説明

光回折構造の形成方法

【課題】 各種の支持体に光回折構造を設けることによって得られる意匠の多種多様化を図る。
【解決手段】 基材シート3の一方の面に光回折構造形成層4が設けられているとともに他方の面には背面滑性層2が設けられている転写シート1を用いて、支持体上に光回折構造形成層4を網点状に転写することによって、網点状に分布する複数の光回折構造単位9から構成され、且つ、異なる回折像を現出する2以上の光回折構造単位9が組み合わされて構成される光回折構造10を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光回折構造の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、クレジットカードやキャッシュカード等のカード類、各種金券類、及び各種装飾品等の多くには、これらのものに装飾性を付与する等の目的でホログラムや回折格子といった光回折構造が設けられている。
【0003】
また、光回折構造を設けるための具体的な手段としては、例えば、特許文献1等に提案されているような基材シート上に剥離層、光回折構造が形成された樹脂層、及び接着剤層を順次積層してなる構成の転写シートを用い、ホットスタンプによって上記転写シートから光回折構造を加熱転写するというものが一般的である。
【0004】
【特許文献1】特開平4−281489号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような手段によって光回折構造を設けた場合、ホットスタンプによる転写はその転写パターンが一定のものに限られてしまい、光回折構造の転写パターンを変えるにはその都度ホットスタンプの金型を交換したりしなければならず、また、得られる意匠は予め転写シート上に形成しておいた光回折構造によるので、前述の如き従来からの手段では光回折構造そのものが有する優れた装飾性を被転写体に付与することができるものの、光回折構造を転写することで得られる意匠は用意された転写シートやホットスタンプの転写パターンによって制限されていた。
【0006】
本発明は上記の点に鑑みてなされた発明であって、光回折構造を設けることによって得られる意匠の多種多様化を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち本発明は、
(1)網点状に分布する複数の光回折構造単位から構成され、且つ、異なる回折像を現出する2以上の光回折構造単位が組み合わされて構成される光回折構造を、基材シートの一方の面に光回折構造形成層が設けられているとともに他方の面には背面滑性層が設けられている転写シートを用いて、支持体上に光回折構造形成層を網点状に転写することによって形成する、ことを特徴とする光回折構造の形成方法、
(2)光回折構造が、R(赤)、G(緑)、B(青紫)に対応する3種類の光回折構造単位の組み合わせで形成される、上記(1)記載の光回折構造の形成方法、
(3)光回折構造が、大きさの異なる複数の光解回折構造単位により形成される、上記(1)又は(2)記載の光回折構造の形成方法、
を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の光回折構造の形成方法によれば、網点状に分布する複数の光回折構造単位からなる光回折構造が支持体上に形成されるので、当該光回折構造を構成する光回折構造単位を適宜選択することによって多種多様の意匠を付与することができ、意匠性に優れたものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を図面に基づき詳細に説明する。
図1,図2に示すように本発明の光回折構造形成体12は、基材シート3の一方の面に光回折構造形成層4が設けられ、且つ他方の面には背面滑性層2が設けられている図1に示すような転写シート1を用い、該転写シート1の光回折構造形成層4側を支持体11に対向せしめるとともに、これをサーマルヘッドの如き加熱部位を任意に変えることができる加熱媒体によって背面滑性層2側から加熱して上記光回折構造形成層4を網点状に転写せしめて形成され、図2に示すように網点状に分布する複数の光回折構造単位9からなる光回折構造10を支持体11上に形成したものである。尚、図1は転写シート1の一例を示す断面図であり、該転写シート1は転写時に加熱媒体からの熱伝導が阻害されないようその全体の厚みが5〜30μmとなるように構成されているのが好ましい。
【0010】
