説明

光信号伝送装置

【課題】 データ信号と制御用信号とを重畳して送信するとともに、受信した信号からデータ信号と制御用信号とを分離させる光信号伝送装置において、高速で駆動する偏向光学系の動きによる波形変化をも考慮して、より安定したデータ伝送が可能となる光信号伝送装置を提供する。
【解決手段】 データ信号Dの変調を直流成分を持たない信号に変調する変調方式を用いて行い、受信側の光信号伝送装置の偏向光学系を制御する制御用信号Sを重畳し、データ信号Dよりも低い周波数帯域に、制御用信号Sのスペクトル及び偏向光学系の動作制御帯域Aが存在するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、データ信号等により変調された光信号を送信・受信することによりデータ伝送を行う光信号伝送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報信号の伝送手段として、光を用いた光信号伝送技術が提案されている。このような光信号伝送技術としては、例えば、複数のコンピュータ間で通信を行ういわゆる「光無線LAN」や、映像情報や音声情報をAV(Audio-Visual)機器に伝送する技術などが提案されている。このような光信号伝送は、受発光装置により構成された機器間において、データ信号(デジタル情報)に応じて変調された光信号(光ビーム)を送受信することにより行われる。
【0003】
このような光信号伝送装置において、光信号の伝送のためには、送信側の発光素子として、LED(発光ダイオード)やLD(レーザダイオード)が用いられている。発光素子としてLEDを用いる場合には、LEDからの光ビームは指向性が広いため、この光ビームを集束レンズによって集光させなければならない。しかし、集束レンズによって集光させることには限界があるため、発光素子としてLEDを用いた装置では、長距離に亘って光信号を伝送するとビーム径が広がってしまい、受信されるパワーが減少してしまう。
【0004】
これに対し、発光素子としてLDを用いた場合には、出射光ビームの指向性をより狭くすることができ、長距離に亘る光信号の伝送が可能となる。しかしながら、この場合には、狭指向性の光ビームを正確に伝送相手となる装置の受光部に当てなければならない。そのため、例えば、特許文献1、特許文献2及び特許文献3に記載されているように、可動ミラーを有する偏向光学系を用いて、送信側の装置と受信側の装置との間の光軸調整が行われている。
【0005】
すなわち、このような光信号伝送装置の送受信部においては、図7に示すように、外部インターフェイス101から供給されるデータ信号にデータ供給部102により制御用信号(パイロット信号)を重畳し、この信号に基づいて、発光素子103の発光強度を変調する。発光素子103から出射された光ビームは、コリメータレンズ104によって平行光束となされて、ビームスプリッタ105,106を透過し、偏向光学系107に入射する。この偏向光学系107は、偏向制御可能な反射ミラーを有して構成され、ビームスプリッタ105,106を透過した光ビームを反射する。この反射ミラーにより反射された光ビームは、光信号伝送装置より出射される。
【0006】
一方、通信相手となる光信号伝送装置から送信された光ビームは、偏向光学系107において反射され、ビームスプリッタ106,105においてそれぞれ一部が反射され、集光レンズ108,109によりそれぞれ集光され、受光素子110,111によって受光される。
【0007】
データ受信用の受光素子110から出力される光検出信号は、受信信号処理部112によって波形整形及びデジタルデータ化され、外部インターフェイス113に供給される。また、制御用の受光素子111から出力される光検出信号は、偏向角制御信号供給部114において、偏向光学系107を制御するための信号処理がなされる。この偏向角制御信号供給部114は、制御用の受光素子111から出力される光検出信号に基づいて、偏向光学系107を制御し、送受信する光ビームの光軸を通信相手となる光信号伝送装置の光軸に一致させる。
【0008】
【特許文献1】特開平6−152541号公報
【特許文献2】特開2001−77760号公報
【特許文献3】特開2001−77762号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、光信号伝送装置においては、データ供給部102から発光素子103に対しては、データ信号と制御用信号とが重畳された信号が供給される。外部インターフェイス101から供給されるデータ信号は、図8中の(a)に示すように、直流(DC)成分を含む広いスペクトルを有するものとなっている。そして、制御用信号としては、背景光の影響を受けないようにするため、特定周波数(fps)の信号を用いている。
