説明

光モジュールの製造方法

【課題】 ファイバマウント上に光ファイバを適切に固定でき、かつ、漏れ光による熱により損傷を受けることを防止することができる光モジュールの製造方法を提供する
【解決手段】 光モジュール1の製造方法は、はんだが付着するボンディングパッド31が形成されたファイバマウント30上に、表面の少なくとも一部がはんだ20が付着するメタライズ層15で被覆されたメタライズ領域を有する光ファイバ10を、この光ファイバ10の長手方向にメタライズ領域がボンディングパッド31からはみ出るように配置すると共にボンディングパッド31にはんだ20を配置する配置工程P2と、はんだ20を溶融させて、はんだ20をファイバマウント30及びメタライズ領域に付着させるはんだ20付け工程と、メタライズ領域のうち、はんだ20により覆われていないメタライズ領域を溶融したはんだ20に溶食させる溶食工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光モジュールの製造方法に関し、特に、ファイバマウント上に光ファイバを適切に固定でき、かつ、漏れ光による熱により損傷を受けることを防止することができる光モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体レーザ素子から出力されたレーザ光を光ファイバのコアに入力する光モジュールが知られている。この光モジュールにおいては、一般的に、基台上にレーザマウント及びファイバマウントが配置されており、半導体レーザ素子と光ファイバの端部の相対的位置が正確に合わされて、半導体レーザ素子がレーザマウント上に固定され、光ファイバがファイバマウント上に固定されている。
【0003】
ファイバマウント上への光ファイバの固定は、はんだ付けにより行われる場合がある。一般に、光ファイバのファイバマウントに固定される部分は、はんだの濡れ性を向上させるために金等から成るメタライズ層により被覆されている。
【0004】
下記特許文献1には、このような構成の光モジュールが記載されている。この特許文献1に記載の光モジュールにおいて、光ファイバは、光ファイバの長手方向に沿ったファイバマウントの幅よりも長い区間において、メタライズ層で被覆されている。そして、メタライズ層の一部がはんだ付けされて、光ファイバがファイバマウント上に固定されている。従って、光ファイバがファイバマウントに固定されている状態において、はんだから光ファイバのメタライズ層が露出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第6,758,610号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、半導体レーザ素子から光ファイバのコアにレーザ光を入力する場合、レーザ光の一部が、漏れ光として、クラッドに入力することがある。そして、上述のように、光ファイバをメタライズ層で被覆している場合、メタライズ層により、漏れ光の少なくとも一部が吸収されて熱となる。はんだで覆われているメタライズ層において発生した熱は、はんだを介してファイバマウントから基台に逃げる。
【0007】
上記特許文献1の光モジュールのように、光ファイバを被覆しているメタライズ層のうち、はんだで覆われておらず露出している領域で発生した熱は、メタライズ層をはんだで覆われた領域まで経由してはんだ層に伝導する。メタライズ層の厚さは通常数μm程度と断面積が小さく、はんだと比較して熱抵抗が非常に大きいため、メタライズ層の露出部分は露出してない部分より高温になる。従って、はんだのメタライズ層の露出部分との境界付近は、はんだの他の部分よりも高温になる。
【0008】
近年、半導体レーザ素子から出力されるレーザ光のパワーが高くなり、漏れ光のパワーも高くなる傾向がある。従って、上記特許文献1の光モジュールのように、光ファイバを被覆しているメタライズ層が露出している場合、漏れ光により発生する熱は大きくなり、はんだとメタライズ層の露出部分との境界付近においては、温度上昇によりはんだが軟化してしまう虞がある。このようにはんだが軟化すると、光ファイバの位置ずれが生じて、光ファイバのクラッドに漏れ光が更に多く入力し、更に多くの熱が発生して、光モジュールが損傷してしまう可能性がある。このような事態を防止するため、光ファイバのメタライズ層は、はんだから露出せず、全てはんだで覆われることが好ましい。
【0009】