また、光回折構造10を形成する支持体11としてはあらゆる物品を適用することができ、その具体例としては、クレジットカード、キャッシュカード、免許証、IDカード、テレフォンカード等のプリペイドカード、ICカード、非接触ICカード、医療カード、顔写真カード等のカード類、ビール券、商品券、図書券、小切手、手形、株券、証券、預金通帳、入場券、通行券、各種証書等の金券類、一般フォーム、配送伝票等のフォーム類、その他、帳票類、包装材、建材、書籍や雑誌等の出版物、POP類等が挙げられる。
【0011】
ここで、本発明における光回折構造とは回折格子又はホログラムを意味し、支持体11上に光回折構造10を形成すべく転写シート1から転写される光回折構造形成層4には、回折格子やホログラムの干渉縞が記録されている。
【0012】
光回折構造形成層4に記録する回折格子やホログラムの干渉縞は、表面凹凸のレリーフとして記録されているもの(ホログラムを例にとれば、干渉縞がこのように記録されているものは「平面ホログラム」と一般に称されている)、その厚み方向に立体的に記録されているもの(ホログラムを例にとれば、干渉縞がこのように記録されているものは「体積ホログラム」と一般に称されている)、又は透過率の変化による光の振幅の変化で回折が起こるように記録されているもの(ホログラムを例にとれば、干渉縞がこのように記録されているものは「振幅ホログラム」と一般に称されている)のいずれであっても良く、光回折構造としてのホログラムについてその具体例を挙げると、フレネルホログラム、フラウンホーファーホログラム、レンズレスフーリエ変換ホログラム、イメージホログラム等のレーザー再生ホログラム、リップマンホログラム、デニシュークホログラム、レインボーホログラム等の白色光再生ホログラム、これらの原理を利用したホログラフィックスステレオグラム、マルチプレックスホログラム、カラーホログラム、コンピューターホログラム、ホログラムディスプレー、ホログラフィック回折格子等が挙げられる。
【0013】
上記の如き回折格子やホログラムの干渉縞は、従来既知の手段によって光回折構造形成層4に記録することができ、例えば、回折格子やホログラムの干渉縞を表面凹凸のレリーフとして記録する場合には、回折格子や干渉縞が凹凸の形で記録された原版をプレス型として用い、この原版上に樹脂シートを置いて加熱ロール等の適宜手段によって両者を加熱圧接して上記原版の凹凸模様を複製する等すれば良く、このような記録手段は量産性やコスト面で好ましい。
【0014】
また、光回折構造形成層4の材質としては、ポリ塩化ビニル、アクリル(例、MMA)、ポリスチレン、ポリカーボネート等の熱可塑性樹脂、不飽和ポリエステル、メラミン、エポキシ、ポリエステル(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、ポリオール(メタ)アクリレート、メラミン(メタ)アクリレート、トリアジン系アクリレート等の熱硬化性樹脂を硬化させたもの、或いは、上記熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂の混合物が使用可能であり、これらのもの以外にもラジカル重合性不飽和基を有する熱成形性物質を使用することもできる。
【0015】
更に、光回折構造形成層4に表面凹凸のレリーフとしての回折格子やホログラムの干渉縞を記録する場合には、回折効率を高めるための薄膜層5をそのレリーフ面6に形成しておくのが好ましく、光を反射する金属薄膜を薄膜層5として形成すれば反射型の光回折構造10が得られ、また、透明薄膜を薄膜層5として形成すれば光回折構造10が形成される支持体11が隠蔽されない透明型の光回折構造10が得られ、これらのものは目的に応じて適宜選択することができる。
【0016】
光回折構造10を反射型のものとする場合に形成される金属薄膜は、Cr、Ag、Au、Al、Sn等の金属及びその酸化物や窒化物等を単独、又は2種以上組み合わせ、真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、イオンプレーティング法、電気メッキ等によりその膜厚が500〜1000Åとなるように形成するのが好ましく、また、当該金属薄膜は光回折構造10が形成された支持体11が完全に隠蔽されないように網点状に形成することもできる。
【0017】
