説明

光伝送システム、局側光終端装置及び上り送信制御方法

【課題】
遠距離のONUの上り伝送のスループット及び遅延特性を改善する。
【解決手段】
CPU(32)の下りフレーム生成機能(34)は、RTTテーブル(36a)とグラント情報(36b)を参照し、遠いONU(56−1〜56−n,60)から順に、上り送信要求に応じた送信許可信号を生成し、OLT(10)からの出力時刻を決定する。下りフレーム生成機能(34)は更に、一定距離以上に遠いONU(60)に対しては、上り送信要求に応じた送信許可信号から所定時間遅れた見込み送信許可信号を生成する。下りフレーム生成機能(34)は、生成された送信許可信号及び見込み送信許可信号を、それらの出力時刻にOLT(10)から出力されるように、下りフレーム転送装置(22)に出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上り信号伝送に時分割多元アクセス(TDMA:Time Division Multiple Access)を使用する光伝送システム、局側光終端装置、及び上り送信制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上り信号伝送に時分割多元アクセス(TDMA:Time Division Multiple Access)を使用する光伝送システムとして、センター局又は交換局等に配置される局側光終端装置(OLT:Optical Line Terminal)が、受動光伝送路を介して複数の加入者側光終端装置(ONU:Optical Network Unit)に接続するいわゆるPON(Passive Optical Network)システムが知られている。受動光伝送路は、OLTに接続し、全ONUにより共有される共有光ファイバと、個々のONUに接続する分岐光ファイバと、共有光ファイバと各分岐光ファイバとの間に接続される光カプラとからなる。
【0003】
PONシステムでは、OLTが、各ONUの上り光信号の送信タイミング(時期と期間)を動的に制御することで、共有光ファイバ上で上り光信号が相互に衝突しないようにしている。PONシステムでは、従来、OLTからONUへの制御信号をGateメッセージと呼ばれるフォーマットで伝送し、ONUからOLTへの制御信号をReportメッセージと呼ばれるフォーマットで伝送する。また、TDMAのために、OLTは、事前に各ONUの往復遅延時間(RTT:Round Trip Time)の情報を収集している。
【0004】
図5は、従来の上り送信制御のシーケンス例を示す。図5に示す例では、ONU(1)が20km以上離れた遠距離に位置し、ONU(2)〜ONU(N)は20km以内の近距離に位置するものとする。OLTは、全部のONU(1)〜ONU(N)に対し逐次的に、上り光送信の必要性をGateメッセージQ(1)〜Q(N)で問い合わせる。問い合わせを受けたONU(i)は、送信したいデータ量を示す送信要求信号R(i)をREPORTメッセージでOLTに返信する。OLTは、各ONUからのデータ量情報に基づき、各ONU(i)に割り当てる上り送信帯域と送信タイミングを決定し、各ONU(i)に順次、送信許可信号G(i)をGateメッセージで送信する。各ONU(i)は、送信許可信号G(i)で指示された送信タイミングに基づき、許可されたデータ量の上り光信号D(i)を光伝送路に出力する。ONU(i)は、送信すべきデータが残る場合、上り光信号に続けて、次の送信データ量を示す送信要求信号R(i)を送信する。これにより、OLTは、続けての上り送信が必要か否かと、必要な場合の上りデータ量を知ることができる。
【0005】
以上の手順を繰り返すことで、各ONUからの上りデータが、共有される光伝送路上で互いに衝突することなく、OLTに入射する。但し、従来のPONシステムでは、OLTは、全ONUからの送信要求信号を受信した上で、各ONUに割り当てる上り送信帯域及び送信タイミングを計算するようにしているので、最遠距離のONUが送信する送信要求信号がOLTに届くまで、OLTに待ち時間が発生する。
【0006】
また、従来のPONシステムは、ONUが、伝送距離差の影響が少ない一定距離内に位置することを前提としており、ONUが送信要求信号を送信してから実際に上りデータ送信を開始するまでの時間周期(以下、「グラント周期」という)は、OLTとONUの間の往復遅延時間RTTの最大値以上に一律に設定される。この結果、伝送距離又はRTTの差が大きくなると、近距離ONUは、そのRTTが小さいにも関わらず、遠距離ONUのRTTの影響を受けて上り遅延特性が劣化する。
【0007】
