説明

光ヘッド装置

【課題】多層光ディスクにおける層間クロストークを抑えた光ヘッド装置を提供する。
【解決手段】光ヘッド装置において、波長λの光と波長λの光の共通する光路であって、対物レンズと前記光検出器との間の光路に配置された位相変調素子を有し、位相変調素子は、入射する信号光に対し第1の位相で出射する第1の領域と、入射する信号光に対し第1の位相と異なる第2の位相で出射する第2の領域と、を有し、波長λの信号光に対する第1の位相と第2の位相との位相差である第1の位相差Δφと、波長λの信号光に対する第1の位相と第2の位相との位相差である第2の位相差Δφとは、ともに略πであって、位相変調素子における第1の領域と第2の領域は、信号光の光軸を含む直線において、線対称に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ヘッド装置に関するものであり、特に、複数の情報記録層を有する光記録媒体(光ディスク)である多層光ディスクにおいて、情報の記録再生を行う光ヘッド装置に関する。
【背景技術】
【0002】
CD、DVD等の光ディスクには、情報記録層が単層の単層光ディスクと、複数層の多層光ディスクとがある。例えば、2層の情報記録層を有する2層光ディスクに対して情報の記録再生を行う場合、2層光ディスクにおいて反射され光検出器に戻る戻り光は、光源からの出射光を集光させた所望の情報記録層により反射される光(信号光)のみならず、隣接した情報記録層等により反射された光(迷光)が生じる。多層光ディスクの記録再生を行う光ヘッド装置においては、このような迷光により生じるクロストーク成分がトラッキングサーボ信号やフォーカスサーボ信号等のサーボ信号に影響を与えないような構成にする必要がある。尚、本明細書においては、光ディスクにおける情報の記録又は再生、記録及び再生を総称して「記録再生」と表現する。
【0003】
図1に従来の多層光ディスクの記録再生を行う光ヘッド装置において、2層光ディスクの再生時の光路の模式図を示す。2層光ディスクは、光ヘッド装置により記録再生がなされるものであり、対物レンズ207及び光検出器208を有している。また、情報の記録再生がなされる2層光ディスクは、情報記録層として光入射面に近い層であるL1層、遠い層であるL2層の2層を有している。
【0004】
例えば、L1層を再生する場合、対物レンズ207により集光されるL1層を202面とすると、このときL2層は201面となる。この場合、対物レンズ207によりL1層である202面に集光され反射された信号光となる光は、対物レンズ207に入射し集光されて、実線で示す光路206をたどり光検出器208の受光面において焦点が合うように到達する。一方、L2層である201面において反射された迷光となる光は、破線で示す光路204をたどり光検出器208の受光面の手前で焦点が結ばれる。
【0005】
次に、L2層を再生する場合、対物レンズ207により集光されるL2層を202面とすると、このときL1層は203面となる。この場合、対物レンズ207によりL2層である202面に集光され反射された信号光となる光は、対物レンズ207に入射し集光されて、実線で示す光路206をたどり光検出器208の受光面において焦点が合うように到達する。一方、L1層である203面において反射された迷光となる光は、破線で示す光路205をたどり光検出器208の受光面の後方において焦点が結ばれる。
【0006】
また、L1層の再生時において、L1層からの戻り光は、図示しない回折格子による光の回折により0次回折光、±1次回折光の3ビームがそれぞれ光検出器の受光面に集光される。L1層の再生時において、L2層より反射される戻り光は、ビーム径が大きく光密度は低いものの光検出器の受光面に迷光となって入射し、L1層より反射される信号光と光検出器208上において干渉が生じる。2つの情報記録層の層間隔や光源から発射される光の波長の変化により光の干渉条件が変化すると、信号強度が変化して読取り性能が低下する等の問題が生じる。特に、0次回折光と±1次回折光を利用する3ビーム法を用いる光ヘッド装置では、±1次回折光の光量は0次回折光の光量に比べて低いため、迷光の干渉による影響を受けやすい。
【0007】
この対策として、例えば特許文献1に開示されているような光ヘッド装置が提案されている。具体的には、信号光の一部、及び、迷光の一部における波面の位相を変化させる位相変化手段を含む光機能素子を光ピックアップの光路中に設けることにより、信号光と迷光との干渉によって生じる干渉パターンにおける空間周波数を高めたり、光強度差のレベルを低減させたりすることで、信号光と迷光との干渉の影響を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−21339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
位相を2π×光路長/波長として定義をした場合、位相変化は、光が伝搬する媒質の屈折率と距離との積で表される光路長が2つの領域によって異なる場合に生じる。同相で入射する光がこの2つの領域を透過したときに生じる位相の差を位相差とすると、ある波長の光における2つの領域の位相差は、光が透過する媒質の厚さと、2つの領域を構成するそれぞれの材料の屈折率の差(屈折率差)を調整することにより設計が可能である。ところが、ある波長の光における屈折率が定まると、他の波長の光における屈折率は、屈折率の波長分散特性に従って一義的に定まるため、媒質の厚さが定まると、他の波長の光における位相差も一義的に定まる。材料によって屈折率の波長分散は異なるため位相差の調整は可能であるが、その調整幅は限られている。
【0010】
多層光ディスクにおける規格としては、Blu−ray Disc(BD)やDVDが知られており、各々の光ディスクには405nm帯域の波長の光と、660nm帯域の波長の光を用いて情報の記録再生を行う。このため、特許文献1に記載されている光ヘッド装置では、BD用の波長である405nm帯域の光に対応した光機能素子を用いることができても、DVD用の波長である660nm帯域の光に対応した光機能素子もさらに設ける必要があり、そのために光ヘッド装置が大型化してしまう。