光回折構造10を透明型のものとする場合に形成される透明薄膜は、回折効率を高めることができる光透過性のものであれば特に限定されないが、特開平4−281489号公報に開示されているような、1)光回折構造形成層4より屈折率の大きい透明連続薄膜であって、Sb2、S3、TiO2、ZnS、SiO、TiO、SiO2等のような可視領域で透明なものや、赤外又は紫外領域で透明なもの、2)光回折構造形成層4よりも屈折率の大きい透明強誘電体、3)光回折構造形成層4よりも屈折率の小さい透明連続薄膜、4)厚さ200Å以下の反射金属薄膜、5)光回折構造形成層4と屈折率の異なる樹脂、6)上記1)〜5)の材質を適宜組み合わせてなる積層体、等を挙げることができる。
【0018】
上記1)〜6)のうち、4)の厚みは200Åであるが、1)〜3)、及び5)、6)の厚みは薄膜層5を形成する材質の透明領域であれば良く、一般には、500〜2000Åである。また、上記1)〜4)により薄膜層5を形成する場合は、真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、イオンプレーティング法、電気メッキ等の一般的な薄膜形成手段で形成でき、上記5)により薄膜層5を形成する場合は、一般的なコーティング法により薄膜層5を形成することができる。更に、上記6)により薄膜層5を形成する場合は、上記の各種手段、方法を適宜組み合わせることによって薄膜層5を形成することができる。
【0019】
また、転写シート1の基材シート3としては、ある程度の剛性と耐熱性を有する3〜25μm程度のものが用いられ、具体的には、コンデンサーペーパー等の各種加工紙、又はポリエステル、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、1,4−ポリシクロヘキシレンジメチルテレフタレート、アラミド、ポリカーボネート、ポリビニルアルコール、セロファン等からなる合成樹脂シートを例示することができるが、寸法安定性、耐熱性、強靱性等からポリエチレンテレフタレートが特に好ましい。
【0020】
上記基材シート3の光回折構造形成層4が設けられる側には、剥離性、箔切れ性を向上させるために必要に応じて剥離層7を0.1〜1.0μm程度の厚みで設けることができるが、その材質は基材シート3の材質に応じて適宜選択され、ポリメタクリル酸エステル、ポリ塩化ビニル、セルロース、シリコーン、炭化水素を主成分とするワックス類、ポリスチレン、塩化ゴム、カゼイン、各種界面滑性剤、金属酸化物等を例示することができ、これらのものは単独で用いても又は2種以上を混合して用いても良い。尚、基材シート3自体が剥離性を有していれば剥離層7を設ける必要は特になく、この場合には剥離層7が設けられる位置に転写後の光回折構造形成層4を保護する表面保護層を設けることもできる。
【0021】
また、これらの層を任意の形状に破断しやすくするために、マイクロシリカ等の微粉末を10%以下の量で添加しても良い。もちろん、透明性が要求されるためその粒径は1μm以下に限定される。
【0022】
また、支持体11と光回折構造形成層4との接着性を考慮して光回折構造形成層4上に必要に応じて感熱接着剤層8を設けることもでき、該感熱接着剤層8を構成する樹脂としては、ポリアクリル酸エステル、ポリ塩化ビニル、塩素化ポリプロピレン、ポリエステル、ポリウレタン、ロジン又はロジン変成マレイン酸、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。
【0023】
接着剤層にも任意の形状に破断しやすくするために、マイクロシリカ等の微粉末を添加することができ、目的に応じて1〜200%添加することができる。また、1μm以下の微粒子は、転写時、層に凹凸を発生させたりする等の反射薄膜層への影響が小さく良好である。
【0024】
転写シート1の背面滑性層2中には、該背面滑性層2に滑性を付与すべくリン酸エステル系界面活性剤及び/又はモース硬度が3未満の粒子が含有されており、上記リン酸エステル系界面活性剤としては、炭素数6〜20、好ましくは炭素数12〜18の飽和又は不飽和の高級アルコール(例えば、セチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール等)のモノリン酸エステル又はジリン酸エステル等の長鎖アルキルリン酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル又はポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテル等のリン酸エステル、又は前述の如き高級アルコール、炭素数8〜12のアルキル基を少なくとも1〜2個有するアルキルフェノール(例えば、ノニルフェノール、ドデシルフェノール等)やアルキルナフトール又はジフェニルフェノールのアルキレンオキサイド付加物(通常、付加モル数1〜8)のモノリン酸エステル塩又はジリン酸エステル塩等の非イオン性又は陰イオン性リン酸エステル界面活性剤が用いられ、モース硬度が3未満の粒子としては、タルク、カオリン、セキボク、硝石、石膏、ブルース石等の無機粒子や、アクリル樹脂、テフロン(登録商標)樹脂、シリコーン樹脂、ラウロイル樹脂、フェノール樹脂、架橋ポリアセタール樹脂等からなる合成樹脂粒子等が用いられる。
