm〕、各スリットのスリット幅を40〔μm〕とした場合の光ファイバの位置と、水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図10−5】図10−5は、被覆の厚さを10〔μm〕、各スリットのスリット幅を60〔μm〕とした場合の光ファイバの位置と、水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図10−6】図10−6は、被覆の厚さを10〔μm〕、各スリットのスリット幅を80〔μm〕とした場合の光ファイバの位置と、水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図11−1】図11−1は、被覆の厚さを5〔μm〕、各スリットのスリット幅を5〔μm〕とした場合の光ファイバの位置と、水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図11−2】図11−2は、被覆の厚さを5〔μm〕、各スリットのスリット幅を10〔μm〕とした場合の光ファイバの位置と、水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図11−3】図11−3は、被覆の厚さを5〔μm〕、各スリットのスリット幅を20〔μm〕とした場合の光ファイバの位置と、水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図11−4】図11−4は、被覆の厚さを5〔μm〕、各スリットのスリット幅を40〔μm〕とした場合の光ファイバの位置と、水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図11−5】図11−5は、被覆の厚さを5〔μm〕、各スリットのスリット幅を60〔μm〕とした場合の光ファイバの位置と、水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図11−6】図11−6は、被覆の厚さを5〔μm〕、各スリットのスリット幅を80〔μm〕とした場合の光ファイバの位置と、水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図12−1】図12−1は、被覆の厚さを2〔μm〕、各スリットのスリット幅を5〔μm〕とした場合の光ファイバの位置と、水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図12−2】図12−2は、被覆の厚さを2〔μm〕、各スリットのスリット幅を10〔μm〕とした場合の光ファイバの位置と、水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図12−3】図12−3は、被覆の厚さを2〔μm〕、各スリットのスリット幅を20〔μm〕とした場合の光ファイバの位置と、水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図12−4】図12−4は、被覆の厚さを2〔μm〕、各スリットのスリット幅を40〔μm〕とした場合の光ファイバの位置と、水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図12−5】図12−5は、被覆の厚さを2〔μm〕、各スリットのスリット幅を60〔μm〕とした場合の光ファイバの位置と、水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図12−6】図12−6は、被覆の厚さを2〔μm〕、各スリットのスリット幅を80〔μm〕とした場合の光ファイバの位置と、水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図13】図13は、応力差が最も0に近い値となるスリット幅とスリット深さとの組み合わせをそれぞれ対応づけて示す図である。
【図14】図14は、実施の形態1におけるスリット幅とスリット深さとの組み合わせの範囲を示す図である。
【図15】図15は、実施の形態1におけるスリット幅とスリット深さとの組み合わせの他の範囲を示す図である。
【図16】図16は、実施の形態1におけるスリット幅とスリット深さとの組み合わせの他の範囲を示す図である。
【図17】図17は、実施の形態2にかかる光ファイバテープ心線の断面図である。
【図18】図18は、図17における領域Bの拡大図である。
【図19】図19は、被覆の水平方向の厚さが20〔μm〕であって垂直方向の厚さが12.5〔μm〕であって、各スリットのスリット幅を20〔μm〕とした場合の光ファイバの位置と、水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図20−1】図20−1は、被覆の水平方向の厚さが20〔μm〕であって垂直方向の厚さが12.5〔μm〕であって各スリットのスリット幅を5〔μm〕とした場合の光ファイバの位置と、水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図20−2】図20−2は、被覆の水平方向の厚さが20〔μm〕であって垂直方向の厚さが12.5〔μm〕であって各スリットのスリット幅を10〔μm〕とした場合の光ファイバの位置と、水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図20−3】図20−3は、被覆の水平方向の厚さx20〔μm〕であって垂直方向の厚さが12.5〔μm〕であって各スリットのスリット幅を40〔μm〕とした場合の光ファイバの位置と、水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図20−4】図20−4は、被覆の水平方向の厚さx20〔μm〕であって垂直方向の厚さが12.5〔μm〕であって各スリットのスリット幅を60〔μm〕とした場合の光ファイバの位置と、水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図20−5】図20−5は、被覆の水平方向の厚さx20〔μm〕であって垂直方向の厚さが12.5〔μm〕であって各スリットのスリット幅を80〔μm〕とした場合の光ファイバの位置と、水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図21】図21は、被覆の水平方向の厚さxが20〔μm〕であって垂直方向の厚さyが12.5〔μm〕であって各スリットのスリット幅を20〔μm〕としスリットS2のスリット深さL2を47.5〔μm〕とした場合の光ファイバの位置と、水平方向と垂直方向の応力差を示す図である。
【図22】図22は、実施の形態1,2にかかる光ファイバテープ心線の他の例の断面図である。
【図23】図23は、実施の形態1,2にかかる光ファイバテープ心線の他の例の断面図である。
【図24】図24は、実施の形態1,2にかかる光ファイバテープ心線の他の例の断面図である。
【図25】図25は、実施の形態1,2にかかる光ファイバテープ心線の他の例の断面図である。
【図26】図26は、実施の形態1,2にかかる光ファイバテープ心線の他の例の断面図である。
【図27】図27は、実施の形態1,2にかかる光ファイバテープ心線の他の例の断面図である。
【図28】図28は、実施の形態1,2にかかる光ファイバテープ心線の他の例の断面図である。
