説明

光ファイバ素線およびその製造方法と製造装置

【課題】外部的要因によるPMDの増加を、最終製品でも確実かつ安定して抑制し得るようにする。
【解決手段】光ファイバ裸線が樹脂被覆層により被覆された光ファイバ素線において、裸線の部分に弾性ねじれが与えられており、かつ裸線部分の弾性ねじれが、その戻る方向の力に抗する被覆層の弾性反発力により保持された光ファイバ素線。製法として、光ファイバ母材を加熱溶融して光ファイバ裸線を引き出し、その裸線が固化してから液体樹脂で被覆し、樹脂を硬化させて光ファイバ素線としてから、ねじれ付与装置により光ファイバ素線にねじれを付与する方法であって、前記ねじれが、ねじれ付与装置の上流側に伝搬されて、樹脂被覆前でかつ固化後の裸線に弾性ねじれが付与されるとともに、その弾性ねじれが付与された状態の光ファイバ裸線が、樹脂で被覆されてその樹脂が硬化することにより、被覆層により裸線の弾性ねじれが保持されるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石英ガラス系光ファイバで代表される光ファイバおよびその製造方法に関し、とりわけ光ファイバ素線の偏波モード分散(Polarization Mode Dispersion;以下“PMD”と記す)を低減する技術、特に側圧や曲がりなどの外乱が加わってもPMDの増加量が少ない光ファイバ素線およびその製造方法、製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
周知のように、PMDは、光ファイバ中の二つの直交する偏波モード成分間に伝搬時間差(遅延差)が生じる現象であり、このようなPMDが大きくなれば、デジタル伝送においてファイバ中を伝送される信号光に波形劣化が生じて隣り合うパルスの分離が困難となったり、また伝送容量が制限されてしまうなどの問題が生じるから、PMDはできるだけ小さく抑制することが望まれる。
【0003】
PMDは、光ファイバの光学的異方性によって生じる現象であり、その発生要因は、光ファイバの内部の構造や材質などに由来して光学的異方性が生じる内部的要因と、光ファイバの外部からの応力などにより光学的異方性が生じる外部的要因とに大別される。
【0004】
内部的要因のうち、もっとも大きい影響をあたえるのは、光ファイバの断面形状である。すなわち、光ファイバ素線の製造においては、ファイバ母材の製造方法やファイバ母材を紡糸(線引き)して光ファイバ裸線とするための方法の如何を問わず、光ファイバ素線のコア部分およびその周囲のクラッド部分を含め、断面形状を完全な真円形とすることは実際上困難であり、実際の製品では、わずかながらも楕円形状その他の形状に歪んだ断面形状を有するものとなる。このような断面形状の異方性が大きくなれば、断面における屈折率分布が完全な同心円状ではなくなり、複屈折が生じてPMDが大きくなってしまう。
【0005】
また一方、外部的要因の大きなものとしては、光ファイバにその外部から加えられる曲げや側圧など、非等方的に加えられる応力が挙げられ、このような非等方的な外部からの応力によっても複屈折が生じてPMDが増加してしまう。
【0006】
ところで光ファイバのPMDの低減のためには、光ファイバ素線にねじれを加えておくことが有効であるとされ、従来から特許文献1〜5に示すような提案がなされている。
【0007】
これらの特許文献のうち、特許文献1、特許文献2においては、光ファイバ裸線の紡糸時において、未だ光ファイバ母材が固化しないうちにねじれを加え、これによってねじれを永久的に固定する方法が示されている。これは、光ファイバ裸線に塑性変形としてねじれ(塑性ねじれ)を与えておき、光ファイバ素線への外力が解放された状態でもねじれがそのまま残るもの、すなわち永久変形としてねじれ状態が残るものと言うことができる。以下このような永久変形として残る塑性ねじれを、“スパン”と称することがある。
【0008】
一方、特許文献3〜5には、光ファイバが紡糸されて固化した後に、光ファイバ素線にねじれを与える方法が示されている。この場合のねじれは、弾性変形によるものであり、外力が解放されて光ファイバ素線がフリー状態となれば、ねじれが戻ってしまう弾性ねじれと言うことができる。この場合、その弾性ねじれが保持された状態のまま、最終的にケーブルなどの最終使用形態の製品に使用すること、すなわちケーブルなどの最終使用形態の製品としてその内部の光ファイバ素線にねじれが保持された状態で使用することを想定している。以下このような弾性ねじれを、“ツイスト”と称することがある。
【0009】
前述のようにPMDの発生原因は、内部的要因と外部的要因とに大別されるが、内部的要因によるPMDについては、特許文献1、特許文献2に示されるようなスパン(塑性ねじれ)を光ファイバ素線に加えておく方法が有効である。しかしながらこのようなスパンを与えても、外部的要因によるPMDの増加抑制に対しては有効でないことが知られている(例えば特許文献3参照)。
【0010】
一方、特許文献3〜5に示すように、ツイスト(弾性ねじれ)を与えておく方法は、側圧や曲げなどの外部的要因によるPMDの増加抑制に有効である。但しこのツイストは、外力が解放されれば、弾性的にねじれが戻ってしまうものである。ここで、ツイストを与えた光ファイバ素線を光ケーブルなどの最終使用形態の製品とするための実際の量産工程、例えば着色、テープ化、ケーブル化などの工程や、その工程間などにおいては、光ファイバ素線に与えられている摩擦力などの外力が解放されたり、あるいは摩擦力などの外力が著しくなってしまうことがあり、その場合、ねじれが解放されてしまうかまたは著しく小さくなってしまって、外部的要因によるPMDの増加を抑制する効果が消失してしまうから、ケーブルなどの最終製品として、外部的要因によるPMDの増加を確実かつ安定して抑制することが困難であるという問題があった。
【0011】
上述のように、従来は、光ファイバに加えられる側圧や曲げなどの非等方的な外力などの外部的要因によるPMDの増加を、最終使用形態の製品においても確実かつ安定して抑制することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平8−295528号公報
【特許文献2】米国特許第6324872号明細書
【特許文献3】国際公開第2009/107667号パンフレット
【特許文献4】特開2010−122666号公報
【特許文献5】米国特許第7317855号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたもので、側圧や曲げなどの非等方的外力で代表される外部的要因に起因するPMDの増加を、ケーブルなどの最終使用形態の製品でも、確実かつ安定して抑制し得る光ファイバ素線、およびその製造方法、製造装置を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は、前述の課題を解決するべく種々実験、検討を重ねた結果、加熱溶融された光ファイバ母材から線引きされて固化した光ファイバ裸線に液体状態(未硬化)の硬化性樹脂を被覆して、その被覆樹脂を硬化させるにあたり、光ファイバ裸線が固化してから被覆樹脂が硬化するまでの間において光ファイバ裸線に弾性ねじれを付与することによって、その弾性ねじれが、硬化した被覆樹脂によって固定(保持)され、光ケーブルなど最終使用形態の製品内の光ファイバ素線においても、弾性ねじれ(ツイスト)として保持させることが可能となり、外部的要因によるPMDの増加を抑制し得ることを見い出した。
【0015】
