光変調素子、空間光変調器、画像生成装置、画像表示装置、光スイッチ
【課題】偏光面の回転角が大きく、小型化ができる光変調素子を提供する。
【解決手段】 グリッド部材304は、入射光の波長の半分以下のピッチでX軸方向に沿って配置されている5本のAl製の線状部材を有し、電界ベクトルの振動方向がX軸方向に平行な直線偏光が入射される。X方向ライン状電極及びY方向ライン状電極に電流を供給するとグリッド部材に磁場が印加され、入射光は偏光方向が+θFのファラデー回転あるいは−θFのファラデー回転してグリッド部材から射出される。検光子309は、+θFのファラデー回転した光を透過させ、−θFのファラデー回転した光を遮光する。
【解決手段】 グリッド部材304は、入射光の波長の半分以下のピッチでX軸方向に沿って配置されている5本のAl製の線状部材を有し、電界ベクトルの振動方向がX軸方向に平行な直線偏光が入射される。X方向ライン状電極及びY方向ライン状電極に電流を供給するとグリッド部材に磁場が印加され、入射光は偏光方向が+θFのファラデー回転あるいは−θFのファラデー回転してグリッド部材から射出される。検光子309は、+θFのファラデー回転した光を透過させ、−θFのファラデー回転した光を遮光する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光変調素子、空間光変調器、画像生成装置、画像表示装置、光スイッチに係り、更に詳しくは、磁気光学効果を利用した光変調素子、該光変調素子を複数有する空間光変調器、該空間光変調器を有する画像表示装置、前記光変調素子を有する光スイッチに関する。
【背景技術】
【0002】
カメラ、プロジェクタなど光情報処理を伴う製品において、伝搬光の位相や振幅を制御する空間光変調器(SLM、Spatial Light Modulator)は映像を表示するキーデバイスである。現在、液晶型やMEMS(Micro Electro Mechanical System)型のSLMが実用化されている。
【0003】
近年、SLMに対して、応答速度の更なる高速化が要求されてきている。しかしながら、分子の配向を制御する液晶型やミラーの角度を変化させるMEMS型では、応答速度がマイクロ秒レベルにとどまり、応答速度の更なる高速化を達成するには、これらとは原理的に異なる空間光変調器の開発が必要であった。
【0004】
ところで、原理的にナノ秒からサブナノ秒の応答速度をもつ方式として磁気光学方式がある。物質に磁場をかけた際に直線偏光の偏光面が回転する効果は磁気光学効果と呼ばれている。特に、透過光へ影響を及ぼす場合はファラデー効果、反射光に影響を及ぼす場合は磁気カー効果と呼ばれている。例えば、磁性薄膜の磁気モーメントの磁化反転速度がナノ秒からサブナノ秒であることを利用して、高速スイッチングが可能とされる。
【0005】
磁気光学効果を利用した空間光変調器が、非特許文献1、及び特許文献1〜8などに開示されている。
【0006】
また、特許文献8には、光変調器を用いた表示装置、ホログラフィー装置、ホログラム記録装置が開示されている。
【0007】
また、特許文献9には、光変調器を用いたホログラムデータ記録再生装置が開示されている。
【0008】
ところで、特許文献10には、第1の表面と屈折率とを有する基板と、該基板の第1の表面上の領域であって、基板の屈折率より小さい屈折率を有する領域と、該領域の上に配置された平行な細長い素子のアレイと、を備える広帯域ワイヤグリッド偏光子が開示されている。
【0009】
また、特許文献11には、非磁性基板表面の各ピクセル箇所に形成されている凹部に磁気光学結晶が埋設され、ピクセル間ギャップ位置で非磁性基板と一体の仕切り壁により磁気光学結晶同士が磁気的に分離され、表面全体が平坦化されている磁気光学デバイスが開示されている。
【0010】
また、特許文献12には、結晶性の良好な基板上に、熱処理により結晶性を悪化させた表面層を部分的に形成し、それらの上に磁性膜をエピタキシャル成長させることにより、表面層上の部分とそれ以外の部分とで磁性膜の結晶構造が2次元的に異なるようにした磁気光学デバイスの製造方法が開示されている。
【0011】
また、特許文献13には、透光性磁性体薄膜の内部に金属ナノ粒子を複合化させて形成される複合化磁性体薄膜を備える磁気光学体が開示されている。
【0012】
また、特許文献14には、非磁性支持体上に、少なくとも、規則的に配列した金属磁性微粒子を含む微粒子配列層を有し、金属磁性微粒子に対し外部から磁界を印加して磁化を発生せしめ、かつ直線偏光を入射し、金属磁性微粒子への入射光と金属の表面プラズモン振動との相互作用によって磁気光学効果を増大させる磁気光学素子が開示されている。
【0013】
また、特許文献15には、少なくとも磁気ヘッド層と、磁気光学効果を有する層と偏光子層とを構成層として含む光スイッチが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、特許文献1〜8に開示されている空間光変調器では、偏光面の回転角が小さく、さらに小型化が難しいという不都合があった。
【0015】
本発明は、かかる事情の下になされたもので、その第1の目的は、偏光面の回転角が大きく、小型化ができる光変調素子を提供することにある。
【0016】
また、本発明の第2の目的は、偏光面の回転角が大きく、高密度の光変調が可能な空間光変調器を提供することにある。
【0017】
また、本発明の第3の目的は、高精細な画像を生成することができる画像生成装置を提供することにある。
【0018】
また、本発明の第4の目的は、高精細な画像を表示することができる画像表示装置を提供することにある。
【0019】
また、本発明の第5の目的は、小型で応答特性に優れた光スイッチを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、第1の観点からすると、入射光を変調する光変調素子であって、偏光方向が第1の方向の直線偏光が入射され、金、銀、銅、白金及びアルミニウムのいずれかを含み、前記第1の方向に直交する第2の方向を長手方向とし、前記第1の方向に沿って前記入射光の波長の半分以下の間隔で配列された複数の線状部材と;前記複数の線状部材に磁場を印加する磁場印加機構と;前記複数の線状部材を介した光の光路上に配置され、前記磁場が印加されたときの光を選択的に透過あるいは遮光する検光子と;を備える光変調素子である。
【0021】
これによれば、偏光面の回転角が大きく、小型化を図ることができる。
【0022】
本発明は、第2の観点からすると、複数の本発明の光変調素子が2次元的に配列された空間光変調器である。
【0023】
これによれば、偏光面の回転角が大きく、高密度の光変調を行うことができる。
【0024】
本発明は、第3の観点からすると、画像情報に応じた画像を生成する画像生成装置であって、光源と;前記光源から射出される光束の光路上に配置された本発明の空間光変調器と;前記画像情報に応じて、前記空間光変調器の複数の磁場印加機構を個別に制御する制御装置と;を備える画像生成装置である。
【0025】
これによれば、本発明の空間光変調器を備えているため、高精細な画像を生成することができる。
【0026】
本発明は、第4の観点からすると、画像情報に応じた画像を生成する本発明の画像生成装置と;該画像生成装置からの光束を被投射面に投射する投射光学系と;を備える画像表示装置である。
【0027】
これによれば、本発明の画像生成装置を備えているため、結果として、高精細な画像を表示することができる。
【0028】
本発明は、第5の観点からすると、光の伝送をオンオフする光スイッチであって、本発明の光変調素子と;前記オンオフの情報に応じて前記光変調素子の磁場印加機構を制御する制御装置と;を備えることを特徴とする光スイッチである。
【0029】
これによれば、小型で優れた応答特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施形態に係るプロジェクタシステムの概略構成を説明するためのブロック図である。
【図2】図1におけるプロジェクタ装置の構成を説明するための図である。
【図3】図2における画像生成装置の構成を説明するための図である。
【図4】図3における画像形成パネルに含まれる空間光変調器を説明するための図である。
【図5】図4のA−A断面図である。
【図6】図4のB−B断面図である。
【図7】空間光変調器に入射する光を説明するための図である。
【図8】図8(A)は空間光変調器のグリッド部材を説明するための図であり、図8(B)は図8(A)のA−A断面図である。
【図9】選択された画素を説明するための図である。
【図10】図10(A)及び図10(B)は、それぞれ各ライン状電極に供給する電流と、グリッド部材に印加される磁場との関係を説明するための図である。
【図11】図11(A)及び図11(B)は、それぞれグリッド部材に印加される磁場とファラデー回転の関係を説明するための図である。
【図12】図12(A)及び図12(B)は、それぞれ検光子の作用を説明するための図である。
【図13】空間光変調器を透過する光、及び空間光変調器で遮光される光を説明するための図である。
【図14】グリッド部材に印加される磁場と回転角の関係を説明するための図である。
【図15】グリッド部材に印加される磁場と楕円率の関係を説明するための図である。
【図16】光変調素子を説明するための図である。
【図17】グリッド部材の変形例1を説明するための図である。
【図18】グリッド部材の変形例2を説明するための図である。
【図19】画像生成装置の変形例を説明するための図である。
【図20】図19における画像形成パネルに含まれる空間光変調器を説明するための図である。
【図21】図19の空間光変調器における検光子の作用を説明するための図(その1)である。
【図22】図19の空間光変調器における検光子の作用を説明するための図(その2)である。
【図23】グリッド部材の変形例3を説明するための図である。
【図24】光スイッチを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の一実施形態を図1〜図16に基づいて説明する。図1には、一実施形態に係る画像表示システムとしてのプロジェクタシステム10が示されている。
【0032】
このプロジェクタシステム10は、画像表示装置としてのプロジェクタ装置1000、及び上位装置2000を有している。
【0033】
上位装置2000は、プロジェクタ装置1000に画像に関する情報を送出する画像情報管理装置であり、一例としてパソコンを用いることができる。上位装置2000は、ネットワークを介して送られてきた画像に関する情報、及びネットワークを介して取得(ダウンロード)した画像に関する情報を、プロジェクタ装置1000に送出することができる。
【0034】
プロジェクタ装置1000は、上位装置2000から送られてきた画像に関する情報に基づいて、被投射面としてのスクリーン1100に拡大像を表示する前方投射型のプロジェクタ装置である。
【0035】
プロジェクタ装置1000は、一例として図2に示されるように、画像生成装置100、及び投射光学系200などを備えている。なお、本明細書では、XYZ3次元直交座標系において、プロジェクタ装置1000が載置されている平面をXZ面、画像生成装置100から投射光学系200に向けて射出される光束の方向をZ軸方向として説明する。
【0036】
投射光学系200からスクリーン1100に向かう投射光は、筐体に設けられた開口を通って射出される。
【0037】
画像生成装置100は、一例として図3に示されるように、光源101、リフレクタ102、カラーホイール103、ホイール駆動装置104、ロッドインテグレータ105、照明光学系106、画像形成パネル107、マイクロレンズアレイ108、通信インターフェース131、主制御装置132などを有している。
【0038】
通信インターフェース131は、主制御装置132と上位装置2000との通信を制御する。
【0039】
主制御装置132は、通信インターフェース131を介して受け取った画像に関する情報に応じて、光源101、ホイール駆動装置104、及び画像形成パネル107を制御する。
【0040】
光源101には、キセノンランプ、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、超高圧水銀ランプなどのランプ光源を用いることができる。なお、LED、LD、半導体レーザなどの固体光源を用いても良い。ここでは、一例として、光源101から射出される光の波長は、690nmである。
