説明

光合成微生物による脂肪酸の分泌

無機炭素を分泌された脂肪酸に変換する組換え型光合成微生物を記述する。分泌された脂肪酸を細胞を採収する必要なく培養培地から回収する方法も同様に記述される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2007年12月11日に提出された米国特許仮出願第61/007,333号の恩典を主張する。本出願の内容物は参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
技術分野
本発明は、無機炭素を脂肪酸に変換して、それらを培養培地に分泌する光合成微生物、そのような生物を用いて脂肪酸を産生する方法、およびその用途に関する。脂肪酸は、燃料および化学が含まれる異なる産業における応用のために、直接用いられてもよく、またはエステルなどの代替型、アルコールなどの還元型、もしくは炭化水素に改変されてもよい。
【背景技術】
【0003】
真核生物藻類およびシアノバクテリアが含まれる光合成微生物は、極性脂質および中性脂質が含まれる様々な脂質を含有する。極性脂質(たとえば、リン脂質、糖脂質、硫脂質)は、典型的に構造膜に存在するが、中性脂質(たとえば、トリアシルグリセロール、ワックスエステル)は、細胞質の油体または油小球に蓄積する。脂質に基づく燃料および化学物質を光合成微生物から産生するための方法の開発に実質的な研究努力が捧げられている。典型的に、真核生物微小藻類を、栄養豊富な条件下で、一定の細胞密度が達成されるまで生育させて、その後、細胞を栄養欠乏条件下での生育に供すると、それによってしばしば中性脂質の蓄積が起こる。次に細胞を様々な手段(たとえば、凝集剤の添加によって容易にすることができる沈降、その後の遠心)によって採収して、乾燥させた後、脂質を様々な非極性溶媒を用いることによって細胞から抽出する。細胞の採収および脂質の抽出は、費用がかさむ段階である。細胞の採収および抽出を必要とすることなく、光合成微生物から脂質を得ることが望ましいであろう。
【0004】
PCT公開番号WO2007/136762(特許文献1)およびWO2008/119082(特許文献2)は、微生物を用いるバイオ燃料成分の産生を記述している。これらの文書は、明らかに、短鎖および長鎖アルコール、炭化水素、脂肪アルコール、およびワックス、脂肪酸エステル、または脂肪エステルが含まれるエステルである脂肪酸誘導体の、これらの生物による産生を開示している。脂肪酸産生が記述されている範囲内において、脂肪酸はこれらの誘導体に対する中間体として提唱され、ゆえに、脂肪酸は分泌されない。さらに、主な炭素源として無機炭素を含有する培養培地において生育させた光合成生物を用いて、無機炭素を分泌される脂肪酸に直接変換するという開示はない。本発明は、これらの貴重な化合物を回収するために、光合成生物が脂肪酸を培地に分泌する効率を利用する。
【0005】
本発明には、光合成微生物における異種アシル-ACPチオエステラーゼ(TE)遺伝子の発現が含まれる。これらの遺伝子の多くは、脂肪種子における脂質代謝を変更するためのその用途と共に既に記述されている。脂肪酸の合成およびさらなる代謝における様々な段階を触媒するタンパク質をコードする遺伝子も同様に広く記述されている。
【0006】
アミノ酸配列アラインメントのみならず機能に基づいて、2つの機能的なクラスの植物アシル-ACPチオエステラーゼ(不飽和脂肪酸認識FatA対飽和脂肪酸認識Fat B)を群に分けることができる。Fat Aは、18:1-ACPに対して顕著な選択性を有し、18:0-および16:0-ACPに対して軽微な活性を示し、Fat Bは主に、炭素8〜16個のあいだで変動する鎖長を有する飽和アシル-ACPを加水分解する。いくつかの研究は、特別製の脂肪種子を作成するための戦略として、完全なまたは変更された基質特異性を有する植物チオエステラーゼの操作に重点を置いている。
【0007】
図1において示されるように、脂肪酸シンテターゼは、マロニル-アシル担体タンパク質(ACP)が、最初に基質であるアセチル-CoAによって縮合されて、アセトアセチル-ACPを形成してCO2を遊離させる反復サイクルを触媒する。次にアセトアセチル-ACPは還元されて、脱水され、さらにブチリル-ACPに還元された後、それ自身がマロニル-ACPと縮合されて、サイクルが繰り返され、毎回炭素2個の単位が付加される。ゆえに、遊離脂肪酸の産生は、ACPから脂肪酸そのものを遊離させてサイクルを切断するであろうチオエステラーゼによって増強されるであろう。すなわち、アシル-ACPは、サイクルに再度入ることが防止される。脂肪酸の産生はまた、脂肪酸シンテターゼレベルを増強する段階、およびそれによって脂肪酸の分解またはさらなる代謝が起こる任意の酵素を阻害する段階によって助長されるであろう。
【0008】
図2は、長鎖のアシル-ACPの連続的形成に関するより詳細な記述を提示する。示されるように、図2において記載されるチオエステラーゼ酵素は、ACPチオエステルから脂肪酸を遊離させる。
【0009】
この原理を利用して、Dehesh, K., et al., The Plant Journal (1996) 9:167-172(非特許文献1)は、「クフェア・フッケリアナ(Cuphea hookeriana)のチオエステラーゼcDNAであるChFatB2の過剰発現によるトランスジェニックキャノーラにおけるオクタン酸(8:0)およびデカン酸(10:0)脂肪酸の高レベル産生」について記述しており、Dehesh, K., et al., Plant Physiology (1996) 110:203-210(非特許文献2)は、「2つの新規チオエステラーゼが、クフェア・パルストリス(Cuphea palustris)脂肪種子のアシル鎖長の二相性分布の重要な決定因子である」ことを報告している。
【0010】
Voelker, T., et al., Science (1992) 257:72-74(非特許文献3)は、「トランスジェニック脂肪種子植物における中鎖に再度向けられる脂肪酸生合成」について記述しており、Voelker, T., and Davies, M., Journal of Bacteriology (1994) 176:7320-7327(非特許文献4)は、「植物の中鎖アシル-アシル担体タンパク質チオエステラーゼの発現による大腸菌(Escherichia coli)の脂肪酸合成の特異性および調節の変更」について記述している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】WO2007/136762
【特許文献2】WO2008/119082
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Dehesh, K., et al., The Plant Journal (1996) 9:167-172
【非特許文献2】Dehesh, K., et al., Plant Physiology (1996) 110:203-210
【非特許文献3】Voelker, T., et al., Science (1992) 257:72-74
【非特許文献4】Voelker, T., and Davies, M., Journal of Bacteriology (1994) 176:7320-7327
【発明の概要】
【0013】
発明の開示
本発明は、無機炭素に由来する脂肪酸を培養培地に分泌させることができる組換え型光合成微生物の産生に向けられる。細胞を採収する必要なく、分泌された脂肪酸を培養培地から取り出すための方法も同様に提供される。これらの改善によって、脂質に基づく燃料および化学物質を光合成微生物から産生する費用がより低くなると予想される。加えて、本発明は、既定の鎖長の脂肪酸の産生を可能にして、このように燃料および化学物質が含まれる多様な異なる産物の処方においてそれらを用いることができる。
【0014】
二酸化炭素(炭酸、重炭酸塩および/または炭酸塩と共に、用語「無機炭素」を規定する)は、光合成プロセスにおいて有機化合物に変換される。無機炭素源は、主な炭素供給原料としてではなく単に混合物または担体として役立つ化合物の任意の他の組み合わせと任意で複合させて無機炭素を送達する任意の方策(たとえば、バイオ燃料(たとえば、エタノール)植物、発電所、石油精錬所ならびに大気および地下源からの放出)を含む。
【0015】
本発明の1つの態様は、少なくとも1つの外因性アシル-ACPチオエステラーゼをコードする少なくとも1つの組換え型発現ベクターを含む、組換え型光合成微生物の培養物に関し、少なくとも1つの外因性のアシル-ACPチオエステラーゼは、これらのACPチオエステルから炭素6〜20個を含有する脂肪酸鎖を優先的に遊離させる。脂肪酸はその炭素源として無機炭素から形成されて、培養物は、炭素源として実質的に無機炭素のみを含有する。外因性のチオエステラーゼの存在は、望ましい脂肪酸の分泌レベルを少なくとも2〜4倍増加させるであろう。
【0016】
具体的に、1つの態様において、本発明は、組換え型光合成微生物の細胞培養物に向けられ、微生物は少なくとも1つの外因性のアシル-ACPチオエステラーゼを産生する少なくとも1つの組換え型発現系を含み、アシル-ACPチオエステラーゼは、炭素6〜20個を含有する脂肪酸鎖を優先的に遊離させて、培養培地は無機炭素を実質的に唯一の炭素源として提供し、および微生物は、アシル-ACPチオエステラーゼによって遊離した脂肪酸を培地に分泌する。代わりの態様において、チオエステラーゼは、炭素6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20個を含有する脂肪酸鎖を優先的に遊離させる。
【0017】
他の局面において、本発明は、これらの培養物をインキュベートする段階およびこれらの分泌された脂肪酸を培養物から回収する段階によって所望の鎖長の脂肪酸を産生するための方法に向けられる。1つの態様において、回収は、分泌された脂肪酸を採収するために固体微粒子吸着体を使用する。このように回収された脂肪酸を、合成によってさらに改変することができ、またはバイオ燃料もしく化学物質の成分として直接用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】当技術分野において公知である脂肪酸合成経路のダイアグラムである。
【図2】当技術分野において公知である多数の鎖長の脂肪酸合成のより詳細なダイアグラムである。
【図3】様々な鎖長の脂肪酸を産生するための酵素クラスを同定する脂肪酸生合成の酵素的概要である。
【図4】培地からの脂肪酸の回収システムの概略図である。
【図5】図4における原理に基づく実験系を示す。
【図6】多様な生物からの代表的なアシル-ACPチオエステラーゼを示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明を実行する様式
本発明は、脂肪酸を培養培地に分泌する光合成微生物と共に、培養培地から脂肪酸を吸着させる方法、ならびにそれらを燃料および化学物質に処理するために収集する方法を提供する。本発明はそれによって、細胞を採収および抽出する必要性をなくすかまたは大きく低減させて、生産コストを実質的に低減させる。
【0020】
図2は、本発明の1つの局面の概要である。図2において示されるように、二酸化炭素は、光合成プロセスにおける多数の段階を用いてアセチル-CoAに変換される。次に、アセチル-CoAは、アセチル-CoAカルボキシラーゼの作用によってマロニル-CoAに変換される。次に、マロニル-CoAがマロニルCoA:ACPトランスアシラーゼの作用によってマロニル-ACPに変換され、これによって、脂肪酸シンテターゼの進行的作用時に、炭素単位2個の連続的付加が起こる。本発明の1つの態様において、プロセスは、適切なチオエステラーゼ(図2においてFatBとして示される)を供給することによって炭素6、8、10、12、14、16、または18個の炭素鎖長で本質的に停止する。この態様においてより長鎖の脂肪酸へのさらなる変換が起こる程度に、細胞バイオマスも同様に採収することができる。分泌された脂肪酸を、たとえばメチルエステル、アルカン、アルケン、α-オレフィンおよび脂肪アルコールが含まれる様々な他の形に変換することができる。
【0021】
チオエステラーゼ(アシル-ACP TE)
遊離脂肪酸を分泌させるために、生物に、所望の長さの脂肪酸を遊離させるように優先的に働く少なくとも1つのチオエステラーゼに関する少なくとも1つの発現系を提供する。そのようなチオエステラーゼをコードする多くの遺伝子が当技術分野において利用可能である。これらのいくつかは、以下の米国特許の主題である。
【0022】
例には、ウンベリラリア・カリフォルニカ(Umbellularia californica)の未成熟種子からのアシル-ACPチオエステラーゼの単離およびそれをコードする遺伝子について記述する、"Plant medium-chain-preferring acyl-ACP thioesterases and related methods,"と題する米国特許第5298421号が含まれる。そのようなチオエステラーゼおよびそのコード遺伝子の他の起源には、"Plant thioesterase having preferential hydrolase activity toward C12 acyl-ACP substrate,"と題する米国特許第5,304,481号、"Plant thioesterases,"と題する米国特許第5,344,771号、"Medium-chain thioesterases in plants,"と題する米国特許第5,455,167号、 "Plant thioesterases,"と題する米国特許第5,512,482号、"Nucleotide sequences of soybean acyl-ACP thioesterase genes,"と題する米国特許第5,530,186号、"Plant medium-chain thioesterases,"と題する米国特許第5,639,790号、"C8 and C10 medium-chain thioesterases in plants,"と題する米国特許第5,667,997号、"Plant acyl-ACP thioesterase sequences,"と題する米国特許第5,723,761号、"Plant thioesterases and use for modification of fatty acid composition in plant seed oils,"と題する米国特許第5,807,893号、"Production of myristate in plant cells,"と題する米国特許第5,850,022号、"Middle chain-specific thioesterase genes from Cuphea lanceolata "と題する米国特許第5,910,631号、"Specific for palmitoyl, stearoyl and oleoyl-alp thioesters nucleic acid fragments encoding acyl-ACP thioesterase enzymes and the use of these fragments in altering plant oil composition,"と題する米国特許第5,945,585号、"Engineering plant thioesterases for altered substrate specificity,"と題する米国特許第5,955,329号、"Nucleotide sequences of canola and soybean palmitoyl-ACP thioesterase genes and their use in the regulation of fatty acid content of the oils of soybean and canola plants,"と題する米国特許第5,955,650号;および"Acyl-ACP thioesterase nucleic acids from maize and methods of altering palmitic acid levels in transgenic plants therewith."と題する米国特許第6,331,664号が含まれる。
【0023】
他は以下のように公開論文において記述されている。
【0024】
Dormann, P. et al., Planta (1993) 189:425-432は、「中鎖およびオレオイル-アシル担体タンパク質にとって特異的な発達中のクフェア種子からの2つのアシル-アシル担体タンパク質チオエステラーゼの特徴付け」について記述している。Dormann, P., et al., Biochimica Biophysica Acta (1994) 1212:134-136は、「コリアンダー(Coriandrum sativum L.)からのオレオイル-アシル担体タンパク質チオエステラーゼをコードするcDNAの大腸菌におけるクローニングおよび発現」について記述している。Filichkin, S., et al., European Journal of Lipid Science and Technology (2006) 108:979-990は、「高ラウリン酸クフェア種からの新規FATBチオエステラーゼ:機能的および相補的分析」について記述している。Jones, A., et al., Plant Cell (1995) 7:359-371は、「パルミトイル-アシル担体タンパク質(ACP)チオエステラーゼおよび植物アシル-ACPチオエステラーゼの進化的起源」について記述している。Knutzon, D. S., et al., Plant Physiology (1992) 100:1751-1758は、「2つのサフラワーオレオイル-アシル担体タンパク質チオエステラーゼcDNAクローンの単離および特徴付け」について記述している。Slabaugh, M., et al., The Plant Journal (1998) 13:611-620は、「中鎖脂肪酸生合成に関連するクフェア・ライチイ(Cuphea wrightii)からの縮合酵素」について記述している。
【0025】
これまで単離されていないが、これらのアシル-ACP TEをコードする追加の遺伝子を、クスノキ(Lauraceae)、ミソハギ(Lythraceae)、ミカン(Rutaceae)、ニレ(Ulmaceae)、およびウォキシア(Vochysiaceae)科の一定の植物が含まれる、その種子油に大量の中鎖脂肪酸を天然に含有する植物から単離することができる。典型的にこれらの植物の種子によって産生される脂肪酸は、グリセロールにエステル化されて、細胞の内部で保持される。次に産物を含有する種子を採収して処理して脂肪酸を単離する。細菌などのこれらの酵素の他の起源も同様に用いられてもよい。
【0026】
植物からの公知のアシル-ACP TEは、そのアミノ酸配列ならびに鎖長および不飽和の程度が異なるアシル-ACPに関するその特異性に基づいて2つの主なクラスに分割されうる。植物アシル-ACP TEの「Fat A」型は、オレオイル-ACPに対して選択的活性を有し、それによってカルボキシル基に対して遠位に炭素9個を有する二重結合1つの炭素18個の脂肪酸であるオレイン酸を放出する。植物のアシル-ACP TEの「FatB」型は、飽和アシル-ACPに対して選択的活性を有し、これは広いまたは狭い鎖長特異性を有しうる。たとえば、クフェアの異なる種からのFatB酵素は、対応するアシル-ACPから長さが炭素8個〜長さが炭素16個の範囲の脂肪酸を放出することが示されている。いくつかの植物アシル-ACP TEをその基質選択性と共に以下の表1に記載する。(脂肪酸は、標準的な簡略表記で表され、コロンの前の数字は、アシル鎖長を表し、コロンの後の数字はアシル鎖における二重結合の数を表す)。
【0027】
(表1)植物アシル-ACPチオエステラーゼ

