光力学的療法のためのヒト血清アルブミンをベースにしたナノ粒子キャリアシステム
保存において安定な組成物と、疎水性の光増感剤、ヒト血清アルブミン(HSA)および安定化剤を含む光力学的療法のためのナノ粒子製剤系薬剤の製造方法とを提供する。これらのナノ粒子製剤は、非経口投与に関して光増感剤(PS)の治療上の有効量を提供する。特にテトラピロール誘導体は光増感剤として用いられ、その有効性と安全性とが上記ナノ粒子製剤によって高められる。また、無菌条件下でのHSA系ナノ粒子の調製方法が提供される。本発明に係る好ましい1つの実施の形態では、テモポルフィン、疎水性の光増感剤が非経口投与のためのナノ粒子として製剤化される。当該製剤は、過形成や腫瘍性疾患、炎症性疾患を治療するため、さらに具体的には、腫瘍細胞を標的とするために有用である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疎水性の光増感剤の医薬製剤に関する。特に、当該発明は、疎水性の光増感剤を含むナノ粒子製剤、それらの調剤方法、および不要な細胞または組織の破壊のための光力学的療法におけるそれらの使用に関連し、さらに具体的には、静脈投与を用いた腫瘍の光力学的療法のためのものに関する。
【背景技術】
【0002】
光力学的療法(PDT)は、最も有望な新しい技術の1つであり、様々な医療用途で使用されるために現在検討されている、具体的には腫瘍を破壊するための処置としてよく認識されている。光力学的療法は、所望する医学的効果を達成するよう光および光増感剤(染料)を使用する。多数の天然の染料および合成された染料が、光力学的療法のための見込みのある光増感剤として評価されてきた。特に、最も広く研究されている光増感剤の種類は、大環状テトラピロール化合物である。これらの中でも特にポルフィリンおよびクロリンは、PDTにおける効果について調べられた。
【0003】
ポルフィリンは、ピロールと結合している1つの炭素原子の架橋を有する大環状化合物であって、特徴的なテトラピロール環構造を形成する。ポルフィリン誘導体には、多くの異なる種類があり、ジヒドロピロール基を有するものが含まれる。クロリンおよびバクテリオクロリンはポルフィリン誘導体であり、それぞれ1つのジヒドロピロール基または2つのジヒドロピロール基を含んでいる。
【0004】
クロリンは、電磁スペクトルの赤外および近赤外領域において、その吸収スペクトルを有する。PDTが腫瘍療法に適用される場合、長波長の光は深い組織の中へ入り込むので、より広く深い腫瘍の治療が可能となる。クロリンは、天然物と全合成のいずれからでも得ることができる。
【0005】
天然化合物由来のクロリンは、クロロフィルまたはバクテリオクロロフィルの誘導体として得られる。全合成によるクロリンおよびバクテリオクロリンの調製方法では、一般的にポリフィリンが使用され、その後クロリンまたはバクテリオクロリン系に変換される。この変換工程は、例えば、in situで生じたジイミンの還元によって、または、それぞれジヒドロもしくはジヒドロキシ置換クロリン、あるいはバクテリオクロリンとなるジヒドロキシル化によって行われる。
【0006】
Raymond Bonnettらは、特許文献1においてポルフィリンに相当するものの還元による光増感剤の調製方法を開示している。テモポルフィン(化学名:(m‐テトラヒドロキシフェニル‐クロリン))の全合成が開示されている。テモポルフィン(Foscan(登録商標))は、頭部および首の癌のPDT治療における光増感剤としてヨーロッパで使用され成功している。同様に、David Dolphinらによる特許文献2およびJill Maclpineらによる特許文献3においても、改良された特性を有する新規な光増感剤を調製する還元方法が示されている。
【0007】
ポルフィリンは、PDTのための光増感剤として、またはピロールおよびアルデヒドを縮合反応させることによるクロリンの合成のための前駆体として、いずれでも直接的に使用される。この縮合の適切な方法は、当技術分野において古くから知られている。
【0008】
様々な疾患の治療のためのPDTの適用は、光増感剤(PS)の固有の特性によって限定される。これらには、高い費用、ホスト生体内での広範囲の残留、皮膚におけるかなりの光毒性、血管内投与での実用性を減少させ、血栓塞栓性障害を惹起する生理溶液での低い溶解度、および標的に対する有効性の低下が含まれる。これらの不利な点、特にこれまでの当該技術分野におけるPSに関しては、かなりの高濃度の光増感剤の投与につながり、これは正常組織における光増感剤の蓄積の可能性、およびこれに伴う正常部位への影響の危険性を大いに増加させる。
【0009】
費用の減少および付随する毒性の減少について努力されてきたが、これらは本発明の開発には関連しない。生理溶液における溶解度、皮膚における光毒性の影響、ホスト生体内での残留、および標的に対する狭い範囲の有効性についての研究が本発明の領域であって、本発明は、様々な新生組織形成、過形成および関連する疾患を治療するためのPDTの使用における、新規かつ自明でない改良されたものを提供する。
【0010】
腫瘍の光力学的療法において好適に使用される物質のほとんどは、脂溶性物質であり、これは適切な方法で形成されるうえで特有の低い水溶性が必要とされるためである。このため、テトラピロールをベースにする光増感剤の新規な製剤には、体内におけるこれらの取り込みとバイオアベイラビリティの向上が特に求められている。
【0011】
ナノ粒子は脂溶性の医薬物質のためのキャリアとして集中的に研究されている(非特許文献1および2参照)。ヒト血清アルブミン(HSA)をベースにした抗癌剤パクリタキセルのナノ粒子製剤は、欧州および米国において規制当局によって認可された。
【0012】
特許文献4において、Anand Burmanらは、共重合体ミセルのナノ粒子内に封入されたパクリタキセル抗癌剤、ならびにその誘導体および類似体の医薬製剤の調製方法について開示している。当該ナノ粒子は、重合法によって形成されているが、重合反応をベースにするほとんどの方法は、大量の有機溶媒または界面活性剤のような安全ではない安定剤の使用が必要であり、毒性の副作用をもたらす。
【0013】
先行技術では、高分子、他の治療因子および生物医学用途に用いられる診断薬のカプセル封入/取り込み/吸着にナノ粒子は用いられる。ナノ粒子のほとんどは、ポリマー状の物質から調製され、かつその調製では、大量の有機溶媒や毒性のある界面活性剤を使用し、これらは、患者での副作用の可能性を全て回避するために完全に除去されなければならない。一部のナノ粒子組成物における問題の1つは、結晶性薬剤粒子成分の可溶化とそれに続く再結晶である。ナノ粒子活性因子調製物における結晶の成長と凝集は、かなり好ましくない。ナノ粒子活性因子組成物内に大きい結晶があると、好ましくない副作用を引き起こし、それは、特に該調製物が注射製剤の場合である。また、粒子の凝集および再結晶によって形成された大きい粒子は、血流を阻害し、肺塞栓および死を引き起こす。
【0014】
一般に、ナノ粒子は10nmから1000nmの範囲のサイズの固形のコロイド状の粒子であって、ある薬剤輸送システムで用いられる。ナノ粒子は、活性本体が溶解され、取り込まれるかカプセル封入される、および/または活性本体が吸収され、あるいは付着する高分子物質から構成される。多くの異なる種類のナノ粒子、例えば、量子ドット、シリカをベースにするナノ粒子、光結晶、リポソーム、天然物や合成物に由来する種々のポリマーをベースにするナノ粒子および金属をベースにするナノ粒子が研究されている。ナノ粒子は、その形状および組成の両方において多様である。
【0015】
最も興味深い光増感剤のキャリアシステムは、生体適合性物質から構成されるナノ粒子である。当該キャリアシステムは、光力学的療法の治療レジメンを大幅に改良した。このような高い生体適合性を有する既知のキャリアシステムは、例えば、ヒト血清アルブミン(HSA)である。HSAはナノ粒子の製剤化に好適であった(非特許文献3を参照)。
【0016】
当技術分野で既知の、水に溶けない薬理学的な活性因子のためのキャリアとしてのタンパク質系ナノ粒子の例は少ない。
【0017】
特許文献5において、Desaiらは、タンパク質で被覆された粒子の懸濁液の状態で疎水性の抗癌剤パクリタキセルの輸送に係る組成物と方法とを開示している。それは、薬剤輸送のための直径200nm未満のサイズのタンパク質をベースにするナノ粒子を開示し、それらは、無菌フィルター処理されている。ナノ粒子のサイズが小さいほど、保存の間により凝集しやすい。この既知の技術は、タンパク質で被覆され、懸濁された薬剤粒子を開示し、それは安定化剤として機能するが、上記特許は、本発明に関連しない。
【0018】
臨床業務における非経口投与のためのナノ粒子製剤の適用では、薬局方の仕様が保証されるように無菌の製剤が求められる。また、臨床適用では、製剤が凍結乾燥でき、後から水媒体で再構成できる製剤が望ましい。HSAを含有するナノ粒子の光増感剤製剤の無菌化は、ナノ粒子本体の物質の不安定性に加えて光増感剤の不安定性のために困難である。従来の無菌化の方法(オートクレーブ、エチレンオキシドの使用、ガンマ線照射)は、本発明に係る光増感剤製剤と両立しない(非特許文献4および5を参照)。
【0019】
Eric Allemannらは、特許文献6において、ポリエステルポリマーを含み架橋可能なナノ粒子を用いた光増感剤の非経口および局所投与に係る組成物と方法とを開示している。また、それは当該ナノ粒子の調製と使用を開示する。当該ナノ粒子はろ過方法を用いて無菌化される。それでもこの方法はその欠点を有しており、一般には本発明の対象であるナノ粒子と両立しない。無菌化ろ過のための細孔のサイズは、通常0.22μm未満であって(≧220nm)、一方本発明のナノ粒子は、基本的に全体のサイズが100から500nmの間の範囲で存在する。このため、無菌化ろ過は、その欠点を有し、一般には本発明の対象であるナノ粒子と両立しない。
【0020】
特に、本発明に係るクロリンあるいはバクテリオクロリン類(例えば、1個または2個のジヒドロピロール基を有するテトラピロール)である光増感剤の場合、無菌のナノ粒子製剤および凍結乾燥に適したナノ粒子製剤を開発するのが難しいのは、上記システムは、ナノ粒子の調製でよく用いられる操作条件で誘導される酸化及び光化学修飾に特に影響を受けやすいからである(非特許文献6ないし8参照)。1個または2個のジヒドロピロール基を有するクロリンあるいはバクテリオクロリン類のこれらの光増感剤は、それぞれポルフィリンに応じてそれらの化学的および物理的な挙動に大きな違いがある(非特許文献8および9参照)。
【0021】
光増感剤のためのキャリアとして用いられるHSA系ナノ粒子における既知の先行技術は、HSA系ナノ粒子の無菌化と凍結乾燥に関する問題に対処しておらず、研究された光増感剤は、それらのより安定な化学構造のためにこの点においてほとんど問題にならない。
【0022】
疎水性の光増感剤は、水に対する固有の低い溶解性のために、適切なキャリアを用いて製剤化されることを必要とする。そのため、テトラピロール系光増感剤の新たな製剤が、その体内での取り込みおよびバイオアベイラビリティを高めるために大いに求められている。光増感剤(PS)の固有の特性のために、様々な種類の疾患の治療のためのPDTの使用が制限されている。それらの高い費用、ホスト生体内での広範囲の残留、皮膚におけるかなりの光毒性、血管内投与での実用性を低下させ、血栓塞栓性障害を惹起する生理溶液での低い溶解度、および標的に対する有効性の低下がそれらに含まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】欧州特許第00337601号明細書
【特許文献2】国際公開第09/613504号
【特許文献3】国際公開第00/061584号
【特許文献4】国際公開第01/21174号
【特許文献5】米国特許第5916596号明細書
【特許文献6】国際公開第03/097096号
【非特許文献】
【0024】
【非特許文献1】N. P. Preatorius, T. K. Mandal, Engineered Nanoparticles in Cancer Therapy, Recent Patents on Drug Delivery & Formulation, 2007, 1, 37-51
