説明

光周波数コム発生装置、光パルス発生装置、及び光パルス発生装置の制御方法

【課題】歪みの低減された光パルスを発生可能とする。
【解決手段】光を2つに分岐して分岐光のそれぞれを変調した後再び合波して出力する光変調器と、前記分岐光のそれぞれを変調するための各変調信号を生成する変調信号生成部と、を備え、前記各変調信号の一方の振幅と他方の振幅との差ΔAを0.2π≦ΔA<0.5πとすることにより光周波数コムを発生させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光周波数コム発生装置、光パルス発生装置、及び光パルス発生装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光パルスを発生させる技術として、光を変調して多数の高次周波数成分からなる光周波数コムを作り出すことにより、光をパルス化させる方法が知られている。特許文献1には、この光周波数コムの平坦度を向上させるとともに、光パルスの発生効率(光パルスのパワー)を最適化する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−248660号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1においては、最適な光パルスを得るための駆動条件の範囲が非常に狭く、駆動条件を所望の状態に合わせ込むのが難しいこと、また、光パルスの発生効率を最適化することを考慮しているため、光パルスに波形の歪みが残ってしまうこと、さらに、変調信号の位相ずれや高調波の影響など、実用時に想定される光パルスの劣化原因について検討されていないこと、等の問題が未解決であった。
【0005】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、その目的は、歪みの低減された光パルスを発生可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、本発明の光周波数コム発生装置は、光を2つに分岐して分岐光のそれぞれを変調した後再び合波して出力する光変調器と、前記分岐光のそれぞれを変調するための各変調信号を生成する変調信号生成部と、を備え、前記各変調信号の一方の振幅と他方の振幅との差ΔAを0.2π≦ΔA<0.5πとすることにより光周波数コムを発生させることを特徴とする。
【0007】
また、本発明の光パルス発生装置は、上記の光周波数コム発生装置と、前記光周波数コム発生装置から出力された光に、当該光が前記光周波数コム発生装置によって付与されたチャープを補償するように当該チャープと逆符号の所定量のチャープを付与することにより、パルス圧縮する光パルス圧縮部と、を備えることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の光パルス発生装置は、上記の光パルス発生装置において、前記光パルス圧縮部は、1.3μm用シングルモードファイバであり、前記1.3μm用シングルモードファイバの光ファイバ長Lは、前記変調信号の変調周波数をf(GHz)としたとき、L=(40/π)(Af)−1であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の光パルス発生装置は、上記の光パルス発生装置において、前記変調信号生成部は、前記変調信号の供給ラインの途中に前記各変調信号間の位相ずれを調整する位相調整部を備え、前記位相調整部は、前記位相ずれφを−0.02π≦φ≦0.02πの範囲に調整することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の光パルス発生装置は、上記の光パルス発生装置において、前記変調信号生成部は、前記変調信号の高調波を遮断するフィルタを備え、前記光変調器は、前記高調波が遮断された変調信号によって前記分岐光を変調することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の光パルス発生装置は、上記の光パルス発生装置において、前記フィルタは、前記変調信号の高調波を前記変調信号の基本波に対し40dB以上抑圧することを特徴とする。
また、本発明の光パルス発生装置は、上記の光パルス発生装置において、前記光変調器は、前記変調信号を終端させる終端抵抗を該光変調器から物理的に離した位置に有することを特徴とする。