ここで、硬化した被覆樹脂も弾性を有していて、一般にそのヤング率はガラスよりも小さいから、前述のように光ファイバ裸線が固化してから被覆樹脂が硬化するまでの間において光ファイバ裸線に弾性ねじれを付与しても、そのねじれをそのまま被覆樹脂によって固定すること、すなわちねじれの戻りを被覆樹脂によって完全に防止することは困難であり、ねじれ付与後に外力が解放されてフリー状態となれば、ある程度光ファイバ裸線部分のねじれが戻ってしまうことは避けられない。しかしながら、光ファイバ裸線部分のねじれが戻る際には、光ファイバ裸線部分のねじれの戻りに伴って被覆樹脂層にその戻り方向のねじれが加えられ、この被覆樹脂層に与えられる戻り方向のねじれに対する被覆樹脂の弾性的反発力と、光ファイバ裸線部分のねじれの戻りの力とが釣り合った状態で、光ファイバ裸線部分のねじれの戻りは停止する。したがって、ねじれ付与後に外力が解放される際の光ファイバ裸線部分のねじれの戻りは100%行なわれるのではなく、被覆樹脂の弾性的反発力によって必ずある程度の割合で光ファイバ裸線部分のねじれが残る。そしてこの残ったねじれ分が、外力解放状態でも被覆樹脂によって保持され、弾性ねじれ(ツイスト)として機能するのである。後に改めて説明するように、通常は、与えた弾性ねじれのうち、少なくとも20〜30%程度のねじれは残留して被覆樹脂によって保持されることが確認されている。そしてこのように被覆樹脂によって保持、固定された弾性ねじれ(ツイスト)は、さらにテープ化、ケーブル化などの過程を経て最終使用形態の製品とするにあたって、仮に外力が解放されたとしても、確実に保持され、外部的要因によるPMDの増加の抑制に安定して有効となるのである。
【0016】
したがって本発明の基本的な形態(第1の形態)による光ファイバ素線は、光ファイバ裸線が硬化性樹脂からなる被覆層によって被覆されてなる光ファイバ素線において、
前記光ファイバ裸線の部分に、弾性ねじれが与えられており、かつその光ファイバ裸線部分の弾性ねじれが、そのねじれの戻る方向の力に抗する被覆層の弾性反発力によって保持されていることを特徴とするものである。
【0017】
このような形態の光ファイバ素線においては、ファイバ裸線部分の弾性ねじれ(ツイスト)が、そのねじれの戻る方向の力に抗する被覆層の弾性反発力によって保持されていて、最終使用形態である光ケーブルなどの状態でも、ファイバ裸線部分の弾性ねじれが確実かつ安定して保持され、そのため外部的要因によるPMDの増加を、確実かつ安定して抑制することができる。
【0018】
また本発明の第2の形態による光ファイバ素線は、前記第1の形態の光ファイバ素線において、
前記光ファイバ裸線の部分の弾性ねじれとして、その長手方向の所定長さ置きに、交互に逆方向のねじれが与えられていることを特徴とするものである。
【0019】
この第2の形態に示すように、弾性ねじれとして、光ファイバ裸線部分にその長手方向の所定長さ置きに交互に逆方向の弾性ねじれが与えられている場合には、一方向のみに連続して弾性ねじれが付与されている場合と比較して、外部的要因によるPMDの増加を、より確実かつ安定して抑制することができる。
【0020】
また本発明の第3の形態による光ファイバ素線は、前記第1もしくは第2の形態の光ファイバ素線において、
前記被覆層が、相対的にヤング率が低い樹脂からなる一次被覆層と、相対的にヤング率が高い樹脂からなる二次被覆層とによって構成されていることを特徴とするものである。
【0021】
このような第3の形態の光ファイバ素線においては、光ファイバ裸線の外周表面に接する一次被覆層としてヤング率が低い樹脂を使用して、光ファイバ裸線に対する被覆層の密着性を高めると同時に、外側の二次被覆層としてヤング率が高い樹脂を使用して、高い弾性反発力が得られるようにすることにより、光ファイバ裸線部分の弾性ねじれ(ツイスト)を被覆層により保持する上で有利となり、外部的要因によるPMDの増加を、より確実かつ安定して抑制することができる
【0022】
さらに本発明の第4の形態〜第8の形態は、前記第1〜第3の形態のうちのいずれかの形態の光ファイバ素線を製造する方法についてのものである。
【0023】
すなわち第4の形態の光ファイバ素線の製造方法は、光ファイバ母材を加熱溶融して、所定の径の光ファイバ裸線を引き出し、その光ファイバ裸線が固化してからその外周上を液体状態の硬化性樹脂で被覆し、さらにその樹脂を硬化させて光ファイバ素線としてから、ねじれ付与装置により光ファイバ素線にねじれを付与し、ねじれ付与後に光ファイバ素線を引き取る方法であって、
前記ねじれ付与装置により光ファイバ素線に付与されたねじれが、ねじれ付与装置の上流側に伝搬されて、樹脂被覆前でかつ光ファイバ裸線固化後の光ファイバ裸線に弾性ねじれが付与されるとともに、その弾性ねじれが付与された状態の光ファイバ裸線が、液体状態の硬化性樹脂で被覆されてその被覆樹脂が硬化することにより、被覆層によって光ファイバ裸線の弾性ねじれが保持されるようにしたことを特徴とするものである。
【0024】
このような第4の形態の光ファイバ素線の製造方法においては、固化した光ファイバ裸線に付与された弾性ねじれ(ツイスト)が、硬化した被覆層によって保持された光ファイバ素線、すなわち外力解放後も弾性ねじれが光ファイバ裸線部分に残る光ファイバ素線を製造することができる。
【0025】
そしてまた本発明の第5の形態による光ファイバ素線の製造方法は、前記第4の形態の光ファイバ素線の製造方法において、ねじれ付与装置よりも上流側に、光ファイバ裸線のねじれの伝搬を阻止する部材がないことを特徴とするものである。
【0026】
このような第5の形態の光ファイバ素線の製造方法においては、ねじれ付与装置からその上流側に円滑にねじれが伝搬されるため、確実かつ安定して光ファイバ裸線に弾性ねじれを付与することができる。
【0027】
また本発明の第6の形態の光ファイバ素線の製造方法は、前記第4の形態、第5の形態のうちのいずれかの形態の光ファイバ素線の製造方法において、
前記ねじれ付与装置により光ファイバ素線にねじれを付与するにあたり、ねじれの方向を周期的に反転させることを特徴とするものである。
【0028】
このような第6の形態の光ファイバ素線の製造方法においては、ねじれの方向を周期的に反転させた光ファイバ素線とすることによって、外部的要因によるPMDの増加を、より効果的に抑制することができる。
【0029】
さらに本発明の第7の形態の光ファイバ素線の製造方法は、前記第6の形態の光ファイバ素線の製造方法において、
光ファイバ裸線に硬化性樹脂を被覆するにあたり、その液体状態の樹脂の被覆時の粘度を、0.1〜3Pa・secの範囲内とすることを特徴とするものである。
【0030】
このような第7の形態の光ファイバ素線の製造方法においては、被覆時の液体状態の樹脂の粘度を、0.1Pa・sec以上とすることによって、光ファイバ素線の被覆外径の変動を抑制して均一な被覆外径の光ファイバ素線を得ることができるとともに、3Pa・sec以下とすることによって、液体状態の樹脂がねじれの伝搬の抵抗となってしまうことを防止し、特にねじれの方向を周期的に反転させる場合において、ねじれの伝搬とねじれ方向の反転を確実化することができる。
【0031】
さらに本発明の第8の形態の光ファイバ素線の製造方法は、前記第6の形態、第7の形態のいずれかの形態の光ファイバ素線の製造方法において、
光ファイバ素線に付与するねじれの反転周期Tを、光ファイバ素線の長手方向の距離に関して、5〜30mの範囲内とし、かつその反転ねじれプロファイルとして、累積ねじれ角の最大振幅MAを、500×T(°)〜4000×T(°)の範囲内とすることを特徴とするものである。
【0032】
このような第8の形態の光ファイバ素線の製造方法においては、ねじれの反転周期Tを上記の範囲内とするとともに累積ねじれ角の最大振幅を上記範囲内とすることによって、光ファイバ素線に対する外力が解放されたときに残留する弾性ねじれを十分に確保すると同時に、過大な応力によって被覆層の剥離や割れが発生することを防止できる。
【0033】
さらに本発明の第9の形態は、前記第1〜第3の形態のうちいずれかの形態の光ファイバ素線を製造するための装置についてのものである。
すなわち第9の形態の光ファイバ素線製造装置は、