【0028】
表1において記載された酵素は、例示的であり、以下のアシル-ACP TE(GenPeptアクセッション番号で呼ばれる)をコードする遺伝子などの遺伝子が含まれるがこれらに限定されるわけではないアシル-ACP TEをコードする多くの追加の遺伝子を単離して本発明において用いることができる:

【0029】
本発明において有用な追加のアシル-ACP TE源には:シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)(At);ブラディリゾビウム・ジャポニクム(Bradyrhizobium japonicum)(Bj);セイヨウアブラナ(Brassica napus)(Bn);クスノキ(Cinnamonum camphorum)(Cc);カプシカム・シネンセ(Capsicum chinense)(Cch);クフェア・フッケリアナ(Ch);クフェア・ランセオラータ(Cuphea lanceolata)(Cl);クフェア・パルストリス(Cp);コリアンダー(Cs);ベニバナ(Carthamus tinctorius)(Ct);クフェア・ライチイ(Cw);ギニアアブラヤシ(Elaeis guineensis)(Eg);ワタ(Gossypium hirsutum)(Gh);マンゴスチン(Garcinia mangostana)(Gm):ヒマワリ(Helianthus annuus)(Ha);ジャーマン・アイリス(Iris germanica)(Ig);イチハツ(Iris tectorum)(It);ナツメグ(Myristica fragrans)(Mf);コムギ(Triticum aestivum)(Ta):アメリカニレ(Ulmus Americana)(Ua);およびウンベルラリア・カリフォルニカ(Umbellularia californica)(Uc)が含まれる。例示的なTEを、対応するNCBIアクセッション番号と共に図6に示す。
【0030】
1つの態様において、本発明は、組換え型光合成微生物の1つの培養物における、たとえばC8脂肪酸を主に産生する個々の長さの中鎖脂肪酸の特異的産生を企図する。別の態様において、本発明は、組換え型光合成微生物の1つの培養物において、2つまたはそれより多い異なる長さの脂肪酸、たとえばC8およびC10脂肪酸の組み合わせの産生を企図する。
【0031】
それによって選択された組換え型光合成生物におけるチオエステラーゼの有効量の産生が起こる適した発現系を構築するために、これらの当技術分野において公知の遺伝子の操作を以下に例証する。そのような構築物において、プラスチドトランジットペプチド領域は原核細胞において不適当であることから、この領域をコードする遺伝子の一部を除去することが望ましい可能性がある。または、発現が真核細胞において起こる場合、宿主生物に対して適切なプラスチドトランジットペプチドコード領域を置換してもよい。宿主に応じて好ましいコドンも同様に使用してもよい。
【0032】
他の改変
1つまたは複数の適切なアシル-ACP TE遺伝子に関する発現系を提供することに加えて、光合成宿主にさらなる変更を行ってもよい。たとえば、中鎖長を有するアシル-ACPを優先的に産生するβ-ケトアシルシンターゼ(KAS)をコードする異種遺伝子の発現系を含めるように、宿主を改変してもよい。クフェアの様々な種が含まれるいくつかの植物からのそのようなKAS酵素が記述されている。「KAS IV:クフェア属の種からの3-ケトアシル-ACPシンターゼは中鎖特異的縮合酵素である」ことを記述するDehesh, K., et al., The Plant Journal (1998) 15:383-390;Slabaugh, M., et al., The Plant Journal (1998) 13:611- 620を参照されたく、これらは異種中鎖アシル-ACP TEによる認識および切断のために適当な長さのアシル-ACP分子の利用率を増加させるために役立つであろう。もう1つの例は、異種アシル-ACP TE遺伝子を含有する光合成宿主細胞を、多機能アセチル-CoAカルボキシラーゼをコードする異種遺伝子、またはアセチル-CoAカルボキシラーゼのマルチサブユニット型の様々なサブユニットをコードする異種遺伝子の組に関する発現系を含めるようにさらに改変してもよいことである。脂肪酸生合成経路の追加の酵素または成分をコードする他の異種遺伝子も同様に、アシル-ACP TE含有宿主細胞において導入および発現させることができるであろう。
【0033】
光合成微生物はまた、β-酸化経路酵素をコードする1つまたは複数の遺伝子が不活化もしくはダウンレギュレートされているように、または酵素自身が阻害されているように改変されてもよい。これはアシル-ACPから放出された脂肪酸の分解を防止して、このように分泌された脂肪酸の収率を増加させるであろう。所望の産物が中鎖脂肪酸である場合、基質としてこれらの鎖長を選択的に用いるアシル-CoAシンテターゼおよび/またはアシル-CoAオキシダーゼ酵素をコードする遺伝子の不活化またはダウンレギュレーションが有益であろう。中鎖特異的アシル-CoAシンテターゼおよび/または中鎖特異的アシル-CoAオキシダーゼ酵素をコードする遺伝子における、酵素の活性が減損するような変異も同様に、分泌された脂肪酸の収率を増加させるために有効であろう。追加の改変は、アシル-ACPシンテターゼ遺伝子を不活化もしくはダウンレギュレートするか、または遺伝子もしくはタンパク質を不活化する。遺伝子における変異は、組換え法または非組換え法のいずれによっても導入されうる。これらの酵素およびその遺伝子は周知であり、アンチセンス配列の破壊、欠失、生成、リボザイムの生成によって、または当業者に公知である他の組換えアプローチによって特異的に標的化されてもよい。遺伝子の不活化はまた、UVなどのランダム変異誘発技術によって、および得られた細胞を変異体の成否に関してスクリーニングすることによって成就されうる。タンパク質そのものは、適切な抗体の細胞内生成、またはペプチド阻害剤の細胞内生成によって阻害されうる。
【0034】
光合成微生物はまた、貯蔵炭水化物またはポリヒドロキシアルカノエート(PHA)生合成経路酵素をコードする1つまたは複数の遺伝子が不活化もしくはダウンレギュレートされているように、または酵素そのものが阻害されるように改変されてもよい。例には、グルカンシンターゼおよび分枝酵素が含まれるグリコーゲン、デンプン、またはクリソラミナリン合成に関係する酵素が含まれる。他の例には、アセトアセチル-CoAシンターゼおよびPHAシンターゼなどのPHA生合成に関係する酵素が含まれる。
【0035】
発現系
シアノバクテリアおよび真核生物藻類における異種遺伝子の発現は、適切な発現ベクターの導入によって可能である。シアノバクテリアの形質転換の場合、lac、tac、およびtrcプロモーターならびにイソプロピルβ-D-1-チオガラクトピラノシド(IPTG)の添加によって誘導可能な誘導体、トランスポゾンまたは細菌染色体を有する抗生物質抵抗性遺伝子(ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、スペクチノマイシンアデニルトランスフェラーゼ等)に天然に関連するプロモーター、様々な異種細菌および本来のシアノバクテリア遺伝子に関連するプロモーター、ウイルスおよびファージからのプロモーター、ならびに合成プロモーターが含まれるがこれらに限定されるわけではない、シアノバクテリアにおいて機能する多様なプロモーターを利用することができる。首尾よく用いられているシアノバクテリアから単離されたプロモーターには、以下が含まれる:
secA(分泌;細胞の酸化還元状態によって支配される)
rbc(Rubiscoオペロン)
psaAB(PS I反応中心タンパク質;光調節型)
psbA(PS IIのD1タンパク質;光誘導型)。
【0036】
同様に、広く多様な転写ターミネーターを、発現ベクター構築のために用いることができる。可能性があるターミネーターの例には、psbA、psaAB、rbc、secA、およびT7コートタンパク質が含まれるがこれらに限定されるわけではない。
【0037】
発現ベクターは、天然のDNAの取り込み、コンジュゲーション、電気穿孔、粒子衝突、およびガラスビーズ、SiC繊維、または他の粒子によるアブレーションが含まれるがこれらに限定されるわけではない標準的な方法によってシアノバクテリア株に導入される。ベクターは、1)相同組換えを可能にする隣接配列を染色体に含めることによって、シアノバクテリア染色体への組み込みに関して標的化されうる、2)相同組換えを可能にする隣接配列を内因性のプラスミドに含めることによって内因性のシアノバクテリアプラスミドへの組み込みに関して標的化されうる、または3)発現ベクターが選ばれた宿主内で複製するように設計されうる。
【0038】
緑藻の形質転換に関して、クラミドモナス(Chlamydomonas)および他の藻類のプロモーターおよびターミネーター、ウイルスのプロモーターおよびターミネーター、ならびに合成プロモーターおよびターミネーターが含まれるがこれらに限定されるわけではない、緑藻において機能する多様な遺伝子プロモーターおよびターミネーターを利用することができる。
【0039】
発現ベクターは、電気穿孔、粒子衝突、およびガラスビーズ、SiC繊維、または他の粒子によるアブレーションが含まれるがこれらに限定されるわけではない、標準的な方法によって緑藻株に導入される。ベクターは、1)相同組換えを可能にする隣接配列を染色体に含めることによって、緑藻葉緑体染色体への部位特異的組み込みに関して標的化されうる、または2)細胞(核局在)染色体への組み込みに関して標的化されうる。
【0040】
珪藻類の形質転換に関して、1)タラシオシラ(Thalassiosira)および他の不等毛藻のプロモーター、ウイルスのプロモーター、および合成プロモーターが含まれるがこれらに限定されるわけではない、珪藻類において機能する多様な遺伝子プロモーターをこれらの発現ベクターにおいて利用することができる。発現ベクターにおいて用いるために適しているであろうタラシオシラ・シュードナナ(Thalassiosira pseudonana)のプロモーターには、α-チューブリンプロモーター(SEQ ID NO:1)、β-チューブリンプロモーター(SEQ ID NO:2)、およびアクチンプロモーター(SEQ ID NO:3)が含まれる。発現ベクターにおいて用いるために適しているであろうフェオダクチルム・トリコルヌーツム(Phaeodactylum tricornutum)のプロモーターには、α-チューブリンプロモーター(SEQ ID NO:4)、β-チューブリンプロモーター(SEQ ID NO:5)、およびアクチンプロモーター(SEQ ID NO:6)が含まれる。これらの配列は、公共のデータベースにおいて利用可能な関連する生物のゲノム配列から推定され、用いることができる広く多様なプロモーターの単なる例に過ぎない。これらおよび他の遺伝子、または特に異種遺伝子に関連するターミネーターを用いて、転写を停止させて、ポリアデニル化のための適切なシグナルを提供することができ、類似の様式で誘導することができ、または当技術分野において公知である。
【0041】
発現ベクターは、電気穿孔、粒子衝突、およびガラスビーズ、SiC繊維または他の粒子によるアブレーションが含まれるがこれらに限定されるわけではない標準的な方法によって珪藻株に導入される。ベクターは、1)相同組換えを可能にする隣接配列を染色体に含めることによって珪藻類の葉緑体染色体への部位特異的組換えに関して標的化されうる、または2)細胞(核局在)染色体への組み込みに関して標的化されうる。
【0042】
宿主生物
本発明の培養物を調製するために用いられる宿主生物には、無機炭素を基質に変換することができ、次に基質が脂肪酸誘導体に変換される任意の光合成生物が含まれる。これらの生物には、原核生物のみならず、藻類および珪藻類などの真核生物が含まれる。
【0043】
宿主生物には、真核生物藻類およびシアノバクテリア(藍藻)が含まれる。代表的な藻類には、緑藻(緑色植物)、紅藻、珪藻、プラシノ藻、グラウコファイト(glaucophyte)、クロララクニオン藻、エウグレノファイト(euglenophyte)、クロモファイト(chromophyte)、および渦鞭毛藻が含まれる。そのゲノムが完全にシークエンシングされている、単細胞シアノバクテリアであるシネコシスティス(Synechocystis)属の種PCC6803およびシネココッカス・エロンガテス(Synechococcus elongates)PCC7942が含まれる多くのシアノバクテリア種が公知であり、分子生物学的技術を用いて操作されている。
【0044】
以下のシアノバクテリア属を用いてもよい。
1つの群には以下が含まれる:
チャメシフォン(Chamaesiphon)
クロオコッカス(Chroococcus)
シアノバクテリウム(Cyanobacterium)
シアノビウム(Cyanobium)
シアノセイス(Cyanothece)
ダクティロココプシス(Dactylococcopsis)
グロエオバクター(Gloeobacter)
グロエオカプサ(Gloeocapsa)
グロエオセイス(Gloeothece)
ミクロシスティス(Microcystis)
プロクロロコッカス(Prochlorococcus)
プロクロロン(Prochloron)
シネココッカス
シネコシスティス
【0045】
別の群には、以下が含まれる:
シアノシスティス(Cyanocystis)
デルモカルペラ(Dermocarpella)
スタニエリア(Stanieria)
キセノコッカス(Xenococcus)
クロオコッキディオプシス(Chroococcidiopsis)
ミクソサルシナ(Myxosarcina)
プレウロカプサ(Pleurocapsa)
【0046】
さらに別の群には以下が含まれる:
アルスロスピラ(Arthrospira)
ボルジア(Borzia)
クリナリウム(Crinalium)
ゲイトレリネマ(Geitlerinema)
ハロスピルリナ(Halospirulina)
レプトリングビヤ(Leptolyngbya)
リムノスリックス(Limnothrix)
リングビヤ(Lyngbya)
ミクロコレウス(Microcoleus)
オシラトリア(Oscillatoria)
プランクトスリックス(Planktothrix)
プロクロロスリックス(Prochlorothrix)
シュードアナバエナ(Pseudanabaena)
スピルリナ(Spirulina)
スターリア(Starria)
シムプロカ(Symploca)
トリコデスミウム(Trichodesmium)
チコネマ(Tychonema)
【0047】
さらに別の群には以下が含まれる:
アナバエナ(Anabaena)
アナバエノプシス(Anabaenopsis)
アファニゾメノン(Aphanizomenon)
カロスリックス(Calothrix)
シアノスピラ(Cyanospira)
シリンドロスペルモプシス(Cylindrospermopsis)
シリンドロスペルマム(Cylindrospermum)
ノドゥラリア(Nodularia)
ノストク(Nostoc)
リヴラリア(Rivularia)
シトネーマ(Scytonema)
トリポスリックス(Tolypothrix)
【0048】
および別の群には以下が含まれる:
クロログロエオプシス(Chlorogloeopsis)
フィシェレーラ(Fischerella)
ゲイトレリア(Geitleria)
エンガリエーラ(Iyengariella)
ノストクホプシス(Nostochopsis)
スティゴネマ(Stigonema)
【0049】
加えて、珪藻および緑藻が含まれる様々な藻類を使用することができる。
【0050】
宿主株の望ましい性質には、25〜50℃での高い潜在的生育速度および脂質生産性、光の強さに対する高い認容性、半塩水または生理食塩液、すなわち広範囲の水タイプにおける生育、高O2濃度による生育阻害に対する抵抗性、スクリーンによる採収を助けるための糸状様形態、捕食に対する抵抗性、凝集能(化学物質または「要求時の自己凝集」による)、優れた無機炭素取り込み特徴、ウイルスまたはシアノファージ抵抗性、本発明の方法に関連する遊離脂肪酸または他の化合物に対する認容性、および代謝的操作を受けることができることが含まれる。
【0051】
代謝的操作は、電気穿孔またはコンジュゲーションによるDNAの取り込み能、遺伝子の交換または遺伝子ノックアウトが必要である場合の制限システムの欠如および効率的な相同組換えによって容易となる。
【0052】
脂肪酸の吸着、取り出し、および回収
先に記述された組換え型光合成微生物によって培養培地に分泌された脂肪酸を多様な方策で回収することができる。不混和性の溶媒を用いる分配による単純な単離法を使用してもよい。1つの態様において、微粒子吸着体を使用することができる。これらは、回収法の設計に応じて、親油性微粒子またはイオン交換樹脂であってもよい。それらは、分離された培地中で循環して、その後収集されてもよく、または培地を、固定床カラム、たとえばこれらの微粒子を含有するクロマトグラフィーカラムの中に通過させてもよい。次に、適切な溶媒を用いることによって脂肪酸を微粒子吸着体から溶出させる。溶媒の蒸発後に単離された脂肪酸および脂質のさらなる処理を行って、多様な商業的目的のために用いることができる化学物質および燃料を生じることができる。
【0053】
微粒子吸着体は、約0.5 mm〜30 mmの平均直径を有してもよく、これらはポリエチレンおよび誘導体、ポリスチレンおよび誘導体、ポリアミドおよび誘導体、ポリエステルおよび誘導体、ポリウレタンおよび誘導体、ポリアクリレートおよび誘導体、シリコンおよび誘導体、ならびに多糖類および誘導体が含まれるがこれらに限定されるわけではない様々な材料から製造することができる。一定のガラスおよびセラミック材料も同様に脂肪吸着物の固体支持成分として用いることができる。微粒子吸着体の表面は、それらが脂肪酸および脂質に対してより良好に結合することができるように改変されてもよい。そのような改変の例は、様々な鎖長、好ましくは炭素8〜30個を有するエーテル連結アルキル基の導入である。もう1つの例において、様々な長さのアシル鎖をエステル、チオエステル、またはアミド連結によって脂肪吸着物の表面に付着させることができる。
【0054】
1つの態様において、微粒子吸着体を、脂肪酸および脂質に結合することが知られている無機化合物によってコーティングする。そのような化合物の例には、水酸化アルミニウム、グラファイト、無煙炭、およびシリカが含まれるがこれらに限定されるわけではない。
【0055】
用いられる粒子はまた磁化されてもよく、またはそうでなければ回収を容易にするために誘導体化されてもよい。たとえば、粒子を、結合対の1つのメンバーに共役させて、関連する結合パートナーを含有する基質に吸着させてもよい。
【0056】
ヘキサンまたはエタノールなどの適切な溶媒を用いることによって、脂肪酸を微粒子吸着体から溶出してもよい。微粒子吸着体を培養培地に戻すことによって再利用してもよく、または再生カラムにおいて用いてもよい。次に、溶解した脂肪酸を含有する溶媒を蒸発させて、化学物質および燃料にさらに変換するために脂肪酸を精製状態で残してもよい。微粒子吸着体は、培養培地における循環を増強するために、中性浮力となるように、または正浮力となるように設計することができる。先に概要した段階を利用することによって、脂肪酸の取り出しおよび回収の連続サイクルを実行することができる。回収された脂肪酸を代わりの有機化合物に変換してもよく、直接用いてもよく、または他の成分と混合してもよい。そのような変換に関する化学法は当技術分野において十分に理解されており、そのような変換に関する生物学的方法の開発も同様に企図される。
【0057】
本発明はさらに、本明細書において記述される組換え型光合成微生物によって産生される脂肪酸を含む多様な組成物、およびその用途を企図する。組成物は、脂肪酸そのものを含んでもよく、または当技術分野において公知である任意の方法によるのみならず、生物学的変換法の開発によって、微生物によって産生される脂肪酸から生成されうるアルコール、アルカン、およびアルケンなどの脂肪酸のさらなる誘導体を含んでもよい。たとえば、脂肪酸を、触媒による水素添加および触媒による脱水によってアルケンに変換してもよい。
【0058】
組成物は、たとえばバイオクルード(biocrude)として役立つ可能性がある。バイオクルードは、組成物化合物を、水素添加処理、脱カルボキシル化、異性体化、ならびに触媒的クラッキングおよびリフォーミングが含まれるプロセスを通して、アルカン、オレフィン、および芳香族が含まれる様々な石油および石油化学代用物に変換するであろう精油所を通して処理されうる。バイオクルードはまた、トランスエステル化およびエステル化が含まれる確立された化学プロセスを通して脂肪酸メチルエステル(商業的にバイオディーゼルとして知られる)などのエステルに基づく燃料に変換されうる。
【0059】
加えて、当業者は、当技術分野において周知である本発明の脂肪酸およびその誘導体に関する多様な他の用途、たとえば化学物質、石けん、界面活性剤、洗浄剤、潤滑剤、栄養剤、薬剤、化粧品等の産生を企図することができるであろう。たとえば、本発明の脂肪酸の誘導体には、化粧品および香料のみならず様々な医学応用のためのエステルの製造において用いられるオクタノール、およびポリエチレンの産生におけるコモノマーとして主に用いられるオクタンなどのC8化学物質が含まれる。本発明の脂肪酸の誘導体にはまた、可塑剤、界面活性剤および溶媒の製造において用いられるデカノール、ならびに潤滑剤の製造において用いられるデセンなどのC10化学物質が含まれてもよい。
【0060】
バイオクルードは、原油または他の型の石油の代わりに、または補うために精油所の供給原料として用いられる、生物学的に産生された化合物、または異なる生物学的に産生された化合物の混合物である。一般的に、これらの供給原料は、石油の精油所に導入するために適切である液体状態にするために、生物学的、化学的、力学的、または熱プロセスを通して前処理されているが、必ずしもその必要はない。
【0061】
本発明の脂肪酸は、バイオクルードでありうるが、バイオ燃料組成物にさらに処理されうる。次に、バイオ燃料は、完成燃料または燃料添加物として機能することができる。
【0062】
「完成燃料」は、エンジンにおけるニート燃料または燃料添加物として直接用いられる適切な化学および物理的状態に存在する化学化合物または化学化合物の混合物(化学、熱化学、または生物学的経路を通して産生される)として定義される。多くの場合、エンジン応用において用いるための完成燃料の適格性は、満たす必要がある必要な物理化学特性を記述する仕様書によって決定される。エンジンのいくつかの例は:内燃機関、ガスタービン、蒸気タービン、外燃機関、および蒸気ボイラーである。完成燃料のいくつかの例には、圧縮着火(ディーゼル)内燃機関において用いられるディーゼル燃料、航空タービンにおいて用いられるジェット燃料、蒸気を生成するためのボイラーもしくは外燃機関において用いられる燃料油、フレックス燃料機関において用いられるエタノールである。燃料の仕様書の例は、米国において主に用いられるASTM標準およびヨーロッパにおいて主に用いられるEN標準である。
【0063】
「燃料添加物」は、バイオ燃料の使用命令の遵守、化石燃料に由来する製品の消費の低減、または燃料もしくはエンジンの性能の増強が含まれるがこれらに限定されるわけではない多様な理由のために、別の燃料と組み合わせて用いられる化合物または組成物を指す。たとえば、燃料添加物は、凍結/ゲル化点、曇り点、潤滑性、粘度、酸化安定性、着火品質、オクタンレベル、および引火点を変更するために用いることができる。添加物はさらに、抗酸化剤、脱乳化剤、酸素付加剤、熱安定性改善剤、セタン改善剤、安定化剤、冷流改善剤、燃焼改善剤、消泡剤、抗曇り添加剤、アイシング阻害剤、注入器洗浄添加剤、煙抑制剤、ドラグ低減剤、金属不活性剤、分散剤、洗浄剤、脱乳化剤、色素、マーカー、静電気消散剤、殺菌剤、および/または腐食阻害剤として機能しうる。
【実施例】
【0064】
以下の実施例は、本発明を説明するために提供され、本発明を制限するためではない。
【0065】
実施例1
単細胞光自己栄養性シアノバクテリウムであるシネココッカス・エロンガツスPCC 7942に由来する株による脂肪酸の分泌
アシル-ACPチオエステラーゼ酵素をコードするクフェア・フッケリアナFatB2遺伝子(ChFatB2)を、シネココッカス・エロンガツスPCC 7942における最適な発現のために改変した。最初に、本来のChFatB2タンパク質のプラスチドトランジットペプチド領域をコードする遺伝子の一部を除去した。コード領域の残りを、DNA 2.0 Inc.によって提供された「Gene Designer」ソフトウェアプログラム(バージョン1.1.4.1)を用いてコドン最適化した。ChFatB2遺伝子のこの誘導体のヌクレオチド配列(以降、ChFatB2-7942)をSEQ ID NO:7として提供する。この遺伝子によってコードされるタンパク質配列をSEQ ID NO:8に提供する。
【0066】
trcプロモーターの2つの異なるバージョン、trc(Egon, A., et al., Gene (1983) 25:167-178)および「強化trc」(本明細書において以降trcE、pTrcHis A, Invitrogenから)を用いて、S.エロンガツスPCC 7942においてChFatB2-7942を発現させた。trcプロモーターは、lacIq遺伝子によってコードされるLacリプレッサータンパク質によって抑制され、イソプロピルβ-D-1-チオガラクトピラノシド(IPTG)の添加によって誘導されうる。trcEプロモーターは、大腸菌における真核細胞タンパク質の発現を容易にするように設計されたtrcの誘導体であり、同様にIPTGによって誘導可能である。
【0067】
trcまたはtrcEに機能的に連結されたChFatB2-7942の融合断片を、lacIq遺伝子と共に、染色体の「NS1」部位への二重の相同組換えによる組み込みによってS.エロンガツスPCC 7942の形質転換を可能にするシャトルベクターpAM2314(Mackey, S. R., et al., Methods Mol. Biol. (2007) 362:115-129)にクローニングした。trcE::ChFatB2-7942発現カセットおよびlacIq遺伝子を含有する構築されたプラスミドを、pSGI-YC01と呼ぶ。SEQ ID NO:9は、pSGI-YC01のNS1組換え部位間およびpSGI-YC01のNS1組換え部位を含む配列を表す。trc::ChFatB2-7942発現カセットおよびlacIq遺伝子を含有する構築されたプラスミドをpSGI-YC09と呼ぶ。SEQ ID NO:10は、pSGI-YC09のNS1組換え部位間およびpSGI-YC09のNS1組換え部位を含む配列を表す。
【0068】
プラスミドpSGI-YCO01およびpSGI-YC09の各々を、Golden and Sherman (J. Bacteriol. (1984) 158:36-42によって記述されるように、対照ベクターpAM2314と共に、野生型S.エロンガツスPCC 7942細胞に導入した。組換えおよび対照株をいずれも、スペクチノマイシン(5 mg/L)を添加したBG-11培地100 mLにおいて、一定の照明(60μEm-2sec-1)で30℃でロータリーシェーカー(150 rpm)において後期対数増殖期(OD730nm=1.0)まで前培養した。次に、培養物を、BG-11において最初のOD730nm=0.4〜0.5でサブ培養して、OD730nm=0.7〜0.9となるまで終夜培養した。経時的変化の試験に関して、培養物の60 mLアリコートを250 mLフラスコに移して、応用可能であれば、IPTG(最終濃度=1 mM)を添加することによって誘導した。培養物をIPTG誘導の0、48、96、および168時間後に採取して、Millipore真空濾過マニホルドを用いてWhatman(登録商標)GF/Fフィルターを通して濾過した。濾液をガスクロマトグラフィー(GC)分析のためにねじ口培養管に収集した。
【0069】
遊離脂肪酸(FFA)を、液体-液体抽出を用いて濾過した細胞培養物から分離した。濾液5 mLを1 M H3PO3 125μLおよび5 M NaCl 0.25 mLと共に混合した後、ヘキサン2 mLを添加して十分に混合した。GC-FID分析に関して、ヘキサン試料0.2μLを、分割比40:1でDB-FFAPカラム(J&W Scientific、15 m×250μm×0.25μm)に、150℃で0.5分間から開始して15℃/分で230℃まで加熱して、7.1分間(1.1 mL/分 He)保持する温度プロファイルで注入した。
【0070】
IPTG誘導後168時間での様々なシネココッカス・エロンガツス株を含有する培養物における中鎖FFA(8:0および10:0)のレベルを示すGC分析結果を表1-1に示す。
【0071】
(表1−1)S.エロンガツスの様々な株における中鎖脂肪酸分泌

注意:NDは「検出なし」(<1 mg/L)を表す。
【0072】
実施例2
単細胞光ヘテロ栄養性シアノバクテリウムであるシネコシスティス種PCC6803に由来する株による脂肪酸の分泌
trcE::ChFatB2-7942およびtrc::ChFatB2-7942融合断片をlacIq遺伝子と共に、染色体の「RS1」部位への二重の相同組換えによる組み込みによってシネコシスティス種PCC6803の形質転換を可能にするシャトルベクターpSGI-TG03(SEQ ID NO:11)にクローニングした(Williams, Methods Enzymol. (1988) 167:766-778)。trcE::ChFatB2-7942発現カセットおよびlacIq遺伝子を含有する構築されたプラスミドをpSGI-YC08と呼ぶ。SEQ ID NO:12は、pSGI-YC08のRS1組換え部位間およびpSGI-YC08のRS1組換え部位を含む配列を表す。trc::ChFatB2-7942発現カセットおよびlacIq遺伝子を含有する構築されたプラスミドをpSGI-YC14と呼ぶ。SEQ ID NO:13は、pSGI-YC14のRS1組換え部位間およびSGI-YC14のRS1組換え部位を含む配列を表す。
【0073】
プラスミドpSGI-YC08、pSGI-YC14、および対照ベクターpSGI-YC03を、Zang, X. et al., J Microbiol. (2007) 45:241-245によって記述されるように野生型シネコシスティスPCC6803細胞に導入した。組換え型および対照株の双方を、カナマイシン(10 mg/L)を添加したBG-11培地100 mLにおいて、一定の照明(60μE・m-2・sec-1)で30℃でロータリーシェーカー(150 rpm)において後期対数増殖期(OD730nm=1.0)まで前培養した。次に、培養物を、BG-11において最初のOD730nm=0.4〜0.5でサブ培養して、OD730nm=0.7〜0.9となるまで終夜培養した。経時的変化の試験に関して、培養物の60 mLアリコートを250 mLフラスコに移して、応用可能であれば、IPTG(最終濃度=1 mM)を添加することによって誘導した。培養物をIPTG誘導後0、72、および144時間に採取して、Millipore真空濾過マニホルドを用いてWhatman(登録商標)GF/Bフィルターを通して濾過した。濾液をガスクロマトグラフィー(GC)分析のためにねじ口培養間管に収集した。遊離脂肪酸(FFA)を、液体-液体抽出によって、濾過した培養上清溶液から分離した。各試料に関して、濾過した培養物2 mLをリン酸(1 M)50μl、NaCl(5 M)100μL、およびヘキサン2 mLの混合物によって抽出した。試料0.2 μlを、分割比40:1を用いてDB-FFAPカラム(J&W Scientific、15 m×250μm×0.25μm)に、150℃で0.5分間から開始して15℃/分で230℃まで加熱して、7.1分間(1.1 mL/分 He)保持する温度プロファイルで注入した。
【0074】
IPTG誘導後144時間での培養物における中鎖FFA(8:0および10:0)のレベルを示すGC分析結果を表2-1に示す。
【0075】
(表2−1)シネコシスティスの様々な株における中鎖脂肪酸分泌