【0011】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、2つの波長の光において、位相変化を設計することが可能な位相変調素子により、異なる2波長を用いる2種類の光ディスク(多層光ディスク)の記録再生を行う光ヘッド装置において、簡易な構成で、信号光と迷光との干渉を低減させることによりクロストークの影響を抑え、良好に情報の記録再生を行うことが可能な光ヘッド装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の光ヘッド装置は、少なくとも相互に異なる波長λの光と波長λ(λ≠λ)の光とを出射する光源と、前記光源から出射された光を光ディスクの情報記録面に集光させる対物レンズと、前記情報記録面において反射された信号光を検出するための光検出器と、を有する光ヘッド装置において、前記波長λの光と前記波長λの光の共通する光路であって、前記対物レンズと前記光検出器との間の光路に配置された位相変調素子を有し、前記位相変調素子は、入射する前記信号光に対し第1の位相で出射する第1の領域と、入射する前記信号光に対し前記第1の位相と異なる第2の位相で出射する第2の領域と、を有し、前記波長λの前記信号光に対する前記第1の位相と前記第2の位相との位相差である第1の位相差Δφと、前記波長λの前記信号光に対する前記第1の位相と前記第2の位相との位相差である第2の位相差Δφとは、ともに略πであって、前記位相変調素子における前記第1の領域と前記第2の領域は、前記信号光の光軸を含む直線において、線対称に配置されているものであることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の光ヘッド装置は、前記位相変調素子において、前記信号光の入射方向とは反対方向となる前記光源から前記光ディスクへ向かう第1の直線偏光の光を入射させた場合に、前記波長λの前記第1の直線偏光の光に対する前記第1の位相と前記第2の位相との位相差である第1の位相差Δφと、前記波長λの前記第1の直線偏光の光に対する前記第1の位相と前記第2の位相との位相差である第2の位相差Δφとは、ともに略0であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の光ヘッド装置は、前記位相変調素子は、第1の位相変調層と、1/4波長板と、第2の位相変調層が、この順に配置されたものであって、前記第1の位相変調層は、前記第1の領域に形成された第1の等方性材料層と、前記第2の領域に形成された第1の複屈折性材料層とを有し、前記第1の複屈折性材料層は、前記第1の直線偏光の光においては、前記第1の複屈折性材料層における屈折率と前記第1の等方性材料層における屈折率とは等しく、前記第1の直線偏光の方向と直交する第2の直線偏光の方向の光においては、前記第1の複屈折性材料層における屈折率と前記第1の等方性材料層における屈折率とは異なるものであって、前記1/4波長板は、前記波長λの光に対して略(2m+1)π/2の位相差、前記波長λの光に対し、略(2m+1)π/2の位相差を与えるものであって(m、m≧0の整数)、前記第2の位相変調層は、前記第1の領域に形成された第2の等方性材料層と、前記第2の領域に形成された第2の複屈折性材料層とを有し、右円偏光の光、左円偏光の光のうち、一方の円偏光の光に対しては、前記第2の等方性材料層における屈折率と、前記第2の複屈折性材料層における屈折率は等しく、他方の円偏光の光に対しては、前記第2の等方性材料層における屈折率と、前記第2の複屈折性材料層における屈折率が異なるものであることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の光ヘッド装置は、前記第2の複屈折性材料層は、コレステリック相高分子液晶により形成されているものであることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の光ヘッド装置は、前記第1の等方性材料層は、屈折率ns1を有する材料により構成されており、前記第1の複屈折性材料層は、光学軸が厚さ方向に揃って形成された常光屈折率n、異常光屈折率nを有する材料により構成されており、前記屈折率ns1は、常光屈折率nと略等しいものであること特徴とする。
【0017】
また、本発明の光ヘッド装置は、前記波長λは、385nm<λ<430nmであり、前記波長λは、630nm<λ<690nmであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、異なる2波長を用いる2種類の光ディスク(多層光ディスク)の記録再生を行う光ヘッド装置において、簡易な構成で、信号光と迷光との干渉を低減させることによりクロストークの影響を抑え、良好に情報の記録再生を行うことが可能な光ヘッド装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】多層光ディスクにおける入射光と反射光の説明図
【図2】本実施の形態における光ヘッド装置の構成図
【図3】本実施の形態における別の光ヘッド装置の構成図
【図4】本実施の形態における位相変調素子の構成図
【図5】本実施の形態における位相変調素子を構成する1/4波長板の説明図
【図6】本実施の形態における位相変調素子の説明図(1)
【図7】本実施の形態における位相変調素子の説明図(2)
【図8】本実施の形態における位相変調素子を用いた場合と用いない場合の光検出器の受光面に集光される光の電場の位相分布を計算した分布図
【図9】光検出器の受光面の受光領域の説明図
【図10】光検出器の受光面の直線距離に対する光量の分布及び光量の差分との関係を表す説明図
【図11】比較例における位相変調素子の構成図
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明を実施するための形態について、以下に説明する。
【0021】
(光ヘッド装置)
図2は、本実施の形態に係る光ヘッド装置の概念的な構成を示す図である。本実施の形態における光ヘッド装置10は、所定の波長の光を出射する光源11、コリメータレンズ12、ビームスプリッタ13、位相変調素子14、対物レンズ15、コリメータレンズ16、非点収差レンズ(シリンドリカルレンズ)17及び光検出器18を有している。
【0022】
光源11から出射した光は、コリメータレンズ12により平行光に変換された後、ビームスプリッタ13をそのまま透過し、位相変調素子14を介し、対物レンズ15により多層光ディスク19の情報記録面19aにおいて反射される。情報記録面19aにおいて反射された反射光は、対物レンズ15及び位相変調素子14を介し、ビームスプリッタ13に入射する。ビームスプリッタ13では、多層光ディスク19からの反射光は、偏向され、コリメータレンズ16に入射し、シリンドリカルレンズ17を介し、光検出器18に入射する。
【0023】