【0025】
尚、上記モース硬度が3未満の粒子は、その粒径が0.01〜10μm程度であるのが好ましく、背面滑性層2の厚みの30〜400%の範囲にあるものが好適である。更に、当該粒子の形状は球形に近い程背面滑性層2に優れた滑性を付与することができる。また、天然の無機粒子を用いる場合、不純物の含有量が5%未満であれば本発明において何ら支障なくこれを用いることができる。
【0026】
また、充分な被膜強度をもって基材シート3上に設けることが可能であれば、背面滑性層2は上記リン酸エステル系界面活性剤及び/又はモース硬度が3未満の粒子のみから構成されていても良いが、被膜強度を充分なものとするためにリン酸エステル系界面活性剤やモース硬度が3未満の粒子を樹脂バインダーに配合して背面滑性層2を構成するのが好ましい。この場合に用いられる樹脂バインダーとしては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、又は電離放射線硬化性樹脂のいずれであっても良いが、柔軟性やヘッド追従性の点から熱可塑性樹脂やその架橋体が好ましい。
【0027】
このような熱可塑性樹脂としては、ポリエステル系樹脂、ポリアクリル酸エステル系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、スチレンアクリレート系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアクリレート系樹脂、ポリアクリルアミド系樹脂、ポリビニルクロリド系樹脂等を用いることができるが、本発明ではポリビニルブチラールやポリビニルアセタール等の反応性水酸基を有する樹脂を用いるのが好ましい。
【0028】
上記樹脂バインダーにリン酸エステル系界面活性剤及び/又はモース硬度が3未満の粒子を配合する場合には、リン酸エステル系界面活性剤は後述するアルカリ性物質を含め樹脂バインダー100重量部に対して5〜500重量部の割合で配合するのが好ましく、モース硬度が3未満の粒子は樹脂バインダー100重量部に対して5〜40重量部の割合で配合するのが好ましい。尚、樹脂バインダーに対するリン酸エステル系界面活性剤やモース硬度が3未満の粒子の配合量が少ない場合には背面滑性層2に充分な滑性が得られなくなり、配合量が多過ぎる場合には背面滑性層2の可撓性や被膜強度が低下してしまう。
【0029】
更に、上記樹脂バインダーには、背面滑性層2の耐熱性や基材シート3との密着性、背面滑性層2を塗工形成する際の塗工性等を向上させるために、ポリイソシアネートを架橋剤として添加するのが好ましく、このようなポリイソシアネートとしては従来公知の塗料、接着剤、ポリウレタン等の合成に使用されているいずれのものであっても良いが、例えば、「武田薬品(株)製;タケネート」、「大日本インキ化学(株)製;バーノック」、「日本ポリウレタン(株)製;コロネート」、「旭化成工業(株)製;デュラネート」、「バイエル(株)製;ディスモジュール」等として市販されているものを用いることができる。
【0030】
ポリイソシアネートを樹脂バインダーの架橋剤として用いる場合、ポリイソシアネートは樹脂バインダー100重量部に対して5〜200重量部の割合で添加し、NCO/OHの比が0.8〜2.0程度となるようにするのが好ましく、このときのポリイソシアネートの添加量が少ないと架橋密度が低く耐熱性が不充分になってしまい、また、ポリイソシアネートの添加量が多過ぎると形成される塗膜の収縮の制御が困難になってしまうとともに、硬化時間が長くなってしまったり、背面滑性層2中に残存する未反応のNCO基が空気中の水分と反応してしまったりする等の不都合が生じてしまう。
【0031】
背面滑性層2中には、前述の如きリン酸エステル系界面活性剤とモース硬度が3未満の粒子との両方又はいずれか一方が含有されていれば良いが、リン酸エステル系界面滑性剤を背面滑性層2中に含有せしめる場合には、サーマルヘッド等の加熱媒体から背面滑性層2に熱が印加される際にリン酸エステル系界面活性剤やその分解物から生じる酸根を中和して、加熱媒体が腐食されるのを防ぐことができるようにアルカリ性物質を添加しておくのが好ましい。
