説明

光ファイバ心線及びその製造方法

【課題】高い品質を維持しつつ、識別性に優れた光ファイバ心線及びその製造方法を提供する。
【解決手段】ガラスファイバ21と、ガラスファイバ21の外周に設けられた被覆層22と、被覆層22の表面に設けられた着色樹脂からなる着色層23と、着色層23の表面にリングマークインクを塗布することにより設けられたリングマーク13からなる識別部12とを有する光ファイバ心線11であって、着色層23の表面に対するリングマークインクの接触角θが30°未満である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスファイバを樹脂層によって被覆した光ファイバ心線及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インターネットの急速な普及により高速データ通信の要求が高まり、各家庭まで光ファイバを布設するFTTH(Fiber To The Home)のサービスが拡大している。このFTTHシステムの構築加速に伴いルースチューブケーブルの多芯化が検討されている。光ファイバ心線は、通常、被覆を着色した着色層の色で、例えば12芯を識別することができるが、さらなる多芯化がある。そのため、着色層の色以外で各線を識別する要求がある。
【0003】
このような識別性を持たせた光ファイバとして、ガラスファイバに樹脂を被覆した光ファイバ心線と、この外周に設けられた着色層と、光ファイバ心線と着色層との間に外部から視認可能に設けられた標識部とから概略構成された光ファイバ着色心線が知られている(例えば、特許文献1〜6参照)。
また、光ファイバ心線の被覆の外側にある合成樹脂層上または合成樹脂層内に、リング状の形をしたカラーマークを備えた光ファイバ心線も知られている(例えば、特許文献7参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−12680号公報
【特許文献2】特開2004−77536号公報
【特許文献3】特開2004−77537号公報
【特許文献4】特開2004−77538号公報
【特許文献5】特開2004−77539号公報
【特許文献6】特開2004−157193号公報
【特許文献7】特表平11−513130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1〜6の光ファイバ着色心線は、高温環境(85℃程度)等に放置した際に、着色層の内側の標識部のインクの成分が、光ファイバ心線の被覆に浸透、拡散し、ガラスファイバと被覆との境界面にまで到達することがある。すると、ガラスファイバと被覆との間の密着力低下により剥離が生じ、伝送損失やガラスファイバの強度低下を招くおそれがある。特に、高温であるとともに高湿な湿熱環境(例えば、85℃、85%RH)では、インクの被覆への浸透、拡散が著しい。
また、光ファイバ着色心線を浸水環境等に放置した際には、水分子がインクの樹脂成分と結びついてインクと着色層との界面の密着力低下により水泡(ブリスター)が生じ、伝送損失の増加を招くおそれがある。特に、温水(60℃程度)での浸水環境においては、水泡の発生が著しい。
このように、着色層の内側に標識部を設けた光ファイバ着色心線は、高温環境や浸水環境における品質低下が避けられなかった。
【0006】
特許文献7の光ファイバ心線は、合成樹脂層である被覆にカラーマークを設けるものであるが、被覆に対するカラーマークのインクの濡れ性が良くないと、このインクの塗布時にインクが被覆の表面で弾かれてしまい、良好に塗布、定着されないおそれがあった。また、インクが被覆に定着したとしても、製造ラインにて光ファイバ心線を案内するガイドローラー等で擦られて剥離したり、端末処理作業時にアルコールで汚れを拭き取った際に、カラーマークが消失することがあった。また、このような剥離、消失を低減するためにカラーマークの厚さを厚くすると、ガラスファイバに微小な曲げ歪みが生じ、光ファイバの伝送損失が著しく増加してしまい、品質低下を招いてしまうおそれがあった。
【0007】
