説明

光プローブ、光プローブに用いられる整合層及び生体光計測装置

【課題】 解析に耐える高品質の信号を取得することができ、有効な生体情報を提供可能な生体光計測装置を提供すること。
【解決手段】 被検体に対し生体光計測のための光を照射する、又は被検体内を透過した光を受光する光プローブに光整合層を設ける。この光整合層は、光プローブの光照射面又は受光面の形状に対応した形状及び大きさ、被検体との接触面を有し、デュロ硬度Aが40以下、より好ましくは、10以上20以下のものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光により生体内部情報を非侵襲に計測する光計測に使用される光プローブ、光プローブに用いられる整合層及び生体光計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生体の内部を観察・診断するには様々な手法がある。その一つである光計測は、被爆の問題がなく、波長を選択することにより計測対象である化合物を選択できるという利点を有している。また装置の小型化・低価格化を実現する構成も可能である。これらの利点から、近年、他の診断装置が主として医療機関で使用されるのに対して、家庭や保健機関での使用も視野に入れた製品化が、進められている。
【0003】
この光計測を利用して生体内部を観察・診断する典型的な装置として、生体光計測装置がある。この装置は、検出光を経皮で生体内部に照射し、透過または反射してきた光が再び皮膚を通過して生体外に出射したものを計測し、その波形、スペクトラムを解析することで、生体内の成分分析や所定成分の濃度測定を行うものである。生体光計測装置として既に製品化されているものとして、脈波計(脈拍計)や光トポグラフィ(登録商標)がある。後者は酸素の消費動向をモニタするものであり、対象となるのは脳や筋肉におけるヘモグロビン・ミオグロビンの経時変化・マッピングである。
【0004】
ところで、医療診断装置として確立されているX線、NMR(MRI)、超音波エコー、核医学(ポジトロン)の各装置と生体光計測装置とを比較した場合、その市場規模は小さい。光計測の技術は30年前から知られており、過去に何回かの盛り上がりを見せている。しかしながら、現在も国内、海外ともに生体ブームの様相を呈しているにもかかわらず、依然として、該当する製品の市場形成がされていない状況にある。
【0005】
この原因の一つとして、例えば超音波等の他の手法に対して、光計測の利点を生かした測定レベルを実現できていないことが挙げられる。特に、従来の技術では、他の診断装置よりも安価な生体光計測装置を製造した場合、解析に耐える質の信号を取得することができない。
【0006】
解析に耐える質の信号が得られない原因の一つとして、例えば被検体との接触面が柔軟性を有していないことが挙げられる。このため、プローブと皮膚との間に空気が介在し易いと共に、プローブの設定も安定せず、好適な設定での光計測が困難となっている。
【0007】
より具体的には、生体光計測装置を用いる光計測では、被検体皮膚に光プローブを接触させ、当該被検体内に光を照射し、またその透過波や反射波を受光する。従来の光プローブの先端部は、光ファイバ端面のガラス又はプラスチックレンズであり、弾力性を持たない。そのため、光プローブを被検体皮膚に押しつけた場合、皮膚表明の形状にマッチングしないと共に、設定も安定せず、プローブと皮膚との間に空気が介在し易くなってしまう。その結果、光プローブと皮膚との接触状態(例えば、光照射面と皮膚との距離・角度、プローブが皮膚と接触しているか、間に空気層があるか等)が必ずしも良好にならない場合があり、光信号の強度や性質に大きな影響を及ぼす。
【0008】
なお、本発明に関連する先行技術文献としては、例えば次のようなものがある。
【特許文献1】特開平10−314151号公報
【特許文献2】特開平11−47120号公報
【特許文献3】特開2003−265471号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたもので、光計測において、解析に耐える高品質の信号を取得することができ、有効な生体情報を計測可能な光プローブ、光プローブに用いられる整合層及び生体光計測装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記目的を達成するため、次のような手段を講じている。
【0011】