注意:NDは「検出なし」(<1 mg/L)を表す。
【0076】
実施例3
糸状様シアノバクテリウムであるアナバエナ・バリアビリスATCC 29413に由来する株による脂肪酸の分泌
trc::ChFatB2-7942およびtrcE::ChFatB2-7942融合断片を、lacIq遺伝子と共に、pSGI-YC14およびpSGI-YC08からプライマーRS3-3F(SEQ ID NO: 14)および4YC- rrnBter-3(SEQ ID NO:15)プライマーをそれぞれ用いてPCR増幅した後、染色体のnifU1座への二重の相同組換えによる組み込みによってA.バリアビリスATCC 29413の形質転換を可能にするシャトルベクターpEL17にクローニングした(Lyons and Thiel, J. Bacteriol. (1995) 177:1570-1575)。構築されたプラスミドを、trc::ChFatB2-7942およびtrcE::ChFatB2-7942に関してそれぞれ、pSGI-YC69およびpSGI-YC70と呼ぶ。
【0077】
プラスミドpSGI-YC69、pSGI-YC70の各々を対照ベクターpEL17と共にElhai and Wolk(Methods Enzymol. (1988) 167:747-754)によって記述されるように、3親コンジュゲーションによって野生型A.バリアビリスATCC 29413細胞に導入する。組換え型および対照株を、5 mM NH4Clおよびスペクチノマイシン(3 mg/L)を添加したBG-11培地100 mLにおいて、一定の照明(60μE・m-2・sec-1)で30℃でロータリーシェーカー(150 rpm)において後期対数増殖期(OD730nm=1.0)まで前培養する。次に、培養物を、BG-11において最初のOD730nm=0.4〜0.5でサブ培養して、OD730nm=0.7〜0.9となるまで終夜培養する。経時的変化の試験に関して、培養物の60 mLアリコートを250 mLフラスコに移して、応用可能であれば、IPTG(最終濃度=1 mM)を添加することによって誘導する。培養物を72時間毎に採取して、Millipore真空濾過マニホルドを用いてWhatman(登録商標)GF/Fフィルターを通して濾過する。濾液を、実施例1において記述されるようにガスクロマトグラフィー(GC)分析のためにねじ口培養管に収集する。
【0078】
実施例4
不活化アシル-ACPシンテターゼ遺伝子を含有するシネココッカス・エロンガツスPCC 7942に由来する株における脂肪酸の分泌
S.エロンガツスPCC 7942における推定のアシル-ACPシンテターゼ遺伝子、synpcc7942_0918(Cyanobaseの遺伝子名称)を、そのコード領域の内部422 bpの部分を、クロラムフェニコール抵抗性マーカー遺伝子cat(クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼをコードする)を有する1,741-bp DNA配列に交換することによって破壊した。プライマー対918-15(SEQ ID NO:16)/918-13(SEQ ID NO:17)および918-25(SEQ ID NO:18)/918-23(SEQ ID NO:19)を用いて、synpcc7942_0918のコード領域の5'部分(1〜480 bp)および3'部分(903〜1521 bp)にそれぞれ対応する2つのDNA断片を増幅した。cat断片を、プライマー918-13および918-25にそれぞれ重なり合うプライマーNS21-3Cm(SEQ ID NO:20)およびter-3Cm(SEQ ID NO:21)によるPCRを用いて、プラスミドpAM1573(Mackey et al., Methods Mol. Biol. 362:115-29)から増幅した。次に、組換え型キメラPCR技術を用いて、上記の3つのPCR断片のみならずプライマー918-15および918-23によって完全な破壊カセットを増幅した。得られた2,840 bpの平滑末端PCR断片(SEQ ID NO:22)を、HindIIIおよびEcoRIの双方によって消化され、マルチクローニングサイトを除去され、その後T4 DNAポリメラーゼによって平滑末端にされているpUC19(Yanisch-Perron et al., Gene 33:103-119)にライゲーションして、プラスミドpSGI-YC04を生じた。
【0079】
プラスミドpSGI-YC04を、NS1に組み入れられたtrcE::ChFatB2-7942 1コピーを有するS.エロンガツス株SGC-YC1-2に導入した(実施例1を参照されたい)。得られた株をSGC-YC4-7と呼んだ。脂肪酸産生アッセイおよびGC分析を実施例1において記述されるように行った。IPTG誘導後168時間での様々なS.エロンガツス株の培養物におけるFFAのレベルを示すGC分析の結果を表4-1に示す。アシル-ACPシンテターゼ遺伝子の不活化は、中鎖脂肪酸の分泌より長鎖脂肪酸の分泌に対してより大きい影響を有する可能性がある。
【0080】
(表4−1)S.エロンガツスの様々な株における中鎖脂肪酸分泌

