説明

光ファイバ

【課題】実用上問題にならない値以下の曲げ損失に維持しつつ、モードフィールド径を大きくすることができると共に、カットオフ波長を短波長側にすることができる光ファイバを提供する。
【解決手段】本発明に係る光ファイバ1は、コア10と、コア10の周囲に形成されたクラッド20と、クラッド20中に、コア10の軸心方向に延びるように形成された複数の空孔を含む空孔領域とを備え、空孔領域は、コア10の周囲に形成された複数の空孔220を含む第1の空孔領域22と、第1の空孔領域22の周囲に形成され、複数の空孔240を含む第2の空孔領域24とを有し、第1の空孔領域22の単位断面積あたりの空孔220の数が、第2の空孔領域24の単位断面積あたりの空孔240の数よりも少ない光ファイバが提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバに関する。特に、本発明は、空孔を含有する光ファイバに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光通信におけるトラフィックデータ容量の増加に伴い、1本の光ファイバに従来よりも大容量の光信号を高密度化して伝送する方式が幹線系を中心としたネットワークに用いられている。一方、加入者系、屋内配線等の短距離区間においては曲げ半径をできるだけ小さくして光ファイバを配線することを要するので、曲げ半径が10mm程度であると共に、できるだけ曲げ損失の小さい光ファイバが求められている。
【0003】
このような光ファイバとして、例えば、コア部(コア)とクラッド部(クラッド)と空孔部(空孔領域)とを有し、コア部の屈折率をクラッド部の屈折率よりも高くし、空孔部を6個以上の空孔を配置して形成すると共に、空孔部における空孔の位置、及び大きさを最適化した空孔アシスト光ファイバが知られている(例えば、特許文献1参照)。この空孔アシスト光ファイバは、加入者系等の短距離区間のみならず幹線系への応用も検討されている。斯かる空孔アシスト光ファイバは、一般のシングルモード光ファイバと同様に、屈折率が比屈折率差換算で0.3%程度の光を閉じ込めるコア部と、コア部を囲い屈折率が比屈折率差換算で0%程度のクラッド部からなる構造を備え、クラッド部のコア部近傍に、コア部を囲むように4,6,8個程度の空孔を有する空孔部を備えている。なお、比屈折率差Δは、(n1−n2)/n1から求められる。ただし、n1はコア部の屈折率であり、n2はクラッド部の屈折率である。
【0004】
ここで、特許文献1に記載の空孔アシスト光ファイバにおける空孔を有する空孔部の実効的な屈折率は次のように設定されている。まず、コア部の屈折率をn1、クラッド部の屈折率をn2とする。空孔部は、直径dの複数の空孔が円周に沿って所定の間隔で形成されており、空孔部における空孔を除く部分の屈折率と複数の空孔の屈折率とを調整して、実効的な屈折率n3を設定する。屈折率n3は屈折率n2より小さく、径方向に丸い窪みを有するような屈折率分布を有している。このような屈折率分布を有する空孔アシスト光ファイバを構成することで、曲げ損失の低減を図っている。
【0005】
特許文献1に記載の空孔アシスト光ファイバは上記構成を備えるので、10mmの曲げ半径で1260nm〜1650nmの範囲内における曲げ損失を1dB/m以下に維持しながら、従来のシングルモード光ファイバと同等のモードフィールド径(例えば、7.9μm〜10.2μm)を有する光ファイバ・光源等との接続時、外乱によるモード結合時にマルチモード伝搬の発生を防止して、実効的に単一モードである空孔アシスト光ファイバを提供することができる。
【0006】
また、モードフィールド径(Mode Field Diameter:MFD)及びCutoff波長を従来のシングルモード光ファイバと同等の値に維持しつつ、曲げ損失を低減することを目的として、クラッドにトレンチ構造を含む屈折率分布を有する光ファイバが提案されている(例えば、非特許文献1参照)。非特許文献1に記載の光ファイバは、光ファイバ内を光信号が伝搬する領域より外側のクラッドに屈折率の窪み、すなわち、トレンチを有するので、MFD及びCutoff波長を所望の特性に維持したまま、曲げ損失のみを低減できる。すなわち、非特許文献1に記載の光ファイバによれば、光信号が伝搬するコアを含む領域10μmの外側であって、コアの中心から11μm〜20μmの位置に幅10μmのトレンチを設けることにより光信号が伝搬する領域の光電界を乱すことを防止するので、MFD及びCutoff波長を従来のシングルモード光ファイバと同等の値に維持できる。