説明

光増感色素

【課題】光増感色素の提供。
【解決手段】下記式の化合物。


(Y、Yは水素又は陽イオンを、Xはチオフェン含有基を、Xは水素を表す)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は太陽電池材料に関する。さらに詳細には、本発明は、色素増感太陽電池において適用可能な光増感色素に関する。
【背景技術】
【0002】
技術および経済の発展に伴って、エネルギー(例えば、油(石油)、天然ガス、石炭など)の使用は公害を引き起こし、環境への深刻な被害につながる。さらに、これらの汚染エネルギーの供給は終息に向かい、迫り来るエネルギー不足は世界的に深刻な問題である。従って、多くの国々が、よりクリーンで再生可能なエネルギー源の開発および投資に着手している。
【0003】
太陽エネルギーは無限の無公害エネルギー源であるので、公害およびエネルギー不足の問題を解決するための化石燃料ベースのエネルギーの代替物として提案され、使用されている。太陽エネルギーを直接電気に変換できる太陽電池(または光電池)が熱心に研究されている。
【0004】
最近、GratzelおよびO’Reganが、色素増感太陽電池(DSSC)として知られる新たなタイプの太陽電池を提案し、これは太陽エネルギーの効果的利用の見通しを提示し、学術研究者および工業研究者の双方から注目を集めている。典型的には、色素増感太陽電池は、電流のチャンネルを提供するための陽極/陰極、電子を受容し、輸送するための金属酸化物(一般にTiO)半導体、光増感剤、および正孔を輸送するための電解質を包含する4つの部品で構成される。色素増感太陽電池における4つの部品の材料および結合は、電池の効率に対して重要な役割を果たす。最も詳細には、光増感剤(または色素)は色素増感太陽電池の効率の決定において重要である。従って、色素増感太陽電池の良好な効率を提供できる色素を特定することが必須である。高吸収係数を有することが良好な光増感剤であるための最も重要なパラメータの1つであることはよく知られている。
【非特許文献1】I.Murase,Nippon Kagaku Zasshi,1956,77,682
【非特許文献2】G.MnerkerおよびF.H.Case,J.Am.Chem.Soc.,1958,80,2745
【非特許文献3】D.WenkertおよびR.B.Woodward,J.Org,Chem.,1983,48,283
【非特許文献4】M.Gratzel,J.Photochem.A,2004,164,3、
【非特許文献5】M.K.Nazeeruddin他、J.Am.Chem.Soc.1993,115,6382
【非特許文献6】M.K.Nazeeruddin他、J.Am.Chem.Soc.,2001,123,1613
【非特許文献7】Michael Gratzel他、J.Am.Chem.Soc.2005,127,808
【非特許文献8】C.Klein他、Inorg.Chem,2005,44,178
【非特許文献9】Annual Book of ASTM Standard,G159−98 Standard tabels for references solar spectral irradiance at air mass 1.5:direct normal and hemispherical for a 37° tilted surface、Vol.14.04(2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記事項を考慮して、本発明は高吸収係数を有する一連の光増感色素を提供する。さらに、本発明の光増感剤色素の光吸収スペクトルの挙動は太陽光と類似している。従って、色素増感太陽電池の太陽光を電気へ変換する効率を有効に改善することができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は一連の光増感色素を提供し、ここで、光増感色素は、次の一般式(1):
【0007】
【化1】

(式中、Yは水素原子(H)、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)または次の一般式(2):
【0008】
【化2】

(式中、A、B、CおよびDは独立して、C2m+1(m=1〜6)を表す)のようなテトラアルキルアンモニウム基を表し、Yは水素原子(H)またはYと同じ基を表す)により表されるルテニウム(Ru)錯体である。
は次の一般式(3):
【0009】
【化3】

(式中、Ra、Ra’は独立して、HおよびC2m+1(m=1〜15)またはOC2P+1(P=1〜15)を表し、n=1〜4である)を表し、Xは水素原子(H)を表す。
【0010】
本発明の一実施例の光増感色素によると、XおよびXは同じ基を表し、Xは前記式(3)を表す。
【0011】
本発明の一実施例の光増感色素によると、Xは次の一般式(4):
【0012】
【化4】

