説明

光ファイバ心線および光ファイバテープ心線

【課題】着色層の接着力が改善された光ファイバ心線及びテープ心線を提供する。
【解決手段】光ファイバ被覆層樹脂の硬化の際の紫外線照射量及び雰囲気酸素を制御して、着色層樹脂の塗布の接着性に対し光ファイバ素線の表面状態の最適化を図る。最適化の評価は、ウィルヘルミ法にて算出した、純水に対する動的接触角(α−β)が29°以上になるようにすることで行なわれる。特に、テープ心線から光ファイバ線の単身分離の際に、着色層の剥離が防がれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバケーブルに収納される光ファイバ心線に関するものである。特に紫外線硬化性樹脂組成物の硬化物により被覆された光ファイバ素線に、着色剤を含む紫外線硬化性樹脂組成物を塗布して硬化させ光ファイバ心線とした際に、被覆層と着色層との良好な密着性を有する光ファイバ心線を提供する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ素線は、通常、ガラス光ファイバの外周に2層の被覆、即ち一次被覆層(プライマリ層)、二次被覆層(セカンダリ層)を有している。ケーブル内で用いられる場合、光ファイバ素線は、識別のためにその外周に着色層を付加して光ファイバ心線とし、さらに複数本の心線を透明な紫外線硬化樹脂で一括被覆することで光ファイバテープ心線として提供されることがある。このテープ心線は接続の際、テープ層を除去して複数本の独立した心線として用いる。しかしながら、テープ層と着色層との密着力が強すぎる、もしくは着色層とセカンダリ層との密着力が弱すぎる場合には、テープ心線から心線を取り出すためにテープ層を除去する際に同時に着色層も剥がれてしまい、光ファイバ着色心線として使用できなくなる。
【0003】
被覆材の密着力は、その下地となる紫外線硬化樹脂の表面状態に大きく依存し、表面状態は紫外線硬化時の条件、具体的には雰囲気ガスや紫外線照度,照射量に影響される。この表面状態を評価する技術として、「特許文献1」では紫外線硬化樹脂のシートを作製し、その表面に滴下した水滴の接触角より評価する方法を提供している。また「特許文献2」では、実際の光ファイバ素線を複数本並べ、その表面に滴下した水滴の接触角より評価する方法を提供している。
【0004】
【特許文献1】特開2004-219240号公報
【特許文献2】特開2004-233662号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
光ファイバ素線は、識別のための着色剤を含む被覆層樹脂や、オーバーコート材と呼ばれる被覆層樹脂によって被覆され、光ファイバ心線として用いられる。これら被覆層樹脂と光ファイバ素線との密着力が低いと、光ファイバ心線の取扱中に着色層がはがれてしまい、光ファイバ着色心線として使用できなくなる。さらに、複数本の光ファイバ心線をテープ層樹脂により一括被覆した光ファイバテープ心線において着色層樹脂と光ファイバ素線との密着力が低いと、光ファイバテープ心線から各々の光ファイバ心線を取り出す際(テープからの光ファイバ心線の単身分離の際)にテープ層樹脂の除去とともに着色層樹脂がはがれてしまい、単心分離不良と呼ばれる問題が生じる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
光ファイバ素線の被覆層樹脂の表面状態を、ウィルヘルミ法による動的接触角を用いて評価し、光ファイバ素線の純水に対する前進接触角αと純水に対する後退接触角βとの差(α−β)が29°以上である光ファイバ素線を用いる。また、そのような光ファイバ素線を着色層樹脂にて被覆して光ファイバ心線とし、さらに光ファイバ心線をテープ層樹脂により一括被覆することで光ファイバテープ心線とする。光ファイバ素線の被覆層樹脂は紫外線硬化性樹脂からなり、最外被覆層の硬化処理時の紫外線照射量、酸素濃度雰囲気を制御することで所望の(α−β)の値を得ている。
【発明の効果】
【0007】
ガラス光ファイバに被覆層樹脂を被覆した光ファイバ素線において、純水に対する前進接触角αと後退接触角βとの差(α−β)が29°以上である光ファイバ素線を用いることで、良好な着色密着力を有する光ファイバ心線を提供することができた。またそのような光ファイバ心線を一括被覆することで、単身分離性に優れた光ファイバテープ心線を提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
