説明

光学ガラス、プリフォーム及び光学素子

【課題】Biを含有する光学ガラスにおいて、極めて高い部分分散比(θg,F)を有しながらも、可視光に対する透明性が高く、且つ素子や光学系の小型化を図ることが可能な光学ガラスと、これを用いたプリフォームを提供する。
【解決手段】光学ガラスは、SiO成分及び/又はB成分を含有し、酸化物基準の質量%でBi成分を40.0%以上90.0%以下含有し、部分分散比(θg,F)が0.63以上、屈折率(nd)が1.90以上、アッベ数(νd)が27以下であり、且つ厚み10mmのサンプルで分光透過率5%を示す波長(λ)が460nm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学ガラス、プリフォーム及び光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルカメラやビデオカメラ等の光学系は、その大小はあるが、収差と呼ばれるにじみを含んでいる。この収差は単色収差と色収差に分類されるが、特に色収差は、光学系に使用されるレンズの材料特性に強く依存している。
【0003】
一般に色収差は、低分散の凸レンズと高分散の凹レンズとを組み合わせて補正されるが、この組み合わせでは赤色領域と緑色領域の収差の補正しかできず、青色領域の収差が残る。この除去しきれない青色領域の収差を二次スペクトルと呼ぶ。二次スペクトルを補正するには、青色領域のg線(435.835nm)の動向を加味した光学設計を行う必要がある。このとき、光学設計で着目される光学特性の指標として、部分分散比(θg,F)が用いられている。特に、特異な部分分散比(θg,F)を有する光学ガラスは、収差の補正に顕著な効果を奏し、光学設計の自由度を広げる為、種々のガラスが開発されている。これらの異常分散ガラスからなるレンズを他のレンズと組み合わせて用いた場合、紫外から赤外への幅広い波長範囲において色収差を補正することが可能となる。
【0004】
部分分散比(θg,F)は、下式(1)により示される。
θg,F=(n−n)/(n−n)・・・・・・(1)
【0005】
光学ガラスには、短波長域の部分分散性を表す部分分散比(θg,F)とアッベ数(ν)との間に、およそ直線的な関係がある。この関係を表す直線は、部分分散比(θg,F)を縦軸に、アッベ数(ν)を横軸に採用した直交座標上で、NSL7とPBM2の部分分散比及びアッベ数をプロットした2点を結ぶ直線で表され、ノーマルラインと呼ばれている(図1参照)。ノーマルラインの基準となるノーマルガラスは光学ガラスメーカー毎によっても異なるが、各社ともほぼ同等の傾きと切片で定義している。(NSL7とPBM2は株式会社オハラ社製の光学ガラスであり、PBM2のアッベ数(ν)は36.3,部分分散比(θg,F)は0.5828、NSL7のアッベ数(ν)は60.5、部分分散比(θg,F)は0.5436である。)
【0006】
ここで、Bi成分を主成分として含有し、ガラスの部分分散比(θg,F)について着目した光学ガラスとして、例えば特許文献1及び2に示される光学ガラスが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−203135号公報
【特許文献2】特開2009−234805号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1及び2に示される光学ガラスは、屈折率の大きさが十分ではなかった。そのため、光学系に用いられる光学素子の点数の削減や光学素子の薄型化を図り、光学系への高精度化、軽量化、小型化の要求に応えるには、屈折率をより一層高める必要がある。
【0009】
また、Bi成分を主成分として含有するガラスは、黄色や橙色に着色することが多く、可視領域の波長の光に対する透過率が失われることが多い。そのため、高い部分分散比(θg,F)と、高い屈折率と、可視領域の波長の光に対する高い透明性と、を兼ね備えた光学ガラスが求められている。
【0010】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、Biを含有する光学ガラスにおいて、極めて高い部分分散比(θg,F)を有しながらも、可視光に対する透明性が高く、且つ素子や光学系の小型化を図ることが可能な光学ガラスと、これを用いたプリフォームを得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意試験研究を重ねた結果、少なくともBiの含有量を所定の範囲内にすることによって、ガラスの部分分散比(θg,F)が高められながらも、可視領域の短波長側の光についてのガラスの透過率が高められ、ガラスの屈折率(nd)が高められることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0012】
(1) SiO成分及び/又はB成分を含有し、酸化物基準の質量%でBi成分を40.0%以上90.0%以下含有し、部分分散比(θg,F)が0.63以上、屈折率(nd)が1.90以上、アッベ数(νd)が27以下であり、且つ厚み10mmのサンプルで分光透過率5%を示す波長(λ)が460nm以下である光学ガラス。
【0013】
(2) 酸化物基準の質量%で、Bi成分を67.0%以上含有する(1)記載の光学ガラス。
【0014】
(3) 酸化物基準の質量%で、Bi成分を85.0%未満含有する(1)又は(2)記載の光学ガラス。
【0015】
(4) 酸化物基準の質量%で、
SiO成分 0〜20.0%、及び/又は
成分 0〜30.0%
の各成分を含有する(1)から(3)のいずれか記載の光学ガラス。
【0016】
(5) 酸化物基準の質量%で、SiO成分及びB成分の質量和が0%より多く20.0%以下である(4)記載の光学ガラス。
【0017】
(6) 酸化物基準の質量%で、
TiO成分 0〜10.0%、及び/又は
Nb成分 0〜10.0%
の各成分をさらに含有する(1)から(5)のいずれか記載の光学ガラス。
【0018】
(7) 酸化物基準の質量%で、TiO成分及びNb成分の質量和が0%より多く15.0%以下である(6)記載の光学ガラス。
【0019】