本発明の目的は、高い品質を維持しつつ、識別性に優れた光ファイバ心線及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決することのできる本発明の光ファイバ心線は、ガラスファイバと、前記ガラスファイバの外周に設けられた被覆層と、前記被覆層の表面に設けられた着色樹脂からなる着色層と、前記着色層の表面に識別用インクからなる識別部とを有する光ファイバ心線であって、
前記着色層の表面に対する前記識別用インクの接触角が30°未満であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の光ファイバ心線の製造方法は、ガラスファイバと、前記ガラスファイバの外周に設けられた被覆層と、前記被覆層の表面に設けられた着色樹脂からなる着色層と、前記着色層の表面に識別用インクからなる識別部とを有する光ファイバ心線の製造方法であって、
前記識別部は、前記着色層の表面に対して、接触角が30°未満となるような滴状の前記識別用インクを噴射して形成することを特徴とする。
【0010】
本発明の光ファイバ心線の製造方法において、前記識別用インクとして、樹脂成分が15重量%以上45重量%以下のインクを用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の光ファイバ心線及びその製造方法によれば、識別用インクが着色層の表面で弾かれることなく定着する。これにより、製造ライン中のガイドローラー等で擦られても、着色層の表面からの識別部の脱落を防止することができる。
また、端末処理作業時に汚れを落とすために行うアルコール拭き(5回程度)によっても簡単に消失することもなくなり、リングマークの厚さ(高さ)が小さいので、ガラスファイバに微小な曲げ歪みが加わらず、伝送損失の増加を抑えることができる。
また、着色層の表面に識別部を設けるので、識別部の識別用インクの成分の被覆層への浸透やブリスターの発生などによる不具合もなくすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る光ファイバ心線の実施形態の例を示す図であって、(a)は光ファイバ心線の側面図、(b)は光ファイバ心線における識別部を拡大した側面図である。
【図2】図1の光ファイバ心線の識別部を構成するリングマーク部分における断面図である。
【図3】本発明に係る光ファイバ心線の製造方法の実施形態の例を示す図であって、(a)はリングマークインクの塗布工程における光ファイバ心線の側面図、(b)はリングマークインクの塗布工程における識別部を拡大した側面図である。
【図4】着色層に対するリングマークインクの濡れ性を示す側面図である。
【図5】着色層に対するリングマークインクの濡れ性を示す図であって、(a)は濡れ性が良い場合の側面図、(b)は濡れ性が悪い場合の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る光ファイバ心線及びその製造方法の実施の形態の例を、図面を参照して説明する。
図1(a)に示すように、本実施形態の光ファイバ心線11は、その長手方向に所定の間隔をあけて複数の識別部12が設けられている。
この識別部12は、図1(b)に示すように、複数のリングマーク13が等間隔に設けられてなるものである。
【0014】
識別部12を有する光ファイバ心線11は、図2に示すように、コア21a及びクラッド21bから構成されたガラスファイバ21の周囲に、第1被覆22a及び第2被覆22bからなる被覆層22を設けたものであり、さらにその外周には、着色樹脂からなる着色層23が設けられている。識別部12を構成するリングマーク13は、光ファイバ心線11の周方向に沿って着色層23の表面に設けられている。このリングマーク13は、例えば、所定の線速で送り出される光ファイバ心線11に対してインクジェットプリンタ装置によって識別用インクとしてのリングマークインクを噴射して塗布することにより設けられる。
【0015】
光ファイバ心線11では、他の心線と着色層23の色を異なるものとすることで、他の心線との識別が可能となっており、さらに、識別部12のリングマーク13の色及びリングマーク13の色と着色層23の色の組み合わせによって識別可能心数が多くなるようにしている。また、リングマーク13の配列を識別コードとすることにより、識別可能心数を増やしてもよい。