本発明の第1の視点は、被検体に対して光を照射し、又は前記被検体内を透過若しくは前記被検体で反射した光を受光する光学的手段と、前記被検体に当接可能であって、且つ、前記光学的手段が照射する光又は受光する光を通過させる、デュロ硬度Aが40以下である光整合層と、を具備することを特徴とする光プローブである。
【0012】
本発明の第2の視点は、被検体に対して光を照射し、又は前記被検体内を透過若しくは前記被検体で反射した光を受光する光プローブに用いられる光整合層であって、前記光プローブの光照射面又は受光面に対応した形状及び大きさを有し、前記光照射面又は前記受光面に設けられると共に前記被検体との接触面を形成し、デュロ硬度Aが40以下であること、を特徴とする光整合層である。
【0013】
本発明の第3の視点は、被検体に対し光照射面を介して生体光計測のための光を照射する第1の光プローブと、前記被検体内を透過若しくは前記被検体で反射した光を、受光面を介して受光する第2の光プローブと、前記照射面に設けられ、前記被検体との接触面を有し、デュロ硬度Aが40以下である第1の光整合層と、前記受光面に設けられ、前記被検体との接触面を有し、デュロ硬度Aが40以下である第2の光整合層と、前記第2の光プローブによって受光された前記透過光を解析する解析手段と、を具備することを特徴とする生体光計測装置である。
【発明の効果】
【0014】
以上本発明によれば、光計測において、解析に耐える高品質の信号を取得することができ、有効な生体情報が計測可能な光プローブ、光プローブに用いられる整合層及び生体光計測装置を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の第1及び第2の実施形態を図面に従って説明する。なお、以下の説明において、略同一の機能及び構成を有する構成要素については、同一符号を付し、重複説明は必要な場合にのみ行う。
【0016】
(第1の実施形態)
図1は、本実施形態に係る光生体記憶装置10のブロック構成図を示している。同図に示すように、本光生体記憶装置10は、照射用光プローブ11、受光用光プローブ13、距離調整機構15、レーザダイオード17、フォトダイオード(PD)19、入力部21、コントローラ23、アンプ25、A/D変換器27、解析部29、表示部31を具備している。なお、照射用光プローブ11、受光用光プローブ13、距離調整機構15によりプローブ部9を、入力部21、コントローラ23、アンプ25、A/D変換器27、解析部29、表示部31により装置本体8を構成する。
【0017】
照射用光プローブ11は、レーザダイオード17からの光を生体内に照射するための光路を形成する少なくとも一つの照射用光ファイバ111を有している。また、受光用光プローブ13は、生体内からの反射光(生体通過光)を集光するための少なくとも一つの受光用光ファイバ111を有している。各光ファイバの先端(光照射側又は光受光側)には、ガラス又はプラスチックレンズが設けられる場合もある。
【0018】
なお、各プローブの光ファイバが複数存在する場合には、当該複数の光ファイバは、所定の間隔及び形態によって配列される。係る場合、照射用光プローブ11の照射用光ファイバから照射された光は、生体内を通過し、照射用光プローブ11に近い受光用光プローブ13から順番に集光されることになる。
【0019】
また、照射用光プローブ11及び受光用光プローブ13は、各光プローブと被検体との間に設けられ、当該各プローブと被検体との接触状態を良好にするための光整合層110を具備している。この光整合層110の構成及びその機能については、後で詳しく説明する。
【0020】
距離調整機構15は、照射用光プローブ11と受光用光プローブ13との間の距離間隔を調整するための移動機構である。
【0021】
レーザダイオード(LD)17は、コントローラ23からの駆動電流に基づいて、例えば可視光領域から赤外線領域の波長領域にある複数波長の光を発光する光源である。本生体光計測装置10では、レーザダイオード17を用いる構成としたが、その他の光源、例えばガスレーザを利用することも可能である。
【0022】
フォトダイオード(PD)19は、生体内から受光した光信号を検出し、電気信号に変換する。なお、本実施形態では、光信号の検出として当該フォトダイオード19を用いた例を示しているが、これに限定する趣旨ではなく、例えば光電子増倍管その他の光電変換機能を有する検出手段を使用することも可能である。
【0023】
入力部21は、オペレータからの各種指示・命令・情報をとりこむためスイッチ等を有している。
【0024】
コントローラ23は、図示していないCPU、メモリ等を有しており、システム全体の制御中枢として、本光生体記憶装置10を静的又は動的に制御する。
【0025】