光ファイバをはんだで固定する場合、はんだで覆われる領域は、ファイバマウントのボンディングパッドの外縁の位置に依存する。すなわち、はんだは、ボンディングパッドを底として凸に盛り上がり、断面としてはボンディングパッドの外縁を際として、さらにそこからはんだの表面張力・メタライズ層の濡れ性等に依存して、メタライズ層を覆うはんだ領域が決まる。一方、光モジュールにおいて、光ファイバのファイバマウントに対する位置は、半導体レーザ素子と光ファイバとの光結合効率が高くなるように決められるため、はんだ付け後に、メタライズ層のはんだからの露出がないように、予めメタライズ層の位置を高精度に定めて形成させておくことは製造ばらつきにより困難である。光ファイバの固定強度を確保するために、メタライズ層をはんだで所定の長さ以上覆う必要があるので、光ファイバを被覆するメタライズ層を、はんだ付けが予定されている領域よりも長く設けたいという要請がある。
【0010】
そこで、本発明は、ファイバマウント上に光ファイバを適切に固定でき、かつ、漏れ光による熱により損傷を受けることを防止することができる光モジュールの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の光モジュールの製造方法は、光ファイバがファイバマウントに固定された光モジュールの製造方法であって、はんだが付着するボンディングパッドが形成された前記ファイバマウント上に、表面の少なくとも一部がはんだが付着するメタライズ層で被覆されたメタライズ領域を有する前記光ファイバを、この光ファイバの長手方向に前記メタライズ領域が前記ボンディングパッドからはみ出るように配置すると共に前記ボンディングパッドにはんだを配置する配置工程と、前記はんだを溶融させて、前記はんだを前記ファイバマウント及び前記メタライズ領域に付着させるはんだ付け工程と、前記メタライズ領域のうち、前記はんだにより覆われていない前記メタライズ領域を溶融した前記はんだに溶食させる溶食工程と、を備えることを特徴とするものである。
【0012】
このような光モジュールの製造方法によれば、ファイバマウント上に光ファイバを配置する際、光ファイバの長手方向にメタライズ領域がボンディングパッドからはみ出るように配置するため、メタライズ層の位置が製造誤差等によりばらついている場合においても、適切に光ファイバのはんだ付けを行うことができる。また、はんだからはみ出して露出したメタライズ層は、はんだに溶食されるため、製造された光モジュールにおいて、メタライズ層は、はんだからはみ出さず露出しない。このため製造された光モジュールにおいて、高いパワーのレーザ光が光ファイバに入力する場合において、クラッドに漏れ光が入力しても、光ファイバがはんだから露出している部分とはんだとの境界付近において、はんだが過加熱されることを防止することができる。従って、漏れ光に起因する熱により、はんだが軟化することを防止でき、光モジュールが損傷することを防止することができる。
【0013】
また、上記光モジュールの製造方法において、前記溶食工程は、前記はんだ付け工程完了後に、溶融した前記はんだの温度を更に上げることにより行うことが好ましく、或いは、前記溶食工程は、前記はんだ付け工程完了後に、前記はんだの溶融状態を所定時間保持することにより行うことが好ましい。
【0014】
このような光モジュールの製造方法によれば、はんだの溶融に必要な熱を利用しつつ溶食を行うことができるため、容易にメタライズ層の溶食を行うことができる。
【0015】
また、上記光モジュールの製造方法において、前記はんだ、及び、前記メタライズ層の表面は、同じ種類の金属を少なくとも1つ含むことが好ましい。
【0016】
このような構成により、メタライズ層が、より強固にはんだ付けされる。
【0017】
さらに、上記光モジュールの製造方法において、前記金属が金であることとしても良い。
【0018】
また、本発明の光モジュールの製造方法は、レーザ素子から出力されるレーザ光を光ファイバを介して出力する光モジュールの製造方法であって、はんだが付着するボンディングパッドが形成された前記ファイバマウント上に、表面の少なくとも一部にはんだが付着するメタライズ層で被覆されたメタライズ領域を有する前記光ファイバを、この光ファイバの長手方向に前記メタライズ領域が前記ボンディングパッドからはみ出るように配置すると共に前記ボンディングパッドにはんだを配置する配置工程と、前記はんだを溶融させて、前記はんだを前記ファイバマウント及び前記メタライズ領域に付着させるはんだ付け工程と、前記メタライズ領域のうち、前記はんだにより覆われていない前記メタライズ領域を溶融した前記はんだに溶食させる溶食工程と、を備えることを特徴とするものである。