【非特許文献2】M. N. V. Ravi Kumar, Engineered Nanoparticles in Cancer Therapy, J. Pharm. Pharmaceut. Sci., 3, 234-258
【非特許文献3】K. Langer, et al., Int. J. Pharm., 2007, 347, 109-117
【非特許文献4】K. A. Athanasiou, et al., Biomaterials, 1996, 17, 93-102
【非特許文献5】C. Volland, et al., J. Contr. Rel., 1994, 31,293-305
【非特許文献6】Y. Hongying, et al., Dyes Pigm., 1999, 43, E09-117
【非特許文献7】C. Hadjur, et al., J. Photochem. Photobiol. B: Biology, 1998, 45, 170-178
【非特許文献8】R. Bonnett, et al., J. Chem. Soc. Perkin Trans., 2, 1999, 325-328
【非特許文献9】R. Bonnett, et al., J. Porphyrins Phthatocyanines, 2001, 5, 652-661
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
本発明は、薬剤輸送システムとして、さらに非経口投与のために天然物で作製された医薬に適合するナノ粒子を提供することによって、疎水性の光増感剤の製剤に見られる上記の問題を解決する。また、本発明は、感光性が高く、疎水性の光増感剤のバイオアベイラビリティ、安定性および溶解性を改良する方法を提供する。
【0026】
本発明の目的は、光力学的療法のための疎水性の光増感剤に適切なナノ粒子製剤の問題に対処し、臨床業務における非経口投与に対する必要性を満たすことである。
【0027】
本発明の他の目的は、光力学的療法のための、生体適合性のHSA物質をベースにした疎水性の光増感剤のナノ粒子医薬製剤を提供することである。
【0028】
本発明のさらに他の目的は、ヒト血清アルブミン(HSA)をベースにしたテトラピロール類、すなわちクロリンおよびバクテリオクロリンである疎水性の光増感剤および安定化剤、好ましくはグルタルアルデヒド、ホルムアルデヒドまたは熱処理に係るナノ粒子製剤を提供することである。
【0029】
本発明のさらなる目的は、無菌化されたHSA系ナノ粒子を凍結乾燥し、必要なときに水媒体で再構成することを可能にすることである。
【0030】
本発明のさらに他の目的は、光力学的療法においてHSAをベースにしたナノ粒子光増感剤製剤の使用方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0031】
簡潔に述べると、本発明は保存において安定な組成物と、疎水性の光増感剤、ヒト血清アルブミン(HSA)および安定化剤を含む光力学的療法のためのナノ粒子製剤系薬剤の製造方法とを提供する。これらのナノ粒子製剤は、非経口投与に関して光増感剤(PS)の治療上の有効量を提供する。特にテトラピロール誘導体が光増感剤として用いられ、その有効性と安全性とが上記ナノ粒子製剤によって高められる。また、無菌条件下でのHSA系ナノ粒子の調製方法が提供される。本発明に係る好ましい1つの実施の形態では、テモポルフィン、疎水性のPSが非経口投与のためのナノ粒子として製剤化される。当該製剤は、過形成や腫瘍性疾患、炎症性疾患を治療するため、さらに具体的には、腫瘍細胞を標的とするために有用である。
【0032】
添付する図面とともに以下の説明を読むことで、上記および他の目的、本発明の特徴と利点が明らかになる。
【0033】
表1:5,10,15,20‐テトラキス(m‐ヒドロキシフェニル)‐ポルフィリン(mTHPP)を含有するHSAナノ粒子の物理化学的特性(平均±標準偏差;n=6)
【0034】
表2:エタノール内および水溶液に0.75%ならびに2.0%溶解HSA存在下におけるmTHPPを含有するHSAナノ粒子の形態での蛍光寿命
【0035】
表3:エタノール内および水溶液に0.75%および2.0%溶解HSA存在下におけるmTHPPを含有するHSAナノ粒子の状態での一重項酸素の発生とローズベンガルの三重項の定数
【0036】
表4:5,10,15,20‐テトラキス(m‐ヒドロキシフェニル)‐クロリン(mTHPC)を含有するHSAナノ粒子の物理化学的特性(平均±標準偏差;n=3)
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】溶解したHSA濃度(0.75%‐2.0%)に対する5,10,15,20‐テトラキス(m‐ヒドロキシフェニル)‐ポルフィリン(mTHPP)(○、平均±標準偏差;n=6)および5,10,15,20‐テトラキス(m‐ヒドロキシフェニル)‐クロリン(mTHPC)(●、平均±標準偏差;n=6)とインキュベートされたHSAナノ粒子の薬剤含有量である。
【図2】5から10の範囲のpH値に対する1.5%溶解HSA存在下におけるmTHPP(○)およびmTHPC(●)を含有するHSAナノ粒子の薬剤含有量。
【図3】薬剤吸着工程の間、34.3%(V/V)エタノールに1.5%溶解HSA存在下で調製されたmTHPPを含有するHSAナノ粒子の透過電子顕微鏡画像である。
【図4】A乃至Dは、光増感剤5,10,15,20‐テトラキス(3‐ヒドロキシフェニル)‐ポルフィリン(mTHPP)を含有するHSA系ナノ粒子の細胞取り込みの解析である。
【図5】A乃至Dは、光増感剤5,10,15,20‐テトラキス(3‐ヒドロキシフェニル)‐クロリン(mTHPC)を含有するHSA系ナノ粒子の細胞取り込みの解析である。
【図6】A乃至Dは、各インキュベーション時間後の5つの異なる試料におけるJurkat細胞に対する暗毒性と光毒性の影響である。
【図7】3μMのmTHPC、および各インキュベーション時間後のJurkat細胞による異なる濃度のmTHPCを含有するHSAナノ粒子の細胞取り込みである。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明は、非経口用途に適切な光増感剤に関するタンパク質系ナノ粒子医薬製剤を提供する。タンパク質系ナノ粒子は、生物分解性で、毒性がなく、長期間安定で、非抗原性で、かつ先行技術におけるポリマー系ナノ粒子と比較して細胞への取り込みを促進する。また、それは、一般的には溶解性と安定性に問題がある疎水性の光増感剤であって、かつ特に非経口投与に関して製剤化の主な障害となる、クロリンおよびバクテリオクロリンのような上記感光性の高い化合物のためのタンパク質系ナノ粒子を調製する適切な方法を提供する。
【0039】
また、本発明は、好ましくは主としてクロリンおよびバクテリロクロリン類の群から選択される光増感剤を用いた光増感剤含有ナノ粒子の医薬製剤の調製方法を提供する。また、本発明に係る当該方法は、当技術分野で既知の他の多様な疎水性の光増感剤を用いることができる。
【0040】
その上、光力学的療法における臨床使用のためのHSAナノ粒子をベースにした疎水性の光増感剤製剤に関する使用方法が提供される。ナノ粒子系製剤は、静脈投与のために疎水性の光増感剤を可溶化するために用いられる。その使用方法は、光増感剤を封入したナノ粒子の投与と、標的組織における蓄積と、特有の波長の光による光増感剤の活性化とを含む。投与は、好ましくは非経口手段、例えば、これに限定されないが静脈注射による。極めて細い毛細管が5‐6μmの範囲であるために、ナノ粒子には、他の投与システムよりも静脈投与が好ましい。
【0041】
HSA系ナノ粒子医薬製剤の治療上の使用は、これらに限定されないが、皮膚疾患、眼科疾患、泌尿器疾患および関節炎のような炎症疾患を含む。腫瘍組織、新生組織形成、過形成および関連疾患の処置のための使用がより好ましい。
【0042】
光増感剤を含有するナノ粒子の調製に用いられる物質
1.ヒト血清アルブミン(HSA):
ヒト血清アルブミン(HSA)は、ヒトの血漿中で最も豊富なタンパク質である。それは、可溶性で単量体である。ここで用いられるアルブミンは、ヒト由来のもの、あるいはヒト血清アルブミンの組み換え体(rHSA)が好ましい。HSA、血漿タンパク質は、ナノ粒子調製のために用いられる他の物質よりも、それらが生物分解性であって、決められたサイズで調製することが容易である点で明らかに優れている。さらに、それらをリガンドの結合および表面修飾に適するようにするチオール基、アミノ基およびカルボキシル基のような反応基を、それらは保持できる。薬剤封入HSAは、プロテアーゼ酵素によって容易に代謝され、薬剤の含有量が定量可能である。
【0043】
本発明での調製に用いられるHSAは、シグマアルドリッチ社から入手することができる(アガロースゲルの電気泳動で96‐99%の純度)。製品は、HIV I、HIV II、HCVおよびHbsAgに陰性であることが確かめられた。タンパク質は、凍結乾燥状態で提供された。
【0044】
2.光増感剤
本発明で用いられる光増感剤は、好ましくは、クロリンおよびバクテリオクロリン類のテトラピロール、すなわちそれぞれジヒドロ‐ポルフィリンおよびテトラヒドロ‐ポルフィリンである。当該光増感剤は、天然物由来でも全合成によるものであってもよい。クロリン又はバクテリオクロリンの全合成は、はじめにポルフィリンの合成、続いてそれをクロリンおよびバクテリオクロリン系に変換することによって行われる。
【0045】
本発明で用いられるクロリンおよびバクテリオクロリンは、好ましくは次の構造を有する。
【化1】
ここで、
R1は、HまたはOHである。
R2からR5は、‐OH、‐COOH、‐NH2、‐COOX、‐NHX、OX、‐NH‐Y‐COOHまたは‐CO‐Y‐NH2からなる置換基の群から互いに独立して選択され、フェニル環のメタ‐、パラ‐位のいずれかにおける置換基である。
このとき、
Xは、n=1‐30の(CH2CH2O)nCH3を有するポリエチレングリコール残基あるいは炭水化物基である。
Yは、n=1‐30のペプチドまたはオリゴペプチドである。
環Dは、次の構造を有する。
【化2】
【0046】
本発明におけるナノ粒子で製剤化されるのに特に好ましいクロリンは、この構造を有する。
【化3】
【0047】
以下で開示される方法によって調製されたナノ粒子は、予測可能なサイズと均一性(サイズのぱらつきにおいて)を有する。ナノ粒子は、無菌製造工程で調製される。好ましくは、HSA系ナノ粒子は、直径500nm未満の平均サイズを有する。用語「直径」は、ナノ粒子が必ず球形状であることを意味するのではない。当該用語は、ナノ粒子のだいたいの平均幅を意味する。
【0048】
ナノ粒子は、臨床使用のためにあらゆる毒性物質を含んではならず、このため、通常、ナノ粒子は、オートクレーブ、エチレンオキシドの使用およびガンマ線照射のような当技術分野で既知の様々な手段で無菌化される。しかし、これらの従来の無菌化の方法は、本発明の光増感剤製剤に適合しない。このように化学的および熱的に反応性のある物質に対する1つの選択肢は、決められたサイズの膜フィルターを通す無菌ろ過である。本発明では、医療用途に応じて、ナノ粒子が完全な無菌条件下で調製される。
【0049】
本発明に係る特に好ましい実施の形態では、HSA系ナノ粒子は、500nm未満の平均粒子サイズであって、光増感剤はテモポルフィン、5,10,15,20‐テトラキス(3‐ヒドロキシフェニル)‐クロリン(mTHPC)である。本発明に係る他の実施の形態では、HSA系ナノ粒子は、500nm未満の平均粒子サイズであって、光増感剤は2,3‐ジヒドロキシ‐5,10,15,20‐テトラキス(3‐ヒドロキシフェニル)‐クロリン(mTHPD‐OH)である。本発明に係るさらに他の実施の形態では、5,10,15,20‐テトラキス(m‐ヒドロキシフェニル)‐ポルフィリン(mTHPP)が光増感剤として用いられる。
【0050】
本発明のナノ粒子は、保存上の安定性を改良するために脱水されてもよい。脱水の好ましい方法は、凍結乾燥か凍結真空乾燥である。凍結乾燥の間および水媒体での再構成の間の安定性を改良するために、添加剤として凍結乾燥保護剤が任意に用いられてもよい(Anhorn, M.G., Mahler, H.-C., Langer, K., Freeze-drying of human serum albumin (HSA)-nanoparticles with different excipients. Int. J. Pharm. 2008, 363, 162-169)。