(8) 酸化物基準の質量%で、
MgO成分 0〜20.0%、及び/又は
CaO成分 0〜20.0%、及び/又は
SrO成分 0〜20.0%、及び/又は
BaO成分 0〜20.0%、及び/又は
ZnO成分 0〜20.0%
の各成分をさらに含有する(1)から(7)のいずれか記載の光学ガラス。
【0020】
(9) 酸化物基準の質量%で、RO成分(式中、Rは、Mg、Ca、Sr、Ba及びZnからなる群より選択される1種以上である)の質量和が30.0%以下である(8)記載の光学ガラス。
【0021】
(10) 酸化物基準で、RO成分(式中、Rは、Mg、Ca、Sr、Ba及びZnからなる群より選択される1種以上である)の質量和に対する、質量和(SrO+ZnO)の質量比が0.40以上である(8)又は(9)記載の光学ガラス。
【0022】
(11) 酸化物基準の質量%で、
LiO成分 0〜10.0%、及び/又は
NaO成分 0〜10.0%、及び/又は
O成分 0〜10.0%、及び/又は
RbO成分 0〜5.0%、及び/又は
CsO成分 0〜5.0%
の各成分をさらに含有する(1)から(10)のいずれか記載の光学ガラス。
【0023】
(12) 酸化物基準の質量%で、RnO成分(式中、Rnは、Li、Na、K、Rb及びCsからなる群より選択される1種以上である)の質量和が5.0%以下である(11)記載の光学ガラス。
【0024】
(13) 酸化物基準の質量%で、
La成分 0〜10.0%、及び/又は
Gd成分 0〜10.0%、及び/又は
成分 0〜10.0%、及び/又は
Yb成分 0〜10.0%
の各成分をさらに含有する(1)から(12)のいずれか記載の光学ガラス。
【0025】
(14) 酸化物基準の質量%で、Ln成分(式中、Lnは、La、Gd、Y及びYbからなる群より選択される1種以上である)の質量和が20.0%以下である(13)記載の光学ガラス。
【0026】
(15) 酸化物基準の質量%で、
GeO成分 0〜20.0%、及び/又は
成分 0〜10.0%、及び/又は
Al成分 0〜10.0%、及び/又は
ZrO成分 0〜10.0%、及び/又は
Ta成分 0〜10.0%、及び/又は
WO成分 0〜10.0%、及び/又は
TeO成分 0〜20.0%、及び/又は
Tl成分 0〜10.0%、及び/又は
CeO成分 0〜10.0%、及び/又は
Sb成分 0〜3.0%
の各成分をさらに含有する(1)から(14)のいずれか記載の光学ガラス。
【0027】
(16) (1)から(15)いずれかに記載の光学ガラスからなる研磨加工用及び/又は精密プレス成形用のプリフォーム。
【0028】
(17) (16)記載の研磨加工用のプリフォームを研磨してなる光学素子。
【0029】
(18) (16)記載の精密プレス成形用のプリフォームを精密プレス成形してなる光学素子。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、少なくともBiの含有量を所定の範囲内にすることによって、ガラスの部分分散比(θg,F)が高められながらも、可視領域の短波長側の光についてのガラスの透過率が高められ、ガラスの屈折率(nd)が高められる。従って、極めて大きい部分分散比(θg,F)を有しながらも、可視光に対する透明性が高く、且つ素子や光学系の小型化を図ることが可能な光学ガラスと、これを用いたプリフォームを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】縦軸が部分分散比(θg,F)であり、横軸がアッベ数(νd)である直交座標におけるノーマルラインを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の光学ガラスは、SiO成分及び/又はB成分を含有し、酸化物基準の質量%でBi成分を40.0%以上90.0%以下含有し、部分分散比(θg,F)が0.63以上、アッベ数(νd)が27以下であり、且つ厚み10mmのサンプルで分光透過率5%を示す波長(λ)が460nm以下である。少なくともBiの含有量を所定の範囲内にすることによって、ガラスの部分分散比(θg,F)が高められながらも、可視領域の短波長側の光についてのガラスの透過率が高められ、且つガラスの屈折率(nd)が高められる。このため、極めて大きい部分分散比(θg,F)を有しながらも、可視光に対する透明性が高く、且つ素子や光学系の小型化を図ることが可能な光学ガラスと、これを用いたプリフォームを得ることができる。
【0033】
以下、本発明の光学ガラスの実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の趣旨を限定するものではない。
【0034】
[ガラス成分]
本発明の光学ガラスを構成する各成分の組成範囲を以下に述べる。各成分の含有率は、特に断りがない場合、酸化物基準の質量%にて表現する。ここで「酸化物基準」とは、本発明のガラス構成成分の原料として使用される酸化物、複合塩、金属フッ化物等が熔融時にすべて分解されて酸化物へ変化すると仮定した場合に、生成した当該酸化物の質量の総和を100質量%として、ガラス中に含有される各成分を表記した組成である。また、酸化物の一部又は全部をフッ化物置換したFの合計量とは、本発明のガラス組成物中に存在しうるフッ素の含有率を、酸化物基準の組成100%を基準にして、F原子として計算した場合の質量%で表したものである。
【0035】
<必須成分、任意成分について>
Bi成分は、ガラスの部分分散比(θg,F)を大きくし、ガラスの屈折率(nd)を高め、且つガラスの低分散化に効果がある成分である。また、低Tg化、耐水性の向上等にも効果がある成分であり、本発明のガラスに欠かすことができない成分である。ここで、Bi成分の含有量を40.0%以上にすることで、上記技術的効果を得易くすることができる。特に、Bi成分の含有量を67.0%以上にすることで、所望の高い屈折率(nd)を有する光学ガラスを得易くすることができる。一方で、Bi成分の含有量を90.0%以下、より好ましくは85.0%未満にすることで、ガラスの安定性が高められるため、ガラスの着色を低減できる。従って、Bi成分の含有量は、酸化物基準の質量%で、好ましくは40.0%、より好ましくは50.0%、最も好ましくは67.0%を下限とする。また、Bi成分の含有量は、好ましくは90.0%、より好ましくは88.0%を上限とし、最も好ましくは85.0%未満とする。Bi成分は、原料として例えばBi等を用いてガラス内に含有することができる。