【0019】
このような光モジュールの製造方法によれば、レーザ素子から高いパワーのレーザ光が光ファイバに入力され、クラッドに漏れ光が入力しても、光ファイバがはんだから露出している部分とはんだとの境界付近において、はんだが過加熱されることを防止することができる。従って、漏れ光に起因する熱により、はんだが軟化することを防止でき、光モジュールが損傷することを防止することができる。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明によれば、ファイバマウント上に光ファイバを適切に固定でき、かつ、漏れ光による熱により損傷を受けることを防止することができる光モジュールの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態に係る光モジュールを示す図である。
【図2】光モジュールにおける光ファイバの長手方向に垂直な断面の構造を示す図である。
【図3】図1の光モジュールの製造方法の工程を示すフローチャートである。
【図4】配置工程後の様子を示す図である。
【図5】はんだ付け工程の様子を示す図である。
【図6】はんだの温度のプロファイルを示す図である。
【図7】はんだ付け工程後の様子を示す図である。
【図8】実施例1及び比較例1における、漏れ光の強度とはんだの上昇温度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る光モジュールの製造方法の好適な実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0023】
図1は、本発明の実施形態に係る光モジュールを示す図である。
【0024】
図1に示すように光モジュール1は、基台60と、基台60上に配置されているレーザマウント50及びファイバマウント30と、レーザマウント50上に配置されている半導体レーザ素子40と、ファイバマウント30上にはんだ20により固定されている光ファイバ10とを主な構成として備える。このように本実施形態の光モジュール1は、半導体レーザ素子40から出力されるレーザ光を光ファイバにより外部に出力する光モジュールである。
【0025】
光モジュール1は、金属等から成る図示しない筐体内に収められている。基台60は、例えば、金属やセラミック製の板状の部材から構成されている。基台60を構成する材料が金属である場合、この金属としては、特に制限されないが、例えば、銅、銅タングステンを挙げることができ、基台60を構成する材料がセラミックである場合、このセラミックとしては、特に制限されないが、例えば、チッカアルミ(AlN)やアルミナ(Al)等を挙げることができる。また、基台60は、筐体と同じ材料である場合には、筐体の一部から構成されても良い。
【0026】
基台60上に配置されているレーザマウント50は、略直方体の形状をしており、図示しないはんだ材料により基台60上に固定されている。このレーザマウント50を構成する材料としては、特に制限されないが、例えば、AlNやAl等のセラミックを挙げることができ、中でも、熱伝導性に優れる観点からAlNが好ましい。また、基台60とレーザマウント50とが同様のセラミックから成る場合には、基台60とレーザマウント50とを一体成型により構成しても良い。
【0027】
半導体レーザ素子40は、レーザマウント50上に図示しないはんだ材料により固定されている。この半導体レーザ素子40においては、複数の半導体層が積層されており、これらの半導体層により共振器構造が形成されている。そして、半導体レーザ素子40の光ファイバ側の面から、例えば、波長が900nm帯のレーザ光を出力する。
【0028】
基台60上に配置されているファイバマウント30は、略直方体の形状をしており、レーザマウントと同様にして、基台60上に固定されている。このファイバマウント30を構成する材料としては、特に制限されないが、例えば、レーザマウント50を構成する材料と同様の材料を挙げることができ、中でも、熱伝導性に優れる観点からAlNが好ましい。また、基台60とファイバマウント30とが同様のセラミックから成る場合には、基台60とファイバマウント30とを一体成型により構成しても良い。また、ファイバマウント30の基台60側と反対側の面には、ボンディングパッド31が形成されている。ボンディングパッド31は、はんだ20が固定可能な材料であれば特に限定されないが、本実施形態においては、ファイバマウント30側にチタン(Ti)層が積層されており、Ti層上に白金(Pt)層が積層されており、Pt層上に金(Au)層が積層されており、このAu層の表面が、ボンディングパッド31のファイバマウント30側と反対側の表面とされている。
