説明

光偏向素子および光偏向装置

【課題】光学結晶の偏向領域における分極反転部と非分極反転部との境界の歪みを抑制して、フォトリフラクション現象の発生を抑制することができる光偏向素子および光偏向装置を提供する。
【解決手段】光学結晶2でできた基板の図示しない光源からの光が通過しない非偏向領域Bに、光源からの光が通過する光偏向領域Aと同様に、三角形状の分極反転部2aと、三角形状の非分極反転部2bとを交互に形成した。このように、非偏向領域Bに分極反転部2aと非分極反転部2bとを交互に形成することで、非偏向領域Bを非分極反転部のみにした場合に比べて、伸縮量を緩和することができる。その結果、この非偏向領域Bの伸縮が、偏向領域Aの伸縮に与える影響が緩和され、偏向領域Aの分極反転部2aと非分極反転部2bの境界の歪みを抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光偏向素子および光偏向装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、電気光学効果を有する光学結晶からなる光偏向素子を用いた光偏向器が記載されている。
この光学結晶は、ニオブ酸リチウム結晶中に分極反転させた三角形状(プリズム形状)の分極反転部と分極反転させていない非分極反転部とが、光源からの光を通過させながら光を偏向する偏向領域に光進行方向に交互に形成されている。また、結晶の上面と下面とにそれぞれ電極が設けられている。電極間に電圧を印加すると、ポッケルス効果により、光学結晶の屈折率が変化する。このとき、分極反転部と非分極反転部との屈折率の変化の方向が異なる。具体的に説明すると、例えば、分極反転部の屈折率が、電圧印加前に比べて減少する方向に変化する場合、非分極反転部の屈折率は、電圧印加前に比べて増加する方向に変化する。このような非分極反転部と分極反転部との屈折率の違いから、分極反転部と非分極反転部との境界で光ビームが所定角度偏向される。そして、複数の非分極反転部と分極反転部との境界を通過することで、光学結晶へ入射した光ビームを設定された偏角角度に偏向して、光学結晶から出射する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記光学結晶に電圧を印加すると、ニオブ酸リチウムの光学結晶は、圧電効果により伸長または縮小する。このとき、分極反転部と非分極反転部とで伸縮の方向が異なり、分極反転部と非分極反転部と境界の部分で大きな歪みが生じる。結晶内に歪が生じると結晶内での欠陥準位が生じる。このような状態である程度の強度を持つ波長が短い光が結晶内に照射されると、照射対象物に照射された光ビームのビームスポット径が歪む所謂フォトリフラクション現象が生じてしまう。
【0004】
上述のフォトリフラクション現象は、次のようにして発生する。光学結晶に光ビームを照射すると光学結晶内に存在する欠陥準位からキャリア(電荷)が励起される。このキャリアは、電極間の電界の影響により移動(キャリアドリフト)して結晶内の別の欠陥準位にトラップされる。また、その箇所に他の欠陥準位で発生して移動してきたキャリアもトラップされ、その箇所にキャリアが集まり、一種の空間電荷層が形成される。この空間電荷層が光学結晶の内部電界を形成し、その内部電界が、電極間に印加した外部電界の作用を阻害し、光学結晶内部の屈折率を変化させる。その結果、光学結晶内部で光が散乱され、光ビームが歪む。これが、フォトリフラクション現象である。
【0005】
そして、上述の光学結晶においては、分極反転部は光源の光が通過する偏向領域だけに形成されており、光源の光が通過しない光学結晶の非偏向領域は、非分極反転部のみである。従って、偏向領域における非分極反転部が、非偏向領域の非分極反転部とともに伸長または収縮するため、偏向領域における非分極反転部の収縮量または伸長量が大きくなる。その結果、分極反転部と非分極反転部との境界の歪みが大きくなり、上述した欠陥準位が生じやすく、フォトリフラクション現象が発生しやすいという課題があった。
【0006】