【0041】
この光源101は、主制御装置132の指示によって点灯される。
【0042】
リフレクタ102は、光源101から射出された光束を集光する。
【0043】
カラーホイール103は、赤、青、緑の各フィルタを有する円盤状部材であり、リフレクタ102からの光束の集光位置近傍に配置されている。
【0044】
ホイール駆動装置104は、カラーホイール103を回転させるための装置である。ホイール駆動装置104は、主制御装置132からの画像の色情報に応じて、該色情報に対応するフィルタをリフレクタ102からの光束が通過するように、カラーホイール103を回転させる。
【0045】
ロッドインテグレータ105は、カラーホイール103を通過した光束の光量分布を均一にする。
【0046】
照明光学系106は、ロッドインテグレータ105を介した光束の光路を効率よく画像形成パネル107に導く。
【0047】
照明光学系106からの光束は、マイクロレンズアレイ108を介して画像形成パネル107を照明する。この照明光は、画像形成パネル107によって、画像情報に対応して変調される。
【0048】
画像形成パネル107を透過した光束は、投射光学系200に射出される。
【0049】
投射光学系200は、画像形成パネル107上の画像の拡大像をスクリーン1100に表示する。
【0050】
次に、画像形成パネル107について説明する。
【0051】
この画像形成パネル107は、一例として図4〜図6に示される空間光変調器300を有している。
【0052】
この空間光変調器300は、ガラス基板301、樹脂層302、偏光子303、複数のグリッド部材304、複数のY方向ライン状電極305、絶縁層306、ガラス基板307、樹脂層308、検光子309、ガラス基板310、複数のX方向ライン状電極311などを有している。なお、図4は、空間光変調器300の平面図であり、図5は、図4のA−A断面図であり、図6は、図4のB−B断面図である。
【0053】
ここでは、各ガラス基板として、0.5mm〜1mm程度の厚さの石英基板を用いている。また、各樹脂層の樹脂材料には、光硬化型樹脂を用いている。
【0054】
ガラス基板301の+Z側に樹脂層302が設けられ、樹脂層302の+Z側に偏光子303が設けられている。
【0055】
偏光子303の+Z側に絶縁層306が設けられ、絶縁層306の+Z側にガラス基板307が設けられている。絶縁層306は、SiO2からなる層である。なお、絶縁層306の厚さは、1μm程度である。
【0056】
ガラス基板307の+Z側に樹脂層308が設けられ、樹脂層308の+Z側に検光子309が設けられ、検光子309の+Z側にガラス基板310が設けられている。
【0057】
そして、ガラス基板301の−Z側から光が入射するように配置されている(図7参照)。
【0058】
偏光子303は、ガラス基板301及び樹脂層302を介した入射光を、電界ベクトルの振動方向がX軸方向に平行な直線偏光に変換する。
【0059】
複数のX方向ライン状電極311は、ガラス基板307の+Z側の面上に形成されている。また、複数のY方向ライン状電極305は、絶縁層306中に形成されている。従って、X方向ライン状電極311とY方向ライン状電極305は、接することはない。各ライン状電極は、酸化インジウムスズ(ITO)からなり、そのライン幅は、約80nmである。
【0060】
各グリッド部材304は、平面視で、X方向ライン状電極311とY方向ライン状電極305とで囲まれた領域であって、ガラス基板307の−Z側の面上に形成されている。ここでは、X軸方向とY軸方向を配列方向とするマトリックス状に、124×124個のグリッド部材304が形成されている。そして、1つのグリッド部材304が画像における1画素に対応している。すなわち、ここでは、1画像は15376画素から構成されている。
【0061】
各グリッド部材304は、一例として図8(A)に示されるように、Y軸方向に延びる5本のAl(アルミニウム)製の線状部材を有し、X軸方向に等間隔で配置されている。各線状部材の間は、酸化ケイ素(SiOx)が充填されている。
【0062】
図8(A)のA−A断面図が図8(B)に示されている。ここでは、図8(B)における符号L1(幅)は約70nm、符号L2(厚さ)は約150nm、符号L3(配列ピッチ)は約150nmである。配列ピッチL3は、入射する光の波長(ここでは、690nm)の半分よりも小さい。このような金属細線の格子構造は、ワイヤグリッド(wire−grid)構造と呼ばれている。
【0063】
また、一例として図9に示されるように、X方向ライン状電極311及びY方向ライン状電極305を選択することにより、画素を特定することができる。そして、選択された各ライン状電極に電流を流すと、特定された画素に含まれるグリッド部材304に磁場が印加される。なお、図9における符号L5は、約1μmである。
【0064】
このとき、一例として図10(A)及び図10(B)に示されるように、各ライン状電極に流す電流の方向によって、グリッド部材304に印加される磁場の方向を規定することができる。
【0065】
グリッド部材304を透過する直線偏光は、磁場が印加されると、その偏光面が回転(ファラデー回転)する。ここでは、正方向の磁場が印加されたときに+θFのファラデー回転が生じ(図11(A)参照)、負方向の磁場が印加されたときに−θFのファラデー回転が生じる(図11(B)参照)とする。
【0066】
検光子309は、+θFのファラデー回転した光を透過させ、−θFのファラデー回転した光を遮光するように設定されている。
【0067】
従って、グリッド部材304に正方向の磁場を印加させると、図12(A)に示されるように、グリッド部材304に入射した光は検光子309を透過する。一方、グリッド部材304に負方向の磁場を印加させると、図12(B)に示されるように、グリッド部材304に入射した光は検光子309で遮光される。
【0068】
そこで、グリッド部材304に正の磁場が印加されるようにX方向ライン状電極311及びY方向ライン状電極305に電流を供給すると、該グリッド部材304に入射した光は、そのまま空間光変調器300から射出される。一方、グリッド部材304に負の磁場が印加されるようにX方向ライン状電極311及びY方向ライン状電極305に電流を供給すると、該グリッド部材304に入射した光は、空間光変調器300から射出されない。
【0069】
そこで、複数の画素のうち、指定した画素のみで、光を透過させることができる(図13参照)。
【0070】
従って、主制御装置132は、15376個のグリッド部材304に関して、画像情報に応じて、正の磁場を印加するグリッド部材304と負の磁場を印加するグリッド部材304とを決定し、その決定結果に基づいて、各ライン状電極に電流を供給する。
【0071】
これにより、画像情報に応じて変調された光が、画像生成装置100から投射光学系200に向けて射出される。
【0072】
投射光学系200は、複数のレンズ、ミラー、絞りなどを有し、画像生成装置100からの光を、指定された倍率で拡大して、スクリーン1100に投射する。
【0073】
ところで、図14には、グリッド部材304に印加される磁場と偏光面の回転角との関係が示されている。印加される磁場と偏光面の回転角との間には、線形の関係がある。該線形を表す直線の傾きは、−0.34[deg./kOe]である。
【0074】
例えば、上記正方向の磁場を10kOe、上記負方向の磁場を−10kOeとすれば、回転角の違いは約7°となる。
【0075】
また、図15には、グリッド部材304に印加される磁場と楕円率との関係が示されている。印加される磁場と楕円率との間には、線形の関係がある。該線形を表す直線の傾きは、−0.52[deg./kOe]である。例えば、印加される磁場が10kOeであれば、楕円率は−5.2°となる。楕円率は、λ/4板を用いれば、回転角とすることができる。
【0076】
印加される磁場と偏光面の回転角及び楕円率との関係は、前記L1(幅)、前記L2(厚さ)、前記L3(配列ピッチ)によって異なってくる。そこで、用途に応じた設計をすることができる。
【0077】
ここでは、計算機を用いたシミュレーションによって、指定したグリッド部材304に上記正方向の電場及び負方向の電場を印加するのに適した各ライン状電極への供給電流を求めた。なお、図11(A)及び図11(B)では、説明をわかりやすくするため、ガラス基板でのファラデー回転を考慮していないが、石英のようにファラデー回転が比較的大きな材料を基板として用いる場合には、ガラス基板でのファラデー回転を考慮する必要がある。
【0078】
すなわち、ライン状電極に流す電流の大きさを、その周囲に磁界が発生するようにシミュレーションにより求め、XY方向にて、一つのグリッド部材304に対して同期を取れるようにし、水平方向の発生磁界を制御した。
【0079】
ここでは、グリッド部材304が長軸と短軸をもつアルミニウムからなり、変調特性(回転角、楕円率)の磁場依存性を有している。そして、グリッド部材304が、ワイヤグリッド構造体であるため、変調特性(回転角、楕円率)の磁場依存性が強い。すなわち、図14及び図15における傾きが大きい。
【0080】
また、複数の線状部材の配列ピッチが数十〜数百nm程度であり、入射光の波長の半分以下であるため、1画素の大きさを小さくすることができる。そこで、画像生成装置100では、高精細な画像を生成することができる。
【0081】
次に、空間光変調器300の製造方法について説明する。
【0082】
まず、表面研磨を施した石英基板を用意した。これがグリッド部材の支持体としての役割をする。そして、石英基板上に蒸着装置を用いてITO及びグリッド部材を形成した。次に、マスク形成後、反応性エッチング装置を用いてパターンを作製した。なお、Gaイオンビームにより試料表面の原子をはじきとばすことによって試料を削る収束イオンビームでも原理的には作製可能である。その後、珪素酸化物により微小構造体の間を埋めるとともに、再度、加工と成膜を繰り返して各ライン状電極を作製した。その後、光硬化型樹脂を用いて、偏光子及び検光子を固定した。
【0083】
以上の説明から明らかなように、本実施形態に係る空間光変調器300では、1画素に対応する部分によって、本発明の光変調素子が構成されている(図16参照)。そして、グリッド部材304によって複数の線状部材が構成され、X方向ライン状電極311とY方向ライン状電極305によって磁場印加機構が構成されている。また、主制御装置132によって、本発明の画像生成装置における制御装置が構成されている。
【0084】
すなわち、空間光変調器300は、複数の光変調素子が2次元的に配列されている。
【0085】
以上説明したように、本実施形態に係る空間光変調器300によると、ガラス基板301、樹脂層302、偏光子303、複数のグリッド部材304、複数のY方向ライン状電極305、絶縁層306、ガラス基板307、樹脂層308、検光子309、ガラス基板310、複数のX方向ライン状電極311などを有している。
【0086】
また、偏光子303は、入射光を電界ベクトルの振動方向がX軸方向に平行な直線偏光に変換する。
【0087】
各グリッド部材304は、偏光子303を介した光が入射され、Y軸方向に延びる5本のAl(アルミニウム)製の線状部材を有している。該5本の線状部材は、入射光の波長の半分以下のピッチでX軸方向に沿って配置されている。
【0088】
そして、X方向ライン状電極311及びY方向ライン状電極305に電流を供給すると、グリッド部材304に正の磁場あるいは負の磁場が印加される。これにより、グリッド部材304に入射した光は、その偏光方向が、+θFのファラデー回転あるいは−θFのファラデー回転して、グリッド部材304を透過する。
【0089】
そして、検光子309は、+θFのファラデー回転した光を透過させ、−θFのファラデー回転した光を遮光するように設定されている。
【0090】
そこで、グリッド部材304に正の磁場が印加されるようにX方向ライン状電極311及びY方向ライン状電極305に電流を供給することにより、該グリッド部材304に入射した光を、空間光変調器300から射出することができる。一方、グリッド部材304に負の磁場が印加されるようにX方向ライン状電極311及びY方向ライン状電極305に電流を供給することにより、該グリッド部材304に入射した光を、空間光変調器300から射出させないようにすることができる。
