説明

光ファイバ及びその製造方法

【課題】 コア内に安定して光を閉じ込めておくことができる、曲げ損失が小さい光ファイバおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る光ファイバ10は、ガラス管3と、該ガラス管3内に配置された、該ガラス管3よりも高い屈折率を有する、横断面が矩形状のガラスコア1とを有し、前記ガラスコア1は、前記ガラス管3の内周面に少なくとも2箇所の接触部で接し、該接触部以外のガラスコア1とガラス管3の間は長手方向に延びる空隙部4になっていることを特徴とするものである。前記光ファイバ10は、空隙部4がクラッドとして機能し、光信号はガラスコア1内を伝搬する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光を伝送させてより高寸法精度なライン形状のパターニング、物質表面の表面改質、物質のアニーリング、物質のスクライブ加工などに好適な矩形状のフラットトッププロファイルを実現することができる横断面が矩形状のコアを有する光ファイバおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光ファイバは、屈折率の高い円形断面のコアと、その外周を覆う屈折率の低いクラッドからなるものが一般的に用いられてきた。この光ファイバは全体として円形断面構造を有し、コア径、コアとクラッドとの屈折率分布、伝搬モードなどによって、シングルモードファイバ、マルチモードファイバ、ステップインデックス型ファイバ、集束型ファイバなどとして用いられ、光通信用はもちろんの事、光ファイバセンサ、光計測、光情報機器,光加工、光医療などの分野で実用化されて来た。
【0003】
一方、レーザ光を光ファイバ内に伝送させてライン形状のパターニング、物質表面の表面改質、物質のアニーリング、物質のスクライブ加工などに好適な矩形形状のフラットトッププロファイルを実現することができる光ファイバとして横断面が矩形状のコアを有する、いわゆる矩形コアファイバが注目されている(特許文献1,2参照)。そして、国内の電線メーカ(住友電工、フジクラ電線、古河電工、三菱電線工業など)から製品が発表されている。矩形コアファイバの代表的な構造を図11および図12に示す。
【0004】
矩形コアファイバは全体として円形断面構造を有し、屈折率の高い、矩形断面を有するコア20が石英ガラスからなり、その外周を覆う屈折率の低いクラッド21が、F(フッ素)を添加したSiOガラスからなる。図11に示すコア20は横断面が正方形状をしており、図12に示すコア20は横断面が長方形状をしている。
【0005】
これらの矩形コアファイバの製造方法はまだ公表されていないが、従来技術を適用することによって図13に示す手順で製造されていると考えられる。まず石英ガラスロッドを切削加工して矩形断面の石英ガラスブロック22を作成し、ついでその石英ガラスブロック22の外周にFを添加したSiOガラス層23を形成してファイバプリフォーム24を得る。ガラス層23の形成は、VAD(Vapor Phase Axial Deposition)法、外付け法などを用いることができる。そのあと、上記ファイバプリフォーム24を先端から高温電気炉25内に矢印26で示すように速度Pで挿入し、上記電気炉25内で溶融した上記ファイバプリフォーム24の先端部を矢印27で示すように速度Vで延伸してドラム29に巻きつけ、ドラム29を回転することによって上記矩形コアファイバ28を得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009-168914号公報
【特許文献2】特開2009-169110号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述した矩形コアファイバの構造およびその製造方法には次のような課題が存在する。
(1)コアとクラッドとの比屈折率差Δ《Δ=[(コアの屈折率―クラッドの屈折率)/コアの屈折率]×100%》は最大でも0.5%程度にしか出来ない。そのために矩形コア内への光の閉じ込めが弱い。その結果、ファイバの使用中にファイバが曲がったり、揺れたりするとコア内の光の分布が変化したり、クラッドへの光の漏れ込みが生じ易い。また、矩形状のレーザ光を正確に加工物に照射して加工することが難しい。
