説明

光ファイバドロップケーブル

【課題】 セミの産卵管の刺入による光ファイバ心線の損傷に起因する被害を回避することが可能な光ファイバドロップケーブルを提供することを目的とする。
【解決手段】 光ファイバ心線17、27を挟んで一対のテンションメンバ16、26を配置したケーブル部13、23に支持線部11、23を一体に連結して形成された光ファイバドロップケーブル10、20において、光ファイバドロップケーブル10、20の表面の色を、金色、銀色、黄色、青色、緑色、又は白色のいずれか1色、又は金色、銀色、黄色、青色、緑色、又は白色の少なくとも2色以上を配色したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速通信網を構成するために屋外に架空配設される光ファイバドロップケーブルに関し、さらに詳しくは、昆虫、特にセミの産卵管刺入による被害を有効に防止することが可能な光ファイバドロップケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
インターネットを初めとした高速通信網を構築するために光ファイバケーブルが各所に架空配設されており、現在では大容量で双方向通信を可能とするネットワークが身近に提供されている。そして、利用者宅に光ファイバケーブルを引き込む際には光ファイバドロップケーブル(以下、単に「ドロップケーブル」という。)が利用されている。従来のドロップケーブルの一例を図4に示す。図4に示すのは従来のドロップケーブルの断面図である。図示されたドロップケーブル100は、支持線部101とケーブル部103とを連結部102で連結するようにして構成されており、全体としてポリエチレン、難燃性ポリエチレン又はPVC等の熱可塑性樹脂製のシース104によって一体に形状されている。支持線部101は断面略円形状とされ、ケーブル部103は断面略矩形状とされている。ケーブル部103の内部のほぼ中央には光ファイバ心線107が配置されると共に、光ファイバ心線107を挟んでケーブル部103の両端部側には一対のテンションメンバ106、106が配置されている。
【0003】
また、ケーブル部103の両側面(図4における左右方向)には断面略V字状のノッチ105、105が形成されており、このノッチ105、105を利用してシース104を引き裂くことにより光ファイバ心線107を取り出すことができるようになっている。尚、テンションメンバ105は金属、ガラス繊維或いは合成樹脂等の適宜の素材によって形成される線材によって形成されている。
【0004】
このようなドロップケーブルについて通信障害が多発することとなり、その原因を調査したところ、クマゼミが産卵のためドロップケーブルを枯れ枝と間違え、ドロップケーブルに産卵管を突き刺して光ファイバ心線を傷つけたためであることが判明した。また、このような事故は毎年7月から9月頃にかけて、特に西日本地域で多発することがわかった。クマゼミがドロップケーブルのV字状のノッチに沿わせるようにして産卵管を突き刺すので、ちょうどその内側に配置されている光ファイバ心線が傷つけられてしまい、それによって通信障害が発生することとなる。
【0005】
そのため、クマゼミ対策を施したドロップケーブルが種々提供されている。例えば、特許文献1の光ファイバケーブルは、V字状のノッチを接着性低強度樹脂で塞ぐことによりセミがノッチの存在に気がつかないようにしてセミがノッチ部へ産卵しないようにしたものである。また、光ファイバ心線の近傍に防護材を配置したものもある。
【0006】
また、特許文献2の光ドロップケーブルは、ノッチの形状をスリット状でセミの産卵管をガイドし難い形状とし、セミが産卵管を挿入し難い位置にノッチの開口部を形成すると共に、ノッチの先端までの距離を長くすることでセミの産卵管が光ファイバ心線に到達するおそれを回避しようとするものである。さらに、特許文献3のように、支持線部やケーブル部をポリウレタン、ポリアミド、ポリイミド、高密度ポリエチレンで形成したものも提供されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−308916号公報
【特許文献2】特開2006−163337号公報