【0016】
リングマーク13は、識別性を維持するために、光ファイバ心線11の着色層23の周上の180°以上360°未満の範囲Aを覆うことが好ましい。これにより、光ファイバ心線11の端末処理作業時に、周方向のどの方向から見ても識別部12のリングマーク13を視認して確実に識別することができる。
【0017】
また、図1(a)に示すように、光ファイバ心線11の長手方向における識別部12の間隔であるピッチPは、識別性を維持するうえで、100mm以下であるのが好ましく、50mm以下であるのがより好ましい。このようなピッチPとすれば、光ファイバ心線11の端末処理作業時に繰り出す長さが少なくても、識別部12のリングマーク13を視認して確実に識別することができる。つまり、光ファイバ11を識別する際に繰り出す長さを極力少なくすることができる。
【0018】
また、図1(b)に示すように、一つの識別部12の幅寸法Wは、識別性を維持するために、2mm以上6mm以下であることが好ましい。一つの識別部12の幅寸法Wが2mm未満であると、識別部12の視認が困難となって識別性が低下し、一つの識別部12の幅寸法Wが6mmを超えると、光ファイバ心線11としての伝送損失の増加を引き起こすおそれが生じる。
【0019】
識別部12には、識別性を維持するうえで、それぞれ5個以上15個以下(本実施形態では6個)のリングマーク13を設けることが好ましい。例えば、識別部12の幅寸法Wを5mmとするときに、識別部12に5個(5mmの区間にリングマークインクを5ドット噴射)未満のリングマーク13を設けた場合では、識別性が低下し、識別部12に15個(5mmの区間にリングマークインクを15ドット噴射)以上のリングマーク13を設けた場合では、光ファイバ心線11の繰り出す線速が低下して製造コストの増加を招いてしまう。
【0020】
リングマーク13に用いるリングマークインク(識別用インク)は、速乾性の溶剤型染料インクを用いることが好ましく、溶剤成分としては、例えば、13〜90%以下のメチルエチルケトン(MEK)、10〜35%以下のメタノールあるいは3〜7%以下のアセトン等を含むものが好ましい。また、リングマークインクの染料成分としては、1〜10%以下のクロム錯塩染料あるいは5〜15%以下のクロム含金属染料等を含むものが好ましい。さらに、リングマークインクの樹脂(ポリマー)成分としては、スチレン(ST:Styrene)、メタクリル酸メチル(MMA:Methyl methacrylate)、ブチルアクリレート(BA:Butyl Acrylate)、メタクリル酸(MAA:Methacrylic acid)、アクリル酸メチル(MA:Methyl acrylate)等のモノマーから構成される共重合体(分子量8,000〜数万程度、約15〜45重量%)等を含むものが好ましい。また、硬化速度の速い、紫外線硬化型インク、電子線硬化型インク等を用いても良い。さらに、色素として染料系でなく顔料系を用いることもできる。
【0021】
次に、識別部12を有する光ファイバ心線11の製造方法について説明する。
まず、ガラスファイバ21の外周に、2種類の紫外線硬化型ウレタンアクリレート系樹脂からなる第1被覆22a及び第2被覆22bを塗布して硬化させることにより被覆層22を形成して、さらに、この被覆層22の外周に、紫外線硬化型ウレタンアクリレート系インクからなる着色層23を塗布して硬化させる。
【0022】
次いで、着色層23を有する光ファイバ心線11を所定の線速にて送り出しながら、図3(a),(b)に示すように、インクジェットプリンタ装置のプリンタヘッド41からリングマークインク42を間欠的に噴射して塗布する。速乾性の溶剤型染料インクからなるリングマークインク42を用いた場合は自然乾燥できるため、特に乾燥装置や硬化装置等は必要ない。リングマークインク42として紫外線硬化型インクを用いた場合は、塗布後に紫外線照射装置によって紫外線を照射し、リングマークインク42として電子線硬化型インクを用いた場合は、塗布後に電子線照射装置によって電子線を照射する。
これにより、光ファイバ心線11には、着色層23の表面に、複数のリングマーク13を有する識別部12が、長手方向に所定のピッチPで間欠的に設けられる。