【0036】
SiO成分は、ガラスの安定性を向上して失透を低減する成分であり、且つガラスの低分散化を図る効果、及び透過率を向上させる効果のある成分であり、本発明の光学ガラスの任意成分である。しかしながら、SiO成分の含有量が多すぎると、ガラスの屈折率(nd)や部分分散比(θg,F)が低下し易く、ガラスの溶融性も悪化し易い。従って、SiO成分の含有量は、酸化物基準の質量%で、好ましくは20.0%、より好ましくは15.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。SiO成分は、原料として例えばSiO、KSiF、NaSiF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0037】
成分は、ガラスの安定性を向上して失透を低減し、且つガラスの部分分散比(θg,F)を高く維持する効果のある成分である。しかしながら、B成分の含有量が多すぎると、ガラスの安定性が低下し易くなって失透が発生し易くなり、且つガラスが低屈折率化及び低分散化し易くなる。従って、B成分の含有量は、酸化物基準の質量%で、好ましくは30.0%、より好ましくは23.0%、最も好ましくは15.0%を上限とする。B成分は、原料として例えばHBO、Na、Na・10HO、BPO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0038】
SiO成分及びB成分は必ずしも含まれていなくてもよいが、これらはガラス形成成分であり失透を低減できる成分であるため、両者のうち少なくとも一方が0%超含有されていることが好ましい。しかしながら、これらの含有量が多すぎると、所望の部分分散比(θg,F)やアッベ数(νd)が得難くなる。従って、SiO成分及びB成分の質量和は、酸化物基準の質量%で、好ましくは0%より多く、より好ましくは0.5%、最も好ましくは1.0%を下限とする。一方、SiO成分及びB成分の質量和は、好ましくは50.0%、より好ましくは45.0%、最も好ましくは35.0%を上限とする。
【0039】
TiO成分は、ガラスの屈折率(nd)、分散及び部分分散比(θg,F)を高める成分である。しかしながら、その含有量が多すぎると、ガラスの安定性が低下して透過率が低下し易くなる。従って、TiO成分の含有量は、酸化物基準の質量%で、好ましくは10.0%、より好ましくは5.0%、最も好ましくは3.0%を上限とする。TiO成分は、原料として例えばTiO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0040】
Nb成分は、ガラスの屈折率(nd)及び部分分散比(θg,F)を向上するために有用な成分である。しかしながら、Nb成分の含有量が多すぎると、ガラスの安定性が低下して透過率が低下し易くなる。従って、Nb成分の含有量は、酸化物基準の質量%で、好ましくは10.0%、より好ましくは5.0%、最も好ましくは3.0%を上限とする。Nb成分は、原料として例えばNb等を用いてガラス内に含有することができる。
【0041】
TiO成分及びNb成分は必ずしも含まれていなくてもよいが、所定量のBi成分と、TiO成分及び/又はNb成分と、を併用することで、高い透過率を維持したまま、ガラスの部分分散比(θg,F)をより一層高めることができる。従って、TiO成分及びNb成分の合計含有量は、酸化物基準の質量%で、好ましくは0%を超え、より好ましくは0.5%、最も好ましくは0.9%を下限とする。一方、TiO成分及びNb成分の合計含有量が多すぎると、ガラスの安定性が低下して可視領域の波長の光に対する透過率が低下し易くなる。従って、TiO成分及びNb成分の合計含有量は、酸化物基準の質量%で、好ましくは15.0%、より好ましくは10.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。
【0042】
MgO成分は、ガラスの低分散化と耐失透性の向上に有用な成分であり、本発明の光学ガラスの任意成分である。しかしながら、MgO成分の含有量が多すぎると、ガラスの安定性が低下し易くなるため、可視光の透過率が低下し易くなり、且つプレス成形時の再加熱処理によって失透し易くなる。従って、MgO成分の含有量は、酸化物基準の質量%で、好ましくは20.0%、より好ましくは15.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。MgO成分は、原料として例えばMgO、MgCO、MgF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0043】
CaO成分は、ガラスの低分散化と耐失透性、化学的耐久性の向上に有用な成分であり、本発明の光学ガラスの任意成分である。しかしながら、CaO成分の含有量が多すぎると、ガラスの耐失透性が低下し易くなる。従って、CaO成分の含有量、酸化物基準の質量%で、好ましくは20.0%、より好ましくは15.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。CaO成分は、原料として例えばCaCO、CaF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0044】
SrO成分は、ガラスの耐失透性の向上に有用な成分であり、本発明の光学ガラスの任意成分である。しかしながら、SrO成分の含有量が多すぎると、耐失透性が低下し易くなる。また、所望の部分分散比(θg,F)やアッベ数(νd)を得ることが困難になる。従って、SrO成分の含有量は、酸化物基準の質量%で、好ましくは20.0%、より好ましくは15.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。SrO成分は、原料として例えばSr(NO、SrF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0045】