【図29】図29は、従来の光ファイバテープ心線断面図である。
【図30】図30は、従来の光ファイバテープ心線断面図である。
【図31】図31は、従来の光ファイバテープ心線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明にかかる実施の形態である光ファイバテープ心線について説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、図面の記載において、同一部分には同一の符号を付している。また、図面は模式的なものであり、各層の厚みと幅との関係、各層の比率などは、現実と異なることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。
【0017】
(実施の形態1)
まず、実施の形態にかかる光ファイバテープ心線について説明する。図1は、本実施の形態1にかかる光ファイバテープ心線の長手方向と垂直な断面の断面図である。なお、図1、図2、および図17、図18においては、4本の光ファイバ20の並列方向をx方向、すなわち、水平方向とし、光ファイバ20の並列方向と垂直な方向をy方向、すなわち垂直方向として説明する。
【0018】
図1に示すように、本実施の形態1にかかる光ファイバテープ心線10は、二以上の光ファイバ20を並列し、これら並列した光ファイバ20の外周の全体を被覆14で覆い一体化したものである。なお、図1では、一例として4本の光ファイバ20を用いた光ファイバテープ心線10を例示している。
【0019】
光ファイバ20は、石英製のガラス光ファイバと、該ガラス光ファイバの外周を覆う被覆層からなる。被覆層は軟質のプライマリ12と、該プライマリ12の上に被覆された硬質のセカンダリ13によって形成される。プライマリ12、セカンダリ13としては、紫外線硬化型樹脂が一般的に用いられる。各光ファイバ20は、所定間隔で一列に配置される。
【0020】
被覆14は、紫外線硬化型樹脂からなる。また、被覆14は、紫外線硬化型樹脂のほか、熱可塑性樹脂膜または熱硬化性樹脂を用いて形成してもよい。
【0021】
被覆14は、光ファイバ20の長手方向と垂直な断面において、隣り合う前記光ファイバ間に対応する外表面にスリットSを備える。図1に示す例においては、4本の光ファイバ20が並列配置されていることから、各光ファイバ20間の上部表面および下部表面のそれぞれに3箇所にスリットSが設けられている。
【0022】
このようにすることで、被覆14の水平方向の連続性を断ち切ることができ、一括被覆時に被覆14の硬化収縮があっても、水平方向の応力Sxを従来における水平方向の応力Sx0よりも格段に低くできる。これにより、水平方向と垂直方向の応力差を小さくすることができ、PMDを低減することができる。
【0023】
次に、光ファイバテープ心線10のスリットSの形状によって光ファイバテープ心線10の水平方向の応力および垂直方向の応力がどのように変化するかを解析した。なお、本明細書において、図1の領域Aの拡大図である図2に示すように、被覆14の厚さをt〔μm〕とは、光ファイバの中心を通る垂直方向の直線上における被覆14の厚さ(垂直方向の厚さ)とする。また、スリット深さL〔μm〕とは、スリットの光ファイバの中心を通る垂直方向の直線上における前記光ファイバの外表面位置と同じ高さから最深部までの深さとする。さらに、スリット幅w〔μm〕とは、スリット深さLの0.7倍の深さにおける幅とする。
【0024】
なお、実施の形態1においては、両端に位置する光ファイバ20の光ファイバ20の中心を通る水平方向の直線上における被覆14の厚さ(水平方向の厚さ)も、上記被覆14の垂直方向の厚さt〔μm〕と同じ厚さtで被覆14が形成されている。
【0025】
実際に、光ファイバテープ心線10の被覆14表面にスリットSを形成する場合、切り込み部分の角が丸くなったり変形したりすることが多いため、スリット幅が深さ方向に対してほぼ安定して同じ幅になるスリットS深さLの0.7倍の深さにおける幅をスリット幅w〔μm〕としている。また、光ファイバテープ心線10の内側2本の光ファイバ20を内側ファイバとし、その両端の光ファイバ20を外側ファイバと称する。
【0026】
また、解析においては、ガラス光ファイバ11、プライマリ12、セカンダリ13および被覆14のヤング率、ポアソン比、収縮率および外径として、表1に示す各数値を用いている。各応力の単位は、MPaである。なお、光ファイバの種類としては、ITU−T(国際電気通信連合)G.652準拠のSMFファイバを用いた。
【0027】
【表1】
【0028】
まず、被覆14の厚さtを15〔μm〕、各スリットSのスリット幅wを10〔μm〕とし、スリット深さLを35〜75〔μm〕に変化させた場合の水平方向応力Sxおよび垂直方向応力Syを解析した。結果を図3、図4に示す。図3は、内側ファイバにおける水平方向応力Sx、垂直方向応力Syとスリット深さLとの関係を示す図であり、図4は、外側ファイバにおける水平方向応力Sx、垂直方向応力Syとスリット深さLとの関係を示す図である。なお、縦軸の応力においては、負の方向は圧縮方向に対応し、正の方向は引っ張り方向に対応する。
【0029】
図3、図4に示すように、内側ファイバおよび外側ファイバのいずれにも圧縮応力がかかっている。また、内側ファイバおよび外側ファイバのいずれにおいても、スリット深さLが深くなるにしたがって、水平方向応力Sxが引っ張り方向に進み、相対的に垂直方向応力Syが圧縮方向に進む。さらにスリット深さLを深くすると、水平方向応力Sxと垂直方向応力Syとが交差した後も、そのまま、水平方向応力Sxは引っ張り方向に進み、垂直方向応力Syは圧縮方向に進む。そして、内側ファイバおよび外側ファイバのそれぞれの水平方向応力Sxと垂直方向応力Syが交差するスリット深さLでは、各々の光ファイバ20の水平方向応力Sxと垂直方向応力Syとの応力差(Sx−Sy)が理論上0になる。
【0030】
図5に、図3および図4に示す内側ファイバおよび外側ファイバにおける各応力差(Sx−Sy)と、スリット深さLとの関係を示す。なお、図6および以降の図7〜図12−6、図19〜図20−5、図21におけるファイバ位置は、図1の左から数えた場合の位置番号に対応し、内側ファイバはファイバ位置「2」,「3」となり、外側ファイバはファイバ位置「1」,「4」となる。
【0031】
ここで、理想的にPMDが0になるスリット深さLは、内側ファイバにおける応力差(Sx−Sy)と、外側ファイバにおける応力差(Sx−Sy)との交点が0になる場合である。しかしながら、実際には、内側ファイバにおける応力差(Sx−Sy)と、外側ファイバにおける応力差(Sx−Sy)との交点が完全に0になることはほとんどない。このため、内側ファイバにおける応力差(Sx−Sy)と、外側ファイバにおける応力差(Sx−Sy)との絶対値が最も0に近い値で等しくなるときに、応力差(Sx−Sy)を最小にでき、被覆14の硬化収縮に起因するPMDを最小とすることができる。
【0032】
図5に示す場合においては、スリット深さがL=55.8〔μm〕である場合に、内側ファイバにおける応力差(Sx−Sy)と、外側ファイバにおける応力差(Sx−Sy)との絶対値が最も0に近い値で等しくなる。
【0033】