また、当該トレンチを設けることにより、トレンチを設けない場合に比べて、曲げ損失を10dB/mから数dB/mに低減できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−338436号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】OFCNFOFC'2007、paper JWA2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年では、上述の通り、一本の光ファイバで大容量の光信号を伝送する必要があるため、MFDが従来の光ファイバよりも大きい(例えば、MFDが14μm程度の)光ファイバが望まれるが、一般に、MFDを大きくした場合、曲げ損失が大きくなってしまう。特許文献1に記載の空孔アシスト光ファイバ及び非特許文献1に記載の光ファイバは、曲げ損失を小さくできるものの、屈折率分布において、クラッドに設けた窪みが深いことに起因してMFDが小さくなり、カットオフ(cutoff)波長が長波長側にシフトするという問題が発生しやすい。このような問題が発生する理由は、屈折率分布におけるクラッドに設けた窪みが深い、すなわち、コアと空孔部あるいはトレンチを有するクラッドとの比屈折率差Δが大きくなることにより曲げ損失を低減することができるものの、Δが大きくなることでコアへの光閉じ込めの効果が増大してMFDが小さくなるからである。また、cutoff波長は概ね、k×n(core)×a/2×(2×Δ)1/2で定義されるので(ただし、k:(2×π)/λ、n(core):コアの屈折率、a:コア径、Δ:(n(core)−n)/n(core)、n:空孔部、あるいはトレンチを有するクラッドの屈折率)、cutoff波長はコア径、コアの屈折率、Δ1/2に比例し、Δの増大に伴って長波長側にシフトするからである。
【0010】
したがって、本発明の目的は、実用上問題にならない値以下の曲げ損失に維持しつつ、モードフィールド径を大きくすることができると共に、カットオフ波長を短波長側にすることができる光ファイバを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明は、上記目的を達成するため、コアと、コアの周囲に形成されたクラッドと、クラッド中に、コアの軸心方向に延びるように形成された複数の空孔を含む空孔領域とを備え、空孔領域は、コアの周囲に形成された複数の空孔を含む第1の空孔領域と、第1の空孔領域の周囲に形成され、複数の空孔を含む第2の空孔領域とを有し、第1の空孔領域の単位断面積あたりの空孔の数が、第2の空孔領域の単位断面積あたりの空孔の数よりも少ない光ファイバが提供される。
【0012】
(2)また、本発明は、上記目的を達成するため、コアと、コアの周囲に形成されたクラッドと、クラッド中に、コアの軸心方向に延びるように形成された複数の空孔を含む空孔領域とを備え、空孔領域は、コアの周囲に形成された複数の空孔を含む第1の空孔領域と、第1の空孔領域の周囲に形成され、複数の空孔を含む第2の空孔領域とを有し、第1の空孔領域は、第2の空孔領域の等価屈折率よりも大きい等価屈折率を有する光ファイバが提供される。
【0013】
(3)また、本発明は、上記目的を達成するため、コアと、コアの周囲に形成されたクラッドと、クラッド中に、コアの軸心方向に延びるように形成された複数の空孔を含む空孔領域とを備え、空孔領域は、コアの周囲に形成された複数の空孔を含む第1の空孔領域と、第1の空孔領域の周囲に形成され、複数の空孔を含む第2の空孔領域とを有し、第1の空孔領域は、第1の空孔領域の単位断面積あたりに含まれる複数の空孔の断面積の合計の割合が、第2の空孔領域の単位断面積あたりに含まれる複数の空孔の断面積の合計の割合よりも低い光ファイバが提供される。
【0014】
(4)また、上記光ファイバは、第1の空孔領域は、クラッドの径方向にわたり一定の等価屈折率を有することが好ましい。
【0015】
(5)また、上記光ファイバは、第2の空孔領域は、クラッドの径方向にわたり一定の等価屈折率を有することが好ましい。
【0016】
(6)また、上記光ファイバは、第1の空孔領域の等価屈折率は、コアからクラッドに向かう方向に沿って小さくなることが好ましい。
【0017】