尚、図2に示す光ヘッド装置は、1つのビームを用いて光ディスクの記録再生を行う光学系であるが、これに限らず、光源11とコリメータレンズ12との間の光路中に0次回折光と±1次回折光を生じさせる図示しない回折素子を配置し、3ビームによって光ディスクの記録再生を行う3ビーム法を用いるものであってもよい。
【0024】
上述した、位相変調素子14は、光源11から多層光ディスク19までの光路である往路と、多層光ディスク19から光検出器18までの光路である復路とが共通の光路となる位置や、往路と復路の光路が異なる復路光路中に配置する。図2は、位相変調素子14を往路と復路とが共通の光路となる位置に配置した場合を示す。位相変調素子14は、対物レンズ15と一体化させた構造であってもよく、この場合には、対物レンズ15における後述するレンズシフトの影響は少ない。
【0025】
また、図3には、復路のみの光路中に位相変調素子14aを配置した場合の光ヘッド装置10aの概念的な構成を示す図である。この光ヘッド装置10aは、所定の波長の光を出射する光源11、コリメータレンズ12、ビームスプリッタ13、対物レンズ15、コリメータレンズ16、位相変調素子14a、非点収差レンズ(シリンドリカルレンズ)17及び光検出器18を有している。
【0026】
光源11から出射した光は、コリメータレンズ12により平行光に変換された後、ビームスプリッタ13をそのまま透過し、対物レンズ15により多層光ディスク19の情報記録面19aにおいて反射される。情報記録面19aにおいて反射された反射光は、対物レンズ15を介し、ビームスプリッタ13に入射する。ビームスプリッタ13では、多層光ディスク19からの反射光は、偏向され、コリメータレンズ16に入射し、位相変調素子14a及びシリンドリカルレンズ17を介し、光検出器18に入射する。この構成の光ヘッド装置10aについても、光ヘッド装置10と同様の効果を得ることができる。尚、位相変調素子14aは、ビームスプリッタとコリメータレンズとの間の光路中に配置するものであってもよい。
【0027】
光源11は、例えば、波長が405nm帯域の直線偏光の発散光を出射する半導体レーザにより構成されている。尚、本発明において用いられる光源11は、波長が405nm帯域の光に限定されず、例えば、波長が660nm帯域の光や、波長が785nm帯域の光、その他の波長の帯域の光であってもよい。ここで、波長が405nm帯域の光は、385〜430nmの範囲の光であり、波長が660nm帯域の光は、630〜690nmの範囲の光であり、波長が785nm帯域の光は、760〜800nmの範囲の光である。
【0028】
また、光源11は、2種類または3種類の波長の光を出射する構成としてもよい。このような構成の光源としては、2個または3個の半導体レーザチップが同一基板上に搭載された、いわゆるハイブリッド型の2波長レーザ光源または3波長レーザ光源や、互いに異なる波長の光を出射する2個または3個の発光点を有するモノシリック型の2波長レーザ光源または3波長レーザ光源であってもよい。また、上述したハイブリッド型及びモノシリック型以外にも、異なる波長の2個または3個のレーザ光源を別個に配置し、光学素子により光路を共通にした構成であってもよい。
【0029】
光検出器18では、多層光ディスク19の情報記録面19aに記録された情報の再生信号、フォーカスエラー信号及びトラッキングエラー信号等が検出される。尚、光ヘッド装置10は、上記のフォーカスエラー信号に基づいて、多層光ディスク19の情報記録面19aにおけるフォーカシングの調整を行うため、対物レンズ15を光軸方向に制御する図示しないフォーカスサーボを有している。また、上記トラッキングエラー信号に基づいて、多層光ディスク19におけるトラッキングの調整を行うため、対物レンズ15を光軸に対し略垂直方向に制御する図示しないトラッキングサーボを有している。
【0030】
図4に基づき本実施の形態における位相変調素子14について説明する。図4(a)は、本実施の形態における位相変調素子14の模式的平面図であり、図4(b)は、図4(a)における一点鎖線4A−4Bにおいて切断した断面図である。尚、光ヘッド装置に位相変調素子14を配置させたとき、トラッキングの調整を行うためのレンズシフト方向がY軸方向と略一致するとよい。また、この位相変調素子14は、第1の領域21と第2の領域22を有しており、第2の領域22は、X軸方向に一定の幅を有し、レンズシフト方向であるY軸方向に延びるように2本の帯状に形成された領域を有している。位相変調素子14に入射する光は、Z軸方向に平行な方向より入射する。
【0031】
第2の領域22は複屈折性材料を有する領域であり、波長λの光のうち第1の直線偏光の光が入射した場合に、第1の領域21を透過する光に対する第2の領域22を透過する光の位相差がΔφ(λ)となり、波長λの光のうち第1の直線偏光の光が入射した場合に、第1の領域21を透過する光に対する第2の領域22を透過する光の位相差がΔφ(λ)となるように構成されている。更に、波長λの光の第1の直線偏光と直交する第2の直線偏光が入射した場合に、第1の領域21を透過する光に対する第2の領域22を透過する光の位相差がΔφ(λ)となり、波長λの光の第2の直線偏光が入射した場合に、第1の領域21を透過する光に対する第2の領域22を透過する光の位相差がΔφ(λ)となり、Δφ(λ)とΔφ(λ)とが略0となるように構成されている。
【0032】
このように位相変調素子14は、Z軸方向に平行に入射する第1の直線偏光の光に対して、第1の領域21を透過する光に対する第2の領域22を透過する光の位相差が異なるので、特に、位相変調素子14が対物レンズと一体化されていない場合、レンズシフト方向がY軸方向と略一致していると、レンズシフトが発生しても第1の領域および第2の領域の位置が大きく変化しないため都合がよい。
【0033】
次に、この位相変調素子14の構造について説明する。この位相変調素子14は、第1の位相変調層23、1/4波長板24、第2の位相変調層25及び透光性基板(例えば、石英ガラス基板)26、27、28、29により構成されている。尚、本実施の形態では、透光性基板26、27、28、29を有する構成の位相変調素子14について説明しているが、透光性基板は、透過性がありかつ、光の位相を変化させないものであれば、石英ガラス基板に限らない。
【0034】
第1の位相変調層23は、透光性基板26上において、第2の領域22に形成され複屈折性を有する第1の複屈折性材料層23aと、等方性の屈折率を有する第1の等方性材料層23bから構成されている。
