説明

光ファイバメモリ並びに光信号の記録及び読出し方法

【課題】光デジタル信号だけでなく、光多値信号や光位相変調信号も記録できる光メモリを提供する。
【解決手段】コアの複素屈折率が伝搬光の強度に応じて一時的に変化する非線形光ファイバ6からなり、第1の端面8から第1の光信号が入射する光記録ファイバ12と、第1の光信号が光記録ファイバ12の第2の端面26に到達する前に、第1の光信号の1ビットに対応する光パルスよりパルス幅が狭く、且つ第1の光信号と干渉して、複素屈折率を一時的に変化させることにより、コア4に回折格子を形成する書込み光パルスを、第2の端面26から光記録ファイバ6に入射させる書込み光パルス供給ユニット28とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバメモリ並びに光信号の記録及び読出し方法に関する。
【背景技術】
【0002】
入力した光信号を電気信号に変換せずに、光信号のまま処理して出力する光ルータは、通信速度を飛躍的に向上させる技術として期待されている。この光ルータには、光信号を電気信号に変換せず直接記録し読み出す、光メモリが欠かせない。しかし、従来の光メモリは、2進数に対応する光デジタル信号を記録することはできたが、光多値信号や光位相変調信号を記録することはできなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】光永正治, " フォトンエコーメモリー一原理と応用一 ", 応用物理60, 21 (1991).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明の目的は、光デジタル信号だけでなく、光多値信号や光位相変調信号も記録できる光ファイバメモリを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、本発明の第1の観点によれば、コアの複素屈折率が伝搬光の強度に応じて一時的に変化する非線形光ファイバからなり、第1の端面から第1の光信号が入射する光記録ファイバと、前記第1の光信号が前記光記録ファイバの第2の端面に到達する前に、前記第1の光信号の1ビットに対応する光パルスよりパルス幅が狭く、且つ前記第1の光信号と干渉して、前記複素屈折率を一時的に変化させることにより、前記コアに回折格子を形成する書込み光パルスを、前記第2の端面から前記光記録ファイバに入射させる書込み光パルス供給ユニットとを有し、前記書込み光パルスにより、前記第1の光信号を前記光記録ファイバに記録する光ファイバメモリが提供される。
【0006】
また、本発明の第2の観点によれば、コアの複素屈折率が伝搬光の強度に応じて一時的に変化する非線形光ファイバからなり第1の光信号が入射する光記録ファイバと、前記第1の光信号が書込み光パルスと干渉して前記コアに形成した回折格子により反射されて、前記第1の光信号に対応する第2の光信号に変化する読出し光パルスを、前記光記録ファイバに入射させる読出し光パルス供給ユニットとを有し、前記読出し光パルスにより、前記第2の光信号を前記光記録ファイバから読み出す光ファイバメモリが提供される。
【0007】
また、本発明の第3の観点によれば、コアの複素屈折率が伝搬光の強度に応じて一時的に変化する非線形光ファイバに、第1の光信号を、前記非線形光ファイバの第1の端面から入射させる第1の工程と、前記第1の光信号が前記非線形光ファイバの第2の端面に到達する前に、前記光信号の1ビットに対応する光パルスよりパルス幅が狭く、且つ前記第1の光信号と干渉して、前記複素屈折率を一時的に変化させることにより、前記コアに回折格子を形成する書込み光パルスを、前記第2の端面から前記非線形光ファイバに入射させて、前記第1の光信号を前記非線形光ファイバに記録する第2の工程とを有する光信号の記録方法が提供される。
【0008】
また、本発明の第4の観点によれば、コアの複素屈折率が伝搬光の強度に応じて一時的に変化する非線形光ファイバに、第1の光信号を、前記非線形光ファイバの第1の端面から入射させる第1の工程と、前記第1の光信号が前記非線形光ファイバの第2の端面に到達する前に、前記光信号の1ビットに対応する光パルスよりパルス幅が狭く、且つ前記第1の光信号と干渉して、前記複素屈折率を一時的に変化させることにより、前記コアに回折格子を形成する書込み光パルスを、前記第2の端面から前記非線形光ファイバに入射させて、前記第1の光信号を前記非線形光ファイバに記録する第2の工程と、前記回折格子により反射されて、前記第1の光信号に対応する第2の光信号に変化する読出し光パルスを、前記第1の端面又は前記第2の端面から前記非線形光ファイバに入射させて、前記非線形光ファイバから前記第2の光信号を読み出す第3の工程を有する光信号の記録及び読出し方法が提供される。
【0009】
また、本発明の第5の観点によれば 第1の光パルスに対応して非線形光ファイバに形成された回折格子により反射されて、第2の光信号に変化する読出し光パルスを、前記非線形光ファイバに入射させる第1の工程と、第1の工程の後、前記回折格子により前記読み出し光パルスを反射して、前記非線形光ファイバから前記第2の光信号を読み出す第2の工程を有し、前記非線形光ファイバが、コアの複素屈折率が伝搬光の強度に応じて一時的に変化する非線形光ファイバであり、前記回折格子が、前記非線形光ファイバに入射した前記第1の光信号が書込み光パルスと干渉して前記コアに形成した回折格子である、光信号の読出し方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、光デジタル信号だけでなく、光多値信号や光位相変調信号も記録できる光メモリと、光信号の記録方法及び光信号の読出し方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施の形態1の光ファイバメモリの構成を説明する図である。
【図2】第1の光信号と書込みパルスが入射した非線形光ファイバの動作を説明する図である。
【図3】光信号の種類を説明する図である。
【図4】読出し光パルスが入射した光非線形ファイバの状態を説明する図である。
【図5】書込み光パルスの電界強度スぺクトル及び第1の光信号の点灯ビットの電界強度スぺクトルを説明する図である。
【図6】実施の形態2の光ファイバメモリの構成を説明する図である。
【図7】実施の形態3の光ファイバメモリの構成を説明する図である。
【図8】実施の形態4の光ファイバメモリ116の構成を説明する図である。