(2)レーザ光のファイバ内への結合効率が低く、レーザ光を有効に加工に利用することが難しい。
(3)ファイバが曲げられたときにコア内への光閉じ込め状態が変動しやすいので、曲げ損失が生じやすい。
本発明が解決しようとする課題は、コア内に安定して光を閉じ込めておくことができる、曲げ損失が小さい光ファイバおよびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、ガラス管と、
前記ガラス管内に配置された、横断面が矩形状のガラスコアと
を有し、
前記ガラスコアが、前記ガラス管の内周面に少なくとも2箇所の接触部で接し、該接触部以外のガラスコアとガラス管の間は長手方向に延びる空隙部であることを特徴とする光ファイバである。
この場合、前記ガラス管の横断面の外形は略円形状或いは略矩形状にするとよい。また、前記ガラスコアは前記ガラス管の屈折率よりも高い値を有することが好ましい。さらに、前記ガラス管は高珪酸ガラス(最低でもSiOを96%含むガラス)から形成することが好ましく、矩形状のガラスコアにはSiOガラスを用いることが好ましい。
第1の発明に係る光ファイバでは空隙部がクラッドとして機能し、光信号はガラスコア内を伝搬する。
【0009】
第2の発明は、第1の発明において前記ガラスコアを前記ガラス管の内周面と4箇所の接触部で接するようにしたものである。
【0010】
第3の発明は、第1又は第2の発明において、ガラス管の内周面にF(フッ素)が添加されたSiO膜を形成し、前記ガラスコアは上記F(フッ素)が添加されたSiO膜と少なくとも2箇所の接触部で接するようにしたものである。
【0011】
第4の発明は、第1又は第2の発明において前記ガラスコアの外周面にFが添加されたSiO膜を形成し、前記ガラスコアが、前記Fが添加されたSiO膜を介して前記ガラス管の内周面と少なくとも2箇所の接触部で接するようにしたものである。
【0012】
第1〜第4の発明に係る光ファイバにおいては、前記ガラス管の横断面が矩形状或いは円形状の貫通孔を有すると良い。また、前記ガラス管の横断面の外形を矩形状にすると良い。
【0013】
第5の発明は、一端側から他端側まで延びる貫通孔を有するガラス管材の前記貫通孔部に、前記ガラス管材と少なくとも2箇所で接するように横断面が矩形状のガラスコア材を挿入してファイバプリフォームを得る工程、該ファイバプリフォームの先端を加熱して溶融し、該プリフォームの先端部を所定速度で延伸しながら光ファイバに線引きする工程から成ることを特徴とする光ファイバの製造方法である。
【0014】
第6の発明は、一端側から他端側まで延びる貫通孔を有するガラス管材の内周面にFが添加されたSiO膜を形成する工程、
前記ガラス管材内に、前記Fが添加されたSiO膜と少なくとも2箇所で接するように横断面が矩形状のガラスコア材を挿入してファイバプリフォームを得る工程、前記ファイバプリフォームの先端を加熱して溶融し、該プリフォームの先端部を所定速度で延伸しながら光ファイバに線引きする工程から成ることを特徴とする光ファイバの製造方法である。
【0015】
第7の発明は、横断面が矩形状のガラスコア材の外周にFを添加したSiO膜を形成する工程、
一端側から他端側まで延びる貫通孔を有するガラス管材内に、該ガラス管材の内周面と少なくとも2箇所で接するように、前記SiO膜が外周に形成されたガラスコア材を挿入してファイバプリフォームを得る工程、
前記ファイバプリフォームの先端を加熱して溶融し、該プリフォームの先端部を所定速度で延伸しながら光ファイバに線引きする工程から成ることを特徴とする光ファイバの製造方法である。
【0016】
第8の発明は、一端側から他端側に向かって延びる貫通孔を有する細管と、
前記細管の貫通孔に配置された、横断面が多角形状のコアとを有し、
前記コアは、前記細管の内周面に少なくとも2箇所の接触部で接触し、該接触部以外の前記コアと前記細管の間は長手方向に延びる空隙部であることを特徴とする光ファイバである。前記細管や前記コアは、ガラスや樹脂を用いて形成することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明は下記に示すような効果を有している。