【0035】
また、1/4波長板24は、透光性基板28上に形成されており、波長λの光及び波長λの光に対して1/4波長板として機能するものである。つまり、波長λの光に対して略(2m+1)π/2の位相差、波長λの光に対して略(2m+1)π/2の位相差を与えるものである(m、m≧0の整数)。
【0036】
第2の位相変調層25は、石英ガラス基板27上において、第2の領域22に形成され複屈折性を有する第2の複屈折性材料層25aと、等方性の屈折率を有する第2の等方性材料層25bから構成されている。
【0037】
より具体的に説明すると、第1の位相変調層23における第1の複屈折性材料層23aは、複屈折性材料からなり、断面形状が高さdの矩形形状を有する。第1の等方性材料層23bは、第1の複屈折性材料層23aと同じ高さdとなるよう平坦化されて形成されてもよく、また、第1の複屈折性材料層23aを覆うように形成されていてもよい。第1の複屈折性材料層23aを構成する材料は、互いに直交する第1の直線偏光方向と第2の直線偏光方向に光学軸(いずれか一方が進相軸方向、他方が遅相軸方向)を有しており、光学軸は厚さ方向(Z軸方向)に揃っている。また、Z軸方向から入射する第1の直線偏光方向の屈折率がnであり、第2の直線偏光方向の屈折率がnであり、nとnとは異なる値である。また、第1の等方性材料層23bは、屈折率がns1である材料により構成されており、nの値と、ns1との値は略等しいものとする。
【0038】
このとき、第1の位相変調層23に進行方向がZ方向となる第1の直線偏光の光が入射すると、第1の複屈折性材料層23aと第1の等方性材料層23bとの間で位相差が発生する。一方、第1の位相変調層23に第2の直線偏光の光が入射すると、第1の複屈折性材料層23aと第1の等方性材料層23bとの間で位相差は発生しない。
【0039】
1/4波長板24は、第1の直線偏光の光が入射した場合には、右円偏光の光を出射させ、第2の直線偏光の光が入射した場合には、左円偏光の光を出射させる。尚、右円偏光は進行方向に向かって右回りとなる円偏光、左円偏光は進行方向に向かって左回りとなる円偏光を意味する。
【0040】
第2の位相変調層25における第2の複屈折性材料層25aは、複屈折性材料からなり、断面形状が高さdの矩形形状を有する。第2の等方性材料層25bは、第2の複屈折性材料層25aと同じ高さdとなるよう平坦化されて形成されてもよく、また、第2の複屈折性材料層25aを覆うように形成されていてもよい。この第2の位相変調層25には、1/4波長板24により円偏光となった光が入射する。第2の複屈折性材料層25aは、右円偏光の光と左円偏光の光とに対し、各々異なった屈折率を有する材料により構成されている。よって、右円偏光の光及び左円偏光の光が入射した場合には、偏光状態が変化せずに光が透過するが、第2の複屈折性材料層25aに右円偏光の光が入射した場合の屈折率nと、左円偏光の光が入射した場合の屈折率はnとは異なる値である。また、第2の等方性材料層25bは、屈折率がns2である材料により構成されており、nの値と、ns2との値は略等しいものとする。
【0041】
このとき、第2の位相変調層25に進行方向が+Z方向となる右円偏光の光が入射すると、第2の複屈折性材料層25aと第2の等方性材料層25bとの間で位相差が発生する。一方、第2の位相変調層25に左円偏光の光が入射すると、第2の複屈折性材料層25aと第1の等方性材料層25bとの間で位相差は発生しない。また、光の進行方向が−Z方向の場合、逆に、左円偏光の光に対して位相差が発生し、右円偏光の光に対して位相差が発生しない。上記では、nの値と、ns2との値は略等しいものとしたが、nの値と、ns2との値が略等しく、nの値と、ns2との値が異なる材料の組合せであってもよい。尚、例えば+Z方向に進行して1/4波長板24を透過した光は、1/4波長板24の光学軸の方向を変えることによって、右円偏光の光または左円偏光の光となるように調整することができる。
【0042】
ここで、第1の位相変調層23における第1の複屈折性材料層23aとしては、高分子液晶、水晶、延伸フィルム、サブミクロン構造を用いたフォトニック結晶等を用いることができる。また、第2の位相変調層25における第2の複屈折性材料層25aとしては、高分子化したコレステリック相高分子液晶等を用いることができる。
【0043】
尚、上記説明においては、第1の領域21には、第1の等方性材料層23a及び第2の等方性材料層25aを形成し、第2の領域22には、第1の複屈折性材料層23b及び第2の複屈折性材料層25bを形成したものについて説明したが、位相差が発生する他の構成としては、第1の領域21には、第1の複屈折性材料層23b及び第2の複屈折性材料層25bを形成し、第2の領域22には、第1の等方性材料層23a及び第2の等方性材料層25aを形成した構成であってもよい。
【0044】
コレステリック相高分子液晶を用いた場合、右円偏光の光の屈折率nと左円偏光の光の屈折率nは、以下に示す(1)及び(2)となる。
【0045】
=navg+(Δn)P/8λ・・・・・(1)
=n+ρΔn/π・・・・・・・・・・(2)
尚、液晶の異常光の屈折率をn、常光屈折率をn、平均屈折率をnavg=(n+n)/2、屈折率差をΔn=(n−n)/2、コレステリック相高分子液晶の螺旋ピッチをP、波長をλとした。
【0046】
また、以下の量を次のように定義した。
【0047】
ρ=π(Δn)P/4λ+π(λ―λ){1−(1−Q/e0.5}/P
=(πΔn/navg
={2π(λ−λ)/λ}
λ={navg−(Δn)P/8λ}P
次に、2つの波長に対して位相差Δφ(λ)および、Δφ(λ)における設計方法について説明する。上述の構成により、第1の領域21に対する第2の領域22の位相差は次のように表すことができる。
【0048】
Δφ(λ)=2π(n(λ)−ns1(λ))d/λ
+2π(n(λ)−ns2(λ))d/λ・・・・・(3)
Δφ(λ)=2π(n(λ)−ns1(λ))d/λ
+2π(n(λ)−ns2(λ))d/λ・・・・・(4)
上述の式(3)及び(4)はd、dの2元連立方程式であるため、下の条件を満たす場合には解くことができ、解いた解を用いて高さd、dを決定することで所定の位相差を得ることができる。
【0049】
(n(λ)−ns1(λ))/λ:(n(λ)−ns2(λ))/λ
≠(n(λ)−ns1(λ))/λ:(n(λ)−ns2(λ))/λ
一方、位相差Δφ(λ)および、Δφ(λ)は、以下のように略ゼロとなる。
【0050】
Δφ(λ)=2π(n(λ)−ns1(λ))d/λ
