説明

光ファイバ先端加工装置、同方法及び研磨部材

【課題】単心光ファイバの前端面の損傷を抑制することができる新規な手段を提供する。
【解決手段】研磨部材25が、研磨作用を行う研磨部25aと、研磨作用を行わない保護部25bとを備える。駆動機構により、光ファイバFの先端が研磨部材の保護部25bに当接した状態で、光ファイバFが弾性的に変形させられ、その後、光ファイバFの先端の軸心が研磨部25aの表面と垂直でない状態で、光ファイバFの先端が研磨部25aに当接させられる。したがって、光ファイバFの前端面と研磨部25aとの当接が抑制され、前端面の損傷のおそれを抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバの先端の外周部を研磨部材で研磨して円錐状に面取りする装置及び方法、ならびに当該装置及び方法に好適に用いられる研磨部材に関する。
【背景技術】
【0002】
通信のブロードバンド化に対応して、光LAN(Local Area Network)やFTTH(Fiber To The Home)など光通信網の構築が急速にすすめられている。このような光通信網の実現には小型、高密度で高信頼度な光コネクタが不可欠である。このような要求を満たす光コネクタとしてFPC(Fiber Physical Contact)形光ファイバコネクタが発明されている。このFPC形光ファイバコネクタでは、接続する2本の光ファイバの先端を対向させ、光ファイバ外径よりごくわずかに大きい内径を持った接続孔の両端から挿入し、その2本の光ファイバの先端を突き当てる。この突き当て力には光ファイバを撓ませて得られる座屈力を利用する。すると両者の光ファイバの光軸は一致し、突き当て力によって光ファイバ同士はPC(Physical Contact)接続する。
【0003】
光ファイバ外径よりごくわずかに大きい内径を持った接続孔への挿入を容易にし、また突き当て面積を小さくして接触圧を大きくしPC接続をより確実にできるように、光ファイバの先端の外周部を円錐状に面取りする装置(テーパ加工装置)が提案されている(特許文献1)。この特許文献1の装置は、図12に示されるように、砥石からなるカップ状の研磨部材110を、自転軸asに関して自転させながら、公転軸arの周りを公転させるように構成されている。公転軸arに対して傾斜した研磨面124に、中間部を保持した単心光ファイバを公転軸ar上で接近させると、単心光ファイバの先端が研磨面124に沿って弾性変形させられながら、前端面の周囲がテーパ状に研磨される。この装置では、単心光ファイバの前端面の損傷を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−210830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1の装置では、カップ状の砥石を用いるため、低コストでの加工が難しくなる。他方、上記特許文献1は別の態様として、平板状の砥石を用い、公転軸に対して傾斜した自転軸を中心に砥石を自転させながら公転させる装置を開示しているが、傘歯歯車などの複雑な機構が必要になり、やはり低コストでの加工が難しくなる。
【0006】
そこで本発明の目的は、単心光ファイバの前端面の損傷を抑制することができる新規な手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様は、
単心光ファイバの先端を研磨する研磨部材と、前記単心光ファイバの中間部を保持する保持部材と前記研磨部材とを相対的に移動させる駆動機構と、を備え、前記単心光ファイバの先端のクラッド外周を円錐面状に加工する光ファイバ先端加工装置であって、
前記研磨部材は、研磨作用を行う研磨部と、研磨作用を行わない保護部とを備え、
前記駆動機構により、前記単心光ファイバの先端が前記研磨部材の前記保護部に当接した状態で、前記単心光ファイバが弾性的に変形させられ、その後、前記単心光ファイバの先端の軸心が前記研磨部の表面と垂直でない状態で、前記単心光ファイバの先端が前記研磨部に当接させられることを特徴とする光ファイバ先端加工装置である。
【0008】
この態様では、研磨部材が、研磨作用を行う研磨部と、研磨作用を行わない保護部とを備え、駆動機構により、単心光ファイバの先端が研磨部材の保護部に当接した状態で、単心光ファイバが弾性的に変形させられ、その後、単心光ファイバの先端の軸心が研磨部の表面と垂直でない状態で、単心光ファイバの先端が研磨部に当接させられる。したがって、単心光ファイバの前端面と研磨部との当接が抑制され、損傷のおそれを抑制できる。
【0009】
好適には、研磨部材の前記保護部は、前記研磨部との境界において、前記研磨部よりも前記単心光ファイバの中間部に近接している。この態様では、単心光ファイバの先端が保護部から研磨部に円滑に移動することができる。好適には、前記保護部と前記研磨部との段差は50μm以下である。
【0010】
好適には、前記保護部の表面の少なくとも一部は、前記研磨部の表面と平行である。この態様では、保護部が研磨部の少なくとも一部と平行であるため、研磨部材の製造コストを抑制することができる。好適には、前記保護部の表面の全体が、前記研磨部の表面と平行である。
【0011】
好適には、前記保護部の表面の少なくとも一部は、前記単心光ファイバの中間部から先端部に向かう方向において前記研磨部に近づくように傾斜している。この態様では、単心光ファイバの先端を保護部から研磨部へと円滑に誘導することができる。
【0012】
好適には、前記研磨部の表面が平板状であって、且つ前記単心光ファイバの中間部の軸線と直交している。この態様では、研磨部の表面が平板状であるため、研磨部材の製造コストを抑制することができる。
【0013】
好適には、前記研磨部材は、その自転軸の内周側に前記研磨部が配置され、外周側に前記保護部が配置されている。この態様では、簡易な構成で本発明に所期の効果を得ることができる。
【0014】
好適には、前記駆動機構は前記研磨部材を所定の軌道で移動させ、当該所定の軌道は、前記単心光ファイバの保持部分である中間部の軸線と同軸の公転軸を持つ公転成分と、前記中間部の軸線からオフセットした自転軸を持つ自転成分とを含む。
【0015】
この態様では、研磨部の研磨作用点の軌道が、光ファイバの中間部の軸線と同軸の公転軸を持つ公転成分と、前記中間部の軸線からオフセットした自転軸を持つ自転成分とを含むので、光ファイバの先端の位置が公転軸の近傍であっても、自転成分によって、光ファイバの先端に対する研磨部の移動速度を大きくすることができ、加工を高速化できる。また、研磨部の摩耗を抑制して研磨部材の使用寿命を長くすることができる。
【0016】
本発明の別の一態様は、単心光ファイバの先端を研磨する研磨部材と、前記単心光ファイバの中間部を保持する保持部材と前記研磨部材とを相対的に移動させる駆動機構と、を用いて、前記単心光ファイバの先端のクラッド外周を円錐面状に加工する光ファイバ先端加工方法であって、前記研磨部材は、研磨作用を行う研磨部と、研磨作用を行わない保護部とを備え、前記駆動機構により、前記単心光ファイバの先端が前記研磨部材の前記保護部に当接した状態で、前記単心光ファイバを弾性的に変形させ、その後、前記単心光ファイバの先端の軸心が前記研磨部の表面と垂直でない状態で、前記単心光ファイバの先端を前記研磨部に当接させることを特徴とする光ファイバ先端加工方法である。この態様によれば、上記第1の態様と同様の効果を得ることができる。
【0017】
本発明の別の一態様は、研磨作用を行う研磨部と、研磨作用を行わない保護部と、を備えた研磨部材であって、前記研磨部及び前記保護部が、互いに同軸かつ径方向に互いに異なる位置にそれぞれ形成されていることを特徴とする光ファイバ先端加工用研磨部材である。この態様によれば、上記第1の態様に好適な研磨部材を提供することができる。
【0018】
なお、本発明における課題を解決するための手段は、可能な限り組み合わせて使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1実施形態の加工装置を示す正面図である。
【図2】第1実施形態の加工装置を示す平面図である。
【図3】第1実施形態の加工装置を示す右側面図である。
【図4】駆動部の構造の詳細を示す断面図である。
【図5】摺動ホルダを示す左側面図である。
【図6】固定ホルダを示す左側面図である。
【図7】第1実施形態による加工原理を示す正面図である。
【図8】第1実施形態による加工原理を示す右側面図である。
【図9】第2実施形態の加工装置の要部を示す正面図である。
【図10】第3実施形態の加工装置の要部を示す正面図である。
【図11】面取り加工後の光ファイバの先端を示す斜視図である。
【図12】本発明による改良前の加工装置による加工原理を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<第1実施形態>
本発明の第1の実施形態について以下に説明する。図1ないし図3において、本発明の第1実施形態の加工装置1は、概ね直方体の基台2と、基台2の上面に固定された駆動部3及び摺動レール4と、基台2の下面に固定された電池ボックス5とを備えている。摺動レール4は、摺動ホルダ6を摺動可能に保持する。摺動レール4には固定ホルダ7及びストッパ8が固定されている。
【0021】
駆動部3は、研磨台10を公転及び自転させる。図4に示されるように、駆動部3は、モータ11、太陽歯車12及び遊星歯車13を有する。モータ11は直流モータである。モータ11の出力軸14は、ブッシュ15によって駆動円盤16の駆動軸17に固定されており、駆動軸17は、軸受18,19を介して、固定支持円盤20及び太陽歯車12に回転可能に支持されている。固定支持円盤20はケース3aに固定され、太陽歯車12は固定支持円盤20に固定されている。遊星歯車13及び研磨台10は遊星歯車軸21に固定されており、遊星歯車軸21は、駆動円盤16に固定された軸受22、及び回転支持円盤23によって回転可能に支持されている。駆動円盤16には更にカウンタウェイト24が固定されている。遊星歯車軸21の軸心である自転軸asは、駆動軸17の軸心である公転軸arと平行であり、且つ公転軸arからオフセットしている。遊星歯車13は太陽歯車12に常時噛み合っている。
【0022】
したがって、モータ11の出力軸14が回転すると、駆動円盤16が回転し、遊星歯車13が、ケース3aに対して相対的に固定である太陽歯車12の周囲を、転がるように回転させられる。これによって研磨台10が、自転軸asの周りを自転しながら、公転軸arの周りを公転することになる。公転軸arと自転軸asは、常に互いに平行である。
【0023】
研磨台10は、平坦且つ軸方向から見て円形の前端面を有し、この前端面には、シート状の研磨部材25が固定されている。研磨部材25は、基材26と、その表面に形成された研磨層27および保護層28とからなり、研磨層27の表面が研磨部25aとなり、保護層28の表面が保護部25bとなる。基材26は円盤型の樹脂フィルムであり、研磨台10の前端面と同径である。研磨層27は、砥粒及びバインダからなる砥粒層によって構成されており、砥粒は#400から#2000程度の各種の材料、例えばダイヤモンド砥粒、アルミナ砥粒、シリコンカーバイド砥粒から任意に選択することができる。
【0024】
保護層28は、基材26の表面の外周縁に沿って、基材26と同心の環状に形成されており、その外径は、研磨台10の前端面の外径と等しい。保護層28の材料は、砥粒を含有せず、実質的に研磨能力を有しない。しかしながら、後述するように、光ファイバFの前端は保護部25bとの摩擦力によって研磨部25a内のテーパ加工点まで運ばれるため、保護層28の材料および表面粗さは、その摩擦係数が研磨層27の表面である研磨部25aと同等程度であるか、少なくとも光ファイバFとの間の摩擦力によって光ファイバFの先端を誘導することが可能であるように選択されることが望ましい。保護層28の材料は樹脂材料を用いることができ、例えばPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)などのフッ素樹脂が特に好適である。保護部25bに適切な摩擦係数を付与するために、保護層28の表面に研磨・食刻などの粗面化加工を施してもよい。
【0025】
研磨層27及び保護層28は、いずれも溶融材料の塗布によって形成することができる。あるいは、基材の表面全体に砥粒層を均一の厚さで形成し、その外周縁のみに砥粒層を含まない材料を重ねて塗布(あるいはシート状の材料を接着)することによって保護部を形成してもよい。
【0026】
このようにして、研磨部材25の表面には、自転軸asに関して内周側に、研磨作用を行う研磨部25aが配置され、また外周側に、研磨作用を行わない保護部25bが配置される。保護部25bは、研磨部25aとの境界において、研磨部25aよりも光ファイバFの中間部に近接している。好適には、保護部25bと研磨部25aとの段差は50μm以下である(各図ではこの段差を誇張して表示している)。保護部25bは、その全体が、研磨部25bと平行である。
【0027】
研磨部25aは、研磨台10に装着された場合にその表面が平板状である。研磨部25aの研磨点及び外周の半径は、遊星歯車13の半径よりも大きく、これによって大きな摺動速度が得られるため、大きな研磨量を得ることができ、また研磨部25aの耐用時間を長くすることができる。保護部25bは、研磨台10がどの位置にあっても、公転軸arと直交しており、したがって光ファイバFの中間部の軸線と直交している。
【0028】
図2において、摺動ホルダ6は、樹脂製の本体部31と、この本体部31に片持ち状に軸止された2個の蓋体32,33とを有する。図5に示されるように、蓋体32,33は軸34を中心に上向きに旋回可能であり、概ね水平の閉位置(実線)と、100°程度開いた開位置(二点鎖線)とをとりうる。本体部31の上面には、その長手方向の全長に延在するV溝35が形成されている。摺動ホルダ6の蓋体32,33を閉じると、蓋体32,33は本体部31に固定された永久磁石36によって吸着され、光ファイバFは蓋体32,33とV溝35との間で保持される。なお、光ファイバFの前端面57(図11参照)を劈開する作業を好適に行うため、蓋体33とV溝35との間では光ファイバFは軸方向に相対的に移動しないように拘束される一方、蓋体32とV溝35との間では、摺動ホルダ6に対する軸方向の移動が許容されている。
【0029】
図2において、固定ホルダ7は、金属製の本体部41と、この本体部41に片持ち状に軸止された蓋体42とを有する。図6に示されるように、蓋体42は軸44を中心に上向きに旋回可能であり、概ね水平の閉位置(実線)と、100°程度開いた開位置(二点鎖線)とをとりうる。本体部41の上面には、2個のVブロック45が配置されている。固定ホルダ7の蓋体42を閉じると、蓋体42は本体部41に固定された永久磁石46によって吸着され、光ファイバFは蓋体42とVブロック45との間で、軸方向に相対的に移動できるように保持される。このようにして光ファイバFが挟持されたとき、光ファイバFの中間部(固定ホルダ7に保持された部分)の軸線は、公転軸arと一致する。
【0030】
図2において、ストッパ8は可動部8a,基部8bを有する。可動部8aは、軸8c(図3参照)を中心として上向きに旋回可能であり、これによって、摺動ホルダ6による光ファイバFの保持長さ(つまり、摺動ホルダ6の前端から突出した光ファイバFの長さ)を、光ファイバFが固定されるコネクタその他の光部品の種類に応じて変更することができる。
【0031】
図1及び図2に示されるように、摺動レール4にはスイッチ50のノブ51が設けられ、摺動ホルダ6の前端が予め定められた停止位置の近傍に来ると、ノブ51が押されてスリット52(図2参照)中を移動し、スイッチ50がオンされる。
【0032】
スイッチ50は、基台2内又は電池ボックス5内に収容された不図示の制御回路に接続されている。制御回路はCPU、ROM、RAM及び入出力インターフェイスを含んで構成された周知のワンチップマイクロコンピュータである。制御回路は2本の単三乾電池55によって給電され、モータ11にパルス信号を出力して回転させる。また制御回路はモータ11からの逆起電力に基づいて、モータ11に対するパルス幅すなわちデューティ比を変更し、回転速度を例えば1500rpm以上かつ2000rpm以下の定速度に制御する(PWM制御)。なお制御回路には更に、不図示の主電源スイッチが接続されており、且つ制御回路には、主電源スイッチがオンされるとモータ11が回転を開始し、スイッチ50がオンされてから所定の時間(例えば5秒間)が経過するとモータ11が停止するようなタイマプログラムが格納されている。なお、光ファイバFの少なくとも先端部の近傍は、被覆が除去されている。光ファイバFの前端面57(図11参照)は、光ファイバFの長手方向中心軸に対してほぼ直交する面に加工されている。
【0033】
以上のとおり構成された第1実施形態の加工装置1を用いた面取り加工の手順について説明する。先ずユーザは、摺動ホルダ6に、光ファイバFをその先端が所定の長さ突出するようにセットする。次に、ユーザは光ファイバFを保持させた摺動ホルダ6を、摺動レール4にセットすると共に、光ファイバFの先端側の部分を固定ホルダ7にセットする。そして、ユーザが主電源スイッチをオンしてモータ11を始動させると、モータ11の回転が開始され、これによって研磨台10が自転及び公転させられる。
【0034】
次に、ユーザは摺動ホルダ6を摺動レール4上で前進方向に摺動させ、これによって光ファイバFの先端を、固定ホルダ7から、研磨台10に向けて軸方向に進出させる。摺動ホルダ6の前端面がスイッチ50をオンすることによって、上記タイマプログラムが起動される。
【0035】
続いて摺動ホルダ6を、その前端面がストッパ8又は固定ホルダ7に当接するまで移動させる。この過程において、まず、光ファイバFは、図7に実線で示されるように、研磨部材25の保護部25bに前端面57(図11参照)で当接する。ここで、図8に示されるように、保護部25bに当接する瞬間の光ファイバFの先端は、公転軸arと同軸の位置Aにある。光ファイバFが保護部25bに当接すると、研磨部材25の自転Sに伴う摩擦力f1により、光ファイバFが研磨部材25の接線方向にたわませられる。
【0036】
次に、光ファイバFがさらに前進すると、光ファイバFの先端は位置Bに移動しようとする。この移動と同時に、光ファイバFの先端が研磨部材25の保護部25bに当接した状態で、光ファイバFが弾性的に変形(湾曲)させられる。この当接から湾曲の過程において、光ファイバFの前端面57(図11参照)が研磨部25aに触れることはない。
【0037】
この弾性的な変形によって、光ファイバFの先端が位置Bに移動すると、光ファイバFの先端には、接線方向の摩擦力f2と、光ファイバFの中間部の延長線でもある公転軸arに向かう復帰力f3との合力f4が作用する。この合力f4が、研磨部材25の自転軸asに向かう成分を含むため、光ファイバFの先端は、自転軸asに向けて移動させられる。この移動により、光ファイバFの先端は、光ファイバFの先端の軸心が研磨部25aの表面と垂直でない状態で、保護部25bから研磨部25aへと移動し、研磨部25aに当接させられる。
【0038】
慣性力や外乱により、光ファイバFの先端が自転軸asの近傍(例えば、位置C)にくると、摩擦力f5と復帰力f6との合力f7が、自転軸asから遠ざかる方向の成分を含むため、光ファイバFの先端は、自転軸asから遠ざかる方向に移動させられる。他方、光ファイバFの先端は、公転軸arを中心とする円周上を移動可能である。このため、光ファイバFの先端は、自転軸asの方向からみた場合の光ファイバFの先端部の軸線と、自転軸asから接点に向けて延びる腕とが直交する点(位置D)において、湾曲した状態で安定して研磨されることになる。
【0039】
図7に示されるように、研磨台10の自転軸asは、研磨台10の公転によって、一点鎖線as1の位置から一点鎖線as2の位置までにわたって円軌道で移動する。光ファイバFの先端と研磨部25aとの接点は、研磨台10の公転によって公転軸arを中心とする円軌道を描く。これに伴って、光ファイバFの先端は、図7における二点鎖線aの姿勢と二点鎖線bの姿勢との間で、ほぼ円錐形の軌跡を描きながら、研磨台10の公転と同じ角速度で繰返し変位させられる。その間、研磨台10は自転軸asを中心に継続して自転する。研磨台10のこのような公転と自転とによって、光ファイバFの先端は、図11に示されるようにクラッド外周が面取りされ、概ね円錐面である斜面56が形成されることになる。
【0040】
スイッチ50がオンされてから所定の時間(例えば5秒間)が経過すると、制御回路の制御によってモータ11が停止する。ユーザは摺動ホルダ6を摺動レール4上で後退方向に摺動させる。これによって光ファイバFの先端は、図7における二点鎖線a,bのような湾曲した姿勢から、実線のような直線状の姿勢に復帰した後、研磨台10を離れて軸方向に後退することになる。光ファイバFが直線状の姿勢に復帰するのは、保護部25bにおいてであるから、この後退の過程において、光ファイバFの前端面57(図11参照)が研磨部25aに触れることはない。
【0041】
以上のとおり、第1実施形態では、研磨部材25が、研磨作用を行う研磨部25aと、研磨作用を行わない保護部25bとを備え、駆動機構により、光ファイバFの先端が研磨部材の保護部25bに当接した状態で、光ファイバFが弾性的に変形させられ、その後、光ファイバFの先端の軸心が研磨部25aの表面と垂直でない状態で、光ファイバFの先端が研磨部25aに当接させられる。したがって、光ファイバFの前端面57と研磨部25aとの当接が抑制され、損傷のおそれを抑制できる。
【0042】
また本実施形態では、保護部25bは、研磨部25aとの境界において、研磨部25aよりも光ファイバFの中間部に近接しているので、光ファイバFの先端が保護部25bから研磨部25aに円滑に移動することができる。
【0043】
また本実施形態では、保護部25bの表面の全体が、研磨部25bの表面と平行であるため、研磨部材の製造コストを抑制することができる。なお、保護部25bは、その表面の少なくとも一部が研磨部25aの表面と平行であれば、その限りにおいて研磨部材の製造コストを抑制することができる。
【0044】
また本実施形態では、研磨部25aの表面が平板状であって、且つ光ファイバFの中間部の軸線と直交しているため、研磨部材25の製造コストを抑制することができる。
【0045】
また本実施形態では、研磨部材の自転軸asの内周側に研磨部25aが配置され、外周側に保護部25bが配置されているので、接線方向の摩擦力f2と公転軸arに向かう復帰力f3との合力f4によって、光ファイバFを適切な研磨位置に導くことができる。
【0046】
さらに、本実施形態では、研磨部25aの研磨作用点の軌道が、光ファイバFの中間部の軸線と同軸の公転軸arを持つ公転成分Rと、中間部の軸線からオフセットした自転軸asを持つ自転成分Sとを含むので、光ファイバFの先端の位置が公転軸arの近傍であっても、自転成分Sによって、光ファイバFの先端に対する研磨部25aの移動速度を大きくすることができ、加工を高速化できる。また、研磨部25aの摩耗を抑制して研磨部材25の使用寿命を長くすることができる。
【0047】
また、本実施形態における研磨部材25は、研磨作用を行う研磨部25aと、研磨作用を行わない保護部25bと、を備え、これら研磨部25a及び保護部25bが、互いに同軸かつ径方向に互いに異なる位置にそれぞれ形成されているので、本発明の実施に好適な研磨部材を提供することができる。このような研磨部材25は、装置の他の部分から独立して製造販売することも可能である。
【0048】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態について説明する。図9に示される第2実施形態は、研磨部材の形状及び構造についての変形例である。図9において、研磨部材125は、基材126、その表面に形成された研磨層127および保護枠128とから構成されている。基材126、研磨層127および保護枠128の材料は、それぞれ上記第1実施形態における基材26、研磨層27および保護層28と同様である。保護枠128は、概ね環状であり、基材126の表面に形成または接着されている。保護枠128に囲まれた内側に、研磨層127が形成されている。研磨層127の表面は研磨部125aである。
【0049】
保護枠128の前端面には、内側ほど低くなる誘導斜面125bが形成されている。誘導斜面125bは、固定ホルダ7に保持された状態の光ファイバFの中間部から先端部に向かう方向において、研磨部125aに近づくように傾斜している。この誘導斜面125bは、本発明における保護部を構成する。第2実施形態の残余の構成は上記第1実施形態と同様であるため、同一符号を付してその詳細の説明を省略する。
【0050】
以上の構成において、いま、研磨台10が自転及び回転している状態で、ユーザが光ファイバFを上記第1実施形態と同様に研磨台10に向けて前進させると、まず、光ファイバFは、図9に実線で示されるように、保護部である誘導斜面125bに前端面で当接する。ここで、光ファイバFは、上述の第1実施形態につき図8に従って説明したのと同様に、光ファイバFの先端部と誘導斜面125bとの摩擦力により、研磨部材25の接線方向にたわませられ弾性的に変形(湾曲)させられる。この当接から湾曲の過程において、光ファイバFの前端面57(図11参照)が研磨部125aに触れることはない。そして光ファイバFの先端は、誘導斜面125bとの摩擦力の作用、及び誘導斜面125bの傾斜による誘導により、研磨部125a内の研磨位置へと移動し、研磨される。
【0051】
以上のとおり、第2実施形態では、保護部の表面である誘導斜面125bが光ファイバFの中間部から先端部に向かう方向において研磨部125に近づくように傾斜している。したがって、上記第1実施形態による効果に加え、光ファイバFの先端を誘導斜面125bから研磨部125aへと円滑に誘導することができる。
【0052】
なお、この第2実施形態では保護部の前面の全体を誘導斜面としたが、誘導斜面は保護部の少なくとも一部に形成されていれば、その限りにおいて所期の効果を得ることができる。
【0053】
<第3実施形態>
次に、本発明の第3実施形態について説明する。図10に示される第3実施形態は、保護枠を磁性材によって構成すると共にこれを磁気によって保持具に固定可能とし、且つ、保護枠と基材とを位置決めする位置決め枠を研磨台に設けたものである。
【0054】
図10において、研磨台210は、その前端面の周縁部に円筒状の位置決め枠210aを有し、また、前端面に永久磁石210bを有するが、これらの点を除いて上記第1実施形態における研磨台10と同様である。研磨部材225は、基材226、研磨層227及び保護枠228から構成されている。保護枠228は、基材226および研磨層227とは別体に構成されている。基材226および研磨層227の材料は、それぞれ上記第1実施形態における基材26および研磨層27と同様であるが、研磨層227は、基材226の前面の全体に形成されている。保護枠228は、概ね環状であり、その前端面の内周部に、内側ほど低くなる誘導斜面225bが形成されている。この誘導斜面225bは、本発明における保護部を構成する。保護枠228は、鋼材などの磁性材からなる。誘導斜面225bに適度の摩擦係数を付与しつつこれを保護するため、保護枠228の表面の全体、あるいは少なくとも誘導斜面225bを、樹脂層でコーティングするのが好適である。そのような樹脂層の材料としては、PTFEなどのフッ素樹脂が特に好適である。
【0055】
研磨台210の前端面の周縁の近傍には、複数個の永久磁石210bが等角度間隔に、かつ保護枠228に対向する位置に配置されており、これによって、保護枠228が磁力によって研磨台210に吸着可能となっている。永久磁石210bは環状であってもよい。基材226及び保護枠228の外径は、位置決め枠210aの内径とほぼ等しくされている。図10に示されるように、研磨層227が形成された基材226を挟んで、保護枠228を研磨台210に吸着させることで、基材226と保護枠228とを研磨台210に仮止めすることができる。この状態において、保護枠228の内端部に、基材226における露出した研磨部225aが区画形成される。
【0056】
以上の構成によれば、上記第1実施形態および第2実施形態と同様の効果に加え、研磨部材225の着脱及び交換を容易にすることができる。なお、保護枠を永久磁石としてもよく、この場合には研磨台に永久磁石を設ける必要がなくなる。
【0057】
本発明の実施態様は上述の各態様のみに限らず、本発明は、特許請求の範囲によって規定される本発明の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例を含む。したがって本発明は、限定的に解釈されるべきではなく、本発明の思想の範囲内に帰属する他の任意の技術にも適用することが可能である。
【0058】
例えば、研磨板と光ファイバとは研磨作用の際に相対的な移動(回転方向および軸方向)があれば足り、上記各実施形態とは逆に、回転方向および軸方向の少なくともいずれかについて、研磨板を固定とする一方で光ファイバを可動としてもよく、また研磨板と光ファイバの両者が移動してもよい。
【0059】
また本実施形態では、研磨部材の自転軸asの内周側に研磨部を配置し、外周側に保護部を配置したが、研磨部と保護部の配置は内外逆でもよい。また、研磨部材を研磨台に固定する方法および位置決めする方法についても、他の任意の形式を選択することができる。例えば、図7・図9・図10における遊星歯車軸21を研磨台10,110,210の前端面から前方に突出させると共に、基材および研磨層に遊星歯車軸21に対応する位置決め孔を設けて、遊星歯車軸21と位置決め孔との係合により基材の位置決めを容易にすることができる。
【0060】
また、本発明における課題を解決するための手段は、可能な限り組み合わせて使用することができる。例えば、第3実施形態のような磁性材からなる保護枠の前面の全体が、研磨部225aの表面と平行であってもよい。
【符号の説明】
【0061】
1 加工装置
3 駆動部
10,210 研磨台
25,125,225 研磨部材
25a,125a,225a 研磨部
25b,125b,225b 保護部
57 前端面
F 光ファイバ
ar 公転軸
as,as1,as2 自転軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単心光ファイバの先端を研磨する研磨部材と、前記単心光ファイバの中間部を保持する保持部材と前記研磨部材とを相対的に移動させる駆動機構と、を備え、前記単心光ファイバの先端のクラッド外周を円錐面状に加工する光ファイバ先端加工装置であって、
前記研磨部材は、研磨作用を行う研磨部と、研磨作用を行わない保護部とを備え、
前記駆動機構により、前記単心光ファイバの先端が前記研磨部材の前記保護部に当接した状態で、前記単心光ファイバが弾性的に変形させられ、その後、前記単心光ファイバの先端の軸心が前記研磨部の表面と垂直でない状態で、前記単心光ファイバの先端が前記研磨部に当接させられることを特徴とする光ファイバ先端加工装置。
【請求項2】
前記保護部は、前記研磨部との境界において、前記研磨部よりも前記単心光ファイバの中間部に近接していることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ先端加工装置。
【請求項3】
前記保護部と前記研磨部との段差が50μm以下であることを特徴とする請求項2に記載の光ファイバ先端加工装置。
【請求項4】
前記保護部の表面の少なくとも一部は、前記研磨部の表面と平行であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の光ファイバ先端加工装置。
【請求項5】
前記保護部の表面の全体が、前記研磨部の表面と平行であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の光ファイバ先端加工装置。
【請求項6】
前記保護部の表面の少なくとも一部は、前記単心光ファイバの中間部から先端部に向かう方向において前記研磨部に近づくように傾斜していることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の光ファイバ先端加工装置。
【請求項7】
前記研磨部の表面が平板状であって、且つ前記単心光ファイバの中間部の軸線と直交していることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の光ファイバ先端加工装置。
【請求項8】
前記研磨部材は、その自転軸の内周側に前記研磨部が配置され、外周側に前記保護部が配置されていることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の光ファイバ先端加工装置。
【請求項9】
前記駆動機構は前記研磨部材を所定の軌道で移動させ、
当該所定の軌道は、前記単心光ファイバの保持部分である中間部の軸線と同軸の公転軸を持つ公転成分と、前記中間部の軸線からオフセットした自転軸を持つ自転成分とを含むことを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載の光ファイバ先端加工装置。
【請求項10】
単心光ファイバの先端を研磨する研磨部材と、前記単心光ファイバの中間部を保持する保持部材と前記研磨部材とを相対的に移動させる駆動機構と、を用いて、前記単心光ファイバの先端のクラッド外周を円錐面状に加工する光ファイバ先端加工方法であって、
前記研磨部材は、研磨作用を行う研磨部と、研磨作用を行わない保護部とを備え、
前記駆動機構により、前記単心光ファイバの先端が前記研磨部材の前記保護部に当接した状態で、前記単心光ファイバを弾性的に変形させ、その後、前記単心光ファイバの先端の軸心が前記研磨部の表面と垂直でない状態で、前記単心光ファイバの先端を前記研磨部に当接させることを特徴とする光ファイバ先端加工方法。
【請求項11】
研磨作用を行う研磨部と、研磨作用を行わない保護部と、を備えた研磨部材であって、
前記研磨部及び前記保護部が、互いに同軸かつ径方向に互いに異なる位置にそれぞれ形成されていることを特徴とする光ファイバ先端加工用研磨部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−173186(P2011−173186A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−37441(P2010−37441)
【出願日】平成22年2月23日(2010.2.23)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】