また、本発明の光パルス発生装置は、上記の光パルス発生装置において、前記光変調器は、LN基板上にマッハツェンダー型光導波路と変調電極が形成されてなるLN変調器であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の光パルス発生装置の制御方法は、光を2つに分岐して分岐光のそれぞれを変調した後再び合波して出力する光変調器と、前記分岐光のそれぞれを変調するための各変調信号を生成する変調信号生成部と、前記光変調器から出力された光に、当該光が前記光変調器によって付与されたチャープを補償するように当該チャープと逆符号の所定量のチャープを付与することにより、パルス圧縮する光パルス圧縮部と、を備えた光パルス発生装置の制御方法において、前記各変調信号の一方の振幅と他方の振幅との差ΔAを0.2π≦ΔA<0.5πとすることを特徴とする。
また、本発明の光パルス発生装置の制御方法は、上記の光パルス発生装置の制御方法において、光スペクトルアナライザを用いて前記光パルス発生装置の出力光のスペクトルを観察し、該スペクトルの2つのサイドバンドのピークパワーの比に基づいて前記差ΔAを制御することを特徴とする。
【0013】
また、本発明の光パルス発生装置の制御方法は、上記の光パルス発生装置の制御方法において、前記各変調信号間の位相ずれφを−0.02π≦φ≦0.02πの範囲に調整することを特徴とする。
また、本発明の光パルス発生装置の制御方法は、上記の光パルス発生装置の制御方法において、光スペクトルアナライザを用いて前記光パルス発生装置の出力光のスペクトルを観察し、該スペクトルの+n次と−n次のサイドバンドのピークパワーに基づいて前記位相ずれφを制御することを特徴とする。
【0014】
また、本発明の光パルス発生装置の制御方法は、上記の光パルス発生装置の制御方法において、前記光パルス発生装置から出力された光パルス列のパルスとパルスの間の光パワーが最小となるように前記各変調信号のバイアスを調整することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、歪みの低減された光パルスを発生することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態による光パルス発生装置の構成を示す図である。
【図2】式(10)の条件が満たされている場合の光周波数コム発生器の出力光パワーP(t)の時間波形を示す図である。
【図3】ΔAおよびΔθの変化に対して光周波数コムの平坦度が変化する様子を示す図である。
【図4】最適な光ファイバ長Lと変調度Aとの関係を示す図である。
【図5】チャープ(分散)補償器によってパルス圧縮された光パルスのS/N比と変調パラメータΔA,Δθとの関係を示す図である。
【図6】光パルスのS/N比の定義を説明するための図である。
【図7】変調信号の位相ずれφとパルス圧縮後の光パルスのS/N比との関係を示す図である。
【図8】変調信号の高調波が光パルスに与える影響を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳しく説明する。
図1は、本発明の実施形態による光パルス発生装置1の構成を示す図である。
【0018】
光パルス発生装置1は、光周波数コム発生器20、チャープ(分散)補償器30、光スペクトルアナライザ101、光電変換器102、及びサンプリングオシロスコープ103を備える。
また、光周波数コム発生器20は、マッハツェンダー型光変調器21、変調信号発生器22、分配器23、可変位相シフタ24A,24B、可変減衰器25A,25B、増幅器26A,26B、バンドパスフィルタ27A,27B、バイアス電圧供給部28、光源10、偏波制御器11を備える。
【0019】
光源10は、例えばレーザ光源であり、所定波長の連続光を発生させる。光源10の出射端は、光ファイバによって偏波制御器11の入射端と接続されている。偏波制御器11は、入射光の偏波状態を所定の状態に制御する。偏波制御器11の出射端は、光ファイバによってマッハツェンダー型光変調器21の入力導波路211と接続されている。
【0020】
マッハツェンダー型光変調器21は、入力導波路211、2つの分岐導波路212A,212B、出力導波路213、変調電極214A,214B、及びバイアス電極215を有する。分岐導波路212A及び212Bは、それぞれ入力導波路211と出力導波路213に接続されている。入力導波路211、分岐導波路212A,212B、及び出力導波路213により、マッハツェンダー干渉計が構成される。変調電極214Aは、分岐導波路212A上に、また変調電極214Bは、分岐導波路212B上に、それぞれ形成されている。バイアス電極215は、分岐導波路212A上若しくは212B上のいずれか、又はその両方に形成されている。なお、変調電極214A,214Bおよびバイアス電極215は同一の電極として形成されていてもよい。このマッハツェンダー型光変調器21は、例えば、ZカットLN基板上に各導波路と各電極を形成したLN変調器を用いることができる。この構成により、マッハツェンダー型光変調器21は、2つの分岐導波路212A,212Bを伝搬する光が受ける位相を独立に制御可能である。