+2π(n(λ)−ns2(λ))d/λ2
≒0
Δφ(λ)=2π(n(λ)−ns1(λ))d/λ
+2π(n(λ)−ns2(λ))d/λ
≒0
次に、図5に基づき1/4波長板24について説明する。図5(a)は、1/4波長板24における構成を示すものであり、図5(b)は、この1/4波長板24の光学軸の方向と入射する直線偏光の光の方向との関係を示すものである。
【0051】
1/4波長板24は、入射する2つの波長の光の各々に対して、略1/4波長分の位相差を発生させるものであり、複屈折性材料からなる第1の波長板31と、第2の波長板32とを積層することにより得ることができる。一般的に波長板に入射した光の偏光状態はジョーンズ行列を用いて計算することができ、入射偏光がX軸方向に偏光しているとし、入射偏光に対しθ方向に遅相軸、θ+90°方向に進相軸を有する厚さdの複屈折性材料において、光が透過する場合、ジョーンズ行列Jは、数1に示す式により示される。
【0052】
【数1】

数1に示す式に基づき、厚さdの第1の波長板31をX−Y平面において、X軸に対しθ傾け、厚さdの第2の波長板32をX軸に対しθ傾けて積層した場合、ジョーンズ行列は、
J=R(θ)D(d)R(−θ)R(θ)D(d)R(−θ
となる。
【0053】
尚、図5(b)において、矢印33は、この1/4波長板24に入射する直線偏光の光の偏光方向を示すものであり、矢印31aは、第1の波長板31における遅相軸の方向を示すものであり、矢印32aは、第2の波長板32における遅相軸の方向を示すものである。
【0054】
上記のジョーンズ行列より、波長λの光のうちX偏光成分、Y偏光成分の位相差δ(λ)、楕円率k(λ)及び、波長λの光のうちX偏光成分、Y偏光成分の位相差δ(λ)、楕円率k(λ)を得ることができる。この際、θ、d、θ、dが、4つの未知数となるため、δ及びkの値は、これら4つの未知数の値を調節することにより、所望の値とすることができる。
【0055】
次に、位相変調素子14を透過する光の位相について具体的に説明する。図6(a)は、第1の位相変調層23側(+Z方向)から光が入射したとき、図6(b)は、第2の位相変調層25側(−Z方向)から光が入射したときの様子を示す模式図である。また、ここで、第1の直線偏光をX軸方向とし、第1の位相変調層23側からX軸方向の直線偏光の光が入射するものとする。また、X軸方向の直線偏光の光が1/4波長板24に入射すると左円偏光の光となって透過するものとする。一方、第2の位相変調層25側から右円偏光の光が入射し、右円偏光の光が1/4波長板24に入射するとY軸方向の直線偏光(第2の直線偏光)の光となって透過するものとする。
【0056】
このような構成の位相変調素子14においては、図6(a)に示すように、第1の位相変調層23の側から入射した光については、第1の領域21に入射した光41aと、第2の領域22に入射した光42aについては、位相変調素子14を透過した後、第2の位相変調層25側から出射した光の位相は変化することなく、同じ位相の状態のまま出射される。また、上記の連立方程式において、2つの波長λおよび波長λにおける所望の位相差がそれぞれ略πになるように設定した場合、しかるべき解が得られる。このとき、図6(b)に示すように、第2の位相変調層25の側から入射した光については、位相変調素子14を透過した後、第2の位相変調層23側から出射した光の位相が、第1の領域21に入射した光41bに対し、第2の領域22に入射した光42bは、略π変化した状態で出射される。
【0057】
これにより、図2に示される光ヘッド装置10における偏光状態について考える。光源11より多層光ディスク19に向かう光については、位相変調素子14において、第1の領域21と第2の領域22に入射した光の位相を変化させることなく、位相変調素子14より出射させることができる。そして、波長λと波長λそれぞれに対応した多層光ディスク19の情報記録面19aにおいて反射した光についてはいずれも、位相変調素子14において、第1の領域21と第2の領域22に入射した光の位相を略π変化させて、位相変調素子14より出射させることができる。尚、この略πは正確にπでなくとも効果を有するものであり、0.9π以上、1.1π以下であれば、略同様の効果を得ることができる。また、上記内容の具体的な説明については後述する。
【0058】
尚、上記のように入射する光の偏光状態によって発生させる位相差が、略0または略πとしているのは以下の理由による。例えば、略0の位相差と同等のものとして略2π、略4π等の位相差が発生するものであったり、略πの位相差と同等のものとして略3π、略5π等の位相差が発生するものであったりしてもよい。しかしながら、位相差を大きく設定すると位相差の波長依存性が大きく変化する。例えば、温度変動によって変化する半導体レーザの波長の変化に対して所望の特性を得ることが困難となる場合や、半導体レーザの個別素子の特性のばらつきのマージンが狭くなるといった問題があるので好ましくない。従って、入射する光の波長依存性が少なく安定した特性を得ることができるように位相差をそれぞれ、略0、略πとすることが好ましい。
【0059】
次に、具体的な設計をした位相変調素子14と、光ヘッド装置10の光検出器18の受光面上の光の干渉パターンについて説明する。図7は、位相変調素子14の具体的な設計を示す平面図である。図7に示すように、位相変調素子14は、直径4mmの光のビームスポット41に対応したものであり、第1の領域21と第2の領域22により構成されている。第2の領域22は、2本の帯状の領域22a及び22bにより構成されており、領域22a及び22bは、Y軸を中心として対称となる位置に配置されている。領域22aは、X軸座標における−1.4mmから−0.9mmの領域において、幅が0.5mmの帯状にY軸方向における長さが10mmとなるように形成されおり、領域22bは、X軸座標における0.9mmから1.4mmの領域において、幅が0.5mmの帯状にY軸方向における長さが10mmとなるように形成されている。尚、領域22a及び22bは、Y軸方向における+方向と、−方向との長さが均一になるように形成されている。
【0060】
このような位相変調素子14を光ヘッド装置10に設置した場合において、光検出器18の受光面に集光される光の電場の位相分布を計算した結果を図8(a)に示す。尚、位相分布とは、光の電場をEexp(iφ)とした場合におけるφを意味するものである。図中においては、黒色部分で示される−πから白色部分で示されるπについて、濃度により示したものである。一方、図8(b)には、光ヘッド装置10に位相変調素子14を設置しない場合において、光を集光した場合における電場の位相分布を計算した結果を示す。