グラント周期が遠距離ONUのRTT以上に決定されることから、上りデータ送信開始までの待ち時間が長くなる。すると、上り送信データ量が多い場合に、ONUの上りバッファにおいてオーバフローが起こりやすくなり、フレームロスとなって、十分なスループット特性が得られない。
【0008】
近距離ONUと遠距離ONUが混在するPONシステムにおいて、上り伝送特性を向上させる技術が、特許文献1及び特許文献2に記載されている。すなわち、特許文献1には、RTTが小さい場合には、10Gbit/s等の高速ビットレートで通信を行わせ、RTTが大きい場合には2.5Gbit/sのような低速のビットレートで通信を行わせることが記載されている。これにより、遠距離のONUの収容可能とする。特許文献2には、RTT,前方誤り訂正(FEC:Forward Error Correction)の冗長ビット、及び通信品質に従い、各ONUへの帯域割当を最適制御することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−246586号公報
【特許文献2】特開2008−306434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1及び特許文献2に記載の技術は、光伝送距離が20km以内のPONシステムには効果的であるが、20kmを超える遠距離ONUが存在する場合、グラント周期が長くなり、遠距離ONUだけでなく、近距離ONUも含めたシステム全体の上りスループット及び遅延特性が劣化する。
【0011】
他方で、OLT設置コスト及びオペレーションコストの削減のために、より多くの加入者、例えば、より遠距離の加入者を収容することが要望されている。
【0012】
本発明は、上りスループット及び遅延特性を改善した光伝送システム、局側光終端装置及び上り送信制御方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る光伝送システムは、局側光終端装置(OLT:Optical Line Terminal)が複数の加入者光終端装置(ONU:Optical Network Unit)を、当該複数のONUにより部分的に共用される光伝送路を介して収容し、OLTが各ONUの上り送信を制御する光伝送システムであって、当該OLTが、各ONUまでの光伝送距離を計測する計測手段と、各ONUについて、当該計測手段により計測される光伝送距離に関する距離情報、及び、上り送信を許可したが未受信の上りデータ量の情報を含む上り送信許可情報を記憶するメモリと、各ONUからの上り送信要求を受信する手段と、当該上り送信要求に応じて要求元のONUに送信許可信号を生成する送信許可信号生成手段であって、当該要求元のONUの当該光伝送距離が所定値以上である場合に、当該送信許可信号から、当該要求元のONUの当該光伝送距離に応じた往復遅延時間よりも短い所定時間だけ遅れる見込み送信許可信号を更に生成する送信許可信号生成手段と、当該送信許可信号生成手段で生成される当該送信許可信号及び当該見込み送信許可信号を当該光伝送路に出力する出力手段とを具備することを特徴とする。
【0014】
本発明に係る局側光終端装置は、複数の加入者光終端装置(ONU:Optical Network Unit)を、当該複数のONUにより部分的に共用される光伝送路を介して収容し、各ONUの上り送信を制御する局側光終端装置であって、各ONUまでの光伝送距離に相当する情報を計測する計測手段と、各ONUについて、当該計測手段により計測される光伝送距離に関する距離情報、及び、上り送信を許可したが未受信の上りデータ量の情報を含む上り送信許可情報を記憶するメモリと、各ONUからの上り送信要求を受信する手段と、当該上り送信要求に応じて要求元のONUに送信許可信号を生成する上り許可信号生成手段であって、当該要求元のONUの当該光伝送距離が所定値以上である場合に、当該送信許可信号から、当該要求元のONUの当該光伝送距離に応じた往復遅延時間よりも短い所定時間だけ遅れる見込み送信許可信号を更に生成する送信許可信号生成手段と、当該送信許可信号生成手段で設定される当該送信許可信号及び当該見込み送信許可信号を当該光伝送路に出力する出力手段とを具備することを特徴とする。
【0015】
本発明に係る上り送信制御方法は、局側光終端装置(OLT:Optical Line Terminal)が複数の加入者光終端装置(ONU:Optical Network Unit)を、当該複数のONUにより部分的に共用される光伝送路を介して収容する光伝送システムにおいて、各ONUの上り送信を制御する方法であって、当該OLTが、各ONUまでの光伝送距離に相当する情報を計測する計測ステップと、各ONUからの上り送信要求を受信するステップと、受信した上り送信要求に応じて、要求元のONUに送信許可信号を生成する送信許可信号生成ステップと、当該要求元のONUの当該光伝送距離が所定値以上である場合に、当該送信許可信号から、当該要求元のONUの当該光伝送距離に応じた往復遅延時間よりも短い所定時間だけ遅れる見込み送信許可信号を更に生成する見込み送信許可信号生成ステップと、当該送信許可信号生成ステップで設定される当該送信許可信号、及び当該見込み送信許可信号生成ステップで設定される当該見込み送信許可信号を当該光伝送路に出力する出力ステップとを具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、光伝送距離の長いONUに対して、上り伝送特性を改善でき、一台のOLTへの加入者収容範囲を拡大できる。これにより、従来よりも広範囲な加入者に低廉な光アクセスサービスを提供でき、新規OLTの設置コスト及びオペレーションコストの削減を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施例の概略構成ブロック図である。
【図2】本実施例による上り送信制御の動作フローチャートである。
【図3】ONUの送信許可信号及び見込み送信許可信号を生成する動作のフローチャートである。
【図4】本実施例の上りデータ送信のシーケンス例である。
【図5】従来の上りデータ送信のシーケンス例である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の実施例を詳細に説明する。
【実施例1】
【0019】
図1は、本発明の一実施例であるPONシステムの概略構成ブロック図を示す。局側光終端装置でわるOLT10は、全加入者により共有される幹線光ファイバ50を介して光カプラ52に接続する。光カプラ52はまた、分岐光ファイバ54−1〜54−n,58を介して加入者側光終端装置であるONU56−1〜56−n,60に接続する。光カプラ52は、OLT10から幹線光ファイバ50を介して入力する下り光信号を(n+1)個の下り光信号に分割して分岐光ファイバ54−1〜54−n,58に供給し、ONU56−1〜56−n,60から分岐光ファイバ54−1〜54−n,58を介して入力する上り光信号を合波又は時間軸上で多重して幹線光ファイバ50に供給する受動光合分波素子である。
【0020】
本実施例では、ONU56−1〜56−nは、OLT10からの光伝送距離が20km以内の近距離に配置され、ONU60は、OLT10からの光伝送距離が20kmを越える遠距離に配置されているとする。なお、理解を容易にするために、遠距離ONU60を一台としているが、複数台であってもよい。
【0021】
本実施例の基本的な信号の流れを説明する。OLT10は、ネットワークインターフェース(NW I/F)20を介して上位ネットワークに接続する。ネットワークインターフェース20は、上位ネットワークからの信号を下りフレーム転送装置22に入力する。下りフレーム転送装置22には更に、CPU32の下り制御フレーム生成機能34で生成される下り制御フレーム又は下り制御信号が入力する。
【0022】
下り制御信号の詳細は後述する。下りフレーム転送装置22は、ネットワークインターフェース20からの下り信号と、CPU32からの下り制御フレームを時間軸上で多重し、規定のフレーム構造で電気/光変換器(E/O変換器)24に供給する。一般に、下りフレーム転送装置22は、下りデータフレームより制御フレームを優先してE/O変換器24に供給する。下り制御フレームには、各ONU56−1〜56−n,60を探知するDiscovery_GATEフレームや、上り送信制御のGateフレームがある。
【0023】
E/O変換器24は、所定波長でレーザ発振するレーザダイオードからなり、下りフレーム転送装置22からの電気信号を光信号(下り光信号)に変換して、WDM(波長分割多重)光カプラ26に供給する。WDM光カプラ26は、E/O変換器24からの下り光信号を幹線光ファイバ50に出力する。
【0024】
下り光信号は、幹線光ファイバ50を伝送し、光カプラ52で分割され、分岐光ファイバ54−1〜54−n,58を伝送してONU56−1〜56−n,60に到達する。ONU56−1〜56−n,60は、対応する分岐光ファイバ54−1〜54−n,58から入力する下り光信号を電気信号に変換してから自己宛てか否かを判別し、自己宛ての場合に当該下り光信号で搬送される信号(下りデータ又はOLT10からの制御フレーム)を取り込む。
