説明

光ファイバ素線の製造方法

【課題】簡易な装置、および簡易な制御で長期間安定して光ファイバ素線を製造することができる光ファイバ素線の製造方法を提供する。
【解決手段】線条体3の外周に紫外線硬化型樹脂を被覆してなる光ファイバ素線4の製造方法であって、光ファイバ母材1を線引きして線条体3とする線引工程と、前記線条体3に前記紫外線硬化型樹脂を塗布する塗布工程と、前記紫外線硬化型樹脂を塗布した前記線条体4に2灯以上の紫外線照射装置6a、6bにより紫外線を照射する照射工程と、を有し、前記紫外線硬化型樹脂は、アクリルモノマーとN−ビニル基を有するモノマーとを含み、前記照射工程は、2灯以上の紫外線照射装置6a、6b内の紫外線透過筒状体内を通過させながら紫外線を照射し、任意の隣接する2灯の紫外線照射装置6a、6bにおいて少なくとも上流側の紫外線照射装置6aが点灯している間下流側の前記紫外線透過筒状体の温度を常時70〜180℃とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ素線の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ素線は、光ファイバ母材を線引きして線条体とし、その直後に線条体に樹脂を被覆して製造される。線条体の被覆は、線条体の表面に紫外線硬化型樹脂を塗布し、線条体が紫外線照射装置内に配置された紫外線透過筒状(以降、透明管と呼ぶ。)を通過する間に紫外線を照射することによって紫外線硬化型樹脂を硬化させることにより行われる。
【0003】
この紫外線硬化型樹脂を被覆する工程において、紫外線硬化型樹脂中のモノマーなど比較的揮発しやすい成分は、硬化する際に発生する反応熱や照射される光エネルギーの吸収による発熱により揮発し、透明管の内面に付着する。透明管の内面に付着した樹脂成分は紫外線照射により変質するため透明管が曇る。このように透明管が曇ると、紫外線硬化型樹脂への紫外線の照射量が減少し、紫外線硬化型樹脂が十分硬化しない問題が生じる。
【0004】
上記のように、透明管が曇ることによる紫外線硬化型樹脂の硬化不足を防止する方法としては、例えば特許文献1に、透明管内に流す不活性ガス中の酸素濃度を500ppm〜5%とすることにより、一度透明管に付着した揮発物を熱・酸化分解させる方法が開示されている。また、特許文献2には、線条体の線引き速度上昇期間において、紫外線光源への投入電力を走行速度で除した値を0.5〜50W・min/m以下の値とすることにより過度の照射を抑え揮発物を透明管に付着させない方法が開示されている。また、特許文献3には、透明管の温度を200℃以上にすることにより透明管に一度付着した揮発物を熱分解させる方法が開示されている。
一方、近年の光ファイバの線引き速度の高速化に伴い、硬化速度の速い紫外線硬化型樹脂が求められている。このような高速硬化タイプの樹脂として、例えばN−ビニル基を含有するモノマーを配合した光ファイバの被覆用樹脂組成物が特許文献4に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−95704号公報
【特許文献2】特開2005−162521号公報
【特許文献3】特開2005−189510号公報
【特許文献4】特開平10−204250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の光照射装置では、線引き速度に応じて透明管内に流すガスの流量を調整する必要があるため、制御が複雑になる問題がある。また、特許文献2に記載の光照射装置においても、線条体の線引き速度に応じて紫外線光源への投入電力を適宜調整する必要があり、制御が複雑になる問題がある。また、特許文献3に記載の光照射装置では、200℃以上という高い温度での加熱が必要であるため、透明管を加熱する装置が別途必要となり、装置が複雑になる問題がある。また、シール材等の熱劣化が進行しやすく、長期間安定して製造することができないという不具合が生じる。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、簡易な装置、および簡易な制御で長期間安定して光ファイバ素線を製造することができる光ファイバ素線の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明の光ファイバ素線の製造方法は、線条体の外周に紫外線硬化型樹脂を被覆してなる光ファイバ素線の製造方法であって、光ファイバ母材を線引きして線条体とする線引工程と、前記線条体に前記紫外線硬化型樹脂を塗布する塗布工程と、前記紫外線硬化型樹脂を塗布した前記線条体に2灯以上の紫外線照射装置により紫外線を照射する照射工程と、を有し、前記紫外線硬化型樹脂は、アクリルモノマーとN−ビニル基を有するモノマーとを含み、前記照射工程は、2灯以上の紫外線照射装置内の紫外線透過筒状体内を通過させながら紫外線を照射し、任意の隣接する2灯の紫外線照射装置において少なくとも上流側の紫外線照射装置が点灯している間、下流側の前記紫外線透過筒状体の温度を常時70〜180℃とすることを特徴とする。
