説明

光ファイバドロップケーブル

【課題】 光ファイバの口出し性を良くすると共に昆虫が産卵管を突き刺すことを防ぐようにする。
【解決手段】 光ファイバ3と、この光ファイバ3を挟んでその幅方向の両側に平行に配置された少なくとも一対の抗張力体5と、前記光ファイバ3と一対の抗張力体5との外周上を被覆したシース7と、からなる長尺の光エレメント部9を構成すると共に、この光エレメント部9に支持線17をシース19で被覆した長尺のケーブル支持線部21が互いに平行に一体化されている光ファイバドロップケーブル1であって、前記光ファイバ3の中心より対応した前記シース7の厚さ方向の両側のシース7表面から、シース7の長手方向の全長に亘って、前記光ファイバ3の中心に向かって前記光ファイバ3の表面に到達せずシース7の厚さの途中まで、回転刃23により先端を除いた溝がストレート形状の切り込み溝25が形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、小規模ビルあるいは一般家庭に引き込まれる光ファイバドロップケーブルに関し、その光ファイバドロップケーブルの光エレメント部の構造を、昆虫が産卵管を刺して光ファイバを断線させることを防ぐ構造とした光ファイバドロップケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、FTTH(Fiber to the Home)すなわち家庭またはオフィスでも超高速データ等の高速広帯域情報を送受できるようにするために、電話局から延線されたアクセス系の光ファイバケーブルから、ビルあるいは一般住宅などの加入者宅へ光ファイバテープ心線などの光ファイバ心線が引き落とされて、これを配線するために光ファイバドロップケーブルが用いられている。つまり、光ファイドロップバケーブルは電柱上の幹線ケーブルの分岐クロージャから家庭内へ光ファイバを引き込む際に用いられ、主に、図3に示されているような光ファイバドロップケーブル(屋外線)が使用されている。
【0003】
図3を参照するに、従来の光ファイバドロップケーブル101は、光ファイバ素線、光ファイバ心線、光ファイバテープ心線などの光ファイバのうち例えば単心の光ファイバ心線103と、この単心の光ファイバ心線103を挟んでその両側に平行に配置された少なくとも一対の抗張力体105と、前記光ファイバ心線103と一対の抗張力体105との外周上を被覆した断面形状が例えば平型形状で樹脂からなるシース107と、で長尺の光エレメント部109を構成している。
【0004】
前記光ファイバ心線103と一対の抗張力体105の中心軸(X軸)を通る第1平面1111と垂直で、かつ前記ファイバ心線103の中心軸(Y軸)を通る第2平面113の前記シース107の表面には断面が例えば2等辺三角形のV字形状のノッチ115が形成されている。
【0005】
前記長尺の光エレメント部109と、この光エレメント部109におけるシース107の左側に首部117を介して、支持線としての吊り線119を被覆した樹脂からなるシース121で一体化されたケーブル支持線部123と、から前記光ファイバドロップケーブル101が構成されている。しかも、前記吊り線119の中心軸(X軸)を通る平面は前記第1平面111と一致している。
【0006】
前記ノッチ115のノッチ先端は前記光ファイバ心線103の中心に向けられており、このノッチ115を左右に引き裂くことで特殊な工具を用いることなく前記光ファイバ心線103が取り出すことが可能である。
【0007】
また、特許文献1には、光ファイバをプラスティック製の保護チューブ内に収納してなる光ファイバケーブルにおいて、前記保護チューブの長手方向に1個のスリットからなる開放部と、該スリットを開く際に蝶つがいのように開くように、前記開放部と異なる位置の内面または外面の長手方向に1個の連続した切欠または不連続の切欠あるいは不連続のスリットからなる開放部とを備えていることが知られている。
【0008】
さらに、特許文献2には、自己支持型光ケーブルにおいて、外被には長手方向にスリットおよび適当な間隔で開口部が設けられていて、引き落とし作業は、引き落とし点から引き落としに必要な引き落とし線の長さに相当する距離だけ局から離れた地点で、開口部を広げて引き落とす光ファイバ心線を選択して取り出し、切断することが知られている。
【特許文献1】特公平7−82141号公報