【0091】
この場合は、偏光面の回転角を従来よりも大きくすることができ、入射光を確実に変調することができる。また、高速で光変調を行うことができる。さらに、1画素の大きさ、すなわち、光変調素子の大きさを小さくすることができる。
【0092】
そして、空間光変調器300は、複数の光変調素子が2次元配列されているため、偏光面の回転角が大きく、高密度の光変調が可能である。
【0093】
また、グリッド部材304の線状部材が、Al(アルミニウム)製であるため、グリッド部材304での光の吸収を抑制することができる。すなわち、空間光変調器300での光損失を最低限に抑えることができる。
【0094】
また、有機材料を含んでいないため、耐久性に優れている。
【0095】
また、量産性に優れており、高い製造歩留まりを得ることができた。
【0096】
ここでは、ガラス基板に垂直な方向の磁場がワイヤグリッド構造体に印加されると、該印加された磁場に応じて、入射光の変調特性(回転角、楕円率)が変化することを利用している。このとき、線状部材が磁性体でなくても、入射光の変調特性(回転角、楕円率)は、印加磁場に対して線形に変化する。特に、ワイヤグリッド構造体を透過する光ではその変化が大きい。
【0097】
従来の空間光変調器では、偏光面の回転角が小さく、その結果として、変調精度(S/N比)が低かった。しかしながら、空間光変調器300では、従来よりも高い変調精度(S/N比)を得ることができた。
【0098】
そして、本実施形態に係る画像生成装置100によると、空間光変調器300を有しているため、高精細な画像を生成することができる。
【0099】
また、本実施形態に係るプロジェクタ装置1000によると、画像生成装置100を備えているため、結果として、高精細な画像をスクリーンに表示することができる。
【0100】
なお、上記実施形態では、各グリッド部材304が5本の線状部材からなる場合について説明したが、これに限定されるものではない(図17参照)。
【0101】
例えば、線状部材の寸法を変化させないで、1つのグリッド部材に含まれる線状部材の数を少なくすると、画素数を上記実施形態よりも多くすることができる。すなわち、画像生成装置は、さらに高精細な画像を生成することができる。
【0102】
逆に、線状部材の寸法を変化させないで、1つのグリッド部材に含まれる線状部材の数を多くすると、1画素の大きさが大きくなり、1画素あたりの光強度を大きくすることができる。
【0103】
そこで、必要とされる解像度及び1画素あたりの光強度に応じて、1つのグリッド部材に含まれる線状部材の数を設定しても良い。
【0104】
また、上記実施形態において、グリッド部材304の各線状部材が、一例として図18に示されるように、Y軸方向の途中で断線したような不連続形状であっても良い。但し、連続形状のほうが、変調特性(回転角、楕円率)と印加磁場との関係における傾きが大きい。
【0105】
また、上記実施形態では、グリッド部材304の各線状部材が、Al(アルミニウム)製の場合について説明したが、これに限定されるものではなく、Al合金製であっても良い。また、各線状部材の素材が、金、銀、銅、白金及びこれらの合金のいずれかであっても良い。なお、Al(アルミニウム)製が最も好ましい。また、Agは化学的にやや不安定という欠点があるが、その特性に大きな経時変化はない。
【0106】
また、上記実施形態では、検光子309が、+θFのファラデー回転した光を透過させ、−θFのファラデー回転した光を遮光するように設定されている場合について説明したが、これに限定されるものではない。検光子309が、−θFのファラデー回転した光を透過させ、+θFのファラデー回転した光を遮光するように設定されていても良い。但し、この場合は、主制御装置132は、光を透過させたい画素のグリッド部材304に負の磁場を印加し、遮光したい画素のグリッド部材304に正の磁場を印加することとなる。
【0107】
また、上記実施形態において、主制御装置132は、光を透過させたい画素のグリッド部材304に正の磁場を印加し、遮光したい画素のグリッド部材304に磁場を印加しないこととしても良い。
【0108】
また、上記実施形態において、検光子309が、−θFのファラデー回転した光を透過させるように設定されているときに、主制御装置132は、光を透過させたい画素のグリッド部材304に負の磁場を印加し、遮光したい画素のグリッド部材304に磁場を印加しないこととしても良い。
【0109】
また、上記実施形態において、前記画像生成装置100に代えて、一例として図19に示される画像生成装置100’を用いても良い。この画像生成装置100’は、前記画像生成装置100に対して、空間光変調器が異なる点に特徴を有している。従って、以下では、前記画像生成装置100との相違点を中心に説明するとともに、前述した画像生成装置100と同一若しくは同等の構成部分については同一の符号を用い、その説明を簡略化し若しくは省略するものとする。
【0110】
画像生成装置100’は、光源101、リフレクタ102、カラーホイール103、ホイール駆動装置104、ロッドインテグレータ105、照明光学系106’、画像形成パネル107’、全反射プリズム109、通信インターフェース131、主制御装置132などを有している。
【0111】
照明光学系106’は、ロッドインテグレータ105を介した光束の光路を効率よく全反射プリズム109に導く。
【0112】
全反射プリズム109は、2つの三角プリズムからなり、それらの間に微小な空気層を有している。
【0113】
全反射プリズム109に入射した照明光学系106’からの光束は、画像形成パネル107’を照明する。この照明光は、画像形成パネル107’によって、画像情報に対応して変調される。
【0114】
画像形成パネル107’で反射され、全反射プリズム109に入射した光束は、全反射プリズム109を通過して、投射光学系200に射出される。
【0115】
次に、画像形成パネル107’について説明する。この画像形成パネル107’は、一例として図20に示される空間光変調器300’を有している。なお、ここでは、前記空間光変調器300との相違点を中心に説明するとともに、前述した空間光変調器300と同一若しくは同等の構成部分については同一の符号を用い、その説明を簡略化し若しくは省略するものとする。
【0116】
この空間光変調器300’は、ガラス基板301、偏光子303、複数のグリッド部材304、複数のY方向ライン状電極305、絶縁層306、ガラス基板307、検光子309、複数のX方向ライン状電極311(不図示)などを有している。なお、図20は、空間光変調器300’のグリッド部材304を切断する断面図である。
【0117】
ここでは、検光子309は、グリッド部材304で反射された光の光路上に配置されている。また、偏光子303及び検光子309と複数のグリッド部材304との間にマイクロレンズアレイ108が配置されている。
【0118】
グリッド部材304で反射された直線偏光は、磁場が印加されていると、磁気カー効果を受け、その偏光面が回転(カー回転)する。ここでは、正方向の磁場が印加されたときに+θKのカー回転が生じ(図21参照)、負方向の磁場が印加されたときに−θKのカー回転が生じる(図22参照)とする。
【0119】
検光子309は、+θKのカー回転した光を透過させ、−θKのカー回転した光を遮光するように設定されている。
【0120】
従って、グリッド部材304に正方向の磁場を印加させると、グリッド部材304で反射された光は、図21に示されるように、検光子309を透過する。一方、グリッド部材304に負方向の磁場を印加させると、グリッド部材304で反射された光は、図22に示されるように、検光子309で遮光される。
【0121】
そこで、グリッド部材304に正の磁場が印加されるように対応するX方向ライン状電極311及びY方向ライン状電極305に電流を供給すると、該グリッド部材304に入射した光は、反射光として空間光変調器300’から射出される。一方、グリッド部材304に負の磁場が印加されるように対応するX方向ライン状電極311及びY方向ライン状電極305に電流を供給すると、該グリッド部材304に入射した光は、空間光変調器300’から射出されない。
【0122】
そこで、空間光変調器300’では、複数の画素のうち指定した画素のみで、光を反射させることができる。
【0123】
従って、主制御装置132は、15376個のグリッド部材304に関して、画像情報に応じて、正の磁場を印加するグリッド部材304と負の磁場を印加するグリッド部材304とを決定し、その決定結果に基づいて、対応するライン状電極に電流を供給する。
【0124】
これにより、画像情報に応じて変調された光が、画像生成装置100’から投射光学系200に向けて射出される。
【0125】
なお、空間光変調器300’において、主制御装置132は、光を反射させたい画素のグリッド部材304に正の磁場を印加し、遮光したい画素のグリッド部材304に磁場を印加しないこととしても良い。
【0126】
また、空間光変調器300’において、検光子309が、−θKのカー回転した光を透過させ、+θKのカー回転した光を遮光するように設定されていても良い。但し、この場合は、主制御装置132は、空間光変調器300’で光を反射させたい画素のグリッド部材304に負の磁場を印加し、遮光したい画素のグリッド部材304に正の磁場を印加することとなる。
【0127】
また、空間光変調器300’において、検光子309が、−θKのカー回転した光を透過させるように設定されているときに、主制御装置132は、光を反射させたい画素のグリッド部材304に負の磁場を印加し、遮光したい画素のグリッド部材304に磁場を印加しないこととしても良い。
【0128】
ところで、グリッド部材に磁場を印加する方法としては、ハードディスク装置に用いられる磁気ヘッド(TMRやGMR)の利用や、コイル形状と磁芯からなる微小磁気ヘッドをグリッド部材の近傍に作り込む方法や、永久磁石を近接させる方法もある。
【0129】
また、上記実施形態において、グリッド部材304は、その+Z側あるいは−Z側に磁性材料層を有していても良い。
【0130】
この場合に、磁性材料層として、鉄(Fe)/白金(Pt)、コバルト(Co)/白金(Pt)、及びコバルト(Co)/パラジウム(Pd)のいずれかの多層構造を有し、垂直磁気異方性を備えているものを用いることができる。
【0131】
例えば、線状部材の厚さを100nmとし、該線状部材の+Z側にCo/Pt多層膜を設けても良い(図23参照)。このCo/Pt多層膜としては、厚さ1nmのCo層と、厚さ0.5nmのCoと厚さ1nmのPtとからなる層が5つ積層された層と、からなる人工格子構造体を用いることができる。この人工格子構造体は、垂直磁気異方性を有している。
【0132】
磁性材料を用いると、回転角と印加磁場との関係及び楕円率と印加磁場との関係を示す曲線が角型のヒステリシスをもつようになる。この場合は、磁場が印加されなくなっても状態(回転角、楕円率)を保持することができる。
【0133】
なお、厚さ0.5nmのCoと厚さ1nmのPtとからなる層の層数は5層に限定されない。但し、光反射率や飽和磁化の関係から5〜7層程度が好ましい。
【0134】
このように、人工的な垂直磁化膜を利用することで、回転角及び楕円率を更に大きくすることができる。
【0135】
また、磁性材料層として、少なくともコバルトCoを含有し、柱状に成長した結晶粒子の間に非磁性物質が偏析したグラニュラ構造を有するものを用いることができる。
【0136】
例えば、CoCrPt−SiO2(厚さ5nm)からなるグラニュラ構造体を用いても良い。このCoCrPt−SiO2は、垂直磁気異方性を有している。
【0137】
ところで、グラニュラとは「粒状の」という意味で、ナノメータスケールの粒子が他の材料のマトリックス中に分散した構造を持つ材料をいう。
【0138】
ここでは、Coがhcp構造(六方最密格子)の結晶を形成し、Cr(クロム)及びSiO2が偏析して粒界を形成する。CoCrPt−SiO2を用いることにより、SiO2が強磁性体であるCoの周囲に偏析するため、物理的に孤立(分散)された微細なCo粒子を形成しやすいという特徴がある。
【0139】