【図9】実施の形態4における読出し光パルスが入射した光非線形ファイバの状態を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面にしたがって本発明の実施の形態について説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれらの実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された事項とその均等物まで及ぶものである。尚、図面が異なっても対応する部分には同一符号を付し、その説明を省略する。
【0013】
(実施の形態1)
(1)構 成
図1は、本実施の形態の光ファイバメモリ2の構成を説明する図である。図1に示すように、光ファイバメモリ2を形成する各光学部材は、実線で示す通常の光ファイバにより光学的に接続されている。
【0014】
本光ファイバメモリ2は、図1に示すように、コア4の複素屈折率が伝搬光の強度(光パワー)に応じて一時的に変化する非線形光ファイバ6からなり、その第1の端面8から第1の光信号10が入射する光記録ファイバ12を有している。この光記録ファイバ12の長さは、例えば、10〜100mである。
【0015】
ここで、第1の光信号10は、本光ファイバメモリ2に記録される入力信号である。第1の光信号10の1ビットに対応する光パルスのパルス幅は、例えば、1ps−1nsである。尚、光パルスのパルス幅とは、光パルスの光強度が、その最大値の−3dBより強くなる期間の長さ(時間)のことである。
【0016】
本実施の形態の光記録ファイバ12は、光ファイバ増幅器14である。本光ファイバメモリ2は、この光ファイバ増幅器14に励起光20(その光強度は、時間に対して一定)を供給する励起光供給ユニット16を有している。励起光供給ユニット16は、光ファイバ増幅器14の励起光を生成する励起光源18と、励起光20と第1の光信号10を結合する光結合器22(例えば、方向性結合器)を有している。励起光源18は、例えば、半導体レーザとその制御装置を有している。
【0017】
ここで、本実施の形態の光ファイバ増幅器14は、コア4にエリビウムが添加されたエリビウム添加光ファイバ増幅器である。励起光20の波長は、0.98μm又は1.48μmである。一方、第1の光信号の波長λは、1.55μmである。
【0018】
また、本光ファイバメモリ2は、第1の光信号10の1ビットに対応する光パルスよりパルス幅が狭く、且つ第1の光信号10と干渉して、コア4の複素屈折率を一時的に変化させることにより、コア4に回折格子を形成する書込み光パルス24を、光記録ファイバ12にその第2の端面26から入射させる書込み光パルス供給ユニット28を有している。この書込み光パルス供給ユニット28は、第1の光信号10が第2の端面26に到達する前に、第2の端面26から光記録ファイバ12に書込み光パルス24を入射させる。ここで、書込み光パルス24の波長は、第1の光信号10の波長に略一致していることが好ましい。尚、書込み光パルス24のパルス幅は、例えば、0.1fs―100psである。
【0019】
本実施の形態の書込み光パルス供給ユニット28は、第1の光パルス源30と、第1の光サーキュレータ32を有している。ここで、第1の光パルス源30は、例えば、電界吸収型光変調器と分布帰還型半導体レーザが集積化されたEA−DFB(Electro-Absorption Distributed Feed-Back)レーザとその制御装置を有している。
【0020】
また、本光ファイバメモリ2は、上記回折格子により反射されて、第1の光信号10に対応する第2の光信号36に変化する読出し光パルス38を、上記第2の端面26から光記録ファイバ12に入射させる読出し光パルス供給ユニット40を有している。
【0021】
本実施の形態では、書込み光パルス供給ユニット28が、読出し光パルス供給ユニット40を兼ねている。しかし、実施の形態3で説明するように、書込み光パルス供給ユニット28と読出し光パルス供給ユニット40は、別々の装置であってもよい。但し、生成する光パルスの波長、波形、パルス幅等は、なるべく同じものであることが好ましい。
【0022】
また、本光ファイバメモリ2は、光記録ファイバ12から出射した第2の光信号36を、読出し光パルス38を光記録ファイバ12に入射させる光路から分離して出力する光信号出力ユニット42を有している。本実施の形態の光信号出力ユニット42は、図1に示すように、読出し光パルス供給ユニット40に含まれる第1の光サーキュレータ32である。また、読出し光パルス38を光記録ファイバ12に入射させる光路とは、第1の光パルス源30から、第1の光サーキュレータ32を経由して、光記録ファイバ12に至る光路である。
【0023】
以上の構成により、本光ファイバメモリ2は、書込み光パルス24により、第1の光信号10を光記録ファイバ12に記録する。また、本光ファイバメモリ2は、読出し光パルス38により、第1の光信号10に対応する第2の光信号36を光記録ファイバ12から読み出す。
【0024】
(2)光信号の記録及び読出し方法並びに光ファイバメモリの動作
次に、光ファイバメモリ2を用いた光信号の記録及び読出し方法、並びに光ファイバメモリ2の動作を説明する。
【0025】
―光ファイバ増幅器の励起工程―
上述したように、光記録ファイバ12を形成する非線形光ファイバ6は、エルビウム添加光ファイバ増幅器14である。従って、本実施の形態では、まず、励起光供給ユニット16を動作させて、光ファイバ増幅器14に励起光20を供給する(図1参照)。
【0026】
この励起光20は励起光源18で生成され、光結合器22の第2の光入射口92に入射する。その後、第1の光信号10と結合されて、光結合器22の光出射口94から出射する。その後、光ファイバ増幅器14に、その第1の端面8から入射する。
【0027】
励起光20が供給されると、コア4に添加された、光増幅を担う原子(エリビウム原子)が励起状態になる。この状態で、被増幅光が光ファイバ増幅器14に入射すると、被増幅光の強度に応じて、励起された原子の数が減少し、コア4の複素屈折率が変化する。この複素屈折率の変化は一時的であり、被増幅光がなくなると複素屈折率は漸次、元に戻る。この複素屈折率変化の持続時間は、例えば、エリビウム添加光ファイバ増幅器では、数百μs〜10ms持続する。
【0028】
複素屈折率の虚部は、光吸収係数または光利得係数に対応する消衰係数である。誘導吸収や誘導放出が起きると、励起状態の原子数が変化して、光吸収係数または光利得係数が変化する。その結果、消衰係数及び屈折率(複素屈折率の実部)が変化して、複素屈折率が変化する。この変化は、励起準位の原子数が基底状態に戻るまで、暫く持続する。また、この変化は、誘導放出及び誘導吸収を起こす被増幅光の強度に応じて増減する。このように、光ファイバ増幅器は、コアの複素屈折率が伝搬光(被増幅光)の強度に応じて一時的に変化する非線形光ファイバとして機能する。