第1図は、本発明に係わる、光ファイバテープ心線の一実施の形態を示す模式的断面図である。光ファイバテープ心線8は複数本の光ファイバ心線6を紫外線硬化性樹脂組成物からなるテープ層樹脂7にて一括被覆したものであり、光ファイバ心線6は着色剤を含む紫外線硬化性樹脂組成物からなる着色層樹脂5を光ファイバ素線4の外周に被覆したものである。光ファイバ素線は、ガラス光ファイバ1を第一次被覆層(プライマリ層2)と第二次被覆層(セカンダリ層3)で被覆したものである。一般的には、プライマリ層はヤング率3MPa以下、セカンダリ層はヤング率500MPa以上の樹脂が用いられている。本発明では、この光ファイバテープ心線8に、純水に対する動的接触角の前進接触角αと後退接触角βの差(α−β)が29°以上である光ファイバ素線4を用いることを特徴とする。
【0009】
本発明の光ファイバ素線4は一例として、以下の方法で製造される。あらかじめ用意した所定の屈折率分布を有する光ファイバ用母材を図3に示す線引き方法により線引きする。具体的には、まず、光ファイバ用母材41を加熱炉42により加熱溶融させ、外径約125μmのガラス光ファイバ1に線引きした。このガラス光ファイバ1上に、樹脂被覆用のダイス43にてプライマリ層2用の紫外線硬化型樹脂を塗布し、引き続き所定の酸素濃度雰囲気に調整された紫外線照射室44にて紫外線を照射してこれを硬化させ、プライマリ層2を形成した。更に、ダイス45にてセカンダリ層用の紫外線硬化型樹脂を塗布し、引き続き所定の酸素濃度雰囲気に調整された紫外線照射室46にて紫外線を照射して硬化させ、セカンダリ層を形成し、外径約250μmの光ファイバ素線4を得、これをボビン47に巻き取った。
【0010】
第2図は光ファイバ素線4の動的接触角の測定方法についての説明図である。動的接触角は自動表面張力計(K100, KRUSS社製)を用いて測定した。測定環境は温度25℃、湿度50%である。光ファイバ素線4は両面テープを用いて自動表面張力計のプローブ部11に固定されている。この光ファイバ素線4を表面張力が既知の液体10に一定速度で浸漬していくときの接触角を前進接触角αと呼び、逆に液体10から一定速度で引き上げるときの接触角を後退接触角βと呼ぶ。前進接触角および後退接触角は、純水の表面張力を72.8として、ウィルヘルミ法により算出される。ウィルヘルミ法の詳細については、たとえば、石井淑夫、他著、「ぬれ技術ハンドブック 〜基礎・測定評価・データ〜」、株式会社テクノシステム、2001年10月25日、P6〜9、P483〜485 などに記載されている。
光ファイバ素線4の表面状態は周囲の環境によっても変化するため、光ファイバ素線4は接触角の測定前に、温度25℃、湿度50%の環境下で状態調整を行う必要がある。
【0011】
表1は、第1図のセカンダリ層3形成時の紫外線照射量および酸素濃度と、光ファイバ心線6を形成するための光ファイバ素線4の純水に対する動的接触角(α、β)およびその差(α−β)、さらに光ファイバ心線6にした際の着色密着力を示す。着色密着力は、ナイロンたわしを用いたしごき試験により評価される。より具体的には、2cm程度の大きさに切断した市販のナイロンたわし2枚で光ファイバ心線6を挟み、ナイロンたわしに均一に20Nの荷重を加えた状態で光ファイバ心線をスライドさせる。
【0012】
着色密着力が良好な場合は着色層5は剥離せず、ナイロンたわしにより着色層5の表面の一部が削られるのみであるが、着色密着力が弱い場合は数回のしごきにより着色層5がセカンダリ被覆層3からが剥離する。測定は5回行い、平均で3回以下のしごき回数で着色層5が剥離する光ファイバ心線6は製品には採用できない。このような場合、表1では×と表している。平均のしごき回数が7回以上で剥離する光ファイバ心線6は、着色密着力が単身分離不良を防ぐのに十分なほど強いと判断される。このような場合、表1では○と表している。平均のしごき回数が4〜6回で剥離する光ファイバ心線は、テープ層7と着色層5との密着力が強い場合は単身分離不良を起こす可能性があり、表1では△と表している。前進接触角αは光ファイバ素線9の純水に対するぬれやすさを示し、後退接触角βは純水にぬれたあとの光ファイバ素線9のはじきやすさを示す。すなわち、動的接触角の差(α−β)が大きいと、純水に対してぬれやすい表面と言える。
【0013】
【表1】

【0014】
原理的には、純水に替えて直接的に硬化前の着色層用の紫外線硬化性樹脂組成物を用いて動的接触角を測定すれば、光ファイバ素線4の着色層用紫外線硬化性樹脂組成物に対するぬれやすさが評価できる。光ファイバ素線4に着色層用紫外線硬化性樹脂組成物が良好に塗られれば、安定した密着力が発現され、良好な着色密着力が得られると考えられる。よって、着色層用紫外線硬化性樹脂組成物に対する光ファイバ素線の動的接触角は、硬化後の密着力の指針に成り得ると考えられる。しかしながら一般的には、着色層用紫外線硬化性樹脂組成物は粘度が高いため後退接触角βの測定時に光ファイバ素線4に着色層用紫外線硬化性樹脂組成物5が付着してしまい、実際には測定することができない。
【0015】
一方、本発明では測定可能である純水に対する動的接触角と着色密着力との相関関係を見出すことにより、着色密着力の改善を実現している。
【0016】