光ファイバ母材を加熱溶融させるための紡糸用加熱炉と、紡糸用加熱炉から下方に向けて線状に引き出された光ファイバ裸線を強制冷却して固化させるための冷却装置と、冷却・固化された光ファイバ裸線を、保護被覆用の硬化性樹脂により被覆するための被覆装置と、その被覆装置により被覆された未硬化の硬化性樹脂を硬化させるための被覆硬化装置と、その硬化性樹脂が硬化された状態で光ファイバ素線にねじれを与えるためのねじれ付与装置と、ねじれが付与された光ファイバ素線を引き取るための引取装置とを有し、前記ねじれ付与装置により光ファイバ素線に付与されたねじれが、ねじれ付与装置の上流側に伝搬されて、樹脂被覆前でかつ光ファイバ裸線固化後の光ファイバ裸線に弾性ねじれが付与されるとともに、その弾性ねじれが付与された状態の光ファイバ裸線が、液体状態の硬化性樹脂で被覆されてその硬化性樹脂が硬化することにより、硬化性樹脂被覆層によって光ファイバ裸線の弾性ねじれが保持されるように構成したことを特徴とするものである。
【0034】
このような第9の形態の光ファイバ素線の製造装置によれば、固化した光ファイバ裸線に付与された弾性ねじれ(ツイスト)が、硬化した被覆層によって保持された光ファイバ素線、すなわち外力解放後も弾性ねじれが光ファイバ裸線部分に残る光ファイバ素線を製造することができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明の光ファイバ素線によれば、光ファイバ裸線部分の弾性ねじれ(ツイスト)が、外力を解放した状態でもその弾性ねじれの戻る方向の力に抗する被覆層の弾性反発力によって保持されるため、最終使用形態である光ケーブルなどの状態でも、ファイバ裸線部分の弾性ねじれを確実かつ安定して保持して、曲げや側圧などの外部的要因によるPMDの増加を、確実かつ安定して抑制することができる。
また本発明の光ファイバ素線の製造方法、製造装置によれば、上述のように曲げや側圧などの外部的要因によるPMDの増加を確実かつ安定して抑制し得る光ファイバ素線を、確実かつ容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の光ファイバ素線を製造するための装置の一例の全体構成を示す略解図である。
【図2】本発明の光ファイバ素線を製造するための装置に使用されるねじれ付与装置の一例を示す図で、(a)はその上方から見た平面図、(b)は正面図である。
【図3】本発明の光ファイバ素線を製造するための装置に使用されるねじれ付与装置の他の例を示す正面図である。
【図4】本発明の光ファイバ素線の製造過程における、被覆層硬化直後の段階の光ファイバ素線の一例の状況を模式的に示す部分切欠斜視図である。
【図5】本発明の光ファイバ素線について、外力を解放する際の状況を模式的に示す、光ファイバ素線の模式的な断面図である。
【図6】図4に示す光ファイバ素線について、被覆層硬化直後の段階での状態と外力解放後の状態とを比較して示す部分切欠斜視図で、(a)は被覆層硬化直後の段階での状態を、(b)は外力解放後の状態を示す。
【図7】本発明の光ファイバ素線の製造方法における、反転ねじれのプロファイルの一例を示すグラフである。
【図8】本発明の光ファイバ素線を製造するための装置の他の例の全体構成を示す略解図である。
【図9】比較例2において用いた光ファイバ素線製造装置を示す略解図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の各実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0038】
図1には本発明の光ファイバ素線を製造するための装置の一例を示す。
図1において、光ファイバ素線製造装置10は、例えば石英系ガラスなどからなる光ファイバ母材12を加熱溶融させるための紡糸用加熱炉14と、紡糸用加熱炉14から下方に向けて線状に引き出された光ファイバ裸線16を強制冷却して固化させるための冷却装置18と、冷却・固化された光ファイバ裸線16を、紫外線硬化性樹脂や熱硬化性樹脂などの保護被覆用の硬化性樹脂により被覆するための被覆装置20と、その被覆装置20により被覆された未硬化(液体状態)の硬化性樹脂を、紫外線照射や加熱などにより硬化させるための被覆硬化装置22と、保護被覆用の硬化性樹脂が硬化された状態で光ファイバ素線24にねじれを与えるためのねじれ付与装置26と、ねじれが付与された光ファイバ素線24を、ガイドプーリ28や図示しないダンサーローラを経て引き取るための図示しない引取装置と、最終的に光ファイバ素線を巻き取るための図示しない巻取装置とを備えた構成とされている。
【0039】
ここで、ねじれ付与装置26は、光ファイバ素線24に一定方向のねじれを連続して与える構成としたものであってもよいが、通常は、後に改めて説明するように、周期的にねじれの方向(時計方向かまたは反時計方向か)が反転されるように構成することが望ましい。その具体的構成は特に限定されるものではないが、例えば図2に示すようなねじれ付与装置(特許文献4の図11に示されるねじれ付与装置と同様のもの)、あるいは図3に示すようなねじれ付与装置(特許文献1の図2、特許文献4の図10に示されるねじれ付与装置と同様のもの)を適用すればよい。
【0040】
図2に示すねじれ付与装置26は、光ファイバ素線24をその両側から挟みながら回転する2組各一対のねじれ付与ローラ26Aa、26Ab;26Ba、26Bbによって構成されており、一方の組のねじれ付与ローラ26Aa、26Abの下流側に近接して、他方の組のねじれ付与ローラ26Ba、26Bbが前記一方の組のねじれ付与ローラ26Aa、26Abに対して90°ずれた位置に配置されている。そして各ねじれ付与ローラ26Aa、26Ab;26Ba、26Bbは、光ファイバ素線24をその両側から挟みながら、光ファイバ素線24の長さ方向(線引き方向)に直交する方向に対して所定の小角度だけ傾斜した軸線を中心として回転することによって、光ファイバ素線24にねじれを付与することができる。そして光ファイバ素線24に対する各ねじれ付与ローラ26Aa、26Ab;26Ba、26Bbの傾斜方向を反対方向に変えることによって、光ファイバ素線24に与えるねじれの方向を転換することができる。
【0041】
また図3に示すねじれ付与装置26は、光ファイバ素線24が外周上に巻きかけられて、線引き方向に対して傾斜する回転軸を中心として回転するねじれ付与ローラ26Cと、その下流側に配設された、線引き方向に対して直交する回転軸を中心として回転する固定位置ローラ26Dとからなるものであり、光ファイバ素線24がねじれ付与ローラ26Cの外周上を回転軸線方向に沿って転動することによって光ファイバ素線24にねじれが付与され、かつねじれ付与ローラ26Cの傾斜方向を反転させるように揺動させることによって、ねじれ方向を反転させることができる。
【0042】
なお、ねじれ付与装置26の設置位置は、冷却・固化された光ファイバ裸線16を保護被覆用の硬化性樹脂により被覆してその硬化性樹脂が硬化した後にねじれを付与するように定めることが望ましい。ただし、そのねじれ付与装置26よりも上流側には、光ファイバ素線24もしくは光ファイバ裸線16に接してねじれの伝達を阻止するような機構、部材が存在しないようにすることが望ましい。そして図1に示す光ファイバ素線製造装置では、これらの条件を満たすべく、ねじれ付与装置26を、被覆硬化装置22とガイドローラ28との間の位置に配置している。この場合、ねじれ付与装置26よりも上流側では、硬化性被覆樹脂以外は、光ファイバ素線24もしくは光ファイバ裸線16の表面に物理的に接触する部材が存在しないため、ねじれ付与装置26により付与されたねじれをその上流側に連続的かつ円滑に伝搬させて、本発明で目的とする弾性ねじれ(ツイスト)を付与することが可能となる。但し、ある程度の溝幅を有する平溝プーリなど、光ファイバの転動が許容されるような部材であれば、その部材が接してもねじれの伝搬を阻害するおそれが少なく、そのような部材がねじれ付与装置26よりも上流側に存在することは許容される。
【0043】