【0010】
送信される光信号は、図8中の(b)に示すように、データ信号に特定周波数の制御用信号が重畳された波形であり、このままでは安定なデータ受信が困難になる虞れがあった。
【0011】
なお、ここで、背景光の影響を受けないようにするためには、受信側の光信号伝送装置において、受信された信号から直流成分を除いてしまうことも考えられる。しかし、上述のように、データ信号のスペクトルが直流成分を含んでいるため、受信された信号から直流成分を除いてしまうと、データ信号が正確に復調できなくなってしまう。
【0012】
従来の光信号伝送装置においては、前述の特許文献2及び特許文献3に記載されているように、受信側の光信号伝送装置において、図9中の(a)に示す受信された信号から制御用信号を分離させた後、図9中の(b)に示す分離された制御用信号の逆極性の信号を受信された信号に加算することによって、図9中の(c)に示すように、データ信号の波形整形を行っていた。
【0013】
しかし、このような従来の光信号伝送装置においては、高速に駆動する偏向光学系の動きによる波形変化が考慮されておらず、移動中の通信が困難となる虞れがある。
【0014】
なお、従来の光信号伝送装置のデータ供給部102においては、図10に示すように、制御用信号が重畳されたデータ信号が入力され、これらに応じた駆動電流を変調電流生成器115によって生成し、発光素子103に供給する。一方、バイアス電流(DC)生成器116により、一定のバイアス電流を生成し、データ信号に影響を与えないように、ローパスフィルタ117を介して、発光素子103に供給するようにしている。
【0015】
そこで、本発明は、上述の実情に鑑みて提案されるものであって、データ信号と制御用信号とを重畳して送信するとともに、受信した信号からデータ信号と制御用信号とを分離させる光信号伝送装置において、高速で駆動する偏向光学系の動きによる波形変化をも考慮して、より安定したデータ伝送が可能となる光信号伝送装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述の課題を解決するため、本発明に係る光信号伝送装置は、以下の構成を有するものである。
【0017】
〔構成1〕
データ信号に基づいて変調した光信号を送信するとともにデータ信号に基づいて変調された光信号を受信して復調することによってデータ伝送を行う光信号伝送装置において、直流成分を持たない信号に変調する変調方式を用いて変調されたデータ信号に基づいて変調した光信号と偏向光学系を介して光信号を受信する他の光信号伝送装置の該偏向光学系を制御する制御用信号に基づいて変調した光信号とを重畳して送出する送信部を備え、他の光信号伝送装置の偏向光学系の動作制御帯域をf1とし、この偏向光学系を制御する制御用信号の搬送波周波数をf2とし、データ伝送を行う光信号の低域制限周波数をf3としたとき、
100・f1<10・f2<f3
という関係が成立しており、データ信号に基づく変調を行い光信号を発する発光素子に対してデータ信号に基づいて変調した信号に応じた駆動電流を供給するデータ発光制御部と、発光素子に対してローパスフィルタを介して接続され発光素子の直流発光量を制御する直流発光制御部と、発光素子に対してローパスフィルタを介して接続され制御用信号に基づく変調を行い発光素子に対して制御用信号に基づいて変調した信号に応じた駆動電流を供給する制御用信号発光制御部とを有することを特徴とするものである。
【0018】
この光信号伝送装置においては、伝送するデータ信号を直流成分を持たない信号に変調し、この信号よりも低い周波数帯域に、他の光信号伝送装置の偏向光学系を制御する制御用信号のスペクトル及び該偏向光学系の動作制御帯域が存在するようにしたので、偏向光学系の動作中においても、安定して制御用信号を受信することができる。また、データ信号と制御用信号との分離は、周波数フィルタによって容易に行うことが可能となる。
【0019】
また、この光信号伝送装置においては、一つの発光素子により、データ信号と制御用信号とを重畳した信号に応じた変調発光を行うので、送信部の構成を簡素化することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の実施形態に係る光信号伝送装置においては、伝送するデータ信号を直流成分を持たない信号に変調し、この光信号よりも低い周波数帯域に、他の光信号伝送装置の偏向光学系を制御する制御用信号のスペクトル及び該偏向光学系の動作制御帯域が存在するようにしている。
【0021】
