説明

光変換性有機薄膜を形成する新規化合物および有機薄膜形成体

本発明は、光応答性を落とすことなく、成膜性に影響する構造部分や表面物性に影響する部位を柔軟に変換でき、比較的低エネルギーの波長光により表面変換が可能であり、再現性良く基板上に有機薄膜を形成できる化合物、及び有機薄膜形成体に関し、その化合物は式(1)で表される。(式中、Xは、ヘテロ原子を含み、金属又は金属酸化物表面と相互作用できる官能基を表し、Rは、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、アリール基、炭素数1〜20のアルコキシカルボニル基等を表す。nは1〜30の整数を表し、mは0〜5の整数を表す。G1は、単結合又は炭素数が1〜3である2価の炭化水素基を表す。Arは置換基を有していてもよい芳香族基を表す。G2は、O、S又はNrを表す。)


【発明の詳細な説明】
技術分野:
本発明は、エレクトロニクス製品において、パターン形成作製工程を簡素且つ信頼性を高くするために、光照射によって選択的に表面物性を変換することのできる有機薄膜を形成する化合物、また、該当する物性変化を記憶素子として利用することができる化合物、その製造方法及び表面に、該化合物を含有する有機薄膜が形成されてなる有機薄膜形成体に関する。
技術背景:
エレクトロニクス製品の製造において、パターン形成作製工程は一般的に煩雑であるが、その工程を簡素且つ信頼性を高くするために、光照射によって選択的に表面物性を変換することのできる有機薄膜を形成する化合物が知られている。従来、光照射によって表面物性を変換できる自己組織化有機薄膜としては、基板上に、アリールシラン化合物又はアラルキルシラン化合物が自己組織化した薄膜に、193nmのレーザー光を照射し、照射部に珪素−炭素結合解裂に伴う親水表面が形成されることが知られている(非特許文献1,2)。
また、ベンジルフェニルスルフィドが自己組織化した膜に、光照射し、非照射部分の有機分子のみが置換可能になり、所望の場所の表面物性を変えることができること(非特許文献3)、4−ベンジルスルホニルスチレンとクロロジメチルシランを白金触媒下で反応させて合成したベンジル−4−(2−(クロロジメチルシリル)エチル)フェニルスルホン(非特許文献4)から成膜された、珪素末端のベンジルフェニルスルホン化合物の自己組織化膜において紫外線照射によって表面のベンゼン環由来の吸収体が減少するとともに水の接触角が減少すること(非特許文献5)等も知られている。
一方、特許文献1には、レジスト表面に吸着させたヘキサメチルジシラザン膜へ電子線を選択的に照射することで、該当部分を除去し、その後酸素プラズマ処理することで、除去された部分のレジストのみエッチングされることが記載されている。特許文献2には、光触媒とフッ素を含有する複合層への光照射によって、フッ素含有量が低下することを利用したパターン形成体が開示されている。特許文献3には、凹凸の有る下地層と撥水性単分子膜の中間に光分解活性層をいれ、光照射で撥水層を選択的に除去し、撥水部と親水部をパターン形成する方法が開示されている。また、特許文献4には、ポルフィリン−銅錯体の単分子膜に、紫外線を含む放射線や、熱によって部分的に分子の配座が変化することを利用したレジストや記憶素子への適用が、開示されている。特許文献5には、有機分子膜への200nm以上、380nm以下の紫外線照射によって、有機分子膜の照射部を除去できることが記載されている。さらに、非特許文献6及び特許文献6には、2−ニトロベンジルエステル及びエーテル類と末端シリル基から成る化合物群が、紫外線照射によって接触角を減らすことができる表面修飾剤として有用である旨開示されている。
しかしながら、上記従来技術においては、自己組織化有機薄膜や有機分子吸着膜をパターン形成に利用しているものの、分子構造が限定的であり、高エネルギーの波長光を用いる必要があったり、信頼性を得るために重要な、成膜性を制御するための分子構造が充分に検討されておらず、高い信頼性や光応答性を実現するためには必ずしも十分ではない。例えば、非特許文献4の化合物は、その製造方法からその分子構造が限定的であり、非特許文献7に記載されているように良い膜を得るために必要な部分構造に対する多様性に欠けるという問題点がある。
非特許文献1:Science、1991年、252巻、551−554頁