また被覆装置20により被覆する硬化性樹脂は、1層でもよいが、一般には、一次被覆層(プライマリ材料)と二次被覆層(セカンダリ材料)との2層構造とすることが多く、本発明の場合も、2層構造の樹脂被覆層を形成することが望ましい。すなわち、一次被覆層として、エポキシアクリレート樹脂やウレタンアクリレート樹脂などの紫外線硬化性樹脂あるいはシリコン樹脂などの熱硬化性樹脂からなり、かつ硬化後のヤング率が5MPa程度以下の低ヤング率(一般には常温でのヤング率が0.3〜1,5MPa)のものを用いることが望ましく、一方二次被覆層としては、エポキシアクリレート樹脂やウレタンアクリレート樹脂などの紫外線硬化性樹脂あるいは変性シリコン樹脂などの熱硬化性樹脂からなり、かつ硬化後のヤング率が100MPa程度以上の高ヤング率(一般には常温でのヤング率が300〜1500MPa)のものを用いることが望ましい。このように一次被覆層として低ヤング率のものを用いることにより、光ファイバ裸線に対して良好なクッション効果を示すとともに、光ファイバ裸線に対する被覆層の密着性を高めることができ、一方、二次被覆層として、高ヤング率のものを用いることにより、外部からの損傷や摩擦、側圧などに対して十分に耐え得るようになるが、特に本発明の光ファイバ素線の場合、光ファイバ裸線部分に対する密着性を高めると同時に被覆層全体の見かけ上のヤング率を高めることが、被覆層により光ファイバ裸線部分の弾性ねじれ(ツイスト)を保持する上で有利となり、その観点からも、上述のように硬化後のヤング率が異なる2層構造の被覆層を形成することが望ましい。
【0044】
なおこのような2層構造の被覆層を形成する場合の被覆方法および硬化方法としては、図1に示しているように、被覆装置20および被覆硬化装置22を1箇所のみに設けて、1基の被覆装置20により2層被覆を行なってその2層を3基の被覆硬化装置22により一括的に硬化させてもよく、あるいは後に説明する図8に示すように、被覆装置20および被覆硬化装置22をそれぞれ2箇所に設けて、一次被覆層の樹脂を被覆してそれを硬化させてから、二次被覆層の樹脂を被覆し、硬化させるようにしてもよい。
なおまた、光ファイバ裸線に硬化性樹脂を被覆する際の液体状態の樹脂の粘度も弾性ねじれ(ツイスト)の付与状況などに影響を与えるファクターであるが、それについては、後に項を改めて説明する。
【0045】
次に以上のような光ファイバ素線製造装置を用いて、本発明による弾性ねじれ(ツイスト)を付与した光ファイバ素線を製造する方法について説明する。
【0046】
上述のような光ファイバ素線製造装置によって光ファイバ素線を製造するにあたっては、光ファイバ裸線の原料となる石英系ガラス母材などの光ファイバ母材12を紡糸用加熱炉14において2000℃以上の高温に加熱して溶融させ、その紡糸用加熱炉14の下部から、高温状態で光ファイバ裸線16として伸長させながら下方に引き出し、その光ファイバ裸線16を、冷却装置18により冷却して固化させる。冷却装置18により所要の温度まで冷却されて固化した光ファイバ裸線16には、例えば2層コーティング用の被覆装置20において紫外線硬化性樹脂や熱硬化性樹脂などの2種類の硬化性樹脂が液体状態で一次被覆層、二次被覆層として被覆され、さらにそれらの被覆樹脂が、被覆硬化装置22において加熱硬化あるいは紫外線硬化などの樹脂の種類に応じた適宜の硬化手段により硬化され、2層の被覆層を備えた光ファイバ素線24となり、引き続き、例えば図2あるいは図3に示したようなねじれ付与装置26によって、所定のねじれTW1、TW2が付与されてから、ガイドプーリ28を経て図示しない引取装置によって所定速度で引き取られ、さらに図示しない巻取装置により巻き取られる。
【0047】
図1に示す装置において、ねじれ付与装置26により光ファイバ素線24に加えられたねじれTW1、TW2は、図1中の矢印Y1、Y2で示すように、ねじれ付与装置26の前後(上流側、下流側)に伝搬されていくが、ここでは、特に光ファイバ母材側(上流側)に伝搬していくねじれTW1について注目すると、そのねじれTW1は、被覆硬化装置22を経て被覆装置20を通り、さらにその上方の冷却装置18に向けて伝搬される。したがって、光ファイバ裸線16が冷却装置18により固化されてから、その裸線の外周上に被覆装置20により未硬化(液体状態)の硬化性樹脂が被覆され、さらにその被覆樹脂が被覆硬化装置22により硬化されるまでの間(図1の符号S1の領域付近)において、ねじれが加えられることになる。ここで光ファイバ裸線が固化してから加えられるねじれは、外力を解放すれば戻ってしまうねじれ、すなわち弾性ねじれ(ツイスト)となっている。一方、被覆樹脂の硬化後にねじれ付与装置26により光ファイバ素線24に加えられたねじれは、当然のことながら光ファイバ裸線部分と一体化された被覆層にも加えられるが、被覆装置20において液体状態で被覆されてからその樹脂が硬化するまでの間(図1の領域S2付近)においては、被覆樹脂は流動し得る状態であるため、弾性的な挙動はせず、したがってその間S2においては、被覆層には弾性ねじれが実質的に加えられないことになる。そして液体状態で光ファイバ裸線の外周上に被覆された樹脂が硬化する際に、それまでに加えられた光ファイバ裸線の弾性ねじれ(ツイスト)が、被覆層の樹脂によって固定される(保持される)ことになる。
【0048】
ここで、上述のような図1の装置により製造された光ファイバ素線24の製造過程における、被覆硬化装置22により被覆層が硬化された時点の段階での光ファイバ素線24の一例を、図4に模式的に示す。図4において、符号32Aは被覆層の一次被覆層、32Bは二次被覆層であり、また図4中の光ファイバ裸線16の外周上に描いた太い実線および破線は、付与されたねじれを表わしており、この図では、光ファイバ素線の製造時における下流側から見て時計方向のねじれが加えられて、光ファイバ裸線16の部分に、下側から見て時計方向のねじれを有する状態を示している。既に述べたように、被覆層32A、32Bは、光ファイバ裸線16の外周上に液体状態で被覆されてから硬化するまでの間は、弾性的な挙動を示さないから、図4に示す段階では、被覆層32A、32Bには実質的にねじれが与えられていない。但し、図4に示しているのは、次に説明するように、摩擦などの外力が解放されていない段階での光ファイバ素線であることに留意されたい。なおまた、被覆硬化装置22により被覆層が硬化されてからねじれ付与装置26に至る間においても光ファイバ素線にはねじれが加えられ、またねじれ付与装置26の下流側においても光ファイバ素線にねじれが加えられるが、これらの被覆層硬化後に加えられるねじれは、光ファイバ裸線部分および被覆層の両者に全体的に加えられる弾性ねじれであって、光ファイバ素線に対する摩擦などの外力が解放されれば、その分のねじれは解放されてしまい、外部的要因によるPMDの増加の抑制には確実ではなく、本発明の課題の解決に寄与しないから、ここではその詳細については説明を省略する。
【0049】
ところで、硬化した被覆樹脂は、光ファイバ裸線部分よりも軟質でその剛性が低いから、前述のように光ファイバ裸線が固化してから被覆樹脂が硬化するまでの間において光ファイバ素線に弾性ねじれを付与しても、その弾性ねじれをそのまま完全に被覆樹脂によって固定すること、すなわち外力が解放されたときのねじれの弾性力による戻りを被覆樹脂によって完全に防止することは困難である。すなわち、ねじれを付与した光ファイバ素線について、その後に摩擦力などの外力が解放されてしまえば、光ファイバ素線の内部の光ファイバ裸線部分の弾性戻り力によって樹脂被覆層がその戻り方向にねじられ、ファイバ裸線部分の弾性ねじれもある程度戻ってしまうことは避けられない。しかしながら、硬化した被覆樹脂も弾性を有しているから、光ファイバ裸線部分のねじれが戻る際に被覆樹脂層に加わる戻り方向のねじれも弾性ねじれとして機能し、この被覆樹脂層の弾性ねじれに対する反発力と、光ファイバ裸線部分のねじれの戻りの力とが釣り合った状態で、光ファイバ裸線部分のねじれの戻りが停止することになる。したがって、外力が開放されたときの光ファイバ裸線部分のねじれの戻りは100%行なわれるのではなく、被覆樹脂の弾性反発力によって必ずある程度の割合で光ファイバ裸線部分のねじれが残る。このようにして残留したねじれ分が、被覆樹脂によって保持、固定され、最終使用形態の製品においても弾性ねじれ(ツイスト)として機能する。
【0050】