したがって、この光信号伝送装置においては、偏向光学系の動作中においても、安定した制御用信号の受信を実現することができ、高速動作可能な偏向光学系の動作中においても、データ信号と制御用信号とを重畳して伝送することが可能となる。また、データ信号と制御用信号との分離は、周波数フィルタによって容易に行うことが可能である。
【0022】
また、この光信号伝送装置においては、一つの発光素子により、データ信号と制御用信号とを重畳した信号に応じた変調発光を行うので、送信部の構成を簡素化することができる。
【0023】
すなわち、本発明は、データ信号と制御用信号とを重畳して送信するとともに、受信した信号からデータ信号と制御用信号とを分離させる光信号伝送装置において、高速で駆動する偏向光学系の動きによる波形変化をも考慮して、より安定したデータ伝送が可能となる光信号伝送装置を提供することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら説明する。
【0025】
本発明に係る光信号伝送装置は、通信の相手方となる光信号伝送装置の方向、換言するならば、光ビームの入射方向を検出し、また、発光素子の光軸を受光素子の光軸に常に追従させる機能を有する光信号伝送装置である。
【0026】
〔光信号伝送装置の実施の形態における構成〕
図1は、本発明に係る光信号伝送装置の実施の形態における構成を示す側面図である。
【0027】
本発明に係る光信号伝送装置においては、図1に示すように、外部インターフェイス1から供給されるデータ信号にデータ供給部2により制御用信号(パイロット信号)を重畳し、この信号に基づいて、発光素子3の発光強度を変調する。すなわち、発光素子3における発光強度は、データ信号に基づいて変調した光信号と、制御用信号に基づいて変調した光信号とを重畳した光信号となる。この発光素子3としては、例えば、レーザダイオード(Laser Diode)が使用される。
【0028】
外部インターフェイス1から供給されるデータ信号は、後述するように、直流成分を持たない信号に変調する変調方式を用いて変調されたものである。そして、制御用信号は、特定周波数の信号である。
【0029】
発光素子3から出射された光ビームは、コリメータレンズ4によって平行光束となされて、ビームスプリッタ5,6を透過し、偏向光学系7に入射する。この偏向光学系7は、例えば、電磁的駆動機構によって、2軸方向に偏向制御可能な反射ミラーを有して構成されている。この偏向光学系7は、ビームスプリッタ5,6を透過した光ビームを反射し、入射した光ビームを2軸方向に偏向させて出射することができる。この反射ミラーにより反射された光ビームは、この光信号伝送装置より出射される。
【0030】
そして、この光信号伝送装置は、通信相手となる他の光信号伝送装置から送信された光ビームを受信する。この受信光ビームは、この光信号伝送装置から送信される光ビームと同様に、データ信号と制御用信号(パイロット信号)とが重畳された信号に基づいて変調された光信号である。
【0031】
通信相手となる他の光信号伝送装置から送信され受信された受信光ビームは、偏向光学系7において反射され、ビームスプリッタ6,5においてそれぞれ一部が反射され、集光レンズ8,9によりそれぞれ集光され、受信部となる第1及び第2の受光素子10,11によって受光される。
【0032】
データ受信用の第1の受光素子10から出力される光検出信号は、受信信号処理部12によって波形整形及びデジタルデータ化され、外部インターフェイス13に供給される。また、制御用の第2の受光素子11から出力される光検出信号は、偏向角制御信号供給部14において、偏向光学系7を制御するための信号処理がなされる。この偏向角制御信号供給部14は、制御用の受光素子11から出力される光検出信号に基づいて、偏向光学系7を制御し、送受信する光ビームの光軸を通信相手となる光信号伝送装置の光軸に一致させる。
【0033】
この光信号伝送装置の光学系は、通信相手となる他の光信号伝送装置から送信された受信光ビームが第2の受光素子11の受光面の中心に入射する状態において、送信する光ビームと受信光ビームとが同軸となるように調整されている。すなわち、この光学系において、第2の受光素子11の受光面の中心と、発光素子3の発光点とは、ビームスプリッタ5の反射面について共役な位置となっている。このように送信する光ビームと受信光ビームとが同軸となっている状態においては、受信側の光信号伝送装置の信号受信用の受光素子に対して、送信する光ビームを正確に入射させることができる。
【0034】
図2は、第2の受光素子11の構成を示す正面図である。
【0035】