【0061】
図8(a)では、矢印a、b、c、dに示す方向の延長線上において位相がπ異なっている。これは、位相変調素子14における第1の領域21と第2の領域22とにより位相をπ異ならせることにより生じたものである。また、図8(a)は、図8(b)に比べて、濃淡が複雑になっており、また、密に存在している部分もあり、この部分においては空間周波数が高くなっていることが確認される。尚、図8(a)、図8(b)の位相分布は、ある瞬間の状態の一例を示したものであり、時間的に、このような干渉縞が周辺部から中心部に向かって移動するかまたは、中心部から外側に向かって移動する。そして、この干渉縞(の模様)は常にX軸方向、Y軸方向に対して対称的に発生するとは限らない。
【0062】
次に、位相変調素子14による効果について説明する。上述したように、多層光ディスクの記録再生を行う場合、光検出器18に到達する光には、再生等の対象となっている情報記録層である情報記録面からの反射光である信号光以外にも、再生等の対象となっていない情報記録層である情報記録面からの反射光である迷光が含まれている。
【0063】
多層光ディスクにおける情報記録層の層数が2層の場合、再生等の対象となっている情報記録面からの反射光、即ち信号光の電場をEexp(iφ)とし、再生等の対象となる情報記録面からの反射光、即ち迷光の電場をEexp(iφ)とした場合、光検出器18における光強度は、以下に示す(5)に表される。
【0064】
I=∫|Eexp(iφ)+Eexp(iφ)|dS
=∫{E+E+2Ecos(φ−φ)}dS・・・・・(5)
(5)に示す式の下段の第3項が、信号光と迷光との干渉を示すものであり、この干渉により、光検出器18の受光面において干渉縞が生じ、光の強度分布が生じる。
【0065】
光検出器18の受光面においては、迷光は信号光よりも空間的に広がった光となっており、迷光の位相変化は信号光の位相変化よりも緩やかなものとなっているが、再生等の対象となっている情報記録面と、再生等の対象となっていない情報記録面との層間隔によって、信号光と迷光との光路差が変化し、これら2つの光の位相差φ−φの値が変化する。このような位相変化によって、信号光と迷光との2つの光により強め合う位置と弱め合う位置とが変化し、例えば、当初の位相差φ−φに対して、π変化する場合には、光検出器18の受光面における干渉縞の明暗が反転する。
【0066】
このことを図9及び図10に基づき説明する。図9は、光検出器18の平面模式図であって、境界線50によって面積が等しい第1の受光領域18aと第2の受光領域18bと、を分割したものである。ここで、例えば、境界線50に対して斜め方向となる、干渉縞が移動する方向を考え、境界線50に対して45°となる点線で示す直線上に到達する光量について考える。また、光検出器18は、領域が2分割されている場合、迷光による干渉が発生した場合であっても、この第1の受光領域18aに到達する光量と、第2の受光領域18bに到達する光量との差分が小さい方がS/Nが大きく、的確にトラッキングエラー等の信号を検出できるので好ましい。このとき、中心点をゼロ「0」とし、0〜+Dの直線上における光量と、0〜−Dの直線上における光量について考え、位相変調素子14を配置する場合と配置しない場合について説明する。
【0067】
図10は、図9の点線に沿った0〜+D上における光量および、0〜|D|上の光量の差分を示したグラフの例である。とくに、図10(a)〜図10(c)は空間周波数が高い場合、図10(d)〜図10(f)は、それに対して空間周波数が低い場合を例にしたものである。まず、図10(a)と図10(b)は、0〜|D|に対し、位相が反転したような光量分布を有するものとすると、光量の差分は図10(c)のようになる。このとき、光量の差分が0より大きくなる光量の合計と、0より小さくなる光量の合計との差分ができるだけ小さくなると、干渉縞によるノイズ成分がキャンセルされてS/Nが大きくなる。
【0068】
例えば、空間周波数が高い図10(a)〜図10(c)については、光量の差分の合計が小さくなりやすいので、ノイズ成分が少ない。一方、空間周波数が低い図10(d)〜図10(f)については、光量の差分の合計にむらができやすいため、時間的にノイズ成分が大きくなることがあり、空間周波数が高い図10(a)〜図10(c)に比べるとS/Nが小さくなる。特に、光検出器18の周辺部よりも中心部付近は空間周波数が小さいので、S/Nを大きくするには、中心部付近の空間周波数を高めることが効果的である。また、光検出器18としては、図9のように2分割に限らず、境界線50と直交する境界線によって4分割、またはそれ以上の分割数を有する構成のものもあるが、同様に差動信号を得る場合は、特に干渉縞の空間周波数が低い部分の空間周波数を高くするとよい。
【0069】
このように、図8(b)に示す位相変調素子14を設けていない光ヘッド装置においては、等位相部分における面積が比較的広いため、干渉縞における明暗の逆転が生じた場合に、光強度の変化が生じる領域の面積が広く、よって、干渉の影響は大きくなる。一方、位相変調素子14を設けた光ヘッド装置においては、図8(a)に示すように、等位相部分が比較的狭いため、干渉縞における明暗が逆転した場合においても、光強度の変化が生じる領域の面積は狭く、干渉の影響を小さくすることができる。このような、干渉縞における明暗の領域の面積は、サーボ信号検出に用いられる分割された光検出器等において大きく影響が生じる。
【0070】
以上より、2つの波長に対して任意の位相差を与える位相変調素子を得ることができる。この位相変調素子を光ヘッド装置の内部に設置することにより、多層光ディスクの記録再生の際に生じる光検出器18の受光面において生じる干渉縞の明暗分布を細かくする、つまり空間周波数を高くすることができ、多層光ディスクにおける層間クロストークの影響を低減することができる。
【実施例】
【0071】
(実施例)
実施例として、本実施の形態における位相変調素子及び位相変調素子の製造方法について、図4に基づき説明する。最初に、透光性基板26として石英ガラス基板を洗浄した後、乾燥し、不図示のポリイミドを塗布し、一方向にラビングを行うことで配向膜を得る。次に、表1に示す屈折率を有する高分子液晶からなる高分子液晶層を6.63μm形成する。
【0072】
【表1】