(7)また、上記光ファイバは、第2の空孔領域の等価屈折率は、コアからクラッドに向かう方向に沿って小さくなることが好ましい。
【0018】
(8)また、上記光ファイバは、第1の空孔領域の複数の空孔は、第2の空孔領域の複数の空孔の外径よりも大きい外径を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る光ファイバによれば、実用上問題にならない値以下の曲げ損失に維持しつつ、モードフィールド径を大きくすることができると共に、カットオフ波長を短波長側にすることができる光ファイバを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1A】(a)は本発明の実施の形態に係る光ファイバの斜視図であり、(b)は本発明の実施の形態に係る光ファイバの断面図である。
【図1B】空孔領域の等価屈折率nについての説明図である。
【図2】実施例1に係る光ファイバの断面と断面の屈折率分布とを示す図である。
【図3A】実施例2に係る光ファイバの断面と断面の屈折率分布の図である。
【図3B】実施例2に係る光ファイバの製造において、電気炉内のガス雰囲気と加熱温度の時間経過とを示す図である。
【図4A】実施例1及び実施例2の光ファイバと比較例の光ファイバとの光学特性の比較を示す図である。
【図4B】実施例1及び実施例2の光ファイバと比較例の光ファイバとの光学特性の比較を示す図である。
【図4C】実施例1及び実施例2の光ファイバと比較例の光ファイバとの光学特性の比較を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[実施の形態の要約]
コアと、前記コアの周囲に形成されたクラッドと、前記クラッド中に、前記コアの軸心方向に延びるように形成された複数の空孔を含む空孔領域とを備える光ファイバにおいて、前記空孔領域は、前記コアの周囲に形成された複数の空孔を含む第1の空孔領域と、前記第1の空孔領域の周囲に形成され、複数の空孔を含む第2の空孔領域とを有し、前記第1の空孔領域の単位断面積あたりの前記空孔の数が、前記第2の空孔領域の単位断面積あたりの前記空孔の数よりも少ない光ファイバが提供される。
【0022】
[第1の実施の形態]
図1A(a)は、本発明の実施の形態に係る光ファイバの斜視図の概要を示し、図1A(b)は、本発明の実施の形態に係る光ファイバの断面の概要を示す。なお、図1A(b)は、図1A(a)のA−A線における断面の概要を示す。
【0023】
(光ファイバ1の構成)
本実施の形態に係る光ファイバ1は、図1Aの(a)及び(b)に示すように、光信号を伝搬するコア10と、コア10の周囲に形成され、コア10を構成する材料の屈折率よりも低い屈折率を有する材料から形成されるクラッド20と、クラッド20中に、コア10の軸心方向に延びるように形成された複数の空孔を含む空孔領域とを備える。ここで、本実施の形態に係る空孔領域は、コア10の周囲に形成された複数の空孔220を含む第1の空孔領域22と、第1の空孔領域22の周囲に形成され、複数の空孔240を含む第2の空孔領域24とを有して形成される。
【0024】
第1の空孔領域22及び第2の空孔領域24はそれぞれ、コア10と同心円の領域に帯状に形成される。すなわち、第1の空孔領域22は、例えば、コア10の軸心から7μm以上20μm以下程度の範囲内に設けられるクラッド20中であって、コア10の外周近傍に設けられる。そして、第2の空孔領域24は、クラッド20中であって第1の空孔領域22よりコア10の外周から離れた位置に設けられる。更に、第1の空孔領域22の単位断面積あたりの空孔220の数が、第2の空孔領域24の単位断面積あたりの空孔240の数よりも少なくなるように光ファイバ1は作製される。つまり、第1の空孔領域22に含まれる空孔220の密度が、第2の空孔領域24に含まれる空孔240の密度よりも低くなる(すなわち、第1の空孔領域22の単位断面積あたりに含まれる複数の空孔220の断面積の合計の割合(空孔密度)が、第2の空孔領域24の空孔密度よりも低い)ように、空孔220及び空孔240はそれぞれ形成される。
【0025】
