説明

光ファイバレーザ

【課題】光ファイバの長手方向に沿った励起光の吸収特性が簡単に制御でき、光ファイバの長手方向に沿った温度分布を平坦化できると共に、スキュー光線の発生を抑えることができる光ファイバレーザを提供する。
【解決手段】希土類元素が添加されたコアの周囲に2層からなるクラッドを有する光ファイバ2と、その光ファイバ2の端部に接続された光結合器と、その光結合器を介してクラッドに励起光を入射する複数の光源とを備えた光ファイバレーザにおいて、光ファイバ2が励起光の吸収損失を長手方向で異ならせるように巻き回された励起部3を有するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類添加コアとクラッドを備えた高出力の光ファイバレーザに関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ加工や医療用途などへの適用を目的として、より高出力で安価な光源の開発が求められている。これらの要求に対し、光ファイバレーザは、高効率でしかも高品質のレーザ光を簡単に取り出せるという理由で注目を集めている。
【0003】
このような高出力光ファイバレーザに使用される光ファイバとして、希土類元素(Yb、Er、Er/Yb、Tm、Ndなど)をドープしたコアと、第1クラッドおよび第2クラッドからなるクラッドを備えたダブルクラッドファイバがある。第2クラッドの外周には、紫外線硬化型樹脂などからなる被覆層が設けられる。
【0004】
光ファイバの一端部には、励起光として、マルチモードLD(半導体レーザ)などの励起光源から出射した光を入射する。第1クラッド内に集光した励起光は、光ファイバ中を伝搬し、コアの希土類添加元素を励起する。そして、励起された希土類元素から発振光がコアに伝搬し、光ファイバの他端から高出力のレーザ発振光が出射する。
【0005】
また、第1クラッド中を伝搬する励起光は、図7(a)に示す子午光線(コア72を通る光線)と、図7(b)に示すスキュー光線(コア72を通らない光線)の2種類が存在している。コア72を通らなければ励起光が吸収されないので、吸収特性を改善するにはいかにスキュー光線をなくすかが重要である。
【0006】
なお、この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、次のものがある。
【0007】
【特許文献1】特開平5−249328号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の光ファイバでは、コアとしてYb添加(ドープ)コアを用いた場合、励起光に対するレーザ発振光の光/光変換効率が約80%で、約20%のエネルギーが熱となる。
【0009】
このため、従来の光ファイバでは、光ファイバレーザの高出力化に伴い、光ファイバの温度上昇、特に、光ファイバの入射端近傍の温度上昇が大きく、光ファイバの被覆層が損傷するおそれがあり、光ファイバレーザの出力が制限されるという問題がある。
【0010】
また、従来の光ファイバレーザでは、スキュー光線の発生を抑制するために、第1クラッドの断面形状をD型、多角形としたり、または、エアクラッドファイバのように第1クラッドと第2クラッドとの境界が波状になる構造として改善しているが、これらの方法ではスキュー光線の抑制は不十分であった。
【0011】
そこで、本発明の目的は、光ファイバレーザにおける光ファイバの温度上昇を抑えると共にスキュー光線の発生を抑制し、レーザ光の高出力化を図った光ファイバレーザを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は上記目的を達成するために創案されたものであり、請求項1の発明は、希土類元素が添加されたコアの周囲に2層からなるクラッドを有する光ファイバと、その光ファイバの端部に接続された光結合器と、その光結合器を介して前記クラッドに励起光を入射する複数の光源とを備えた光ファイバレーザにおいて、前記光ファイバが前記励起光の吸収損失を長手方向で異ならせるように巻き回された励起部を有する光ファイバレーザである。
【0013】
請求項2の発明は、前記光ファイバは、前記励起部での巻き径が前記光結合器から長手方向に沿って離れるに従い小さくなるように巻き回されている請求項1記載の光ファイバレーザである。
【0014】
請求項3の発明は、前記光ファイバは、前記励起部の中間の巻き径を最小とし、前記励起部の中間から離れるに従い巻き径が徐々に大きくなるように巻き回されている請求項1または2記載の光ファイバレーザである。
【0015】
