説明

光ファイバ素線の製造方法及びその製造方法により得られた光ファイバ素線

【課題】効率的な生産性を維持しつつ、良好な密着性を有する光ファイバ素線を得ることができる光ファイバ素線の製造方法及びその製造方法により得られた光ファイバ素線を提供する。
【解決手段】加熱溶融したガラス母材を線引きして得た光ファイバを、シランカップリング剤を含む樹脂組成物により被覆する光ファイバ素線の製造方法であって(a)炉内でガラス母材を加熱溶融し、該ガラス母材を線引きして光ファイバを得る工程、(b)得られた光ファイバを冷却し、酸性付与物質を塗布する工程、及び、(c)酸性付与物質を塗布した光ファイバに樹脂組成物をコーティングし、硬化させる工程を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石英ガラスからなる光ファイバの外周に樹脂組成物をコーティングして被覆層を形成する光ファイバ素線の製造方法及びそれにより得られた光ファイバ素線に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ素線は、通常、石英系ガラスからなる光ファイバに樹脂層が被覆された構造を有する。一般的に、このような光ファイバ素線の製造は、炉内で加熱溶融した石英系ガラス母材を線引きして光ファイバを形成した後、樹脂を入れたコーティングダイスに当該光ファイバを通す方法等によってその外周に硬化性樹脂組成物を塗布し、硬化することで行われる。
【0003】
このように、線引き後の光ファイバは樹脂組成物でコーティングされるが、光ファイバの温度が高すぎると樹脂組成物を塗布することが困難であるため、通常、樹脂組成物の塗布前に冷却工程が置かれている。例えば特許文献1では、線引き後の光ファイバを効率よく冷却する方法や、そのための光ファイバ冷却装置が提案されている。
【0004】
一方、光ファイバ素線においては、被覆樹脂層と光ファイバとの界面密着力が要求される。そのため、樹脂組成物にシランカップリング剤を添加し、光ファイバのガラス表面との密着性を向上させることが行われている(例えば特許文献2)。

【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−250292号公報
【特許文献2】特開昭59−92947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的とするところは、効率的な生産性は維持しつつ、ガラスと樹脂被覆層との密着性が良好な光ファイバ素線を得ることができる光ファイバ素線の製造方法及びその製造方法により得られた光ファイバ素線を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の発明者らは、樹脂組成物中のシランカップリング剤が、加水分解反応及び脱水縮合反応をすることによって光ファイバのガラス表面に保護層を形成することに着目した。そして、これらの加水分解反応及び脱水縮合反応共に、図2に示すように酸及び塩基側で反応速度が大きくなるという知見を得、密着性を向上させるために、塗布用に供する樹脂組成物を酸性とすることを検討した。
【0008】
しかしながら、樹脂組成物は酸性にすると粘度が非常に高くなり、例えば、当該樹脂を入れたコーティングダイスに光ファイバを通して塗布を試みた場合、塗布時に樹脂が切れてしまうため光ファイバに一様に塗布できないという不具合が見られた。そこで、本発明の発明者は、樹脂組成物自体を酸性とするのではなく、塗布面である光ファイバの表面を酸性にすることを見出した。
本発明は、上記知見に基づいて達成されたものである。
【0009】
即ち、本発明は以下の通りである。
[1]加熱溶融したガラス母材を線引きして得た光ファイバを、シランカップリング剤を含む樹脂組成物により被覆する光ファイバ素線の製造方法であって、
(a)炉内でガラス母材を加熱溶融し、該ガラス母材を線引きして光ファイバを得る工程;
(b)得られた光ファイバを冷却し、酸性付与物質を塗布する工程;及び、
(c)酸性付与物質を塗布した光ファイバに樹脂組成物をコーティングし、硬化させる工程
を含むことを特徴とする光ファイバ素線の製造方法。
【0010】
[2]前記酸性付与物質を塗布する工程では、酢酸又はギ酸を含む液を噴霧することを特徴とする前記[1]に記載の光ファイバ素線の製造方法。
【0011】
[3]前記[1]又は[2]に記載の光ファイバ素線の製造方法により製造されたことを特徴とする光ファイバ素線。
【発明の効果】
【0012】
本発明の光ファイバ素線の製造方法によれば、線引きして得た光ファイバの表面に酸性付与物質を塗布することにより、効率的な生産性は維持しつつ、ガラスと被覆樹脂層の密着性が良好な光ファイバ素線を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の光ファイバ素線の製造方法に係る装置の一例を示す模式図である。
【図2】シランカップリング剤の加水分解反応及び脱水縮合反応の速度とpHの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