アンプ25は、フォトダイオード19から入力した信号を増幅する。
【0026】
A/D変換器27は、アンプ25から入力したアナログ信号をディジタル信号に変換する。
【0027】
解析部29は、A/D変換器27よりディジタル信号を受信し、これに基づいて皮下脂肪厚等の生態情報を解析する。すなわち、例えば皮下脂肪厚を計測する場合には、解析部29は、予め記憶された光の伝播距離及び減衰率と脂肪厚との相関関係と、距離調整機構15によって調整された照射用光プローブ11と受光用光プローブ13との間の距離及び受光用光プローブ13において検出された反射光の減衰率、スペクトラム等とに基づいて、被検体の皮下脂肪厚を計測する。
【0028】
表示部31は、解析部29から受け取った生体情報を所定の形態にて表示する。
【0029】
(光整合層)
次に、照射用光プローブ11及び受光用光プローブ13の光整合層が有する種々の機能について説明する。図2は、光整合層110の一例を示した図である。光整合層110は、図1に示した様に、被検体Pと各光ファイバ111との間に設けられており、光の集光性を向上させるための光学的レンズ、及び光プローブと被検体Pとの間に空気を介在させないためのカップラントの役割を果たす。また、光整合層110は、縁部110aを有している。この縁部110aは、光整合層110を光ファイバ111に装着するため、及び余分な光(例えば、被検体外から受光用光プローブ13の光ファイバ111に入射する光)を遮断する。これは、少なくとも縁部110aに、光反射のための金属薄膜、赤外線吸収色素等の光遮断部材を含ませることで実現できる。
【0030】
さらに、光整合層110は、次の様な種々の機能を有している。
【0031】
まず、光整合層110は、弾性体(例えば、主成分をゴム、熱可塑性エラストマー、シリコーンゴムその他の弾性を有する樹脂等)によって構成されている。従って、当該照射用光ブローブ11等を皮膚に押し付けた場合、光整合層110は皮膚の形状に沿って変形するため、より密着させた形態にて照射用光ブローブ11等を安定した状態で設定することができる。これにより、体表面に凹凸がある場合であっても、光ファイバ111と被検体Pとの間に空気を介在させずに、照射用光ブローブ11等を被検体皮膚に接触させることができ、好適な光計測を実行することができる。
【0032】
また、光整合層110は、当該照射用光ブローブ11等を皮膚に押し付けた場合、各光プローブによって加えられる皮膚への圧力を緩和する役割を果たす。そのため、照射用光ブローブ11等を皮膚に押し付けた場合であっても、皮下組織等の位置変化を引き起こすことなく、好適な光計測を実行することができる。
【0033】
この様な構成としたのは、以下の考察に基づく。すなわち、通常光プローブの先端部は、通常光ファイバ端面のガラス又はプラスチックレンズであり、弾力性を持たない。そのため、プローブを皮膚に押し付けたときの力を先端部の接触面積で除した圧力が皮膚にかかり、その値は少なくとも100gf程度になる。そのため、皮膚の厚みや皮下組織への変化を引き起こし、測定対象の状態を物理的状態に影響を与えてしまう。
【0034】
この影響を小さくするものとして、プローブを皮膚に接触させない方法と、皮膚に接触しても皮膚にかかる圧力を小さくする方法とが考えられる。前者は、プローブと空気層、空気層と皮膚の界面での反射を2回受けるため、皮下組織に到達する光量が減少するという問題が発生する。そのため、本実施形態では、後者の観点を採用し、光ファイバ111と被検体との間に弾性体としての光整合層110を設置することにより、プローブを確実且つ安定して皮膚に接触させること、及び皮膚にかかる圧力を低減することを同時に達成したものである。
【0035】
ここで、本光整合層110は、光学的レンズの役割も兼用するものであるから、弾性体自身が大きく変形すると光の経路や光路長が変わり、皮下組織の測定結果に影響が生じる。係る光学的レンズとしての要請、及び既述の接触良好性及び圧力緩和の要請から、本光整合層110に要求される特性を、例えば硬度又は変形量を用いて規定することができる。
【0036】
すなわち、光整合層110は、測定に適する弾性体の硬度(デュロ硬度A、JIS K 6253)40を上限に、0を下限に有することが好ましく、特に10から20までのデュロ硬度Aを有することがさらに好ましい。
【0037】
また、光整合層110の変形量は、光計測時において光プローブ11を皮膚に押し付けた場合、(後述するガイド112のガイドのある/なしに関わらず)その厚み変化が10%以下であることが好ましい。
【0038】