【特許文献3】特開2007−101586号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述した従来のドロップケーブルのように、形状や素材を変更したとしても、クマゼミは必ずしもノッチに沿って産卵管を突き刺すとは限らず、また、ドロップケーブルの形状や素材を変更することに伴う製造コストのアップや製造の困難性という製造面の問題や、光ファイバ心線の取り出し性低下など作業性に問題があった。
【0009】
ここで、生物学者で生物理論を研究している有識者の大学教授によれば、クマゼミは色覚を有しており、繁殖活動においては雌が安心して産卵を行える場所を求めてその色から木の枝、特に枯れ枝、を判別して卵を産む習性があるとのことである。そして、西日本以南から都会へ移植された植木の土の中に幼虫として存在していたクマゼミが夏場に孵化することにより、木々の少ない都会であっても産卵期になるとドロップケーブルを木の枝、特に枯れ枝と勘違いして産卵するため通信障害が発生するということが推察される。
【0010】
そこで、本発明は、このようなクマゼミの色覚や習性に基づいて、ドロップケーブルを木の枝、特に枯れ枝と勘違いさせないようにすることで昆虫、特にクマゼミの産卵を原因とするによる通信障害を回避することができるとの知見に基づき、セミの産卵管の刺入による光ファイバ心線の損傷に起因する被害を回避することが可能な光ファイバドロップケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため請求項1に記載の発明は、光ファイバ心線を挟んで一対のテンションメンバを配置したケーブル部に支持線部を一体に連結して形成された光ファイバドロップケーブルにおいて、光ファイバドロップケーブルの表面の色を、金色、銀色、黄色、青色、緑色、又は白色のいずれか1色としたことを特徴とする。
【0012】
上記目的を達成するため請求項2に記載の発明は、光ファイバ心線を挟んで一対のテンションメンバを配置したケーブル部に支持線部を一体に連結して形成された光ファイバドロップケーブルにおいて、光ファイバドロップケーブルの表面の色を、金色、銀色、黄色、青色、緑色、又は白色の少なくとも2色以上を配色したことを特徴とする。
【0013】
上記目的を達成するため請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の光ファイバドロップケーブルにおいて、黄色の色調は、マンセル表色系における色相(H)が5Y〜10Y、明度(V)が8.75〜10、彩度(C)が10〜20の範囲であることを特徴とする。
【0014】
上記目的を達成するため請求項4に記載の発明は、請求項1又は2に記載の光ファイバドロップケーブルにおいて、青色の色調は、マンセル表色系における色相(H)が5B〜10B、明度(V)が8.75〜10、彩度(C)が10〜20の範囲であることを特徴とする。
【0015】
上記目的を達成するため請求項5に記載の発明は、請求項1又は2に記載の光ファイバドロップケーブルにおいて、緑色の色調は、マンセル表色系における色相(H)が5GY〜10GB、明度(V)が8.75〜10、彩度(C)が10〜20の範囲であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る光ファイバドロップケーブルによれば、光ファイバドロップケーブルの表面の色をギラギラとした明るい色(例えば、金色、銀色、白色、黄色など)又は青葉と間違える色(例えば、青色、緑色)としたので、クマゼミの雌が産卵期においても木の枝、特に枯れ枝と間違えることがなく、また、色覚を有するとされるクマゼミの嫌がる色、すなわちギラギラとした明るい色、とすることとしたのでクマゼミが近寄ることがなく、従って産卵に至ることもない。そのため、産卵管の刺入による光ファイバ心線の損傷による被害を確実に防止することができるという効果がある。
【0017】
また、本発明に本発明に係る光ファイバドロップケーブルによれば、少なくとも光ファイバドロップケーブルの表面の色をクマゼミの嫌がる色とするだけなので光ファイバドロップケーブルの材質や形状を大きく変更する必要はなく、従来の耐セミ用の光ファイバドロップケーブルのように製造面や作業面でのコストアップや光ファイバ心線の取り出し性低下などの問題を回避することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る光ファイバドロップケーブルの第一実施形態の断面図である。
【図2】(a)(b)は2以上色を着色した場合を示す参考図である。
