説明

光創傷治療装置

【課題】光照射による細胞活性化のメカニズムを利用した光治療装置において、創傷の治癒を一層促進させることが可能な装置の提供。
【解決手段】所定波長帯域の光を生体の対象部位に照射する第一の治癒促進手段と、前記対象部位に配される第二の治癒促進手段と、を備える光創傷治療装置を提供する。この光創傷治療装置において、前記第二の治癒促進手段は、前記対象部位を覆い、前記第一の治癒促進手段から照射される光に対して透過性を備える被覆材、あるいは電源に接続され、前記対象部位に電気刺激を付与する導電性部材などとされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光創傷治療装置に関する。詳しくは、生体の創傷部に光を照射して治癒を促進する光創傷治療装置に関する。
【背景技術】
【0002】
熱傷、褥瘡、糖尿病性潰瘍、静脈瘤性潰瘍、術創、及びその他の損傷(以下、これらを総称して「創傷」と称する)の治癒においては、壊死組織やバクテリアの除去、適度な湿潤環境の維持、感染や汚染の予防等が必要である。従来、創傷の治療には、軟膏ガーゼ等を用いた方法や、創傷を液体不透過性の包帯で密閉する方法等が適用されてきた。
【0003】
近年10〜100mW程度の低出力レーザ光を生体に照射することにより、創傷の治癒促進や筋肉関節等の慢性疼痛の緩解を図るための光治療装置が各種開発され、実際の臨床にも用いられてきている。
【0004】
特許文献1には、半導体レーザ素子又は発光ダイオード素子を用いた、外科的創傷の治療促進効果を意図した光波創傷治療装置が開示されている。この光波創傷治療装置は、薬物投与や外科的方法によっても治療傾向が見られず、従来では全く手の施しようのない難治性潰瘍をも含む創傷全般に対して、治療促進効果を有するものとされている。
【0005】
また、特許文献2には、複数の半導体レーザ素子が出力するレーザ光を混合させて1つの出力として放射させるレーザ治療装置が開示されている。このレーザ治療装置は、治療患部に適応するレーザ光照射範囲を容易に形成することができ、一度に比較的広い範囲の患部を治療することが可能とされている。
【0006】
このようなレーザ光の生体に対する作用は、適切なエネルギー照射による細胞の活性化により説明されている。光照射による細胞活性化は、ほぼ次のようなメカニズムによっていると考えられている。ミトコンドリア内にある呼吸連鎖の化合物であるフラビンデヒドロゲナーゼ、チトクローム、チトクロームオキシターザなどが光エネルギーを吸収すると、ミトコンドリアが活性化され、NADが増加し、高い代謝状態になりATPを増加させ、細胞質に放出し、ミトコンドリアと細胞質の酸化還元状態を変化させる。光を介して一連の現象は細胞内で起こり、細胞膜内外での流れであるカルシウムイオンに影響を与え、信号が増幅され、核にも影響をあたえ、RNA, DNAの合成を促進させ、細胞の分化に影響を与える(非特許文献1・2参照)。
【0007】
同様のメカニズムを利用した光治療装置として、光照射により細胞活性をはかり、体内の微小循環を刺激して軟組織の痛みを軽減し、炎症を減少させる装置(特許文献3)や、光照射により繊維芽細胞の活性化と機能向上をはかり、しわ取りを行う装置(特許文献4)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭60−114273号公報
【特許文献2】特開平5−161718号公報
【特許文献3】特開2008−188258号公報
【特許文献4】特開2006−25808号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】"Photobiology of low-power laser effects." Health Physics, 1989, Vol.56, No.5, p.691-704
【非特許文献2】"Primary and secondary mechanisms of action of visible to near-IR radiation on cells." Journal of Photochemistry and Photobiology B, Biology. 1999, Vol.49, No.1, p.1-17
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記特許文献1、2等に開示される従来の光治療装置は、医療従事者ならびに患者にとって、治癒性能や管理の簡便性、治療コスト等の観点からいまだ十分なものとはなっていない。
【0011】
そこで、本発明は、光照射による細胞活性化のメカニズム等を利用した光創傷治療装置において、創傷の治癒を一層促進させることが可能な装置を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題解決のため、本発明は、所定波長帯域の光を生体の対象部位に照射する第一の治癒促進手段と、前記対象部位に配される第二の治癒促進手段と、を備える光創傷治療装置を提供する。
この光創傷治療装置において、前記第二の治癒促進手段は、前記対象部位を覆い、前記第一の治癒促進手段から照射される光に対して透過性を備える被覆材、あるいは電源に接続され、前記対象部位に電気刺激を付与する導電性部材とされる。