(式中、RbはH、C2m+1(m=1〜15)またはOC2P+1(P=1〜15)を表し、n=1〜4である)を表し、XはHを表す。一実施例において、XおよびXは同じ基を表し、Xは前記式(4)を表す。
【0013】
本発明の一実施例の光増感色素によると、Xは次の一般式(5):
【0014】
【化5】

(式中、RcはH、C2m+1(m=1〜15)またはOC2P+1(P=1〜15)を表し、n=1〜2である)を表し、XはHを表す。一実施例において、XおよびXは同じ基を表し、Xは前記式(5)を表す。
【0015】
本発明の一実施例の光増感色素によると、Xは一般式(6):
【0016】
【化6】

(式中、RdはH、C2m+1(m=1〜15)またはOC2P+1(P=1〜15)を表し、n=1〜2である)を表し、XはHを表す。一実施例において、XおよびXは同じ基を表し、Xは前記式(6)を表す。
【0017】
本発明の一実施例の光増感色素によると、Xは一般式(7):
【0018】
【化7】

(式中、Re、Rf、Rgは独立して、H、C2m+1(m=1〜15)またはOC2P+1(P=1〜15)を表し、n=1〜2である)を表し、XはHを表す。一実施例において、XおよびXは同じ基を表し、Xは前記式(7)を表す。
【0019】
本発明の一実施例の光増感色素によると、Xは次の一般式(8):
【0020】
【化8】

(式中、Rh、Ri、Rjは独立して、H、C2m+1(m=1〜15)またはOC2P+1(P=1〜15)を表し、n=1〜2である)を表し、XはHを表す。一実施例において、XおよびXは同じ基を表し、Xは前記式(8)を表す。
【0021】
本発明のルテニウム(Ru)錯体光増感色素は、前記式(2)〜(8)の基を含有する。その結果、さらに高い吸収係数が得られる。さらに、本発明のルテニウム(Ru)錯体光増感色素の吸収スペクトルの挙動は、太陽光に近い。さらに、本発明のルテニウム(Ru)錯体光増感色素で作られた色素増感太陽電池(DSSC)の、太陽光から電気への変換効率は、従来の光増感色素で作られたDSSCよりも高い。さらに、色素増感太陽電池の製造に適用可能であることに加えて、本発明のルテニウム(Ru)錯体光増感色素は、水銀イオンの検出にも用いることができる。
【0022】
添付の図面は、本発明をさらに良く理解するために記載され、本明細書の一部に組み入れられ、これを構成する。図面は、本発明の実施例を表し、説明とともに本発明の原理の説明に役立つ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明は、光増感色素を提供し、ここにおいて、光増感色素は、次の式(1):
【0024】
【化9】

を有するルテニウム(Ru)錯体を含有する。
式(1)において、Yは、水素原子(H)、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)またはテトラアルキルアンモニウム基(次の一般式(2):
【0025】
【化10】

(式中、A、B、CおよびDは独立してC2m+1(m=1〜6)を表す)において示されるもの)を表し、Yは水素原子(H)またはYと同じ基を表す。Xは次の式(3)〜(8)の1つを表す。Xは水素原子(H)を表す。
【0026】
式(3)
【0027】
【化11】

式(3)において、Ra、Ra’は独立して、HおよびC2m+1(m=1〜15)またはOC2P+1(P=1〜15)を表し、n=1〜4である。
【0028】
式(4)
【0029】
【化12】

式(4)において、RbはH、C2m+1(m=1〜15)またはOC2P+1(P=1〜15)を表し、n=1〜4である。
【0030】
式(5)
【0031】
【化13】

式(5)において、RcはH、C2m+1(m=1〜15)またはOC2P+1(P=1〜15)を表し、n=1〜2である。
【0032】
式(6)
【0033】
【化14】