本発明は以上の課題に鑑みなされたものであり、その目的は、光学結晶の偏向領域における分極反転部と非分極反転部との境界の歪みを抑制して、フォトリフラクション現象の発生を抑制することができる光偏向素子および光偏向装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1の発明は、光源の光が通過するときに光を偏向する光偏向領域に分極反転部と非分極反転部とが光進行方向に交互に形成された光学結晶を有する光偏向素子において、上記光学結晶の非光偏向領域の所定の箇所に、分極反転部を形成したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、光学結晶の非光偏向領域にも、分極反転部を形成したことにより、光学結晶に電界を形成したとき、非光偏向領域の分極反転部が、非偏向領域の非分極反転部と逆方向に変形し、非光偏向領域の非分極反転部の収縮または伸長を抑制することができる。その結果、非偏向領域の非分極反転部の収縮または伸長に引きずられて、偏向領域の非分極反転部が伸長または収縮するのを抑制することができる。従って、偏向領域の非分極反転部の伸長または収縮量を、非偏向領域が非分極反転部のみで形成されたものよりも抑制することができる。これにより、偏向領域の分極反転部と非分極反転部と境界の歪みを、非偏向領域が非分極反転部のみで形成されたものよりも少なくすることができ、偏向領域の分極反転部と非分極反転部と境界に欠陥準位が生じるのを抑制することができる。よって、非偏向領域が非分極反転部のみで形成されたものよりもフォトリフラクション現象の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本実施形態に係る光偏向素子の概略構成図。
【図2】同光偏向素子の断面図。
【図3】(a)は電圧が印加されていない場合の光学結晶を示した図であり、(b)は分極反転が形成されていない光学結晶に電圧が印加されたときの光学結晶の伸縮を模式的に表した図であり、(c)は、分極反転部が形成されている光学結晶で電圧が印加されたときの光学結晶の伸縮を模式的に表した図。
【図4】光学結晶を支持基板上に形成した光偏向素子の概略構成図。
【図5】変形例1の光偏向素子の概略構成図。
【図6】変形例2の光偏向素子の概略構成図。
【図7】光偏向装置の一例を示す概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る光偏向素子1の概略構成例を示す図であり、図2は、光偏向素子1の断面図である。以下の説明では、光軸方向をX方向、光偏向素子1の偏向方向(光走査方向)をY方向、X方向およびY方向に直交する方向(紙面に対して垂直方向)をZ方向として、説明する。
本実施形態に係る光偏向素子1は、ニオブ酸リチウムやタンタル酸リチウムなどに代表される酸化物の強誘電性結晶からなる光学結晶2を有している。この光学結晶2でできた基板の図示しない光源からの光が通過する光偏向領域Aには、複数の分極反転部2aが光軸方向に並んで形成されている。その結果、光偏向領域Aには、三角形状の分極反転部2aと、三角形状の非分極反転部2bとが交互に形成されたパターン形状となっている。これら分極反転部2aは、三角形形状の連鎖で形成されるプリズム型の分極ドメインを分極反転技術によって形成する。分極反転部2aの三角形状の幅や高さは、偏向角などの素子の仕様によって、適宜決定される。例えば、幅1mm、高さ2mmの二等辺三角形の形状などである。
【0011】
図2に示すように、光偏向素子1のXY平面に電源10が接続された電極3が形成されており、電極3で分極反転部2aを挟み込んでいる。不図示の光源からの光ビームは、光偏向素子1の図中左側の面(ZY平面)から入射し、電極3に挟まれた光学結晶2の偏向領域Aを透過して、図中右側のZY平面から出射する。
【0012】
また、本実施形態においては、不図示の光源の光が通過しない非偏向領域Bにも、偏向領域Aに形成された分極反転部2aと同じ形状の複数の分極反転部2aが、光軸方向に並んで形成されている。その結果、非偏向領域Bにも、偏向領域Aと同じ三角形状の分極反転部2aと、三角形状の非分極反転部2bとが交互に形成されたパターン形状となっている。これにより、分極反転部2aと、非分極反転部2bとの面積がほぼ等しくなる。
【0013】
図1に示すように、光学結晶2の電極3が形成されている部分、つまり電圧が印加される部分の非偏向領域Bに分極反転部2aが形成される。なお、本実施形態においては、各非偏向領域にそれぞれ一列の分極反転部2aと非分極反転部2bとが交互に形成されたパターンを形成しているが、1列以上であってもよい。
【0014】