前記第二の治癒促進手段を被覆材として構成する場合、被覆材は、前記対象部位を気密に内包し、内部が負圧源に接続され得る形状に形成されたもの、あるいは、前記対象部位に密接されるゲル状あるいはフィルム状に形成されたものとすることが好適である。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、光照射による細胞活性化のメカニズム等を利用した光治療装置において、創傷の治癒を一層促進させることが可能な装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】陰圧閉鎖カバーとして構成された第二の治癒促進手段の好適な実施形態を説明するための模式図である。
【図2】陰圧閉鎖カバー1に配設されるフレーム状部材16を説明するための模式図である。
【図3】健常ラットにおける創傷の大きさの経時変化を示す図面代用グラフである(実施例1)。
【図4】免疫抑制モデルラットにおける創傷の大きさの経時変化を示す図面代用グラフである(実施例1)。
【図5】健常マウスにおける創傷の大きさの経時変化を示す図面代用グラフである(実施例2)。
【図6】糖尿病モデルマウスにおける創傷の大きさの経時変化を示す図面代用グラフである(実施例2)。
【図7】健常マウスにおける創傷の大きさの経時変化を示す図面代用グラフである(実施例3)。
【図8】健常マウスの創傷部で観察された新生血管の数を示す図面代用グラフである(実施例3)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための好適な形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0016】
1.第一の治癒促進手段
本発明に係る光創傷治療装置は、所定波長帯域の光を生体の対象部位に照射する第一の治癒促進手段と、対象部位に配される第二の治癒促進手段と、を備える。ここで、対照部位とは、創傷が存在する生体部位を意味するものであり、以下では「創傷部」とも称するものとする。
【0017】
(1)光源
第一の治癒促進手段の光源には、燃焼光源、白熱電球、放電ランプ、ケミカルランプ、レーザ、エレクトロ・ルミネッセンス、ナノシリコン等が用いられる。
このうち、燃焼光源としては、油灯、蝋燭、ガス灯、ケミカルフラッシュランプなどが挙げられる。
白熱電球は、低圧放電ランプと高圧放電ランプに大別される。低圧放電ランプとしては、蛍光ランプ、殺菌ランプや低圧ナトリウムランプなどのアーク放電型、蛍光サインやネオンサインなどのグロー放電型、蛍光ランプなどの無電極放電型が挙げられる。高圧放電ランプとしては、カーボンアーク灯、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、超高圧水銀ランプ、キセノンランプ、クリプトンランプ、ナトリウムランプや無電極希ガスランプなどが挙げられる。
エレクトロ・ルミネッセンスとしては、無機ELや有機ELなどの狭義のELや、発光ダイオード(LED)などが挙げられる。
レーザとしては、固体レーザ、半導体レーザ、色素レーザ、気体レーザなどが挙げられる。
【0018】
光源は、エレクトロ・ルミネッセンスとレーザが好ましく、エレクトロ・ルミネッセンスが特に好ましい。さらに、エレクトロ・ルミネッセンスは、LEDや有機ELが好ましい。
【0019】
光源の形態は、特に制限はされないが、光創傷治療中も患者の動きを過度に制限しない大きさ・形状のものが好ましい。例えば、創傷部上又は後述する被覆材上に固定した状態で患者が自由に移動することができる、軽量かつ小型で携帯性を有するものが好適である。
【0020】
(2)光学経路
光源からの光は、生体の創傷部に直接又は間接に照射され得る。光源から創傷部までの光学経路は、特に限定されないが、例えば、燃焼光源や白熱電球、放電ランプ、ケミカルランプ、エレクトロ・ルミネッセンスやナノシリコンからの光は、創傷部に直接照射することができる。また、光源をエレクトロ・ルミネッセンスとする場合は、LED等を創傷部に当接させて配置し、直接光照射を行うことができる。特に光源を有機ELとする場合には、有機ELを創傷部に巻装して直接光照射を行い得る。
また、これらの光源及びレーザからの光は、従来公知の装置と同様の、波長フィルタやミラー、レンズ等からなる光学経路により創傷部に導光され、間接的に照射されてもよい。
【0021】
(3)波長・強度
光の波長帯域は、特に限定されないが、10〜1000nm、好ましくは360〜830nm、さらに好ましくは430〜630nmとされる。後述する実施例では、特に470〜630nmの波長帯域で顕著な治癒促進効果が確認されている。
【0022】
上記波長帯域の光は、光源から発せられる光を各種の波長フィルタや分光器、回折器等を通過させて取り出すことができる。あるいは、上記波長帯域を発光波長域とする光源を用いてもよい。なお、照射される光は、1の波長域又は異なる2以上の波長域の光であってよい。
【0023】
光の強度は、特に限定されないが、1〜500mW/cmであることが好ましく、1〜250mW/cmであることがより好ましい。
【0024】
(4)照射時間・頻度
光の照射時間は、特に制限されないが、1回の照射が10〜7200秒程度、好ましくは30〜7200秒程度、さらに好ましくは300〜3600秒とされる。また、必要に応じて、2〜24時間の範囲で照射してもよい。
30秒以上であれば、創傷治癒に十分な光を照射できる。600秒以内であれば、短時間での処置が可能であるため、患者負担が少ない。照射回数は特に制限されないが、医療従事者および患者の創傷管理の観点から、1日1〜2回程度の照射が好ましい。
【0025】