【0021】
変調信号発生器22は、所定の周波数の変調信号(例えば正弦波)を発生させる。変調信号発生器22の出力部は、分配器23の入力部に接続されている。分配器23はウィルキンソン型、90°ハイブリッド型を適用可能であるが、これに限られない。分配器23の一方の出力部は可変位相シフタ24Aに接続され、他方の出力部は可変位相シフタ24Bに接続されている。
【0022】
可変位相シフタ24A,24Bは、それぞれ、入力された信号の位相を所定量シフトさせる。可変位相シフタ24Aの出力部は可変減衰器25Aに接続され、可変位相シフタ24Bの出力部は可変減衰器25Bに接続されている。
【0023】
可変減衰器25A,25Bは、それぞれ、入力された信号のパワーを所定量減衰させる。可変減衰器25Aの出力部は増幅器26Aに接続され、可変減衰器25Bの出力部は増幅器26Bに接続されている。
【0024】
増幅器26A,26Bは、それぞれ、入力された信号を所定の増幅率で増幅する。増幅器26Aの出力部はバンドパスフィルタ27Aに接続され、増幅器26Bの出力部はバンドパスフィルタ27Bに接続されている。なお、可変減衰器25A,25Bと増幅器26A,26Bの組み合わせの代わりに、増幅率が可変の可変増幅器を用いてもよい。
【0025】
バンドパスフィルタ27A,27Bは、それぞれ、入力された信号のうち所定の周波数帯域を通過させ、それ以外の周波数帯域を遮断する。バンドパスフィルタ27Aの出力部はマッハツェンダー型光変調器21の変調電極214Aの一端に接続され、バンドパスフィルタ27Bの出力部はマッハツェンダー型光変調器21の変調電極214Bの一端に接続されている。なお、バンドパスフィルタに代えて、カットオフ周波数が上記所定の周波数帯域よりも高いローパスフィルタを用いてもよい。
【0026】
また、マッハツェンダー型光変調器21の変調電極214A,214Bの各他端は、マッハツェンダー型光変調器21の外部に設けられた終端抵抗29A,29Bとそれぞれ接続されている。終端抵抗29A,29Bがマッハツェンダー型光変調器21の外部に物理的に離して設けられていることで、マッハツェンダー型光変調器21を後述する駆動条件で駆動した際にその特性が終端抵抗29A,29Bの発熱の影響で変化してしまうことを抑制することができる。
【0027】
バイアス電圧供給部28は、マッハツェンダー型光変調器21にバイアス電圧を供給する。バイアス電圧供給部28の出力部は、マッハツェンダー型光変調器21のバイアス電極215に接続されている。
【0028】
チャープ(分散)補償器30は、所定(後述)の分散特性を有しており、入力された光パルスを圧縮して出力する。チャープ補償器30の入力部は、マッハツェンダー型光変調器21の出力導波路213に接続されている。このチャープ補償器30として、分散が上記所定の特性を持った光ファイバを用いることとする。但し、同等の特性を持った光ファイバ以外の光学素子を用いてもよい。
【0029】
光スペクトルアナライザ101は、入力された光のスペクトルを分析するための機器であり、その入力部はマッハツェンダー型光変調器21の後段(出力側)に設けられた分岐部104(光カプラ等)に接続されている。
【0030】
光電変換器102は、チャープ補償器30の後段(出力側)に設けられた分岐部105(光カプラ等)に接続され、分岐部105から分岐された光を電気信号に変換する。
【0031】
サンプリングオシロスコープ103は、入力された信号の時間波形を観察するための機器であり、その入力部は光電変換器102に接続されている。
【0032】
次に、上記のように構成された光パルス発生装置1の動作を説明する。
光源10により発生された光は、偏波制御器11を介してマッハツェンダー型光変調器21へ入力される。マッハツェンダー型光変調器21において、この光は、入力導波路211から分岐導波路212A,212Bへ分岐されて、各分岐導波路中を伝搬する。このとき、分岐導波路212A,212Bを伝搬している間に、伝搬光は、変調電極214A,214B及びバイアス電極215からの電界に応じて位相変化を受ける。そして、この位相変化を受けた光は、出力導波路213で再び合波される。
【0033】