BaO成分は、ガラスの耐失透性の向上に有用な成分であり、本発明の光学ガラスの任意成分である。しかしながら、BaO成分の含有量が多すぎると、所望の部分分散比(θg,F)やアッベ数(νd)を得ることが困難になる。従って、BaO成分の含有量は、酸化物基準の質量%で、好ましくは20.0%、より好ましくは15.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。BaO成分は、原料として例えばBaCO、Ba(NO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0046】
ZnO成分は、ガラスの部分分散比(θg,F)を高く保ちながらも、ガラスの安定性を高めて着色を低減し、且つ耐失透性を向上するために有用な成分であり、本発明の光学ガラスの任意成分である。しかしながら、ZnO成分の含有量が多すぎると、アッベ数(νd)が上昇し易くなる。従って、ZnO成分の含有量は、好ましくは20.0%、より好ましくは15.0%、最も好ましくは10.0%が上限である。なお、ZnO成分を含有しなくとも、本発明における所望の特性を有する光学ガラスを作製できるが、ZnO成分を含有することで、ガラスの部分分散比(θg,F)とアッベ数(νd)の調整を容易にできる。従って、ZnO成分の含有量は、酸化物基準の質量%で、好ましくは0%を超え、より好ましくは0.5%、最も好ましくは1.0%を下限とする。ZnO成分は、原料として例えばZnO、ZnF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0047】
本発明の光学ガラスでは、RO成分(RはMg、Ca、Sr、Ba、Znから選ばれる1種又は2種以上)は、ガラスの耐失透性や分散、機械的強度等のあらゆる物性を調整するために有用な成分である。しかし、RO成分の合計含有量が大きすぎると、所望の部分分散比(θg,F)やアッベ数(νd)を得ることが困難になる。従って、RO成分の合計含有量は、好ましくは35.0%、より好ましくは30.0%、最も好ましくは25.0%を上限とする。なお、RO成分を含有しなくとも、本発明における所望の特性を有する光学ガラスを作製できるが、RO成分の少なくとのいずれかを含有することで、ガラスの耐失透性を高めながらも、ガラスの部分分散比(θg,F)とアッベ数(νd)の調整を容易にできる。従って、RO成分の合計含有量は、酸化物基準の質量%で、好ましくは0%を超え、より好ましくは1.0%、最も好ましくは2.0%を下限とする。
【0048】
また、本発明の光学ガラスでは、RO成分(式中、Rは、Mg、Ca、Sr、Ba及びZnからなる群より選択される1種以上である)の質量和に対する、質量和(SrO+ZnO)の質量比が0.40以上であることが好ましい。これにより、ガラスの安定性を高めるRO成分のうち、ガラスの透過率に影響を及ぼし難いSrO成分及びZnO成分の割合が高められるため、ガラスの耐失透性を有しながらも可視領域の波長の光に対する統計製の高いガラスを得ることができる。この傾向は、当該質量比が0.70以上のときに特に顕著になる。従って、酸化物基準での質量比(SrO+ZnO)/ROは、好ましくは0.40、より好ましくは0.60、最も好ましくは0.70を下限とする。
【0049】
LiO成分は、ガラスの安定性を向上させて失透や着色を低減させる成分であり、且つガラスの低Tg化に効果のある成分であり、本発明の光学ガラスの任意成分である。しかしながら、LiO成分の含有量が多すぎると、かえってガラスの安定性が低下し易くなり、部分分散比(θg,F)が低くなり且つ機械的強度が低下し易くなる。従って、LiO成分の含有量は、酸化物基準の質量%で、好ましくは10.0%、より好ましくは8.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。LiO成分は、原料として例えばLiCO、LiNO、LiF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0050】
NaO成分は、ガラスの部分分散比(θg,F)とアッベ数(νd)を調整できる成分であり、本発明の光学ガラスの任意成分である。しかしながら、NaO成分の含有量が多すぎると、ガラスの安定性が低下し易くなり、ガラスの化学的耐久性及び機械的強度も低下し易くなる。従って、NaO成分の含有量は、酸化物基準の質量%で、好ましくは10.0%、より好ましくは8.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。NaO成分は、原料として例えばNaCO、NaNO、NaF、NaSiF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0051】
O成分は、ガラスの部分分散比(θg,F)とアッベ数(νd)を調整できる成分であり、本発明の光学ガラスの任意成分である。しかしながら、KO成分の含有量が多すぎると、ガラスの安定性が低下し易くなり、ガラスの化学的耐久性及び機械的強度も低下し易くなる。従って、KO成分の含有量は、酸化物基準の質量%で、好ましくは10.0%、より好ましくは8.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。KO成分は、原料として例えばKCO、KNO、KF、KHF、KSiF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0052】
RbO成分及びCsO成分も、ガラスの部分分散比(θg,F)とアッベ数(νd)を調整できる成分であり、本発明の光学ガラスの任意成分である。しかしながら、これらを過剰に含有すると、他のアルカリ金属成分と同様に化学的耐久性及び機械的強度が低下し易くなる。加えて、RbO成分は産出量が少なく、光学ガラスの原料には不向きである。従って、RbO成分及びCsO成分の各々の含有量は、酸化物基準の質量%で、好ましくは5.0%、より好ましくは4.0%、最も好ましくは3.0%を上限とする。