注意:NDは「検出なし」(<1 mg/L)を表す。
【0081】
実施例5
不活化アシル-ACPシンテターゼ遺伝子を含有するシネコシスティス属の種PCC6803に由来する株における脂肪酸の分泌
シネコシスティス属の種PCC6803のアシル-ACPシンテターゼコード遺伝子slrl609(Cyanobaseの遺伝子名称)の上流の領域でコード領域の中に及ぶ〜1.7 kbp DNA断片を、プライマーNB001(SEQ ID NO:23)およびNB002(SEQ ID NO:24)によるPCRを用いてゲノムDNAから増幅した。この断片をpCR2.1ベクター(Invitrogen)にクローニングして、プラスミドpSGI-NB3を生じ、その後制限酵素Mfe1によって切断した。cat遺伝子および関連する調節制御配列を含有するクロラムフェニコール抵抗性マーカーカセットを、プライマーNB010(SEQ ID NO:25)およびNB011(SEQ ID NO:26)によるPCRを用いて、隣接するMfe1制限部位を含有するようにプラスミドpAM1573(Andersson, et al., Methods Enzymol. (2000) 305:527-542)から増幅した。次に、cat遺伝子発現カセットをpSGI-NB3のMfeI部位に挿入して、pSGI-NB5(SEQ ID NO:27)を生じた。
【0082】
pSGI-NB5ベクターをZang et al., J Microbiology (2007) 45:241-245に従ってtrcE::ChFatB2-7942含有シネコシスティス株SGC-YC10-5(実施例1を参照されたい)に形質転換した。相同組換えを通してのクロラムフェニコール抵抗性マーカーのSlr1609遺伝子への挿入を、インサートおよび挿入部位のPCRスクリーニングによって確認した。得られた株をSGC-NB10-4と呼び、これを脂肪酸分泌に関して液体BG-11培地において試験した。全ての液体培地生育条件は、一定の照明下(60μE・m-2・sec-1)で30℃でロータリーシェーカー(150 rpm)を用いた。培養物を、クロラムフェニコールおよび/またはカナマイシン(5μg/mL)を含有するBG-11培地25 mLに接種して、十分な密度(少なくともOD730nm=1.6〜2)まで生育させた。培養物を250 mLポリカーボネートフラスコにおいてBG-11培地100 mLにOD730nm=0.4〜0.5となるように接種して、終夜インキュベートした。OD730nm=0.7〜0.9の終夜培養物45 mLを新しい250 mLフラスコに添加して、1 mM IPTGによって誘導するか、または非誘導対照として用いた。試料5 mLを誘導後0、72、および144時間で採取して、実施例2において記述されるように処理した。
【0083】
遊離脂肪酸(FFA)を、濾過した培養上清溶液から、GC/FID(水素炎イオン化検出器)分析のために液体-液体抽出によって分離した。各試料に関して濾過した培養物2 mLをリン酸(1 M)50μl、NaCl(5 M)100μl、およびヘキサン2 mLの混合物によって抽出した。試料0.2 μlを、分割比40:1を用いてDB-FFAPカラム(J&W Scientific、15 m×250μm×0.25μm)に、150℃で0.5分間から開始して15℃/分で230℃まで加熱して、7.1分間(1.1 mL/分 He)保持する温度プロファイルで注入した。
【0084】
144時間後の遊離脂肪酸の分泌レベルを示すGC結果を表5-1に示す。
【0085】
(表5−1)シネコシスティスの様々な株における中鎖脂肪酸分泌

注意:NDは「検出なし」(<1 mg/L)を表す。
【0086】
実施例6
シネコシスティス属の種におけるクフェア・ランセオラータKas-IVおよびヒマワリKas-III遺伝子の発現
機能的オペロンを含むDNA断片を、以下のエレメントを所定の順序で含有するように合成した:trcプロモーター、シネココッカス・エロンガツスPCC 7942における発現に関してコドン最適化したクフェア・ランセオラータ3-ケトアシル-アシル担体タンパク質シンターゼIV遺伝子(ClKas-IV、GenBankアクセッション番号CAC59946)、およびシネココッカス属の種WH8102のrps14ターミネーター(SEQ ID NO:28)。この機能的オペロン全体のヌクレオチド配列を、様々な隣接する制限酵素認識部位と共にSEQ ID NO:29に提供する。
【0087】
機能的オペロンを含む別のDNA断片を、以下のエレメントを所定の順序で含有するように合成した:trcプロモーター、シネココッカス・エロンガツスPCC 7942およびシネコシスティス属の種PCC 6803の双方における発現に関してコドン最適化したヒマワリ3-ケトアシル-アシル担体タンパク質シンターゼIII遺伝子(HaKas-III、GenBankアクセッション番号ABP93352)、およびシネココッカス属の種WH8102のrps14ターミネーター。この機能的オペロンのヌクレオチド配列を、様々な隣接する制限酵素認識部位と共にSEQ ID NO:30に提供する。
【0088】
コドン最適化は、DNA 2.0, Inc.によって提供される「Gene Designer」ソフトウェアプログラム(バージョン1.1.4.1)を用いて行った。SEQ ID NO:29において表されるコドン改変ClKas-IV遺伝子を含有する機能的オペロン(発現カセット)を、制限酵素SpeIおよびXbaIによって消化して、制限部位SpeIとXbaIのあいだでプラスミドpSGI-YC39に挿入して、「RS2」組換え部位でシネコシスティス属の種PCC 6803染色体への機能的オペロンの組み込みを可能にするプラスミドpSGI-BL26を形成した(Aoki, et al., J. Bacteriol (1995) 177:5606-5611)。SEQ ID NO:30において表されるDNA断片を含有するプラスミドpSGI-BL27を同じように構築した。
【0089】
プラスミドpSGI-BL43は、SEQ ID NO:31において表されるように、trcEプロモーター、コドン最適化ClKas-IV遺伝子、およびrps14ターミネーターを含有し、pTrcHis A(Invitrogen)からのSpeI/NcoI trcE断片をSpeI/NcoI消化pSGI-BL26に挿入することによって作出された。追加のプラスミドpSGI-BL44は、SEQ ID NO:32において表されるように、trcEプロモーター、最適化ClKas-IV遺伝子、S.エロンガツスPCC 7942 kaiBC遺伝子間領域、最適化HaKas-III遺伝子、およびrps14ターミネーターを含有し、PCR増幅によって生成されたBamHI/SacI断片(S.エロンガツスkaiBC遺伝子間領域、HaKas-III遺伝子、およびrps14ターミネーターを含有する)をBglII/SacI-消化pSGI-BL43に挿入することによって作出された。kaiBC領域、HaKas-III、およびrps14ターミネーターを含有するDNA断片を生成するために用いられるPCRプライマーを、SEQ ID NO:33およびSEQ ID NO:34に提供する。
【0090】
野生型のシネコシスティスPCC 6803細胞、およびChFatB2-7942遺伝子を含有するトランスジェニックシネコシスティス株SGC-YC10-5を、Zang, X. et al J. Microbiol. (2007) 45:241-245によって記述されるように、プラスミドpSGI-BL26、pSGI-BL27、pSGI-BL43、およびpSGI-BL44によって形質転換した。組換え型および野生型対照株をいずれも、BG-11培地20 mLにおいて一定の照明(60μEm-2sec-1)で30℃でロータリーシェーカー(150 rpm)において中期対数増殖期(OD730nm=0.7〜0.9)まで前培養した。カナマイシン(5μg/mL)および/またはスペクチノマイシン(10μg/mL)を適切であれば組換え体培養物に含めた。次に、培養物を、BG-11において最初のOD730nm=0.4〜0.5でサブ培養して、OD730nm=0.7〜0.9となるまで終夜培養した。経時的変化の試験に関して、培養物の45 mLアリコートを250 mLフラスコに移して、応用可能であれば、IPTG(最終濃度=1 mM)を添加することによって誘導した。培養物をIPTG誘導後0、72、および144時間に採取して、Millipore真空濾過マニホルドを用いてWhatman(登録商標)GF/Bフィルターを通して濾過した。濾液を、実施例2において記述されるようにガスクロマトグラフィー(GC)分析のためにねじ口培養管に収集した。
【0091】
培養物接種後144時間での培養上清において分泌されたオクタン酸およびデカン酸のレベルを示す結果を表6-1に示す。表記の株に存在するClKas-IVおよびHaKas-III遺伝子は、trcプロモーターの制御下であった。
【0092】
(表6−1)様々なシネコシスティス属種株における中鎖脂肪酸分泌(mg/L)

注意:NDは「検出なし」(<1 mg/L)を表す。
【0093】
これらの株における脂肪酸分泌のより最適な測定のために、表6-1において示された脂肪酸分泌データを、730 nmでの吸光度(OD730nm)として測定した細胞培養密度に対して標準化した。これらのデータを表6-2に表す。この応用において記述された他の実験を類似の様式で標準化することができるであろう。
【0094】
(表6−2)様々なシネコシスティス属種株における標準化中鎖脂肪酸分泌(mg/L/OD730nm

注意:NDは「検出なし」(<1 mg/L)を表す。
【0095】
培養物接種後120時間での追加の株の培養上清において分泌されたオクタン酸およびデカン酸のレベルを示す結果を表6-3に示す。表記の株に存在するClKas-IVおよびHaKas-III遺伝子は、trcEプロモーターの制御下であった。
【0096】
(表6−3)様々なシネコシスティス属種株における中鎖脂肪酸分泌(mg/L)

注意:NDは「検出なし」(<1 mg/L)を表す。
【0097】
これらの株における脂肪酸分泌のより最適な測定のために、表6-1において示された脂肪酸分泌データを、730 nmでの吸光度(OD730nm)として測定した細胞培養密度に対して標準化した。これらのデータを表6-4に表す。
【0098】
(表6−4)様々なシネコシスティス属種株における標準化中鎖脂肪酸分泌(mg/L/OD730nm