高分子液晶層を形成した後、高分子液晶層上にフォトリソグラフィ法により第2の領域22となる領域にレジストパターンを形成し、レジストパターンの形成されていない領域における高分子液晶層をエッチングにより除去する。これにより、第1の複屈折性材料層23aを形成する。この後、表1に示す屈折率を有する充填剤により、高分子液晶からなる第1の複屈折性材料層23aの間を充填して、第1の等方性材料層23bを形成する。これにより、第1の位相変調層23が形成される。
【0073】
次に、第2の基板となる石英ガラス基板27を洗浄した後、乾燥し、表2に示す屈折率を有し、螺旋ピッチが0.35μmの高分子化したコレステリック相高分子液晶からなるコレステリック相高分子液晶層を13.3μm形成する。
【0074】
【表2】

この後、コレステリック相高分子液晶上にフォトリソグラフィ法により第2の領域22となる領域にレジストパターンを形成し、レジストパターンの形成されていない領域におけるコレステリック相高分子液晶層をエッチングにより除去する。これにより、第2の複屈折性材料層25aを形成する。この後、表2に示す屈折率を有する充填剤により、高分子液晶からなる第2の複屈折性材料層25aの間を充填して、第2の等方性材料層25bを形成する。これにより、第2の位相変調層25が形成される。
【0075】
次に、第3の基板となる石英ガラス基板28を洗浄した後、乾燥し、表1に示す屈折率を有する高分子液晶からなる第1の位相板31となる層を5.4μm形成する。さらに第1の位相板31となる層の上に、第1の位相板31となる層とは遅相軸の方向が54.4°異なる角度で、表1に示す屈折率を有する高分子液晶からなる第2の位相板32となる層を2.7μm形成する。このようにして1/4波長板24を形成する。この1/4波長板24では、波長λ(405nm)及び波長λ(660nm)の光において、第1の位相板31となる層における遅相軸に対し107.8°の直線偏光の光が入射した場合には、右円偏光の光を出射する。また、第1の位相板31となる層における遅相軸に対し17.8°の直線偏光の光が入射した場合には、左円偏光の光を出射する。
【0076】
上記の第1の基板となる石英ガラス基板26、第3の基板となる石英ガラス基板28、第2の基板となる石英ガラス基板27を積層し、更に、第4の基板となる石英ガラス基板29を第2の位相変調層25上に積層する。この際、第3の基板となる石英ガラス基板28に形成されている1/4波長板24における第1の位相板31となる層の遅相軸に対し、第1の基板となる石英ガラス基板26上に形成されている第1の複屈折性材料層23aの遅相軸が107.8°の角度をなした状態で積層されており、更に、第1の複屈折性材料層23aと第2の複屈折性材料層25aとが、ともに第2の領域22となるように積層する。
【0077】
このような構成を有する位相変調素子を、光ヘッド装置10の光源11より多層光ディスク19へと至る往路の光の偏光方向とラビング方向とが直交するように配置すると、往路の直線偏光の光が入射した場合、偏光方向が進相軸と一致しており、第1の複屈折性材料層23aにおける屈折率と、第1の等方性材料層23bにおける屈折率とが同じであるため、第1の位相変調層23において位相差は生じない。次に、1/4波長板24において直線偏光の光は左円偏光の光となり、第2の位相変調層25に入射する。第2の位相変調層25に入射した光は、第2の位相変調層25の第2の複屈折性材料層25aにおけるコレステリック相高分子液晶の左円偏光の光に対する屈折率は、第2の等方性材料層25bを構成する充填剤の屈折率と同じであるため、位相差を生じることはない。
【0078】
この後、位相変調素子14を出射した光は、多層光ディスク19の情報記録面19aにおいて反射され、左円偏光の光は右円偏光の光となり、位相変調素子14に入射する。第2の位相変調層25においては、第2の複屈折性材料層25aにおけるコレステリック相高分子液晶の右円偏光の光に対する屈折率は、第2の等方性材料層25bを構成する充填剤の屈折率は異なる。よって、位相変調素子14の第2の位相変調層25に右円偏光の光として入射した光は、この屈折率差により波長が405nmの光では−0.64π、波長が660nmの光では0.2πの位相差が付加される。
【0079】
次に、1/4波長板24において右円偏光の光は、前述した往路の直線偏光の光の偏光方向と直交し、第1の複屈折性材料層23aの遅相軸と一致した直線偏光の光となり、第1の位相変調層23に入射する。第1の位相変調層23においては、第1の複屈折性材料層23aにおける高分子液晶の異常光屈折率は、第1の等方性材料層23bを構成する充填剤の屈折率は異なる。よって、位相変調素子14の第1の位相変調層23に入射した遅相軸の方向に直線偏光した光は、この屈折率差により波長が405nmの光では1.64π、波長が660nmの光では0.8πの位相差が付加される。
【0080】
従って、位相変調素子14において、波長405nmの光でπ、波長660nmの光でπの位相差が付加される。よって、実施例に示す位相変調素子14においては、2つの異なる波長の光に対して略同一の位相差を付加することができる。
【0081】
以上より、第1の複屈折性材料層23aの進相軸に偏光した波長λ及び波長λの直線偏光の光を第1の位相変調層23の側から入射した場合には、位相変化をさせることなく、第1の複屈折性材料層23aの遅相軸に偏光した波長λ(405nm)及び波長λ(660nm)の直線偏光の光を第2の位相変調層25の側から入射した場合には、第1の領域21と第2の領域22との間において、位相差を略π生じさせることが可能な位相変調素子を得ることができる。この位相変調素子を光ヘッド装置の内部に設置することにより、多層光ディスクを再生等する際における層間クロストークを低減させることができる。
【0082】
(比較例)
次に、比較例について図11に基づき説明する。比較例は、本実施の形態における第2の位相変調層25を有しない構造の位相変調素子である。
【0083】
図11(a)は、比較例における位相変調素子114の模式的平面図であり、図11(b)は、図11(a)における破線11A−11Bにおいて切断した断面図である。トラッキングの調整を行うためのレンズシフト方向はY軸方向である。また、この位相変調素子114は、第1の領域121と第2の領域122を有しており、第2の領域122は、X軸方向に一定の幅を有し、レンズシフト方向であるY軸方向に延びるように2本の帯状に形成されている。位相変調素子114に入射する光は、Z軸方向に平行な方向より入射する。
【0084】