なお、図3に示すように、縁部110aの代わりに、又は縁部110aの外側を支持するように、光整合層110の外径の上限値を制限するガイド112を設けることにより、厚みが必要以上に小さくなることを防ぐことができる。このようなガイド112があればデュロ硬度の下限は事実上なくなる。しかしながら、実際の使い勝手等を考慮すると、ガイドがない場合には、例えば採用する光整合層110のデュロ硬度は5以上であることが望ましい。
【0039】
また、光整合層119の皮膚との接触領域面積を大きくすることで、計測時において被検体の皮膚に加わる圧力、及び当該光整合層そのものに加わる圧力を低減させることができる。この圧力の低減により、測定対象への力学的作用を軽減することができ、また、当該光整合層の変形によるレンズ機能の低下を防止することができる。
【0040】
また、光プローブが複数存在する場合には、図2の個別の光整合層119を設けるのに代えて、例えば図4に示すような共通の(一体の)光整合層119を設けることも可能である。係る構成によれば、皮膚との接触領域面積をより大きく確保することができる。
【0041】
個別又は共通のいずれの構成とした場合であっても、発明者らの実験によれば、光整合層の皮膚との接触領域の面積が2平方mm以上である場合には、良好な計測が実願可能である。さらに、光整合層110の皮膚との接触領域の形状をプローブの光軸に対して略垂直にすれば、接触領域が曲面状のものに比して、皮膚への接触面積をより大きく確保することができる。
【0042】
以上述べたように、弾性体としての光整合層110は、圧力を緩和して皮膚に伝える働きをする。この際に光整合層110の中心厚が小さくなることにより、加えられた力の向きを変えて圧力を吸収する。中心厚が変化すると、光の経路や光路長が変化するので、中心厚の変化量を制御できるようにするか、変化が測定に影響を及ぼさないような光学系を選択することが望ましい。前者は、例えば本実施形態の様に光整合層110がレンズ機能を備える場合に採用することができ、例えば電場印加によってレンズの厚みを小さくして圧力を緩和しつつ光学物性を一定に保つシステムを用いることで実現可能である。レンズには圧力を検知するセンサをつけて、圧力が規定の値になるように電圧を制御することも望ましい。一方、後者は光整合層110が圧力緩和の働きのみを担う場合に採用でき、中心部と端部で弾性体の厚みが略一定となる様に、光整合層110を構成する。係る構成によれば、検出光は弾性体の中を光軸に略並行に進むので、弾性体の厚みが変化しても光路は光軸と略並行な状態を保つことができる。
【0043】
ところで、本生体光計測装置10は、光整合層110を被検体入射時と出射時との合計2回通過して検知される。そのため、弾性体の光透過率が小さいと解析に耐えるだけの信号強度を得ることができない。本光整合層110には、計測に使用する波長において屈折率が0.1以上である材料を使用する。これにより、検出される光量の最終透過率は0.01以上となり、検出可能な強度範囲を確保することができる。
【0044】
なお、弾性体と皮膚の界面では屈折率の比に由来する反射が生じる。従って、さらに好ましくは、本光整合層110の屈折率が、計測に使用する波長において皮膚の屈折率(1.4前後、参考文献:Optics Letters Vol.19, 2062 1994)の0.85から1.20であれば、界面での反射を0.01未満にすることができ、反射による損失を小さく抑えることができる。
【0045】
次に、光整合層110は、被検体の個体差に基づく計測結果のばらつき、及び化学物質アレルギーを防止する機能を有している。以下、これらの機能について説明する。
【0046】
光整合層110は、既述のように、例えば、主成分をゴム、熱可塑性エラストマー、シリコーンゴムその他の弾性を有する樹脂等を用いることができる。中でも、生体適合性の観点から、ソフトコンタクトレンズの材料である2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、グリセロールメタクリレート(GMA)、N−ビニルピロリドン(MVP)、メチルメタクリレート(MMA)、2−メタクリロイルオキシエチルホスホコリルコリンの重合体、またはこれらの共重合体をその材料に採用することができる。この様なソフトコンタクトレンズ材料を使用する場合には、光整合層110の高度は含水した状態で低くなるため、測定時に含水状態を保つ工夫をすることが必要である。
【0047】