【0053】
本発明の光学ガラスでは、RnO成分(RnはLi、Na、K、Rb及びCsから選ばれる1種又は2種以上)の含有量の質量和が、5.0%以下であることが好ましい。この質量和を5.0%以下にすることで、ガラスのアッベ数(νd)を所望の範囲に調整しつつ、ガラスの安定性をより高めて透過率の低下を抑えることができる。特に、RnO成分の質量和を1.6%以下にすることで、部分分散比(θg,F)の低下が抑制されるため、所望の高い部分分散比(θg,F)をより得易くすることができる。従って、RnO成分(RnはLi、Na、K、Rb、Csから選ばれる1種以上)の含有量は、好ましくは5.0%、より好ましくは3.0%、最も好ましくは1.6%を上限とする。
【0054】
La成分、Gd成分、Y成分及びYb成分は、ガラスの分散を低く調整する任意成分である。しかしながら、これらの含有量が多すぎると、ガラスの安定性が低下して可視領域の光に対する透過率が低下し易くなる。従って、La成分、Gd成分、Y成分及びYb成分の各々の含有量は、酸化物基準の質量%で、好ましくは10.0%、より好ましくは8.0%、最も好ましくは6.0%を上限とする。また、Ln成分(式中、Lnは、La、Gd、Y及びYbからなる群より選択される1種以上である)の質量和は、酸化物基準の質量%で、好ましくは20.0%、より好ましくは10.0%、さらに好ましくは6.0%を上限とする。特に、Ln成分の質量和は、1.0%未満とすることが、ガラスの着色をより一層低減できるため、最も好ましい。ガラスのLa成分、Gd成分、Y成分及びYb成分は、原料として例えばLa、La(NO・XHO(Xは任意の整数)、Gd、GdF、Y、YF、Yb等を用いることができる。
【0055】
GeO成分は、ガラスの耐失透性を向上するために有用な任意成分である。しかしながら、GeO成分の含有量が多すぎると、ガラスの溶融性が低下し易くなる。従って、GeO成分の含有量は、酸化物基準の質量%で、好ましくは20.0%、より好ましくは15.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。GeO成分は、原料として例えばGeO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0056】
成分は、ガラスの透過率を向上するために有用な任意成分である。しかしながら、P成分の含有量が多すぎると、ガラスの溶融性が低下し易くなる。従って、P成分の含有量の上限は、酸化物基準の質量%で、好ましくは10.0%、より好ましくは5.0%、最も好ましくは3.0%を上限とする。P成分は、原料として例えばAl(PO、Ca(PO、Ba(PO、Na(PO)、BPO、HPO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0057】
Al成分は、ガラスの化学的耐久性や機械的強度を向上するために有用な任意成分である。しかしながら、Al成分の含有量が多すぎると、ガラスの溶融性が低下し易くなる。従って、Al成分の含有量は、酸化物基準の質量%で、好ましくは10.0%、より好ましくは5.0%、最も好ましくは3.0%を上限とする。Al成分は、原料として例えばAl、Al(OH)、AlF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0058】
ZrO成分は、ガラスの化学的耐久性や機械的強度を向上するために有用な任意成分である。しかしながら、ZrO成分の含有量が多すぎると、ガラスの安定性が低下して透過率が低下し易くなる。従って、ZrO成分の含有量は、酸化物基準の質量%で、好ましくは10.0%、より好ましくは5.0%、最も好ましくは3.0%を上限とする。ZrO成分は、原料として例えばZrO、ZrF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0059】
Ta成分は、ガラスの安定性を向上するために有用な任意成分である。しかしながら、Ta成分の含有量が多すぎると、かえってガラスの安定性が低下して透過率が低下し易くなり、且つガラスの原料コストが大幅に上昇する。従って、Ta成分の含有量は、酸化物基準の質量%で、好ましくは10.0%、より好ましくは5.0%、最も好ましくは3.0%を上限とする。Ta成分は、原料として例えばTa等を用いてガラス内に含有することができる。
【0060】
WO成分は、ガラスの部分分散比(θg,F)を向上させ、且つ低Tg化を図るために有用な任意成分である。しかしながら、その含有量が多すぎると、ガラスの安定性が低下して透過率が低下し易くなる。従って、WO成分の含有量は、酸化物基準の質量%で、好ましくは10.0%、より好ましくは5.0%、最も好ましくは3.0%を上限とする。WO成分は、原料として例えばWO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0061】
TeO成分はガラスの清澄を促す効果がある任意成分である。しかしながら、その含有量が多すぎると、ガラスの耐失透性が低下し易くなる。従って、TeO成分の含有量は、酸化物基準の質量%で、好ましくは20.0%、より好ましくは15.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。TeO成分は、原料として例えばTeO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0062】
Tl成分は、ガラスの部分分散比(θg,F)やアッベ数(νd)を調整するために有用な任意成分である。しかしながら、その含有量が多すぎると、ガラスの透過率が大幅に低下し易くなる。従って、Tl成分の含有量は、酸化物基準の質量%で、好ましくは10.0%、より好ましくは5.0%、最も好ましくは3.0%を上限とする。Tl成分は、原料として例えばTl等を用いてガラス内に含有することができる。
【0063】