この位相変調素子114は、石英ガラス基板125及び126との間に、複屈折性材料層123と等方性材料層124により形成されている。複屈折性材料層123は、表1に示す高分子液晶により第2の領域122に形成されている。また、等方性材料層124は、表1に示す充填剤により形成されている。複屈折性材料層123は、往路の直線偏光と進相軸とが一致するように配向処理が成されており、高さが4.05μmで形成されている。
【0085】
往路の直線偏光の光が入射した場合、複屈折性材料層123における高分子液晶の屈折率と、等方性材料層124における充填剤の屈折率とが一致しているため位相差は付与されない。この後、位相変調素子114を出射した光は光ヘッド装置において図示しない1/4波長板を介し、多層光ディスクに照射され、多層光ディスクにおける情報記録面において反射される。反射された光は1/4波長板を介し、位相変調素子114に再び入射する。この位相変調素子114に入射した光は、往路における光と直交する直線偏光の光となる。この光は、複屈折性材料層123における遅相軸と一致しているため、複屈折性材料層123の異常光屈折率と等方性材料層124における充填剤の屈折率との差により、位相差が生じる。具体的には、波長405nmの光が入射した場合には、位相差はπとなるが、波長660nmの光が入射した場合には、0.5πとなる。従って、比較例に示す位相変調素子114においては、2つの異なる波長において同一の位相差を付加することができない。
【0086】
また、本発明の実施に係る形態について説明したが、上記内容は、発明の内容を限定するものではない。
【符号の説明】
【0087】
10、10a 光ヘッド装置
11 光源
12、16 コリメータレンズ
13 ビームスプリッタ
14、14a 位相変調素子
15 対物レンズ
17 シリンドリカルレンズ
18 光検出器
18a 第1の受光領域
18b 第2の受光領域
19 多層光ディスク
19a 情報記録面
21 第1の領域
22 第2の領域
23 第1の位相変調層
23a 第1の複屈折性材料層
23b 第1の等方性材料層
24 1/4波長板
25 第2の位相変調層
25a 第2の複屈折性材料層
25b 第2の等方性材料層
26、27、28、29 透光性基板(石英ガラス基板)
50 境界線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも相互に異なる波長λの光と波長λ(λ≠λ)の光とを出射する光源と、
前記光源から出射された光を光ディスクの情報記録面に集光させる対物レンズと、
前記情報記録面において反射された信号光を検出するための光検出器と、を有する光ヘッド装置において、
前記波長λの光と前記波長λの光の共通する光路であって、前記対物レンズと前記光検出器との間の光路に配置された位相変調素子を有し、
前記位相変調素子は、入射する前記信号光に対し第1の位相で出射する第1の領域と、入射する前記信号光に対し前記第1の位相と異なる第2の位相で出射する第2の領域と、を有し、
前記波長λの前記信号光に対する前記第1の位相と前記第2の位相との位相差である第1の位相差Δφと、前記波長λの前記信号光に対する前記第1の位相と前記第2の位相との位相差である第2の位相差Δφとは、ともに略πであって、
前記位相変調素子における前記第1の領域と前記第2の領域は、前記信号光の光軸を含む直線において、線対称に配置されているものであることを特徴とする光ヘッド装置。
【請求項2】
前記位相変調素子において、前記信号光の入射方向とは反対方向となる前記光源から前記光ディスクへ向かう第1の直線偏光の光を入射させた場合に、
前記波長λの前記第1の直線偏光の光に対する前記第1の位相と前記第2の位相との位相差である第1の位相差Δφと、前記波長λの前記第1の直線偏光の光に対する前記第1の位相と前記第2の位相との位相差である第2の位相差Δφとは、ともに略0であることを特徴とする請求項1に記載の光ヘッド装置。
【請求項3】
前記位相変調素子は、第1の位相変調層と、1/4波長板と、第2の位相変調層が、この順に配置されたものであって、
前記第1の位相変調層は、前記第1の領域に形成された第1の等方性材料層と、前記第2の領域に形成された第1の複屈折性材料層とを有し、前記第1の複屈折性材料層は、前記第1の直線偏光の光においては、前記第1の複屈折性材料層における屈折率と前記第1の等方性材料層における屈折率とは等しく、前記第1の直線偏光の方向と直交する第2の直線偏光の方向の光においては、前記第1の複屈折性材料層における屈折率と前記第1の等方性材料層における屈折率とは異なるものであって、
前記1/4波長板は、前記波長λの光に対して略(2m+1)π/2の位相差、前記波長λの光に対し、略(2m+1)π/2の位相差を与えるものであって(m、m≧0の整数)、
前記第2の位相変調層は、前記第1の領域に形成された第2の等方性材料層と、前記第2の領域に形成された第2の複屈折性材料層とを有し、右円偏光の光、左円偏光の光のうち、一方の円偏光の光に対しては、前記第2の等方性材料層における屈折率と、前記第2の複屈折性材料層における屈折率は等しく、他方の円偏光の光に対しては、前記第2の等方性材料層における屈折率と、前記第2の複屈折性材料層における屈折率が異なるものであることを特徴とする請求項1または2に記載の光ヘッド装置。
【請求項4】
前記第2の複屈折性材料層は、コレステリック相高分子液晶により形成されているものであることを特徴とする請求項3に記載の光ヘッド装置。
【請求項5】
前記第1の等方性材料層は、屈折率ns1を有する材料により構成されており、
前記第1の複屈折性材料層は、光学軸が厚さ方向に揃って形成された常光屈折率n、異常光屈折率nを有する材料により構成されており、
前記屈折率ns1は、常光屈折率nと略等しいものであること特徴とする請求項3または4に記載の光ヘッド装置。
【請求項6】
前記波長λは、385nm<λ<430nmであり、
前記波長λは、630nm<λ<690nmであることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の光ヘッド装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2010−282686(P2010−282686A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−134492(P2009−134492)
【出願日】平成21年6月3日(2009.6.3)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】