【図3】本発明に係る光ファイバドロップケーブルの第二実施形態の断面図である。
【図4】従来の光ファイバドロップケーブルの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る光ファイバドロップケーブルの好ましい一実施形態について説明する。本発明に係る光ファイバドロップケーブルの第一実施形態の断面図である。図示された光ファイバドロップケーブル10(以下、単に「ドロップケーブル10」という)は、概略として従来のドロップケーブルと同様の構成を備えており、支持線部11とケーブル部13とを連結部12で連結するようにして構成されている。
【0020】
支持線部11、ケーブル部13及び連結部12は、ポリエチレン、難燃性ポリエチレン又はPVC等の熱可塑性樹脂製で形成されており、シース14によって一体に形状されている。そして、支持線部11は断面略円形状とされ、ケーブル部13は断面略矩形状とされている。ケーブル部13の内部のほぼ中央には光ファイバ心線17が配置されると共に、光ファイバ心線17を真ん中に挟んでケーブル部13の両端部側には一対のテンションメンバ16、16が配置されている。
【0021】
ケーブル部13の両側面(図1における左右方向)には断面略V字状のノッチ15、15が形成されており、このノッチ15、15を利用してシース14を引き裂き、光ファイバ心線17を取り出すことができるようになっている。
【0022】
このように形成されたドロップケーブル10の表面10aを色覚を有するとされるクマゼミが卵を産みつけるための木の枝、特に枯れ枝の色とは異なる色に着色する。好ましくは、産卵期のクマゼミの雌が嫌がるギラギラとした明るい色、例えば、金色、銀色、白色、黄色など、又は青葉と間違える色、例えば、青色、緑色、に着色する。クマゼミは茶褐色系の色又は暗い色をした細長いものを木の枝と認識すると考えられるため、そのような色とは明らかに異なる色とすることでクマゼミの誤認を防止することができる。
【0023】
着色は、上述したそれぞれの色の塗料をドロップケーブル10に塗布することによって行うこともでき、シース14を形成するための合成樹脂に予め塗料を混合することにより着色された合成樹脂でシース14を形成するようにすることもできる。銀色の場合は、例えば、アルミニウムの粉末を溶剤に分散させたものを利用することができるし、アルミニウムの薄い箔で覆うことも可能である。また、金色は、上述した銀色の塗料に黄色の塗料を適宜混合することで得ることができる。さらに、白色は、例えば、二酸化チタンを主成分とする塗料を用いることができる。
【0024】
また、黄色、青色、緑色の場合は、金色、銀色などの場合と同様に、それぞれ色の塗料をドロップケーブル10に塗布することによって行うこともでき、シース14を形成するための合成樹脂に予め塗料を混合することにより着色された合成樹脂でシース14を形成するようにすることができる。ここで、着色すべき色は、なるべく木の枝の色である茶褐色から遠い色が好ましく、また、黒色を含む暗い色、あるいは赤色やオレンジ色系はなるべく避けることが好ましい。
【0025】
具体的には、黄色の場合はマンセル表色系における色相(H)が5Y〜10Y、明度(V)が8.75〜10、彩度(C)が10〜20の範囲であることが好ましい。また、青色の場合は、マンセル表色系における色相(H)が5B〜10B、明度(V)が8.75〜10、彩度(C)が10〜20の範囲であることが好ましい。また、緑色の場合は、マンセル表色系における色相(H)が5GY〜10GB、明度(V)が8.75〜10、彩度(C)が10〜20の範囲であることが好ましい。
【0026】
また、ドロップケーブル10の表面10a表面の配色は単色とするだけでなく、金色、銀色、黄色、青色、緑色、又は白色の少なくとも2色以上を配色してもよい。配色について特に制限はなく、ドロップケーブル10の長手方向に沿って上面と下面に適宜の2色以上の組み合わせ(図2(a)参照)、例えば、白色と黄色などで着色してもよい。また、2色以上でドロップケーブル10の表面10aを縞状(図2(b)参照)や、あるいは螺旋状に着色してもよい。
【0027】
クマゼミは昼間に行動する昆虫であり、電柱や電線の色に反応しており、その行動から色覚はあると推測される。特に、メスは産卵行動においてメタリック系の金色、銀色および明るすぎる白色は視野が安定しないため嫌う傾向にある。
【0028】