【0051】
本発明に係るHSA系ナノ粒子は、脱溶媒和法で調製された。原理上は、HSA水溶液のタンパク質脱溶媒和は、エタノール、メタノール、イソプロパノールおよび(または)アセトンのような親水性の有機溶媒の調節された添加によって誘導される。別の方法として、濃縮されたポリエチレングリコール溶液(水に≧20%;好ましい実施の形態では40%)の添加が脱溶媒和のために用いられる。得られたナノ粒子は、熱処理または二官能性アルデヒド(すなわちグルタルアルデヒド)かホルムアルデヒドで安定化された。
【0052】
前もって形成されたナノ粒子への光増感剤の吸着は、溶解アルブミンの存在下で実行された。薬剤含有ナノ粒子は、これらに限定されないがグルコース、トレハロース、スクロース、ソルビトールおよびマンニトール等を含む抗凍結剤の存在下で凍結乾燥される。
【0053】
本発明における光増感剤の治療上の有効濃度は、1mgのHSAナノ粒子に対し約10から50μgであって、これは水に懸濁した際の5‐25mg/ml、特に8mg/mlの粒子含量に相当する。HSAナノ粒子への薬剤の取り込みは、光増感剤の存在下、脱溶媒和剤としてポリエチレングリコールを使用したHSAの脱溶媒和によって行われる。ナノ粒子調製の全工程は、無菌状態下で行われた。
【0054】
本発明は以下の実施例によってさらに説明されるが、これらに限定されない。
【0055】
実施例1a:
光増感剤5,10,15,20‐テトラキス(m‐ヒドロキシフェニル)‐ポルフィリン(mTHPP)を含有するHSA系ナノ粒子の調製と特徴付け;粒子表面への吸着結合(表1参照)
ヒト血清アルブミン(HSA)系ナノ粒子が脱溶媒和法で調製された。原理上、100mgのHSAが1mlの10mM塩化ナトリウム溶液に溶解された。pHは8に調製され、溶液が0.22μmのろ過器(Schleicher and Schuell社、ダッセル、ドイツ)を通して事前にろ過された。このろ過処理は、基本的に全ての細菌を除去するのに十分である。ナノ粒子は、室温で攪拌しながら(380rpm)、4.0mlのエタノールを持続的に添加することで形成された。エタノールの決められた量が1ml/分の速度でポンプ装置(Ismatec IPN社、グラットブルグ、スイス)を用いて添加される。タンパク質の脱溶媒和の終了後、化学的架橋によって得られるタンパク質ナノ粒子を安定化させるために57.76μLの8%グルタルアルデヒド水溶液が添加された。用いられたグルタルアルデヒドの濃度は、100mgのHSAにおけるアミノ基が化学量論的に100%架橋する量に相当する。次に、粒子が1時間攪拌され、10分間、20,817×gでの遠心分離を3回行うことで精製され、沈殿が1.0mlの水に再拡散された。再拡散工程は、超音波浴で5分間行われた。ナノ粒子の量は、微小重力で決定され、15.0mg/mlに合わされた。
【0056】
薬剤の付加
典型的には、100mgのHSAが1mlの10mM塩化ナトリウム溶液に溶解された。pHは8.0に滴定され、当該溶液は0.22μmのろ過器(Schleicher and Schuell社、ダッセル、ドイツ)に通された。330.0μLの精製されたHSAナノ粒子懸濁液(15mg/ml)に対して、56.3、75.0、93.8、112.5、131.3および150.0μL(0.75‐2.0%)の得られたHSA水溶液がそれぞれ加えられた。図1は、システムにおいて溶解されたHSAの濃度に対するHSA系ナノ粒子の薬剤含有量を示す。懸濁液は、精製水で500.0μLに合わされ、続けて112.5μLの保存されていたmTHPPエタノール溶液(96%エタノール(V/V)、1mg/ml)および137.5μLの96%エタノール(V/V)が添加された。インキュベーションが5から10のpH値で行われた(図2参照)。試料は、持続的に振とうしながら(15℃、660rpm)、2時間インキュベーションされた。15℃で10分間、20,817×gで繰り返し遠心分離することで粒子が精製され、5分間の超音波浴内で1mlの水に再拡散された。図2には、5から10の範囲のpH値に対する、1.5%の溶解HSAの存在下でmTHPP(○)とmTHPC(●)を含有するHSA系ナノ粒子の薬剤含有量が示された(平均±標準偏差;n=3)。HSA系ナノ粒子の薬剤含有量がHSAの濃度とそのpHに依存することを、図1および2は示す。pH値は、薬剤の付加に影響を与える。
【0057】
粒子調製に用いられる全ての溶液は、殺菌され、細孔サイズが0.22μmの膜を通して事前にろ過された。用いられた全ての器具が20分間以上、121℃でオートクレーブされた。粒子調製の全ての操作工程が層流キャビネット内で行われた。このため、本発明のHSA系ナノ粒子は、治療上用いられる無菌のナノ粒子の製造を保証する完全な無菌状態下で製剤化された。
【0058】
平均粒子サイズと多分散性がZetasizer 300HSA(Malvern Instruments社、マルバーン、英国)を用いた光子相関分光法によって測定された。ナノ粒子の量は、微小重力で決定された。粒子の形態は、透過電子顕微鏡法(TEM)で決定された。図3は、薬剤吸着工程において1.5%溶解HSAの存在下の34.3%(V/V)エタノールで調製されたmTHPP含有HSAナノ粒子のTEMによって撮像された画像を示す。
【0059】
間接的な定量方法:ナノ粒子の上清中で結合してない薬剤の分光光度定量後にナノ粒子のmTHPP含有量が算出された。
【0060】
直接的な定量方法:10mgのペプシンが1mlの1%ギ酸水溶液に溶解された。光増感剤含有HSAナノ粒子1.0mgを含む分割量が250μLのペプシン溶液に加えられた。混合物は、精製水で500.0μLに調製された。試料は、持続的な振とう下で2時間インキュベートされた。インキュベーション後、1.0mlの96%エタノール(V/V)が添加され、溶液が遠心分離された(15℃、20,817×g、30分)。800.0μlの上清に、200μLの50mM重炭酸塩バッファー(pH=9)が添加された。精製されたナノ粒子に付着した光増感剤の量を決定するために、溶液がmTHPPに関して512nm(mTHPCの場合は517nm)で光度的に測定された。
【0061】
次のプロトコールに従って、ナノ粒子の凍結乾燥が実行される。
凍結乾燥工程において、トレハロースが3%(m/V)の濃度でナノ粒子試料に添加された。試料は、凍結乾燥機に移され、装置内温度が1℃/分の速度で5℃から−40℃に下げられた。圧力は、0.08mbarに設定された。これらのパラメータは、6時間維持された。0.5℃/分で−40℃から−25℃まで温度を上昇させることによって、一次乾燥が終了した。圧力は変化させずに維持された。一次乾燥の熱傾斜の終了時点で、圧力上昇試験(PRT)が実行された。一次乾燥の終了に伴い、0.2℃/分で25℃まで温度を上昇させることで二次乾燥が行われた。この温度は、圧力60mT(=0.08mbar)で6時間維持された。
【0062】
ナノ粒子の無菌化は、欧州薬局方の研究論文2.6.1「無菌」に従って確認された。無菌試験は、当該研究論文に記載されているように直接接種法によって行われた。
【0063】
表1は、上記方法を用いて調製された5,10,15,20‐テトラキス(m‐ヒドロキシフェニル)‐ポルフィリン(mTHPP)を含有するHSAナノ粒子の物理化学的特性を示す(平均±標準偏差、n=6)。
【表1】
【0064】
表2は、上記の方法を用いて調製された5,10,15,20‐テトラキス(m‐ヒドロキシフェニル)‐ポルフィリン(mTHPP)を含有するHSAナノ粒子の蛍光寿命を示す。調製は、それぞれ0.75%および2.0%溶解HSAの存在下で行われた。最長の成分τ3は、8.2nsであって、これは、mTHPP単量体(9.6ns)のそれに近い。このように寿命がわずかに短くなることは、大きな分子に付着した光増感剤において報告されており、例えば、デンドリマーと組み合わされたフェオフォルバイドである。τ3の大きさは、mTHPPを含有するHSAナノ粒子の蛍光強度の合計の40%を超えた。同時に、2.1‐2.3nsの減衰時間τ2は、約25%の大きさを示す。最短の寿命τ4(0.35ns)は、全体の蛍光シグナルに対して32.9%寄与している。
【表2】
【0065】
表3は、対照となるローズベンガルと光増感剤を含有するHSAナノ粒子調製物によって発生した三重項状態および一重項酸素の寿命を示す。ローズベンガルは、Redmondらによって以前記載されたように(1999)、寿命と量子収量とを示す。ナノ粒子の量子収量は両方の調製物について減少を示したが、活性酸素種の寿命の増加が見られた。一重項酸素の寿命の増加は、光増感剤が単量体の状態で保たれていることを示唆している。ナノ粒子の表面の低酸素環境のせいで、量子収量の低下が予想された。HSAナノ粒子の分解および光増感剤の放出後に一重項酸素の発生が増加することが考えられる。
【表3】
【0066】
実施例1b
光増感剤mTHPCを含有するHSA系ナノ粒子の調製と特徴付け;粒子表面への吸着結合(表4)
mTHPPの代わりにmTHPCを用いたことを除いてナノ粒子が実施例1aに従って調製された。
【0067】
mTHPCを含有するナノ粒子が実施例1aで記載されたように特徴付けられた。表4は、5,10,15,20‐テトラキス(m‐ヒドロキシフェニル)‐クロリン(mTHPC)を含有するHSAナノ粒子の物理化学的特性を示す(平均±標準偏差、n=3)。
【表4】
【0068】
実施例1c
光増感剤mTHPCを含有するHSA系ナノ粒子の調製と特徴付け;封入結合
ヒト血清アルブミン(HSA)系ナノ粒子が、脱溶媒和剤としてポリエチレングリコールを用いた脱溶媒和法によって調製された。原理上、90mgのHSAが0.9mlの10mM塩化ナトリウム溶液に溶解された。pHは6‐8に調製され、溶液が0.22μmろ過器(Schleicher and Schuell社、ダッセル、ドイツ)を通してろ過された。mTHPCは、3、7.5および15mg/mlのmTHPCを含む0.1mlのエタノール溶液の状態でそれぞれ添加された。15分間のインキュベーションの後、ナノ粒子は、室温で攪拌しながら(400‐500rpm)、4.0mlのポリエチレングリコール(PEG4000)水溶液を持続的に添加することで形成された。エタノールの決められた量が1ml/分の速度でポンプ装置(Ismatec IPN社、グラットブルグ、スイス)を用いて添加される。タンパク質の脱溶媒和の終了後、化学的架橋によって得られるタンパク質ナノ粒子を安定化させるために78μL(または、それぞれ104および182μl)の8%グルタルアルデヒド水溶液が添加された。用いられたグルタルアルデヒドの濃度は、90mgのHSAにおけるアミノ基が化学量論的に150%(または、それぞれ200%および350%)架橋する量に相当する。粒子が3時間攪拌され、10分間、20,817×gでの遠心分離を3回行うことで精製され、超音波浴(5分)で1.0mlの水に再拡散された。ナノ粒子の量は、微小重力で決定され、15.0mg/mlに調製された。
【0069】
粒子調製に用いられる全ての溶液は、殺菌され、細孔サイズが0.22μmの膜を通してろ過された。用いられた全ての道具が20分間以上、121℃でオートクレーブされた。粒子調製の全ての操作工程が層流キャビネット内で行われた。
【0070】
mTHPCを含有するナノ粒子が実施例1aに記載されたように特徴付けされた。
【0071】
実施例2a
光増感剤5,10,15,20‐テトラキス(3‐ヒドロキシフェニル)‐ポルフィリン(mTHPP)を含有するHSA系ナノ粒子の細胞取り込みの解析(図4A‐D)
HSA系ナノ粒子の細胞取り込みと細胞内分布を解析するために、共焦点レーザー走査顕微鏡法が用いられた。DiFi細胞がガラススライド(Becton Dickinson社)上で培養され、37℃で4時間、ナノ粒子製剤とインキュベーションされた。続いて、細胞がPBSで2回洗浄され、コンカナバリンA AlexFluor350(50μg/ml;Invitrogen社、カルルスルーエ)によって膜が2分間染色された。細胞は、0.4%パラホルムアルデヒドで6分間固定された。固定後、細胞は洗浄され、次にVectashield HardSet Mounting培地(Axxora社、グルンベルグ)に組み込まれた。顕微鏡解析は、510 NLO Meta装置(Zeiss社、イェナ)、カメレオンフェムト秒あるいはアルゴンイオンレーザーおよびLSM Image Examinerソフトウェアを備えるAxiovert 200M顕微鏡で行われた。HSA系ナノ粒子の緑色自己蛍光と光増感剤5,10,15,20‐テトラキス(3‐ヒドロキシフェニル)‐ポルフィリン(mTHPP)の赤色自己蛍光が分布の決定に利用された。
