説明

光伝送路監視システム

【課題】膨潤材を必要とせず部品点数が削減でき構造が簡単化でき、浸水した際に即座に浸水の検知をすることができ、浸水の際に光ファイバケーブルに曲げ圧力を加えることがない光伝送路監視システムを提供する。
【解決手段】光伝送路10と補助光伝送路である光ファイバ71とを溶融することにより形成された溶融光カプラー60〜63は、光伝送路10を伝搬する光源からの光Lを分配して第1分配光L1を光伝送路10に伝搬させるとともに光源からの光Lを分配して第2分配光L2を補助光伝送路である光ファイバ71に伝搬させ、反射部89は、補助光伝送路である光ファイバ71の端部に配置されて第2分配光L2を光源側に反射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光伝送路監視システムに関し、特に光伝送路が浸水したかどうかを検知することで光伝送路の状態を監視することができる光伝送路監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
光伝送路監視システムは、光ファイバケーブルが浸水している箇所があるかどうかを検知するようになっている。従来の光伝送路監視システムでは、浸水を検知する浸水センサを有している。この浸水センサは、浸水時に水の吸収によって膨張できる膨潤材を有している。
この膨潤材が水を吸収することにより膨張すると、膨潤材が凸部材を凹部材の方向に押し上げる。光ファイバケーブルはこの凸部材と凹部材の間に介在されており、膨潤材の膨張により凸部材が凹部材の方向に押し上げられると、光ファイバケーブルに圧力が加わって曲げ圧力が加わり、光ファイバケーブルにより伝送されている光パワーに損失が生じることで、この部分に浸水があったことを検知する。
(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003―249898号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、このように膨潤材が水を吸収することにより膨張することで光ファイバケーブルに圧力を加えて伝送されている光パワーに損失を生じさせるために、光ファイバケーブルの付近に膨潤材を必ず配置しなければならず、部品点数が増えてしまい光伝送監視システムの小型化が難しい。
【0004】
また、膨潤材が水を吸収して膨張するまでの時間が掛かるので、浸水した際に即座に浸水の検知をすることができない。しかも、光ファイバケーブルに曲げ圧力を加えることから、光ファイバケーブルに余計な力を加えてしまうので好ましくない。
そこで、本発明は上記課題を解消するために、膨潤材を必要とせず部品点数が削減でき構造が簡単化でき、浸水した際に即座に浸水の検知をすることができ、浸水の際に光ファイバケーブルに曲げ圧力を加えることがない光伝送路監視システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解消するために、本発明の光伝送路監視システムは、光伝送路の一端部には光源が設けられ前記光伝送路の他端部には無反射処理部が設けられ、前記光源から前記光伝送路に伝搬される光の変化を検出して前記光伝送路が浸水したことを検知する光伝送路監視システムにおいて、
前記光伝送路と補助光伝送路とを溶融することにより形成された溶融光カプラーであって、前記光伝送路を伝搬する前記光源からの前記光を分配して第1分配光を前記光伝送路に伝搬させるとともに前記光源からの前記光を分配して第2分配光を前記補助光伝送路に伝搬させるための前記溶融光カプラーと、
前記補助光伝送路の端部に配置されて前記第2分配光を前記光源側に反射する反射部と、
を備えることを特徴とする。
【0006】
本発明の光伝送路監視システムは、好ましくは前記反射部から反射された前記第2分配光の光パワーに基づいて前記光カプラーが浸水したかどうかを検知する監視部を備え、
複数の前記溶融光カプラーが、前記光伝送路にそって間隔をおいて設けられていることを特徴とする。
本発明の光伝送路監視システムは、好ましくは前記溶融光カプラーは、光接続箱ごとに配置されていることを特徴とする。
本発明の光伝送路監視システムは、好ましくは前記溶融光カプラーを収容する保持部材を備え、前記溶融光カプラーは前記保持部材の溝内に配置されて浸水可能であり、前記溶融光カプラーは前記保持部材に対して接着剤により固定されていることを特徴とする