また、照射する光は、連続光であってもパルス光であってもよい。パルス光の場合は、点灯と消灯の時間の割合を適宜調整し、パルススピードなどを所定のパターンにして照射してもよい。後述する実施例では、連続照射に比してパルス照射でより高い治癒が促進される傾向が確認されている。
【0026】
光の照射は、光のエネルギー(強度と照射時間の積)が1mJ/cm〜10J/cm、好ましくは1mJ/cm〜2J/cm、さらに好ましくは10〜500mJ/cmとなるように行う。光の強度及び照射時間、すなわちエネルギーを、上記数値範囲に設定することより、創傷部において十分な治癒促進効果を得ることができる。
【0027】
上記の照射する光の波長帯域、強度、照射時間、頻度等は、創傷の種類、治癒段階、部位などに応じて、適宜調整することができる。また、光源等に所定の照射パターンをプログラムしておくことで、効率的に創傷管理を行うことができる。
【0028】
2.第二の治癒促進手段
本発明に係る光創傷治療装置は、上述の第一の治癒促進手段に加えて、創傷部に配される第二の治癒促進手段を備える。本発明に係る光創傷治療装置は、以下に説明する第二の治癒促進手段を、1あるいは2種以上具備するものとできる。なお、本発明に係る光創傷治療装置は、第一の治癒促進手段単独でも効果が得られるが、第二の治癒促進手段と併用することで一層高い効果を得られる。
【0029】
(1)被覆材
第二の治癒促進手段は、創傷部を覆う被覆材とすることができる。
【0030】
(i)陰圧閉鎖
創傷部を覆う被覆材としては、創傷部を気密に内包し、内部が負圧源に接続され得るものを採用できる。この被覆材は、創傷部を気密に内包した状態で、接続された負圧源によって内部を陰圧とすることによって、創傷からの血液や滲出液等の排液を吸引により除去したり、接続された液体供給手段によって内部に洗浄液を供給することによって創傷を洗浄したりするものである。以下、この被覆材を、「陰圧閉鎖カバー」と称するものとする。
【0031】
図1に、陰圧閉鎖カバーの好適な実施形態を示す。図中、符号1で示される陰圧閉鎖カバーは、創傷部Tを気密に内包し、チューブ2を介して負圧源(不図示)に接続される吸引用連通口11と、チューブ3を介して液体供給手段(不図示)に接続される供給用連通口12と、を備えている。図中、符号13は創傷が存在する生体部位(ここでは手)が挿入される患部挿入口、符号14は処置用開口を示す。患部挿入口13及び処置用開口14は、気密に封止可能に構成され、開封と封止を繰り返し可能に構成されることが好ましい。なお、図中、符号15は、詳しく後述する照射窓を示す。
【0032】
陰圧閉鎖カバー1の形状は、創傷部Tを気密に内包し得るものであれば特に限定されず、包袋状、スリーブ状、あるいは特開2009-273669に開示されるようなシート状のものとすることができる。
【0033】
本発明において、第一の治癒促進手段は陰圧閉鎖カバー1の内部(創傷部T上)又は外部のいずれに設けてもよいが、外部に設けることが好ましい。外部に第一の治癒促進手段を設ける場合には、陰圧閉鎖カバー1の材料は、創傷部Tを気密に内包した状態で、創傷部Tに第一の治癒促進手段から照射される光が到達し得るように、光透過性を備えるものが用いられる。あるいは、陰圧閉鎖カバー1の一部を、第一の治癒促進手段から照射される光に対して光透過性を備える材料で形成し、照射窓15として構成してもよい。光透過性は、例えば、波長600nmの光に対する透過率が70%程度以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。
【0034】
照射窓15の周囲には蛇腹状構造を設け、第一の治癒促進手段から照射される光に対して照射窓15の表面が常に垂直となるように、照射窓15の向きを調整可能とすることが好ましい。
【0035】
また、陰圧閉鎖カバー1(あるいは照射窓15)の材料は、陰圧を負荷した際の変形を防止するため、変形をもたらす外力に抗するための剛性(コシ)を備えるものが用いられる。陰圧を負荷した際、陰圧閉鎖カバー1が変形すると、しわが発生し、しわによって第一の治癒促進手段から照射される光が散乱し、所望の光が創傷部に到達し難くなるためである。陰圧閉鎖カバー1(あるいは照射窓15)の剛性は、複数のフィルム材料を積層してカバーを形成したり、フィルムの種類や厚みを調整したりすることによって高めることができる。なお、照射窓15は、陰圧閉鎖カバー1の他の部分と比べて、剛性及び透明性を高くすることが好ましい。
【0036】
陰圧閉鎖カバー1の材料は、具体的には、例えば、ポリエチレン、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン・エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン・メチルアクリレート共重合体(EMA)、エチレン・メチルメタアクリレート共重合体(EMMA)、エチレン・メタクリル酸重合体(EMAA)、エチレン・アクリル酸共重合体(EAA)等のオレフィン共重合体;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン;ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル;ポリビニルアルコール;ポリウレタン;等を用いることが好ましい。これらの材料は、単独で使用してもよく、二種類以上を混合して使用してもよい。
【0037】