実際に、図5に示す各スリット深さごとに各光ファイバ位置の応力差(Sx−Sy)を解析した。図6は、各ファイバ位置における応力差(Sx−Sy)を示し、図6(1)は、スリット深さL=35〔μm〕である場合であり、図6(2)は、スリット深さL=45〔μm〕である場合であり、図6(3)は、スリット深さL=50〔μm〕である場合であり、図6(4)は、スリット深さL=55〔μm〕である場合であり、図6(5)は、スリット深さL=60〔μm〕である場合であり、図6(6)は、スリット深さL=65〔μm〕である場合である。
【0034】
図6(1)〜(6)に示すように、内側ファイバと外側ファイバの応力差(Sx−Sy)は、スリット深さLが深くなるにしたがって、符号がマイナスからプラスに変化することから、内側ファイバと外側ファイバにおける応力差(Sx−Sy)の絶対値が最も0に近い値で等しくなるスリット深さがある。そして、図5で説明したように、内側ファイバにおける応力差(Sx−Sy)と、外側ファイバにおける応力差(Sx−Sy)との絶対値が最も0に近い値で等しくなる付近のスリット深さがL=55〔μm〕の場合には、いずれの位置の光ファイバ20においても、応力差(Sx−Sy)がほぼ0に近い値となり、被覆14の硬化収縮に起因するPMDを確実に最小化することができる。したがって、被覆14の厚さtが15〔μm〕であって、各スリットSのスリット幅wを10〔μm〕とした場合においては、スリット深さをL=55〔μm〕に設定することが好ましい。
【0035】
図3〜図6においては、被覆14の厚さtが15〔μm〕であって、各スリットSのスリット幅wを10〔μm〕とした場合におけるスリット深さLを検討したが、もちろんこれに限らず、被覆14の厚さtが15〔μm〕と異なる厚さである場合も同様に、スリットSのスリット深さLおよびスリット幅wを設定すればよい。
【0036】
たとえば、被覆14の厚さtが20〔μm〕であって、各スリットSのスリット幅wを20〔μm〕とした場合について検討する。図7は、被覆14の厚さtが20〔μm〕であって、各スリットSのスリット幅wを20〔μm〕とした場合の応力差(Sx−Sy)を示す図であり、図7(a)は、スリット深さLを25〜60〔μm〕に変化させた場合における各ファイバ位置の応力差(Sx−Sy)を示し、図7(b)は、内側ファイバおよび外側ファイバにおける各応力差(Sx−Sy)とスリット深さLとの関係を示す。この場合には、図7(b)に示すように、スリット深さLが44〔μm〕の場合に、内側ファイバにおける応力差(Sx−Sy)と外側ファイバにおける応力差(Sx−Sy)の絶対値がほぼ0に近い値で等しくなり、図7(a)に示すように、このスリット深さLに最も近い深さであるL=45〔μm〕で、いずれの位置の光ファイバ20においても、応力差(Sx−Sy)がほぼ0に近い値となった。
【0037】
また、被覆14の厚さtが20〔μm〕であって、スリット幅を別の値とした場合についても、同様に解析することができる。図8−1は、各スリットSのスリット幅wを5〔μm〕、図8−2は、スリット幅wを10〔μm〕、図8−3は、スリット幅wを40〔μm〕、図8−4は、スリット幅wを60〔μm〕、図8−5は、スリット幅wを80〔μm〕とした場合を示す。そして、図8−1〜図8−5の各(a)図は、各スリット深さLにおける各ファイバ位置における応力差(Sx−Sy)を示し、各(b)図は、内側ファイバおよび外側ファイバにおける各応力差(Sx−Sy)とスリット深さLとの関係を示す。
【0038】
図8−1〜図8−5に示すように、各スリットSのスリット幅wを5〔μm〕とした場合には、スリット深さLが51.5〔μm〕、スリット幅wを10〔μm〕とした場合には、スリット深さLが48.3〔μm〕、スリット幅wを40〔μm〕とした場合には、スリット深さLが36.2〔μm〕、スリット幅wを60〔μm〕とした場合には、スリット深さLが29.8〔μm〕、スリット幅wを80〔μm〕とした場合には、スリット深さLが25.1〔μm〕の場合に内側ファイバにおける応力差(Sx−Sy)と外側ファイバにおける応力差(Sx−Sy)の絶対値がほぼ0に近い値で等しくなった。このように、各スリット幅wごとに、それぞれ応力差(Sx−Sy)がほぼ0に近い値となるスリット深さLを求めることができる。
【0039】
また、図9−1〜図9−5に示すように、被覆14の厚さtを15〔μm〕とした場合についても、各スリット幅wについて、それぞれ応力差(Sx−Sy)がほぼ0に近い値となるスリット深さLを求めた。なお、前述した図3〜図6において、スリット幅wが10〔μm〕である場合には、応力差(Sx−Sy)がほぼ0に近い値となるスリット深さLとして55.8〔μm〕が得られているため、それ以外のスリット幅wとした場合について検討する。図9−1は、各スリットSのスリット幅wを5〔μm〕とした場合に対応し、図9−2は、各スリットSのスリット幅wを20〔μm〕とした場合に対応し、図9−3は、各スリットSのスリット幅wを40〔μm〕とした場合に対応し、図9−4は、各スリットSのスリット幅wを60〔μm〕とした場合に対応し、図9−5は、各スリットSのスリット幅wを80〔μm〕とした場合に対応する。そして、図9−1〜図9−5の各(a)図は、各スリット深さLにおける各ファイバ位置における応力差(Sx−Sy)を示し、各(b)図は、内側ファイバおよび外側ファイバにおける各応力差(Sx−Sy)とスリット深さLとの関係を示す。
【0040】
その結果、図9−1〜図9−5に示すように、各スリットSのスリット幅wを5〔μm〕とした場合には、スリット深さLが58.4〔μm〕、スリットSのスリット幅wを20〔μm〕とした場合には、スリット深さLが49.8〔μm〕、スリットSのスリット幅wを40〔μm〕とした場合には、スリット深さLが41.5〔μm〕、スリット幅wを60〔μm〕とした場合には、スリット深さLが33.9〔μm〕、スリット幅wを80〔μm〕とした場合には、スリット深さLが28.4〔μm〕で、内側ファイバにおける応力差(Sx−Sy)と外側ファイバにおける応力差(Sx−Sy)の絶対値が最も0に近い値で等しくなり、いずれの位置の光ファイバ20においても、応力差(Sx−Sy)が最も0に近い値となった。
【0041】
また、図10−1〜図10−6に示すように、被覆14の厚さtを10〔μm〕とした場合についても、各スリット幅wについて、それぞれ応力差(Sx−Sy)が最も0に近い値となるスリット深さLを求めた。図10−1は、各スリットSのスリット幅wを5〔μm〕とした場合に対応し、図10−2は、各スリットSのスリット幅wを10〔μm〕とした場合に対応し、図10−3は、各スリットSのスリット幅wを20〔μm〕とした場合に対応し、図10−4は、各スリットSのスリット幅wを40〔μm〕とした場合に対応し、図10−5は、各スリットSのスリット幅wを60〔μm〕とした場合に対応し、図10−6は、各スリットSのスリット幅wを80〔μm〕とした場合に対応する。そして、図10−1〜図10−6の各(a)図は、各スリット深さLにおける各ファイバ位置における応力差(Sx−Sy)を示し、各(b)図は、内側ファイバおよび外側ファイバにおける各応力差(Sx−Sy)とスリット深さLとの関係を示す。
【0042】
図10−1〜図10−6に示すように、各スリットSのスリット幅wを5〔μm〕とした場合は、スリット深さLが68.2〔μm〕、スリット幅wを10〔μm〕とした場合は、スリット深さLが65.1〔μm〕、スリット幅wを20〔μm〕とした場合には、スリット深さLが58.9〔μm〕、スリット幅wを40〔μm〕とした場合には、スリット深さLが48.1〔μm〕、スリット幅wを60〔μm〕とした場合には、スリット深さLが39.2〔μm〕、スリット幅wを80〔μm〕とした場合には、スリット深さLが33.2〔μm〕で、内側ファイバにおける応力差(Sx−Sy)と外側ファイバにおける応力差(Sx−Sy)の絶対値が最も0に近い値で等しくなり、いずれの位置の光ファイバ20においても、応力差(Sx−Sy)が最も0に近い値となった。