【特許文献2】特開平8−240754号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上述した従来の図3に示した光ファイバドロップケーブル101では、ファイバ口出し用のV字形状のノッチ115が長手方向にわたって光エレメント部109に設けられているが、ノッチ115のノッチ先端が光ファイバ心線103の中心に向けられている。先端が尖ったものが光エレメント部109に突き当てられた場合、ノッチ115に沿って光ファイバ心線103へ向かって突き刺さり光ファイバ心線103を断線させる危険性が非常に高い。実際に蝉等の昆虫が産卵管を突き刺して産卵し、光ファイバ心線103を断線させる現象が発生している。
【0010】
特許文献1においては、保護チューブの長手方向に1個のスリットからなる開放部と、該スリットを開く際に蝶つがいのように開くように、前記開放部と異なる位置の内面または外面の長手方向に1個の連続した切欠または不連続の切欠あるいは不連続のスリットからなる開放部とが備えられているが、このスリットや切欠は保護チューブを開く際に用いられており、先端が尖ったものが突き刺さった場合に光ファイバの断線を防ぐようなものではない。
【0011】
また、特許文献2においても、特許文献1と同様に、自己支持型光ケーブルにおいて、外被には長手方向にスリットが設けられていて、外被から光ファイバを取り出す際にスリットを広げて光ファイバを取り出すものであり、先端が尖ったものが突き刺さった場合に光ファイバの断線を防ぐようなものではない。
【0012】
この発明は上述の課題を解決するためになされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記発明が解決しようとする課題を達成するためにこの発明の光ファイバドロップケーブルは、光ファイバと、この光ファイバを挟んでその幅方向の両側に平行に配置された少なくとも一対の抗張力体と、前記光ファイバと一対の抗張力体との外周上を被覆したシースと、からなる長尺の光エレメント部を構成すると共に、この光エレメント部に支持線をシースで被覆した長尺のケーブル支持線部が互いに平行に一体化されている光ファイバドロップケーブルであって、前記光ファイバの中心より対応した前記シースの厚さ方向の両側のシース表面から、シースの長手方向の全長に亘って、前記光ファイバの中心に向かって前記光ファイバの表面に到達せずシースの厚さの途中まで、回転刃により先端を除いた溝がストレート形状の切込み溝が形成されていることを特徴とするものである。
【0014】
この発明の光ファイバドロップケーブルは、前記光ファイバドロップケーブルにおいて、前記切込み溝の深さが0.2mm以上、かつ前記シース厚が0.2mm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
以上のごとき課題を解決するための手段の説明から理解されるように、この発明によれば、前記光ファイバの中心より対応した前記シースの厚さ方向の両側のシース表面から、シースの長手方向の全長に亘って、前記光ファイバの中心に向かって前記光ファイバの表面に到達せずシースの厚さの途中まで、回転刃により先端を除いた溝がストレート形状の切込み溝が形成されていることから、この切込み溝を広げて引き裂くことで光ファイバを口出しすることができると共に、例えば蝉等の昆虫の産卵管の径よりも大きいノッチを無くし、前記切込み溝を形成せしめることで、昆虫が産卵管を突き刺すことを防ぐことができる。
【0016】
また、先端を除いた溝がストレート形状の切込み溝を回転刃により形成せしめることで、切り取られる切り屑が連続せず不連続に切り取られるから、容易に切り屑を除去することができる。さらに、固定刃でなく、回転刃を用いたことで、切り屑除去時の切削抵抗がなく容易に切削することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0018】
図1を参照するに、光ファイバドロップケーブル1は、光ファイバとしての例えば単心の光ファイバ心線3と、この単心の光ファイバ心線3を挟んでその両側に平行に配置された少なくとも一対の抗張力体5と、前記光ファイバ心線3と一対の抗張力体5との外周上を被覆した断面形状が例えば平型形状で例えばポリ塩化ビニル(PVC)や難燃性のポリエチレン(PE)のような熱可塑性樹脂からなるシース(外被)7と、で長尺の光エレメント部9を構成している。
【0019】
前記光ファイバ心線3と一対の抗張力体5の中心軸(X軸)を通る平面が第1平面11となっている。この第1平面11に垂直で、かつ前記光ファイバ心線3の中心軸(Y軸)を通る平面が第2平面13となっている。
【0020】
前記長尺の光エレメント部9と、この光エレメント部9におけるシース7の左側に首部15を介して、支持線としての吊り線17を被覆した例えばポリ塩化ビニル(PVC)や難燃性のポリエチレン(PE)のような熱可塑性樹脂からなるシース19で一体化されたケーブル支持線部21と、から前記光ファイバドロップケーブル1が構成されている。しかも、前記吊り線17の中心軸(X軸)を通る平面は前記第1平面11と一致している。