上述のように光ファイバ素線に対する摩擦などの外力が解放される際の力のバランスとねじれとの関係について、図5に模式的に示し、また光ファイバ素線に対する摩擦などの外力が解放された後のフリー状態の光ファイバ素線のねじれの状況を、図6の(b)に模式的に示す。なお比較のため、図6の(a)には、被覆層が硬化された直後の段階でのねじれ状況を示す(図4と実質的に同じ)。この図6(a)、(b)において太い実線、太い破線は、それぞれねじれの状況を示している。但しこれらの図5、図6においては、説明の簡略化のため、被覆層としては1層のもの(符号32)を示している。
【0051】
図5において、光ファイバ素線に対する外力が解放される直前までは、光ファイバ裸線16の部分に例えば反時計方向の弾性ねじれTP1が与えられているが、外力が解放されてフリー状態となる際には、時計方向に弾性復帰力F1が働き、反時計方向の弾性ねじれTP1が減少する。これは、時計方向に光ファイバ裸線16がねじられることを意味する。それに伴って、光ファイバ裸線16に密着している被覆層32も、時計方向にねじられることになる(ねじれTP2)。このとき、被覆層32も弾性を有しているため、時計方向ねじれTP2に対して反対方向(反時計方向)の弾性反発力F2が発生する。そして被覆層32の反時計方向の弾性反発力F2と、前述の光ファイバ裸線16の時計方向の弾性反発力F1とが釣り合った状態で、光ファイバ裸線16の部分の弾性ねじれTP1が保持される。したがって光ファイバ素線に対する摩擦などの外力が解放された後のフリー状態の光ファイバ素線においては、図6の(b)に示しているように、光ファイバ裸線16の部分と被覆層32の部分とでは、逆方向のねじれTP1、TP2が存在しており、光ファイバ裸線16の部分のねじれTP1は、被覆層硬化直後の段階でのねじれ(図6(a)の太い実線、破線)よりも小さい状態で残留していることになる。
【0052】
ここで、硬化した被覆樹脂のヤング率は、一般に光ファイバガラスと比較してかなり低いが、ゼロではないから、外力解放時の光ファイバ裸線部分のねじれの戻りに伴う樹脂被覆層のねじれによる弾性反発力は必ず発生し、したがって上述のように反発力が釣り合った状態で、光ファイバ裸線部分の弾性ねじれが残留するのである。
一般的な光ファイバに使用されている2層構造の被覆層では、一次被覆層の樹脂(プライマリ材料)としては常温でのヤング率が0.3〜1.5MPa程度のものが用いられ、二次被覆層の樹脂(セカンダリ材料)としては常温でのヤング率が300〜1500MPa程度のものが用いられており、また光ファイバ裸線部分の径は125μm程度、被覆層の外径は、一次被覆層(プライマリ層)の外径は170〜210μm程度、二次被覆層(セカンダリ層)の外径は230〜260μm程度であり、このような光ファイバ素線について、前述のようにして弾性ねじれを付与し、その後外力を解放した状態で残留する光ファイバ裸線部分の弾性ねじれを調べたところ、付与したねじれの20〜30%程度の弾性ねじれが残ることが確認されている。
【0053】
また、ねじれ付与装置により光ファイバ素線に加えるねじれは、一方向に連続するものであってもよいが、既に述べたように、ねじれ方向を、時計方向、反時計方向に周期的に反転させることが、外部的要因によるPMDの増加抑制に対してより有効となる。
【0054】
このようにねじれ方向を周期的に反転させる場合、被覆装置で被覆する際の液体状態の被覆樹脂の粘度は、2層被覆の各被覆層を含め、0.1〜3Pa・secの範囲内であることが望ましい。被覆時の液体状態の樹脂の粘度が0.1Pa・sec未満では、粘度が低すぎるため、均一にコーティングして均一な膜厚の被覆層を得ることが困難となり、光ファイバ素線の被覆外径の変動量が±2μmを越えてしまい、光ファイバ素線として不良品となってしまうおそれがある。一方被覆時の液体状態の樹脂の粘度が3Pa・secを越えれば、ねじれ付与装置からその上流側へのねじれの伝搬に対して被覆樹脂の粘性が抵抗として作用し、その結果ねじれ付与装置と被覆装置との間でねじれが溜まる現象が顕著となってしまい、それに伴って被覆硬化装置と被覆装置との間へのねじれの伝搬も遅くなってしまう傾向を示す。その場合、ある方向(例えば時計方向)のねじれが被覆硬化装置と被覆装置との間で被覆層によって確実に保持される以前に、反対方向(例えば反時計方向)のねじれが伝搬されてきて、時計方向のねじれが戻されてしまい、結果的に被覆層硬化後に残るねじれが少なくなってしまうか、またはねじれがほぼ完全に消失してしまうおそれがある。したがって、ねじれ方向を周期的に反転させる場合には、被覆時の液体状態の樹脂の粘度を、上記のような適切な範囲内に調整することが望まれる。
【0055】
また前述のようにねじれ方向を周期的に反転させる場合、光ファイバ素線の長手方向の距離に対するねじれ角度(もしくは累積ねじれ角度)を、反転ねじれプロファイルとして描くことができ、その反転ねじれプロファイルの波形は、一般には正弦波状とすればよいが、その他、三角波状、あるいは台形波状など、特に限定されるものではない。正弦波を採用した場合の反転ねじれプロファイルの一例を図7に示す。図7において、実線は光ファイバ素線の長手方向の距離に対するねじれ角(単位長さあたりのねじれ角度)の推移を示し、破線は光ファイバ素線の長手方向の距離に対する累積ねじれ角度の推移を示す。
【0056】
ここで、反転ねじれプロファイルにおいて、ねじれの反転周期(ある方向、たとえば時計方向へのねじれが開始されて、その時計方向でのねじれが付与された後、ねじれ方向が反転されて、反時計方向にねじれが付与され、その反時計方向のねじれが終了するまでの、光ファイバ素線上での長さ)Tは、5〜30mの範囲内が好ましい。ねじれの反転周期Tが5m未満では、時計方向のねじれと反時計方向のねじれが伝搬中に相殺されやすくなるおそれがあり、一方ねじれの反転周期Tが30mを越えれば、より多くのねじれを加えなければ外部的要因によるPMDの増加の抑制効果が得られなくなるおそれがある。
【0057】
さらに、反転ねじれプロファイルにおいて、累積ねじれ角の最大振幅MA(図7参照)は、500×T〜4000T(°)の範囲内が望ましい。累積ねじれ角の最大振幅MAが500×T(°)未満では、光ファイバ素線に対する外力を解放した後に残留する光ファイバ裸線部分の弾性ねじれが少なくなって、外部的要因によるPMDの増加を抑制する効果が少なくなってしまう。一方、累積ねじれ角の最大振幅MAが4000×T(°)を越えれば、光ファイバ素線に対する外力を解放したときに光ファイバ裸線部分から被覆層に加えられる応力が大きすぎて、光ファイバ裸線部分と被覆層との間に剥離が生じたり、被覆層に割れが発生したりするおそれがある。
【0058】
図8には、本発明の光ファイバ素線を製造するための装置の別の実施形態を示す。この図8に示す光ファイバ素線製造装置は、2層構造の被覆層を有する光ファイバ素線を製造するために、被覆装置および被覆硬化装置を、それぞれ2箇所に設置したものである。すなわち、紡糸用加熱炉14から引き出された光ファイバ裸線16を冷却、固化させるための冷却装置18の直下に一次被覆装置20Aを設置し、さらにその下流側に一次被覆硬化装置22Aを設置して、先ず一次被覆層の被覆、硬化を行い、さらに一次被覆硬化装置の下流に二次被覆装置20Bおよび二次被覆硬化装置22Bをその順に設置して、一次被覆層上に改めて二次被覆層の被覆、硬化を行い、その下流でねじれ付与装置26によりねじれを付与するように構成している。このように2層構造の被覆層を有する光ファイバ素線を製造するにあたって、2箇所で別々に被覆層を被覆、硬化する場合も、ねじれの付与、保持および残留については、図1に基づいて説明したものと同様であり、またその望ましい条件についても前記と同様である。
【0059】
以下に本発明の実施例を、比較例とともに説明する。なお以下の実施例は、本発明の作用効果を明確化するためのものであって、実施例に記載された条件が本発明の技術的範囲を限定しないことはもちろんである。
【0060】
〔実施例1〕