また、第1の空孔領域22は、第2の空孔領域24の等価屈折率よりも大きい等価屈折率を有して形成されることが好ましい。あるいは、第1の空孔領域22は、第1の空孔領域22と第2の空孔領域24との境界において、第2の空孔領域24の等価屈折率に等しい等価屈折率を有して形成されることが好ましい。また、第1の空孔領域22の等価屈折率及び/又は第2の空孔領域24の等価屈折率は、クラッドの径方向にわたり一定であってもよい。また、第1の空孔領域22の等価屈折率及び/又は第2の空孔領域24の等価屈折率は、コア10の側からクラッド20に向かう方向に沿って徐々に小さくすることもできる。特に、第2の空孔領域24の等価屈折率を第1の空孔領域22の等価屈折率より小さい値になるように、等価屈折率のプロファイル形状を階段状若しくはテーパ状にすることで、光ファイバ1の曲げ損失の低減を図ることができる。
【0026】
(空孔領域の等価屈折率について)
ここで、本実施の形態に係る光ファイバ1における空孔領域の等価屈折率は、以下のように定義する。すなわち、コア10の中心を中心とした半径r1の円を設定して、当該円が少なくとも一つ以上の空孔を横切る場合に、複数の空孔を横切る線分の合計長さ、及び屈折率をそれぞれL0、n0とする。また、空孔を除くガラス領域を横切る線分の合計長さ及び屈折率をそれぞれL1、n1とする。そして、半径r1の円の円周は2πr1であるので、等価屈折率nは、n=(L1×n1+L0×n0)/2πr1から算出する。すなわち、当該式から算出した値を空孔領域の径方向の等価屈折率として定義する。
【0027】
そして、本実施の形態に係る光ファイバ1は、コア10と、コア10の周囲に設けられる第1の空孔領域22と、第1の空孔領域22の周囲に設けられる第2の空孔領域24と、第1の空孔領域22及び第2の空孔領域24を除いた最外層としてのクラッド20とから形成され、第1の空孔領域22及び第2の空孔領域24はそれぞれ少なくとも一つ以上の空孔を含んでいる。そして、第1の空孔領域22においてコア10の中心を中心として少なくとも一つの空孔と交差する半径r1の円を仮定して、第1の空孔領域22において当該円の円周における空孔部分の線分の割合と空孔部分でないクラッドの部分の線分の割合とから第1の空孔領域22のそれぞれの径における等価屈折率を算出する。そして、算出した等価屈折率の径方向の平均値をn1にすると共に、第2の空孔領域24においてコア10の中心を中心として少なくとも一つの空孔と交差する半径r2の円を仮定して、第2の空孔領域24において当該円の円周における空孔部分の線分の割合と空孔部分でないクラッドの部分の線分の割合とから第2の空孔領域24のそれぞれの径における等価屈折率を算出する。
【0028】
以下、本実施の形態に係る光ファイバ1の空孔領域の等価屈折率について詳述する。
【0029】
図1Bは、空孔領域の等価屈折率nについて説明する図を示す。
【0030】
まず、角度θ1は、コア10の中心から任意の空孔に接するように延びる2つの接線間の角度である。対象とする空孔の大きさ等によって角度θ1の大きさは適宜変化する。なお、空孔領域における空孔の屈折率をn0(例えば、n0=1)、及び空孔領域の空孔を除く部分のクラッドの屈折率をn1(例えば、n1=1.458)に設定する。
【0031】
次に、コア10の中心からの距離r1の範囲の任意の空孔に接する2つの接線間において、この任意の空孔を横切る接点間の円弧上の長さである線分L0-1の長さを、角度θ1、距離r1を用いて次式(1)から算出する。
【0032】
0-1=r1×θ1・・・式(1)
【0033】
同様にして、空孔領域に存在するすべての空孔における線分L0-2、線分L0-3、線分L0-4、線分L0-5、線分L0-6、・・・線分L0-n(ただし、nは自然数)の長さをそれぞれ算出して、各線分の合計の長さL0を次式(2)から算出する。
【0034】
0=L0-1+L0-2+L0-3+L0-4+L0-5+L0-6+・・・+L0-n・・・式(2)
【0035】
次に、コア10の中心からの距離r1の範囲の任意の空孔に接する接線と、この任意の空孔の隣りの他の空孔に接する接線との間であって、これら二つの接線の接点間の円弧状の長さである線分L1-1を、上記式(1)と同様に、角度θ2、距離r1を用いて次式(3)から算出する。
【0036】
1-1=r1×θ2・・・式(3)
【0037】
同様にして、空孔領域に存在するすべての空孔における線分L1-2、線分L1-3、線分L1-4、線分L1-5、線分L1-6、・・・線分L1-n(ただし、nは自然数)の長さをそれぞれ算出して、各線分の合計の長さL1を次式(4)から算出する。
【0038】
1=L1-1+L1-2+L1-3+L1-4+L1-5+L1-6+・・・+L1-n・・・式(4)