第2の受光素子11は、図2に示すように、入射された光ビームの入射位置を二次元的に検出することができる二次元PSD(Position Sensitive Detector)素子であり、例えば、受光部が中心より放射状に4つの領域に分割された4分割PD(Photo Detector)となっている。この第2の受光素子11は、光学的な位置計測において一般的に使用されている素子である。この第2の受光素子11は、受光面(位置検出部)11aに入射した光ビームのこの受光面11a内における入射位置に応じて4つの受光領域に対応する4つの出力信号を4本の出力端子から出力する。これら出力信号のそれぞれのレベルにより、受光面11a内における光ビームの入射位置が表現される。
【0036】
この第2の受光素子11により受光される光ビームは、受光面11a上において、偏向光学系7を介して送信される光ビームの光軸と偏向光学系7を介して受信される受信光ビームの光軸とのズレに応じた位置に、光スポットを形成する。
【0037】
なお、第2の受光素子11は、4分割PDに限定されるものではなく、例えば、C−MOSSセンサなどに代えることができる。
【0038】
図3Aは、偏向角制御信号供給部14の構成を示すブロック図である。
【0039】
第2の受光素子11の各受光領域PD-A,PD-B,PD-C,PD-Dからの出力信号SIG-A,SIG-B,SIG-C,SIG-Dは、図3Aに示すように、それぞれ独立した可変ゲイン増幅回路となるAGCアンプ21,22,23,24により、それぞれ増幅される。増幅された信号は、検波・整流回路25,26,27,28により、それぞれの受光領域PD-A,PD-B,PD-C,PD-Dにおける受光光量に応じた直流(DC)電圧に変換される。これら受光光量に応じた直流電圧は、演算処理部29に送られる。この演算処理部29は、第2の受光素子11の各受光領域PD-A,PD-B,PD-C,PD-Dにおける受光光量に応じて、偏向光学系7の反射ミラーの偏向角及び偏向方向を適切に制御する信号を生成する。
【0040】
この演算処理部29により生成された信号によって偏向光学系7の反射ミラーが偏向制御されることにより、偏向光学系7を介して送信される光ビームの光軸と偏向光学系7を介して受信される受信光ビームの光軸とが一致される。このとき、第2の受光素子11により受光される光ビームは、受光面11aの中心に光スポットを形成する。
【0041】
この偏向角制御信号供給部14において、各AGCアンプ21,22,23,24のゲイン設定は、可変ゲイン設定部30により、互いに同一値のゲインに設定される。可変ゲイン設定部30は、各AGCアンプ21,22,23,24により増幅された信号が入力され、これらAGCアンプ21,22,23,24により増幅された信号の総和が一定となるように、各AGCアンプ21,22,23,24のゲイン設定を行う。
【0042】
これにより、送信される光ビームと受信光ビームとの光軸のズレによる第2の受光素子11からの出力信号の変化と、各AGCアンプ21,22,23,24におけるゲイン変動による出力信号の変化とを分離することが可能となる。
【0043】
図3Bは、偏向角制御信号供給部14の構成の他の例を示すブロック図である。
【0044】
なお、この偏向角制御信号供給部14において、各AGCアンプ21,22,23,24のゲイン設定を行う可変ゲイン設定部30には、図3Bに示すように、検波・整流回路25,26,27,28の出力が入力されるようにしてもよい。
【0045】
この場合にも、可変ゲイン設定部30は、各AGCアンプ21,22,23,24のゲインを互いに同一値のゲインに設定するとともに、各AGCアンプ21,22,23,24により増幅され検波・整流回路25,26,27,28を経た信号が入力され、これら検波・整流回路25,26,27,28を経た信号の総和が一定となるように、各AGCアンプ21,22,23,24のゲイン設定を行う。
【0046】
図4は、信号変調方式における変調信号のスペクトルを示すグラフである。
【0047】
そして、外部インターフェイス1からのデータ信号は、直流成分を持たない信号に変調する変調方式を用いて変調されている。このような変調方式としては、図4に示すように、「8B10B変調」(任意の8ビットの信号を正負の割合の等しい10ビット信号へ変換する変調方式)などが挙げられる。
【0048】
すなわち、「NRZ変調」など、直流成分を持つ信号に変調される変調方式を採用している従来の光信号伝送装置に対し、本発明に係る光信号伝送装置においては、光信号伝送が十分な伝送帯域を有している特性を利用して、「8B10B変調」などにより直流成分を持たない信号に変調し、送信データとしている。
【0049】
したがって、従来の光信号伝送装置においては受信信号に対して波形整形等の信号処理等が必要となっていたのに対し、本発明に係る光信号伝送装置においては、利用されない低周波数帯域のスペクトルを制御用信号やAGCアンプの帯域に割り振ることにより、周波数フィルタ等の簡単な構成によって、安定して制御用信号及びデータ信号を分離させて得ることができる。