【0029】
ボンディングパッド31上には、はんだ20が固定されている。このはんだ20としては、例えば、金錫系の共晶はんだを挙げることができ、Auと錫(Sn)の比としては、Au80%−Sn20%や、Au10%−Sn90%を挙げることができる。本実施形態においては、はんだ20がAu80%−Sn20%である場合について説明する。この場合、はんだの融点は約280度とされる。
【0030】
図2は、光モジュール1における光ファイバ10の長手方向に垂直な断面の構造を示す図である。図2に示すように、光ファイバ10は、コア11と、コア11の外周面を囲むクラッド12ととから構成されている。クラッド12の屈折率はコア11の屈折率よりも低くされており、コアは、例えば、ゲルマニウム等の屈折率を上げるドーパントが添加されたガラスから成り、クラッドは、例えば、何らドーパントが添加されない純粋な石英から構成される。また、特に図示しないが、クラッド12は、光モジュール1の外部においては、紫外線硬化樹脂等から成る被覆層で被覆されている。
【0031】
この光ファイバ10は、はんだ20を貫通しており、はんだ20に固定されている。そして、光ファイバ10の端部は、半導体レーザ素子40の出射面に向けられており、半導体レーザ素子40から出力されるレーザ光がコア11に入力するように配置されている。
【0032】
さらに光ファイバ10は、はんだ20内において、メタライズ層15により被覆されており、このメタライズ層15がはんだ20に固定されている。このメタライズ層15は、はんだ20内にのみ設けられており、はんだ20の外にはみ出していない。なお、図1において、メタライズ層15の記載は省略している。このメタライズ層15は、はんだ20に濡れやすく、固定され易い構成とされており、特に限定されないが、本実施形態においては、Ni層とAu層の積層体から成り、Ni層がクラッド12の外周面を被覆しており、Au層がNi層の外周面を被覆している。また、Ni層、Au層の厚さは、特に限定されないが、例えば、Ni層が2μm〜3μmであり、Au層が0.1μm〜0.2μmとされる。
【0033】
後述するようにはんだ付けは、フラックス無しで行うため、はんだ対象領域の表面は、濡れ性を高めるためAuであることが好ましい。下層のNi層は、Auの石英に対する密着性を高めるために下地層として形成されている。このNi層が漏れ光の一部を吸収する。
【0034】
従って、本実施形態においては、ボンディングパッド31の表面、及び、はんだ20、及び、メタライズ層15の表面が共にAuを含んで構成されている。
【0035】
光ファイバ10のはんだ20で覆われた領域外であって、このはんだ20の近傍には、メタライズ層除去領域16が存在する。本実施形態において、メタライズ層除去領域16は、はんだ20に対して半導体レーザ素子40側とその反対側との両側に存在している。このメタライズ層除去領域16は、はんだ付け前にはメタライズ層15が形成された領域であるが、後述の溶食工程により、メタライズ層15を除去した領域である。このメタライズ層除去領域16には、光ファイバ10の漏れ光を吸収するNi層はもはやほとんど残存していないため、この領域では漏れ光による大きな発熱が発生することは抑制されている。なお、このメタライズ層除去領域16の表面には、Ni酸化物等がわずかに残存しているため、光ファイバ10の元々メタライズ層15が形成されていなかった表面とは区別することができる。なお、本実施形態において、メタライズ層除去領域16は、はんだ20に対して半導体レーザ素子40側とその反対側との両側に存在しているものとしたが、はんだ20に対して半導体レーザ素子40側もしくはその反対側のいずれか一方に存在しても良い。
【0036】
このような光モジュール1は、図示しない外部からの電力の供給により、半導体レーザ素子40からレーザ光が出力される。出力されるレーザ光の波長は、上述のように、例えば、900nm帯とされる。出力されたレーザ光は、光ファイバ10のコア11に入力して、コア11を伝播して、光モジュール1の外部に出力される。
【0037】
なお、レーザ光が光ファイバ10に入力するとき、レーザ光は、上述のようにコア11に入力するが、光ファイバ10の端面における屈折や、光ファイバ10と半導体レーザ素子40との光軸のずれ等により、レーザ光の一部がクラッド12に漏れ光として入力する場合がある。この場合、漏れ光は、主にクラッド12を伝播して、光ファイバ10がメタライズ層15で被覆されている部分に到達して、漏れ光の少なくとも一部がメタライズ層15に吸収され、熱に変換される。このとき生じる熱は、はんだ20、ファイバマウント30、及び、基台60を介して、外部に放出される。