図1(b)、図3(b)では、上から滴状のリングマークインク42が塗布される。光ファイバ心線11の上に塗布されたリングマークインク(滴)42が自重で垂れて光ファイバ心線11の横をつたって、図1(b)や図3(b)に示したように横から見ると三角形のマークが付く。
【0023】
リングマーク13を設けるためにリングマークインク42を噴射するインクジェットプリンタ装置としては、例えば、VIDEOJET社製の「EXCEL MVPシリーズ」、IMAJE社製の「Imaje9000シリーズ」、株式会社日立産機システム製の「PXRシリーズ」、株式会社キーエンス製の「MK-9000シリーズ」等の市販品を使用することができる。これらのインクジェットプリンタ装置は、インクの組成が異なること以外は差異がなく、また、後述する接触角および厚さの条件を満たせば、樹脂組成の差異の影響はない。
【0024】
なお、リングマークインク42を塗布する工程は、光ファイバ心線11の外周に着色層23となる着色インクを塗布して硬化させる着色工程において行うことができる。つまり、着色工程において、着色装置によって着色層23となる着色インクを塗布して硬化させた後に連続して、着色装置に設置したインクジェットプリンタ装置によってリングマークインク42を噴射して塗布し、自然乾燥させることもできる。また、既に着色層23を設けて保管しておいた光ファイバ心線11を所定の線速にて供給し、この光ファイバ心線11に対してリングマークインク42の噴射塗布及び自然乾燥の工程のみを行うこともできる。
【0025】
ところで、リングマーク13となるリングマークインク42を光ファイバ心線11の着色層23の表面に塗布する際に、このリングマークインク42が良好かつ確実に定着するか否かは、着色層23に対するリングマークインク42の濡れ性が影響する。
濡れ性が悪いと、リングマークインク42を塗布する際にリングマークインク42が着色層23の表面で弾かれて定着させることが困難となったり、定着できても製造ライン中のガイドローラー等で擦られて着色層23の表面から剥離してしまうことがある。また、製造できても端末処理作業時に汚れを落とすために行うアルコール拭き(5回程度)によって消失したり、リングマーク13の厚さ(高さ)が大きくなるためガラスファイバ21に微小な曲げ歪みが加わり伝送損失が著しく増加する、等の問題が生じてしまう。
【0026】
そこで、本実施形態では、着色層23に対するリングマークインク42の濡れ性を改善するために、「接触角」という指標を用いている。
ここで、液体を固体表面に滴下すると、図4に示すように、液滴Lは自らの持つ表面張力で固体Sの表面で丸くなる。このとき、以下の様な式が成り立つ。
【0027】
γ=γ・cosθ+γSL
ただし、γ:固体の表面張力
γ:液体の表面張力
γSL:固体と液体の界面張力
【0028】
この式は「Youngの式」と呼ばれ、この液滴Lの接線と固体Sの表面のなす角度θを「接触角」と言う。この接触角θは、市販の接触角計にて簡単に測定することができる。例えば、共和界面化学株式会社製の「DMシリーズ」や、三洋貿易株式会社製の「DSAシリーズ」等を用いることができる。
【0029】
図5(a)に示すように、接触角θが小さい状態では、濡れやすいため濡れ性が良くなる。これに対して図5(b)に示すように、接触角θが大きい状態では、濡れにくいため濡れ性は悪くなる。
【0030】
本実施形態では、着色層23の表面に対するリングマークインク42の接触角θが30°未満となるように、着色層23とリングマークインク42が選定されている。つまり、光ファイバ心線11の製造工程において、リングマークインク42を着色層23の表面に対して、接触角θが30°未満となるように塗布する。接触角θが30°未満となるようにリングマークインク42を塗布することにより、リングマークインク42を噴射して塗布する際に、リングマークインク42が着色層23の表面で弾かれることなく定着される。これにより、製造ライン中のガイドローラー等で擦られても、着色層23の表面からのリングマーク13の脱落を防止することができる。
【0031】