【0072】
図4‐Dは、共焦点レーザー走査顕微鏡法によって調べられた5,10,15,20‐テトラキス(3‐ヒドロキシフェニル)‐ポルフィリン(mTHPP)を含有するHSA系ナノ粒子(0.75および2.00%溶解HSA)の細胞取り込みおよび細胞内分布を示す。DiFi細胞は、ガラススライド上で培養され、ナノ粒子と37℃で4時間インキュベートされた。光増感剤mTHPPの赤色自己蛍光とナノ粒子の緑色増感剤とが用いられた。写真は、細胞の内側部分を撮像したものである。図4A‐Bは、mTHPPを含有するHSAナノ粒子(0.75%溶解HSA)と細胞のインキュベーションである。図4C‐Dは、mTHPPを含有するHSAナノ粒子(2.00%溶解HSA)と細胞のインキュベーションである。図4Aおよび図4Cは、緑色ナノ粒子のチャネルを示し、図4Bおよび図4Dは、赤色光増感剤のチャネルを示す。スケールバーは20μmである。
【0073】
実施例2b
光増感剤5,10,15,20‐テトラキス(3‐ヒドロキシフェニル)‐クロリン(mTHPC)を含有するHSA系ナノ粒子の、それぞれ細胞取り込みおよび細胞吸着(図5A‐D)
図5A‐Dは、共焦点レーザー走査顕微鏡法によって調べられた光増感剤5,10,15,20‐テトラキス(3‐ヒドロキシフェニル)‐クロリン(mTHPC)を含有するHSA系ナノ粒子(0.75%および2.00%溶解HSA)の細胞取り込み/吸着および細胞内分布を示す。DiFi細胞は、ガラススライド上で培養され、37℃で4時間、ナノ粒子とインキュベーションされた。光増感剤(mTHPC)の赤色自己蛍光及びナノ粒子の緑色自己蛍光が使用された。写真は、細胞の内側部分を撮像したものである。図5A‐Bは、mTHPCを含有するHSAナノ粒子(0.75%溶解HSA)と細胞のインキュベーションである。図5C‐Dは、mTHPCを含有するHSAナノ粒子(2.00%溶解HSA)と細胞のインキュベーションである。図5Aおよび図5Cは、緑色ナノ粒子のチャネルを示し、図5Bおよび図5Dは、赤色光増感剤のチャネルを示す。スケールバーは20μmである。
【0074】
HSA‐mTHPPの代わりにHSA‐mTHPCが用いられたことを除いて試料が実施例2aに従って調製された。
【0075】
実施例3
光増感剤を含有したナノ粒子の細胞取り込みおよび光力学活性
mTHPC‐HSA‐ナノ粒子の細胞取り込みおよび光毒性:
当該ナノ粒子製剤の細胞取り込みおよび光毒性が、RPMI1640培地で培養されたJurkat細胞懸濁液を用いて調べられた。全ての細胞は、3μMのmTHPCおよびmTHPCを含有した異なる濃度のHSA系ナノ粒子とともに設定された時間(1時間、3時間、5時間、24時間)インキュベートされた。HSA濃度が異なるHSA系ナノ粒子が、細胞懸濁液の細胞取り込みおよび光毒性の影響を調べるために用いられた。
【0076】
3つの異なる濃度のHSAを有するmTHPC‐HSA系ナノ粒子の各試料:
1. グルタルアルデヒドで架橋されている40%のHSA
2. グルタルアルデヒドで架橋されている100%のHSA
3. グルタルアルデヒドで架橋されている200%のHSA
Jurkat細胞の懸濁液が次の5つの試料とインキュベートされた。
1. 対照:光増感剤を細胞に加えない
2. 3μMのmTHPCのみ
3. 40%のHSA‐mTHPC系ナノ粒子
4. 100%のHSA‐mTHPC系ナノ粒子
5. 200%のHSA‐mTHPC系ナノ粒子
【0077】
光毒性
細胞に対する光毒性の影響を調べるために、上記5つの試料とインキュベートされたJurkat細胞懸濁液が2分間、660nmで290mJ/cm2の光量で照射された(LEDを用いて)。
【0078】
トリパンブルー試験が壊死細胞を評価するために用いられ、アポトーシス細胞は、その細胞形状(アポトーシス性のブレブ形成)の変化によって検出された。
【0079】
図6A‐Dは、各インキュベーション時間後の5つの異なる試料でのJurkat細胞に対する暗毒性および光毒性の影響を示す。
【0080】
図6Aは、試料について観察された暗毒性を示し、それは、ほとんどゼロであり、HSA系ナノ粒子による毒性の影響はないことを示すことが明らかになった。それぞれの場合においてJurkat細胞は5つの試料でインキュベートされた。暗室で1時間、3時間、5時間および24時間のインキュベーション後に各試料の分割量が調べられた。トリパンブルー試験が壊死細胞を評価するために用いられ、アポトーシス細胞は、その細胞形状(アポトーシス性のブレブ形成)の変化によって検出された。ほとんど、あるいは全く影響がないことがわかった。言い換えると、用いられたmTHPCの濃度において暗毒性は見られなかった。
【0081】
他方では、図6B、6C、6Dは、光毒性の影響による細胞に対するアポトーシスおよびネクローシスへの効果を、個別におよび一緒に示す。図6Bに対して、図6Cはアポトーシスの割合を示し、図6Dはインキュベーションした培地でのネクローシス割合を個別に示す。図6A‐Dの各対照試料は、光増感剤なしでインキュベートされ、放射された細胞を示す。細胞は、LEDを用いて、暴露時間120秒、290mJ/cm2の光量において660nmで照射された。この実験は、2回繰り返され、各測定で細胞数は、光暴露後2時間で平均を得るために3回計数された。エラーバーは、6回の測定(n=6)の標準偏差を示す。図6Cおよび図6Dは、上記のような異なるインキュベーション時間後に5つの試料でインキュベーションされた場合の、光毒性による細胞に対するアポトーシスおよびネクローシスへの効果をそれぞれ示す。PDTで用いられたとき、本発明に係る製剤は、高い程度のアポトーシス‐長引く、穏やかな細胞死の種類および低い程度のネクローシス‐高い免疫系応答を伴うが腫瘍の回復を低濃度で妨げるのに求められる細胞死の種類を開始させることが見出された。
【0082】
mTHPCおよびmTHPCを含有するHSAナノ粒子の細胞取り込みの定量
細胞成長培地(RPMI1640)において、Jurkat細胞懸濁液が、3μMのmTHPCおよび3μMのmTHPC系ナノ粒子を封入した異なる濃度のHSAと、1時間、3時間、5時間、24時間インキュベートされた。インキュベーション後、細胞は計数され(血球計を用いて)、リン酸緩衝溶液(PBS、400×g、3分、2回)で洗浄され、細胞沈殿物が保存され、細胞膜を破壊するために−20℃で一晩、凍結された。超音波を用いて(5分より長く)、これらの細胞からmTHPCがエタノールに抽出された。エタノール抽出におけるmTHPCの濃度は、標準的な蛍光系を用いて蛍光強度を介して決定された。細胞内濃度の計算のために、細胞の直径が10μmであると想定された。
【0083】
図7は、3μMのmTHPC、および異なるmTHPCを含有するHSAナノ粒子の、各インキュベーション時間後のJurkat細胞による細胞取り込みを示す。この実験は、2回繰り返され、各測定で細胞数は平均を得るために3回計数された。エラーバーは、6回の測定(n=6)の標準偏差を示す。
【0084】
本発明に係る好ましい実施の形態が添付された図面を参照することで説明され、本発明は上記実施の形態のみに限定されず、添付の特許請求の範囲に定義された本発明の範囲から逸脱することなく、当業者が改変および改良できることが理解される。
【0085】
(関連出願の相互参照)
本願は、2009年12月11日にKlaus Langerらによって出願された「光力学的療法(PDT)のためのヒト血清アルブミンをベースにしたナノ粒子キャリアシステム」というタイトルの米国仮出願番号第61/285,902号の利益と優先権とを主張し、本願で参照することにより組み込まれる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、疎水性の光増感剤の医薬製剤に関する。特に、当該発明は、疎水性の光増感剤を含むナノ粒子製剤、それらの調剤方法、および不要な細胞または組織の破壊のための光力学的療法におけるそれらの使用に関連し、さらに具体的には、静脈投与を用いた腫瘍の光力学的療法のためのものに関する。
【背景技術】
【0002】
光力学的療法(PDT)は、最も有望な新しい技術の1つであり、様々な医療用途で使用されるために現在検討されている、具体的には腫瘍を破壊するための処置としてよく認識されている。光力学的療法は、所望する医学的効果を達成するよう光および光増感剤(染料)を使用する。多数の天然の染料および合成された染料が、光力学的療法のための見込みのある光増感剤として評価されてきた。特に、最も広く研究されている光増感剤の種類は、大環状テトラピロール化合物である。これらの中でも特にポルフィリンおよびクロリンは、PDTにおける効果について調べられた。
【0003】
ポルフィリンは、ピロールと結合している1つの炭素原子の架橋を有する大環状化合物であって、特徴的なテトラピロール環構造を形成する。ポルフィリン誘導体には、多くの異なる種類があり、ジヒドロピロール基を有するものが含まれる。クロリンおよびバクテリオクロリンはポルフィリン誘導体であり、それぞれ1つのジヒドロピロール基または2つのジヒドロピロール基を含んでいる。
【0004】
クロリンは、電磁スペクトルの赤外および近赤外領域において、その吸収スペクトルを有する。PDTが腫瘍療法に適用される場合、長波長の光は深い組織の中へ入り込むので、より広く深い腫瘍の治療が可能となる。クロリンは、天然物と全合成のいずれからでも得ることができる。
【0005】
天然化合物由来のクロリンは、クロロフィルまたはバクテリオクロロフィルの誘導体として得られる。全合成によるクロリンおよびバクテリオクロリンの調製方法では、一般的にポリフィリンが使用され、その後クロリンまたはバクテリオクロリン系に変換される。この変換工程は、例えば、in situで生じたジイミンの還元によって、または、それぞれジヒドロもしくはジヒドロキシ置換クロリン、あるいはバクテリオクロリンとなるジヒドロキシル化によって行われる。
【0006】
Raymond Bonnettらは、特許文献1においてポルフィリンに相当するものの還元による光増感剤の調製方法を開示している。テモポルフィン(化学名:(m‐テトラヒドロキシフェニル‐クロリン))の全合成が開示されている。テモポルフィン(Foscan(登録商標))は、頭部および首の癌のPDT治療における光増感剤としてヨーロッパで使用され成功している。同様に、David Dolphinらによる特許文献2およびJill Maclpineらによる特許文献3においても、改良された特性を有する新規な光増感剤を調製する還元方法が示されている。
【0007】
ポルフィリンは、PDTのための光増感剤として、またはピロールおよびアルデヒドを縮合反応させることによるクロリンの合成のための前駆体として、いずれでも直接的に使用される。この縮合の適切な方法は、当技術分野において古くから知られている。
【0008】
様々な疾患の治療のためのPDTの適用は、光増感剤(PS)の固有の特性によって限定される。これらには、高い費用、ホスト生体内での広範囲の残留、皮膚におけるかなりの光毒性、血管内投与での実用性を減少させ、血栓塞栓性障害を惹起する生理溶液での低い溶解度、および標的に対する有効性の低下が含まれる。これらの不利な点、特にこれまでの当該技術分野におけるPSに関しては、かなりの高濃度の光増感剤の投与につながり、これは正常組織における光増感剤の蓄積の可能性、およびこれに伴う正常部位への影響の危険性を大いに増加させる。
【0009】
費用の減少および付随する毒性の減少について努力されてきたが、これらは本発明の開発には関連しない。生理溶液における溶解度、皮膚における光毒性の影響、ホスト生体内での残留、および標的に対する狭い範囲の有効性についての研究が本発明の領域であって、本発明は、様々な新生組織形成、過形成および関連する疾患を治療するためのPDTの使用における、新規かつ自明でない改良されたものを提供する。
【0010】