【0021】
前記光ファイバ心線3の中心Oより対応した前記シース7の厚さ方向(図1において上下方向)の上下両側のシース7の表面から、シース7の長手方向(図1において紙面に対して直交する方向)の全長に亘って、前記光ファイバ心線3の中心Oに向かって前記光ファイバ心線3の表面に到達せずシース7の厚さの途中まで、回転刃23(図2参照)により先端を除いた溝がストレート形状の切込み溝25が形成されている。
【0022】
前記切込み溝25はケーブル押し出し時に切込みが入れられる。そして、昆虫の例えば蝉の産卵管の直径は約0.4mm程度であるが、0.10mm以上0.40mm未満の厚さの回転刃23を使用することで、蝉の産卵管の直径(約0.4mm程度)よりも小さい幅L1(0.10mm以上0.40mm未満)の口出し用の切込み溝25を設けることが可能になった。
【0023】
したがって、従来のノッチ115のV字形状と異なり、開口部に向かって広がる形状とはならないのでガイドとならず、産卵管が突き刺さることを防ぐことがですきる。なお、切込みを入れる工程は、ケーブル押し出し時に行っても良いし、ケーブル製造後に別工程にて切れ込みを入れても良い。
【0024】
前記切込み溝25の深さL2は0.2mm以上、かつ前記シース厚すなわち切込み溝25の先端と前記光ファイバ心線3の表面までの距離L3は0.2mm以下であることが好ましい。
【0025】
前記切込み溝25を前記長尺の光エレメント部9のシース7の表面に入れる説明を行うと、図2に示されているように、一対のガイドコロ27と一対のガイドコロ29とを適宜な間隔を開けると共にこの一対のガイドコロ27と一対のガイドコロ29との間に前記一対の回転刃23を配置する。そして、ケーブル押し出し時の光ファイバドロップケーブル1の長尺の光エレメント部9のシース7を図2において一対のガイドコロ27の間に挟み込み、一対のガイドコロ27を矢印で示したごとく回転させて図2において右から左に向けて走行させる。そして、一対の回転刃23の間に入れて予め設定した切込み深さのもとで矢印で示した如く回転させると、シース7の表面から切り屑が除去される。ついで、一対のガイドコロ29の間に長尺の光エレメント部9のシース7を入れて矢印で示したごとく回転させることで長尺の光エレメント部9のシース7が左から右へ送り出される。この動作を連続して行うことにより、長尺の光エレメント部9のシース7の長手方向に連続して切込み溝25が形成される。
【0026】
この切込み溝25を広げて引き裂くことで光ファイバ心線3を容易に口出しすることができると共に、例えば蝉等の昆虫の産卵管の径よりも大きいノッチを無くし、前記切込み溝25を形成せしめることで、昆虫が産卵管を突き刺すことを防ぐことができる。
【0027】
また、切込み溝25は先端を除いた溝がストレート形状に形成されることで、切り取られる切り屑が連続せず不連続に切り取られるから、容易に切り屑を除去することができる。さらに、固定刃でなく、回転刃23を用いたことで、切り屑除去時の切削抵抗がなく容易に切削することができる。
【0028】
前記回転刃23の深さを変更してケーブル試作を実施し、シース7の引き裂き性とケーブルに外力が加わった際のシース7の割れについて調査した。ケーブルの光エレメント部9の厚さは2.0mm、シース7の材質は難燃性のポリオレフィンを用いた。
【0029】
光エレメント部9の上下に入れる切込み溝25の深さが浅いとシース7の引き裂き性が悪く、光ファイバ心線3を取り出すことが困難である。また、切込み溝25の深さが深く、切込み溝25部分のシース7の厚さが小さくなるとケーブルに外力が加わった際に、シース7が割れてしまう危険性が生じる。
【0030】
シース7に入れる切込み溝25の深さを表1に示すごとく0.1mm、0.2mm、0.6mm、0.7mmおよび0.8mmと変化させると共に切込み溝25部分のシース7の厚さを0.8mm、0.7mm、0.3mm、0.2mm、0.1mmと変化させてシース7の引き裂き性とケーブルに外力が加わった際のシース7の割れ性を評価した結果は表1に示すとおりである。
【0031】
<表1>

〇シース引き裂き性
光ファイバドロップケーブル1からケーブル支持線部21を切り離して光エレメント部9のみとし、光エレメント部9に設けた切り込みに沿って端末から約10mm回転刃23で切込み溝25を入れ、その切込み溝25をきっかけとして左右に引き裂いた際に特殊な工具を使用することなくシース7における切込み溝25の先端と光ファイバ心線3との間の厚さ部分(L3)が引き裂ける場合を〇、やや困難であるが手で引き裂くことが可能な場合を△、工具を使用しないと引き裂けない場合を×とした。