【0025】
他方、各ONU56−1〜56−n,60は、OLT10により指定されたタイミング又は時間帯に上り光信号を、対応する分岐光ファイバ54−1〜54−n,に送出する。上り光信号の波長は、下り光信号の波長とは異なる。この上り光信号は、分岐光ファイバ54−1〜54−n,58を伝送し、光カプラ52により幹線光ファイバ50に出力され、OLT10のWDM光カプラ26に入力する。詳細は後述するが、各ONU56−1〜56−n,60から出力される上り光信号は、OLT10による上り送信制御により、幹線光ファイバ50上で互いに衝突しない。
【0026】
WDM光カプラ26は、幹線光ファイバ50から入力する上り光信号を光/電気変換器(O/E変換器)28に供給する。O/E変換器28は受光素子からなり、WDM光カプラ26からの上り光信号を電気信号に変換する。O/E変換器28の出力電気信号は、各ONU56−1〜56−n,60がOLT10に宛てた制御フレームと、上位ネットワークに向けた上りデータフレーム又は上りデータ信号からなる。前者には、新規に接続されたONUの登録手順における制御信号、OLT10からの問合せに対する応答信号及びOLT10に対する送信要求信号等がある。
【0027】
上り制御フレーム分離装置30は、O/E変換器28の出力電気信号から、各ONU56−1〜56−n,60がOLT10に宛てた制御フレームを分離してCPU32に供給し、上位ネットワークに向けたデータフレームを上りフレーム転送装置38に供給する。上りフレーム転送装置38は、上り制御フレーム分離装置30からの上り信号を所定のフレーム構成でネットワークインターフェース20に出力する。ネットワークインターフェース20は、上りフレーム転送装置38からの上りフレームを所定のプロトコルで上位ネットワークに出力する。
【0028】
CPU32は、ONU56−1〜56−n,60の登録と上り送信を制御し、その制御に必要な情報をメモリ36に格納する。具体的には、各ONU56−1〜56−n,60の上り送信制御に必要なRTTテーブル36aと、グラント情報36bが、メモリ36に格納される。グラント情報36bは、各ONUについて、送信許可しつつ未受信の上りデータ量及び各送信許可信号で許可した上り信号の送信開始時刻等の、上り送信の許可情報からなる。CPU32は、送信許可信号(後述する見込み送信許可信号を含む)を設定するごとに、グラント情報36bを更新する。CPU32はまた、上りデータを受信するごとに、対応する送信許可信号に関する情報をグラント情報36bから消去する。
【0029】
タイマ40は、現在時刻を計時し、現在時刻情報をCPU32に供給する。CPU32は、出力時刻が指定される下り制御フレームの場合、タイマ40を参照して、その指定された出力時刻又は処理遅延を考慮した直前時刻に、その下り制御フレームを下りフレーム転送装置22に出力する。
【0030】
CPU32は、タイマ40を参照し、適当な時間間隔でディスカバリー手順により、光伝送路に新たなONUが接続されたかどうかを探索する。具体的には、OLT10は、新規ONUの有無を確認するために、任意の周期でDiscovery GATE信号を幹線光ファイバ50に出力する。Discovery GATE信号は送信時刻情報を含む。Discovery GATE信号を受信した未登録のONUは、OLT10への登録要求信号として、Discovery GATE信号の送信時刻情報を含むRegister Requestメッセージを送信する。OLT10は、新規ONUからのRegister Requestメッセージを受信すると、その受信時刻と、Register Requestメッセージに含まれる送信時刻との差から、RTT値を計算する。CPU32は、計算で得られた各ONU56−1〜56−n,60のRTT値をメモリ36のRTTテーブル36aに格納する。
【0031】
図2は、CPU32によるONU56−1〜56−n,60の上り送信制御のフローチャートを示す。図3は、1つのONUに対する送信許可信号の生成ルーチンのフローチャートを示す。図4は、本実施例による上り送信制御のシーケンス例を示す。図4で、横軸は時間を示し、縦軸は、OLT10から各ONU56−1〜56−n,60への伝送距離(又はRTT)を示す。各ONU56−1〜56−n,60は、OLT10との間の光伝送距離(又はRTT)の遠い順にソートされ、以下の説明では、最遠距離ONU60をONU(1)と表記し、最短距離ONU56−1をONU(N)と表記する。図2乃至図4を参照して、本実施例の上り送信制御を説明する。
【0032】
光伝送路に接続する全部のONU56−1〜56−n,60から送信要求を収集する(S1)。例えば、OLT10が起動し、接続するONU56−1〜56−n,60を認識し、そのRTT情報を収集した後に、遠距離のONUから順に上り送信の要求の有無を問い合わせる。具体的には、OLT10は、各ONU(i)に対し、図4に例示するように、上り送信の要否と、上り送信したいデータ量を問い合わせる問合せ信号Q(1)〜Q(N)を出力する。この問い合わせに対し、各ONU(i)は、送信要求信号R(i)をOLT10に返信する。送信要求信号R(i)は、上り送信が不要な場合には、送信不要を示すフラグを含み、上り送信が必要な場合には、必要な上りデータ量を示すデータを含む。CPU32は、上り送信要求された上りデータ量を、グラント情報36bの、ONU(i)の欄に格納する。グラント情報36bにはまた、上り送信を許可したが、対応する上りデータを受信していない上りデータ量(未受信データ量)も記憶する。
【0033】
上り送信要求は、加入者側の事情で発生する。これに応えるため、OLT10は適宜の間隔で、全部のONUに、又は上りデータを出力していないONUに、上り送信の要否を問い合わせる。
【0034】
遠距離のONUから順に上り送信帯域を割り当てるために、光伝送距離で全ONUをソートした上で、ONU指定変数iに1をセットし(S2)、ONU(i)に対する1以上の送信許可信号G(i)を生成する(S3)。
【0035】
図3は、ステップS3の詳細なフローチャートを示す。下り制御フレーム生成機能34は、RTTテーブル36aとグラント情報36bを参照し、ONU(i)に対する送信許可信号G0(i)の送信開始時刻と上りデータ量を決定する(S11)。具体的には、CPU32は、ONU(i)のRTT値をRTTテーブル36aから読み込み、送信要求されている上りデータ量(要求データ量)と、直前の1又は複数の送信許可信号であって、上りデータ未受信の送信許可信号で許可した上りデータ量(未受信データ量)をグラント情報36bから読み込む。本実施例では、送信許可信号に対する返信としての上りデータを受信する前に、見込みで送信許可信号を送信するので、新たに送信許可する必要のある上りデータ量(最大許可データ量)は、要求データ量から未受信データ量を減算したデータ量となる。下り制御フレーム生成機能34は、現在時刻にRTT値を加算した時刻より後で、上り信号伝送の空きタイムスロットに空きがある時刻に、送信許可信号G0(i)の送信開始時刻を設定する。上り送信を許可するデータ量は、先に計算した最大許可データ量以内とする。上り送信を許可するデータ量がデフォルトで一定で良い場合、許可するデータ量の調整は不要である。
【0036】
送信許可信号G0(i)をONU(i)に向けOLT10から送信する出力時刻を仮決定し、この送信許可信号G0(i)の送信開始時刻と上りデータ量をグラント情報36bに書き込む(S12)。他のONUの送信許可信号との出力時刻の調整が不要な場合には、仮決定でなく、決定でも良い。
【0037】
本実施例では、長距離のONUに対しては、送信許可信号に対する返信としての上りデータを受信する前に、見込みで送信許可信号を送信する。すなわち、RTT値内で、従来例と同様の送信許可信号に加えて、1又は複数の送信許可信号を見込みで送信する。この意味で、後者の1又は複数の送信許可信号を見込み送信許可信号と呼ぶ。見込み送信許可信号の数は、RTT値又は光伝送距離により決定する。典型的には、光伝送距離が20km以上の場合、1つの見込み送信許可信号を挿入することが考えられる。30km以上の場合に、2つの見込み送信許可信号を挿入してもよい。見込み送信許可信号を用いることで、上り送信の遅延を緩和でき、ONUにおける上りバッファからのオーバフローの可能性を低減できる。見込み送信許可信号の数は、これらの要望に対して適宜に決定されるものであり、近距離のONUに対してもこのような要望があれば、見込み送信許可信号を使用しても良い。
【0038】
RTT(i)に対して見込み送信許可信号数Kを決定する(S13)。例えば、RTT(i)を適当な基準時間で除算した商(整数値)から1を減算した値をKとする。RTT(i)が基準時間の2倍以上である場合に、見込み送信許可信号を利用し、そうでないほど光伝送距離が短い場合に、見込み送信許可信号を利用しないことになる。後者は、従前の上り送信制御と同じである。基準時間を適宜に設定することで、見込み送信許可信号を採用する光伝送距離又はRTTを調整できる。
【0039】
Kが1以上の場合(S14)、見込み送信許可信号を特定する変数pに1をセットする(S15)。ステップS11と同様に、下り制御フレーム生成機能34は、RTTテーブル36aとグラント情報36bを参照し、ONU(i)に対する見込み送信許可信号Gp(i)(この段階では、G1(i))の送信開始時刻と上りデータ量を決定する(S16)。ただし、この段階で考慮する要求データ量は、ステップS11で決定した送信許可信号G0(i)で許可したデータ量だけ減算されている。
【0040】
見込み送信許可信号Gp(i)をONU(i)に向けOLT10から送信する出力時刻を仮決定し、この送信許可信号Gp(i)の送信開始時刻と上りデータ量をグラント情報36bに書き込む(S17)。本実施例では、出力時刻を、RTT(i)×p/(K+1)とする。これにより、RTT(i)内にK個の見込み送信許可信号Gp(i)を均等配置できる。他のONUの送信許可信号との出力時刻の調整が不要な場合には、仮決定でなく、決定でも良いことは、ステップS12と同様である。
【0041】
pがKに等しくなければ(S18)、pをインクリメントして(S19)、ステップS16,S17を繰り返す。
【0042】
pがKに等しい場合(S18)、ONU(i)に対する送信許可信号(見込み送信許可信号を含む。)を生成し終えたことになる。また、Kが0の場合には、見込み送信許可信号を生成する必要が無い。いずれの場合も、図3に示す送信許可信号生成処理を終了して、図2に示すフローに戻る。
【0043】
このようにONU(i)に対する送信許可信号G0(i)〜GK(i)を生成し終えたら(S3)、iがONU数Nに等しくなったかどうかを調べる(S4)。iがONU数Nに等しくない場合(S4)、iをインクリメントし(S5)、次に遠いONUについて送信許可信号を生成する(S3)。
【0044】
iがONU数Nに等しくなると(S4)、全ONUについて送信許可信号を生成したことになる。この場合、各ONUの送信許可信号G(1)〜G(N)による上りデータ送信が、幹線光ファイバ50上で衝突しないように、各送信許可信号G(1)〜G(N)の出力時刻と上り送信開始時刻を調整する(S6)。なお、ここでの送信許可信号G(i)は、ONU(i)からの送信要求に対応して送信される最初の送信許可信号G0(i)と、ONU(i)からの送信要求を受信しないままに見込みで送信する見込み送信許可信号G1(i)〜GK(i)の両方を含む。
【0045】
下り制御フレーム生成機能34は、各送信許可信号G(1)〜G(N)を所定の下り制御フレーム構成で、ステップS6の調整により決定された出力時刻にOLT10から幹線光ファイバ50に出力されるように、下りフレーム転送装置22に出力する。下りフレーム転送装置22は、下り制御フレーム生成機能34からの下り制御フレーム(送信許可信号G(1)〜G(N))を優先的にE/O変換器24に出力する。
【0046】
各ONU(i)は、このように生成された送信許可信号G(i)(図4に示す例では、G0(i)とG1(i))を受信すると、当該送信許可信号G(i)で指定された送信開始時刻に、許可されたデータ量以内の上りデータD(i)をOLT10に向け送信する。未送信の上りデータがある場合、ONU(i)は、上りデータに続けて送信要求信号R(i)をOLT10に向け送信する。図4では、ONU(1)のRTT期間内に、ONU(1)に対して2つの送信許可信号が発行され、他のONU(2)〜ONU(N)に対して1つの送信許可信号が発行されている。幹線光ファイバ50に空きタイムスロットがある場合、ONU(2)〜ONU(N)に対して、送信要求に対応する複数の送信許可信号を発行しても良いことはいうまでもない。
【0047】
このように、本実施例では、近距離のONUよりも遠距離のONUに先に制御信号(例えば、問合せ信号又は送信許可信号)を送信するので、遠距離のONUからの応答信号(問合せ信号に対する応答としての送信要求信号、又は、送信許可信号に対する上りデータ)は、近距離のONUからの応答信号からの少ない遅れでOLTに到達する。すなわち、ONUへの制御信号を各ONUのRTTに依存せずに送信する場合に比べ、制御信号に対する応答の全体的な遅延特性を改善できる。
【0048】
また、本実施例では、遠距離のONUに対して、当該ONUからの送信要求を受信する前に見込みで上り送信を許可するので、上り帯域の割当の遅れによる遅延を緩和できる。また、上りデータを送信する機会が増すので、ONUの上り送信バッファがオーバフローする可能性を低減できる。これは、光伝送距離の延伸に応じてONUの上り送信バッファを増大する必要性が相対的に低減することを意味し、近距離用のONUと遠距離用のONUとを区別する必要性も低減する。これらの作用により、本実施例では、上り光伝送性能を確保しつつ、光伝送距離を延伸できるようになる。
【0049】