【0038】
次に光モジュール1の製造方法について説明する。
【0039】
図3は、図1の光モジュール1の製造方法の工程を示すフローチャートである。図1に示すように、光モジュール1の製造方法は、ファイバマウント30、及び、メタライズ層15が設けられた光ファイバ10、及び、はんだ20を準備する準備工程P1と、光ファイバ10、及び、はんだ20をファイバマウント30上に配置する配置工程P2と、はんだ20をファイバマウント30及びメタライズ層に付着させるはんだ付け工程P3と、メタライズ層15がはんだ20から露出している部分をはんだ20に溶食させる溶食工程P4と、を備える。
【0040】
<準備工程P1>
まず、ファイバマウント30、及び、メタライズ層15が設けられた光ファイバ10、及び、はんだ20を準備する。
【0041】
ファイバマウント30において、はんだ付けされる面に設けられるボンディングパッド31は、蒸着法、スパッタ法、めっき法等の成膜加工により設ければ良い。そして、ファイバマウント30におけるボンディングパッド31が設けられている面と逆側の面を図示しないはんだ材料により基台60に固定する。なお、ファイバマウント30が基台60と一体とされている場合や、予めファイバマウント30が基台60に固定されている場合には、基台60にファイバマウント30が固定されている状態で、ボンディングパッド31を設ければ良い。
【0042】
また、本工程において、基台60にレーザマウント50を図示しないはんだ材料により固定すると共に、レーザマウント50上に半導体レーザ素子40を図示しないはんだ材料により固定する。
【0043】
光ファイバ10においては、はんだ付けが予定されている領域を含んで、この領域よりも長くメタライズ層15を設ける。具体的には、はんだ付けが予定されている領域の両側にはみ出すようにして、メタライズ層15を設ける。このはんだ付けが予定されている領域の長さは、図1のように光ファイバ10がファイバマウント30上に配置される場合において、ファイバマウント30のボンディングパッド31における光ファイバ10の長手方向に沿った幅と同じと考えれば良い。従って、この場合には、メタライズ層15の長さが、ボンディングパッド31における光ファイバ10の長手方向に沿った幅よりも長くなるようにメタライズ層15を設ければ良い。例えば、ボンディングパッド31における光ファイバ10の長手方向に沿った幅よりも、0.05mm〜1.0mm程度長くメタライズ層15を設ける。なお、はんだ付けが予定される領域は、他の要素により定められても良い。この場合においても、メタライズ層15は、はんだ付けが予定される領域の長さよりも0.05mm〜1.0mm程度長く設けられれば良い。この余裕長は、所定の位置に光ファイバ10を配置したときに、メタライズ層15の外縁がボンディングパッド31の上に位置することがないように、メタライズ層15の形成位置精度、半導体レーザ素子40およびファイバマウント30の配置位置精度を考慮して決められる。
【0044】
メタライズ層15は、上述のように、例えば、Ni層とAu層との積層体であるため、めっき法により設けられることが好ましい。めっき法によれば、長さ方向に垂直な断面が円形である光ファイバ10の側面に対して、より均一な厚さでメタライズ層15を設けることができるためである。
【0045】
こうしてメタライズ層15が設けられた領域がメタライズ領域17となる。
【0046】
はんだ20は、光ファイバ10をファイバマウント30上に固定するために、適切な量を準備して、必要な分のはんだ20をファイバマウント30上に配置できるように、一塊にしておく。なお、はんだ20にはフラックスが添加されていないことが、光ファイバ10の端面や半導体レーザ素子40の出射面にフラックスが付着することを防止できる観点や、はんだ20の腐食(酸化や硫化)を防止でき信頼性が向上することができる観点から好ましい。
【0047】
<配置工程P2>
次に準備したファイバマウント30上に、光ファイバ10、及び、はんだ20を配置する。図4は、配置工程P2後の様子を示す図である。具体的には、図4の(A)は、光ファイバの長手方向に沿ってファイバマウント30を見る図であり、図4の(B)は、ボンディングパッド31に垂直な方向に沿って、ファイバマウント30を見る図である。なお、図4の(B)において、基台60の記載は省略されている。図4に示すように、本工程においては、ボンディングパッド31上の端にはんだ20を配置する。
【0048】
また、光ファイバ10の中心軸が、半導体レーザ素子40から出射されるレーザ光の光軸と合うようにして、光ファイバ10を配置する。この光ファイバ10の配置においては、図示しない治具を用いて、図4の(A)に示すように、光ファイバ10がボンディングパッド31から僅かに浮くようにして、光ファイバ10の位置を固定する。この固定位置において、図4の(B)に示すように、メタライズ層15(メタライズ領域17)の両方の端部が、ボンディングパッド31からはみ出ることになる。
【0049】
こうして、ファイバマウント30上に、光ファイバ10、及び、はんだ20が配置される。
【0050】
<はんだ付け工程P3>
次に、ボンディングパッド31上に配置されたはんだ20を加熱により溶融して、ボンディングパッド31及びメタライズ層15に付着させる。図5は、はんだ付け工程P3の様子を図4の(A)と同じ視点から見た図である。図5に示すように、本実施形態においては、はんだ20の加熱は、レーザ光Lの照射により行われる。レーザ光Lは、はんだ20に直接照射されても良いが、はんだ20が局所的に溶融したり、はんだ20が変質することを防止する観点から、ファイバマウント30に照射されることが好ましい。このようにファイバマウント30にレーザ光Lが照射される場合、ファイバマウント30における加熱された部分からの熱伝導により、ボンディングパッド31が加熱されて、更にこの熱がはんだ20に伝導して、はんだ20が溶融する。
【0051】
図6は、はんだ20の温度のプロファイルを示す図である。本実施形態においては、レーザ光Lを33Wで照射する。この場合、レーザ光Lの照射から約0.2秒程度で、はんだ20は280度に達する。上述のように本実施形態にいては、はんだ20の組成が、Au80%−Sn20%であり、はんだ20の融点が280度であるため、約0.2秒後にはんだ20は溶融する。
【0052】
図7は、はんだ付け工程後の様子を示す図であり、図7の(A)は、はんだ付け工程後の様子を図4と同じ視点で見た図であり、図7の(B)は、光ファイバ10の長手方向に垂直な方向に沿ってファイバマウント30を見た図である。上述のようにレーザ光Lによる加熱により溶融したはんだ20は、図7の(A)に示すように、ボンディングパッド31の露出している表面全体に濡れ広がり、ボンディングパッド31に付着すると共に、メタライズ層15(メタライズ領域17)を巻き込むようにしてメタライズ層15(メタライズ領域17)に付着する。このとき、図7の(B)に示すように、溶融したはんだ20には、メタライズ層15の表面に沿ってフィレット(裾引き)が形成されるが、形成されたフィレットは、メタライズ層15の端部までは届かず、はんだ20からメタライズ層15がはみ出て、メタライズ層15の一部が露出する。
【0053】
なお、本工程は、はんだ20の酸化を防止する観点から不活性ガス雰囲気下において行うことが好ましい。
【0054】
<溶食工程P4>
次に、メタライズ層15がはんだ20から露出している部分をはんだ20に溶食させる。具体的には、図6に示すように、はんだ付け工程P3において、はんだ20を溶融させた後、更にレーザ光Lの照射を続けて、溶融させたはんだ20の温度を更に上げる。本実施形態において、レーザLの照射開始後から約0.2秒後に約280度に達して溶融したはんだ20は、約1秒後にはんだ20の溶融温度より約240度高い520度に達する。このときはんだ20からはみ出ているメタライズ層15(メタライズ領域17)は、はんだ20に溶食される。この溶食とは、はんだ食われとも呼ばれ、はんだ20の温度がメタライズ層15の融点よりも低い温度であっても、メタライズ層15がはんだ20に融解する現象である。こうして、メタライズ層15のはんだ20からはみ出た部分が除去される。そして、はんだ20の表面張力により、光ファイバ10に沿ったフィレットが無くなる。このようにしてメタライズ層15のはんだ20からはみ出た部分が除去され、メタライズ層除去領域16が形成される。
【0055】
なお、本工程もはんだ付け工程P3と同様の理由から、不活性ガス雰囲気下において行うことが好ましい。
【0056】
そして、約1.5秒後にレーザ光Lの照射が止められて、その後、図6に示すように、はんだ20の温度が下がり、溶融したはんだ20が固化した後、図示しない筐体で封止して、図1にしめす光モジュール1を得る。
【0057】
以上説明したように、本実施形態の光モジュール1の製造方法によれば、ファイバマウント30上に配置される光ファイバ10における、はんだ付けが予定される領域よりも長い領域がメタライズ層15により被覆されているため、光ファイバ10をファイバマウント30上に配置等する際に製造誤差等が生じる場合においても、適切に光ファイバ10のはんだ付けを行うことができる。また、はんだ20からはみ出して露出したメタライズ層15は、はんだ20に溶食されるため、製造された光モジュール1において、メタライズ層15は、はんだ20からはみ出さず露出しない。このため製造された光モジュール1において、半導体レーザ素子40から出力されるレーザ光を光ファイバ10のコア11に入力する際に、クラッド12に漏れ光が入力する場合においても、光ファイバ10がはんだ20から露出している部分とはんだ20との境界付近において、はんだ20が過加熱されることを防止することができる。従って、漏れ光に起因する熱により、はんだ20が軟化することを防止でき、光モジュール1が損傷することを防止することができる。
【0058】
また、本実施形態のように、溶食工程P4がはんだ20が溶融した後、更に、はんだ20を加熱することにより行われれば、はんだ20の溶融に必要な熱を利用して溶食を行うことができるため、容易にメタライズ層15の溶食を行うことができる。
【0059】
また、本実施形態のように、ボンディングパッド31の光ファイバ10の長手方向に沿った幅がメタライズ層15の長さより小さければ、ファイバマウント30上に光ファイバ10を配置する際に製造誤差が生じる場合においても、適切に光ファイバ10にはんだ付けを行うことができる。
【0060】
以上、本発明について上記実施形態を例に説明したが、本発明はこれに限らない。
【0061】
例えば、溶食工程P4において、メタライズ層15がはんだ20から露出している部分をはんだ20に溶食させるために、溶融させたはんだ20の温度を更に上げる方法について説明したが、はんだ20の温度を溶融温度以上に過度に上げることなく、はんだ20の溶融状態を所定の期間保つことにより、溶食させることもできる。溶食させるための温度と期間は、はんだ20の組成、溶食させるメタライズ層15の長さ等により、予め決められる。なお、一般のはんだ付け工程においては、その必要性が無く、また、はんだ20の変質、周辺部品への熱の影響を最小限に抑えるため、融点近傍までしか温度を上げることが無く、所定のはんだ付けが終了した後まではんだ20の溶融状態を保つことは行われない。
【0062】
また、上記実施形態においては、レーザ素子として、半導体レーザ素子40を例に説明したが、本発明は、これに限らず、他のレーザ光を発する他の素子であっても良い。
【0063】
また、はんだ20は他の材料系のはんだでの良く、ボンディングパッド31の表面、及び、はんだ20、及び、メタライズ層の表面に同じ金属が含まれていなくても良い。
【0064】
さらに、半導体レーザ素子40と光ファイバ10との間にレンズ等の光学部品が配置されていても良い。
【0065】
また、はんだ付け工程P3、溶食工程P4において、レーザ光Lにより加熱を行ったが、加熱は抵抗加熱等の他の加熱により行っても良い。
【実施例】
【0066】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明の内容をより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものでは無い。
【0067】
(実施例1)
実施形態と同様の光モジュールを想定して、クラッドに入力する漏れ光の量に対して、はんだと光ファイバとの境界付近におけるはんだの上昇温度の変化をシミュレーションした。
【0068】
光モジュールの光ファイバにおいて、外径を125μmとした。また、メタライズ層において、長さを0.8mmとした。さらに、ボンディングパッドの光ファイバの長手方向に沿った幅の大きさをメタライズ層の長さと同様の0.8mmとして、はんだがボンディングパッドの幅まで広がった構成を想定し、メタライズ層がはんだからはみ出していないものとした。
【0069】
次に、このような条件の光モジュールのクラッドに図8に示す漏れ光が入力するものとして、入力した漏れ光の強度毎に、はんだと光ファイバとの境界付近におけるはんだの上昇温度をシミュレーションした。その結果を図8に示す。
【0070】
(比較例1)
メタライズ層の長さを1.3mmとして、ボンディングパッドの光ファイバの長手方向に沿った幅の大きさを実施例1と同様の0.8mmとして、メタライズ層の両方の端部が、はんだから0.25mmずつはみ出している構成としたこと以外は、実施例1と同様の光モジュールを想定した。