非特許文献2:Langmuir、1996年、12巻、1638−1650頁
非特許文献3:Langmuir、2000年、16巻、9963−9967頁
非特許文献4:日本化学会第79春季年会予稿集、2001年、591頁
非特許文献5:日本化学会第81春季年会予稿集、2002年、192頁
非特許文献6:Chem.Lett.,2000年、228−229頁
非特許文献7:J.Am.Chem.Soc.,1988年、110巻、6136−6144頁
特許文献1:特開平7−297100号公報
特許文献2:特開2001−109103号公報
特許文献3:特開2001−129474号公報
特許文献4:特開2001−215719号公報
特許文献5:特開2002−23356号公報
特許文献6:特開2002−80481号公報
発明の開示:
本発明は、上記した従来技術に鑑みてなされたものであり、光応答性能を低下させることなく、成膜性に影響する構造部分や表面物性に影響する部位を柔軟に変換でき、比較的低エネルギーの波長光により表面変換が可能であり、再現性良く基板上に有機薄膜を形成できる化合物、及び表面に、該化合物を含有する有機薄膜が形成されてなる有機薄膜形成体を提供することを課題とする。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、フェニルスルホン類化合物に、酸素原子を介した連結基と金属表面と相互作用できる官能基を導入した化合物が、比較的低エネルギーの波長光で表面変換が可能であり、再現性良く、基体上に有機薄膜を形成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
かくして本発明の第1によれば、式(1)

(式中、Xは、ヘテロ原子を含み、金属又は金属酸化物表面と相互作用できる官能基を表し、Rは、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコシキ基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシカルボニル基又はハロゲン原子を表し、2つのRで環を形成しても良い。nは1〜30の整数を表し、mは0〜5の整数を表す。mが2以上のとき、Rは同一でも相異なっていてもよい。G1は、単結合又は炭素数が1〜3である2価の飽和又は不飽和の炭化水素基を表す。Arは置換基を有していてもよい芳香族基を表す。G2は、O、S又はNrを表す。rは、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。)で表される化合物が提供される。
本発明の化合物においては、前記Xが、塩素原子若しくは炭素数1〜4のアルコキシ基を有しさらに置換基を有していてもよいシリル基、メルカプト基、置換基を有していてもよい炭素数1〜4のアルキルチオ基、炭素数1〜10アシルチオ基、ジスルフィド基、置換基を有していてもよいアミノ基又は置換基を有していてもよいホスホノ基であるのが好ましい。
本発明の化合物においては、前記Arが、置換基を有していてもよいパラフェニレン基、置換基を有していてもよいパラビフェニレン基、置換基を有していてもよいパラトリフェニレン基又は置換基ナフチレン基であるのが好ましい。
本発明の化合物においては、前記Rが、撥液性を発現できる置換基であるのが好ましい。
本発明の第2によれば、基体表面に、前記式(1)で表される化合物を含有する有機薄膜が形成されてなる有機薄膜形成体が提供される。
以下、本発明の前記式(1)で表される化合物及び有機薄膜形成体について詳細に説明する。
本発明の化合物は、前記式(1)で表されるものである。
式(1)中、Xは、ヘテロ原子を含み、金属又は金属酸化物表面と相互作用できる官能基を表す。
本発明化合物においては、前記Xが、塩素原子若しくは炭素数1〜4のアルコキシ基を有しさらに置換基を有していてもよいシリル基、メルカプト基、置換基を有していてもよい炭素数1〜4のアルキルチオ基、炭素数1〜10のアシルチオ基、ジスルフィド基、アミノ基又は置換基を有していてもよいホスホノ基であるものが好ましい。