【0032】
〇ファイバ口出し性
光ファイバドロップケーブル1からケーブル支持線部21を切り離して光エレメント部9のみとし、光エレメント部9に設けた切り込みに沿って端末から約10mm回転刃23で切込み溝25を入れ、その切込み溝25をきっかけとして左右に引き裂いた際に特殊な工具を使用することなくファイバが容易に口出し可能な場合を〇、工具を使用しないと口出しできない場合を×とした。
【0033】
〇しごき試験
光ファイバドロップケーブル1からケーブル支持線部21を切り離して光エレメント部9のみとし、その光エレメント部9に対してR300のしごき金車を使用し、印加荷重70kgf、しごき角度90°、10サイクルのしごきを加えた際にシース7に異常(亀裂、割れ等)が生じた場合を×、シース7に何ら異常が見られなかった場合を〇とした。
【0034】
〇衝撃試験
光ファイバドロップケーブル1からケーブル支持線部21を切り離して光エレメント部9のみとし、その光エレメント部9に対して300gf、打撃面半径10mmの錘を1mの高さから10回連続で同一箇所に落下させた際にシース7に異常(亀裂、割れ等)が生じた場合を×、シース7に何ら異常が見られなかった場合を〇とした。
【0035】
〇曲げ試験
光ファイバドロップケーブル1からケーブル支持線部21を切り離して光エレメント部9のみとし、その光エレメント部9に対して曲げ直径30mmφ、曲げ角度±180°、10サイクル連続で同一箇所に曲げを加えた際にシース7における切り込み溝25の先端と光ファイバ心線3との間の厚さ部分(L3)に亀裂、割れ等の異常が生じた場合を×、シース7における切り込み溝25の先端と光ファイバ心線3との間の厚さ部分(L3)に何ら異常が見られなかった場合を○とした。
【0036】
前記回転刃23の種類としては、つぎのようなものが挙げられる。
【0037】
種類:例えばリューターの先につける回転刃のような軸受けがあり押し出されたケー ブルに接触することで回転するもの、あるいはモータ等の動力に接続することで 任意の回転数で回転することができる任意の厚みをもった回転刃
刃の数:1枚刃あるいはそれ以上の複数刃で構成された回転刃
回転数:1〜30000rpm(市販のリューターで30000rpmの能力有り)
直径:10〜300mm
厚み:0.1〜0.4未満
材質:ステンレス、鋼、炭素鋼、クロム鋼、鋳鉄、セラミック、チタン等。また、高耐 熱耐食合金であるインコネル(ニッケル合金)、ハステロイ(ニッケル合金)、 ステライト(コバルト合金)等。また、刃の先端にダイヤモンド粒子を固定させ たダイヤモンド回転刃。
【0038】
ダイヤモンド回転刃の種類:スイスタイプ、ジャーマンタイプ、コンティニュアス、リ ムロックタイプ、電着タイプ等。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】この発明の光ファイバドロップケーブルの断面図である。
【図2】この発明の光ファイバドロップケーブルの表面に切込み溝を入れる一例の説明図である。
【図3】従来の光ファイバドロップケーブルの断面図である。
【符号の説明】
【0040】
1 光ファイバドロップケーブル
3 光ファイバ心線
5 抗張力体
7 シース
9 光エレメント部
11 第1平面
13 第2平面
15 首部
17 吊り線(支持線)
19 シース
21 ケーブル支持線部
23 回転刃
25 切り込み溝
27、29 ガイドコロ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバと、この光ファイバを挟んでその幅方向の両側に平行に配置された少なくとも一対の抗張力体と、前記光ファイバと一対の抗張力体との外周上を被覆したシースと、からなる長尺の光エレメント部を構成すると共に、この光エレメント部に支持線をシースで被覆した長尺のケーブル支持線部が互いに平行に一体化されている光ファイバドロップケーブルであって、
前記光ファイバの中心より対応した前記シースの厚さ方向の両側のシース表面から、シースの長手方向の全長に亘って、前記光ファイバの中心に向かって前記光ファイバの表面に到達せずシースの厚さの途中まで、回転刃により先端を除いた溝がストレート形状の切込み溝が形成されていることを特徴とする光ファイバドロップケーブル。
【請求項2】
前記切込み溝の深さが0.2mm以上、かつ前記シース厚が0.2mm以下であることを特徴とする請求項1記載の光ファイバドロップケーブル。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate