説明

光ファイバ及びその製造方法

【課題】モード干渉を抑制することができる光ファイバを提供する。
【解決手段】光ファイバ10は、コア11と、コア11を覆うように設けられコア11よりも屈折率が低い第1クラッド12と、第1クラッド12を覆うように設けられ第1クラッド12よりも屈折率が低い第2クラッド13と、を備える。第1クラッド12には、内周側から外周側に向かって濃度が高くなるように光減衰ドーパントがドープされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コア、第1クラッド、及び第2クラッドを備えた光ファイバ、並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コア及びクラッドの2層構造を有する光ファイバの他、クラッドを複数層有し、曲げ損失を低減させた光ファイバも実用化されている。
【0003】
特許文献1には、コバルト酸化物が溶液ドープされた石英ガラスの高吸収型外部クラッドガラスと、 非吸収型内部クラッドガラスと、非吸収型コアガラスとを備えたシングルモード光ファイバが開示されている。
【特許文献1】特表2002−528757号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、クラッド層を複数層有する光ファイバを一般の通信用のシングルモード光ファイバに接続したときにコアの軸ずれが生じると、図6に示すように、主としてコア11’に基本モードの信号光が伝搬すると共にコア11’の外周側のクラッド12’に高次モードの信号光が発生して伝搬し、そして、図7に示すように、例えば温度変化があると、基本モードと高次モードとの位相差が変化してモード干渉を生じ、出射端において基本モードの信号光の光強度変動が生じるという問題がある。なお、このモード干渉の問題は、ファイバ長や信号光の波長にも依存しても生じる。
【0005】
本発明は、モード干渉を抑制することができる光ファイバ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の光ファイバは、コアと、該コアを覆うように設けられ該コアよりも屈折率が低い第1クラッドと、該第1クラッドを覆うように設けられ該第1クラッドよりも屈折率が低い第2クラッドと、を備えた光ファイバであって、
上記第1クラッドには、内周側から外周側に向かって濃度が高くなるように光減衰ドーパントがドープされている。
【0007】
本発明の光ファイバの製造方法は、本発明の光ファイバを、コア形成部と、該コア形成部を覆うように設けられた第1クラッド形成部と、該第1クラッドを覆うように設けられた第2クラッド形成部と、を備えたプリフォームを線引きすることにより製造する方法であって、
第1クラッド形成部を形成した後、該第1クラッド形成部の外周から光減衰ドーパントを導入する工程を有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、第1クラッドに光減衰ドーパントがドープされており、しかも、その光減衰ドーパントが第1クラッドの内周側から外周側に向かって濃度が高くなるようにドープされているので、主として基本モードの信号光が伝搬するコアに近い側の濃度は相対的に低いため、基本モードの信号光の減衰を低く抑えることができ、一方、主として高次モードの信号光が伝搬する第1クラッドにおける第2クラッドとの界面側の濃度は相対的に高いため、その界面の反射前後において高次モードの信号光を効果的に減衰させることができ、従って、これらによって基本モードと高次モードとのモード干渉を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1は、本実施形態に係る光ファイバ10を示す。この光ファイバ10は、通信用であって、例えば、光ファイバケーブルから分岐したシングルモード光ファイバに接続され、特に曲げ変形が加わる部分に設けられるものである。
【0010】
本実施形態に係る光ファイバ10は、ファイバ中心から順に、コア11、第1クラッド12、第2クラッド13、及びサポート層14が同心円状に一体に設けられた構造を有する。
【0011】
コア11は、例えば、高屈折率化ドーパントがドープされた石英で形成されており、外径が8〜10.2μm(好ましくは8.2〜10μm)、屈折率が1.460〜1.462である。なお、本出願において、屈折率とは、常温、標準空気に対する屈折率をいう。
【0012】
高屈折率化ドーパントとしては、例えば、典型的にはゲルマニウム(Ge)が挙げられ、その他に、リン(P)等が挙げられる。高屈折率化ドーパントは、単一種がドープされていてもよく、また、複数種がドープされていてもよい。高屈折率化ドーパントの濃度は2.9〜4.0重量%であることが好ましい。
【0013】
第1クラッド12は、例えば、光減衰ドーパントがドープされた石英で形成されており、外径が30〜45μm(好ましくは30〜40μm)、屈折率が1.450〜1.454である。第1クラッド12の外径のコア11の外径に対する比は2.9〜5.5であることが好ましい。
【0014】
光減衰ドーパントとしては、例えば、水酸基(OH)、水素(H)等が挙げられる。これらのうち光の吸収の制御の容易さの観点からOHが好ましい。光減衰ドーパントは、単一種がドープされていてもよく、また、複数種がドープされていてもよい。
【0015】
光減衰ドーパントは、第1クラッド12の内周側から外周側に向かって連続的に濃度が変調して高くなるようにドープされている。なお、光減衰ドーパントの第1クラッド12での平均濃度は100〜10000重量ppmであることが好ましい。
【0016】
第2クラッド13は、例えば、低屈折率化ドーパントがドープされた石英で形成されており、外径が44〜75μm、屈折率が1.430〜1.444である。
【0017】
低屈折率化ドーパントとしては、例えば、ホウ素(B)、フッ素(F)等が挙げられる。低屈折率化ドーパントは、単一種がドープされていてもよく、また、複数種がドープされていてもよい。低屈折率化ドーパントの濃度は2.0〜25重量%であることが好ましい。
【0018】
サポート層14は、例えば、純粋石英で形成されており、外径が123〜127μm(典型的には125μm)、屈折率が1.450〜1.454である。
【0019】
なお、以上の構成の光ファイバ10は、図示しない樹脂製の被覆層で被覆されて光ファイバ心線とされて用いられる。
【0020】
図2は、本実施形態に係る光ファイバ10の屈折率分布を示す。
【0021】
本実施形態に係る光ファイバ10では、第1クラッド12及びサポート層14の屈折率を基準とすると、コア11が突出した高屈折率部分となっており、一方、第2クラッド13が大きく没入した低屈折率部分となったトレンチ型構造を有する。これにより、この光ファイバ10では、曲率半径の小さな曲げ変形が加えられても、第2クラッド13の外部に光が漏れるのが効果的に抑制されることとなる。
【0022】
そして、本実施形態に係る光ファイバ10によれば、他のシングルモード光ファイバと接続したときにコア11の軸ずれが生じ、図3に示すように、主としてコア11に基本モードの信号光が伝搬すると共に第1クラッド12に高次モードの信号光が発生して伝搬しても、第1クラッド12に光減衰ドーパントがドープされており、しかも、その光減衰ドーパントが第1クラッド12の内周側から外周側に向かって濃度が高くなるようにドープされているので、図4(a)及び(b)に示すように、主として基本モードの信号光が伝搬するコア11に近い側の濃度は相対的に低いため、基本モードの信号光の減衰を低く抑えることができ、一方、主として高次モードの信号光が伝搬する第1クラッド12における第2クラッド13との界面側の濃度は相対的に高いため、その界面の反射前後において高次モードの信号光を効果的に減衰させることができ、従って、これらによって基本モードと高次モードとのモード干渉を抑制することができる。
【0023】
また、第1クラッド12にドープする光減衰ドーパントが水酸基(OH)のように吸収により減衰させる光の波長帯が狭ければ、例えば、波長1300nm帯の信号光については効果的に吸収して減衰させることができ、一方、心線対照を行う際に第1クラッド12に伝搬させる波長1650nm帯及び650nm帯の心線識別光の吸収による減衰は小さく、心線対照を行うに際して支障がない。なお、信号光の損失と心線識別光の損失との差は10dB以上であることが好ましい。
【0024】
次に、本実施形態に係る光ファイバ10の製造方法について説明する。
【0025】
本実施形態に係る光ファイバ10は、コア形成部21、そのコア形成部21を覆うように設けられた第1クラッド形成部22と、その第1クラッド形成部22を覆うように設けられた第2クラッド形成部23と、第2クラッド形成部23を覆うように設けられたサポート層形成部24(第3クラッド形成部)とを備えたプリフォーム20を線引きすることにより製造することができる。
【0026】