陰圧閉鎖カバー1の材料は、特にポリオレフィンもしくはその塩素化物、オレフィン共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリウレタン、ポリエステル又はポリアミドが好ましい。
【0038】
上述の通り、陰圧閉鎖カバー1の材料には、陰圧を負荷した際の変形を防止し得る剛性を有するものが用いられるが、剛性が過度である場合には、陰圧負荷時に陰圧閉鎖カバー1が創傷部Tを圧迫して痛みを生じさせるおそれがある。これを防止するため、陰圧閉鎖カバー1のうち、照射窓15のみをプラスチックやガラスなどの光透過性を有する剛性が高い材料により形成し、他を剛性が低く、追従性のある材料により形成してもよい。陰圧閉鎖カバー1の生体表面への追従性を高めることで、陰圧閉鎖カバー1と創傷部Tとの間に空気層が形成され難くして、第一の治癒促進手段から照射される光の屈折を防止することもできる。なお、空気層は、洗浄液による創傷部Tの洗浄中に光の照射を行う場合に特に問題となる。
【0039】
さらに、照射窓15をプラスチックやガラスなどの可撓性の低いものとすることで、陰圧負荷時においても、照射窓15の表面を第一の治癒促進手段から照射される光に対して平坦にし、光の散乱を防止して十分な量の光を創傷部Tに透過させることができる。また、このように構成することで、陰圧負荷時に、照射窓15の周囲から陰圧閉鎖カバー1が潰れていくため、照射窓15の表面を第一の治癒促進手段から照射される光に対して最後まで平坦に保つことができる。
【0040】
陰圧閉鎖カバー1には、図2に示すように、粘着剤を介してワイヤーや硬性プラスチックで形成したフレーム状部材16を着脱可能に貼り付けてもよい。フレーム状部材16は、陰圧閉鎖カバー1の外側に貼付しても、内側(創傷と接する側)に貼付してもよい。フレーム状部材16を配することで、陰圧閉鎖カバー1上にしわが発生しにくい照射窓15を構成することができる。また、陰圧負荷時において、陰圧閉鎖カバー1のうち、フレーム状部材16同士の間に位置する部分のしわが、身体側に吸引されることで伸び、第一の治癒促進手段から照射される光の散乱を防ぐことができる。なお、フレーム状部材16の配設位置及び配設数は、図2に示す例に限定されない。
【0041】
陰圧閉鎖カバー1の内部表面は、撥水加工を施すことが望ましい。これにより、内部に洗浄液を供給して創傷を洗浄する際、洗浄後にカバー内に水滴が残りにくくすることができ、第一の治癒促進手段から照射される光の水滴による散乱を防止できる。また、滲出液等による光の散乱もあわせて防止することができる。
【0042】
第一の治癒促進手段から創傷部Tへの光の照射は、陰圧閉鎖カバー1による陰圧を負荷している時、又は陰圧を解除した時の双方において行い得る。陰圧閉鎖カバー1による陰圧の負荷は、0.01〜300mmHgの範囲で行うことが好ましく、10〜125mmHgの範囲で行うことがより好ましい。
なお、創傷部Tへの陰圧の負荷は、上記範囲の陰圧を負荷できる負圧源を用いて行うことが好ましい。例えば、陰圧閉鎖カバー1の内部と負圧源とをチューブ2等の接続手段を介して気密に接続し、負圧源を作動させることで適用することができる。負圧源としては、従来公知の電動式又は手動式のポンプを採用できる。
【0043】
陰圧閉鎖カバー1内部への洗浄液の供給は、チューブ3を介して供給用連通口12に接続された液体供給手段により行うことができる。また、供給された洗浄液の排出は、吸引用連通口11あるいは別に設けられた排出口から行う。
液体供給手段としては、従来公知の電動式又は手動式のポンプを採用できる。また、液体供給手段には、噴霧器や、重力を利用した自然落下式の供給器を用いることも可能である。
【0044】
洗浄液としては、特に限定されず、水、生理食塩水、酵素、洗浄剤、生理活性物質、成長因子などの各種薬剤を含有した溶液等が用いられる。
【0045】
第一の治癒促進手段から創傷部Tへの光の照射は、創傷部Tの洗浄中及びその前後において行い得るが、光の照射を創傷部Tの洗浄中に行う場合、洗浄液には、光吸収性のないものを用いる。また、この場合、洗浄液には、光によって劣化する物質を含まないものを用いる。
【0046】
本発明にかかる光創傷治療装置において、陰圧閉鎖カバー1と創傷部Tとの間には、光透過性を有するパッドを設けることが好ましい。なお、パッドは吸水性を備えていることがさらに好ましい。
【0047】
ここで、パッドとしては、透明性又は半透明性を有する樹脂で成形され、ヒダや凹凸又は開口によって液体通路を備えたもの(例えば、ペンローズドレーン状のものなど)が挙げられる。パッドの材料としては、陰圧閉鎖カバー1に同様の材料を用いることができる。また、光が透過する程度の開口(網目)を備えた編布、織布、不織布等の繊維材料、シリコーン等の樹脂製材料、フォーム材料などを用いることもできる、
【0048】
さらに、パッドが陰圧閉鎖カバー1に比べて高い剛性を有していてもよい。このような場合であっても、陰圧負荷時に皺の発生を防止できる。
【0049】
創傷に光を照射する際、創傷部に創傷からの血液、滲出液、壊死組織等が存在したり、創傷部と被覆材との間にスペース等が存在したりすると、血液や滲出液による光の吸収・不透過や被覆材に形成されるしわ等による光散乱の影響で、所望の光が創傷部に届かず、光治療が効果的に行えない場合がある。