一般に、皮膚の乾燥状態によって屈折率が影響を受けることが知られている。従って、光整合層110をソフトコンタクトレンズ材料によって生成し、含水させ被検体に接触させて計測することにより、皮膚の水分状態を調整する働きを持たせることができ、乾燥肌の被検体に対しても正しい計測が可能となる。また、水が皮膚との界面に存在することにより、アレルギーの可能性のある有機化合物などの塗布液を使用せずに、皮膚とプローブとの接触状態を向上させることが可能である。
【0048】
(実施例1)
次に、本生体光計測装置10による光計測の実施例1について説明する。
【0049】
皮下脂肪の厚みを反射光強度から光計測する図1に示す光計測装置10を、光源(近赤外LD、850nm、レンズ系でビームを成形し略平行光としている)・検出器(アンプを内蔵したSiPDであり、入射位置から測った距離を調整する機構を有するもの。)で構成する。装置端面は、850nmで透過率が0.1以上となるように厚みを3mmに成形したシリコーンゴム(デュロA硬度:20)を窓板(直径5mmの円柱形)とし、ゴムの外径を装置端面よりも大きく構成する。
【0050】
また、例えば特開2003−265400の測定手法を利用して、入射端と出射端の距離を変化させながら反射光強度を測定し、脂肪の厚みを求める。
【0051】
以上述べた条件のもと、発明者らは、測定対象として、ボランティア(成人女性、37歳、健康、BMI:20)の前腕を用い、肘と手首の略中央部にプローブを押し当てて測定を行った。この測定により、5回の連続測定を1バッチとして、連続した5日間の同じ時間帯(10時・15時)に1バッチずつ測定した結果を実施例として図5に示す。測定された脂肪の厚みは10mm±3mmとなり、ばらつきは3mm以内に収まった。
【0052】
なお、比較例1として装置の窓板を通常のガラス(厚み3mm、直径5mmの円柱形、デュロA硬度>100:測定範囲外)とし、他の条件はすべて同じとした実験を行い、その結果を図5に示した。当該測定によって得られた脂肪の厚みは9mm±6mmとなった。平均値が小さくなったのは、圧力が皮膚にかかって皮膚がへこんだためと考えられる。また、ばらつきが大きくなったのは、シリコーンゴムの場合は圧力が緩和されて略一定の圧力が測定点にかかったのに対して、ガラスの場合は、係る圧力のばらつきが大きかったためと考えられる。
【0053】
(実施例2)
次に、第2の実施例について説明する。第2の実施例では、実施例1で使用した装置の窓板をN−ビニルピロリドン(MVP)とメチルメタクリレート(MMA)の共重合体(MM)を素材とし、厚み3mm・直径5mmの円柱形に成形した後に48時間純水中に放置して50%含水させる。図3に図示したガイド(窓板アダプタ)112に純水を注入し、水から取り出した窓板をはめた後に装置に取り付ける。ガイド112の窓板は、アダプタに取り付けた側で純水に接しており、窓板の含水率低下を遅くすることができる。含水状態での窓板の硬度は例えば15である。空気中(室温:20度、湿度:50%)に出した窓板は速やかに水分を失い、硬度が40よりも大きくなる。
【0054】
発明者らが、片面を水と接した状態とした窓板を用いて実施例1と同様の測定を行ったところ、脂肪の厚みをばらつきなく測定することができた。図6は、当該測定によって得られた結果を示している。なお、本実施例に係る光プローブ11、13は、ガイド112を有しているため、圧力をかけすぎた場合でも厚みが2mm以下にはならず、整合層110の変形は少なかった。
【0055】
比較例2として、水から出した窓板をアダプタにはいれず、実施例1と同様に直接装置に取り付けて行った測定結果を図6に示す。1バッチの中で、最初の測定のばらつきは実施例2と同等で小さかったが、5回目の測定はばらつきが大きかった。これは、1回の測定は10秒と短いが、プローブ間距離の調整の時間を合わせると1バッチの測定は5分ほどかかるため、測定を繰り返すうちに窓板の含水率が下がって硬度が大きくなり、圧力緩和効果が低減したためと考えられる。
【0056】
この結果を実施例1と合わせて、デュロA硬度という観点から整理したグラフを図7に示す。すなわち、同グラフでは、性能指標として、繰り返し測定の標準偏差を取り、シリコーンゴム(デュロA硬度=20)、含水状態MM(デュロA硬度=15)、乾燥状態MM(デュロA硬度=40)、ガラス窓板(デュロA硬度>100、測定範囲外)についてプロットしている。その結果により、デュロA硬度が40より小さい窓板について性能指標が高くなることを確認した。
【0057】
なお、比較例3として、実施例1の比較例1で使用したガラスを装置の窓板として計測を行った。肌の水分量に注目して水分量と測定結果のばらつきの関係を調べた。肌の水分量は肌水分計を使用し、プローブ先端のセンサ部の汚れを取り除いた後に、前腕中央部の皮膚にプローブを垂直に押し当てて水分量を測定した。水分量を変化させるため、純水を滴下して水滴を拭き取った状態から10分ごとに測定を行い、60分経過時まで測定した。1回の測定バッチでは5回の計測を連続して行った。その結果を図8に示した。