ここで、マッハツェンダー型光変調器21への入力光の振幅と周波数をそれぞれE,ωとし、分岐導波路212Aと212Bにおいて伝搬光が受ける位相変化をそれぞれθ,θとすると、出力導波路213で合波後の光、すなわち光周波数コム発生器20の出力光(マッハツェンダー型光変調器21の出力光)の振幅の時間変化E(t)は、次式(1)のように表される。
E(t)=E[sin(ωt+θ)+sin(ωt+θ)]/2 …(1)
【0034】
但し、
θ=Asin(ωt)+B …(2)
θ=Asin(ωt)+B …(3)
ω=2πf …(4)
:変調電極214Aにより分岐導波路212Aの伝搬光へ与えられる変調の振幅
:変調電極214Bにより分岐導波路212Bの伝搬光へ与えられる変調の振幅
:バイアス電極215により分岐導波路212Aの伝搬光へ与えられるバイアス位相
:バイアス電極215により分岐導波路212Bの伝搬光へ与えられるバイアス位相
:変調信号発生器22が発生する変調信号の変調周波数
である。また、式(2),(3)では、可変位相シフタ24A〜バンドパスフィルタ27Aの経路を介して変調電極214Aへ入力される変調信号と、可変位相シフタ24B〜バンドパスフィルタ27Bの経路を介して変調電極214Bへ入力される変調信号の間に位相ずれ(スキュー)が無いものとしている。
【0035】
上式(1)から、光周波数コム発生器20の出力光のパワーP(t)と周波数ω(t)は、それぞれ次式(5),(6)のように表すことができる。
P(t)=P[1+cos{ΔAsin(ωt)+Δθ}]/2 …(5)
ω(t)=ω+ωAcos(ωt) …(6)
但し、
ΔA=A−A …(7)
Δθ=B−B …(8)
A=(A+A)/2 …(9)
である。また、Pはマッハツェンダー型光変調器21への入力光のパワーである。
【0036】
さて、ここで、周波数シフト(式(6)の第2項)が0となるとき光パワーP(t)が0になる条件を考える。式(6)から、周波数シフトが0となるのはωt=±π/2のときである。ωt=±π/2を式(5)に代入すると、光パワーP(t)が0になる条件として次式(10)が得られる。
±ΔA+Δθ=π …(10)
【0037】
図2に、上式(10)の条件が満たされている場合について、ΔAをパラメータとして光周波数コム発生器20の出力光パワーP(t)の時間波形を示す。同図から分かるように、式(10)の条件が満たされていれば、ΔAが変化しても光パルス列のパルスとパルスの間において光パワーは0に抑えられ、光パルスの裾野に歪みが生じることがない。しかしながら、ΔAがπ/2より大きくなると、光パルスのトップの部分が窪んで歪みが発生している。なお、特許文献1によれば、上式(10)は、光周波数コム(光周波数コム発生器20の出力光)を平坦化させるための条件でもある。
【0038】
次に、ΔAが満たすべき値の範囲を決定するために、光周波数コムの平坦度に着目する。上式(5)から、光パワーP(t)をフーリエ変換して得られるn次のサイドバンドのピークパワーPは、次式(11)のように表される。但し、Jはn次のベッセル関数である。
=P[J(A)+J(A+ΔA)+2J(A)J(A+ΔA)cos(Δθ)]/4 …(11)
【0039】
図3に、ΔAおよびΔθの変化に対して光周波数コムの平坦度が変化する様子を示す。但し、ここでは−N次からN次(A=2πの場合(図3(A))はN=6、A=4πの場合(図3(B))はN=12、A=5πの場合(図3(C))はN=15とする)までの各サイドバンドのピークパワーPの最大値と最小値の差を、光周波数コムの平坦度と定義する。同図から分かるように、平坦度が最も小さくなる(光周波数コムが最も平坦になる)のは、いずれのAの値についても、ΔA=0.2π付近である。また、ΔAが0.2πより小さくなると、平坦度が最小となるΔθの範囲が非常に狭くなり、ΔAが0.5πより大きくなると、平坦度は悪化してしまう。これらのことから、良好な平坦度の光周波数コムを得るためのΔAの条件として、次式(12)が求められる。
0.2π≦ΔA<0.5π …(12)
【0040】
なお、一般に、マッハツェンダー型光変調器では、2つの分岐導波路が僅かに非対称性を有し、また経時的なドリフト現象も起こり得ることから、Δθの値を設計的に一意に定めておくことは現実的ではない。よって、上式(12)のようにΔAのみを最適値として決定し、Δθについては後述するように実際の光パルスを観察しながらバイアス電圧を調整していくという方法をとることが好ましい。
【0041】
以上のように、マッハツェンダー型光変調器21の変調駆動条件として式(12)を適用することで、光周波数コム発生器20からの出力光を、平坦度が良好な光周波数コム(周波数領域)とすることができる。また、マッハツェンダー型光変調器21の変調駆動条件としてさらに式(10)を適用することで、光周波数コム発生器20からの出力光を、パルスの裾野に歪みを持たない光パルス(時間領域)とすることができる。