しかし、本発明に係る光創傷治療装置は、陰圧閉鎖カバー1により創傷部Tを陰圧下に保って、創傷からの血液や滲出液等の排液や陰圧閉鎖カバー1と創傷部Tとの間に形成される空気層を吸引により除去し、第一の治癒促進手段からの光を照射することができる。これにより、血液や滲出液による光の吸収・不透過や被覆材に形成されるしわ等による光散乱を防止して、創傷に光を効率良く照射し、治癒を一層促進することができる。さらに、吸引によって創傷部Tを強制的に湿潤環境にすることができるので、光照射による処置の際に、創傷の乾燥を防ぐことができる。加えて、陰圧の負荷によって創傷に集まった細胞に対しても光を効率良く照射できるので、治癒を一層促進することができるものと考えられる。
【0050】
また、本発明に係る光創傷治療装置は、創傷部Tを陰圧下に保った状態で、陰圧閉鎖カバー1に供給された洗浄液によって創傷を洗浄し、第一の治癒促進手段からの光を照射することができる。これにより、壊死組織、細菌、排液等の創傷治癒の遅延因子を積極的に除去し、創傷及び細胞に光を効率良く照射し、治癒を一層促進することができる。さらに、洗浄によって創傷部Tを常に湿潤環境にすることができるので、光照射による処置の際に、創傷の乾燥を防ぐことができる。
【0051】
(ii)ゲル・フィルム
創傷部を覆う被覆材としては、創傷部に密接される布状、ゲル状あるいはフィルム状のものを採用することもできる。この被覆材は、外部からの雑菌の侵入を防ぐとともに、創傷部を湿潤環境に保つものである。以下、この被覆材を、単に「ゲル」あるいは「フィルム」とも称するものとする。
【0052】
被覆材には、編布、織布、不織布等の繊維材料、フォーム材料、ハイドロコロイド材料、フィルム材料、ハイドロゲル材料などが用いられる。このうち、フィルム材料及びハイドロコロイド材料が好ましい。また、吸水性と透明性の観点から、ハイドロゲル材料が特に好ましい。
【0053】
フィルムの材料としては、例えば、ポリウレタン;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル;ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド;ポリエチレン、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン・エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン・メチルアクリレート共重合体(EMA)、エチレン・メチルメタクリレート共重合体(EMMA)、エチレン・メタクリル酸重合体(EMAA)、エチレン・アクリル酸共重合体(EAA)等のオレフィン系共重合体;ポリビニルアルコール;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン;シリコーン;等を挙げることができる。
より好ましくは、水蒸気透過性が良好で、不感蒸散等を妨げることが少ないポリウレタン、ポリエステル、ポリアミド等が挙げられる。なお、これらの材料は、単独で使用してもよく、二種類以上を混合して使用してもよい。
【0054】
ハイドロゲルの素材としては、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース及びその塩化合物、デンプン、カラギーナン、アルギン酸およびその塩化合物、ポリアクリル酸およびその塩化合物、ポリグルタミン酸およびその塩化合物等が挙げられる。
より好ましくは、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース及びその塩化合物が挙げられる。なお、これらの素材は、目的に応じて組み合わせて用いてもよい。
【0055】
ゲル・フィルムの材料は、創傷部に密接された状態で、第一の治癒促進手段から照射される光を創傷部に到達させ得るよう、光透過性を備えるものが用いられる。さらに、創傷からの血液や滲出液等を吸収しても、透明性を維持する材料が特に好ましい。光透過性は、例えば、波長600nmの光に対する透過率が70%程度以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。また、ゲル・フィルムは、第一の治癒促進手段から照射される光の散乱を防止するため、平滑表面を備えていることが望ましい。
【0056】
ゲル・フィルムには、抗菌剤を配合してもよい。これにより、創傷周囲の菌を排除し、創傷の治癒促進をはかることができる。
【0057】
本発明に係る光創傷治療装置は、ゲル・フィルム等により創傷部への雑菌の侵入を防ぐとともに、創傷を湿潤環境に保ちつつ、第一の治癒促進手段からの光を照射することができる。これにより、光照射による処置の際に、創傷の乾燥を防ぎ、創傷の治癒を一層促進することができる。
【0058】
(2)電気刺激
第二の治癒促進手段は、創傷部に電気刺激を付与する導電性部材としてもよい。導電性部材は、創傷部あるいはその近傍の生体表面に配設され、電源に接続された電極とできる。電極にはゲルを張って、電極を生体表面に貼り付け可能とすることが好ましい。
【0059】
また、導電性部材として光電池を創傷部あるいはその近傍の生体表面に配設し、第一の治癒促進手段から創傷部に光を照射するとともに、この光を光電池により電気刺激に変換してもよい。この場合、電極と電源を設ける場合に比べて、装置を小型化できる。
【0060】
創傷部に電気刺激を付与するため導電性部材に供給される電流値は、細胞の刺激閾値及び生体への安全性の観点から、5μA〜5mAであることが好ましく、50〜700μAであることがより好ましい。
【0061】