まず第1発明は、ガラス管の内周面に少なくとも2箇所の接触部で接するように当該ガラス管の内部に横断面が矩形状のガラスコアを配置し、前記接触部以外は長手方向に延びる空隙部になるようにした。従って、光信号が伝搬する矩形状のガラスコアの大部分の外周が空隙部、つまり空気層になり、例えば、SiOガラスからガラスコアを形成した場合は、該ガラスコアと空隙部との比屈折率差が約30%になる。そのため、光信号は、多くが矩形状のガラスコアに閉じ込められて、かつガラスコアの断面内の光分布がほぼ均一な矩形パターンを有するように伝搬し、加工物体面に照射される。従って、その加工物体面を高寸法精度の矩形状に加工することができる。なお、ガラス管の材料としてB(ホウ素)を添加したSiOガラスか、SiOガラスを用いると、ガラス管と矩形状のガラスコアとの屈折率差は小さい値かほとんど無いが、ガラス管とガラスコアとの接触部はほぼ線接触に近いため、空隙部に比して接触面積は無視できるほど極めて小さくなる。したがって、光信号は大部分が矩形状のガラスコアに閉じ込められて、かつほぼ均一な矩形状の光分布でガラスコア内を伝搬する。
【0018】
ここで、第2の発明の光ファイバのように、理想的にはガラス管の内周面と4箇所の接触部で接するように矩形状のガラスコアをガラス管内に配置し、該4箇所の接触部以外は空隙になっている構成がもっとも好ましい。ただし、2箇所の接触部で接する構成でも矩形状のガラスコアをガラス管の内周面に保持することができる。
【0019】
第3の発明のように、ガラス管の内周面にFを添加したSiO膜を形成すると、接触部での屈折率差は第1の発明よりももう少し大きくとることができる。従って、光信号をさらに矩形状のガラスコアに閉じ込めて、かつほぼ均一な矩形状光分布となってガラスコア内を伝搬させることができる。
【0020】
第4の発明のように、矩形状のガラスコアの外周にFが添加されたSiO膜を形成すると、光信号を矩形状のガラスコア内により強く閉じ込めて伝送させることができる。また、矩形状のガラスコアをFが添加されたSiO膜で覆ったことにより、長期的に空隙部から空気中の水分が矩形状のガラスコア内に混入していくのを抑えることができる。さらに、空気中の不純物が矩形状のガラスコアの表面に付着して光損失を増加させるのを抑えることができる。
【0021】
第1〜4の発明において、ガラス管が、横断面が円形状の貫通孔を有すると、ガラス管の内面に少なくとも2箇所の接触部で接するように矩形状のガラスコアを容易に保持することができると共に、該接触部以外は大きな面積の空隙部を形成することができる。従って、光信号をガラスコアに閉じ込めて、かつほぼ均一な矩形状光分布を有して伝搬させ、加工物体面を高寸法精度で加工することができる。
【0022】
また、ガラス管が横断面が矩形状の貫通孔を有する構成にした場合も、ガラス管の内面に少なくとも2箇所か4箇所の接触部で接するように矩形状のガラスコアを容易に保持することができる。そして、接触部以外は大きな面積の空隙部とすることができるので、光信号を矩形状のガラスコア内に閉じこめて伝搬させることができる。
【0023】
上記した光ファイバを製造する際は、貫通孔を有するガラス管材及び横断面が矩形状のガラスコア材を用いるが、例えば横断面の外形が略円形あるいは略矩形からなるガラス管材は従来のガラス加工技術を用いて容易に実現することができる。また、矩形状のガラスコア材も従来のガラス加工技術を用いて容易に実現することができる。ついで、上記ガラス管材の内面に少なくとも2箇所か、4箇所で接するように矩形状のガラスコア材を挿入してファイバプリフォームを得る工程では、上記ガラス管材の外周を加熱することで上記ガラス管材の内面に矩形状のガラスコア材を固定、保持させることができる。そして、前記ファイバプリフォームを高温電気炉内に所定速度で挿入しながら加熱、溶融させ、該プリフォームの先端部を所定速度で延伸しながら線引きする工程を経ることによって上記光ファイバを実現することができる。すなわち、簡易な工程と安価な方法で高性能な矩形コアファイバを得ることができる。