CeO成分は、ガラスの部分分散比(θg,F)を大きくする任意成分である。しかしながら、その含有量が多すぎると、ガラスが着色して透過率が低下し易くなる。従って、CeO成分の含有量は、酸化物基準の質量%で、好ましくは3.0%、より好ましくは2.0%、さらに好ましくは1.0%である。最も好ましくは、CeO成分を実質的に含有しない。CeO成分は、原料として例えばCeO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0064】
Sb成分は、ガラスの清澄を促す効果がある任意成分である。しかしながら、その含有量が多すぎると、ガラスの耐失透性が低下する。従って、Sb成分の含有量は、酸化物基準の質量%で、好ましくは3.0%、より好ましくは2.0%、最も好ましくは1.0%を上限とする。Sb成分は、原料として例えばSb、Sb、NaSb・5HO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0065】
なお、ガラスを清澄し脱泡する成分は、上記のSb成分に限定されるものではなく、ガラス製造の分野における公知の清澄剤や脱泡剤、或いはそれらの組み合わせを用いることができる。
【0066】
F成分は、ガラスの低分散化や、溶融性の向上に効果のある成分である。しかしながら、F成分の含有量が多すぎると、ガラスの耐失透性が大幅に低下するため、可視光に対する透明性が失われ易くなる。従って、酸化物の一部又は全部をフッ化物置換したFの合計量は、好ましくは10.0%、より好ましくは5.0%、より好ましくは1.0%を上限とする。特にガラスの耐失透性を高める場合、F成分を含有しないことが最も好ましい。F成分は、原料として例えばZrF、AlF、NaF、CaF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0067】
<含有させるべきでない成分について>
本発明においては、他の成分を本発明のガラスの特性を損なわない範囲で必要に応じ、添加することができる。ただし、Ti、Zr、Nbを除くV、Cr、Mn、Co、Ni、Cu、Ag、Mo、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm及びLu等の各遷移金属成分は、それぞれを単独又は複合して少量含有した場合においても、ガラスが着色して可視域の特定の波長に吸収を生じる。従って、本発明の光学ガラスは、上記成分を実質的に含まないことが好ましい。ここで、「実質的に含まない」とは、不純物として混入される場合を除いて、人為的に含有させないことを意味する。
【0068】
さらに、PbO等の鉛化合物及びAs等のヒ素化合物、並びに、Th、Cd、Tl、Os、Be、Seの各成分は、近年有害な化学物資として使用を控える傾向にあり、ガラスの製造工程のみならず、加工工程、及び製品化後の処分に至るまで環境対策上の措置が必要とされる。従って、環境上の影響を重視する場合には、不可避な混入を除き、これらを実質的に含有しないことが好ましい。これにより、光学ガラスに環境を汚染する物質が実質的に含まれなくなる。そのため、特別な環境対策上の措置を講じなくとも、この光学ガラスを製造し、加工し、及び廃棄することができる。
【0069】
本発明の光学ガラスとして好ましく用いられるガラスは、その組成が酸化物基準の質量%で表されているため直接的にモル%の記載に表せるものではないが、本発明において要求される諸特性を満たすガラス組成物中に存在する各成分のモル%表示による組成は、酸化物基準で概ね以下の値をとる。
Bi成分 20.0〜80.0モル%
及び
SiO成分 0〜15.0モル%、及び/又は
成分 0〜30.0モル%、及び/又は
LiO成分 0〜25.0モル%、及び/又は
NaO成分 0〜25.0モル%、及び/又は
O成分 0〜25.0モル%、及び/又は
RbO成分 0〜25.0モル%、及び/又は
CsO成分 0〜25.0モル%、及び/又は
MgO成分 0〜15.0モル%、及び/又は
CaO成分 0〜15.0モル%、及び/又は
SrO成分 0〜15.0モル%、及び/又は
BaO成分 0〜20.0モル%、及び/又は
ZnO成分 0〜15.0モル%、及び/又は
La成分 0〜15.0モル%、及び/又は
Gd成分 0〜15.0モル%、及び/又は
成分 0〜15.0モル%、及び/又は
Yb成分 0〜15.0モル%、及び/又は
GeO成分 0〜20.0モル%、及び/又は
成分 0〜15.0モル%、及び/又は
Al成分 0〜15.0モル%、及び/又は
TiO成分 0〜15.0モル%、及び/又は
ZrO成分 0〜15.0モル%、及び/又は
Nb成分 0〜15.0モル%、及び/又は
Ta成分 0〜15.0モル%、及び/又は
WO成分 0〜15.0モル%、及び/又は
TeO成分 0〜10.0モル%、及び/又は
Tl成分 0〜10.0モル%、及び/又は
Sb成分 0〜3.0モル%、及び/又は
CeO成分 0〜10.0モル%、及び/又は
F成分 0〜10.0モル%
【0070】
[製造方法]
本発明の光学ガラスは、例えば以下のように作製される。すなわち、上記原料を各成分が所定の含有率の範囲内になるように均一に混合し、作製した混合物を石英坩堝又は金坩堝に入れて750℃〜950℃の温度範囲で2〜3時間溶融して攪拌均質化を行い、800〜650℃程度の温度に下げてから1時間程度経過した後、金型に鋳込んで徐冷することにより作製される。
【0071】
<物性>
本発明の光学ガラスは、高い部分分散比(θg,F)を有する。より具体的には、本発明の光学ガラスの部分分散比(θg,F)は、好ましくは0.63、より好ましくは0.64、最も好ましくは0.65を下限とする。これにより、大きな異常部分分散(Δθg,F)を有する光学ガラスが得られるため、光学素子の色収差の補正に顕著な効果を奏することができ、光学設計の自由度を広げることができる。なお、本発明の光学ガラスの部分分散比(θg,F)の上限は特に限定されないが、概ね0.70以下、より具体的には0.69以下、さらに具体的には0.68以下であることが多い。
【0072】