請求項4の発明は、前記光ファイバは、前記巻き径が200〜400mmの範囲となるように巻き回されている請求項1〜3いずれかに記載の光ファイバレーザである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、光ファイバの長手方向に沿った励起光の吸収特性が簡単に制御でき、光ファイバの長手方向に沿った温度分布を平坦化できると共に、スキュー光線の発生を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態を添付図面にしたがって説明する。
【0018】
図1は、本発明の好適な第1の実施形態を示す光ファイバレーザの主要部の概略図である。
【0019】
図1に示すように、第1の実施形態に係る光ファイバレーザ1は、光ファイバ2の両端部に光結合器(図示せず)を接続し、その両光結合器を介して光ファイバ2のクラッドに光源(図示せず)からの励起光を入射し、コアの希土類元素を励振させて、一方の光結合器側から高出力のレーザ発振光を出力するものであり、光結合器間の光ファイバ2を励起光の吸収損失を長手方向で異ならせるように巻き回して励起部3を形成したものである。
【0020】
より詳細には、光ファイバレーザ1は、光ファイバ2を巻き回すための吸収特性調整用部材4を備える。吸収特性調整用部材4は、断面形状が円形であり、かつその径が吸収特性調整用部材4の長手方向(図1では上下方向)に沿って連続的に変化するよう形成され、その長手方向の中心(吸収特性調整用部材4の両端の中間)の径が小さく、両端に向かって径が大きくなるよう上下対称に、所定の曲率で形成される。
【0021】
第1の実施形態では、吸収特性調整用部材4は、その長手方向の中心の径が200mmであり、両端の径が500mmであるものを用いた。
【0022】
この吸収特性調整用部材4に光ファイバ2を巻き回して励起部3を形成する。このとき、光ファイバ2の両端部に接続された両光結合器から長手方向に沿って離れるにしたがって巻き径が小さくなるように、光ファイバ2を巻き回すとよい。すなわち、両光結合器間の光ファイバ2の中間の巻き径を最小とし、中間から離れるにしたがって巻き径が大きくなるよう上下対称に巻き回すとよい。
【0023】
第1の実施形態では、励起部3の巻き径を200〜400mmの範囲で変化させた。これは、巻き径が200mm未満であると吸収損失が増大し、400mmを超えると光ファイバ2の両端の温度が高温となってしまうためである。
【0024】
励起方式については、とくに限定されるものではないが、側面励起、端面励起のどちらでも採用することができる。
【0025】
第1の実施形態に係る光ファイバレーザ1に用いる光ファイバ2は、図2に示すように、希土類元素を添加したコア21と、コア21の外周に形成されたクラッド22とを備える。クラッド22は、内側の第1クラッド23と、外側の第2クラッド24とから構成される。
【0026】
コア21は、純粋石英にYb、Er、Er/Yb、Tm、Ndなどの希土類元素を微少量添加(ドープ)したものである。第1の実施形態では、励起光Leが波長λe(915nmあるいは975〜980nm)であり、波長λ(1030〜1100nm)のレーザ光Lを出射させるために、希土類元素としてYbを用いた。Ybは、波長λeの励起光Lの吸収と、波長λの光の増幅(誘導放出)とに適した希土類元素である。
【0027】
また、第1の実施形態では、コア21とクラッド22とでPCF(フォトニッククリスタルファイバ)を構成するように、光ファイバ2の長手方向に沿って貫通する複数の空孔をハニカム状に配列してなるフォトニック結晶構造を第1クラッド23に形成した。
【0028】
第1の実施形態に係る光ファイバレーザ1の一例として、図3の光ファイバレーザ1を説明する。
【0029】
図3に示すように、光ファイバレーザ1は、光源を備えてレーザ発振光Lを出力するための光学部32と、その光学部32に接続されて光源を駆動する図示しないLDドライバなどの駆動装置とで主に構成される。
【0030】
光学部32は、光ファイバ2と、その光ファイバ2の両端部近傍(後述する両光結合器36a、36bよりも外側)にそれぞれ設けられる光源部33A、33Bとからなる。
【0031】
光源部33Aは、高出力の励起光を出射するための複数個の励起用光源34と、これら励起用光源34にそれぞれ接続された複数本の励起用光路35と、これら励起用光路35にそれぞれ光学的に接続され、各励起用光源34からの出射光を光ファイバ2に光結合する光結合器36a、36bとからなる。
【0032】
各励起用光源34としては、安価な光伝送に適したマルチモードLDを用いる。第1の実施形態では、一例として、波長λe(915nmあるいは975〜980nm)の励起光Leを出射するマルチモードLDを用いた。
【0033】
各励起用光源34は、光源部33A、33Bごとに直列接続され、これらが上述した駆動装置に接続される。各励起用光路35としては、マルチモード光ファイバや光導波路を用いる。光結合器36a、36bとしては、マルチカプラや励起コンバイナを用いる。