また、端末処理作業時に汚れを落とすために行うアルコール拭き(5回程度)によっても簡単に消失することもなくなり、しかも、リングマーク13の厚さ(高さ)が小さいので、ガラスファイバ21に微小な曲げ歪みが加わらず、伝送損失の増加を抑えることができる。
また、着色層23の表面に識別部12を設けるので、識別部12のリングマークインク42の成分の被覆層22への浸透やブリスターの発生などによる不具合もなくすことができる。
つまり、上記実施形態の光ファイバ心線及びその製造方法によれば、高い品質を維持しつつ、識別性に優れた光ファイバ心線11とすることができ、また、そのような高品質で識別性に優れた光ファイバ心線11を容易に製造することができる。
【0032】
さらに、本実施形態では、光ファイバ心線11の製造工程にて、樹脂成分が15重量%以上45重量%以下のリングマークインク42を着色層23に塗布する。
樹脂成分が15重量%以上45重量%以下のリングマークインク42を用いて着色層23に塗布すれば、着色層23の表面に対するリングマークインク42の接触角θを的確に30°未満とすることができ、良好なリングマーク13を形成することができる。また、着色層23へのリングマーク13の良好な密着力を維持させることができ、密着力の減少によって簡単に剥がれるような不具合をなくすことができる。
【実施例】
【0033】
ポリプロピレン(PP)シート上に、着色層となる4種類の紫外線硬化型インクからなる着色インク(ア),(イ),(ウ),(エ)をスピンコーターにて塗布し、約500mJ/cmの紫外線を照射して約30μm厚の下地フィルムを作製した。
【0034】
その上にリングマークとなる4種類の速乾性溶剤型染料インクからなるリングマークインク(A),(B),(C),(D)をそれぞれ滴下して、その際の接触角θを測定した。種々検討の結果、着色層となる着色インクやリングマークインクの種類を選択組み合わせることにより、着色層に対するリングマークインクの接触角θを小さくでき、濡れ性を改善できることがわかった。
【0035】
次に、上記の着色層とリングマークインクとの組み合わせを選択し、種々の接触角θにて光ファイバ心線にリングマークを形成し、そのときの製造性を評価するとともに、アルコール拭き試験を行った。
光ファイバ心線の製造は、具体的には、外径250μmのシングルモード光ファイバ心線に着色層を設け、この着色層の表面上に、インクジェットプリンタ装置を用いて、溶剤型染料インクからなるリングマークインクを噴射塗布し、間隔50mmで一カ所の長さ5mm中に7ドットのリングマークを施した。1ドットの幅寸法は一番広いところで0.25mmである。ドット間の隙間は約0.46mmとした。
着色層とリングマークインクとの組み合わせ、接触角θ、製造性の評価及びアルコール拭き試験の結果を表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
接触角θが30°以上40°未満となる着色層とリングマークインクの組み合わせである比較例1の場合、リングマークインクは着色層の表面に定着できたが、製造ライン中のガイドローラー等で擦られて着色層の表面からリングマークが剥離してしまい、また、5回未満のアルコール拭き試験でリングマークが消失してしまった。
また、接触角θが40°以上となる着色層とリングマークインクの組み合わせである比較例2,3の場合、何れもリングマークインクが着色層の表面で弾かれて定着させることができず、また、1回のアルコール拭き試験でリングマークが消失してしまった。
【0038】
接触角θが30°未満となる着色層とリングマークインクの組み合わせである実施例1〜8の場合、円滑に製造でき、5回未満のアルコール拭き試験でリングマークが消失することはなかった。
特に、接触角θが20°未満となる着色層とリングマークインクの組み合わせである実施例1〜5では、15回程度のアルコール拭き試験でもリングマーク13は消失しなかった。このことから、接触角θは、20°未満となる着色層とリングマークインクの組み合わせとすることがより好ましいことがわかった。
【0039】