電極3に電源10からの電圧を印加すると、電極3に挟まれた光学結晶内に電界生じ、その電界の大きさに対応して電気光学効果(ポッケルス効果)により光学結晶の屈折率が変化する。ポッケルス効果は電界に1次比例するので、電界の方向(正負)によって屈折率の変化量も正負に変化する。分極反転部2aでは結晶軸が180度回転しているために、同じ方向に電界が発生していても、分極反転部2aと非分極反転部2bとでの屈折率変化量の符号が異なる。つまり、分極反転部2aで屈折率が−(Δn)変化するように電圧が印加されると、非分極反転部2bでは+(Δn)変化するのである。よって、分極反転部2aと非分極反転部2bとに屈折率の差が生じる。このため、分極反転部2aと非分極反転部2bとの境界で光学結晶2の偏向領域Aを通過する光の進行方向が徐々に変化していき、出力側では、ある偏向角θの出力を得ることができる。
【0015】
光学結晶内に欠陥準位があると、上述したフォトリフラクション現象が発生するおそれがあるため、結晶への不純物のドープなどの方法により抑制される方法が取られている。しかしながら、本実施形態においては、ニオブ酸リチウムやタンタル酸リチウムなどに代表される酸化物の強誘電性結晶からなる光学結晶を用いており、圧電効果も有している。このため、光を偏向させるために結晶2を挟む対極した電極3に電圧を印加すると、光学結晶2は圧電効果によって結晶自体が伸縮する。このとき、分極反転部2aと、非分極反転部2bとの伸縮方向が異なる。その結果、分極反転部2aと非分極反転部2bとの境界に歪みが発生し、分極反転部2aと非分極反転部2bとの間に欠陥準位が生じてしまう。このように欠陥準位が生じると、上述したフォトリフラクション現象が生じ、光偏向素子1から出射された光ビームのビーム形状が歪んでしまう。
【0016】
つまり、電圧が印加されない場合にフォトリフラクション現象がほとんど生じない入射光条件またはドーピングされた結晶であっても、結晶の圧電効果による欠陥準位の増加してしまう。このように、欠陥準位が増加すると、光照射により励起されるキャリアも増加してしまい、フォトリフラクション現象が生じてしまう。この伸縮現象は電界に比例した大きさで伸縮を生じるため、偏向角度を大きくした場合、印加する電圧が大きくなるため、その分伸縮の影響が強くなり、より顕著に光のビーム形状歪みが生じる。
【0017】
そこで、本実施形態においては、上述したように、非偏向領域Bにも、分極反転部2aと非分極反転部2bとを交互に形成し、非偏向領域Bの伸縮(伸長または収縮)を抑えることで、偏向領域Aの非分極反転部2bの伸縮を抑えることで、偏向領域Aにおける分極反転部2aと非分極反転部2bとの境界に生じる歪みを抑制している。
【0018】
図3(a)は電圧が印加されていない場合の結晶であり、(b)は分極反転部が形成されていない結晶(全てが非分極反転部)で電圧が印加されたとき、(c)は分極反転部が形成されている結晶で電圧が印加されたときの伸縮を模式的に表した図である。また、以下の説明では、電圧を印加することで図3(b)のように非分極反転部が縮む場合を例に説明する。
図3(c)で示すように分極反転部2aと非分極反転部2bとが交互に形成された場合、分極反転部2aは伸び、非分極反転部2bは、縮むことになる。このとき分極反転部2aと非分極反転部2bとの境界では結晶面が連続である必要があるために、図の実線で記したような形状となり、図3(b)に示すように、一様な結晶軸に電圧を印加した場合と比較して伸縮度を相対的に緩和することができることがわかる。
【0019】
その結果、非偏向領域Bに分極反転部2aを設けていない場合は、非偏向領域Bは、図3(b)に示すように、大きく収縮する。よって、非偏向領域Bに分極反転部を設けていない場合、偏向領域Aの非分極反転部2bが、非偏向領域Bの収縮の影響を受けて、収縮が大きくなってしまう。その結果、偏向領域Aの分極反転部2aと非分極反転部2bとの境界の歪みが大きくなり、欠陥準位が生じやすい。
【0020】
一方、図1、図2に示すように、非偏向領域Bに分極反転部2aと非分極反転部2bとを交互に形成することで、非偏向領域Bを非分極反転部のみにした場合に比べて、伸縮量を緩和することができる。その結果、この非偏向領域Bの伸縮が、偏向領域Aの伸縮に与える影響が緩和され、偏向領域Aの分極反転部2aと非分極反転部2bとの境界の歪みを抑制することができる。これにより、偏向領域Aの分極反転部2aと非分極反転部2bとの境界に欠陥準位が生じるのを抑制することができ、フォトリフラクション現象が生じるのを抑制することができる。
【0021】
図4は、光学結晶2を支持基板6上に形成した光偏向素子1の概略構成図である。
図4に示すように、支持基板6に接着剤5により、厚さが100μm以下の光学結晶2を接着する。また、電極3による光の吸収を低減するためのバッファ層4を介して電極3を光学結晶2に固定している。