腫瘍の光力学的療法において好適に使用される物質のほとんどは、脂溶性物質であり、これは適切な方法で形成されるうえで特有の低い水溶性が必要とされるためである。このため、テトラピロールをベースにする光増感剤の新規な製剤には、体内におけるこれらの取り込みとバイオアベイラビリティの向上が特に求められている。
【0011】
ナノ粒子は脂溶性の医薬物質のためのキャリアとして集中的に研究されている(非特許文献1および2参照)。ヒト血清アルブミン(HSA)をベースにした抗癌剤パクリタキセルのナノ粒子製剤は、欧州および米国において規制当局によって認可された。
【0012】
特許文献4において、Anand Burmanらは、共重合体ミセルのナノ粒子内に封入されたパクリタキセル抗癌剤、ならびにその誘導体および類似体の医薬製剤の調製方法について開示している。当該ナノ粒子は、重合法によって形成されているが、重合反応をベースにするほとんどの方法は、大量の有機溶媒または界面活性剤のような安全ではない安定剤の使用が必要であり、毒性の副作用をもたらす。
【0013】
先行技術では、高分子、他の治療因子および生物医学用途に用いられる診断薬のカプセル封入/取り込み/吸着にナノ粒子は用いられる。ナノ粒子のほとんどは、ポリマー状の物質から調製され、かつその調製では、大量の有機溶媒や毒性のある界面活性剤を使用し、これらは、患者での副作用の可能性を全て回避するために完全に除去されなければならない。一部のナノ粒子組成物における問題の1つは、結晶性薬剤粒子成分の可溶化とそれに続く再結晶である。ナノ粒子活性因子調製物における結晶の成長と凝集は、かなり好ましくない。ナノ粒子活性因子組成物内に大きい結晶があると、好ましくない副作用を引き起こし、それは、特に該調製物が注射製剤の場合である。また、粒子の凝集および再結晶によって形成された大きい粒子は、血流を阻害し、肺塞栓および死を引き起こす。
【0014】
一般に、ナノ粒子は10nmから1000nmの範囲のサイズの固形のコロイド状の粒子であって、ある薬剤輸送システムで用いられる。ナノ粒子は、活性本体が溶解され、取り込まれるかカプセル封入される、および/または活性本体が吸収され、あるいは付着する高分子物質から構成される。多くの異なる種類のナノ粒子、例えば、量子ドット、シリカをベースにするナノ粒子、光結晶、リポソーム、天然物や合成物に由来する種々のポリマーをベースにするナノ粒子および金属をベースにするナノ粒子が研究されている。ナノ粒子は、その形状および組成の両方において多様である。
【0015】
最も興味深い光増感剤のキャリアシステムは、生体適合性物質から構成されるナノ粒子である。当該キャリアシステムは、光力学的療法の治療レジメンを大幅に改良した。このような高い生体適合性を有する既知のキャリアシステムは、例えば、ヒト血清アルブミン(HSA)である。HSAはナノ粒子の製剤化に好適であった(非特許文献3を参照)。
【0016】
当技術分野で既知の、水に溶けない薬理学的な活性因子のためのキャリアとしてのタンパク質系ナノ粒子の例は少ない。
【0017】
特許文献5において、Desaiらは、タンパク質で被覆された粒子の懸濁液の状態で疎水性の抗癌剤パクリタキセルの輸送に係る組成物と方法とを開示している。それは、薬剤輸送のための直径200nm未満のサイズのタンパク質をベースにするナノ粒子を開示し、それらは、無菌フィルター処理されている。ナノ粒子のサイズが小さいほど、保存の間により凝集しやすい。この既知の技術は、タンパク質で被覆され、懸濁された薬剤粒子を開示し、それは安定化剤として機能するが、上記特許は、本発明に関連しない。
【0018】
臨床業務における非経口投与のためのナノ粒子製剤の適用では、薬局方の仕様が保証されるように無菌の製剤が求められる。また、臨床適用では、製剤が凍結乾燥でき、後から水媒体で再構成できる製剤が望ましい。HSAを含有するナノ粒子の光増感剤製剤の無菌化は、ナノ粒子本体の物質の不安定性に加えて光増感剤の不安定性のために困難である。従来の無菌化の方法(オートクレーブ、エチレンオキシドの使用、ガンマ線照射)は、本発明に係る光増感剤製剤と両立しない(非特許文献4および5を参照)。
【0019】
Eric Allemannらは、特許文献6において、ポリエステルポリマーを含み架橋可能なナノ粒子を用いた光増感剤の非経口および局所投与に係る組成物と方法とを開示している。また、それは当該ナノ粒子の調製と使用を開示する。当該ナノ粒子はろ過方法を用いて無菌化される。それでもこの方法はその欠点を有しており、一般には本発明の対象であるナノ粒子と両立しない。無菌化ろ過のための細孔のサイズは、通常0.22μm未満であって(≧220nm)、一方本発明のナノ粒子は、基本的に全体のサイズが100から500nmの間の範囲で存在する。このため、無菌化ろ過は、その欠点を有し、一般には本発明の対象であるナノ粒子と両立しない。
【0020】
特に、本発明に係るクロリンあるいはバクテリオクロリン類(例えば、1個または2個のジヒドロピロール基を有するテトラピロール)である光増感剤の場合、無菌のナノ粒子製剤および凍結乾燥に適したナノ粒子製剤を開発するのが難しいのは、上記システムは、ナノ粒子の調製でよく用いられる操作条件で誘導される酸化及び光化学修飾に特に影響を受けやすいからである(非特許文献6ないし8参照)。1個または2個のジヒドロピロール基を有するクロリンあるいはバクテリオクロリン類のこれらの光増感剤は、それぞれポルフィリンに応じてそれらの化学的および物理的な挙動に大きな違いがある(非特許文献8および9参照)。
【0021】
光増感剤のためのキャリアとして用いられるHSA系ナノ粒子における既知の先行技術は、HSA系ナノ粒子の無菌化と凍結乾燥に関する問題に対処しておらず、研究された光増感剤は、それらのより安定な化学構造のためにこの点においてほとんど問題にならない。
【0022】
疎水性の光増感剤は、水に対する固有の低い溶解性のために、適切なキャリアを用いて製剤化されることを必要とする。そのため、テトラピロール系光増感剤の新たな製剤が、その体内での取り込みおよびバイオアベイラビリティを高めるために大いに求められている。光増感剤(PS)の固有の特性のために、様々な種類の疾患の治療のためのPDTの使用が制限されている。それらの高い費用、ホスト生体内での広範囲の残留、皮膚におけるかなりの光毒性、血管内投与での実用性を低下させ、血栓塞栓性障害を惹起する生理溶液での低い溶解度、および標的に対する有効性の低下がそれらに含まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】欧州特許第00337601号明細書
【特許文献2】国際公開第09/613504号
【特許文献3】国際公開第00/061584号
【特許文献4】国際公開第01/21174号
【特許文献5】米国特許第5916596号明細書
【特許文献6】国際公開第03/097096号
【非特許文献】
【0024】
【非特許文献1】N. P. Preatorius, T. K. Mandal, Engineered Nanoparticles in Cancer Therapy, Recent Patents on Drug Delivery & Formulation, 2007, 1, 37-51
【非特許文献2】M. N. V. Ravi Kumar, Engineered Nanoparticles in Cancer Therapy, J. Pharm. Pharmaceut. Sci., 3, 234-258
【非特許文献3】K. Langer, et al., Int. J. Pharm., 2007, 347, 109-117
【非特許文献4】K. A. Athanasiou, et al., Biomaterials, 1996, 17, 93-102
【非特許文献5】C. Volland, et al., J. Contr. Rel., 1994, 31,293-305
【非特許文献6】Y. Hongying, et al., Dyes Pigm., 1999, 43, E09-117
【非特許文献7】C. Hadjur, et al., J. Photochem. Photobiol. B: Biology, 1998, 45, 170-178
【非特許文献8】R. Bonnett, et al., J. Chem. Soc. Perkin Trans., 2, 1999, 325-328
【非特許文献9】R. Bonnett, et al., J. Porphyrins Phthatocyanines, 2001, 5, 652-661
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
本発明は、薬剤輸送システムとして、さらに非経口投与のために天然物で作製された医薬に適合するナノ粒子を提供することによって、疎水性の光増感剤の製剤に見られる上記の問題を解決する。また、本発明は、感光性が高く、疎水性の光増感剤のバイオアベイラビリティ、安定性および溶解性を改良する方法を提供する。
【0026】
本発明の目的は、光力学的療法のための疎水性の光増感剤に適切なナノ粒子製剤の問題に対処し、臨床業務における非経口投与に対する必要性を満たすことである。
【0027】
本発明の他の目的は、光力学的療法のための、生体適合性のHSA物質をベースにした疎水性の光増感剤のナノ粒子医薬製剤を提供することである。
【0028】
本発明のさらに他の目的は、ヒト血清アルブミン(HSA)をベースにしたテトラピロール類、すなわちクロリンおよびバクテリオクロリンである疎水性の光増感剤および安定化剤、好ましくはグルタルアルデヒド、ホルムアルデヒドまたは熱処理に係るナノ粒子製剤を提供することである。
【0029】
本発明のさらなる目的は、無菌化されたHSA系ナノ粒子を凍結乾燥し、必要なときに水媒体で再構成することを可能にすることである。
【0030】
本発明のさらに他の目的は、光力学的療法においてHSAをベースにしたナノ粒子光増感剤製剤の使用方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0031】
簡潔に述べると、本発明は保存において安定な組成物と、疎水性の光増感剤、ヒト血清アルブミン(HSA)および安定化剤を含む光力学的療法のためのナノ粒子製剤系薬剤の製造方法とを提供する。これらのナノ粒子製剤は、非経口投与に関して光増感剤(PS)の治療上の有効量を提供する。特にテトラピロール誘導体が光増感剤として用いられ、その有効性と安全性とが上記ナノ粒子製剤によって高められる。また、無菌条件下でのHSA系ナノ粒子の調製方法が提供される。本発明に係る好ましい1つの実施の形態では、テモポルフィン、疎水性のPSが非経口投与のためのナノ粒子として製剤化される。当該製剤は、過形成や腫瘍性疾患、炎症性疾患を治療するため、さらに具体的には、腫瘍細胞を標的とするために有用である。
【0032】
添付する図面とともに以下の説明を読むことで、上記および他の目的、本発明の特徴と利点が明らかになる。
【0033】
表1:5,10,15,20‐テトラキス(m‐ヒドロキシフェニル)‐ポルフィリン(mTHPP)を含有するHSAナノ粒子の物理化学的特性(平均±標準偏差;n=6)
【0034】
表2:エタノール内および水溶液に0.75%ならびに2.0%溶解HSA存在下におけるmTHPPを含有するHSAナノ粒子の形態での蛍光寿命
【0035】
表3:エタノール内および水溶液に0.75%および2.0%溶解HSA存在下におけるmTHPPを含有するHSAナノ粒子の状態での一重項酸素の発生とローズベンガルの三重項の定数
【0036】
表4:5,10,15,20‐テトラキス(m‐ヒドロキシフェニル)‐クロリン(mTHPC)を含有するHSAナノ粒子の物理化学的特性(平均±標準偏差;n=3)
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】溶解したHSA濃度(0.75%‐2.0%)に対する5,10,15,20‐テトラキス(m‐ヒドロキシフェニル)‐ポルフィリン(mTHPP)(○、平均±標準偏差;n=6)および5,10,15,20‐テトラキス(m‐ヒドロキシフェニル)‐クロリン(mTHPC)(●、平均±標準偏差;n=6)とインキュベートされたHSAナノ粒子の薬剤含有量である。