電気刺激の電流値は、不定的及び/又は断続的に変化させることが望ましい。具体的には、細胞の損傷電流や活動電位から想定し、数μA〜数十mA程度の電流のばらつきの幅があることが望ましい。電流のばらつきの幅は、例えば、表層に近い創傷の場合は10μA以上、深部の創傷の場合は5mA以上が有効と考えられる。また、一定値の電流であっても、オンとオフを繰り返し、断続的に通電するようにしてもよい。
なお、パルス変圧器、インバーター等を組み込み、矩形波、三角波、正弦波等のパルス波を形成することで、このような電流のバラツキと同様の電気刺激の作用・効果を得てもよい。
【0062】
電気刺激の電圧値は、創傷の深さによって適宜設定される。微小電流神経刺激(MENS)やイオン導入の場合、電圧値は0.1〜10V、機能的電気刺激(FES)や電気的筋肉刺激(EMS)の場合、電圧値は1V〜50Vが望ましい。電圧値についても、電流値と同様に、不定的及び/又は断続的に変化させることが望ましい。
【0063】
電気刺激の周波数は、細胞膜等の分極の影響を考慮して、10Hz〜50,000Hzであることが好ましく、10Hz〜20,000Hzであることがより好ましい。この周波数域の上限を超えると、発熱や感知低減の可能性がある。周波数についても、電流値と同様に、不定的及び/又は断続的に変化させることが望ましい。また、電気刺激による痛みの発生を防止するため、周波数は、連続パルスが発生する期間と発生しない期間を設けて制御することが望ましい。
【0064】
導電性部材から創傷部に至適な電気刺激を付与するためには、導電性部材の配設部位から創傷までの距離に応じて周波数と電圧を決定し、創傷部組織の反応性・分極特性に応じて周波数を決定する。
【0065】
本発明に係る光創傷治療装置は、導電性部材により創傷部に電気刺激を付与し、第一の治癒促進手段からの光の照射による細胞活性化の信号を増幅することができる。これにより、RNA, DNAの合成や、細胞の分化・増殖を促進して、創傷の治癒を一層促進することができる。
【0066】
(3)電磁刺激・磁気刺激・熱刺激、薬剤、酸素
本発明に係る光創傷治療装置が備える第二の治癒促進手段としては、上記の被覆材及び導電性部材に加えて、以下の手段を採用してもよい。
【0067】
(i)電磁刺激・磁気刺激・熱刺激
第一の治癒促進手段からの創傷部への光の照射時あるいはその前後において、創傷部に電磁刺激・音波刺激・熱刺激を付与する手段。
【0068】
この第二の治癒促進手段によれば、電磁刺激・音波刺激・熱刺激により、創傷部の血流を刺激・改善し、第一の治癒促進手段による治癒促進効果を増強することができる。なお、音波刺激には、薬剤を含む薬液を超音波によってエアロゾルミストとし、創傷部に吹きかけることも含まれる。
【0069】
(ii)薬剤
第一の治癒促進手段からの創傷部への光の照射前において、創傷部に塗布されるか、あるいは上記の被覆材に含有される薬剤。
【0070】
薬剤としては、例えば、光励起物質や蓄光物質、抗酸化物質などが挙げられる。
【0071】
光励起物質としては、例えば、酸化チタンを塗布あるいは被覆材に含有させて、光照射によって発生する酸素を創傷部に供給する。創傷部では細胞の新生のために酸素が消費され、酸素が不足しがちである。そのため、酸素を外部から供給し、酸素の不足を補うことで、治癒を促進することができる。なお、被覆材中の酸化チタンの配合量は、被覆材の光透過性などの観点から適宜調整する。
【0072】
蓄光物質としては、高純度のアルミナ、炭酸ストロンチウム、ユウロピウム、ジスプロシウムなどの成分を含んだストロンチウムアルミネートが挙げられる。蓄光物質を塗布あるいは被覆材に含有させることで、光照射完了後にも励起された蓄光物質が発光するため、創傷部に光を照射することができる。これにより、第一の治癒促進手段による光照射を行っていない間にも、持続的に創傷部に光が照射されることになり、例えば就寝時などにおいても創傷治癒を促進することができる。
【0073】
抗酸化物質としては、天然抗酸化物質と合成抗酸化物質とがある。このうち、天然抗酸化物質には脂溶性と水溶性のものが存在する。脂溶性の抗酸化物質としては、ビタミンE、カロチノイド(βカロテン、カンタキサンチンなど)、レチノイド、ユビキノン(コエンザイムQ)、フラボノイド(モリン、カテキン、ルチンなど)などが挙げられる。水溶性の抗酸化物質としては、ビタミンC、尿酸、ビリルビン、アルブミンなどが挙げられる。合成抗酸化物質としては、エブセレン(脳保護薬)、アロプリノール(通風治療薬)、プロブコール(高脂質血症治療薬)、カプトプリル(降圧薬)、ニフェジピン、ニカルジピンなどのCa拮抗薬(降圧薬)などが挙げられる。
【0074】
創傷部に抗酸化物質を塗布したり、被覆材に抗酸化物質を含有させたりすることによって、創傷部における活性酸素濃度を下げ、細胞の生産及び/又は活性化を図るとともに、過度の細胞死を防ぐことができる。これにより、創傷治癒を促進することができる。
【0075】
(iii)酸素
第一の治癒促進手段からの創傷部への光の照射時あるいはその前後において、創傷部に酸素を供給する手段。
【0076】
上述のように、創傷部では細胞の新生のために酸素が消費され、酸素が不足しがちであるため、この第二の治癒促進手段によって酸素を外部から供給することで、酸素の不足を補い、治癒を促進することができる。なお、供給する酸素の濃度は、特に限定されないが、21%〜100%の範囲が好ましい。
【0077】