【0029】
尚、光ファイバ増幅器14が十分に励起され光利得が発生した場合、或いは励起が不十分で光ファイバ増幅器14が光信号を吸収する場合いずれでも、被増幅光(伝搬光)の強度に応じてコア4の複素屈折率が変化するので、光信号を記録し読出すことができる。
【0030】
しかし、光ファイバ増幅器14の光利得が大き過ぎると、光ファイバ増幅器14に先に入射するビット(以下、先行ビットと呼ぶ)が成長し過ぎて光利得を低下させ、後から光ファイバ増幅器14に入射するビット(以下、後続ビットと呼ぶ)の光増幅が妨げられる。このような場合、光増幅により先行ビットと後続ビットの強度が不揃いになるので、光ファイバ増幅器14の光利得は、0dB又はその近傍が好ましい。
【0031】
―光信号の書込み工程―
次に、非線形光ファイバ6の第1の端面8から、第1の光信号10を非線形光ファイバ6に入射させる(図1参照)。ここで、第1の光信号10は、光ファイバ増幅器14(非線形光ファイバ6)の被増幅光である。また、第1の光信号10は、光ファイバメモリ2への入力信号でもある。
【0032】
第1の光信号10は、例えば、外部の光回路から光ファイバメモリ2に入射する。この第1の光信号10は、第2の光サーキュレータ48にその光入射口46から入射し、その光入出射口50から出射する。次に、第1の光信号10は、光結合器22の第1の光入射口90に入射し、励起光20と結合された後、光結合器22の光出射口94から出射する。次に、第1の光信号10は、非線形光ファイバ6の第1の端面8から、非線形光ファイバ6に入射する。
【0033】
尚、第2の光サーキュレータ48の光入出射口50に入射した戻り光54は、第2の光サーキュレータ48の光入出射口56から出射する。このように、第2の光サーキュレータ48は、光アイソレータとして機能する。従って、第2の光サーキュレータ48の代わりに、光アイソレータを設けてもよい。
【0034】
次に、第1の光信号10が非線形光ファイバ6の第2の端面26に到達する前に、第1の光信号10の1ビットに対応する光パルスよりパルス幅が狭い書込み光パルス24を、非線形光ファイバ6にその第2の端面26から入射させて、第1の光信号10を非線形光ファイバ6に記録する。この書込み光パルス24は、第1の光信号10と干渉して、コア4の複素屈折率を一時的に変化させることにより、コア4に回折格子を形成する。
【0035】
この書込み光パルス24は、第1の光パルス源30で生成され、第1の光サーキュレータ32に、その光入射口58から入射し、その光入出射口62から出射する。次に、書込み光パルス24は、第2の端面26から非線形光ファイバ6に入射する。
【0036】
図2は、第1の光信号10と書込み光パルス24が入射した、非線形光ファイバ6の状態を説明する図である。状態図2A乃至2Cは、第1の光信号10及び書込み光パルス24が非線形光ファイバ6に入射してから出射する直前までの状態を説明する図である。断面図2Dは、非線形光ファイバ6の長手方向に沿った断面図である。尚、状態図2A乃至2Cの横軸は、非線形光ファイバ6の長手方向に沿った座標軸である。
【0037】
状態図2Aは、第1の光信号10及び書込み光パルス24が入射した直後の、非線形光ファイバ6の状態を示している。状態図2Aに示すように、第1の光信号10と書込み光パルス24は、互いに対向してコア4を伝搬する。ここで、書込み光パルス24のパルス幅Δtは、上述したように、光信号の1ビットに対応する光パルス66のパルス幅Δtより狭い。この光パルス66は、第1の光信号10の点灯状態(ON状態)の1ビット52a(以下、点灯ビットと呼ぶ)を形成する光パルスである。
【0038】
尚、書込み光パルス24の光スぺクトルの中心光周波数は、後述するように、第1の光信号10の搬送波の光周波数に近いほど好ましい。また、書込み光パルス24の強度は、点灯ビット66の強度より強い方が好ましい。これは、干渉光の強度が、書込み光パルス24及び点灯ビット66の強度に比例するからである。
【0039】
状態図2Bは、第1の光信号10と書込み光パルス24が、非線形光ファイバ内で衝突している状態を示している。第1の光信号10の点灯ビット66と書込み光パルス24が衝突し重なると、第1の光信号10と書込み光パルス24が干渉して、コア4の長手方向に周期的に変化する光強度の分布が形成される。この光強度の周期的変化に応じて、コアの複素屈折率が一時的に変化し、回折格子44が形成される(状態図2B参照)。尚、状態図2Bの矢印Aは、最初に第1の光信号10と書込み光パルス24が衝突した位置を示している。
【0040】
状態図2Cは、第1の光信号10及び書込み光パルス24が非線形光ファイバ6を出射する直前の状態を説明する図である。この状態では、第1の光信号10と書込み光パルス24は衝突を終了し、互いに分離している。点灯ビット66と書込み光パルス24が衝突した位置には、上述した回折格子44が形成される。一方、消灯状態(OFF状態)の1ビット52b(以下、消灯ビットと呼ぶ)と書込み光パルス24が衝突した位置には、回折格子44は形成されない。このため、第1の光信号10に対応する回折格子44の分布が、コア4に形成72される(状態図2C参照)。
【0041】
状態図2Cに示すように、点灯ビット66A,66B,66C夫々に対応する回折格子44A,44B,44Cが、コア4の長手方向に沿って順次形成される。一方、消灯ビット68に対応する領域70には、回折格子は形成されない。このように、第1の光信号10に対応する回折格子44の分布72がコア4に形成され、非線形光ファイバ6に第1の光信号10が記録される。ここで、非線形光ファイバ6に先に入射したビットに対応する回折格子ほど、第2の端面26の近くに形成される。
【0042】
図3は、光信号の種類を説明する図である。図3(a)は、二進数に対応するデジタル信号である。図3(b)は、各ビットの光強度が3種類以上に亘る多値信号である。図3(c)は、搬送波の位相が変調された光位相変調信号である。各図の横軸は、時間である。縦軸は光強度である。本光ファイバメモリ2は、図3に示す3種類の光信号全てを記録することができる。
【0043】
図3(a)のデジタル信号は、上述した回折格子44の分布72により記録することができる。
【0044】