図1に示すような光ファイバ素線製造装置を用い、かつその製造装置内におけるねじれ付与装置として図3に示すような装置を用い、一般的なシングルモードファイバの特性を有する2層被覆構造の石英ガラス系光ファイバ素線を製造するにあたり、本発明に従って弾性ねじれ(ツイスト)を付与した光ファイバ素線を製造した。光ファイバ母材からの紡糸速度(線引き速度)は、2000mm/minとした。また被覆装置は、1箇所で2種類の被覆樹脂をコーティングする2層同時コーティング方式(wet on wet方式)を適用した。一次被覆層の樹脂(プライマリ材料)としては、UV硬化型ウレタンアクリレート系樹脂(硬化時のヤング率0.5MPa)を用い、二次被覆層の樹脂(セカンダリ材料)としては、UV硬化型ウレタンアクリレート系樹脂(硬化時のヤング率1000MPa)を用いた。またこれらの被覆時の液体樹脂の粘度は、ともに1Pa・secとし、被覆装置により塗布後、被覆硬化装置としてのUVランプによって硬化させた。ねじれは、被覆硬化装置によって被覆樹脂が硬化した直後に与えた。なおねじれ付与装置よりも上流側には、被覆樹脂以外は、光ファイバ素線に物理的に接触するものがないような状態で線引きした。
【0061】
ここで、ねじれ付与装置により光ファイバ素線に付与するねじれは、そのプロファイルとして、ねじれ方向を周期的に逆転させる正弦波とし、周期Tが20m、累積ねじれ角の最大振幅MAが10000°となるようにねじれ付与装置の揺動角度、揺動速度の設定を行なった。ねじれ付与装置を通過後の光ファイバ素線は、ガイドプーリを経て引取機によって引き取り、さらにダンサープーリを経て巻取機により巻き取り、光ファイバ裸線部分に弾性ねじれ(ツイスト)が付与されている光ファイバ素線を得た。なお仕上がった光ファイバ素線は、裸線の直径125μm、被覆外径のプライマリ径(一次被覆層外径)は200μm、セカンダリ径(二次被覆層外径)は250μmであった。
【0062】
以上のようにして製造されて巻き取られた実施例1の光ファイバ素線について、プーリなど、摩擦抵抗などの外力が加わる部材に接しない距離(フリー長)を30m確保しながら、巻き返し装置により巻き返して、光ファイバ素線に加えられているねじれを解放させ、サンプルとした。そのサンプルについて、400mmφの鉄製ボビンに、巻き張力200gfで、1000mの長さを、ファイバ同士が重ならないように1層で強制的に巻き付けることにより、光ファイバ素線に意図的に側圧を加えた。すなわち外部的要因によりPMDが生じやすい条件とした。その後、ファイバ温度の安定化のため1時間以上放置してから、PMD測定を実施した。PMD測定には、ヒューレットパッカード製のHP8509B測定器を使用し、JME法(Jones Matrix Eigenanalysis法)により行なった。測定波長は1510〜1600nmとし、2nmステップでスキャンした。その結果、側圧付加時のPMD値(PMD1)として、0.05ps/√kmと、極めて小さい値が得られた。一方、同一素線をフリーコイル状態(側圧除去状態)として、上記と同様の条件で再度PMDを測定したところ、フリー状態のPMD値(PMD2)として、0.02ps/√kmの値が得られた。ここで、PMD1とPMD2との差分(0.03ps/√km)が、側圧付加によるPMD増加分、すなわち外部的要因によるPMD増加分とみなすことができる。
このように側圧付加時(外部的要因)のPMD増加が著しく少ないことは、素線製造過程中で付加したねじれが、前述の巻き返しによってフリー状態(外力解放状態)となった後にも、かなりの割合で被覆層により保持されて弾性ねじれ(ツイスト)として残留し、その残留弾性ねじれによって、側圧付加時(外部的要因)のPMD増加を抑制できたもの、と解される。
【0063】
〔比較例1〕
弾性ねじれ(ツイスト)を付与しないこと以外は、実施例1と同様にして光ファイバ素線を製造した。そして実施例1と同様に、意図的に側圧を付与した状態、および側圧を除去したフリーコイル状態での、それぞれのPMD値を測定した。側圧を付与した状態でのPMD値(PMD1)は、0.62ps/√kmと、著しく高い値となってしまった。なお側圧除去状態(フリー状態)でのPMD値(PMD2)は、実施例1と同様に0.02ps/√kmであった。この場合のPMD1とPMD2との差分、すなわち側圧付加の外部的要因によるPMD増加分は、0.60ps/√kmと大きな値であった。
【0064】
上記のように弾性ねじれを付与した実施例1と、弾性ねじれを付与しない比較例1とを比較すれば、側圧付加時のPMD1は、比較例1の場合よりも実施例1の方が格段に小さく、PMD1とPMD2との差分(側圧付加によるPMD増加分)も、実施例1の方が比較例1よりも格段に小さい。このことから、比較例1では、弾性ねじれを付与しなかったために外部的要因によるPMD増加が大きくなってしまったのに対して、実施例1では、前述のように弾性ねじれを付与して、外力(側圧)解除後も弾性ねじれが保持されることによって、外部的要因によるPMDの増加を、きわめてわずかな量に抑えることができたことが明らかである。
【0065】
〔比較例2〕
図9に示すように、ねじれ付与装置26を引取キャプスタン36の下流に設置して、引取キャプスタン36を通過した後の光ファイバ素線24にねじれを付与した。その他の点は実施例1と同様である。製造された光ファイバ素線について、実施例1と同様に巻き返して、光ファイバ素線に加えられているねじれを解放させ、サンプルとした。そのサンプルについて、実施例1と同様に、意図的に側圧を付与した状態、および側圧を除去したフリーコイル状態での、それぞれのPMD値を測定した。側圧を付与した状態でのPMD値(PMD1)は、0.58ps/√kmと、著しく高い値となってしまった。なお側圧除去状態(フリー状態)でのPMD値(PMD2)は、0.016ps/√kmであった。この場合のPMD1とPMD2との差分、すなわち側圧付加の外部的要因によるPMD増加分は、約0.56ps/√kmであった。このように比較例2の場合は、PMD1値が比較例1と近い値となり、PMD1とPMD2との差分、すなわち外部的要因によるPMDの増加分も、比較例1に近い大きな値となってしまった。このことは、比較例2による光ファイバ素線では、その製造過程でねじれを付加しながらも、外部的要因によるPMDの増加の抑制が、十分に行なわれなかったことを意味する。これは、引取キャプスタン36の下流側でねじれを付加したため、引取キャプスタン36がねじれの伝搬に対する抵抗となって、そのねじれが引取キャプスタン36よりも上流側に十分に伝搬されず、そのため引取キャプスタン36の上流側に位置する被覆装置20から被覆硬化装置22の間付近では光ファイバ裸線にねじれが付与されず、結果的に光ファイバ素線に残留する弾性ねじれがほぼ零に近くなってしまったためと解される。
【0066】
〔実施例2〕
図8に示すような光ファイバ素線製造装置を用い、かつその製造装置内におけるねじれ付与装置26として図3に示すような装置を用い、一般的なシングルモードファイバの特性を有する石英ガラス系光ファイバ素線を製造するにあたり、本発明に従って弾性ねじれ(ツイスト)を付与した2層被覆構造の光ファイバ素線を製造した。光ファイバ母材からの紡糸速度(線引き速度)は、1500mm/minとした。被覆―硬化方式としては、図8に示しているように、2箇所でそれぞれ別の被覆樹脂をコーティングする方式(wet on dry方式)を適用した。一次被覆層の樹脂(プライマリ材料)としては、UV硬化型ウレタンアクリレート系樹脂(硬化時のヤング率1.0MPa)を用い、二次被覆層の樹脂(セカンダリ材料)としては、UV硬化型ウレタンアクリレート系樹脂(硬化時のヤング率500MPa)を用いた。またこれらの被覆時の液体樹脂の粘度は、プライマリ材料は3Pa・sec、セカンダリ材料は0.1Pa・secとし、一次被覆装置20Aにより液体状態のプライマリ材料を被覆した後、一次被覆硬化装置22AとしてのUVランプによって硬化させてから、二次被覆装置20Bによりセカンダリ材料を被覆して、二次被覆硬化装置22BとしてのUVランプによって硬化させた。ねじれは、二次被覆硬化装置22Bによってセカンダリ材料が硬化した直後に与えた。なおねじれ付与装置26よりも上流側については、被覆樹脂以外は光ファイバ素線に物理的に接触するものがないような状態で線引きした。