上述のように、本発明の光ファイバ素線の製造方法は、加熱溶融したガラス母材を線引きして得た光ファイバを、シランカップリング剤を含む樹脂組成物により被覆する光ファイバ素線の製造方法であって、以下の工程を含む。
(a)炉内でガラス母材を加熱溶融し、該炉の下端から該ガラス母材を線引きして光ファイバを得る工程
(b)得られた光ファイバを冷却し、酸性付与物質を塗布する工程
(c)酸性付与物質を塗布した光ファイバに樹脂組成物をコーティングし、硬化させる工程
【0015】
以下に、本発明の光ファイバ素線の製造方法に使用される装置の一例の模式図(図1)を参照しながら、本発明の光ファイバ素線の製造方法についての好ましい実施形態を詳細に説明する。
【0016】
図1に示すように、本実施形態に係る装置は、ガラス母材12を加熱する線引き炉11の下方に光ファイバ冷却装置14が配置されており、その下方には、酸性付与物質塗布部16が設けられている。そして、酸性付与物質塗布部16の直下には硬化性樹脂組成物を貯留したコーティングダイス17と紫外線照射装置18が配置されている。なお樹脂組成物のコーティング前の光ファイバ1と樹脂組成物のコーティング後の光ファイバ素線4についても図1に示す。
【0017】
1.工程(a)について
本実施形態の製造方法においては、まず線引き炉11内で加熱溶融した光ファイバ母材12が常法により引き出され、高温の光ファイバ1が得られる。この時の光ファイバ1の温度は、例えば約800〜1000℃である。
【0018】
2.工程(b)について
工程(a)で得られた高温の光ファイバ1は、光ファイバ冷却装置14に送られ、冷却ガスにより例えば室温〜50℃程度にまで冷却される。冷却ガスとしては、熱伝達係数が大きいヘリウムガスを用いることが好ましく、また冷却ガスは室温以下に冷却して供給されることが好ましい。さらに冷却装置としては、線引き炉11からの熱を伴う牽引流を除去して効率的に冷却できる機構を有するもの、例えば、冷却筒内の冷却ガスの流路を急激に拡大させて冷却ガスの乱流を生成させ、この乱流により光ファイバの走行に伴う牽引流を光ファイバから効率的に剥離することができる機構を有するものが、生産効率の点から好適に使用される。
冷却された光ファイバ1は酸性付与物質塗布部16に送られ酸性付与物質が塗布される。酸性付与物質としては酢酸やギ酸などの有機酸を含むものであっても塩酸などの無機酸を含むものであってもよい。また酸発生剤であってもよい。酸発生剤の例はジアソスルホン系の光酸発生剤やトリアリールスルホニウム系の光酸発生剤がある。光酸発生剤は炭酸プロピレンなどの溶媒に溶解して使用するのが好ましい。酸性付与物質は、光ファイバに塗布することによりガラス表面のpHを5以下とするものが好ましく、4以下とするものがより好ましい。例えば、1Mの酢酸水溶液を好適に使用することができる。また、酸性付与物質の光ファイバへの塗布方法は、噴霧や浸漬等、特に限定はされないが、作業性の点から噴霧によることが好ましい。
【0019】
3.工程(c)について
工程(b)で酸性付与物質が塗布された光ファイバは、コーティングダイス17に導入され、硬化性樹脂組成物が塗布される。硬化性樹脂組成物としては、シランカップリング剤を含むものであれば特に限定はされないが、ウレタンアクリレート系紫外線硬化型樹脂を主成分として含むものが好ましい。より詳細には、ウレタン結合を有する繰り返し単位構造と(メタ)アクリル基とを併有する重合性オリゴマーを主成分として含むものが好ましく、特に、ポリオール化合物とジイソシアネート化合物と水酸基含有(メタ)アクリレートを用いて、ジイソシアネートのイソシアネート基をポリオール化合物の水酸基及び水酸基含有(メタ)アクリレートの水酸基と反応させて得られる重合性オリゴマーを主成分として含むものがより好ましい。
【0020】
シランカップリング剤としては、本発明の効果の妨げにならないものであれば、特に限定されることはなく、公知公用のものを含めあらゆるものを用いることができるが、具体的には、テトラメチルシリケート、テトラエチルシリケート、メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシ−エトキシ)シラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)−エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメチルジメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、ビス−[3−(トリエトキシシリル)プロピル]テトラスルフィド、ビス−[3−(トリエトキシシリル)プロピル]ジスルフィド、γ−トリメトキシシリルプロピルジメチルチオカルバミルテトラスルフィド、γ−トリメトキシシリルプロピルベンゾチアジルテトラスルフィド等が挙げられる。
【0021】
樹脂組成物が塗布された光ファイバは、紫外線照射装置18に導入され、紫外線照射により当該樹脂組成物が硬化される。これにより、光ファイバ素線4が製造される。
なお、本発明の光ファイバ素線の一実施形態は、このようにして製造された光ファイバ素線である。
【実施例】
【0022】