また、磁性材料層として、ハーフメタルを含む層を用いることができる。なお、ハーフメタルとは、一方の電子スピンが金属的なバンド構造を有し、他方の電子スピンが絶縁体的なバンド構造を有する物質をいう。
【0140】
例えば、PtMnSbを用いることができる。PtMnSbでは白金(Pt)、マンガン(Mn)、アンチモン(Sb)の組成比を調整することで一方向のみのスピンをもつ(理論上スピン偏極率100%)状態を形成することができた。なお、下地層として厚み2nmのTi(チタン)を用いた。また、磁場印加手段としては、マイクロ磁気ヘッドを用いた。
【0141】
ハーフメタル材料としては、外部磁場が印加される場合にすべての電子が所定の方向にスピン分極されるホイスラー合金(Heusler alloy)やハーフメタル強磁性膜(例えば、Co2MnSi膜)が好ましい。しかし、該ホイスラー合金やハーフメタル強磁性膜と同様な他の強磁性膜から形成されても良い。
【0142】
ハーフメタルには、(La,Sr)MnO3、Fe3O4、CrO2などの導電性強磁性酸化物、NiMnSbなどのハーフホイスラー合金、Co2MnSi、Co2MnAl、Co2MnGe、Co2CrGaなどのフルホイスラー合金、及び閃亜鉛鉱型のCrAsなどが知られている。
【0143】
また、磁性材料層として、イットリウム鉄ガーネット(YIG、Y3Fe5O12)及びその一部を他の元素で置換した材料のいずれかを含む層を用いることができる。
【0144】
例えば、イットリウム鉄ガーネットの一部をビスマス(Bi)で置換したビスマス置換イットリウム鉄ガーネット(BiYIG)(例えば、特開2001−194639号公報参照)を用いても良い。BiYIGは、比較的透過率が高いことから、透過光の光強度が大きいという利点がある。
【0145】
BiYIGの形成方法としては、スパッタリング法だけではなく、BiYIGの有機化合物を有機溶剤に溶解した溶液(MOD(Metal Organic Decomposition)塗布材料)を利用する方法もある。これは、例えば、溶液を石英基板に塗布し、乾燥させる作業を5回繰り返し、その後、100℃で30分、500℃で15分、700℃で180分という熱処理工程を加え、BiYIGが焼成されることにより結晶性を向上させるという方法である。
【0146】
なお、イットリウムに代えて、希土類元素である、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luのいずれかを用いても良い。
【0147】
また、Biに代えて、Ce、Pb、Ca、Ptのいずれかを用いても良い。
【0148】
また、Feの一部を、Al、Ga、Cr、Mn、Sc、In、Ru、Rh、Co、Cu、Ni、Zn、Li、Si、Ge、Zr、Tiのいずれかで置換しても良い。
【0149】
上記空間光変調器300及び空間光変調器300’は、光スイッチに用いることができる。図24には、光スイッチ3000の概略構成が示されている。この光スイッチ3000は、空間光変調器3010及び制御装置3020などを有している。
【0150】
空間光変調器3010は、前記空間光変調器300と同様な構造を有し、複数の光ファイバの途中に設けられている。
【0151】
制御装置3020は、各光ファイバに対応するオンオフ信号に応じて、空間光変調器3010のグリッド部材304に印加する磁場を制御する。すなわち、オンのときには、入射光を透過させ、オフのときには、入射光を遮光する。なお、光ファイバが1本であっても良い。このときは、1つの光変調素子を有していれば良い。
【0152】
空間光変調器3010では、数ナノ秒で偏光状態を変化させることができる。そこで、超高速光スイッチングが可能である。液晶フィルムを用いた従来の空間光変調器では、スイッチングに数マイクロ秒を要していた。
【0153】
上記空間光変調器300は、ファラデー効果を利用して透過光をオンオフすることができる空間光変調器の一例であり、これに限定されるものではない。
【0154】
上記空間光変調器300’は、磁気カー効果を利用して反射光をオンオフすることができる空間光変調器の一例であり、これに限定されるものではない。
【0155】
ガラス基板上に線状部材を形成する工程では、磁性体・ポリマー複合材料を用いる方法、ゾルゲル法を用いる方法、MOD(Metal Organic Decomposition)塗布型材料を用いる方法、スパッタリングを用いる方法、バナジウムクロムヘキサシアノ錯体などの分子磁性体を用いる方法、ナノシート積層を用いる方法、常温衝撃固化現象を用いるエアロゾルデポジッション法(ADM)のいずれかを用いることができる。
【0156】
ゾルゲル材料は、アルコキシド等を加水分解、重合させ、コロイド状にしたものを溶液中に分散させた材料であり、低温製膜性に優れている。
【0157】
また、MOD塗布型材料は、金属の有機化合物を有機溶剤に溶解した溶液であり、ガラス基板上にその溶液を塗布し、乾燥後熱処理を施すことで酸化物薄膜を簡単に形成することができる液体材料である。(Ga,Mn)As、GeFeなどの強磁性半導体材料でも良い。
【0158】
また、上記空間光変調器300及び空間光変調器300’は、ホログラフィー装置、ホログラム記録装置に適用することができる。
【0159】
また、上記空間光変調器300及び空間光変調器300’は、磁気センサに用いることも可能である。
【0160】
また、上記光変調素子は、レーザ加工機にも用いることができる。この場合は、レーザ光を高速走査させながら、必要な部分のみにレーザ光を照射することができる。
【0161】
また、レーザ加工機において、上記光変調素子を複数個2次元的に配置した場合には、複数箇所の加工を同時に行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0162】
以上説明したように、本発明の光変調素子によれば、偏光面の回転角が大きく、小型化を図るのに適している。また、本発明の空間光変調器によれば、偏光面の回転角が大きく、高密度の光変調を行うのに適している。また、本発明の画像生成装置によれば、高精細な画像を生成するのに適している。また、本発明の画像表示装置によれば、高精細な画像を表示するのに適している。また、本発明の光スイッチによれば、小型で応答特性に優れたスイッチングを行うのに適している。
【符号の説明】
【0163】
10…プロジェクタシステム、100…画像生成装置、101…光源、107…画像形成パネル、108…マイクロレンズアレイ、132…主制御装置(制御装置)、200…投射光学系、300…空間光変調器、300’…空間光変調器、301…ガラス基板、302…樹脂層、303…偏光子、304…グリッド部材(複数の線状部材)、305…Y方向ライン状電極(磁場印加機構の一部)、306…絶縁層、307…ガラス基板、308…樹脂層、309…検光子、310…ガラス基板、311…X方向ライン状電極(磁場印加機構の一部)、1000…プロジェクタ装置、3000…光スイッチ、3010…空間光変調器、3020…制御装置。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0164】
【特許文献1】特開2007−310177号公報
【特許文献2】特開2007−192926号公報
【特許文献3】特開2007−171450号公報
【特許文献4】特開2006−154727号公報
【特許文献5】特開2006−119337号公報
【特許文献6】特開2004−354441号公報
【特許文献7】特開2008−145748号公報
【特許文献8】特開2008−83686号公報
【特許文献9】特開2006−164480号公報
【特許文献10】特表2003−502708号公報
【特許文献11】特開2006−259074号公報
【特許文献12】特開2006−84871号公報
【特許文献13】特開2008−268862号公報
【特許文献14】特開2007−213004号公報
【特許文献15】特開2004−309700号公報
【非特許文献】
【0165】
【非特許文献1】J−k.Cho他、「Design,fabrication,switching,and optical characteristics of new magneto−optic spatial light modulator」J. Appl. Phys.,Vol.76,p1910−1919(1994)
【技術分野】
【0001】
本発明は、光変調素子、空間光変調器、画像生成装置、画像表示装置、光スイッチに係り、更に詳しくは、磁気光学効果を利用した光変調素子、該光変調素子を複数有する空間光変調器、該空間光変調器を有する画像表示装置、前記光変調素子を有する光スイッチに関する。
【背景技術】
【0002】
カメラ、プロジェクタなど光情報処理を伴う製品において、伝搬光の位相や振幅を制御する空間光変調器(SLM、Spatial Light Modulator)は映像を表示するキーデバイスである。現在、液晶型やMEMS(Micro Electro Mechanical System)型のSLMが実用化されている。
【0003】
近年、SLMに対して、応答速度の更なる高速化が要求されてきている。しかしながら、分子の配向を制御する液晶型やミラーの角度を変化させるMEMS型では、応答速度がマイクロ秒レベルにとどまり、応答速度の更なる高速化を達成するには、これらとは原理的に異なる空間光変調器の開発が必要であった。
【0004】
ところで、原理的にナノ秒からサブナノ秒の応答速度をもつ方式として磁気光学方式がある。物質に磁場をかけた際に直線偏光の偏光面が回転する効果は磁気光学効果と呼ばれている。特に、透過光へ影響を及ぼす場合はファラデー効果、反射光に影響を及ぼす場合は磁気カー効果と呼ばれている。例えば、磁性薄膜の磁気モーメントの磁化反転速度がナノ秒からサブナノ秒であることを利用して、高速スイッチングが可能とされる。
【0005】
磁気光学効果を利用した空間光変調器が、非特許文献1、及び特許文献1〜8などに開示されている。
【0006】
また、特許文献8には、光変調器を用いた表示装置、ホログラフィー装置、ホログラム記録装置が開示されている。
【0007】
また、特許文献9には、光変調器を用いたホログラムデータ記録再生装置が開示されている。
【0008】
ところで、特許文献10には、第1の表面と屈折率とを有する基板と、該基板の第1の表面上の領域であって、基板の屈折率より小さい屈折率を有する領域と、該領域の上に配置された平行な細長い素子のアレイと、を備える広帯域ワイヤグリッド偏光子が開示されている。
【0009】
また、特許文献11には、非磁性基板表面の各ピクセル箇所に形成されている凹部に磁気光学結晶が埋設され、ピクセル間ギャップ位置で非磁性基板と一体の仕切り壁により磁気光学結晶同士が磁気的に分離され、表面全体が平坦化されている磁気光学デバイスが開示されている。
【0010】
また、特許文献12には、結晶性の良好な基板上に、熱処理により結晶性を悪化させた表面層を部分的に形成し、それらの上に磁性膜をエピタキシャル成長させることにより、表面層上の部分とそれ以外の部分とで磁性膜の結晶構造が2次元的に異なるようにした磁気光学デバイスの製造方法が開示されている。
【0011】
また、特許文献13には、透光性磁性体薄膜の内部に金属ナノ粒子を複合化させて形成される複合化磁性体薄膜を備える磁気光学体が開示されている。
【0012】
また、特許文献14には、非磁性支持体上に、少なくとも、規則的に配列した金属磁性微粒子を含む微粒子配列層を有し、金属磁性微粒子に対し外部から磁界を印加して磁化を発生せしめ、かつ直線偏光を入射し、金属磁性微粒子への入射光と金属の表面プラズモン振動との相互作用によって磁気光学効果を増大させる磁気光学素子が開示されている。
【0013】
また、特許文献15には、少なくとも磁気ヘッド層と、磁気光学効果を有する層と偏光子層とを構成層として含む光スイッチが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、特許文献1〜8に開示されている空間光変調器では、偏光面の回転角が小さく、さらに小型化が難しいという不都合があった。
【0015】
本発明は、かかる事情の下になされたもので、その第1の目的は、偏光面の回転角が大きく、小型化ができる光変調素子を提供することにある。
【0016】
また、本発明の第2の目的は、偏光面の回転角が大きく、高密度の光変調が可能な空間光変調器を提供することにある。