【0009】
前記紫外線透過筒状体は、紫外線照射装置内に設けられ、前記紫外線透過筒状体の温度を前記紫外線照射装置からの輻射熱のみで制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、簡易な装置、および簡易な制御で長期間安定して光ファイバ素線を製造することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施の形態に係る光ファイバ製造装置の概略図である。
【図2】実施の形態に係る紫外線照射装置の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態に係る光ファイバの製造方法について詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0013】
本発明の実施の形態に係る光ファイバ素線の製造にあたり被覆材料として、アクリルモノマーとN−ビニル基を有するモノマーとを含む紫外線硬化型樹脂を用いる。より具体的には、たとえば、ウレタンアクリレートオリゴマー、アクリルモノマー、N−ビニル基含有モノマー、光開始材からなる紫外線硬化型樹脂を用いることができる。以下にそれぞれの材料を例示する。
(ウレタンアクリレートオリゴマー)
ウレタンアクリレートオリゴマーは、ポリオール、ジイソシアネートおよびエチレン性不飽和基含有化合物を反応させることにより製造される。
(アクリルモノマー)
アクリルモノマーは官能基としてアクリロイル基(CH2=CHCO−)あるいはメタクリロイル基(CH2=CCH3CO−)を末端に持つモノマーであり、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、1、6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
(N-ビニル基含有モノマー)
N−ビニル基を有する化合物としては、例えばN−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、N、N−ジメチル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
(光開始材)
光開始剤としては例えば2、4、6―トリメチルベンソイルジフェニルフォスフィンオキサイドや1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン等が挙げられる。
【0014】
このように、一般的に反応性希釈材として使用されているアクリルモノマーと共にN−ビニル基を有するモノマーを用いることにより、硬化速度を速めることができ、近年の光ファイバの線引き速度の高速化(たとえば、線引き速度1000m/min以上)に対応可能となる。N−ビニル基を有するモノマーの配合量は硬化速度の観点から3wt%以上20wt%以下であることが好ましい。なお、紫外線硬化型樹脂としては、求められる特性を損なわない範囲で、他のオリゴマー、モノマー、一般的に使用される添加剤、無機充填剤、酸化防止剤、着色剤なども添加することができる。
【0015】
以下に、本発明の実施の形態に係る光ファイバ素線の製造方法を詳細に説明する。なお、以下の説明においては、同一の要素には同一の符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0016】
図1は、本発明の実施の形態に係る光ファイバ素線の製造装置を説明する概略図である。光ファイバ母材1が図示しない線引炉内のヒータ2により加熱・溶融され、線引きされる。線引きにより形成されたガラス光ファイバ(線条体)3が下流の樹脂被覆装置5を通過し、外周に紫外線硬化型樹脂が塗布される。これにより、光ファイバ素線4が形成される。紫外線硬化型樹脂が塗布された光ファイバ素線4は、さらに下流の紫外線照射装置6a、6bを通過する。紫外線照射装置6a、6bは、ガラス光ファイバ3の外周に塗布された紫外線硬化型樹脂に紫外線を照射して紫外線硬化型樹脂を硬化させる。このようにして、ガラス光ファイバ3の外周に紫外線硬化型樹脂を被覆した光ファイバ素線4を紫外線照射装置6a、6bを通過させることで、光ファイバ素線4が形成される。このように形成された光ファイバ素線4は、ガイドローラ7を経て巻取り装置8に巻き取られる。