以下、本発明に係る実施例1及び比較例1〜2について評価試験の結果を示し、本発明を更に詳細に説明する。なお、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0023】
[光ファイバ素線の作製]
実施例1及び比較例1〜2において使用した樹脂組成物は以下のウレタンアクリレート系紫外線硬化型樹脂とシランカップリング剤を含む樹脂組成物であり、全て共通である。また以下に記載する「従来の光ファイバ素線の製造方法」とは、加熱溶融したガラス母材を線引きして得た光ファイバを冷却した後、該光ファイバに上記の樹脂組成物をコーティングし、紫外線照射により硬化させる製造方法をいう。
【0024】
〔ウレタンアクリレート系紫外線硬化型樹脂組成物〕
ウレタンアクリレートとして、ポリテトラメチレングリコール、イソホロンジイソシアネート、ヒドロキシエチルアクリレートをおおよそ1:2:2の割合で反応させたものを用い、反応性モノマーとして、N-ビニルピロリドン、イソボルニルアクリレート、EO変性ビスフェノール含有ジアクリレートを加えたものをベース樹脂とした。このベース樹脂に対し、アミド系モノマーとして、ヒドロキシエチルアクリルアミドを3質量%、光開始剤として2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイドを1質量%添加し、樹脂組成物を調製した。
【0025】
(実施例1)
冷却後の光ファイバに1Mの酢酸水溶液を噴霧する工程を加えたこと以外は従来の光ファイバ素線の製造方法と同一の方法で光ファイバ素線を作製した。
(比較例1)
樹脂組成物に酢酸を添加して樹脂組成物のpHを4に調整する工程を加えたこと以外は従来の光ファイバ素線の製造方法と同一の方法で光ファイバ素線を作製した(樹脂組成物の増粘により作業の続行が不可能となったため、途中中断した)。
(比較例2)
従来の光ファイバ素線の製造方法で光ファイバ素線を作製した。
【0026】
[評価]
実施例1及び比較例1〜2について、作製時の樹脂組成物の粘度並びに得られた光ファイバの密着性及び動疲労特性について、以下のように評価試験を行った。結果を表1に示す。
(試験方法)
1.樹脂組成物の粘度
樹脂組成物の粘度を作業性の観点から観察し、光ファイバに一定の厚さで均一に塗布できるもの(35℃において5.0Pa以下の粘度)を○、光ファイバに均一に塗布できないもの(35℃において5.0Paを超える粘度)を×とした。
2.密着性
光ファイバ素線の樹脂被覆層に、カミソリで刃先がガラス表面に届かない深さで切れ目を入れ、切れ目を挟んだ一方の樹脂被覆層を台紙に貼り付けて台紙を固定し、他方の光ファイバ素線を把持して引っ張った。光ファイバ(ガラス部分)が台紙に固定された樹脂被覆層から引き抜かれる時の引っ張り強さを測定し、0.5kg未満を×、0.5〜1.5kgを○、1.5kgを超えるものを×とした。
3.動疲労特性
Teccordia GR−20−COREの規定にそって測定・評価し、18未満を×、18以上を○とした。
【0027】
【表1】

【0028】
上記表1の結果に示すように、冷却後の光ファイバに酸性付与物質(1Mの酢酸水溶液)を塗布する工程を加えた光ファイバ素線の製造方法によって作製した光ファイバ素線(実施例1)は、従来の製造方法で作製した光ファイバ素線(比較例2)に比べて密着性、動疲労特性が優れていた。また樹脂組成物を酸性にすると増粘するため、光ファイバ素線を製造することはできなかった(比較例1)。
【符号の説明】
【0029】
1 光ファイバ、4 光ファイバ素線、11 線引き炉、12 ガラス母材、14 光ファイバ冷却装置、16 酸性付与物質塗布部、17 コーティングダイス、18 紫外線照射装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱溶融したガラス母材を線引きして得た光ファイバを、シランカップリング剤を含む樹脂組成物により被覆する光ファイバ素線の製造方法であって、
(a)炉内でガラス母材を加熱溶融し、該ガラス母材を線引きして光ファイバを得る工程;
(b)得られた光ファイバを冷却し、酸性付与物質を塗布する工程;及び、
(c)酸性付与物質を塗布した光ファイバに樹脂組成物をコーティングし、硬化させる工程
を含むことを特徴とする光ファイバ素線の製造方法。
【請求項2】
前記酸性付与物質を塗布する工程では、酢酸又はギ酸を含む液を噴霧することを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ素線の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の光ファイバ素線の製造方法により製造されたことを特徴とする光ファイバ素線。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−91575(P2013−91575A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−232844(P2011−232844)
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】