【0032】
このようなアルカリ性物質としては、ハイドロタルサイト、水酸化アルミニウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、水酸化アルミナ・マグネシウムアルミニウムグリシネート、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム等のアルカリ性無機化合物や、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、ジプロピルアミン、トリプロピルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、ペンチルアミン、ジペンチルアミン、トリペンチルアミン、トリヘキシルアミン、トリオクチルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、ジドデシルアミン、トリデシルアミン、テトラデシルアミン、ペンタデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ヘプタデシルアミン、オクタデシルアミン、エイコシルアミン、ドコシルアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、プロパノールアミン、ジプロパノールアミン、イソプロパノールアミン、N−メチル−ノニルアミン、N−メチル−デシルアミン、N−エチル−パルミチルアミン等のアミン類を例示することができ、これらのものは単独で用いても混合して用いても良い。尚、アルカリ性無機化合物を添加する場合には、モース硬度が3未満のものを添加するのが好ましい。また、アミンは常温不揮発性であるとともに沸点が200℃以上のものが好ましい。
【0033】
上記アルカリ性物質はリン酸エステル系界面滑性剤1モル当たり0.1〜10モル程度の割合で添加されるのが好ましく、リン酸エステル系界面滑性剤に対するアルカリ性物質の添加量が少ないとリン酸エステル系界面活性剤やその分解物から生じた酸根を完全に中和することができず、また添加量を必要以上に多くしても得られる効果の向上は見られない。
【0034】
更に、背面滑性層2中には、リン酸エステル系界面活性剤及び/又はモース硬度が3未満の粒子に加えて、ワックス、シリコーンオイル、高級脂肪酸アミド、エステル、リン酸エステル系界面活性剤以外の界面活性剤等の滑剤や、4級アンモニウム塩、リン酸エステル等の帯電防止剤等を必要に応じて添加することもできる。
【0035】
これらのことにより、0.3mj/dot以上さらには、0.8mj/dot以上の印加エネルギーを与えても、所望の転写適性を得ることができる。特に、光回折構造は、感熱転写リボンのような低エネルギー(0.1〜0.3mj/dot)では、被転写部分の膜強度や厚さにより良好に転写せしめることができないため、背面滑性層はより耐熱性、熱スベリ性の高いものであることが要求される。また、光回折構造形成層が、硬化性樹脂からなっていたり、無機薄膜の如く硬質の薄膜で形成されている場合、背面滑性層からのブリード性成分が、その硬化膜上に付着したまま残存し易くなり、その付着成分が多くなると界面剥離を生じ、印字中若しくは印字後にその界面で剥離する現象が起こることがある。従って、その場合には、例えば固形の滑剤を用いたり、固形の滑剤の比率を高めたりする等して付着性の少ない背面滑性層とするのが望ましい。
【0036】
このような背面滑性層2は、該背面滑性層2を構成する上記組成成分を適宜選択してアセトン、メチルエチルケトン、トルエン、キシレン等の適当な溶剤中に溶解又は分散せしめて調製した塗工液を用い、グラビアコーター、ロールコーター、ワイヤーバー等により塗工形成することができ、鉛筆硬度でH〜2H程度の硬度になるよう固形分基準で5.0g/m2以下、好ましくは0.1〜1.0g/m2の厚みに形成するのが好ましい。尚、樹脂バインダーの架橋剤としてイソシアネートを添加した場合には、未反応のイソシアネート基が残っている場合が多いので、背面滑性層2を塗工形成した後に充分な熟成処理を施しておくのが好ましい。
【0037】
また、転写層は多層構造になり総厚さが大きくなるため、光回折構造の解像度を上げるためには、背面滑性層上で面方向へ熱拡散しにくくする必要がある。特に、光回折構造を網点状に転写する場合は、解像度を確保するため転写シートの面内方向への熱伝導を小さくする必要があり、そのためには、背面滑性層の熱伝導率を1.0×10-4kcal/ms.℃以下、好ましくは0.2×10-4kcal/ms.℃以下とする必要がある。