【0042】
光周波数コム発生器20から出力された上記の光パルス(光周波数コム)は、チャープ補償器30へ入力されてパルス圧縮される。上式(5)および(6)によれば、光周波数コム発生器20からの光パルスは正または負のチャープを持っている。そして、式(6)からチャープ量は変調度A(式(9)参照)に比例するので、光パルスのチャープを補償して最適なパルス圧縮を行うのに必要なチャープ補償器30の光ファイバ長は、変調度Aに反比例することになる。
【0043】
図4に、変調信号発生器22の変調周波数をf=10GHzとし、チャープ補償器30として1.3μm用シングルモードファイバ(分散値17ps/nm/km)を用いた場合において、光パルスを圧縮してそのパルス幅(半値全幅)を最も狭くすることができる光ファイバ長Lと変調度Aとの関係を示す。同図から、最適なパルス圧縮に必要な光ファイバ長Lは、変調度Aから次式(13)により定めることができることが分かる。
L=(4/π)A−1 …(13)
【0044】
また、式(6)から光パルスのチャープ量は変調周波数fに比例することから、変調周波数がf(GHz)の場合、上式(13)は次式(14)のように一般化することができる。
L=(40/π)(Af)−1 …(14)
【0045】
図5に、式(13)で定められる光ファイバ長Lを有したチャープ補償器30(1.3μm用シングルモードファイバ(G.652))によってパルス圧縮された光パルスのS/N比と、マッハツェンダー型光変調器21の変調パラメータΔA,Δθとの関係を示す。但し、光パルスのS/N比は、図6に示されるように、光パルスの時間波形においてメインローブの部分の光量をSとし、サイドローブ(ペデスタル)の部分の光量をSとしたとき、S/N比=S/Sと定義することとする。
【0046】
図5において、特許文献1で光変調器の最適な駆動条件とされたΔA=π/2且つΔθ=π/2の条件を●印で示した。図5によれば、マッハツェンダー型光変調器21の変調駆動条件として上述の式(12)を適用すれば、特許文献1の最適条件(●印)よりもさらにS/N比を向上させることが可能であることが分かる。
【0047】
次に、マッハツェンダー型光変調器21に入力される2つの変調信号、すなわち、可変位相シフタ24A〜バンドパスフィルタ27Aの経路を介して変調電極214Aへ入力される変調信号と、可変位相シフタ24B〜バンドパスフィルタ27Bの経路を介して変調電極214Bへ入力される変調信号との間に生じ得る位相ずれ(スキュー)の影響について検討する。2つの変調信号間の位相ずれをφとすると、光周波数コム発生器20から出力されるn次のサイドバンドのピークパワーPは、次式(15)のように表される。
=P[J(A)+J(A+ΔA)+2J(A)J(A+ΔA)cos(nφ+Δθ)]/4 …(15)
【0048】
上式(15)によれば、cosの引数に位相ずれφに起因する項が加わっているため、+n次のピークパワーP+nと−n次のピークパワーP−nが異なることが分かる。つまり、光周波数コム発生器20から出力される光パルスのスペクトルは、0次のピークの長波長(+の次数)側と短波長(−の次数)側で非対称となるため、スペクトルの逆フーリエ変換である光パルスの時間波形も、パルスのピークの前後で非対称になる。この結果、チャープ補償器30によるパルス圧縮後の光パルスのS/N比は、変調信号に位相ずれが無い場合に比べて劣化してしまう。
【0049】
図7に、変調信号の位相ずれφとパルス圧縮後の光パルスのS/N比との関係を示す。同図から、例えばS/N比の劣化を10%以内に抑えるためには、変調信号の位相ずれを−0.02π≦φ≦0.02πの範囲に抑え込む必要があることが分かる。このように高精度に変調信号の位相を合わせるために、本実施形態の光パルス発生装置1では、図1に示されるように、変調信号を分配器23で分配した後の2つの信号経路(可変位相シフタ24A〜バンドパスフィルタ27Aの経路と、可変位相シフタ24B〜バンドパスフィルタ27Bの経路)を対称な構成としている。特に、可変位相シフタを2つの経路の両方に設けているが、これは、可変位相シフタを片方の経路だけに用いた場合は非対称性により微小な分散が発生し、変調周波数を変化させたり環境温度が変化したりした際にスキューの発生原因となってしまうこと、また、可変位相シフタで変調信号の位相を変化させる時にはパワー変動も生じるので、片方の経路だけに可変位相シフタを用いた場合には変調信号の位相と強度をともに所望の状態に調整することが難しいこと、等を考慮したためである。