本実施例により、光伝送距離の長い加入者を収容した場合でも、上りスループット及び遅延特性を劣化させることなく光アクセスサービスを提供できるようになり、PONシステムの適用範囲を拡張できる。また、遠隔地に位置する加入者を既存のPONシステムに収容可能となることから、新規OLT設置コストの低減及びオペレーションコストの削減を期待できる。これらにより、従来よりも広範囲な加入者に対して光アクセスサービスを低廉に提供可能となる。
【0050】
特定の説明用の実施例を参照して本発明を説明したが、特許請求の範囲に規定される本発明の技術的範囲を逸脱しないで、上述の実施例に種々の変更・修整を施しうることは、本発明の属する分野の技術者にとって自明であり、このような変更・修整も本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0051】
10:OLT
20:ネットワークインターフェース(NW I/F)
22:下りフレーム転送装置
24:電気/光(E/O)変換器
26:波長分割多重(WDM)光カプラ
28:光/電気(O/E)変換器
30:制御フレーム分離装置
32:CPU
34:下り制御フレーム生成機能
36:メモリ
36a:RTT情報
36b:グラント情報
38:上りフレーム転送装置
40:タイマ
50:幹線光ファイバ
52:光カプラ
54−1〜54−n:分岐光ファイバ
56−1〜56−n:ONU
58:分岐光ファイバ
60:ONU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
局側光終端装置(OLT:Optical Line Terminal)が複数の加入者光終端装置(ONU:Optical Network Unit)を、当該複数のONUにより部分的に共用される光伝送路(50,52,54−1〜54〜n,58)を介して収容し、OLTが各ONUの上り送信を制御する光伝送システムであって、
当該OLT(10)が、
各ONU(56−1〜56−n,60)までの光伝送距離を計測する計測手段(32)と、
各ONUについて、当該計測手段により計測される光伝送距離に関する距離情報(36a)、及び、上り送信を許可したが未受信の上りデータ量の情報を含む上り送信許可情報(36a)を記憶するメモリ(36)と、
各ONUからの上り送信要求を受信する手段(28,30,32)と、
当該上り送信要求に応じて要求元のONUに送信許可信号を生成する送信許可信号生成手段であって、当該要求元のONUの当該光伝送距離が所定値以上である場合に、当該送信許可信号から、当該要求元のONUの当該光伝送距離に応じた往復遅延時間よりも短い所定時間だけ遅れる見込み送信許可信号を更に生成する送信許可信号生成手段(34)と、
当該送信許可信号生成手段で生成される当該送信許可信号及び当該見込み送信許可信号を当該光伝送路に出力する出力手段(22,24,26)
とを具備する
ことを特徴とする光伝送システム。
【請求項2】
当該出力手段は、当該送信許可信号生成手段で生成される、当該光伝送距離が最も長いONUへの当該送信許可信号を、他のONUへの当該送信許可信号に先行して当該光伝送路に出力することを特徴とする請求項1に記載の光伝送システム。
【請求項3】
当該出力手段は、当該光伝送距離が最も長いONUから順に、当該送信許可信号生成手段で設定される当該送信許可信号を当該光伝送路に出力することを特徴とする請求項1に記載の光伝送システム。
【請求項4】
当該送信許可信号生成手段は、当該光伝送距離の長いONUから順に、当該上り送信要求に応じた当該送信許可信号を生成することを特徴とする請求項1又は2に記載の光伝送システム。
【請求項5】
当該送信許可信号生成手段は、当該送信許可信号の当該光伝送路への出力時刻を、当該光伝送距離の長いONUから順に設定し、
当該出力手段は、当該送信許可信号生成手段により設定される出力時刻の順に、当該上り送信要求に応じた当該送信許可信号を当該光伝送路に出力する
ことを特徴とする請求項1に記載の光伝送システム。
【請求項6】
複数の加入者光終端装置(ONU:Optical Network Unit)を、当該複数のONUにより部分的に共用される光伝送路(50,52,54−1〜54〜n,58)を介して収容し、各ONUの上り送信を制御する局側光終端装置であって、
各ONU(56−1〜56−n,60)までの光伝送距離に相当する情報を計測する計測手段(32)と、
各ONUについて、当該計測手段により計測される光伝送距離に関する距離情報(36a)、及び、上り送信を許可したが未受信の上りデータ量の情報を含む上り送信許可情報(36a)を記憶するメモリ(36)と、