【0017】
また、本発明の第3の目的は、高精細な画像を生成することができる画像生成装置を提供することにある。
【0018】
また、本発明の第4の目的は、高精細な画像を表示することができる画像表示装置を提供することにある。
【0019】
また、本発明の第5の目的は、小型で応答特性に優れた光スイッチを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、第1の観点からすると、入射光を変調する光変調素子であって、偏光方向が第1の方向の直線偏光が入射され、金、銀、銅、白金及びアルミニウムのいずれかを含み、前記第1の方向に直交する第2の方向を長手方向とし、前記第1の方向に沿って前記入射光の波長の半分以下の間隔で配列された複数の線状部材と;前記複数の線状部材に磁場を印加する磁場印加機構と;前記複数の線状部材を介した光の光路上に配置され、前記磁場が印加されたときの光を選択的に透過あるいは遮光する検光子と;を備える光変調素子である。
【0021】
これによれば、偏光面の回転角が大きく、小型化を図ることができる。
【0022】
本発明は、第2の観点からすると、複数の本発明の光変調素子が2次元的に配列された空間光変調器である。
【0023】
これによれば、偏光面の回転角が大きく、高密度の光変調を行うことができる。
【0024】
本発明は、第3の観点からすると、画像情報に応じた画像を生成する画像生成装置であって、光源と;前記光源から射出される光束の光路上に配置された本発明の空間光変調器と;前記画像情報に応じて、前記空間光変調器の複数の磁場印加機構を個別に制御する制御装置と;を備える画像生成装置である。
【0025】
これによれば、本発明の空間光変調器を備えているため、高精細な画像を生成することができる。
【0026】
本発明は、第4の観点からすると、画像情報に応じた画像を生成する本発明の画像生成装置と;該画像生成装置からの光束を被投射面に投射する投射光学系と;を備える画像表示装置である。
【0027】
これによれば、本発明の画像生成装置を備えているため、結果として、高精細な画像を表示することができる。
【0028】
本発明は、第5の観点からすると、光の伝送をオンオフする光スイッチであって、本発明の光変調素子と;前記オンオフの情報に応じて前記光変調素子の磁場印加機構を制御する制御装置と;を備えることを特徴とする光スイッチである。
【0029】
これによれば、小型で優れた応答特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施形態に係るプロジェクタシステムの概略構成を説明するためのブロック図である。
【図2】図1におけるプロジェクタ装置の構成を説明するための図である。
【図3】図2における画像生成装置の構成を説明するための図である。
【図4】図3における画像形成パネルに含まれる空間光変調器を説明するための図である。
【図5】図4のA−A断面図である。
【図6】図4のB−B断面図である。
【図7】空間光変調器に入射する光を説明するための図である。
【図8】図8(A)は空間光変調器のグリッド部材を説明するための図であり、図8(B)は図8(A)のA−A断面図である。
【図9】選択された画素を説明するための図である。
【図10】図10(A)及び図10(B)は、それぞれ各ライン状電極に供給する電流と、グリッド部材に印加される磁場との関係を説明するための図である。
【図11】図11(A)及び図11(B)は、それぞれグリッド部材に印加される磁場とファラデー回転の関係を説明するための図である。
【図12】図12(A)及び図12(B)は、それぞれ検光子の作用を説明するための図である。
【図13】空間光変調器を透過する光、及び空間光変調器で遮光される光を説明するための図である。
【図14】グリッド部材に印加される磁場と回転角の関係を説明するための図である。
【図15】グリッド部材に印加される磁場と楕円率の関係を説明するための図である。
【図16】光変調素子を説明するための図である。
【図17】グリッド部材の変形例1を説明するための図である。
【図18】グリッド部材の変形例2を説明するための図である。
【図19】画像生成装置の変形例を説明するための図である。
【図20】図19における画像形成パネルに含まれる空間光変調器を説明するための図である。
【図21】図19の空間光変調器における検光子の作用を説明するための図(その1)である。
【図22】図19の空間光変調器における検光子の作用を説明するための図(その2)である。
【図23】グリッド部材の変形例3を説明するための図である。
【図24】光スイッチを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の一実施形態を図1〜図16に基づいて説明する。図1には、一実施形態に係る画像表示システムとしてのプロジェクタシステム10が示されている。
【0032】
このプロジェクタシステム10は、画像表示装置としてのプロジェクタ装置1000、及び上位装置2000を有している。
【0033】
上位装置2000は、プロジェクタ装置1000に画像に関する情報を送出する画像情報管理装置であり、一例としてパソコンを用いることができる。上位装置2000は、ネットワークを介して送られてきた画像に関する情報、及びネットワークを介して取得(ダウンロード)した画像に関する情報を、プロジェクタ装置1000に送出することができる。
【0034】
プロジェクタ装置1000は、上位装置2000から送られてきた画像に関する情報に基づいて、被投射面としてのスクリーン1100に拡大像を表示する前方投射型のプロジェクタ装置である。
【0035】
プロジェクタ装置1000は、一例として図2に示されるように、画像生成装置100、及び投射光学系200などを備えている。なお、本明細書では、XYZ3次元直交座標系において、プロジェクタ装置1000が載置されている平面をXZ面、画像生成装置100から投射光学系200に向けて射出される光束の方向をZ軸方向として説明する。
【0036】
投射光学系200からスクリーン1100に向かう投射光は、筐体に設けられた開口を通って射出される。
【0037】
画像生成装置100は、一例として図3に示されるように、光源101、リフレクタ102、カラーホイール103、ホイール駆動装置104、ロッドインテグレータ105、照明光学系106、画像形成パネル107、マイクロレンズアレイ108、通信インターフェース131、主制御装置132などを有している。
【0038】
通信インターフェース131は、主制御装置132と上位装置2000との通信を制御する。
【0039】
主制御装置132は、通信インターフェース131を介して受け取った画像に関する情報に応じて、光源101、ホイール駆動装置104、及び画像形成パネル107を制御する。
【0040】
光源101には、キセノンランプ、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、超高圧水銀ランプなどのランプ光源を用いることができる。なお、LED、LD、半導体レーザなどの固体光源を用いても良い。ここでは、一例として、光源101から射出される光の波長は、690nmである。
【0041】
この光源101は、主制御装置132の指示によって点灯される。
【0042】
リフレクタ102は、光源101から射出された光束を集光する。
【0043】
カラーホイール103は、赤、青、緑の各フィルタを有する円盤状部材であり、リフレクタ102からの光束の集光位置近傍に配置されている。
【0044】
ホイール駆動装置104は、カラーホイール103を回転させるための装置である。ホイール駆動装置104は、主制御装置132からの画像の色情報に応じて、該色情報に対応するフィルタをリフレクタ102からの光束が通過するように、カラーホイール103を回転させる。
【0045】
ロッドインテグレータ105は、カラーホイール103を通過した光束の光量分布を均一にする。
【0046】
照明光学系106は、ロッドインテグレータ105を介した光束の光路を効率よく画像形成パネル107に導く。
【0047】
照明光学系106からの光束は、マイクロレンズアレイ108を介して画像形成パネル107を照明する。この照明光は、画像形成パネル107によって、画像情報に対応して変調される。
【0048】
画像形成パネル107を透過した光束は、投射光学系200に射出される。
【0049】
投射光学系200は、画像形成パネル107上の画像の拡大像をスクリーン1100に表示する。
【0050】
次に、画像形成パネル107について説明する。
【0051】
この画像形成パネル107は、一例として図4〜図6に示される空間光変調器300を有している。
【0052】
この空間光変調器300は、ガラス基板301、樹脂層302、偏光子303、複数のグリッド部材304、複数のY方向ライン状電極305、絶縁層306、ガラス基板307、樹脂層308、検光子309、ガラス基板310、複数のX方向ライン状電極311などを有している。なお、図4は、空間光変調器300の平面図であり、図5は、図4のA−A断面図であり、図6は、図4のB−B断面図である。
【0053】
ここでは、各ガラス基板として、0.5mm〜1mm程度の厚さの石英基板を用いている。また、各樹脂層の樹脂材料には、光硬化型樹脂を用いている。
【0054】
ガラス基板301の+Z側に樹脂層302が設けられ、樹脂層302の+Z側に偏光子303が設けられている。
【0055】
偏光子303の+Z側に絶縁層306が設けられ、絶縁層306の+Z側にガラス基板307が設けられている。絶縁層306は、SiO2からなる層である。なお、絶縁層306の厚さは、1μm程度である。
【0056】
ガラス基板307の+Z側に樹脂層308が設けられ、樹脂層308の+Z側に検光子309が設けられ、検光子309の+Z側にガラス基板310が設けられている。
【0057】
そして、ガラス基板301の−Z側から光が入射するように配置されている(図7参照)。
【0058】
偏光子303は、ガラス基板301及び樹脂層302を介した入射光を、電界ベクトルの振動方向がX軸方向に平行な直線偏光に変換する。
【0059】
複数のX方向ライン状電極311は、ガラス基板307の+Z側の面上に形成されている。また、複数のY方向ライン状電極305は、絶縁層306中に形成されている。従って、X方向ライン状電極311とY方向ライン状電極305は、接することはない。各ライン状電極は、酸化インジウムスズ(ITO)からなり、そのライン幅は、約80nmである。
【0060】
各グリッド部材304は、平面視で、X方向ライン状電極311とY方向ライン状電極305とで囲まれた領域であって、ガラス基板307の−Z側の面上に形成されている。ここでは、X軸方向とY軸方向を配列方向とするマトリックス状に、124×124個のグリッド部材304が形成されている。そして、1つのグリッド部材304が画像における1画素に対応している。すなわち、ここでは、1画像は15376画素から構成されている。
【0061】
各グリッド部材304は、一例として図8(A)に示されるように、Y軸方向に延びる5本のAl(アルミニウム)製の線状部材を有し、X軸方向に等間隔で配置されている。各線状部材の間は、酸化ケイ素(SiOx)が充填されている。
【0062】
図8(A)のA−A断面図が図8(B)に示されている。ここでは、図8(B)における符号L1(幅)は約70nm、符号L2(厚さ)は約150nm、符号L3(配列ピッチ)は約150nmである。配列ピッチL3は、入射する光の波長(ここでは、690nm)の半分よりも小さい。このような金属細線の格子構造は、ワイヤグリッド(wire−grid)構造と呼ばれている。
【0063】
また、一例として図9に示されるように、X方向ライン状電極311及びY方向ライン状電極305を選択することにより、画素を特定することができる。そして、選択された各ライン状電極に電流を流すと、特定された画素に含まれるグリッド部材304に磁場が印加される。なお、図9における符号L5は、約1μmである。
【0064】
このとき、一例として図10(A)及び図10(B)に示されるように、各ライン状電極に流す電流の方向によって、グリッド部材304に印加される磁場の方向を規定することができる。
【0065】