式(6)において、RdはH、C2m+1(m=1〜15)またはOC2P+1(P=1〜15)を表し、n=1〜2である。
【0034】
式(7)
【0035】
【化15】

式(7)において、Re、Rf、Rgは独立して、H、C2m+1(m=1〜15)またはOC2P+1(P=1〜15)を表し、n=1〜2である。
【0036】
式(8)
【0037】
【化16】

式(8)において、Rh、Ri、Rjは独立して、H、C2m+1(m=1〜15)またはOC2P+1(P=1〜15)を表し、n=1〜2である。
【0038】
他の1つ実施例において、本発明の光増感色素はさらに、式(1)においてY、Y、XおよびXをさらに含み、ここにおいて、Yは水素原子(H)、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)またはテトラアルキルアンモニウム基(一般式(2)において示される)を表し、Yは水素原子(H)またはYと同じ基を表す。
【0039】
およびXは同じ基を表し、Xは前記式(3)〜(8)の1つを表す。
【0040】
本発明のルテニウム(Ru)錯体光増感色素は、前記式(2)〜(8)の基を含有するので、本発明のルテニウム(Ru)錯体光増感色素の光吸収スペクトルの挙動は、太陽光に非常に近い。さらに、ルテニウム(Ru)錯体光増感色素は高い吸収係数を有する。高い吸収係数は、本発明のルテニウム(Ru)錯体光増感色素が電子−正孔対を生成する能力が高いことを示唆する。言い換えると、色素増感太陽電池(DSSC)において本発明のルテニウム(Ru)錯体光増感色素を適用すると、DSSCは効率よく受容した太陽光を電気に変換できる。
【0041】
さらに、本発明のルテニウム(Ru)錯体光増感色素は前記式(2)〜(8)の基を含有するので、本発明のルテニウム(Ru)錯体光増感色素のエネルギーレベルは、メディエーターの酸化還元電位および典型的なDSSCの半導体の伝導帯エネルギーと適合する。従って、結果として得られる色素増感太陽電池(DSSC)は高い光−電気変換効率を有する。効率よく電子を輸送し、このプロセスの間のエネルギー損失を最小限に抑えるためには、光増感色素の励起状態のポテンシャルエネルギーレベルが、金属酸化物(例えば、二酸化チタンTiO)の伝導帯のポテンシャルエネルギーレベルに適合することが必須である。さらに、光増感色素の酸化還元電位(HOMOエネルギーレベル)は電解質(例えば、ヨウ化物イオン)の酸化還元電位よりも低いものである必要がある。かくして、光増感色素は失った電子を回復することができる。本発明のルテニウム(Ru)錯体光増感色素の物理的特性を以下に記載する。
【0042】
以下の実施例は、本発明のルテニウム(Ru)錯体光増感色素の合成を説明する。次の説明は限定的であるよりもむしろ例示的であると見なされるべきである。
【実施例】
【0043】
式(1)において、YおよびYがHであり、式(1)においてXおよびXが同じ基であり、Xが式(3)を表し、式(3)におけるRaがC17を表し、Ra’がHを表し、n=2である化合物(CYC−B1として表される)は、本発明のルテニウム(Ru)錯体光増感色素の合成を説明するための一例として用いられる。
【0044】
プロセスフロー1:(THF=テトラヒドロフラン、DMF=ジメチルホルムアミド)
【0045】
【化17】

プロセスは、側枝(不活性ガスを導入するため)を有する丸底フラスコ中に、約3gのビチオフェンを入れ、続いて、ビチオフェンを溶解させるために無水テトラヒドロフランを添加することにより開始される。そこで溶液の温度を−78℃に下げる(冷却剤として液体窒素+エタノールを使用)。その後、約5.8mlのn−ブチルリチウム(n−BuLi)(2.5M、ヘキサン中に溶解)をゆっくりと溶液に滴下する。溶液の温度が室温に戻った後、溶液を連続して約15分間混合する。この後、2.5mlの1−ブロモオクタン(Br−C17)を添加し、溶液を連続して約10時間攪拌する。反応は常に不活性ガス下で行った。あらかじめ決められた反応時間に達した後、脱イオン水を添加して反応を終了させる。エーテルを溶液に添加することにより抽出を行う。次いで有機層を採取する。飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、脱イオン水および飽和塩化ナトリウム溶液をそれぞれ用いて、有機層の抽出をもう一度行う。得られた粗生成物を、次いで、カラムクロマトグラフィー(溶離液はヘキサンである)を用いて精製して、中間生成物オクチルビチオフェンを得る(収率は約65.1%である)。
【0046】
その後、約3.4gのオクチルビチオフェンを無水THF中に溶解させる。冷却剤を用いて溶液の温度をさらに−78℃に下げ、続いてゆっくりと5.86mlのn−BuLi(2.5M、ヘキサン中に溶解)を溶液に滴下する。この後、溶液の温度を室温に戻し、溶液を約2時間攪拌する。溶液の温度を再び−78℃に下げる。次いで、約3.16gのトリメチルスズ塩化物(適当量のTHF中に溶解)を溶液に添加する。溶液の温度が室温に戻った後、溶液を連続して約12時間攪拌する。その後、脱イオン水を添加して、反応を終了させ、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、脱イオン水および飽和塩化ナトリウム溶液をそれぞれ用いて抽出を行う。有機層を採取し、溶媒を除去して、約4.76gの粗生成物を得、これは8−(トリメチルスズ)−2−オクチルビチオフェンである(収率は約88.5%である)。
【0047】
その後、約0.63gの8−(トリメチルスズ)−2−オクチルビチオフェンおよび約0.2gの4−4’−ジブロモ−2,2’−ビピリジン(合成法は非特許文献1;非特許文献2;ならびに非特許文献3を参照できる)を25mlの無水ジメチルホルムアミド(DMF)中に溶解させる。約0.089gのテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムを触媒として添加する。この後、溶液を加熱し、約22時間還流させる。溶液の温度が室温に戻ったら、約5重量%の塩化アンモニウム水溶液を溶液に添加して反応を終了させる。ジクロロメタンを用いて抽出を行った後、有機層を採取する。その後、炭酸水素ナトリウム水溶液、脱イオン水および飽和塩化ナトリウム水溶液をそれぞれ用いて有機層の抽出をもう一度行う。有機層の溶媒を除去した後、粗生成物を得る。粗生成物をSoxhlet抽出器(不純物を除去するためにヘキサンを使用し、次いで生成物を抽出するために酢酸エチルを使用)により精製する。酢酸エチルを真空システムで除去し、約0.237gのリガンド−1が残る(収率は約55.0%である)。
【0048】
0.3173gの[RuCl(p−シメン)]および0.734gのリガンド−1を30mlの無水DMF中に溶解させることにより、Ru錯体を調製した。溶液を次いで約80℃に約4時間加熱する。この後、0.2530gのdcbpy(4−4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)を溶液に添加し、続いて溶液を約160℃に加熱する。溶液をさらに4時間反応させる。光により引き起こされる異性体の生成を防止するために、前記化学反応は暗所で行わなければならないことは注意に値する。その後、過剰量のNHNCSを溶液に添加し、反応を約130℃で約5時間行う。反応が完了した後、真空システムを使用して、溶媒DMFの一部を除去することにより、溶液を濃縮する。溶液に水を添加して生成物を沈殿させる。真空濾過により固体物質を得る。脱イオン水、pH12の水酸化ナトリウム溶液およびエーテルをそれぞれ使用して、固体粗生成物を洗浄した。粗生成物を次いでメタノール中に溶解させる。溶液をカラム(メタノールが溶離液)に通した後、溶液の暗色部分を採取する。溶媒のほとんどが除去された後、数滴の0.01M硝酸水溶液を溶液に添加し、約0.4838gの生成物(CYC−B1)の沈殿を得る。CYC−B1の収率は約39.9%である。
【0049】
次の説明は、本発明における光増感色素の吸収係数を測定する方法に関する。本発明のCYC−B1の吸収係数と従来における光増感色素の吸収係数間の比較も提供する。
【0050】
本発明における光増感色素の吸収係数の測定法にしたがって、まず濃度が既知の光増感色素溶液を準備する。次いで適当量の溶液を石英サンプルセル中に入れ、次いでサンプルセルを分析するためにUV/Vis分光光度計中に入れる。Beerの法則(A=εbc、A=吸光度;ε:吸収係数;b:ビームパス;c:サンプルの濃度)を用いることにより、吸収係数を計算することができる。本発明の光増感色素(CYC−B1)の吸収係数を、様々な従来型の光増感色素の吸収係数と比較し、結果を表1にまとめる。
【0051】
表1に記載される従来型の光増感色素「N3」、「黒色素(Black dye)」、「Z−910」、「K−19」、および「K−8」はそれぞれ、非特許文献4、非特許文献5、非特許文献6、非特許文献7、および非特許文献8により開示されている。
【0052】
【表1】