【0034】
光ファイバ2の両端部で、両光結合器36a、36bよりも内側には、光ファイバ2へ入射した励起光Leを反射励振するための光反射部37a、37bが設けられる。第1の実施形態では、光ファイバ2に、励起光波長に対しては透過し、発振光波長に対しては高い反射率を有するFBG(ファイバブラッググレーティング)を2つ形成して、光反射部37a、37bとした。
【0035】
光反射部37b(光ファイバ2のレーザ発振光Lの出射側)となるFBGは、部分的にレーザ発振光を反射するように、光反射部77aとなるFBGとは格子間隔を異ならせて形成される。
【0036】
両光結合器36a、36b間には、図1で示した光ファイバレーザ1の主要部が設置される。すなわち、両光結合器36a、36b間の光ファイバ2の中間には吸収特性調整用部材4を設置し、その吸収特性調整用部材4に光ファイバ2を巻き回して励起部3を形成する。
【0037】
次に、第1の実施形態に係る光ファイバレーザ1の一例を説明する。
【0038】
まず、コア21の径が50μm、コア21におけるYb濃度が1000ppm、第1クラッド23の外径が600μm、第2クラッド24の外径が700μmの光ファイバ2を用いて、励起部3の中間の巻き径を200mmとし、巻き始め(巻き終わり)の巻き径を400mmとなるよう、光ファイバ2を吸収特性調整用部材4に巻き回して励起部3を形成し、光ファイバレーザ1を作製した。
【0039】
第1の実施形態に係る光ファイバレーザ1では、出力が5kW以上、好ましくは10kW以上とし、ファイバ長は30mとした。
【0040】
ここで、曲げ直径(巻き径)に対する吸収損失(@975nm)を図4に示す。
【0041】
図4に示すように、曲げ直径(巻き径)を200mmから400mmまで変化させると、吸収損失(@975nm)は約0.75dB/mから約0.3dB/mまで直線的に変化する。すなわち、巻き径を小さくすると吸収損失が大きくなり、巻き径を大きくすると吸収損失が小さくなる。
【0042】
作製した光ファイバレーザ1の使用(動作)時の熱解析を行った。その結果を図5に示す。
【0043】
図5では比較のために、従来例として、巻き径を300mmで一定として図2の光ファイバ2を巻き回して励起部を形成した光ファイバレーザの熱解析結果を点線で示した。
【0044】
図5に示すように、従来例では励起光を入射する光結合器近傍(光ファイバ2の両端)のファイバ温度が高くなり、最高で277℃もの高温となる。また、両光結合器の中間では温度が低くなり、最高温度と最低温度との差が大きくなっている。
【0045】
これに対して本発明は、ファイバ全長にわたって使用時の温度分布が約170℃以下であり、最高温度と最低温度との差が少ないフラットな温度分布となっている。従来例と比較すると、最高温度は約107℃もの差がある。
【0046】
すなわち、コア21のYb濃度が約1000ppm、コア21の径が約50μm、第1クラッド23の外径が約600μmである光ファイバ2を用い、励起部3の巻き径を200mm〜400mmの範囲で変化させ、光ファイバ2に波長975〜980nmの励起光を入射すると、光ファイバレーザ1は、出力10kW以上で、かつ使用時のファイバ温度が光ファイバ2の全長にわたって約170℃以下の特性を有する。
【0047】
次に、第1の実施形態の作用を、図3の光ファイバレーザ1の動作と共に説明する。
【0048】
駆動装置により各励起用光源34を駆動すると、各励起用光源34から励起光が出射され、各光結合器36a、36bで光源部33A、33B内の全励起用光源34からの励起光が光結合され、光ファイバ2に両側方から励起光Leがそれぞれ入射される。
【0049】
入射した励起光Leは、光結合器36a、36b間の光ファイバ2を吸収特性調整用部材4に巻き回して形成した励起部3を通過する。第1の実施形態では、励起部3は、吸収特性調整用部材4に中央部での巻き径を最小とし、吸収特性調整用部材4の中央部から外側へ離れるにしたがって巻き径が大きくなるように形成している。
【0050】
励起光Leは、コア21に結合して希土類添加元素を励起する。励起された希土類元素からの発振光は光反射部37a、37b間で励振し、高出力のレーザ発振光Lが生成され、そのレーザ発振光Lが光ファイバ2の出射端から出力される。
【0051】
励起光Leが励起部3を通過する際、励起光Leを入射する光結合器36a、36b近傍の光ファイバ2の両端では、光ファイバ2の巻き径が大きいために吸収損失が少なくなり、吸収特性調整用部材4の中央部に巻き回された光ファイバ2では、その巻き径が小さいために吸収損失が大きくなる。
【0052】