【0017】
次に、紫外線照射装置6aについて説明する。図2に示すように、紫外線照射装置6aは、紫外線照射装置本体9と、紫外線照射装置本体9の上部に設けられた吸気装置10と、紫外線照射装置本体9の下部に設けられた排気装置11からなる。
【0018】
吸気装置10には、不活性ガスを吸気するための吸気口12と、紫外線硬化型樹脂が塗布された光ファイバ素線4を挿通するための光ファイバ素線挿通口13aが設けられている。また、排気装置11には、吸気した不活性ガスを排気するための排気口14と、被覆した光ファイバ素線4を挿通するための光ファイバ素線挿通口13bが設けられている。
【0019】
樹脂被覆装置5で、紫外線硬化型樹脂が塗布された光ファイバ素線4は、光ファイバ素線挿通口13aから吸気装置10に入り、紫外線照射装置本体9内に設置された透明管15内を通過する。この紫外線照射装置本体9は、ガラス光ファイバ3の外周に塗布された紫外線硬化型樹脂を硬化させるために照射する紫外線照射ランプ16と一方からの照射による硬化のムラを防止するためのミラー17を備えている。なお、透明管15内は、供給する不活性ガスの量と紫外線照射装置下部からの排気流量により、所定の酸素濃度が保たれている。このように、所定の酸素濃度を保つために、透明管15の開口部には、シール材18が設けられている。また、このときの透明管の温度を測定する場合、たとえば、図示しない放射温度計を用いて透明管の中央部を測定する。また、紫外線照射装置6bについては、紫外線照射装置6aと同じ構造を有するものである。
【0020】
この紫外線硬化型樹脂を塗布した光ファイバ素線4に紫外線を照射する照射工程において、紫外線硬化型樹脂の一部の成分は、紫外線硬化型樹脂が硬化する際に発生する反応熱や照射される光エネルギーの吸収による発熱で揮発する。そして、揮発した紫外線硬化型樹脂の一部の成分は、透明管15の内面に付着する。さらに、透明管15の内面に付着した樹脂成分は紫外線照射により変質する。これにより、透明管15が曇り、樹脂への紫外線の照射量が減少する。紫外線の照射量が減少すると、紫外線硬化型樹脂が十分硬化しない問題が生じる。
【0021】
この問題を解決するために、紫外線硬化型樹脂を塗布した光ファイバ素線4に紫外線を照射する照射工程では、点灯した紫外線照射装置の下流側に設置された紫外線照射装置内の透明管15の温度を70℃以上に保つ調整を行った。透明管温度の調整方法として、紫外線照射ランプ光源への投入電力を適宜調整することにより紫外線照射装置から発生している輻射熱を適宜調整して透明管15の温度を所望の温度とする。これにより、透明管15の温度を所望の温度とすることができる。なお、透明管内の温度を70℃以上に保てればよく、温度の調整方法は、これに限定されるものではない。また、透明管内の温度を180℃以下に保つことが、シール材等の熱劣化が抑制できるという点で好ましい。
【0022】
なお、線引き開始時は光ファイバの線引き速度が遅いため、紫外線照射ランプ光源への投入電力を定常状態と同様に設定すると紫外線硬化型樹脂への紫外線照射時間が長くなり、揮発分の発生量が増加する可能性がある。したがって、紫外線照射量が過度に多くなるのを抑えるために、線引き開始時は紫外線照射ランプ光源への投入電力を低くしたり、あるいは線引き速度がある程度高くなるまでの期間は複数の紫外線照射ランプのうち1灯のみを点灯させて残りをOFFとするなどの調整を行うのが一般的である。
【0023】
一方、本発明では、紫外線照射量を下げて揮発成分の発生量を下げるよりも透明管の温度を高くすることで付着した揮発成分を速やかに再揮発させることで、透明管の曇りに対してより効果的である。
【0024】
この方法により、透明管の透明度を維持することができ、紫外線の照射量が減少することなく、紫外線硬化型樹脂を長期間安定して十分に硬化させることができる。
【0025】