【0024】
さらに、上記光ファイバは、ガラス管材の内面に予めFを添加したSiO膜を形成する工程、該膜面に少なくとも2箇所で接するように横断面が矩形状のガラスコアを挿入してファイバプリフォームを得る工程、該ファイバプリフォームを高温電気炉内に所定速度で挿入しながら加熱、溶融して該プリフォームの先端部を所定速度で延伸しながら線引きする工程を経ることによって実現することができる。ここで、上記ガラス管材の内面に予めFを添加したSiO膜を形成する方法には、従来用いられている気相化学反応法を用いることができる。矩形状のガラスコア材の外周に予めFを添加したSiO膜を気相化学反応法を利用して形成しておくことにより、より低損失で長期的に信頼性の高い光ファイバを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1の実施例に係る光ファイバを示し、(a)は横断面図、同図(b)は外観図。
【図2】本発明の第2の実施例に係る光ファイバを示す横断面図。
【図3】本発明の第3の実施例に係る光ファイバを示す横断面図。
【図4】本発明の第4の実施例に係る光ファイバを示す横断面図。
【図5】本発明の第5の実施例に係る光ファイバを示す横断面図。
【図6】本発明の第6の実施例に係る光ファイバを示す横断面図。
【図7】本発明の第7の実施例に係る光ファイバを示す横断面図。
【図8】本発明の第8の実施例に係る光ファイバを示す横断面図。
【図9】本発明の第9の実施例に係る光ファイバを示す横断面図。
【図10】本発明の一実施例に係る光ファイバの製造方法を説明するための図。
【図11】従来の光ファイバ(矩形コアファイバ)の構造を示し、(a)は横断面図、同図(b)は外観図。
【図12】従来の別の矩形コアファイバの構造を示す図。
【図13】従来の矩形コアファイバの製造方法を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の具体的な実施例について説明する。
【実施例1】
【0027】
図1は本発明の第1の実施例に係る光ファイバ10を示し、同図(a)は横断面図、同図(b)は外観図である。この光ファイバ10は横断面が円形状の貫通孔を有するガラス管3と、前記貫通孔に配置された、横断面が矩形状のSiOガラスから成るガラスコア1から構成されている。ガラス管3は、たとえばホウ素(B)を添加した二酸化ケイ素ガラス(以下「高珪酸ガラス」という)或いは石英ガラスから形成されている。高珪酸ガラスは、最低でもSiOを96%含む、SiOガラスの屈折率よりもわずかに低い屈折率を有するガラスであり、高珪酸ガラス管は商品名バイコールガラス管として市販されている。ガラス管3の内面には気相化学反応法を用いてフッ素(F)が添加されたSiO膜2が形成されており、その膜2と4箇所の接触部5a,5b,5c,5dで接するように前記ガラス管3内にガラスコア1が形成されている。このような構成により、ガラス管3とガラスコア1との間にはガラス管3の一端側から他端側に延びる4個の空隙部4が形成される。上記構成の光ファイバでは、空隙部4がクラッドとして機能し、光信号はガラスコア1内を伝搬する。
【0028】
ガラスコア1は膜2と4箇所の接触部5a,5b,5c,5dで接しているがこの接触部は、後述するように、プリフォームを高温電気炉内に所定望速度で挿入しながら溶融してきたガラスを所定望速度で線引きしながらファイバを実現する際にガラスが溶融されて固定されている。このように、本実施例に係る光ファイバは矩形状のガラスコア1が4箇所の接触部以外は空隙部4によって覆われているので、ガラスコア1とその隣接する媒体との比屈折率差が極めて大きなマルチモードファイバである。
【0029】