【0050】
次に、マッハツェンダー型光変調器21に入力される変調信号の歪みの影響について検討する。前述した各図中に示されているように、本実施形態の光パルス発生装置1で用いる変調信号の変調度Aは2πから5π程度の大きさであり、通常の通信用の光変調器で用いる変調信号の変調度よりも2倍以上大きい。そのため、このような変調信号を増幅器26A,26Bで増幅すると、変調周波数fを基本波とする高調波が顕著に発生し、この高調波が光パルスに悪影響を及ぼしてしまうことになる。そこで、本実施形態の光パルス発生装置1では、高調波を除去するために、増幅器26A,26Bの後段にバンドパスフィルタ27A,27Bを設けている。具体的には、基本波の振幅に対し高調波の振幅は10dB程度にもなるため、バンドパスフィルタ27A,27Bとしては、ベッセルフィルタのような緩やかな特性を持つフィルタではなく、チェビシェフフィルタのような急峻な特性を持ったフィルタを適用するのがよい。また、基本波や高調波に一致する周波数でリップルを有しないように、フィルタを設計する必要がある。
【0051】
図8に、高調波の抑圧比(基本波の振幅に対する2倍高調波の振幅の比)が25dBの場合と50dB以上の場合のそれぞれについて、光パルスのスペクトルと時間波形を示す。同図から、高調波の抑圧比が50dB以上の場合は、抑圧比が25dBの場合と比べて、光周波数コムの平坦度が良好であり、光パルスのパルス幅も狭窄化できることが分かる。なお、高調波の抑圧比は40dB以上あれば、ほぼ同等の効果が得られると考えられる。
【0052】
次に、光パルス発生装置1の駆動条件(A,ΔA,Δθ,φ)を所望の状態に調整・制御する方法を説明する。
【0053】
まず、AおよびΔAを例えば特開2009−222926号公報に記載された手法により所望の値に調整する。具体的には、最初に可変位相シフタ24A〜バンドパスフィルタ27Aの信号経路のみから変調信号(振幅A)をマッハツェンダー型光変調器21に入力して、光スペクトルアナライザ101を用いてマッハツェンダー型光変調器21からの出力光のスペクトルを観察する。このとき、所定の2つのサイドバンドのピークパワーの比から変調信号の振幅Aを求めることができるので、振幅Aの値が所定値となるように、変調信号発生器22の出力と可変減衰器25Aの減衰量を調整する。そしてその次に、同様にマッハツェンダー型光変調器21へ可変位相シフタ24B〜バンドパスフィルタ27Bの信号経路のみから変調信号(振幅A)を入力し、可変減衰器25Bの減衰量を調整することで、振幅Aを変化させAおよびΔAが所望の値となるようにする。これにより、上述した式(12)の駆動条件が実現される。なお、ベッセル関数は擬似周期関数であるので、任意に2つのサイドバンドを選んだとき振幅(AとA)の解を一意に定めることができない。そこで、例えば、2つのサイドバンドの組を2組選び、この2組のそれぞれから求まる解のうち一致したものを、求めるべき振幅の値として決定するようにすればよい。
【0054】
次いで、φを所望の値に調整する。具体的には、光スペクトルアナライザ101を用いてマッハツェンダー型光変調器21からの出力光のスペクトルを観察し、+n次のサイドバンドのピークパワーと−n次のサイドバンドのピークパワーが等しくなるように、可変位相シフタ24A,24Bの位相シフト量を制御する。これにより、変調信号の位相ずれが−0.02π≦φ≦0.02πの範囲内となる状態が実現される。
【0055】
最後に、Δθを所望の値に調整する。具体的には、サンプリングオシロスコープ103を用いてパルス圧縮後の光パルスを観察し、光パルス列のパルスとパルスの間の光パワーが0(または最小値)となるように、バイアス電圧供給部28のバイアス電圧を制御する。これにより、上述した式(10)の駆動条件が実現される。
【0056】
以上、図面を参照してこの発明の一実施形態について詳しく説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々な設計変更等をすることが可能である。
【符号の説明】
【0057】
1…光パルス発生装置 10…光源 11…偏波制御器 20…光周波数コム発生器 21…マッハツェンダー型光変調器 22…変調信号発生器 23…分配器 24…可変位相シフタ 25…可変減衰器 26…増幅器 27…バンドパスフィルタ 28…バイアス電圧供給部 29…終端抵抗 30…チャープ(分散)補償器 101…光スペクトルアナライザ 102…光電変換器 103…サンプリングオシロスコープ 211…入力導波路 212…分岐導波路 213…出力導波路 214…変調電極 215…バイアス電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を2つに分岐して分岐光のそれぞれを変調した後再び合波して出力する光変調器と、