上記、実施の形態においては、紫外線照射装置から発生している輻射熱を利用して透明管の温度を制御したが、透明管の加熱方法としては、これ以外の方法を用いてもよい。たとえば、テープヒーターを透明管の端部に巻きつけても良い。ただし、輻射熱を利用して透明管の温度を制御した場合は、特別な加熱手段を必要としないので、設備を簡略化でき、さらに好適である。また、透明管に適切な添加剤、例えば、ニッケル系錯体を添加することで赤外線吸収率を上げ、ランプ光源からの輻射熱を効率よく吸収し、透明管の温度を上げる、あるいは、酸化インジウムスズ系粉末を添加することで赤外線反射率を上げ、ランプ光源からの輻射熱を反射して透明管への輻射熱の吸収を減らし、透明管の温度を下げる、などにより透明管温度を制御してもよい。
【0026】
なお、図1に示す光ファイバ製造装置においては、紫外線照射装置を2つ設けているが、紫外線照射装置の数は2つ以上であれば良くこれに限定されない。たとえば、紫外線照射装置を3つ設ける場合は、紫外線照射装置を上流からA→B→Cの順に設置されているとすると、隣接する2灯の紫外線照射装置とは、AとBおよびBとCとなる。AとBに着目すると「隣接する2灯の紫外線照射装置において少なくとも上流側紫外線照射装置が点灯している間」とは、Aが点灯している間はBの紫外線透過筒状体の温度を70〜180℃とすることになる。また、BとCに着目するとBが点灯している間は、Cの紫外線透過筒状体の温度を70〜180℃とすることになる。つまり、紫外線照射装置の点灯順序はC→B→Aとなる。また、この実施の形態においては、樹脂被覆装置を1つ設けているが、樹脂被覆装置を2つ以上設け、それぞれの樹脂被覆装置に対して紫外線照射装置を設けてもよい。すなわち、一度紫外線硬化型樹脂を被覆した光ファイバにさらに紫外線硬化型樹脂を塗布して、これを硬化する場合においても適用可能である。
【0027】
(実施例1〜3および比較例1〜6)
以下、本発明の実施例、比較例によって本発明をさらに具体的に説明する。ウレタンアクリレートオリゴマー、各種モノマー、光開始剤を主成分とし、表1に示すN-ビニル基含有モノマーを含む組成と含まない組成の2種類の紫外線硬化型樹脂を調整した。実施例1〜3および比較例1〜5は、N−ビニル基含有モノマーを含む組成であり、比較例6は、N−ビニル基含有モノマーを含まない組成である。なお、2種類の紫外線硬化型樹脂は、N−ビニル基含有モノマーを含むか含まないか以外は同じ組成からなる。
【0028】
調整した各紫外線硬化型樹脂の硬化性を以下の方法で評価した。
1.試験片の作成:アプリケーターバーを用いて液状紫外線硬化樹脂をガラス板に塗布し、25mJ/cm2または500mJ/cm2の紫外線を照射し200μm厚の硬化フィルムを得た。次いで、ガラス板より硬化フィルムを剥離し、温度23℃、相対湿度50%で24時間置いたものを、試験片とした。
2.ヤング率の測定(JIS K7127に準拠):引張試験機にて、温度23℃における試験片のヤング率を引張り速度1mm/min、標線間25mmの条件で測定した。
3.硬化性の判定:紫外線を25mJ/cm2照射したシートのヤング率を紫外線500mJ/cm2照射したシートのヤング率で割った値を硬化性の指標とし、これが大きいほど硬化性が良好と判定した。また、光ファイバ被覆層自体の硬化度を溶剤抽出法によりゲル分率で評価した。ここでゲル分率とは、光ファイバ被覆層がどの程度硬化しているかを示す指標であり、被覆の初期重量をWとし、この被覆から未ゲル成分を溶剤抽出させた後の被覆重量をWとするとき、
ゲル分率=(W/W)×100(%)
で示される。従ってゲル分率は高い方は好ましい。一般的に光ファイバ被覆層のゲル分率は90%以上が好ましい。
【0029】
表1に示した紫外線硬化型樹脂を用い、透明管温度が表1に示す値となるように紫外線照射ランプへの入力パワーを調整して300kmの光ファイバを製造した。なお、比較例1、2、6では、2灯目の(下流に設置された)UVランプは線引き開始時はOFFとし、所定の線引き速度の約半分に達したところでONとした。また、透明管温度はUVランプをONにするまでの間は常温(25℃)とした。線引き速度は1000m/minとした。また実施例3と比較例5では1灯目のUVランプは線引き開始時はOFFとし、所定の線引き速度の約半分に達したところでONとした。また、実施例3では1灯目をONにすると同時に2灯目の入力パワーを調整して透明管温度を高くした。また、透明管15内の酸素濃度は実施例1〜3、比較例1〜6のいずれにおいても同じとした。
【0030】
製造後透明管の曇りの程度を測定した。透明管曇りの程度は透明管内のファイバ通過位置で紫外線照度を測定し、その透明度の維持率を透明管透明度維持率(%)として求めた。なお、透明管透明度維持率(%)は、製造開始前の照度をLs(W/cm)、製造終了後の照度をLe(W/cm)とすると、