本実施例に係る光ファイバ10は、当該光ファイバ10内にレーザ光を伝送させて加工物質に照射し、より高寸法精度なライン形状のパターニング、物質表面の表面改質、物質のアニーリング、物質のスクライブ加工などを行うために用いられる。従って、ガラスコア1の形状とそのサイズは、被加工物の加工サイズに依存して設定すると良く、具体的には、2μm角くらいから500μm角の範囲が好ましい。本実施例に係る光ファイバ10は通信用のファイバではないので、取り扱い可能範囲、線引き可能範囲、曲げやすさなどを考慮に入れると、当該光ファイバの直径は50μmから700μmの範囲が好ましい。特に、本実施例の光ファイバは、矩形状のガラスコア1が、膜2と接する4箇所以外は空隙、つまり空気層によって覆われるため、ガラスコア1と隣接する媒体との比屈折率差が極めて大きくなる。従って、光信号は矩形状のガラスコア1内をほぼ全反射に近い状態で伝搬し、当該ガラスコア1内の光パワ分布はほぼ矩形のフラットトップビームプロファイルを形成する。そのために光ファイバを小さな曲げ半径で曲げても光損失の増大が少なく、また矩形状のガラスコア1内の光分布も変動しにくい。さらに、大きな断面積の空隙があるために曲げによる機械強度も強い、という特徴があるため、より大きな直径の光ファイバを実現することができる。
【0030】
なお、この実施例に係る光ファイバ10は、実際に製造および使用される際には通信用のファイバのように外周面に高分子材料や金属材料などが被覆される。
また、例えばこのファイバ10を波長の短い紫外線領域のレーザ光を伝搬させて使用する場合には、矩形状のガラスコア1には、塩素処理を施してOH基の含有量を極めて少なくした材料(OH基の含有量は100ppb以下が好ましい。)を用いるのがよい。
ガラス管3の材料に例えばホウ素(B)が添加されたSiOガラスを用いた場合には、フッ素(F)が添加されたSiO膜2は無くてもよい。
【0031】
本実施例の光ファイバ10の以下の試作例について、波長350nmと632.8nmのレーザ光を用いて損失を測定した結果、42dB/kmと7dB/kmの値を得ることができた。またこのファイバを曲げ半径5mmまで曲げても光損失の増加はほとんど無かった。さらに、矩形状のガラスコア1内における光パワ分布の変動もきわめて小さいことがわかった。
(試作例)
・ガラスコア1のサイズ:50μm角
・ガラスコア1の成分中のOH基の含有量:約50ppb
・Fが添加されたSiO膜2の膜厚:約8μm
・光ファイバ全体の直径:150μm
【実施例2】
【0032】
図2は本発明の第2の実施例に係る光ファイバ10の横断面図を示す。この光ファイバが第1の実施例の構造と異なる点は、矩形状のガラスコア1の横断面が長方形をしていることである。このような構造の光ファイバは幅の広いパターニング、物質表面の表面改質、物質のアニーリング、物質のスクライブ加工などを行うのに有効である。したがって、第2の実施例では、ガラスコア1の長方形のサイズは、幅が5μm程度から500μm程度、高さが2μm程度から300μm程度のものが好適である。
【実施例3】
【0033】
図3に本発明の第3の実施例に係る光ファイバ10の横断面を示す。この光ファイバが第1の実施例と異なる点は、ガラス管3の貫通孔の横断面が矩形状であることである。第3の実施例においても、ガラス管3の内周面Fを添加したSiO膜2が形成されており、その膜2に4箇所の接触部5a,5b,5c,5dで接するように矩形状のガラスコア1が保持されている。ガラス管3の貫通孔の横断面を矩形状に加工する簡単な方法として、ガラスロッドの内面を切削加工し、その後に洗浄し、温度1200℃の塩素雰囲気で熱処理を行える電気炉内で約8時間塩素雰囲気処理を施す方法があるが、ガラスロッドの内面を研磨加工する方法でもよい。あるいはガラスロッドの内面を切削加工して実現してもよい。
【実施例4】
【0034】
図4に本発明の第4の実施例に係る光ファイバ10の横断面を示す。この光ファイバ10が第1の実施例の構造と異なる点は、ガラス管3の内周面に代えてガラスコア1の外周面にFを添加したSiO膜2を形成したことである。第4の実施例に係る光ファイバにおいては、ガラスコア1はFを添加したSiO膜2を介してガラス管3の内周面に4箇所の接触部5a,5b,5c,5dで接するように配置されている。従って、ガラスコア1は、該接触部以外では空隙部4(空気層)と隣接し、光信号は矩形状のガラスコア1内を伝搬する。
【0035】