【0067】
ここで、ねじれ付与装置26により光ファイバ素線24に付与するねじれは、そのプロファイルとして、ねじれ方向を周期的に反転させる三角波とし、周期Tが5m、累積ねじれ角の最大振幅MAが2500°となるように、ねじれ付与装置の揺動角度、揺動速度の設定を行なった。ねじれ付与装置26を通過後の光ファイバ素線24は、ガイドプーリ28を経て図示しない引取機によって引き取り、さらにダンサープーリを経て巻取機により巻き取った。仕上がった光ファイバ素線は、裸線の直径125μm、被覆外径のプライマリ径(一次被覆層外径)は190μm、セカンダリ径(二次被覆層外径)は240μmであった。
【0068】
以上のようにして製造されて巻き取られた実施例2の光ファイバ素線について、プーリなどの部材に物理的に接しない距離(フリー長)を10m確保しながら、巻き返し装置により巻き返して、光ファイバ素線に加えられているねじれを解放させ、サンプルとした。そのサンプルについて、実施例1と同様に光ファイバ素線に意図的に側圧を加えた。すなわち外部的要因によりPMDが生じやすい条件とし、実施例1と同様にしてPMD測定を実施した。その結果、側圧付加時のPMD値(PMD1)として、0.08ps/√kmと、極めて小さい値が得られた。一方、同一素線をフリーコイル状態(側圧除去状態)として、上記と同様の条件で再度PMDを測定したところ、フリー状態のPMD値(PMD2)として、0.01ps/√kmの値が得られた。ここで、PMD1とPMD2との差分は、0.07ps/√kmときわめて小さい値に抑えることができた。したがって2層被覆構造の光ファイバ素線を製造する場合に、2箇所で被覆、硬化を行なっても、側圧付加、すなわち外部的要因によるPMD増加が著しく少ない光ファイバ素線が得られることが確認された。
【0069】
〔実施例3〕
実施例2と同様にして、弾性ねじれ(ツイスト)を付加しながら、2層被覆構造の光ファイバ素線を製造した。被覆樹脂の被覆時(液体状態)の粘度は、実施例2と同じくプライマリ材料は3Pa・sec、セカンダリ材料は0.1Pa・secとした。ねじれ付与装置により光ファイバ素線に付与するねじれは、そのプロファイルとして、ねじれ方向を周期的に逆転させる台形波とし、周期Tが30m、累積ねじれ角の最大ねじれ角MAが120000°となるようにねじれ付与装置の揺動角度、揺動速度の設定を行なった。ねじれ付与装置を通過後の光ファイバ素線は、引取機によって引き取り、さらにダンサープーリを経て巻取機により巻き取った。仕上がった光ファイバ素線は、裸線の直径125μm、被覆外径のプライマリ径は180μm、セカンダリ径は260μmであった。
【0070】
以上のようにして製造されて巻き取られた実施例3の光ファイバ素線について、プーリなどの部材に物理的に接しない距離(フリー長)を40m確保しながら、巻き返し装置により巻き返して、光ファイバ素線に加えられているねじれを解放させ、サンプルとした。そのサンプルについて、実施例1と同様に光ファイバ素線に意図的に側圧を加えた。すなわち外部的要因によりPMDが生じやすい条件とし、実施例1と同様にしてPMD測定を実施した。その結果、側圧付加時のPMD値(PMD1)として、0.06ps/√kmと、極めて小さい値が得られた。一方、同一素線をフリーコイル状態(側圧除去状態)として、上記と同様の条件で再度PMDを測定したところ、フリー状態のPMD値(PMD2)として、0.03ps/√kmの値が得られた。ここで、PMD1とPMD2との差分は、0.03ps/√kmときわめて小さい値に抑えることができた。したがってこの実施例3により得られた光ファイバ素線も、側圧付加、すなわち外部的要因によるPMD増加著しく小さく抑え得ることが確認された。
【0071】
〔比較例3〕
実施例3と同様にして、弾性ねじれ(ツイスト)を付加しながら、2層被覆構造の光ファイバ素線を製造した。被覆樹脂の被覆時の粘度は、プライマリ材料は3.5Pa・sec、セカンダリ材料は0.5Pa・secとした。ねじれ付与装置により光ファイバ素線に付与するねじれは、そのプロファイルとして、ねじれ方向を周期的に逆転させる三角波とし、周期Tが5m、累積ねじれ角の最大振幅MAが2500°となるようにねじれ付与装置の揺動角度、揺動速度の設定を行なった。ねじれ付与装置を通過後の光ファイバ素線は、引取機によって引き取り、さらにダンサープーリを経て巻取機により巻き取った。仕上がった光ファイバ素線は、裸線の直径125μm、被覆外径のプライマリ径は180μm、セカンダリ径は260μmであった。
【0072】
以上のようにして製造されて巻き取られた比較例3の光ファイバ素線について、プーリなどの部材に物理的に接しない距離(フリー長)を10m確保しながら、巻き返し装置により巻き返して、光ファイバ素線に加えられているねじれを解放させ、サンプルとした。そのサンプルについて、実施例1と同様に光ファイバ素線に意図的に側圧を加えた。すなわち外部的要因によりPMDが生じやすい条件とし、実施例1と同様にしてPMD測定を実施した。その結果、側圧付加時のPMD値(PMD1)は、0.25ps/√kmと、弾性ねじれ(ツイスト)を付加しない場合よりは小さいが、実施例3の場合よりも大きい値となった。なお同一素線をフリーコイル状態(側圧除去状態)として、上記と同様の条件で再度PMDを測定したところ、フリー状態のPMD値(PMD2)として、0.025ps/√kmの値が得られた。ここで、PMD1とPMD2との差分は、約0.22ps/√kmと、比較例1や比較例2の場合よりは少ないものの、実施例3の場合よりは大きい値となった。これは、一次被覆層の樹脂(プライマリ材料)の被覆時の粘度が高かったため、ねじりの伝搬およびねじれ方向の反転が阻害され、UV照射によるプライマリ材料の硬化前にねじれが相殺され、結果的に被覆後の光ファイバ素線に残留するねじれが少なくなってしまったものと解される。
【0073】
〔比較例4〕
実施例3と同様にして、弾性ねじれ(ツイスト)を付加しながら、2層被覆構造の光ファイバ素線を製造した。被覆時における液体状態の樹脂の粘度は、プライマリ材料は2.0Pa・sec、セカンダリ材料は0.05Pa・secとした。ねじれ付与装置により光ファイバ素線に付与するねじれは、そのプロファイルとして、ねじれ方向を周期的に反転させる三角波とし、周期Tが5m、累積ねじれ角の最大振幅MAが2500°となるようにねじれ付与装置の揺動角度、揺動速度の設定を行なった。ねじれ付与装置を通過後の光ファイバ素線は、引取機によって引き取り、さらにダンサープーリを経て巻取機により巻き取った。仕上がった光ファイバ素線は、裸線の直径125μm、被覆層の一次被覆層外径(プライマリ径)は180μm、二次被覆層外径(セカンダリ径)は260μmであったが、二次被覆層の外径(セカンダリ径)の変動が±5μmと著しく大きくなってしまった。これは、二次被覆層の樹脂(セカンダリ材料)の液体状態での粘度が低いため、コーティングが安定しなかったことが原因である。このような光ファイバ素線は、実用には不適当であるため、PMDの評価は実施しなかった。
【0074】
〔比較例5〕
実施例1と同様にして、弾性ねじれ(ツイスト)を付加しながら、2層被覆構造の光ファイバ素線を製造した。但し、ねじれ付与のプロファイルは実施例1とは異ならしめた。すなわち、ねじれ付与装置により光ファイバ素線に付与するねじれは、そのプロファイルとして、ねじれ方向を周期的に逆転させる正弦波とし、周期Tが3m、累積ねじれ角の最大振幅MAが1500°となるように、ねじれ付与装置の揺動角度、揺動速度の設定を行なった。ねじれ付与装置を通過後の光ファイバ素線は、引取機によって引き取り、さらにダンサープーリを経て巻取機により巻き取った。仕上がった光ファイバ素線は、裸線の直径125μm、被覆外径のプライマリ径は200μm、セカンダリ径は250μmであった。
【0075】