【0058】
窓板としてMMを使用した場合は、1回の測定バッチ内での測定のばらつき、10分後から60分後までの測定のばらつきはともに小さかった。一方、窓板にガラスを使用した場合は、1回の測定バッチ内での測定のばらつきが大きく、時間経過に伴って測定平均値が変化した。この結果は、皮膚の水分量が測定に影響を与えたためと考えられる。従って、含水している窓板を使用することで、肌水分量が測定結果に及ぼす影響を抑えることができた。
【0059】
(実施例3)
次に、実施例3について説明する。実施例3では、実施例2で使用したものと同様の装置を用い、様々なBMIのボランティアの協力を得て、上腕部下側の脂肪厚を計測した。図9は、実施例3に従う当該計測により得られた結果を示した図である。この結果によれば、脂肪厚はBMI=18(女性)の6mmが最小値、BMI=25(男性)の27mmが最大値であった。測定のばらつきは平均値の30%以内に収まった。
【0060】
比較例4として、乾燥状態のMMを窓板とした装置を用い、同様の測定を行って得られた結果を図9に示した。この結果によれば、測定値のばらつきは脂肪厚が小さいほど小さく、20mmよりも大きい場合はばらつきが70%を超えることがあった。従って、このデータは診断材料として使える質に達していないと考えられる。
【0061】
以上述べた構成によれば、以下の効果を得ることができる。
【0062】
まず、本実施形態に係る生体光計測装置は、被検体皮膚形状にそって変化する整合層を介在させて、被検体に対して光プローブを設定する。そのため、計測の際には、皮膚に悪影響を及ぼす可能性のある塗布液を使用する必要がなく、被検体皮膚との間に空気を介在させずに良好な接触状態を保つことができる。
【0063】
また、本実施形態に係る生体光計測装置は、所定の硬度を持つ整合層を介在させて、被検体に対して光プローブを設定する。そのため、光プローブを被検体皮膚に押し付けた場合であっても、整合層は、皮膚の厚みや皮下組織への変化を引き起こさず、且つ極度に変形しない。従って、光学的レンズとして良好に機能しつつ、光プローブの接触良好性、圧力緩和を向上させることができ、解析に耐える高品質の信号を取得することができる。特に、整合層の弾力性によって光プローブ設定の際の皮膚の厚みや皮下組織への変化の低減においては、皮下脂肪の厚い被検体の場合に大きな実益がある。近年、肥満の問題が国内・海外ともにかつてないレベルで増大している。既にアメリカでは肥満が疾病問題となっており、ハンバーガー訴訟や訴訟を禁じる法令の成立などホットな話題となっている。肥満は急性で死亡に至る疾患ではないが、生活習慣病として慢性疾患へと発展し、個人に対する寿命短縮と、国家に対する経済的負担の大きな原因となっている。そのため肥満で皮下脂肪の厚みがこれまで想定されてきた数値よりも大きい人に対しても正しい測定結果を与えることが必要である。皮下脂肪が厚くなるに従って信号が桁違いに小さくなって測定が困難になる一方、皮下脂肪の薄い人よりも測定精度の重要性が高い。これらの現状を考慮すると、例えば本生体光計測装置を家庭用や医療機関用の皮下脂肪測定器等として利用すれば、近年の肥満管理に大きく寄与することができる。
【0064】
また、本実施形態に係る生体光計測装置は、測定時に含水性のある素材によって生成された整合層を介在させて、被検体に対して光プローブを設定する。従って、塗布液を用いる必要がなく、常に生体適合性の高い水を介して光プローブが被検体皮膚に設定される。そのため、化学物質アレルギーのある被検体に対しても悪影響を与えることなく、解析に耐える高品質の信号を取得することができる。さらに、被検体皮膚の状態に個人差がある場合、例えば、アトピー性皮膚疾患や加齢に伴う皮膚乾燥症により角質層の水分保有率が極端に低い場合であっても、解析に耐える高品質の信号を取得することができる。
【0065】
さらに、本実施形態に係る生体光計測装置の光整合層は、所定の接触面積、透過率、屈折率、光プローブの被検体への押しつけ時における厚さ変化率を有している。従って、圧力緩和により光プローブと皮膚との接触状態を良好に維持しつつ、レンズとしての機能を果たすことができ、解析に耐える高品質の信号を取得することができる。
【0066】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。本実施形態は、第1の実施形態で示した光整合層119と同様の構成・機能を有し、被検体に貼付可能なシール(以下、光整合シール)に関するものである。