【0039】
最後に、線分L0、線分L1、空孔領域における空孔の屈折率n0、及び空孔領域の空孔を除く部分のクラッドの屈折率n1を用いて、空孔領域における等価屈折率を次式(5)から算出することができる。
【0040】
n=(L1×n1+L0×n0)/(2×π×r1)・・・式(5)
【0041】
なお、線分L0、線分L1等は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察することにより測定できる。また、屈折率n1は、屈折率ニアフィールド(refractive near field:RNF)法により、20cm程度の長さの光ファイバを準備して、当該光ファイバの端面をカットしてRNF測定することにより得ることができる。
【0042】
また、本実施の形態に係る光ファイバ1において、第1の空孔領域22に設けられる複数の空孔220は、第2の空孔領域24に設けられる複数の空孔240の外径よりも大きな外径を有して設けられることが好ましい。例えば、第1の空孔領域22に設けられる複数の空孔220の外径は1μmを超え3μm以下であることが好ましく、第2の空孔領域24に設けられる複数の空孔240の外径は1μm以下であることが好ましい。なお、空孔220及び空孔240の外径は上記の例に限られない。空孔220及び空孔240の外径はそれぞれ、例えば、ナノオーダーの大きさの外径にすることもできる。更には、第1の空孔領域22及び/又は第2の空孔領域24に設けられる複数の空孔それぞれの外径はそれぞれ異なるように形成することもできる。
【0043】
(光ファイバ1の製造方法)
本実施の形態に係る光ファイバ1は、例えば、以下のようにして製造できる。まず、第1の製造方法としては、コア10の母材、すなわちコア母材の周囲に石英ガラススート層を堆積させることにより光ファイバ1を製造する方法であって、石英ガラススート層を堆積させる際に、嵩密度を変化させることによりクラッド20中に微小な空孔を作製する方法である。加熱若しくは焼結によりスートをガラス化する際に、スートの嵩密度が高いほど、ガスが外部に放出される隙間が小さいので、外径が大きな空孔がクラッド中に残存する割合が高くなる。一方、スートの嵩密度が低いほど、ガスが外部に放出される隙間が大きいので、外径が小さな空孔がクラッド中に残存する割合が高くなる。したがって、第1の製造方法においては、スートの嵩密度を調整することにより、クラッド20中に第1の空孔領域22と第2の空孔領域24とを作製することができる。
【0044】
第2の製造方法としては、コア母材の周囲に石英ガラススート層を堆積させ、石英ガラススート層を焼結させる際の雰囲気を調整することにより光ファイバ1を製造する方法である。すなわち、焼結時に用いる電気炉内のガス雰囲気をヘリウムガスとヘリウムガスとは異なる不活性ガスとの混合雰囲気にすると共に、ヘリウムガスと不活性ガスとの割合を変化させることで、クラッド20中に微小な空孔を作製する方法である。混合ガス中のヘリウムガスの割合が高いほど、クラッド20中に形成される空孔のサイズは小さくなりやすい。一方、混合ガス中のヘリウムガスの割合が低いほど、クラッド20中に形成される空孔のサイズは大きくなりやすい。したがって、第2の製造方法においては、電気炉内の混合ガスのヘリウムガスの割合を調整することにより、クラッド20中に第1の空孔領域22と第2の空孔領域24とを作製することができる。
【0045】
(実施の形態の効果)
本実施の形態に係る光ファイバ1は、コア10の周囲に第1の空孔領域22を設け、第1の空孔領域22の周囲に第2の空孔領域24を設けると共に、第1の空孔領域22の単位断面積あたりの空孔220の数が、第2の空孔領域24の単位断面積あたりの空孔240の数よりも少ない構成にすることにより、コア領域及びクラッド領域の等価屈折率からなる屈折率プロファイルを改善することができるので、光ファイバ1の曲げ損失を実用上、問題とならない値以下(例えば、20dB/m以下)に維持しながら、モードフィールド径(MFD)を大きくすることができると共に、カットオフ波長を1500nmよりも短波長側にすることができる。
【0046】