以上のようにして製造された比較例5の光ファイバ素線について、プーリなどの部材に物理的に接しない距離(フリー長)を10m確保しながら、巻き返し装置により巻き返して、光ファイバ素線に加えられているねじれを解放させ、サンプルとした。そのサンプルについて、実施例1と同様に、意図的に側圧を加えた。すなわち外部的要因によりPMDが生じやすい条件として、PMD測定を実施した。その結果、側圧付加時のPMD値(PMD1)は、0.4ps/√kmと、比較例1、比較例2の場合よりは小さいものの、比較的大きな値となってしまった。なお同一素線をフリーコイル状態(側圧除去状態)として、上記と同様の条件で再度PMDを測定したところ、フリー状態のPMD値(PMD2)は、0.02ps/√kmであった。ここで、側圧付加時のPMD値(PMD1)が比較的大きい値となってしまったのは、光ファイバ素線に付与するツイストの周期が比較的短く、そのため付与したツイストが一部解放されて、残留するねじれが少なくなってしまったためと考えられる。但しこの場合でも、ツイストを全く付加しない場合よりも、側圧付加時のPMD値(PMD1)の増加分が少ないことはもちろんである。
【0076】
〔比較例6〕
実施例1と同様にして、弾性ねじれ(ツイスト)を付加しながら、2層被覆構造の光ファイバ素線を製造した。但し、ねじれのプロファイルは実施例1とは異ならしめた。すなわち、ねじれ付与装置により光ファイバ素線に付与するねじれは、そのプロファイルとして、ねじれ方向を周期的に逆転させる正弦波とし、周期Tを15m、累積ねじれ角の最大振幅MAが65000°となるようにねじれ付与装置の揺動角度、揺動速度の設定を行なった。ねじれ付与装置を通過後の光ファイバ素線は、引取機によって引き取り、さらにダンサープーリを経て巻取機により巻き取った。仕上がった光ファイバ素線は、裸線の直径125μm、被覆外径のプライマリ径は200μm、セカンダリ径は250μmであった。
【0077】
以上のようにして製造された比較例6の光ファイバ素線について、プーリなどの部材に物理的に接しない距離(フリー長)を30m確保しながら、巻き返し装置により巻き返して、光ファイバ素線に加えられているねじれを解放させ、サンプルとした。そのサンプルについて、実施例1と同様に、意図的に側圧を加えた。すなわち外部的要因によりPMDが生じやすい条件として、PMD測定を実施した。その結果、側圧付加時のPMD値(PMD1)は、0.04ps/√kmと低い値となった。なお同一素線をフリーコイル状態(側圧除去状態)として、上記と同様の条件で再度PMDを測定したところ、フリー状態のPMD値(PMD2)は、0.02ps/√kmであった。このように、比較例6でも側圧付加時のPMDの低減に有効であったが、光ファイバ素線を恒温槽に入れて−40℃〜+80℃のヒートサイクル試験を行なった後、被覆層を観察したところ、被覆層に割れが発生していることが認められた。これは、光ファイバに付与するねじれ量が大きすぎたため、被覆層に加わる応力が過大となり、割れの発生を招いてしまったためと解される。
【符号の説明】
【0078】
10 光ファイバ素線製造装置
12 光ファイバ母材
14 紡糸用加熱炉
16 光ファイバ裸線
18 冷却装置
20 被覆装置
22 被覆硬化装置
24 光ファイバ素線
26 ねじれ付与装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバ裸線が硬化性樹脂からなる被覆層によって被覆されてなる光ファイバ素線において;
前記光ファイバ裸線の部分に、弾性ねじれが与えられており、かつその光ファイバ裸線部分の弾性ねじれが、そのねじれの戻る方向の力に抗する被覆層の弾性反発力によって保持されていることを特徴とする光ファイバ素線。
【請求項2】
請求項1に記載の光ファイバ素線において;
前記光ファイバ裸線の部分の弾性ねじれとして、その長手方向の所定長さ置きに、交互に逆方向のねじれが与えられていることを特徴とする光ファイバ素線
【請求項3】
請求項1および請求項2のいずれかの請求項に記載の光ファイバ素線において;
前記被覆層が、相対的にヤング率が低い樹脂からなる一次被覆層と、相対的にヤング率が高い樹脂からなる二次被覆層とによって構成されていることを特徴とする光ファイバ素線。
【請求項4】
光ファイバ母材を加熱溶融して、所定の径の光ファイバ裸線を引き出し、その光ファイバ裸線が固化してからその外周上を液体状態の硬化性樹脂で被覆し、さらにその樹脂を硬化させて光ファイバ素線としてから、ねじれ付与装置により光ファイバ素線にねじれを付与し、ねじれ付与後に光ファイバ素線を引き取る方法であって、
前記ねじれ付与装置により光ファイバ素線に付与されたねじれが、ねじれ付与装置の上流側に伝搬されて、樹脂被覆前でかつ固化後の光ファイバ裸線に弾性ねじれが付与されるとともに、その弾性ねじれが付与された状態の光ファイバ裸線が、液体状態の硬化性樹脂で被覆されてその被覆樹脂が硬化することにより、被覆層によって光ファイバ裸線の弾性ねじれが保持されるようにしたことを特徴とする、請求項1〜3のうちのいずれかの請求項に記載の光ファイバ素線を製造するための、光ファイバ素線の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の光ファイバ素線の製造方法において;
前記ねじれ付与装置よりも上流側に、光ファイバ素線のねじれの伝搬を阻止する部材が存在しない状態でねじれを付与することを特徴とする、光ファイバ素線の製造方法。
【請求項6】
請求項4、請求項5のいずれかの請求項に記載の光ファイバ素線の製造方法において;
前記ねじれ付与装置により光ファイバ素線にねじれを付与するにあたり、ねじれの方向を周期的に反転させることを特徴とする、光ファイバ素線の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の光ファイバ素線の製造方法において;
前記ファイバ裸線に硬化性樹脂を被覆するにあたり、その液体状態の樹脂の被覆時の粘度を、0.1〜3Pa・secの範囲内とすることを特徴とする、光ファイバ素線の製造方法。
【請求項8】
請求項6、請求項7のいずれかの請求項に記載の光ファイバ素線の製造方法において;
光ファイバ素線に付与するねじれの反転周期Tを、光ファイバ素線の長手方向の距離に関して、5〜30mの範囲内とし、かつその反転ねじれプロファイルとして、累積ねじれ角の最大振幅を、500×T(°)〜4000×T(°)の範囲内とすることを特徴とする、光ファイバ素線の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜請求項3のうちのいずれかの請求項に記載の光ファイバ素線を製造するための装置において、
光ファイバ母材を加熱溶融させるための紡糸用加熱炉と、紡糸用加熱炉から下方に向けて線状に引き出された光ファイバ裸線を強制冷却して固化させるための冷却装置と、冷却・固化された光ファイバ裸線を、保護被覆用の硬化性樹脂により被覆するための被覆装置と、その被覆装置により被覆された未硬化の硬化性樹脂を硬化させるための被覆硬化装置と、その硬化性樹脂が硬化された状態で光ファイバ素線にねじれを与えるためのねじれ付与装置と、ねじれが付与された光ファイバ素線を引き取るための引取装置とを有し、前記ねじれ付与装置により光ファイバ素線に付与されたねじれが、ねじれ付与装置の上流側に伝搬されて、樹脂被覆前でかつ光ファイバ裸線固化後の光ファイバ裸線に弾性ねじれが付与されるとともに、その弾性ねじれが付与された状態の光ファイバ裸線が、液体状態の硬化性樹脂で被覆されてその硬化性樹脂が硬化することにより、硬化性樹脂被覆層によって光ファイバ裸線の弾性ねじれが保持されるように構成したことを特徴とする、光ファイバ素線の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−168310(P2012−168310A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−28387(P2011−28387)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】