また、酸素は、創傷部に対して直接供給するのではなく、本発明に係る光創傷治療装置の使用者(患者)に高濃度酸素を吸引させることによって循環血を介して供給してもよい。高濃度酸素は血液中の溶解型酸素の量を増加させ、溶解型酸素は毛細血管を通り抜けることができるため、生体の隅々まで酸素を供給することができる。なお、吸引する酸素の濃度は、特に限定されないが、肺胞内の酸素濃度が60%以下となるようにすることが好ましい。
【0078】
3.光制御手段
本発明に係る光創傷治療装置は、上述の第一の治癒促進手段から照射される光の特性を制御する光制御部を備えていてもよい。光創傷治療装置は、さらに創傷部に関する情報を検出する検出部と、検出部からの出力信号を記憶する記憶部と、該出力信号に基づいて創傷部の状態を判定する解析部とを備えていることが好ましい。この場合、光制御部は、解析部からの信号出力を受け、第一の治癒促進手段から照射される光の特性を制御するように構成できる。
【0079】
検出部としては、創傷部に関する情報として創傷部の画像を取得するカメラや、同情報として創傷部の温度を測定するサーモグラフィー、同情報として湿度を検出する水分蒸散量測定装置(TEWL計)、同情報として臭いを検出する臭気判定装置などが挙げられる。
検出部により検出された創傷部の画像、温度、湿度あるいは臭いに関する情報は、電気信号に変換され、記憶部に出力保持され、解析部にも読み出される。記憶部および解析部は、CPU、ハードディスクおよびメモリ等を備える汎用のコンピューターに次に説明するような創傷部の状態判定と光の特性制御とを行うためのプログラムを搭載した装置によって構成され得る。
【0080】
すなわち、解析部は、検出部により検出された創傷部の画像、温度、湿度あるいは臭いに関する情報と、異なる時点において取得された該情報あるいは予め記憶された基準情報と、を比較して、創傷の面積(大きさ)・深さ・色、創傷からの血液や滲出液の量、浸出液の成分やpH、肉芽細胞の量、肉芽形成の量、炎症/感染の有無などの状態を判定する。そして、解析部は、判定結果に応じて、第一の治癒促進手段から創傷部に照射される光の波長や強度、照射時間、頻度などの特性を制御する。
【0081】
解析部による判定および制御の具体例としては、例えば、創傷部の初期状態の画像と現在の画像を比べて、現在の創傷の面積がどれぐらい縮小しているのかを解析する。解析の結果、創傷の面積の縮小率が50%未満である場合には、590nmの波長で所定時間・所定回数のパルス照射を行う。縮小率が50%以上である場合には、縮小率に合わせて、他の波長域の光、強度、照射時間、頻度などで照射するようにする。
【0082】
本発明に係る光創傷治療装置は、上記の光制御部を設ける場合であっても、必要に応じて人が創傷の状態を判断し、光の特性を制御することも当然に可能である。例えば、人が創傷部に関する情報を得て、キーボードやマウス等のユーザインターフェースから該情報を装置に入力し、入力された情報を基づいて光制御部が第一の治癒促進手段から照射される光の特性を制御するように構成できる。
【0083】
また、本発明に係る光創傷治療装置は、治療回ごとに照射した光のエネルギー量や時間などを積算して記憶できるように構成してもよい。この場合、累積光のエネルギー量や累積時間が予め設定された総エネルギー量や総時間などに達した場合には、創傷の面積の縮小率が50%以上になったと自動的に装置が判定し、他の波長域などの選択を使用者に許容するようにプログラムすることができる。
【実施例】
【0084】
<実施例1>
1.ラットにおける全層皮膚欠損創の治癒促進効果の検討
本実施例では、健常ラットおよび免疫抑制モデルラットの背側部に作成した全層皮膚欠損創に対し、光透過性を備える被覆材により第二の治癒促進手段を構成した本発明にかかる光創傷治療装置を用いて治癒の促進を図った。
【0085】
(1)動物
健常ラットには、Wister系ラット、8週齢、雌を用いた。免疫抑制モデルラットには、抗悪性腫瘍剤シクロフォスファミドを投与したWister系ラット、8週齢、雌を用いた。シクロフォスファミドは、創作成の前日に生理食塩水(大塚製薬株式会社製)に溶解した後、150 mg / kg body weightの濃度で尾静脈から注射した。
(2)創傷の作成
ラットの背側部に、外科メスを用いて直径25mmの円形の全層皮膚欠損創を作成した。欠損創は、各ラットの背側部に2つずつ作成した。なお、ここで全層皮膚欠損創とは、表皮、真皮および皮下組織が欠損した創をいう。
(3)光照射
第一の治癒促進手段の光源として、波長590nm、630nmの市販のLED(LAJ4C、岩崎電気株式会社製)を用いた。光照射は、連続照射あるいはパルス照射(250ms on, 100ms off)にて行い、下記表1に示す条件で一日一回行った。
(4)被覆材
光透過性を備える被覆材として、市販の創傷閉鎖ドレッシング(テガダーム、住友スリーエム株式会社)を用いた。創傷部を被覆材で覆い、光照射を行った。
【0086】
【表1】

【0087】
各光照射条件につき、3匹の動物を用いて創傷の治癒の経過を記録した結果を図3および図4に示す。図3は健常ラットの結果を示し、図4は免疫抑制モデルラットの結果を示す。また、表2および表3に、各光照射条件につき、創傷の大きさが50%にまで縮小するのに要した日数を示す。表2は健常ラットの結果を示し、表3は免疫抑制モデルラットの結果を示す。
【0088】
【表2】

【0089】
【表3】

【0090】