【0043】
また、図11−1〜図11−6に示すように、被覆14の厚さtを5〔μm〕とした場合についても、各スリット幅wについて、それぞれ応力差(Sx−Sy)がほぼ0に近い値となるスリット深さLを求めた。図11−1は、各スリットSのスリット幅wを5〔μm〕とした場合に対応し、図11−2は、各スリットSのスリット幅wを10〔μm〕とした場合に対応し、図11−3は、各スリットSのスリット幅wを20〔μm〕とした場合に対応し、図11−4は、各スリットSのスリット幅wを40〔μm〕とした場合に対応し、図11−5は、各スリットSのスリット幅wを60〔μm〕とした場合に対応し、図11−6は、各スリットSのスリット幅wを80〔μm〕とした場合に対応する。そして、図11−1〜図11−6の各(a)図は、各スリット深さLにおける各ファイバ位置における応力差(Sx−Sy)を示し、各(b)図は、内側ファイバおよび外側ファイバにおける各応力差(Sx−Sy)とスリット深さLとの関係を示す。なお、被覆14の厚さtを5〔μm〕とした場合には、光ファイバテープ心線10の構造上、スリット幅wが広くなり、さらにスリット深さLが深くなると光ファイバのセカンダリ13にスリットSが食い込んでしまう。このため、セカンダリ13にスリットSが食い込まないようなスリット深さLにおいて、応力差が最小となるスリット幅wとスリット深さLを求めた。
【0044】
図11−1〜図11−6に示すように、各スリットSのスリット幅wを5〔μm〕とした場合には、スリット深さLが81.5〔μm〕、スリット幅wを10〔μm〕とした場合には、スリット深さLが77.2〔μm〕、スリット幅wを20〔μm〕とした場合には、スリット深さLが69.1〔μm〕、スリット幅wを40〔μm〕とした場合には、スリット深さLが55.9〔μm〕、スリット幅wを60〔μm〕とした場合には、スリット深さLが44.8〔μm〕で、内側ファイバにおける応力差(Sx−Sy)と外側ファイバにおける応力差(Sx−Sy)の絶対値が最も0に近い値で等しくなり、いずれの位置の光ファイバ20においても、応力差(Sx−Sy)が最も0に近い値となった。なお、スリット幅wを80〔μm〕の場合には、スリット深さLが35.5〔μm〕以上で、セカンダリ13にスリットが食い込んでしまうため、それまでの範囲で、内側ファイバまたは外側ファイバの応力差の絶対値が最もゼロに近い値(絶対値の最小値)をとるときの、スリット深さLが応力差の最小値となる。したがってこの場合にはスリット深さL35.3〔μm〕である。
【0045】
また、図12−1〜図12−6に示すように、被覆14の厚さtを2〔μm〕とした場合についても、各スリット幅wについて、それぞれ応力差(Sx−Sy)がほぼ0に近い値となるスリット深さLを求めた。図12−1は、各スリットSのスリット幅wを5〔μm〕とした場合に対応し、図12−2は、各スリットSのスリット幅wを10〔μm〕とした場合に対応し、図12−3は、各スリットSのスリット幅wを20〔μm〕とした場合に対応し、図12−4は、各スリットSのスリット幅wを40〔μm〕とした場合に対応し、図12−5は、各スリットSのスリット幅wを60〔μm〕とした場合に対応し、図12−6は、各スリットSのスリット幅wを80〔μm〕とした場合に対応する。そして、図12−1〜図12−6の各(a)図は、各スリット深さLにおける各ファイバ位置における応力差(Sx−Sy)を示し、各(b)図は、内側ファイバおよび外側ファイバにおける各応力差(Sx−Sy)とスリット深さLとの関係を示す。なお、スリット幅wを40〔μm〕以上において、被覆14の厚さtを2〔μm〕とした場合も同様に、セカンダリ13にスリットSが食い込まないようなスリット深さLにおいて、応力差が最小となるスリット幅wとスリット深さLを求めた。また、被覆14の厚さは、薄くなる傾向にあるが、その機能を保つためには2〔μm〕程度の厚さが最小値であると考えられる。
【0046】
図12−1〜図12−6に示すように、各スリットSのスリット幅wを2〔μm〕とした場合には、スリット深さLが93.5〔μm〕、スリット幅wを10〔μm〕とした場合には、スリット深さLが87〔μm〕、スリット幅wを20〔μm〕とした場合には、スリット深さLが76.2〔μm〕で、内側ファイバにおける応力差(Sx−Sy)と外側ファイバにおける応力差(Sx−Sy)の絶対値が最も0に近い値で等しくなり、応力差(Sx−Sy)が最も0に近い値となった。一方、スリット幅w40〔μm〕以上では、上述したようにスリット深さによってはセカンダリ13にスリットが食い込んでしまうため、その深さ以上にはスリットを入れられない。したがってスリットがセカンダリ13に食い込まない範囲で、内側ファイバまたは外側ファイバの応力差の絶対値が最もゼロに近い値(絶対値の最小値)をとるときの、スリット深さLが応力差の最小値となる。したがって、スリット幅wを40〔μm〕とした場合には、スリット深さLが58〔μm〕、スリット幅wを60〔μm〕とした場合には、スリット深さLが43〔μm〕、スリット幅wを80〔μm〕とした場合には、スリット深さLが28〔μm〕となる。
【0047】
スリットSは、被覆14の水平方向の圧縮応力を確実に分断できる程度の大きさで切り込まれた形状を有する必要がある。上記のように、被覆14の厚さtに応じて、各スリット幅wに対し、応力差(Sx−Sy)が最も0に近い値となるスリット深さLを求め、求めたスリット幅wおよびスリット深さLでスリットSを形成すればよい。そして、内側ファイバにおける応力差(Sx−Sy)と外側ファイバにおける応力差(Sx−Sy)の絶対値が最も0に近い値で等しくなるスリット幅wおよびスリット深さLでスリットSを形成することによって、水平方向応力と垂直方向応力の差を、0.05MPa以下の比較的小さな値とすることができる。また、被覆の厚さによっては、セカンダリ13にスリットが食い込んでしまう場合があるため、スリットが食い込まない範囲で、内側ファイバまたは外側ファイバの応力差の絶対値が最もゼロに近い値(絶対値の最小値)をとるときのスリット深さLが、応力差の最小値となる。これは、図11−6および図12−4〜6の場合に相当し、最小となる応力差は0.03〜0.2MPaと範囲は広いが、これらのスリット形状では最小となる。
【0048】
さらに、上記の結果をもとに、各被覆14の厚さtごとに、応力差(Sx−Sy)が最も0に近い値となる各スリット幅wおよび各スリット深さLの関係を求めた。図13は、各被覆14の厚さtごとに、図3〜図12−6において求めた応力差(Sx−Sy)が最も0に近い値となるスリット幅wとスリット深さLとの組み合わせをそれぞれ対応づけて示したものであり、横軸に応力差(Sx−Sy)が最も0に近い値となるスリット幅wを示し、縦軸に応力差(Sx−Sy)が最も0に近い値となるスリット深さLを示す。
【0049】