図3(b)の多値信号を第1の光信号10として光ファイメモリ6に入力すると、各ビットの光強度に応じて、深さの異なる複数の回折格子(例えば、深い回折格子、浅い回折格子、回折格子がない領域)が形成される。この回折格子の深さの違いにより、多値信号を記録することができる。
【0045】
図3(c)の光位相変調信号を第1の光信号10として光ファイメモリ6に入力すると、各ビットの位相に応じて、複素屈折率変化の位相が異なる複数の回折格子がコア4に形成される。この回折格子の位相の違いにより、位相変調信号を記録することができる。
【0046】
以上のように、本実施の形態によれば、デジタル信号だけでなく、多値信号や光位相変調信号も記録することができる。
【0047】
尚、コア4に形成される回折格子44の周期は、λ/2nである。ここで、nはコア4の等価屈折率であり、λは第1の光信号10の波長である。すなわち、回折格子44のブッラグ波長は、第1の光信号10の波長λである。
【0048】
尚、本実施の形態では、λは1.55μmである。また、nは略1.5である。従って、回折格子44の周期は、0.52μmである。
【0049】
―光信号の読出し工程―
本工程では、回折格子44により反射されて、第1の光信号10に対応する第2の光信号36に変化する読出し光パルス38を第2の端面26から非線形光ファイバ6に入射させる。これにより、非線形光ファイバ6から、第2の光信号36を読み出す。
【0050】
本実施の形態では、読出し光パルス38は、第1の光パルス源30により生成される。従って、読出し光パルス38の波長は、書込み光パルス24の波長と同じになる。ここで、書込み光パルス24の波長は、上述したように、第1の信号光10の波長に略等しい。故に、読出し光パルス38の波長は、回折格子44のブラック波長(=第1の信号光10の波長)に略等しくなる。このため、読出し光パルス38は回折格子44により反射され、第1の光信号10に対応する第2の光信号が形成される。
【0051】
ここで、読出し光パルス38のパルス幅は、書込み光パルス24と同様、第1の光信号の1ビットに対応する光パルス(点灯ビット66)のパルス幅より狭い方が好ましい。尚、読出し光パルス38の波長は、必ずしも書込み光パルス24の波長と完全に一致していなくてもよいが、読出し光パルス38の波長と書込み光パルス24の波長は、近いほど好ましい。これは、読出し光パルス38の波長と書込み光パルス24の波長が近いほど、第2の光信号36の強度が強くなるからである。
【0052】
非線形光ファイバ6に入射した読出し光パルス38は、コア4に形成された回折格子44により反射される。図4は、読出し光パルス38が入射した光非線形ファイバ6の状態を説明する図である。状態図4A及び4Bは、夫々、読出し光パルス38と回折格子の分布72の衝突前後の状態を説明する図である。また、断面図4Cは、非線形光ファイバ6の長手方向に沿った断面図である。尚、状態図4A及び4Bの横軸は、非線形光ファイバ6の長手方向に沿った座標軸である。
【0053】
状態図4Aは、読出し光パルス38と回折格子の分布72との衝突前の非線形光ファイバ6の状態を示している。上述したように、非線形光ファイバ6には、第1の光信号10に対応する回折格子の分布72が形成されている。読出し光パルス38は、第2の端面26から入射し、この回折格子の分布72に向かって伝搬する。やがて読出し光パルス38は、回折格子の分布72に衝突する。
【0054】
状態図4Bは、読出し光パルス38と回折格子の分布72の衝突後の非線形光ファイバ6の状態を示している。回折格子44A,44B,44Cは、読出し光パルス38を順次反射して、第2の光信号36を形成する。この時、第2の端面26に近い回折格子ほど早く、読出し光パルス38を反射する。ここで、非線形光ファイバ6に先に入射したビットに対応する回折格子ほど、第2の端面26の近く形成されている。従って、第1の光信号10と同じデジタル情報を有する、第2の光信号36が形成される。その後、第2の光信号36は、第2の端面26から出射する。ここで、第2の信号36は、ビットの配列順が入力信号と同じFIFO(First in First out)信号である。尚、状態図4Bには、反射されずに回折格子の分布72を通り抜けた読出し光パルス38の一部38aが示されている。
【0055】
以上の動作により、読出し光パルス38は、回折格子の分布72に反射されて、第1の光信号10に対応する第2の光信号36になる。
【0056】
次に、光非線形ファイバ6から読み出した第2の光信号36を、読出し光パルス38を光記録ファイバ12に入射させる光路から分離して出力する。
【0057】
非線形光ファイバ6の第2の端面26から出射した第2の光信号36は、第1の光サーキュレータ32に、その光入出射口62から入射し、その光出射口74から出射する(図1参照)。以上の動作により、光非線形ファイバ6から読み出された第2の光信号36が、読出し光パルス38が光記録ファイバ12に入射する光路から分離されて、光ファイバメモリ2から出力される。
【0058】
以上の説明では、第1の光信号10は、デジタル信号である。第1の光信号10が多値信号の場合には、上述したように、各ビットの光強度に応じて、深さが異なる複数の回折格子がコア4に形成されている。従って、深い回折格子ほど、より多くの読出し光パルス38を反射する。従って、第2の光信号36は、多値信号になる。
【0059】
また、第1の光信号10が位相変調信号の場合には、上述したように、各ビットの位相に応じて、位相が異なる複数の回折格子がコア4に形成されている。回折格子の位相は、第2の光信号36の位相に反映される。故に、第2の光信号36は、位相変調信号になる。
【0060】
以上のように、本実施の形態によれば、光デジタル信号だけでなく、光多値信号や光位相変調信号を記録し、更に読み出すことができる。
【0061】
(3)離調(detuning)
第1の光信号10の波長と書込み光パルス28の波長は、必ずしも一致していなくてもよい。このような波長の不一致が、回折格子44の生成に及ぼす影響を、以下に説明する。
【0062】
図5は、書込み光パルス24の電界強度スぺクトル76及び第1の光信号10の点灯ビット66の電界強度スぺクトル78を説明する図である。横軸は光周波数である。縦軸は、電界強度である。
【0063】
図5に示すように、書込み光パルス24の電界強度スぺクトル76及び点灯ビット66の電界強度スぺクトル78は広がっている。点灯ビット66の電界強度スぺクトル78はその搬送波の光周波数fを中心として広がり、その幅は、よく知られているように、点灯ビット66のパルス幅Δtに依存している。
【0064】