【0050】
また、高速のデータ伝送においては、直流成分を持たない変調方式を用いることが、伝送性能の向上にも効果がある。直流成分を持たないことは、直流(DC)バランス性能が高いことを意味し、DCバランスがとれた変調符号は、長さNのすべての期間において、0と1との数がほぼ等しくなる。例えば、「マンチェスタ符号」は、論理1を10、論理0を01と表記するため、完全なDCバランスを実現している。また、「8B10B符号」は、8ビットの符号を10ビットの符号に変換することにより、DCバランスを改善している。さらに、受光回路のアンプを交流結合とすることができるため、可変ゲイン増幅回路(AGC)の設計が容易となる。なお、本発明において「直流成分を持たない変調方式」とは、前記2種類に限られるものではない。
【0051】
図5は、この光信号伝送装置におけるデータ信号及び制御用信号のスペクトルを示すグラフである。
【0052】
この光信号伝送装置においては、図5に示すように、直流成分を持たない信号に変調されたデータ信号Dのスペクトルと、偏向光学系7の動作する制御帯域Aとの間に、制御用信号Sのスペクトルが存在するように設定する。
【0053】
偏向光学系7の動作する制御帯域Aの周波数f1は、せいぜい1kHz程度である。この制御帯域Aと制御用信号Sとのゲイン交点の周波数を1kHzに設定した場合には、制御用信号Sの中心周波数f2は、その10倍以上の周波数である必要がある。さらに、検波回路等の動作を考慮すると、制御用信号Sの中心周波数f2は、制御帯域Aの周波数f1の20倍以上が好ましく、20kHz以上ということになる。なお、制御用信号Sの変調方式は、FM変調、AM変調、PSK変調など、特に限定されるものではない。
【0054】
さらに、データ信号Dの周波数帯域f3を、制御用信号Sの中心周波数f2の10倍以上に設定すれば、データ信号Dと制御用信号Sとは、簡単な周波数フィルタで分離することができる。すなわち、データ信号Dは、例えば、200kHz以下の信号をHPFにより除くことによって分離することができる。HPFの構成としては、受光回路を交流結合によるアンプ構成とすることによっても、HPF特性を得られる。さらには、受光素子の素子面積によっても、交流結合アンプのHPF特性を調整することが可能である。
【0055】
また、制御用信号SのためのAGCアンプ21,22,23,24における可変ゲインの周波数特性は、偏向光学系7の動作する制御帯域Aの周波数f1であれば十分であることになる。
【0056】
このような検討から、本発明に係る光信号伝送装置においては、各信号の周波数スペクトルの分布について以下の関係を成立させていることにより、小規模な回路構成により、制御用信号S及びデータ信号Dを重畳させて送受信を行い、送信光及び受信光の光軸を制御する光信号伝送装置を構成することができる。
100・f1<10・f2<f3
【0057】
なお、偏向光学系7の制御にデジタル制御系を用いる場合には、制御用信号のサンプリング(A/D)が必要となる。サンプリングは、制御ループ内においては位相遅れ要素となる。零次ホールドによる伝達関数は、サンプリング周期Tにより、次式にて表現される。
(1−e−Ts)/s
【0058】
この式より、サンプリング周期Tにより、所望のゲイン交点周波数における位相遅れが変化することがわかる。したがって、十分に高いサンプリング周波数が必要となる。サンプリング周波数をゲイン交点周波数に対して10倍以上に設定することにより、位相遅れを数度とすることができることから、制御用信号Sの中心周波数f2を偏向光学系7の制御帯域Aの周波数f1の10倍とするという数値は、デジタル制御系を用いる場合においても、設計時の一つの目安として用いることができる。
【0059】
図6は、この光信号伝送装置におけるデータ供給部の構成を示す回路図である。
【0060】
この光信号伝送装置のデータ供給部2においては、図6に示すように、データ信号が入力され、このデータ信号に応じた駆動電流がデータ発光制御部となる変調電流生成器15によって生成され、発光素子3に供給される。すなわち、この変調電流生成器15は、データ信号に基づく変調を行い、発光素子3に対して、データ信号に基づいて変調した信号に応じた駆動電流を供給することとなる。
【0061】
一方、直流発光制御部となるバイアス電流(DC)生成器16により、一定のバイアス電流が生成され、データ信号に影響を与えないように、ローパスフィルタ17を介して、発光素子3に供給される。このバイアス電流生成器16は、発光素子3に対して、ローパスフィルタ17を介して接続されており、発光素子3の直流発光量を制御する。