本発明の光伝送路監視システムは、好ましくは前記反射部は、多層膜フィルタまたは金属蒸着膜であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の光伝送路監視システムによれば、膨潤材を必要とせず部品点数が削減でき構造が簡単化でき、浸水した際に即座に浸水の検知をすることができ、浸水の際に光ファイバケーブルに曲げ圧力を加えることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面を参照して、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。
図1は、本発明の光伝送路監視システムの好ましい実施形態を示すシステム構成図であり、光伝送路監視システム1は、監視用の光伝送路10と、1つまたは複数の光接続箱20〜23と、終端部である無反射処理部30と、基地局100を有している。
図1の例では、一例として複数の光接続箱20〜23を図示しているが、光接続箱の数は任意に設定することができる。監視用の光伝送路1は、例えばプラスチック光ファイバであり、光接続箱20〜23はクロージャーともいう。
【0009】
図1に示す光伝送路監視システム1は、通信用光ファイバ200に沿って設けられており、通信用光ファイバ200は、例えば映像信号通信用光ファイバ201と、音声通信用光ファイバ202と、データ通信用光ファイバ203を有している。従って、通信用光ファイバ200と監視用の光伝送路10は、光ケーブル250を構成している。
【0010】
図1に示すように、監視用の光伝送路10の一端部(始端部)には光源としてのOTDR(Optical Time Domain Reflectometry)50が設けられており、監視用の光伝送路10の一端部(終端部)には無反射処理部30が配置されている。無反射処理部30は、監視用の光伝送路10の終端部において伝搬される光を、基地局100側のOTDR50に向けて反射しないようにするために無反射処理が施されている。
【0011】
図1に示す基地局100は、OTDR50と、監視部51から構成されている。OTDR50は、監視用の光伝送路1に対してパルス光を発射する光源である。監視部51は、監視用の光伝送路1を伝搬して戻ってくる反射光を測定して演算することで、光伝送路10における光パワーの異常点(例えば、図5に例示するように光パワーの突出部R)を監視する。
【0012】
図2は、溶融光カプラー60〜63を拡大して示しており、図3は、溶融光カプラー60〜63の構造例を示す斜視図であり、図4は、溶融光カプラー60〜63の軸方向の融着状態を示す断面形状例である。
図1と図2に示すように、監視用の光伝送路10の途中には、各光接続箱20〜23内において、溶融光カプラー60〜63がそれぞれ配置されている。
【0013】
溶融光カプラー60〜63は、監視用の光伝送路10の途中部分70と、補助光伝送路としての光ファイバ71とを溶融して延伸させた溶融延伸部カプラーである。この溶融延伸部カプラーは、エバネッセント波を利用して光の合波と分波を実現できる光部品であり、溶融延伸部カプラー73はその周囲に存在する空気や水の屈折率により特性は変化する。
従って、溶融光カプラー60〜63は空気の雰囲気に変わって浸水することで水により覆われると、すなわち溶融延伸部カプラーの周囲媒体が空気から水に変わると、溶融光カプラー60〜63の光学特性が変化する。
溶融光カプラー60〜63は、この特性変化を利用して浸水検知センサとして用いる。図1に示すように、OTDR50から各溶融光カプラー60〜63までの距離(長さ)D方向に関する位置は、符号P1〜P4で示している。
【0014】
溶融光カプラー60〜63は、図3に示すような保持部材80により保持されている。保持部材80は、例えば円柱状の部材であり、軸方向に沿って溝部分81を有している。この溝部分81内には、監視用の光伝送路10の途中部分70と光ファイバ71との溶着部分73が収容されており、この融着部分73は接着剤82により固定されている。この溝部分81内には水が侵入して溶着部分73を水に浸すことができるようになっている。
【0015】
図4に示すように、監視用の光伝送路10がパルス光Lを伝送してくると、第1分配光L1と第2分配光L2に所定の分配比により分配される。第1分配光L1は、最終的には図1に示す無反射処理部30にて無反射処理が行われるので基地局100側には戻らない。しかし、第2分配光L2は、光ファイバ71の端部に設けられた全反射機能を有する反射部品89により全反射されて、光ファイバ71と監視用の光伝送路10を通じて基地局100のOTDR50側にモニターのために戻されるようになっている。反射部品89は、例えばFGB(Fiber Bragg Grating)、や、多層膜フィルタ、全反射蒸着膜、金属蒸着膜などを用いることができる。
【0016】
次に、上述した光伝送路監視システム1の動作例を説明する。