また、本発明の光学ガラスは、着色が少ないことが好ましい。特に、本発明の光学ガラスは、ガラスの透過率で表すと、厚み10mmのサンプルで分光透過率70%を示す波長(λ70)が600nm以下であり、より好ましくは580nm以下であり、最も好ましくは550nm以下である。また、分光透過率5%を示す波長(λ)が460nm以下であり、より好ましくは455nm以下であり、さらに好ましくは440nm以下であり、最も好ましくは432nm以下である。これにより、ガラスの吸収端が紫外領域の近傍に位置するようになり、可視域におけるガラスの透明性が高められるため、この光学ガラスをレンズ等の光学素子の材料として好ましく用いることができる。
【0073】
また、本発明の光学ガラスは、高屈折率及び高分散(低アッベ数)を有することが好ましい。より具体的には、本発明の光学ガラスの屈折率(n)は、好ましくは1.90、より好ましくは2.10、さらに好ましくは2.13、最も好ましくは2.15を下限とする。ここで、本発明の光学ガラスの屈折率(n)の上限は特に限定されないが、概ね2.40以下、より具体的には2.35以下、さらに具体的には2.30以下であることが多い。一方、本発明の光学ガラスのアッベ数(ν)は、好ましくは27、より好ましくは25、最も好ましくは20を上限とする。ここで、本発明の光学ガラスのアッベ数(ν)の下限は特に限定されないが、概ね10以上、より具体的には12以上、さらに具体的には14以上であることが多い。これらにより、光学設計の自由度が広がり、さらに素子の薄型化を図っても大きな光の屈折量を得ることができる。また、光学系における素子の点数を削減できるため、光学系全体の小型化を図ることができる。
【0074】
[プリフォーム及び光学素子]
作製された光学ガラスから、例えばリヒートプレス成形や精密プレス成形等の手段を用いて、ガラス成形体を作製することができる。すなわち、光学ガラスからモールドプレス成形用のプリフォームを作製し、このプリフォームに対してリヒートプレス成形を行った後で研磨加工を行ってガラス成形体を作製したり、例えば研磨加工を行って作製したプリフォームに対して精密プレス成形を行ってガラス成形体を作製したりすることができる。本発明の光学ガラスからなるガラス成形体は、例えばレンズ、プリズム、ミラー等の光学素子の用途に用いることができ、典型的にはデジタルカメラやプロジェクタ等に用いることができる。なお、ガラス成形体を作製する手段は、これらの手段に限定されない。
【実施例】
【0075】
本発明の実施例(No.1〜No.91)及び比較例(No.1)の組成、並びに、屈折率(n)、アッベ数(ν)、部分分散比(θg,F)、異常部分分散(Δθg,F)、分光透過率70%及び5%を示す波長(λ70、λ)の結果を表1〜表10に示す。なお、以下の実施例はあくまで例示の目的であり、これらの実施例のみ限定されるものではない。
【0076】
本発明の実施例(No.1〜No.91)及び比較例(No.1)のガラスは、いずれも各成分の原料として各々相当する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、弗化物、水酸化物、メタ燐酸化合物等の通常の光学ガラスに使用される高純度の原料を選定し、表1〜表10に示した各実施例及び比較例の組成で、ガラス重量が400gになるように秤量して均一に混合した後、石英坩堝又は金坩堝に投入し、ガラス組成の熔融難易度に応じて電気炉で750℃〜950℃の温度範囲で2〜3時間溶融して攪拌均質化を行い、800〜650℃程度の温度に下げてから1時間程度経過した後、金型に鋳込んで徐冷することにより作製した。
【0077】
ここで、実施例(No.1〜No.91)及び比較例(No.1)のガラスの屈折率(n)、アッベ数(ν)、及び部分分散比(θg,F)は、日本光学硝子工業会規格JOGIS01―2003に基づいて測定した。そして、求められたアッベ数(ν)及び部分分散比(θg,F)の値について、上述のノーマルラインからのずれの大きさを表す異常部分分散(Δθg,F)を求めた。なお、本測定に用いたガラスは、徐冷降温速度を−25℃/hrとして、徐冷炉にて処理を行ったものを用いた。
【0078】
また、実施例(No.1〜No.91)及び比較例(No.1)のガラスの透過率については、日本光学硝子工業会規格JOGIS02に準じて測定した。なお、本発明においては、ガラスの透過率を測定することで、ガラスの着色の有無と程度を求めた。具体的には、厚さ10±0.1mmの対面平行研磨品をJISZ8722に準じ、200〜800nmの分光透過率を測定し、λ及びλ70(透過率5%時及び70%時の波長)を求めた。
【0079】
【表1】

【0080】
【表2】

【0081】
【表3】

【0082】
【表4】

【0083】
【表5】

【0084】
【表6】

【0085】
【表7】

【0086】
【表8】

【0087】
【表9】

【0088】
【表10】

【0089】
表1〜表10に表されるように、本発明の実施例の光学ガラスは、部分分散比(θg,F)が0.63以上、より詳細には0.66以上であった。その反面で、本発明の実施例の光学ガラスの部分分散比(θg,F)は0.70以下、より詳細には0.68以下であった。従って、本発明の実施例の光学ガラスは、所望の大きい部分分散比(θg,F)を有することが明らかになった。
【0090】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、異常部分分散(Δθg,F)が0.05以上であった。従って、本発明の実施例の光学ガラスは、所望の大きい異常部分分散(Δθg,F)を有することも明らかになった。
【0091】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれもλ(透過率5%時の波長)が460nm以下、より詳細には429nm以下であった。また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれもλ70(透過率70%時の波長)が600nm以下、より詳細には550nm以下であった。一方で、比較例のガラスは、λが440nmより大きかった。このため、本発明の実施例の光学ガラスは、比較例のガラスに比べて着色し難いことが明らかになった。