図13に示すように、被覆14の厚さtが2〜20〔μm〕のいずれの厚さであっても、スリット幅wが広くなるにしたがって、応力差(Sx−Sy)が最も0に近い値となるスリット深さLは浅くなっていき、スリット幅wが狭くなるにしたがって、応力差(Sx−Sy)が最も0に近い値となるスリット深さLは深くなる。なお、応力差(Sx−Sy)が最も0に近い値となるスリット幅wとスリット深さLとの関係を示す図13では、曲線L2は被覆14の厚さtが2〔μm〕、曲線L5は被覆14の厚さtが5〔μm〕、曲線L10は被覆14の厚さtが10〔μm〕、曲線L15は被覆14の厚さtが15〔μm〕、曲線L20は被覆14の厚さtが20〔μm〕である場合に対応する。
【0050】
図13に示すように、同じスリット幅wである場合には、被覆14の厚さtが厚くなるにしたがって、応力差(Sx−Sy)が最も0に近い値となるスリット深さLは、浅くなる。したがって、被覆14の厚さtが薄い場合には、被覆14の厚さtが厚い場合よりも、深さの深いスリットSを形成する必要がある。
【0051】
また、被覆14の厚さtが5〔μm〕であってスリット幅wが80〔μm〕の場合と被覆厚さtが2〔μm〕であってスリット幅wが40〔μm〕以上である場合は、上述したようにセカンダリ13への食い込みが生じるため、スリットが食い込まない範囲で、内側ファイバまたは外側ファイバの応力差の絶対値が最もゼロに近い値をとるときのスリット深さLが、応力差の最小値となる。図13では、被覆14の厚さtが2〔μm〕では被覆厚さが薄く、スリット幅が大きくなるとセカンダリ13に食い込むスリット深さが浅くなってくるため、被覆14の厚さtが5〔μm〕である場合よりもスリット深さが浅く制限される。このため、図13に示すスリット幅wとスリット深さLとの各関係のうち、スリット幅wとスリット深さLとの組み合わせの上限は、被覆14の厚さtが2〔μm〕である場合と厚さtが5〔μm〕である場合の上限値を組み合わせたものになる。したがって、図14に示すように、応力差(Sx−Sy)が最も0に近い値となるスリット幅wとスリット深さLとの組み合わせの上限は、曲線L2と曲線L5のそれぞれ上限値を組み合わせた曲線L1となる。
【0052】
また、被覆14は、薄くなる傾向にあり、20〔μm〕の厚さを最大値とした。この場合、図14に示すように、応力差(Sx−Sy)が最も0に近い値となるスリット幅wとスリット深さLとの組み合わせの下限は、被覆14の厚さtが20〔μm〕である場合に対応する曲線L20となる。
【0053】
これより、応力差(Sx−Sy)が最も0に近い値となるスリット幅wとスリット深さLとの組み合わせは、曲線L1と曲線L20とを境界とした領域A1となる。つぎに、この領域A1について詳細に説明する。
【0054】
まず、領域A1の上限を示す曲線L1について、近似式を求めた。この曲線L1に対応する近似式は、以下の(1)式となる。
L=0.0057w2−1.256w+99.25 ・・・(1)
【0055】
そして、領域A1の下限を示す曲線L20についても、同様に近似式を求めた。この曲線L20に対応する近似式は、以下の(2)式となる。
L=0.0021w2−0.525w+53.73 ・・・(2)
【0056】
すなわち、領域A1は、曲線L1を上限とし、曲線L20を下限とする以下の(3)式で表される。
0.0021w2−0.525w+53.73≦L≦0.0057w2−1.256w+99.25 ・・・(3)
【0057】
上記(3)式においては、上述したように、被覆14の厚さtが2〔μm〕≦t≦20〔μm〕である場合に適用可能である。
【0058】
そして、図3〜図12における結果より、スリット深さLの範囲は、25〔μm〕≦L≦95〔μm〕となり、スリット幅wの範囲は、5〔μm〕≦w≦80〔μm〕となる。したがって、被覆14の厚さt、スリット深さLおよびスリット幅wが、2〔μm〕≦t≦20〔μm〕、25〔μm〕≦L≦95〔μm〕および5〔μm〕≦w≦80〔μm〕であって、上述した(3)式を満たすようにスリット幅wとスリット幅Lを設定することによって、コア部における水平方向応力Sxと垂直方向応力Syとの応力差(Sx−Sy)が最も0に近い値となり、PMDも低減することができる。
【0059】
実際に、2〔μm〕≦t≦20〔μm〕、25〔μm〕≦L≦95〔μm〕および5〔μm〕≦w≦80〔μm〕および(3)式を満たすスリット深さLおよびスリット幅wを選択した光ファイバテープ心線10を作成し、PMDを評価した。表2に、実際に作成した各光ファイバテープ心線の各寸法と、PMDを示す。
【0060】
【表2】
【0061】
表2に示す番号1〜20に示す光ファイバテープ心線のうち、番号1〜18は領域A1内に位置している。すなわち、番号1〜18の光ファイバテープ心線は、上述した(3)式を満たすスリット深さLおよびスリット幅wの組み合わせでスリットSを形成している。また、番号19,20は、領域A1の下限よりも下方に位置している。すなわち、番号19,20の条件で作成された光ファイバテープ心線は、上述した(3)式を満たさないスリット深さLおよびスリット幅wの組み合わせでスリットを形成している。
【0062】
PMDの測定には光偏波アナライザ(Agilent社製8509B)を使用し、ジョーンズマトリックス法で測定した。表2中における各記号のうち、◎印は、PMDが0.05〔ps/km1/2〕以下であり、○印は、0.05〔ps/km1/2〕<PMD≦0.1〔ps/km1/2〕であり、△は、0.1〔ps/km1/2〕<PMD≦0.2〔ps/km1/2〕である場合を示す。
【0063】
表2に示すように、上述した(3)式を満たすように図14の領域A1内のスリット深さLおよびスリット幅wの組み合わせでスリットSが形成された番号1〜18の光ファイバテープ心線は、いずれにおいてもPMDが0.05〔ps/km1/2〕以下を示し、非常に良好なPMD特性を示した。これは、上述したように、(3)式を満たすように図14の領域A1内のスリット深さLおよびスリット幅wの組み合わせでスリットSを形成することによって、解析上、水平方向応力と垂直方向応力の差を0.05MPa以下にまで低減できるため、PMDも低減することができたものと考えられる。
【0064】
また、比較のために番号19,20に示す条件で作成した光ファイバテープ心線は、表2に示すように、いずれもPMDが0.1〔ps/km1/2〕よりも大きな値を示していた。これは、(3)式を満たさないスリット深さLおよびスリット幅wの組み合わせでスリットSが形成されているため、水平方向応力と垂直方向応力の差が大きくなってしまい、この結果、PMDも大きくなってしまったものと考えられる。
【0065】
このように、本実施の形態1においては、被覆14の光ファイバ20間に対応する表面領域にスリットSを設けることによって、水平方向の圧縮応力を分断して水平方向と垂直方向との応力差を低減することができることから、偏波モード分散を低減することが可能になる。
【0066】
さらに、被覆14の厚さt、スリット深さLおよびスリット幅wが、2〔μm〕≦t≦20〔μm〕、25〔μm〕≦L≦95〔μm〕および5〔μm〕≦w≦80〔μm〕であって、上述した(3)式を満たすようにスリット幅wとスリット幅Lを設定することによって、コア部における水平方向応力Sxと垂直方向応力Syとの応力差(Sx−Sy)を最も0に近い値にすることができ、PMDも格段に低減することができる。
【0067】