健常ラットでは、創傷部を被覆材で覆ったのみで光照射を行わなかったコンロトール群に比して光照射群で治癒の促進が確認された。治癒の促進効果は、波長630nmの光照射に比して590nmの光照射でより高かった。また、連続照射に比してパルス照射でより高い治癒の促進効果が得られた。特に波長590nmのパルス照射では、創傷の大きさが50%にまで縮小するのに要した日数が7.9日(条件3)あるいは10.1日(条件4)であり、コントロール群(15.4日)に比してほぼ半減しており、高い効果が確認された。免疫抑制モデルラットにおいても、コンロトール群に比して光照射群で治癒の促進が確認された
【0091】
<実施例2>
2.マウスにおける全層皮膚欠損創の治癒促進効果の検討
本実施例では、健常マウスおよび糖尿病モデルマウスの背側部に作成した全層皮膚欠損創に対し、光透過性を備える被覆材により第二の治癒促進手段を構成した本発明にかかる光創傷治療装置を用いて治癒の促進を図った。
【0092】
(1)動物
健常マウスには、db/+mマウス(日本クレア株式会社)、10週齢、雌を用いた。糖尿病モデルマウスには、db/dbマウス(日本クレア株式会社)、10週齢、雌を用いた。
(2)創傷の作成
実施例1と同様の手法により創傷を作成した。
(3)光照射
第一の治癒促進手段の光源として、波長590nmの市販のLED(LAJ4C、岩崎電気株式会社製)を用いた。光照射は、パルス照射(250ms on, 100ms off)、強度6.3W/m2、時間1.8min、エネルギー0.05J/cmの条件(表1の条件3参照)で一日一回行った。
(4)被覆材
実施例1と同様の被覆材を用いた。
【0093】
7匹の動物を用いて創傷の治癒の経過を記録した結果を図5および図6に示す。図5は健常マウスの結果を示し、図6は糖尿病モデルマウスの結果を示す。
【0094】
健常マウスおよび糖尿病モデルマウスにおいて、コンロトール群に比して光照射群で治癒の促進が確認された。健常マウスでは、創傷の大きさが50%にまで縮小するのに要した日数は、コントロール群では10.0日であったのに対して光照射群では7.6日(75%)であった。また、糖尿病モデルマウスでの同日数は、コントロール群では15.7日であったのに対して光照射群では10.0日(64%)であった。治癒の促進効果は、健常マウスに比して糖尿病モデルマウスでより顕著であった。なお、括弧書内の数値はコントロール比である。
【0095】
<実施例3>
1.創傷部における血管新生促進効果の検討
本実施例では、健常マウスの背側部に作成した全層皮膚欠損創に対し、光透過性を備える被覆材により第二の治癒促進手段を構成した本発明にかかる光創傷治療装置を用いて光照射を行い、治癒および血管新生の促進効果を検討した。
【0096】
(1)動物
健常マウスには、db/+mマウス(日本クレア株式会社)、10週齢、雌を用いた。
(2)創傷の作成
実施例1と同様の手法により創傷を作成した。
(3)光照射
第一の治癒促進手段の光源として、波長470、590、620、785、875nmの市販のLED(LAP型可視光LEDランプ、岩崎電気株式会社製)を用いた。光照射は、連続照射にて一日一回行った。
(4)被覆材
実施例1と同様の被覆材を用いた。
(5)新生血管の観察
創傷を作成し、治療を開始して17日目に、動物を実験殺した。創傷部の皮膚を採材し、定法により固定、包埋、染色を行い、創傷部に新生した血管を病理組織学的に観察した。
【0097】
各波長条件について創傷の治癒の経過を記録した結果を図7に示す。また、図8に、各波長条件について創傷部で観察された新生血管の数を示す。
【0098】
全ての波長条件において、コンロトール群に比して光照射群で治癒の促進が確認され、特に波長470、590nmの条件において、創傷の大きさが50%に縮小するまでに要する日数の顕著な短縮が確認された。これらの波長条件では、他の波長条件に比して創傷部で観察された新生血管が多く、血管新生の促進が創傷の治癒を促していることが推察された。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明に係る光創傷治療装置は、熱傷、褥瘡、糖尿病性潰瘍、静脈瘤性潰瘍、術創、及びその他の損傷の治癒促進のため好適に用いられ得る。
【符号の説明】
【0100】
1 陰圧閉鎖カバー
11 吸引用連通口
12 供給用連通口
13 患部挿入口
14 処置用開口
15 照射窓
16 フレーム状部材
2,3 チューブ
T 創傷部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定波長帯域の光を生体の対象部位に照射する第一の治癒促進手段と、
前記対象部位に配される第二の治癒促進手段と、を備える光創傷治療装置。
【請求項2】
前記第二の治癒促進手段は、前記対象部位を覆い、前記第一の治癒促進手段から照射される光に対して透過性を備える被覆材である請求項1記載の光創傷治療装置。
【請求項3】
前記被覆材が、前記対象部位を気密に内包し、内部が負圧源に接続され得る形状に形成された請求項2記載の光創傷治療装置。
【請求項4】
前記被覆材が、前記対象部位に密接されるゲル状あるいはフィルム状に形成された請求項2記載の光創傷治療装置。
【請求項5】
430〜630nmの光を生体の対象部位に照射する手段を備える光創傷治療装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−161222(P2011−161222A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−5975(P2011−5975)
【出願日】平成23年1月14日(2011.1.14)
【出願人】(000151380)アルケア株式会社 (88)
【Fターム(参考)】