【0038】
支持体11に光回折構造10を設けるにあたって、上記の如き背面滑性層2が基材シート3の光回折構造形成層4が設けられている側と反対側の面、即ち、転写時に加熱媒体が接する面に設けられている転写シート1を用いることにより、光回折構造形成層4を支持体11に転写する際に、空気が入り込んだりして光回折構造形成層4側への熱伝導が不充分とならないよう転写シート1に強く押し付けられながら移動するサーマルヘッドの如き加熱媒体が、転写シート1に対して滑らかに移動してスティッキング現象を起こすことなく光回折構造形成層4の良好な転写を行うことができる。また、加熱媒体との接触面が削られてカスが生じると、これが加熱媒体の熱で燃えて当該加熱媒体を損傷する原因となる虞があるが、このようなカスが生じることもない。従って、このような転写シート1を用いれば、何ら不都合が生じることなくサーマルヘッドのような所望の転写パターンに応じて発熱部位を自由に変えることのできる加熱媒体によって光回折構造10を構成する光回折構造単位9を網点状に任意のパターンで形成することができ、本発明の実効が図れる。
【0039】
一方、本発明で得られる光回折構造形成体12は、網点状に分布せしめた複数の光回折構造単位9から構成される光回折構造10を支持体11上に形成してなるものであって、個々の光回折構造単位9には前述したような回折格子やホログラムの干渉縞が記録されており、また、回折格子やホログラムの干渉縞を表面凹凸のレリーフとして記録する場合には、そのレリーフ形成面に必要に応じて薄膜層を形成することもでき、このような光回折構造単位9からなる光回折構造10を支持体11上に形成するには、前述の如き本発明光回折構造の形成方法が好適である。尚、図2は本発明で得られる光回折構造形成体12の一例の概略を示す断面図である。
【0040】
本発明では、網点状に分布する複数の光回折構造単位9で光回折構造10を構成するようにした点が特に重要であって、このような構成を採用することにより個々の光回折構造単位9の平面形状やその大きさ、更には、分布密度を変えることで光回折構造10の回折効率を部分的に制御することができ、これによって回折効率の強弱による階調を表現することができる。その上、図3に示すように異なる回折像が現出する2以上の光回折構造単位9A、9Bを組み合わせて光回折構造10を形成すればより多種多様の意匠を得ることができ、例えば、光回折構造10が回折格子である場合にはその格子方向や格子ピッチを異ならしめる等して、所定の光源及び所定の観察位置で特定の色相が得られるようにし、所謂、減法三原色におけるR(赤)、G(緑)、B(青紫)に対応する3種類の光回折構造単位9a、9b、9cを組み合わせるとともに、且つ表現したい色濃度に応じて網点のサイズを変えて光回折構造10を構成すればフルカラー表現が可能となる(図4)。
【0041】
また、光回折構造10がホログラムであれば、ホログラムの冗長性により光回折構造10が網点状に形成されていてもホログラム像を再生することができるので、異なる観察位置で異なるホログラム像を再生する2以上の光回折構造単位9を組み合わせれば、観察位置を変えることによる複数の画面切り換えも可能となる(勿論、回折格子であっても同様のことが可能である)。更に、光回折構造10が回折格子又はホログラムのいずれであっても、光回折構造単位9の平面形状、大きさ、分布密度等を適宜選択することによって、支持体11の地模様と光回折構造10による回折像とが、錯視により全体で1つの画像に観察されることができるようにすることも可能である。
【0042】
このように、本発明によれば光回折構造を設けることによって得られる意匠の多種多様化を図ることができ、延いてはその複製が困難であることから光回折構造が有しているセキュリティ性の向上をも図ることもできる。
【実施例】
【0043】
次に、具体的な実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
実施例1
厚さ12μmのポリエチレンテレフタレートシートを基材シートとし、その一方の面に乾燥後の厚みが1μmとなるように以下の組成の塗工液により背面滑性層を塗工形成した。
【0044】
[背面滑性層]
・ポリビニルブチラール(エスレックBX−1) 8部
・ポリイソシアネート硬化剤(バーノックD750) 18部
・リン酸エステル(プライサーフA208S) 5部
・タルク 1.5部
・メチルエチルケトン(a)+トルエン(b)(a:b=1:1) 130部