次に、図3に示すのは、本発明に係る光ファイバドロップケーブルの第二実施形態の断面図である。図示された光ファイバドロップケーブル20(以下「ドロップケーブル20」という)は、概略として第一の実施形態のドロップケーブル10とほぼ同様に、支持線部21とケーブル部23が連結部22によって連結されて構成されている。
【0029】
支持線部21、ケーブル部23及び連結部22は、ポリエチレン、難燃性ポリエチレン又はPVC等の熱可塑性樹脂製で形成されており、シース24によって一体に形状されている。そして、支持線部21は断面略円形状とされ、ケーブル部23は断面略矩形状とされている。ケーブル部23の内部には2本の光ファイバ心線27、27が配置されると共に、光ファイバ心線27、27を挟んでケーブル部23の両端部側には一対のテンションメンバ26、26が配置されている。
【0030】
ケーブル部23の両側面(図2における左右方向)には断面略V字状のノッチ25、25が2段にわたって形成されており、このいずれかのノッチ25、25を利用してシース24を引き裂き、光ファイバ心線27、27のそれぞれ取り出すことができるようになっている。
【0031】
上述したようなドロップケーブル20の表面20aを第一の実施形態において説明したようなギラギラとした明るい色、例えば、金色、銀色、白色、黄色など、又は青葉と間違える色、例えば、青色、緑色、に着色することでクマゼミが近づくことを防止し、産卵管刺入による光ファイバ心線の損傷を回避することが可能となる。また、ドロップケーブル10の表面10aを金色、銀色、黄色、青色、緑色、又は白色の少なくとも2色以上を配色してもよいことはいうまでもない。
【0032】
このように、本発明に係る光ファイバドロップケーブルによれば、形状や材質等を従来のものから変更しなくてもクマゼミによる通信障害を効果的に回避することができる。
【0033】
以上のように、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0034】
10、20 ドロップケーブル
10a、20a 表面
11、21 支持線部
12、22 連結部
13、23 ケーブル部
14、24 シース
15、25 ノッチ
16、26 テンションメンバ
17、27 光ファイバ心線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバ心線を挟んで一対のテンションメンバを配置したケーブル部に支持線部を一体に連結して形成された光ファイバドロップケーブルにおいて、
前記光ファイバドロップケーブルの表面の色を、金色、銀色、黄色、青色、緑色、又は白色のいずれか1色としたことを特徴とする光ファイバドロップケーブル。
【請求項2】
光ファイバ心線を挟んで一対のテンションメンバを配置したケーブル部に支持線部を一体に連結して形成された光ファイバドロップケーブルにおいて、
前記光ファイバドロップケーブルの表面の色を、金色、銀色、黄色、青色、緑色、又は白色の少なくとも2色以上を配色したことを特徴とする光ファイバドロップケーブル。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の光ファイバドロップケーブルにおいて、
前記黄色の色調は、マンセル表色系における色相(H)が5Y〜10Y、明度(V)が8.75〜10、彩度(C)が10〜20の範囲であることを特徴とする光ファイバドロップケーブル。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の光ファイバドロップケーブルにおいて、
前記青色の色調は、マンセル表色系における色相(H)が5B〜10B、明度(V)が8.75〜10、彩度(C)が10〜20の範囲であることを特徴とする光ファイバドロップケーブル。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の光ファイバドロップケーブルにおいて、
前記緑色の色調は、マンセル表色系における色相(H)が5GY〜10GB、明度(V)が8.75〜10、彩度(C)が10〜20の範囲であることを特徴とする光ファイバドロップケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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