さらに、本実施の形態1にかかる光ファイバテープ心線10に対し、光ファイバテープ心線10から光ファイバ20を1本分離し、取出す際の難易性(単心分離性)を評価した。この単心分離性は、分離工具(たとえば本願出願人による特開2006−30684号公報参照。)を用い、光ファイバテープ心線から光ファイバ素線を分離する場合に要した時間の長さにより判定した。使用する分離工具には、光ファイバテープ心線10を押圧するヤスリ部と、このヤスリ部に隣接して設けられ光ファイバテープ心線10を押圧する複数の小突起が立設された凹凸部とを有する一対のアームを、アームの根元部に設けられている支点で回動自在に軸支し、かつ両アームを板バネあるいはコイルバネで両アームが互いに開く方向に付勢してある。そして、分離工具は、バネの付勢力に逆らって一対のアームを閉じることで光ファイバテープ心線をヤスリ部や凹凸部で押圧するようになっている。
【0068】
このような構成の分離工具のヤスリ部で光ファイバテープ心線を擦り、さらに凹凸部で擦ることでそれぞれの光ファイバ素線に単心分離した場合に要した時間により単心分離性を判定した。なお、光ファイバテープ心線10としては、テープ被覆の厚さtが10μmのものを用いた。
【0069】
ここで、単心分離にかかる処理時間が30秒以内である場合は、作業性よく光ファイバテープ心線10を単心分離できる。上述した(3)式を満たすスリット幅wとスリット深さLの組み合わせのうち、30秒以内で単心分離できたのは、スリット深さLが40〔μm〕≦L≦95〔μm〕の範囲内にあり、スリット幅w〔μm〕が、5〔μm〕≦w≦60〔μm〕の図15の領域A2に示す範囲内にあるものであった。したがって、被覆14の厚さtが2〔μm〕≦t≦20〔μm〕である場合には、各スリットの条件を、上記(3)式を満たすスリット幅wとスリット深さLの組み合わせとするとともに、スリット深さLを40〔μm〕≦L≦95〔μm〕の範囲内とし、スリット幅w〔μm〕を5〔μm〕≦w≦60〔μm〕の範囲内とすることによって、作業性よく光ファイバテープ心線10を単心分離できる。
【0070】
さらに、単心分離にかかる処理時間が10秒以内である場合は、さらに作業性よく光ファイバテープ心線10を単心分離できる。上述した(3)式を満たすスリット幅wとスリット深さLの組み合わせのうち、実際に10秒以内で単心分離できたのは、スリット深さLが45〔μm〕≦L≦95〔μm〕の範囲内にあり、スリット幅w〔μm〕が、5〔μm〕≦w≦20〔μm〕の図16の領域A3の範囲内にある場合であった。したがって、被覆14の厚さtが2〔μm〕≦t≦20〔μm〕である場合には、各スリットの条件を、上記(3)式を満たすスリット幅wとスリット深さLの組み合わせとするとともに、スリット深さLを45〔μm〕≦L≦95〔μm〕の範囲内とし、スリット幅w〔μm〕を5〔μm〕≦w≦20〔μm〕の範囲内とすることによって、さらに作業性よく光ファイバテープ心線10を単心分離できる。
【0071】
なお、図14の領域A1の範囲内に位置するスリット幅wとスリット深さLの組み合わせでスリットSを形成した場合、実際にスロット型の光ファイバケーブルを製造する際に、光ファイバテープ心線をスロットに実装しても光ファイバテープ心線が破壊することはなかった。
【0072】
(実施の形態2)
つぎに、実施の形態2について説明する。実施の形態2においては、水平方向および垂直方向においてそれぞれ異なる厚さで被覆14が形成される場合について説明する。図17は、実施の形態2にかかる光ファイバテープ心線の断面図である。図17は、図1と同様に、光ファイバテープ心線における光ファイバの延伸方向に垂直な面で切断した断面図である。また、図18は、図17における領域Bを拡大した図である。
【0073】
また、図17および図18に示すように、本実施の形態2にかかる光ファイバテープ心線210では、両端のスリットをスリットS1とし、両端以外の内側のスリットをスリットS2として説明する。そして、スリットS1のスリット深さをL1としスリット幅をw1とする。また、スリットS2のスリット深さをL2としスリット幅をw2とする。
【0074】
本実施の形態2においても、実施の形態1と同様に、光ファイバテープ心線210のスリットS1,S2の形状によって光ファイバテープ心線210の水平方向応力Sx、垂直方向応力Syがどのように変化するかを解析した。本実施の形態2においては、実施の形態1と同様に、ガラス光ファイバ11、プライマリ12、セカンダリ13および被覆14のヤング率、ポアソン比、収縮率および外径として、表1に示す各数値を用いている。なお、光ファイバの種類としては、実施の形態1と同様に、ITU−T G.652準拠のSMFファイバを用いた。
【0075】
図19は、本実施の形態2における解析結果を示す図であり、被覆14の厚さのうち水平方向の厚さtxが20〔μm〕であって垂直方向の厚さtyが12.5〔μm〕である場合の内側ファイバおよび外側ファイバにおける各応力差(Sx−Sy)と、スリット深さL1,L2との関係を示す図であり、各スリットS1,S2のスリット幅wを20〔μm〕とした場合に対応する。図19においては、スリットS1,S2のスリット深さL1,L2は同じ深さとして解析を行なっている。そして、図19(a)は、スリット深さL1,L2を37.5〜67.5〔μm〕に変化させた場合における各ファイバ位置における応力差(Sx−Sy)を示し、図19(b)は、内側ファイバおよび外側ファイバにおける各応力差(Sx−Sy)とスリット深さLとの関係を示す。
【0076】
図19(a)に示すように、被覆14の厚さが水平方向と垂直方向とで異なる場合についても応力差(Sx−Sy)がスリット深さLの変化で符号の正負が反転することから、内側ファイバと外側ファイバの応力差(Sx−Sy)の絶対値が最も0に近い値で等しくなるスリット深さがあることがわかる。
【0077】
そして、図19(b)に示すように、内側ファイバにおける応力差(Sx−Sy)と外側ファイバにおける応力差(Sx−Sy)の絶対値が最も0に近い値で等しくなるスリット深さLは、L=57.5μmであった。そして、図19(a)に示すように、このスリット深さL=57.5〔μm〕でスリットS1,S2を形成した場合、いずれの位置の光ファイバ20においても、応力差(Sx−Sy)が0.04MPaと最も0に近い値となった。
【0078】
また、被覆14の厚さのうち水平方向の厚さtxが20〔μm〕であって垂直方向の厚さtyが12.5〔μm〕である場合については、スリット幅を変化させた場合についても解析を行った。結果を図20−1〜図20−5に示す。図20−1は、各スリットSのスリット幅wを5〔μm〕とした場合に対応し、図20−2は、各スリットSのスリット幅wを10〔μm〕とした場合に対応し、図20−3は、各スリットSのスリット幅wを40〔μm〕とした場合に対応し、図20−4は、各スリットSのスリット幅wを60〔μm〕とした場合に対応し、図20−5は、各スリットSのスリット幅wを80〔μm〕とした場合に対応する。そして、図20−1〜図20−5の各(a)図は、各スリット深さL1,L2における各ファイバ位置における応力差(Sx−Sy)を示し、各(b)図は、内側ファイバおよび外側ファイバにおける各応力差(Sx−Sy)とスリット深さLとの関係を示す。なお、図20−1〜図20−5においては、スリットS1,S2のスリット深さL1,L2は同じ深さとして解析を行なっている。
【0079】