【0062】
さらに 発光素子3に対しては、ローパスフィルタ17を介して、制御用信号発光制御部となる制御用信号生成器18が接続されている。この制御用信号生成器18は、制御用信号に基づく変調を行い、発光素子3に対して、制御用信号に基づいて変調した信号に応じた駆動電流を供給する。
【0063】
このデータ供給部2においては、バイアス電流と、制御用信号に基づいて変調された信号に応じた駆動電流とは、加算されて、ローパスフィルタ17を経て、発光素子3に供給される。ローパスフィルタ17の特性は、制御用信号に応じた駆動電流を通過させ、データ信号の帯域の信号を通過させないものとなっており、データ信号の品質を良好に維持しつつ、制御用信号に応じた駆動電流を重畳させることが可能となっている。
【0064】
なお、この光信号伝送装置においては、データ信号及び制御用信号の周波数スペクトルの分布が前述の関係を成立させていることにより、ローパスフィルタ17を構成することが容易となっている。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明に係る光信号伝送装置の実施の形態における構成を示す側面図である。
【図2】前記光信号伝送装置における第2の受光素子の構成を示す正面図である。
【図3A】前記光信号伝送装置における偏向角制御信号供給部の構成を示すブロック図である。
【図3B】前記光信号伝送装置における偏向角制御信号供給部の構成の他の例を示すブロック図である。
【図4】前記光信号伝送装置において使用される信号変調方式における変調信号のスペクトルを示すグラフである。
【図5】前記光信号伝送装置におけるデータ信号及び制御用信号のスペクトルを示すグラフである。
【図6】前記光信号伝送装置におけるデータ供給部の構成を示す回路図である。
【図7】従来の光信号伝送装置の構成を示す側面図である。
【図8】従来のデータ信号と制御用信号を示す図である。
【図9】従来のデータ信号と制御用信号の分離方法を示した図である。
【図10】従来の光信号伝送装置におけるデータ供給部の構成を示す回路図である。
【符号の説明】
【0066】
1 外部インターフェイス
2 データ供給部
3 発光素子
4 コリメータレンズ
5,6 ビームスプリッタ
7 偏向光学系
8,9 集光レンズ
10 第1の受光素子
11 第2の受光素子
13 外部インターフェイス
14 偏向角制御信号供給部
15 変調電流生成器
16 バイアス電流生成器
17 ローパスフィルタ
18 制御用信号生成器
21,22,23,24 AGCアンプ
25,26,27,28 検波・整流回路
29 演算処理部
30 可変ゲイン設定部
A 動作制御帯域
S 制御用信号帯域
D データ信号帯域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
データ信号に基づいて変調した光信号を送信するとともに、データ信号に基づいて変調された光信号を受信して復調することによって、データ伝送を行う光信号伝送装置において、
直流成分を持たない信号に変調する変調方式を用いて変調されたデータ信号に基づいて変調した光信号と、偏向光学系を介して光信号を受信する他の光信号伝送装置の該偏向光学系を制御する制御用信号に基づいて変調した光信号とを重畳して送出する送信部を備え、
前記他の光信号伝送装置の偏向光学系の動作制御帯域をf1とし、この偏向光学系を制御する制御用信号の搬送波周波数をf2とし、データ伝送を行う光信号の低域制限周波数をf3としたとき、
100・f1<10・f2<f3
という関係が成立しており、
前記データ信号に基づく変調を行い、前記光信号を発する発光素子に対して、データ信号に基づいて変調した信号に応じた駆動電流を供給するデータ発光制御部と、
前記発光素子に対して、ローパスフィルタを介して接続され、前記発光素子の直流発光量を制御する直流発光制御部と、
前記発光素子に対して、前記ローパスフィルタを介して接続され、前記制御用信号に基づく変調を行い、前記発光素子に対して、制御用信号に基づいて変調した信号に応じた駆動電流を供給する制御用信号発光制御部と
を有することを特徴とする光信号伝送装置。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−160349(P2008−160349A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−345343(P2006−345343)
【出願日】平成18年12月22日(2006.12.22)
【出願人】(000004329)日本ビクター株式会社 (3,896)
【Fターム(参考)】