透明管透明度維持率(%)=Le/Ls×100
として定義される。
【0031】
【表1】

【0032】
表1の結果から、以下のことが明らかになった。
まず、N−ビニル基を有するモノマーを配合した実施例1〜3および比較例1〜5では紫外線硬化型樹脂の硬化性は、0.81と優れている。しかしながら、2灯目のUVランプを線引き開始時はOFFとし、所定の線引き速度の約半分に達したところでONとした比較例1、2では、2灯目の透明管の透明度維持率が67〜68%まで低下している。
また、2灯目の透明管の温度を常時40℃とした比較例3では、2灯目の透明管の透明度維持率が60%まで低下している。
また、1、2灯目の透明管の温度を常時250℃とした比較例4では、透明管の透明度維持率は98%と良好であったが、1週間使用後にシール材外観を確認したところ亀裂が発生し、シール性が損なわれており、ファイバ製造の途中で石英管内部の酸素濃度の変動が見られた。
また、1灯目のUVランプを線引き開始時はOFFとし、所定の線引き速度の約半分に達したところでONとし、その際に2灯目UVランプ透明管の温度を40℃から70℃に上げた実施例3では、2灯目UVランプ透明管の透明度維持率92%と高いのに対し、1灯目のUVランプを線引き開始時はOFFとし、所定の線引き速度の約半分に達したところでONとし、2灯目UVランプの透明管温度を常時40℃とした比較例5では、2灯目UVランプ透明管の透明度維持率が65%と低下している。
他方、N−ビニル基含有モノマーを含まない比較例6では樹脂硬化性は、0.6と低いものの2灯とも透明度維持率は98%と高い。
【0033】
この結果から明らかなように、N−ビニル基有するモノマーを配合することにより紫外線硬化型樹脂自体の硬化性は向上する。しかし、透明管曇りが促進され、紫外線硬化型樹脂の硬化が不十分となったり、線引き後に透明管を洗浄・交換する必要がある。またシール材の外観に変化がみられたりする。一方、N−ビニル基有しないモノマーを配合することにより、透明管の曇りは抑制されるが、樹脂硬化性が低く、被覆硬化性の指標であるゲル分率が89%と低くなり樹脂の硬化が不十分である。この場合、架橋密度の低下により所望の強度が得られない、という問題が生じる。
【0034】
また、実施例1〜3に示すように、上流側紫外線照射装置が点灯している間、下流側の前記紫外線透過筒状体の温度を常時70〜180℃に保持することにより透明管曇りが抑制された。


【符号の説明】
【0035】
1 光ファイバ母材
2 ヒータ
3 ガラス光ファイバ
4 光ファイバ素線
5 樹脂被覆装置
6a、6b 紫外線照射装置
7 ガイドローラ
8 巻取り装置
9 紫外線照射装置本体
10 吸気装置
11 排気装置
12 吸気口
13a、13b 光ファイバ挿通口
14 排気口
15 紫外線透過筒状体、透明管
16 紫外線照射ランプ
17 ミラー
18 シール材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
線条体の外周に紫外線硬化型樹脂を被覆してなる光ファイバ素線の製造方法であって、
光ファイバ母材を線引きして線条体とする線引工程と、
前記線条体に前記紫外線硬化型樹脂を塗布する塗布工程と、
前記紫外線硬化型樹脂を塗布した前記線条体に2灯以上の紫外線照射装置により紫外線を照射する照射工程と、を有し、
前記紫外線硬化型樹脂は、アクリルモノマーとN−ビニル基を有するモノマーとを含み、
前記照射工程は、2灯以上の紫外線照射装置内の紫外線透過筒状体内を通過させながら紫外線を照射し、任意の隣接する2灯の紫外線照射装置において少なくとも上流側の紫外線照射装置が点灯している間、下流側の前記紫外線透過筒状体の温度を常時70〜180℃とすることを特徴とする光ファイバ素線の製造方法。
【請求項2】
前記紫外線透過筒状体の温度を前記紫外線照射装置からの輻射熱のみで制御することを特徴とする請求項1記載の光ファイバ素線の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−25611(P2012−25611A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−164704(P2010−164704)
【出願日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】