図1に示す基地局100のOTDR50は、監視用の光伝送路10に対してパルス光を射出する光源を有しており、パルス光は周波数の必要な変調が行われた後に、図1に示す溶融光カプラー60〜63の順番に通過する。
図5は、OTDR50から監視用の光伝送路10から射出されるパルス光の光パワーOPと距離D(位置P1,P2,P3,P4)の関係例を示している。パルス光の光パワーは距離Dに対して直線的に減少する直線部99で表せる。
【0017】
例えば、図1に示す溶融光カプラー62が浸水した場合には、溶融光カプラー62の周囲が空気から水に変わるために光パワーの損失が減少する。このため、図2に示す溶融光カプラー62の光ファイバ71の反射部品89における反射光量が増加することから、この反射光量は補助光ファイバ71と監視用の光伝送路10を通じてOTDR50に戻される。これにより、監視部51は、図5に例示するように光パワーの突出部Rが直線部99に形成されるので、この光パワーの突出部Rの位置P3において光パワーが増大することを判別できる。
【0018】
このため、基地局100は、複数の光カプラー60〜63の内の光カプラー62が浸水したことを確実に検知することができる。他の溶融光カプラー60,61,63についても同様に行うことができ、溶融光カプラー60,61,63がそれぞれ浸水している場合には、図5において光パワーの突出部Rが位置P1,P2,P4に生じる。このことから、監視部51は、どの光接続箱20〜23の溶融光カプラー60〜63が浸水しているかが容易に判別できる。
【0019】
ここで、表1を参照して、各種の光カプラーの例を説明する。
【表1】

表1には、種類の異なる3dB光カプラー、7dB光カプラー、10dB光カプラー、17dB光カプラー、20dB光カプラーにおける光ロス変動と分岐比変動を示している。 3dB光カプラーの光の分岐比は、50:50であり、7dB光カプラーの光の分岐比は、80:20であり、10dB光カプラーの光の分岐比は、90:10であり、17dB光カプラーの光の分岐比は、98:2であり、20dB光カプラーの光の分岐比は、99:1である。
【0020】
光伝送路10の途中部分70(Aポート)と光ファイバ71(Bポート)のロス変動は、3dB光カプラーでは1.50:1.11であり、7dB光カプラーでは0.616:1.79であり、10dB光カプラーでは0.285:1.84であり、17dB光カプラーでは0.104:3.19であり、20dB光カプラーでは0.051:3.44である。
【0021】
分岐比変動は、3dB光カプラーでは14.6%であり、7dB光カプラーでは10.1%であり、10dB光カプラーでは5.47%であり、17dB光カプラーでは2.02%であり、20dB光カプラーでは1.20%である。
【0022】
表1において、3dB光カプラー、7dB光カプラー、10dB光カプラー、17dB光カプラー、20dB光カプラーを用いて浸水検知を行う場合には、例えば光のロス変動により、浸水したことを検知することができる。なお、光カプラーを用いた浸水検知では、3dB光カプラー、7dB光カプラーの場合には、例えば分岐比の変動によっても見ることはできる。
【0023】
例えば溶融光カプラー60〜63が20dBの利得を有する場合には、浸水前には20dB程度の光パワー損失であるために光ファイバ71の反射部品89での反射量は40dB程度になる。しかし、溶融光カプラー60〜63は、浸水すると16dB程度の光パワー損失であるために光ファイバ71の反射部品89での反射量は32dB程度になる。基地局100の監視部51が、この浸水しない場合の反射量と浸水した場合の反射量のレベル差を検知することにより、どの光カプラー60〜63が浸水しているかどうかを検出することができる。
【0024】
本発明の実施形態では、溶着延伸部を有する溶融光カプラー60〜63を用いていることから、膨潤材を必要とせず部品点数が削減でき構造が簡単化でき、浸水した際に即座に浸水の検知をすることができ、浸水の際に光ファイバケーブルに曲げ圧力を加えることがない。
【0025】
本発明の実施形態の光伝送路監視システム1では、光伝送路10の一端部には光源(OTDR50)が設けられ光伝送路10の他端部には無反射処理部30が設けられ、光源から光伝送路10に伝搬される光の変化を検出して光伝送路10が浸水したことを検知する。
【0026】
この光伝送路10と補助光伝送路である光ファイバ71とを溶融することにより形成された溶融光カプラー60〜63は、光伝送路10を伝搬する光源からの光Lを分配して第1分配光L1を光伝送路10に伝搬させるとともに光源からの光Lを分配して第2分配光L2を補助光伝送路である光ファイバ71に伝搬させる。反射部89は、補助光伝送路である光ファイバ71の端部に配置されて第2分配光L2を光源側に反射する。これにより、従来必要であった膨潤材を必要とせずに部品点数が削減でき構造が簡単化でき、浸水した際に即座に浸水の検知をすることができ、浸水の際に光ファイバケーブルに曲げ圧力を加えることがなくなる。