表1に示されるように、本発明のCYC−B1色素の吸収係数は、従来型色素よりも高い。従って、本発明のルテニウム(Ru)錯体光増感色素において、前記式(2)〜(8)の特別の基が存在するために、結果として得られる光増感色素の吸収係数は高い。従って、本発明のルテニウム(Ru)錯体光増感色素を色素増感太陽電池に適用すると、その結果、エネルギー変換効率が高くなる。
【0053】
さらに、CYC−B1およびN3色素の吸収スペクトル(図1に示す)をそれぞれ、非特許文献9において提供されている太陽光スペクトル(図2に示す)と比較する。図1および2において示されるように、CYC−B1の吸収スペクトルの挙動は、N3よりも太陽光の吸収スペクトルの挙動に近い。従って、さらに高いエネルギー変換効率を得ることができるので、本発明のルテニウム(Ru)錯体光増感色素を色素増感太陽電池において適用することがより望ましい。
【0054】
次の記載は、色素増感太陽電池の製造法に関し、ここにおいて、光増感剤は、本発明のルテニウム(Ru)錯体光増感色素を用いて形成され、デバイスは効率化が図られる。
【0055】
光増感剤として本発明のCYC−B1色素を用いた色素増感太陽電池の製造法は、まず、二酸化チタン(TiO)電極をCYC−B1含有溶液中に一定期間浸漬することを含む。CYC−B1色素は自己集合的方法でTiO電極の表面に吸着する。その後、TiO電極をCYC−B1含有溶液から取り出す。TiO電極を溶媒ですすぎ、乾燥し、続いてエポキシで封止する。エポキシの内部に介在する空間を電解質溶液で満たす。注入口を封止した後、色素増感太陽電池の調製を完了する。本発明のCYC−B1色素を用いて色素増感太陽電池を製造した後、太陽電池の電圧、電流密度およびエネルギー変換効率を測定し、結果を表2にまとめる。
【0056】
同様に、光増感色素としてN3を用いて色素増感太陽電池を製造するために同じ方法を使用する。N3増感太陽電池の電圧、電流密度、およびエネルギー変換効率を測定し、この結果も表2に記載する。
【0057】
【表2】