Xの好ましい具体例としては、クロロジヒドロシリル基、クロロジメチルシリル基、クロロジエチルシリル基、クロロジフェニルシリル基、クロロメチルフェニルシリル基、ジクロロヒドロシリル基、ジクロロメチルシリル基、ジクロロエチルシリル基、ジクロロフェニルシリル基、トリクロロシリル基等の塩素原子を有し炭素数1〜4のアルキル基又はアリール基等の置換基を有していてもよいシリル基;トリメトキシシリル基、ジメトキシメチルシリル基、ジメトキシクロロシリル基、ジメトキシエチルシリル基、ジメトキシフェニルシリル基、トリエトキシシリル基、ジエトキシメチルシリル基、ジエトキシクロロシリル基、ジエトキシエチルシリル基、ジエトキシフェニルシリル基、トリプロポキシシリル基、ジプロポキシメチルシリル基、ジプロポキシクロロシリル基、ジメトキシエチルシリル基等の炭素数1〜4のアルコキシ基を有し炭素数1〜4のアルキル基又はアリール基等の置換基を有していてもよいシリル基:メルカプト基;メチルチオ基、エチルチオ基、メトキシエチルチオ基、カルボキシエチルチオ基等の置換基を有していてもよい炭素数1〜4のアルキルチオ基:アセチルチオ基、プロピオニルチオ基、ベンゾイルチオ基等の炭素数1〜10のアシルチオ基:メチルジスルフィド基等の炭素数1〜4のアルキルジスルフィド基、

(式中、R、m、G1、Ar、G2、nは前記と同じ意味を表す。)等のジスルフィド基:炭素数1〜4のアルキル基等の置換基を肴していてもよいアミノ基:−P(=O)(OH)、−P(=O)(OCH、−P(=O)(OC、−P(=O)(OC、−P(=O)(OC、−P(=O)(OPh)等の炭素数1〜4のアルキル基、アリール基等の置換基を有していてもよいホスホノ基:等が挙げられる。
Rは、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシカルボニル基又はハロゲン原子、mが2以上の時は、2つのRで環を形成してもよい。2つのRで環を形成したときは、

部分がナフタレン環、アントラセン環、ベンゾシクロブテン環、インダン環のような縮合環となる。
炭素数1〜20のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基等が挙げられる。
前記炭素数1〜20のアルキル基の置換基としては特に制限されないが、例えば、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1〜4のアルコキシ基;シアノ基;ニトロ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の炭素数1〜4のアルコキシカルボニル基、メチルチオ基、エチルチオ基等の炭素数1〜4のアルキルチオ基;メチルスルホニル基、エチルスルホニル基等の炭素数1〜4のアルキルスルホニル基;フェニル基、4−メチルフェニル基、ペンタフルオロフェニル基等の炭素数1〜4のアルキル基、ハロゲン原子等の置換基を有していてもよいフェニル基;等が挙げられる。
炭素数1〜20のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、t−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基等が挙げられる。
前記炭素数1〜20のアルコキシ基の置換基としては特に制約されないが、例えば、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子;シアノ基;ニトロ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の炭素数1〜4のアルコキシカルボニル基、メチルチオ基、エチルチオ基等の炭素数1〜4のアルキルチオ基;メチルスルホニル基、エチルスルホニル基等の炭素数1〜4のアルキルスルホニル基;フェニル基、4−メチルフェニル基、ペンタフルオロフェニル基等の炭素数1〜4のアルキル基、ハロゲン原子等の置換基を有していてもよいフェニル基;等が挙げられる。
アリール基としては、例えば、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、2−ピリジル基,3−ピリジル基、4−ピリジル基、5−ピリジル基等が挙げられる。