【0099】
実施例7
異種アシル-ACPチオエステラーゼ遺伝子の珪藻への導入
中鎖(8:0〜10:0)アシル-ACPに対して特異性を有するChFatB2酵素の誘導体をコードする合成遺伝子を、珪藻において機能する遺伝子調節領域(プロモーターおよびターミネーター)に機能的に連結したChFatB2遺伝子を含む発現ベクターを構築して利用することによって、様々な珪藻(Bacillariophyceae)において発現させる。好ましい態様において、遺伝子は、特異的珪藻種における発現に関して最適化されて、本来のChFatB2タンパク質のプラスチドトランジットペプチド領域をコードする遺伝子の一部が、珪藻において最適に機能するプラスチドトランジットペプチドに交換される。SEQ ID NO:35として提供されるヌクレオチド配列は、タラシオシラ・シュードナナにおける発現にとって最適化されていて、遺伝子の本来のプラスチドトランジットペプチドコード領域がT.シュードナナからの葉緑体ATPシンターゼの共役因子部分(CF1)のγサブユニットに関連するプラスチドトランジットペプチド(共役シグナル配列が含まれる)に交換されているChFatB2遺伝子の合成誘導体を表す(JGI識別番号=jgi/Thaps3/40156/est Ext_gwp_gwl.C_chr_40019)。本明細書において以降ChFatB2-Thalと呼ばれるこの遺伝子によってコードされるタンパク質をSEQ ID NO:36において提供する。
【0100】
T.シュードナナに関する発現ベクターを産生するために、ChFatB2-Thal遺伝子を、T-.シュードナナα-チューブリンプロモーターとターミネーター調節配列のあいだに配置した。α-チューブリンプロモーターを、プライマーPR1(SEQ ID NO:37)およびPR3(SEQ ID NO:38)を用いることによって、T.シュードナナCCMP 1335から単離されたゲノムDNAから増幅したが、α-チューブリンターミネーターは、プライマーPR4(SEQ ID NO:39)およびPR8(SEQ ID NO:40)を用いることによって増幅された。α-チューブリンプロモーターアンプリコンからのKpnI/BamHI断片、α-チューブリンターミネーターからのBamHI/XbaI断片、およびKpnI/XbaI-切断pUC118からの大きい断片(Vieira and Messing, Meth. Enzymol. (1987) 153:3-11)を組み合わせてpSGI-PR5を形成した。ChFatB2-Thal遺伝子からのNcoI/BamHI断片をNcoI-BamHI消化pSGI-PR5に挿入して、pSGI-PR16を形成した。加えて、ストレプトマイセス・ノーセイ(Streptomyces noursei)からのノーセオスリシン(nourseothricin)アセチルトランスフェラーゼ(NAT)酵素をコードするコドン最適化遺伝子(SEQ ID NO:41)(Krugel, et al., Gene (1993) 127:127-131)を合成して、このNAT-コードDNA分子からのNotI/BamHI断片を、pSGI-PR5からの大きいNcoI/BamHI断片に挿入して、T.シュードナナおよび他の珪藻に導入されると、抗生物質ノーセオスリシンに対する抵抗性を提供することができるpSGI-PR7を形成した。
【0101】
pSGI-PR16およびpSGI-PR7を、本質的にPoulsen, et al.,(J. Phycol. (2006) 42:1059-1065)によって記述される粒子衝突によって、T.シュードナナCCMP 1335に同時形質転換した。形質転換細胞をアガープレートにおいて、100 mg/Lノーセオスリシン(ClonNAT、Werner BioAgents, Germanyから得た)の存在下で選択した。細胞におけるChFatB2-Thal遺伝子の存在を、PCRを用いることによって確認した。形質転換体をASW液体培地(Darley and Volcani, Exp. Cell Res. (1964) 58:334)において、一定の照明(60μE・m-2sec-1)で18℃でロータリーシェーカー(150 rpm)において生育させた。試料を接種7日後に採取して、培養培地を実施例1において記述されるようにFFAの存在に関して試験した。
【0102】
これらの特定の実験条件下では脂肪酸分泌は検出されなかったが、比較的不透過性の細胞壁を有することが知られている珪藻における脂肪酸分泌を達成するために、ChFatB2-Thal遺伝子および珪藻宿主株の最適化を行うことができる。
【0103】
実施例8
緑藻による脂肪酸の分泌
中鎖(8:0〜10:0)アシル-ACPに対して特異性を有するChFatB2酵素の誘導体をコードする合成遺伝子を、緑藻において機能する遺伝子調節領域(プロモーターおよびターミネーター)に機能的に連結したChFatB2遺伝子を含む発現ベクターを構築および利用することによって、緑藻(Chlorophyceae)において発現させる。遺伝子を、特異的緑藻種における発現に関して最適化して、本来のChFatB2タンパク質のプラスチドトランジットペプチド領域をコードする遺伝子の一部を、緑藻において最適に機能するプラスチドトランジットペプチドに交換する。SEQ ID NO:42として提供されるヌクレオチド配列は、クラミドモナス・レインハードチイ(Chlamydomonas reinhardtii)における発現にとって最適化されて、遺伝子の本来のプラスチドトランジットペプチドコード領域が、C.レインハードチイからの葉緑体ATPシンターゼの共役因子部分(CF1)のγサブユニットに関連するプラスチドトランジットペプチドに交換されているChFatB2遺伝子の誘導体を表す(GenPeptアクセッション番号XP 001696335)。この遺伝子によってコードされるタンパク質をSEQ ID NO:43に提供する。
【0104】
実施例9
破壊された1,4-α-グルカン分枝酵素遺伝子を含有するシネコシスティス属種株における脂肪酸の分泌
シネコシスティス属の種PCC6803からの1,4-α-グルカン分枝酵素遺伝子(glgB、Cyanobaseの遺伝子名称=sll0158)の上流の領域でコード領域の中に及ぶ1.4-kbp DNA断片を、プライマーglgB-5(SEQ ID NO:44)およびglgB-3(SEQ ID NO:45)によるPCRを用いてゲノムDNAから増幅した。この断片を、pCR4-Topoベクター(Invitrogen)にクローニングして、プラスミドpSGI-BL32を生じ、これを次に制限酵素AvaIによって切断した。aadA遺伝子と関連する調節制御配列とを含有するスペクチノマイシン抵抗性マーカーカセットを、プラスミドpSGI-BL27からHindIIIによって消化した。直線状の断片の双方をQuick Blunting(商標)キット(New England Biolabs)によって処置した。aadA遺伝子発現カセットをpSGI-BL32のAvaI部位に挿入して、pSGI-BL33を生じた。glgB遺伝子に挿入してこれを不活化するpSGI-BL33の一部をSEQ ID NO:46として提供する。
【0105】
pSGI-BL33ベクターを、Zang, et al., J. Microbiology (2007) 45:241-245に従って、野生型シネコシスティスPCC 6803およびtrcE::ChFatB2-7942含有シネコシスティス株SGC-YC10-5(実施例1を参照されたい)に形質転換した。相同組換えによるスペクチノマイシン抵抗性マーカーのSll0158(glgB)遺伝子への挿入を、インサートおよび挿入部位のPCRスクリーニングによって確認した。確認されたノックアウト株を液体BG-11培地において脂肪酸の分泌に関して試験した。液体培地生育条件は全て、一定の照明(60μEm-2sec-1)で30℃でロータリーシェーカー(150 rpm)を用いた。培養物を、スペクチノマイシン(10μg/mL)および/またはカナマイシン(5μg/mL)を含有するBG-11培地25 mLに接種して、十分な密度(少なくともOD730nm=1.6〜2)まで生育させた。培養物を250 mLポリカーボネートフラスコにおいてBG-11培地100 mLにOD730nm=0.4〜0.5となるように接種して、終夜インキュベートした。OD730nm=0.5の終夜培養物45 mLを新しい250 mLフラスコに添加した;いくつかの培養物を1 mM IPTGによって誘導したか、または非誘導対照として用いた。試料(0.5 mL)を誘導後0、72、144、および216時間で採取して、実施例2において記述されるように処理した。
【0106】
遊離脂肪酸(FFA)を、濾過した培養上清溶液から、GC/FID分析のために液体-液体抽出によって分離した。各試料に関して、濾過した培養物2 mLをリン酸(1 M)50μL、NaCl(5 M)100μL、およびヘキサン2 mLの混合物によって抽出した。試料0.2 μlを、分割比40:1を用いてDB-FFAPカラム(J&W Scientific、15 m×250μm×0.25μm)に、150℃で0.5分間から開始して15℃/分で230℃まで加熱して、7.1分間(1.1 mL/分 He)保持する温度プロファイルで注入した。
【0107】
216時間後の遊離脂肪酸の分泌レベルを示すGC結果を表9-1に示す。
【0108】
(表9−1)様々なシネコシスティス属種株における中鎖脂肪酸分泌(mg/L)

注意:NDは「検出なし」(<1 mg/L)を表す。
【0109】
これらの株における脂肪酸分泌のより最適な測定のために、表9-1において示された脂肪酸分泌データを、730 nmでの吸光度(OD730nm)として測定した細胞培養密度に対して標準化した。これらのデータを表9-2に表す。この応用において記述された他の実験を類似の様式で標準化することができるであろう。
【0110】
(表9−2)様々なシネコシスティス属種株における標準化中鎖脂肪酸分泌(mg/L/OD730nm

注意:NDは「検出なし」(<1 mg/L)を表す。
【0111】
実施例10
疎水性吸着体樹脂によるモデル溶液からの遊離脂肪酸の捕捉
75 mg/Lオクタン酸および75 mg/Lデカン酸を、300 mM NaClを添加したBG-11培地に溶解する段階、およびpHを5.8に調節する段階によって、スパイク溶液を処方した。表1に記載された樹脂の各々50 mgを計りとって50 mL遠心管に入れて、メタノール1.0 mLと合わせて軽く振とうさせた。過剰量のメタノールをデカントし、樹脂を25 Hgの真空下で室温で終夜乾燥させた。スパイク溶液50 mLを樹脂の各々に加えて、軽く振とうさせながら31℃で24時間インキュベートした。インキュベーション後、樹脂をWhatman(登録商標)GF/Fガラス繊維フィルター上で濾過することによって除去して、濾液を、実施例2において記述されるようにガスクロマトグラフィーよってオクタン酸およびデカン酸含有量に関して分析した。オクタン酸およびデカン酸に関する各樹脂の容量は、各樹脂のインキュベーションの前後での各脂肪酸の濃度の差によって決定することができるであろう。結果を以下の表10-1に示す。
【0112】
(表10−1)いくつかの市販の吸着体の吸着容量

【0113】
疎水性の吸着体からの遊離脂肪酸の溶出も同様に調べた。Dowex(登録商標)Optipore(登録商標)V503、Zeolyst CBV 28014、Zeolyst CBV 901、およびNorit(登録商標)ROWを、先に記述したように吸着体1 mgあたりスパイク溶液1.0 mLと共にインキュベートした。インキュベーション期間の後、吸着体をすすいで0.1、0.5、または1.0 mLメタノール/mg吸着体と合わせて、室温で4時間軽く振とうさせた。メタノール溶出液および吸着後のスパイクを、ガスクロマトグラフィーによって遊離脂肪酸濃度に関して分析した。結果を以下の表10-2に記載する。
【0114】
(表10−2)メタノールにおける遊離脂肪酸の脱着