グリッド部材304を透過する直線偏光は、磁場が印加されると、その偏光面が回転(ファラデー回転)する。ここでは、正方向の磁場が印加されたときに+θFのファラデー回転が生じ(図11(A)参照)、負方向の磁場が印加されたときに−θFのファラデー回転が生じる(図11(B)参照)とする。
【0066】
検光子309は、+θFのファラデー回転した光を透過させ、−θFのファラデー回転した光を遮光するように設定されている。
【0067】
従って、グリッド部材304に正方向の磁場を印加させると、図12(A)に示されるように、グリッド部材304に入射した光は検光子309を透過する。一方、グリッド部材304に負方向の磁場を印加させると、図12(B)に示されるように、グリッド部材304に入射した光は検光子309で遮光される。
【0068】
そこで、グリッド部材304に正の磁場が印加されるようにX方向ライン状電極311及びY方向ライン状電極305に電流を供給すると、該グリッド部材304に入射した光は、そのまま空間光変調器300から射出される。一方、グリッド部材304に負の磁場が印加されるようにX方向ライン状電極311及びY方向ライン状電極305に電流を供給すると、該グリッド部材304に入射した光は、空間光変調器300から射出されない。
【0069】
そこで、複数の画素のうち、指定した画素のみで、光を透過させることができる(図13参照)。
【0070】
従って、主制御装置132は、15376個のグリッド部材304に関して、画像情報に応じて、正の磁場を印加するグリッド部材304と負の磁場を印加するグリッド部材304とを決定し、その決定結果に基づいて、各ライン状電極に電流を供給する。
【0071】
これにより、画像情報に応じて変調された光が、画像生成装置100から投射光学系200に向けて射出される。
【0072】
投射光学系200は、複数のレンズ、ミラー、絞りなどを有し、画像生成装置100からの光を、指定された倍率で拡大して、スクリーン1100に投射する。
【0073】
ところで、図14には、グリッド部材304に印加される磁場と偏光面の回転角との関係が示されている。印加される磁場と偏光面の回転角との間には、線形の関係がある。該線形を表す直線の傾きは、−0.34[deg./kOe]である。
【0074】
例えば、上記正方向の磁場を10kOe、上記負方向の磁場を−10kOeとすれば、回転角の違いは約7°となる。
【0075】
また、図15には、グリッド部材304に印加される磁場と楕円率との関係が示されている。印加される磁場と楕円率との間には、線形の関係がある。該線形を表す直線の傾きは、−0.52[deg./kOe]である。例えば、印加される磁場が10kOeであれば、楕円率は−5.2°となる。楕円率は、λ/4板を用いれば、回転角とすることができる。
【0076】
印加される磁場と偏光面の回転角及び楕円率との関係は、前記L1(幅)、前記L2(厚さ)、前記L3(配列ピッチ)によって異なってくる。そこで、用途に応じた設計をすることができる。
【0077】
ここでは、計算機を用いたシミュレーションによって、指定したグリッド部材304に上記正方向の電場及び負方向の電場を印加するのに適した各ライン状電極への供給電流を求めた。なお、図11(A)及び図11(B)では、説明をわかりやすくするため、ガラス基板でのファラデー回転を考慮していないが、石英のようにファラデー回転が比較的大きな材料を基板として用いる場合には、ガラス基板でのファラデー回転を考慮する必要がある。
【0078】
すなわち、ライン状電極に流す電流の大きさを、その周囲に磁界が発生するようにシミュレーションにより求め、XY方向にて、一つのグリッド部材304に対して同期を取れるようにし、水平方向の発生磁界を制御した。
【0079】
ここでは、グリッド部材304が長軸と短軸をもつアルミニウムからなり、変調特性(回転角、楕円率)の磁場依存性を有している。そして、グリッド部材304が、ワイヤグリッド構造体であるため、変調特性(回転角、楕円率)の磁場依存性が強い。すなわち、図14及び図15における傾きが大きい。
【0080】
また、複数の線状部材の配列ピッチが数十〜数百nm程度であり、入射光の波長の半分以下であるため、1画素の大きさを小さくすることができる。そこで、画像生成装置100では、高精細な画像を生成することができる。
【0081】
次に、空間光変調器300の製造方法について説明する。
【0082】
まず、表面研磨を施した石英基板を用意した。これがグリッド部材の支持体としての役割をする。そして、石英基板上に蒸着装置を用いてITO及びグリッド部材を形成した。次に、マスク形成後、反応性エッチング装置を用いてパターンを作製した。なお、Gaイオンビームにより試料表面の原子をはじきとばすことによって試料を削る収束イオンビームでも原理的には作製可能である。その後、珪素酸化物により微小構造体の間を埋めるとともに、再度、加工と成膜を繰り返して各ライン状電極を作製した。その後、光硬化型樹脂を用いて、偏光子及び検光子を固定した。
【0083】
以上の説明から明らかなように、本実施形態に係る空間光変調器300では、1画素に対応する部分によって、本発明の光変調素子が構成されている(図16参照)。そして、グリッド部材304によって複数の線状部材が構成され、X方向ライン状電極311とY方向ライン状電極305によって磁場印加機構が構成されている。また、主制御装置132によって、本発明の画像生成装置における制御装置が構成されている。
【0084】
すなわち、空間光変調器300は、複数の光変調素子が2次元的に配列されている。
【0085】
以上説明したように、本実施形態に係る空間光変調器300によると、ガラス基板301、樹脂層302、偏光子303、複数のグリッド部材304、複数のY方向ライン状電極305、絶縁層306、ガラス基板307、樹脂層308、検光子309、ガラス基板310、複数のX方向ライン状電極311などを有している。
【0086】
また、偏光子303は、入射光を電界ベクトルの振動方向がX軸方向に平行な直線偏光に変換する。
【0087】
各グリッド部材304は、偏光子303を介した光が入射され、Y軸方向に延びる5本のAl(アルミニウム)製の線状部材を有している。該5本の線状部材は、入射光の波長の半分以下のピッチでX軸方向に沿って配置されている。
【0088】
そして、X方向ライン状電極311及びY方向ライン状電極305に電流を供給すると、グリッド部材304に正の磁場あるいは負の磁場が印加される。これにより、グリッド部材304に入射した光は、その偏光方向が、+θFのファラデー回転あるいは−θFのファラデー回転して、グリッド部材304を透過する。
【0089】
そして、検光子309は、+θFのファラデー回転した光を透過させ、−θFのファラデー回転した光を遮光するように設定されている。
【0090】
そこで、グリッド部材304に正の磁場が印加されるようにX方向ライン状電極311及びY方向ライン状電極305に電流を供給することにより、該グリッド部材304に入射した光を、空間光変調器300から射出することができる。一方、グリッド部材304に負の磁場が印加されるようにX方向ライン状電極311及びY方向ライン状電極305に電流を供給することにより、該グリッド部材304に入射した光を、空間光変調器300から射出させないようにすることができる。
【0091】
この場合は、偏光面の回転角を従来よりも大きくすることができ、入射光を確実に変調することができる。また、高速で光変調を行うことができる。さらに、1画素の大きさ、すなわち、光変調素子の大きさを小さくすることができる。
【0092】
そして、空間光変調器300は、複数の光変調素子が2次元配列されているため、偏光面の回転角が大きく、高密度の光変調が可能である。
【0093】
また、グリッド部材304の線状部材が、Al(アルミニウム)製であるため、グリッド部材304での光の吸収を抑制することができる。すなわち、空間光変調器300での光損失を最低限に抑えることができる。
【0094】
また、有機材料を含んでいないため、耐久性に優れている。
【0095】
また、量産性に優れており、高い製造歩留まりを得ることができた。
【0096】
ここでは、ガラス基板に垂直な方向の磁場がワイヤグリッド構造体に印加されると、該印加された磁場に応じて、入射光の変調特性(回転角、楕円率)が変化することを利用している。このとき、線状部材が磁性体でなくても、入射光の変調特性(回転角、楕円率)は、印加磁場に対して線形に変化する。特に、ワイヤグリッド構造体を透過する光ではその変化が大きい。
【0097】
従来の空間光変調器では、偏光面の回転角が小さく、その結果として、変調精度(S/N比)が低かった。しかしながら、空間光変調器300では、従来よりも高い変調精度(S/N比)を得ることができた。
【0098】
そして、本実施形態に係る画像生成装置100によると、空間光変調器300を有しているため、高精細な画像を生成することができる。
【0099】
また、本実施形態に係るプロジェクタ装置1000によると、画像生成装置100を備えているため、結果として、高精細な画像をスクリーンに表示することができる。
【0100】
なお、上記実施形態では、各グリッド部材304が5本の線状部材からなる場合について説明したが、これに限定されるものではない(図17参照)。
【0101】
例えば、線状部材の寸法を変化させないで、1つのグリッド部材に含まれる線状部材の数を少なくすると、画素数を上記実施形態よりも多くすることができる。すなわち、画像生成装置は、さらに高精細な画像を生成することができる。
【0102】
逆に、線状部材の寸法を変化させないで、1つのグリッド部材に含まれる線状部材の数を多くすると、1画素の大きさが大きくなり、1画素あたりの光強度を大きくすることができる。
【0103】
そこで、必要とされる解像度及び1画素あたりの光強度に応じて、1つのグリッド部材に含まれる線状部材の数を設定しても良い。
【0104】
また、上記実施形態において、グリッド部材304の各線状部材が、一例として図18に示されるように、Y軸方向の途中で断線したような不連続形状であっても良い。但し、連続形状のほうが、変調特性(回転角、楕円率)と印加磁場との関係における傾きが大きい。
【0105】
また、上記実施形態では、グリッド部材304の各線状部材が、Al(アルミニウム)製の場合について説明したが、これに限定されるものではなく、Al合金製であっても良い。また、各線状部材の素材が、金、銀、銅、白金及びこれらの合金のいずれかであっても良い。なお、Al(アルミニウム)製が最も好ましい。また、Agは化学的にやや不安定という欠点があるが、その特性に大きな経時変化はない。
【0106】
また、上記実施形態では、検光子309が、+θFのファラデー回転した光を透過させ、−θFのファラデー回転した光を遮光するように設定されている場合について説明したが、これに限定されるものではない。検光子309が、−θFのファラデー回転した光を透過させ、+θFのファラデー回転した光を遮光するように設定されていても良い。但し、この場合は、主制御装置132は、光を透過させたい画素のグリッド部材304に負の磁場を印加し、遮光したい画素のグリッド部材304に正の磁場を印加することとなる。
【0107】
また、上記実施形態において、主制御装置132は、光を透過させたい画素のグリッド部材304に正の磁場を印加し、遮光したい画素のグリッド部材304に磁場を印加しないこととしても良い。
【0108】
また、上記実施形態において、検光子309が、−θFのファラデー回転した光を透過させるように設定されているときに、主制御装置132は、光を透過させたい画素のグリッド部材304に負の磁場を印加し、遮光したい画素のグリッド部材304に磁場を印加しないこととしても良い。
【0109】
また、上記実施形態において、前記画像生成装置100に代えて、一例として図19に示される画像生成装置100’を用いても良い。この画像生成装置100’は、前記画像生成装置100に対して、空間光変調器が異なる点に特徴を有している。従って、以下では、前記画像生成装置100との相違点を中心に説明するとともに、前述した画像生成装置100と同一若しくは同等の構成部分については同一の符号を用い、その説明を簡略化し若しくは省略するものとする。
【0110】
画像生成装置100’は、光源101、リフレクタ102、カラーホイール103、ホイール駆動装置104、ロッドインテグレータ105、照明光学系106’、画像形成パネル107’、全反射プリズム109、通信インターフェース131、主制御装置132などを有している。