一般的に、パルス幅が狭くなると、その光スぺクトル幅は広くなる。上述したように、書込み光パルス24のパルス幅Δtは、第1の光信号10の1ビットに対応する光パルス(点灯ビット66)のパルス幅より狭い。このため、書込み光パルス24の光スぺクトル76の幅は、図5に示すように、点灯ビット66の光スぺクトル78の幅より広くなっている。
【0065】
第1の光信号10及び書込み光パルス24は、異なる光源により生成される。従って、第1の光信号10の搬送波の光周波数fと、書込み光パルス24の中心光周波数fを一致させることは困難である。しかし、書込み光パルス24の中心光周波数fと搬送波の光周波数fを接近させて、点灯ビット66の光スぺクトル78と書込み光パルス24の光スぺクトル76を重ね合わせることは、比較的容易である(図5参照)。ここで、第1の光信号10のスペクトルの1/e幅は、例えば、400 MHz〜400GHzである。一方、書込み光パルス24の1/e幅は、例えば、4 GHz〜4THzである。
【0066】
このような光スペクトルの重なりが生じると、重なった各光周波数で干渉が起きる。従って、書込み光パルス24の中心光周波数fを、第1の光信号10の搬送波の光周波数fに近づけることにより、回折格子44を非線形光ファイバ6のコア4に形成することが可能になる。この時に形成される回折格子44の深さ(複素屈折率の振幅)は、第1の光信号10の搬送波と書込み光パルス24の離調(=f−f)が小さいほど大きくなる。従って、第1の光信号10の搬送波と書込み光パルス24の離調は、小さいほど好ましい。
【0067】
次に、第1の光信号10の搬送波と書込み光パルス24の離調が、回折格子44の深さに及ぼす影響を定量的に説明する。
【0068】
光パルスの電界強度スペクトルは、一般的に、ガウス関数で近似することができる。そこで、第1の光信号10の点灯ビット66の電界強度スペクトルs(ω)及び書込み光パルス24の電界強度スペクトルr(ω)を、夫々、以下のガウス関数で近似する。
【0069】
【数1】

【0070】
【数2】

【0071】
ここで、ωは角周波数(=2π/光周波数)である。ωは、第1の光信号10の搬送波の角周波数である。ωは、書込み光パルス24の中心角周波数である。また、Δ及びΔは、夫々、点灯ビット66の電界強度スペクトルの1/e半幅及び書込み光パルス24の電界強度スペクトルの1/e半幅である。尚、係数r及びsは、複素数である。
【0072】
ここで、eは自然対数の底である。また、1/e半幅とは、ある関数(例えば、電界強度スペクトル)の値を、その最大値の1/eにする一対の変数値(例えば、角周波数)の差分の半分のことである。
【0073】
上記式(1)及び(2)を用いると、点灯ビット66と書込み光パルス24が衝突した時に生じる干渉光の光電界強度E(ω,t,z)は、次式のようになる。
【0074】
【数3】

【0075】
ここで、kは波数(=2π/波長)である。zは、コア4の長手方向に沿った位置座標である。tは時間である。また、c.c.は、複素共役である。
【0076】
干渉光の強度P(z)(光パワー)は、式(3)を用いると、次式のようになる。
【0077】
【数4】

【0078】
式(4)に式(1)〜(3)を代入すると、以下のようになる。
【0079】
【数5】

【0080】
ここで、式(5)の右辺第1項は、干渉光の直流成分(位置座標zによらない光強度)である。一方、式(5)の右辺第2項は、干渉光の振動成分(位置座標zの三角関数)である。この干渉成分により、コア4の複素屈折率が変化し、回折格子が形成される。尚、波数kは一定と仮定した。このように仮定しても、第1の信号光10の広がりが狭いので、問題はない。
【0081】
式(5)の右辺第2項から明らかなように、この振動成分の振幅は、次式で表される。
【0082】
【数6】

【0083】
ここで、コア4の複素屈折率の変化は、干渉光の強度に比例すると仮定できる。
【0084】
式(6)は、周波数の離調(=ω−ω)が零の場合に、回折格子の深さが最大になることを示している。また、式(6)は、角周波数の離調の絶対値がΔ+Δの平方根に等しい場合、回折格子44の深さは、その最大深さの1/e(約0.37倍)になることを示している。更に、式(6)は、角周波数の離調の絶対値がΔ+Δの平方根の2倍に等しい場合、回折格子44の深さは、最大深さの1/e(約0.02倍)になることを示している。
【0085】
ところで、Δ+Δの平方根は、Δより大きい。従って、第1の光信号10の搬送波と書込み光パルス24の離調の絶対値が、書込み光パルスの電界強度スペクトルの1/e半幅の2倍(1/e全幅)より小さければ、形成される回折格子の深さは、最大深さの0.02倍以上になる。更に、上記離調の絶対値が、書込み光パルスの電界強度スペクトルの1/e半幅より小さければ、形成される回折格子の深さは、最大深さの0.37倍以上になる。
【0086】
従って、第1の光信号10と書込み光パルス24を干渉させて回折格子44を形成するためには、上記離調の絶対値が、上記1/e半幅の2倍(=1/e全幅)より小さいことが好ましく、1/e半幅より小さければ更に好ましい。
【0087】
ところで、光角周波数を2πで割ると、光周波数になる。従って、上記結論は、以下のように言い換えることができる。
【0088】
すなわち、第1の光信号10の搬送波の光周波数fと、書込み光パルス24の中心光周波数fとの差の絶対値は、書込み光パルス24の電界強度スぺクトルの1/e全幅より小さいことが好ましく、1/e半幅より小さければ更に好ましい。ここで、書込み光パルス24の中心光周波数fとは、1/e全幅に対応する光周波数領域の中央値である。
【0089】
(実施の形態2)
(1)構 成
図6は、本実施の形態の光ファイバメモリ80の構成を説明する図である。
【0090】
図6に示すように、本実施の形態の光ファイバメモリ80は、実施の形態1の光ファイバメモリ2と略同じ構成を有している。従って、実施の形態1と共通する部分については、説明を省略する。
【0091】
本光ファイバメモリ80の励起光供給ユニット16aは、光ファイバ増幅器14の光利得を0dB以下にする励起光20aを、光ファイバ増幅器14に供給する。すなわち、本実施の形態では、励起光20aを弱くして、光ファイバ増幅器14に光利得を生じさせないようにする。
【0092】
更に、本光ファイバメモリ80は、光ファイバ増幅器14に第1の光信号10が入射した後であって、光ファイバ増幅器14に書込み光パルス24を入射させる前に、励起光20に重畳されることにより光ファイバ増幅器14の光利得を0dB以上にする励起光パルス82を、第2の端面26から光ファイバ増幅器14(光記録ファイバ12)に入射させる励起光パルス供給ユニット84を有している。