【0115】
吸着体の容量に及ぼすpHの効果をDowex(登録商標)Optipore(登録商標)V503を利用して試験した。樹脂40 mgを、150 mg/Lオクタン酸およびデカン酸を添加したBG-11培地40 mLと合わせて、pHを10.0、7.5、4.8、または2.8に調節した。pH 10のスパイクを5 mM CAPSによって緩衝させて、pH 7.5および2.8のスパイクを5 mMリン酸塩によって緩衝させて、pH 4.8は、溶解した脂肪酸によって自然に緩衝作用を有したが、一貫した伝導度を維持するために5 mM NaClを添加した。スパイクを先に記述した樹脂と共にインキュベートした。遊離脂肪酸濃度を、Zen-bioから購入した酵素アッセイによって測定した。結果を以下の表10-3に表示する。これらの結果から、遊離脂肪酸の疎水性吸着が広範囲のpHに対して可能であることは明白である。
【0116】
(表10−3)様々なpH値でのDowex(登録商標)Optipore(登録商標)V503の吸着容量

報告された値は、2回の複製実験の平均値±1標準偏差である。
【0117】
実施例11
シネコシスティス株SGC-YC10-5の培養物からの遊離脂肪酸のインビトロ捕捉
実施例1において記述されたChFatB2-7942遺伝子を含有するシネコシスティス属種株SGC-YC10-5を、Dowex(登録商標)Optipore(登録商標)V503樹脂の存在下および非存在下でBG-11において培養した。新鮮な培養物400 mLを5 mM IPTGによって誘導して室温で1時間インキュベートして誘導物質を取り込ませた。次に培養物を、PTFE換気キャップを備えた1,000 mLバッフルアーレンマイヤーフラスコ4個に分けた。フラスコ2個にDowex(登録商標)Optipore(登録商標)V503およそ400 mgを添加した。試験フラスコにおける吸着体樹脂を回収して、10日間のあいだ毎日新しい樹脂に交換した。回収された樹脂を脱イオン水によって大まかに洗浄して、メタノール2 mLによって溶出させた。試験フラスコおよび対照フラスコからの培養培地の試料も同様に毎日採取した。試料をOD730nmに関して測定して、Whatman(登録商標)GF/Bガラス繊維フィルターを通して濾過して、実施例2において既に記述されたように、ガスクロマトグラフィーによってオクタン酸およびデカン酸含有量に関して分析した。結果を表11-1に表す。
【0118】
(表11−1)シネコシスティスSGC-YC10-5培養物からの遊離脂肪酸のインビボ捕捉

報告された値は、2つの生物学的複製物の平均値±1標準偏差である。
【0119】
実施例12
効率および経済性の双方を増強するための手段としてのCO2送達と産物回収の統合
上記の表10-3は、遊離脂肪酸吸着容量とpHとのあいだの明白な関係を明らかにする。この関係は、遊離脂肪酸のイオン化型の抽出が無効であることに起因する。多くの可能性がある産生宿主は、生存および繁殖のために、遊離脂肪酸のpKaより有意に高いpHを必要とする。この極端な例は、至適生育のためにpH 9〜11を好む、シネココッカス、シネコシスティス、スピルリナ(Spirulina)および他の多くの属に属する親アルカリ性のシアノバクテリアであろう。図5は、培養物の一部を、最初にpHを低下させるために濃縮CO2ガスに接触させる容器の中に、次にプロトン化遊離脂肪酸が捕捉される静止吸着カラムの中に再循環させることによってこの問題を解決する、本発明の態様を概要する。
【0120】
CO2に富む遊離脂肪酸枯渇浮遊液をバルク培養物に戻す。気体-液体接触容器内部の圧力は、吸着カラムから出る流れにおいて一定のpHを提供するために独立して制御されうる。さらに、カラム後のフラッシュ室の圧力は、pH、溶存CO2、排ガスCO2、または3つの任意の組み合わせのPID制御を通してバルク培養物のCO2消費速度に対して滴定されるCO2の供給を提供するように制御されうる。次に、過剰量のCO2を再循環させることができる。
【0121】
上記の本発明の概念の証拠を証明するために、図5において表示されるように実験系を構築した。
【0122】
容器E-1に、100 mM NaCl、pH 11.1に溶解した700 mg/Lオクタン酸を含有するスパイク溶液4 Lを満たした。カラムC1にDowex(登録商標)Optipore(登録商標)V503ポリマー樹脂45.2 gを満たした。樹脂をカラム容積の2倍量のメタノールによって活性化した後、カラム容積の3倍量の100 mM NaCl、pH 11.1によって洗浄した。液体-気体接触容器E2に、スパイク溶液200 mLおよびCO2 34.7 psiaを満たした。E-2内部のスパイク溶液のpHが5〜6まで減少すれば(E-2内に含有されるpH試験紙片によって決定)、蠕動ポンプP-1およびP-2を同じ流速に設定して、カラムの試料負荷を開始した。カラム圧を増加させるためおよび気泡の形成を防止するために、弁V-2を必要に応じて調節した。
【0123】
流動分画を定期的な間隔で70〜100 mLを採取して、Zen-Bioから購入した市販の遊離脂肪酸アッセイによってオクタン酸に関してアッセイした。2つの空塔線速度を評価した:16.3 cm/分と6.1 cm/分。双方の流速に関して、それによって容器E-2を迂回して、カラムにpH 11.1で直接試料を負荷する対照実験を行った。以下の表12-1は、この実験の結果を表示する。双方の流速に関して、カラム充填剤の動的結合容量は、試料負荷量のpHを低下させるためにCO2を用いた場合よりおよそ4倍大きかった。
【0124】
(表12−1)CO2媒介試料負荷酸性化を行った場合および行わなかった場合の動的結合容量

【0125】
実施例13
光合成微生物によるオレイン酸の分泌
オレオイル-ACPに対する特異性を有するFatA型植物アシル-ACP TE酵素の誘導体をコードする合成遺伝子は、宿主光合成微生物において機能する遺伝子調節領域(プロモーターおよびターミネーター)に機能的に連結したFatA遺伝子を含む発現ベクターを構築および利用することによって、様々な光合成微生物において発現される。遺伝子は、宿主光合成微生物における発現に関して最適化されて、本来のFatAタンパク質のプラスチドトランジットペプチド領域をコードする遺伝子の一部が、シアノバクテリアにおける発現のために除去されるか、または宿主真核細胞光合成微生物において有効に機能するプラスチドトランジットペプチドに交換される。
【0126】
この目的のために用いることができる遺伝子には、以下のアシル-ACP TE(GenPeptアクセッション番号によって呼ばれる)をコードする遺伝子が含まれるがこれらに限定されるわけではない:NP_189147.1、AAC49002、CAA52070.1、CAA52069.1、193041.1、CAC39106、CAO17726、AAC72883、AAA33020、AAL79361、AAQ08223.1、AAB51523、AAL77443、AAA33019、AAG35064、およびAAL77445。
【0127】
以下は、先に言及した全ての配列の配列表である。


















【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの外因性アシル-ACPチオエステラーゼを産生する少なくとも1つの組換え型発現系を含む核酸分子を含有するように改変された組換え型光合成微生物の、細胞培養物であって、
前記アシル-ACPチオエステラーゼが、炭素6〜20個を含有する脂肪酸鎖を優先的に遊離させ、および
培養培地が実質的に唯一の炭素源として無機炭素を提供し、および
前記微生物が、アシル-ACPチオエステラーゼによって遊離した脂肪酸を培養培地に分泌する、細胞培養物。
【請求項2】
少なくとも1つの外因性のアシル-ACPチオエステラーゼがFat Bチオエステラーゼである、請求項1記載の培養物。
【請求項3】
少なくとも1つの外因性のアシル-ACPチオエステラーゼが、クフェア(Cuphea)属に由来するFat Bチオエステラーゼである、請求項1記載の培養物。
【請求項4】
少なくとも1つの外因性アシル-ACPチオエステラーゼがChFatB2である、請求項1記載の培養物。
【請求項5】
組換え型光合成微生物が、外因性のβ-ケトアシルシンターゼ(KAS)を産生するようにさらに改変されている、請求項1記載の培養物。
【請求項6】
チオエステラーゼが好ましい活性を有する鎖長を有するアシル-ACPを、外因性のKASが優先的に産生する、請求項5記載の培養物。
【請求項7】
組換え型光合成微生物が、β-酸化経路酵素をコードする1つもしくは複数の遺伝子が不活化もしくはダウンレギュレートされるように、または該酵素が阻害されるようにさらに改変される、請求項1記載の培養物。
【請求項8】
組換え型光合成微生物が、アシル-ACPシンテターゼをコードする1つもしくは複数の遺伝子が不活化もしくはダウンレギュレートされるように、または該シンテターゼが阻害されるようにさらに改変される、請求項1記載の培養物。
【請求項9】
組換え型光合成微生物が、炭水化物生合成に関係する酵素をコードする1つもしくは複数の遺伝子が不活化もしくはダウンレギュレートされるように、または該酵素が阻害されるようにさらに改変される、請求項1記載の培養物。
【請求項10】
炭水化物生合成に関係する酵素が分枝酵素である、請求項9記載の培養物。
【請求項11】
請求項1記載の培養物を、その中の組換え型光合成微生物が脂肪酸を培養培地に分泌するように、インキュベートする段階;および
分泌された脂肪酸を培養培地から回収する段階
を含む、無機炭素を脂肪酸に変換させる方法。
【請求項12】
脂肪酸が、培地を微粒子吸着体に接触させることによって培養物から回収される、請求項11記載の方法。
【請求項13】
微粒子吸着体が培地の中で循環する、請求項12記載の方法。
【請求項14】
微粒子吸着体が固定床カラムに含有される、請求項12記載の方法。
【請求項15】
培地のpHが接触の際に低下する、請求項14記載の方法。
【請求項16】
pH低下プロセスがCO2の添加を含む、請求項15記載の方法。
【請求項17】
培地が培養物に再循環される、請求項16記載の方法。
【請求項18】
微粒子吸着体が親油性である、請求項12記載の方法。
【請求項19】
微粒子吸着体がイオン交換樹脂である、請求項12記載の方法。
【請求項20】
請求項1記載の培養物によって産生される脂肪酸を含む組成物。
【請求項21】
別の化合物を産生するために用いられる、請求項20記載の組成物。
【請求項22】
バイオクルード(biocrude)である、請求項20記載の組成物。
【請求項23】
請求項1記載の培養物によって産生された脂肪酸の誘導体を含む組成物。
【請求項24】
完成燃料または燃料添加物ある、請求項23記載の組成物。
【請求項25】
石油化学製品の生物学的代用物である、請求項23記載の組成物。
【請求項26】
誘導体が、アルコール、アルカン、またはアルケンである、請求項23記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2011−505838(P2011−505838A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−538169(P2010−538169)
【出願日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際出願番号】PCT/US2008/086485
【国際公開番号】WO2009/076559
【国際公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【出願人】(509262736)シンセティック ジェノミクス インコーポレーテッド (4)
【Fターム(参考)】