【0092】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれも屈折率(n)が1.90以上、より詳細には2.09以上であり、所望の範囲内であった。特に、実施例(No.10〜13、23、27〜91)は、いずれも屈折率(n)が2.13以上であった。なお、この屈折率(n)は2.40以下、より詳細には2.18以下であり、所望の範囲内であった。
【0093】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれもアッベ数(ν)が10以上、より詳細には16以上であるとともに、このアッベ数(ν)は27以下、より詳細には18以下であり、所望の範囲内であった。
【0094】
従って、本発明の実施例の光学ガラスは、きわめて大きな部分分散比(θg,F)を有しながらも、高屈折率(n)及び高分散(低アッベ数ν)を有し、且つ可視領域の波長の光に対する透明性が高いことが明らかになった。
【0095】
以上、本発明を例示の目的で詳細に説明したが、本実施例はあくまで例示の目的のみであって、本発明の思想及び範囲を逸脱することなく多くの改変を当業者により成し得ることが理解されよう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiO成分及び/又はB成分を含有し、酸化物基準の質量%でBi成分を40.0%以上90.0%以下含有し、部分分散比(θg,F)が0.63以上、屈折率(nd)が1.90以上、アッベ数(νd)が27以下であり、且つ厚み10mmのサンプルで分光透過率5%を示す波長(λ)が460nm以下である光学ガラス。
【請求項2】
酸化物基準の質量%で、Bi成分を67.0%以上含有する請求項1記載の光学ガラス。
【請求項3】
酸化物基準の質量%で、Bi成分を85.0%未満含有する請求項1又は2記載の光学ガラス。
【請求項4】
酸化物基準の質量%で、
SiO成分 0〜20.0%、及び/又は
成分 0〜30.0%
の各成分を含有する請求項1から3のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項5】
酸化物基準の質量%で、SiO成分及びB成分の質量和が0%より多く20.0%以下である請求項4記載の光学ガラス。
【請求項6】
酸化物基準の質量%で、
TiO成分 0〜10.0%、及び/又は
Nb成分 0〜10.0%
の各成分をさらに含有する請求項1から5のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項7】
酸化物基準の質量%で、TiO成分及びNb成分の質量和が0%より多く15.0%以下である請求項6記載の光学ガラス。
【請求項8】
酸化物基準の質量%で、
MgO成分 0〜20.0%、及び/又は
CaO成分 0〜20.0%、及び/又は
SrO成分 0〜20.0%、及び/又は
BaO成分 0〜20.0%、及び/又は
ZnO成分 0〜20.0%
の各成分をさらに含有する請求項1から7のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項9】
酸化物基準の質量%で、RO成分(式中、Rは、Mg、Ca、Sr、Ba及びZnからなる群より選択される1種以上である)の質量和が30.0%以下である請求項8記載の光学ガラス。
【請求項10】
酸化物基準で、RO成分(式中、Rは、Mg、Ca、Sr、Ba及びZnからなる群より選択される1種以上である)の質量和に対する、質量和(SrO+ZnO)の質量比が0.40以上である請求項8又は9記載の光学ガラス。
【請求項11】
酸化物基準の質量%で、
LiO成分 0〜10.0%、及び/又は
NaO成分 0〜10.0%、及び/又は
O成分 0〜10.0%、及び/又は
RbO成分 0〜5.0%、及び/又は
CsO成分 0〜5.0%
の各成分をさらに含有する請求項1から10のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項12】
酸化物基準の質量%で、RnO成分(式中、Rnは、Li、Na、K、Rb及びCsからなる群より選択される1種以上である)の質量和が5.0%以下である請求項11記載の光学ガラス。
【請求項13】
酸化物基準の質量%で、
La成分 0〜10.0%、及び/又は
Gd成分 0〜10.0%、及び/又は
成分 0〜10.0%、及び/又は
Yb成分 0〜10.0%
の各成分をさらに含有する請求項1から12のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項14】
酸化物基準の質量%で、Ln成分(式中、Lnは、La、Gd、Y及びYbからなる群より選択される1種以上である)の質量和が20.0%以下である請求項13記載の光学ガラス。
【請求項15】
酸化物基準の質量%で、
GeO成分 0〜20.0%、及び/又は
成分 0〜10.0%、及び/又は
Al成分 0〜10.0%、及び/又は
ZrO成分 0〜10.0%、及び/又は
Ta成分 0〜10.0%、及び/又は
WO成分 0〜10.0%、及び/又は
TeO成分 0〜20.0%、及び/又は
Tl成分 0〜10.0%、及び/又は
CeO成分 0〜10.0%、及び/又は
Sb成分 0〜3.0%
の各成分をさらに含有する請求項1から14のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項16】
請求項1から15いずれかに記載の光学ガラスからなる研磨加工用及び/又は精密プレス成形用のプリフォーム。
【請求項17】
請求項16記載の研磨加工用のプリフォームを研磨してなる光学素子。
【請求項18】
請求項16記載の精密プレス成形用のプリフォームを精密プレス成形してなる光学素子。

【図1】
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【公開番号】特開2011−93731(P2011−93731A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−247840(P2009−247840)
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【Fターム(参考)】