セカンダリ被覆層3の樹脂硬化の際における紫外線照射量と酸素濃度を種々に変化させ、前進接触角αと後退接触角βの測定を行った。結果を表1に示されている。表1に示されたように、純水に対する動的接触角の差(α―β)と、着色密着力には明らかに相関が見られる。すなわち、(α−β)が28°のとき着色密着力は×であり、(α−β)が29°以上では着色密着力は△、また(α−β)が39°以上では着色密着力は○である。このことから純水に対する動的接触角の値は、紫外線硬化性樹脂組成物に対する動的接触角の代替値として利用可能であることが分かる。
【0017】
動的接触角の差(α―β)を調整する手段としては、セカンダリ層3の硬化時の照射量、および酸素濃度が挙げられる。表1に示されるように一定の照度条件下では、(α―β)は硬化時の酸素濃度が高くなるにつれて大きくなる傾向がある。また一定の酸素濃度下では、(α―β)は硬化時の照射量が低くなるにつれて大きくなる傾向がある。高酸素濃度の雰囲気下で硬化させた紫外線硬化性樹脂組成物の表面には、酸素阻害による紫外線硬化性樹脂組成物の未反応基(非極性基)および、酸素の取り込みにより生成した水酸基(極性基)が存在すると考えられる。また照射量が低い場合にも、表面に紫外線硬化性樹脂組成物の未反応基が存在すると考えられる。これらの表面状態は周囲の環境によっても変わり、空気中では非極性基(未反応基)が表面を覆い、水中では逆に極性基(水酸基)が表面へ移動すると考えられる。純水に対する動的接触角の差(α−β)はこの極性・非極性基の表面での移動のしやすさを測定していると考えており、そのため紫外線硬化性樹脂組成物からなる硬化物表面の硬化性のみならず、硬化物表面の表面状態を示す指標として利用することが可能である。
【0018】
以上から良好な着色密着力および単身分離性を得るためには、(α―β)は29°以上である必要があり、そのためにはセカンダリ層3の硬化時の酸素濃度を高くする、または紫外線照射量を少なくすることが有効であることがわかる。ただし、これらの操作により被覆層樹脂の表面硬化性を下げすぎると、光ファイバ素線の表面が柔らかくなり傷つきやすくなる問題を生じ、また被覆層樹脂の摩擦性が上がることから光ファイバ素線のボビン巻き取り時の巻き不良などの問題が生じる。ボビンへの巻き取り時の巻き不良を考慮すれば、動的接触角の差(α−β)は60°以下が好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係わる、光ファイバテープ心線の一実施の形態を示す模式的断面図である。
【図2】光ファイバ素線の動的接触角の測定方法についての説明図である。
【図3】一般的な光ファイバ素線の製造方法を示す図である。
【符号の説明】
【0020】
1 ガラス光ファイバ
2 第一次被覆層(プライマリ層)
3 第二次被覆層(セカンダリ層)
4 光ファイバ素線
5 着色層
6 光ファイバ心線
7 テープ層
8 光ファイバテープ心線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス光ファイバに少なくとも1層以上の被覆層樹脂を被覆した光ファイバ素線において、ウィルヘルミ法にて算出した、純水に対する前進接触角αと後退接触角βとの差(α−β)が29°以上であることを特徴とする光ファイバ素線。
【請求項2】
前記被覆層樹脂が紫外線硬化性樹脂からなることを特徴とする請求項1の光ファイバ素線。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の光ファイバ素線に着色層樹脂を被覆してなる光ファイバ着色心線。
【請求項4】
請求項3に記載の光ファイバ心線を複数本平面上に並べ、テープ層樹脂により一括被覆したことを特徴とする光ファイバテープ心線。
【請求項5】
ガラス光ファイバに少なくとも1層以上の被覆層樹脂を被覆した光ファイバ素線の製造方法において、ウィルヘルミ法にて算出した、純水に対する前進接触角αと後退接触角βとの差(α−β)が29°以上となるように前記被覆層の最外層の樹脂硬化時の酸素濃度および/または紫外線照射量を調整することを特徴とする光ファイバ素線の製造方法。
【請求項6】
ガラス光ファイバに少なくとも1層以上の被覆層樹脂を被覆した光ファイバ素線片を所定の溶液に垂直に進入させたときの被覆層樹脂の動的接触角を、ウィルヘルミ法にて算出することを特徴とする被覆層樹脂の表面状態の評価方法。
【請求項7】
前記溶液は純水であることを特徴とする請求項6の被覆層樹脂の表面状態の評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−163954(P2007−163954A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−361835(P2005−361835)
【出願日】平成17年12月15日(2005.12.15)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】