着色インク(ア)からなる着色層とリングマークインク(A)との組み合わせである実施例1では接触角θが20°未満となり、製造性も良好でアルコール拭き試験でも問題がなかったが、着色インク(ア)からなる着色層とリングマークインク(B)との組み合わせである比較例1では接触角θが30°を超えてしまい、製造ライン中のガイドローラー等で擦られて着色層の表面からリングマークが剥離し、また、5回未満のアルコール拭き試験でリングマークが消失してしまった。
【0040】
また、リングマークインク(A)は、着色インク(ア),(イ),(ウ)からなる着色層との組み合わせである実施例1,2,4では、接触角θが20°未満となり、製造性も良好でアルコール拭き試験でも問題がなかった。これに対して、リングマークインク(B)は、着色インク(イ),(ウ)からなる着色層との組み合わせである実施例3,5では接触角θが20°未満となり、製造性も良好でアルコール拭き試験でも問題がなかったが、着色インク(ア)からなる着色層との組み合わせである比較例1では接触角θが30°を超えてしまい、製造ライン中のガイドローラー等で擦られて着色層の表面からリングマークが剥離し、また、5回未満のアルコール拭き試験でリングマークが消失してしまった。
このことから、リングマークインクの組成の違いだけではなくリングマークインクと着色インクとの組み合わせ、すなわちリングマークインクの着色層に対する接触角によりインクの定着性が分別できると考えられる。
【0041】
また、接触角θが30°未満となる着色層とリングマークインクの組み合わせである実施例1〜8の場合、着色層上のリングマークインクの厚さ(高さ)は0.5μm以上2μm未満となり、製造後にボビンに巻いても、伝送損失は波長1.55μmの光パルス試験器(OTDR:Optical Time Domain Reflectometer)による測定で0.22dB/km未満となり、問題ないことがわかった。伝送損失の増加を抑えるためには出来上がりのリングマークの厚さが重要である。このリングマークの厚さが2μmを超えると、伝送損失の増加が生じると考えられる。
【0042】
また、この接触角θを小さく保つためには、リングマークインク中の樹脂(ポリマー)成分の比率を適量に保つことが必要なことがわかった。リングマークインク中の樹脂成分(未硬化状態で)が45重量%を超えると、接触角θが30°以上になってしまい、良好なリングマークを形成することができなかった。また、樹脂成分が15重量%を下回ると、接触角θは30°未満でリングマークインクは着色層の表面に良く濡れるが密着力が減少し、簡単に剥がれてしまうことがわかった。
すなわち、良好なリングマークを形成するためには、リングマークインク中の樹脂成分を15重量%以上45重量%以下に保つことが好ましいことがわかった。
【符号の説明】
【0043】
11:光ファイバ心線、12:識別部、13:リングマーク、21:ガラスファイバ、22:被覆層、23:着色層、42:リングマークインク(識別用インク)、θ:接触角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスファイバと、前記ガラスファイバの外周に設けられた被覆層と、前記被覆層の表面に設けられた着色樹脂からなる着色層と、前記着色層の表面に識別用インクからなる識別部とを有する光ファイバ心線であって、
前記着色層の表面に対する前記識別用インクの接触角が30°未満であることを特徴とする光ファイバ心線。
【請求項2】
ガラスファイバと、前記ガラスファイバの外周に設けられた被覆層と、前記被覆層の表面に設けられた着色樹脂からなる着色層と、前記着色層の表面に識別用インクからなる識別部とを有する光ファイバ心線の製造方法であって、
前記識別部は、前記着色層の表面に対して、接触角が30°未満となるような滴状の前記識別用インクを噴射して形成することを特徴とする光ファイバ心線の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の光ファイバ心線の製造方法であって、
前記識別用インクとして、樹脂成分が15重量%以上45重量%以下のインクを用いることを特徴とする光ファイバ心線の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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