図20−1〜図20−5に示すように、各スリットSのスリット幅wを5〔μm〕とした場合には、スリット深さLが66〔μm〕、スリット幅wを10〔μm〕とした場合には、スリット深さLが63〔μm〕、スリット幅wを40〔μm〕とした場合には、スリット深さLが46.8〔μm〕、スリット幅wを60〔μm〕とした場合には、スリット深さLが38.6〔μm〕、スリット幅wを80〔μm〕とした場合には、スリット深さLが34.5〔μm〕の場合に内側ファイバにおける応力差(Sx−Sy)と外側ファイバにおける応力差(Sx−Sy)の絶対値が最も0に近い値で等しくなり、いずれの位置の光ファイバ20においても、応力差(Sx−Sy)が最も0に近い値となった。このように、各スリット幅wについて、それぞれ応力差(Sx−Sy)が最も0に近い値となるスリット深さLを求めることができる。
【0080】
そして、実際に、被覆14の厚さのうち水平方向の厚さtxが20〔μm〕であって垂直方向の厚さtyが12.5〔μm〕である場合であって、上記結果で求めた応力差(Sx−Sy)が最も0に近い値となる各スリット幅wおよび各スリット深さLの組み合わせでスリットS1,S2を形成した光ファイバテープ心線210を作製し、PMDを評価した。表3の番号A〜Eに、実際に作成した各光ファイバテープ心線の各寸法と、PMDの評価結果とを示す。また、表3中におけるPMD欄の各記号は、表2と同様に、◎印は、PMDが0.05〔ps/km1/2〕以下であり、○印は、0.05〔ps/km1/2〕<PMD≦0.1〔ps/km1/2〕である場合を示す。また、表3に示すように、スリットS1,S2は、スリット位置によらず同一のスリット深さLで形成した。
【0081】
【表3】
【0082】
表3に示すように、上述した図19および図20−1〜図20−5において求めた各スリット幅wおよび各スリット深さLの組み合わせでスリットS1,S2を形成した光ファイバテープ心線210は、いずれにおいても、PMDが0.1〔ps/km1/2〕以下を示し、良好な特性を示した。水平方向応力と垂直方向応力の差を0.05MPa以下にまで低減したため、PMDも低減することができたものと考えられる。
【0083】
なお、表3の番号A〜Eの各スリット幅wおよび各スリット深さLの組み合わせは、本実施の形態1において求められた(3)式を満たすスリット深さLおよびスリット幅wの組み合わせである。
【0084】
このように、被覆14の厚さが水平方向と垂直方向とで異なる本実施の形態2にかかる光ファイバテープ心線210においても、実施の形態1と同様に、被覆14の厚さt、スリット深さLおよびスリット幅wが、2〔μm〕≦t≦20〔μm〕、25〔μm〕≦L≦95〔μm〕および5〔μm〕≦w≦80〔μm〕であって、上述した(3)式を満たすようにスリット幅wとスリット幅Lを設定することによって、水平方向の応力Sxと垂直方向の応力Syとの応力差(Sx−Sy)を最も0に近い値にすることができる。このため、実施の形態2においても、PMDを低減することができる。
【0085】
また、上記では、スリットS1,S2のスリット深さL1,L2を同じ深さとした場合について説明したが、以降の説明では、スリット深さL1,L2をそれぞれ異なる深さに変えて各スリットS1,S2を形成する場合のスリット深さLとスリット幅wの組み合わせについて検討する。
【0086】
実際に、被覆14の厚さのうち水平方向の厚さtxが20〔μm〕であって垂直方向の厚さtyが12.5〔μm〕である場合であって、スリットS1,S2のスリット幅w1,w2をそれぞれ20〔μm〕とし、内側に位置するスリットS2のスリット深さL2を47.5〔μm〕とした場合における応力差(Sx−Sy)と、外側に位置するスリットS1のスリット深さL1との関係を示す。図21(a)は、スリット深さL1を48.5〜67.5〔μm〕に変化させた場合における各ファイバ位置における応力差(Sx−Sy)を示し、図21(b)は、内側ファイバおよび外側ファイバにおける各応力差(Sx−Sy)とスリット深さL1との関係を示す。応力差(Sx−Sy)がスリット深さLの変化で符号の正負が反転することから、内側ファイバと外側ファイバの応力差(Sx−Sy)の絶対値が最も0に近い値で等しくなるスリット深さがある。
【0087】
図21(b)に示すように、スリットS1,S2のスリット深さL1,L2を異なる深さとすることによって、内側ファイバにおける各応力差(Sx−Sy)と外側ファイバにおける各応力差(Sx−Sy)との差は小さくなっている。そして、図21(b)に示すように、内側ファイバにおける応力差(Sx−Sy)と外側ファイバにおける応力差(Sx−Sy)の絶対値が最も0に近い値で等しくなるのは、スリット深さL1が61〔μm〕の場合である。そして、この場合の応力差(Sx−Sy)の絶対値は、0.01MPaと非常に小さな値となる。したがって、最も0に近い値で等しくなる内側ファイバにおける応力差(Sx−Sy)と外側ファイバにおける応力差(Sx−Sy)の絶対値は、スリット深さL1,L2がいずれも同じ深さである場合には図19(b)に示すように0.04MPaが限界であったのに対し、スリットS1,S2のスリット深さL1,L2を異なる深さとすることによって、0.01MPaにまで低くすることができる。そして、図21(a)に示すように、図21(b)で求めたL1=61〔μm〕でスリットS1を形成した場合、いずれの位置の光ファイバ20においても、応力差(Sx−Sy)が最も0に近い値となった。
【0088】
さらに、上記図21(a),(b)で求めた応力差(Sx−Sy)が最も0に近い値となる条件とほぼ同じ条件でスリットS1,S2を形成した光ファイバテープ心線210を作成し、PMDの評価を行なった。すなわち、表3の番号Zに示すように、外側のスリットS1のスリット深さL1を60〔μm〕とし、内側のスリットS2のスリット深さL2を48〔μm〕とし、スリットS1,S2のスリット幅w1,w2をともに20〔μm〕としたスリットS1,S2を形成した。そして、この条件でスリットS1,S2を形成した光ファイバテープ心線210のPMDを測定した結果を、表3の番号Zに対応する欄に示す。
【0089】
この場合、表3の番号Zに対応するPMD結果に示すように、PMDが0.05〔ps/km1/2〕以下を示し、非常に良好であった。また、表3の番号Zに示すスリットS1のスリット幅w1およびスリット深さL1の組み合わせは、前述した領域A1の範囲内に位置する。
【0090】
このように、被覆14の厚さが水平方向と垂直方向とで異なる場合においては、被覆14の厚さt、スリット深さLおよびスリット幅wが、2〔μm〕≦t≦20〔μm〕、25〔μm〕≦L≦95〔μm〕および5〔μm〕≦w≦80〔μm〕であって、上述した(3)式を満たすようにスリット幅wとスリット深さLを設定し、さらに、各スリットS1,S2に応じてスリット幅およびスリット深さをそれぞれ設定することによって、水平方向応力Sxと垂直方向応力Syとの応力差(Sx−Sy)をほぼ0に近い値にすることができ、PMDをさらに低減することができる。
【0091】
また、本実施の形態1,2においては、4本の光ファイバ20を用いた光ファイバテープ心線10,210について説明したが、もちろん、図22に示すように、2本の光ファイバ20を用いた光ファイバテープ心線10aにも適用可能である。この場合、図22に示すように、各光ファイバ20間に、上述した(3)式を満たすスリット幅wおよびスリット深さLの組み合わせでスリットSを形成すればよい。
【0092】