【0071】
次に、このような条件の光モジュールのクラッドに実施例1と同様の漏れ光が入力するものとして、入力した漏れ光の強度毎にはんだの上昇温度をシミュレーションした。その結果を図8に示す。
【0072】
図8に示すように、はんだと光ファイバとの境界付近におけるはんだの上昇温度は、比較例1が実施例1よりも約1.8倍高い結果となった。
【0073】
この結果より、本発明により製造された光モジュールによれば、はんだと光ファイバとの境界付近におけるはんだの温度の上昇が抑制されることが分かった。従って、本発明を用いて製造された光モジュールによれば、漏れ光による熱で損傷を受けることを防止することができると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
以上説明したように、本発明によれば、ファイバマウント上に光ファイバを適切に固定でき、かつ、漏れ光による熱により損傷を受けることを防止することができる光モジュールの製造方法が提供される。
【符号の説明】
【0075】
1・・・光モジュール
10・・・光ファイバ
11・・・コア
12・・・クラッド
15・・・メタライズ層
16・・・メタライズ層除去領域
17・・・メタライズ領域
20・・・はんだ
30・・・ファイバマウント
31・・・ボンディングパッド
40・・・半導体レーザ素子
50・・・レーザマウント
60・・・基台
P1・・・準備工程
P2・・・配置工程
P3・・・はんだ付け工程
P4・・・溶食工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバがファイバマウントに固定された光モジュールの製造方法であって、
はんだが付着するボンディングパッドが形成された前記ファイバマウント上に、表面の少なくとも一部がはんだが付着するメタライズ層で被覆されたメタライズ領域を有する前記光ファイバを、この光ファイバの長手方向に前記メタライズ領域が前記ボンディングパッドからはみ出るように配置すると共に前記ボンディングパッドにはんだを配置する配置工程と、
前記はんだを溶融させて、前記はんだを前記ファイバマウント及び前記メタライズ領域に付着させるはんだ付け工程と、
前記メタライズ領域のうち、前記はんだにより覆われていない前記メタライズ領域を溶融した前記はんだに溶食させる溶食工程と、
を備えることを特徴とする光モジュールの製造方法。
【請求項2】
前記溶食工程は、前記はんだ付け工程完了後に、溶融した前記はんだの温度を更に上げることにより行うことを特徴とする請求項1に記載の光モジュールの製造方法。
【請求項3】
前記溶食工程は、前記はんだ付け工程完了後に、前記はんだの溶融状態を所定時間保持することにより行うことを特徴とする請求項1に記載の光モジュールの製造方法。
【請求項4】
前記はんだ、及び、前記メタライズ層の表面は、同じ種類の金属を少なくとも1つ含むことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の光モジュールの製造方法。
【請求項5】
前記金属は、金であることを特徴とする請求項4に記載の光モジュールの製造方法。
【請求項6】
レーザ素子から出力されるレーザ光を光ファイバを介して出力する光モジュールの製造方法であって、
はんだが付着するボンディングパッドが形成された前記ファイバマウント上に、表面の少なくとも一部がはんだが付着するメタライズ層で被覆されたメタライズ領域を有する前記光ファイバを、この光ファイバの長手方向に前記メタライズ領域が前記ボンディングパッドからはみ出るように配置すると共に前記ボンディングパッドにはんだを配置する配置工程と、
前記はんだを溶融させて、前記はんだを前記ファイバマウント及び前記メタライズ領域に付着させるはんだ付け工程と、
前記メタライズ領域のうち、前記はんだにより覆われていない前記メタライズ領域を溶融した前記はんだに溶食させる溶食工程と、
を備えることを特徴とする光モジュールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−133064(P2012−133064A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−284077(P2010−284077)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】