【図2】5から10の範囲のpH値に対する1.5%溶解HSA存在下におけるmTHPP(○)およびmTHPC(●)を含有するHSAナノ粒子の薬剤含有量。
【図3】薬剤吸着工程の間、34.3%(V/V)エタノールに1.5%溶解HSA存在下で調製されたmTHPPを含有するHSAナノ粒子の透過電子顕微鏡画像である。
【図4】A乃至Dは、光増感剤5,10,15,20‐テトラキス(3‐ヒドロキシフェニル)‐ポルフィリン(mTHPP)を含有するHSA系ナノ粒子の細胞取り込みの解析である。
【図5】A乃至Dは、光増感剤5,10,15,20‐テトラキス(3‐ヒドロキシフェニル)‐クロリン(mTHPC)を含有するHSA系ナノ粒子の細胞取り込みの解析である。
【図6】A乃至Dは、各インキュベーション時間後の5つの異なる試料におけるJurkat細胞に対する暗毒性と光毒性の影響である。
【図7】3μMのmTHPC、および各インキュベーション時間後のJurkat細胞による異なる濃度のmTHPCを含有するHSAナノ粒子の細胞取り込みである。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明は、非経口用途に適切な光増感剤に関するタンパク質系ナノ粒子医薬製剤を提供する。タンパク質系ナノ粒子は、生物分解性で、毒性がなく、長期間安定で、非抗原性で、かつ先行技術におけるポリマー系ナノ粒子と比較して細胞への取り込みを促進する。また、それは、一般的には溶解性と安定性に問題がある疎水性の光増感剤であって、かつ特に非経口投与に関して製剤化の主な障害となる、クロリンおよびバクテリオクロリンのような上記感光性の高い化合物のためのタンパク質系ナノ粒子を調製する適切な方法を提供する。
【0039】
また、本発明は、好ましくは主としてクロリンおよびバクテリロクロリン類の群から選択される光増感剤を用いた光増感剤含有ナノ粒子の医薬製剤の調製方法を提供する。また、本発明に係る当該方法は、当技術分野で既知の他の多様な疎水性の光増感剤を用いることができる。
【0040】
その上、光力学的療法における臨床使用のためのHSAナノ粒子をベースにした疎水性の光増感剤製剤に関する使用方法が提供される。ナノ粒子系製剤は、静脈投与のために疎水性の光増感剤を可溶化するために用いられる。その使用方法は、光増感剤を封入したナノ粒子の投与と、標的組織における蓄積と、特有の波長の光による光増感剤の活性化とを含む。投与は、好ましくは非経口手段、例えば、これに限定されないが静脈注射による。極めて細い毛細管が5‐6μmの範囲であるために、ナノ粒子には、他の投与システムよりも静脈投与が好ましい。
【0041】
HSA系ナノ粒子医薬製剤の治療上の使用は、これらに限定されないが、皮膚疾患、眼科疾患、泌尿器疾患および関節炎のような炎症疾患を含む。腫瘍組織、新生組織形成、過形成および関連疾患の処置のための使用がより好ましい。
【0042】
光増感剤を含有するナノ粒子の調製に用いられる物質
1.ヒト血清アルブミン(HSA):
ヒト血清アルブミン(HSA)は、ヒトの血漿中で最も豊富なタンパク質である。それは、可溶性で単量体である。ここで用いられるアルブミンは、ヒト由来のもの、あるいはヒト血清アルブミンの組み換え体(rHSA)が好ましい。HSA、血漿タンパク質は、ナノ粒子調製のために用いられる他の物質よりも、それらが生物分解性であって、決められたサイズで調製することが容易である点で明らかに優れている。さらに、それらをリガンドの結合および表面修飾に適するようにするチオール基、アミノ基およびカルボキシル基のような反応基を、それらは保持できる。薬剤封入HSAは、プロテアーゼ酵素によって容易に代謝され、薬剤の含有量が定量可能である。
【0043】
本発明での調製に用いられるHSAは、シグマアルドリッチ社から入手することができる(アガロースゲルの電気泳動で96‐99%の純度)。製品は、HIV I、HIV II、HCVおよびHbsAgに陰性であることが確かめられた。タンパク質は、凍結乾燥状態で提供された。
【0044】
2.光増感剤
本発明で用いられる光増感剤は、好ましくは、クロリンおよびバクテリオクロリン類のテトラピロール、すなわちそれぞれジヒドロ‐ポルフィリンおよびテトラヒドロ‐ポルフィリンである。当該光増感剤は、天然物由来でも全合成によるものであってもよい。クロリン又はバクテリオクロリンの全合成は、はじめにポルフィリンの合成、続いてそれをクロリンおよびバクテリオクロリン系に変換することによって行われる。
【0045】
本発明で用いられるクロリンおよびバクテリオクロリンは、好ましくは次の構造を有する。
【化1】
ここで、
R1は、HまたはOHである。
R2からR5は、‐OH、‐COOH、‐NH2、‐COOX、‐NHX、OX、‐NH‐Y‐COOHまたは‐CO‐Y‐NH2からなる置換基の群から互いに独立して選択され、フェニル環のメタ‐、パラ‐位のいずれかにおける置換基である。
このとき、
Xは、n=1‐30の(CH2CH2O)nCH3を有するポリエチレングリコール残基あるいは炭水化物基である。
Yは、n=1‐30のペプチドまたはオリゴペプチドである。
環Dは、次の構造を有する。
【化2】
【0046】
本発明におけるナノ粒子で製剤化されるのに特に好ましいクロリンは、この構造を有する。
【化3】
【0047】
以下で開示される方法によって調製されたナノ粒子は、予測可能なサイズと均一性(サイズのぱらつきにおいて)を有する。ナノ粒子は、無菌製造工程で調製される。好ましくは、HSA系ナノ粒子は、直径500nm未満の平均サイズを有する。用語「直径」は、ナノ粒子が必ず球形状であることを意味するのではない。当該用語は、ナノ粒子のだいたいの平均幅を意味する。
【0048】
ナノ粒子は、臨床使用のためにあらゆる毒性物質を含んではならず、このため、通常、ナノ粒子は、オートクレーブ、エチレンオキシドの使用およびガンマ線照射のような当技術分野で既知の様々な手段で無菌化される。しかし、これらの従来の無菌化の方法は、本発明の光増感剤製剤に適合しない。このように化学的および熱的に反応性のある物質に対する1つの選択肢は、決められたサイズの膜フィルターを通す無菌ろ過である。本発明では、医療用途に応じて、ナノ粒子が完全な無菌条件下で調製される。
【0049】
本発明に係る特に好ましい実施の形態では、HSA系ナノ粒子は、500nm未満の平均粒子サイズであって、光増感剤はテモポルフィン、5,10,15,20‐テトラキス(3‐ヒドロキシフェニル)‐クロリン(mTHPC)である。本発明に係る他の実施の形態では、HSA系ナノ粒子は、500nm未満の平均粒子サイズであって、光増感剤は2,3‐ジヒドロキシ‐5,10,15,20‐テトラキス(3‐ヒドロキシフェニル)‐クロリン(mTHPD‐OH)である。本発明に係るさらに他の実施の形態では、5,10,15,20‐テトラキス(m‐ヒドロキシフェニル)‐ポルフィリン(mTHPP)が光増感剤として用いられる。
【0050】
本発明のナノ粒子は、保存上の安定性を改良するために脱水されてもよい。脱水の好ましい方法は、凍結乾燥か凍結真空乾燥である。凍結乾燥の間および水媒体での再構成の間の安定性を改良するために、添加剤として凍結乾燥保護剤が任意に用いられてもよい(Anhorn, M.G., Mahler, H.-C., Langer, K., Freeze-drying of human serum albumin (HSA)-nanoparticles with different excipients. Int. J. Pharm. 2008, 363, 162-169)。
【0051】
本発明に係るHSA系ナノ粒子は、脱溶媒和法で調製された。原理上は、HSA水溶液のタンパク質脱溶媒和は、エタノール、メタノール、イソプロパノールおよび(または)アセトンのような親水性の有機溶媒の調節された添加によって誘導される。別の方法として、濃縮されたポリエチレングリコール溶液(水に≧20%;好ましい実施の形態では40%)の添加が脱溶媒和のために用いられる。得られたナノ粒子は、熱処理または二官能性アルデヒド(すなわちグルタルアルデヒド)かホルムアルデヒドで安定化された。
【0052】
前もって形成されたナノ粒子への光増感剤の吸着は、溶解アルブミンの存在下で実行された。薬剤含有ナノ粒子は、これらに限定されないがグルコース、トレハロース、スクロース、ソルビトールおよびマンニトール等を含む抗凍結剤の存在下で凍結乾燥される。
【0053】
本発明における光増感剤の治療上の有効濃度は、1mgのHSAナノ粒子に対し約10から50μgであって、これは水に懸濁した際の5‐25mg/ml、特に8mg/mlの粒子含量に相当する。HSAナノ粒子への薬剤の取り込みは、光増感剤の存在下、脱溶媒和剤としてポリエチレングリコールを使用したHSAの脱溶媒和によって行われる。ナノ粒子調製の全工程は、無菌状態下で行われた。
【0054】
本発明は以下の実施例によってさらに説明されるが、これらに限定されない。
【0055】
実施例1a:
光増感剤5,10,15,20‐テトラキス(m‐ヒドロキシフェニル)‐ポルフィリン(mTHPP)を含有するHSA系ナノ粒子の調製と特徴付け;粒子表面への吸着結合(表1参照)
ヒト血清アルブミン(HSA)系ナノ粒子が脱溶媒和法で調製された。原理上、100mgのHSAが1mlの10mM塩化ナトリウム溶液に溶解された。pHは8に調製され、溶液が0.22μmのろ過器(Schleicher and Schuell社、ダッセル、ドイツ)を通して事前にろ過された。このろ過処理は、基本的に全ての細菌を除去するのに十分である。ナノ粒子は、室温で攪拌しながら(380rpm)、4.0mlのエタノールを持続的に添加することで形成された。エタノールの決められた量が1ml/分の速度でポンプ装置(Ismatec IPN社、グラットブルグ、スイス)を用いて添加される。タンパク質の脱溶媒和の終了後、化学的架橋によって得られるタンパク質ナノ粒子を安定化させるために57.76μLの8%グルタルアルデヒド水溶液が添加された。用いられたグルタルアルデヒドの濃度は、100mgのHSAにおけるアミノ基が化学量論的に100%架橋する量に相当する。次に、粒子が1時間攪拌され、10分間、20,817×gでの遠心分離を3回行うことで精製され、沈殿が1.0mlの水に再拡散された。再拡散工程は、超音波浴で5分間行われた。ナノ粒子の量は、微小重力で決定され、15.0mg/mlに合わされた。
【0056】
薬剤の付加
典型的には、100mgのHSAが1mlの10mM塩化ナトリウム溶液に溶解された。pHは8.0に滴定され、当該溶液は0.22μmのろ過器(Schleicher and Schuell社、ダッセル、ドイツ)に通された。330.0μLの精製されたHSAナノ粒子懸濁液(15mg/ml)に対して、56.3、75.0、93.8、112.5、131.3および150.0μL(0.75‐2.0%)の得られたHSA水溶液がそれぞれ加えられた。図1は、システムにおいて溶解されたHSAの濃度に対するHSA系ナノ粒子の薬剤含有量を示す。懸濁液は、精製水で500.0μLに合わされ、続けて112.5μLの保存されていたmTHPPエタノール溶液(96%エタノール(V/V)、1mg/ml)および137.5μLの96%エタノール(V/V)が添加された。インキュベーションが5から10のpH値で行われた(図2参照)。試料は、持続的に振とうしながら(15℃、660rpm)、2時間インキュベーションされた。15℃で10分間、20,817×gで繰り返し遠心分離することで粒子が精製され、5分間の超音波浴内で1mlの水に再拡散された。図2には、5から10の範囲のpH値に対する、1.5%の溶解HSAの存在下でmTHPP(○)とmTHPC(●)を含有するHSA系ナノ粒子の薬剤含有量が示された(平均±標準偏差;n=3)。HSA系ナノ粒子の薬剤含有量がHSAの濃度とそのpHに依存することを、図1および2は示す。pH値は、薬剤の付加に影響を与える。
【0057】
粒子調製に用いられる全ての溶液は、殺菌され、細孔サイズが0.22μmの膜を通して事前にろ過された。用いられた全ての器具が20分間以上、121℃でオートクレーブされた。粒子調製の全ての操作工程が層流キャビネット内で行われた。このため、本発明のHSA系ナノ粒子は、治療上用いられる無菌のナノ粒子の製造を保証する完全な無菌状態下で製剤化された。
【0058】