この光ファイバ10においても、光信号を矩形状のガラスコア1内により強く閉じ込めて伝送させることができる。また、ガラスコア1の外周面をFを添加したSiO膜2で被覆したため、長期的に空隙中の空気に含まれる水分が矩形状のガラスコア1内に拡散、混入していくのを抑えることができる。また空気中の不純物が矩形状のガラスコア1の表面に付着して光損失を増加させるのを抑えることができる。
なお、この実施例では、矩形状のガラスコア1の外周面に予めFを添加したSiO膜2が形成されているので、ガラス管3には石英ガラスを用いている。これは、石英ガラスを用いた方がより低損失な光ファイバを実現できるからである。
【実施例5】
【0036】
図5に本発明の第5の実施例に係る光ファイバ10の横断面を示す。この光ファイバ10が第1の実施例の構造と異なる点は、ガラス管3の横断面の外形が略矩形状であることである。そして、この光ファイバにおいてもガラス管3の内周面にFを添加したSiO膜2が形成されており、その膜2の内面の4箇所の接触部5a,5b,5c,5dで接するように矩形状のガラスコア1が該ガラス管3内に保持されている。
【0037】
ここで、横断面の外形が略矩形状のガラス管3は、横断面の外形が円形状の石英ガラス管材を用意し、このガラス管材の外周の4面を研削して実現した。そして、このガラス管材から得たファイバプリフォームを線引きしてファイバにすることにより、4つの角が丸まった構造の光ファイバにすることが出来る。
本発明の光ファイバを種々の加工に利用する場合は、ミクロンオーダの極めて高寸法精度と高精細なパターンの加工を必要とする超高精度加工装置に取り付けられる。そのため、狭い領域にしっかりと光ファイバを固定して位置変動の生じないようにしなければならず、しかも超小型な工具で光ファイバを固持しなければならない。本実施例のように光ファイバの横断面の外形が略矩形構造になっていると、径方向、軸方向にぶれ難く、しかも超小型な工具で光ファイバを固持することが容易であり、種々の加工に適している。
【実施例6】
【0038】
図6に本発明の第6の実施例に係る光ファイバ10の横断面図を示す。この光ファイバ10は、横断面が矩形状である貫通孔を有するガラス管3を用いた点、そして、ガラス管3の内面にFを添加したSiO膜2が形成されている点が第5の実施例の構造と異なる。この光ファイバにおいても、膜2と4箇所の接触部5a,5b,5c,5dで接するように矩形状のガラスコア1がガラス管3内に保持されている。
【実施例7】
【0039】
図7に本発明の第7の実施例に係る光ファイバ10の横断面図を示す。この光ファイバ10は、ガラス管3の材料としてB(ホウ素)を添加したSiOガラス管(商品名:バイコールガラス管)を用いた点が第6の実施例と異なる。それ以外の構成は第6の実施例と同一である。
【実施例8】
【0040】
図8に本発明の第8の実施例に係る光ファイバ10の横断面図を示す。この光ファイバ10は横断面の外形が略円形のガラス管3(Bを添加したSiOガラス管で、商品名:バイコールガラス管)を用いた実施例である。ガラス管3の内部には横断面がほぼ矩形の貫通孔が形成されている。ガラス管3内には、そのガラス管3の内面と4箇所の接触部5a,5b,5c,5dで接するように矩形状のガラスコア1が配置されている。この実施例の光ファイバは、ガラス管3の内周面、及びガラスコア1の外周面のいずれにもFを添加したSiO膜が形成されていない。
【実施例9】
【0041】
図9に本発明の第9の実施例に係る光ファイバ10の横断面図を示す。この光ファイバ10は、ガラス管3の貫通孔の横断面が長方形状であり、ガラスコア1の横断面が正方形状である点が第8の実施例と異なる。このような構成により、ガラスコア1は、ガラス管3の内周面と2箇所の接触部5a、5bで接するように該ガラス管3内に配置される。
【実施例10】
【0042】
図10は本発明の光ファイバの製造方法の実施例を示す。この製造方法は、大きく分けて4つの工程からなっている。まず、(a)は横断面が矩形状のガラスコア1を作成する工程である。材料となるガラスコア材1Aは、VAD(Vapor Phase Axial Deposition)法と塩素雰囲気下での1200℃の高温で脱OH基の処理を施して作成した直径が12mmの石英ガラス棒を、研削加工して約8mm角の形状に加工して得た。
【0043】