各ONUからの上り送信要求を受信する手段(28,30,32)と、
当該上り送信要求に応じて要求元のONUに送信許可信号を生成する上り許可信号生成手段であって、当該要求元のONUの当該光伝送距離が所定値以上である場合に、当該送信許可信号から、当該要求元のONUの当該光伝送距離に応じた往復遅延時間よりも短い所定時間だけ遅れる見込み送信許可信号を更に生成する送信許可信号生成手段(34)と、
当該送信許可信号生成手段で設定される当該送信許可信号及び当該見込み送信許可信号を当該光伝送路に出力する出力手段(22,24,26)
とを具備することを特徴とする局側光終端装置。
【請求項7】
当該出力手段は、当該送信許可信号生成手段で生成される、当該光伝送距離が最も長いONUへの当該送信許可信号を、他のONUへの当該送信許可信号に先行して当該光伝送路に出力することを特徴とする請求項6に記載の局側光終端装置。
【請求項8】
当該出力手段は、当該光伝送距離が最も長いONUから順に、当該送信許可信号生成手段で生成される当該送信許可信号を当該光伝送路に出力することを特徴とする請求項6に記載の局側光終端装置。
【請求項9】
当該送信許可信号生成手段は、当該光伝送距離の長いONUから順に、当該上り送信要求に応じた当該送信許可信号を生成することを特徴とする請求項6又は7に記載の局側光終端装置。
【請求項10】
当該送信許可信号生成手段は、当該送信許可信号の当該光伝送路への出力時刻を、当該光伝送距離の長いONUから順に設定し、
当該出力手段は、当該送信許可信号生成手段により設定される出力時刻の順に、当該上り送信要求に応じた当該送信許可信号を当該光伝送路に出力する
ことを特徴とする請求項6に記載の局側光終端装置。
【請求項11】
局側光終端装置(OLT:Optical Line Terminal)が複数の加入者光終端装置(ONU:Optical Network Unit)を、当該複数のONUにより部分的に共用される光伝送路(50,52,54−1〜54〜n,58)を介して収容する光伝送システムにおいて、各ONUの上り送信を制御する方法であって、
当該OLT(10)が、各ONU(56−1〜56−n,60)までの光伝送距離に相当する情報を計測する計測ステップ(32)と、
各ONUからの上り送信要求を受信するステップ(28,30,32)と、
受信した上り送信要求に応じて、要求元のONUに送信許可信号を生成する送信許可信号生成ステップ(34,S11)と、
当該要求元のONUの当該光伝送距離が所定値以上である場合に、当該送信許可信号から、当該要求元のONUの当該光伝送距離に応じた往復遅延時間よりも短い所定時間だけ遅れる見込み送信許可信号を更に生成する見込み送信許可信号生成ステップ(34,S16)と、
当該送信許可信号生成ステップで設定される当該送信許可信号、及び当該見込み送信許可信号生成ステップで設定される当該見込み送信許可信号を当該光伝送路に出力する出力ステップ(34,22,24,26)
とを具備することを特徴とする上り送信制御方法。
【請求項12】
当該出力ステップは、当該送信許可信号生成ステップで生成される、当該光伝送距離が最も長いONUへの当該送信許可信号を、他のONUへの当該送信許可信号に先行して当該光伝送路に出力することを特徴とする請求項11に記載の上り送信制御方法。
【請求項13】
当該出力ステップは、当該光伝送距離が最も長いONUから順に、当該送信許可信号生成ステップで設定される当該送信許可信号を当該光伝送路に出力することを特徴とする請求項11に記載の上り送信制御方法。
【請求項14】
当該送信許可信号生成ステップは、当該光伝送距離の長いONUから順に、当該上り送信要求に応じた当該送信許可信号を生成することを特徴とする請求項11又は12に記載の上り送信制御方法。
【請求項15】
当該送信許可信号生成ステップは、当該送信許可信号の当該光伝送路への出力時刻を、当該光伝送距離の長いONUから順に設定し、
当該出力ステップは、当該送信許可信号生成ステップにより生成される出力時刻の順に、当該上り送信要求に応じた当該送信許可信号を当該光伝送路に出力する
ことを特徴とする請求項11に記載の上り送信制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−166328(P2011−166328A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−24960(P2010−24960)
【出願日】平成22年2月8日(2010.2.8)
【出願人】(000208891)KDDI株式会社 (2,700)
【Fターム(参考)】