また、本実施の形態に係る光ファイバ1は、上述のように空孔領域の等価屈折率を定義すると共に、第2の空孔領域24の等価屈折率よりも大きい等価屈折率を第1の空孔領域22が有するか、若しくは、第1の空孔領域22と第2の空孔領域24との境界において、第2の空孔領域24の等価屈折率に等しい等価屈折率を第1の空孔領域22が有するように構成したので、従来のように空孔領域における屈折率を推定して等価屈折率にする場合に比べて等価屈折率の算出の精度が高く、光ファイバ1の伝送損失等の算出等を適切に実施できる。更に、斯かる等価屈折率を有することから、光ファイバ1の曲げ損失を実用上、問題とならない値以下(例えば、20dB/m以下)に維持しながら、モードフィールド径(MFD)を大きくすること、及びカットオフ波長を1500nmよりも短波長側にすることをより効果的に実現できる。
【実施例1】
【0047】
図2は、実施例1に係る光ファイバの断面の概要と、断面の屈折率分布とを示す。
【0048】
実施例1に係る光ファイバは、コア10の領域になる透明ガラス母材をVapor−phase Axial Deposition(VAD)法により作製して、この透明ガラス母材に、外径が30mmφになるように電気炉延伸機により延伸処理を施すことによりコアガラス母材を作製した。続いて、コアガラス母材の外周に、VAD法により低密度の空孔領域、すなわち、第1の空孔領域22になるスート層を堆積して、外径が40mmφの外付け処理を施した母材を作製した。次に、当該母材を電気炉に挿入して、電気炉内を窒素ガス60%、ヘリウムガス40%の混合ガス雰囲気にした。そして、1600℃の温度で当該母材に加熱処理を施した。
【0049】
加熱処理により得られたガラス母材は外径が30mmφであり、低密度の空孔領域には多数の空孔を有する第1の空孔領域22が形成され、多数の空孔には窒素が含有されていた。ここで、第1の空孔領域22を有する母材の外観は完全な透明ではなく、半透明であった。なお、第1の空孔領域22における空孔の密度、すなわち、空孔密度は0.1であった。次に、第1の空孔領域22を有する母材の外周に、VAD法により高密度の空孔領域、すなわち、第2の空孔領域24になるスート層を堆積して、外径が45mmφの外付け処理を施した母材を作製した。次に、当該母材を電気炉に挿入して、電気炉内を窒素ガス40%、ヘリウムガス60%の混合雰囲気にした。そして、1600℃の温度で当該母材に加熱処理を施した。
【0050】
この加熱処理により作製されたガラス母材は、外径が30mmφであり、形成した高密度の空孔領域には多数の空孔を有する第2の空孔領域24が形成された。作製されたガラス母材の外観は完全な透明ではなく、半透明であった。なお、第2の空孔領域24における空孔密度は0.3であった。
【0051】
更に、第1の空孔領域22及び第2の空孔領域24を備えるガラス母材を線引きして、外径が125μmの光ファイバにした。作製された光ファイバは、図2に示すように、コア径が15μm、第1の空孔領域22の層厚が5μm、第2の空孔領域24の層厚が8μmであった。また、第1の空孔領域22の空孔の外径は3μm、第2の空孔領域24の空孔の外径は1μmであった。そして、第1の空孔領域22の空孔密度は0.1、第2の空孔領域24の空孔密度は0.3であった。
【0052】
また、図2に示すように、実施例1に係る光ファイバの第1の空孔領域22の屈折率に比べて第2の空孔領域24の屈折率が低い屈折率であった。第2の空孔領域24の外側のクラッドは純粋な石英であり、波長633nmにおける屈折率は1.4580である。この屈折率を基準にして比屈折率差Δを算出したところ、コア10のΔは0.2%であり、第1の空孔領域22のΔは−0.05%であり、第2の空孔領域24のΔは−0.20%であった。そして、実施例1に係る光ファイバの比屈折率差のプロファイルは、第1の空孔領域22と第2の空孔領域24との境目において不連続になるプロファイル、すなわち、階段状のプロファイルになっていた。
【実施例2】
【0053】
図3Aは、実施例2に係る光ファイバの断面の概要と、断面の屈折率分布を示し、図3Bは、実施例2に係る光ファイバの製造において、電気炉内のガス雰囲気と加熱温度の時間経過とを示す。
【0054】