次に(b)に示すように、直径が12mm、肉厚が1.5mmの石英ガラス管材3A内に従来のMCVD(Modified Chemical Vapor Deposition)法を用いてFを添加したSiOガラス膜(波長0.63μmでの屈折率が1.445)を約50μm形成した。
【0044】
その後に(c)に示すように、(b)で作成した、Fを添加したSiOガラス膜を形成した石英ガラス管材3Aの内面の膜に4箇所で接するように、(a)で作成した矩形状のガラスコア材1Aを挿入した。そしてこのガラス管材3Aの外周を加熱して上記4箇所の接する部分が膜面に固定されるようにしてファイバプリフォーム6を実現した。
【0045】
そして最後に、このファイバプリフォーム6を最高温度が1980℃に加熱された高温電気炉7内の炉心管8内に10mm/minで挿入し、上記高温電気炉の炉心管8内で溶融したプリフォームの先端部を50m/minでファイバ状に線引きしながらドラム9に巻きつけて光ファイバ(矩形コアファイバ)10を実現することができた。
【0046】
なお、本発明は上記実施例に限定されない。光ファイバのガラスコア(矩形コア)のサイズ、光ファイバ全体の直径は上記実施例に限定されない。光ファイバの外周には、高分子材料や、金属材料から成る保護膜等が被覆されていてもよい。
また、上記説明では、空隙部4内には空気が存在するとしたが、実際に光ファイバを使用する際にはレーザ入射側から光ファイバ内(空隙部内)に不活性ガスを流してもよい。またファイバの両端面には薄い石英ガラス薄膜が貼り付けられていてもよい。
【0047】
上記実施例では、横断面の形状が正方形や長方形の矩形コアをガラス管内に該ガラス管と少なくとも2箇所の接触部で接するように配置したが、正方形や長方形以外の四角形(台形やひし形等)でも良く、四角形以外の多角形(三角形や五角形等)などの横断面形状のガラスコアをガラス管内に配置しても良い。要は、ガラス管の内周面の全体とガラスコアの外周面全体とガラス管の内周面全体が接するのではなく、ガラスコアが少なくとも2箇所で線接触した状態でガラス管内に固定・保持され、この結果、ガラス管の内周面とガラスコアの外周面との間に空隙部が形成されれば良い。
【0048】
また、本発明は、紫外線領域から近赤外領域のレーザ光を伝搬させて加工、アニーリング、表面改質に有用な光ファイバを提供することを主目的とすることから、上記実施例では、コアの材料としてSiOガラスを用いたが、それ以外の用途にも本発明の光ファイバは適用可能であり、その場合は、ガラスコアに限らず樹脂製コアにすることも可能である。さらに、空隙部を形成しつつコアを固定・保持できるのであれば、ガラス管に代えて樹脂製の細管を用いることも可能である。
【符号の説明】
【0049】
1…ガラスコア
1A…ガラスコア材
2…Fが添加されたSiO
3…ガラス管
3A…ガラス管材
4…空隙部
5a、5b、5c、5d…接触部
6…ファイバプリフォーム
7…電気炉
8…炉心管
9…ドラム
10…光ファイバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス管と、
前記ガラス管内に配置された、横断面が矩形状のガラスコアと
を有し、
前記ガラスコアは、前記ガラス管の内周面に少なくとも2箇所の接触部で接し、該接触部以外の前記ガラスコアと前記ガラス管の間は長手方向に延びる空隙部であることを特徴とする光ファイバ。
【請求項2】
請求項1に記載の光ファイバにおいて、
前記ガラスコアが、前記ガラス管の内周面と4箇所の接触部で接することを特徴とする光ファイバ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の光ファイバにおいて、
前記ガラス管の内周面には、Fが添加されたSiO膜が形成されており、前記ガラスコアは前記Fが添加されたSiO膜と少なくとも2箇所の接触部で接することを特徴とする光ファイバ。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の光ファイバにおいて、