このように、支持基板6に光学結晶2を設けることで、光学結晶2の厚みは10μm程度まで薄くすることが可能となる。このように、光学結晶2の厚みを薄くすることで、所定の角度偏向するために電極間に印加する電圧の大きさを減らすことができる。ある偏向角度に偏向する場合(光学結晶2に同じ電界値を発生させるため)の電圧は、300μmの厚さと比較して10μmの厚さであれば1/30に低減でき、100V程度で解像点数50点以上の光偏向素子1を形成することが可能となる。このように低電圧駆動が可能であるため、高速スキャンをするために高周波を電極3に印加する場合の電圧発生回路の負荷が小さくなり、省電力動作も可能となる。
【0022】
次に、本実施形態の光偏向素子1の製作方法を説明する。
まず、ニオブ酸リチウム基板(光学結晶2)にリソグラフィー技術によってプリズムをパターニングし、液体電極中で高電圧を印加することでプリズム型(三角形状)の分極反転部2aを形成する。また、分極反転部2aと非分極反転部2bとが光軸方向に交互に形成されたパターンは、電極3によってカバーされる部分を想定した領域内全面に形成する。その基板(光学結晶2)に、金などの金属による電極層を薄膜形成技術で形成することで電極3を形成する。このとき、裏面には一様に電極3を形成するが、反対側の表面は電極3を所望の面積で形成する。また、図4に示す光偏向素子1の場合は、基板(光学結晶2)に分極反転パターン形成後、五酸化二タンタル(Ta)によるバッファ層4と、電極3を形成し、この光学結晶2と支持基板6とを接着剤5により張り合わせたのち、研磨などの薄膜化技術によりニオブ酸リチウムを20μmまで薄くした光導波路形状を用いる。
【0023】
次に、本実施形態の変形例について説明する。
【0024】
[変形例1]
図5は、変形例1の光偏向素子1Aの概略構成図である。
この変形例1では、電極に対向する非偏向領域Bに、光軸方向(X方向)に対して平行の延びる分極反転部2aと非分極反転部2bとを交互に形成したものである。
このような構成とすることで、非偏向領域Bの分極反転部2aの間隔を、図1に示す構成に比べて狭くすることができる。図1に示すように、三角形状の分極反転部2aを非偏向領域Bに複数並べた構成に比べて、分極反転部2aの間隔を十分狭くすることができる。例えば、非偏向領域Bに分極反転部2aを等間隔で形成する場合、分極反転技術により10μm程度のピッチで非偏向領域Bに分極反転部2aを形成することができる。また、非偏向領域Bの分極反転部2aの幅と、非分極反転部2bの幅を同じとなるように形成した場合は、その幅は5μm程度となる。一方、図1に示す構成の場合は、三角形状の分極反転部2aは数mmオーダのサイズであるので、変形例1の構成とすることで、分極反転部2aの間隔を十分に小さく形成することが可能である。
【0025】
このように十分に細かいサイズで分極反転部2aを形成した非偏向領域Bに電圧を印加すると、前述のように応力による伸縮方向が結晶軸によって異なるため、分極反転部2aと非分極反転部とで、互いに伸縮を打ち消し合い、非偏向領域Bの伸縮量を低減することができる。これにより、非偏向領域Bの伸縮の影響が、偏向領域Aに及ぶのを抑制することができ、偏向領域Aの分極反転部2aと非分極反転部2bとの境界の歪みの抑制効果を高めることができる。
【0026】
分極反転部2aの間隔は、一定である必要はなく、外側に向かって間隔が広くなっていく構造や、狭くなっていく構造、間隔が周期的に変化するような構造でも良い。印加する電圧や、電極3の形状、偏向領域Aの分極反転部2aの形状によって非偏向領域Bの分極反転部2a間の間隔は、適宜決めればよい。
【0027】
[変形例2]
図6は、変形例2の光偏向素子1Bの概略構成図である。
この変形例2は、非光偏向領域Bに、光軸に対して垂直な分極反転部2aと非分極反転部2bとを交互に形成したものである。
分極反転部2aのピッチが狭くなると、長く均一に分極反転部2aを形成することが困難になる場合がある。よって、変形例2に示す構成とすることで、変形例1に示す構成に比べて、分極反転部2aの長さを短くすることができる。これにより、製作精度(均一な分極反転部)を確保しながら比較的容易な方法で狭い間隔で分極反転部2aを形成することができる。
【0028】
また、この変形例2も非偏向領域Bの分極反転部2aのピッチを十分に狭めることができるので、変形例1と同様、非偏向領域Bの伸縮を低減することができる。これにより、非偏向領域Bの伸縮の影響が、偏向領域Aに及ぶのを抑制することができ、偏向領域Aの分極反転部2aと非分極反転部2bとの境界の歪みの抑制効果を高めることができる。