【0111】
照明光学系106’は、ロッドインテグレータ105を介した光束の光路を効率よく全反射プリズム109に導く。
【0112】
全反射プリズム109は、2つの三角プリズムからなり、それらの間に微小な空気層を有している。
【0113】
全反射プリズム109に入射した照明光学系106’からの光束は、画像形成パネル107’を照明する。この照明光は、画像形成パネル107’によって、画像情報に対応して変調される。
【0114】
画像形成パネル107’で反射され、全反射プリズム109に入射した光束は、全反射プリズム109を通過して、投射光学系200に射出される。
【0115】
次に、画像形成パネル107’について説明する。この画像形成パネル107’は、一例として図20に示される空間光変調器300’を有している。なお、ここでは、前記空間光変調器300との相違点を中心に説明するとともに、前述した空間光変調器300と同一若しくは同等の構成部分については同一の符号を用い、その説明を簡略化し若しくは省略するものとする。
【0116】
この空間光変調器300’は、ガラス基板301、偏光子303、複数のグリッド部材304、複数のY方向ライン状電極305、絶縁層306、ガラス基板307、検光子309、複数のX方向ライン状電極311(不図示)などを有している。なお、図20は、空間光変調器300’のグリッド部材304を切断する断面図である。
【0117】
ここでは、検光子309は、グリッド部材304で反射された光の光路上に配置されている。また、偏光子303及び検光子309と複数のグリッド部材304との間にマイクロレンズアレイ108が配置されている。
【0118】
グリッド部材304で反射された直線偏光は、磁場が印加されていると、磁気カー効果を受け、その偏光面が回転(カー回転)する。ここでは、正方向の磁場が印加されたときに+θKのカー回転が生じ(図21参照)、負方向の磁場が印加されたときに−θKのカー回転が生じる(図22参照)とする。
【0119】
検光子309は、+θKのカー回転した光を透過させ、−θKのカー回転した光を遮光するように設定されている。
【0120】
従って、グリッド部材304に正方向の磁場を印加させると、グリッド部材304で反射された光は、図21に示されるように、検光子309を透過する。一方、グリッド部材304に負方向の磁場を印加させると、グリッド部材304で反射された光は、図22に示されるように、検光子309で遮光される。
【0121】
そこで、グリッド部材304に正の磁場が印加されるように対応するX方向ライン状電極311及びY方向ライン状電極305に電流を供給すると、該グリッド部材304に入射した光は、反射光として空間光変調器300’から射出される。一方、グリッド部材304に負の磁場が印加されるように対応するX方向ライン状電極311及びY方向ライン状電極305に電流を供給すると、該グリッド部材304に入射した光は、空間光変調器300’から射出されない。
【0122】
そこで、空間光変調器300’では、複数の画素のうち指定した画素のみで、光を反射させることができる。
【0123】
従って、主制御装置132は、15376個のグリッド部材304に関して、画像情報に応じて、正の磁場を印加するグリッド部材304と負の磁場を印加するグリッド部材304とを決定し、その決定結果に基づいて、対応するライン状電極に電流を供給する。
【0124】
これにより、画像情報に応じて変調された光が、画像生成装置100’から投射光学系200に向けて射出される。
【0125】
なお、空間光変調器300’において、主制御装置132は、光を反射させたい画素のグリッド部材304に正の磁場を印加し、遮光したい画素のグリッド部材304に磁場を印加しないこととしても良い。
【0126】
また、空間光変調器300’において、検光子309が、−θKのカー回転した光を透過させ、+θKのカー回転した光を遮光するように設定されていても良い。但し、この場合は、主制御装置132は、空間光変調器300’で光を反射させたい画素のグリッド部材304に負の磁場を印加し、遮光したい画素のグリッド部材304に正の磁場を印加することとなる。
【0127】
また、空間光変調器300’において、検光子309が、−θKのカー回転した光を透過させるように設定されているときに、主制御装置132は、光を反射させたい画素のグリッド部材304に負の磁場を印加し、遮光したい画素のグリッド部材304に磁場を印加しないこととしても良い。
【0128】
ところで、グリッド部材に磁場を印加する方法としては、ハードディスク装置に用いられる磁気ヘッド(TMRやGMR)の利用や、コイル形状と磁芯からなる微小磁気ヘッドをグリッド部材の近傍に作り込む方法や、永久磁石を近接させる方法もある。
【0129】
また、上記実施形態において、グリッド部材304は、その+Z側あるいは−Z側に磁性材料層を有していても良い。
【0130】
この場合に、磁性材料層として、鉄(Fe)/白金(Pt)、コバルト(Co)/白金(Pt)、及びコバルト(Co)/パラジウム(Pd)のいずれかの多層構造を有し、垂直磁気異方性を備えているものを用いることができる。
【0131】
例えば、線状部材の厚さを100nmとし、該線状部材の+Z側にCo/Pt多層膜を設けても良い(図23参照)。このCo/Pt多層膜としては、厚さ1nmのCo層と、厚さ0.5nmのCoと厚さ1nmのPtとからなる層が5つ積層された層と、からなる人工格子構造体を用いることができる。この人工格子構造体は、垂直磁気異方性を有している。
【0132】
磁性材料を用いると、回転角と印加磁場との関係及び楕円率と印加磁場との関係を示す曲線が角型のヒステリシスをもつようになる。この場合は、磁場が印加されなくなっても状態(回転角、楕円率)を保持することができる。
【0133】
なお、厚さ0.5nmのCoと厚さ1nmのPtとからなる層の層数は5層に限定されない。但し、光反射率や飽和磁化の関係から5〜7層程度が好ましい。
【0134】
このように、人工的な垂直磁化膜を利用することで、回転角及び楕円率を更に大きくすることができる。
【0135】
また、磁性材料層として、少なくともコバルトCoを含有し、柱状に成長した結晶粒子の間に非磁性物質が偏析したグラニュラ構造を有するものを用いることができる。
【0136】
例えば、CoCrPt−SiO2(厚さ5nm)からなるグラニュラ構造体を用いても良い。このCoCrPt−SiO2は、垂直磁気異方性を有している。
【0137】
ところで、グラニュラとは「粒状の」という意味で、ナノメータスケールの粒子が他の材料のマトリックス中に分散した構造を持つ材料をいう。
【0138】
ここでは、Coがhcp構造(六方最密格子)の結晶を形成し、Cr(クロム)及びSiO2が偏析して粒界を形成する。CoCrPt−SiO2を用いることにより、SiO2が強磁性体であるCoの周囲に偏析するため、物理的に孤立(分散)された微細なCo粒子を形成しやすいという特徴がある。
【0139】
また、磁性材料層として、ハーフメタルを含む層を用いることができる。なお、ハーフメタルとは、一方の電子スピンが金属的なバンド構造を有し、他方の電子スピンが絶縁体的なバンド構造を有する物質をいう。
【0140】
例えば、PtMnSbを用いることができる。PtMnSbでは白金(Pt)、マンガン(Mn)、アンチモン(Sb)の組成比を調整することで一方向のみのスピンをもつ(理論上スピン偏極率100%)状態を形成することができた。なお、下地層として厚み2nmのTi(チタン)を用いた。また、磁場印加手段としては、マイクロ磁気ヘッドを用いた。
【0141】
ハーフメタル材料としては、外部磁場が印加される場合にすべての電子が所定の方向にスピン分極されるホイスラー合金(Heusler alloy)やハーフメタル強磁性膜(例えば、Co2MnSi膜)が好ましい。しかし、該ホイスラー合金やハーフメタル強磁性膜と同様な他の強磁性膜から形成されても良い。
【0142】
ハーフメタルには、(La,Sr)MnO3、Fe3O4、CrO2などの導電性強磁性酸化物、NiMnSbなどのハーフホイスラー合金、Co2MnSi、Co2MnAl、Co2MnGe、Co2CrGaなどのフルホイスラー合金、及び閃亜鉛鉱型のCrAsなどが知られている。
【0143】
また、磁性材料層として、イットリウム鉄ガーネット(YIG、Y3Fe5O12)及びその一部を他の元素で置換した材料のいずれかを含む層を用いることができる。
【0144】
例えば、イットリウム鉄ガーネットの一部をビスマス(Bi)で置換したビスマス置換イットリウム鉄ガーネット(BiYIG)(例えば、特開2001−194639号公報参照)を用いても良い。BiYIGは、比較的透過率が高いことから、透過光の光強度が大きいという利点がある。
【0145】
BiYIGの形成方法としては、スパッタリング法だけではなく、BiYIGの有機化合物を有機溶剤に溶解した溶液(MOD(Metal Organic Decomposition)塗布材料)を利用する方法もある。これは、例えば、溶液を石英基板に塗布し、乾燥させる作業を5回繰り返し、その後、100℃で30分、500℃で15分、700℃で180分という熱処理工程を加え、BiYIGが焼成されることにより結晶性を向上させるという方法である。
【0146】
なお、イットリウムに代えて、希土類元素である、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luのいずれかを用いても良い。
【0147】
また、Biに代えて、Ce、Pb、Ca、Ptのいずれかを用いても良い。
【0148】
また、Feの一部を、Al、Ga、Cr、Mn、Sc、In、Ru、Rh、Co、Cu、Ni、Zn、Li、Si、Ge、Zr、Tiのいずれかで置換しても良い。
【0149】
上記空間光変調器300及び空間光変調器300’は、光スイッチに用いることができる。図24には、光スイッチ3000の概略構成が示されている。この光スイッチ3000は、空間光変調器3010及び制御装置3020などを有している。
【0150】
空間光変調器3010は、前記空間光変調器300と同様な構造を有し、複数の光ファイバの途中に設けられている。
【0151】
制御装置3020は、各光ファイバに対応するオンオフ信号に応じて、空間光変調器3010のグリッド部材304に印加する磁場を制御する。すなわち、オンのときには、入射光を透過させ、オフのときには、入射光を遮光する。なお、光ファイバが1本であっても良い。このときは、1つの光変調素子を有していれば良い。
【0152】
空間光変調器3010では、数ナノ秒で偏光状態を変化させることができる。そこで、超高速光スイッチングが可能である。液晶フィルムを用いた従来の空間光変調器では、スイッチングに数マイクロ秒を要していた。
【0153】
上記空間光変調器300は、ファラデー効果を利用して透過光をオンオフすることができる空間光変調器の一例であり、これに限定されるものではない。
【0154】
上記空間光変調器300’は、磁気カー効果を利用して反射光をオンオフすることができる空間光変調器の一例であり、これに限定されるものではない。
【0155】
ガラス基板上に線状部材を形成する工程では、磁性体・ポリマー複合材料を用いる方法、ゾルゲル法を用いる方法、MOD(Metal Organic Decomposition)塗布型材料を用いる方法、スパッタリングを用いる方法、バナジウムクロムヘキサシアノ錯体などの分子磁性体を用いる方法、ナノシート積層を用いる方法、常温衝撃固化現象を用いるエアロゾルデポジッション法(ADM)のいずれかを用いることができる。
【0156】
ゾルゲル材料は、アルコキシド等を加水分解、重合させ、コロイド状にしたものを溶液中に分散させた材料であり、低温製膜性に優れている。
【0157】
また、MOD塗布型材料は、金属の有機化合物を有機溶剤に溶解した溶液であり、ガラス基板上にその溶液を塗布し、乾燥後熱処理を施すことで酸化物薄膜を簡単に形成することができる液体材料である。(Ga,Mn)As、GeFeなどの強磁性半導体材料でも良い。
【0158】
また、上記空間光変調器300及び空間光変調器300’は、ホログラフィー装置、ホログラム記録装置に適用することができる。
【0159】
また、上記空間光変調器300及び空間光変調器300’は、磁気センサに用いることも可能である。