【0027】
本発明の光伝送路監視システム1では、反射部89から反射された第2分配光L2の光パワーに基づいて溶融光カプラー60〜63が浸水したかどうかを検知する監視部を備える。複数の前記溶融光カプラー60〜63が、光伝送路10にそって間隔をおいて設けられている。これにより、溶融光カプラー60〜63が浸水したかどうかを確実に検知できる。
【0028】
本発明の光伝送路監視システム1では、溶融光カプラー60〜63は、光接続箱ごとに配置されている。これにより、どの光接続箱が浸水しているかを検知できる。
本発明の光伝送路監視システム1は、溶融光カプラー60〜63を収容する保持部材80を備え、溶融光カプラー60〜63は保持部材80の溝81内に配置されて浸水可能であり、溶融光カプラー60〜63は保持部材80に対して接着剤82により固定されている。これにより、光伝送路監視システム1は、溶融光カプラー60〜63を保持しながらも浸水状態を実現できる。
【0029】
ところで、本発明は、上記実施形態に限定されず種々の変形例を採用できる。
例えば、図1の例では、1組の通信用光ファイバ200とこれに併設された光伝送監視システム1を示している。しかしこれに限らず、2組以上の通信用光ファイバ200にそれぞれ併設された光伝送監視システム1が、光スターカプラを通じてOTDR50に接続されるようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の光伝送路監視システム好ましい実施形態を示すシステム構成図である。
【図2】光カプラーを拡大して示す図である。
【図3】光カプラーの構造例を示す斜視図である。
【図4】光カプラーの軸方向の断面形状例を示す図である。
【図5】光パワーと距離Dの関係例を示す図である。
【符号の説明】
【0031】
1 光伝送路監視システム
10 監視用の光伝送路
30 無反射処理部
60〜63 溶融光カプラー
70 光伝送路の途中部分
71 光ファイバ(補助光伝送路)
80 保持部材
89 反射部品
100 基地局

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光伝送路の一端部には光源が設けられ前記光伝送路の他端部には無反射処理部が設けられ、前記光源から前記光伝送路に伝搬される光の変化を検出して前記光伝送路が浸水したことを検知する光伝送路監視システムにおいて、
前記光伝送路と補助光伝送路とを溶融することにより形成された溶融光カプラーであって、前記光伝送路を伝搬する前記光源からの前記光を分配して第1分配光を前記光伝送路に伝搬させるとともに前記光源からの前記光を分配して第2分配光を前記補助光伝送路に伝搬させるための前記溶融光カプラーと、
前記補助光伝送路の端部に配置されて前記第2分配光を前記光源側に反射する反射部と、
を備えることを特徴とする光伝送路監視システム。
【請求項2】
前記反射部から反射された前記第2分配光の光パワーに基づいて前記光カプラーが浸水したかどうかを検知する監視部を備え、
複数の前記溶融光カプラーが、前記光伝送路にそって間隔をおいて設けられていることを特徴とする請求項1に記載の光伝送路監視システム。
【請求項3】
前記溶融光カプラーは、光接続箱ごとに配置されていることを特徴とする請求項2に記載の光伝送路監視システム。
【請求項4】
前記溶融光カプラーを収容する保持部材を備え、前記溶融光カプラーは前記保持部材の溝内に配置されて浸水可能であり、前記溶融光カプラーは前記保持部材に対して接着剤により固定されていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1つの項に記載の光伝送路監視システム。
【請求項5】
前記反射部は、多層膜フィルタまたは金属蒸着膜であることを特徴とする請求項1に記載の光伝送路監視システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−141911(P2009−141911A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−319054(P2007−319054)
【出願日】平成19年12月11日(2007.12.11)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(593200593)株式会社成和技研 (15)
【出願人】(591019656)理研電線株式会社 (12)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】