【0093】
ここで、励起光パルス供給ユニット84は、励起光パルス源86と、励起光パルス82と書込み光パルス24を結合する光結合器88(例えば、方向性結合器)を有している。励起光パルス源86は、例えば、半導体レーザ(発振波長は、0.98μm又は1.48μm)とその電源(電圧パルス発生機を含む)を有している。尚、この光結合器88は、書込み光パルス供給ユニット28及び読出し光パルス供給ユニット40の一部でもある。
【0094】
実施の形態1で説明したように、光ファイバ増幅器14の光利得が大きすぎると、第1の光信号10と書込み光パルス24が衝突する前に、第1の光信号10に含まれる各ビットの光強度が不均一になってしまう。
【0095】
本実施の形態では、光利得が0dB以下に保たれた光ファイバ増幅器14に第1の光信号10が入射した後であって、光ファイバ増幅器14に書込み光パルス24を入射させる前に、励起光パルス82を、第2の端面26から光ファイバ増幅器14に供給する。
【0096】
この励起光パルス82の強度は、励起光20に重畳されることにより、光ファイバ増幅器14の光利得を0dB以上にするように設定されている。従って、励起光パルス82が供給されると、励起光パルス82が通過した領域で、光利得が0dB以上になる。しかし、この光利得は、後続する書込み光パルス24を増幅させた後、直ちに減少する。このため、第1の光信号10は殆ど増幅されず、第1の光信号10に含まれる各ビットの光強度が不均一になることはない。但し、書込み光パルス24が増幅されるので、コア4には、深い回折格子が形成される。
【0097】
ここで、励起光パルス82を供給する時点が、書込み光パルス24を光ファイバ増幅器14に入射させる時点に近いほど、第1の光信号10が、励起光パルス82が形成した光利得により増幅される期間が短くなる。従って、励起光パルス82を供給する時点は、書込み光パルス24を光ファイバ増幅器14に入射させる時点に近いほど好ましい。すなわち、書込み光パルス24を光ファイバ増幅器14に入射させる直前(例えば、Δt以内)に、励起光パルス82を供給することが好ましい。
【0098】
ところで、励起光20aによる光利得が0dBに近いほど、第1の光信号10が受ける吸収は小さくなる。従って、励起光20aによる光利得は、0dBに近いほど好ましい。
【0099】
(2)光信号の記録及び読み出し方法並びに光ファイバメモリの動作
本実施の形態の光信号の記録及び読出し方法は、実施の形態1の光信号の記録及び読出し方法と略同じである。従って、実施の形態1と共通する部分については、説明を省略する。
【0100】
本実施の形態の光信号の記録及び読出し方法は、実施の形態1と同様、光ファイバ増幅器の励起工程、光信号の書込み工程、及び光信号の読出し工程を有する。
【0101】
本実施の形態では、光ファイバ増幅器の励起工程において、光ファイバ増幅器14の光利得を0dB以下にする励起光20aを、光ファイバ増幅器14に供給する。すなわち、本実施の形態では、弱い励起光20aを供給して、光ファイバ増幅器14の光利得を0dB以下に抑制する。
【0102】
次に、光信号の書込み工程では、光ファイバ増幅器14に第1の光信号10が入射した後であって、光ファイバ増幅器14に書込み光パルス24を入射させる前に、励起光パルス82を、第2の端面26から光ファイバ増幅器14に入射させる。この励起光パルス82は、励起光20aに重畳されることにより光ファイバ増幅器14の光利得を0dB以上にする光パルスである。
【0103】
この励起光パルス82は、励起光パルス源86で生成され、光結合器88の第1の光入射口96に入射する。その後、励起光パルス82は、光結合器88の第2の光入射口98に入射した書込み光パルス24と結合されて、光結合器88の光出射口100から出射する。その後、非線形光ファイバ6の第2の端面26から、非線形光ファイバ6に入射する。
【0104】
一方、本実施の形態の光信号の読出し工程は、実施の形態1の光信号の読出し工程と殆ど同じである。但し、読出し光パルス38は、光結合器88の第2の光入射口98に入射し、光出射口100から出射した後、非線形光ファイバ6に入射する。
【0105】
以上の工程により、第1の光信号10に含まれる各ビットの光強度が、均一になる。
【0106】
(実施の形態3)
図7は、本実施の形態の光ファイバメモリ102の構成を説明する図である。
【0107】
実施の形態1及び2では、書込み光パルス供給ユニット28が、読出し光パルス供給ユニット40を兼ねている。しかし、本実施の形態の光ファイバメモリ102では、図7に示すように、書込み光パルス供給ユニット28aと読出し光パルス供給ユニット40aは、夫々、別々に制御することが可能になる。
【0108】
書込み光パルス供給ユニット28aの構成は、実施の形態1の書込み光パルス供給ユニット28の構成と略同じである。但し、本光パルス供給ユニット28aは、光結合器(例えば、分岐比1:1の方向性結合器)104を有している。
【0109】
一方、読出し光パルス供給ユニット40aは、第2の光パルス源106と、光結合器104と、第1の光サーキュレータ32を有している。ここで、第2の光パルス源106の構成は、書込み光パルス供給ユニット28aの第1の光パルス源30と略同じである。従って、読出し光パルス38aの中心周波数、波形、及びパルス幅等は、書込み光パルスのそれと殆ど同じである。
【0110】
本実施の形態では、光結合器104の一方の光入射口108に書込み光パルス24が入射し、他方の光入射口110には読出し光パルス38aが入射する。書込み光パルス24及び読出し光パルス38aは、夫々、光結合器104の光出射口112から出射し、第1の光サーキュレータ32を経由して、光記録ファイバ12の第2の端面26に入射する。
【0111】
光記録ファイバ12に入射した読み出し光パルス38aは、一時的に形成された回折格子44により反射されて、第1の光信号10に対応する第2の光信号36aになる。その後、第2の光信号36aは、第1の光サーキュレータ32に、その光入出射口62から入射し、その光出射口74から出射する(図7参照)。
【0112】
本実施の形態によれば、書込み光パルス供給ユニット28aと読出し光パルス供給ユニット40aが分離しているので、夫々の制御が容易になる。
【0113】
(実施の形態4)
図8は、本実施の形態の光ファイバメモリ116の構成を説明する図である。図8に示すように、本実施の形態の光ファイバメモリ116の構成及び動作は、実施の形態1の光ファイバメモリ2の構成及び動作と多くの部分で共通する。従って、共通する部分については、説明を省略する。