前記アリール基の置換基としては特に制約されないが、例えば、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子;メチル基、エチル基等の炭素数1〜4のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1〜4のアルコキシ基;シアノ基;ニトロ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の炭素数1〜4のアルコキシカルボニル基、メチルチオ基、エチルチオ基等の炭素数1〜4のアルキルチオ基;メチルスルホニル基、エチルスルホニル基等の炭素数1〜4のアルキルスルホニル基;フェニル基、4−メチルフェニル基、ペンタフルオロフェニル基等の炭素数1〜4のアルキル基、ハロゲン原子等の置換基を有していてもよいフェニル基;等が挙げられる。
炭素数1〜20のアルコキシカルボニル基としては、例えば、メトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、等が挙げられる。
前記炭素数1〜20のアシルオキシカルボニル基の置換基は特に制限されないが、例えば、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子;メチル基、エチル基等の炭素数1〜4のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1〜4のアルコキシ基;シアノ基;ニトロ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の炭素数1〜4のアルコキシカルボニル基、メチルチオ基、エチルチオ基等の炭素数1〜4のアルキルチオ基;メチルスルホニル基、エチルスルホニル基等の炭素数1〜4のアルキルスルホニル基;フェニル基、4−メチルフェニル基、ペンタフルオロフェニル基等の炭素数1〜4のアルキル基、ハロゲン原子等の置換基を有していてもよいフェニル基;等が挙げられる。
また、ハロゲン原子としては、例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等が挙げられる。
これら炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、アリール基および炭素数1〜20のアルコキシカルボニル基は、任意の位置に置換基を有していてもよく、また、同一若しくは相異なる複数の置換基を有していてもよい。
縮合環基としては、ナフチル基、アントラニル基、インダニル基、ベンゾシクロブタン等が挙げられ、この縮合環は置換基を有していてもよい。
前記縮合環の置換基としては特に制約されないが、例えば、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子;メチル基、エチル基等の炭素数1〜4のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1〜4のアルコキシ基;シアノ基;ニトロ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の炭素数1〜4のアルコキシカルボニル基、メチルチオ基、エチルチオ基等の炭素数1〜4のアルキルチオ基;メチルスルホニル基、エチルスルホニル基等の炭素数1〜4のアルキルスルホニル基;フェニル基、4−メチルフェニル基、ペンタフルオロフェニル基等の炭素数1〜4のアルキル基、ハロゲン原子等の置換基を有していてもよいフェニル基;等が挙げられる。
これらの中でも、前記Rとしては、撥液性を発現できる置換基であるものが好ましい。撥液性とは撥水性、撥油性のことである。撥液性を発現できる置換基としては、フッ素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のフルオロアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数1〜20のフルオロアルコキシ基、アリール基等が挙げられる。
nは1〜30の整数を表す。
mは0〜5の整数を表し、mが2以上のとき、前記Rは同一でも相異なっていてもよい。
G1は、単結合又は炭素数が1〜3である2価の飽和又は不飽和の炭化水素基を表す。
Arは、置換基を有していてもよい芳香族基を表す。
芳香族基としては、フェニレン基、ビフェニレン基、トリフェニレン基、ナフチレン基等が挙げられる。これらの中でも、パラフェニレン基、パラビフェニレン基、パラトリフェニレン基又はナフチレン基が好ましい。
G2は、O、S又はNrを表し好ましくはOである。rは、水素原子又はメチル基等の炭素数1〜4のアルキル基を表す。
(製造方法)