プリフォーム20は、CVD法、VAD法、OVD法により作製することができる。そして、上記光ファイバ10を得るには、このプリフォーム20の作製工程において、第1クラッド形成部22を形成した後、第1クラッド形成部22の外周から光減衰ドーパントを導入する工程を含めればよい。このように第1クラッド形成部22の外周から光減衰ドーパントを導入すれば、光減衰ドーパントは、第1クラッド形成部22の外周側では濃く、また、内周側では薄くドープされることとなる。具体的には、例えば、光減衰ドーパントとして水酸基(OH)をドープする場合、第1クラッド形成部22を形成した後、第1クラッド形成部22の外周を火炎酸化させる方法が挙げられる。
【0027】
また、図5に示すように、プリフォーム20はロッドインチューブ法により作製することもできる。
【0028】
具体的には、図5(a)に示すように、MCVD法により石英ガラス管からなるサポート層形成部24に第2クラッド形成部23を内付けし、それに、図5(b)に示すように、CVD法やVAD法によってコア形成部21及び第1クラッド形成部22の積層体を作製すると共に第1クラッド形成部22の外周から光減衰ドーパントを導入したものを挿入し、そして、図5(c)に示すように、それらをコラプスすればよい。
【0029】
作製したプリフォーム20を線引きする際の炉内温度は例えば1800〜2200℃とすることが好ましく、線引き速度は例えば100〜1000m/分とすることが好ましい。
【0030】
なお、本実施形態では、コア11に高屈折率化ドーパント、第1クラッド12に光減衰ドーパント、及び第2クラッド13に低屈折率化ドーパントをドープし、サポート層14を純粋石英で形成した構成としたが、特にこれに限定されるものではなく、コア11よりも第1クラッド12の方が屈折率が低く、第1クラッド12よりも第2クラッド13の方が屈折率が低い構成であれば、その他の構成であってもよい。また、各部には必要に応じてその他のドーパントがドープされていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、コア、第1クラッド、及び第2クラッドを備えた光ファイバについて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本実施形態に係る光ファイバの構造を示す斜視図である。
【図2】本実施形態に係る光ファイバの屈折率分布を示す図である。
【図3】本実施形態に係る光ファイバの信号光の伝搬を示す説明図である。
【図4】(a)基本モード及び(b)高次モードの信号光の光強度分布を示す図である。
【図5】(a)〜(c)はプリフォームの作製方法を示す説明図である。
【図6】従来の光ファイバの信号光の伝搬を示す説明図である。
【図7】基本モードの信号光の光強度本実施形態に係る光ファイバの信号光の伝搬を示す説明図である。
【符号の説明】
【0033】
10 光ファイバ
11 コア
12 第1クラッド
13 第2クラッド
20 プリフォーム
21 コア形成部
22 第1クラッド形成部
23 第2クラッド形成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアと、該コアを覆うように設けられ該コアよりも屈折率が低い第1クラッドと、該第1クラッドを覆うように設けられ該第1クラッドよりも屈折率が低い第2クラッドと、を備えた光ファイバであって、
上記第1クラッドには、内周側から外周側に向かって濃度が高くなるように光減衰ドーパントがドープされている光ファイバ。
【請求項2】
請求項1に記載された光ファイバにおいて、
上記光減衰ドーパントがOHである光ファイバ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された光ファイバにおいて、
上記第1クラッドの外径の上記コアの外径に対する比が2.9〜5.5である光ファイバ。
【請求項4】
請求項1に記載された光ファイバを、コア形成部と、該コア形成部を覆うように設けられた第1クラッド形成部と、該第1クラッドを覆うように設けられた第2クラッド形成部と、を備えたプリフォームを線引きすることにより製造する方法であって、
第1クラッド形成部を形成した後、該第1クラッド形成部の外周から光減衰ドーパントを導入する工程を有する光ファイバの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−102276(P2010−102276A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−281471(P2008−281471)
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【出願人】(000003263)三菱電線工業株式会社 (734)
【Fターム(参考)】