前記分岐光のそれぞれを変調するための各変調信号を生成する変調信号生成部と、
を備え、
前記各変調信号の一方の振幅と他方の振幅との差ΔAを0.2π≦ΔA<0.5πとすることにより光周波数コムを発生させる
ことを特徴とする光周波数コム発生装置。
【請求項2】
請求項1に記載の光周波数コム発生装置と、
前記光周波数コム発生装置から出力された光に、当該光が前記光周波数コム発生装置によって付与されたチャープを補償するように当該チャープと逆符号の所定量のチャープを付与することにより、パルス圧縮する光パルス圧縮部と、
を備えることを特徴とする光パルス発生装置。
【請求項3】
前記光パルス圧縮部は、1.3μm用シングルモードファイバであり、
前記1.3μm用シングルモードファイバの光ファイバ長Lは、前記変調信号の変調周波数をf(GHz)としたとき、L=(40/π)(Af)−1である
ことを特徴とする請求項2に記載の光パルス発生装置。
【請求項4】
前記変調信号生成部は、前記変調信号の供給ラインの途中に前記各変調信号間の位相ずれを調整する位相調整部を備え、
前記位相調整部は、前記位相ずれφを−0.02π≦φ≦0.02πの範囲に調整する
ことを特徴とする請求項2または請求項3に記載の光パルス発生装置。
【請求項5】
前記変調信号生成部は、前記変調信号の高調波を遮断するフィルタを備え、
前記光変調器は、前記高調波が遮断された変調信号によって前記分岐光を変調する
ことを特徴とする請求項2から請求項4のいずれか1項に記載の光パルス発生装置。
【請求項6】
前記フィルタは、前記変調信号の高調波を前記変調信号の基本波に対し40dB以上抑圧することを特徴とする請求項5に記載の光パルス発生装置。
【請求項7】
前記光変調器は、前記変調信号を終端させる終端抵抗を該光変調器から物理的に離した位置に有することを特徴とする請求項2から請求項6のいずれか1項に記載の光パルス発生装置。
【請求項8】
前記光変調器は、LN基板上にマッハツェンダー型光導波路と変調電極が形成されてなるLN変調器であることを特徴とする請求項2から請求項7のいずれか1項に記載の光パルス発生装置。
【請求項9】
光を2つに分岐して分岐光のそれぞれを変調した後再び合波して出力する光変調器と、
前記分岐光のそれぞれを変調するための各変調信号を生成する変調信号生成部と、
前記光変調器から出力された光に、当該光が前記光変調器によって付与されたチャープを補償するように当該チャープと逆符号の所定量のチャープを付与することにより、パルス圧縮する光パルス圧縮部と、
を備えた光パルス発生装置の制御方法において、
前記各変調信号の一方の振幅と他方の振幅との差ΔAを0.2π≦ΔA<0.5πとする
ことを特徴とする光パルス発生装置の制御方法。
【請求項10】
光スペクトルアナライザを用いて前記光パルス発生装置の出力光のスペクトルを観察し、該スペクトルの2つのサイドバンドのピークパワーの比に基づいて前記差ΔAを制御することを特徴とする請求項9に記載の光パルス発生装置の制御方法。
【請求項11】
前記各変調信号間の位相ずれφを−0.02π≦φ≦0.02πの範囲に調整することを特徴とする請求項9または請求項10に記載の光パルス発生装置の制御方法。
【請求項12】
光スペクトルアナライザを用いて前記光パルス発生装置の出力光のスペクトルを観察し、該スペクトルの+n次と−n次のサイドバンドのピークパワーに基づいて前記位相ずれφを制御することを特徴とする請求項11に記載の光パルス発生装置の制御方法。
【請求項13】
前記光パルス発生装置から出力された光パルス列のパルスとパルスの間の光パワーが最小となるように前記各変調信号のバイアスを調整することを特徴とする請求項9から請求項12のいずれか1項に記載の光パルス発生装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−78413(P2012−78413A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−221053(P2010−221053)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、独立行政法人情報通信研究機構「高度通信・放送研究開発委託研究/近接テラヘルツセンサシステムのための超短パルス光源の研究開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】