表2に示すように、色素増感太陽電池を製造するために色素としてCYC−B1を使用すると、エネルギー変換効率は約8.5%であり、一方、同じ方法で製造されるN3−増感太陽電池については、エネルギー変換効率はわずか約7.7%である。表2に提供される情報から、本発明のルテニウム(Ru)錯体光増感色素は特別の基を含有するため、エネルギー変換効率は従来型光増感色素よりも高いことは明らかである。
【0058】
色素増感太陽電池の製造においてルテニウム(Ru)錯体光増感色素を適用することに加えて、本発明のルテニウム(Ru)錯体光増感色素は水銀イオンの検出において使用できることも公知であった。
【0059】
従って、特別の基の存在のために、本発明のルテニウム(Ru)錯体光増感色素は、文献における他の色素と比較した場合、最高の吸収係数を有する。さらに、ルテニウム(Ru)光増感色素の吸収スペクトルの挙動は、太陽光吸収スペクトルの挙動に近い。従って、本発明のルテニウム(Ru)錯体光増感色素を用いて製造されるDSSCのエネルギー変換効率は、従来型色素を用いて製造されるDSSCのエネルギー変換効率よりも高い。さらに、本発明のルテニウム(Ru)錯体光増感色素は、色素増感太陽電池の分野以外の他の分野、例えば、水銀イオンの検出などにおいて適用することができる。
【0060】
本発明の範囲または精神から逸脱することなく、本発明の構成に様々な修正および変更を加えることができることは当業者には明らかであろう。前記載事項を考慮して、本発明は、本発明の修正および変更が請求の範囲およびその等価物の範囲内に含まれるのであれば、これらを対象とすることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の光増感色素(CYC−B1)および従来型光増感色素(N3)の吸収スペクトルを示す図である。
【図2】太陽光の吸収スペクトルを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の一般式(1):
【化1】

(式中、Yは水素原子(H)、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)または次の一般式(2):
【化2】

(式中、A、B、CおよびDは独立してC2m+1(m=1〜6)を表す)
により表されるテトラアルキルアンモニウム基を表し、Yは水素原子(H)またはYと同じ基を表し、
は次の一般式(3):
【化3】

(式中、Ra、Ra’は独立して、H、C2m+1(m=1〜15)およびOC2P+1(P=1〜15)からなる基より選択され、n=1〜4である)を表し、
は水素原子(H)を表す)
により表されるルテニウム(Ru)錯体を含む、光増感色素。
【請求項2】
およびXが同じ基を表し、Xが前記式(3)を表す請求項1記載の光増感色素。
【請求項3】
が次の式(4):
【化4】

(式中、Rbは、H、C2m+1(m=1〜15)およびOC2P+1(P=1〜15)からなる基より選択され、n=1〜4である)
を表し、XがHを表す請求項1記載の光増感色素。
【請求項4】
およびXが同じ基を表し、Xが前記式(4)を表す請求項3記載の光増感色素。
【請求項5】
が次の式(5):
【化5】

(式中、Rcは、H、C2m+1(m=1〜15)およびOC2P+1(P=1〜15)からなる基より選択され、n=1〜2である)
を表し、XがHを表す請求項1記載の光増感色素。
【請求項6】
およびXが同じ基を表し、Xが前記式(5)を表す請求項5記載の光増感色素。
【請求項7】
が次の式(6):
【化6】

(式中、RdはH、C2m+1(m=1〜15)およびOC2P+1(P=1〜15)からなる基より選択され、n=1〜2である)
を表し、XがHを表す請求項1記載の光増感色素。
【請求項8】
およびXが同じ基を表し、Xが前記式(6)を表す請求項7記載の光増感色素。
【請求項9】
が次の式(7):
【化7】

(式中、Re、Rf、Rgは独立して、H、C2m+1(m=1〜15)およびOC2P+1(P=1〜15)からなる基より選択され、n=1〜2である)
を表し、XがHを表す請求項1記載の光増感色素。
【請求項10】
およびXが同じ基を表し、Xが前記式(7)を表す請求項9記載の光増感色素。
【請求項11】
が次の式(8):
【化8】

(式中、Ri、Rj、Rkは独立して、H、C2m+1(m=1〜15)およびOC2P+1(P=1〜15)からなる基より選択され、n=1〜2である)
を表し、XがHを表す請求項1記載の光増感色素。
【請求項12】
およびXが同じ基を表し、Xが前記式(8)を表す請求項11記載の光増感色素。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−302879(P2007−302879A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−99752(P2007−99752)
【出願日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【出願人】(504007741)國立中央大學 (28)
【Fターム(参考)】