【0114】
実施の形態1乃至3では、読出し光パルス供給ユニット40,40aが、第2の端面26から読出し光パルス38,38aを光記録ファイバ12に入射させる(図1、図6、及び図7参照)。しかし、本実施の形態の読出し光パルス供給ユニット40bは、図8に示すように、第1の端面8から読出し光パルス38bを光記録ファイバ12に入射させる。
【0115】
ここで、本実施の形態の読出し光パルス38bは、第3の光パルス源118と、光結合器120(例えば、分岐比1:1の方向性結合器)を有している。第3の光パルス源118の構成は、書込み光パルス供給ユニット28の第1の光パルス源30と略同じである。従って、読出し光パルス38bの中心周波数、波形、及びパルス幅等は、書込み光パルス24のそれと殆ど同じである。
【0116】
本実施の形態の光ファイバメモリ116では、光結合器120の一方の光入射口122に第1の信号光10が入射し、他方の光入射口124には読出し光パルス38bが入射する。第1の信号光10及び読出し光パルス38bは、夫々、光結合器120の光出射口126から出射し、第2の光サーキュレータ48と光結合器22を経由して、光記録ファイバ12の第1の端面8に入射する。
【0117】
図9は、本実施の形態における読出し光パルス38bが入射した光非線形ファイバ6の状態を説明する図である。状態図9A及び9Bは、夫々、読出し光パルス38bと回折格子の分布72の衝突前後の状態を説明する図である。また、断面図9Cは、非線形光ファイバ6の長手方向に沿った断面図である。尚、状態図9A及び9Bの横軸は、非線形光ファイバ6の長手方向に沿った座標軸である。
【0118】
状態図9Aは、読出し光パルス38bと回折格子の分布72が衝突する前の非線形光ファイバ6の状態を示している。非線形光ファイバ6には、書込み光パルス24により、第1の光信号10に対応する回折格子の分布72が形成されている(実施の形態1参照)。読出し光パルス38bは、第1の端面8から入射し、この回折格子の分布72に向かって伝搬する。やがて読出し光パルス38bは、回折格子の分布72に衝突する。
【0119】
状態図9Bは、読出し光パルス38bと回折格子の分布72の衝突後の非線形光ファイバ6の状態を示している。回折格子44A,44B,44Cは、読出し光パルス38を順次反射して、第2の光信号36bを形成する。この時、第1の端面8に近い回折格子ほど早く、読出し光パルス38bを反射する。ここで、非線形光ファイバ6に遅く入射したビット(第1の光信号10のビット)に対応する回折格子ほど、第1の端面8の近く形成されている。従って、ビットの配列順が入力信号と逆のFILO(First in Last out)信号36bが形成される。尚、状態図9Bには、反射されずに回折格子の分布72を通り抜けた読出し光パルス38の一部38cが示されている。
【0120】
次に、非線形光ファイバ6の第1の端面8から出射した光信号36bは、光結合器22を経由した後、第2の光サーキュレータ48に、その光入出射口50から入射し、その光出射口56から出射する(図8参照)。このように、本実施の形態によれば、FILO光ファイバメモリを提供することができる。
【0121】
尚、本光ファイバメモリ116に係る光信号の記録及び読出し方法は、以上の説明から明らかように、非線形光ファイバ6の第1の端面8から読出し光パルス38bを入射させて、第1の端面8から光信号36bを読み出す点を除き、実施の形態1の光信号の記録及び読出し方法と殆ど同じである。
【0122】
上述したように、本実施の形態は、実施の形態1と共通点が多い。従って、実施の形態2の装置及び方法を、本実施の形態の方法及び装置に適用することは容易である。
【0123】
(実施の形態5)
実施の形態1乃至4では、光記録ファイバ12と、書込み光パルス供給ユニット28と、読出し光パルス供給ユニット40が、一体化している。しかし、読出し光パルス供給ユニット40を削除し、読出し光パルス38を外部から供給してもよい。尚、この光ファイバメモリにおいて行われる光信号の書込み方法は、実施の形態1で説明した「光信号の書込み工程」と略同じである。
【0124】
また、書込み光パルス供給ユニット28を削除し、光記録ファイバ12と読出し光パルス供給ユニット40により、光ファイバメモリを形成してもよい。この光ファイバメモリにおいて行われる光信号の読出し方法は、実施の形態1で説明した「光信号の読出し工程」と略同じである。
【0125】
すなわち、コアの複素屈折率が伝搬光の強度に応じて一時的に変化する非線形光ファイバ6のコア4に、第1の光信号10が、書込み光パルス24と干渉して回折格子44を形成した後に、読出し光パルス38を、非線形光ファイバ6に入射させる。その後、回折格子44によりこの読み出し光パルス38を反射させて、非線形光ファイバ6から第2の光信号38を読み出す。ここで、読出し光パルス38は、上述したように、第1の光信号10に対応して非線形光ファイバ6に形成された回折格子44により反射されて、第2の光信号36に変化する光パルスである。
【0126】
以上の実施の形態では、光ファイバ増幅器14は、エルビウム添加光ファイバ増幅器である。しかし、記録する光信号の波長に応じて、他の希土類添加光ファイバ増幅器(例えば、ネオジウム添加光ファイバ増幅器)を用いてもよい。
【0127】
また、以上の実施の形態では、第1の光信号10の波長は、1.55μmである。しかし、第1の光信号10の波長は、1.55μmに限られない。例えば、第1の光信号10の波長は、1.3μmや0.85μmであってもよい。
【0128】
また、以上の実施の形態では、光記録ファイバ12は、光ファイバ増幅器である。しかし、光記録ファイバ12として使用できる光ファイバは、光ファイバ増幅器に限られない。例えば、光記録ファイバ12として、コアに希土類金属(例えば、エリビウム)が添加された、光ファイバ吸収体を用いてもよい。この場合、光吸収ファイバであってもよい。この場合には、光吸収ファイバの過飽和吸収によりコアの複素屈折率が変化して、回折格子が形成される。
【符号の説明】
【0129】
2・・・光ファイバメモリ
4・・・コア
6・・・非線形光ファイバ
8・・・第1の端面
10・・・第1の光信号
12・・・光記録ファイバ
14・・・光ファイバ増幅器
16・・・励起光供給ユニット
24・・・書込み光パルス
26・・・第2の端面
28・・・書込み光パルス供給ユニット
36・・・第2の光信号
38・・・読出し光パルス