【0029】
また、上記では、光の進行方向に対して平行または垂直に延びる分極反転部2aを形成した変形例を説明したが、非偏向領域Bに光の進行方向に対して斜めに延びる分極反転部と非分極反転部とを交互に形成してもよい。このような構成でも、変形例1、2同様、非偏向領域Bの分極反転部2aのピッチを十分に狭めることができ、非偏向領域Bの伸縮量を低減することができる。これにより、非偏向領域Bの伸縮の影響が、偏向領域Aに及ぶのを抑制することができ、偏向領域Aの分極反転部2aと非分極反転部2bとの境界の歪みの抑制効果を高めることができる。
【0030】
次に、上記光偏向素子1を用いた偏向装置41について説明する。
図7は、光偏向装置41の一例を示す概略構成図である。光偏向装置41は、光源42と入射光学系43と光偏向素子(電気光学素子)44と出射光学系45と駆動装置46とを備えている。光源42は安価でロバスト性の高い半導体レーザーからなるのが好ましい。入射光学系43は光偏向素子1が導波路型の場合は光利用効率が高く結合させるために、導波路と入射レンズのNAを一致させるのが好ましい。出射光学系45は出射光をコリメートするためのレンズと、必要に応じて、偏向角を拡大するための凸凹レンズを用いるのが好ましい。駆動装置46は、光源42及び光偏向素子1を駆動させるための駆動回路、電源、信号発生器等からなり、光偏向装置41の解像点数と駆動周波数、光出射パワーを決定する。
【0031】
本実施形態の光偏向装置41は、電気光学効果を用いた光偏向素子を用いることで、ポリゴンミラーなどのミラーを用いて機械的に光を偏向する光偏向素子を用いた場合に比べて、装置の小型化を容易に実現することができる。また、電極に印加する電圧を高めるだけで、大きな偏向角度を得ることができ、音響光学効果を用いた光偏向素子を用いた場合に比べて、簡単な構成で大きな偏向角度を得ることができる。また、電気光学効果を用いた光偏向素子を用いることで、GHzオーダーの極めて高速な光スキャンを行うことができる。
【0032】
図7に示す偏向装置41は、例えば、レーザー走査顕微鏡、バーコードリーダーなどのスキャナー部に用いることができる。また、画像形成装置の感光体表面に光を走査して、感光体表面に潜像を書き込む書込装置の光走査部に用いることもできる。
【0033】
以上に説明したものは一例であり、本発明は、次の(1)〜(7)態様毎に特有の効果を奏する。
(1)
光源42の光が通過するときに光を偏向する光偏向領域Aに分極反転部2aと非分極反転部2bとが光進行方向に交互に形成された光学結晶2を有する光偏向素子1において、上記光学結晶2の非光偏向領域Bにも、分極反転部2aを形成した。
かかる構成とすることで、実施形態で説明したように、非偏向領域Bの伸張または収縮を抑制することができ、非偏向領域Bの伸縮の影響で、偏向領域Aの非分極反転部2bと分極反転部2aとの境界に生じる歪みを低減することができる。これにより、フォトリフラクション現象を抑制することができ、出射光のビーム歪みを抑制することができる。
【0034】
(2)
また、上記(1)に記載の態様の光偏向素子1において、非光偏向領域Bに、分極反転部2aと非分極反転部2bとを交互に形成した。
かかる構成を備えることで、先の図3を用いて説明したように、非偏向領域Bの伸縮を良好に抑制することができる。これにより、偏向領域Aの非分極反転部2bと分極反転部2aとの境界に生じる歪みを低減することができ、フォトリフラクション現象を抑制することができ、出射光のビーム歪みを抑制することができる。
【0035】
(3)
また、上記(2)に記載の態様の光偏向素子1において、上記非光偏向領域Bの分極反転部2aと非分極反転部2bとで形成されるパターン形状を、上記光偏向領域の分極反転部2aと非分極反転部2bとで形成されるパターン形状と同じ形状にした。
かかる構成とすることで、実施形態で説明したように、非偏向領域Bの伸縮を抑制することができる。これにより、偏向領域Aの非分極反転部2bと分極反転部2aとの境界に生じる歪みを低減することができ、フォトリフラクション現象を抑制することができ、出射光のビーム歪みを抑制することができる。
【0036】
(4)
また、上記(2)に記載の態様の光偏向素子1において、上記非光偏向領域Bに、上記光偏向領域Aの光通過方向に対して平行の延びる分極反転部2aと非分極反転部2bとを交互に形成した。