このため、光ファイバレーザ1では、光ファイバ2の長手方向に沿った温度分布を平坦化させ、励起光Leを導入した際の発熱を光ファイバ2全長にわたって従来の光ファイバよりも低く抑えることができる。これにより、発熱による光出力の低下を抑制できる。
【0053】
したがって、光ファイバレーザ1によれば、励起部3の光ファイバ2の巻き径を変えることで、光ファイバ2の長手方向に沿った励起光Leの吸収特性および温度分布を簡単に制御でき、レーザ発振時の発熱を制御することで、より高出力な光ファイバレーザを実現できる。
【0054】
さらに、スキュー光線の発生の有無は巻き径、形状依存性を有することから、光ファイバ2の長手方向に沿って巻き径(曲げ形状)を異ならせることにより、第1クラッド23を伝搬する励起光Leがコア21に結合しやすくなり、スキュー光線の発生を抑え、励起光Leを効率的にコア21に結合させることができる。
【0055】
図3の例のような光ファイバレーザ1を構成した場合には、各光結合器36a、36bで多数の励起用光源34からの波長975nmの励起光を合波し、これを光ファイバ2の両側方から入射でき、しかもファイバ内(特に端部)での熱損失も少ない。
【0056】
第2の実施形態として、片側励起である場合(光ファイバ2の一端部にのみ光結合器を接続する場合)、図6に示す光ファイバレーザ61を用いるとよい。光ファイバレーザ61は、円錐形状の吸収特性調整用部材62を備え、その吸収特性調整用部材62に光ファイバ2を巻き回して励起部63を形成し、かつその励起部63の光結合器側(図6では右側)の巻き径が大きく、光結合器から離れるにしたがって巻き径が小さくなるように形成したものである。これにより、光結合器近傍の光ファイバ2の一端部では、光ファイバ2の巻き径が大きいために吸収損失が少なくなり、光結合器から離れるにしたがってその巻き径が小さく、吸収損失が大きくなる。これにより、第1の実施形態と同様の効果が得られる。
【0057】
上記実施形態では、吸収特性調整用部材4(または62)に光ファイバ2を巻き回して励起部3(または63)を形成したが、これに限定されず、光ファイバ2の長手方向に沿って巻き径(曲げ形状)を変化させることができればよく、例えば、光ファイバ2を渦巻き状に巻き回して励起部3(または63)を形成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の好適な第1の実施形態を示す光ファイバレーザの要部概略図である。
【図2】第1の実施形態に係る光ファイバレーザに用いる光ファイバの概略図である。
【図3】第1の実施形態に係る光ファイバレーザの一例を示す概略図である。
【図4】図2に示した光ファイバの曲げ直径と吸収損失の関係を示す図である。
【図5】第1の実施形態に係る光ファイバレーザと、従来の光ファイバレーザとの熱解析の結果を示す図である。
【図6】第2の実施形態に係る光ファイバレーザの要部概略図である。
【図7】図7(a)は子午光線を説明する図であり、図7(b)はスキュー光線を説明する図である。
【符号の説明】
【0059】
1 光ファイバレーザ
2 光ファイバ
3 励起部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類元素が添加されたコアの周囲に2層からなるクラッドを有する光ファイバと、その光ファイバの端部に接続された光結合器と、その光結合器を介して前記クラッドに励起光を入射する複数の光源とを備えた光ファイバレーザにおいて、前記光ファイバが前記励起光の吸収損失を長手方向で異ならせるように巻き回された励起部を有することを特徴とする光ファイバレーザ。
【請求項2】
前記光ファイバは、前記励起部での巻き径が前記光結合器から長手方向に沿って離れるに従い小さくなるように巻き回されている請求項1記載の光ファイバレーザ。
【請求項3】
前記光ファイバは、前記励起部の中間の巻き径を最小とし、前記励起部の中間から離れるに従い巻き径が徐々に大きくなるように巻き回されている請求項1または2記載の光ファイバレーザ。
【請求項4】
前記光ファイバは、前記巻き径が200〜400mmの範囲となるように巻き回されている請求項1〜3いずれかに記載の光ファイバレーザ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2009−129987(P2009−129987A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−300860(P2007−300860)
【出願日】平成19年11月20日(2007.11.20)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(592032636)学校法人トヨタ学園 (57)
【Fターム(参考)】