前記ガラスコアの外周面にはフッ素が添加されたSiO膜が形成されており、前記ガラスコアは、前記Fが添加されたSiO膜を介して前記ガラス管の内周面と、少なくとも2箇所の接触部で接することを特徴とする光ファイバ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の光ファイバにおいて、前記ガラス管が横断面が円形状の貫通孔を有することを特徴とする光ファイバ。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の光ファイバにおいて、前記ガラス管が横断面が矩形状の貫通孔を有することを特徴とする光ファイバ。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の光ファイバにおいて、
前記ガラス管の横断面の外形は矩形状であることを特徴とする光ファイバ。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の光ファイバにおいて、
前記ガラス管は、SiOを最低でも96%含むガラスから形成され、矩形状のガラスコアはSiOガラスが用いられていることを特徴とする光ファイバ。
【請求項9】
一端側から他端側まで延びる貫通孔を有するガラス管材の前記貫通孔に、前記ガラス管材と少なくとも2箇所で接するように横断面が矩形状のガラスコア材を挿入してファイバプリフォームを得る工程、
前記ファイバプリフォームの先端を加熱して溶融し、該プリフォームの先端部を所定速度で延伸しながら光ファイバに線引きする工程
を有することを特徴とする光ファイバの製造方法。
【請求項10】
一端側から他端側まで延びる貫通孔を有するガラス管材の内周面にFが添加されたSiO膜を形成する工程、
前記ガラス管材内に、前記Fが添加されたSiO膜と少なくとも2箇所で接するように横断面が矩形状のガラスコア材を挿入してファイバプリフォームを得る工程、前記ファイバプリフォームの先端を加熱して溶融し、該プリフォームの先端部を所定速度で延伸しながら光ファイバに線引きする工程から成ることを特徴とする光ファイバの製造方法。
【請求項11】
横断面が矩形状のガラスコア材の外周にFが添加されたSiO膜を形成する工程、
一端側から他端側まで延びる貫通孔を有するガラス管材内に、該ガラス管材の内周面と少なくとも2箇所で接するように、前記Fが添加されたSiO膜が外周に形成されたガラスコア材を挿入してファイバプリフォームを得る工程、
前記ファイバプリフォームの先端を加熱して溶融し、該プリフォームの先端部を所定速度で延伸しながら光ファイバに線引きする工程から成ることを特徴とする光ファイバの製造方法。
【請求項12】
請求項9〜11のいずれかに記載の光ファイバの製造方法において、ガラス管材の貫通孔は横断面が円形状であることを特徴とする光ファイバの製造方法。
【請求項13】
請求項9〜11のいずれかに記載の光ファイバの製造方法において、ガラス管材の貫通孔は横断面が矩形状であることを特徴とする光ファイバの製造方法。
【請求項14】
請求項9〜13のいずれかに記載の光ファイバの製造方法において、
前記ガラス管材の横断面の外形が矩形状であることを特徴とする光ファイバの製造方法。
【請求項15】
請求項9〜14のいずれかに記載の光ファイバの製造方法において、
前記ガラス管材は、最低でもSiOを96%含むガラスから形成され、矩形状のガラスコアはSiOガラスが用いられていることを特徴とする光ファイバの製造方法。
【請求項16】
一端側から他端側に向かって延びる貫通孔を有する細管と、
前記細管内に配置された、横断面が多角形状のコアと
を有し、
前記コアは、前記細管の内周面に少なくとも2箇所の接触部で接し、該接触部以外の前記ガラスコアと前記細管の間は長手方向に延びる空隙部であることを特徴とする光ファイバ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−2959(P2012−2959A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−136613(P2010−136613)
【出願日】平成22年6月15日(2010.6.15)
【出願人】(392017004)湖北工業株式会社 (16)
【Fターム(参考)】