実施例2に係る光ファイバは、第2の空孔領域25の製造方法を除き、実施例1と同様にして作製した。すなわち、実施例2に係る光ファイバは以下のように作製した。まず、第1の空孔領域23を有するガラス母材に、外径が30mmφになるように電気炉延伸機により延伸処理を施した。続いて、延伸処理を施したガラス母材の外周に、VAD法により高密度の空孔領域、すなわち、第2の空孔領域25になるスート層を堆積して、外径が45mmφの外付け処理をした母材を作製した。次に、当該母材を電気炉に挿入して、電気炉内を窒素ガス60%、ヘリウムガス40%の混合雰囲気にした。そして、加熱開始時点からの時間の経過と共に、窒素ガスの割合を徐々に減少させた。具体的には、図3Bに示すように、電気炉における加熱時間の経過に従って混合ガス雰囲気を変化させた。電気炉における加熱の終了時点、すなわち、加熱開始から6時間後には、窒素ガス40%、ヘリウムガス60%のガス雰囲気にした。窒素ガスの比率を低くすることにより、空孔の外径を小さくすることができる。なお、加熱温度は、出発温度を1800℃に設定すると共に、加熱時間の経過と共に加熱温度を徐々に低下させ、加熱開始から6時間後には1600℃になるように変化させた。加熱温度を低くすることにより、空孔の密度を高くすることができる。
【0055】
このように加熱における混合ガス雰囲気及び加熱温度を変化させることによって、加熱時間の経過と共にスート層の内側から外側に向けて固化させ、最外層を透明ガラスにした。加熱時間の経過に伴ってガス雰囲気を変化させる(窒素ガスの比率を小さくする)ことで、スート層の内側から外側に向けて、空孔領域の空孔250の密度を徐々に高くすると共に、空孔250の空孔の外径を徐々に小さくすることができた。この加熱処理により作製されたガラス母材は、外径が30mmφであり、第1の空孔領域23及び第2の空孔領域25には、窒素を含有する多数の空孔(すなわち、第1の空孔領域23の空孔230、第2の空孔領域25の空孔250)が形成されていた。なお、当該ガラス母材の外観は完全な透明ではなく、半透明であった。また、第2の空孔領域25における空孔密度は平均0.3であった。
【0056】
更に、第1の空孔領域23及び第2の空孔領域25を備えるガラス母材を線引きして、外径が125μmの光ファイバにした。作製された光ファイバは、図3Aに示すように、コア径が15μm、第1の空孔領域23の層厚が5μm、第2の空孔領域25の層厚が8μmであった。また、第1の空孔領域23の空孔230の外径は3μm、第2の空孔領域25の空孔250の外径は1μmであった。そして、第1の空孔領域23の空孔密度は0.1、第2の空孔領域25の空孔密度は0.3であった。
【0057】
また、図3Aに示すように、実施例2に係る光ファイバの第1の空孔領域23の屈折率に比べて第2の空孔領域25の屈折率が低い屈折率であった。第2の空孔領域25の外側のクラッドは純粋な石英であり、波長633nmにおける屈折率は1.4580である。この屈折率を基準にして比屈折率差Δを算出したところ、コア10のΔは0.2%であり、第1の空孔領域23のΔは−0.10%であった。第2の空孔領域25においては、第1の空孔領域23との境界におけるΔは−0.10%であり、光ファイバの外表面に向かう方向に沿ってΔが徐々に低下して、空孔を有さない最外層と第2の空孔領域25との境界におけるΔは−0.20%であった。そして、第2の空孔領域25の平均のΔは、−0.15%であった。そして、実施例2に係る光ファイバの比屈折率差のプロファイルは、第1の空孔領域23と第2の空孔領域25との境目において連続になっており、第2の空孔領域25の比屈折率差が光ファイバの外周に向けて徐々に低下するプロファイル、すなわち、テーパ状のプロファイルになっていた。
【0058】
(実施例1及び2に係る光ファイバの光学特性)
図4A〜図4Cは、実施例1及び実施例2の光ファイバと比較例の光ファイバとの光学特性の比較を示す。具体的に、図4Aは曲げ損失の比較を示し、図4BはMFDの比較を示し、図4Cはcutoff波長の比較を示す。
【0059】
まず、比較例に係る光ファイバは、実施例1及び実施例2とは異なり、空孔を有さない形態である点を除き、コア屈折率、コア径、デプレスト屈折率、及びデプレスト幅については、実施例1及び2と同等の構成を備える。そして、実施例1に係る光ファイバの光学特性は、屈折率構造からシミュレーションにて算出した。まず、実施例1に係る光ファイバの光学特性は、図4Aに示すように曲げ損失が20dB/mであり、図4Bに示すようにMFDが13.9μmであり、図4Cに示すようにcutoff波長が1502nmであった。なお、MFDの値から実効断面積(Aeff)は152μm2と算出された。実施例1に係る光ファイバの光学特性は、曲げが少ない幹線系に適用するに当たっては十分な特性であった。
【0060】