前記式(1)で表される本発明化合物は、例えば以下のようにして製造することができる。一般的な製造方法を下記に示す。


(式中、R、G1、Ar、n、m及びXは前記と同じ意味を表す。Halはハロゲン原子を表し、G’はO、Nrを表し、Qは、水素原子又は、塩素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基等の炭素数1〜4のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基などの炭素数1〜4のアルコキシ基;フェニル基等の置換基を有していてもよいフェニル基;等の置換基を表す。)
(製造法1)Xがシリル基である化合物の製造
先ず、芳香族化合物(2)に対し、1〜2当量の塩基存在下、該当する置換基Rを有する化合物(3)を反応させて、スルフィド化合物(4)を得る。次に、得られたスルフィド化合物(4)を、適当な酸化剤によって酸化して、対応するスルホン体(5)を得る。次いで、得られたスルホン体(5)と、末端がオレフィンであるアルキルハライド又はアルコールとを、塩基又は縮合剤の存在下に反応させることによりオレフィン体(6)を得る。さらに、得られたオレフィン体(6)を、適当な触媒存在下にヒドロシランと反応させて、Xがシリル基で表される化合物(1−1)を得ることができる。
上記反応で用いることができる塩基としては、トリエチルアミン、トリブチルアミン等の三級アミン類;ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムt−ブトキシド等の金属アルコキシド類;水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物類;炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩類;等が挙げられる。用いる酸化剤としては、過酸化水素、過酢酸、m−クロロ過安息香酸等の過酸化物類が挙げられる。用いる縮合剤としては、アゾジカルボン酸ジエチルエステル等のアゾジカルボン酸エステル類と、トリフェニルホスフィン等のホスフィン類の組合せが挙げられる。また、ヒドロシランの反応に用いる触媒としては、白金、パラジウム、ニッケル、ルテニウム、ロジウム等の遷移金属又はそのハロゲン化物、及びその有機金属錯体が挙げられる。
(製造法2)Xがホスホノ基である化合物の製造
Xがホスホノ基である化合物(1−2)は、化合物(6)に亜リン酸ジエステルを適当な触媒存在下に反応させ、次いで、加水分解することによって得ることができる。亜リン酸ジエステルの反応に用いる触媒としては、白金、パラジウム、ニッケル、ルテニウム、ロジウム等の遷移金属又はそのハロゲン化物、及びその有機金属錯体が挙げられる。また、Xがホスホノ基である化合物は、後述する化合物(7)と亜リン酸トリエステルを反応させ、加水分解させる方法でも製造できる。
(製造法3)Xがメルカプト基、炭素数1〜4のアルキルチオ基又はアミノ基である化合物の製造
Xがメルカプト基、炭素数1〜4のアルキルチオ基、もしくは、アミノ基である化合物(1−3)は、化合物(5)に、α、ω−ジハロアルカンを反応させて化合物(7)を得、得られた化合物(7)の末端ハロゲンを、硫黄又は窒素原子と求核置換反応させることにより得ることができる。
(製造法4)Xがジスルフィド基である化合物の製造
Xがジスルフィド基である化合物(1−3)は、Xがメルカプト基である化合物を酸化的に二量化させることにより得ることができる。
(製造法5)k=0である化合物の製造
4,4‘−ジヒドロキシジフェニルスルホンを出発原料に、一方の水酸基のみをアルキル化し、残りの水酸基を末端がオレフィンもしくは、ハロゲン原子のアルキル化剤を反応させて得た化合物に、上記製造法1〜4のXを導入する方法を適用することで、得ることができる。
上記製造法1〜5において、反応に用いることができる溶媒としては、反応に不活性な溶媒であれば特に制約されない。例えば、水;メタノール、エタノール等のアルコール類;アセトニトリル等のニトリル類;ジエチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素;及びこれらの2種以上の組合せが挙げられる。また、水−有機溶媒の二相系を用いることもできる。反応は、−80℃から+200℃の間で円滑に進行する。