40・・・読出し光パルス供給ユニット
44・・・回折格子
80・・・実施の形態2の光ファイバメモリ
84・・・励起光パルス供給ユニット
102・・・実施の形態3の光ファイバメモリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアの複素屈折率が伝搬光の強度に応じて一時的に変化する非線形光ファイバからなり、第1の端面から第1の光信号が入射する光記録ファイバと、
前記第1の光信号が前記光記録ファイバの第2の端面に到達する前に、前記第1の光信号の1ビットに対応する光パルスよりパルス幅が狭く、且つ前記第1の光信号と干渉して、前記複素屈折率を一時的に変化させることにより、前記コアに回折格子を形成する書込み光パルスを、前記第2の端面から前記光記録ファイバに入射させる書込み光パルス供給ユニットとを有し、
前記書込み光パルスにより、前記第1の光信号を前記光記録ファイバに記録する、
光ファイバメモリ。
【請求項2】
請求項1に記載の光ファイバメモリにおいて、
更に、前記回折格子により反射されて、前記第1の光信号に対応する第2の光信号に変化する読出し光パルスを、前記第1の端面又は前記第2の端面から前記光記録ファイバに入射させる読出し光パルス供給ユニットを有し、
前記読出し光パルスにより、前記第2の光信号を前記光記録ファイバから読み出す、
光ファイバメモリ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の光ファイバメモリにおいて、
前記光信号が、デジタル信号、多値信号、及び光位相変調信号からなる群の何れかの一つの信号であることを、
特徴とする光ファイバメモリ。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の光ファイバメモリにおいて、
前記第1の光信号の搬送波の光周波数と前記書込み光パルスの中心光周波数との差の絶対値が、前記書込み光パルスの電界強度スぺクトルの1/e全幅より小さいことを、
特徴とする光ファイバメモリ。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の光ファイバメモリにおいて、
前記光記録ファイバが、光ファイバ増幅器であり、
更に、前記光ファイバ増幅器に励起光を供給する励起光供給ユニットを有することを、
特徴とする光ファイバメモリ。
【請求項6】
請求項5に記載の光ファイバメモリにおいて、
前記励起光供給ユニットが、前記光ファイバ増幅器の光利得を0dB以下にする励起光を供給し、
更に、前記光ファイバ増幅器に第1の光信号が入射した後であって、且つ前記光ファイバ増幅器に前記書込み光パルスを入射させる前に、前記励起光に重畳されることにより前記光利得を0dB以上にする励起光パルスを、前記第2の端面から前記光ファイバ増幅器に入射させる励起光パルス供給ユニットを有することを、
特徴とする光ファイバメモリ。
【請求項7】
コアの複素屈折率が伝搬光の強度に応じて一時的に変化する非線形光ファイバからなり第1の光信号が入射する光記録ファイバと、
前記第1の光信号が書込み光パルスと干渉して前記コアに形成した回折格子により反射されて、前記第1の光信号に対応する第2の光信号に変化する読出し光パルスを、前記光記録ファイバに入射させる読出し光パルス供給ユニットとを有し、
前記読出し光パルスにより、前記第2の光信号を前記光記録ファイバから読み出す、
光ファイバメモリ。
【請求項8】
コアの複素屈折率が伝搬光の強度に応じて一時的に変化する非線形光ファイバに、第1の光信号を、前記非線形光ファイバの第1の端面から入射させる第1の工程と、
前記第1の光信号が前記非線形光ファイバの第2の端面に到達する前に、前記光信号の1ビットに対応する光パルスよりパルス幅が狭く、且つ前記第1の光信号と干渉して、前記複素屈折率を一時的に変化させることにより、前記コアに回折格子を形成する書込み光パルスを、前記第2の端面から前記非線形光ファイバに入射させて、前記第1の光信号を前記非線形光ファイバに記録する第2の工程とを有する、
光信号の記録方法。
【請求項9】
コアの複素屈折率が伝搬光の強度に応じて一時的に変化する非線形光ファイバに、第1の光信号を、前記非線形光ファイバの第1の端面から入射させる第1の工程と、
前記第1の光信号が前記非線形光ファイバの第2の端面に到達する前に、前記光信号の1ビットに対応する光パルスよりパルス幅が狭く、且つ前記第1の光信号と干渉して、前記複素屈折率を一時的に変化させることにより、前記コアに回折格子を形成する書込み光パルスを、前記第2の端面から前記非線形光ファイバに入射させて、前記第1の光信号を前記非線形光ファイバに記録する第2の工程と、
前記回折格子により反射されて、前記第1の光信号に対応する第2の光信号に変化する読出し光パルスを、前記第1の端面又は前記第2の端面から前記非線形光ファイバに入射させて、前記非線形光ファイバから前記第2の光信号を読み出す第3の工程を有する、
光信号の記録及び読出し方法。
【請求項10】
請求項9の光信号の記録及び読出し方法において、
前記光非線形ファイバが光ファイバ増幅器であり、
前記第1の工程の前に、光ファイバ増幅器の光利得を0dB以下にする励起光を、前記光ファイバ増幅器に供給し、
前記第2の工程において、前記光ファイバ増幅器に第1の光信号が入射した後であって、前記光ファイバ増幅器に前記書込み光パルスを入射させる前に、前記励起光に重畳されることにより前記光利得を0dB以上にする励起光パルスを、前記第2の端面から前記光ファイバ増幅器に入射させることを、
特徴とする光信号の記録及び読出し方法。
【請求項11】
コアの複素屈折率が伝搬光の強度に応じて一時的に変化する非線形光ファイバの前記コアに、第1の光信号が、書込み光パルスと干渉して回折格子を形成した後に、
前記回折格子により反射され第2の光信号に変化する読出し光パルスを、前記非線形光ファイバに入射させる第1の工程と、
前記第1の工程の後、前記回折格子により前記読み出し光パルスを反射させて、前記非線形光ファイバから前記第2の光信号を読み出す第2の工程を有する、
光信号の読出し方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2011−118103(P2011−118103A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−274407(P2009−274407)
【出願日】平成21年12月2日(2009.12.2)
【出願人】(598041566)学校法人北里研究所 (180)
【Fターム(参考)】