平均粒子サイズと多分散性がZetasizer 300HSA(Malvern Instruments社、マルバーン、英国)を用いた光子相関分光法によって測定された。ナノ粒子の量は、微小重力で決定された。粒子の形態は、透過電子顕微鏡法(TEM)で決定された。図3は、薬剤吸着工程において1.5%溶解HSAの存在下の34.3%(V/V)エタノールで調製されたmTHPP含有HSAナノ粒子のTEMによって撮像された画像を示す。
【0059】
間接的な定量方法:ナノ粒子の上清中で結合してない薬剤の分光光度定量後にナノ粒子のmTHPP含有量が算出された。
【0060】
直接的な定量方法:10mgのペプシンが1mlの1%ギ酸水溶液に溶解された。光増感剤含有HSAナノ粒子1.0mgを含む分割量が250μLのペプシン溶液に加えられた。混合物は、精製水で500.0μLに調製された。試料は、持続的な振とう下で2時間インキュベートされた。インキュベーション後、1.0mlの96%エタノール(V/V)が添加され、溶液が遠心分離された(15℃、20,817×g、30分)。800.0μlの上清に、200μLの50mM重炭酸塩バッファー(pH=9)が添加された。精製されたナノ粒子に付着した光増感剤の量を決定するために、溶液がmTHPPに関して512nm(mTHPCの場合は517nm)で光度的に測定された。
【0061】
次のプロトコールに従って、ナノ粒子の凍結乾燥が実行される。
凍結乾燥工程において、トレハロースが3%(m/V)の濃度でナノ粒子試料に添加された。試料は、凍結乾燥機に移され、装置内温度が1℃/分の速度で5℃から−40℃に下げられた。圧力は、0.08mbarに設定された。これらのパラメータは、6時間維持された。0.5℃/分で−40℃から−25℃まで温度を上昇させることによって、一次乾燥が終了した。圧力は変化させずに維持された。一次乾燥の熱傾斜の終了時点で、圧力上昇試験(PRT)が実行された。一次乾燥の終了に伴い、0.2℃/分で25℃まで温度を上昇させることで二次乾燥が行われた。この温度は、圧力60mT(=0.08mbar)で6時間維持された。
【0062】
ナノ粒子の無菌化は、欧州薬局方の研究論文2.6.1「無菌」に従って確認された。無菌試験は、当該研究論文に記載されているように直接接種法によって行われた。
【0063】
表1は、上記方法を用いて調製された5,10,15,20‐テトラキス(m‐ヒドロキシフェニル)‐ポルフィリン(mTHPP)を含有するHSAナノ粒子の物理化学的特性を示す(平均±標準偏差、n=6)。
【表1】
【0064】
表2は、上記の方法を用いて調製された5,10,15,20‐テトラキス(m‐ヒドロキシフェニル)‐ポルフィリン(mTHPP)を含有するHSAナノ粒子の蛍光寿命を示す。調製は、それぞれ0.75%および2.0%溶解HSAの存在下で行われた。最長の成分τ3は、8.2nsであって、これは、mTHPP単量体(9.6ns)のそれに近い。このように寿命がわずかに短くなることは、大きな分子に付着した光増感剤において報告されており、例えば、デンドリマーと組み合わされたフェオフォルバイドである。τ3の大きさは、mTHPPを含有するHSAナノ粒子の蛍光強度の合計の40%を超えた。同時に、2.1‐2.3nsの減衰時間τ2は、約25%の大きさを示す。最短の寿命τ4(0.35ns)は、全体の蛍光シグナルに対して32.9%寄与している。
【表2】
【0065】
表3は、対照となるローズベンガルと光増感剤を含有するHSAナノ粒子調製物によって発生した三重項状態および一重項酸素の寿命を示す。ローズベンガルは、Redmondらによって以前記載されたように(1999)、寿命と量子収量とを示す。ナノ粒子の量子収量は両方の調製物について減少を示したが、活性酸素種の寿命の増加が見られた。一重項酸素の寿命の増加は、光増感剤が単量体の状態で保たれていることを示唆している。ナノ粒子の表面の低酸素環境のせいで、量子収量の低下が予想された。HSAナノ粒子の分解および光増感剤の放出後に一重項酸素の発生が増加することが考えられる。
【表3】
【0066】
実施例1b
光増感剤mTHPCを含有するHSA系ナノ粒子の調製と特徴付け;粒子表面への吸着結合(表4)
mTHPPの代わりにmTHPCを用いたことを除いてナノ粒子が実施例1aに従って調製された。
【0067】
mTHPCを含有するナノ粒子が実施例1aで記載されたように特徴付けられた。表4は、5,10,15,20‐テトラキス(m‐ヒドロキシフェニル)‐クロリン(mTHPC)を含有するHSAナノ粒子の物理化学的特性を示す(平均±標準偏差、n=3)。
【表4】
【0068】
実施例1c
光増感剤mTHPCを含有するHSA系ナノ粒子の調製と特徴付け;封入結合
ヒト血清アルブミン(HSA)系ナノ粒子が、脱溶媒和剤としてポリエチレングリコールを用いた脱溶媒和法によって調製された。原理上、90mgのHSAが0.9mlの10mM塩化ナトリウム溶液に溶解された。pHは6‐8に調製され、溶液が0.22μmろ過器(Schleicher and Schuell社、ダッセル、ドイツ)を通してろ過された。mTHPCは、3、7.5および15mg/mlのmTHPCを含む0.1mlのエタノール溶液の状態でそれぞれ添加された。15分間のインキュベーションの後、ナノ粒子は、室温で攪拌しながら(400‐500rpm)、4.0mlのポリエチレングリコール(PEG4000)水溶液を持続的に添加することで形成された。エタノールの決められた量が1ml/分の速度でポンプ装置(Ismatec IPN社、グラットブルグ、スイス)を用いて添加される。タンパク質の脱溶媒和の終了後、化学的架橋によって得られるタンパク質ナノ粒子を安定化させるために78μL(または、それぞれ104および182μl)の8%グルタルアルデヒド水溶液が添加された。用いられたグルタルアルデヒドの濃度は、90mgのHSAにおけるアミノ基が化学量論的に150%(または、それぞれ200%および350%)架橋する量に相当する。粒子が3時間攪拌され、10分間、20,817×gでの遠心分離を3回行うことで精製され、超音波浴(5分)で1.0mlの水に再拡散された。ナノ粒子の量は、微小重力で決定され、15.0mg/mlに調製された。
【0069】
粒子調製に用いられる全ての溶液は、殺菌され、細孔サイズが0.22μmの膜を通してろ過された。用いられた全ての道具が20分間以上、121℃でオートクレーブされた。粒子調製の全ての操作工程が層流キャビネット内で行われた。
【0070】
mTHPCを含有するナノ粒子が実施例1aに記載されたように特徴付けされた。
【0071】
実施例2a
光増感剤5,10,15,20‐テトラキス(3‐ヒドロキシフェニル)‐ポルフィリン(mTHPP)を含有するHSA系ナノ粒子の細胞取り込みの解析(図4A‐D)
HSA系ナノ粒子の細胞取り込みと細胞内分布を解析するために、共焦点レーザー走査顕微鏡法が用いられた。DiFi細胞がガラススライド(Becton Dickinson社)上で培養され、37℃で4時間、ナノ粒子製剤とインキュベーションされた。続いて、細胞がPBSで2回洗浄され、コンカナバリンA AlexFluor350(50μg/ml;Invitrogen社、カルルスルーエ)によって膜が2分間染色された。細胞は、0.4%パラホルムアルデヒドで6分間固定された。固定後、細胞は洗浄され、次にVectashield HardSet Mounting培地(Axxora社、グルンベルグ)に組み込まれた。顕微鏡解析は、510 NLO Meta装置(Zeiss社、イェナ)、カメレオンフェムト秒あるいはアルゴンイオンレーザーおよびLSM Image Examinerソフトウェアを備えるAxiovert 200M顕微鏡で行われた。HSA系ナノ粒子の緑色自己蛍光と光増感剤5,10,15,20‐テトラキス(3‐ヒドロキシフェニル)‐ポルフィリン(mTHPP)の赤色自己蛍光が分布の決定に利用された。
【0072】
図4‐Dは、共焦点レーザー走査顕微鏡法によって調べられた5,10,15,20‐テトラキス(3‐ヒドロキシフェニル)‐ポルフィリン(mTHPP)を含有するHSA系ナノ粒子(0.75および2.00%溶解HSA)の細胞取り込みおよび細胞内分布を示す。DiFi細胞は、ガラススライド上で培養され、ナノ粒子と37℃で4時間インキュベートされた。光増感剤mTHPPの赤色自己蛍光とナノ粒子の緑色増感剤とが用いられた。写真は、細胞の内側部分を撮像したものである。図4A‐Bは、mTHPPを含有するHSAナノ粒子(0.75%溶解HSA)と細胞のインキュベーションである。図4C‐Dは、mTHPPを含有するHSAナノ粒子(2.00%溶解HSA)と細胞のインキュベーションである。図4Aおよび図4Cは、緑色ナノ粒子のチャネルを示し、図4Bおよび図4Dは、赤色光増感剤のチャネルを示す。スケールバーは20μmである。
【0073】
実施例2b
光増感剤5,10,15,20‐テトラキス(3‐ヒドロキシフェニル)‐クロリン(mTHPC)を含有するHSA系ナノ粒子の、それぞれ細胞取り込みおよび細胞吸着(図5A‐D)
図5A‐Dは、共焦点レーザー走査顕微鏡法によって調べられた光増感剤5,10,15,20‐テトラキス(3‐ヒドロキシフェニル)‐クロリン(mTHPC)を含有するHSA系ナノ粒子(0.75%および2.00%溶解HSA)の細胞取り込み/吸着および細胞内分布を示す。DiFi細胞は、ガラススライド上で培養され、37℃で4時間、ナノ粒子とインキュベーションされた。光増感剤(mTHPC)の赤色自己蛍光及びナノ粒子の緑色自己蛍光が使用された。写真は、細胞の内側部分を撮像したものである。図5A‐Bは、mTHPCを含有するHSAナノ粒子(0.75%溶解HSA)と細胞のインキュベーションである。図5C‐Dは、mTHPCを含有するHSAナノ粒子(2.00%溶解HSA)と細胞のインキュベーションである。図5Aおよび図5Cは、緑色ナノ粒子のチャネルを示し、図5Bおよび図5Dは、赤色光増感剤のチャネルを示す。スケールバーは20μmである。
【0074】
HSA‐mTHPPの代わりにHSA‐mTHPCが用いられたことを除いて試料が実施例2aに従って調製された。
【0075】
実施例3
光増感剤を含有したナノ粒子の細胞取り込みおよび光力学活性
mTHPC‐HSA‐ナノ粒子の細胞取り込みおよび光毒性:
当該ナノ粒子製剤の細胞取り込みおよび光毒性が、RPMI1640培地で培養されたJurkat細胞懸濁液を用いて調べられた。全ての細胞は、3μMのmTHPCおよびmTHPCを含有した異なる濃度のHSA系ナノ粒子とともに設定された時間(1時間、3時間、5時間、24時間)インキュベートされた。HSA濃度が異なるHSA系ナノ粒子が、細胞懸濁液の細胞取り込みおよび光毒性の影響を調べるために用いられた。
【0076】
3つの異なる濃度のHSAを有するmTHPC‐HSA系ナノ粒子の各試料:
1. グルタルアルデヒドで架橋されている40%のHSA
2. グルタルアルデヒドで架橋されている100%のHSA
3. グルタルアルデヒドで架橋されている200%のHSA
Jurkat細胞の懸濁液が次の5つの試料とインキュベートされた。
1. 対照:光増感剤を細胞に加えない
2. 3μMのmTHPCのみ
3. 40%のHSA‐mTHPC系ナノ粒子
4. 100%のHSA‐mTHPC系ナノ粒子
5. 200%のHSA‐mTHPC系ナノ粒子
【0077】
光毒性
細胞に対する光毒性の影響を調べるために、上記5つの試料とインキュベートされたJurkat細胞懸濁液が2分間、660nmで290mJ/cm2の光量で照射された(LEDを用いて)。
【0078】
トリパンブルー試験が壊死細胞を評価するために用いられ、アポトーシス細胞は、その細胞形状(アポトーシス性のブレブ形成)の変化によって検出された。
【0079】
図6A‐Dは、各インキュベーション時間後の5つの異なる試料でのJurkat細胞に対する暗毒性および光毒性の影響を示す。
【0080】
図6Aは、試料について観察された暗毒性を示し、それは、ほとんどゼロであり、HSA系ナノ粒子による毒性の影響はないことを示すことが明らかになった。それぞれの場合においてJurkat細胞は5つの試料でインキュベートされた。暗室で1時間、3時間、5時間および24時間のインキュベーション後に各試料の分割量が調べられた。トリパンブルー試験が壊死細胞を評価するために用いられ、アポトーシス細胞は、その細胞形状(アポトーシス性のブレブ形成)の変化によって検出された。ほとんど、あるいは全く影響がないことがわかった。言い換えると、用いられたmTHPCの濃度において暗毒性は見られなかった。