いずれの反応においても、反応終了後は通常の有機合成化学における通常の後処理操作、分離・精製を行うことにより、目的物を単離することができる。目的物の構造は、NMRスペクトル、マススペクトル、IRスペクトルの測定、元素分析等を行うことにより、確認することができる。
以上のようにして得られる本発明の化合物(式(1)で表される化合物)の代表例を、第1表に示す。なお、第1表中、A1〜A4は下記に示す基を表す。




















(有機薄膜形成体)
本発明の有機薄膜形成体は、基体表面に、前記式(1)で表される化合物(以下、「化合物(1)」という。)を含有する溶液を塗布することにより有機薄膜が形成されてなることを特徴とする。
用いる基体としては、化合物(1)を含有する有機薄膜を形成できるものであれば特に制約されない。例えば、ソーダライムガラス板等のガラス基板、ITOガラス等の表面に電極が形成された基板、表面に絶縁層が形成された基板、表面に導電層が形成された基板、シリコンウェーハ基板等のシリコン基板、セラミックス基板等が挙げられる。また、基体は、有機薄膜を形成する前に、オゾン;超音波;蒸留水、イオン交換水、アルコール等の洗浄剤;等により洗浄した後に使用するのが好ましい。
基体表面に、化合物(1)を含有する有機薄膜を形成する方法は特に制限されない。例えば、化合物(1)の溶液を基体上に公知の塗工方法で塗布し、塗膜を加熱乾燥する方法が挙げられる。塗工方法としては、例えば、ディッピング法、スピンコータ、ダイコータ、スプレー法等の公知の塗工装置を使用する塗工法等が挙げられる。
化合物(1)を溶解する溶媒としては、化合物(1)に対し不活性であり、溶解するものであれば特に制限されない。例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類:ペンタン、ヘキサン等の脂肪族炭化水素類;シクロペンタン、シクロヘキサン等の脂環式炭化水素類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、THF、1,4−ジオキサン等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;等が挙げられる。
化合物(1)の塗膜を形成した後には、溶媒を除去し、成膜を完結させるために、100〜200℃程度に加熱することが好ましい。また、多層に重なった有機分子層を除去するため、溶媒洗浄をすることが好ましい。得られる有機薄膜の厚みは特に制約されないが、通常、1〜100nm程度である。
得られる有機薄膜は、光が照射されるとその膜物性が変化する性質を有する。例えば、紫外線が照射されると照射部位のみが親水性の薄膜に変化する。この変化は、例えば水に対する接触角の変化を測定することにより確認することができる。従って、基体上に本発明の化合物(1)を含有する有機薄膜を形成した後、所定のパターンを有するレジスト膜を成膜し、紫外線を照射することにより、特定の部位のみを親水性の薄膜に変換することができる。
発明を実施するための最良の形態:
次に、実施例により本発明を更に詳細に説明する。本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例において、化合物No.は、上記第1表に対応している。
(実施例1)4−(トリフルオロメチル)ベンジル−4−(4−(トリエトキシシリル)ブチルオキシ)フェニルスルホン(化合物43)の合成
(a)4−(4−トリフルオロメチルベンジルスルファニル)フェノールの合成
水酸化カリウム1.4gのメタノール20ml溶液中に、4−メルカプトフェノール2.8gのメタノール10ml溶液を氷冷下滴下し、滴下終了後、さらに30分撹拌した。次いで、この反応液に、4−トリフルオロメチルベンジルブロミド5.0gのメタノール10ml溶液を氷冷下に加え、室温で18時間撹拌した。反応液を濃縮後、酢酸エチル及び水を加え、有機層を分取した。有機層を無水硫酸マグネシウムにて乾燥後、濃縮した。濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:n−ヘキサン/酢酸エチル/グラディエーション)により精製し、目的物2.23gを得た。
(b)4−[(4−トリフルオロメチルフェニル)メタンスルホニル]フェノールの合成