【0160】
また、上記光変調素子は、レーザ加工機にも用いることができる。この場合は、レーザ光を高速走査させながら、必要な部分のみにレーザ光を照射することができる。
【0161】
また、レーザ加工機において、上記光変調素子を複数個2次元的に配置した場合には、複数箇所の加工を同時に行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0162】
以上説明したように、本発明の光変調素子によれば、偏光面の回転角が大きく、小型化を図るのに適している。また、本発明の空間光変調器によれば、偏光面の回転角が大きく、高密度の光変調を行うのに適している。また、本発明の画像生成装置によれば、高精細な画像を生成するのに適している。また、本発明の画像表示装置によれば、高精細な画像を表示するのに適している。また、本発明の光スイッチによれば、小型で応答特性に優れたスイッチングを行うのに適している。
【符号の説明】
【0163】
10…プロジェクタシステム、100…画像生成装置、101…光源、107…画像形成パネル、108…マイクロレンズアレイ、132…主制御装置(制御装置)、200…投射光学系、300…空間光変調器、300’…空間光変調器、301…ガラス基板、302…樹脂層、303…偏光子、304…グリッド部材(複数の線状部材)、305…Y方向ライン状電極(磁場印加機構の一部)、306…絶縁層、307…ガラス基板、308…樹脂層、309…検光子、310…ガラス基板、311…X方向ライン状電極(磁場印加機構の一部)、1000…プロジェクタ装置、3000…光スイッチ、3010…空間光変調器、3020…制御装置。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0164】
【特許文献1】特開2007−310177号公報
【特許文献2】特開2007−192926号公報
【特許文献3】特開2007−171450号公報
【特許文献4】特開2006−154727号公報
【特許文献5】特開2006−119337号公報
【特許文献6】特開2004−354441号公報
【特許文献7】特開2008−145748号公報
【特許文献8】特開2008−83686号公報
【特許文献9】特開2006−164480号公報
【特許文献10】特表2003−502708号公報
【特許文献11】特開2006−259074号公報
【特許文献12】特開2006−84871号公報
【特許文献13】特開2008−268862号公報
【特許文献14】特開2007−213004号公報
【特許文献15】特開2004−309700号公報
【非特許文献】
【0165】
【非特許文献1】J−k.Cho他、「Design,fabrication,switching,and optical characteristics of new magneto−optic spatial light modulator」J. Appl. Phys.,Vol.76,p1910−1919(1994)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射光を変調する光変調素子であって、
偏光方向が第1の方向の直線偏光が入射され、金、銀、銅、白金及びアルミニウムのいずれかを含み、前記第1の方向に直交する第2の方向を長手方向とし、前記第1の方向に沿って前記入射光の波長の半分以下の間隔で配列された複数の線状部材と;
前記複数の線状部材に磁場を印加する磁場印加機構と;
前記複数の線状部材を介した光の光路上に配置され、前記磁場が印加されたときの光を選択的に透過あるいは遮光する検光子と;を備える光変調素子。
【請求項2】
磁場印加機構は、前記複数の線状部材に互いに異なる第1の磁場及び第2の磁場を印加し、
前記検光子は、前記第1の磁場が印加されたときの光を透過させ、前記第2の磁場が印加されたときの光を遮光することを特徴とする請求項1に記載の光変調素子。
【請求項3】
前記入射光を偏光方向が前記第1の方向の直線偏光に変換する偏光子を備え、
前記複数の線状部材には、前記偏光子からの直線偏光が入射されることを特徴とする請求項1又は2に記載の光変調素子。
【請求項4】
前記検光子に入射する光は、前記複数の線状部材を透過した光であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の光変調素子。
【請求項5】
前記検光子に入射する光は、前記複数の線状部材で反射された光であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の光変調素子。
【請求項6】
前記磁場印加機構は、前記複数の線状部材を取り囲む複数のライン状電極を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の光変調素子。
【請求項7】
前記複数の線状部材は、ワイヤグリッド構造の部材であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の光変調素子。
【請求項8】
前記複数の線状部材における各線状部材は、長手方向において不連続な線状部材であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の光変調素子。
【請求項9】
前記複数の線状部材は、それぞれ磁性材料層を更に有し、
該磁性材料層は、前記第1の方向及び前記第2の方向のいずれにも直交する第3の方向に関して、各線状部材の一側に設けられていることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の光変調素子。
【請求項10】
前記磁性材料層は、鉄/白金、コバルト/白金、及びコバルト/パラジウムのいずれかの多層構造を有し、垂直磁気異方性を備えていることを特徴とする請求項9に記載の光変調素子。
【請求項11】
前記磁性材料層は、少なくともコバルトを含有し、柱状に成長した結晶粒子の間に非磁性物質が偏析したグラニュラ構造を有することを特徴とする請求項9に記載の光変調素子。
【請求項12】
前記磁性材料層は、一方の電子スピンが金属的なバンド構造を有し、他方の電子スピンが絶縁体的なバンド構造を有するハーフメタルを含む層であることを特徴とする請求項9に記載の光変調素子。
【請求項13】
前記磁性材料層は、イットリウム鉄ガーネット及びその一部を他の元素で置換した材料の一方を含む層であることを特徴とする請求項9に記載の光変調素子。
【請求項14】
複数の請求項1〜13のいずれか一項に記載の光変調素子が2次元的に配列された空間光変調器。
【請求項15】
画像情報に応じた画像を生成する画像生成装置であって、
光源と;
前記光源から射出される光束の光路上に配置された請求項14に記載の空間光変調器と;
前記画像情報に応じて、前記空間光変調器の複数の磁場印加機構を個別に制御する制御装置と;を備える画像生成装置。
【請求項16】
画像情報に応じた画像を生成する請求項15に記載の画像生成装置と;
該画像生成装置からの光束を被投射面に投射する投射光学系と;を備える画像表示装置。
【請求項17】
光の伝送をオンオフする光スイッチであって、
請求項1〜13のいずれか一項に記載の光変調素子と;
前記オンオフの情報に応じて前記光変調素子の磁場印加機構を制御する制御装置と;を備えることを特徴とする光スイッチ。
【請求項1】
入射光を変調する光変調素子であって、
偏光方向が第1の方向の直線偏光が入射され、金、銀、銅、白金及びアルミニウムのいずれかを含み、前記第1の方向に直交する第2の方向を長手方向とし、前記第1の方向に沿って前記入射光の波長の半分以下の間隔で配列された複数の線状部材と;
前記複数の線状部材に磁場を印加する磁場印加機構と;
前記複数の線状部材を介した光の光路上に配置され、前記磁場が印加されたときの光を選択的に透過あるいは遮光する検光子と;を備える光変調素子。
【請求項2】
磁場印加機構は、前記複数の線状部材に互いに異なる第1の磁場及び第2の磁場を印加し、
前記検光子は、前記第1の磁場が印加されたときの光を透過させ、前記第2の磁場が印加されたときの光を遮光することを特徴とする請求項1に記載の光変調素子。
【請求項3】
前記入射光を偏光方向が前記第1の方向の直線偏光に変換する偏光子を備え、
前記複数の線状部材には、前記偏光子からの直線偏光が入射されることを特徴とする請求項1又は2に記載の光変調素子。
【請求項4】
前記検光子に入射する光は、前記複数の線状部材を透過した光であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の光変調素子。
【請求項5】
前記検光子に入射する光は、前記複数の線状部材で反射された光であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の光変調素子。
【請求項6】
前記磁場印加機構は、前記複数の線状部材を取り囲む複数のライン状電極を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の光変調素子。
【請求項7】
前記複数の線状部材は、ワイヤグリッド構造の部材であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の光変調素子。
【請求項8】
前記複数の線状部材における各線状部材は、長手方向において不連続な線状部材であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の光変調素子。
【請求項9】
前記複数の線状部材は、それぞれ磁性材料層を更に有し、
該磁性材料層は、前記第1の方向及び前記第2の方向のいずれにも直交する第3の方向に関して、各線状部材の一側に設けられていることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の光変調素子。
【請求項10】
前記磁性材料層は、鉄/白金、コバルト/白金、及びコバルト/パラジウムのいずれかの多層構造を有し、垂直磁気異方性を備えていることを特徴とする請求項9に記載の光変調素子。
【請求項11】
前記磁性材料層は、少なくともコバルトを含有し、柱状に成長した結晶粒子の間に非磁性物質が偏析したグラニュラ構造を有することを特徴とする請求項9に記載の光変調素子。
【請求項12】
前記磁性材料層は、一方の電子スピンが金属的なバンド構造を有し、他方の電子スピンが絶縁体的なバンド構造を有するハーフメタルを含む層であることを特徴とする請求項9に記載の光変調素子。
【請求項13】
前記磁性材料層は、イットリウム鉄ガーネット及びその一部を他の元素で置換した材料の一方を含む層であることを特徴とする請求項9に記載の光変調素子。
【請求項14】
複数の請求項1〜13のいずれか一項に記載の光変調素子が2次元的に配列された空間光変調器。
【請求項15】
画像情報に応じた画像を生成する画像生成装置であって、
光源と;
前記光源から射出される光束の光路上に配置された請求項14に記載の空間光変調器と;
前記画像情報に応じて、前記空間光変調器の複数の磁場印加機構を個別に制御する制御装置と;を備える画像生成装置。
【請求項16】
画像情報に応じた画像を生成する請求項15に記載の画像生成装置と;
該画像生成装置からの光束を被投射面に投射する投射光学系と;を備える画像表示装置。
【請求項17】
光の伝送をオンオフする光スイッチであって、
請求項1〜13のいずれか一項に記載の光変調素子と;
前記オンオフの情報に応じて前記光変調素子の磁場印加機構を制御する制御装置と;を備えることを特徴とする光スイッチ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【公開番号】特開2011−237598(P2011−237598A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−108926(P2010−108926)
【出願日】平成22年5月11日(2010.5.11)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月11日(2010.5.11)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】
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