実施例2に係る光ファイバの光学特性は、図4Aに示すように曲げ損失が15dB/mであり、図4Bに示すようにMFDが13.9μmであり、図4Cに示すようにcutoff波長が1504nmであった。なお、MFDの値から実効断面積(Aeff)は152μmと算出された。実施例2に係る光ファイバの光学特性は、曲げが少ない幹線系に適用するに当たっては十分な特性であった。
【0061】
実施例1及び2に係る光ファイバの光学特性から、本実施の形態において説明したような等価屈折率を有する光ファイバであれば、曲げ損失、MFD、及びcutoff波長のすべてについて所望の特性にすることができることが示された。特に、第2の空孔領域24における等価屈折率を第1の空孔領域22における等価屈折率より小さい値にすることにより、曲げ損失を一定レベル以下に維持しつつ、MFD及びcutoff波長について所望の特性を満足できることが示された。
【0062】
以上、本発明の実施の形態及び実施例を説明したが、上記に記載した実施の形態及び実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0063】
1 光ファイバ
10 コア
20 クラッド
22、23 第1の空孔領域
24、25 第2の空孔領域
220、230 空孔
240、250 空孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアと、
前記コアの周囲に形成されたクラッドと、
前記クラッド中に、前記コアの軸心方向に延びるように形成された複数の空孔を含む空孔領域と
を備え、
前記空孔領域は、前記コアの周囲に形成された複数の空孔を含む第1の空孔領域と、前記第1の空孔領域の周囲に形成され、複数の空孔を含む第2の空孔領域とを有し、
前記第1の空孔領域の単位断面積あたりの前記空孔の数が、前記第2の空孔領域の単位断面積あたりの前記空孔の数よりも少ない光ファイバ。
【請求項2】
コアと、
前記コアの周囲に形成されたクラッドと、
前記クラッド中に、前記コアの軸心方向に延びるように形成された複数の空孔を含む空孔領域と
を備え、
前記空孔領域は、前記コアの周囲に形成された複数の空孔を含む第1の空孔領域と、前記第1の空孔領域の周囲に形成され、複数の空孔を含む第2の空孔領域とを有し、
前記第1の空孔領域は、前記第2の空孔領域の等価屈折率よりも大きい等価屈折率を有する光ファイバ。
【請求項3】
コアと、
前記コアの周囲に形成されたクラッドと、
前記クラッド中に、前記コアの軸心方向に延びるように形成された複数の空孔を含む空孔領域と
を備え、
前記空孔領域は、前記コアの周囲に形成された複数の空孔を含む第1の空孔領域と、前記第1の空孔領域の周囲に形成され、複数の空孔を含む第2の空孔領域とを有し、
前記第1の空孔領域は、前記第1の空孔領域の単位断面積あたりに含まれる前記複数の空孔の断面積の合計の割合が、前記第2の空孔領域の単位断面積あたりに含まれる前記複数の空孔の断面積の合計の割合よりも低い光ファイバ。
【請求項4】
前記第1の空孔領域は、前記クラッドの径方向にわたり一定の等価屈折率を有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の光ファイバ。
【請求項5】
前記第2の空孔領域は、前記クラッドの径方向にわたり一定の等価屈折率を有する請求
項1〜3のいずれか1項に記載の光ファイバ。
【請求項6】
前記第1の空孔領域の等価屈折率は、前記コアから前記クラッドに向かう方向に沿って小さくなる請求項1〜5のいずれか1項に記載の光ファイバ。
【請求項7】
前記第2の空孔領域の等価屈折率は、前記コアから前記クラッドに向かう方向に沿って小さくなる請求項1〜5のいずれか1項に記載の光ファイバ。
【請求項8】
前記第1の空孔領域の前記複数の空孔は、前記第2の空孔領域の前記複数の空孔の外径よりも大きい外径を有する請求項1〜7のいずれか1項に記載の光ファイバ。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【公開番号】特開2011−81357(P2011−81357A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−187740(P2010−187740)
【出願日】平成22年8月25日(2010.8.25)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】