4−(4−トリフルオロメチルベンジルスルファニル)フェノール2.23gの酢酸15ml溶液を80℃付近に加熱した。そこへ、30%過酸化水素水2.5mlをゆっくりと滴下した。滴下終了後、反応混合物を90℃で3時間撹拌した後、水にあけ、析出物を濾取した。濾取物を水で良く洗浄した後、減圧下で加熱乾燥させ、目的物2.34gを得た。
(c)4−(トリフルオロメチル)ベンジル−4−(3−ブテニルオキシ)フェニルスルホンの合成
4−[(4−トリフルオロメチルフェニル)メタンスルホニル]フェノール2.34g及びトリフェニルホスフィン4.56g、3−ブテン−1オール0.80gをジクロロメタン30mlに溶解させ、ここに、アゾジカルボン酸ジイソプロピルエステルの40%ジクロロメタン溶液5.56gを氷冷下に滴下した。滴下終了後、反応液を室温に戻し、室温で5時間撹拌した。反応液を濃縮し、濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:n−ヘキサン/酢酸エチル=4/1(体積比))で精製することにより、目的物2.22gを得た。
(d)4−(トリフルオロメチル)ベンジル−4−(4−(トリエトキシシリル)ブチルオキシ)フェニルスルホン(化合物43)の合成
反応容器に、4−(トリフルオロメチル)ベンジル−4−(3−ブテニルオキシ)フェニルスルホン0.61gと10%白金−活性炭20mgを入れ、内部を窒素置換した後、トリエトキシシラン2mlを加え、100℃で4時間加熱撹拌した。反応液を室温まで冷却後、トルエン20mlを加え、全容をセライトろ過した。ろ液を濃縮し、濃縮物に脱水エタノールを加え、一晩静置した。析出した結晶をろ過で除いた後、ろ液を濃縮し、濃縮物にn−ヘキサンを加え、析出結晶をろ取した。得られた結晶をn−ヘキサンで洗浄し、目的物0.53gを得た。融点:124−128℃。
(実施例2)4−メチルベンジル−4−(4−(トリエトキシシリル)ブチルオキシ)フェニルスルホン(化合物No.3)の合成
出発原料として4−メチルベンジルブロミドを用い、実施例1と同様な方法で合成し、目的物を無色油状物として得た。
(実施例3)4−メチルベンジル−4−(4−(トリメトキシシリル)ブチルオキシ)フェニルスルホン(化合物No.2)の合成
実施例2で得た化合物を、塩化白金酸触媒と、メタノール中で3時間還流し、濃縮して目的物を薄黄色油状物として得た。
(実施例4)4−メチルベンジル−4−(12−(ホスホノ)ドデシルオキシ)フェニルスルホン(化合物No.11)の合成
実施例1の(a)、(b)と同様な方法で合成した4−[(4−メチルフェニル)メタンスルホニル]フェノール2.63g、1,12−ジブロモドデカン9.85g、炭酸カリウム1.40gのアセトミトリル50mL懸濁液を、4時間加熱還流し、混合物を濃縮後、酢酸エチルと水で分液し、有機層を乾燥、濃縮した残渣を、ヘキサンより再結晶し、4−メチルベンジル−4−(12−ブロモドデシルオキシ)フェニルスルホン3.73gを得た。この化合物2.45gを、20mgのヨウ化ナトリウムと共に、10mLの亜リン酸トリエチルと4時間還流させた。反応混合物を水にあけ、酢酸エチルで抽出し、有機層を乾燥、濃縮後、残渣を、ヘキサンより再結晶し、4−メチルベンジル−4−(12−(ジエチルホスホノ)ドデシルオキシ)フェニルスルホン(化合物12.)2.15gを得た。さらにこの化合物2.5gを30%臭化水素酸酢酸溶液20mL中で、130℃で7時間反応させ、混合物を飽和食塩水にあけて、析出した結晶を、ろ別し、水で洗い、減圧下80℃で良く乾燥して、目的の化合物2.12gを得た。融点、148〜150℃。
(実施例5)4−イソプロピルオキシフェニル−4−(4−(トリエトキシシリル)ブチルオキシ)フェニルスルホン(化合物492)の合成
4−イソプロピルオキシ−4‘−ヒドロキシビフェニルスルホンと、3−ブテノールより、実施例3と同様な方法で合成した4−イソプロピルオキシ−4‘−(3−ブテニルオキシ)ビフェニルスルホン(1.21g,3.5mmol)と10wt% Pt−C(50mg)に、トリエトキシシラン(3.0mL,2.63g,16mmol)を加え、窒素気流下、100℃にて3時間攪拌した。反応後、混合物を減圧濃縮した後、これにトルエン(20mL)を加えてセライトろ過することでPt触媒を除去した。ろ液を濃縮し、減圧乾燥させし、目的物(淡茶色オイル状物質、1.74g)を得た。