【0081】
他方では、図6B、6C、6Dは、光毒性の影響による細胞に対するアポトーシスおよびネクローシスへの効果を、個別におよび一緒に示す。図6Bに対して、図6Cはアポトーシスの割合を示し、図6Dはインキュベーションした培地でのネクローシス割合を個別に示す。図6A‐Dの各対照試料は、光増感剤なしでインキュベートされ、放射された細胞を示す。細胞は、LEDを用いて、暴露時間120秒、290mJ/cm2の光量において660nmで照射された。この実験は、2回繰り返され、各測定で細胞数は、光暴露後2時間で平均を得るために3回計数された。エラーバーは、6回の測定(n=6)の標準偏差を示す。図6Cおよび図6Dは、上記のような異なるインキュベーション時間後に5つの試料でインキュベーションされた場合の、光毒性による細胞に対するアポトーシスおよびネクローシスへの効果をそれぞれ示す。PDTで用いられたとき、本発明に係る製剤は、高い程度のアポトーシス‐長引く、穏やかな細胞死の種類および低い程度のネクローシス‐高い免疫系応答を伴うが腫瘍の回復を低濃度で妨げるのに求められる細胞死の種類を開始させることが見出された。
【0082】
mTHPCおよびmTHPCを含有するHSAナノ粒子の細胞取り込みの定量
細胞成長培地(RPMI1640)において、Jurkat細胞懸濁液が、3μMのmTHPCおよび3μMのmTHPC系ナノ粒子を封入した異なる濃度のHSAと、1時間、3時間、5時間、24時間インキュベートされた。インキュベーション後、細胞は計数され(血球計を用いて)、リン酸緩衝溶液(PBS、400×g、3分、2回)で洗浄され、細胞沈殿物が保存され、細胞膜を破壊するために−20℃で一晩、凍結された。超音波を用いて(5分より長く)、これらの細胞からmTHPCがエタノールに抽出された。エタノール抽出におけるmTHPCの濃度は、標準的な蛍光系を用いて蛍光強度を介して決定された。細胞内濃度の計算のために、細胞の直径が10μmであると想定された。
【0083】
図7は、3μMのmTHPC、および異なるmTHPCを含有するHSAナノ粒子の、各インキュベーション時間後のJurkat細胞による細胞取り込みを示す。この実験は、2回繰り返され、各測定で細胞数は平均を得るために3回計数された。エラーバーは、6回の測定(n=6)の標準偏差を示す。
【0084】
本発明に係る好ましい実施の形態が添付された図面を参照することで説明され、本発明は上記実施の形態のみに限定されず、添付の特許請求の範囲に定義された本発明の範囲から逸脱することなく、当業者が改変および改良できることが理解される。
【0085】
(関連出願の相互参照)
本願は、2009年12月11日にKlaus Langerらによって出願された「光力学的療法(PDT)のためのヒト血清アルブミンをベースにしたナノ粒子キャリアシステム」というタイトルの米国仮出願番号第61/285,902号の利益と優先権とを主張し、本願で参照することにより組み込まれる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直径500nm未満の範囲のヒト血清アルブミン系ナノ粒子と、
治療上有効量のテトラピロール系の疎水性光増感剤と、
安定化剤と、
を含み、
前記光増感剤は、
式Aのクロリン又はバクテリオクロリン誘導体であって、
【化1】
ここで、
R1は、HまたはOHであって、
R2からR5は、‐OH、‐COOH、‐NH2、‐COOX、‐NHX、OX、‐NH‐Y‐COOHまたは‐CO‐Y‐NH2からなる置換基の群から互いに独立して選択され、フェニル環のメタ‐、パラ‐位のいずれかにおける置換基であって、
このとき、
Xは、n=1‐30の(CH2CH2O)nCH3を有するポリエチレングリコール残基あるいは炭水化物基であって、
Yは、n=1‐30のペプチドまたはオリゴペプチドであって、
環Dは、次の構造を有し、
【化2】
前記安定化剤は、
グルタルアルデヒド、ホルムアルデヒドおよびこれらの組み合わせを含む標準的な安定剤の群から選択される、
光力学的療法における臨床使用のためのナノ粒子医薬製剤。
【請求項2】
前記光増感剤の治療上有効な濃度は、
HSAナノ粒子mgあたり10から50μgで可変であって、水懸濁液において5‐25mg/mlの粒子量に相当する、
ことを特徴とする請求項1に記載のナノ粒子医薬製剤。
【請求項3】
前記光増感剤は、
テモポルフィン(mTHPC)、2,3‐ジヒドロキシ‐5,10,15,20‐テトラキス(3‐ヒドロキシフェニル)‐クロリン(mTHPD‐OH)または5,10,15,20‐テトラキス(3‐ヒドロキシフェニル)‐ポルフィリン(mTHPP)である、
ことを特徴とする請求項1に記載のナノ粒子医薬製剤。
【請求項4】
前記薬剤含有ナノ粒子は、
グルコース、トレハロース、スクロース、ソルビトール、マンニトールおよびこれらの組み合わせの群から選択される抗凍結剤の存在下で凍結乾燥される、
ことを特徴とする請求項1に記載のナノ粒子医薬製剤。
【請求項5】
好ましくは、静脈注射を含む非経口手段によって投与される、
ことを特徴とする請求項1に記載のナノ粒子医薬製剤。
【請求項6】
a.塩化ナトリウムを含むヒト血清アルブミン水溶液のタンパク質を脱溶媒和し、pHを調整するステップと、
b.ろ過器を通して前記溶液をろ過するステップと、
c.得られたナノ粒子を安定化させ、精製するステップと、
d.粒子表面への吸着結合、封入結合およびこれらの組み合わせによって光増感剤を付加するステップと、
を含む、
請求項1に記載のナノ粒子医薬製剤の無菌条件下での調製方法。
【請求項7】
前記タンパク質の脱溶媒和のステップは、
エタノール、メタノール、イソプロパノール、アセトンおよびこれらの組み合わせの群から選択される親水性の有機溶媒の調節された添加を含む、
ことを特徴とする請求項6に記載の調製方法。
【請求項8】
前記タンパク質の脱溶媒和のステップは、
濃縮されたポリエチレングリコール溶液の添加を含む、
ことを特徴とする請求項6に記載の調製方法。
【請求項9】
前記安定化するステップは、
少なくとも1つの熱処理、および少なくとも1つの安定化剤を用いる、
ことを特徴とする請求項6に記載の調製方法。
【請求項10】
請求項1に記載のナノ粒子医薬製剤の光力学的療法における使用。
【請求項11】
前記光力学的療法は、
腫瘍、腫瘍性疾患および関連する疾患に対するものである、
ことを特徴とする請求項10に記載のナノ粒子医薬製剤の光力学的療法における使用。
【請求項12】
前記光力学的療法は、
皮膚疾患、眼科疾患および泌尿器疾患および関連する疾患に対するものである、
ことを特徴とする請求項10に記載のナノ粒子医薬製剤の光力学的療法における使用。
【請求項13】
前記光力学的療法は、
関節炎、細菌に感染した組織の類似する炎症疾患および関連する疾患に対するものである、
ことを特徴とする請求項10に記載のナノ粒子医薬製剤の光力学的療法における使用。
【請求項1】
直径500nm未満の範囲のヒト血清アルブミン系ナノ粒子と、
治療上有効量のテトラピロール系の疎水性光増感剤と、
安定化剤と、
を含み、
前記光増感剤は、
式Aのクロリン又はバクテリオクロリン誘導体であって、
【化1】
ここで、
R1は、HまたはOHであって、
R2からR5は、‐OH、‐COOH、‐NH2、‐COOX、‐NHX、OX、‐NH‐Y‐COOHまたは‐CO‐Y‐NH2からなる置換基の群から互いに独立して選択され、フェニル環のメタ‐、パラ‐位のいずれかにおける置換基であって、
このとき、
Xは、n=1‐30の(CH2CH2O)nCH3を有するポリエチレングリコール残基あるいは炭水化物基であって、
Yは、n=1‐30のペプチドまたはオリゴペプチドであって、
環Dは、次の構造を有し、
【化2】
前記安定化剤は、
グルタルアルデヒド、ホルムアルデヒドおよびこれらの組み合わせを含む標準的な安定剤の群から選択される、
光力学的療法における臨床使用のためのナノ粒子医薬製剤。
【請求項2】
前記光増感剤の治療上有効な濃度は、
HSAナノ粒子mgあたり10から50μgで可変であって、水懸濁液において5‐25mg/mlの粒子量に相当する、
ことを特徴とする請求項1に記載のナノ粒子医薬製剤。
【請求項3】
前記光増感剤は、
テモポルフィン(mTHPC)、2,3‐ジヒドロキシ‐5,10,15,20‐テトラキス(3‐ヒドロキシフェニル)‐クロリン(mTHPD‐OH)または5,10,15,20‐テトラキス(3‐ヒドロキシフェニル)‐ポルフィリン(mTHPP)である、
ことを特徴とする請求項1に記載のナノ粒子医薬製剤。
【請求項4】
前記薬剤含有ナノ粒子は、
グルコース、トレハロース、スクロース、ソルビトール、マンニトールおよびこれらの組み合わせの群から選択される抗凍結剤の存在下で凍結乾燥される、
ことを特徴とする請求項1に記載のナノ粒子医薬製剤。
【請求項5】
好ましくは、静脈注射を含む非経口手段によって投与される、
ことを特徴とする請求項1に記載のナノ粒子医薬製剤。
【請求項6】
a.塩化ナトリウムを含むヒト血清アルブミン水溶液のタンパク質を脱溶媒和し、pHを調整するステップと、
b.ろ過器を通して前記溶液をろ過するステップと、
c.得られたナノ粒子を安定化させ、精製するステップと、
d.粒子表面への吸着結合、封入結合およびこれらの組み合わせによって光増感剤を付加するステップと、
を含む、
請求項1に記載のナノ粒子医薬製剤の無菌条件下での調製方法。
【請求項7】
前記タンパク質の脱溶媒和のステップは、
エタノール、メタノール、イソプロパノール、アセトンおよびこれらの組み合わせの群から選択される親水性の有機溶媒の調節された添加を含む、
ことを特徴とする請求項6に記載の調製方法。
【請求項8】
前記タンパク質の脱溶媒和のステップは、
濃縮されたポリエチレングリコール溶液の添加を含む、
ことを特徴とする請求項6に記載の調製方法。
【請求項9】
前記安定化するステップは、
少なくとも1つの熱処理、および少なくとも1つの安定化剤を用いる、
ことを特徴とする請求項6に記載の調製方法。
【請求項10】
請求項1に記載のナノ粒子医薬製剤の光力学的療法における使用。
【請求項11】
前記光力学的療法は、
腫瘍、腫瘍性疾患および関連する疾患に対するものである、
ことを特徴とする請求項10に記載のナノ粒子医薬製剤の光力学的療法における使用。
【請求項12】
前記光力学的療法は、
皮膚疾患、眼科疾患および泌尿器疾患および関連する疾患に対するものである、
ことを特徴とする請求項10に記載のナノ粒子医薬製剤の光力学的療法における使用。
【請求項13】
前記光力学的療法は、
関節炎、細菌に感染した組織の類似する炎症疾患および関連する疾患に対するものである、
ことを特徴とする請求項10に記載のナノ粒子医薬製剤の光力学的療法における使用。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【図6】
【図7】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【図6】
【図7】
【公表番号】特表2013−513609(P2013−513609A)
【公表日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−543221(P2012−543221)
【出願日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【国際出願番号】PCT/US2010/059364
【国際公開番号】WO2011/071968
【国際公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(512152868)バイオリテック ファーマ マーケティング リミテッド (3)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【国際出願番号】PCT/US2010/059364
【国際公開番号】WO2011/071968
【国際公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(512152868)バイオリテック ファーマ マーケティング リミテッド (3)
【Fターム(参考)】
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