【0067】
図10(a)は、本実施形態に係る光整合シール30を示した図である。また、図10(b)は、本実施形態に係る共通型光整合シール31を示した図である。各図に示す光整合シール30は、縁部110aと同様の機能を有する(すなわち、光プローブの光照射面又は受光面に対応した形状・大きさを有すると共に、光プローブを装着するため、及び余分な光を遮断するための機能を有する)縁部301を有している。
【0068】
光整合シール30は、自身の弾性及び縁部301によりキャップ機能を有する。各光整合シール30に光プローブを装着すると、例えば図2乃至図4のいずれかの状態となる。また、第1の実施形態にて説明したように、縁部301により、生体外から受光用光プローブ13の受光面に入射する可能性のある光を遮断することができる。
【0069】
なお、光整合シール30は、衛生上等の観点から、使い捨てとする構成であってもよい。また、光計測においては、被検体の体格や体質、計測条件等に応じて、照射用光プローブ11と受光用光プローブ13との間の距離は、距離調整機構15によって適宜調整される。従って、光整合シール30を図10(b)の様に一体型とする場合には、照射用光プローブ11と受光用光プローブ13との間の各距離に応じた複数種類の光整合シール30が必要となる。
【0070】
また、光整合シール30は、当該シール30が例えばソフトコンタクトレンズの素材によって生成されており、既述の様に計測時には含水状態で使用される。そのため、被検体との浸透圧の差異等により、光整合シール30は被検体への貼付機能を持つ。しかしながら、別途生体適合性のよい貼付材を付加して使用する構成であってもよい。
【0071】
さらに、光プローブ自体にレンズが設けられている場合には、本光整合シール30にレンズ機能を持たせる必要はない。係る場合には、本光整合シール30の少なくとも屈折率、透過率、レンズ機能から要請される中心厚変化等の特性については、既述の内容に限定する必要はない。また、本光整合シール30にレンズ機能を持たせない場合には、必ずしもキャップ構造を持つ必要はない。
【0072】
以上述べた構成によれば、第1の実施形態と同様の効果に加えて、使い捨てコンタクトレンズと同様に管理が簡便な光整合シール30を実現することができる。また、光プローブ自体にレンズが設けられている場合には、本光整合シール30にレンズ機能を持たせる必要はないため、光整合層110に比して低価格化を実現することができる。
【0073】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0074】
光計測において、解析に耐える高品質の信号を取得することができ、有効な生体情報が計測可能な光プローブ、光整合層及び生体光計測装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】図1は、実施形態に係る光生体記憶装置のブロック構成図を示している。
【図2】図2は、光プローブの光整合層近傍の拡大図を示している。
【図3】図3は、ガイド付き光整合層の例を示した図である。
【図4】図4は、複数の光プローブに共通の光整合層の例を示した図である。
【図5】図5は、実施例1に従う計測によって得られた結果を示した図である。
【図6】図6は、実施例2に従う計測によって得られた結果を示した図である。
【図7】図7は、実施例2と実施例1との結果と合わせて、デュロA硬度という観点から整理したグラフである。
【図8】図8は、実施例3における比較例3を示した図である。
【図9】図9は、比較例4として、乾燥状態のMMを窓板とした装置を用いて測定により得られた結果を示した図である。
【図10】図10(a)は、本実施形態に係る光整合シール30を示した図である。図10(b)は、本実施形態に係る共通型光整合シール31を示した図である。
【符号の説明】
【0076】
10…光生体記憶装置、11…照射用光プローブ、13…受光用光プローブ、15…距離調整機構、17…レーザダイオード、19…フォトダイオード(PD)、21…入力部、23…コントローラ、25…アンプ、27…A/D変換器、29…解析部、31…表示部、110…光整合層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に対して光を照射し、又は前記被検体内を透過若しくは前記被検体で反射した光を受光する光学的手段と、
前記被検体に当接可能であって、且つ、前記光学的手段が照射する光又は受光する光を通過させる、デュロ硬度Aが40以下である光整合層と、