また、本実施の形態1,2については、図23に示すように、図22に示す2本の光ファイバテープ心線10aを一括被覆した光ファイバテープ心線10bに対しても適用可能である。この場合も同様に、上述した(3)式を満たすスリット幅wおよびスリット深さLの組み合わせで、光ファイバテープ心線10a間にスリットSbを形成すればよい。また、本実施の形態1,2については、図24に示すように、図1に示す2本の光ファイバテープ心線10を一括被覆した光ファイバテープ心線10cに対しても適用可能である。この場合も同様に、上述した(3)式を満たすスリット幅wおよびスリット深さLの組み合わせで、光ファイバテープ心線10間にスリットScを形成すればよい。また、本実施の形態1,2については、図25に示すように、図23に示す2本の光ファイバテープ心線10bを一括被覆した光ファイバテープ心線10dに対しても適用可能である。この場合も同様に、上述した(3)式を満たすスリット幅wおよびスリット深さLの組み合わせで、光ファイバテープ心線10b間にスリットSdを形成すればよい。
【0093】
また、図26の光ファイバテープ心線10eに示すように、2本の光ファイバテープ心線を一括被覆した後に、光ファイバテープ心線を形成する内部の被覆、および、2本の光ファイバテープ心線を被覆する外部の被覆の双方に一括してスリットSeを形成してもよい。また、図27の光ファイバテープ心線10fに示すように、複数回にわたって光ファイバテープ心線を一括被覆することによって形成した光ファイバテープ心線に対し、各スリットの位置に応じて、応力差(Sx−Sy)がいずれのファイバ位置においてもほぼ0となるようにそれぞれ異なる組み合わせのスリット幅やスリット深さで各スリットSf1〜Sf3を形成してもよい。
【0094】
もちろん、図28の光ファイバテープ心線10gに示すように、各光ファイバ間に形成するスリットは、スリットSのように光ファイバ間に単数のみ形成する場合に限らず、スリットSg1,Sg2のように光ファイバ間に二以上形成してもよい。
【符号の説明】
【0095】
10,210 光ファイバテープ心線
11 クラッド
12 プライマリ
13 セカンダリ
14 被覆
20 光ファイバ
S,S1,S2 スリット
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の光ファイバを並列させ、前記光ファイバの周囲を被覆により一体化した光ファイバテープ心線であって、
前記光ファイバテープ心線の長手方向と垂直な断面において、前記被覆は、隣り合う前記光ファイバ間に対応する外表面に溝を備えることを特徴とする光ファイバテープ心線。
【請求項2】
前記光ファイバテープ心線の前記断面において、前記光ファイバの中心を通り、かつ、光ファイバの並列方向と垂直な線上において前記被覆の厚さtが2〔μm〕≦t≦20〔μm〕であって、
前記溝の前記線上における前記光ファイバの外表面位置と同じ高さから最深部までの深さL〔μm〕および前記光ファイバの表面位置と同じ高さから前記深さLの0.7倍の深さにおける前記溝の幅w〔μm〕は、
0.0021w2−0.525w+53.73≦L≦0.0057w2−1.256w+99.25
の関係を満たすとともに、25〔μm〕≦L≦95〔μm〕、5〔μm〕≦w≦80〔μm〕であることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバテープ心線。
【請求項3】
前記深さL〔μm〕は、40〔μm〕≦L≦95〔μm〕の範囲内にあり、前記幅w〔μm〕は、5〔μm〕≦w≦60〔μm〕の範囲内にあることを特徴とする請求項2に記載の光ファイバテープ心線。
【請求項4】
前記深さL〔μm〕は、45〔μm〕≦L≦95〔μm〕の範囲内にあり、前記幅w〔μm〕は、5〔μm〕≦w≦20〔μm〕の範囲内にあることを特徴とする請求項2に記載の光ファイバテープ心線。
【請求項1】
複数の光ファイバを並列させ、前記光ファイバの周囲を被覆により一体化した光ファイバテープ心線であって、
前記光ファイバテープ心線の長手方向と垂直な断面において、前記被覆は、隣り合う前記光ファイバ間に対応する外表面に溝を備えることを特徴とする光ファイバテープ心線。
【請求項2】
前記光ファイバテープ心線の前記断面において、前記光ファイバの中心を通り、かつ、光ファイバの並列方向と垂直な線上において前記被覆の厚さtが2〔μm〕≦t≦20〔μm〕であって、
前記溝の前記線上における前記光ファイバの外表面位置と同じ高さから最深部までの深さL〔μm〕および前記光ファイバの表面位置と同じ高さから前記深さLの0.7倍の深さにおける前記溝の幅w〔μm〕は、
0.0021w2−0.525w+53.73≦L≦0.0057w2−1.256w+99.25
の関係を満たすとともに、25〔μm〕≦L≦95〔μm〕、5〔μm〕≦w≦80〔μm〕であることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバテープ心線。
【請求項3】
前記深さL〔μm〕は、40〔μm〕≦L≦95〔μm〕の範囲内にあり、前記幅w〔μm〕は、5〔μm〕≦w≦60〔μm〕の範囲内にあることを特徴とする請求項2に記載の光ファイバテープ心線。
【請求項4】
前記深さL〔μm〕は、45〔μm〕≦L≦95〔μm〕の範囲内にあり、前記幅w〔μm〕は、5〔μm〕≦w≦20〔μm〕の範囲内にあることを特徴とする請求項2に記載の光ファイバテープ心線。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8−1】
【図8−2】
【図8−3】
【図8−4】
【図8−5】
【図9−1】
【図9−2】
【図9−3】
【図9−4】
【図9−5】
【図10−1】
【図10−2】
【図10−3】
【図10−4】
【図10−5】
【図10−6】
【図11−1】
【図11−2】
【図11−3】
【図11−4】
【図11−5】
【図11−6】
【図12−1】
【図12−2】
【図12−3】
【図12−4】
【図12−5】
【図12−6】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20−1】
【図20−2】
【図20−3】
【図20−4】
【図20−5】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8−1】
【図8−2】
【図8−3】
【図8−4】
【図8−5】
【図9−1】
【図9−2】
【図9−3】
【図9−4】
【図9−5】
【図10−1】
【図10−2】
【図10−3】
【図10−4】
【図10−5】
【図10−6】
【図11−1】
【図11−2】
【図11−3】
【図11−4】
【図11−5】
【図11−6】
【図12−1】
【図12−2】
【図12−3】
【図12−4】
【図12−5】
【図12−6】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20−1】
【図20−2】
【図20−3】
【図20−4】
【図20−5】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【公開番号】特開2011−22477(P2011−22477A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−169075(P2009−169075)
【出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】
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