かかる構成とすることで、変形例1で説明したように、分極反転部2aの間隔を狭めることができ、実施形態に比べて、非偏向領域Bの伸縮を抑制することができる。これにより、偏向領域Aの非分極反転部2bと分極反転部2aとの境界に生じる歪みをより一層、低減することができる。その結果、フォトリフラクション現象をより一層抑制することができ、出射光のビーム歪みをより一層抑制することができる。
【0037】
(5)
また、上記(2)に記載の態様の光偏向素子1において、上記非光偏向領域Bに、上記光偏向領域Aの光通過方向に対して垂直な分極反転部2aと非分極反転部2bとを交互に形成した。
かかる構成とすることで、変形例2で説明したように、変形例1の構成に比べて、分極反転部2aの長さを短くすることができ、狭い間隔で分極反転部2aを形成しても、均一な分極反転部2aを形成することができる。これにより、製作精度を確保しながら比較的容易な方法で狭い間隔で分極反転部2aを形成することができる。
【0038】
(6)
また、上記(1)乃至(5)いずれかに記載の態様の光偏向素子1において、上記光学結晶2を、支持基板6上に形成した。
かかる構成とすることで、図4を用いて説明したように、光学結晶の厚みを薄くすることができ、低い駆動電圧で大きな偏角角度を得ることができる。これにより、圧電効果による光学結晶2の伸縮を抑制することができ、偏向領域Aの非分極反転部2bと分極反転部2aとの境界に生じる歪みをより一層、低減することができる。その結果、フォトリフラクション現象をより一層抑制することができ、出射光のビーム歪みをより一層抑制することができる。また、消費電力を抑えることもできる。
【0039】
(7)
また、光源42から出射された光を偏向する電気光学効果を有する光学結晶からなる光偏向素子1と、上記光偏向素子1に電圧を印加する電圧印加手段とを備えた光偏向装置41において、上記光偏向素子として、上記(1)乃至(6)いずれかに記載の態様の光偏向素子を用いた。
かかる構成を備えることで、ビームスポット形状の歪みを抑制することができる。
【符号の説明】
【0040】
1,1A,1B:光偏向素子
2:光学結晶
2a:分極反転部
2b:非分極反転部
3:電極
4:バッファ層
5:接着剤
6:支持基板
10:電源
41:光偏向装置
42:光源
43:入射光学系
45:出射光学系
46:駆動装置
A:光偏向領域
B:非光偏向領域
【先行技術文献】
【特許文献】
【0041】
【特許文献1】特開平10−288798号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源の光が通過するときに光を偏向する光偏向領域に分極反転部と非分極反転部とが光進行方向に交互に形成された光学結晶を有する光偏向素子において、
上記光学結晶の非光偏向領域の所定の箇所に、分極反転部を形成したことを特徴とする光偏向素子。
【請求項2】
請求項1の光偏向素子において、
上記非光偏向領域に、分極反転部と非分極反転部とを交互に形成したことを特徴とする光偏向素子。
【請求項3】
請求項2の光偏向素子において、
上記非光偏向領域の分極反転部と非分極反転部とで形成されるパターン形状を、上記光偏向領域の分極反転部と非分極反転部とで形成されるパターン形状と同じ形状にしたことを特徴とする光偏向素子。
【請求項4】
請求項2の光偏向素子において、
上記非光偏向領域に、上記光偏向領域の光通過方向に対して平行の延びる分極反転部と非分極反転部とを交互に形成したことを特徴とする光偏向素子。
【請求項5】
請求項2の光偏向素子において、
上記非光偏向領域に、上記光偏向領域の光通過方向に対して垂直な分極反転部と非分極反転部とを交互に形成したことを特徴とする光偏向素子。
【請求項6】
請求項1乃至5いずれかの光偏向素子において、
上記光学結晶を、支持基板上に形成したことを特徴とする光偏向素子。
【請求項7】
光源から出射された光を偏向する電気光学効果を有する光学結晶からなる光偏向素子と、
上記光偏向素子に電圧を印加する電圧印加手段とを備えた光偏向装置において、
上記光偏向素子として、請求項1乃至6いずれかの光偏向素子を用いたことを特徴とする光偏向装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−61564(P2013−61564A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−201106(P2011−201106)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】