を具備することを特徴とする光プローブ。
【請求項2】
前記光整合層のデュロ硬度は、10以上20以下であることを特徴とする請求項1記載の光プローブ。
【請求項3】
前記光整合層の前記被検体との接触面は、前記光学的手段の光軸に略垂直であり、2mm以上の面積を有することを特徴とする請求項第1又は2記載の光プローブ。
【請求項4】
前記光整合層の透過率は、生体光計測に使用する光の波長において0.1以上であることを特徴とする前記請求項1乃至3のうちいずれか一項記載の光プローブ。
【請求項5】
前記光整合層の屈折率が、生体光計測に使用する光の波長において、前記被検体皮膚の屈折率の0.85倍以上1.20倍以下であることを特徴とする前記請求項1乃至4のうちいずれか一項記載の光プローブ。
【請求項6】
前記光整合層の素材が、ソフトコンタクトレンズ用材料であることを特徴とする前記請求項1乃至5のうちいずれか一項記載の光プローブ。
【請求項7】
光計測時において、前記光プローブを前記被検体に当接させた場合、前記光整合層の厚さの変化が10%以下であることを特徴とする請求項1乃至6のうちいずれか一項記載の光プローブ。
【請求項8】
前記光整合層は、前記光学的手段の光照射面又は受光面に対応した形状及び大きさを有することを特徴とする請求項1乃至7のうちいずれか一項記載の光プローブ。
【請求項9】
前記光整合層は、前記光学的手段の光照射面又は受光面の外周に沿って設けられ、当該光プローブを前記生体に当接した場合に生体外からの光を遮断するための周縁部を有することを特徴とする請求項1乃至8のうちいずれか一項記載の光プローブ。
【請求項10】
前記光整合層の外周に沿って設けられ、当該光整合層の厚さの変化を所定の値以下に制限するためのガイドをさらに具備することを特徴とする請求項1乃至9のうちいずれか一項記載の光プローブ。
【請求項11】
被検体に対して光を照射し、又は前記被検体内を透過若しくは前記被検体で反射した光を受光する光プローブに用いられる光整合層であって、
前記光プローブの光照射面又は受光面に対応した形状及び大きさを有し、
前記光照射面又は前記受光面に設けられると共に前記被検体との接触面を形成し、
デュロ硬度Aが40以下であること、
を特徴とする光整合層。
【請求項12】
デュロ硬度が10乃至20の間であることを特徴とする請求項11記載の光整合層。
【請求項13】
前記接触面は、前記光プローブの光軸に対して略垂直であり、2mm以上の面積を有することを特徴とする請求項第11又は12記載の光整合層。
【請求項14】
透過率が計測に使用する波長において0.1以上であることを特徴とする前記請求項11乃至13のうちいずれか一項記載の光整合層。
【請求項15】
屈折率が計測に使用する波長において皮膚の屈折率の0.85から1.20であることを特徴とする前記請求項11乃至14のうちいずれか一項記載の光整合層。
【請求項16】
ソフトコンタクトレンズ用材料をその素材とすることを特徴とする請求項11乃至15のうちいずれか一項記載の光整合層。
【請求項17】
光計測時において、前記光プローブを前記接触面において前記被検体に当接させた場合、その厚さの変化が10%以下であることを特徴とする請求項11乃至16のうちいずれか一項記載の光整合層。
【請求項18】
前記光プローブの光照射面又は受光面の外周に沿って設けられ、当該光プローブを前記生体に当接した場合に生体外からの光を遮断するための周縁部を有することを特徴とする請求項11乃至17のうちいずれか一項記載の光整合層。
【請求項19】
被検体に対し光照射面を介して生体光計測のための光を照射する第1の光プローブと、
前記被検体内を透過若しくは前記被検体で反射した光を、受光面を介して受光する第2の光プローブと、
前記照射面に設けられ、前記被検体との接触面を有し、デュロ硬度Aが40以下である第1の光整合層と、
前記受光面に設けられ、前記被検体との接触面を有し、デュロ硬度Aが40以下である第2の光整合層と、
前記第2の光プローブによって受光された前記透過光を解析する解析手段と、
を具備することを特徴とする生体光計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−75349(P2006−75349A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−262721(P2004−262721)
【出願日】平成16年9月9日(2004.9.9)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】