(実施例6)化合物の有機薄膜の形成
化合物No.2、3、43の化合物を無水トルエンで希釈して濃度0.5重量%の溶液を得た。この溶液に、洗剤と共に超音波洗浄、イオン交換水、エタノールで順次洗浄後、60℃で乾燥し、オゾン発生装置中で洗浄したソーダライムガラス基板、又は、シリコンウェーハ基板を、10分間浸漬後、基板を引き出し、150℃で10分加熱熟成し、続いて、トルエン中、超音波洗浄により、多層の吸着分を除去し、60℃、10分間乾燥し、化合物の有機薄膜を成膜した。
(実施例7)有機薄膜の光照射による接触角変化測定
実施例6の方法でソーダライムガラス上に形成させた有機薄膜表面に、マイクロシリンジから水5μlを滴下した後、60秒後に、接触角測定器(エルマ(株)社製、360S型)を用いて接触角を測定した。該当する有機薄膜に、254nmの光(殺菌灯、2mW/cm)を照射し、一定時間後、接触角を測定した。化合物と照射時間の変化を第2表にまとめた。

第2表より、本発明化合物(No.2,3及び43の化合物)は、紫外線照射により水に対する接触角が時間経過とともに減少し、親水化されていることが分かった。
産業上の利用可能性:
本発明によれば、光応答性を落とすことなく、成膜性に影響する構造部分や表面物性に影響する部位を柔軟に変換でき、比較的低エネルギーの波長光により表面変換が可能であり、再現性良く基体表面に有機薄膜を形成できる化合物(1)、及び基板上に本発明の化合物(1)を含有する有機薄膜が形成されてなる有機薄膜形成体が提供される。
得られる化合物(1)を含有する有機薄膜は、光が照射されるとその膜物性が変化する性質を有する。例えば、紫外線が照射されると照射部位のみが親水性の膜に変化するので、基体上に本発明の化合物(1)を含有する有機薄膜を形成した後、所定のパターンを有するレジスト膜を成膜し、紫外線を照射することにより、特定の部位のみを親水性の薄膜に変換することができる。本発明によれば、基体表面に精密で微細な機能性薄膜のパターンを容易に形成できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)

(式中、Xは、ヘテロ原子を含み、金属又は金属酸化物表面と相互作用できる官能基を表し、Rは、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシカルボニル基又はハロゲン原子を表し、2つのRで環を形成しても良い。nは1〜30の整数を表し、mは0〜5の整数を表す。mが2以上のとき、Rは同一でも相異なっていてもよい。G1は、単結合又は炭素数が1〜3である2価の飽和又は不飽和の炭化水素基を表す。Arは置換基を有していてもよい芳香族基を表す。G2は、O、S又はNrを表す。rは、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。)
で表される化合物。
【請求項2】
前記Xが、塩素原子若しくは炭素数1〜4のアルコキシ基を有しさらに置換基を有していてもよいシリル基、メルカプト基、置換基を有していてもよい炭素数1〜4のアルキルチオ基、炭素数1〜10のアシルチオ基、ジスルフィド基、置換基を有していてもよいアミノ基又は置換基を有していてもよいホスホノ基である請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記Arが、置換基を有していてもよいパラフェニレン基、置換基を有していてもよいパラビフェニレン基、置換基を有していてもよいパラトリフェニレン基又は置換基を有していてもよいナフチレン基である請求項1又は2に記載の化合物。
【請求項4】
前記Rが、撥液性を発現できる置換基である請求項1〜3のいずれかに記載の化合物。
【請求項5】
基体表面に、前記式(1)で表される化合物を含有する溶液を塗布することにより有機薄膜が形成されてなる有機薄膜形成体。

【国際公開番号】WO2004/067540
【国際公開日】平成16年8月12日(2004.8.12)
【発行日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−504759(P2005−504759)
【国際出願番号】PCT/JP2004/000884
【国際出願日】平成16年1月30日(2004.1.30)
【出願人】(000004307)日本曹達株式会社 (434)
【Fターム(参考)】