【0045】
また、基材シートの他方の面には、乾燥後の厚みが( )内の値となるよう保護層(1μm)と光回折構造形成層(3μm)を以下の組成の塗工液により順次塗工形成した後に、光回折構造を回折格子として構成し、次いで、光回折構造形成層上にAlにより500Åの膜厚で金属薄膜層を形成した。
【0046】
[保護層]
・酢酸セルロース樹脂 5部
・メタノール 25部
・メチルエチルケトン 45部
・トルエン 25部
・メチロール化メラミン樹脂 5部
・微粒子マイクロシリカ(粒径0.1μm) 3部
・パラトルエンスルホン酸 0.05部
[光回折構造形成層]
・アクリル樹脂 40部
・メラミン樹脂 10部
・シクロヘキサノン 50部
・メチルエチルケトン 50部
【0047】
次に、金属薄膜層の上に、下記組成からなる感熱接着剤を乾燥後3μmとなるように形成し、本発明の転写シートを得た。
【0048】
[感熱接着層]
・塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体 30部
・アクリル樹脂 10部
・微粒子マイクロシリカ(粒径0.1μm) 10部
【0049】
6ドット/mmの解像度のサーマルヘッドにて0.8mj/dotの印加エネルギーを加えて光回折構造を網点状に転写し、更に、上記の如き転写シートと回折格子のパターンのみが異なるものを用いて、同一方法で、光回折構造が転写されていない場所を埋めるように位置合わせして転写することで、2つの角度で別々の図柄をみることができる回折格子形成体を得ることができた。
【0050】
実施例2
光回折構造としてホログラムが設けられている以外は実施例1で用いた転写シートと同様の転写シートを用い、印刷画像が形成されている被転写体に異なるホログラムが設けられている2種類の転写シートにより実施例1と同様にホログラムを転写したことにより、印刷画像と2種類のホログラム像とが複合した意匠性に優れたホログラム形成体を得ることができた。
【0051】
実施例3
回折方向を所定の位置で観察したときに、赤、緑、青色に見えるようにした回折格子がそれぞれ設けられている実施例1と同様の転写シートを3種類用意し、転写位置が交互となるようにそれぞれの転写シートから回折格子を網点状に転写するとともに、表現したい色濃度に合わせて網点のサイズを制御した。これによって、所定の位置でフルカラーの画像を観察できる回折格子形成体を得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の光回折構造を形成する方法において用いられる転写シートの一例を示す縦断面図である。
【図2】本発明で得られる光回折構造形成体の一例の概略を示す断面図である。
【図3】光回折構造単位の設け方の一例を示す要部平面図である。
【図4】光回折構造単位の設け方の他の一例を示す要部平面図である。
【符号の説明】
【0053】
1 転写シート
4 光回折構造形成層
9 光回折構造単位
10 光回折構造
11 支持体
12 光回折構造形成体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
網点状に分布する複数の光回折構造単位から構成され、且つ、異なる回折像を現出する2以上の光回折構造単位が組み合わされて構成される光回折構造を、
基材シートの一方の面に光回折構造形成層が設けられているとともに他方の面には背面滑性層が設けられている転写シートを用いて、支持体上に光回折構造形成層を網点状に転写することによって形成する、ことを特徴とする光回折構造の形成方法。
【請求項2】
光回折構造が、R(赤)、G(緑)、B(青紫)に対応する3種類の光回折構造単位の組み合わせで形成される、請求項1記載の光回折構造の形成方法。
【請求項3】
光回折構造が、大きさの異なる複数の光解回折構造単位により形成される、請求項1又は2記載の光回折構造の形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−25716(P2007−25716A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−270246(P2006−270246)
【出願日】平成18年10月2日(2006.10.2)
【分割の表示】特願2005−103141(P2005−103141)の分割
【原出願日】平成6年10月28日(1994.10.28)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】